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第 5 章 長期の実物経済 • 発展途上国の労働分配率は低い • 先進国の

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第 5 章 長期の実物経済 • 発展途上国の労働分配率は低い • 先進国の
マクロ経済学
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第 5 章 長期の実物経済
1節
長期の所得分配
●国民総所得(GNI)のうち、資本の補修に使われる資本減耗、政府の取り分となる純間接税
を除いた残りが、国民の手元に入る所得になります。これを国民所得といいます。
●国民所得のうち、労働を提供した人に支払われる労働所得の割合を労働分配率、資本を提供
した人に支払われる資本所得の割合を資本分配率といいます。
所得分配の長期的特徴
•
発展途上国の労働分配率は低い
•
先進国の労働分配率は、国民所得の2/3で安定する
●日本の労働分配率の推移
日本の労働分配率の推移を見ると、経済
発展の途上であった 1960 年代∼70 年代
前半はやや 50 %程度でしたが、先進国の
仲間入りをした 70 年代後半以降はだい
たい2/3(66.7 %)で安定しているこ
とがわかります。
●世界の労働分配率の比較
世界の労働分配率の比較を見ると、経済
発展の途上であるフィリピン・インド・タ
イなどは 50 %以下ですが、欧米・日本な
どの先進国は、だいたい2/3(66.7 %)
の水準で安定していることがわかります。
第 5 章 長期の実物経済(2 ページ)
2節
実質 GDP(1 国の経済規模)の成長
■ 2-1 日本の GDP の推移
右図は、2005 年を基準年とした日本経済
の名目 GDP・実質 GDP の推移のグラフ
です。物価変動を含む名目 GDP が細線
で、物価変動を取り除いた実質 GDP が
太線で描いてあります。
実質 GDP の変化をみると、1970 年代前
半、1990 年代前半の 2 つの時期で、成長
のスピードが鈍くなっているように見え
ます。
■ 2-2 実質 GDP 成長率の推移 右図は、実質 GDP の変化率のグラフで
す。
この図で見ると、明らかに 1970 年代前
半、1990 年代前半の 2 つの時期を境に、
経済成長のスピードが低下していること
がわかります。
■ 2-3 長期の実質 GDP を決める要因
長期の実質 GDP は、次の 3 つの要因の組み合わせで決まると考えられます。
(1)
労働力 (L) ・・・労働人口・労働時間の増加、労働の質の向上
(2)
資本ストック (K) ・・・資本量の増加、資本の質の向上
全要素生産性 (A) ・・・生産の効率性、技術水準
(TFP) (3)
マクロ経済学では、上の 3 つの要因の組み合わせの関係を、下のような関数で表します。
このような関数をコブ=ダグラス型マクロ生産関数といいます。
第 5 章 長期の実物経済(3 ページ)
■ 2-4 成長会計(経済成長の要因分解)
コブ=ダグラス型マクロ生産関数を、次のような計算で変形すると、実質 GDP 成長率の要因
分解の式が求まります。
(参考)成長会計の導出
この計算は、高校数学の対数・微分の
知識が必要です。
Y
log Y
log Y
dY
Y
= AK a L(1−a)
= log A + log K a + log L(1−a)
= log A + a × log K + (1 − a) × log L
dA
dK
dL
=
+a×
+ (1 − a) ×
A
K
L
この式を用いると、実質 GDP の成長率の要因を次のように要因分解して考えることができ
ます。
問題 1
ある国のマクロ経済に関する 10 年間の平均数値が、以下のように得られたとする。
技術水準の上昇率 3 %
資本の増加率 4 %
労働の増加率 2 %
資本分配率 40 %
このとき、この国の 10 年間の平均した実質 GDP 成長率は何%になるか。
40
= 0.4 として計算する。
100
(このとき労働分配率は 1 − a = 1 − 0.4 = 0.6 (60 %)である)
【解答】 資本分配率が 40 %であるから、a =
式に数値を代入すると
∆Y
∆A
∆K
∆L
=
+a×
+ (1 − a) ×
Y
A
K
L
= 3 % + 0.4 × 4 % + (1 − 0.4) × 2 %
= 3 % + 1.6 % + 1.2 %
= 5.8 %
(答)実質 GDP 成長率は 5.8 % 第 5 章 長期の実物経済(4 ページ)
■ 2-5 日本経済の成長会計
右の図は、1970 年代以降の実質 GDP 成長率と、5 年ごとの平均水
準を描いたものです。
1990 年前半のバブル崩壊以降、日
本経済の実質 GDP 成長率は大き
く低下しました。その後、20 年近
くにわたって低い成長率が続いて
います。この長く続く停滞した状
態をを「失われた 20 年」などとい
う人もいます。
日本の停滞の原因は何なのかを、 成長会計によって要因分解したの
が右のグラフです。この結果から
バブル崩壊以降 1990 年代の日本
経済には、
・労働力の貢献分の低下
・生産性の低下
の 2 つが生じたことがわかります。
(データ:JIP データベース 2011)
バブル崩壊以降の経済停滞の原因
(1) 労働力の貢献が減少した(とくに労働時間の減少)
(2) 全要素生産性(TFP)が大きく低下した
■ 2-6 成長会計の国際比較
各国の成長期における成長要因を、 国際比較してみよう。
日本・アメリカ・イギリス・ドイツ
などの先進国の成長期の要因をみ
ると、どの国も全要素生産性(技
術進歩など)の要因が大きいこと
がわかります。
一方、アジアの国々の成長期の要
因をみると、資本・労働の増加の
要因がほとんどを占め、全要素生
産性(技術進歩など)の要因が小
さいことがわかります。
第 5 章 長期の実物経済(5 ページ)
3節
1 人あたり GDP(生活水準)の成長
■ 3-1 1 国の経済規模と、1 人当たりの生活水準の違い
人々の生活水準 = 一人当たりの GDP の大きさ
下のグラフは、名目 GDP の大きさで比べた国単位の経済規模と、一人あたりの名目 GDP で
みた生活水準のランキングです。国別の経済規模と 1 人あたりの生活水準では、大きくランキ
ングが異なっていることがわかります。
データ:IMF - World Economic Outlook Databases (2014.4)
■ 3-2 一人あたり実質 GDP 成長
今度は生活水準の時間変化を見てみま しょう。一人当たりの名目 GDP では、
価格の変化が含まれてしまうので、一人
あたり実質 GDP の変化で見てみます。
上は西暦 0 年∼2010 年の一人あたり実
質 GDP でみた人類の生活水準のグラフ
です。この 200 年間ほどの間に急速に向
上していることがわかります。
しかし、この 100 年間を拡大してみる
と、大きく成長した国もあれば、ずっと
停滞し続けている国もあります。また 1
つの国をとっても、高成長の時期と低成
長の時期があることがわかります。
このような豊かさの差は、なぜ生
じるのでしょうか?
データ:New Maddison Project Database
第 5 章 長期の実物経済(6 ページ)
■ 3-3 一人当たり GDP を決める要因
●労働者一人当たりが生み出す実質 GDP の大きさ(実質 GDP /労働人口)のことを、労働
生産性といいます。人口に占める労働人口の割合(労働人口/人口)を、労働力率といいます。
一人当たりの実質 GDP の大きさ(生活水準)は、次のように労働生産性と労働力率の掛け
算に分解できます。
一人当たり
実質 GDP
= 実質 GDP =
人口
実質 GDP × 労働人口
労働人口
人口
(労働生産性) (労働力率)
●少子化・高齢化などによって長期的な労働力率は変化しますが、短期・中期的な労働力率は
安定しています。したがって一人当たり実質 GDP の大きさ(生活水準)は、労働生産性の大
きさによって決まってくるといえます。
一人当たり実質 GDP の大きさ(生活水準)は、
労働生産性の大きさで決まる。
●生産関数 Y = AK a L(1−a) を使って、労働生産性を計算すると次の式のように表せます。
(
Y
AK a L(1−a)
AK a
K
労働生産性 =
=
=
A
L
L
La
L
)a
この式から、労働生産性が上昇する要因は、次の 2 つであることがわかります。
労働生産性(Y/L)の上昇要因
(1) 一人あたり資本(K/L)の増加(資本の深化)
(2) 全要素生産性(A)の上昇
●一人当たり実質 GDP(労 働生産性)の式をグラフに
描くと、右の図のようなグ
ラフになります。
* a は資本分配率なので、
必ず1よりも小さい値(0 <
a < 1)であることに注意し
ましょう。
第 5 章 長期の実物経済(7 ページ)
■ 3-4 生活水準向上のパターン
パターン (1):資本の深化
●一人あたりの資本ストックの量が増え
ることを資本の深化といいます。資本が
深化すると、労働生産性が上昇し、生活
水準が豊かになります。
●しかし、資本量が増えていくごとにそ
の効果はだんだん小さくなっていきま
す。これを資本の限界生産性の逓減とい
います。
パターン (2):生産性の向上
●生産効率が高まったり技術進歩が生じ
ると、全要素生産性(TFP)が上昇しま
す。全要素生産性が上昇すると、労働一
人あたりの資本量が増えなくても、労働
生産性が増加します。
■ジョーンズ「マクロ経済学 I」より
以下のグラフは、経済成長論の著名な研究者ジョーンズの教科書の数値を元に、生産関数を
Y = AK 1/3 L2/3 と仮定して、アメリカと日本・中国の労働生産性の差を表したものです。
(アメリカの一人当たり資本(K/L)および労働生産性(Y /L)を 1 としています)
中国
日本
一人当たり資本(K/L)も全要素生産性
一人当たり資本(K/L)は上回っている
(A)の水準も低い。今後 (1) 資本の深化・
が、生産性(A)の水準が低い。これから
(2) 生産性の向上の両面から成長が可能。
の成長には (2) 生産性の向上が必要。
第 5 章 長期の実物経済(8 ページ)
■ 3-5 経済成長の「収束」
キャッチアップ過程
1人あたり資本が少ない国は、
「経済成長
のパターン (1) 資本の深化」によって速
いスピードで成長します。しかし豊かに
なってくると、資本の限界生産性逓減に
よって、成長のスビードは低下していき、
一定の成長スピードに収束していくよう
になります。
このように貧しい国が、豊かな国に追い
ついていく過程のことを、キャッチアッ
プ過程といいます。
右の図を見ると、
1960 年 当 時 貧 し か
ったアジア諸国など
の新興国が、その後
急速な経済成長をし たのは、資本の深化
によるキャッチアッ
プ過程であったこと
がわかります。
(データ:Penn World Table 7.0)
南米・アフリカが経済発展から取り残された理由
アジアの急成長と反対に、南米 [経済成長の条件] (バーンスタイン「豊かさの誕生」)
やアフリカの最貧国は、キャッ
チアップ過程に乗れていない
ことがわかります。これは、近
代国家の前提が成立していな
いため、右の経済成長の条件が
みたせず、最初の資本の蓄積が
(1) 私有財産権 (勝手に財産を奪われない)
(2) 自由権 (他人に不当に支配されない)
(3) 法の支配 (ルールあり、かつ守られる)
(4) 科学的合理性・知的寛容さ
(5) 資本市場の整備 (お金の貸借が安心してできる)
始められないことが原因です。
このように貧しい国が経済成長から取り残されることを貧困の罠といいます。
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