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ダウンロード - 名古屋大学エコトピア科学研究所
エコトピア科学研究所 研究者総覧 2009年版,一部改訂済み 役職員 Chief Members of Administration 研究所所長 高井 治 D ir e ct or T AK A I, Osa m u 研究所副所長 北川 邦行 V ic e- d ire ct o r K IT A GA WA, Ku niyu ki 研究所副所長 大日方 V ic e- d ire ct o r O BI N AT A , G or o 五郎 融合プロジェクト研究部門長 臼倉 次郎 ナノマテリアル科学研究部門長 齋藤 永宏 エネルギー科学研究部門長 長崎 正雅 D iv i si on o f Inte gr ated P r oje c ts D iv i si on D ir ecto r D iv i si on o f Nano -m ate ri a ls Sc i enc e D iv i si on D ir ecto r 美智子 情報・通信科学研究部門長 内山 知実 アジア資源循環研究センター S AI T O, Nag a hi ro D iv i si on o f Ener gy Sci en c e D iv i si on D ir ecto r 環境システム・リサイクル科学研究部門長 楠 U SU K UR A, J ir o N AG A SA KI, T ak ano r i D i v is i on o f En v i ro n me n ta l R e se a rc h D iv i si o n D ir e ct o r K US U NO KI, M ic hik o D iv i si on o f Info rm atio n a nd C ommun i catio n S cie n ces D iv i si on D ir ecto r U CH I YA MA, T om omi C en t er fo r I nter di scip li n ary Studi e s on R es our c e R ec o ve ry a nd Ref in ery in Asi a 長谷川達也 超高圧電子顕微鏡施設・施設長 田中信夫 先端技術共同研究施設・施設長 D ir e ct or H AS E G AW A T a ts uya H ig h V olt a ge Ele ct ron Mi c ros c ope L a borat o ry L ab o ra tor y D irec to r N OB U O Tan a ka C en t er fo r C oope ra tive R e sea r ch in Advan c ed Sc i enc e a nd Te chn o lo gy 大日方五郎 L ab o ra tor y D irec to r O BI N AT A G o ro 研究所・所長 融合プロジェクト研究部門 ●融合プロジェクト研究部門 テラヘルツ波の発生と応用に関する研究 かわせ こうどう 教授 川瀬 晃道 [email protected] http://www.nuee.nagoya-u.ac.jp/labs/optlab/kawase/index.html 主な研究と特徴 近年,テラヘルツ(THz)波と呼ばれる約 0.3~10 THz(波長 1 mm~30 μm)の電 磁周波数帯の光源開発とその応用開拓が進 んでいる.この帯域は電波と光波の中間に 位置しており,電波のように紙,プラスチ ック,ビニール,繊維,半導体,脂肪,粉 体,氷など様々な物質を透過すると共に, 光波のようにレンズやミラーで空間を自在 に取り回すことができる.また,電波に比 べて波長が短いため,多くのイメージング 用途にとって必要十分な適度な空間分解能 を有している.さらに近年,ビタミンや糖, 医薬品,農薬など様々な試薬類に固有の吸 収スペクトルがテラヘルツ帯で見出され, その応用可能性が広がりつつある.テラヘ ルツテクノロジー動向調査委員会の報告に よればテラヘルツ波の応用が見込まれる分 野は実に広範囲にわたる.それは,テラヘ ルツ波が物質を透過し,数百μm の空間分 解能を有し,人体に安全で,試薬類の指紋 スペクトルを有し,さらには DNA の1本 鎖と2本鎖の識別・水と氷の吸収差・半導 体不純物への感度・ラセミ体の判別,など といった他の電磁周波数帯に無いユニーク な特長を有しているためである. 我々は,レーザー光の波長変換技術を用 いて,既存の自由電子レーザーなどに較べ 小型簡便な広帯域波長可変テラヘルツ光源 を開発し,高性能化,小型化などに関する 研究を進めている.また,種々のテラヘル ツ波利用技術に関する研究を継続中である. まず,広帯域波長可変テラヘルツ光源を用 いたテラヘルツ分光イメージング技術の研 究開発を行った.これは複数の試薬が混ざ ったサンプル中の特定試薬の分布密度を画 像化する技術で,光源の広帯域波長可変性, および 3THz 以下の低周波域で次々見出さ れている試薬類の指紋スペクトルを活かし た成果である.また,レーザーテラヘルツ 放射顕微鏡という新しい非破壊非接触の計 測診断技術を阪大と共同で開発し,半導体 チップ(LSI)の故障解析への応用を展開し ている.さらに,メタルメッシュなどのテ ラヘルツ技術を用いた新奇なケミカル/バ イオセンサーなどへの応用展開を図ってい る. 今後の展望 テラヘルツ波を発生可能な量子カスケード レーザー(Quantum Cascade Laser; QCL) がこの数年で急速に発展し、近い将来のテ ラヘルツ産業応用の本命という意見もある。 しかしながら、QCL は極低温を要し、原理 的に前述の 0.5~3 THz 帯を発生すること が得意でないため、テラヘルツ波ならでは の”透視能力”を活用するには開発要素も 多い。例えば、数年内に米英が実現しよう と注力している可搬型テラヘルツ分光イメ ージングシステムによる自爆テロリストの 摘発という目的に関しても、米国の複数の 研究グループは QCL を用いて装置開発を 進めている。しかしながら、衣服の下に隠 された爆薬の指紋スペクトルを観測可能な 0.5~3THz の領域において、可搬型装置上 の QCL を用いて 20~30 m 先の分光イメー ジングが可能なほど十分な出力を発生させ ることは相当なチャレンジであることは間 違いない。 1970 年代に広く研究されていた差周波 光混合による半導体結晶からの広帯域波長 可変テラヘルツ波発生 14)をリバイバルし、 最近のレーザー技術や有機非線形結晶技術 などを動員して 0.5~3THz 域の高出力波長 可変テラヘルツ光源を実現することが、爆 薬や薬物検出のような目的にとって近道な のではないかと感じている。非線形光学技 術は数十年の発展を経てなお日々進化して おり、たとえば光波帯においても半導体レ ーザーなどの登場の陰でパラメトリック光 源は基礎研究のツールとして着実に生き残 っている。そのように、テラヘルツ波にお いても QCL やマイクロ波逓倍技術など優 れた光源の登場後も、非線形光学効果を用 いた広帯域波長可変テラヘルツ光源は存在 意義をアピールし続けると我々は考えてい る。 経歴 1966 名古屋市生れ,1989 京都大学工学部 電子工学科卒業,1996 東北大学大学院工学 研究科博士後期課程修了, 工学博士.1989 新技術事業団稲場生物フォトンプロジェク ト技術員,1996 東北大学電気通信研究所 COE 研究員,1997 東北学院大学工学部応 用物理学科助手,1998 同講師,1999 理化 学研究所フォトダイナミクス研究センター フロンティア研究員,2001 理化学研究所川 瀬独立主幹研究ユニットリーダー,2001 東 北大学大学院理学研究科客員助教授,2004 同農学研究科寄付講座教授,2005 名古屋大 学大学院工学研究科量子工学専攻教授, 2006 理化学研究所客員主幹研究員(兼務), 2007 名古屋大学エコトピア科学研究所融 合プロジェクト部門教授,2008 理化学研 究所チームリーダー(兼務) 受賞 1997 年 1998 年 2000 年 2002 年 2005 年 2006 年 応物学会講演奨励賞 レーザー学会優秀論文発表賞 レーザー学会論文賞 丸文研究奨励賞 文部科学大臣表彰若手科学者賞 レーザー学会論文賞 2006 年 丸文学術特別賞 所属学会 応用物理学会,レーザー学会 主要論文・著書 1. K. Suizu and K. Kawase, "Monochromatic tunable terahertz wave sources based on nonlinear frequency conversion using lithium niobate crystal (Invited Review)," IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, vol. 14, no. 2, pp. 295-306 (2008). 2. K. Suizu, T. Shibuya, T. Akiba, T. Tutui, C. Otani, and K. Kawase, "Cherenkov phase matched monochromatic THz wave generation using difference frequency generation with a lithium niobate crystal," Optics Express, vol. 16, no. 10, pp. 7493-7498 (2008). 3. S. Yoshida, E. Kato, Y. Nakagomi, K. Suizu,Y. Ogawa, K. Kawase, "Terahertz Sensing of Thin Polyethylene Terephthalate Film Thickness Using a Metallic Mesh" Applied Physics Express, vol. 2, no. 1, article no.: 012301 (2009). 4. J. Takayanagi, H. Jinno, S. Ichino, K. Suizu, M. Yamashita, T. Ouchi, S. Kasai, H. Ohtake, H. Uchida, N. Nishizawa, and K. Kawase, "High-resolution time-of-flight terahertz tomography using a femtosecond fiber laser," Optics Express, vol. 17, no. 9, pp. 7533-7539 (2009). 5. K. Suizu, K. Koketsu, T. Shibuya, T. Tsutsui, T. Akiba, and K. Kawase, "Extremely frequency-widened terahertz wave generation using Cherenkov-type radiation," Optics Express, vol.17, no. 8, pp. 6676-6681 (2009). ●融合プロジェクト研究部門 エコトピアの実現を目指した都市・地域の数値シミュレーション おくだ 奥田隆明 [email protected] 主な研究と特徴 我々は新しい技術の開発によって豊かな 生活を手に入れてきた。しかし、これに伴 い排出される環境負荷は環境容量を超える レベルにまで至り、エコトピアを実現する 上で、こうした環境制約を満たすことが重 要な要件となっている。こうした環境制約 の厳しい社会では、従来のライフスタイル やワークスタイルを見直していく必要があ る。また、そのためには、新しいライフス タイルやワークスタイルを支えるインフラ ストラクチャーが必要不可欠であり、環境 負荷の少ない新しい技術群はこうしたイン フラストラクチャーの重要な構成要素であ る。 ところが、こうした新しい技術群は環境 制約の厳しい社会ではじめてその有効性を 発揮するものであり、環境制約が明確化さ れていない社会においては、その必要性を 十分に認識することができない。そのため、 こうした技術開発の必要性を明らかにする ためには、まず、環境制約が厳しい社会に おいてライフスタイルやワークスタイルを 如何に変更する必要があるのかについて、 具体的なイメージを持つことが重要である。 その上で、新しく開発される技術群が、新 しいライフスタイルやワークスタイルをど のように支えるのかについて具体的に明ら かにして行くことが必要である。 他方で、従来、都市や地域で行われる政 策の評価を目的として、経済・社会のシミ ュレーション技術の開発が行われてきた。 私の研究室でも、都市レベルから国レベル、 さらにアジアレベルに至る政策の評価を行 うために、各レベルにおいて、データの整 備から、実態の解明、計量モデルの開発、 政策の評価に至る一連の研究を行ってきた。 また、都市レベルのシミュレーション技術 を用いて、バックキャスティングに基づき、 将来の環境目標を設定した上で、これを達 成するために都市のライフスタイルを如何 に変更する必要があるのかについて研究を 行ってきた。 バックキャスティングによる 土地利用戦略の検討 目標達成を前提とした場合、 どんな土地利用が可能か? BAU 削減費用を最小限に抑える には? CO2排出量 教授 たかあき 環境経済学の成果 CO2排出削減目標 汚染排出1単位に均等税率の 課税(ボーモル・オーツ税) 現在 2050年 課税の影響 交通費用の変化(岡崎市から) 世帯数の変化 (%) 6 5 4 3 2 1 0.6% 0.4 0.2 正の値 負の値 岡崎市 0 10km 郊外部は公共交通のサービス水準 が低く、自動車交通に依存 →課税により交通費用が増加 0 10km 公共交通のサービス水準が高い 都心部や鉄道沿線(JR東海道線 等)に世帯(人口)が集中 今後の展望 これまで都市レベルからアジアレベルに 至る政策の評価を行うために開発してきた シミュレーション技術を活用して、コンピ ュータ上に環境制約の厳しい社会を再現し、 その社会が具体的にどのようなものかを明 らかにすることを試みたいと考えている。 そして、このコンピュータ上で再現した環 境制約の厳しい社会において、それぞれの 新しい技術が我々のライフスタイルやワー クスタイルをどのように支え、社会に如何 なるインパクトを与えるのかについて明ら かにしたいと考えている。 経歴 1987 年 名古屋大学工学部土木工学科卒業 1989 年 名古屋大学大学院工学研究科 博士課程前期課程修了 1989 年 株式会社三菱総合研究所 1991 年 名古屋大学工学部助手 1997 年 名古屋大学工学研究科助教授 2001 年 名古屋大学環境学研究科助教授 2009 年 名古屋大学エコトピア科学研究所 教授 現在に至る。このうち、 2001 年 カールスルーエ大学(ドイツ) 客員教授(2002 年まで) 2005 年 内閣府総合科学技術会議事務局 上席政策調査員(2007 年まで) 所属学会 土木学会,日本地域学会,応用地域学会, 環太平洋産業連関学会,環境経済・政策学 会,世界交通学会,アジア交通学会,日本 都市計画学会,環境共生学会,不動産学会 主要論文・著書 (1)Okuda, T. and Ni, C. : On the change of virtual water in China under restructuring form 1997 to 2000, Fukushi, K., Hassan, K. M., Honda, R. and Sumi, A. : Sustainability in Food and Water: An Asian Perspective, pp.73-84, Springer. (2)奥田隆明,倪誠蔚(2010):黄河流域にお ける水利権取引の応用一般均衡分析,土木 学会論文集 G,Vol.66,No.2,pp.75-84. (3)奥田隆明(2009):CES 型土地利用モデル の開発,土木学会論文集 D, Vol.65,No.4, pp.493-502. (4)奥田隆明, 鈴木隆(2009):開発権取引に よる都市圏中心部の緑化について~名古屋 市を対象にして~,環境システム研究論文 集,Vol.37,pp.385-394. (5) 奥田隆明,赤根幸仁(2009):排出権取引 による水質汚濁負荷削減の影響分析-ベン チマーク&クレジット方式の併用-, 土木 学会論文集 G,Vol.65,No.1,pp.26-36. (6) 奥田隆明, 秀島聡(2008):原油価格の高 騰と産業技術の変化~PMF による技術の 抽出結果から~,環境システム研究論文集, Vol.36,pp.319-326. (7) 奥田隆明(2008):低炭素社会に向けた都 市空間のマネージメント~通勤交通からの CO2 排出削減~,地球環境研究論文集, Vol.16,pp.137-144. (8) 奥田隆明(2008):都市間旅客交通部門に おける排出権取引の影響分析,地球環境研 究論文集,Vol.16.pp.145-153. (9) 奥田隆明, 鈴木隆(2008):開発権取引に よる都市緑地化の影響分析,土木学会論文 集 G,Vol.64, No.2,pp.151-159. (10) 奥田隆明(2007):地方都市の都心再開 発事業が住宅賃料に与える影響について~ 豊田市を対象とした計量分析~,平成 19 年 度日本不動産学会学術講演会審査付論文, pp.9-16. (11) 奥田隆明, 秀島聡(2006):バイオマス 新技術開発のインパクト分析手法の提案, 環 境 シ ス テ ム 研 究 論 文 集 , Vol.34 , pp.463-471. (12) 奥田隆明, 石川卓也, 文多美(2005):韓 国における地域間産業連関表の遡及推計に ついて,土木計画学研究・論文集,Vol.22, pp.141-148. (13) 奥田隆明, 鈴木隆, 幡野貴之(2005):中 国地域間産業連関表を用いた仮想水移動の 二時点比較分析,環境システム研究論文集, Vol.33,pp.213-222. (14) 奥田隆明,種蔵史典,幡野貴之,斉舒 暢(2004):中国省市区レベルの地域間産業 連関表の推計とその分析,土木計画学研 究・論文集,No.21,pp.247-254. ●融合プロジェクト研究部門 人と協調するロボットや環境に自律的に適応する機械の設計 おびなた 教授 ごろう 大日方五郎(部門長) [email protected] 主な研究と特徴 1 人に協調するロボットや支援機器の設計 人と協調して人の仕事などを助けるロボッ トの開発が重要な課題となっており,実用 化されたものも存在する.しかしながら, 人の身体運動は解明されていない点が多く, どのようにしたら人にうまく協調できるか という点が明らかにされているわけではな い.そこで,人の感覚系,運動系の機能の 解明を通して人の特性を把握し,それに基 づいたロボットや身体運動支援機器の制御 系の設計を行う.これによって,人に手先 の軟らかさに協調するマニピュレータハン ドや人の歩行動作に協調してパワーアシス トする歩行器などの開発を行なう. 歩行時の筋力を制御している脳・神経系 のモデルを組み込んだ人の 3 次元歩行運動 シミュレーターを用いて、歩行動作を解析 すると同時に,義足など支援機器装着時の シミュレーションによって,これら機器の 設計を行う研究も進めている. 2 神経インターフェースに関する研究 義肢、義足の制御はもとより、ほとんど 体を動かすことが不能になった人のために 神経信号と機械をインターフェースするこ とは重要である。本研究では、運動系と感 覚系の双方の神経と信号レベルで結合する 電極や集積回路について検討し、人の意思 に従って動作する機械実現のための要素技 術として研究開発する。運動系の神経を電 気刺激して、筋肉を動作させる技術や筋電 信号などの運動系信号を検出してロボット ハンドを動作させる研究は多く行われてい るが、人間の持つ器用な操作機能を実現し ているものは見うけられない。この原因は、 機械が環境から受けた反力などを人側への フィードバックする機能がないか、または その機能が貧弱であることが一つの原因で ある。本研究では、人の感覚系神経に直接 インターフェースすることでこの問題を解 決しようとしているところに特長がある。 3 自動車ドライバの状態推定に関する研究 自動車の自動制御技術のレベルが上がり、 衝突防止などを自動で行うことが実用化さ れつつある。しかし、一方では交通事故件 数の減少は見られず、ドライバーやその他、 人間側が主要因である交通事故の割合が増 加しているといわれている。本研究では、 このような事故に対応するためドライバー の眠気や運転への集中度などドライバーが 原因の事故に関係した状態推定を行うこと を目的とする。 現在までの我々の研究で、車載可能なセ ンサによって運転への集中度を定量的に推 定する技術が開発されており、今後疲労や 眠気、病気の発症に関係する状態推定技術 について研究し、車載可能なセンシングと 推定アルゴリズムについて研究していく予 定である。 今後の展望 ヒューマノイドロボットや各種の自動機 械が,我々の身近な生活の場所で活躍する 時代が到来しようとしている.このときに 向けて,人と機械の良い関係はどのような ものであるかを明確にしておくことが重要 である.ウェアラブルな機械が増大し,機 械の機能に頼る人間が増えるであろうが, このとき「人間中心の設計」が守られない と困ることが起きよう.このような人と機 械の将来像を見つめながら,機械の最適設 計法,最適制御法などを駆使し,かつ人間 側の要求や特性に充分に配慮した高機能な ロボットや機械システムを設計開発してい くことが今後の研究方向であると考えてい る. 経歴 1977 年東北大学大学院工学研究科機械工 学専攻博士課程修了,工学博士.同東北大 学高速力学研究所助手,80 年秋田大学鉱山 学部生産機械工学科講師,84 年同助教授, 90 年秋田大学工学資源学部機械工学科教 授,2001 年名古屋大学大学院工学研究科機 械工学専攻教授.02 年より名古屋大学先端 技術共同研究センタ-教授.07 年より名古 屋大学エコトピア科学研究所教授、総長補 佐,この間,1995~97 年秋田大学地域共同 研究センター長,2005-06 年名古屋大学先 端技術共同研究センター長併任. 所属学会 日本機械学会,計測自動制御学会,日本ロ ボット学会,日本人間工学会,ライフサポ ート学会,バイオメカニズム学会,システ ム制御情報学会,自動車技術会,日本生活 支援工学会,米国電気電子学会(IEEE) 主要論文・著書 1)An Electrical Lock System for Functional Electrical Stimulation, Arch. Phys. Med. Rehabil., Vol.77, Sept., pp.870-873 (1996). 2)FES 歩行のための下肢冗長筋の運動学的 機能解析,日本機械学会論文集 C 編, Vol.65, No.636, pp.3302-3308 (1999). 3)Optimal Sensor Actuator Placement for Active Vibration Control Using Explicit Solution of Algebraic Riccati Equation, Journal of Sound and Vibration, Vol.229, No.5, pp.1057-1075 (2000). 4)Model Reduction for Control System Design, Springer-Verlag London, (2001). 5)Impedance Control of a Robotic Gripper for Cooperation with Human, Control Engineering Practice, Vol.10, pp.379-389 (2002). 6)制御工学,朝倉書店,(2003). 7)Damping Effect on precise Track Following for Nano-Motion Actuator, IEEE Transactions on Magnetics, Vol. 41, No. 2, pp. 842-848, (2005) 8)Vision Based Tactile Sensor Using Transparent Elastic Fingertip for Dexterous Handling, Chapter in book: Mobile Robots -Perception & Navigation-, Advanced Robotics Systems International and pro literature Verlag, pp.137-148 (2007). ●ナノマテリアル科学研究部門 高性能電子顕微鏡技術の開発と先端材料への応用 教授 たんじ たかよし 丹司 敬義(部門長) [email protected] 主な研究と特徴 次世代の高度先端技術の発展には、その 特性を原子や分子のレベルで制御した新し い機能を持つ材料の開発が不可欠です。そ のためには、材料の構造や組織、電気的・ 磁気的特性をナノメーター以下のスケール で正確に観察・計測する必要があります。 我々の研究室では、電子線を使ってそのよ うな極微の世界を探るための装置や新技術 の開発を行っています。 研究の中心となる装置は、透過電子顕微 鏡(TEM)です。中でも、干渉性の高い電子 源、冷陰極型電界放出電子銃を搭載した顕 微鏡を使った電子線ホログラフィーやロー レンツ顕微鏡法で通常の TEM では観察で きない電磁界を観察・計測して、各種材料 のナノ構造を解明するための手法の開発に 力を入れています。 例えば、酸化物イオン伝導体と金属の界 面における内部電位分布を外部から電圧を かけたり、加熱したりしながら電子線ホロ グラフィーで観察することによって、燃料 電池の性能向上のための指針を探ったり、 外部環境を変えながら直径数〜数百ナノメ ーターの磁性微粒子から漏洩する磁界を観 察してその磁化特性を調べたりしています。 左図は永久 磁石の材料 であるバリ ウムフェラ イトの直径 1ミクロン 以下の微粒 子をローレ 1μm ンツ位相顕 微鏡法とか Ba フェライトのローレンツ位 強度伝達方 相顕微鏡像 程 式 法 (TIE) といわれる方法で観察したものです。強磁 性材料の微粒子はその径が小さくなると内 部の磁化がすべて同じ方向を向く単磁区構 造をとります。その様子が磁力線とに対応 する干渉縞から分かります。また、酸化物 のように絶縁体の場合耐電により周囲に電 界を生じます。その結果が干渉縞の非対称 性に現れています。 また、本来は平面に投影した2次元画像 である TEM 像を電子線を電気的に2方向 から照射してステレオ観察することにより ビデオレートで実時間立体観察が可能なシ ステムを構築し、立体その場観察により材 料の特性を調べています。下図は金属亜鉛 を空気中で燃焼させて作った酸化亜鉛の微 1μm ZnO 微粒子のステレオペア(交差法) 粒子です。右目で左側の図を、左目で右側 の図を見ると立体的に浮き出して見えます。 今後の展望 今まではマクロなスケールでのみ扱われ てきた分野でも、近年、現象の本質をつか むためにはナノスケールでの研究が重要で あると認識されてきました。更に、TEM や 走査電子顕微鏡(SEM)のように、単に形態や 結晶構造を見るばかりではなく、試料中の 磁化状態や電位の直接観察が非常に重要に なります。今後は、電子線ホログラフィー をはじめとし、ローレンツ顕微鏡法、位相 差電子顕微鏡法等々、ナノスケールでの電 子の位相計測手法がより高精度化され、実 用材料への応用が進むでしょう。 経歴 1972 大阪大学工学部卒業、1978 大阪大 学大学院工学研究科博士課程修了、1978 東北大学科学計測研究所助手、1982-3 米 国アリゾナ州立大学客員研究員、1990 東 北大学科学計測研究所助教授、1990 新技 術事業団(現科学技術振興事業団)ERATO 事業 外村位相情報プロジェクト グルー プリーダー、1995 名古屋大学理工科学総 合研究センター助教授、2002 同大学工学 研究科助教授、2007 同大学エコトピア科 学研究所教授 所属学会 日本顕微鏡学会、日本物理学会、電気学会、 Microscopy Society of America 主要論文・著書 (1) Imaging Magnetic Structures using TEM Method. (in Handbook of Microscopy for Nanotechnology, eds. N. Yao and Z. L. Wang), Kluwer Academic Publishers, Boston, 2004, pp.683-715. (2) 電子線ホログラフィによるヘテロ界面 における内部電位その場観察」 山口周監修:「ナノイオニクス−最新技術と その展望−」シーエムシー出版,2008 pp.32-39 (3) Yutaka Ohira, Takayoshi Tanji, Masamichi Yoshimura, and Kazuyuki Ueda: Iron Nanowire Formation in Si(110), Jpn. J. Appl. Phys. 47(7B) (2008). 6138-6141. (4) H. Matsumoto, Y. Furya, S. Okada, T. Tanji, and T. Ishihara: Effect of Dispersion of Nanosize Platinum Particles on Electrical Conduction Properties of Proton-Conducting Oxide SrZr0.9Y0.1O3-α, Electrochemical and Solid State Letters, 10(4) (2007) 11-13. (5) T. Tanji, H. Tanaka and T. Kojima: Development of a Real-Time Stereo Transmission Electron Microscope. J. Electron Microsc. 54(3) (2005) 215-222. (6) T. Tanji, S. Hasebe, Y. Nakagami, K. Yamamoto and M. Ichihashi: Observation of Magnetic Multilayers by Electron Holography. Microscopy and Microanalysis, 10(1) (2004) 146-152. ● 融合プロジェクト研究部門 持続可能性評価型の環境評価及び指標の開発と生物多様性の持続可 能な利用に関する研究 はやし きいちろう 教授 林希一郎(アジア資源循環研究センター・兼務) [email protected] 主な研究と特徴 環境調和型のエコトピア社会実現のため には、政策・制度、科学・技術、産業、市 民などが連携した取り組みが重要である。 これらを連携させる媒介としての評価ツー ルの開発とその事例研究を推進している。 この研究テーマを以下に示す。 1.エコトピア指標の開発 社会全体や科学技術の進展をエコトピア 社会実現の観点から評価するツールの研究 開発を行っている。特に、環境・経済・社 会・ヒューマンファクターの観点を踏まえ、 従来の持続可能性指標の概念に人の意識や 行動の要素を盛り込んだ新しい指標の開発 に取り組んでいる。特に、環境インパクト 評価・リスク評価に係る環境影響項目の特 定、各環境影響項目とその要因の因果関係 を表す評価指標の明確化、またこれらの評 価指標とインパクトおよびリスクとの間の 関数関係や重要性の整理を通じて、環境負 荷評価方法の標準化を目指している。 2.生物多様性と経済に関する研究 生物多様性と経済に関する研究を実施し ている.特に,生物多様性オフセット, PES(生態系サービスへの支払い)などの新 しい生物多様性政策に関する制度分析,事 例分析,効率性の研究を実施している.例 えば,米国ミネソタ州やカリフォルニア州, オーストラリアにおける生物多様性オフセ ット具体的なミティゲーションバンク・コ ンサベーションバンクなどの制度や運用実 態などについて研究を実施している. ・ 生物多様性保全に関する経済的手法(生 物多様性オフセット,PES,資金メカニ ズム他) ・ 生物多様性条約の制度設計(遺伝資源へ のアクセスと利益配分他) 3.環境影響評価と生物多様性評価 エコトピア社会実現に資する環境影響評 価手法の開発や事例研究を実施している。 従来から環境政策手法として活用されてき た開発事業に適用される環境アセスメント (EIA)、政策・計画・プログラムに適用 される戦略的環境アセスメント(SEA)、 製品等を中心に活用されているライフサイ クルアセスメント(LCA)および生息空間・ 生態系評価の観点からの HEP(生息空間評 価手続き)などの手法開発や事例研究、こ れらの評価手法の統合化を推進している。 ・EIA 制度・SEA 制度の諸外国比較研究 ・HEP の生物多様性評価への拡張 ・生物多様性の経済価値評価と HEP による 生態系評価の総合評価手法の研究 ・生物や遺伝資源の経済価値評価 ・途上国の SEA 事例研究 ・貿易自由協定の SEA 事例研究 4.バイオ廃棄物有効利用に関する研究 バイオ廃棄物などの有効利用に係る環境 影響評価を研究している。例えば、インド ネシアのバイオ廃棄物の中で、特にパーム 油関連産業から発生するバイオ廃棄物の有 効活用に関する環境影響評価の研究を実施 している。これまでに、プランテーション やパーム油工場廃棄物の有効利用に関する 環境影響評価(LCA 他)を実施してきた。 現在、パーム油に係る産業のもたらす環境 負荷の研究、経済、社会インパクトなどに 関する研究を進めている。 ・インドネシア・パーム油廃棄物の環境影 響評価 ・バイオマス利用の航空代替燃料の環境影 響評価 ネルギー資源学会他 5.環境政策の制度設計 環境調和型社会実現のために、1990 年代 以降、各種の環境政策の整備が国内外で進 んできた。しかし、世界の経済社会の相互 依存が進む中、先進国と途上国の利害の錯 綜や、国内においては各種関係者間の利害 衝突などによって、効果的な環境政策の制 度整備が困難な状況も見られる。国内の環 境政策の制度設計、国際環境条約における 環境政策の制度設計に着目し、諸外国の制 度や事例の分析をベースとし、我が国の環 境政策・制度設計を研究課題としている。 ・温暖化対策目的の環境税 今後の展望 今後は、上記の研究を発展させ、評価手 法や指標の開発と、環境調和型社会システ ムの実証研究を進めていく予定である。 経歴 主要論文・著書 (1)林希一郎著、「はじめて学ぶ生物多様性 と暮らし・経済」,中央法規出版, pp198(2010). (2) 林希一郎編著,「生物多様性・生態系と 経済の基礎知識」,中央法規出版,pp.412 (2010). (3)藤井実・林希一郎・伊東英幸, 「有限性 を考慮した資源・環境評価に関するエコト ピア社会評価手法開発」, 環境科学会 23(5), p410-419. (4)林希一郎・伊東英幸・古賀一男・田原譲・ 片山新太・伊藤秀章・有田裕二・井上泰志・ 小林敬幸, 「環境・経済・社会・ヒューマン ファクターに関わる評価指標に関する研究 -持続可能型エコトピア実現に資する指標 -」,環境科学会誌 22(4), 281-289 (2009). (5) 英国を中心とした欧州諸国のエネルギ ー関連税と環境税の制度分析. 環境情報科 学論文集 21, p.417-422(2007) (6) 環境影響評価制度研究会編、環境アセス メントの最新知識(全 254 頁)(共著) (7) 生物資源の探索と日本における新薬の R&D 支 出 の 経 年 変 化 . 医 療 経 済 研 究,No.13,p.23-44 (2003) 1990 年東北大学理学部卒業,92 年東京大 学大学院理学系研究科修士課程修了,92 年 ㈱三菱総合研究所入社,05 年東京大学大学 院新領域創成科学研究科博士課程修了,06 年名古屋大学エコトピア科学研究所助教授, 08 年同教授.博士(国際協力学) 所属学会 International Association for Impact Assessment、環境アセスメント学会、環境 経済・政策学会、環境情報科学会、環境科 学会、日本計画行政学会、日本環境共生学 会、日本都市計画学会、国際開発学会、エ 研究室ホームページ http://www.civil.nagoya-u.ac.jp/~maruhaya/ ●融合プロジェクト研究部門 環境的に持続可能な都市交通システムのデザイン やまもと としゆき 教授 山本 俊行 [email protected] www.trans.civil.nagoya-u.ac.jp/~yamamoto/ 主な研究と特徴 20 世紀後半のわが国は,自動車の普及と それに伴う都市の郊外化によって,快適な 移動と生活環境を実現しようとしてきた. しかしながら,過度な自動車依存は交通渋 滞を引き起こし,近年では,環境負荷,エ ネルギー消費などの観点からも自動車依存 からの脱却が求められている.そのため, 環境負荷が低く,エネルギー効率が優れて いると考えられる公共交通機関への転換を 促進するために,様々な施策が実施されて いるが,施策に対する人々の受容性が低く, 人々の交通行動を大きく変えるには至って いないため,十分な効果が得られていない のが現状である. このような状況の下で,環境的に持続可 能な都市交通システムを実現するには,環 境負荷とエネルギー消費に対する制約を明 示的に考慮した都市交通システムのあるべ き将来像を示し,人々の交通行動に関する よりよい理解に基づき,個々の交通施策の 提案とその評価を行う必要がある.そこで 以下に示す幾つかの視点から研究を進めて いる. 1) 環境負荷とエネルギー消費を制約条件 とした最大交通容量に関する分析 従来の交通計画の評価指標として,交通 渋滞の緩和や所要時間の短縮が主に用いら れてきたが,今後は,それらに加えて環境 負荷やエネルギー消費を明示的に考慮する ことが必要である.都市交通システムを考 えた場合,人々は,居住地と勤務地やその 他の目的地での活動を行うために,道路交 通網と公共交通網を各人の都合に応じて利 用し,活動場所間の移動を行っている.そ して,道路交通網は,特に混雑の影響を受 けやすく,交通量によって所要時間や環境 負荷,エネルギー消費が大きく異なる.し たがって,所要時間や環境負荷,エネルギ ー消費を正確に予測するためには,人々の 交通手段選択行動を精度良く予測する必要 がある.本研究では,人々の交通手段選択 行動の予測精度の向上を目指した交通行動 モデルの開発を行っている. 一方で,二酸化炭素排出量の 25%の削減 など,環境負荷削減量の目標値が設定され ている場合,それを達成するためにどの程 度の行動変化が必要か,といった観点から のバックキャスティングによる分析が必要 となる.本研究では,交通手段分担率を政 策変数として,道路交通網と公共交通網の 交通状況を予測するモデルシステムを構築 し,交通による環境負荷やエネルギー消費 を制約条件とした最大交通容量の算出する. このシステムにより,どの程度の交通手段 転換が必要か,だけにとどまらず,居住地 分布や勤務地分布の変化につながる土地利 用政策を実施した場合の環境負荷削減効果 を定量的に分析することが可能となる. ただし,このような大規模なシステムを 実際の都市に適用する場合,計算時間が現 実的な範囲に収まらない可能性がある.そ のため,上記の交通需要予測システムの構 築に当たっては,計算時間の効率化を念頭 に,計算アルゴリズムの簡略化に関して研 究を進めている. 2) 個別交通手段の将来像に関する研究 ネットワークとしての環境負荷の削減に 対して,ハイブリッドカーや電気自動車な ど,車両単体技術によっても環境負荷削減 が進められている.さらには,自動車共同 利用システムやコミュニティサイクル等の 新しい形態での個別交通手段の利用パター ンも提供され始めている.このような状況 の下で個別交通手段の将来像を明らかにす るためには,人々の個別交通手段に対する 意識を理解する必要がある.特に,近年の 若年層は自動車に対する興味を失い,携帯 電話を中心とする情報通信機器の高度な利 用によって生活パターンを変えつつあるの と認識が出てきている.そこで,これまで に継続的に全国規模で実施されてきた交通 行動調査データである全国パーソントリッ プ調査データや全国消費実態調査等のデー タを活用し,自動車保有やトリップパター ン,消費動向の変化を総合的に分析するこ とで,今後の動向に関する知見を得る. 一方で,自動車共同利用システムやコミュ ニティサイクル等の新しい形態での個別交 通手段の利用パターンを普及させるために は,それらの利用による利便性の向上や環 境負荷削減といった利用者便益,社会的便 益を明らかにするとともに,それらの効果 が最大限に発揮されるような望ましい共同 利用システムを普及させるための課題の抽 出や,利用者心理の分析に基づく普及推進 策を検討している. 3) 環境負荷削減のための交通施策の評価 に関する研究 環境負荷削減を目的とした交通施策には 空間的や時間的なスケールが様々なものが 存在し,それらは環境負荷削減だけではな く,交通の効率化や交通弱者に対するアク セシビリティの確保など,複数の目的を持 つ施策も多いため,交通施策間での比較が 容易ではない.しかしながら,目標とする 環境負荷削減を実現するためには,どのよ うな施策が優れているか,また,そのため にはどの程度の予算が必要かを明らかにす ることは適切な交通計画を実施する上で不 可欠である.本研究では,わが国の複数の 都市で実験的に実施されたモデル事業での 予算と環境負荷削減効果を分析することに より,費用便益的な観点から効率的な交通 計画の立案に資することを目指す. また,それらの交通施策のうち,現在の 情報社会の進展を踏まえ,特に交通情報の 提供による行動変化の促進を意図した交通 施策に着目し,その効果の分析および,効 果的な情報提供のあり方について検討を行 っている.具体的には,自動車利用による 環境負荷や公共交通を利用した場合の所要 時間や乗り継ぎ方法などを提供した場合の 交通行動に及ぼす影響の把握や,環境負荷 の少ない経路や動的な所要時間の変化を考 慮した経路案内を実施した場合の経路選択 行動の変化と環境負荷削減効果等,人々が 日常の交通行動において十分に意識してい ない,あるいは入手困難な情報を提供する ことによってどの程度の環境負荷削減効果 が得られるかについて分析している. 今後の展望 交通システムは,人々の活動に不可欠な 社会基盤であり,今後の厳しい予算や環境 制約のもとで,真に持続可能な交通システ ムをデザインし,現実社会への適用を急ぐ 必要がある.エコトピア研究所で研究を推 進しているエコトピア指標も活用しつつ, より望ましい交通システムの姿を明らかに するとともに,社会に向けた具体的な提案 により,持続可能な交通システムの実現を 推進したい. 経歴 1992 年京都大学工学部交通土木工学科卒業, 1994 年京都大学大学院工学研究科応用シス テム科学専攻修士課程修了,1995 年京都大 学工学部交通土木工学科助手,2001 年名古 屋大学大学院工学研究科助教授,2007 年名 古屋大学大学院工学研究科准教授,2010 年 名古屋大学エコトピア科学研究所教授 所属学会 土木学会・交通工学研究会・日本都市計画 学会・日本行動計量学会・大阪交通科学研 究 会 ・ International Association for Travel Behaviour Research 主要論文・著書 (1) Yamamoto, T. and R. Kitamura (2000): An Analysis of Household Vehicle Holding Durations Considering Intended Holding Durations, Transportation Research A, Vol. 34A, No. 5, pp. 339-351. (2) Yamamoto, T., Madre, J. L. and Kitamura, R. (2004): An analysis of the effects of French vehicle inspection program and grant for scrappage on household vehicle transaction, Transportation Research Part B, Vol. 38, pp. 905-926. (3) Yamamoto, T., Hashiji, J. and Shankar, V.N. (2008): Underreporting in traffic accident data, bias in parameters and the structure of injury severity models, Accident Analysis and Prevention, Vol. 40, No. 4, pp. 1320-1329. (4) Yamamoto, T., Miwa, T., Takeshita, T. and Morikawa, T. (2009): Updating dynamic origin-destination matrices using observed link travel speed by probe vehicles, In W.H.K. Lam, S.C. Wong and H.K. Lo (eds.) Transportation and Traffic Theory 2009: Golden Jubilee, pp. 723-738. (5) Yamamoto, T., Hyodo, T. and Muromachi, Y. (2009): Advances in choice modeling and Asian perspectives, In R. Kitamura, T. Yoshii and T. Yamamoto (eds.) The Expanding Sphere of Travel Behaviour Research: Selected papers from the 11th International Conference on Travel Behaviour Research, Emerald, UK, pp. 277-300. (6) Liu, K., Yamamoto, T. and Morikawa, T. (2009): Feasibility of using taxi dispatch system as probes for collecting traffic information, Journal of Intelligent Transportation Systems, Vol. 13, No. 1, pp. 16-27. (7) Yamamoto, T. and Komori, R. (2010): Mode choice analysis with imprecise location information, Transportation, Vol. 37, pp. 491-503. (8) 北村隆一,森川高行,佐々木邦明,藤 井聡,山本俊行 (2002):交通行動の分 析とモデリング-理論/モデル/調査/応 用-,技法堂出版. (9) 秋山孝正,山本俊行 (2004):鉄道に敗 れた都市,鉄道でまちづくり(北村隆 一編著),学芸出版社,pp. 67-97. (10) 山本俊行 (2009):第 1 章 EST 環境的 に持続可能な交通とは,第 3 章 EST の効果の測り方(3-1, 3-3),地球温暖 化防止に向けた都市交通―対策効果算 出法と EST の先進都市に学ぶ(交通工 学研究会 EST 普及研究グループ編), 交 通 工 学 研 究 会 , pp. 1-11, 72-76, 92-101. ●ナノマテリアル科学研究部門 電子線ホログラフィーによる磁性材料・半導体デバイスの微小電 場・磁場解析 客員教授 ひらやま つかさ 平山 司 主な研究と特徴 ナノテクノロジーが国家の運命を左右す る時代に,分子や原子の配列を制御する技 術とその配列を観察する技術の開発がおろ そかにされていい理由はどこにもない.よ く知られているように,原子配列の観察に は古くから透過電子顕微鏡が使われ,重要 な役割を果たしてきた.さらに,原子があ る程度の集団となったとき現れる電気的・ 磁気的性質を研究することは,優れたデバ イスや機能材料の開発のために不可欠の計 測法であると言える. 電子線ホログラフィーは,特殊な透過電 子顕微鏡で「ホログラム」と呼ばれる干渉 縞を撮影し,それを解析することにより, ミクロン∼ナノメートルの領域の電場・磁 場を直視する事の出来る顕微鏡法である. 図1には,典型的なフェリ磁性体である バリウムフェライト粒子を観察した例を示 す.電子線ホログラフィーを用いるとこの ように磁力線を直接観察することができる. よって,電子線ホログラフィーは磁石,磁 気記録デバイス等の開発に役立つと考えら れる. (a) (b) (c) 位分布としてきわめて明瞭に観察される. このような観察手法は,新しいデバイスの 開発スピードアップやコストダウンに役立 つと考えられ,多くの半導体メーカーで導 入が検討されている. ゲート ソース As ドレイン B : 1015 /cm3 図2 電界効果トランジスタ(MOSFET)の 断面.(a) 透過電子顕微鏡像,(b) ホログ ラフィーで得られた位相分布像. 以上のように,電子線ホログラフィーを 用いると,微小領域の電場・磁場を直接観 察することができるため,多くの電気的・ 磁気的な機能を利用した材料やデバイスの 開発に非常に役立つ.また,最近ではリチ ウムイオン電池の中のリチウムイオンの分 布や電位分布を観察・解析することにも成 功し,益々応用分野は広がりつつある. 今後の展望 図1 バリウムフェライト単磁区粒子.(a) 透過電子顕微鏡像,(b)ホログラム,(c)ホ ログラフィーで得られた干渉顕微鏡像. 図2には電界効果トランジスタ (MOSFET)断面の観察例を示す.透過電 子顕微鏡では見えないドーパント分布が電 電子線ホログラフィーをさらに優れた計 測観察手法にするために,次の3つの方向 があると考えている. 1.位相計測の感度を向上させ,より微弱 な電場・磁場の観察を可能にする.これに よって,ナノメートルオーダーの領域で起 As こる興味深い電気的・磁気的現象を捉える ことができる. 2.ホログラフィーが2段階の結像方法で あるために,動的な観察ができないという 宿命というべき弱点をを克服し,動的電子 線ホログラフィーを実現しつつある.これ によって,近い将来動いている半導体デバ イスの観察等が可能になると考えている. 3.現在の電子線ホログラフィーは試料の 投影像(2次元像)を得るものであるが, 3次元電子線ホログラフィーの基礎技術は すでに開発してある.よって,これをより 使いやすい技術にすれば,様々な材料やデ バイスの電場・磁場の3次元像が得られる ようになり,さらに高度な開発に役立って いくと考える. 所属学会 日本顕微鏡学会,応用物理学会,日本物理 学会,日本金属学会 主要論文・著書 (1) (2) (3) 経歴 (4) (5) 1981 年 京都大学工学部卒業,日本電装株 式会社入社 1984 年 新技術開発事業団、林・超微粒子 プロジェクト(名城大学内)研究員 1990 年 新技術事業団、外村位相情報プロ ジェクト(日立基礎研内)研究員 1994 年 (財)ファインセラミックスセン ター主任研究員 1998 年 博士(工学)取得(名古屋大学大 学院工学研究科応用物理学専攻) 2007 年 (財)ファインセラミックスセン ターナノ構造研究所 所長代理 主幹研究員.∼現在に至る. (6) (7) "Observation of magnetic-domain states of barium ferrite particles by electron holography",T. Hirayama, Q. Ru, T. Tanji and A. Tonomura, Appl. Phys. Lett., 63, (3), 418-420 (1993). "Observation of single magnetic-domain particles by electron holographic microscopy", Tsukasa Hirayama, Jun Chen, Qingxin Ru, Kazuo Ishizuka, Takayoshi Tanji and Akira Tonomura, J. Electron Microsc., 43 , (4), 190-197 (1994). "Direct visualization of electromagnetic microfields by interference of three electron waves", Tsukasa Hirayama, Takayosi Tanji and Akira Tonomura, Appl. Phys. Lett., 67, (9), 1185-1187 (1995). "Electron differential microscopy using an electron trapezoidal prism", Takayoshi Tanji, Shizuo Manabe, Kazuo Yamamoto and Tsukasa Hirayama, Ultramicroscopy, 75, 197-202 (1999). "Lorentz microscopy of magnetic granular films", Takayoshi Tanji, Masahiro Maeda, Nobuo Ishigure, Naoto Aoyama, Kazuo Yamamoto and Tsukasa Hirayama, Phys. Rev. Lett., 83, (5), 1038-1041 (1999). "Electron holographic characterization of electrostatic potential distributions in a transistor sample fabricated by focused ion beam", Zhouguang Wang, Tsukasa Hirayama, Katsuhiro Sasaki, Hiroyasu Saka and Naoko Kato, Appl. Phys. Lett., 80, (2), 246-248 (2002). "Direct observation of electrostatic microfields by four-electron-wave interference using two electron biprisms", Kimiya Miyashita, Kazuo Yamamoto, Tsukasa Hirayama and Takayoshi Tanji, J. Electron Microsc., 53, (6), 577-582 (2004). (8) "Amplitude-division three-electron-wave interference for observing pure phase objects having low spatial frequency", Tsukasa Hirayama, Kazuo Yamamoto, Kimiya Miyashita and Tomohiro Saito, J. Electron Microsc., 54, (1), 51-55 (2005). “Mapping of dopant concentration in a (9) GaAs semiconductor by off-axis phase-shifting electron holography”, H. Sasaki, K. Yamamoto, T. Hirayama, S. Ootomo, T. Matsuda, F. Iwase, R. Nakasaki, and Ishii, Appl. Phys. Lett. 89, 244101 (2006). (10) “Direct visualization of dipolar ferromagnetic domain structures in Co nanoparticle monolayers by electron holography” Kazuo Yamamoto, Sara A. Majetich, Martha R. McCartney, Madhur Sachan, Saeki Yamamuro, and Tsukasa Hirayama, Appl. Phys. Lett., 93, 082502 (2008). (11) “Dynamic visualization of the electric potential in an all-solid-state rechargeable lithium battery”, Kazuo Yamamoto, Yasutoshi Iriyama, Toru Asaka, Tsukasa Hirayama, Hideki Fujita, Craig A. J. Fisher, Katsumasa Nonaka, Yuji Sugita, and Zempachi Ogumi, Angew. Chem. Int. Ed., 49, 4414-4417 (2010). ●環境システム・リサイクル化学研究部門 量子線―固体相互作用を利用した環境調和型化学反応と新規機能材 料の創製 よしだ 准教授 吉田 ともこ 朋子 [email protected] 主な研究と特徴 高エネルギー量子線(イオン,中性子, 電子等の粒子線及び放射線)の照射が固体 材料に引き起こす物理化学現象は,これま で主に固体照射損傷の観点から行われてい ましたが,私は,照射場を利用して材料に 新たな付加価値を与えるポジティブな効果 に注目しています.例えば,γ線やX線を 固体に照射すると,コンプトン効果や光電 効果,二次電子放出によって固体表面から 低エネルギーの光子・電子が放出されます が,励起活性化された固体表面はもちろん, 光子・電子が放出される固体表面近傍領域 を新しい反応場として捉えることにより, 新しい化学反応系を構築できると考えてい ます.これまで,理論計算の結果を基に固 体材料を構成する元素や幾何学的構造を設 計することによって,keV~MeV オーダー の放射線を化学反応に適した数 eV~数十 eV の多数の光子・電子へ変換するシステム を開発してきました.このようなエネルギ ー変換システムの最適化を図ることにより, 従来,放射線照射だけでは困難とされてき た水からの水素製造反応や CO2 分解による CO 生成,環境有害物質の分解無害化等の 様々な化学反応の飛躍的促進に成功しまし た.本研究は原子力分野において問題とな っている放射性廃棄物の有効利用の観点か らも重要なテーマとなっています. 一方,量子線照射を受けた固体の表面(界 面)及び内部にはナノサイズ以下の極微構 造(欠陥や配位不飽和構造,格子間原子を 含む極微構造)が形成されます.特にセラ ミックスや半導体中に導入された極微構造 は光吸収・発光サイトとなることから,新 しい発光材料や光触媒,太陽電池等の創製 が期待されます.様々な種類の原子や欠陥 を自由な深さ領域に目的濃度で導入できる という量子線の利点を活かしながら材料の 合理的設計を実現し,粒子サイズを制御し たナノ粒子発光体や,バンド構造改良によ る高効率太陽電池,太陽光応答型触媒,多 層構造を有する多元機能触媒等の新しい機 能材料を開発したいと思っています. 今後の展望 以上述べた研究を遂行するためには,量 子線照射による固体物性変化の理解・制御 が不可欠となり,これを可能とする先進的 材料分析技術の開発にも挑戦してゆきます. 研究テーマを統括し,原子力,放射線化学, エネルギー工学,触媒化学,固体材料学の 境界学問領域としての「放射線固体物理化 学」の学理創成を目指します. 経歴 1991 年 京都大学工学部卒業,1993 年 修 士課程修了,京都大学大学院工学研究科 1996 年 京都大学大学院工学研究科博士後 期課程修了,工学博士,1996 年 名古屋大 学工学部助手,2003年 名古屋大学大学院 工学研究科助教授,2009 年 名古屋大学エ コトピア科学研究所准教授 所属学会 日本原子力学会,日本放射光学会,触媒学 会,日本化学会,日本金属学会 主要論文・著書 (1) T. Yoshida, T. Tanabe, A. Chen, Y. Miyashita, H. Yoshida, T. Hattori and T. Sawasaki, J. Radanal. Nucl. Chem., vol.255 (2003) 265-269 (2) T. Yoshida, T. Tanabe, M. Hirano and S. Muto, Nucl. Instr. and Meth. B, vol 218 (2004) 202-208 (3) T. Yoshida, T. Tanabe, M. Watanabe, S. Takahara and S. Mizukami, J. Nucl. Mater., vol. 329-333 (2004) 982-987. (4) T. Yoshida, M. Sakai and T. Tanabe, Materials Transactions, vol 45(7) (2004) 2018-2022. (5) T. Yoshida, T. Tanabe and H. Yoshida, Phys. Scripta T115 (2005) 435-438 (6) T. Yoshida, T. Tanabe, S. Takahara and H. Yoshida, Phys. Scripta T115 (2005) 528-530 (7) T. Yoshida, T. Tanabe, T. Sawasaki and A.Y.K . Chen, Nucl. Sci. and Eng., vol 150 (2005) 357-361. (8) T. Yoshida , A.Y.K . Chen, J. Nozawa, N. Sugie, and T. Tanabe, Nucl. Sci. and Eng ., vol 150 (2005) 362-367. (9) T.Yoshida, T.Tanabe, N.Sugie and A.Chen J. Radioanal. Nucl. Chem. vol 272 (2007) 471-476. (10) T. Yoshida, S. Muto and T.Tanabe, AIP conf. Proc. vol. 882 (2007) 572-574 (11)T. Yoshida, S. Muto and J. Wakabayashi, Materials Transactions, vol. 48(10) (2007) 2580-2584 (12) T. Yoshida, S. Muto and J. Wakabayashi, Mater. Sci. Forum Vols. 561-565 (2007) 567-570. (13) T. Yoshida and S. Muto, Trans. Mater. Res. Soc. Japan Volume 33(2) (2008) 339-344. (14)T. Yoshida, S. Muto, L. Yuliati, H. Yoshida and Y. Inada, J. Nucl. Mater. (2009) in press (15) T. Yoshida, S. Muto, L. Yuliati, H. Yoshida and Y. Inada, Nucl. Instr. and Meth. B (2009), in press (16) 吉 田 朋 子 , 田 中 庸 裕 “ L 殻 吸 収 端 XANES による機能性表面のキャラクタリ ゼーション” 機能性表面の解析と設計 II, 化学工学シンポジウムシリーズ42, 化学 工学会「表面の機能と応用」研究会編 (1994) pp.38-48 (17) 吉田朋子, 田中庸裕 “固体表面キャラ クタリゼーションの実際” 講談社 田中庸 裕,山下弘己 編 (2005) pp. 42-53 ●TEST1 研究部門(MS ゴチ 12 ポイント) 研究内容を表すタイトル(○○○に関する×××の影響と△△△の モデル化に関する研究)(MS ゴチ・ボールド,14 ポイント) ふりがな(MS 明朝 8 ポイント) えこの とぴお 職名(MS 明朝 12 ポイント) 枝小野戸筆男(MS 明朝 14 ポイント)こ の後に常用する Email アドレスと自分が関与する URL(もしあれ ば)(Century 14 ポイント) 主な研究と特徴 (MS 明朝 10.5Pt,英字は Times New Roman 10.5Pt) 今後の展望 経歴 (顔写真挿入) 所属学会 主要論文・著書 (1) (2) (3) (4) (5) (6) . . . . . . . . 基幹研究部門 ナノマテリアル科学研究部門 ●ナノマテリアル科学研究部門 水の先進ナノ理工学の確立 ~原子・分子レベルで水を理解し、プロセス・物性を制御する~ ふりがな 教授 さいとう ながひろ 齋藤 永宏 [email protected] 主な研究と特徴 水は、我々の生活に最も身近な物質の一 つである。生体成分であるタンパク質、酵 素や細胞自身も、水との強い相互作用によ ってその構造と機能を維持している。体内 に含まれる各種ミネラルも、水との相互作 用をして水和イオンとなり、その生理活性 を発揮している。水は、極めてありふれた 液体であっても、他の液体に比べてその集 団の成り立ち方が特殊であり、数々の驚く べき性質と機能をもっているためである。 科学的な側面から「水」に注目すると、 最も身近な物質ではあるが、その科学につ いては未解明な点が多い。近年になって、 分析機器、シュミュレーション手法の進化 に伴い、ようやく、「水の科学」が新しい ステージに進化しようとしている。酸素と 水素の化学結合から成り立っている水は、 その分極構造によって、大きな水素結合網 を形成し、特殊な集合体物性を発現してい る。一方、水が分子間でダイナミックな離 合集散を繰り返しているのは、水素結合と いう弱い相互作用のためである。このため、 水は特異的な物理化学的性質を有し科学的 に解明されていない未知の部分も多く、そ れ自体が高度な学術研究の対象として興味 深い。たとえば、ナノ局所空間の水は、室 温で氷となっており、室温で氷を保持でき るということがわかっている。 本プロジェクトでは、水のナノサイエン スの視点から、材料プロセスおよび機能の 検討を進め、環境に優しい材料プロセス、 材料の高機能化、新機能の発現を行ってい る。 基礎分野 (1)水溶液の中の冷たいプラズマ 近年、液中で生成する非平衡プラズマを、 21 世紀の「プラズマ材料科学」のコア技術 とし研究を進めていく動向が、世界的に起 きようとしている。このプラズマを、我々 はソリューションプラズマと名付けている。 ソリューションプラズマは、気相中のプラ ズマとは異なった物理および化学を有して いる。気相プラズマのように高エネルギー 状態でありながら、常温、常圧の水の中に 存在し、水溶液系反応の特徴である低い活 性化エネルギーを実現している。このため、 既存のプロセスにない常温・常圧の高速材 料プロセッシングの構築を行える。さらに、 既存の化学工学プロセス・電気化学プロセ スとの整合性は極めて高く、その拡張性も 長所と言える。しかし、ソリューションプ ラズマの基礎については、未解明な点が多 く、材料プロセッシングとして展開するた めには、その基盤の構築が不可欠である。 このため、過渡吸収分光、コヒーレントア ンチストークスラマン分光、時間分解プラ ズマ発光分析、プローブ計測を用いて、ソ リューションプラズマ反応場の理解を進め ている。 (2)ナノ領域の水が及ぼす材料物性・表 面物性 メソポーラスシリカの細孔内の水の挙動 は、細孔内の反応性、フィルター吸着特性、 誘電率等物性に大きく影響を与える。また、 燃料電池電極の三相界面近傍での水の挙動、 生体材料表面の水の挙動についても、それ ら材料の基本特性を大きく左右する。本プ ロジェクトでは、赤外吸収分光、ラマン分 光、示差熱分析、非経験的分子軌道計算を 利用し、ナノ領域の水の挙動を解明すると ともに、材料物性・表面物性に及ぼす影響 を明らかにする。 経歴 1995 年 1997 年 2000 年 2000 年 2004 年 2009 年 応用分野 (1)ソリューションプラズマを用いた ナノ粒子の合成と制御 (2)ナノ細孔材料の高機能化 (3)両親媒性制御ナノ物質の開発 と軽量化部材のための ナノフィラーへの応用 (4)表面の濡れ性の制御 超はっ水と超親水 早稲田大学理工学部卒業 早稲田大学大学院理工学研究科 博士前期課程修了 早稲田大学大学院理工学研究科 博士後期課程修了 博士(工学)の学位取得 早稲田大学理工学部 助手 名古屋大学工学研究科 助教授 名古屋大学 エコトピア科学研究所 教授 所属学会 応用物理学会、表面技術協会、日本 MRS、 日本金属学会、表面科学会、高分子学会、 日本化学会、MRS 主要論文・著書 (1) N. Saito, Y. Y. Wu, K. Hayashi, H. Sugimura, O. Takai, J. Phys. Chem. B, 107, 664-667 (2003). (2) N. Saito, S. H. Lee, T. Ishizaki, J. Hieda, H. Sugimura, O. Takai, J. Phys. Chem. B, 109, (23), 11602-11605 (2005). (3) T. Ishizaki, N. Saito, S.H. Lee, K. Ishida, 今後の展望 ナノサイエンスの視点から、水の挙動解 明を行うことにより、環境に優しい新規水 溶液系材料プロセッシングの開発、既存の 材料の高機能化、新規材料機能の発現等へ の展開ができる。 O. Takai, Langmuir, 22, 9962-9966 (2006). (4) K. Mitamura, T. Imae, N. Saito, O. Takai, J. Phys. Chem. C., 112, 416-422 (2008). (5) P. Baroch, N. Saito, O. Takai, J. Phys. D - Appl. Phys., 41, ar085207, (2008). (6) J. Hieda, N. Saito, O. Takai, J. Vac. Sci. Tecnol. A, 26, 854 (2008). ●ナノマテリアル科学研究部門 新しいナノ材料の創製,評価,応用 を目指して― たなか 教授 ―ナノテクノロジ-の新展開 のぶお 田中信夫 [email protected] 主な研究と特徴 当研究室ではクラスター,ナノ結晶,ナ ノワイヤ,ナノフィルムなどの先端的材料 のミクロの構造と物性を研究している.こ のうちナノ材料の研究グループでは,高分 解能電子顕微鏡(HREM),分析電子顕微鏡 (AEM),走査トンネル顕微鏡(STM),反射 高速電子回折(RHEED)および分子線エピ タキシー装置(MBE)を用いて,各種のナノ 材料の創製,構造と物性の評価,および応 用への基礎的研究を行っている. 「ナノ材料」とは,通常のバルク固体が 10nm 以下のサイズになったものである. その形態としては,超分子(C60 炭素フラー レンなど),超微粒子・クラスター(発光す るシリコンナノ粒子など),人工格子膜(銀 /コバルト/銀多層膜など),表面吸着構造 (鉄原子/シリコン表面など),およびナノ 界面構造などが挙げられる.いずれもその 大きさが原子レベルであることと,バルク 固体の中の一部のみ存在するため,その評 価にはナノメーターサイズでかつ超高感度 の電子プローブが必要となる. ナノ材料の研究をするためのもう一つの 重要な観点は,ナノ材料は「千変万化」で あるということである.外部からの電気的, 機械的および熱的刺激に応じて,興味ある 挙動を示す.この動きの中にナノ材料の物 理学・化学のエッセンスがつまっている. したがって当研究室のもう一つのキーワー ドとして「ナノ材料のダイナミックス」を 挙げている.このために通常の電子顕微鏡 をビデオシステムを用いた時間分解型に改 良し,種々のナノ材料,界面および表面現 象のダイナミックスを研究している. 現在の研究テーマは以下のものが挙げ られる. <基礎的研究としては> 1 時間分解型電子顕微鏡法を用いた材 料の動的現象の研究 2 暗視野走査透過像法による三次元電 子顕微鏡法の開発. 3 ナノプローブ電子エネルギー損失分 光法を用いた,金属/半導体 および金属 /酸化物界面の研究. <応用をめざしたものとして> 4 磁性金属/セラミックス複合膜を用 いたナノ磁性体の研究. 5 環境セル付き電子顕微鏡を用いた環 境浄化用触媒の反応機構の研究と水素吸藏 材料の研究. 6 バイオ,ソフトマテリアルのナノ微構 造の研究.などである. 今後の展望 金属や半導体などのバルク固体の物性や 構造の解明は,20世紀の固体物理学の輝 かしい成果であった.今後の21世紀を展 望した新しい機能性物性は,ここで述べた ナノ材料において発見される可能性が高い. また大規模半導体集積回路(LSI)の高密度 化にともない,数十個程度の電子数の電荷 で情報が記録されることが身近におこりつ つある.ナノ材料の研究はこの2つの大き な流れの交差点にあるもので,今後ますま す研究が進む状況である.このナノ材料の 研究は今後広く物性物理学や材料科学に大 きなインパクトを与え続けることが期待で きる.そのため才気あふれる学生や院生の 皆さんが当研究室で一緒に歩んでくれるこ とを期待しています. 図の説明 図1:酸化マグネシウム (MgO)中にナノサイズで埋めこまれた面心 立方構造をもつ鉄(Fe)クラスター 経歴 1973 年名古屋大学工学部応用物理学科卒 業.78 年同工学研究科博士課程修了.日本 学術振興会奨励研究員,豊田理化学研究所 研究員を経て 1979 年名古屋大学工学部助 手.83-85 年米国アリゾナ州立大学理学部 客員研究員.91 年名古屋大学工学部助教授. 95-96 年米国オークリッジ国立研究所客員 研究員.99 年名古屋大学工学研究科教授. 2002 年名古屋大学理工科学総合研究セン ター教授.2004 年:名古屋大学エコトピア 科学研究機構教授、2006 年:同研究所教授 所属学会 日本物理学会,日本電子顕微鏡学会,日本 結晶学会,応用物理学会,日本金属学会, 米国材料学会(MRS),米国物理学会(APS), 米国電子顕微鏡学会(MSA) 主要論文・著書 (1)N. Tanaka et al., First observation of InGaAs quantum dots in GaP by spherical aberration corrected HRTEM in comparison with ADF-STEM and conventional TEM, Microsc. Microanal., 10, 1-7, (2004). (2)S. Fukami and N. Tanaka, Theoretical consideration of the stability of an L10 magnetic phase in Fe-Pt alloy clusters, Phil. Mag. Lett., 84, 33-40 (2004). (3)N. Tanaka et al. First observation of SiO2/Si(100) interface by spherical aberration corrected HRTEM, J. Electron Microsc., 52, 69-73, (2003). (4)N.Tanaka et al., HAADF-STEM and EELS of nano-granular Co-Al-O alloys, Scripta Materia, 48, 909-914 (2003). (5)N. Tanaka et al.,Three-dimensional STEM for observing nano-structures, Microscopy and Microanalysis, 7, 230-231 (2001). (6)N. Tanaka, Cs-corrected STEM studies of Ge nanodots on Si(001) surfaces, Appl. Surf. Sci.254, 7569, (2008) . (7)N. Tanaka, Present status and future prospects of Cs-corrected TEM/STEM for nanomaterials, Sci.,Tech. Adv. Mater., 9 014111, (2008).(8)「MetalSemiconductor Interfaces 」 (Ohmsha, 1995).(9)「ミクロの世界・物質編」 (学際企 画, 1997). (10)「結晶解析ハンドブック」 (共立出版,1999) (11)「ナノテクノロジ ーハンドブック」 (オーム社,2003).(12)「21 世 紀 薄 膜 製 法 ハ ン ド ブ ッ ク 」( NTS 出 版,2004). (13)「金属ナノ組織解析法」(ア グネ, 2006). (14)「ナノテクのための物理入 門」 (共立出版, 2006).「ナノイメージング」 (NTS 出版, 2008). (15)「Cs-corrected Electron Microscopy for Nanomaterials」 (Academic Press, 2008). ●ナノマテリアル科学研究部門 化学的手法による環境調和型機能材料の創製 よご 教授 としのぶ 余語利信 [email protected] 主な研究と特徴 機能性セラミックス材料や複合材料を前 駆体分子を用いる化学的手法により合成し, それらの性質を評価することによる環境調 和型機能性材料の創製について研究してい る. 無機/有機ハイブリッド材料の合成と評 価について研究している.いろいろなハイ ブリッド材料が提案されているが,金属- 有機化合物を用いた in situ 法によるナノ結 晶粒子/有機ハイブリッドについて検討し ている.ナノメートル(10-9m)程度の大 きさの粒子は,ナノ粒子,ナノクラスター, 量子ドットなどさまざまな名前でよばれて いるが,近年その興味ある特性のために注 目されている. 通常の酸化物原料を用いる場合,これら の複合酸化物粒子を結晶化させるためには, 数百度以上の熱処理を必要とする.また, 酸化物微粒子と有機マトリックスの機械的 混合法では,微粒子のファン・デル・ワー ルス力による凝集などにより,均一な混合 はむずかしく,所望のハイブリッドを調製 する事は困難である.さらに,無機相と有 機相の界面や結合の制御により,ハイブリ ッドに透光性などを付与することもできな い. 金属-有機化合物の結合を制御すること により,前駆体を設計し結晶化条件を制御 することで,従来低温では合成が困難であ った結晶性ナノサイズ粒子を室温に近い条 件下(100℃以下)で結晶化させることがで きる.また,種々の物性を発現させるため には,ナノ粒子の粒径を制御する必要があ るが,金属-有機化合物を用いる in situ 合 成法においては,マトリックスの設計によ り核発生サイト,発生数やその後の結晶成 長を制御することも可能である. 現在までにこのような手法により,スピ ネルフェライト磁性体,ペロブスカイト誘 電体,酸化亜鉛粒子などのナノ結晶粒子/有 機ハイブリッドを 100℃以下の室温付近で 合成している.磁性ナノ粒子については, 透明な鉄スピネル磁性体粒子/有機ハイブ リッドを合成することができた.このハイ ブリッドは磁化曲線を示し,ナノ結晶粒子 による量子サイズ効果も確認している.ハ イブリッドには水溶性などの性質も賦与す ることができる.また,ニッケルおよびコ バルトフェライトナノ結晶粒子/有機ハイ ブリッドも室温付近で合成可能である.こ れらのナノ磁性粒子はマトリックスに化学 結合により固定されているため,強い磁場 下でも安定に磁化され,高い磁化を示す. スピネルフェライトナノ粒子/有機ハイブ リッドは,各種スピネルフェライトの特性 を生かすことにより,磁気光学材料から生 体用医療用材料にいたる幅広い応用が可能 である. チタン酸バリウム,チタン酸鉛,ニオブ 酸カリウム誘電体ナノ粒子/有機ハイブリ ッドは,ナノ結晶粒子とマトリックス間に 化学結合による大きな界面を有している. これらのペロブスカイト型ナノ結晶粒子/ 有機ハイブリッドをゲストに用いた流体は, 電場印加により電場応答性を示し,電気粘 性効果を示すことを明らかにしている.ナ ノ粒子とマトリックス間の化学結合を有す る界面における分極が,電場応答性の原因 と推測している.本ハイブリッドについて は,高性能電気粘性流体用ゲストとしてだ けではなく,電場応答性ナノ材料としての 応用を研究している. 半導体として知られる酸化亜鉛ナノ粒子 /有機ハイブリッドにおいては,ナノサイズ の亜鉛粒子による量子サイズ効果を確認し た.透明な酸化亜鉛ナノ粒子/有機ハイブリ ッドは光学的性質が経時変化をうけず,ま た遷移金属元素のドーピングにより吸収端 を長波長シフトさせることが可能である. ハイブリッドの吸収端の設計・制御による 光学材料への応用も検討中である. 今後の展望 化学結合を制御した前駆体分子を用いる材 料合成は,溶液中および分子結晶の段階で の構造設計が重要である.無機/有機ハイブ リッド材料については,結晶性微粒子とマ トリックスとの相互作用による新しい物性 の発現および光学的性質の応用,マトリッ クスの設計による新機能の賦与などを検討 したい.ナノ結晶粒子とマトリックス間の 界面の性質が、新物性発現のひとつの鍵と なると考えられる. 経歴 1974 年名古屋大学工学部合成化学科卒業, 76 年同大学大学院工学研究科修士課程修 了,80 年北海道大学大学院工学研究科博士 課程修了,80 年名古屋大学工学部助手,90 年同助教授.01 年理工科学総合研究センタ ー教授,04 年エコトピア科学研究機構教授, 86−87 年アメリカ・ワシントン大学博士研 究員,博士(工学) 所属学会 日本化学会,日本セラミックス協会,The American Ceramic Society , Materials Research Society 主要論文・著書 (1) Synthesis of nanocrystalline BaTiO3 particle-polymer hybrid, J.Mater.Res., 19,[11],3275(2004). (2) Synthesis of nickel zinc ferrite nanoparticle/organic hybrid from metalorganics, J. Mater. Res.,22, [7], 1967 (2007). (3) Synthesis of organosiloxane-based inorganic/organic hybrid membranes with chemically bound phosphonic acid for proton-conductors, Electrochim. Acta, 52 [19], 5924 (2007). (4) Proton-conductive sol-gel membranes from phenylvinylphosphonic acid and organoalkoxysilane with different functionalities, J. Membrane Sci., 311, [1/2],182 (2008). (5) Synthesis of highly transparent lithium ferrite nanoparticle/polymer hybrid self-standing films exhibiting Faraday rotation in the visible region, J. Phys. Chem. C, 112 [37],14255 (2008). ●ナノマテリアル科学研究部門 電子顕微鏡法をもちいたナノメーター領域の精密構造解析法および 物性測定法の研究 さいとう 講師 齋藤 こう 晃 [email protected] 主な研究と特徴 電子顕微鏡は,低倍から原子分解能にお よぶミクロスコピーのみならず,ナノメー ター領域からのディフラクトメトリーやス ペクトロスコピーを一台で行なえる多元解 析装置である.しかも電子線は,X 線およ び中性子に比べて,物質との相互作用の大 きさが 104 倍程度強いため,動力学回折効 果やチャンネリング効果など,X 線や中性 子回折ではみられない特有の効果をもちい たユニークな構造解析が可能である.また 電子顕微鏡では,電子ビームをサブナノメ ーターサイズに絞ることができるため,単 一の原子コラムからの散乱をもちいた走査 像またはスペクトロスコピーも可能となる. したがって,電子顕微鏡は最近のナノテク 材料の評価ツールとして必要不可欠な存在 となっている. このような電子線プローブの特徴を生か し,特に収束電子回折(CBED)法,走査型透 過電子顕微鏡暗視野(ADF-STEM)法および 内殻励起をともなう電子線非弾性散乱実験 をもちいて,以下のテーマで研究を行なっ ている. 1.準結晶等の非周期結晶(高次元結晶)お よび関連結晶の構造の研究 結晶ともアモルファスとも異なる新しい 構造秩序である準結晶は,その構造の特異 性から新奇な物性の発現が期待される.準 結晶の構造を明らかにするため,種々の電 子顕微鏡をもちいた研究を行なっている. (1)CBED 法による準結晶および近似結晶 の対称性の研究および動力学回折計算をも ちいた構造精密化 (2)HAADF-STEM 法による準結晶および 近似結晶の原子クラスター構造およびその 配列の研究 (3)ALCHEMI 法による準結晶のケミカル オーダーの研究 2.CBED 法をもちいた結晶構造解析 (1)高次 Laue 帯反射線をもちいた結晶格子 歪みの高精度解析法の開発 (2)GaN,ZnO など wurzite 型構造半導体薄 膜の極性判別 (3)コヒーレント CBED 法による空間群判 別法の研究 3.内殻励起をともなう電子線非弾性散乱を もちいた電子構造解析法の開発 (1)理論計算とのフィッティングによる部分 EELS スペクトル解析 (2)フェルミ準位近傍の非占有状態軌道の3 次元形状可視化法の開発 今後の展望 電子線をもちいた新しい材料評価手法と して,特に,1)非弾性散乱をもちいた電子 軌道の可視化,2)パルス電子銃をもちいた 超高速電子顕微鏡装置の開発,に関する研 究をすすめる. 1)については,現在のところ,カーボン ナノチューブの K 殻励起散乱図形の取得ま で成功しており,エネルギー分解能,S/N 比等において,いくつか問題点を認識して いる.d電子を含む遷移金属化合物等への 応用を視野に入れて,エネルギー分光器の 安定化,電子銃の高輝度化等の装置開発を すすめる.2)については,日本ではほとん ど研究がなされておらず,欧米に大きく水 を開けられている.最近発見されたナノチ ューブや金属内包フラーレンピーポットの 振動現象,または光誘起相転移などの高速 現象の一瞬を捕らえることにより,これま で視ることができなかった新しい物理現象 の発見が期待される.電子源および検出系 の開発も含めて,新しい超高速ミクロスコ ピーのための電子顕微鏡の開発を目指す. 経歴 写真挿入要 1992 年山形大学理学部物理学科卒業,1997 年東北大学大学院理学研究科物理学専攻博 士課程修了,同年東北大学科学計測研究所 助手(2002 年に多元物質科学研究所に改 組).2000-01 年ドイツダルムシュタット工 科大学留学,2003 年産業技術総合研究所特 別研究員.2004 年名古屋大学エコトピア科 学研究機構講師.現在に至る. 所属学会 日本物理学会,日本顕微鏡学会,日本結晶 学会 主要論文・著書 Convergent-Beam Electron Diffraction IV , M. Tanaka,M. Terauchi,K. Tsuda, K. Saitoh ,JEOL-Maruzen, 2002. Formation of a superlattice order from a fundamental-lattice decagonal quasicrystal of Al72Ni20Co8, K. Saitoh, T. Yokosawa, M. Tanaka, A. P. Tsai, J. Phys. Soc. Jpn., 73(2004)1786. Observation of the anisotropy of the inelastic scattering of fast electrons accompanied by the K-shell ionization of a carbon nanotube, K. Saitoh, K. Nagasaka and N. Tanaka J. Electron Microscopy (2006) 55, 281. Structural disorder of the atom cluster in a highly-ordered decagonal quasicrystal of Al72Ni20Co8, K. Saitoh, N. Tanaka, A. P. Tsai and K. Ishizuka Philos. Mag., 87 (18-21), (2007), 2733. ALCHEMI study of chemical order in Al-Cu-Co decagonal quasicrystals, K. Saitoh and A. P. Tsai Philos. Mag., 87 (18-21), (2007), 2741. 図の説明 単一のカーボンナノチューブから得た C-K 殻励起をともなう非弾性散乱図形。 ●ナノマテリアル科学研究部門 環境に優しい高機能材料の創製を目指して! 准教授 さかもと わたる 坂本 渉 [email protected] 主な研究と特徴 高機能を有するセラミックスの環境に優 しい材料設計、材料合成プロセス、材料評 価システムを一体化させることにより、新 規材料の創出およびその合成に関わるプロ セス因子を明らかとし、実際の応用への可 能性を追求する。ここでは、様々な機能性 セラミックス材料について低環境負荷かつ 低コスト化が容易な方法による作製を実現 する研究を目指している。 近年、種々の電子・光学デバイスの小型 化・高性能化に関する発展が著しく、不揮 発性メモリ、光スイッチなど多くのデバイ スを実現するためには、高機能を有する材 料の薄膜化(あるいはナノコーティング技 術の確立)は必須であり、高品質な薄膜を 簡便かつ環境に優しい方法により作製する 必要がある。ここで用いられる材料は、誘 電特性、圧電性、焦電性、電気光学特性、 非線形光学特性、磁気特性、電気伝導性な ど発現する物性別に様々な用途が考えられ る。また、各々の材料が有する基本的な特 性を最大限に利用し、かつ種々の薄膜デバ イスへ応用するためには、作製する薄膜の 精密な組成制御・微構造制御・配向制御お よび正しい材料評価法の確立を行わなくて はならない。このような薄膜合成の実現の ために、優れた組成制御性を有し、目的化 合物の低温合成が可能であり、かつ高真空 系を必要としないために製造装置のコスト を低くでき、工業化に対しても有利な金属有機化合物前駆体溶液を用いた化学溶液プ ロセスを採用して研究を行っている。ここ では、作製する機能性セラミックス薄膜の 材料設計のみならず、高品質化のためのプ ロセスに関わる因子について様々な評価方 法を組み合わせて詳細に検討を行い、それ ら因子を明らかすることにより、通常の単 結晶および多結晶セラミックスの材料とは 異なるミクロン以下のレベル(特にナノメ ータレベル)で高機能を有する材料を実現 する。実際には、薄膜作製の原料としての 金属-有機化合物間の溶液中での反応を分 子レベルで制御する化学的な手法を応用し て機能性材料の薄膜を合成し、それらが発 現する特性を評価することによる新規材料 の創製および普遍的な合成プロセス確立に 関する研究を精力的に進めている。これに より、通常の作製法では合成が困難な組成 の結晶材料に際しても、目的化合物の合成 に有利な組成および構造を有する前駆体分 子を設計して用いることにより、望む結晶 相、配向性および物性を有する薄膜が作製 可能となる。さらに、有害元素を含まない 環境に優しい材料の設計を積極的に行い、 デバイス作製プロセスと整合させるために 高機能材料の薄膜をより低温で作製する低 環境負荷プロセスの開発を行っている。ま た、これらの薄膜は基板(基質)との複合 体とも考えられるため、薄膜と基板との関 係についても各種物性評価を進めながら解 明している。 本法によりこれまでに、主にペロブスカ イト型構造、層状ペロブスカイト型構造、 タングステンブロンズ型構造を有する多種 多様な化合物の薄膜について、強誘電性、 強磁性、導電性、第二次高調波の発生をは じめとした諸性質、またそれらの融合効果 (磁気抵抗効果、マルチフェロイック特性) および結晶学的な配向方位効果などについ て明らかにしている。 今後の展望 サブミクロンさらにはナノスケールで望む 機能を発現する環境に優しい機能性材料お よび簡便かつ環境問題をも考慮したプロセ スによる高品質な材料の創製を実現するた め、構造制御した前駆体分子による材料合 成(ケミカルプロセッシング)には,溶液 中の段階での精密な組成制御および分子設 計・解析が重要であり、さらに薄膜、微粒 子、無機-有機複合体など合成物のナノスケ ールでの微構造と発現する特性の関係およ びプロセス因子の解明が重要な鍵となる。 さらに、既存のプロセスを超越した新規の プロセスの提案およびその実証も緊要であ る。 経歴 Oriented (Sr,Ba)(Nb,Ta)2O6 Thin Films by Chemical Solution Deposition” Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 40, pp. 5599-5604, 2001 (3) “Electromechanical properties of Nd-doped Bi4Ti3O12 films: A candidate for lead-free thin-film piezoelectrics” Appl. Phys. Lett., Vol. 82, pp. 1760-1762, 2003 (4) “Processing and Properties of Rare Earth Ion-Doped Bismuth Titanate Thin Films by Chemical Solution Deposition Method” Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 42, pp. 5222-5226, 2003 (5) “Synthesis and Characterization of BaTiO3-coated Ni particles” J. Euro. 1989 年名古屋大学工学部応用化学科卒業。 91 年同大学大学院工学研究科修士課程修 了。 同年松下電器産業(株)部品デバイス研究 センター・材料部品研究所。 94 年松下電子部品(株)セラミック事業 部。 95 年名古屋大学工学部助手。 97 年同大学大学院工学研究科助手。 2000 年博士(工学)。 02 年同大学理工科学総合研究センター助 教授。 04 年同大学エコトピア科学研究機構助教 授。 05 年同大学エコトピア科学研究所助教授。 06 年同大学エコトピア科学研究所准教授。 Ceram. Soc., Vol. 24, pp. 507-510, 2004 (6) “Synthesis and Characterization of BiFeO3-PbTiO3 Thin Films through Metalorganic Precursor Solution” Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 45, pp. 7315-7320, 2006 (7) “Fabrication and Characterization of Intergrown Bi4Ti3O12-Based Thin Films Using a Metal-Organic Precursor Solution” J. Euro. Ceram. Soc., Vol. 27, pp. 3765-3768, 2007 (8) “Chemical Characterization Processing of and Ferroelectric (K,Na)NbO3 Thin Films” Jpn. J. App. 所属学会 日本セラミックス協会, 日本化学会, 応用 物理学会, 粉体粉末冶金協会, 日本結晶成 長学会, 日本ゾル-ゲル学会 The American Ceramic Society, Materials Research Society Phys, Vol. 46, pp. 6971-6975, 2007 (9)「化学溶液法による Bi 層状ペロブスカ イト化合物薄膜の作製と評価」Materials Integration, Vol. 19, pp. 27-32, 2006 (10) 「ゾルーゲル法応用技術の新展開」 (分 主要論文・著書 担)シーエムシー出版, pp. 15-23, 2000 (1) “Chemical Processing of Potassium Substituted Strontium Barium Niobate Thin Films through Metallo-Organics” J. Am. Ceram. Soc., Vol. 81, pp. 2692-2698, 1998 (2) “Synthesis and Properties of Highly (11) “Handbook of Sol-Gel Science and Technology: Processing, Characterization and Applications” Vol.1, pp. 371-398, 2004 (12)「ゾル-ゲル法のナノテクノロジーへ の応用」シーエムシー出版, pp. 195-205, 2005 ●ナノマテリアル科学研究部門 原子レベル評価技術の開発と機能制御の研究 ―機能材料の評価・設計への指針を得るために― たなかしげやす 准教授 田中成泰 [email protected] 主な研究と特徴 先端材料や新機能デバイスの研究・開発 では、原子レベルの構造制御が極めて重要 である。このため、原子レベルでの構造解 析・状態解析などによる材料評価と共に、 ミクロな電気的、磁気的計測からマクロな 特性発現の機構を解明して機能制御するこ とが不可欠である。私は、先端材料の評価・ 設計への指針を得ることを目的として、こ れら総合的評価を可能にする高分解能電子 顕微鏡を用いた新計測技法の開発、及び機 能制御の基礎的研究を行っている。以下に 主な研究を紹介する。 1.電子線誘起電流法 エレクトロニクスデバイスの高性能化に 対する要求はますます高まりつつあるが、 その一方で環境・エネルギーの点から消費 電力の低減も急務となっている。こうした 課題に対して産業界ではデバイスの微細 化・高密度実装技術の開発を進めており、 基本加工寸法は 2012 年には 35nm に達す ると予想されている。これに対して、加工 技術のカウンターパートとなる評価技術に おいては、加工寸法より約1桁高い精度が 要求されるが、まだ十分な見通しが得られ ておらず、ナノスケールデバイス開発の障 害となりつつある。次世代デバイス開発の ために必要となる各種評価技術のなかでも 最も切望されているものの一つがナノスケ ール分解能での半導体内の不純物分布を定 量的に評価する技術である。本研究では、 電子線誘起電流法(EBIC)と走査型透過電 子顕微鏡(STEM)を組み合わせて、半導 体デバイス内の不純物分布のナノスケール 分解能を有する評価技法の開発を目指して いる。 2.電子線ホログラフィ 電子線ホログラフィでは、2つの電子波 を干渉させ、干渉縞を作る。このとき、一 方の電子波が磁場や電場のある領域を通る と真空中を通る場合と比べて位相が変わる ので干渉縞の位置が変わる。この位置の変 化から逆に微小領域の磁場や電場が求めら れる。電子線ホログラフィにより電場を求 めるには試料の膜厚を正確に求める必要が ある。そこで試料薄片化の方法を工夫し、 精密な電場解析の手法を開発している。 3.三次元観察 透過電子顕微鏡を用いた三次元の構造観 察技術は、試料を回転しながら多数の二次 元画像を取得し、コンピュータで処理して 三次元画像として表示する技術である。こ の手法はナノテクノロジーやバイオテクノ ロジーを支援する技術として開発され、半 導体集積デバイスの欠陥解析、エレクトロ マイグレーションボイドの計測、タイヤ添 加物の三次元分布、細胞へのエイズウイル スの侵入過程、十二指腸の織毛の立体観察 など、既に様々な試料の解析に利用されて いるが、試料回転時の位置ずれの補正をい かに行うかが三次元像構成のキーポイント である。本研究では、試料の回転機構を工 夫し位置ずれを小さくする試みをしている。 今後の展望 本研究は先端材料や新機能デバイスの研 究・開発を支援・促進するものであり、こ れらの分野の要望にマッチした評価技術を 提供していくものである。この意味で材 料・デバイスの研究と同等に重要なもので あり、また材料・デバイス研究の進展とと もにより高度な評価技術を提供していく必 要があると考えている。また、現在は産業 用試料を対象としているが、今後は生物・ 医学分野の試料を対象とした新たな評価技 術の開発も進めたい。 経歴 1984 年名古屋大学工学部電子工学科卒業、 89 年同大学大学院工学研究科電気工学・電 気工学第二及び電子工学専攻満了、同年同 大学大学院工学研究科助手、90 年工学博士、 02 年名古屋大学理工科学総合研究センタ ー講師、04 年名古屋大学エコトピア科学研 究機構講師、07 年名古屋大学エコトピア科 学研究所准教授 所属学会 顕微鏡学会、応用物理学会 図2 (a)結晶 Si と非晶質 Si 界面の電子顕 微鏡像、(b)再生位相像、(c)位相プロファイ ル。 図1GaN と Si 基板界面近傍の STEM 像と 対応する EBIC 像。(a),(b):中間層膜厚が厚 い試料。(c),(d):中間層膜厚の薄い試料。 ナノマテリアル科学研究部門 機能性ナノ材料の精密形状制御 もりや 助教 まこと 守谷 誠 [email protected] 主な研究と特徴 結晶のサイズや形状は磁性体・半導体・ 誘電体といった機能性材料の特性に大きな 影響を与える要素の一つである。特に結晶 のサイズがナノメートル (10-9 m) オーダ ーにある場合、バルク体では見られること のないナノ結晶ならではの挙動が見られる ことがある。このような現象の代表例とし て、磁性体では結晶のサイズがある一定の 大きさを下回ると室温下で保磁力を示さな くなることや、発光材料ではサイズや形状 に応じて発光波長が変化するといったこと が知られている。 我々は、このような特徴を持つナノ結晶 のサイズや形状を均一なものとし、それら を規則正しく配列させること、またナノ結 晶同士、あるいはナノ結晶と機能性有機化 合物の複合化を果たすことにより、新たな 機能を持つナノ材料を創製することを目的 としている。一定の秩序を持ったナノ結晶 の集合体では、単一のナノ結晶では見られ ない新たな物性の発現が期待される。また 有機物とナノ結晶、あるいは複数種のナノ 結晶を組み合わせた複合材料とすることに より、単一の組成からなるナノ結晶では発 現し得ない新たな特性を持つ新規材料が創 生可能である。実際、自然界では走磁性細 菌が体内で磁性ナノ結晶を合成し、それら を一次元に配列させることにより地磁気を 感じとるための方位磁針として利用してい る。また、真珠や貝殻では無機物である炭 酸カルシウムと有機物であるたんぱく質と の交互積層により強度の向上と軽量化の両 立が果たされている。 ナノ結晶の合成には高沸点溶媒中、鋳型 となる小分子の存在下で金属錯体を熱分解 する手法を採用している。この手法では比 較的温和な条件で様々な種類のナノ結晶が 得られ、鋳型分子の種類を変化させること で結晶のサイズや形状を容易に制御するこ とが可能である。現在はスピネルフェライ ト(磁性体)、酸化亜鉛(半導体)、ペロ ブスカイト型酸化物(誘電体)といった化 合物のナノ結晶合成に取り組んでいる。こ れまでに、これらのナノ結晶のサイズ・形 状制御に成功している。さらに、ある種類 のナノ結晶では結晶が自発的に集合するこ とによって中空の球状構造やテトラポッド 型構造を構築することを見出している。 今後の展望 ここまでの検討から、ナノ結晶のサイズ 制御や形状制御を行うための一定の知見を 得ることができた。今後はナノ結晶同士の 複合化、あるいはナノ結晶と有機化合物と の複合化を進める。ここから得られる無機 -有機ハイブリッドや無機-無機ハイブリ ッドについて、その物性を詳細に検討する ことにより新たな機能性ナノ材料を開発す る。 経歴 2001 東京工業大学工学部化学工学科卒業、 2003 同大学大学院理工学研究科修士課程修 了、 2006 同大学理工学研究科博士課程修了、 2006 東京工業大学研究補佐員、2006 ミュ ンスター大学(ドイツ)博士研究員、 2007 教 名古屋大学エコトピア科学研究所助 所属学会 日本化学会、日本セラミックス協会、触媒 学会、ナノ学会 主要論文・著書 (1) Yuya Ito, Makoto Moriya, Wataru Sakamoto, Toshinobu Yogo, “Preparation and Properties of Ferroelectric 0.7BiFeO3-0.3BaTiO3 Thin Films by Chemical Solution Deposition” Trans. Mat. Res. Soc. Jpn. 33(1), 35-38 (2008). (2) Makoto Moriya, Roland Fröhlich, Gerald Kehr, Gerhard Erker, Stefan Grimme “Structural Features of [(CpPPh2AuCl)2ZrCl2]: Exploring the Limits of Aurophilic Interactions” Chem. Asian. J. 3(4), 753-758 (2008). (3) Toshiro Takao, Makoto Moriya, Hiroharu Suzuki, “Insertion of Acetylene and Nitriles into a Ru-C Bond of a Dicationic Triruthenium Complex Having a μ3-η3-C3 Ring: Formation of Six-Membered Ruthenacycles on a Triruthenium Core”, Organometallics 27(6), 1044-1054 (2008). (4) Toshiro Takao, Makoto Moriya, Hiroharu Suzuki, “Introduction of a Methoxy Group into a Hydrocarbyl Ligand Derived from a Linear Alkane on a Triruthenium Cluster via Chemical Oxidation”, Organometallics 27(1), 18-20 (2008). (5) Makoto Moriya, Toshiro Takao, Hiroharu Suzuki, “Synthesis and Structure of Cationic Triruthenium Complexes Containing an Oxametallacycle; Reversible Carbon- Oxygen Bond Formation and Scission on an Electron-Deficient Triruthenium Plane”, Organometallics 26(7), 1650-1657 (2007). (6) Toshiro Takao, Makoto Moriya, and Hiroharu Suzuki, “Redox-induced Reversible Rearrangement of a Dimetalloallyl Ligand on the Trinuclear Cluster of Ruthenium. Mechanistic Aspects of Formation of the Face-capping μ3-C3 Ring on the Triruthenium Plane”, Organometallics 26(6), 1349-1360 (2007). ●ナノマテリアル科学研究部門 電新規子顕微鏡技術を駆使したナノマテリアルの原子レベル構造解 析法および応用研究 やまさき 助教 山崎 じゅん 順 [email protected] 主な研究と特徴 1. 球面収差補正電子顕微鏡による局所ナ ノ構造の観察実験 透過型電子顕微鏡(TEM)の対物レンズは、 電磁石による磁場で電子の軌道を曲げ、試 料の拡大像を得る機構である。原理的に凸 レンズしか形成できないことから球面収差 が残り、汎用の 200kV-TEM の分解能は約 0.2nm に制限される。しかし近年、対物レ ンズ直下で多極子レンズによりその収差を 補正する技術が開発された。この機構を取 り付けた我々の所有する TEM では、現段 階で約 0.1nm 程度までの分解能の向上が確 認されている。例えばシリコンを<110>方 向から観察した際の最小の原子間隔は 0.136nm であるため、シリコンの全ての原 子位置を分離識別した観察が可能である。 このようにこの実験技術は、半導体界面を 始めとする各種ナノ材料の局所構造を原子 レベルで解明する上で非常に重要なもので ある。現段階では酸化シリコンとシリコン の界面(a-SiO2/Si)、および シリコンゲルマ ニウム(SixGe1-x)薄膜中の積層欠陥構造の原 子レベル観察に成功している(4)(9)。また基板 としてよく用いられる酸化マグネシウム (MgO)の(100)表面を真横から観察し、マグ ネシウム原子と酸素原子の位置を分離して 特定することにも成功している。 2. 球面収差補正 TEM を用いた更なる精密 構造解析の可能性の研究 上記のように球面収差補正装置により TEM 像の分解能自体は向上するものの、厳 密には本来の原子位置と対応しない“偽像” が現れることが知られている。当然この偽 像は、未知構造の原子配列を一意的に決定 する際に大きな障害となる物であるが、 TEM 像の結像原理自体に基づき出現する 偽像であるため、ハードウェアの改良だけ では本質的に解決が困難である。この偽像 の問題を解決するソフトウェア的手法とし て、レンズフォーカス値を変えた二枚の像 の簡単な演算で処理する方法(ISD 法)を新 たに発案した(1)(6)。図 1 はシリコン結晶格子 像への適用例である。処理前の球面収差補 正 TEM 像に現れている偽像が、処理後に は消滅しており、原子が存在する位置にの み像コントラストの極大が現れている。現 (a) (b) (b) 0.5nm (c) (c) (d) 図1:球面収差補正 TEM を用いると個々のシリコ ン原子を観測できるが、(a)(原子位置は白)に赤矢 印で示した偽像や、(b)(原子位置は黒)に青線で示 したような原子位置の変動が現れる。この2枚の 像の引算をとり結像特性関数でデコンボリューシ ョン処理することで(c)のように原子位置に対応 する像が得られる。(d)は構造模式図。 在、本手法を用いた各種ナノ構造解析への 応用に向けた研究を遂行している。 3. 球面収差補正 TEM を用いた電子回折法 の発展と新しい結像法の研究 電子顕微鏡内での一般的な電子回折法 (制限視野回折法)では、直径 100nm 以上 の領域から回折図形を得ることができる。 これに対し我々は、球面収差補正 TEM を 用いて試料上の nm オーダー領域からの電 子回折を取得する手法を開発した(7)。現在 では直径約 3nm の領域から回折図形を得 ることに成功している。従来より電子線プ ローブをナノ領域に収束してディスク状の 回折斑点を得る方法も存在するが、我々の 方法の特徴は平行照射による非常にシャー プな回折斑点を得ることができる点であり、 ナノ構造の精密解析への応用が期待される。 一つの応用例として、回折図形強度自体か ら数値処理によって像を復元する“回折顕 (a) (b) 図2:(a)球面収差補正 TEM を用いてシリコン結 晶薄膜の直径 3nm の領域から得た電子回折図形。 (b)は、(a)から回折顕微法を用いて再生したシリ コン結晶格子の像。(a)を取得した直径 3nm 以内 の領域が再生されている。 微法”への適用を行っている。この手法に はレンズ結像の分解能を超える可能性が指 摘されており、図 2 に示すように、現在ま でにシリコンのダンベル構造を TEM 像と 同等程度以上の分解能で再生することに成 功している(2)。 4. ナノマテリアルの三次元構造の観測 TEM によって得られる情報は基本的に 透過像であり二次元情報であるが、近年物 質をあらゆる方向から観察したデータをコ ンピュータ内で統合して三次元情報を得る 手法が開発された。これにより物質の立体 形状のみならず組成の内部分布などの情報 をも得ることが可能になる。我々は走査型 TEM を用いた観察により、複雑な三次元ネ ットワークを持つ白金メソ多孔体の観察に 成功した(図 3)(8)。任意の方向からの立体 像のみならず、任意の切断面での断面図な どももちろん表示可能である。 今後の展望 これからの物質の構造解析は、三次元情 図3:40枚の異なる方向から撮影した電子顕 微鏡像を元に再構築した、白金メソ多孔体の三 次元構造。内部構造までナノスケールで再現さ れている。 報、元素識別能、およびさらなる高分解能 化に加え、データの高信頼度と高感度化が 必要とされる状況へと移行することは必至 である。現在取り組んでいる上記の各手法 はいずれも電子顕微鏡技術の発展の先端に 位置するものであり、これら実験技術の確 立と向上、および有機的な統合を目指し、 ナノマテリアル研究への応用を進める。 経歴 1996 年 大阪大学理学 部物理学科卒業 2001 年 同大学院理学 研究科博士後期課程修 了 同年、名古屋大学大学 院工学研究科助手 2002 年 同大学理工科 学総合研究センター助手 2004 年 同大学エコトピア科学研究機構助 手 2006 年 同大学エコトピア科学研究所助手 2007 年 同助教 所属学会 日本顕微鏡学会、日本物理学会、応用物理 学会、日本金属学会 主要論文・著書 (1) A practical solution for eliminating artificial image contrast in aberration-corrected TEM. Microscopy and Microanalysis, 14(1) (2008) 27-35. (2) Diffractive imaging of the dumbbell structure in silicon by spherical-aberration-corrected electron diffraction. Applied Physics Letters, 93 (2008) 183103. (3)「球面収差補正 STEM によるシリコン結 晶中アンチモン原子の置換位置移動の直接 観察」まてりあ, 45(12) (2006) 特集「電子 顕微鏡法による材料開発のための微細構造 研究最前線(6)」: p.855, 日本金属学会 (4) 「球面収差補正 TEM 法の材料研究への 応用」 顕微鏡, 41(1) (2006) 3-6, 日本顕微 鏡学会 (5)「半導体界面の電子顕微鏡コンビナトリ アル解析」 材料開発のための顕微鏡法と応 用写真集 (2006) p.197, 日本金属学会 (6) A simple method for minimizing non-linear contrast in spherical aberration-corrected HRTEM. Journal of Electron Microscopy, 54 (2005) 209-214. (7) First experiments of selected area nano-diffraction from semiconductor interfaces using a spherical aberration corrected TEM. Journal of Electron Microscopy, 54(2) (2005) 123-126. (8) Three-dimensional Analysis of platinum Super-Crystals by TEM and HAADF-STEM Observations, Philosophical Magazine, 84 (2004) 2819-2828. (9) Direct observation of a stacking fault in Si1-xGex semiconductors by spherical aberration corrected TEM and conventional ADF-STEM, Journal of Electron Microscopy, 53 (2004) 129. (10) Extended vacancy-type defects in silicon induced at low temperatures by electron irradiation, Philosophical Magazine, 83 (2003) 151-163. (11) Elemental process of amorphization induced by electron irradiation in Si, Physical Review B, 65 (2002) 115213-22 (12) Novel amorphization process in silicon induced by electron irradiation, Journal of Non-Crystalline Solids, 299-302 (2002) 793-797. (13) Amorphization in silicon by electron irradiation, Physical Review Letters, 83 (1999) 320-323. 基幹研究部門 エネルギー科学研究部門 ●エネルギー科学研究部門 電気エネルギーシステムの効率化・環境負荷低減に関する研究 はやかわなおき 教授 早川直樹 [email protected] 主な研究と特徴 環境調和型電気エネルギーシステムの構 築に向けて,電気エネルギー材料・機器・ システムの総合的観点から研究を行ってい る.特に,次世代の革新技術の一つとして 超電導電力技術に着目し,各種の超電導電 力機器・システムを対象とした設計・運用・ 制御の最適化技術について,ハードウェア とソフトウェアの両面から研究している. また,電力機器の監視・診断・保守技術, 高機能絶縁材料の創製・評価技術の開発に より,電気エネルギー供給基盤である電力 流通ネットワーク(送電,変電,配電)の 高効率化・高機能化・高信頼度化および資 源消費量の削減による環境負荷の低減を目 指している. (1) 超電導電力機器・システムの技術開発 超電導技術の電力・エネルギー分野への 応用・実用化を目指して,超電導電力機器・ システムの新機能創出,最適化技術に関す る研究を行っている.具体的には,限流機 能を具備した超電導変圧器(超電導限流変 圧器:SFCLT)の開発,超電導ケーブルの 実用的・合理的な電気絶縁設計技術の開発, 伝導冷却型超電導エネルギー貯蔵装置 (SMES)の熱暴走監視技術および電気絶縁 技術の開発を行っている.これらの研究の 一部は,国際共同研究や国家プロジェクト の一環として実施している. (2) 電力機器の監視・診断・保守技術開発 SF6 ガス絶縁開閉装置(GIS)などの電気 エネルギー流通設備の健全性・信頼性を維 持・向上するために,各種ガス中における 放電メカニズムの解明,GIS 中の金属異物 検出・識別技術,SF6 代替ガスの開発に関す る研究を行っている.また,電力システム を構成する各種電力機器の運転状態を監視 し,システム全体としての経済性や停電被 害を考慮しながら,将来に向けた最適な保 守戦略を策定する技術(IGMS)の開発など を行っている. (3) 高機能絶縁材料の創製・評価技術開発 ナノコンポジット技術を用いた高機能型 電気絶縁材料を独自技術によって創製・評 価している.また,絶縁材料内部の誘電率 分布を任意に制御可能な傾斜機能材料 (FGM)を開発している.さらに,ハイブ リッド車などの環境調和型自動車の心臓部 であるインバータ駆動モータにナノ複合エ ナメル線を適用し,その長寿命化メカニズ ムの解明と劣化診断技術を開発している. これらの研究は,民間企業との共同研究と して実施している. 今後の展望 次世代の環境調和型エネルギーシステム を社会インフラとして構築するためには, 従来の電力機器・システムをスクラップア ンドビルド方式によって刷新することはで きず,現行技術の維持・改善と将来技術の 導入との調和・融合が必要であると考える. その意味において,上述の各研究を国内外の 研究機関や産業界との協力体制の下で学際的 に推進・展開するとともに,電力・エネル ギー分野に携わる学生を啓蒙し,当該分野 を担う研究者・技術者を育成・輩出する. 超電導電力実験室 経歴 1990 年 名古屋大学大学院工学研究科 博士課程後期課程満了 1990 年 名古屋大学工学部助手 1996 年 名古屋大学理工科学総合研究 センター助教授 1998 年 名古屋大学大学院工学研究科 助教授 2001 年 ドイツ・カールスルーエ研究 センター客員研究員(-2002 年) 2008 年 名古屋大学エコトピア科学研究所 教授 受賞歴 1996 年 電気学会電気学術振興賞論文賞 2003 年 電気学会電気学術振興賞進歩賞 2005 年 電気学会電気学術振興賞論文賞 所属学会 IEEE,CIGRE,電気学会,低温工学協会, 放電学会 主要論文・著書 (1) Development of 2 MVA Class Superconducting Fault Current Limiting Transformer (SFCLT) with YBCO Coated Conductors, Journal of Physics: Conference Series (JPCS) (to be published) (2) Partial Discharge Activities under AC/Impulse Superimposed Voltage in LN2/Polypropylene Laminated Paper Insulation System for HTS Cables, Journal of Physics: Conference Series (JPCS), Vol.234, No.032020 (2010) (3) Permittivity Characteristics of Epoxy/Alumina Nanocomposite with High Particle Dispersibility by Combining Ultrasonic Wave and Centrifugal Force, IEEE Trans. on Dielectrics and Electrical Insulation, Vol.17, No.4, pp. 1268-1275 (2010) (4) Partial Discharge and Associated Mechanisms for Micro Gap Delamination at Epoxy Spacer in GIS, IEEE Trans. on Dielectrics and Electrical Insulation, Vol.17, No.3, pp.861-867 (2010) (5) Surface Charge Accumulation and Partial Discharge Activity for Small Gaps of Electrode/Epoxy Interface in SF6 Gas, IEEE Trans. on Dielectrics and Electrical Insulation, Vol.16, No.4, pp.1150-1157 (2009) (6) Current Limiting Characteristics of Parallel-Connected YBCO Coated Conductors for High-Tc Superconducting Fault Current Limiting Transformer (HTc-SFCLT), IEEE Trans. on Applied Superconductivity, Vol.19, No.3, pp.1880-1883 (2009) (7) Dynamic Thermal Characteristics of HTS Coil for Conduction-cooled SMES, IEEE Trans. on Applied Superconductivity, Vol.19, No.3, pp.2036-2039 (2009) (8) Time Variation of Partial Discharge Activity Leading to Breakdown of Magnet Wire under Repetitive Surge Voltage Application, IEEE Trans. on Dielectrics and Electrical Insulation, Vol.15, No.6, pp.1701-1706 (2008) (9) Partial Discharge Activity in Electrical Insulation for High Temperature Superconducting (HTS) Cables, IEEE Trans. on Dielectrics and Electrical Insulation, Vol.15, No.3, pp.647-654 (2008) (10) Quench-induced Partial Discharge Characteristics of HTS Cables, Journal of Physics: Conference Series (JPCS), Vol.97, No.12053 (2008) (11) Breakdown Characteristics of N2O Gas Mixtures for Quasiuniform Electric Field under Lightning Impulse Voltage, IEEE Trans. on Dielectrics and Electrical Insulation, Vol.14, No.6, pp.1492-1497 (2007) (12) 高分子絶縁材料技術とその実例・評価,サ イエンス&テクノロジー (2010) (13) 電力システム工学,オーム社 (2008) (14) High Temperature Superconductivity, Springer-Verlag (2004) ●エネルギー科学研究部門 パルスレーザー蒸着法を用いた高性能エネルギー材料の創製 いちの ゆうすけ 准教授 一野 祐亮 [email protected] 主な研究と特徴 超伝導は電気抵抗がゼロであることから、 大電流を損失無く送電可能な超伝導ケーブ ルや電気エネルギーを磁気エネルギーにし て貯蔵する超伝導磁気エネルギー貯蔵装置 (SMES)などへ応用可能である。また、熱電 変換材料は熱エネルギーを電気エネルギー に直接変換可能であり、可動部が無くメン テナンスフリーであることや、熱源におけ る熱エネルギーの大小に関わらず電気エネ ルギーを取り出すことが出来るなど、魅力 的な性質を持っている。持続可能なエネル ギー社会を実現するためにこれらのエネル ギー材料に着目し、環境調和型エネルギー システムに向けた高性能エネルギー材料の 創製に関する研究を行っている。 金属間化合物からなる従来のエネルギー 材料には既に応用に用いられているものも 存在するが、近年、次世代のエネルギー材 料として酸化物材料が注目を集めている。 酸化物超伝導体は超伝導転移温度が高く、 安価な液体窒素あるいは冷凍機を用いた冷 却で動作可能であるため低いランニングコ ストの超伝導電力機器の実現が期待されて いる。また、酸化物熱電変換材料は化学的 安定性の高さから、従来材料では困難であ った高温熱源からの熱エネルギー回収への 応用が期待されている。 しかし、酸化物エネルギー材料はその複 雑な結晶構造に起因した物性の異方性を持 ち、応用にはエピタキシャル成長を利用し た結晶軸方位の整列が必要不可欠である。 そのため、パルスレーザー蒸着法を用いた 酸化物エネルギー材料のエピタキシャル薄 膜技術を基に、以下の研究を行っている。 (1) 超伝導ケーブルに向けた低コスト超伝 導線材作製プロセスの構築 YBa2Cu3Oy 酸化物(Y 系)超伝導体は大電 流送電時に発生する自己磁場などの磁場に 対する臨界電流密度(Jc)の低下が尐なく、次 世代の超伝導線材材料として研究・開発が 進んでいる。図 1 に Y 系超伝導線材の構造 模式図を示す。Y 系超伝導線材作製のため には、パルスレーザー蒸着(PLD)法などの薄 膜技術を用いて Y 系超伝導体をエピタキシ ャル成長させる必要があるが、製造コスト が高いという課題がある。現在、ランニン グコストの安価な Nd:YAG レーザーなどの 使用や PLD 法の収率向上による製造速度の 高速化を行い、Y 系超伝導線材の製造コス ト低減に関する研究を行っている。 安定化材 (Cu, Ag…) エピタキシャル超伝導層 格子不整合・拡散緩衝層 (CeO2, MgO, SrTiO3…) 金属テープ (ハステロイ、Ni-W合金…) 図 1 Y 系超伝導体を使用した次世代超伝導線 材の構造図。金属テープ上に Y 系超伝導体を エピタキシャル成長させ、全体に渡って結晶 軸方位を揃える必要がある。 (2) 強磁場発生コイル用高性能超伝導線材 の開発 超伝導電力貯蔵技術では、超伝導コイル を用いて電気エネルギーを磁気エネルギー にして貯蔵を行うため、磁場に対する Jc の 低下を抑制する必要がある。そのため、磁 場中での Jc 低下がより尐ない SmBa2Cu3Oy などの希土類系超伝導体が注目されている。 加えて、さらに Jc 低下を抑えるためには、 超伝導体中に侵入した磁束線の運動を抑止 する必要がある。近年、超伝導体に BaSnO3 などを添加すると、この BaSnO3 がナノサ イズの円柱状に自己組織化し、磁束線の運 動を効果的に抑止することが明らかになっ た。しかし、過剰な添加は超伝導体積率を 低下させるため、添加量を最適化する必要 がある。本研究では、図 2 に示したコンビ ナトリアル Nd:YAG-PLD 法を用いて、より 高い効率で磁束線の運動を抑制し、かつ超 伝導体積率をできる限り高く保つことがで きる添加材料の探索を行っている。コンビ ナトリアル法は元々創薬分野において、多 数の薬品を系統的に一度に作製・評価する 手法として提案され、コンビナトリアルケ ミストリーとして発展して来た。近年では 酸化物蛍光体や強誘電体材料の開発などに 用いられ、大きな成果を上げている。本研 究ではこのコンビナトリアル法を用いて新 規磁束ピン止め材料の高速探索を行ってい る。 基板(薄膜の成長土台) 可動パターンプレート (基板上の任意の場所に薄膜を蒸着) Nd:YAGレーザー (原料を気化させる) ターゲットB プルーム (気化・励起された原料) 今後の展望 酸化物エネルギー材料の多くは多元素系 であるため、組成や温度に対して複雑な状 態図を持つ。これに加えて、パルスレーザ ー蒸着法などの気相薄膜成長法は非平衡プ ロセスであるため、従来の熱平衡プロセス で得られた状態図をそのまま適用すること は困難である。従って、非平衡プロセスに おける結晶成長、状態図を明らかにするこ とで、より高品質な酸化物エネルギー材料 の創製が可能になると考えている。 また、実際にエネルギー材料をエネルギ ーシステムに組み込んで運用する場合には、 超伝導電力機器など応用機器側からの要請 を受けた新規機能性の創出・付与が要求さ れる。それらの要求に柔軟に対応し得るエ ネルギー材料作製プロセスの構築も行いた いと考えている。 ターゲットA ターゲット ターゲットC 拡張し、様々な形状の熱源に設置可能なフ レキシブルかつ低コストである薄膜型熱電 変換モジュールを作製する技術の構築を行 っている。 (薄膜の原料) 経歴 図 2 コンビナトリアル Nd:YAG-PLD 法の概略 図。一枚の基板上に複数の組成を持った超伝 導薄膜を作製可能である。 (3) 高効率熱電変換モジュールの開発 発電所やゴミ焼却場などの大規模高温熱 源からの廃熱を回収・再利用するために熱 電変換材料に求められる条件は、熱的に安 定であり、なおかつ高温において変換効率 が 高 い 事 で あ る 。 近 年 、 Ca3Co4O9 や Sm2-xCexCuO4 などの酸化物材料が高温で比 較的高い熱電変換効率を示すことが発見さ れたが、現状の変換効率は 10%に満たない ため、さらなる変換効率の向上が求められ ている。 これらの酸化物材料は Y 系超伝導体と同 様に、エピタキシャル成長を利用した結晶 軸方位の整列によって電気抵抗率を低減で き、変換効率の向上が可能である。また、 酸化物熱電変換材料が Y 系超伝導体などと 近い結晶構造を持っていることを利用して、 低コスト超伝導線材作製プロセスの技術を 1998 年 名古屋大学工学部応用物理学科卒 業、2000 年 同大学工学研究科結晶材料工 学専攻博士課程前期課程修了、シャープ株 式会社入社、2001 年 同社退社、名古屋大 学工学研究科研究生入学、2004 年 同研究 科電子工学専攻博士課程後期課程修了、博 士(工学)、同研究科エネルギー理工学専 攻 助手、2007 年 同専攻 助教、2009 年 同 大学エコトピア科学研究所 准教授 所属学会 応用物理学会、低温工学協会、電気学会 主要論文・著書 (1) “Potential of Nd:YAG pulsed laser deposition method for coated conductor production”, Y. Ichino, Y. Yoshida, T. Yoshimura, Y. Takai, M. Yoshizumi, T. Izumi, Y. Shiohara, Physica C Vol. 470 (2010) pp.1234-1237. (2) “In-field characterization of FeTe0.8S0.2 epitaxial thin films with enhanced superconducting properties”, P. Mele, K. Matsumoto, Y. Haruyama, M. Mukaida, Y. Yoshida, Y. Ichino, T. Kiss, A. Ichinose, Supercond. Sci. Technol. Vol. 23 (2010) pp. 052001. (3) “Application of Nd:YAG laser to preparation of REBa2Cu3Oz films for wire processing (RE: Y or rare-earth element)”, G. I. P. De Silva, T. Maeda, S. Horii, Y. Ichino, Y. Yoshida, J. Phys.: Conference Series, Vol. 234 (2010) p. 022006. (4) “BaZrO3 ナ ノ ロ ッ ド を 導 入 し た SmBa2Cu3Oy 薄膜における磁束ピンニン グ特性と微細構造観察”, 尾崎壽紀、吉 田 隆、一野祐亮、高井吉明、松本要、 (他 3 名, 3 番目), 低温工学 Vol.44 (2009) p.549-557. (5) “Flux pinning characteristics of Sm1+xBa2-xCu3Oy films with the additional c-axis correlated pinning centers”, T. Ozaki, Y. Yoshida, Y. Ichino, Y. Takai, K. Matsumoto(他 5 名, 3 番目), IEEE Trans. Appl. Supercond. Vol. 19 (2009) pp.3507-3510. (6) “Improved flux pinning in nanostructured REBCO films controlling the APC growth mechanism”, Y. Yoshida, Y. Ichino, Y. Takai, K. Matsumoto, A. Ichinose(他 5 名, 2 番目), IEEE Trans. Appl. Supercond. Vol. 19 (2009) pp.3262-3265. (7) “Flux pinning properties and microstructure in Sm1+xBa2-xCu3Oy films with BaZrO3 nanorods fabricated by vapor-liquid-solid growth technique”, S. Funaki, Y. Yoshida, Y. Ichino, K. Matsumoto, A. Ichinose(他 6 名, 3 番目), IEEE Trans. Appl. Supercond. Vol. 19 (2009) pp.3168-3171. (8) “Effect of BaZrO3 addition and film growth on superconducting properties of (Nd, Eu, Gd)Ba2Cu3Oy thin films”, Y. Ichino, Y. Yoshida, K. Inoue, Y. Takai, K. Matsumoto (他 5 名, 1 番目), IEEE Trans. Appl. Supercond. Vol. 19 (2009) pp.3144-3147. (9) “Microstructures of REBa2Cu3Oy films containing artificial pinning centers of various dimensions”, A. Ichinose, P. Mele, K. Matsumoto, Y. Ichino, Y. Yoshida, R. Kita(他 7 名, 10 番目) , Physica C Vol. 469 (2009) pp.1374-1379. (10) “Reciprocal space mapping of BaZrO3 within (Nd,Eu,Gd)Ba2Cu3Oy films prepared by various film growth techniques”, Y. Ichino, Y. Yoshida, Y. Takai, K. Matsumoto, A. Ichinose(他 5 名, 1 番 目 ) , Physica C Vol. 469 (2009) pp.1400-1403. (11) “Surface morphology and microstructure of Sm1+xBa2−xCu3Oy thin films including self-organized columnar pinning centers”, T. Ozaki, Y. Yoshida, Y. Ichino, Y. Takai, K. Matsumoto(他 5 名, 3 番目), Physica C Vol. 469 (2009) pp.1388-1391. (12) “Crystal growth mechanism of VLS-Sm1+xBa2−xCu3Oy films including self-assembled BaZrO3 nanorods”, S. Funaki, Y. Yoshida, Y. Ichino, Y. Takai, K. Matsumoto(他 4 名, 3 番目), Physica C Vol. 469 (2009) pp.1414-1417. (13) “Jc of Sm1+xBa2−xCu3Oy films improved in the whole angle range by introducing BaZrO3 nanoparticles”, T. Harada, Y. Yoshida, Y. Ichino, Y. Takai, K. Matsumoto(他 5 名, 3 番目), Physica C Vol. 469 (2009) pp.1392-1395. (14) “Progress toward nano structured SmBCO film for controlling pinning properties”, Y. Yoshida, Y. Ichino, Y. Takai, K. Matsumoto, A. Ichinose(他 3 名, 3 番目), J. Phys.: conference series Vol. 97 (2008) pp. 012021. (15) “Vortex pinning phase diagram for various kinds of c-axis correlated disorders in RE123 films”, S. Awaji, K. Watanabe, K. Matsumoto, Y. Ichino, Y. Yoshida(他 10 名, 10 番目), J. Phys.: conference series Vol. 97 (2008) pp. 012328. (16) “Enhancement of critical temperature of LaBa2Cu3Oy thin films by novel film growth technique”, Y. Ichino, Y. Yoshida, Y. Takai, K. Matsumoto, A. Ichinose(他 4 名, 1 番目), Physica C Vol. 468 (2008) pp.1623-1626. 他。 ●エネルギー科学研究部門 エネルギー・環境技術へのソノプロセスの応用 こじま 准教授 よしひろ 小島義弘 [email protected] 主な研究と特徴 液体中に超音波照射すると,キャビテー ション気泡の発生・成長・崩壊のサイクル を介して数μm オーダー領域の局所的な高 温・高圧場(ホットスポット:数千度,千 数気圧)が形成される。この局所高温・高 圧場では,化学種の熱分解にともなうラジ カル反応が進行する,また,衝撃波の発生 にともなう秒速 100m を超える微小ジェッ ト流によって力学場を形成することが知ら れている。すなわち,超音波キャビテーシ ョンには,化学(ケミカルな)作用と物理 (メカニカルな)作用がある。これら作用 を応用することにより,特別な薬品を添加 することなく,有機化合物含有廃液の処理, 化学物質の創製,反応制御・促進などが期 待できる。このような強力超音波を照射す ることにより溶液中で発現する物理・化学 作用を応用したプロセスをソノプロセスと 呼ぶ。 これまで本研究室では,ソノプロセスを 応用した新規環境低負荷型の環境浄化処理 プロセスの構築を目指して,廃液中の有機 塩素系化合物・有機錯体などの処理,有機 塩素系化合物で汚染された土壌の洗浄・分 解処理,について検討を行っている。また, エネルギー関連技術として,環境に優し く・蓄熱密度の高い潜熱蓄熱材として期待 されている糖アルコール(エリスリトール など)の過冷却緩和に及ぼす超音波照射の 影響について検討を行った実績がある。さ らに近年,バイオディーゼル燃料の合成, エマルション燃料の調製,液体燃料の改質 に向けた研究に取り組んでいる。 今後の展望 超音波技術を組み入れたソノプロセスは, 環境浄化・廃棄物処理,液体燃料の調製・ 改質プロセスの一旦を担う可能性を有して いることが,ラボスケールでの研究で明ら かになりつつある。しかしながら,反応場 の制御や効率に関して,多くの課題を有し ている。また,これら課題に関連して,大 量処理を可能とする大型装置(反応器)開 発に向けた検討が現在までほとんどなされ ていないのが現状である。今後は,エネル ギー・環境技術に関連したソノプロセスの 継続的な応用研究の取り組みと併せて,大 量処理可能なソノプロセスの確立を目指し た研究を推進していく必要がある。これら スケールアップ,効率改善に関する研究に ついても,共同研究者とともに現在検討中 である。 経歴 2000 年名古屋大学大学院工学研究科物質 制御工学専攻,博士(工学),2000 年山形 大学大学院ベンチャー・ビジネス・ラボラ トリー,非常勤研究員,2001 年名古屋大学 難処理人工物研究センター,非常勤研究員, 2002 年助手,2004 年名古屋大学エコトピ ア科学研究機構助手,2004 年名古屋大学エ コトピア科学研究機構(現エコトピア科学 研究所)助教授(現准教授) 所属学会 化学工学会,高分子学会,ソノケミストリ ー研究会 主要論文・著書 (1)Development of a Liquid Sonochemical Reaction at a High Frequency, Chem. Eng. Journal, 139, 339-343(2008) (2)Effect of Liquid Height on Sonochemical Reaction in a Large-Scale Reactor of a Rectangular Parallelepiped Using Low Frequency Ultrasound, J. Chem. Eng. Japan, 40(12), 1088-1092(2007) (3)超音波による水処理技術, 「排水汚染処理 技術集成」,第 3 編・第 2 章・第 5 節,NTS, 359-367(2007) (4)カオリンに吸着した(4-chloro-2-methyl phenoxy) acetic acid の超音波抽出および 分解,化学工学論文,32(5), 454-460(2006) (5)Effects of dissolved gas species on ultrasonic degradation of (4-chloro2-methylphenoxy) acetic acid (MCPA) in aqueous solution, Ultrason. Sonochem., 12(5), 359-365(2005) (6)Ultrasonic Decomposition of (4-Chloro-2-Methyl Phenoxy) Acetic Acid (MCPA) in Aqueous Solution, J. Chem. Eng., Japan, 36,(7), 806 -811(2003) (7)Effect of Ultrasonic Irradiation Parameters on the Supercooling Relaxation Behavior of PCM(SC), J. Chem. Eng., Japan, 36(7), 799-805(2003) (8)Enhancement of saccharin removal from aqueous solution by activated carbon adsorption with ultrasonic treatment, Ultrason. Sonochem., 13(1), 13-18, 2006. (9)「有機廃液の超音波処理」,化学工学の進 歩 35 「廃棄物の処理-循環型社会に向けて-」, 230-242( 2001) ●エネルギー科学研究部門 先端的エネルギー源における粒子及び熱の輸送現象とその制御 かじた 講師 しん 梶田信 [email protected] 主な研究と特徴 国際核融合実験炉(ITER)の建設が進ん でいる中で,中枢大学の名古屋大学の活動 として,環境に適合する新しい大規模エネ ルギー源として期待されている核融合研究 に寄与することが望まれている。 定常運転が可能な核融合炉を実現するた めに,炉心から排出される膨大な熱とプラ ズマ粒子制御が重要な課題となっている。 次期核融合実験炉や原型炉のプラズマ対向 材料は超高熱流プラズマに曝され,太陽表 面に匹敵する大きな熱・粒子負荷を受ける。 その結果発生する著しい不純物の放出なら びにプラズマ対向材料の損耗が懸念されて いる。これをどのように回避し制御するか について,次期核融合炉に外挿できる物理 を大型装置と相補的に打ち立てていくこと が必要である。 高熱流ダイバータ・プラズマ模擬試験装 置(図1)など特徴あるプラズマ発生装置 を駆使して,多様なプラズマの物性の解 明・制御とその応用を行っている。具体的 には,核融合炉におけるプラズマの熱流制 御,周辺プラズマの計測開発,材料表面と の相互作用,輸送の基礎過程,さらに原子 分子過程に関する研究を行っている。 <最近の研究成果> (1)国際熱核融合実験炉(ITER)計 画において,日本が調達分担する予定の周 辺トムソン散乱計測装置の光学系の設計・ 評価を行った。特に分光器(ポリクロメー ター)に必要な透過波長フィルターの評価 や,真空容器内のミラー材料の評価を行っ た。 (2)低エネルギーのヘリウムプラズマ照 射により,タングステン表面に繊維状の微 細構造が形成されることが明らかになった。 それらヘリウム照射損傷を受けたタングス テンへのレーザー照射実験を行い,間欠的 な熱負荷が表面損傷を受けたタングステン に及ぼす影響を明らかにした。レーザーの パルス幅が異なると,表面損傷の変化が著 しく異なることが明らかになった。 (3)ダイバータ模擬装置 NAGDIS-II にお いて,分光法と静電プローブ法から得られ る電子密度・温度の比較を行い,計測手法 の妥当性を評価した。 NAGDIS-II 図1 高熱流ダイバータ・プラズマ模擬装 置 NAGDIS-II 今後の展望 核融合発電炉の実現のために ・ ヘリウム照射下での高融点金属材料の 損耗特性の解明 ・ ITER における真空容器内計測用ミラ ーに対するヘリウム照射効果とレーザ ー照射効果の評価 ・ 高熱プラズマの効率的放射冷却と非接 触プラズマの生成 ・ 先進的ダイバータの開発 経歴 2005 東京大学大学院博士課程修了(工学 博士),2005 日本学術振興会特別研究員 (名古屋大学),2007 日本原子力研究開発 機構任期付研究員,2008 名古屋大学エコ トピア科学研究所講師 所属学会 プラズマ核融合学会,日本物理学会 主要論文・著書 1) S. Kajita, T. Hatae, Y. Kusama, “Design study of polychromators for ITER edge Thomson scattering diagnostics”, Review of Scientific Instruments (2008). 2) S. Kajita, T. Hatae, V. S. Voitsenya, "Assessment of Laser Transmission Mirror Materials for ITER Edge Thomson Scattering Diagnostics", Plasma and Fusion Research, Vol. 3 (2008) 032. 3) S. Kajita, N. Ohno, S. Takamura, W. Sakaguchi, D. Nishijima, “Plasma-assisted Laser Ablation of Tungsten: Reduction in Ablation Power Threshold Due to Bursting of Holes/Bubbles”, Applied Physics Letters, Vol. 91 (2007) 261501. 4) S. Kajita, S. Takamura, N. Ohno, D. Nishijima, H. Iwakiri, N. Yoshida, “Sub-ms Laser Pulse Irradiation on Tungsten Target Damaged by Exposure to Helium Plasma”, Nuclear Fusion Vol. 47 (2007) 1358-1366. 5) S. Kajita, S. Kado, N. Ohno, K. Kurihara, Y. Kuwahara, S. Takamura, “Effect of Cross-field Transport on H- Density Profile in Magnetized Plasmas: Comparison Between Measurement and Simulation”, Physics of Plasmas, Vol. 14 (2007) 103503. 6) S. Kajita, S. Takamura, N. Ohno, T. Nishimoto, “Alleviation of Helium Holes/Bubbles on Tungsten Surface by Use of Transient Heat Load”, Plasma Fusion Research Vol. 2 (2007) 009. 7) S. Kajita, D. Nishijima, N. Ohno, S. takamura, “Reduction of Laser Power Threshold for Melting Tungsten Due to Subsurface Helium Holes”, Journal of Applied Physics Vol. 100 (2006) 103304. 8) S. Kajita, N. Ohno, S. Takamura, T. Nakano, “Comparison of He I line intensity ratio method and electrostatic probe for electron density and temperature measurements in NAGDIS-II”, Physics of Plasmas, Vol. 13 (2006) 013301. 9) S. Kajita, S. Kado, S. Tanaka, “Magnetized Features of Sheath and Collection Region Photodetached Electrons in Negative Ion Measurement”, Contributions to Plasma Physics, Vol. 46 (2006) 373-378. ●エネルギー科学研究部門 鉄鋼製錬プロセスへの有機系廃棄物の有効利用 うえき やすあき 助教 植木 保昭 [email protected] 主な研究と特徴 現在、家庭より排出されている都市ゴミ の大半が焼却処分され、大量の CO2 を排出 しており、地球温暖化に加担しているのが 現状である。この都市ゴミの約 50%はプラ スチック類や紙類といった有機系廃棄物で 構成されている。また、年間約 4 億トン以 上も排出されている産業廃棄物の約 20% を下水処理によって発生する下水汚泥が占 めている。この下水汚泥は有機性汚泥であ り、減容・減量化のために焼却処理されて おり、多くの CO2 を排出している。 一方、鉄鋼製錬プロセスの主流は高炉法 であり、鉄鉱石を還元し鉄を製造するため に大量の石炭を使用している。この石炭の 代替として、都市ゴミや下水汚泥のような 炭素を多く含有する有機系廃棄物を有効利 用することにより、鉄鋼製錬プロセスにお ける石炭の使用量を削減し、国内全体での CO2 排出量を削減できる。 そこで本研究では、有機系廃棄物の鉄鋼 製錬プロセスにおける有効利用の可能性に 関して研究を進めている。具体的には、鉄 鉱石を還元する際の還元材として廃棄物を 利用するために、鉄鉱石と廃棄物を混合・ 加圧成型した混合体を作製し、その混合体 を不活性雰囲気下で加熱することで、還元 鉄を製造する。これまでの研究で、廃プラ スチックを還元材として利用することによ り、還元鉄を製造することができることを 確認している。 廃プラスチック 酸化鉄混合体 加熱 還元鉄 廃プラスチック 鉄鉱石 図. 廃プラスチック酸化鉄混合体による還元鉄の製造 さらに、都市ゴミや下水汚泥についても 還元材として有効利用できるか検討し、そ の反応機構の詳細を解明するために研究を 進めている。 今後の展望 さまざまな廃棄物についても鉄鋼製錬プ ロセスにおける有効利用の可能性を検討す る。特に、カーボンニュートラルである木 質バイオマスを利用することにより、大幅 に CO2 排出量を削減できるものと考えてい る。 経歴 2002 年 3 月 九州大学大学院工学府物質プ ロセス工学専攻修士課程修了 2009 年 3 月 九州大学大学院工学府物質プ ロセス工学専攻博士後期課程修了 2009 年 4 月 名古屋大学エコトピア科学研 究所助教 所属学会 日本鉄鋼協会、化学工学会、日本エネルギ ー学会、日本機械学会 主要論文・著書 (1)“木質バイオマスの CO2 および H2O との 反応特性”, 成瀬一郎, 植木保昭, 伊佐山勉, 榛葉貴紀, Joseph H.Kihedu, 義家亮, 鉄と 鋼, Vol.96, No.4, pp.10-15, 2010 (2)“炭材内装塊成鉱の反応挙動に及ぼす鉄 鉱石および石炭性状の影響”, 植木保昭, 大 菅宏児, 大野光一郎, 前田敬之, 西岡浩樹, 清 水 正 賢 , 鉄 と 鋼 , Vol.95, No.6, pp.453-459, 2009 (3)“Wicke-Kallenbach 法を用いた炭材内装 熱間成型ブリケットの CO-CO2 混合ガスの 有効拡散係数の測定”, 植木保昭, 新田和明, 大野光一郎, 前田敬之, 西岡浩樹, 清水正 賢, 鉄と鋼, Vol.95, No.1, pp.17-21, 2009 (4)“Reaction behavior during heating waste plastic materials and iron oxide composites”, Yasuaki Ueki, Ryutaro Mii, Ko-ichiro Ohno, Takayuki Maeda, Koki Nishioka and Masakata Shimizu, ISIJ International, Vol.48, No.12, pp.1670-1675, 2008 (5)“炭材内装熱間成型ブリケットのガス化 反応に及ぼす雰囲気ガスと温度の影響”, 植 木保昭, 金山正男, 前田敬之, 西岡浩樹, 清 水正賢, 鉄と鋼, Vol.93, No.1, pp.18-22, 2007 ●エネルギー科学研究部門 プラズマ表面相互作用における粒子制御と熱流入解析 くわばらたつや 助教 桒原竜弥 kuwabara @ees.nagoya-u.ac.jp 主な研究と特徴 定常熱核融合炉においてダイバータ板へ 流入するプラズマ熱流束を減少させること が重要な課題となっている。1991 年に EU の大型トカマク装置 JET において世界初の 重水素と三重水素を用いた核融合実験が行 われたが、ダイバータ板からの大量の炭素 不純物が発生して炉心プラズマへ混入し、 放射損失によるプラズマ温度の低下及び中 性子発生率の低下が起きたことが報告され ている。炉心プラズマから磁力線を横切る 拡散によりセパラトリクスを乗り越えてス クレイプオフ層に流出した高熱流プラズマ は主に磁力線に沿って輸送され、磁力線に 鎖交するダイバータ板に流入するため、高 熱流プラズマ粒子束によるダイバータ板の 損耗によって炭素不純物が発生したと考え られる。 固体壁へ流入するプラズマ熱流束は、プ ラズマと固体壁間に生成されるシースと呼 ばれる遷移領域によって規定される。また、 固体表面からの放出電子が多いと、空間電 荷制限状態のシースが形成される。放出電 子が増えるとシースの浮遊電位は小さくな る傾向にあるため、固体表面へ流入する熱 流束は増大する。プラズマ対抗壁へのプラ ズマ熱流入を正確に表現するためには固体 表面からの放出電子電流、特に空間電荷制 限状態における放出電子電流を調べること が重要である。 トカマク放電ではダイバータ板に高温輝 点(Hot Spot)と呼ばれる局所的にダイバー タ板温度が高くなっている領域が観測され ている。高温輝点は単極アーク放電と類似 する点が多く、高温輝点がダイバータ板上 に形成されるとダイバータ板材料が浸食さ れ、不純物を発生させる。高温輝点は固体 表面からの熱電子放出によってシース電圧 が減少し、熱流束が増大して更に固体表面 温度が上昇するという局所的熱暴走が起き るためと考えられており、熱流集中現象の 解明が重要である。 定常熱核融合炉におけるダイバータの役 割として粒子排出が挙げられる。重水素- 三重水素核融合反応によって生成されるヘ リウム粒子は 3.5MeV という高いエネルギ ーをもっており、プラズマにエネルギーを 与えることで核融合燃焼が維持される。し かし、エネルギーを失ったヘリウム粒子は 燃えかすであるところからヘリウム灰と呼 ばれ、炉心プラズマ中の燃料イオン密度を 希釈させ、核融合出力を低下させる等の悪 影響を及ぼす。そのために炉心外へのヘリ ウム灰の積極的な排出が重要である。更に 燃料粒子である三重水素は放射性物質であ り、なるべく炉外に出さずに炉内にとどま らせることが望ましく、選択的にヘリウム 灰を排出することも重要である。 著者はこれまでにプラズマ表面相互作用 における粒子制御と熱流入解析を目的とし、 (1)仮想陰極の効果を含んだ任意のシース電 圧に対する空間電荷制限電流密度の表式の 導出、(2)プラズマ中に磁場を横切る電位の 分布を考慮することによる導体終端板での 熱流集中現象の解明、(3)粒子反射を利用し た選択的なヘリウム灰排出法の提案とプラ ズマと固体とを総合的に取り扱った粒子コ ードの開発について行った。 今後の展望 ・中性ガスによる非接触ダイバータプラズ マ(Detached Plasma)の不安定性の解明 ・ELM に代表されるパルス状の高熱流プラ ズマ粒子束によるダイバータプラズマ及 びダイバータ板への熱負荷の動的挙動の 研究 ・核融合炉のダイバータ板として最有力視 されているタングステン材における重水 素吸蔵及び放出特性に関する研究 経歴 1995 年 名古屋大学大学院工学研究科 エネルギー理工学専攻博士課程進学 日本学術振興会特別研究員(DC1) 1998 年 名古屋大学大学院工学研究科 エネルギー理工学専攻博士課程満了退学 名古屋大学大学院工学研究科 エネルギー理工学専攻研究生 1999 年 帝人製機株式会社 (現:ナブテスコ株式会社)入社 2001 年 名古屋大学大学院工学研究科 エネルギー理工学専攻 博士(工学) 学位取得 2012 年 ナブテスコ株式会社 退職 2013 年 名古屋大学エコトピア科学研究所 エネルギー科学研究部門・助教 現在に至る 所属学会 電気学会 プラズマ・核融合学会 主要論文・著書 (1) 桑原竜弥, 大野哲靖, 高村秀一, 叶民 友 : “プラズマと接する固体表面から の空間電荷制限電流” プラズマ・核融合 学会誌 77(5), pp.464-475 (2001) (2) T. Kuwabara, K. Kudose, M. Y. Ye, N. Ohno, S. Takamura “Enhancement of Plasma Heat Flow to the Conductive Divertor Plate Associated with Cross-Field Potential Variation and Thermoelectron Emission” Conrib. Plasma Phys. 38, pp.349-354 (1998) (3) T. Kuwabara, M. Kojima, N. Ohno, Y. Uesugi, S. Takamura, Y. Yamamura “Monte Carlo Simulation on Active Helium-Ash Exhaust by Divertor Biasing” J. Nucl. Mater. 220-222, pp.1001-1004 (1995) ●エネルギー科学研究部門 エネルギー・医療分野における分光計測分析 もりた しげあき 助教 森田成昭 主な研究と特徴 エネルギー変換システムを高効率に稼働 させるための制御技術や,患者に苦痛を与 えない低・非侵襲医療において,光を用い た計測分析は様々な応用が期待できる.ま た,これまで基礎研究に用いられてきた分 子分光の手法は,エネルギー・医療分野に おける材料物性の応用研究に展開が可能と なってきた.しかし,システム制御,医療 診断,機能性材料分析などによって得られ る分光データは複雑な情報が重畳しており, コンピューターを用いた解析が必要不可欠 となっている.そこで,エネルギー・医療 分野においてブレーク・スルーが求められ ている諸問題に対し,分光計測分析とコン ピューター解析の視点からアプローチする ことで,以下のような,エコトピア科学研 究所がめざす問題解決型の戦略的研究所を 展開している. (1) 固体高分子形燃料電池の近赤外レーザ ー計測: 固体高分子形燃料電池の実用化に おいて未解決となっている水分計測技術に 対し,近赤外レーザーと近赤外検出器を用 いた独自の水分分布計測システムを開発し ている.これを用いて,燃料電池運転中に おける水分分布を観察することに成功した. (2) 高分子電解質膜の赤外イメージング計 測: 固体高分子形燃料電池に用いられてい る電解質膜中における水分拡散を観察する ために,赤外光源と赤外カメラを用いた二 次元赤外イメージングシステムを開発して いる.これを用いて,高分子電解質膜に用 いられているナフィオン中に水が拡散する 様子を撮影し,コンピューターによって得 られた画像を解析することに成功した. (3) 固体高分子形燃料電池の顕微ラマン計 測: 固体高分子形燃料電池を in situ 計測で きる顕微ラマン分光システムを開発し,計 測を行っている.これにより,数マイクロ メートル程度の空間分解能において,電解 質膜の膜厚方向における分子情報を得るこ とに成功した. (4) モデル触媒層の赤外分光計測: 固体高 分子形燃料電池の白金触媒層における化学 プロセスを理解するために,モデル触媒層 を赤外分光するための独自のシステムを開 発している.これを用いて,白金触媒層に おける一酸化炭素被毒の計測に成功した. (5) バイオマテリアルの物性研究: PMEA, PHEMA,PNIPA,PEG など,生体適合性に 図.燃料電池の模式図と電解質膜内の 水の近赤外スペクトル. 優れた医療材料の含水過程を,独自の in-situ ATR-IR 法により測定している.これにより, 生体適合性に関与する高分子鎖の水和構造 が解明されつつある. (6) バイオポリマーの物性研究: 結晶構造 の異なるセルロースを精製し,それぞれの 温度依存赤外スペクトルを測定している. これにより,水素結合に起因する結晶構造 の違いが明らかになってきた. (7) 生分解性高分子の物性研究: 生分解性 を有する PHA 類の熱重量-赤外スペクトル の測定を試みている.これにより,熱分解 に伴う構造変化がわかってきた. (8) 医薬品製剤の物性研究: 結晶多形を有 する医薬品製剤に対し,含水過程を分光計 測している.これによりその徐放メカニズ ムが解明されつつある. (9) 新しいスペクトルデータ解析法の開発: 上述のようにして得られた温度依存スペク トルや時間分解スペクトルを解析するため のツールを新たに開発し,有用な情報の抽 出を行っている. 今後の展望 これまでに取り組んできた上記テーマだ けでなく,燃焼火炎や水熱反応プロセスな ど,新たな研究課題にも挑戦していきたい. 経歴 1996 東京農工大学工学部卒業,1998 東京 農工大学大学院生物システム応用科学研究 科博士前期課程修了,2001 同博士後期課程 修了,2001 博士(学術),2001 科学技術振興 事業団(北海道大学触媒化学研究センター 研究員),2003 関西学院大学理工学研究科 博士研究員,2007 名古屋大学エコトピア科 学研究所助教 所属学会 日本分析化学会,日本分光学会,高分子学 会,日本化学会,近赤外研究会,Society for Applied Spectroscopy 主要論文・著書 (1) Shigeaki Morita, Hideyuki Shinzawa, Roumiana Tsenkova, Isao Noda, Yukihiro Ozaki, Computational Simulations and a Practical Application of Moving-Window Two-Dimensional Correlation Spectroscopy, Journal of Molecular Structure, 799, 111-120, (2006). (2) Shigeaki Morita, Hideyuki Shinzawa, Isao Noda, Yukihiro Ozaki, Perturbation-Correlation Moving-Window Two-Dimensional Correlation Spectroscopy, Applied Spectroscopy, 60, 398-406, (2006). (3) Shigeaki Morita, Masaru Tanaka, Yukihiro Ozaki, Time-Resolved In Situ ATR-IR Observations of the Process of Sorption of Water into a Poly(2-methoxyethyl acrylate) Film, Langmuir, 23, 3750-3761, (2007). (4) Shigeaki Morita, Masaru Tanaka, Isao Noda, Yukihiro Ozaki, Phase Angle Description of Perturbation Correlation Analysis and Its Application to Time-Resolved Infrared Spectra, Applied Spectroscopy, 61, 867-872, (2007). (5) Shigeaki Morita, Eiji Hattori, Kuniyuki Kitagawa, Two-Dimensional Imaging of Water Vapor by Near-Infrared Laser Absorption Spectroscopy, Applied Spectroscopy, 62, 1216-1220, (2008). (6) Shigeaki Morita, Kuniyuki Kitagawa, Yukihiro Ozaki, Hydrogen-Bond Structures in Poly(2-hydroxyethyl methacrylate): Infrared Spectroscopy and Quantum Chemical Calculations with Model Compounds, Vibrational Spectroscopy, 51, 28-33, (2009). (7) 尾崎幸洋,森田成昭,近赤外分光法に よる非侵襲血糖値測定と多変量解析,光学, 33,404-406,(2004). (8) 森田成昭,尾崎幸洋,赤外分光,生命 科学のための機器分析実験ハンドブック, 羊土社,52-56,(2007). http://www.ran.nagoya-u.ac.jp/morita/ 基幹研究部門 環境システムリサイクル科学研究部門 ●環境システム・リサイクル研究部門 新規ナノカーボン構造の創製と環境応用展開 くすのき 教授 楠 み ち こ 美智子 [email protected] 主な研究と特徴 深刻化する環境問題に対処するため、環 境に優しく、エネルギー的に効率的な材料 開発が切望される。また、その材料の特性 を最大限に引き出すためには原子レベルで の構造を解明し、生成メカニズムを明らか にすることが不可欠である。そこで、財団 法人ファインセラミックスセンターに在任 中から(H19 年4月から名古屋大学エコト ピア科学研究所に在籍)、主に透過型電子 顕微鏡(TEM)を用い、高分解能観察、電 子線回折法による結晶構造解析に基づき、 セラミックス、カーボン材料などの材料開 発研究を進めてきた。特に、TEM 中にて高 温動的観察法の開発により、アルミナ、ジ ルコニア、炭化ケイ素などの高温挙動を直 接観察することにより、ナノスケール・ラ ボの観点から、新たな機能・構造の発見に 成功している。 以上の研究成果の中で、近年では、SiC 表面分解過程におけるカーボンナノチュー ブの形成の現象に焦点をしぼり、その構造 的特徴、生成メカニズム、さらに製品化に むけた応用の模索を続けている。この SiC 表面分解法とは、減圧下、SiC の加熱分解 により、表面から Si 原子が選択的に SiO ガ スとして除去され、残されたカーボンが表 面上にカーボンナノチューブ層を形成する 現象である。この手法によって形成された カーボンナノチューブは、他の合成方法に 比べ高配向・高密度・高密着性に優れるた め、これらの特徴を最大限に生かした応用 が期待される。特に、SiC は、次世代半導 体と目され、単結晶成長の研究が盛んであ り、また、多結晶 CVD 基板、ウィスカー、 また、安価には焼結体、研磨・研削用粉末 など様々な形態の原料が容易に入手できる。 これらを用途別に使い分けることで、様々 な形態のカーボンナノチューブ材料の合成 が可能となる。具体的応用先としては、現 在、カーボンナノチューブの高い熱伝導性 を生かした、放熱応用、カーボンナノチュ ーブ粉末の塗料化、分散・塗布によるプラ スチックの開発を進めている。これらの開 発は、自動車の軽量化、延いては CO2 削減 に貢献できると期待している。さらに SiC 研磨剤の大量の廃材の処理が問題化されて おり、これらを、リサイクル品としてカー ボンナノチューブ原料に充てることで、環 境・エネルギー効率を高めた、生産に結び 付ける可能性も確認されている。 今後の展望 以上で述べた SiC 表面分解法によるカー ボンナノチューブのよりエレガントな応用 を模索すると共に、炭化物由来のカーボン が形作るグラフェンをはじめとする様々な 構造を求め、TEM を用いた基礎研究を推進 してゆきたい。 経歴 1975 年 東京工業大学卒業、’80 年同大 工学博士、東京工業大学 工学部助手、’83 年 新技術事業団 林超微粒子プロジェク ト、’88 年 新技術事業団 黒田固体表面プ ロジェクト 研究員,’91 年(財)ファイン セラミックスセンター着任、グループマ ネージャー・主席研究員、2007 年名古屋 大学エコトピア科学研究所 教授、現在 に至る。 所属学会 日本金属学会、日本顕微鏡学会、日本セラ ミックス協会、表面科学学会、日本応用物 理学会、フラーレン・ナノチューブ学会 主要論文・著書 (1) M. Kusunoki, T. Suzuki, C. Honjo, H. Usami and H. Koto, J. Phys. D: Appl. Phys., 40, 6278 (2007). (2) K.Miyake, M.Kusunoki, H.Usami , N.Umehara, and S.Sasaki,Nano Lett, 7, 11, 3285 (2007). (3) S. Irle, Z. Wang, G. Zheng, K. Morokuma, and M. Kusunoki, J Chem. Phys., 125, 1 (2006). (4) K. Yamamoto,_T. Hirayama, M. Kusunoki, S. Yang, S. Motojima, Ultramicroscopy 106, 314 (2006). (5) T. Maruyama, H. Bang, Y. Kawamura, N. Fujita, K. Tanioka, T. Shiraiwa, Y. Hozumi, S. Naritsuka and M. Kusunoki, Chem. Phys. Lett., 423, 317 (2006). (6) Y. Sun and Tatsuro Miyasato, K. Kirimoto and M. Kusunoki, Appl. Phys. Lett., 86, 223108-1 (2005). (7) M. Kusunoki, C. Honjo, T. Suzuki and T. Hirayama, Appl. Phys. Lett, 87, 103105-1 (2005). (8). M. Kusunoki, T. Suzuki, C. Honjo, T. Hirayama and N. Shibata, Chem. Phys. Lett., 366, 458 (2002). (9) M. Kusunoki, T. Suzuki, T. Hirayama and N. Shibata, 77, 531 (2000). (10) M. Kusunoki, T. Suzuki, K. Kaneko and M. Ito, Phil. Mag. Lett., 79, 153 (1999). (11) M. Kusunoki, M. Rokkaku and T. Suzuki, Appl. Phys. Lett., 71, 2620 (1997). (12) 楠 美智子、 “カーボンナノチューブ配向膜の 作製”、カーボンナノチューブーナノデバイスへの 挑戦 (2000) 田中一義編 化学同人 (一部執 筆). (13) 楠 美智子、“カーボンナノチューブ~進む材 料開発と今後の用途展開”、情報機構発行 (2002) (一部執筆). (14) 楠 美智子 “図解 ナノテク活用技術のす べて”、河合知二 工業調査会刊(2002).(一部執筆) (15) 楠 美智子、ナノカーボンハンドブック、遠 藤守信・飯島澄男監修、エヌ・ティー・エス、 (2007). (一部執筆). ●環境システム・リサイクル科学研究部門 低環境負荷プロセス技術とリサイクルシステムの開発 いちの 教授 市野 りょういち 良一 [email protected] 主な研究と特徴 (1) 物質のリサイクルと無害化・安定化 資源の枯渇が懸念されている金属材料の リサイクルが広く推し進められている中, 資源国ではない我が国においては,戦略物 質として輸出規制が懸念されるため,レア メタルはもちろんのことリンやホウ素など の非金属元素のリサイクルも積極的に行う 必要がある.特に,リサイクルが必要とな るプロセスは,例えば多量に排出されるめ っき廃液からのリンやホウ素の回収である. 現在,シュベルトマナイトなどの構造に特 徴のある鉱物をメディエーターとして用い ることにより,めっき廃液からのリン酸の 分離を行っており,さらなる分離・回収効率 の向上に向けて研究である. このような,有価物質を資源とする「物 質回収・利用プロセス」における対象は, 主に,電炉ダストやスラッジ,めっき廃液 などの粉型あるいは液型の産業廃棄物を考 えており,主にソフト水溶液プロセスによ る回収と無害化・安定化を行っている. (2) 代替処理と新機能発現 自然環境負荷低減のための六価クロム, 鉛の代替技術,さらには枯渇が懸念させる 物質の代替技術や,金属アレルギーなどの ヒト環境負荷低減材料など,「使用環境対 応型材料の創製技術」の開発を行っている. クロメート処理は,耐食性の他にも自己修 復機能を有するため,その高機能性ゆえに 使用が続けられているが,分野によっては 使用を低減・禁止となりつつある.さらに, 軸受けなどの高摺動性表面処理としての鉛 合金がや,高硬度表面処理としての六価ク ロムを用いたクロムめっきが一部用いられ ている.このような高機能ではあるが環境 負荷の高い物質の使用をなくし,同程度以 上の機能を有する低環境負荷物質への転換 が必要である.その一つとして,有機/無 機複合界面構造制御なる新しいコンセプト に基づく耐食性の付与法について検討し, その新規性と性能を確立しつつある.現在, Mg の陽極酸化や導電性高分子膜,自己組織 化単分子膜など皮膜界面を制御することに より耐食性のみならず,密着性・自己修復 機能を有する皮膜形成技術開発を行ってお り,今後の完全クロムフリー処理を目指し ている. クロムや鉛などの元素の代替処理の開発 は,プロセス自体も環境負荷が低減され, 廃棄物となった場合にもリサイクルが容易 となる利点がある.さらに,表面の高機能 化は,薄膜化,組織制御に伴う新機能の発 現の可能性も期待できる特徴を有する. 今後の展望 自然環境への配慮は使用材料のみならず 製造プロセスの低環境負荷化が行われてお り,さらに,原材料を輸入に頼るわが国に おいては廃棄物からのリサイクルによる資 源の確保は必然なものとなっております. 現在の複雑化した廃棄物からの資源の回収 は,その分離技術もより複雑化しておりま す.環境負荷低減のみならずリサイクル性 へも配慮した材料創製とプロセス技術を検 討していきたいと考えている. 経歴 1985 名古屋大学工学部金属学科卒業, 1987 同大学大学院工学研究科博士課程前 期課程修了,1990 同大学大学院工学研究 科博士課程後期課程満了,1990 名古屋大 学工学部助手,1993 工学博士,1997 同 講師,2005 同助教授,2008 エコトピア 科学研究所 教授 所属学会 資源・素材学会,表面技術協会,日本金属 学会,軽金属学会,電気化学会,日本熱処 理技術協会 主要論文・著書 (1) Influence of Calcium Hydroxide and Anodic Temperature on Corrosion Property of Anodizing Coatings Formed on AZ31 Mg Alloy, Surface Engineering,24, 242-245, 2008 (2) Evaluation of Selective Separation of Phosphorous Components from plating Baths using Schwertmannite, ISIJ Inter., 45, 685-689, 2008 (3) Pb フリー銅合金の耐食性, 表面技術, 59, 690-695, 2008 (4) Formation of Titania / Hydroxyapatite Composite Films by Pulse Electrolysis,Mater. Trans., 48, 322-327, 2007 (5) A new method for preparing hydrophobic nano-copper powders, J. Mater. Sci., 42, 7638-7642, 2007 (6) Electrodeposition and Thermoelectric Characterization of Bi2Te3, J. Electrochem. Soc., 153, C213-C217, 2006 (7) Effect of Ammonia on the Crystal Morphology of Nickel Oxalate Precipitates and their Thermal Decomposition into Metallic Nickel, Mater. Trans., 46(2), 171-174, 2005 (8) シュウ酸塩熱分解プロセスによる針状 ニ ッ ケ ル 粉 の 合 成 , 資 源 と 素 材 , 121(6), 255-259, 2005 (9) イオン性液体からの Zn-Te, Bi-Te 系化合 物膜の合成,溶融塩および高温化学, 47, 79-84, 2004 (10) Characterization of Silica Conversion Film Formed on Zinc-Electroplated Steel , Mater. Trans., 44, 782-786, 2003 ●融合プロジェクト研究部門 土壌・地下水の環境を浄化・修復・保全する微生物生態工学 かたやまあらた 教授 片山新太(副所長) [email protected] 主な研究と特徴 地圏は,人間の居住空間であるとともに, 食糧生産や工業生産の場であり,さらに地 下水涵養や元素循環の働きを持つ自然生態 系でもあって,人類生存の基盤となってい る.しかし工場跡の土地を中心として,種々 の汚染化学物質(油,有機塩素系化合物, ポリ塩化ビフェニル,ダイオキシン類,農 薬,重金属等)による汚染が深刻になって いる.また農耕地でも,生物系未利用資源 (汚泥や畜産ふん尿)の過剰投入による地 下水汚染や,埋設農薬の問題が起きている. そこで,地圏環境に生息する微生物を用い た土壌・地下水環境の浄化・修復・保全技 術の研究を行っている. 1. 難分解性化学物質の嫌気的微生物分解 芳香族塩素系化合物等によって土壌地下 水や底質などの酸素の無い嫌気性条件下に おける汚染が多く発見されている.これに 対し,嫌気性微生物を用いた原位置浄化技 術(嫌気的原位置バイオレメディエーショ ン)が,安価で有効な方法として期待され ている.しかし,これまで嫌気条件下での 芳香族化合物の分解微生物は,まだ未解明 の点が多く,技術として開発されるに至っ ていない.そこで,難分解性化学物質とし てクロロフェノール類,アルキルフェノー ル類,ポリ塩化ビフェニル等を対象として, その還元的脱塩素反応および嫌気酸化分解 反応を行う微生物群を野外から集積・獲得 し,硫酸イオン,鉄(III)酸化物などの電 子受容体存在下での分解活性の強化と維持 方法,集積微生物群の長期維持方法,野外 利用するために必要な固定化方法に関する 研究を行っている. 2. 土壌地下水における科学的自然減衰お よび促進減衰プロセス 土壌地下水における原位置バイオレメデ ィエーションは,安価且つ省エネルギーで あるが,浄化に時間を要する.この特徴を 活かし,汚染源処理をした後に長期間残る 地下水の低濃度汚染に対して,微生物浄化 が用いられるようになった.これは,対象 地下水に生息する微生物の浄化力を利用し て最終段階浄化を行う技術であり,科学的 自然減衰と呼ばれる.そこでは,地下水中 の汚染物質の輸送と拡散,および生分解速 度の予測が,安全性確保のために必要不可 欠となっている.減衰プロセスに十分な浄 化速度が得られない場合は,促進減衰も行 われる.そこで,科学的自然減衰の適用場 所で,モニタリング,原位置での微生物の 生態,浄化能力の評価,数理モデル解析等 を行って,科学的自然減衰および促進減衰 の事例研究を進めている. 3. 環境微生物群の解析と制御技術 野外の微生物群集は,微生物群の量,構 造,活性によって,その特性を評価すべき である.好気性微生物群では,呼吸鎖キノ ン解析法が,嫌気性微生物群の場合は, 16S-rRNA 遺伝子解析を組合せた解析が重 要であることを明らかにしてきた.微生物 は,単一の微生物よりも微生物群を用いた 方が高い機能を発揮する場面が多いことか ら,微生物群の利用技術の開発が期待され ている.そこで,微生物群の群集制御に関 する基礎的研究を行っている.また,微生 物群集の構造遷移,地下水による輸送など 現象に着目し,重要パラメータを整理した 数理モデルの構築研究を行っている. 4. 生物系未利用資源の有効利用 農畜産業で大量に生成する家畜ふん尿や 下水汚泥の有効利用によって,低炭素社会 の実現をはかることが必要とされている. 家畜ふん尿は農耕地還元を目的としたコン ポストが多いが,もともとふん尿に含まれ る有害物質の運命については殆ど調べられ ていない.そこで,有効利用のための各種 反応プロセスの解析を行うとともに,各種 有効利用技術の適用時における有害物質の 運命を明らかにする研究を行っている. 5. 土壌地下水等の環境浄化技術のリスク 経済評価およびリスクエネルギー評価 土壌地下水の浄化技術をはじめ,各種の 環境浄化・保全技術のリスク低減化効果と 経済性・省エネルギー性から技術を評価す る指標,レスキューナンバー,に関する研 究を進め,各種の環境浄化・保全技術の特 徴と利用法を明快にし,リスクコミュニケ ーションに役立てることを目指している. 今後の展望 環境汚染の浄化に対しても脱石油・省エ ネルギー型技術が求められるようになった が,微生物を用いた浄化修復技術は,その 目的に良く合う技術である.環境中での微 生物利用に必要な多様な微生物の制御技術 は,まだまだこれからの学問である.今後 は,これまで研究の進んでいない嫌気性微 生物群の解析と環境中での複合微生物群の 制御技術の研究によって,様々な場面で微 生物を用いた土壌地下水修復技術の開発へ と結びつけるとともに,浄化容量を高めた 生態系の設計への道が期待される. 経歴 1980 年広島大学理学部化学科卒業,1986 年東京工業大学大学院総合理工学研究科化 学環境工学専攻修了,同年名古屋大学農学 部助手,1988 年カリフォルニア大学デービ ス校博士研究員,1993 年名古屋大学農学部 助教授,2000 年同大学難処理人工物研究セ ンター教授,2006 年同大学エコトピア科学 研究所教授,現在に至る. 所属学会 日本微生物生態学会,環境科学会,日本農 薬学会,土木学会,日本水環境学会,日本 農芸化学会,地盤工学会,日本土壌肥料学 会,国際微生物生態学会,国際純正応用化 学連合,アメリカ化学会,アメリカ微生物 学会,国際環境毒物学会(SETAC) 主要論文・著書 1) Yang S, Shibata A, Yoshida N, Katayama A. (In printing) Anaerobic mineralization of pentachlorophenol (PCP) by combining PCP-dechlorinating and phenol-degrading cultures, Biotechnol. Bioeng. 2) Shibata A, Katayama A (2007) Anaerobic co-metabolic oxidation of 4-alkylphenols with medium-length or long alkyl chains by Thauera sp., strain R5, Appl. Microbiol. Biotechnol. 75, 1151-1161. 3) Baba D, Katayama A. (2007) Enhanced anaerobic biodegradation of polychlorinated biphenyls in burnt soil culture, J. Biosci. Bioeng., 104, 62-68. 4) Yoshida N, Asahi K, Sakakibara Y, Miyake K, Katayama K, (2007) Isolation and Quantitative detection of tetrachloroethylene (PCE)-dechlorinating bacteria in unsaturated subsurface soil contaminated with chloroethenes, J. Biosci. Bioeng. 104, 91-97. 5) Tang JC, Maie N, Tada Y, Katayama A, (2006) Characterization of maturing process of cattle manure compost, Process Biochem., 41, 380-389 6) Song DJ, Katayama A (2005) Monitoring microbial community in a subsurface soil contaminated with hydrocarbons by quinone profile, Chemosphere, 59, 305-314 7) Inoue Y, Katayama A. (2004) Application of the Rescue Number to the evaluation of remediation technologies for contaminated ground, J. Material Cycles Waste Manag., 6: 48-57 8) 片山新太(2005)有機物連用土壌におけ る物質収支と微生物の動態、農山漁村文化 協会編「環境保全型農学大事典1施肥と土 壌管理」256-268 全827pp 9) 上路雅子,片山新太,中村幸二,星野敏 明,山本広基編 (2004)「農薬の環境科学最 前線-環境への影響評価とリスクコミュニ ケーション-」ソフトサイエンス社 pp.349 10) 片山新太(2000)土壌微生物による農 薬分解-生物有効性と微生物活性-,「植物と 微生物による環境浄化」南澤究,藤田耕之 輔,岡崎正規編,博友社,125-153, ●環境システム・リサイクル化学研究部門 汚染物質の高効率な除去のための新規環境材料の創成 さわだ 准教授 かよ 澤田佳代 [email protected] 主な研究と特徴 20 世紀後半から、有害なダイオキシン類 をはじめとする有機塩素化合物やクロロホ ルムなどの揮発性有機化合物(VOC)の生 活環境への悪影響が問題視されています。 今世紀においても、科学技術の発展にとも ない、予期しないさらなる有害物質の生成 やその生活環境への拡散の危険性に人類は 瀕しているといえます。この生活環境に拡 散した汚染物質から人類を守るためには、 汚染物質の除去技術が必要となります。ま た、この種の汚染物質は、大気や水中に希 薄な状態で存在するため、一括して除去を 行うことが困難な場合が多く、吸着などの 濃縮技術と化学反応による分解技術の組み 合わせで処理を行う必要があります。この ため、本研究では、汚染物質の吸着剤とし て有用な材料を担体として、その汚染物質 の分解反応に寄与する触媒を担持すること で、汚染物質の高効率な分解のための新規 の材料の創成を図ることを目的とします。 現在、低レベル放射性廃棄物の安全な減 容化のため、酸化ウラン触媒と副生成物吸 着剤を同時に用いた新たな熱処理プロセス の開発研究を行っています。本プロセスで は、ポリ塩化ビニルやグローブ等を含む可 燃性・難燃性廃棄物を一括低温熱処理し、 発生する気体中の有害な有機系ガスおよび 低沸点金属を酸化ウラン触媒とカルシウム 吸着剤によって低温分解・除去することを 目指します。酸化ウラン触媒とカルシウム 吸着剤は、シュウ酸を用いて再生し、繰り 返し利用します。本法を実現することで、 被爆の可能性がある分別作業や、二次廃棄 物の発生を低減することが可能となると考 えます。 今後の展望 材料の創成においても資源やエネルギー を大量に投入するやり方では、環境浄化は 可能となろうとも、エコトピアの実現には つながりません。人間社会トータルで資源 やエネルギー投入量を最小化できる新規環 境材料の創成を目指したいと思います。 経歴 1998 名古屋大学工学部分子化学工学科卒 業,2000 名古屋大学大学院工学研究科エ ネルギー理工学専攻博士前期課程修了, 2003 名古屋大学大学院工学研究科エネル ギー理工学専攻博士後期課程修了,博士(工 学),2003 名古屋大学環境量子リサイク ル科学研究センター非常勤研究員,2003 名古屋大学大学院工学研究科マテリアル理 工学専攻助手,2007 名古屋大学エコトピ ア科学研究所准教授 所属学会 化学工学会,廃棄物学会,日本原子力学会, アメリカ原子力学会 主要論文・著書 (1) K. Sawada, Y. Enokida, M. Kamiya, T. Koyama, K. Aoki, “Distribution Coefficients of U(VI), Nitric Acid and FP Elements in Extractions from Concentrated Aqueous Solutions of Nitrates by 30% Tri-n-butylphosphate Solution,” Journal of Nuclear Science and Technology, in press. (2) K. Sawada, D. Hirabayashi, Y. Enokida, “Conversion of uranium oxide into nitrate with nitrogen dioxide, ” Journal of Power and Energy Systems, 2(2), 557-560, 2008. (3) J. Galy, K. Sawada, B. Fournel, P. Lacroix-Desmazes, S. Lagerge, M. Persin, “ Decontamination of solid substrates using supercritical carbon dioxide-Application with trade hydrocarbonated surfactants, ” The Journal of Supercritical Fluids, 42, 69-79, 2007. (4) K. Uruga, K. Sawada, Y. Arita, Y. Enokida, I. Yamamoto, “ Removal of platinum group metals contained in molten glass using copper,” Journal of Nuclear Science and Technology, 44(7), 1024-1031, 2007. (5) T. Shimada, S. Ogumo, N. Ishihara, K. Sawada, Y. Enokida, I. Yamamoto, “A study of s tripping of uranium extracted in supercritical fluid toward aqueous nitric acid,” Trans. At. Energy Soc. Japan, Vol. 6, No. 3, 333-342 (2007). (6) K. Sawada, Y. Enokida, I. Yamamoto, “Extractability of metals in municipal solid wastes fly ash using supercritical CO2 containinf Cyanex307,” Analytical Sciences, Vol. 22, 1465-1467 (2006). (7) K. Sawada, O. Tomioka, T. Shimada, Y. Mori, Y. Enokida, I. Yamamoto, “Densities of supercritical fluids and containing CO2 tri-n-butylphosphate,” Journal of Nuclear Science and Technology, Vol. 43, No. 1, 98-102 (2006). (8) R. Shimizu, K. Sawada, Y. Enokida, I. Yamamoto, “Decontamination of radioactive contaminants from iron pipes using reactive microemulsion of organic acid in supercritical carbon dioxide,” Journal of Nuclear Science and Technology, Vol. 43, No.6, 694-698 (2006). (9) R. Shimizu, K. Sawada, Y. Enokida, I. Yamamoto, “Generation of nitrous acid by ultrasound irradiation in the organic solution consisting of tri-n-butylphosphate, nitric acid and water,” Journal of Nuclear Science and Technology, Vol. 42, No. 11, 979-983 (2005). (10) K. Sawada, D. Kuchar, H. Matsuda, M. Mizutani, “Heavy metal sulfuration with sulfur and sodium hydroxide for fly ash immobilization,” Journal of Chemical Engineering of Japan, Vol. 38, No. 5, 385-389 (2005). (11) K. Sawada, K. Uruga, T. Koyama, T. Shimada, Y. Mori, Y. Enokida and I. Yamamoto, “Stoichiometric Relation for Extraction of Uranium from UO2 Powder using TBP Complex with HNO3 and H2O in Supercritical CO2, Journal of Nuclear Science and Technology, Vol. 42, No. 3, 301-304 (2005). (12) T. Fukuta, T. Ito, K. Sawada, Y. Kojima, E.C. Bernardo, H. Matsuda and K. Yagishita, “Separation of Nickel from Plating Solution by Sulfuration Treatment,” Asean Journal of Chemical Engineering, Vol. 4, No. 2, pp. 24 -31 (2004). ●環境システム・リサイクル科学研究部門 電子構造制御による環境調和型機能性電子材料の開発 たけうち つねひろ 准教授 竹内 恒博 [email protected] 主な研究と特徴 電子構造の詳細解析を研究手法として, 環境に負荷を与えず,かつ,低炭素社会の 実現に寄与する機能性材料の創製を目的と した研究を行っている.精密結晶構造解析, 第一原理計算,高分解能光電子分光を主た る研究手法として,フェルミレベル近傍の 熱揺らぎ(数 kBT) 程度のエネルギー範囲 にある電子の状態を詳細に解析することで, 物性の支配因子を解明し,その制御指針を 構築している.この研究手法により,様々 な材料の特異な電子物性の起源を解明する ばかりでなく,得られた結果を機能材料の 開発に応用している.具体的には,熱電変 換材料,熱流制御材料,超伝導材料,低抵 抗微小領域配線材料,蓄冷材,磁性材料な どの機能性材料を創成する研究を行ってい る. 今後の展望 研究対象としている機能材料を幾つか列 挙したが,その中でも熱電材料に関しては, 上記に記した研究手法を用いて環境材料の 設計指針を構築し,新しい材料を創製する に至っている.この材料設計指針に基づき, より性能の高い熱電材料を開発し,それを 用いた熱電発電モジュール及び熱電冷却モ ジュールを試作し,実用化を目指す.その 他の機能性材料(熱流制御材料,超伝導材 料,低抵抗微小領域配線材料,蓄冷材,磁 性材料等)については,引き続き材料設計 指針を構築する為の基礎研究を推進する. 経歴 1996 年 3 月 名古屋大学大学院工学研究科 博士課程後期課程 修了 博士(工学)取得 1996 年 4 月∼1997 年 3 月 日本学術振興 会 特別研究員 PD 1996 年 5 月∼1997 年 2 月 アルゴンヌ国 立研究所およびイリノイ大学シカゴ校 客 員研究員 1997 年 4 月∼2002 年 10 月 名古屋大学大 学院工学研究科 結晶材料工学専攻 助手 2002 年 11 月∼2004 年 3 月 名 古 屋 大 学 難 処 理 人 工 物 研 究 セ ン タ ー 講師 2004 年 4 月∼名古屋大学 エコトピア科学 研究機構(現:エコトピア科学研究所) 講師 2007 年 4 月∼名古屋大学 エコトピア科学 研究所 准教授(在職中) 所属学会 日本物理学会,日本金属学会,日本放射光 学会,日本熱電学会,米国 MRS,DVXα 研究会,MRSJ 主要論文・著書 1. Bulk sensitive soft X-ray angle-resolved photoemission spectroscopy of Bi1.72Pb0.38Sr1.88CuO6+δ J. Phys. Soc. Jpn., 79 (6) (2010) 064711 (6 pages). T. Takeuchi, Y. Hamaya, H. Ikuta, T. Ohkochi, S. Fujimori, Y. Saitoh 2. Thermoelectric properties of Si2Ti-type Al-Mn-Si alloys Materials Transactions, 51(6) (2010) pp. 1127 -1135 . T. Takeuchi, Y. Toyama, A. Yamamoto, H. Hazama, R. Asahi 3. Electronic structure and thermoelectric properties of Al-Mn-Fe-Si alloys Journal of Electronic Materials, 39(9) (2010) pp. 1433-1438. T. Takeuchi, Y. Toyama, H. Hazama, R. Asahi 4. Role of temperature dependent chemical potential on thermoelectric power Materials Transactions, 51(3) (2010) pp. 421-427. T. Takeuchi, Y. Toyama, A. Yamamoto 5. Conditions of spectral conductivity to optimize thermoelectric properties for developing practical thermoelectric materials Materials Transactions, 50(10) (2009) pp. 2359-2365. T. Takeuchi 6. Large thermoelectric power of La2-xSrxCuO4 possessing two-dimensional electronic structure Journal of Electronic Materials, 38(7) (2009) pp. 1365-1370. H. Komoto, T. Takeuchi 7. Unusual increase of electron thermal conductivity caused by pseudogap at the Fermi level Journal of Electronic Materials, 38(7) (2009) pp. 1354-1359. T. Takeuchi 8. Competition between the pseudogap and superconductivity in cuprates Nature, 457 (2009) pp. 296-300. T. Kondo, R. Khasanov, T. Takeuchi, J. Schmalian, A. Kaminski 9. Thermal Conductivity of The Al-based Quasicrystals and Approximants Zeitschrift fuer Kristallographie, 224 (2009) pp. 35-38 T. Takeuchi 10. Zero-field super-fluid density in a d-wave superconductor evaluated from muon-spin-rotation experiments in the vortex state Physical Review B, 79(18) (2009) 180507R (4pages). R. Khasanov, T. Kondo, S. Strassle, D. O. G. Heron, A. Kaminski, H. Keller, S. L. Lee, T. Takeuchi ●環境システム・リサイクル科学研究部門 循環型社会形成のためのシステムモデルの構築 ひ 准教授 の れい 樋野 励 [email protected] 主な研究と特徴 システムとは複数の要素の相互作用によ って形成される.そのため,既存のシステ ムの構造を理解するためには,構成要素を 特定し,それらの要素がどのような規則に より結びつきを持っているかを明らかにし なくてはならない.システムに関する研究 が自然科学に対する研究と異なる点として, 構成要素とそれらの間の規則を,構築者が ある程度の自由度をもって,決めることが できることがあげられる. たとえば,社会システムは,生活必需品 を生み出す生産者とそれらを利用して生活 する消費者を要素としている.生産者と消 費者は還元すれば一個人であるため,正確 には,社会システムにとってのサブシステ ムとしての生産システムと,同じくサブシ ステムである消費システムに要素としての 個人が属しており,それらのサブシステム が社会システムを構成する要素として位置 付けられる.これらのサブシステムは,貨 幣を介してリソースを交換し,法令や道徳 などの社会規範が要素の振る舞いを規制し ている. システムの評価は時代や社会的な背景に より異なる.国内総生産を評価値にするこ ともあれば,資源循環量のためのエネルギ ー消費あるいは費用を評価値とすることも できる.いずれの場合も,これらの評価値 を,システムの基本要素である個人に適用 することはできず,個人が快適に生活を行 った結果,評価値が高くなるように,規則 を決めなくはならない. 社会システムのサブシステムである生産 システムのモデル化については,我々は, これまでにいくつかの研究を行っている. 生産システムのもっとも単純なモデル化は, スケジューリングと呼ばれる課題に見出す ことができる.スケジューリングでは,付 加価値を与える生産設備をシステム要素と して取り上げ,それらの生産設備に対して は,付加価値を与えるか否かの 2 値状態を 考える.システム要素間は,付加価値を与 える対象物の受け渡しによって規制を受け る.生産システムは,システム要素である 生産設備がどのような順番で対象物を処理 するかにより,様々な状態を取る.我々は, この単純なモデルを基に,実際のシステム の検討を行うことができるように様々な視 点から拡張している. 自律分散型生産システム システムを構成する要素は,一般に自ら の行動計画を単独で決定することはできな い.これは,システムを構成するシステム 要素は他のシステム要素との依存関係があ ることに起因し,システムを構成するシス テム要素を総合的に集中管理しなくてはな らない.我々は,システム全体の絶対的な 状態でなく,あるシステム要素が計画を変 更したときに生じるシステムの変動値なら ば,全体を管理することなく,システム要 素が単独で知り得る方法を考案している. この手法を利用することにより,分散環 境下において個々システム要素が自律的に 振る舞うことが可能になり,新しいシステ ムのあり方を提案している. 階層型生産システム スケジューリング問題は,使用する機械 とその機械を占有する時間を与えることに より,システムの評価値の最適化を行う. 通常,機械とはそれ以上分解することがで きないシステム要素として扱い,それらの システム要素から成るシステムも単独のも のとして扱われる.しかし,システムやシ ステム要素とは,相対的な関係を表したも のに過ぎず,視点を変えるとシステムはよ り上位のシステムの要素として,また要素 はより下位の要素のシステムとして認識す ることができる.我々が対象としている生 産システムは,図に示すような階層的な構 造を有していると考えられる.このような システム構造に対し,新たなスケジューリ ング問題を定義することにより,要素とシ ステムの依存関係を取り扱うための手法を 提案している.この手法により,複雑な構 造をもつ生産システムに対する理論的な計 画と評価を可能にしている. 今後の展望 循環型社会システムのモデル化 社会システムは,システム要素の種類およ びそのシステム要素間に科すべき規則とも に,生産システムに比べ圧倒的な複雑性を 有している.このような複雑なシステムに 関しては,システムを単純化することなく 複雑なまま取り扱うことが重要と考えてい る.しかし,このような複雑な構造をもつ 社会システムといえども,そのアプローチ は,システムを構成する要素の同定と,そ れらシステム要素間の規則の制定にあるこ とは変わりない.この考えに基づき,社会 システムを,資源循環の視点から評価し, より良いシステムと変貌させるために必要 となるシステムモデルの構築を目指す. 経歴 1988 神戸大学工学 部卒業,1990 神戸 大学機械工学専攻修 了,1990 株式会 社神戸製鋼所技術開 発本部,1995 神戸大 学工学部助手,2003 豊橋技術科学大学講師,2004 名古屋大学機 械理工学専攻講師,2008 エコトピア科学研 究所准教授 所属学会 日本機械学会,精密工学会,スケジューリ ング学会 主要論文・著書 (1)樋野励ら,ホロニック生産システム概念 の提案,日本機械学会論文集(C 編), vol.67, No.658, pp2063-2069, 2001 (2)ホロニック生産システム-人・機械・シ ステムが柔軟に「協調」する次世代のもの づくり-, 日本プラントメンテナンス協会, 4 章 7 章 分担執筆, 2004 (3)Rei Hino, et.al,Decentralized Job Shop Scheduling by Recursive Propagation Method, JSME International Journal, Vol.45, No.2, pp. 551-557, 2002 (4)樋野励ら,直接オフセット法による工具 経路生成(第 1 報),(基本手順の提案), 精密工 学会誌, Vol.69, No.6, pp.781-787, 2003 (5)樋野励, 再帰的伝播法による分散型ジョ ブショップスケジューリング(第 4 報:協調 作業を考慮に入れた情報交換手順の提案), 日本機械学会論文集(C 編), Vol.70, No.699, pp3300-3307, 2004. (6)樋野励ら,複数の生産設備による同期処 理を考慮に入れたスケジューリング, 精密 工学会誌, Vol.73, No.7, pp.834--839, 2007 (7)樋野励, バッファを考慮にいれたジョブ ショップスケジューリング(第 3 報 混合整 数計画による最適化),日本機械学会論文集 (C 編 ), Vol.74, No.742, pp.1669-1675, 2008. (8)樋野励ら,リエントラントフローショッ プスケジューリング問題に関する研究 (第 1 報) 数理計画法による最適化, 精密工学 会, Vol.74, No.11, pp.1119-1124, 2008 (9)樋野 励, 生産システムの研究, 機械の 研究, Vol.60, No.10, pp.1011-1016, 2008 (10) 特集 グリーンマニュファクチャリン グ「地球と共生したものづくりへの模索」 機械の共有化とスケジューリング,樋野励, 砥粒加工学会誌, 54 巻 7 号, pp401-404 (2010) ●環境システム・リサイクル科学研究部門 環境調和型都市交通システム実現のための自動車利用マネジメント み わ とみお 准教授 三輪 富生 [email protected] 主な研究と特徴 人類は自由で速く快適な移動手段を求め て続けてきた.そして,自動車の発明と大 衆化により,20 世紀は“自動車による移動の 自由”を謳歌した.しかし,この約百年にわ たって経済発展を支え続けた自動車は,同 時に過度の自動車依存型社会を生み出し, 環境,エネルギー消費,渋滞等の問題を引 き起こした.さらに,移動の自由を得た人々 のより広い居住空間への願望を満たすため に進められた郊外への宅地開発は,問題を さらに悪化させている.このため,環境負 荷を低減しつつ将来にわたって豊かな社会 を実現していくためには,将来の都市構造 や社会構造の変化を考慮しながら,移動の 自由を提供しかつ環境負荷の低い交通体系 を構築する必要がある. そこで,環境と調和した都市交通システ ムを実現するため,特に自動車の適正な利 用に着目し,以下の視点から研究を進める. 1) 低環境負荷型自動車交通の実現に向け た交通情報システム 日々発生する交通渋滞は,過度の自動車 利用やドライバーが有する不完全な情報等 が主な原因であり,多大な経済損失や地域 の環境悪化等の問題を引き起こしている. このため,これらの問題を改善するために, ITS(Intelligent Transport Systems)技術を活 用した様々な交通情報システムの整備が進 められてきた.しかし,効率的な交通誘導 を行うためには更なる情報カバーエリアの 拡大が必要であるにもかかわらず,未だ十 分な整備がなされているとは言い難い.こ れは,情報の収集・生成方法や提供する情 報内容が異なる複数のシステムに対して, それぞれの運用経費と情報提供効果との関 係が十分に示されておらず,説得力のある 整備方針が示されていないためである.そ こで,各システムが提供する情報の価値を, 環境負荷やドライバーの損失費用の削減量 を踏まえて整理し,整備・運用費用との比 較を通して,交通情報システムの適切な整 備方法を示す. 2) 将来の居住地分布と交通需要の変化を 考慮した交通需要管理方策の検討 過度の自動車利用に起因する都市交通問 題を解決するためには,道路課金政策など の自動車利用を抑制する政策の実施が極め て有効であることが,近年,実証的に示さ れつつある.しかしながら,自動車による 流入が規制されたエリアでの経済活動の衰 退もまた明らかとなりつつある.したがっ て,自動車利用を抑制する政策の実施には, 都心の魅力度向上策や,都心へのアクセシ ビリティ向上のための交通基盤整備が必要 となる.またその一方で,中長期的に見れ ば,交通問題の改善を目指して実施した道 路課金政策や都心魅力度向上策および交通 基盤整備に応じて,都市圏内における世帯 の居住地分布も変化すると考えられる.さ らにはこれに伴い世帯の自動車保有・利用 行動や個人の交通行動パターンも変化する. そこで,このような交通政策の実施に対す る交通需要,居住地分布,自動車保有・利 用の変化を一体的に評価するシミュレーシ ョンシステムを構築する.これにより,低 環境負荷型都市の実現を目指した場合の, 政策実施プロセスの評価を可能とする. 3) 都市・ライフスタイル・近未来型自動車 の将来像に関する研究 過去百年の人間社会の発展を支えた自動 車は,近い将来の環境変化や社会変化に伴 って,そのあり方を変化させる必要がある. つまり,電気自動車のように環境負荷が少 なく,低環境負荷型都市構造におけるライ フスタイルに適合し,人々の移動ニーズを 十分に満たした近未来型自動車が開発され る必要があり,また適切に利用されなけれ ばならない.このとき,その開発や普及に 先立って,社会に広く受容され,また低環 境負荷型社会の実現に寄与できる自動車の あり方を,都市やライフスタイルの将来像 とともに検討する必要がある.特に,自動 車の保有・利用行動は居住地やライフステ ージの変化とともに変化し,また新たな自 動車の社会的な受容性は,その性能や機能, エネルギー補給地点の配置等によって変化 する点を考慮しなければならない. そこで,アンケート調査等によって,市 民が有する近未来型自動車の理想像を把握 するとともに,世帯のライフステージの変 化と,自動車保有行動の変化分析・モデル 化する.これらによって,近未来型自動車 の性能,機能,その他の属性の変化と受容 性や需要量の変化を分析してゆく. 今後の展望 本研究は,都市交通における自動車の適 正な利用方法を検討するものである.特に, 現実の都市圏を対象とし,また分析におい ては都市活動の詳細な記述を試みる.この ためには,膨大なデータの整理や様々なデ ータの入手が必要となるが,これらを地道 に克服し,実効性と説得力の高い成果を上 げることを目指す. 経歴 1998 年名古屋大学工学部土木工学科卒業, 2000 年名古屋大学大学院工学研究科土木 工学専攻修了,株式会社片平エンジニアリ ング入社,2002 年名古屋大学大学院環境学 研究科都市環境学専攻入学,2005 年同大学 環境学研究科研究員,2006 年同大学工学研 究科助手,2007 年同助教,2009 年同大学 エコトピア科学研究所准教授 所属学会 土木学会,日本都市計画学会,交通工学研 究会,アジア交通学会 主要論文・著書 (1) 三輪富生,石黒洋介,山本俊行,森川高 行:情報の信頼性と収集頻度を考慮したタ クシープローブカーの確率論的最適配置計 画,土木学会論文集 D,Vol.65,No.4, pp.465-479,2009. (2) Miwa, T., Ando, A., Yamamoto, T. and Morikawa, T.: A Basic Study of the Effectiveness of a Parking Deposit System (PDS), Proc. of International Symposium on City Planning, CD-ROM. (3) 三輪,木内,山本,薄井,森川:低コス トプローブカーデータのオンラインマップ マッチング手法の開発,交通工学,Vol.44, No.3,2009. (4) Kanamori, Miwa and Morikawa: Evaluation of Road Pricing Policy with Semi-Dynamic Combined Stochastic User Equilibrium Model, International Journal of ITS Research, Vol.6, No.2, pp.67-77, 2008. (5) 三輪,新井,山本,安藤,森川:都心来 訪者の駐車デポジットシステムに対する受 容性に関する基礎的研究,土木計画学研 究・論文集,Vol.25,No.1,pp.165-174,2008. (6) 三輪,山本,竹下,森川:プローブカー の速度情報を用いた動的 OD 交通量の推定 可能性に関する研究,土木学会論文集 D, Vol.64,No.2,pp.252-265,2008. (7) 三輪,山本,森川高行:駐車場所-駐車 時間選択行動への離散-連続選択モデルの 適用と駐車料金施策分析,都市計画論文集, No.43-1,pp.34-41,2008 (8) Morikawa and Miwa: Preliminary Analysis on Dynamic Route Choice Behavior Using Probe-Vehicle Data, JAT (Journal of Advanced Transportation), Vol.40, No.2, pp.141-163, 2006. (9) 三輪,森川,倉内:プローブカーデータ を用いた動的な経路選択行動に関する基礎 的分析,土木計画学研究・論文集,Vol.22, No.3,pp.477-486,2005 (10) Miwa, Tawada, Yamamoto and Morikawa: En-route Updating Methodology of Travel Time Prediction Using Accumulated Probe-car Data (scientific paper), 11th ITS World Congress, CD-ROM, October, 2004. ●環境システム・リサイクル科学研究部門 ●レアマテリアル循環共同研究ラボ (住友電工) 水環境保全と 水環境保全と資源循環に 資源循環に関する低環境負荷型 する低環境負荷型プロセスの 低環境負荷型プロセスの開発 プロセスの開発 かみもと ゆうき 助教 神本 祐樹 [email protected] 主な研究と 研究と特徴 人類の生活水準の向上に伴って、様々な 問題が発生している。その中でも、資源の 枯渇と環境汚染、廃棄物処理は持続可能な 社会の構築にとって非常に重要な課題であ る。それらの問題を、物理化学的手法・生 物学的手法・電気化学的手法を用いて検討 を行っている。 (1) レアマテリアルの回収と再資源化 近年、化石燃料やレアメタルやレアアー スをはじめとする様々な物質の枯渇が危惧 されている。レアメタルやレアアースやリ ンなどは、資源の集中から戦略物質として 位置付けられる。資源を有しない我が国に おいて、これらのレアマテリアルの確保は 極めて重要な課題であり、積極的に回収・ 再資源化を行う必要がある。 現在は、排水・廃液のリンとホウ素、超 硬工具からのタングステン、コバルト等の レアメタルを対象としている。超硬工具は、 溶融塩を用いて水溶液化処理をした後にイ オン交換樹脂を用いて精製を行う方法につ いて開発を行っている。リンやホウ素はイ オン交換性の無機系吸着剤を用いて回収技 術の開発を行っている。 (2) 難処理有機物の生物学的処理 山間部や人口散在地域などの生活排水処 理は浄化槽などの中小規模の生物学的排水 処理施設で行われている。浄化槽は、コン パクトながら極めて高性能な水質浄化能力 を有しているが、生物学的排水処理におい て余剰汚泥の発生は不可避であるため、余 剰汚泥の処理に非常に多くのコストとエネ ルギーを必要とする。効率的な余剰汚泥処 理を行うために、好気性消化法に膜分離活 性汚泥法を組み込んだシステムの開発を行 っている。 (3) 高精度簡易分析法 水処理施設は、維持簡易が処理性能を左 右するため、水質モニタリングが重要であ り、高価な機器を要しない高精度な簡易分 析法が求められている。高精度な簡易分析 法として検知管法を用いた水質分析法の開 発を行っている。 今後の 今後の展望 今後、資源循環ならびに環境保全では、 様々な背景が存在するため、個々の状況・ 状態に応じた処理が必要となる。そのため、 様々な基幹技術の融合が必要であり、体系 化が必要である。技術の融合ならびに体系 化に視点をおいて、資源循環と環境保全技 術の開発を行う予定である。 経歴 2004 年豊橋技術科学大学工学部エコロジー 工学課程卒業、2006 年豊橋技術科学大学大 学院工学研究科エコロジー工学専攻修了、 2006 年株式会社川本製作所、2007 年豊橋技 術科学大学大学院工学研究科研究生修了、 2010 年豊橋技術科学大学大学院工学研究科 環境・生命工学専攻修了、2010 年名古屋大 学エコトピア科学研究所助教 所属学会 日本水環境学会、廃棄物資源循環学会、資 源素材学会 主要論文・ 主要論文・著書 (1) T. Hori, K. Niki, Y. Kamimoto, Y. Kiso, T. Oguchi, T. Yamada, and M. Nagai: Ammonia detection by colored zebra-bands formed in a mini-column, Talanta, Vol.81, No.4-5, pp.1467-1471 (2010) (2) 仁木圭三、木曽祥秋、堀達明、神本祐樹、 九澤和充、小口達夫、斎藤美弘、山田俊 郎、長井正博:着色帯形成に基づく簡易 試験法によるリン酸イオンの測定、浄化 槽研究、Vol.22、No.1、pp.1-8(2010) (3) 神本祐樹、対馬孝治、木曽祥秋、山田俊 郎、Jung Yong-Jun:低 pH 条件での N,Nジメチルホルムアミドの生物学的処理 における窒素除去特性、日本水処理生物 学会誌、Vol.45、No.4、pp.177-184(2009) (4) Y. Kamimoto, Y. Kiso, T. Oguchi, T. Yamada and decomposition Y.J. and Jung: nitrogen DMF removal performance by a mesh-filtration bioreactor under acidic condition, JWET, Vol.7, No.1, pp.1-8(2009) (5) 神本祐樹、大地佐智子、木曽祥秋、小口 達夫、山本康次:膜分離活性汚泥法によ る余剰汚泥の好気性消化特性、用水と廃 水、Vol.50、No.9、pp.751-757(2008) (6) 神本祐樹、木曽祥秋、小口達夫、胡洪営、 細谷卓也:パイロット規模のメッシュろ 過バイオリアクターによる余剰汚泥の 高効率好気性消化に関する研究、廃棄物 学 会 誌 論 文 誌 、 Vol.19 、 No.4 、 pp.255-264(2008) 基幹研究部門 情報・通信科学研究部門 ●情報・通信科学研究部門 複雑流動現象の先進的数値シミュレーション うちやま 教 授 内山 ともみ 知実 [email protected] 主な研究と特徴 自然界で観察される流れや工業装置が扱 う流動は,一般に,広範で多様な時間・空 間スケールをもち,非線形な複雑挙動を示 す.当研究室では,このような複雑流れに 関するモデリングと数値シミュレーション に取組んでいる. 複雑流れの典型例として,気体,液体, 固体など異なる相が混在して相互作用を及 ぼし合いながら流れる混相流,様々なスケ ールの渦から構成される乱流などがある. 従来の数値シミュレーションの多くは,現 象を支配する偏微分方程式をたて,それを 差分法や有限要素法で解く Euler 型解法を 用いてきた.当研究室では,渦度,濃度お よび温度などの物理量をもつ微小な粒子を 導入し,粒子の挙動を追跡することにより 流れ場を求める,Lagrange 型解法の開発を 進めている.すなわち,流れのミクロな素 過程をメゾスケールの粒子挙動としてモデ ル化する解法である.本解法は,流れの時 間・空間の発展過程を直接計算でき,並列 計算にも適したアルゴリズムから構成され ている.これまで,気流中に微細な固体粒 子が付与された固気二相流,水流中に微小 な気泡を含む気泡流,物体後流および噴流 における物質拡散,化学反応を伴う流れ, 自由表面を有する流れなどの解析に適用し, 既存の実験的研究を補完し得る成果を得て いる. 図1は,不可逆一段反応を伴う混合層に おける化学種濃度の瞬時分布を示す.流れ の方向は左から右である.混合層上流(x<0) の高速側(y>0)および低速側(y<0)から, それぞれ化学種 A および B が混合領域 (x>0)に流入し,A と B の移流・拡散・混合・ 反応により化学種 P が生成される現象のシ ミュレーション結果である.せん断層内部 で化学種 A と B が消費され,化学種 P が生 成される様子が把握できる.P の濃度は, せん断層が発達して活発な反応が発生する, 下流ほど高い. 研究室HPは以下の通り. http://www.flow.cs.is.nagoya-u.ac.jp/ 今後の展望 流れの数値シミュレーションは,実験的 研究の限界を超えて,多重スケールの現象 を詳細に解析できるため,工学分野に限ら ず,大気や海洋を対象とした環境科学など, 様々な分野で重要性が益々増している.そ の合理的なアルゴリズムの開発のほか,イ ンターネットを介した先進的利用方法,高 速計算を実現できる並列計算システムの構 築など,種々の課題に積極的に取組みたい. 経歴 1985 年名古屋大学工学部機械学科卒業, 87 年同工学研究科博士前期課程修了,同教 養部助手,93 年同情報文化学部助手,93-94 年ベルリン工科大学客員研究員,98 年名古 屋大学情報メディア教育センター助教授, 04 年同エコトピア科学研究機構助教授,09 年同エコトピア科学研究所教授. 1998 年日本機械学会奨励賞,同年日本混 相流学会奨励賞,03 年日本混相流学会論文 賞 , 同 年 イ ギ リ ス 機 械 学 会 Water Arbitration 賞,07 年ホソカワ粉体工学振 興財団研究奨励賞受賞. 所属学会 日本機械学会,日本混相流学会,粉体工学 会,ターボ機械協会 主要論文・著書 (1) Numerical simulation of plane bubble plume by vortex method, J. Mechanical Eng. Sci., IMechE, 222(2008), 1193-1201. (2) Numerical simulation for gas-liquid two-phase free turbulent flow based on vortex in cell method, JSME Int. J., Ser. B, 49(2006), 1008-1015. (3) Three-dimensional vortex simulation for particulate jet generated by free falling particles, Chem. Eng. Sci., 61(2006), 1913-1921. (4) Numerical simulation of reacting plane mixing layer by particle method, Chem. Eng. Sci., 61(2006), 7299-7308. (5) Three-dimensional vortex method for gas-particle two-phase compound round jet, Trans. ASME, J. Fluid Eng., 127(2005), 32-40. (6) Numerical simulation for the propulsion performance of a submerged wiggling micromachine, J. Micromech. Microeng., 14 (2004), 1537-1543. (7) Java による連続体力学の有限要素法, 森北出版,(2001). (8) 有限要素法による計算流体力学―解説 編―,T&Mソリューションズ,(2007). (9) 有限要素法による計算流体力学―プロ グラム編―,T&Mソリューションズ, (2007). 図1 不可逆一段反応を伴う混合層におけ る化学種濃度の解析例 ●情報・通信科学研究部門 柔軟で信頼できる無線通信システムを目指して かたやま 教授 片山 まさあき 正昭(部門長) [email protected] 主な研究と特徴 距離の制約を越えて,見聞きし,意志を 伝え,思いを交わすことを可能にする情報 通信システム,とりわけ無線通信システム の発展は目覚しい.しかし無線通信システ ムには,まだまだ多くの制約が残されてい る.そこで,これらの制約を取り除き,柔 軟で信頼できる無線通信システムを実現す るため,研究を行っている. ~場所の制約からの解放~ 世界中のどこからでも携帯端末から衛星に アクセスし高度な通信サービスを受ける事 ができる次世代低軌道衛星通信システムの 実現のため,技術的課題について研究を行 っている.一方,すでに無線システム環境 が十分に整っているように見える都市部で も,例えば地下街,あるいは街角ですら電 波が十分に届かない地点が虫食いの跡のよ うに多数存在する.これに対処するための, セル配置技術,適応アンテナ技術,分散基 地局システム等の研究を行っている.また, 建物内等,無線電波だけではどうしてもカ バーしきれない部分にも通信環境を提供す るために,電力線を通信路として用いる電 力線通信システムについても,幅広い研究 を行っている. ~より高い信頼性を目指して~ 無線通信は,雑音に弱く,混信などで通信 が途切れたりする信頼性に欠けると思われ てきた.しかし,自動車の運転制御や工場 の産業機器の遠隔制御など,高い信頼性を 要求さしかも無線でしか実現出来ない用途 への需要が大きくなりつつある.そこで, 有線以上の信頼性を持つ「頼れる無線シス テム」,即ち超高信頼性無線通信システム に関する研究を行っている. ~ハードウエアの制約からの解放~ 情報通信システムは,環境の変化に応じて, 方式や構成をダイナミックに変化させてい くような能力を持つ必要がある.しかし, このようなことを固定のハードウエア回路 で実現することは困難である.そこで従来 のシステムではハードウエアで構成されて いた無線信号処理部分をソフトウエア化す るような新しい方式であるソフトウエア無 線技術の研究を行っている.このソフトウ エア無線技術を用いれば,新しい方式への 切り替えも単なるソフトウエアのダウンロ ードだけですむようになる.さらにこれを 基地局に適用すると,共通アンテナで受信 した信号をディジタル化しソフトウエア処 理することで,複数の方式に一つの基地局 で同時に対応することが可能になり,また 方式の変更もソフトウエアの変更だけで柔 軟に実現できるようになる.なお,このよ うなソフトウエア無線技術の実用化には, 現在の回路素子の能力は必ずしも十分では ない.そこで,超伝導素子をはじめとする 先端情報デバイスの研究者とも共同して研 究を行っている. ~エコトピア社会実現のために~ 地球環境負荷を低減した環境調和型社会 (エコトピア)を実現するためには,社会 全体をひとつのシステムとして捉え,その 全体において環境負荷を制御することが必 要である.このような,大規模・複雑なシ ステムの各要素をつなぎ,環境情報や制御 情報の伝達を行うためには情報通信技術は 不可欠である.エコトピアシステムの各構 成要素の状況や環境情報を一元的に管理す るための情報通信ネットワークにおいては, 少数の地点間の多量データ伝送が主となる 通常のデータ通信等と違い,各々は少量で はあるが非常に多くの地点からのデータを 集約する技術が必要となる.またシステム 制御においては、制御命令は少量ではある が確実に一定時間内に目的地に到達する必 要がある.このような通常の通信システム とは異なる性質を持つセンサネットワー ク・コマンドネットワーク構築のための技 術について研究を行っている. ~情報メディア教育システムの活用~ 情報メディア教育システムの実現について 研究を行っている.特に計算機だけでなく, ネットワークに接続された測定装置,実験 装置の遠隔操作を統合したインタラクティ ブ・メディア環境により,学習者が主体的 に発見・理解するインターラクティブマル チルチメディア教育システムの実現に関心 を持っている. 今後の展望 メディアやハードウエアや使用環境の制 約から解放された自由で柔軟な移動体通信 システムの実現を目指す.また無線通信シ ステムの信頼性を,ある意味では有線シス テム以上の高いものにすることも大きなテ ーマである.これらの実現には,単なる技 術の寄せ集めや改良ではなく,通信技術の 本質的な検討が必要である.このような検 討を通じて,個々の通信システム・技術に 通底する本質・原理を明らかにしていくこ とを,重視している. 経歴 1981 年大阪大学工学部通信工学科卒業, 86 年同大学大学院工学研究科博士課程修 了(工学博士).豊橋技術科学大学助手. 89 年大阪大学講師.92 年名古屋大学工学 部講師.93 年助教授,2001 年情報メディ ア教育センター教授.2004 年よりエコト ピア科学研究所教授, 所属学会 電子情報通信学会(フェロー),情報理論と その応用学会,IEEE(Senior Member) 主要論文・著書 ・電力線通信システム(監修・共著)トリ ケップス,(2002) ・CDMA 方式と次世代移動体通信システ ム(共著)トリケップス,(1995) ・"高信頼無線制御実現のための複数送受 信アンテナと複数中継器を用いた空間ダイ バシチ手法," 信学論,vol.91-B, no.5, pp. 585-594 (2008). ・"OFDM 受信機における ADC の非線形性 を考慮した干渉影響の軽減手法," 信学論, vol.90-B, no.6, pp. 577-584 (2007). ・ "A Mathematical Model of Noise in Narrowband Power-Line Communication Systems," IEEE J. SAC, vol.24, no.7, pp.1267-1275 (2006). その他,学会論文誌論文約 120 編,国際会 議論文約 150 編 ●情報・通信科学研究部門 エコトピア社会を支えるフレキシブル無線分散ネットワーク おかだ ひらく 准教授 岡田 啓 [email protected] 主な研究と特徴 エコトピア社会を実現するための通信方 式・情報通信システムには,分散配置され たノードからの多様な情報を収集したり, 分散配置された機器に多様な制御情報を配 信する機能が必要である.これに加え,通 信路状況に応じて最大限の通信速度を達成 できることを目的関数とするベストエ フォート型のみでなく,例えば多少の遅延 を許してでも確実に情報を伝送する DTN (Delay Tolerant Network)のように,満足 すべき通信品質についても多様性が求めら れている.さまざまな環境に設置できるこ と,さまざまな情報を取り扱えること,さ まざまな通信品質を満たすこと,といった ように,エコトピア社会を支える通信方 式・情報通信システムには多様性が求めら れている. 検討する無線分散ネットワークは多数の ノードが分散配置されており,ノードを経 由して情報を伝送する空間的に広がりのあ るメッシュ型マルチホップネットワーク構 造を持つ(図1).これは,携帯電話網の ように集中管理を行う基地局が存在し各端 末は基地局と直接通信を行うようなスター 型シングルホップネットワークとは異なり, 柔軟なネットワーク形態が可能である.さ らに,メッシュ型マルチホップネットワー クはスター型シングルホップネットワーク には見られない種々の要素技術がある.要 求条件に応じてこれらを取り入れることで, 通信システムを柔軟に構築することができ る.要求されるシステムの多様性に対応す るため,フレキシブル(柔軟性のある)無 線分散ネットワークの実現・高度化に向け, 理論的検討から実験による評価,基礎から 応用まで幅広い研究を行う. 今後の展望 具体的研究課題として以下が挙げられる. 経路次元符号化とネットワーク符号化 の融合 情報収集型ネットワークにおける日和 見性(Opportunistic)を生かした MAC・ 経路制御方式 マルチユーザ MIMO のための自律分散 型 MAC プロトコル 無線分散ネットワークのための IEEE 802.11n レート制御 クロスレイヤ技術の実装実験 経歴 1995 年名古屋大学・工学部・電子情報学専 攻卒.1997 年同大学院博士課前期課程修了. 1999 年同大学院博士課後期課程修了.工博. 基地局 ノード 端末 メッシュ型マルチホップネットワーク スター型シングルホップネットワーク 図1 ネットワーク構造 同年日本学術振興会特別研究員・PD. 2000 年名古屋大学・助手.2006 年新潟大学・超 域研究機構・助教授.2009 年埼玉大学・理 工学研究科・准教授.2011 年名古屋大学・ エコトピア科学研究所・准教授,現在に至 る. 所属学会 電子情報通信学会,IEEE 主要論文・著書 (1) H. Okada, T. Sato, T. Yamazato, M. Katayama, A. Ogawa, "CDMA Unslotted ALOHA Systems with Packet Retransmission Control," IEICE Transaction on Fundamentals, vol.E79-A, no.7, pp.1004-1010, 1996 年. (2) H. Okada, T. Yamazato, M. Katayama, A. Ogawa, "Queueing Analysis of CDMA Unslotted ALOHA Systems with Finite Buffers," IEICE Transaction on Fundamentals, vol.E81-A, no.10, pp.2083-2091, 1998 年. (3) H. Okada, N. Nakagawa, T. Wada, T. Yamazato, M. Katayama, "Multi-Route Coding in Wireless Multi-Hop Networks," IEICE Transactions on Communications, vol.E89-B, no.5, pp.1620-1626, 2006 年. (4) H. Okada, M. Saito, T. Wada, K. Ohuchi, "Performance Analysis of SourceDestination ARQ Scheme for Multiroute Coding in Wireless Multihop Networks," IEICE Transactions on Communications, vol.90-B, no.8, pp.2111-2119, 2007 年. (5) H. Okada, A. Takano, K. Mase, "Analysis and Proposal of Position-Based Routing Protocols for Vehicular Ad Hoc Networks," IEICE Transactions on Fundamentals, vol.E91-A, no.7, pp.16341641, 2008 年. ●情報・通信科学研究部門 化学現象を精密解析する新規理論とシミュレーション技術の開発 やすだ 准教授 安田 こうじ 耕二 [email protected] 主な研究と特徴 全ての化学現象は量子力学に支配されて いるため、シュレーディンガー方程式を解 き波動関数を求めると、物質の振る舞いを 完全に予言できる。これをやるのが理論化 学と呼ばれる学問だが、原理的には化学か ら経験的要素を全て排除できる。実際には 粒子間力があるため方程式は解析的に解け ず、方程式を解き易く変形し、その数値解 を計算機で求める必要がある。つまり①良 い近似理論を作り②それを解く数値計算法 を考案し③効率良いアルゴリズムやプログ ラムを作成する、という三本柱で理論化学 はできている。私は、新しい近似理論(物 理)や超並列計算機の利用(情報)など、 色々な方法で理論化学を発展させ、それを 通じて、持続可能社会に必要な科学技術の 発展に役立ちたいと考えている。 密度行列に基づいた量子論:自然界には 2 体力しか存在しないので、2 粒子相関関数 である 2 次縮約密度行列が、エネルギーな ど我々の必要な全情報を持っている。4 変 数関数である 2 次密度行列は、波動関数よ り簡単に計算できるはずである。だがパウ リの排他原理を課す方法(表現性条件)が 長年不明で進歩が無かった。私は多体グリ ーン関数を用いて表現性条件を解析する事 を提案し、波動関数を使わずに密度行列を 決める方法を示した。また有限温度での方 程式を示し、密度行列で量子多体系が扱え るようになった。 多電子系の実用的近似法として、密度汎 関数法が良く使われるが、交換エネルギー が大きな誤差を含み問題である。もし電子 密度より一般的な 1 次密度行列を状態変数 とすると、交換項が厳密に書けるより優れ た理論になる。私はこの理論を系統的に近 似する方法を示し、相関エネルギーの新し い局所密度近似を提案した。 巨大分子の並列計算法:遠く離れた 2 電 子の運動が独立である事を使うと、大分子 の量子計算は原子数に比例した手間で行え る。大分子を小さな断片に切り、近くの断片 からなるクラスターの量子計算結果から全 エネルギーを推定する「フラグメント分子 軌道法(FMO)」が、経験的に良い事が知ら れている。断片間相互作用を摂動と見なし、 グリーン関数に対するクラスター展開を行 う事を私は提案し、FMO やその一般化を系 統的に得た。断片間の軌道重なりも摂動と 見なす事で、量子状態を並列計算する公式 を導き、グリーン関数から励起状態も計算 できる事を示した。巨大分子では並列計算 が必須だが、この手法では任意の近似法か ら、通信が少ない並列計算公式を導ける。 超並列計算機による科学技術計算:ゲー ム機や AV 家電に使われる、ストリーミン グプロセッサという超並列計算機は、汎用 CPU より演算性能も電力効率も 1 桁以上高 いため注目されている。この一種のグラフ ィックボード(GPU)や GRAPE-DR 並列計 算機で、科学技術計算、特に物質の第一原 理計算(密度汎関数法)を高速化する研究 をしている。これらの計算機は、高並列低 通信の単純作業でのみ高い性能を示すが、 密度汎関数計算は複雑で倍精度や広い記憶 域が必要だった。そこで私は、低精度演算 を効果的に使い、高並列で低通信な新アル ゴリズムを開発し、GPU で密度汎関数計算 を行った。わずか数万円のグラフィックボ ードで、Gaussian03 による密度汎関数計算 を、最速 CPU の 10 倍に加速できた。 今後の展望 計算機の能力は 2 年で 2 倍と指数関数的 に向上しており、それに伴い物質のシミュ レーションも有用さを増している。実験で は測定困難な、原子スケールの超高速現象 も、簡単にシミュレートできる例も増えて きた。今日では、均一触媒や表面での反応 機構を、密度汎関数計算でシミュレートす る事は、それ程難しくない。今後計算機は 並列化により発展していくと思われ、並列 計算法が広く使われるだろう。 持続可能なエネルギーシステム開発とい う観点から、電極反応や強い電子相関を持 つ酸化物に、興味を持っている。電極反応 は燃料電池など、環境、エネルギー問題の 解決に貢献できる応用があり、その反応過 程を知る事は設計の第一歩である。だが金 属と溶媒分子という異質の電子状態が接し ており、かつ外部電圧が加わるため、現在 では正しいシミュレーションができない。 また強相関酸化物は、高温超伝導や高い熱 電特性など特異な性質を示し、環境、エネ ルギー問題に役立つ事が期待されている。 だが強い相関のため既存の計算手法、例え ば密度汎関数法では扱えず、材料設計は困 難である。新しい近似理論が望まれる。 経歴 1992 京都大学工学部合成化学科卒業 1994 京都大学大学院工学研究科修士課程 合成化学専攻卒業 1997 京都大学大学院工学研究科博士課程 合成化学専攻卒業、工学博士 1997 名古屋大学大学院人間情報学研究科 助手 2003 名古屋大学大学院情報科学研究科助 教 2009 エコトピア科学研究所准教授 所属学会 日本物理学会 主要論文・著書 (1) Accelerating density functional calculations with graphics processing unit. Koji Yasuda, J. Chemical Theory and Computation, 4 (8) 1230-1236 (2008). (2) Two-electron integral evaluation on the graphics processor unit. Koji Yasuda, J. Comput. Chem., 29 (3) 334-342 (2008). (3) The extension of the fragment molecular orbital method with the many-particle Green's function. Koji Yasuda, Daisuke Yamaki, J. Chem. Phys., 125 (15) 154101, (2006). (4) Simple minimum principle to derive a quantum-mechanical/molecular-mechani cal method. Koji Yasuda, Daisuke Yamaki, J. Chem. Phys., 121 (9), pp. 3964-3972, (2004). (5) Local approximation of the correlation energy functional in the density matrix functional theory. Koji Yasuda, Phys. Rev. Letters, 88 (5), pp.053001-1-4 (2002). (6) Direct determination of the quantum-mechanical density matrix: parquet theory. Koji Yasuda, Phys. Rev. A59, pp.4133-4149, (1999). (7) Direct determination of the quantum-mechanical density matrix using the density equation. Hiroshi Nakatsuji and Koji Yasuda, Phys. Rev. Letters, 76, pp.1039-1042, (1996). アジア資源循環研究センター ● アジア資源循環研究センター 環境調和型熱流体エネルギー利用システムの研究 はせがわ たつや 教授 長谷川達也(センター長) [email protected] 主な研究と特徴 環境と調和するように二酸化炭素や有害 物質の排出を低減しながら製造,輸送,生 活に必要なエネルギーを発生させ,利用す ることが求められています.本研究室では, バイオ廃棄物のエネルギー資源化,自動車 や航空機の石油代替燃料の製造,ビルや家 屋の空調システム,レーザによる樹脂溶着 法,シミュレーションによるエネルギーシ ステムの設計など,熱や流れによるエネル ギー利用システムの研究を行なっています. ( 1 )湿 式 燃 焼 に よ る 熱 エ ネ ル ギ ー 回 収 高温高圧の水は油のような有機物を良く 溶解し,あらゆる反応の媒体になることが 物理・化学的に知られています.これを水 熱反応と呼びます.この高温高圧の水にバ イオマス廃棄物や未利用の低質燃料,難分 解性有機物などを溶解させ分解すれば水素 やメタンなどのガス燃料を取り出すことが できます.また酸化剤を入れて酸化すれば 熱エネルギーが発生するのでボイラーとし て発電や熱供給に利用できます.これを湿 式燃焼と呼びます.バイオマス廃棄物,未 利用の低質燃料,難分解性有機物などをエ ネルギー資源化し,有害物質の排出を低減 しながら熱エネルギーを生成することを目 的とした研究を行っています.以上の研究 に関しては,環境・エネルギー問題が深刻 なアジア諸国の研究機関との共同研究も行 っています. ( 2 )代 替 燃 料 製 造 と そ の 環 境 性・経 済 性評価 石油資源は約60年で枯渇すると言われ ています.一方,化石燃料の使用は,二酸 化炭素の排出により地球温暖化の原因とな っています.この研究では,このような環 境・資源制約の下で自動車や航空機等の輸 送を持続可能にするために必要な石油に代 http://yuki.esi.nagoya-u.ac.jp/ わる燃料を製造すること,またその環境 性・経済性の評価を行うことを目的として います.具体的には,バイオマスから水素 と一酸化炭素からなる合成ガスを製造し, さらに触媒を用いて石油と同等の液体燃料 を製造するFT合成について,実験的検討 と同時に,製造・輸送時の環境性・経済性 評価などを行なっています.またメタン発 酵によって食品などのバイオ廃棄物からガ ス燃料を製造し,発電に利用する技術につ いて,開発と実証研究を行っています. ( 3 )ヒ ー ト ポ ン プ シ ス テ ム と そ の 応 用 空調機,冷凍機などで使用されている代 替フロン(HCFC)はオゾン層を破壊するの で 2020 年には全廃することが決まってい ます.それに代わる冷媒として開発されて いる新代替フロン(HFC)は塩素を含まない のでオゾン層を破壊しませんが,潤滑油と の相溶性が悪いため,圧縮機の潤滑がうま く行かないので,これを従来の熱交換シス テムで使用することは通常困難です.この ような障壁を解決する技術として開発され たのが追設凝縮器を組み込む技術です.こ の追設凝縮器は従来の熱交換システムに常 に凝縮器として働くように組み込むと,冷 媒の種類によらず効率が1割 2割増加し てエネルギー消費が減る,潤滑油を循環し て圧縮機の潤滑を維持するので新代替フロ ンが使用できる,高温の外気においても熱 放出して正常に動作し,低温の外気におい ては霜がつかず正常に動作するなどの優れ た特性を発揮します.この研究は追設凝縮 器のこれらの特長がどのような原理や機構 によって生じるのかを明らかにし,空調機 や給湯器などの熱交換機器を高効率化する ことを目的としています.現在は,水冷追 設凝縮器と新代替フロンを用いる冷房排熱 による給湯システム,冷媒入れ換えや追設 凝縮器設置の効果を予測する冷凍サイクル のシミュレーションの研究を行っています. (4)熱可塑性樹脂のレーザ溶着 半導体レーザの熱エネルギーを用いて熱 可塑性樹を溶着し,機械,電機部品や医療 器具等の製造,樹脂フィルムによる包装な どをエネルギー効率良く精密に行なうこと を目的とする研究です.半導体レーザは電 力のエネルギー変換効率が高く,小型で場 所を取りません.また局所的に加熱するの で精密な加工ができ,ロボットと組み合わ せれば自由自在な加工も可能です.自動車, コンピュータ,家電製品,医療機器などで は軽量化のために樹脂部品が多用されてい ますが,この樹脂部品の加工を半導体レー ザで行なえば,省エネルギーで精密で自由 自在な加工ができ,工数,部品数の削減が できるので低コスト,高リサイクルの樹脂 部品の生産が可能になります.これまでに 次のような研究を行ない,いくつかの特許 を出願しています.光透過性/不透過性の 熱可塑性樹脂を半導体レーザによってラッ プ接合する方法の特性評価,光透過性樹脂 同士をレーザ溶着する方法の開発,熱可塑 性樹脂フィルムをレーザ接合する方法の開 発,金属やセラミックスと熱可塑性樹脂を レーザ接合する方法の開発. ( 5 )熱・物 質 輸 送 ,燃 焼 の モ デ リ ン グ と計算機シミュレーション 航空機や自動車のエンジンのエネルギー 効率を向上させ,排出物を少なくするため に希薄燃焼,燃料直接噴射,予混合気圧縮 自着火,水素燃焼などの新しい燃焼方式が 提案されています.これらの新燃焼方式を 使ったエンジンをデザインするためには, エンジン内の流れや燃焼の状態を詳細に把 握すること,そして正確に予測することが 必要です.この研究ではエンジンの燃焼状 態を正確に予測できるシミュレーションを 行ない,デザインに利用することを目的と しています.これまでに差分法とスペクト ル法を組み合わせた新しい高精度解法を開 発し,理化学研究所と共同で,エンジン内 で起きる.乱流燃焼の世界最大規模の直接 数値計算を行ない,信頼性の高いデータベ ースを構築しました.またこのデータベー スに基づいてフランスの国立科学研究セン ターと共同でエンジン内燃焼を予測するた めのモデルを提案しています.これらの成 果は国際会議で発表され,著名な雑誌に掲 載されています. またこれ以外にも,水素の分離や充填を 目的としたシミュレーション,可燃性のプ ロパンを冷媒として使用するヒートポンプ の漏洩安全性のシミュレーション,バイオ マスの湿式燃焼を用いる発電システムの効 率シミュレーションなどを行っています. 今後の展望 以上の研究題目のうち(1)と(2)は 実用化を目標として今後さらに研究を発展 させて行きます.また産業界や海外の研究 グループとの共同研究も積極的に実施して 行きます.(3),(4),(5)については, これまでに先駆的な業績をあげて来た分野 ですので,これらの研究を引き続き発展さ せて,日本の学術と技術の発展に貢献して 行きます.またそのためには産業界との連 携,情報交換が不可欠なので,これを積極 的に推進して行きます. 所属学会 日本機械学会,化学工学会,日本航空宇宙 学会,自動車技術会,日本流体力学会,燃 焼学会,伝熱学会,冷凍空調学会, レーザ 学会,可視化情報学会,日本エネルギー学 会,エネルギー・資源学会,廃棄物資源循 環学会,環境情報科学センター 経歴 1977 年名古屋大学工学部航空学科卒業 1983 年同大学大学院工学研究科博士課程 修了(工学博士) 1987 年名古屋工業大学工学部機械工学科 助教授 1994-1995 年文部省在外研究員 (仏国ルーアン大学,米国カリフォルニア 大学デーヴィス校) 1997 年名古屋工業大学大学院都市循環シ ステム工学専攻助教授 2002 年名古屋大学理工科学総合研究セン ター教授 2004 年同大学エコトピア科学研究機構教 授 2005 年同大学エコトピア科学研究所教授 ・ ・ ・ 論文(2005-2010) ・ Numerical Simulation of Dynamics of Premixed Flames: Flame Instability and Vortex-Flame Interaction, 2005, Progress in Energy and Combustion Science, Vol. 31, No. 3, pp. 193-241, S. Kadowaki and T. Hasegawa. ・ Modelling of Turbulent Scalar Flux in Turbulent Premixed Flames Based on DNS Databases, 2006, Combustion Theory and Modelling, Vol. 10, No.1, pp. 39-55, S. Nishiki, T. Hasegawa, R. Borghi, R. Himeno. ・ 追設凝縮器を用いた空調機の運転, 2006-5, 日本機械学会論文集, B 編 72 巻 716 号, pp. 1095-1102, 後藤誠, 谷藤浩二, 藤田真弘, 山内智裕, 永田謙二, 上野勲, 長谷川達 也. ・ Combustion of Ethanol by Hydrothermal Oxidation, Proceedings of the Combustion Institute, 2007, Vol. 31, pp. 3361-3367, K. Hirosaka, M. Fukayama, K. Wakamatsu, Y. Ishida, K. Kitagawa, T. Hasegawa. ・ HFC 冷媒を充填した空調機における非相 溶性冷凍機油の循環観察, 2007-1., 日本 機械学会論文集, B 編 73 巻 725 号, pp. 291-297, 後 藤 誠 , 谷 藤 浩 二 , 藤 田 真 弘 , 山内智裕, 大内田聡, 永田謙二, 上野勲, 長谷川達也. ・ 空調機の廃熱を利用する給湯システムの 性能評価, 2007-12,日本機械学会論文集, B 編 073 巻 736 号, pp. 2552-2556, 後藤 誠,大内田聡,山内智裕, 永田謙二,鈴木 秀幸,上野 勲,長谷川達也. ・ Evaluation of efficiency of power plants using hydrothermal oxidation, 2008, Thermal Science and Engineering, HTSJ, Vol. 16, No. ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1, pp. 1-9, K. Hirosaka, K. Yuvamitra, A. Ishikawa and T. Hasegawa. An analysis of local quantities of turbulent premixed flames using DNS databases, 2008, Journal of Thermal Science and Technology, JSME, Vol. 3, No.1, pp. 103-111, K. Tsuboi, S. Nishiki and T. Hasegawa. 二次冷媒に水(水・水蒸気)を用いたヒ ートポンプ加熱システム(第1報—試 作・実験・実測), 2008-3, 空気調和衛生 工学会, 132 巻, pp. 29-37, 柴芳郎, 山内智 裕, 谷藤浩二, 長谷川達也. Experimental and numerical study of ethanol oxidation in sub-critical water, 2008, Journal of Supercritical Fluids, Vol. 44, No. 3, pp. 347-355, K. Hirosaka, K. Koido, M. Fukayama, K. Ouryoji, T. Hasegawa. A new analysis of the modeling of pressure fluctuations effects in premixed turbulent flames and its validation based on DNS data, 2008, Combustion Science and Technology, Vol. 180, pp. 996-1009, V. Robin, A. Mura, M. Champion, T. Hasegawa. Modelling of the correlation between velocity and reactive scalar gradients in turbulent premixed flames based on DNS data, 2008, Combustion Theory and Modelling , Vol. 12, No. 4, pp. 671-698, A. Mura, K. Tsuboi and T. Hasegawa. 空調用冷凍機サイクルのモデル化とシミ ュレーション, 2008-6, 日本機械学会論文 集, B 編 74 巻 742 号, pp. 1419-1426, 大内 田聡,長谷川達也,中村正則. 透明熱可塑性樹脂のレーザ溶着法の研究, 2008, 日本機械学会論文集, C 編 74 巻 744 号, pp. 2079-2083, 山川昌文, 早川伸哉, 中村隆, 長谷川達也. Activities in Asian research cooperation at EcoTopia Science Institute, Renewable Energy and Environment for Sustainable Development, eds. V. K. Vijay and H. P. Garg, Narosa Publishing House, New Delhi, 2008, pp. 55-62, T. Hasegawa. (Invited Lecture, without review) 熱可塑性樹脂のレーザ溶着における残留 応力と溶着強度の関係, 2008, 日本機械学 会論文集, C 編 74 巻, 748 号, pp. 3036-3041, 山川昌文, 早川伸哉, 中村隆, 長谷川達 也. Selective hydrogen formation from real biomass through hydrothermal reaction at ・ ・ ・ ・ ・ relatively low temperatures, 2009, Biomass and Bioenergy, Vol. 33, pp. 8-13, Y. Ishida, K. Kumabe, K. Hata, K. Tanifuji, T. Hasegawa, K. Kitagawa, N. Isu, Y. Funahashi, T. Asai. Solubilization and fuctionalization of sulfuric acid lignin generated during bioethanol production from woody biomass, 2009, Bioresource Technology, Vol. 100, pp. 1024-1026, Y. Matsushita, T. Inomata, T. Hasegawa, K. Fukushima. 熱可塑性樹脂のレーザ溶着における温度 と光弾性縞の同時観察, 2009, 日本機械学 会論文集, C 編 75 巻, 750 号, pp. 491-495, 山川昌文, 早川伸哉, 中村隆, 長谷川達 也. Small scale features of velocity and scalar fields in turbulent premixed flames, 2009, Flow, Turbulence and Combustion, Vol. 82, No. 3, pp. 339-358, A, Mura, V. Robin, M. Champion, T. Hasegawa. Numerical study on premixed hydrothermal combustion in tube reactor, 2009, Combustion Theory and Modelling, Vol. 13, No. 2, pp. 295-318, K. Koido, K. Hirosaka, T. Kubo, M. Fukayama, K. Ouryouji and T. Hasegawa. Subcritical water extraction of nutraceutical compounds from citrus pomaces, 2009, Separation Science and Technology, Vol. 44, pp. 2598-2608, Jong-Wan Kim, T. Nagaoka, Y. Ishida, T. Hasegawa, K. Kitagawa, Seung-Cheol Lee. ・ 廃棄樹皮から水熱抽出して得られた縮合 型タンニンのマトリックス支援レーザー 脱離イオン化質量分析法による構造解析, 2009, 分析化学, 58 巻, 8 号, pp. 731-736, 牧瑛, 荻本健一郎, 石田康行, 大谷肇, 長 谷川達也, 北川邦行, 本馬洋子, 稲井淳 文. ・ 航空代替燃料としての CTL, GTL, BTL の 比較研究, 2009, 環境情報科学論文集, 23 号, pp. 227-232, 林希一郎, 土田和寛, 隈 部和弘, 長谷川達也. ・ Modeling the effects of thermal expansion on scalar turbulent fluxes in turbulent premixed flames, 2010, Combustion Science and Technology, Taylor & Francis, vol. 182 (4-6), pp. 449-464, V. Robin, A. Mura, M. Champion, T. Hasegawa. ・ Fischer-Tropsch synthesis with Fe-based catalyst focusing on alternative aviation fuel, 2010, Fuel, Elsevier, Vol. 89, pp. 2088-2095, K. Kumabe, T. Sato, K. Matsumoto, Y. Ishida, T. Hasegawa. ・ 劣化およびレトロフィットを伴うヒート ポンプシステムのサイクルシミュレーシ ョン, 2010, 日本機械学会論文集, B 編, 76 巻, 767 号, pp. 1075-1081, 宮本年男, 大内 田聡, 長谷川達也. 寄附研究部門 エネルギーシステム(中部電力) ●エネルギーシステム(中部電力)寄附研究部門 持続的発展社会に向けた環境調和型次世代電力機器基礎技術開発 こじま 准教授 ひろき 小島 寛樹 [email protected] 主な研究と特徴 現代社会を将来に亘り持続的に発展させ るために,電気エネルギーシステムの果た す役割はますます重要さを増しており,省 エネルギー社会におけるエネルギーシステ ムの最適化,基幹電源系統と分散エネルギ ーとの協調,エネルギーセキュリティを確 保した電力流通システムの構築,環境と調 和した高効率・高信頼な電気エネルギーシ ステムの構築,新技術適用の社会的合意形 成など多くの研究課題が存在する.本寄附 研究部門では,材料,機器技術からシステ ム評価に亘る広い視点に立って機器とシス テムの協調を図りつつ,持続的発展社会に 向けた電気エネルギーシステムの構築を目 指しており,現在,以下の研究を進めてい る. (1) 超電導技術の電力応用に関する研究 電力システムを構成する機器への超電導 技術の適用は,機器の高効率化,小型軽量 化,高経済性を可能にすると期待されてい る.超電導技術があって初めて成立つ電力 機器として超電導電力貯蔵装置(SMES)や 超電導限流器などがある. SMES は,超電導コイルに流れる電流に より発生する磁界を利用してエネルギーを 貯蔵するものであり,超電導状態では電気 抵抗がゼロであるので電流が減衰すること なく長期間にわたり当初のエネルギー貯蔵 することができる.しかし,SMES の実用 化には多くの課題があり,現在,特に重要 なクエンチの発現・伝搬,熱暴走のメカニ ズムの解明に焦点を当て研究を推進してい る. また,超電導応用電力技術の実現のため には,機器単体の開発だけでなく実運用を 考慮して電力システム全体との協調を図る ことが不可欠である.特に,冷却条件など も含めた機器の複合化や統合などを図るこ とが重要であり、現在,超電導変圧器に限 流器の機能を付加した超電導限流変圧器や, 超電導ケーブルへの限流機能の付加につい て研究・開発を行っている. (2) ガス絶縁機器における部分放電メカニ ズムの解明と診断への応用 ガス絶縁電力機器を対象として,絶縁破 壊の前駆現象である部分放電(PD)特性の 電気的,光学的に計測・解析を行い,PD の 発生,進展から絶縁破壊に至るまでの放電 メカニズムの解明を進めている.さらに放 電メカニズムに立脚した絶縁異常診断・絶 縁破壊予知技術の確立を目指している. (3) 次世代直流送電機器に関する研究 直流送電システムは,送電線路費が安価, 系統安定度の問題が無い,迅速な潮流制御 が容易などの利点がある.また,自然エネ ルギーを利用した電源には直流で発電する ものが多く,分散電源との親和性が高い. さらに将来的には超電導技術の発展により, 直流送電システムの優位性がさらに高まる と予想される.しかし,交流-直流変換シス テムのコストが高いため,経済的な利点が 大きい長距離送電など,現在ではまだ限ら れた分野での適用にとどまっている. そこで,システム的な見地から,交直変 換システムを構成する機器群を統合し,シ ステム全体として絶縁などを最適化するこ とによるコスト削減を目指し,その実証研 究を進めている. 今後の展望 将来のエネルギーシステムにおいては, 環境との調和,地球環境負荷の低減が求め られており,電気エネルギーシステムの最 適化,環境調和型電力機器およびそれを可 能にする材料の実現,分散型エネルギー源 の有効活用・効率向上,再生可能エネルギ ーをはじめとする多様なエネルギー源の有 効活用,新技術適用に対する社会的合意形 成など多くの課題が存在する.エネルギー システム(中部電力)寄附研究部門では, 環境調和型最適エネルギーシステムの構築 を目指した研究を,ハード要素技術からシ ステム評価に至る広い視点から遂行してい く. 経歴 1998 名古屋大学工学部電気学科卒業, 2000 名古屋大学大学院工学研究科エネル ギー理工学専攻博士課程前期課程修了, 2004 同博士課程後期課程修了,博士(工 学),2004 名古屋大学エコトピア科学研 究機構助手,2005 同大学エコトピア科学 研究所助手,2007 同助教,2010 同准教 授 所属学会 電気学会,低温工学協会,放電学会,プラ ズマ・核融合学会,日本物理学会 主要論文・著書 (1) D.A. Mansour, H. Kojima, N. Hayakawa, F. Endo, H. Okubo: “Partial discharge and associated mechanisms for micro gap delamination at epoxy spacer in GIS”, IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation, 17(3), pp. 855–861, 2010. (2) D.-E.A. Mansour, K. Nishizawa, H. Kojima, N. Hayakawa, F. Endo, H. Okubo: “Charge accumulation effects on time transition of partial discharge activity at GIS spacer defects”, IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation, 17(1), pp. 247–255, 2010. (3) D. Mansour, H. Kojima, N. Hayakawa, F. Endo, H. Okubo: “Surface charge accumulation and partial discharge activity for small gaps of electrode/epoxy interface in SF6 gas”, IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation, 16(4), pp. 1150–1157, 2009. (4) H. Kojima, X. Chen, N. Hayakawa, F. Endo, H. Okubo: “Dynamic thermal characteristics of HTS coil for conduction-cooled SMES”, IEEE Transactions on Applied Superconductivity, 19(3), pp. 2036–2039, 2009. (5) K. Omura, H. Kojima, N. Hayakawa, F. Endo, M. Noe, H. Okubo: “Current limiting characteristics of parallel-connected coated conductors for high-Tc superconducting fault current limiting transformer (HTc-SFCLT)”, IEEE Transactions on Applied Superconductivity, 19(3), pp. 1880–1883, 2009. (6) H. Okubo, H. Kojima, F. Endo, K. Sahara, R. Yamaguchi, N. Hayakawa: “Partial discharge activity in electrical insulation for high temperature superconducting (HTS) cables”, IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation, 15(3), pp. 647–654, 2008. (7) H. Kojima, S. Itoh, N. Hayakawa, F. Endo, M. Noe, H. Okubo: “Self-recovery characteristics of high-Tc superconducting fault current limiting transformer (HTc-SFCLT) with 2G coated conductors”, Journal of Physics: Conference Series, 97, 012154, 2008. (8) N. Hayakawa, S. Ueyama, H. Kojima, F. Endo, Y. Ashibe, T. Masuda, M. Hirose: “Quench-induced partial discharge characteristics of HTS cables”, Journal of Physics: Conference Series, 97, 012053, 2008. (9) H. Kojima, O. Kinoshita, N. Hayakawa, F. Endo, H. Okubo, M. Yoshida, T. Ogawa: “Breakdown characteristics of N2O gas mixtures for quasi-uniform electric field under lightning impulse voltage”, IEEE Transactions on Dielectrics and Electrical Insulation, 14(6), pp. 1492–1497, 2007.