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大型トラック用被害軽減ブレーキ 「プリクラッシュセーフティ」

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大型トラック用被害軽減ブレーキ 「プリクラッシュセーフティ」
大型トラック用被害軽減ブレーキ
「プリクラッシュセーフティ」
榎本 英彦(日野自動車株式会社)
顔写真
1.はじめに
2.先進安全自動車ASVの基本理念と被害軽減ブレーキの
大型トラックは一旦事故を起すとその重量の大きさから長
技術指針
時間の道路閉鎖や大きな人的被害に結びつく可能性がある。
産・学・官の協力で進められてきた先進安全自動車計画(A
特に高速道路などで発生する追突事故への対応は注目度も高
SV)では被害軽減ブレーキ等に代表される先進安全技術の
く社会的な課題となっている。このことから、追突事故の防
開発にあたっての基本となる考え方を「ASV基本理念」と
止は永く大型トラックメーカにとっての重要課題であった。
してまとめた。「ドライバー支援の原則」では運転の主体は
車間距離警報や先行車との車間距離を一定に維持する高速
あくまでもドライバーにあり、ドライバーの過信や誤使用を
ACC が開発され実用化されてきたが、車間距離警報等が作動
招かないように、①認知、②判断、③操作の各段階を支援す
してもドライバーがそれに適切に反応できずに事故に至る場
ることとしている1)。被害軽減ブレーキもまさにこの基本理
合もあると考えられ、さらに一歩踏み込んだ安全対策が求め
念にもとづいて開発が進められてきた。
被害軽減ブレーキは、決して衝突を回避するシステムでは
られてきた。
被害軽減ブレーキは衝突が避けられないと判断した場合に
なく、最後までドライバーの回避操作に期待し、もはやステ
クルマが自動的にブレーキを作動させて衝突速度を低減、事
アリングでもブレーキでも衝突を回避できない場合に初めて
故の被害を軽減しようとするシステムで、2003 年に乗用車で
システムがブレーキを作動させて衝突速度を低減し被害を軽
初めて実用化された。日野自動車はトヨタ自動車と共同で、
減しようとするものである。
この技術をいち早く大型トラックに搭載してお客様に提供す
より高い減速効果を得るためにはより早いタイミングから
ることを狙って開発を進め、2006 年 2 月に大型トラック・日
ブレーキを作動させることが必要である。ASVの基本理念
野プロフィアに搭載し、商用車世界初の被害軽減ブレーキシ
を守りながらこれを実現するために「ドライバーが通常運転
ステム「プリクラッシュセーフティ」を世に出した(Fig. 1)。
では必ずステアリングまたはブレーキで衝突回避を行う領域
を割り込んだ場合」にはシステムがブレーキを作動させても
よいとの考え方が導入された。現在の被害軽減ブレーキの作
動タイミングを規定している技術指針はこの考え方に基づい
ている(Fig. 2)。
Fig.1 日野プロフィア
Fig.2 被害軽減ブレーキの技術指針
3.大型トラック用被害軽減ブレーキの課題
ズムに加えた(Fig. 5)。
大型トラック用被害軽減ブレーキの開発では、少しでも高
い減速量を得るため、前述の技術指針で許されたブレーキ制
御のタイミングをどこまで使い切れるかが課題であった。例
えば、大型トラックでブレーキ制御が許容される衝突の 1.6
秒前は、80km/h で走行している場合障害物の約 36m 手前に
相当する。この距離でブレーキを作動させるにはさらに早い
タイミングで障害物の存在を判断する必要があるが、カーブ
路の入り口等では路側の構造物等を進路上の障害物と誤判定
する怖れが高い。この課題を如何にクリアするかに開発で取
り組んだ。
まずカーブにおける障害物検出では、車両の舵角センサー、
Fig.5 衝突可能性判断ロジック
ヨーレートセンサーの情報から車両の進路を推定し、例えば
前方に左カーブがある場合には障害物の検出エリアを左方向
4.システム構成
にシフトするロジックを採用した(Fig. 3)。
Fig.3 カーブにおける障害物検出
大型トラックの追突事故の人的要因を分析した結果、前方
不注視や不確認が主要因であることがわかった(Fig. 4)。
Fig.6 システム構成
Fig. 6 にプリクラッシュセーフティのシステム構成を示す。
前方障害物を検出するミリ波レーダー(Fig. 7)、障害物が自
車進路上に存在するかを判断する為の舵角センサー、ヨーレ
ートセンサー、衝突の可能性を判断するコンピューター、ド
ライバーに警報を発する警報装置、制動を行う電子制御ブレ
ーキ(EBS)から構成される。
Fig.4 大型トラック追突事故の人的要因
すなわち、カーブ走行や車線移行等ドライバーが積極的に
運転操作を行っている状況では事故は起こりにくいと言え、
ステアリング等の運転操作の有無を衝突可能性判断アルゴリ
Fig.7 ミリ波レーダー
5.システム作動と期待される被害軽減効果
参考文献
1)国土交通省、先進安全自動車(ASV)推進計画
(第 2 期)に関する報告書、平成 13 年 3 月
2)国土交通省、被害軽減ブレーキ説明資料
Fig.8 システム作動例
Fig. 8 にシステム作動例を示す。コンピューターが衝突の
可能性が高いと判断すると、システムはまず警報音と表示、
及び体感警報としての弱いブレーキでドライバーに衝突回避
操作を促す。もしドライバーが回避操作を行わない場合、シ
ステムは段階的にブレーキを作動させて衝突速度を低減する。
ドライバーが警報に反応してフルブレーキを作動させればさ
らに高い減速効果が期待できる。
全ての大型トラックに被害軽減ブレーキを装着し、衝突速
度を 20km/h 下げることができると、被追突車両の乗員の死
亡事故件数を約 9 割減らすことが可能であると推計されてい
る(Fig. 9)2)。
Fig.9 被害軽減効果の推計
6.おわりに
大型トラック用被害軽減ブレーキ「プリクラッシュセーフ
ティ」を商用車として世界に先駆け開発、商品化した。被害
軽減ブレーキは大型トラックの追突事故時の被害を軽減する
キーテクノロジーであると考えている。「一人でも多くのお
客様にこのシステムを使っていただければ」、そんな気持ち
で本稿をまとめた。
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