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nalysis - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報

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nalysis - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報
Analysis
JOGMEC 石油・天然ガス調査グループ
[email protected]
齊藤 晃
JOGMEC ヒューストン事務所
[email protected]
三津石 裕士
アナリシス
アジア太平洋市場に構造的な影響を及ぼす、
北米西海岸のLNGプロジェクトの現状と見通し
・米国は、全世界の天然ガス消費の約4分の1(日本の約8倍)を占める巨大な市場である。従来、国内産
ガスの不足分は、主としてパイプラインによってカナダから輸入してきた。しかし、米国内の需要増加
と、カナダおよび国内のガス田の生産が成熟化していることから、LNGによってガス需要の増加に対
応することが期待されている。
・EIA(米国エネルギー情報管理局)の見通しによれば、2025年の米国のLNG輸入は、2003年実績の
10倍以上となる約11,000万トンが輸入されると予測されており、新規LNG受入基地は、現在50近くが
計画されている。しかし、米国におけるLNG受入基地建設に対する地元住民の反対運動(NIMBY、
BANANA等と称される)が東海岸・西海岸を中心に激しく、中止に追い込まれるプロジェクトが相次
いでいる。
・今後の米国におけるLNG輸入の去就は、
世界全体のLNG市場にも大きく影響を及ぼすものと考えられる。
特に、
西海岸のLNG受入基地が実現できれば、インドネシア(タングー等)
・豪州(ゴーゴン等)
・ロシア(サ
ハリン2等)等のアジア太平洋LNGの上流側の生産動向に影響を及ぼすだけではなく、現在世界の約半
分(2003年、約5,800万トン)のLNGを輸入する日本を含め、アジア太平洋のLNG市場に大きく影響を
及ぼすものと考えられる。
・西海岸のLNG受入基地計画は、石油ガス産業に親しんだ地域であるメキシコ湾岸と異なり、環境問題
等の理由で、東海岸と同様住民反対運動が強い傾向にある。それは、陸上のLNG受入基地計画だけで
はなく、沖合のLNG受入基地計画においても拡がっている。また、メキシコにおいても、米国国境に
近いBaja California州ではメキシコ人の複雑な住民感情もあって、反対運動が拡がっている。しかし、
こういう強い住民反対運動の状況にあっても、西海岸においてもCosta Azul基地等のように、様々な課
題を徐々に解決し、受入基地の実現が視野に入ってきたLNG受入基地計画もある。
・大西洋LNG市場の影響を受けて、アジア太平洋LNG市場においても、トレーディング、契約、価格決
定方式等が変化する可能性がある(市場間価格差を利用した裁定取引の活発化、仕向地条項の緩和、価
格フォーミュラの変更等)
。実際、2004年10月Costa Azul基地向けに締結されたLNG売買契約(SPA)
においては、仕向地条項の緩和、市場ガス価格にリンクした価格決定方式など、柔軟性のある契約内容
となったようである。
・筆者らは、2004年10月初旬、カリフォルニア州とメキシコBaja California州に出張した。本稿では、西
海岸のLNGプロジェクトの現状と今後の見通しについて、出張時のヒアリング内容等も、ある程度盛
り込んだ上で、考察していきたい。なお本稿では、カリフォルニア州とメキシコBaja California州に絞っ
て考察することとする。その前に、LNGをめぐる米国全体の状況と、LNG受入基地実現の鍵を握る住
民反対運動の状況についても、あわせて考察していくこととする。
1. はじめに
も、
ほぼ横ばいの予想がなされている。
かし、LNG受入基地の建設は、テキ
このような状況を背景に、またエネル
サス州やルイジアナ州といった、従来
EIA(米国エネルギー情報管理局)
ギー選択オプションを増加させるとい
から石油ガス産業に親しんできたメキ
の見通しによれば、米国が輸入する天
う意味からも、米国においてLNGに
シコ湾岸地域を除いて、東海岸や西海
然ガスの大部分を占めるカナダ産天然
対する期待は高まっており、メキシコ・
岸においては、住民反対運動(NIMBY;
ガスは、2010年をピークに減少する見
カナダを含め、受入基地計画は現在50
Not In My Back Yard、BANANA;
込みである。米国国内の天然ガス生産
近くが検討されている状況である。し
Build Absolutely Nothing Anywhere
11 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
海岸のメイン州で計画されていた
も拡がって来ている。
しさから、その実現性については、困
Harpswellのプロジェクトは、住民投
現在、米国の既存LNG受入基地は、
難視する向きもある(JOGMECホー
票により中止に追い込まれた(後述)。
①Everett(マサチューセッツ州)
、②
ム ペ ー ジ:http://www.jogmec.go.jp、
西海岸のカリフォルニア州において
Cove Point( メ リ ー ラ ン ド 州 )
、③
石油・天然ガス資源情報 04/04/22「米
も、Humbolt Bay(Eureka) とMare
Elba Island(ジョージア州)
、④Lake
国:LNG受入基地建設に暗雲?−ア
Islandのプロジェクトが中止に追い込
Charles(ルイジアナ州)の4基地が存
ジア太平洋LNGへ影響?− 齊藤晃」参
まれている。また、2004年3月、メキ
在する(4基地全体の受入能力:約2,000
照)
。
シコのTijuana(カリフォルニア州と
万トン/年弱)が、いずれも東海岸あ
9・11事件や、2004年1月にアルジェ
の国境の町)にあるMarathonのプロ
るいはメキシコ湾岸に位置している。
リ ア のSkikdaで 発 生 し たLNG関 連 事
ジェクトも、住民反対運動の激化を受
一方、西海岸には、現在既存基地が存
故( 以 下、Skikda事 故 ) に よ っ て、
けて、中止に追い込まれている。この
在せず、新規受入基地の建設が望まれ
住民反対運動の勢いはむしろ強まっ
ような動きは、陸上のLNG受入基地
るところである。
ているように思われる。例えば、東
のみならず、沖合のLNG受入基地に
2. 増加する米国のLNG需要
米国においてLNG需要は増大して
おり、中長期的にも増大する見込みで
ある。主なポイントは、下記のとおり
である。
・2003年、 米 国 のLNG輸 入 量 は、 前
年比に比べ倍増した(2002年約490
na
l
y
sis
ys
万トン→2003年約1,000万トン)
。こ
れは日本、韓国、スペインに次いで、
世界第4位の規模である(図1、図2
参照)
。
の約2%である(2003年)
。
・2002年、米国の天然ガス純輸入量
JOGMECデータ等により筆者作成
An
・ただし、米国の天然ガス消費量全体
Analyysis
Ana
nalysis
Near Anyone 等と呼称される)の激
図1 米国のLNG輸入量推移(単位:万トン)
に対するLNGの割合は、5%未満で
あったが、2003年には10%以上に急
増した。EIAの予測によれば、2010
年 にLNG輸 入 量は、4,500万トンに
達し、天然ガス純輸入量に対する割
合も、
約4割となる見込みである(図
3参照)
。
・さ ら に、2025年 のLNG輸 入 量 は、
2003年実績比10倍以上の11,000万ト
ンとなる見込みである。この量は、
現在の世界全体のLNG生産量に匹
敵するものである。
また2025年には、
LNGの輸入割合は、全ガス輸入量
の約7割に増加する見込みである
(図
GIIGNL[国際LNG輸入者協会]のデータ等により筆者作成
図2 世界のLNG輸入量の国別割合
石油・天然ガスレビュー 12
アジア太平洋市場に構造的な影響を及ぼす、北米西海岸のLNGプロジェクトの現状と見通し
な量である。
EIA(米国エネルギー情報管理局)
図3
米国における天然ガスの輸出入形態
(1970 ∼ 2025、単位:TCF)
・北米における天然ガスの確認埋蔵量
2003年12月 のLNGサ ミ ッ ト 会 議 に
は、世界の約4%である。一方、北
お い て、Spencer Abraham米 国 エ ネ
米の天然ガス消費は、世界の約29%
ルギー省(DOE)長官は、米国は今
を占める(米国一国で世界の24%)。
後の天然ガス需要増に対応するため
・EIAの予測によれば、米国の天然ガ
に、2025年(11,000万トン/年輸入と
ス消費は、発電用や産業用の需要増
予測)には、6 ∼ 13基地の新設が必要
などにより、今後20年間で1.4%ず
であり、その投資額は約1,000億ドル
つ成長すると見込まれている(発電
に上る、と述べている。こういった
用の伸びは、1.8%増と予測)。
LNGブームに乗って、関連企業は急
・一方、国内産ガス生産の成長率は
増する需要に応えるため、新規LNG
・現在のLNG輸入は、トリニダード・
1%程度である。今後、メキシコ湾
受入基地の建設計画を次々と進めてい
トバゴ産が約4分の3を占めている
深海、ロッキー山脈、アラスカ等フ
る。
ロンティア地域の開発が進展すると
ところで、このように米国でLNG
・北米(米国・カナダ・メキシコ)に
予測している(しかし、例えば、ア
受入基地計画が次々と建設されるのは
おけるLNG受入基地計画は、約50
ラスカの開発に関しては、環境問題
何故であろうか? 背景として、いろ
近く計画されており(図5参照)
、こ
(ANWR[北極地域野生生物保護区]
いろな要因があるが、①高いガス価格
こ数ヵ月の間にも急増している。
の開発)や200億ドルとも言われる
が維持されていること(一般的に3ド
・FERC( 連 邦 エ ネ ル ギ ー 規 制 委 員
パイプライン投資がネックになって
ル∼ 3.5ドル/百万Btu以上であれば
会:Federal Energy Regulatory
おり、ブッシュ政権の再選後も課題
LNGでも採算性があると言われる)
、
Commission)承認済みの受入基地
が多いと言われている。今後、国内
②前述したように、米国国内のガス田
計画は6つである(2004年9月時点)
。
生産増加率1%の見通しが下方修正
の成熟化だけでなく、カナダのガス田
され、将来のLNG輸入量が増加す
の成熟化により、カナダ産のガス輸入
る可能性がある)。
が2010年をピークに減少が見込まれる
3参照)
。
(図4参照)
。
・現在計画中のLNG受入基地の、全
受入能力は、約3億トン/年と膨大
こと、③LNG関連コストが過去に比べ
低減したこと(液化プラント・LNG
船等、規模の経済性や経験の蓄積等の
理由による)、④規制緩和によりLNG
受入基地建設が進めやすくなったこと
(新規LNG受入基地が「生産設備」とし
て取り扱われ、オープン・アクセス*1
GIIGNLのデータ等により筆者作成
図4 米国のLNG輸入相手国別の割合
の規制対象にならないこと等)等が挙
げられる。
3. 住民反対運動について
あり、テロの標的になりかねないこと
クト「Fairwinds」に対して、Harpswell
も危惧している。9・11事件やSkikda
町の投票者の約4分の3が反対票を投じ
⑴ 米国の住民反対運動の例
事故によって、住民の恐怖感はさらに
た(4,700人のうち3,500人が反対)
。こ
このようにLNG受入基地計画が相
増幅されている。
れを受けて、Fairwinds側は、プロジェ
次いでいる中で、地元住民の反対運動
例えば、東海岸において、2004年3
クト計画を延期せざるを得なくなっ
によって、LNG受入基地建設計画が、
月、 メ イ ン 州Harpswell町 に お い て、
た。
断念もしくは延期せざるを得ないケー
ConocoPhillipsとカナダ大手パイプラ
住民投票の争点は、Harpswell町が
スが相次いで生じてきている。地元住
イン輸送会社TransCanadaが共同で実
所有する、旧米国海軍燃料貯蔵所の土
民は、LNG受入基地が爆発の危険性が
施する、LNG受入基地建設プロジェ
地を、LNG受入基地建設のため土地賃
*1:第三者利用。従来は、FERCは、LNG受入基地を州際パイプライン(州間でのガス輸送に利用される幹線PL。連邦レベルの規制を受ける)と同様に扱っ
てきたが、2002年12月、LNG受入基地に対して、オープンアクセス政策を適用しない旨の決定を行った。これにより、受入基地への投資が容易となった。
13 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
Keltic Petrochemicals(カナダ)
Valdez
Statia Terminals
(カナダ)
Ridley LNG(カナダ)
Irving Canaport
(カナダ)
Kitimat LNG(カナダ)
Bear Head
(カナダ)
Cacouna Energy(カナダ)
Port Westward
Rabaska(カナダ)
Fairwinds LNG
Jodan Cove
Analyysis
Ana
nalysis
Kenai
Quoddy Bay
Everett
Port Arthur
Mare Island LNG
Clearwater Port
Cabrillo Port
Port Penguin
Philadelphia Freedom
Energy Center
Cameron LNG
Lake Charles
Pascagoula
Providence
Broadawater Energy
Crown Landing
Cove Point
Elba Island
Gulf LNG Energy
Vista del Sol LNG
Corpus Christi
Tijuana
(メキシコ)
Energy Bridge
Weaver's Cove
Somerset
Tampa
Compass Port
Main PassEnergy Hub
Gulf Landing Port Pelican
Energy Costa Azul LNG
(メキシコ)
Puerto Libertad
(メキシコ)
Energy Bridge
Pearl Crossing
Jamaica
(ジャマイカ)
Manzanillo
(メキシコ)
Lazaro Cardenas
LNG液化基地 稼動中 (メキシコ)
LNG液化基地 構想・計画段階 LNG受入基地 稼動中
Altamira
LNG受入基地 計画(承認済・建設中)
(メキシコ)
LNG受入基地 構想・計画段階
LNG受入基地 計画中止
Freeport(バハマ)
High Rock LNG
(バハマ)
Ocean Cay
(バハマ)
An
Terminal GNL Mar Adentro
(メキシコ)
ys
Sabine Pass LNG
Creole Trail LNG
Golden Pass LNG
Long Beach Pelican Island
Freeport
Ingleside
na
l
y
sis
Humbolt Bay LNG
Penuelas
(プエルトリコ)
San Andres
(ドミニカ)
Puerto Cortes
(ホンデュラス)
出所:各種資料より作成、2004年11月現在
図5 北米において相次ぐLNG受入基地計画
貸するかどうかであった。反対運動家
などで、毎年800万ドルの収入を得て
銭的なインセンティブも、住民からの
は組織的に活動し、住民に反対投票を
いたと言われる。また、Fairwinds側
支持を集めるのに、十分ではなかった。
行うよう、
キャンペーンを行っていた。
は、建設支援を勝ち取るために、学校
住民の主な反対理由としては、LNG
住民投票で建設計画が承認されていれ
教育に数万ドルを費やすなど、住民の
関連設備が爆発の危険性がありテロの
ば、Harpswell町は賃貸料収入や税金
支持獲得に熱心であった。しかし、金
標的になり得ること、主力の漁業産業
石油・天然ガスレビュー 14
アジア太平洋市場に構造的な影響を及ぼす、北米西海岸のLNGプロジェクトの現状と見通し
の利益を損なうこと、漁業産業からの
があるようである。このようなLNG
Riverプロジェクトについても、Green
転換を望まなかったことなどが挙げら
に対する知識不足に起因して、住民反
Futures側は、漏洩拡散したLNGが引
れる。
対運動がより強くなる傾向があるよう
火することでFall River周辺の5平方マ
カ リ フ ォ ル ニ ア 州 に お い て は、
である。
イル(12.8㎢)が焼失すると主張して
Calpineが 進 め るEureka(Humbolt
さらに、米国でのLNGに関する過
いる。また、Green Futures側は、近
Bay)におけるLNG受入基地計画が、
去の事故の記憶が、影響している面も
隣住民との対話の際、Fay教授の説に
住民反対運動の激化を受けて、中止に
ある。1944年、エリー湖畔のクリーブ
基づき、LNGタンカーが爆発した場
追い込まれた。居住地域から0.5マイ
ランド市においてピークシェービング
合、55個の広島型原爆に相当する爆
ル(約1km)と近かったことも影響し
プラントのタンクが損傷し、4,000㎥
発力を有している、と主張した。Fall
ている。また、Shell/Bechtelが進める
のLNGが流出した。ガスに着火して
Riverプロジェクトの関係者は、Fay
Mare Island(サンフランシスコ湾内)
発生した火災は、市街地に拡がり、約
教授の主張は、物理的に想定できな
のLNG受入基地計画も、住民反対運
130名が犠牲となった。LNGに対する
い面もあり、恐怖の押し売りを行い、
動の影響により、中止に追い込まれて
防液堤がなかったことも影響してい
また過度の誇張を行っているとして、
いる(LNGタンカーが湾内を通過す
るが、当時のタンクの内側に、現在
Fay教授を告発するという動きに発展
ることに対しても反対運動があったよ
のLNG業界の常識では考えられない
した。
うである)
。
材料である3.5%ニッケル鋼が使用さ
メキシコ太平洋岸で、米国国境に
れていたという事情もあった。73年に
過去多数の専門家が研究してきたよ
近 いBaja California州 で、Marathon
は、ニューヨークのスタートン島に
うに、LNGは液体の状態では、爆発
が進めるTijuanaのLNG受入基地計画
て、LNG貯蔵タンクの修理中に、残
燃焼しない。また、気化したガスは、
(発電 所、 海 水 淡 水 化等とのTijuana
存可燃ガスが爆発し、作業員40名が犠
周囲の空気と5%∼ 15%の濃度で混合
Regional Energy Centerの一環。イン
牲になった。こうした背景から、反対
し、かつ着火源があった場合のみ、着
ドネシアのドンギからの供給が予定さ
運動家たちは、米国内で生じた過去の
火するものである。また、仮に発火し
れていた)においても、住民反対運動
LNG事故をよく引用している。
ても、燃焼時間は極めて短く、5分も
の激化を受けて、建設計画を放棄せざ
ここで、住民反対運動に影響を与え
燃焼しないであろうと言われている。
るを得なくなった。
ている、1人のオピニオンリーダーの
FERCも指摘している通り、LNGの
存在について紹介していきたい。主な
輸送は約40年間、安全に行われてきた
⑵ 住民の反対運動の背景
反対派グループであるGreen Futures
実績がある。約60年前に生じたクリー
こ の よ う に 住 民 反 対 運 動 は、 米
は、マサッチューセッツ工科大学の非
ブランドの事故の時代は、タンクの材
国 お よ び メ キ シ コBaja California州
常勤教授であるFay教授の説に基づい
料も、現在では想定できないような材
な ど で 激 化 し て お り、 前 述 の 通 り、
たパンフレットを発行している。Fay
料を使用していた。
NIMBY・BANANA等 と 言 わ れ る
教授は70年代から、LNGタンカーの
ここで強調しなければいけないの
(NOPE; Not on Planet Earth と い う
衝 突 に よ っ てLNGが 海 上 に 流 出 し、
は、現在では過去の教訓を生かし、業
言葉もある)
。このような住民反対運
爆発を起こしかねないことを指摘して
界の多大な努力や技術革新によって、
動は、LNGに限ったものなのであろ
きたが(当時はあまり関心をもたれな
材料も大幅に改良されており、安全性
うか? 答えはNOである。米国では
かったようであるが)、9・11の事件後、
が格段に向上されているということ
ここ約20年程、新規製油所の建設が進
反対運動団体から脚光を浴びるよう
である。住民はLNGに関する知識を、
展しなかった。理由の一つに、住民反
になった。9・11事件を境に、Fay教授
正確に得ていないという側面があり、
対運動の存在がある。新規パイプライ
のシナリオの前提も、「テロリストが、
今後政府をはじめ啓蒙活動がより重要
ンの建設などにおいても、住民反対運
有人ボートによってLNGタンカーに
になってくるものと思われる。
動の激化を受けて、進展しないという
衝突し、大爆発を起こす」というもの
話をよく耳にする。ただし、LNGに関
に変化していったようである。こうし
して言えることは、基地建設が約20年
た主張は、反対運動家たちにとって受
間なされておらず、住民にとって製油
け入れられやすく、同氏はオピニオン
FERCは、このようにLNGに関して
所のような設備と違って、LNG設備
リーダーとなっていったようである。
住民反対運動が激化しているのを受
のイメージを把握しにくいという背景
マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 州 に あ るFall
け、2004年5月安全性に関する報告書
15 石油・天然ガスレビュー
⑶ FERC
(連邦エネルギー規制委員会)
の対応
アナリシス
性蒸気と熱輻射による事故範囲を計測
確に調査されていない面があること、
出に関する事故に対する影響評価手
する影響評価方法を確認している。例
LNG産業が長年にわたって培ってき
法の有効性について」という報告書で、
えば、漏洩したLNGが何らかの原因
た、長期の安全記録を軽視しているこ
LNGタンカーが衝突あるいはテロ攻
で着火した場合の火災(プール火災)
と等の不満を持っているようである。
撃によって、起こり得るLNGの漏洩
からの人や施設への熱輻射の影響評
FERC委員長のPat Woodは、「米国
による大規模災害の可能性について記
価、急速相転移の影響評価等が含まれ
は、LNG輸入に関する管理可能なリ
述している。報告書は、ヒューストン
ている。
スクと、天然ガス価格の高騰によって
にあるABSGコンサルティング社に依
環境保護団体などは、この報告書を
起こり得る経済へのダメージをバラン
頼され、作成された。なお、この報告
LNG受入基地建設を阻止するための
スさせる必要がある」と述べている。
結果については、LNG受入基地審査
材料として使用したいようだが、本報
一説によると、FERCはLNGプロジェ
のためのツールの一つとして、使用さ
告書ではLNGタンカーに対するテロ
クトに対する承認を延期する可能性が
れる予定である。
攻撃について、十分な調査がなされて
あるとされており、LNGプロジェク
本報告書では、LNGタンカーが輸
い面があること等に不満をもってい
トの動向にも影響を及ぼす可能性もあ
送中あるいはバース停泊中に、LNG
るようである。一方で、産業界も、報
る。
が海上に流出する場合を想定し、引火
告書のいくつかに不備があること、正
4. カリフォルニア州と
メキシコBaja California州の
LNG事情
万人、天然ガス消
このように米国においては、LNG
カリフォルニア州
需要増の予測を背景に、LNG受入基
の州内産天然ガス
地の建設計画が相次いでいるが、日本
自給率は約16%に
と違って住民反対運動が根強いという
とどまり、残りを
ことを、住民反対運動の背景ととも
米国南西部地域、
に紹介させて頂いた。米国における
カナダ、米国ロッ
LNG受入基地の動向を分析するとき、
キー山脈*2地方等
住民反対運動の動向の把握は、重要な
から調達してい
ファクターの一つであると考える。
る。その 比 率 は、
次に、本稿の本題である、西海岸
各々 44%、27%、
LNGプロジェクトの現状と見通しに
13%となっている
Analyysis
Ana
nalysis
を発表した。「LNGタンカーからの流
費量は日本の約
7割 程 度 で あ る。
2002年 に お い て、
ys
na
l
y
sis
An
CEC資料
図6 カリフォルニア州消費天然ガスのガス源別の推移
ついて、考察していきたい。なお、本
(図6、図7参照)。米国−カナダ間の主
のネバダ州、アリゾナ州、カナダ等の
稿においては、この数年間でLNG受入
要パイプライン網の西端に位置するカ
需要が旺盛であるので、必要とする天
基地実現の可能性が高く、アジア・太
リフォルニア州は、天然ガス供給不足
然ガスの調達に危機感を持っているよ
平洋LNG市場に影響を及ぼす可能性
時には、他地域からの調達の融通がつ
うである。
が高いと考えられる、カリフォルニア
きにくい。2001年の電力危機時には、
カリフォルニア州エネルギー委員会
州とメキシコBaja California州のLNG
州内のガス価格は、一時的に20ドル以
(CEC)によれば、天然ガス需要に関
事情に絞って、考察していくこととす
上/百万Btuをつけたこともあり、州
しては、発電用を中心に今後10年間で
る。
政府は、国内他州やカナダからのパイ
年率1.5%ずつ増加すると見込まれて
プラインガスやLNG等、供給源の多
いる。発電用の比率も、2004年見込み
⑴ カリフォルニア州のLNG事情
様化を図る施策の実現に力を注いでい
の36%から2013年43%まで上昇すると
カリフォルニア州は、人口が約3,600
る。カリフォルニア州としては、周辺
見込まれている。
*2:図7参照。
(南西部)
El Paso Natural Gas Company、
Mojave Pipeline Company、
Transwestern Pipeline company、
Southen Trails Pipeline Companyによる、
カリフォルニア州への輸送分
(ロッキー山脈)Kern River Tranportation Systemによる、カリフォルニア州への輸送分
石油・天然ガスレビュー 16
アジア太平洋市場に構造的な影響を及ぼす、北米西海岸のLNGプロジェクトの現状と見通し
天然ガス生産能力の
向 上、 ③LNGの よ
⑶ CEC(カリフォルニア州エネルギー
委員会)でのヒアリング内容
うな非伝統的な供給
カリフォルニア州のLNG事情調査
ソースの設備の設置
のため、2004年10月、CEC(カリフォ
等である。
ルニアエネルギー委員会)を訪問した
な お、 州 政 府 間
が、ヒアリング内容の要旨は、以下の
レ ベ ル で、LNG問
とおりである。
題を効率的に取り
CEC資料
図7 カリフォルニア州周辺のパイプライン
組 む た め、CECは
・北米における天然ガス生産は、減退
「LNG Interagency
することが予想され、調達地域の多
Permitting Working
様化を進め、LNGなどを含めた複
Group(LNG認可作
数のオプションを保有することが重
業部会)」の設置を
要であると考えている。
支援している(CEC
・LNG受入基地建設計画の審査をす
によると、同ワーキ
るとき、基本的に人への影響等、安
ンググループは、13
全性を重視している。
CECのエネルギーレポート(2003)
の関係機関を含んでいる)。このグルー
によると、LNG導入するにあたって
プの目標は、LNGプロジェクトの開
るかは不明であるが、right design、
の主要な課題に関して、①安全性、②
発と、環境・住民の安全性・地域社会
right locationのあるところが生き残
品質の問題(パイプラインガスとの
の懸念をバランスさせるエネルギー政
るのであり、企業の努力次第である。
品質の違い)
、③ガス販売契約の問題
策が、首尾一貫しているかどうか確か
・反対運動に関しては、
LNGに限らず、
(膨大なLNG投資をサポートするのに
めることにあることと述べている。
し、またカナダ産および米国産のガス
パイプラインや家の建築等、何にで
もある。
必要)等があると述べている。また、
LNGは、複数国からの供給を可能に
・西海岸にどれだけLNG基地ができ
⑵ カリフォルニア州のLNG受入基地
計画
・カリフォルニア州では、LNG管轄
権をめぐって、CPUC(カリフォル
価格との競合によって、価格低下につ
カリフォルニア州の主なLNG受入
ニア州公益事業委員会)対FERCの
ながることも望んでいるようである。
基地は、4 ヵ所計画されている(図8、
争いがあるが、CPUCもLNG基地建
図5参照)
。陸上のLNG受入基地が1 ヵ
設の推進に決して反対している訳で
所(Long Beach、ロサンゼルス近郊、
はなく、どちらが勝利してもLNG
カリフォルニア州の主なエネルギー
三 菱 商 事 / ConocoPhillips)、 沖 合 の
プロジェクトの推進には、影響しな
政策は、CECのエネルギーレポート
LNG受入基地が3 ヵ所計画されている
いと思われる(後述)。
(2003)によると、以下のようなもの
( ①Clearwater Port:Ventura沖 合、
・カリフォルニア州の場合、他国や他
である。①省エネ(非効率な発電所の
Crystal Energy/Woodside Energy、
州と異なり、ガス品質が異なる。そ
建て替え、コージェネレーションの普
②Cabrillo Port:Oxnard沖 合、BHP
の中の重要な要素である熱量も、イ
及等)
、
②代替燃料の整備(風力、
地熱、
Billiton)
、③Port Penguin:場所未定、
ンドネシア・タングー産は熱量が低
太陽光等、LNGの整備も含む)
、③イ
ChevronTexaco)。カリフォルニア州
いため問題にならないが、それ以外
ンフラの整備(州際P/Lの能力増強、
の計画基地の全受入能力は、約2,000
は品質に問題がある(後述)。
州内貯蔵設備の活用、既存ガス田の生
万トン/年である(③のPort Penguin
産能力の増強、LNGのような非伝統
を除く)
。
的な供給ソースの発展等)
。
な お、Humbolt Bay(Eureka[ カ
・LNG価格決定方式については、日本
また、天然ガスインフラ関する主な
リ フ ォ ル ニ ア 州 北 部 ]、Calpine) と
のような価格フォーミュラは安定的
施策は、以下のとおりである。①カナ
Mare Island(Vallejo[サンフランシ
であり、売主・買主双方にメリット
ダや米国南西部地域、米国ロッキー
スコ近郊]
、Shell/Bechtel)の2つのプ
があるかもしれないが、市場連動型
山脈からの州際P/L能力の増強、②州
ロジェクトが中止となっている。
が望ましいと考えている。その中で
(参考)
内の貯蔵施設の柔軟な活用、③州内の
17 石油・天然ガスレビュー
・米国はガスの地下貯蔵システムが充
実している。
も、Henry HubなどではなくSoCal
アナリシス
LNG受入基地については、州が管轄権
ている(後述)
。
益事業委員会)対FERCの問題、②熱
を有し、推進企業は州に申請義務があ
・LNG受 入 基 地 が 増 加 し た 場 合 の、
量問題、③価格、については重要な論
る旨を発表した。連邦政府側(FERC)
供給過剰の可能性について:企業が
点であり、簡単に考察していきたい。
が、陸上のLNG受入基地の許可権限
撤退し、LNG関連設備が残存する
①FERC対CPUC
を持つことに反対したのである。こ
ことを懸念している。その際は、企
カリフォルニア州のLNG受入基地
れを受けて、同じ3月、FERCは陸上
業に警告するつもりである。
計画を論じる際、FERCと州政府との
のLNG受入基地に対する許可権限は、
・CECと し て も、LNGが 安 全 で あ る
LNG管轄権をめぐる争いについて述
連邦政府が独占的に保有するとした指
ことを、住民に啓蒙することは重要
べなければならない。
現在、
SES
(Sound
令を発表している。ただし、FERCは
であると考えており、力を入れてい
Energy Solutions、三菱商事の子会社)
安全性に関するCPUCの懸念はもっと
る。例えば公聴会等で、説明会を開
の進めるLong Beach受入基地計画の
もであり、今後も協調して対処してい
催している。熱心な聴衆者も多く、
管轄権を巡り、FERCとCPUCが縄張
くとしていた。また、FERCは同月、
300名∼ 400名の聴衆者が集まった
り争いを続けており、連邦控訴裁判所
LNGの重要性に鑑み、新規にLNGエ
こともあった。
で係争中である。CPUCの見解によれ
ンジニアリング課を創設している。新
ば、Long Beach受入基地のLNGは州
組織は、LNG受入基地の審査、関係
内消費にされるだけで他州に供給され
機関(USCG*4・米国運輸省など)と
ず、よって州が権限を保有するのは当
の調整を行う。なお、11月、連邦議
電用の将来予測は比較的簡単である
然だと主張している。個人的見解では、
会は陸上のLNG受入基地の管轄権は、
が、輸送用の将来予測は難しいと考
先述したようなカリフォルニア州のエ
FERCにあると判断、CPUCの主張を
える。量は限定されるかもしれない
ネルギー政策を考慮す
が、自動車等の輸送用の伸びによっ
る と、LNG受 入 基 地
て、LNG等の需要が変化する可能
建設は推進されるもの
性もあると考えている(補足:カリ
と思われる。しかし、
フォルニア州では、天然ガス自動車
裁判の長期化も予想さ
の形態としては、CNG車[圧縮天
れ、LNG受 入 基 地 の
然ガス車]よりもLNG車が一般的
稼動時期が遅れる等の
である[空港での利用やごみ収集車
影響が考えられる。
CI
FI
(参考)
プロジェクト名
①
Clearwater Port(沖合)
②
Cabrillo Port(沖合)
③
Long Beach(陸上)
④
Terminal GNL Mar Adentro(沖合)
⑤
Costa Azul(陸上)
⑥
Port Penguin
内において建設される
プラントサイト
Ventura沖合
参加企業
Crystal Energy
カリフォルニア州
Oxnard沖合
カリフォルニア州
Long Beach市
カリフォルニア州
Tijuana沖合
Woodside Energy
Baja California州
Ensenada
Baja California州
カリフォルニア州沖合
各種資料より筆者作成
図8
N
は、カリフォルニア州
No.
�
EA
2004 年 3 月、CPUC
ここでは安全性等、色々な論点があ
�
OC
みのようである)
。
�
C
等で利用]
。なお、LNG車への転換
に関しては、全額補助金が出る仕組
�
ys
・将来的なLNG需要予測について、発
�
An
も期待している。
na
l
y
sis
・今後、水素エネルギーや燃料電池に
Analyysis
Ana
nalysis
るが、①CPUC(カリフォルニア州公
PA
border Index*3等が相応しいと考え
使用開始予定
受入能力(百万トン/年)
2007
7.6
BHP Billiton
n.a.
6.1
三菱商事/ ConocoPhillips
2008
5
ChevronTexaco
2007
5.7
Sempra / Shell
2008
7.6
ChevronTexaco
n.a.
n.a.
カ リ フ ォ ル ニ ア 州、 メ キ シ コBaja California州 の
LNG受入基地計画
*3:南カリフォルニア州際スポット価格
*4:米国沿岸警備隊:陸上のLNG受入基地計画の許認可権は、FERC(連邦エネルギー規制委員会)にある。なお、沖合のLNG受入基地については、LNG
基地建設促進を目的として2002年に改正された深海港法(Deepwater Port Act)に基づき、米国運輸省(DOT)・沿岸警備隊の規制下に位置付けられ
ることになった(沖合3マイル以上のプロジェクト)
。例えば、沖合のLNG基地で承認を受けたものに、メキシコ湾でChevronTexacoの主導するPort
Pelicanプロジェクトがある。
石油・天然ガスレビュー 18
アジア太平洋市場に構造的な影響を及ぼす、北米西海岸のLNGプロジェクトの現状と見通し
退けている。
を行うこととなっ
②熱量問題
た。
米国においてユーザーに供給される
な お、2004年
ガスの熱量は一般的に低く、アジア・
10月、 サ ン デ ィ
太平洋地域産のLNGは、インドネシ
エゴに本社を置
ア・ タ ン グ ー 産( 約1,050Btu/cf) を
く、エネルギー総
除き、比較的熱量が高いため、受入側
合 会 社 のSempra
の企業にとって、熱量管理の問題は重
が、メキシコBaja
要である。このようなLNGを米国市
California州 に あ
場に持ち込み、ユーザーに供給するた
るCosta Azul基地
めには、熱量を下げる必要がある。そ
向けに、タングー
のため例えば、設備投資がかかる窒素
か ら のLNG売 買
設備を設置して、熱量を調整する工程
契約を締結した
が必要となる。なお、2003年の米国の
が、担当者によれ
LNG輸入量のうち、約4分の3をトリ
ば、タングー産の
ニダード・トバゴ産が占めているが、
ガスが低熱量であることが調達理由の
その理由としては、同国産のLNGは
一つであると述べていた。
熱量が低く、国内産ガスとの互換性が
③価格
①メキシコの天然ガス事情
あるためである(図9参照)
。
CECとのヒアリング時、カリフォ
2003年のメキシコの天然ガス消費
南カリフォルニアのパイプラインガ
ルニア州におけるLNG価格の決定方
量は、日本の約6割である(454億㎥、
スの平均品質でみると、熱量規格は約
式についての考え方を聞いた。それに
BP統計)。メキシコは、石油に関し
1,020Btu/cfであり、低熱量である(メ
よると、先方は「LNG価格決定方式に
ては輸出国であるが(2003年約210万
タン含有率95%以上)
。Long Beach基
ついては、日本の価格フォーミュラ等
b/d、BP統計)、従来から天然ガスよ
地では、輸入するLNGを適正な熱量
は比較的安定的で、売主・買主双方に
り石油の開発を優先させてきたという
にするため、C2+(エサナイザー)分
メリットがあるかもしれないが、市
事情もあって、天然ガスに関しては輸
離装置等を設置する予定である。
なお、
場連動型が望ましいと考えている。そ
入国となっている。2003年には米国か
C2+等 の 処 理 は、Long Beach受 入 基
の中でも、Henry Hubなどではなく、
ら90億㎥を輸入している(BP統計)
。
地 で は な く、 近 隣 のConocoPhillips
SoCal border Index等のカリフォルニ
EIAの予測によれば、需要は発電用を
の 製 油 所 で、 処 理 さ れ る 予 定 で あ
ア州で取引される価格が、相応しいと
中心に、2025年までが年率3.9%ずつ
る(製油所までパイプラインを敷設
考えている」と述べていた。日本と違
増加する見通しである。現在、メキ
し、C2+等 を 送 出 )
。 こ の た め、SES
い、米国の天然ガス市場は自由化が進
シコでは、ブルゴス盆地等でMultiple
にとって、熱量調整にかかる設備投
み、かつパイプライン網が充実してお
Service Contractという方式(法的に
資が軽減されることになる。SESは、
り、パイプラインガスとの代替が可能
外資への資源所有権の移転を伴わない
ConocoPhillipsとLong Beachの基地建
なことから、市場価格リンクが望まし
メキシコ独自の包括的サービス契約。
設に関して、共同開発を行うことで合
いと考えているようである。また、天
外資に作業対価を支払うサービス請負
意したが、メジャー等複数ある候補の
然ガスの適正価格水準についてCEC
契約)によって、天然ガスの増産プロ
うち、ConocoPhillipsを選択した理由
に聞いたところ、4ドル/百万Btu以
ジェクトが実施されている。しかし、
の一つは、ここにもあるようである。
下が望ましいと考えるが、米国国内生
天然ガス需要増大を背景に、ある調査
通常であれば、熱量の高いLNGを輸
産の減退、今後の国内天然ガス開発が
機関の予測では、2009年には、2003年
入し、これをユーザーに供給する場
フロンティア地域であるメキシコ湾深
の4倍以上となる、約380億㎥が輸入さ
合、熱量を適正にするため窒素と混入
海・アラスカ等に向かうことで、コス
れる見通しである。
して、熱量を下げるのであるが、西海
ト増加(探鉱コスト・パイプラインコ
メキシコとしては、LNGの導入が
岸においては窒素基準(ガスに含まれ
スト等)が予想されるので、価格の低
可能になれば、ガスを米国のみに依存
る含有量の誤差基準)が東海岸と比較
下は困難ではないかと述べていた。
するのではなく、インドネシア・豪州
してより厳しいため、このような措置
19 石油・天然ガスレビュー
EIA
図9 主なLNG生産国別の熱量
⑷ メキシコBaja California州のLNG
事情
といったアジア太平洋地域、ロシア
アナリシス
(サハリン2等)
、ペルー・ボリビアと
いった南米地域など、供給源の多様化
を図ることが可能となる。2001年のカ
リフォルニア州電力危機の教訓から、
LNGの導入が、米国依存の脆弱性を
緩和できると考えているようである。
メキシコでは、メキシコ湾岸にある
Sempra HP
Altamira LNG受入基地、太平洋岸に
図10 Costa Azul基地完成予想図
面したLazaro Cardenas LNG受入基地
定 で あ る( 図5参 照、Shell/Total/三
井物産で共同推進。メキシコ電力公社
(CFE) へ の ガ ス 供 給 が 決 ま っ て い
る)
。メキシコ政府は中長期的に、米
国の天然ガス不足が深刻であると予測
し、将来メキシコへの輸出が継続可能
であるかどうか不明であるとして、メ
キシコでのLNG受入基地建設を積極
的に支持する意向を表明している。メ
キシコ電力公社(CFE)は、メキシコ
において2010年までに少なくとも3つ
のLNG受入基地が必要であると、予
Sempra HP
測している。
図11 Costa Azul基地周辺パイプライン図
ys
現在建設中であり、2006年稼動開始予
na
l
y
sis
シコ湾岸のAltamira LNG受入基地は、
Analyysis
Ana
nalysis
などが計画されている。このうちメキ
基地が最も先行しており(下記参考参
こうした中で、反対運動は激化し
Baja California州 で は、Sempra/
照)
、2004年10月には、西海岸初とな
ている。反対者の共通意見は、同州の
Shellの 進 め る 陸 上 のLNG受 入 基 地
る 長 期LNG売 買 契 約(SPA) が 締 結
LNGプロジェクトは、結局米国カリ
で あ るCosta Azul基 地( 米 国 国 境 か
された。
フォルニア州の需要増に向けたもので
ら 50 ∼ 60km 南 )
、ChevronTexaco
メキシコBaja California州において
あり、メキシコにリスクのみを押し付
の進める沖合のLNG受入基地である
は、同国西部のカリフォルニア半島に
けるものであるとしている。
Terminal GNL Mar Adentro( 米 国
位置しており、周りを海や川に囲まれ
国境の町Tijuanaから約13㎞沖合)等
ている。同州政府は、メキシコ主要
が計画されている(図8、図5参照)
。
部のパイプライン網から外れているこ
Costa Azul LNG受入基地は、米国・
なお、前述した通り、本年3月には、
とから、LNG受入基地建設を推進し
メ キ シ コ 国 境 か ら 約50 ∼ 60km南 に
Marathonの 進 め るTijaunaの 陸 上 の
たい意向を持っており、Colonet地方
位置する。Ensenada市街地からは約
LNGプロジェクトが、住居地域に近接
で構想されているプロジェクトを自ら
22km北方の、人口密集地域から離れ
していたこともあって、住民反対運動
推進している。2004年5月には、州知
た場所にある。近接する道路からも
が激化したため、中止に追い込まれて
事自ら、香港の海運会社(Hutchson
見えにくく、隔絶された環境にある
いる。いずれのプロジェクトも、Baja
Whampoa) を 訪 問 し、LNG受 入
( 図10参 照 )。2004年3月、Marathon
California州の中でも、米国国境に近
基 地 建 設 の 勧 誘 活 動 を 行 っ て い る。
が計画するTijuanaのLNG受入基地が
い場所に位置する。Baja California州
ConocoPhillipsに対しても、基地建設
住宅地域に近接していることもあっ
のプロジェクトの中では、Costa Azul
の要請を行っている。
て、 中 止 に 追 い 込 ま れ た が、 対 照
An
②Baja California州のLNGをめぐる事情
(参考)
石油・天然ガスレビュー 20
アジア太平洋市場に構造的な影響を及ぼす、北米西海岸のLNGプロジェクトの現状と見通し
的 で あ る。 な お、 販 売 先 と し て は、
・LNG産業は、良い技術であり、良
訟が起こったことにも対応するた
Termoelectrica de Mexicali(TDM)
い産業であると理解している。しか
め、 審 査 項 目 を 増 加 さ せ て い る
発電所(60万kw)向けをはじめ、発
し住民はリスクに敏感であり、配慮
(ChevronTexaco の Terminal GNL
電用等を中心に増大するメキシコの天
が必要である。ただしそれは管理不
Mar Adentroの沖合プロジェクトで
然ガス需要に賄われる他、一部は米国
能なものではなく、管理可能なリス
は、審査項目が増加した模様)
。
向けにも販売される予定である。ただ
ク(manageable risk) で あ る と 認
・中央政府は許可を与えるだけでよい
し、Costa Azul受入基地沖が浅いため、
識している。
浚渫費用が発生する等の課題があるよ
が、対応するのは地元市長や地元の
・企業側に対しては、LNG受入基地
行政当局である(一般的に、メキシ
うである。
稼動後、継続して安全に操業が可
コの場合、米国に比べ、中央政府の
2003年4月 に メ キ シ コ 環 境 資 源 省
能なのかどうか確認している(Can
許可取得がしやすいと言われる)
。
(SEMARNAT)
、8月 に メ キ シ コ エ
be safely operated?)基地稼動後の
・メキシコ国民としての複雑な国民感
ネ ル ギ ー 規 制 委 員 会(CRE)
、地元
フォローアップが、大変重要である
情あり(メキシコ人のプライド、ア
政 府 の 土 地 使 用 許 可 を 取 得(3つ の
と考える(keep watching safetyの
イデンティティ)(後述)。
主要許可と言われる)している。年
姿勢が鮮明)。
・(住民と環境局との対応例:2004年
内に建設許可を取得した上で、2008
・基地稼動後、世界中からLNGタン
年初頭の稼動開始を目指すようであ
カーが入港した場合の環境影響を懸
地に近くで漁業を営む漁民と協議)
る。なお、基地稼動に間に合うよう
念している(大量の排水[バラスト]
漁業だけで生計を立てる人もいる。
に、パイプラインを新規に設置する
による汚染問題、外来生物(熱帯地
LNGの気化時に生じる低温海水の
予定である(図11参照)
。安全性にも
方から来る生物等)による生態系の
影響で、漁業に打撃を与える恐れも
十分配慮し、政府の指導によりタンク
影響[タンカーに付着する貝類等]
ある。不安に思っている人も多い。
をfull conatainment tankに す る 等 の
等)
。
そういう人達の面倒を見るのも、仕
10月初旬、Costa Azul基地建設予定
計画である(石油・天然ガス資源情
・LNG受入基地建設時に想定される、
報 04/12/02 「北米西海岸:メキシコ
土砂採掘や、ダンプカーの出入りに
・TijuanaとEnsenada(Costa Azul受
Costa Azul基地向けに北米西海岸初の
よる公害問題なども懸念している。
入基地)の違い:Tijuana(Marathon
・LNG受入基地建設時に設置される
のプロジェクトが中止に追い込まれ
LNG売買契約締結へ」齊藤晃)
。
事の一つである。
防波堤による、海流への影響なども
た)は、比較的大きな都市であり、
懸念している(TijuanaのMarathon
環境問題にうるさい人もいる。
一方、
プロジェクト中止の一つの理由に、
Ensenadaは、どちらかというと田
住民反対運動が根強い、メキシコ
防波堤の設置が景観に悪影響がある
舎の静かな町。本音では受入基地建
Baja Calironia州のLNGをめぐる状況に
との理由もあり)。
設を望んでいないが、雇用創出も行
③メキシコBaja California州環境局で
のヒアリング内容
つ い て、2004年10月、Baja California
・Sempraの ケ ー ス で は、 予 定 し た
州環境局を訪問した。ヒアリング内容
審査項目で十分対応できると判断
の要旨は下記のとおりである。
していたが、住民から数多くの訴
われ、利益を享受できるという意識
もあるのかもしれない。
5. カリフォルニア州と
メキシコBaja California州の
LNGプロジェクトの特徴
上のLNG受入基地のみならず、沖合
リング結果も交えながら、個人的見解
のLNG受入基地に対しても住民反対
を述べていきたい。
メキシコのBaja California州のLNG受
①沖合LNGプロジェクトも反対運動
前述したように、従来から石油ガ
入基地プロジェクトに関しても、メキ
LNG受入基地計画は一般的に、住
ス産業に親しんできたメキシコ湾の
シコの複雑な住民感情もあって、住民
民反対運動が強い場合、居住地域に近
LNG受 入 基 地 プ ロ ジ ェ ク ト と 異 な
反対運動が激しい。ここでは、カリフォ
い陸上のLNG受入基地から、沖合の
り、 西 海 岸 や 東 海 岸 で は、NIMBY、
ルニア州とメキシコBaja California州
LNG受入基地へ移行する傾向がある
BANANAといった住民反対運動が激
のLNG受入基地プロジェクトの特徴
が、カリフォルニア州とメキシコBaja
しい。西海岸のプロジェクトでは、陸
と思われる点について、地元でのヒア
California州については、沖合LNGプ
21 石油・天然ガスレビュー
運動が激しい。また、米国国境に近い
アナリシス
ロ サ ン ゼ ル ス 港、Long Beach港 等、
めているため、パイプラインの市内通
ば、豪州のBHP Billitonが進める沖合
西海岸の港の荷役業務が閉鎖されたと
過が承認されないという事態になっ
LNG受入基地であるCabrillo Portは、
いう事態もあった(港湾業務近代化の
た。このため、LNG受入基地計画推
Oxnard市 の 沖 約21マ イ ル( 約34km)
ための新システム導入問題を契機に)。
進の障害になっているようである。一
にあり、居住地域からかなり離れた地
労働組合の支持を取り付けられるかど
方、Long Beach基地では、SoCal社の
域にあるが、地元住民はLNG受入基
うかは、LNG受入基地建設が実現で
既存主要パイプラインにつなぐ新設パ
地やLNGタンカーがテロの標的にな
きるかどうかのファクターの一つであ
イプラインの距離が2マイル(約3km)
りかねないこと、環境に影響を及ぼす
る。
と短く、かつパイプライン通過場所は、
ことを懸念している。仮に沖合のLNG
③生物への影響等
港湾局の土地であるということもあり
受入基地であっても、対岸が風光明媚
環境団体などは、LNG受入基地の
right of way(通過権)がとりやすい
な環境にある場合等、住民反対運動が
建設が、周辺の海水の温度を変化させ、
というアドバンテージがある。
生じているようである。
地元情報では、
これが海洋生物(イルカやアザラシ
⑤メキシコ人のプライド、アイデン
資産家の別荘地も多数あるため、資産
等)や、漁業等に悪影響を及ぼす可能
ティ
価値が下落しかねないことを懸念して
性があると非難している。Costa Azul
2004年3月、Marathonが進めていた、
いる人もいるようである。
基地に関して、地元政府の環境局との
Baja California州TijuanaでのLNG受入
②地元への経済効果(雇用問題、労働
ヒアリング時にも、低温の海水による
基地計画が、住民反対運動の激化を受
組合問題も含む)
漁業への悪影響を懸念していると述べ
けて、州政府が土地を没収したことで、
沖合LNG基地建設の場合、一般的
ていた。漁業のみで生計を立てている
中止に追い込まれた。原因としては、
にプラットフォームや気化装置等の設
人達に配慮したものである。防波堤設
居住地域のすぐ近くで、住民に目に付
備を、例えば海外で建造・曳航・搬入・
置による、海流の変化等も懸念してい
きやすい環境であったことも挙げられ
据付するというイメージである。その
た。受入基地の光による海鳥への悪影
る。また、LNG受入基地建設予定地
ため、一般的に地元への経済効果や雇
響を、懸念するといった指摘さえあっ
が米国の国境と目と鼻の先にあり、輸
用創出効果は少ないと言われる。
実際、
た。
入されたLNGが気化され、パイプラ
地元への経済効果は小さいと見る住民
④パイプラインの敷設
インを使って米国に送出される可能性
も多い。
州内の既存主要パイプラインにつな
があることに、メキシコ人が嫌悪感を
一方、陸上のLNGプロジェクトで
ぐための、新規パイプラインの敷設に
抱いたことも、反対運動を激化させた
あるLong Beach基地の場合、建設時
ついても、問題になることが多いよう
一因とも言われている。
において、約1,000人の雇用が創出さ
に感じられる。例えば、カリフォル
背景に、米国に対するメキシコ人
れると言われている。その結果、地元
ニア州北部のHumbolt Bay(Eureka)
の複雑な国民感情がある。前述した
の労働組合の支持が得やすくなったと
のプロジェクトが撤退理由の一つに、
ように、反対者の主な共通意見とし
いう事情がある。Long Beach市はロ
新設するパイプラインが国立自然公園
て、Baja California州のプロジェクト
サンゼルス市の隣に位置し、港湾関連
内を通過するため、地元の了解を得ら
は、結局カリフォルニア州向けであ
事業等の産業が集積している。そのた
れず、撤退に追い込まれたという事情
り、メキシコのコミュニティに、リス
め労働組合の力が強い地域と言われ
があったようである(他に、居住地域
クを押しつけるものであるという意見
る。住民反対運動が強いイメージがあ
まで約1kmと近かったこと、地震断層
が あ る。ChevronTexacoが 推 進 す る
るが、Long Beach市では、基地の建
に近いこと、霧が発生しやすい地域の
Baja California州Tijuana沖合のLNG受
設が雇用促進につながるとして、労働
ため基地稼動に支障が出やすいこと等
入基地、Terminal GNL Mar Adentro
組合が「Yes!LNG」というステッカー
の理由もあったようである)。
を作って、早期着工を唱えるといった
BHP Billitonが 進 め るCabrillo Port
島から約1km)に関しても、観光地の
こともあった。
のプロジェクトも、既存主要パイプ
Coronado島から近く、反対運動が強
米国において注意すべき点である
ラインにつなぐ、新規敷設予定のパイ
い。メキシコのPRI(制度的革命党)
が、米国の労働組合は、主として産業
プラインが、Oxnard市内を通過する
議員が、このプロジェクトの件で、こ
別組合が中心であり、強大な権限を保
ことが課題となっているようである。
のプロジェクトで計画されている気化
有する。過去に港湾労働者関係の労働
Oxnard市議会は、住民反対運動の影
時に使用する海水の利用でさえ、メキ
組合が主導するストライキによって、
響もあって、反対派議員が多数派を占
シコ領土の割譲にも等しいとしたとし
Analyysis
Ana
nalysis
ロジェクトへの反対も根強い。例え
An
ys
na
l
y
sis
(Tijuanaか ら 約13km沖 合、Coronado
石油・天然ガスレビュー 22
アジア太平洋市場に構造的な影響を及ぼす、北米西海岸のLNGプロジェクトの現状と見通し
指導を受けて、安全性に十分配慮する
努力を行っている。州政府、市議会、
周辺住民等の支持を取得するため、あ
るいは環境団体等に説得を行うため、
LNGの安全性に関する啓蒙活動を頻
繁に行っている。米国ではLNG受入
基 地 も 約20年 間 建 設 さ れ て お ら ず、
LNGに対する知識が十分ではないと
いうこともあり、LNGに関する正し
い知識を浸透させる啓蒙活動は重要で
SES資料
図12 full containment tankのイメージ図
ある。企業側はLNG導入の環境改善
効果のアピールなども行っている(例
えば、大気汚染が深刻なロサンゼルス
港湾地域で、ヤードトラックのディー
ゼルからLNGへの燃料転換を促進さ
せる動き等)。
また企業側は安全性への対策とし
て、多少コスト高になっても、設置
するタンクをsingle containment tank
に 比 べ、 よ り 安 全 性 を 配 慮 し たfull
containment tank形式を採用する(図
12、図13参照)、タンクの周囲をLNG
の漏洩を防止するため防御壁(ダイク)
を設置する、熱拡散範囲をLNG基地
敷地内部におさめるように基地レイア
SES資料
ウトの変更を行う等、安全性に対して
single containment tank / double containment tank/
図13
full containment tankの比較図
鋭意努力を行っている。テキサス州等
メキシコ湾の場合、元々石油ガス産業
て、批判をしている(なお、このプロ
ティに対する配慮が、重要であると思
に慣れ親しんだ地域であり、比較的順
ジェクトは、2004年10月SEMARNAT
われる。
調に基地建設計画が進展することが多
いが、北米西海岸での基地建設を推進
[メキシコ環境資源省]から環境面の
許可を取得している)
。このように、
⑥安全性に対する配慮
するにあたっては、安全に対する配慮
プロジェクトを進めるにあたっては、
LNGプロジェクトを推進する企業
がより重要であるようである。
メキシコ人のプライドやアイデンティ
としては、住民反対運動や政府当局の
6. Costa Azul基地向け
LNG売買契約(SPA)の内容と、
アジア太平洋LNG市場への影響
年10月、西海岸向け初の長期LNG売
売 買 契 約、 も う 一 つ は サ ハ リ ン2プ
買契約(SPA)が締結された、Costa
ロジェクトとのLNG売買契約である
Azul基地向けの契約内容と、今後の
( 図14、 表1参 照 )。 西 海 岸 向 け の 契
見通しについて簡単に考察していきた
約 は、 従 来MOU(Memorandum of
以上、アジア太平洋LNGに影響を
い。
Understanding:売買に関する合意契
及 ぼ す 可 能 性 が 高 い と 考 え ら れ る、
2004年10月、Costa Azul基 地 向 け
約書)止まりであったが、西海岸向け
カ リ フ ォ ル ニ ア 州 と メ キ シ コBaja
のLNG売 買 契 約(SPA) が、 相 次 い
初 め て の 長 期LNG売 買 契 約(SPA契
California州のLNG事情について、特
で2つ締結された。一つはインドネシ
約)となった。
徴等も含めて考察してきた。次に2004
ア・タングープロジェクトとのLNG
23 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
ポット価格であるSoCal border Index
リンクとなっているようである。
なお、
SoCal border Index は、Henry Hub
価格とほぼ同様の動きをしているが、
2001年の電力危機時においては瞬間的
に20ドル以上/百万Btuをつけたこと
もある。米国ではLNGの価格設定にお
いても、充実したパイプライン網を背
景に、パイプラインガスとの代替が可
能なことから、Henry Hubといった市
場原理に基づいた透明な価格にリンク
Analyysis
Ana
nalysis
した価格設定がなされている。日本の
場合はそれと異なり、基本的に契約毎
によって異なる。日本等の東アジアの
JOGMEC資料
図14 Costa Azul基地をめぐる、主なアジア太平洋LNGプロジェクト
タングー
(インドネシア)
構 成
稼動開始予定
BP
MI Berau
37.16%
16.30%
CNOOC
日石ベラウ石油開発
KGベラウ石油開発
16.96%
12.33%
10.00%
2008
生産規模
(万t/年)
700
∼ 800
原油価格リンク(JCCリンク等)では
あるが、いわゆるSカーブによって変
動性が軽減されている。日本の公益企
業等の受入側としては、SoCal border
Index等変動幅が大きい米国の市場価
格を、受け入れるのは抵抗が大きいも
LNGジャパン
7.35%
Berau、Muturi、Wiriagar
CNOOC(福建省向け)
:260万t/年(2007年開始 25年間)
のと思われる。ただし、仕向地の問題
Posco:55万t/年(2005年開始、20年間)
K Power:60万t/年[最大80万t/年](2006年開始、20年間)
決定方式は存在しないこともあり、米
が解決すれば、現在グローバルな価格
構 成
稼動開始予定
Shell
55%
2007
サハリンⅡ
三井物産
25%
(ロシア)
三菱商事
20%
東京電力:150万t/年、および買主オプション数量(2007年開始、22年間)
東京ガス:110万t/年(2007年開始、24年間)
東邦ガス:30万t/年(2010年開始、23年間)
生産規模
(万t/年)
960
九州電力:50万t/年(2009年開始、22年間)
Shell(Costa Azul向け):3,700万t(2008年開始、20年間、最初3年間160万t/年)
取引等といったLNGトレーディング
等が活発化する可能性がある。また、
今後価格フォーミュラは、契約更新時
のタイミング等において徐々に、一部
An
プロジェクト名
ys
国と日本の市場価格差を利用した裁定
Sempra:370万t/年(2008年開始、20年間)
na
l
y
sis
プロジェクト名
主な市場の価格フォーミュラは、一応
あるいは全面的に変更する可能性があ
る。
②仕向地
LNG売買契約締結は、西海岸初の
各種資料により筆者作成
表1 タングー、サハリン2プロジェクト
LNG受入基地建設に向けた具体的な
動きである。例えば、タングープロ
Costa Azul基地向けの契約は、北米
たが)
、念願の北米市場への足がかり
ジェクトのオペレーターであるBPと
西海岸向け初のLNG長期売買契約で
を得ることとなった。LNG売買契約
Sempra間の契約では、仕向地条項が
の内容と、今後の影響について、
あり、西海岸初の基地建設に向けて、 (SPA)
緩和されており、高い柔軟性が確保さ
画期的かつ具体的な動きである。イ
ポイントとなる価格と仕向地の点につ
れているようである。現在、日本等ア
ンドネシア・タングーについては、ア
いて、簡単に考察したい。
ジア・太平洋LNG市場における多く
ジアから西海岸へという具体的な動き
のLNG契約では、テイクオアペイが
となった。また、サハリン2を通して
①価格
厳しいだけではなく、仕向地の点では、
ロシアは、LNGというオプションに
Costa Azul基 地 向 け のLNG売 買 契
FOB(本船渡し、生産地の港での引
よって(ロシアは従来パイプラインを
約(SPA) で あ る が、 価 格 決 定 方 式
渡し)の契約でさえ、厳格な仕向地制
通じて、欧州に天然ガスを供給してき
は、主として南カリフォルニア州際ス
限が課されている。今回の契約では、
石油・天然ガスレビュー 24
アジア太平洋市場に構造的な影響を及ぼす、北米西海岸のLNGプロジェクトの現状と見通し
仕向地条項の緩和によって、アジアへ
価格で仕入れざるを得ない等、価格面
給・安定価格を志向する日本の公益企
の転売も可能になると言われており、
だけでなく調達面でもボラティリティ
業が、価格について従来の価格フォー
これが実現されれば日本の公益企業等
が高まる恐れもある。
ミュラを劇的に変化させる可能性のあ
る、価格フォーミュラの変更等を受け
が不測の事態にLNGを調達するとい
うことも可能になると思われる。
今後、アジア太平洋LNG市場におい
入れるのかどうかは疑問である。ただ
さらに、アジア太平洋LNG市場で
ても、大西洋市場と同様、流動性・柔
し、仕向地条項の緩和については、
徐々
この種の契約が締結されたことによっ
軟性が高まることは間違いないと思わ
に是正されていくのではないかと考え
て、日本等のLNG契約も、契約更改
れる。現在でも、スポット取引や契約
られる。今後のLNG市場の展開によっ
時のタイミング等に、
point to point
(二
期間の短縮化の仕組みも増加しつつあ
ても変化するが、長期契約・テイクオ
者間取引)である仕向地条項が緩和さ
る。また、従来のコンソーシアムを通
アペイなどの従来の契約形態は残しな
れた契約が、
促進される可能性もある。
じた共同売買方式も徐々に減少し、企
がらも、契約更改時のタイミング等に、
ただし、良い面ばかりではなく、不測
業の独自性が発揮されやすい状況にあ
徐々に柔軟性が高まっていくものと予
の事態にLNGが手に入らない、高い
る。しかし、どちらかというと安定供
想される。
が生じていくものと思われる。
建設コスト増大等の課題がある。
②北米西海岸プロジェクトにおい
④Long Beach基地についても、安全
て、Costa Azul LNG受入基地、Long
対 策(full containment tank等 )
・品
①現在、LNG市場は変化の時代にあ
Beach LNG受入基地の実現可能性は
質対策(熱量調整・C2+対策等)
・市
り、市場構造の変化の最中である。ア
比較的高いと考えられる。他のプロ
議会対策・労働組合対策(雇用対策等)
・
ジア太平洋LNG市場も、市場メカニズ
ジェクトは、様々なリスク要因をかか
住民対策(頻繁な説明会実施)等、鋭
ムが貫徹する北米市場が具体的な視野
えるため(住民反対運動が強い、市内
意努力を行っているが、LNG管轄権
に入ってきたことで、大西洋LNG市
へのパイプライン通過に対して市議会
を巡るCPUC対FERCの争いの影響で、
場と同様、LNGトレーディング・価格・
が反対する、沖合LNGプロジェクト
受入基地建設時期が延期される可能性
仕向地等の面で影響を受けるものと思
のため現地への雇用創出が少ない、風
がある。しかし、メインのパイプライ
われる。企業側の対応として、LNG
光明媚な観光地に近い等)、紆余曲折
ンまでの距離も近く(約2マイル)
、背
バリューチェーンの中で、上流企業の
が予想される。
後にロサンゼルス等の大需要地をひか
下流進出、下流事業者の上流進出ある
③ た だ、Costa Azul 基 地 の 場 合 も、
えていることもあり、実現できれば大
いは水平展開等の動きもあるが、この
基地稼動後の環境への影響(気化時の
きなアドバンテージを持つと予測され
変化の時代において、LNGのポート
低温海水の生物への影響、バラストの
る。今後の動向が注目される。
フォリオ対応、価格変動等のボラティ
影響等)等について、今後注視する必
リティ対応といったリスクマネジメン
要がある。また、浚渫費用・パイプラ
ト対応次第で、中長期的に企業間格差
イン敷設費用・防波堤の設置費用等、
7. まとめにかえて
(今後の見通し)
引用文献
⑴ California Energy Commissionホームページ、http://www.energy.ca.gov/
⑵ California Energy Commission、2003ENRGY POLICY REPORT
⑶ California Energy Commission、Description and overview of proposed West Coast LNG projects
⑷ FERCホームページ、http://www.ferc.gov/
⑸ EIAホームページ、http://www.eia.doe.gov/
⑹ 米国エネルギー省、US LNG Markets and Uses: June 2004 Update
⑺ Sempra Energyホームページ、http://www.sempra.com/
⑻ Sound Energy Solutionsホームページ、http://www.soundenergysolutions.com/
⑼ Sound Energy Solutions、「北米西海岸ロング・ビーチLNGターミナル」
25 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
⑽ Royal Dutch/Shellホームページ、http://www.shell.com/
⑾ ChevronTexacoホームページ、http://www.chevrontexaco.com/
⑿ BPホームページ、http://www.bp.com/
⒀ Marathon Oilホームページ、http://www.marathon.com/
⒁ ConocoPhillipsホームページ、http://www.conocophillips.com/
Analyysis
Ana
nalysis
他
An
ys
na
l
y
sis
石油・天然ガスレビュー 26
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