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Page 1 FUJITSU.51, 1, pp.78-82 (01,2000) 78 IMT
解 説 IMT-2000 の標準化動向 Outline of IMT-2000 Standardization 移動ワイヤレスシステム開発統括部 担当部長 佐々木 進 Susumu Sasaki 西暦2000年代の初頭にサービスの開始が予定さ た。さらに,標準化作業が長期に及び,そのサー れている,第三世代移動通信システムIMT-2000 ビス開始時期が2000年以降になったこと,また, の標準化がITU(国際電気通信連合) を中心に進め 適用周波数が2,000 MHz付近になったことなどを られてきた。商用化が間近に迫るにつれ,仕様の 背景に,呼称をIMT-2000と変更したのは第12回 具体化などの活動が欧州をはじめ,諸外国の標準 会合(1997年)であった。 化機関で活発になっている。とくに,これら外部 標準化機関とITUとの協調活動が標準化促進に大 ○○○○○○ 創 世 期 いに貢献している。しかし,経済的,行政的な要 IMT-2000標準化の要の一つである,無線イン 請の変化や,技術革新の進展に,IMT-2000の標 タフェースの標準化は,ITU CCIR (国際電気通信 準化活動は強く影響されてきた。 連合・無線通信諮問委員会)SG-8( 第8専門委員 本稿では,ITU-R (ITUの下部組織としての無線 会) の下部機関の作業班として,SG8/WG8の定例 通信セクタ) 以外の諸外国における標準化機関の 会合の合間で開催することで,1985年IWP8/13 動向と,ITU-Rでの標準化の歴史的な変遷など, ○○○○○○ (中間作業班8/13)として発足した(表-1)。 IMT-2000 標準化動向の活動全般について概説 その後,6回の会合を経て,1 9 9 1 年I T U - R する。 TG8/1と会合名を変更して,第1回会合を米国・ は じ め に アレキサンドリア市で開催した。 当初のTG8/1の主な作業は,IMT-2000が世界で IMT-2000はITU-Rで発足(1991年)した当初 共通使用する周波数と,帯域幅を確保する目的で は,FPLMTS(Future Public Land Mobile のシステム規格の作成であった。その後,1992 Telecommunication Systems) と呼ばれていた。そ 年,スペイン・マラガ・トレモリノスで開催され のシステム名が示すように,将来の公共用陸上移 たWARC'92 (世界主官庁無線会議) で,2GHz帯の 動通信システムの標準化を目指すための作業班が 230 MHzの使用が認められた。 TG8/1( FPLMTSタスクグループ8/1)と呼ばれ た。その後,このシステムの適用範囲が衛星部 ○○○○○○ 成長・成熟期 分,事業所向けに拡大されるなど,その役割も大 世界的な統一を目指し,システム仕様の作成に きく変遷した。 取り組んでいたが,標準化環境の激変とともに, とくに大きな変化として呼称変更の要求があ 第二世代のシステムの移行性,特許問題,技術的 り,標準化が数年後に実現するのにFutureは不適 な選択基準などの問題点から作業が長期化し,勧 切として,呼称の変更を指摘する機関も多くあっ 告書の内容も二転三転し,勧告作業が遅延して 78 FUJITSU.51, 1, pp.78-82 (01,2000) IMT-2000 の標準化動向 表-1 IMT-2000の沿革 ITU-R 活動 日本,欧州,北米の標準化 その他機関 備 考 1985 ・FPLMTS,ITU CCIR(国際電気通信連合・無線通 信諮問委員会) ,SG-8 (第8専門委員会) でIWP8/13 (中 間作業班8/13)設立 1987 ・TIA,EIAから分離独立(米国) 1988 ・ESTI(欧州標準化機構)設立(欧州) 1990 ・第6回 IWP8/13で終了 ・UMTSアドホックグループ設立(欧州) 1991 ・ITU CCIRの改組に伴い,ITU-R TG8/1と変更し5月 米国アレキサンドリアで第1回TG8/1会合を開催 1992 ・第2回 TG8/1コスタリカ会合(1月) Rec.819, 816, 817, 818, 819勧告書作成 ・WARC ’ 92スペイン・マラガ・トレモリノスで2月開催。 FPLMTS使用周波数と帯域の230 MHzを確保 ・4月 FPLMTS研究委員会設立(日本:RCR) CCIRの組織・機構改革 ・第3回 TG8/1イタリア・パレルモ会合(10月) 1993 ・第1回 WTSC-93を3月に開催しCCIRをITU-Rに変更 ・2月 TIA TR46(技術調査委員会)発足(米国) ・第4回 TG8/1フランス・モンペリエ会合(6月) ・RREQ, RFMK, RFRQ, 勧告書の承認,INF手順承 認 ・7月 日本標準方式の確立のために,方式検討 ・第5回 TG8/1スイス・ジュネーブ会合(10月) 会設立(日本:RCR) 1994 ・第6回 TG8/1ニュージーランド・オークランド会合(4月) ・第7回 TG8/1スイス・ジュネーブ会合(10月) 選択手順(RSEL)の作成 1995 ・第8回 TG8/1米国・サンディエゴ会合(2月)開催 選択手順(RSEL)の完成 ・第9回 TG8/1東京会合(7月)開催 選択手順(REVAL) を承認 ・5月 RCRの組織・機構改革ARIBに名称変更 1996 ・第10回 TG8/1ドイツ・マインツ会合(4月)開催 ・第11回 TG8/1スイス・ジュネーブ会合(10月)開催 1997 ・第12回 TG8/1韓国・済州島会合(2月)開催 呼称をFPLMTSから IMT-2000へ採用 ・第13回 TG8/1カナダ・ トロント会合(9月)開催 ファミリーコンセプトの導入検討 1998 ・ITU-R TG8/1シアトル特別会合(1月)開催 無線伝送技術の評価・提案方法を審議 ・第14回 TG8/1スイス・ジュネーブ会合(5月)開催 評価グループの活動方策検討 (6月) ,10候補の技術・方式提案 ・TG8/1・WG5 ロンドン会合(10月)開催 候補・提案システムの技術審査。結果すべて承認 ・第15回 TG8/1英国・ジャージ会合(11月)開催 ・12月 3GPP設立(日本,欧州,北米) RTT(伝送技術)評価・特性を決定する活動(ステッ プ6)の審議,RKEY勧告案の骨子を作成し,その他 追加周波数の分配審議 ・12月 3GPP設立 ・15回会合で,クアルコムと ・12月 第1回 3GPP エリクソンが3号選択を宣 TSG会合(仏国:ソフィア) 言 1999 ・TG8/1・WG5クアラルンプール会合(2月)開催 ・1月 3GPPに対応のための国際標準化部会設 ・3月,2社はIPR寄書を取り ・3月 第2回3GPP 無線伝送方式のキーパラメタの定義と表現形式を決 立(日本:ARIB) TSG会合(米国:マイアミ) 下げ 定 ・4月 第3回3GPP TSG会合(日本:横浜) ・第16回 TG8/1ブラジル・フォルタレサ会合(3月) IMT-2000無線伝送方式の基本パラメタ勧告の承認 追加周波数の分配決定(160 MHz) ・6月 第4回3GPP TSG会合(米国:マイアミ) ・第17回 TG8/1中国・北京会合(5月)開催 ・5月 標準化部会の組織変更,無線制御 CPMレポート作成,IMT-2000高度化の新課題策定 グループ解散(日本:ARIB) OHGによるRKEYのチップレイ ト変更の追加決定 ・9月 郵政省・電気通信技 術審議会答申(PHSとの ・10月 第5回3GPP ・第18回 TG8/1フィンランド・ヘルシンキ会合(10月)開 TSG会合(韓国:慶州) 干渉問題で遅延) 催 TG8/1の最終会合,RSPC勧告をSG8へ ・SG8(11月) , TG8/1終結を承認 2000 ・5月 RA2000でRSPC勧告を正式に承認予定 FUJITSU.51, 1, (01,2000) 79 IMT-2000 の標準化動向 [内部環境] [外部環境A] 化機関であるITU自体,また外部環境も激変し, ・ITU-R(標準化機関の変革) ・標準化機関の位置付け ・各国, 各機関の動向 ・地域国家標準 (ESI, TIA, T1, TTA) ・日本国内(ARIB) それに伴い世界的な標準化の動きは大きく変化し IMT-2000の標準化動向 ていった。とくに,2000年代初頭にサービスを開 始することが明確になると,図-2のように,ITUR以外の外部標準化機関の役割も変わり,その動 [外部環境B] ・通信自由化, グローバリゼーション ・通信サービス, インターネット ・マルチメディア, IPサービス [外部環境C] ・事業者形態, 投資・事業展開 ・デファクト, IPR ・OHGの台頭 向が大きく注目されるようになった。当然のごと く,ITU-Rの勧告書の形態,内容なども変化して いった。 図-1 移動通信の標準化動向と外部環境 Fig.1-Environment and standard activities for mobile telecommunications. 具体的には,システムコンセプト勧告書から, キー選択基準勧告書を経て,無線インタフェース 勧告書までを主にITU-Rで,とくに重要な無線イ ンタフェース仕様に関しては,すべての世界の通 国際標準(ITU) ・国家標準 ITUの位置付け ・地域標準 勧告は基本的部分のみ A ・技術検討の場 ・国際標準 ・途上国への配慮 2nd Generationの 発展型, 拡張型 Migration Migration ○○○○○○ 信事業者が容易にサービスを実行できるよう,詳 ・地域標準 B DECT, GSMの 発展型, 拡張型 細内容を含む勧告書を作成する必要があった。 終 盤 期 日本,欧州では,地域標準化が進行中で,日本 の電波産業会(ARIB)ではW-CDMA方式を,さら 3rd G グローバルスタンダード UMTS, cdma2000 に,欧州では R A C E プロジェクトでU M T S (European Mobile Telecommunication System) の 図-2 IMT-2000の標準化環境 Fig.2-Standardization environment for IMT-2000. W-CDMAとATDMA方式の技術検討がなされ, ETSI(European Telecommunication Standards いった。 Institute) で標準化が進められていた。当然,北米 主な勧告 書の体系としては,(1 )用語定義 でも,T I A(T e l e c o m m u n i c a t i o n I n d u s t r y (TMLG), (2)サービス定義(SRVC), (3)セキュ Association) を中心にcdma2000とUWC-136などが リティ (SCRT) , (4) 衛星とのインターワーキング 検討されていた。 (S A T ),(5 )ネットワーク・インタフェース そのため,ITU-Rは各地域の標準化機関,メー (NINT) ,(6) 無線インタフェース (RINT) ,(7) 性 カに詳細な仕様を含んだシステム提案を募り,こ 能要求条件(PRQ), (8)ネットワーク・マネージ の中から世界的な共通性のあるシステムを選択 メント(N M G M ),( 9 )開発途上国 への適用 し,システム仕様書作成の作業効率化を期待 (DVLP)などから構成され,それぞれの作業班で した。 勧告書の作成を進めていった。 1998年6月,ITU-Rの募集に対し,IMT-2000シ 後に,無線インタフェースは,(1 )要求条件 ステムの地上システムとして10システムが提案さ (RREQ),(2)構成指針(RFMK),(3)選択手順 れた。これを受けてTG8/1は,内容を調査・検討 (RSEL), (4)無線スペクトラムの計画 (RFRQ), し,その結果すべてのシステムが技術仕様を満足 (5) 無線インタフェース (RSPC) に分割し,勧告案 しているものと認定した。そのため,これらのシ を並列的,段階的に作成した。 ステムの統合・共通化を図る必要が出てきた。 この時期においては,図-1に示すように,標準 さらに,米国クアルコム社の知的所有権問題, 80 FUJITSU.51, 1, (01,2000) IMT-2000 の標準化動向 地域標準システムの移行性課題などにより,標準 3GPP2が設立された(図-3)。 化の統一に暗雲が立ち込め,各機関,メーカの間 この3GPPでは,1999年10月のTG8/1の最終会 では,ITU-Rでの標準化作業に対する閉塞感を解 合に統合されたW-CDMAを提案し,正式にSG8で 消する動きが顕在化し始めていた。 承認された後,W-CDMAが世界移動通信システ その第1の変化が,3 G P P(3 r d G e n e r a t i o n ムの一方式となることを期待している。さらに Partnership Project) の標準化機関の創設である。 3GPPでは,その後,1999年12月にシステムのイ この機関は,日本の電波産業会(ARIB),通信 ンプリメントが可能な第1版の仕様を,さらに性 委員会 (TTC) ,欧州ETSIの標準機関,北米の通信 能向上を目指した第2版の仕様を2000年12月に完 工業会(T1),韓国通信工業会(TTA)などにより 成させる予定である。 W-CDMAの標準化仕様の完成を促進し,標準化 これらの背景からTG8/1では,1999年5月の北 作業の協働化を目的として設立された。また,同 京会合において,日本,欧州,北米,中国,韓国 様な組織がc d m a 2 0 0 0 の標準化促進の目的で などの標準機関の提案を受けて,表-2に示すよう ITU-R ITU-T SG-8, TG8/1 無線通信セクタ 電気通信標準セクタ 日本(郵政省) 電気通信技術審議会 電気通信標準化委員会・ 無線通信委員会 中国 欧州 北米 韓国 CWTS ETSIほか TIAほか TTA UMTS Cdma2000 Cdma2000 W-CDMA/TTD W-CDMA ARIB TTC IMT-2000研究委員会 日本方式の 標準化 W-CDMA 3GPP★ W-CDMA 3GPP2★ OHG★ ★:外部特殊機関 図-3 世界の公的標準化機関の状況(IMT-2000) Fig.3-Current situation of world standard organizations. 表-2 提案中のIMT-2000移動通信システム 提案システム名 提案機関 主な方式的特徴 固定網との接続,その他 W-CDMA 3GPP(ARIB,ETSI,T1,TAIほか) チップレイト:3.84 Mcpsに統一 アクセス:DS/ FDD データ速度:8 k∼384 kbps,2,024 kbps GSM-MAP拡張方式 cdma2000 3GPP2,TIA TR45 チップレイト:3.84 Mcpsに統一 アクセス:マルチ・キャリア/DS ANSI-41拡張方式 UWC-136 TIA TR45 多元接続方式:TDMA データ速度:48.6 k ∼ 5.2 Mbps GSM拡張方式 EP-DECT DECT 多元接続方式:Enhanced CTS/TDMA データ速度:Max 3.456 Mbps FWA用,自動車環境は除く TD-SCDMA CWTI 多元接続方式:TDD -CDMA GSM-MAP拡張方式 W-CDMA準拠 FUJITSU.51, 1, (01,2000) 81 IMT-2000 の標準化動向 に,大筋で少なくとも5方式を標準化することを 承認されたため第4世代移動通信システムのコン 決定した。 セプト形成の課題を研究する段階に移行して このように,W- C D MA が統合された背景に いる。 は,1998年に設立された世界の通信事業者の団 体,OHG(Operators Harmonization Group)の役 ○○○○○○ む す び 割が大きく影響していた。このOHGの提案によ わが国のみならず,全世界的な導入が期待され り,3GPPの提案内容は,TIA提案のcdma2000と ている次世代移動通信システムIMT-2000の標準 の共通化が図られた。具体的な融合化の一例とし 化活動について述べてきた。一方,グローバル化 て,CDM方式の特徴である,拡散速度のチップ が進展する中での,ITU-R標準化活動の主体が協 レイトを3.84 Mcpsに統一した。 調活動や外部標準化機関の対応などに移行せざる 今後の移動通信の動向としては,インターネッ を得なくなった。そのため,今後は地域標準を含 トサービスとの親和性の向上を目的とした,IP対 めた国際標準化活動のあり方が,外部環境の変化 応の仕様化が進むと思われ,詳細な標準仕様が各 により,適宜,問われる時代になり,これらの議 外部機関で策定されていくと考えられる。 論も行われていくと考えられる。 すでにITU-Rでは,11月TG8/1の正式な廃止が 82 FUJITSU.51, 1, (01,2000)