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ah Ohmsha - cloudfront.net
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h畠 昌 邑4
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Ohmsha
編者・執筆者一覧
編
執
筆
者
近藤圭一郎(千葉大学)
者
宮本
岳史(公益財団法人鉄道総合技術研究所)
[1 章]
富岡
隆弘(公益財団法人鉄道総合技術研究所)
[2 章]
池田
充(公益財団法人鉄道総合技術研究所)
[3 章]
今井
直人(東日本旅客鉄道株式会社)
[4 章]
白木
直樹(東日本旅客鉄道株式会社)
[5 章]
横山
啓之(東日本旅客鉄道株式会社)
[6 章]
長谷部和則(東日本旅客鉄道株式会社)
[7 章]
宮武
[8 章]
昌史(上智大学)
(執筆担当順)
本書を発行するにあたってᴩ内容に誤りのないようできる限りの注意を払いましたがᴩ
本書の内容を適用した結果生じたことᴩまたᴩ適用できなかった結果についてᴩ著者ᴩ
出版社とも一切の責任を負いませんのでご了承くださいᴫ
本書はᴩ
「著作権法」によってᴩ著作権等の権利が保護されている著作物ですᴫ本書の
複製権・翻訳権・上映権・譲渡権・公衆送信権(送信可能化権を含む)は著作権者が保
有していますᴫ本書の全部または一部につきᴩ無断で転載ᴩ複写複製ᴩ電子的装置への
入力等をされるとᴩ著作権等の権利侵害となる場合がありますのでᴩご注意くださいᴫ
本書の無断複写はᴩ著作権法上の制限事項を除きᴩ禁じられていますᴫ本書の複写複
製を希望される場合はᴩそのつど事前に下記へ連絡して許諾を得てくださいᴫ
・オーム社出版局「
(書名を明記)
」係宛ᴩE-mail([email protected])
または書状ᴩFAX(03-3293-2824)にてお願いしますᴫ
序
(1)
鉄道システムと車両技術
鉄道は鉄のレール上を鉄の車輪が転がることによって移動するが,このことに
起因して,低走行抵抗,電力供給の容易さ,車体の大型化,複数車両での運転な
ど,鉄道固有の省エネルギー性と高い輸送能力が備わった.鉄のレール・車輪故
に伝達可能な駆動力・制動力が制約される一方で,レールと転がり方向のわずか
な偏角で大きな横方向の力が発生し脱線する恐れがあることから,前述の鉄道固
有の特長を発揮するためには,地上構造物,路盤,軌道,車両,電力供給,信号
通信,列車ダイヤなどの個々の要素技術を組み合わせるための高度なシステム技
術が必要である.すなわち,これらの個々の要素技術自体のレベルの高さのみな
らず,それらを統合的に機能させるための技術が重要である.
これらの要素技術と呼ぶものもまた,個々の機能が統合的に集約されたシステ
ム技術として成立している.これらの要素技術の中でも車両は,軌道,電力供給,
信号通信,運転,そしてメンテナンスから接客まで,すべての要素技術と関わり
を持つことから,車両技術自体もシステム的な発想に基づいていると言える.す
なわち,鉄道輸送システムの中でもその中心的な要素技術であるとともに,車両
技術自体もシステム技術としての意味合いが強い.具体的には,車両技術の範疇
に含まれる,台車,車体,ブレーキ,主回路・補助回路,保安装置,車上情報伝
送装置,そして高効率な運転機能などの要素技術が相まって,車両としての必要
な機能が発揮されている.
(2)
工学と車両技術
工学とは電磁気学や力学などの物理現象を利用して,再現性を持って所定の機
能を発揮させるための方法を形式知化する学問と言える.一方,鉄道技術は,物
理現象から演繹的に作り上げられるというより,車両技術で言えば,実際に車両
の設計・製作を行い,走らせ,メンテナンスを行い,そして,その中で明確にな
った問題点や改善点を次の車両設計に反映させる,というプロセスで改良がなさ
れた結果として現在の技術が成立していると言える.恐らく大方の工業製品はこ
のようなサイクルで改良がなされ,現在の姿に至ったものと考えられる.その過
程で発展してきた技術を整理し,その技術の本質を物理現象のレベルまで掘り下
iii
序
げる作業も工学分野において重要な役割を果たすものと考える.
( 3 ) 本書の目指すところ
本書は鉄道車両分野の研究をこれから行おうとする方,もしくは鉄道技術者と
してこれから活躍しようとする方に,鉄道車両技術を身に付けて頂く際の導入書
として位置付けている.加えて,本書は前項で述べたように,これまでの諸先輩
方の尽力により発展し,高度な交通システムの中心的技術として成熟している鉄
道車両技術を,整理し,体系化することも目指している.すなわち,鉄道車両技
術を工学としてとらえるための書籍と言える.その意味では,むしろ「鉄
道車両工学入門」と題するべきかもしれないが,実際にベースになるものは技術
であることから,書名を「鉄道車両技術入門」とした.
本書の執筆陣は,主として現在の鉄道車両の設計,メンテナンス,開発,研究
などに携わる第一線の技術者および研究者である.また,今回は敢えて鉄道車両
やその機器を製作する,メーカの技術者ではなく,それらを企画・設計・運用そ
して改良を行うユーザサイドの技術者・研究者各位に執筆を願った.これは,鉄
道車両を機器としてではなく,主として機能の面からとらえることで,その機器
の生い立ち,そしてあるべき姿を浮き彫りにしたかったためである.すなわち,
当該分野の技術をこれから学ぼうとする技術者・研究者が,その技術の原理,由
来,あるべき姿を理解するための好適の書であると言える.本書では,台車,車
体,集電装置,ブレーキ装置,主回路・補助電源,保安装置,車両情報伝送シス
テム,車両の運転理論について,工学的な視点から,各技術をとらえ,解説して
いる.書名は鉄道車両技術入門としているが,今回は紙面の都合などもあり,
機関車や気動車などについては割愛している.読者に要求したいことは,力学,
電磁気学,回路理論などの機械工学や電気工学などの基礎学問の理解である.逆
に本書を読んで,これらの理解が不足の際は,是非ともこれらの専門書を参照し
ながら,読み進めて頂きたいと考えている.本書が読者の目的達成の一助となれ
ば幸いである.
2013 年 6 月
著者を代表して
近藤圭一郎
iv
目
次
目 次
1章
台
車
1.1 台車の特徴と基本的な機能 ㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿1
1.1.1
輪軸の運動
1
1.1.2
車体振動の防止
1.1.3
曲線での旋回
5
1.1.4
前後力の伝達
5
4
1.2 台車の具体的な構造 ㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿6
1.2.1
輪
軸
7
1.2.2
台車枠
1.2.3
軸箱支持装置
11
1.2.4
車体支持装置
12
1.2.5
その他の構成要素
10
15
1.3 車輪・レール間のクリープ力 ㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿18
1.4 走行安定性 ㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿20
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿21
1.5 走行安全性 ㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
1.5.1
脱
線
21
1.5.2
転
覆
24
2章
車
体
2.1 車体の構造 ㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿27
2.1.1
車体の構成
27
2.1.2
車体構造の変遷と使用材料による特徴
2.1.3
軽量化
2.1.4
先頭部の形状
28
36
38
2.2 車体が満たすべき要件 ㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿39
2.2.1
車両限界
2.2.2
強度と剛性
2.2.3
火災対策
39
40
43
v
目
次
2.2.4
衝突安全性
46
2.3 車体の振動・騒音と乗り心地 ㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿48
2.3.1
車体の振動
2.3.2
乗り心地評価
2.3.3
車体上下弾性振動
2.3.4
車内騒音
3章
48
51
58
61
集電装置
3.1 電車線路と集電装置 ㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿69
3.2 集電装置の構造 ㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿71
3.2.1
トロリーポール
3.2.2
ビューゲル
3.2.3
パンタグラフ
3.2.4
集電靴
71
72
74
79
3.3 集電装置の性能 ㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿80
3.3.1
電流容量
80
3.3.2
集電性能
81
3.4 高速鉄道の集電装置 ㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿88
4章
ブレーキ装置
4.1 概
要 ㍿
㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿95
4.2 法令上の基準 ㍿㍿
㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿96
4.2.1
鉄道車両に設けるべきブレーキ装置
4.2.2
貫通ブレーキ
97
97
4.3 ブレーキの力学および設計 ㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿99
4.3.1
ブレーキ力と粘着力
4.3.2
ブレーキの設計
100
106
4.4 空気ブレーキの方式 ㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿110
vi
4.4.1
純直通空気ブレーキ
4.4.2
電磁直通空気ブレーキ
111
112
目
4.4.3
純自動空気ブレーキ
4.4.4
電磁自動空気ブレーキ
4.4.5
電気指令式空気ブレーキ
次
113
114
114
4.5 ブレーキシステム ㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿115
4.5.1
常用ブレーキ
115
4.5.2
非常ブレーキ
117
4.5.3
保安ブレーキ
118
4.5.4
耐雪ブレーキ
119
4.5.5
抑速ブレーキ
119
4.5.6
留置ブレーキ
119
4.5.7
その他の制御
119
4.6 ブレーキ部品の作用および構造 ㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿120
4.6.1
ブレーキ制御装置
120
4.6.2
保安ブレーキ装置
122
4.6.3
基礎ブレーキ装置
122
4.6.4
滑走防止弁装置
4.6.5
空気源装置
124
124
4.7 今後のブレーキ装置 ㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿126
5章
主回路・補助電源
5.1 直流電気車の主回路システム概要 ㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿127
5.1.1
直流電気車の主回路システム
127
5.1.2
車両駆動用主回路インバータ
132
5.1.3
誘導電動機の制御
5.1.4
鉄道車両駆動用主回路の制御
139
144
5.2 交流電気車の主回路システム概要 ㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿146
5.2.1
交流電気車の主回路システム
146
5.2.2
PWM コンバータの主回路と制御
5.2.3
交流電気車の主回路制御
152
153
5.3 鉄道車両の性能 ㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿156
vii
目
次
5.3.1
車両重量,乗客質量
156
5.3.2
車両編成(MT 比)
5.3.3
起動加速度
5.3.4
走行抵抗均衡速度,加速余力
5.3.5
粘
着
158
5.3.6
歯車比
159
5.3.7
走行抵抗(列車抵抗)
,出発抵抗
156
157
157
159
5.4 車両駆動用電動機 ㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿161
5.4.1
直流電動機
162
5.4.2
誘導電動機
164
5.4.3
永久磁石同期電動機
168
5.5 その他の主回路システム ㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿169
5.5.1
エンジン―蓄電媒体ハイブリット車両
5.5.2
架線―蓄電媒体ハイブリット車両
169
173
5.6 主回路システムの今後の方向 ㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿175
5.6.1
さらなる機器の高効率化,省エネルギー化
175
5.6.2
蓄電媒体の活用
5.6.3
境界問題(レールと車輪,パンタグラフと架線)の解決
176
176
5.7 補助電源装置 ㍿㍿
㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿177
5.8 補助電源回路の方式とその特徴 ㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿180
5.8.1
独立運転方式
180
5.8.2
待機二重方式
181
5.8.3
並列同期運転方式
182
5.9 補助電源装置の今後の方向 ㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿184
5.9.1
さらなる機器の高効率化,省エネルギー化
5.9.2
編成での補助電源システムの信頼性向上
6章
184
保安装置
6.1 概
6.1.1
viii
184
要 ㍿
㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿187
はじめに
187
目
6.1.2
ATS/ATC
6.1.3
ATO
6.1.4
列車無線
6.1.5
デッドマン装置/EB 装置
次
188
189
190
190
6.2 ATS,ATC システムの歴史 ㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿190
6.2.1
ATS
190
6.2.2
ATC
199
6.3 ATS,ATC 車上装置で使われている技術 ㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿201
6.3.1
フェールセーフ技術
6.3.2
信号送受信の技術
6.3.3
速度検出の技術
201
203
209
6.4 主要な保安システム ㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
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6.4.1
ATS-S 改良形(ATS-SN,ST,SW,SS,SK,SF)
6.4.2
ATS-P
212
6.4.3 新 CS-ATC
6.4.4 D-ATC
210
214
219
6.5 今後の方向 ㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿
㍿㍿㍿
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7章
車両情報伝送システム
7.1 車両情報伝送システムの仕組み ㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿225
7.2 乗務員支援 ㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿
㍿㍿㍿
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㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿228
7.3 車両メンテナンス ㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
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㍿㍿㍿㍿㍿㍿
7.4 制御指令などの伝送化 ㍿
㍿
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㍿㍿231
7.5 伝送路 ㍿
㍿
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7.6 機器とのインタフェース ㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿233
7.7 車両情報伝送システムの機器 ㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿234
7.8 車両併結 ㍿
㍿㍿
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㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
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7.9 高機能化,集約化 ㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
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7.10 車両情報伝送システムと国際規格 ㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿238
7.11 車両情報伝送システムの変遷 ㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿239
ix
目
次
7.12 旅客案内システム ㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿240
7.13 今後の方向 ㍿㍿㍿
㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿242
8章
車両の運転理論
8.1 列車運転時の基礎力学 ㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿245
8.1.1
列車の力学的特性と運動方程式
8.1.2
列車電力特性
248
8.1.3
き電回路特性
248
8.1.4 数値計算法
245
249
8.2 運行計画と運行管理 ㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿251
8.2.1
運転曲線の作成と基準運転時分の査定
8.2.2
信号システムと時隔の査定
8.2.3
列車ダイヤの作成
8.2.4
運行管理
251
253
255
256
8.3 運転方法 ㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿258
8.4 自動運転および運転支援 ㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿260
8.4.1
自動運転の目的
260
8.4.2
ATO,TASC とその高度化
8.4.3
運転支援システム
260
261
8.5 最適な運転を目指した理論的研究開発 ㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿262
8.5.1 最適な運転の評価方法
262
8.5.2 最適制御問題としての定式化
8.5.3 理論的な最適化法とその計算例
8.5.4 最適な運転の今後
索
x
262
265
268
引㍿
㍿
㍿㍿
㍿
㍿
㍿
㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿
㍿㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿
㍿㍿
㍿㍿
㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿㍿271
1.1 ●台車の特徴と基本的な機能
1章
台 車
台車は走り装置とも呼ばれ,車体荷重を支持しながら,駆動・制動力を発生し
て車体に伝達し,車両が直線を安定に,曲線をスムーズに走行し,なおかつ,車
輪・レール間で発生する振動が車体へ伝達することを抑える機能を有している.
このように,台車は重要かつ複雑な機能を担い,台車の性能いかんによって車両
の走行性能が決まるといっても過言ではない.日本国内の多くの旅客車両は図
1・1(a)に示すように,一つの車体を二つの台車で支持し,台車は左右 1 対の車輪
を配した 2 本の輪軸を有する.このような台車を 2 軸台車(2 軸ボギー)と呼び,
図 1・1(b)に示すように曲線を走行する際に台車はレールに沿ってヨー回転し,
車体に対し台車旋回角(ボギー角)を持つ.本書では 2 軸台車を念頭に解説する.
車体
車体
台車ヨー回転
台車
台車
台車
台車
(a) 1 車体・2 台車構成
(b)
曲線中の台車姿勢
▲図 1・1 一般的な鉄道車両の構成
1
1.1.1
1
台車の特徴と基本的な機能
輪軸の運動
〔 1 〕 自己操舵機能
左右 2 枚の車輪は 1 本の軸で固定され繋がっていて,これを輪軸(あるいは一
体輪軸)と呼ぶ.また,鉄道車両用の車輪は一般に円筒形ではなく,レールと接
触する踏面には図 1・2 に示すような勾配が付けられている.その結果,輪軸は 2
本のレール上を転がるだけで自動車のようなステアリング操作なしに曲線では
レールに沿って曲がり,直線では自ら左右レール間の中心に戻り片側のレールに
偏ることなく車両を案内する.このような輪軸の運動上の性質を自己操舵機能と
1
1 章■台
車
車輪
踏面勾配
車軸
背面
フランジ角
フランジ
65,70
踏面
左右の車輪と車軸は一体で転がる
▲図 1・2 輪軸の特徴
呼ぶ.
〔 2 〕 曲線通過
輪軸の曲線通過の運動について解説する.曲線の中で 2 本のレールは外側が長
く,内側が短い.図 1・3 に示すように,右曲線に入った輪軸が左に寄って走行す
るとき,左右の車輪がレールに接触する点での転がり半径には差が生じる.輪軸
の角速度は左右車輪同じであるから,転がり半径が大きい左車輪は右車輪よりも
アタック角
前後接線力
(外軌)
進行方向
操舵
モーメント
回転半径小
回転半径大
前後接線力
(内軌)
急曲線
(半径小)
遠心力はフランジで
(レールが)支える
外軌レール
内軌レール
▲図 1・3 輪軸の操舵機能(曲線)
2
1.1 ●台車の特徴と基本的な機能
長い距離を進み,輪軸は右向きに旋回する.これが輪軸の自己操舵機能による曲
線通過メカニズムである.
輪軸が軌道に対し横(線路直角)方向に変位し,図 1・4 のように車輪の半径差
だけで理想的に転がるときの輪軸中心位置が進む軌跡を純粋転がり線と呼ぶ.回
転する車輪表面がレール上を進行する距離と同じだけで進むもの(車輪とレール
の間ですべりがない)と仮定した場合,純粋転がり線の半径は,車輪左右変位
y0 と踏面勾配 γ で生じる車輪半径差 γ y0 と,輪軸が中心にあるときの車輪半径
と車輪の左右接触点位置間隔の半分bによって次式のように表すことができる.
R=
r 0b
γy0
(1・1)
ここで,踏面勾配 γ が大きいほど純粋転がり線の曲線半径が小さくなる.より
小さい半径の曲線(急曲線)では,曲線外側の車輪がフランジあるいは,フラン
ジと踏面の間ののど部でレールと接触することで回転半径差を大きくとる.さら
に回転半径差が不足する際には,車輪を曲線外側に向かわせる外力や遠心力に対
してフランジで車輪を案内する力が発生することとなる.なお,式(1・1)は一輪
軸が転がるときの幾何学的な条件を示しており,実際の輪軸は台車内で支持され
ていること,車輪とレール間にはすべりが発生することから,現実と一致するも
のではないものの,実現象を理解するうえで重要である.
:曲線半径
q :曲線中の輪軸進行角
0:基準位置車輪回転半径
:1/2 車輪接触点間隔
y0:輪軸左右変位
g :踏面勾配
q
内軌
g y0
0−
軌道中心
純粋転がり線
g
y
y
外軌
x
y0
y0
+g
0
▲図 1・4 輪軸の幾何学的曲線走行
3
1 章■台
車
〔 3 〕 蛇行動 1)
直線軌道を走行する輪軸が横方向にずれたとき,輪軸の幾何学的曲線通過と同
様の原理で踏面勾配は輪軸を軌道中心方向に戻す.輪軸の自己操舵機能が 2 本の
レールの間で輪軸がどちらか一方に偏ることなく,安定に走行することを実現す
るが,一方で,この振動を繰り返すことで不安定な左右振動を起こすことがある.
この輪軸の左右振動が図 1・5 に示す蛇の動きのような軌跡を示すことから,これ
を蛇行動と呼び,車輪がすべらずにレール上を転がるとした場合の蛇行動を特に
幾何学的蛇行動という.このときの輪軸の左右方向(y方向)の運動は次式で表
される.
y +V 2
γ
y=0
br0
(1・2)
ここで V は走行速度を表す.すなわち,輪軸は速度 V に比例する周波数で振
動する.いい換えれば,図 1・5 に示す一定の波長 S1 で蛇行する.S1 は幾何学的
蛇行動波長と呼ばれ次式で表される.
S1=2π

br0
γ
(1・3)
この輪軸の蛇行動を抑えることが台車の重要な機能の一つである.
0
g
y
y=y/
x
1
▲図 1・5 輪軸の幾何学的蛇行動波長
1.1.2
車体振動の防止
車両が走行すると軌道の変位により輪軸が加振され,その振動が車両に伝わ
る.また,輪軸・台車が走行することで前節までに解説した振動も発生する.こ
れらの振動を吸収・抑制するために輪軸・台車・車体で構成するサスペンション
4
1.1 ●台車の特徴と基本的な機能
系(質点とばね・ダンパ系)を概念的に図 1・6 に示す.サスペンションの構成お
よび設定は,前述の曲線通過性能および蛇行動安定性を確保しつつ,車体の振動
を小さくすることが求められる.なお,車体の弾性振動については後述する.
車体
左右動ダンパ
まくらばね
まくらばね
台車
軸ばね
軸ばね
輪軸
左右動ストッパ
牽引装置
▲図 1・6 車両のサスペンション系の概念図(一例)
1.1.3
曲線での旋回
輪軸は,蛇行動を抑制するために,台車枠に軸箱支持装置によって弾性支持さ
れている.一方で,二つの台車で一つの車体を支持し,曲線走行中には,図 1・1
(b)に示したように台車が車体に対し旋回角を持つ.まくらばねの前後剛性が柔
であると台車は容易に旋回し,台車内の車輪は曲線外軌側のレールに向かってい
く角度(アタック角)が小さくなる.アタック角が小さいと車輪とレール間に作
用する横方向の力(横圧)が小さくなり,安全上,かつメンテナンス上,よい曲
線通過性能となる.車体に対し旋回することで,台車はスムーズな曲線通過を実
現している.
1.1.4
前後力の伝達
重要な加減速機能として,台車にはブレーキや主電動機あるいはエンジンと駆
動軸が取り付けられている.動台車は駆動装置とブレーキ装置を持ち,付随台車
はブレーキ装置を持つ.台車内で発生する加減速力は車輪からレールに伝わる一
方,台車枠から車体には牽引装置を介して伝わる.なお,駆動装置(電動機や歯
車)やブレーキについては,後章で具体的に解説する.
5
1 章■台
1
車
2
台車の具体的な構造
台車には,とても多くの形式があり,それぞれに特徴を有している.ここでは,
多くの車両に採用されている電車用のボルスタレス台車の構成を図 1・7 に示す.
以下にボルスタレス台車をもとに構成する部品の機能について解説する.
本章で解説に用いる方向および座標系を図 1・8 に示す.ここでは,車両の進行
方向を x 軸にとり,左右方向を y 軸,上下方向を z 軸とし,各軸周りの回転を
牽引装置
(一本リンク)
左右動ダンパ
左右動ストッパ
車体支持装置
横ばり
空気ばね高さ調整弁
側ばり
基礎ブレーキ装置
車輪
ヨーダンパ
軸箱支持装置
車軸
軸ダンパ
軸受
▲図 1・7 台車構成概念図
進行方向
左右 y
上下 z
ヨー y
ロールf
前後 x
左右 y
上下 z
ピッチ q
前後 x
▲図 1・8 解説に使用する座標系
6
1.2 ●台車の具体的な構造
それぞれ,ロール,ピッチ,ヨーと呼ぶ.なお,前述の横方向とは左右方向,車
体に対する台車の旋回角とは相対ヨー角のことで,これをボギー角と呼ぶことも
ある.
1.2.1
輪
軸
輪軸は 1 本の車軸の左右に 2 枚の車輪,その外側に軸受を圧入して構成され,
左右の車輪は一体となって回転する.これを一体輪軸と呼ぶ.一般的な鉄道車両
は一体輪軸を採用し,一体輪軸の自己操舵機能によりスムーズな曲線走行と安定
な直線走行を実現している.輪軸は,軌道のレール間隔である軌間に合わせて車
輪間隔が決められている.鉄道車両の安全・安定性を確保するために,いくつか
の寸法は省令により技術基準2) として定められている.普通鉄道の軌間 1 067
mm の鉄道車両について,主な寸法を図 1・9 に示す.例えば,車輪の踏面部が摩
耗してフランジ高さが高くなり過ぎるとフランジ先端が軌道部材に接触する危険
が考えられ,内面間距離が極端に不足する場合には,片側車輪が軌間内に落下し,
脱線事故に至ってしまうことが懸念される.これらの寸法を適切に保つことで,
軌道を安全に走行することができる.
台車内の 2 本の輪軸の前後間隔,いわゆる軸距は長いと高速安定性が高まる
が,曲線では車輪に作用する左右方向力が大きくなり,四つの車輪下のレール高
さのずれ(軌道の平面性変位)に対し車輪の上下荷重(輪重)が抜けやすくなる.
軌間 1 067 mm の台車では軸距が 2 100 mm 前後,高速走行する新幹線の軌間
中心線
リム幅(タイヤ厚さ)
125(120 ∼ 150)
内面間距離 990
(989 ∼ 994)
車輪直径
860
(680 以上)
踏面中心
560
65
65
27(25 ∼ 35)
フランジ高さ
▲図 1・9 輪軸の要部寸法(軌間 1 067 mm の場合の例)
7
1 章■台
車
1 435 mm の台車では軸距が 2 500 mm が標準的に用いられている.
〔1〕 車
軸
車軸には車輪と軸受のほか,駆動力を伝達する歯車(駆動装置の一部)やディ
スクブレーキを使用する際にはブレーキディスクを取り付ける.車両が走行する
うえで重要な力の多くが車軸に作用する.それだけに車軸の強度や損傷はとても
重要で,設計・製造・保守について,日本工業規格(JIS)を基本として,きめ
細かな取り決めが成されている.
〔2〕 車
輪
車輪はレール上を転がりながら車両の上下荷重(輪重)や曲線通過中などに生
じる左右方向力(横圧)を支える.同時に,レールとの間で加減速力や操舵力な
どの前後接線力,アタック角に応じて発生する横接線力を生じる.また,踏面ブ
レーキを用いた台車では,制輪子が押しつけられ制動力も発生する.この踏面ブ
レーキ使用の際には車輪に大きな熱が発生することから,熱応力にも配慮してい
る.加えて,軽量化や防振性能が要求されることもある.また,新幹線車両のよ
うに車輪部分にブレーキディスクを取り付けることもある.これらさまざまな要
求により,国内では 5 種類の車輪形状区分がある3).
代表的な在来線の車輪踏面形状を図 1・10 に示し,輪軸が左右に変位したとき
の車輪とレールが接触する代表点における接触角と,左右車輪の接触位置での回
転半径差を図 1・11 に示す.接触角や左右車輪の回転半径差は,曲線通過性能,
走行安定性に直接影響し,車輪が摩耗して踏面形状が変化するとそれらの性能が
変化する.図 1・12 に示す車輪部位5),踏面とスロート(のど)
,フランジ,裏リ
26
15.5
12
900R
33.86
320R
80R
3 1/100
65
14R
14R 14R
65
▲図 1・10 車輪踏面形状 4)
8
27
30
24.8
400R
3
60
1.2 ●台車の具体的な構造
接触角左〔mrad〕
接触角右〔mrad〕
460
1500
455
1000
接触角〔mrad〕
車輪回転半径〔mm〕
車輪回転半径左〔mm〕
車輪回転半径右〔mm〕
450
445
440
435
500
0
−500
−1000
430
425
−30−20−10 0
10
20
−1500
−30 −20 −10
30
0
10
20
30
輪軸左右変位〔mm〕
輪軸左右変位〔mm〕
(b) 車輪接触角
(a) 車輪回転半径
▲図 1・11 接触位置による車輪接触変数
裏リム面
裏リム内径部
裏板部
裏ボス外径部
裏ボス面
裏側(またはフランジ側)
軸孔
フランジ
スロート(のど部)
表リム面
坂部
表リム内径部
表板部
表ボス外径部
表ボス面
ボス部
踏面
表側(または反フランジ側)
リム部
▲図 1・12 車輪断面と各部の名称 5)
ム面の部位に分けて,レールとの接触について解説する.
踏面は,直線走行や大きな半径の曲線通過およびすべての曲線の内軌側でレー
ル頭部と接触し,最も多くの機会にレールと接触している部位である.図 1・11
に示すように,踏面では接触角や左右車輪の回転半径差が比較的小さく,かつ,
輪軸左右変位に対しなだらかに変化している.この状態が摩耗により変化する
と,走行安定性,曲線通過性能,車両の振動・乗り心地などが悪化することがあ
9
1 章■台
車
る.踏面は,レールとの接触のほか,ブレーキの制輪子が接触することで摩耗し,
これら接触により踏面が凹む状態に摩耗することを凹摩と呼ぶ.
フランジは曲線通過および脱線防止に大きな役割を果たす.スロート(のど
部)とともに曲線走行中や軌道変位あるいは大きな振動が発生した際にレール
ゲージコーナーと接触し,車両を軌間内に案内する左右方向力や前後力を発生す
る.フランジは踏面に比べ大きな角度(フランジ角)で設計され,フランジ角は
脱線防止のためにとても重要である.摩耗によりフランジ角がさらに大きくなっ
たり,フランジ厚さが小さくなったりすることを直摩と呼ぶ.このほか,分岐器
のクロッシングガードや脱線防止ガードなどに対しては裏リム面で接触する場合
もある.
〔3〕 軸
受
高速に回転する輪軸と台車枠間には軸受が必要不可欠である.軸受は,輪軸の
スムーズな回転を許容しつつ,衝撃的な振動と荷重も含め,ほぼ車両全体の荷重
を負担しなければならない.それでいて,輪軸を前後,左右にしっかりと支える
必要もあるため,鉄道車両の軸受に対する要求性能はとても厳しいものになって
いる.図 1・13 に示した例は,円錐ころ軸受を用いた鉄道車両用軸受の断面図で
ある.軸受内の潤滑には形式ごとにグリス潤滑あるいは油潤滑が採用されてい
る.なお,軸受は後述する軸箱の中に組み込まれている.
軸箱体
前蓋
回り止め
オイルシール
後蓋
▲図 1・13 円錐ころ軸受 4)
1.2.2
台車枠
台車枠は,台車の骨格を成し,車体荷重を上下,前後,左右に支え,2 本の輪
10
1.2 ●台車の具体的な構造
軸位置を確保し,台車内で発生する駆動力やブレーキ力を車輪や車体に伝達す
る.図 1・7 に示したように,台車枠は,左右の側ばりと横ばりによって H 型に
構成される.側ばりで軸ばねを介して輪軸を支持し,側ばり中央あるいは横ばり
両端でまくらばねを介して車体荷重を支持する.横ばりには,牽引装置,主電動
機や歯車装置などの駆動装置とブレーキ装置が取り付けられる.
走行性能を確認する車両運動解析では,台車枠は剛体として扱うと便利であ
る.この場合,台車枠質量には,まくらばね(二次ばね)と軸ばね(一次ばね)
の間にあるものすべてを見込み,これをばね間質量と呼ぶ.ばね上質量には二次
ばねより上の主に車体質量を数え,ばね下質量には一次ばねより下の軸箱支持装
置・輪軸質量を数える.なお,台車部品として分類される牽引装置関連で車体側
に取り付ける台車中心ピンや,ばねやダンパの車体側取付座は車体質量に含まれ
る.また,より正確を期す場合に各種ばねやダンパの質量は,取り付ける車体,
台車枠,軸箱支持装置にそれぞれに半分を振り分ける.
1.2.3
軸箱支持装置
軸ばねは,軸受を介して台車と輪軸の間で,主に一次ばねを構成する.輪軸側
の軸ばね受座を軸箱と呼び,台車枠に対し軸箱を保持する装置を軸箱支持装置と
呼ぶ.軸箱の保持方法が 1・1 節で解説した曲線通過,蛇行動防止,車体振動防止,
前後力伝達の機能・性能に影響を及ぼす.よって,軸箱支持装置には機能・性能
あるいは保守性などを考慮し,図 1・14 に示すようにさまざまな型式がある.例
えば図 1・14(b)に示す円錐積層ゴム式軸箱支持装置の場合,この軸ばね部では,
台車に対する輪軸の上下,左右,前後の支持剛性を受け持っている.一方,図 1・
14(h)に示す軸はり式では,軸ばねはほぼ上下支持剛性を構成し,主な左右,前
後支持剛性は軸はりを介してゴムブッシュで構成している.
軸箱支持装置に求められる機能は,軸受を内包しながら輪軸端を上下,左右,
前後に支持することである.上下支持剛性は,空車や最大荷重条件に対し一次ば
ねの振動吸収機能を発揮させ,かつ車輪を軌道変位に追従させることを目的に,
そのばね定数と伸縮長さが決められる.後述する空気ばね糸は,乗客の有無など
荷重変動に応じて車体・台車間の高さを調整する機能を持つ.一方,軸ばねには
このような高さ調整機能はない.よって,車体の荷重変動に対する台車枠の上下
11
1 章■台
車
軸ばね
軸箱守
+
軸ばね
+
軸ばね
ゴムブッシュ
リンク
積衛ゴム
軸箱守控
(a) ペデスタル(軸箱守)式
軸ばね
(b) 円錐積層ゴム式
(c) アルストム式
軸ばね
リンク
+
+
積層ゴム
+
ゴムブッシュ
(d)
積層ゴム式
(e) モノリンク式
支持板
軸ゴム押え
(内側に軸ゴムあり)
(f) 支持板式
軸ばね
+
内筒
軸ばね
すり板
外筒
+
ゴムブッシュ
軸箱
(g)
円筒守式
軸はり
(h)
軸はり式
▲図 1・14 さまざまな軸箱支持装置の型式 4)
変位を小さくするためには軸ばね定数は剛な方がよいが,振動吸収と軌道追従の
ためには柔な方がよい.寸法上の制約を鑑みながら軸ばね定数の適値を定める.
左右,前後支持剛性は,駆動力やブレーキ力,曲線通過性能と走行安定性を考慮
して決める.
1.2.4
車体支持装置
車体と台車の間のまくらばねや左右動ダンパなどのサスペンション(ばね装
置)および前後力を伝える牽引装置をまとめて車体支持装置と呼ぶ.
〔 1 〕 まくらばね
ボルスタレス台車において,まくらばねは車体―台車間で車両の二次ばねを構
12
1.2 ●台車の具体的な構造
成し,軸ばねに比して柔なばね定数で上下,左右,前後の支持剛性を構成する.
まくらばねには,現在,多くの場合は図 1・15 に示すような空気ばねが使われてい
る.空気ばねが主流を成した理由は,上下方向の寸法制約のなかで大きな車体荷
重を比較的(金属コイルばねに比べて)柔な剛性で支持することができる点,振
動を抑える減衰力を発生する点,乗客の有無による車体質量変化に応じて,図 1・
16 に示す自動高さ調整装置を用いて空気ばねの内圧を調整することで車体高さ
を一定に保つことが可能な点による.なお,低い横剛性を持つ空気ばねを採用し
てボルスタレス台車が実現したことで,台車の軽量化,構造の簡素化が図られた.
空気ばねベローズ
積層ゴム
▲図 1・15 空気ばね
車体に取付
連結棒
高さ調整弁
台車枠に取付
▲図 1・16 空気ばね高さ調整弁
13
1 章■台
車
車 体
空気ばね本体
積層ゴム
差圧弁
空気源
補助空気室
絞り栓
自動高さ調整弁
▲図 1・17 空気ばね装置の構成図 3)
ボルスタレス台車で用いる空気ばね本体は,自動車のタイヤを横向きにしたよ
うな構造のゴムベローズの空気室で構成されるベローズタイプと,その下部に積
層ゴムを配した低横剛性空気ばねが多く使用されている.いわゆる空気ばねは本
体のほかに図 1・17 に示すような構成で,これを空気ばね装置と呼ぶ.空気ばね
本体は絞りを介して補助空気室と繋がっている.1 台車当たり左右 2 個の空気ば
ね本体,1 組の空気ばね系で車体半分を支持する.左右それぞれの補助空気室の
間には差圧弁が設けられており,左右の補助空気室で一定の圧力差が生じた場合
に差圧弁が開き,左右の圧力差を小さくする.日本国内の台車では,補助空気室
には台車の横ばり内部を用いる場合が多いが,車体に設置する場合もある.空気
ばねで設定する上下剛性は,主に,支持荷重とそれに対する空気ばね内圧と受圧
面積および補助空気室容積でほぼ決まる.
空気ばねの前後・左右支持剛性は空気ばねの横方向のねじれ剛性と積層ゴムの
剪断剛性の組合せによって決まり,ベローズタイプの場合は上下剛性よりも柔と
なる.
まくらばねの減衰力は,例えば空気ばね本体が上下に変位したときに,空気ば
ね本体の内容積変化に応じて発生する補助空気室間との空気の流れにより絞りで
生じる圧力損室によって発生する.空気ばねの左右,前後方向の減衰について
は,空気ばね本体の容積変化が生じない程度の変位では小さい.空気ばねの空気
が抜けた状態では空気ばねの上面板が積層ゴムに密着することとなる.この状態
14
1.2 ●台車の具体的な構造
では,上下剛性が大きくなり,また,前後・左右方向には上面板と積層ゴム上面
の摩擦力が作用する.この状態では台車の軌道に対する追従性能が低下した状態
となり,走行には注意を要する.
〔 2 〕 牽引装置
牽引装置は車体に対し加減速力を伝える機能と同時に台車の旋回や車体の上
下,左右,ロール運動を妨げないこと,また台車のピッチ運動を誘発しないこと
が重要である.そのため,牽引装置にはさまざまな形式が考案さている.図 1・7
に例示したボルスタレス台車では一本リンク方式を採用している.一本リンク方
式では図 1・18 に示す両端にゴムブッシュを持つリンクで車体側の中心ピンと台
車横ばりをつないでいる.ここで用いるゴムブッシュはリンク軸方向以外には柔
らかに支持するように設計され,台車のヨー方向の旋回運動や車体のロール運動
を妨げることのないように配慮されている.台車のピッチ回転運動は台車内の軸
重の変動を誘発してしまうことから,牽引装置による牽引高さを輪軸中心高さ付
近とすることで,加減速力に起因する台車のピッチ回転運動に配慮している.
ゴムブッシュ
▲図 1・18 一本リンク外観(T 車用)
1.2.5
その他の構成要素
〔 1 〕 ダンパ
台車には要求性能に応じていくつかのダンパが装備されている.いずれのダン
パも油圧式で,ピストン速度に応じて減衰力を発生し,低いピストン速度では減
衰係数(ピストン速度に対する減衰力の比)は大きく,一定のピストン速度を超
えると油圧回路内でリリーフ弁を働かせ減衰係数を小さくなる性能を設定してい
15
1 章■台
車
ることが多い.高い速度域で減衰係数を小さくするのは,ダンパおよび取付座に
過大な力が働くのを防止するためである.なお,ピストンが停止から動き出すと
きのようなごく低い速度域では,油の特性に応じて減衰係数が小さくなる場合も
ある.
(1)
左右動ダンパ
ほぼすべてのボルスタレス台車に装備されているダンパが図 1・19 に一例を示
す左右動ダンパである.台車と車体間の左右動を減衰させる目的で,車体中心ピ
ンと台車枠の間で左右方向に 1 本ないし 2 本装備されている.左右動ダンパの取
付座には,図 1・19 のように緩衝ゴムを介す場合のほか,メタル接触でボールジョ
イントを介す場合があり,いずれも車体―台車間が相対的に上下やロール,ヨー
変位した際にダンパがねじられることを防止している.
緩衝ゴム
緩衝ゴム
▲図 1・19 左右動ダンパ
(2)
▲図 1・20 軸ダンパ
軸ダンパ
比較的,高速走行や振動性能を重視する車両の台車には軸ダンパ(上下動ダン
パ)が取り付けられている.軸ダンパは 1 台車に 4 本,左右の軸箱と台車枠間で
上下方向の振動を減衰させる.左右動ダンパに比べてねじり角度が小さく,図 1・
20 に示すような取付形状となっている.
(3)
ヨーダンパ
高速走行する車両の台車には,台車蛇行動を抑制し走行安定性を向上する目的
で,ヨーダンパが取り付けられている.台車の旋回運動に伴って,台車両側面で
発生する逆位相の前後振動を減衰させるために,車体―台車間の軸中心高さ付近
16
1.2 ●台車の具体的な構造
で左右両側にヨーダンパを配置する.急曲線や分岐器に出入りする際には,台車
が旋回するため,このときにはヨーダンパの発生する減衰力が台車旋回の抵抗力
となる.その抵抗力を小さく抑えるため,高いピストン速度では減衰係数を小さ
くなるよう性能を設定している.
(4)
ダンパの緩衝ゴムあるいは支持剛性
ダンパ本体がねじられたり,こじられたりする力を緩和し,ダンパに伝わる衝
撃力を緩和する目的で緩衝ゴムを介すなどしてダンパは車体や台車に取り付けら
れる.取付座の剛性も含めて,ダンパには直列にばねが配置されるものと考えら
れ,この直列ばね剛性を必要以上に柔に設定するとダンパの振動減衰効果を小さ
くしてしまうことに注意が必要である.
(5)
台車以外に取り付けられているダンパ
台車部品以外にも走行性能に関わるダンパが取り付けられている場合がある.
車体のヨー回転,ロール回転振動を隣接する車両間で減衰させる目的で,車体間
前後ダンパや車体間ロールダンパ(車端ダンパ)などがある.これらは主に高速
走行するあるいは乗り心地を重視する車両の一部で用いられている.
〔 2 〕 ストッパ
車体と台車,台車枠と輪軸が相互に可動域を超えないようにストッパ類が設け
られている.日常の走行でも接触することがあるのは,車体―台車間の相対左右
変位あるいは相対ロール角を一定の範囲に収めるための左右動ストッパである.
台車に対し車体が下がる方向について,空気ばね内の空気圧で支えられている車
体は,この空気が抜けた状態になると車体荷重は空気ばね内に設けられている積
層ゴムで受けることとなる.このほか,日常的には,当たることのないストッパ
として,車体―台車間の異常上昇止めや,台車全体をつり上げるときに台車枠と
輪軸が分離しないようにする輪軸吊り金具などがある.
〔 3 〕 アンチローリング装置
車体―台車間のロール運動を抑える目的で,ロール剛性を大きめに設定するア
ンチローリング装置を用いる場合がある.車体―台車間の上下変位を許しなが
ら,相対ロール運動に応じてばね力を発生するトーションバー(ねじり棒)を用
いて,ロール剛性を大きく設定する装置である.
17
1 章■台
車
〔 4 〕 台車排障器
編成内で先頭になる台車には,車輪とレール間に異物が挟まるのを防ぐ目的で
台車排障器が取り付けられている.
ここまで台車についてレール上を走行するときの運動の側面から解説した.鉄
道車両は,その機能を維持するために日常的な保守を考慮せねばならず,これを
無視した台車構成は成立しない.また,鉄道車両は時々刻々変化する環境の中を
走行する.風が吹けば車体が振動し,雨が降ればレールは濡れる.雪が積もれ
ば,これを掻き分けて走ることもある.地震の際には軌道が振動することもあ
る.また,台車の性能は,車体はもとより,軌道をはじめとする土木構造物や地
盤とも相互に影響を及ぼし合っている.これら数多くの事柄に配慮して,総合的
に性能を追求した結果として現在の台車がある.さらに,車体の振子制御装置や
操舵機構,車体振動制御装置などの先進的な技術開発が続けられ,鉄道車両の台
車は今も進化している.
1
3
車輪・レール間のクリープ力
車輪がレール上を転がるとき,車輪とレールの接触面には接線力が生じ,接線
力が生じるところでは,部材の変形や部材間にすべりが生じている.この接線力
発生メカニズムについて論じたものをクリープ理論と呼び,車輪がレール上を転
がるときの接線力(Tangential force)を鉄道の車両運動分野ではクリープ力
(Creep force)と呼び,車輪の進行方向に作用する力を前後クリープ力と呼ぶ.
比較的理解しやすい前後クリープ力を例にクリープ理論を解説する.速度 V で
直進する半径 r の車輪が角速度 ω で回転するときのすべり率 s を次式で定義す
る.
s=
rω−V
V
(1・4)
式(1・4)中の車輪半径 r は接触点位置によって変化する.より具体的に,すべ
り率は前後,左右,スピンなど方向別に求められ1),車輪とレールの接触位置で
の車輪半径,接触角,車輪ヨー角,ロール角速度,車輪の左右変位にともなう接
触点位置の変化がすべり率に影響する.
18
1.3 ●車輪・レール間のクリープ力
クリープ力 T はすべり率 s に比例して発生する.
T =−κs
(1・5)
ここで κ は線形クリープ理論のクリープ係数と呼ばれる.より詳細な非線形理
論も含めてクリープ理論については Dr. Kalker による文献6) が著名である.ク
リープ力の発生メカニズムは図 1・21(a)に示す接触面内のようすから説明するこ
とができる.すべりがある状態で接触面内にはすべり領域と固着領域が生じる.
すべり領域では車輪とレールはすべっており,接線方向には法線力に比例した摩
擦力が生じている.固着領域では接触面近傍の材料の弾性変形が生じ,この変形
量に応じた接線力(摩擦力より小さい)が生じている.この固着領域とすべり領
域の接線力あるいは摩擦力を合算したものがクリープ力となる.すべり率が大き
くなるに従ってすべり領域が大きくなり,すべてすべり領域になったとき,クリ
ープ力は接触面全体の法線力に比例した摩擦力となる.すべてすべり領域のとき
の摩擦係数(=摩擦力/法線力)は,動摩擦係数であるものと考えて差しつかえ
ない.すべり率とクリープ力の関係を図 1.20(b)に示す.なお,式(1・5)は図 1・
20(b)のすべり率が微小な範囲におけるすべり率とクリープ力との線形な関係を
表している.なお,実際の車輪・レール間では前後クリープ力と左右クリープ力
が同時に発生し,これらをベクトル合成して,動摩擦係数に飽和するものと考え
すべり
領域
進行
方向
接触面
進行方向
車輪踏面で接触している場合の
接触面と粘着・すべり領域
(a) 車輪とレール接触面
摩擦係数 m
クリープ力
粘着
領域
/ 法線力
クリープ力
線形領域
クリープ力の
飽和特性
すべり率(クリープ率)
アタック角
(b)
クリープ力特性
▲図 1・21 クリープ力発生メカニズム概念
19
1 章■台
車
る.さらに,詳細に接触面の法線―軸回りのスピンを考慮することもある.
4
1
走行安定性
1)
輪軸の蛇行動を防止することが台車の機能の一つではあるが,2 軸ボギーにお
いても蛇行動は発生する.式(1・3)に示した輪軸の幾何学的蛇行動波長 S1をもと
に,二つの輪軸が台車枠に剛に取り付けられた剛体台車の幾何学的蛇行動波長
S2は次式で与えられる.
S2=S1
 1+ ab 
2
(1・6)
ここで a は軸距の半分,b は左右の車輪接触点間隔の半分である.
通常の走行速度では,実際の蛇行動による振動は台車のサスペンションや台車
枠,車体の質量によって吸収・抑制されている.しかし,高速走行時には振動が
発散傾向(不安定)になる速度(蛇行動限界速度と呼ぶ)がある.サスペンショ
ンで弾性支持された一輪軸の蛇行動限界速度 v は,簡易的には次式で求めるこ
とができる.
v =S1


1
f =
2π 
f =

1
2π
b 2 f 2+i 2 f 2
b 2+i 2

m
(1・7)
b12
mi 2
ここで m は輪軸質量,i は輪軸のヨー回転の慣性半径,, は輪軸の前後・
左右支持剛性,b1 は輪軸前後支持点左右間隔の半分である.式(1・6)および式(1・
7)より,蛇行動限界速度を大きくする,つまり安定に高速走行するためには,左
右の車輪間隔(軌間)を大きく,軸距を長く,輪軸支持剛性を硬くすることが有
効であることがわかる.ただし,軌間を大きくすると式(1・1)で示した純粋転が
り線の半径が大きくなり,軸距を長くすると台車内でのアタック角(軸距と曲線
半径の比で求まる)が大きくなり,軸箱支持剛性を硬くすると台車内で輪軸が操
舵しにくくなることから曲線での旋回性能が低下することになる.つまり,走行
安定性と曲線旋回性能が相反する.車両の使用目的に合わせてこれらの条件を成
20
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