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1Pa088-105

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1Pa088-105
1Pa088
THF 溶媒中におけるメチルリチウムクラスターの
会合状態の理論的研究
(名大院人情)○出村彰光・岡本拓也・長岡正隆
【序論】 有機金属反応剤であるアルキルリチウムは強い塩基で、有機合成において求核剤として
非常に有用な化合物であることが知られている。一方、その構造自体は、気相・固相・液相にお
いてさまざまな会合状態で存在するため非常に興味深い
1)
。しかしながら、液相での会合状態を
特定することは実験的には非常に困難である。そこで本研究では、THF 溶媒中におけるメチルリ
チウムクラスターの会合状態の構造と安定性に関して理論的に研究を行った。
【方法】
気相中における会合状態については Gaussian98 を用いた分子軌道計算により(CH3Li)n
(n=1~4)の構造最適化を行い、そのエネルギー値から一分子あたりの安定化エネルギーを計算した。
結晶中における会合状態については四量体を単位胞とする結晶中の最適化構造を見積もるために、
中心単位胞に最近接する 8 個の単位胞との間に働く静電相互作用を取り入れたモデル結晶エネル
ギー計算を行った。この際、孤立四量体における4つのメチル基の有効電荷は分子軌道計算から
求めた値を用いた。THF 溶媒中におけるメチルリチウムの会合状態については、AMBER パッケ
ージで QM/MM 計算を行った。そのための QM/MM 用相互作用パラメータは、CH3Li-THF 系に対
する 2250 配置の相互作用エネルギーを非経験的分子軌道計算から求め、それらの値を再現するよ
うにフィッティングして決定した。
【結果と考察】 気相中における一
分子あたりの安定化エネルギーは
どの計算基底においても会合分子
0.00
B3LYP/6-31G(d)//RHF/6-31G(d)
-15.00
-20.00
る傾向になった(図1)。これは会合
-25.00
度nの増加によって安定化エネル
-30.00
実際にメチルリチウムが気相、固
MP2/6-31G(d)//RHF/6-31G(d)
-10.00
数nが増加するにつれて大きくな
ギーが増加していることを示し、
RHF/6-31G(d)//RHF/6-31G(d)
-5.00
AM1//AM1
-35.00
-40.00
-45.00
相、液相で四量体として存在して
1
いるという実験的事実に呼応して
2
3
number of moleculars
4
monomer
dimmer
trimer
tetramer
いる。このため単量体で存在する
RHF/6-31G(d)//RHF/6-31G(d)
0.0
-21.3
-27.5
-31.6
ときよりも実効的に反応性は弱く
MP2/6-31G(d)//RHF/6-31G(d)
0.0
-22.7
-30.3
-35.8
なると考えられる。また、Gauss-
B3LYP/6-31G(d)//RHF/6-31G(d)
0.0
-21.8
-28.6
-33.0
ian98による最適化構造 (図2b)と
AM1//AM1
0.0
-29.4
-35.2
-41.9
X線解析による結晶の単位胞構造
(図2a) とにはリチウム原子に対
する3つのメチル基水素の相対位
置について相違が見られた(図2)。
(kcal/mol)
図 1.
会合による1分子あたりの安定化エネルギー
結晶構造の会合状態について調べるために、文献2の結晶構造データを参考に3つのメチル基水
素の相対位置を図2aのように固定して部分最適化を行った。その結果、完全最適化構造(図2b)
に比べてエネルギーが高いことが判
った。そしてメチル基の二面角を15°
ずつ回転させて、部分最適化を行うと
図2aの構造で、最もエネルギーが高
くなり、メチル基部分電荷が最も局在
していることが分かった。そこで、孤
立四量体と結晶中の四量体との間に
見られるメチル基配置の相違の原因
を探るため、8個の最近接単位胞との
結晶モデルを作成し、静電相互作用が
結晶単位胞間の相互作用の主成分で
あるとしてエネルギー計算を行った。
その結果、メチル基配置によるエネル
図 2.
メチルリチウム4量体構造
a)文献 2)に基づいた CH3Li4量体結晶構造
b)RHF/6-31G(d) Opt による気相における CH3Li4量体構造
ギーの傾向が逆転し、図2aの構造が
最も安定であるという結果となった。
この結果から、結晶構造の単位胞であ
る図2aの構造は、メチル基回転に伴
う局在電荷の増大により単位胞間の
安定化相互作用の増加し孤立四量体
がもつ不安定化エネルギーを補償す
るために実現されるものと予想され
る。
結晶中で見られるメチル基の相対
配置の変化は極性溶媒中においても
起こる現象であると考えられるため、
メチルリチウム四量体の周囲にTHF4
分子を配置した構造について構造最
適化を行ったところ予想通り同様の
図 3. メチルリチウム4量体+THF4分子
RHF/6-31G(d) Optによるメチルリチウム4量体+THF4分子構造
傾向が見られた(図3)。
本発表では、分子軌道計算による、気相・結晶中における会合状態についての研究結果3)を報告
するとともに、分子動力学法を用いたTHF溶媒中におけるメチルリチウムの会合状態についての
計算結果について報告を行う予定である。
【参考文献】 1) L. Herzig, J. M. Howell, et al. J. Chem. Phys., 77, 429 (1982)
2) E.Weiss, E.A.C.Lucken, J.Organomet.Chem, 2, 197 (1964)
3) T. Okamoto, A. Demura, M. Nagaoka, Chem. Phys. Lett., in preparation.
1Pa089
Au5Zn+ クラスターの芳香族性と平面構造の魔法数
(理研 ・K.U.Leuven) ○田中宏昌, Sven Neukermans, Ewald Janssens, Roger E.
Silverans, Peter Lievens
【序論】アルカリ金属クラスターの質量スペクトルにおいて,安定性がクラスターサ
イズに強く依存し,それが電子の殻モデルから導かれる非局在化電子の魔法数(2, 8,
18, 20,…)によって説明できることが知られている [1].非局在化電子による電子的
効果が安定性を支配するアルカリ金属および貴金属クラスターに対し,遷移金属クラ
スターでは対称性のよいパッキング構造をとることができるサイズが安定となり,幾
何的な効果によって安定性が支配されている [2].これら効果がどのように影響しあ
うかは,双方の金属を含む二元系クラスターの研究から明らかにすることができる.
我々のグループは,3d 遷移金属を含む金クラスター AunX+ をレーザー蒸発と光解離
の手法で生成し,安定性のサイズ依存性が電子の殻モデルで説明できることを明らか
にした [3].また,これらのクラスターのいくつかで Au5X+ が特に安定であること
もわかった.殻モデルから非局在化している原子価電子数は 6 個と推測され,最近報
告された金属クラスター Al4Li– と同様に芳香族性を示す可能性が考えられる [4].
本研究では,特異な安定性を示した Au5Zn+ の安定性の要因を,量子化学計算を用
いて芳香族性および殻モデルの観点から検討した.
【計算と議論】計算は全て Gaussian98 で行い,計算手法として MP2 を用いた.金原
子には相対論効果を取り入れた基底関数系を採用した.得られた 3 個の構造異性体を
図 1 に示す.安定構造は全て平面構造であり,三次元構造は見つからなかった.Au6
クラスターに似た三角形型の異性体 A が最安定で,対称性のよい B は 0.69 eV 高エネ
ルギーである.Au-Zn 結合が Au-Au 結合より強いため,Au に隣接する Zn の少ない異
性体 C は A よりも 0.75 eV 不安定である.6 個の原子価 s 電子は局在化しておらず,
図 2(a) に示したように分子全体に大きく広がった MO を占める.この 3 個の MO の
形状は芳香族化合物として知られる
–18.3 (0)
+0.7
–0.5
–14.2 (1)
–0.4
–23.5 (0)
–8.0 (1)
–
–2.3 (2)
–6.2 (2)
–9.1 (1)
–2.2 (2)
C6H6 や C5H5 の MO によく似ている
–2.1 (2)
–1.9 (2)
0.0
が, σ 結合により MO が形成されて +0.4
–2.1 (2)
–0.4
–5.2 (2)
–0.6
いるため分子面に節が存在しない.
+0.2
+0.7
+0.3
–2.2 (2)
Au5Zn+ が芳香族性をもつかどうか
A
B
C
の判断に磁気的な基準を採用し,NICS
–14.0 (0)
–9.6 (0)
+0.8
–10.3 (1)
–11.3 (1) +0.4
(nucleus-independent chemical shift) 計
–4.4 (2)
–5.4 (2)
CH
算 [5] を行った.芳香族化合物は環内
CH–
+
図 1. Au5Zn の安定構造および芳香族有機化合
および上部において環電流効果によ
物の NICS (ppm).カッコ内は分子面からの距離
り磁気的に遮蔽され,結果として NICS
(Å).
は負の大きな値をとる.図 1 に C6H6
6
6
5
5
および C5H5– と比較した NICS を示す.Au5Zn+ の NICS は環の内外で芳香族有機化
合物に近い値をもち,芳香族性の磁気的基準を満たしている.したがって Au5Zn+ ク
ラスターは,6 個の原子価電子が σ 結合で形成された ΜΟ に非局在化した σ 芳香族
クラスターであると結論づけられる.
量子化学計算において Au5Zn+ クラスターが平面構造をもつことことから,殻モデ
ルを 2 次元系に適用し,電子が平面内に束縛された単純な particle-in-a-box 問題とし
て Schrödinger 方程式を解いた.無限の高さをもつ,一辺の長さが 7 Å の三角形の 2
次元井戸型ポテンシャルについて得られた 1 電子波動関数およびエネルギー準位を図
2(b) に示す.MP2 計算で得た MO と 1 電子波動関数は非常によく似ており,6 個の原
子価電子が非局在化した MO を占めていることを示唆している.円形および正方形型
のポテンシャルについて得たエネルギー準位(図 3)はいずれも電子数 6 でエネルギ
ーギャップを有し,この数が平面構造における魔法数であることが明らかになった.
22
(a1) E = -3,6eV
(a 1) E = -3,8eV
LUMO
24
LUMO
22
16
16
12
HOMO
12
8
10
6
6
12
HOMO
(a 1) E = -12,1eV
(b2) E = -12,4 eV
2
図 2. (a) 異性体 A の σ 結合性 MO
およびエネルギー準位.(b) 三角形
の井戸型ポテンシャルにおける 1 電
子波動関数とエネルギー準位.
16
8
6
2
2
図 3. 三角形,円形および四角形
の 2 次元井戸型ポテンシャルにお
けるエネルギー準位と魔法数.
[1] W. D. Knight, K. Clemenger, W. A. de Heer, W. A. Saunders, M. Y. Chou and M. L.
Cohen, Phys. Rev. Lett., 52, 2141 (1984).
[2] T. P. Martin, Phys. Rep., 273, 199 (1996).
[3] S. Neukermans, E. Janssens, H. Tanaka, R.E. Silverans and P. Lievens, Phys. Rev. Lett.,
90, 033401 (2003).
[4] Li, X.; Kuznetsov, A. E.; Zhang, H. -F.; Boldyrev, A. I.;Wang, L. -S. Science, 291, 859
(2001).
1Pa090
Mn2O-の電子および幾何構造 *
(東大院理・豊田工大) ○登野健介、寺嵜 亨、太田俊明、近藤 保
【序】
サイズの小さなマンガンクラスター(MnN )中では、マンガン原子の 4s 軌道と 3d 軌道
がほとんど混成しないため、隣り合う原子同士の結合は非常に弱い。その結果、各原子上に
大きな局在スピンが残り、隣接原子間で弱くスピン結合している。最近の我々の研究で[1,2]、
Mn2+ や Mn 3+ のようなサイズの小さなクラスターイオンでは、この大きな局在スピンが強磁
性的に結合し、反強磁性体である固体マンガンとは対照的な磁気特性を示すことが明らかに
なった。本研究では、異種原子との化学反応による MnN の磁気特性の変化に注目した。MnN
が酸素や窒素などの原子と反応すると、Mn 4s 殻から電子が奪われ、Mn–Mn 結合が強くな
る結果、Mn–Mn 間のスピン結合が変化すると考えられる。今回は、Mn2 と酸素負イオンの
反応に着目し、光電子分光法と密度汎関数法を用いて Mn2O–の電子構造を調べた結果を報告
する。
【実験】
レーザー蒸発法により Mn2O–を発生させ、
質量選別の後、3.49 eV の励起光を用いて光
電子スペクトルの測定を行った。また、密度
汎関数法を用いて Mn2O–の構造最適化と電子
束縛エネルギー計算を行った。
【結果と考察】
図 1(a)に Mn2O–の光電子スペクトルを示す。
電子束縛エネルギー 1.7、1.9、2.2 eV に 3 本
のピークが観測された(図中の X、A、B)。
これらのピーク位置は、最安定な高スピン異
性体(合計スピン S = 11/2)の電子束縛エネ
ルギー計算値とよく対応している[図 1(b)]。
また、この高スピン異性体についての計算に
よると、3 eV 以下の束縛エネルギーを持つ
電子は 3 個だけであり、実験結果をよく再現
図1
(a): Mn 2O–の光電子スペクトル。3.49 eV
の励起光を用いて測定した。 (b): 密度汎関
数計算で得られた Mn2O– の最安 定 異 性体の
幾何構造と電子束縛 エネルギー 。相対エ ネ
ルギー(E)と合計スピン(S)の値を示し
た 。 (c): 準 安 定 な 低 ス ピ ン 異 性 体 に つ い て
の計算結果。
している。これに対し、図 1(c)に示した準安定な低スピン異性体(S = 1/2)では、3 eV 以下
の領域に 10 個以上の電子が密集しており、実験結果と大きく食い違っている。以上の結果
から、高スピン異性体[図 1(b)]の電子・幾何構造は、実際の Mn2O–のものをよく再現して
いると考えられる。この異性体は合計スピンが S = 11/2 と大きく、各マンガン原子上の局在
スピンが Mn–Mn 間で強磁性的に結合していると考えられる。
電子構造をさらに詳しく調べるため、Mn2O–の電子状態密度を計算した(図 2)。多数スピ
ン状態のみが完全に占有されている Mn 3d 殻のため、Mn2O–の電子構造は大きくスピン偏極
している。そして、Mn 3d 殻の 10 個の多数スピン電子と、Mn 4s 殻に残った電子 1 個分の
スピンにより、Mn2O–は 11 µB のスピン磁気モーメントを持つ。スピン偏極したマンガンの
電子状態とは対照的に、O 2p 殻は閉殻になっており、スピン偏極していない。つまり、酸
素原子は形式的に O2–とみなすことができ、Mn2 の 4s 電子 1 個が O 2p 軌道に移動したこと
により 、Mn2+ …O2– の イ オ ン 結合 が 形成 さ
れている。しかし、O 2p と Mn 3d、4s と
の軌道混成も顕著であり、共有結合的な相
互作用も認められる。
理論計算によると、Mn2 および Mn2+ の
強磁性的な異性体と反強磁性的な異性体で
は、結合エネルギーの差はそれぞれ約 0.4
eV、0.5 eV である[1,3]。これに対し、Mn2O–
の場合、その差は 3.08 eV になっている[図
1(b)、 (c)]。 し た が っ て、Mn2 が酸 素 と 反
応することで、Mn–Mn 間の強磁性的なス
ピン結合が強められることがわかった。ま
た、Mn 2O–中の Mn–Mn 間スピン結合には、
Mn–O 結合を介した相互作用が重要な働き
をしていることが示唆される。
図 2
(a),(b): 密 度 汎 関 数 計 算 で 得 ら れ た
Mn 2 O– の 電 子 状 態 密 度 。 (c),(d): 電 子 状 態 密 度
のうち、Mn 3d 軌道が寄与する部分。(e),(f): Mn
4s 軌道が寄与する部分。(g),(h): O 2p 軌道が寄
与する部分。
【参考文献】
[1] A. Terasaki et al., J. Chem. Phys. 114, 9367 (2001).
[2] A. Terasaki et al., J. Chem. Phys. 118, 2180 (2003).
[3] N. Desmarais et al., J. Chem. Phys. 112, 5576 (2000).
*本研究は(株)コンポン研究所の研究プロジェクトの一環として行われた。
1Pa091
Mg+(NH3)n クラスターの஢子状態と励֬状態水素原子脱離反応に関する理論的研究
(ற立大院理)○大極光太、橋本健朗
【 序 】 溶媒和アルカリ土་金属クラスターカチオンは、溶液中における酸化還元反応、金属の
溶ӕ過程を微視的観点からӕ明するためのモデル系として盛んに研究されている。最‫ؼ‬神戸大の吉
田等により Mg+(NH3)n(n=1-4)の光ӕ離スペクトルが観測され、以前我々はそこで֬こる஢荷移動反応
のメカニズムを明らかにした。一方、n≤2 のみで֬こる水素原子脱離反応の発見に対しては、生成
物の஢子状態さえ十分に明らかではない。本研究では ab initio MO 法により、1:1錯体( Mg+–NH3 )
について NH 結合‫״‬離( RNH )に対する基底状態、励֬状態のポテンシャルエネルギー曲線( PEC )
を‫ڐ‬算し、水素原子脱離の反応機構を調べた。また、Mg+(NH3)n(n=1-6)の溶媒による஢子状態変化を、
等஢子系である Na(NH3)n、NH4(NH3)n のそれと比Ԕしӕ析した。
【 方 法 】 n=6 までのクラスターについては MP2/6-31++G(d,p)法により構造最適化を行った。そ
の遷移エネルギーと Mg+–NH3 の PEC は、状態平均 CASSCF 法で得られた1஢子軌道を用いた
MRSDCI 法で‫ڐ‬算した。
【 結 果 と 考 察 】 < 1 : 1 錯 体 の 水 素 原 子 移 動 反 応 > 図1に Mg+–NH3 ( C s )の RNH ‫״‬離に
対するポテンシャルエネルギー曲線を示した。RNH ‫״‬離の他に Mg–N ‫״‬離、Mg–N–H Ԓ度に対してそ
れぞれ 1.8~2.4Å、80º~140ºの領域で‫ڐ‬算し、最低エネルギー点のエネルギー値をプロットした。基底
状態は Mg2+NH2–(11A’) + H に相関し、
12A'
22A'
32A'
12A"
RNH が大きくなるにつれてエネルギ
AMg-N-H
ーが上がるが RNH=~2.4Å 付‫ؼ‬でほ
ぼ一定になる。RNH ≥ ~2.5Å では
Mg+[32S]–NH2[12B1]に相関する 22A’
状態との擬交差により Mg+側から
RNH
10.0
RMgN
8.43
8.0
Mg+NH2(13A”)+H(2S)
6.0
Mg+NH2(21A’)+H(2S)
5.40
5.04
Mg+NH2(13A’)+H(2S)
4.24
Mg2+NH2-(11A’)+H(2S)
NH2 側への஢子移動の஢子状態変
化が֬こる。
Mg–NH3 の平衡構造( C 3v )におけ
る第一励֬状態は E 状態で縮重し
ており、1つの NH 結合‫״‬離が伸び
4.0
た C s 対称性では 22A’、12A”に対応
2
する。1 A”はӕ離極限でそのまま
+
2
3.29(12E)
Ж離極限
4.52(22A1)
2.0
2
Mg [3 P]–NH2[1 B1] 由来の
Mg+NH2(13A”) + H に相関するが、
22A’は RNH=~1.6Å 付‫ؼ‬で஢子状態の
性ࡐが変化し、Mg+[32S]–NH2[12B1]
に由来する Mg+NH2(13A’) + H に相
関する。一方、水素原子脱離反応は
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
RNH ( Å )
図1 NHԵ離(RNH)に関する基底状態と励ӭ状態の
あああポテンシャルエネルギー曲線
主に Mg–NH3 が 32A’(C 3v では 22A1)状態に励֬された時֬こるが、この状態では H 原子のӕ離に対し
て約 2eV のバリアがあるため直接反応は֬こらない。ӕ離極限のエネルギーを見てみると、12A’状
態(4.24eV)は 12E 状態(3.29eV)と 22A1 状態(4.52eV)への垂直遷移エネルギー(VTE)との間にあり、22A’
状態のӕ離極限(5.04eV)は 22A1 状態への VTE よりも上にある事から、水素脱離反応は 22A1 状態
(4.52eV)に励֬された後、基底状態( 12A’)に内൉転換する事により֬こる事がわかった。
< M g+ ( N H3 ) n ( n = 1 - 6 )の ஢ 子 状 態 >
Mg+(NH3)n(n=1-6)では、NH3 分子
によって価஢子が外側に押し出
2+
0.45
0.40
され Mg となり、できるだけ多
0.35
くの NH3 分子が೪共有஢子対を
0.30
2+
Mg に向け直接結合する構造が
0.25
最安定になる。 図2に
0.20
Mg+(NH3)n の Mg を中心とした価
0.15
஢子の動径分布関数を示す。
n=1,2,3 では NH3 分子数が増え
るに従って価஢子は徐々に外側
Mg+
n=1
n=2
n=3
n=4
n=5
n=6
0.10
0.05
0.00
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
r(Å)
へ広がるが、NH3 分子の反対側
図2 Mg原子を中心とした価ૣ子の動径分布関数(r(r))
の空間が空いているため裸の
Mg+の場合と似た分布になる。一方、Mg が NH3 に等方的に囲まれた構造を持つ n=4,5,6 では Mg–H
‫״‬離約 2.8Å より外側に約 70%以上の価஢子が分布する。等஢子系である Na(NH3)n (n=1-6)と比Ԕした
ところ、஢荷により程度の違いはあるが、定性的に同じ஢子状態変化が֬こっていることがわかっ
た。図3に基底状態における不対஢子の動径分布の期待値< Rd >と基底状態(32S 型)から第一励֬状
態(32P 型)への VTE の関係を Na(NH3)n (n=1-6)、NH4(NH3)n(n=1-4)の結果と伴に示した。図中の整数は n
の値である。Mg+はカチオンのため Na、NH4 に比べて同じ n での< Rd >が小さく、NH3 分子が結合
するにつれて急激に VTE の値が下がる。すなわち価஢子の஢子分布が広がると伴に 32S–32P 型遷移
エネルギーが小さくなり、また<
Rd >が大きくなるとその変化は
小さい。(1)金属(M)に直接結
5.0
4.0
1
合する溶媒(S)が増える事により、
価஢子が金属から離れ、[MSn]+を
コアとした1中心イオンペア状
Mg+(NH3)n
Na(NH3)n
NH4(NH3)n
0
3.0
3
2
2.0
状態と 32P 型状態のエネルギー差
が小さくなるという֩則が、アル
カリ金属と等஢子系である分子
やイオンにも適用できることが
わかる。
0
0
態になる、(2) n の増加に伴っ
た஢子状態変化を反映して 32S 型
number : n
1
1
1.0
2
0.0
0.0
1.0
2.0
4
2
5 6
3
4 5 6
4
3
3.0
4.0
5.0
6.0
< Rd > ( Å )
図3 不対ૣ子の動径分布の期待値< Rd >と
あああ垂直遷移エネルギーの関係
7.0
1Pa092
孤立気相中における2-アミノピリジン-水錯体の電子スペクトル
-核酸塩基モデル分子に生じる分子キラリティー-
九大院理
○迫田憲治,中垣雅之,馬場園誠,土田大介,関谷博
【序】
近年,生体分子及びその分子クラスターの構造とダイナミクスに関する研究が注目されている.
生体分子は,水に取り囲まれた環境に存在しているので,生体分子と水分子との分子間相互作用
を分子レベルで解明することは非常に重要である.核酸塩基分子やアミノ酸等の生体分子中には,
ほとんどの場合アミノ基が存在している.アミノ基を有する芳香族化合物に関する研究から,電子基
底状態においてアミノ基は非平面構造をしており,H原子はトンネリングによって分子面の上下を行
き来していることが知られている.これまで,核酸塩基分子やその溶媒和クラスターに関する分光
学的研究は,複数のグループによって行われているが,核酸塩基分子中のアミノ基と水分子との分
子間相互作用が核酸塩基分子の構造にどのような影響を与えるかについて明らかにした例はほと
んどない.本研究では,核酸塩基分子シトシンのモデル分子である 2-アミノピリジンと水分子とのク
ラスターを生成させ,電子スペクトルを測定した.実験結果を密度汎関数理論 (DFT) 計算の結果
と比較することにより,クラスター構造を決定した.また,2-アミノピリジン-水クラスターの蛍光スペ
クトルを解析することにより,2-アミノピリジンに誘起される分子キラリティーに関して考察を行った.
【実験】
超音速ジェット冷却された 2-アミノピリジン-水クラスターの質量選別多光子イオン化 (REMPI)ス
ペクトル,分散蛍光スペクトルを測定した.DFT 計算は GAUSSIAN98 を用いて B3LYP/6-31+G**レ
ベルで行った.
【結果・考察】
図1に 2-アミノピリジン-水1:1クラスターの REMPI スペクトルを示す.Hager らはモノマーのオリ
ジンから 386cm-1 レッドシフトしたバンドを 2-アミノピリジン-水1:1クラスターの S1—S0(ππ*)遷移の
オリジンに帰属している.しかしながら,今回測定した REMPI スペクトル及び分散蛍光スペクトルの
結果から,以前オリジン遷移に帰属されたバンドは,クラスターの CCC 変角振動(ν22)バンドである
ことが明らかになり,新たに,モノマーのオリジンから 912cm-1 レッドシフトしたバンドを 2-アミノピリジ
ン-水1:1クラスターのオリジンに帰属した.また,分散蛍光スペクトルの測定から,クラスターの
REMPI スペクトルの低波数領域に観測されているバンドを分子間変角振動及び分子間伸縮振動に
帰属した.
2-アミノピリジン-水1:1クラスターの構造を調査するため,2-アミノピリジン及び 2-アミノピリジ
ン-水1:1クラスターの分散蛍光スペクトル(図2(a)及び2(b))を測定した.その結果,クラスターで
は,70,107,158cm-1 に分子間振動の基音が観測された.観測された分子間振動数を DFT 計算に
よって得られた振動数解析の結果と比較したところ,2-アミノピリジン-水1:1クラスターは,水分
子が 2-アミノピリジンのアミノ基及び N 原子と環状に水素結合した構造であることが明らかになった
(図3).また,以前の研究から,モノマー(図2(a))の 400cm-1 付近に観測されているバンドは,アミノ
基の反転運動及び反転運動と骨格振動の結合バンドに帰属されている.しかしながら,クラスター
(図2(b))の同じ波数領域にはアミノ基の反転運動に対応する振動バンドは観測されていない.この
結果は,2-アミノピリジンと水分子が環状の水素結合を形成することによって,2-アミノピリジンのア
ミノ基の反転運動が抑制されていることを示唆している.このことから,2-アミノピリジンモノマーに
おいて,アミノ基の反転運動は対称2極小型ポテンシャルで記述されるのに対して,2-アミノピリジ
ン-水1:1クラスターでは,アミノ基が水分子と水素結合を形成したことにより,アミノ基の反転運
動に対するポテンシャルの極小が1つに変化したと考えられる.2-アミノピリジンモノマーはアミノ基
の反転運動のため,右手系分子と左手系分子の区別がつかない.しかしながら,今回の実験結果
から,2-アミノピリジン-水1:1クラスターでは,2-アミノピリジンが水分子と水素結合を形成するこ
とにより,アミノ基の H 原子が分子平面の片側に局在化するために,2-アミノピリジンにキラリティー
が生じ得ることが明らかになった.
β'=1
2
0
3
00
22 01
2
σ=1
Io n In te n s ity
F lu o re sc e n ce In te n sity
0
0
00
*
*
21 01
0
I 1311
I 01 30 01
0
0
I2
23 1
(b)
0
00
*
β' 02
32600
32700
32800
Wavenumber / cm
32900
33000
-1
(a)
-600
-400
β' 01
-200 -1
Wavenumber / cm
0
200
反転運動
水素結合形成
鏡像異性体
図1(左上): 2-アミノピリジン-水1:1クラスターの REMPI スペクトル.*印のバンドは1:2クラスターに起因
するバンド.β’および σは,それぞれ分子間変角振動と分子間伸縮振動を示す.
図2(右上): (a) 2-アミノピリジンモノマー及び (b) 2-アミノピリジン-水1:1クラスターのオリジンバンドを励
起した場合の分散蛍光スペクトル.横軸はオリジンバンドからの相対波数を示している.モノマーでは 400cm-1
付近に観測されているアミノ基の反転運動に起因するバンド(I)は,クラスターのスペクトルにおいては観測さ
れていない.
図3(下) : 2-アミノピリジンモノマーのアミノ基は反転運動によって分子平面の上下を行き来しているが,水
分子と水素結合を形成することによってアミノ基の反転運動が抑制され,分子キラリティーが生じる.
1Pa093
[C6H6-H2O-Ar]+の赤外分光
−C6H6+–H2O 結合エネルギーの決定−
(東北大院理)
【序】
宮崎充彦、○藤井朱鳥、江幡孝之、三上直彦
気相クラスターを用いた分子間相互作用の研究において、分子間の結合エネルギーの決定は
そのポテンシャルを知るうえで最も基本的な情報の一つである。しかしながら実験的な困難さから、
中性状態の結合エネルギーを直接求めた例は非常に少ない。近年、質量選別敷居イオン化分光法(MATI)
を利用することにより、イオン状態の結合エネルギーを求めることが可能になってきている。このイ
オン状態の結合エネルギーと、イオン化エネルギーのクラスター形成によるシフトの値から中性状態
の結合エネルギーを求めることが可能である。しかし、MATI は電子遷移を用いた分光法であるため、
Franck-Condon 因子による制約があるため、通常、イオン化敷居値から 1000 cm-1 を越える状態には適
用が困難である。また、同様の理由でイオン状態において中性状態と大きく異なる構造を持つクラス
ターに対しても適用は難しい。このようなイオン状態で大きく構造を変えるクラスターの例としてベ
ンゼン−水クラスターがある。このクラスターの構造はイオン化により水の位置、配向が大きく変化
し[1]、特にカチオンは電荷−双極子相互作用のモデル系としてその結合エネルギーには興味が持たれ
る。しかしながら、結合エネルギーについてはこれまで理論計算による推定値が知られているのみで
ある。今回我々は Ar 原子をメッセンジャーとした赤外解離分光を用いることにより、その解離パタ
ーンのエネルギー依存性を利用してベンゼンカチオン−水間の結合エネルギーを初めて決定した。
【実験】
実験は重連型質量分析器[1]と YAG レーザーの基本波と色素レーザーとの差周波発生で得
た赤外光を用いて行った。ベンゼンを共鳴イオン化し、水とアルゴンとの衝突によりベンゼン−水−
アルゴン 1:1:1 クラスターを生成し、これを質量選別してイオンガイドに導く。そこへイオンガイド
と同軸に赤外光を導入し共鳴解離を起こした。生じたフラグメントイオン、即ちベンゼンカチオンま
たはベンゼン−水 1:1 クラスターを質量選別して、それぞれのフラグメントイオン検出による赤外ス
ペクトルを得た。
【結果】
図 1 に得られた赤外スペクトルを示す。a), b)のベンゼンカチオン−水−アルゴン 1:1:1 ク
ラスターのスペクトルは、結合エネルギーの小さい Ar 原子を付着させているため内部エネルギーが
小さく、ホットバンドの寄与が少ないので、c)に示したベンゼンカチオン−水 1:1 クラスターに比べ
そのバンド幅がかなり狭くなっている。しかしそのバンド位置は全てのスペクトルで等しく、また新
たなバンドも現れていない。このことから Ar 原子は水の OH 結合に影響を与えない位置、すなわち
ベンゼンカチオンの面上に乗っていることが分かる(図 2)
。
他方、バンドの相対強度にはモニターする解離フラグメントよって大きな差が見られた。水、アル
ゴンが共に解離する a)では、ν1 はν3 の約半分の強度であり、それより低波数のバンドは現れていない。
一方アルゴンのみが解離する b)では、分子間振動νs との結合振動であるν3+νs の強度が極めて小さく、
ほとんど観測されなくなっている。このようなバンドの出現の敷居値は、本実験ではクラスターの解
離敷居値に対応している。すなわち、a)ではν1 より低波数のバンドではアルゴンと水の両方を解離す
るだけのエネルギーが無いこと、逆に b)ではν3+νs のエネルギーではほとんどがベンゼンカチオンま
で解離してしまうことを示している。一方、芳香族カチオンとアルゴンとの結合エネルギー500±50 cm-1
[2]を考慮すると、この 1:1:1 クラスターの内部エネルギーは 0~500 cm-1 と見積もられる。アルゴンの
解離はこの内部エネルギーから 500 cm-1 を消費するため、あるエネルギーhνを吸収した後アルゴンを
解離し生成する 1:1 クラスターの内部エネルギーは、hν-500 ~ hν cm-1 の範囲になることが分かる。ベ
ンゼンカチオン−水の結合エネルギーがこの範囲に入るときのみ、a), b)両解離チャンネルにバンドが
観測されることになる。この範囲にない場合には、どちらか片方のチャンネルのみが観測されること
になる。実測のスペクトルで両チャンネルにバンドが観測されたものはν1,ν3 及びν3+νs の三つであった
ことから、解離エネルギーはν1 に対するエネルギー範囲の上限(ν1=3640 cm-1)とν3+νs に対する下限(ν3+νs
-500=3350 cm-1)との間に存在すると結論することができる。
[1] Miyazaki et al., Phys. Chem. Chem. Phys., 5, 1137(2003)
[2] J. E. Braun, Th. Mehnert and H. J. Neusser, Int. J. Mass Spectrom., 203, 1(2000)
1Pa094
[C6H6 – (MeOH)n]+ の赤外及び可視・紫外分光
∼クラスター構造とプロトン移動反応∼
(東北大院理)○榎本怜子・宮崎充彦・藤井朱鳥・江幡孝之・三上直彦
【序】最近我々のグループは、ベンゼン‐水クラスターカチオンの赤外及び可視・紫外分光を行
い、そのクラスター構造について調べた。その結果、主要な分子間相互作用がイオン化に伴いπ
‐水素結合から電荷‐双極子相互作用へと変化することより非常に大きな溶媒再配向が起きるこ
とや、1:4 以上のサイズでプロトン移動が起こることを明らかにした[1]。一方、類似した系で
あるベンゼン‐メタノールクラスターカチオン([C6H6 – (MeOH) n]+)に関しては、Zwier らによ
って共鳴多光子イオン化に伴う解離においてプロトン移動反応による H+(MeOH) n + フラグメン
トに加えて n≧3 からは分子内電子移動によるメタノールクラスターカチオンフラグメント
([(MeOH) n]+ )が生成することが報告されている[2]。後者はベンゼン‐水クラスターカチオン
系では見られない現象であり、プロトン移動との競合という観点からも興味深い。そこで本研究
では、[C6 H6 – (MeOH) n]+ の赤外及び可視・紫外分光を行いクラスターの構造やクラスター内反応
について調べた。
【実験】クラスターカチオンの生成・分光には重連型質量分析器を用いた[1]。超音速ジェット
中の衝突領域でベンゼンを共鳴多光子イオン化し、メタノール及びキャリアガスとの衝突により
クラスターイオンを生成した。その後目的の質量を初段の四重極質量分析器で選別し、イオンガ
イド中でイオン行路と同軸反対方向から赤外または可視・紫外光を入射し共鳴解離を起こす。生
じたフラグメントイオンを二段目の質量分析器により選別して検出し、吸収スペクトルを観測し
た。
【結果】図 1 (a)‐(f) は [C6H6 – (MeOH) n] + (n = 1‐6) の [C6H6 – (MeOH) n-1]+ フラグメント検出
による 3µm 領域の赤外スペクトルである。n = 1 ではベンゼン環の CH 伸縮振動に顕著な赤外強
度増大が見られ、メタノールの水酸基がベンゼン環の CH と電荷−双極子相互作用および CH−O
水素結合により結合した平面構造をとることが確認された。n =2 では、水素結合を形成した OH
伸縮振動による大きく低波数シフトした幅の広いバンドが非常に強く観測された。これは 2 個の
メタノール分子が個々にベンゼン環に結合するのではなく、水素結合により 2 量体を形成してベ
ンゼンカチオンと結合している構造が優勢であることを示している。n≧3 では水素結合 OH バン
ドのブロードニングが著しいため、クラスター構造や水とのクラスターよりも小さいサイズで起
こることが予期されるプロトン移動を赤外スペクトルから検証することは困難であった。そこで、
可視・紫外分光による分子内プロトン移動の観測を予定している。また n = 4、5 に関しては、赤
外励起による [(MeOH) n]+ のチャンネルへの解離も観測されたが H+(MeOH) n + は観測されなかっ
た。図 1 (g)、(h) は[(MeOH) n]+ フラグメントの検出による赤外スペクトルである。スペクトルは
[C6H6 – (MeOH) n-1]+ フラグメント検出によるもの(図 1 (d)、(e))と本質的に一致し、振動励起によ
る解離チャンネルに顕著なモード依存性は見られなかった。
free MeOH OH strech
3681cm-1
νC H (Bz+)
νCH (MeOH ν2)
νCH (MeOH ν3)
(a) n = 1
H bonded
OH-stretch
(b) n = 2
(c) n = 3
(d) n = 4
(e) n = 5
(f) n = 6
(g) n = 4
(h) n = 5
2800
3000
3200
3400
3600
3800
νΙΡ / χµ −1
図 1
ベンゼン−メタノールクラスターカチオン[C6 H6 – (MeOH) n]+ (n = 1‐6) の赤外スペク
トル。(a)‐(f) [C6H6 – (MeOH) n-1]+ フラグメントを検出、(g)、(h) [(MeOH) n]+ フラグメント
を検出して測定
[1]M.Miyazaki, A.Fujii, T.Ebata and N.Mikami, Phys. Chem. Chem. Phys., 5, 1137-1148, 2003
[2] A.W. Garret and T.S.Zwier, J. Chem. Phys., 96 (10), 7259, 1992
1Pa095
水クラスターイオンと化合物 X の反応断面積測定と
反応経路の考察
(理研) ○河井葉子、山口悟、岡田芳樹、武内一夫
【序】水クラスターイオンに関する研究は溶媒効果、大気化学など様々な分野から興味が持た
れており、その反応断面積を支配する要因を追及することは重要である。これまでの研究で、水
クラスターH+(H2O)n と D2O の反応断面積はほぼクラスターサイズ n の増加関数であることが判明
し、サイズ依存の様子は衝突断面積との相関により説明された。ところが、H+(H2O)2 とジメチル
スルホキシド(DMSO)の反応断面積は、H+(H2O)4 との場合より二倍もの大きさをもつことが分かっ
た。このような現象は、DMSO のプロトンアフィニティーが大きいことに関係すると推測した。
ここでは、水クラスターH+(H2O)2,4 と様々な化合物 X(X=重水、アセトニトリル、アセトン、
DMS、DMSO、ピリジン)との反応断面積を測定した結果を報告する。DMSO と同様な現象が
観測されるかどうかを確認し、反応経路について考察する。化合物としては、ダイポールモーメ
ントやプロトンアフィニティーの値に差があるもので、かつ大気化学で重要な役割を持つとされ
るものを選んだ。
【方法】図1に示す guided ion beam
Conical mesh
Corona discharge
Skimmer
cluster ion source
(GIB)装置を用いて反応断面積を測
Octopole ion
beam guide
Ion lens
Quadrupole
mass filter
Bessel box
energy analyzer
Collision
cell
Quadlupoole mass
spectrometer
定した。コロナ放電により水クラス
ターを生成させ、サイズ選別した後
H2O+ N2
衝突セルに導入してターゲットガス
X と衝突させ、反応生成物を四重極
質量分析器で観測した。
To pump
図1
To pump
To pump
To pump
To pump
実験装置図
【結果・考察】表1に、0.1eV における反応断面積σr と各ターゲットの特性等を示す。表より、幾
何学的断面積の大きさの指標となる d は、D2O のものを除き、ほぼ似通った値となっている。よ
って、0.1eV における反応断面積の大きさの違いはターゲット分子の大きさとは無関係であること
が明らかである。0.1eV のような低い衝突エネルギーでは、静電引力の影響が強いため、反応断面
積は幾何学的断面積よりもはるかに大きくなり得る。
アセトニトリルと DMSO は、ほぼ同程度の大きなダイポールモーメントを持っている。また、
重水、DMS のダイポールモーメントは今回取り上げた X の中では小さい。H+(H2O)4 と化合物の
反応断面積σr (n=4)を見ると、ダイポールモーメントの影響が強く現れていることが分かる。ダイ
ポールモーメントが大きいアセトニトリルと DMSO の場合には反応断面積が大きく、D2O、DMS
の場合には小さい。ところが、H+(H2O)2 の反応断面積σr (n=2)と、X のダイポールモーメントとの
相関は弱い。
プロトンアフィニティーとσr の関係に注目すると、プロトンアフィニティーの大きい DMS、
DMSO、ピリジンの場合には、σr (n=2)がσr (n=4)よりもかなり大きいことがわかる。X と水クラス
ター2 量体と4量体のプロトンアフィニティーの大小関係は、(D2O, アセトン, アセトニトリル) <
(水 2 量体) ≲ (DMS, DMSO) < (水 2 量体) < (ピリジン)となっている。ここから、σr (n=2)は、水ク
ラスターのプロトンアフィニティーよりも大きい X の場合に大きくなったということが分かる。
さらに、プロトンアフィニティーが大きい X では、水分子を伴う生成物が観測されなかった(m
= 0 )ことを考慮する。H+X の生成物が生成する経路としては、
H+(H2O)n+X→[H+(H2O)nX]*→[H+(H2O)n-1X]*+H2O→…→H+X + nH2O
+
(i)
+
H (H2O)n + X →H X + (H2O)n
(ii)
の二つが考えられる。(i)の反応経路の場合、まず水クラスターと X は、エネルギー緩和が起きる
のに十分な寿命をもつ中間生成物を形成する。その後、中間生成物の内部エネルギーが高いため、
水分子が順次蒸発して、H+X の生成にいたる。この場合、反応断面積はプロトンアフィニティー
の影響を受けにくい。一方、(ii)では X のプロトンアフィニティーが水クラスターより大きい場合
に発熱反応となるため、反応が進みやすく、反応断面積の増大という結果に結びつく可能性があ
る。よって、(ii)の反応経路が 2 量体での反応断面積が大きくなる原因であると考えられる。
ここで、H+(H2O)2 との反応断面積が特に大きい DMSO の場合について、D+(D2O)2 との反応断面
積の測定結果と比較する。表に示したとおり、D+(D2O)2 の反応断面積は、H+(H2O)2 の場合の約半
分であった。このような大きい同位体効果が見られることから、反応経路に大きなエネルギーバ
リアがあると考えられる。(i)の場合には、大きなエネルギーバリアが存在しないが、(ii)のような
反応経路で、比較的離れた距離からプロトンが移動するとすれば、エネルギーバリアは大きくな
ると考えられる。よって、この実験結果も(ii)の反応経路を示唆する。
表 1. 水クラスターH+(H2O)n (n = 2, 4)とターゲット X の特性、反応生成物 H+X(H2O)m に含まれる
平均水分子数 m、反応断面積σr。
Mass
(amu)
H+(H2O)2
+
H (H2O)4
Exp.
37
-
73
-
D2O
20
7.16
Acetonitrile
41
Acetone
DMS
DMSO
µD (Debye)
P.A.(eV)
**
Cal. *
Exp.
8.64
-
9.53
**
Cal.*
σr [Å2]
m
d [Å]
n=2
n=4
1.327
1.90
-
-
-
0.721
3.23
-
-
-
7.21
1.855
1.920
0.92
1.0
2.8
150
190
8.08
8.17
3.924
3.941
1.95
0.5
2.4
630
560
58
8.42
8.51
2.88
2.915
2.14
0
2.0
380
560
62
8.61
8.59
1.554
1.560
2.30
0
1.9
420
210
78
9.17
9.34
3.96
3.912
2.32
0
1.3
1060
550
+
(with D (D2O)2)
pyridine
n=2
n=4
550
79
9.64
9.70
2.215
2.177
2.49
0
0.6
910
690
P.A.:プロトンアフィニティー, µD:ダイポールモーメント, d: 分子の重心と重心から最も離れた位置にある原子の
距離, σr : 水クラスターH+(H2O)n とターゲット化合物の衝突エネルギー0.1eV(重心系)における全反応断面積。
*早稲田大学理工学部化学科中井研(B3LYP/cc-pVTZ)、**H2O の値
1Pa096
ArF エキシマレーザーを用いた
193 nm での亜酸化窒素の分解処理過程
(九大先導研 1、九大院総理工 2、CREST3)
○濱上 太郎 1、迫 寛之 2、熊谷 淳 2、辻 剛志 1-3、辻 正治 1-3
【緒言】
自動車や発電所の排ガス中に含まれる N2O は、温室効果やオゾン層の破壊の両方に大きな影響
を及ぼす地球環境汚染ガスであり、その分解除去に関する研究が活発に行われている。N2O が NO,
NO2 と比べて除去対策が遅れている最大の原因は、N2O の分解触媒は微量の SOx の存在により触
媒が被毒を受け分解活性が著しく低下するためである。最近、我々はマイクロ波放電による窒素
中での N2O の分解処理過程を研究し、マイクロ波吸収体を使用すれば大気圧窒素中で 97%以上の
高効率で N2O を分解処理可能なことを見出した 1)。しかし、少量の酸素を添加すると分解率は著
しく低下し、また N2/O2/N2O の気相放電反応で NO が発生し、O2 存在下では NOx 除去が困難なこ
とがわかった。そこで、N2O、N2、O2 の光吸収係数が大きな波長依存性を示し、193 nm では N2O
の光吸収係数が最も大きいことに着目し、193 nm ArF エキシマーレーザーを用いた大気圧空気中
での N2O の選択的分解プロセスの開発研究を行った。このプロセスの特徴は O2 存在下でも NOx
の発生が抑制可能なことである。
【実験】
N2 O22 N22O
Fig. 1 に試作した装置の概略図
Mass
Flow
Meters
を示す。N2/N2O または N2/O2/N2O
の混合物を一定量反応セル内に導
QMS
Rotary
Pump
Pressure Gauge
Power
Meter
繰り返し周波数:5 Hz、照射時間:1
Stop Valve
Valve
Stop
Needle Valve
Valve
Needle
ArF エキシマーレーザー(波長:193
nm、エネルギー:50~136 mJ/pulse、
Diffusion Pump
Pump
Diffusion
Sampling Orifice
Orifice
Sampling
入した。系内を大気圧に保った後、
Turbo Molecular
Molecular
Turbo
Pump
Pump
Reaction Chamber
ArF Excimer Laser
Laser Light
~30 分)を照射した。レーザー照射
Quartz
Windows
後、未分解ガスと反応生成物を四
重極質量分析計(QMS)によって検
Fig. 1.
ArF エキシマーレーザーによる N2O の分解装置
出し、N2O の分解率と N2, O2, NO
の生成率を決定した。レーザー照射下における N2O の分解で得られた実測結果と、既知の吸光係
数とガス反応速度定数を用いて得た分解プロセスのモデル計算結果とを比較し、分解プロセスを
考察した。
【結果と考察】
大気圧の窒素または空気中において N2O を ArF レーザー光分解させたときの、N2O の分解率と
N2, O2, NO の生成率のレーザー照射時間に対する変化を Fig. 2, 3 に示す。空気中では NO の生成率
が N2 と比較して大きいこと以外は、窒素中と空気中の結果は類似している。よって酸素の存在は
プラズマの場合とは異なり、分解に大きな影響を与えないことがわかった。いずれも時間と共に
Conversion of N2O and
formation ratios of products (%)
Conversion of N2O and
formation ratios of products (%)
N2O conversion (Calc.)
100
N2O conversion (Obs.)
80
N2 (Calc.)
60
N2 (Obs.)
O2 (Calc.)
O2 (Obs.)
40
20
NO (Calc.)
NO (Obs.)
0
0
5
10
15
20
25
N2Oconversion (Calc.)
100
N2Oconversion (Obs.)
80
N2 (Obs.)
60
N2 (Calc.)
O2 (Calc.)
40
O2 (Obs.)
20
NO (Obs.)
NO (Calc.)
0
0
30
5
10
15
20
25
30
Irradiation time (min)
Irradiation time (min)
Fig. 2. 窒素中での N2O の分解率と N2, O2, NO
Fig. 3. 空気中での N2O の分解率と N2, O2, NO
生成率のレーザー照射時間依存性
生成率のレーザー照射時間依存性
N2O の分解率は急激に上昇し、7 分で分解率は約 80%を超え、30 分で 90%以上に達した。O2 の
生成率は N2 中で 43%、空気中で 38%であり、一方 NO の生成率は N2 中で 7%、空気中で 17%に
抑制できた。波線は N2O が以下の過程で分解するとした場合のモデル計算結果である。モデル計
Conversion of N2O and
formation ratios of products (%)
算で考慮した気相素反応過程を(1)~(6)に示す。
100
N2O + hν → N2 + O(1D)
N2O conversion (Obs.)
1
80
O( D) + N2O → N2 + O2
N2 (Obs.)
N2O conversion (Calc.)
60
40
N2 (Calc.)
O2 (Obs.)
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
O2 (Calc.)
NO (Obs.)
NO (Calc.)
Partial pressure of N2O (kPa)
→ 2NO
1
(1)
(2a)
(2b)
3
O( D) + M → O( P) + M
(3)
2O(3P) + M → O2 + M
(4)
1
3
O( D) + NO → O( P) + NO
→ O2 + N(4S)
4
3
N( S) + NO → N2 + O( P)
Fig. 4 窒素中での N2O の分解率と N2, O2, NO
(5a)
(5b)
(6)
M = N2, O2
生成率の N2O 分圧依存性
空気中の N2O の分解モデル計算の結果では、約 7 分で分解率が 62%となっており、実験値(約
80%)よりも小さい。一方 NO の生成率の計算値は照射時間 30 分後で 10%であり、実測値(17%)
よりも小さな値が得られた。これらの結果や ArF レーザー照射下で N2, NO, O2 の濃度がほとんど
変化しないという事実は、N2O 存在下では上記以外に O2 生成を抑制し、NO 生成を促進する過程
の存在を示唆している。
Fig. 4 に N2O の分解率と N2, O2, NO の生成率の N2O 分圧依存性を示す。N2O 分圧が低下すると
共に N2O の分解率は上昇するのに対して、NO 生成率は減少し、分圧 2 kPa でほぼゼロとなった。
これは N2O の分圧が減少するにつれて反応(3)に対する反応(2a),(2b)の寄与が減少し、反応(2b)によ
る NO 生成が抑制されたためであろう。
本研究の結果、193 nm 光を用いれば空気中で N2O を高価な触媒を使用することなく高選択的か
つ高効率に N2, O2 へ分解・無害化できることがわかった。
【参考文献】
1) M. Tsuji, J. Kumagae, K. Nakano, T. Matsuzaki, T. Tsuji, Appl. Surf. Sci., 217, 134 (2003).
1Pa097
流通型NMR装置を用いた超臨界水中における有機反応の観測
(京大院理)○向出政伸・網田富士嗣・浦崎洋平・梶本興亜
・竹腰清乃理・寺尾武彦
1.Introduction
これまで、超臨界水中での有機反応は、バッチ法あるい
は流通法を用いて行い、反応物、生成物はUV、IRを用
いて同定されてきた。しかし、化学種の確実な同定法とし
てはNMRが最も有効な分光学的手法である。我々は超臨
界水の急速混合による流通法と NMR を組み合わせるた
めに高温高圧用 NMR プローブを開発した。この装置を用
いて 40MPa、400℃の超臨界状態が実現された。さらに
今回は装置の検証を兼ねて、高温水中における Allyl
Phenyl Ether(APE)の Claisen 転位の観測を試みた。また、
水のシグナルが溶質のピークに比べて非常に大きい(常温
で 110M)ため、選択的に水のシグナルを抑制する特定の
パルス・シーケンスを試験的に 1.3M EtOH 水溶液に適用
したところ、常温のみならず、流通系の超臨界状態におい
ても水のシグナルを抑制することに成功した。
(図1.装置の概略)
2.高温水中における Allyl Phenyl Ether の Claisen 転位の観測
これまで様々な有機溶媒中で APE から 2-Allylphenol(2AP)への Claisen 転位の
反応速度が調べられている。しかし、高温水中においては APE は非常に速く反応
し、加熱に時間を要するバッチ
法では調べることは困難であ
APE:0.57M
7.0sec
EtOH:0.56M APE APE
る。また、2AP も高温水中で
EtOH
(triplet)
+2AP
分解、転位を行うため、APE
から 2AP への反応速度を調べ
8.8sec
るためにはその場観測が適し
ていると考えられる。
(実験)
11.7sec
水および APE(内部標準とし
て EtOH 含有)を HPLC ポンプ
でプリヒーターに送り込み、そ
れぞれ約 350~380℃および
17.6sec
150℃に加熱した(図 1 参照)。
2AP
それらを、補助ヒーターを取り
6
4
2
0
-2
付けた T 字管を介して急速混
chemical
shift
(ppm)
合させ、瞬間的な温度上昇を実
現した。ここで全流速が 2~
図2.高温水中における Allyl Phenyl Ether の
Claisen 転位
5ml/min と な る よ う に 水 と
APE の流速を調整した。また、
サンプルチューブには Si3N4(内径:3mm)を用い、熱電対をチューブの上下から挿
入して RF 中心の温度評価を行った。さらに加熱した窒素ガスをチューブ下部よ
り吹き込み、保温を行うことにより、RF 中心の上下の熱電対の温度差が 1℃以下
になるようにした。今回の実験は 25.4MPa, 263℃,0.81g/cm3 反応条件で行った。
(結果)
流速を変化させ、反応時刻を7~18 秒に設定し、263℃、25.4MPa における
APE から 2AP への Claisen 転位を観測し、図2のような 1H-NMR スペクトルを
観測した。ピークの強度から1次反応速度定数 0.32s-1 を得た。この装置を用いる
ことにより高温高圧水中において数秒で起こる反応をその場観測することが可能
となった。
3.1331 パルス・シーケンスを用いた
水のシグナル抑制
一般に、有機化合物は水に不溶であ
り、濃度の低下は避けられない。また、
溶媒である水のシグナル(~110M)は
溶質(1mM~1M)よりもはるかに大き
く、検出器の限界上、溶質を検出でき
ない場合がある。そのため、水のシグ
ナル抑制は低濃度の溶質の検出に欠
かせない手法である。
図3.1331 パルス・シーケンス
(フリップ角:α=11.9°,遅延時間:τ=0.4ms)
(通常測定)
(実験および結果)
2.の場合と同様に試料をプローブ
内に送り込み、臨界温度以上を実現
した。今回は常温下で 1.3M EtOH 水
溶液を 25.4MPa,381℃,0.46g/cm3 の
超臨界状態とした。また、HPLC ポ
ンプの流速を 5ml/min に設定し、観
測領域における滞留時間を約 190ms
とした。次に図3で表されるパル
ス・シーケンスを用いて水のシグナ
ル抑制を試み、通常の測定と比較し
たところ、図 4 のような 1H-NMR ス
ペクトルを得た。その結果、流通系
の超臨界状態においても水のシグナ
ルを通常の約 900 分の 1 にまで抑制
できることがわかった。今後は、低
濃度の試料の反応観測に適用する予
定である。
・Reference
(1)Gueron et. al., Prog. in NMR
Spectrosc., 23, 135-209 (1991).
(2)P.J.Hore, J. Magn. Reson., 55,
283-300 (1983).
25.4MPa, 381℃
0.46g/cm 3
16scan
H2O
1331パルス列
(τ=1.5ms)
EtOH
(triplet)
EtOH
(quartet)
H2O
3
2
1
0
-1
-2
-3
chemical shift (ppm)
図4.1331 パルス・シーケンスによる超臨界水
のシグナル抑制(点線:Excitation Profile)
1Pa098 (γ, 2γ) 法による2電子励起水素分子の研究
(東工大院化学)
○村田誠,小田切丈,加藤昌弘,兒玉健作,河内宣之
多電子励起分子は1電子平均場近似と Born-Oppenheimer 近似の両方が良い近似でなくなる
と期待される [1]。この傾向は、よりエネルギーが高く、より多数の電子が励起した分子ほど
より顕著になると考えられる。近年、本研究室では中性解離フラグメントからのけい光放出
断面積を入射光子エネルギーの関数として測定することにより、2電子励起分子において、
上記の予想を確かめつつある[2]。ただしこの方法では、その中性解離フラグメント生成に到
る解離性直接イオン化のしきい値以上では、その寄与のために断面積曲線に現れる2電子励
起状態由来の構造がわかりにくくなってしまう。3電子励起分子の研究を可能にするために
は、この困難を克服する必要がある。そこで、2つの中性解離フラグメントが2つの光子を
放出する過程の断面積を測定する(γ, 2γ)法を考案した。この方法の有効性を確かめるべく、
まずは対象として H2 分子を選び、下記の過程(1)の2重微分断面積 d2σ/dΩ1dΩ2 を入射光子エ
ネルギーの関数として測定することを試みた。
H2∗∗(2 電子励起状態)
H2 + hν
H(2p) + H(2p)
H(1s) + Layman−α
(1)
H(1s) + Layman−α
実験は高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所放射光研究施設 BL-20A にて行っ
た。これは 3 m 直入射分光器を備えている。入射光の波長分解能は 0.28 nm であった。(入射
光子エネルギー35 eV においてエネルギー分解能 0.28 eV であった)。実験装置の概略を図 1
に示す。2つの Lyman−α光子検出器(MgF2 窓+MCP)は、入射放射光の電気ベクトルの軸上に
互いに向かい合うように配置した。試料ガス圧は同時計数率が圧力に対して比例する領域で
1.5 mtorr とした。H2 分子を放射光励起し、過程(1)によって放出される2つの Lyman−α光子を
同時計数した。得られたコインシデンスタイムスペクトルの例を図2に示す。
MCP
MgF
2
Gas cell
Au mesh
図 1. 実験装置の概略図。
MCP : microchannel plate,AMP :
amplifier, CFD : constant-fraction
discriminator, TAC : time-toamplitude converter, ADC :
analogue-to-digital converter,
MCA : multichannel analyser。
Sodium salicylate
Ly −α
PMT
SR
Ly −α
electric vector
A
Picoammeter
MgF 2
MCP
A Picoammeter
AMP
AMP
CFD
CFD
Counter
Delay
TAC
ADC
MCA
Computer
25
何学的因子に対して規格化して、two-Lyman−α
光子放出断面積 d σ/dΩ1dΩ2 の相対値を、入射光
2
子エネルギーの関数として得た。一方、1光子
の み を 検 出 し た Lyman−α 光 子 放 出 断 面 積
dσ′/dΩの相対値も測定した。その結果を図3に
示す。dσ′/dΩ 曲線には、H2 (2pπu)を経由して
+
H(2p) + H+へ到る解離性直接イオン化の寄与が
Coincidence counts
真の同時計数率を、入射光量、標的数密度、幾
20
15
10
5
0
700
36 eV 付近から始まり、それ以上のエネルギー
領域では、2電子励起状態に起因する構造がわ
かりにくくなっている。それに対し、d σ/dΩ1dΩ2
2
曲線にはこの直接イオン化の寄与は全く含まれ
750
800
850
Channel number
900
図 2. コインシデンスタイムスペクトル
の例。入射光子エネルギー34.3 eV、蓄
積時間約 2 時間の測定。横軸は時間に対
応し、約 0.4 ns/channel。
のようにイオン化の寄与を完全に
取り除き、2電子励起状態のみスペ
クトル中に捉えることに成功した
意義は大きく、3電子励起分子研究
に道を拓く成果といえる。
過程(1)の H2∗∗とは、H2(Q21Πu(1))で
dσ’/dΩ / arb. units
ず、純粋に2電子励起状態に由来している。こ
あると、これまで予想されてきた[1]
線[3]を用いて半古典論により計算
したのが、図 3(b)の曲線である。2
つの曲線の形はよく一致しており、
これまでの予想が、半古典論により
裏付けられたことになる。
2
を、そのポテンシャルエネルギー曲
(a)
0
d σ/dΩ1dΩ2 / arb. units
。この状態に由来する d σ/dΩ1dΩ2
2
H2
0
25
H2
(b)
30
35
40
45
入射光子エネルギー / eV
図 3.H2 の光励起に起因する Lyman−α光子放出断面
積(a)、two-Lyman−α光子放出断面積(b) vs. 入射光子
エネルギー。(b)の実線は Q21Πu(1)状態に由来する断
面積を半古典論に基づいて計算した結果。
[1] N. Kouchi et al., J. Phys. B 30, 2319 (1997)
[2] M. Kato et al., J. Phys. B 35, 4383 (2002)
[3] I. Sánchez and F. Martín, J. Chem. Phys. 110, 6702 (1999)
1Pa099 窒素とアセチレンにおける gerade-ungerade 内殻準位分裂の起源
(総研大 A、姫工大理 B、分子研 C) ○益田
周防海 A、下條
竜夫 B、小杉
信博 C
【序】窒素(N2)やアセチレン(C2H2)のような反転対称性を持つ分子で内殻が局在化しているか、
非局在化しているかの議論については長い歴史があるが、未だに共通の理解に至っていない。こ
れは波動関数が gerade, ungerade の対称性を持つことと内殻の局在性の問題が混同されている
ためである。一般的に内殻光電子分光で調べた内殻イオン化(内殻ホール)状態では gerade,
ungerade の対称性を区別することが簡単ではないため、本研究では内殻→Rydberg 励起状態を解
析することで gerade, ungerade の対称性のホール状態が区別できるかどうかについてまず、調べ
ることにした。また、gerade, ungerade の対称性が区別できることが必ずしも内殻が非局在して
いることにはならないことについても議論する。
【方法】内殻励起された分子では解離性の反結合状態への多段的な Auger 崩壊が起きる。その場
合、分子はクーロン爆発等で直ちに解離する。この解離までの時間は数 fesc 程度と言われていて、
分子の回転周期(数 psec)よりも充分に短い (Axial-recoil 近似) 。この様な条件での解離イオンの
放出方向は、分子が光を吸収した瞬間の分子軸の方向とみなせる。直線分子の K 殻励起では選択
則より、光の偏光方向に対して平行と垂直にイオン検出器を設置し励起光を掃引しながら信号強
度を測定すれば平行遷移と垂直遷移を分離して観測する事ができる(角度分解イオン化収量法、2
原子分子の場合は対称性分離スペクトルとなる)。
本研究の N2 の測定は SPring8 の軟 X 線光化学ビームライン BL27SU で行った。 400eV 付近
で 15000 程度の分解能で分光された直線偏光の光を用いて、光の偏光方向に対して平行と垂直に
イオン検出器を設置し同時に測定した。イオン検出器に追い返し電場を2V かけて充分に大きな
運動エネルギーを持つ解離イオンだけを検出するようにした。C2H2 は同様の方法で以前、足立ら
によって PF の BL2C で測定したものを解析した。
【結果】図1、2に N2 と C2H2 のスペクトルを示す。水平・垂直遷移に対応するσタイプの Rydberg
状態とπタイプの Rydberg 状態とを分離して観測できた。特に N2 では主量子数 n=7 までの
Rydberg 状態が分離できた。既に報告のある高分解能光電子ピークと比較するとピーク幅はそれ
ぞれ半分程度となった。
これは選択則より g-u,u-g の遷移のみが許容であることを意味している。
よって、平行遷移では 1sσulocal→nsσg/ndσg は 2Σu+に、1sσglocal→npσu は 2Σg+のイオン化閾値に、
垂直遷移では、1sσglocal→npπu は 2Σg+ に、1sσulocal→ndπg は 2Σu+ のイオン化閾値にそれぞれ収
束することになる。各 Rydberg 系列の励起エネルギーを水素型の Rydberg の式に量子欠損δを
入れた式で外挿したところ、どちらも内殻準位分裂Δgu が 0.1eV 程度あることが認められた。
【考察】内殻のように電子に占有されている軌道間の相互作用は主に交換反発からなり、お互い
に電子を除けあうように配列する。占有軌道と空軌道の相互作用である電子の非局在化による結
合性、反結合性軌道の形成とは全く違う状況である。このことより直ちに内殻はいかなる場合も
局在化していると言える。そのような内殻がなぜ有意のΔgu を示すかについて考察する。
隣り合う原子間の相互作用は軌道間の重なり積分 S = < χL| χR>で評価される。内殻電子は局在
しているため、内殻-内殻の重なり積分は O(10-4)程度と小さく原子間の内殻-内殻の交換相互作用
は小さい。それだけでは有意のΔgu の説明ができない。そこで隣り合う原子間の内殻-価電子の
重なり積分 Scv=<1sL|2sR> と <1sL|2pR> を調べてみたところ O(10-1)程度の大きさになった。し
たがってΔgu にはとなりの価電子が内殻電子から受ける交換反発が関与している可能性がある。
等核 2 原子系の内殻ホール状態には縮退したΦL=φL-1Φ0=||φL1φR2||と ΦR=φR-1Φ0=||φL2φR1||
の配置があっても、波動関数としては全ハミルトニアンに対する反転対称性を有する必要がある。
Φglocal =(ΦL+ΦR)/(2+2<ΦL|ΦR>)1/2、 Φulocal =(ΦL−ΦR)/(2−2<ΦL|ΦR>)1/2.
価電子は局在した内殻ホールを遮蔽するように再配列するが、その効果は価電子の再配列に関し
て対称性を保持した HF 解||φg1φu2||と||φg2φu1||では充分に考慮されない。一方、対称性の崩
れた HF 解||φL1φR2||と||φL2φR1||の方が遮蔽効果を充分、考慮できる。ただし、これらは HF
解という条件の中での話であって、遮蔽効果が充分、考慮できるからと言って||φL1φR2||、
||φL2φR1||という描像が正しいことにはならないし、仮に正しいとしたら有意のΔgu が説明でき
ないことになってしまう。
∆gu の成分の中で何が大きな比重を占めているのかを調べる為に、各成分のオーダーを見積もっ
たところ、原子間の内殻-価電子の交換相互作用∆Kcv が Scv2 (~10-2)に比例して最も大きく、他の成
分は Scc (~10-4)に比例していて小さかった。したがって∆gu を支配しているのは原子間の内殻-価電
子の交換相互作用∆Kcv である。
具体的に分子の内殻励起状態のΔgu を計算から見積もるとエチレン(1.339Å の C-C 二重結
合)の場合で∆gu ∼0.05 eV、エタン(1.535Å の C-C 単結合)の場合で 0.02eV と小さく、三重
結合の C2H2(1.203 Å)や N2(1.098 Å)の場合には∆gu ∼0.1 eV と大きくなる。この結果は結合距離、
重なり、交換相互作用の大小から容易に理解される。ただし、酸素(O2)結合距離 1.208 Å は C2H2
と同程度の結合距離であるのに∆gu.は 0.025eV と小さい。これは酸素の 1s 軌道は炭素や窒素より
もさらに広がりが少なくなるため、隣の原子との交換相互作用が小さくなるためであろう。
Su+
2
DL=0
Sg
2
d=1.08
d=0.00
0.02 0.11 0.24
(1.00) 4p
3p
su
0.74
d=0.72
409.94eV
Sg+
Dgu~0.10eV 2
N2
N1s Rydberg
3p
pu
5p 6p 7p
4p
d=0.80
0.78 0.80 0.79 0.78
Su+
2
3d
pg
d=0.01
4d 5d6d
0.00 0.02
409.84eV
406
407
408
409
Photon energy (eV)
図1
410
+
sg
(5s)
4d
(4s)
3d
3s
DL=+1,0 Symmetry-resolved ion yeilds
DL=+1,0 Symmetry-resolved ion yeilds
3s
sg
(5s)(6s)(7s)
4d 5d 6d
(4s)
3d
d=0.99
(3su*)
3p
d=0.72
su
0.98
3p
pu
d=0.80
C 2H 2
C1s Rydberg
4p
2
Su+
0.96
5p 6p
0.74
0.880.98
4p
5p 6p
0.78
3d
2
Sg+
2
Sg+
0.80 0.79
4d 5d6d
pg d=-0.04
0.00 0.05 0.09
DL=1
2
Su+
(3su*)
288
289
290
291
Photon energy(eV)
N2 の角度分解イオン化収量スペクトル 図 2 C2H2 の角度分解イオン化収量スペクトル
1Pa100 小角X線散乱法による超臨界メタノール水溶液
及びトリフルオロメタン-二酸化炭素系のゆらぎ
(千葉大院自然科学)
○森田剛・西川恵子
【緒言】超臨界流体は構造的なゆらぎが大きく、我々は超臨界流体の構造をゆらぎの
観点で解析している。特に、典型的な水素結合性の流体である水は、超臨界状態での
ゆらぎ構造も特異であることがわかった。そこで、本研究では同じ水素結合性のメタ
ノールの混合による水のゆらぎ構造の変化に注目し、超臨界メタノール-水混合流体
のゆらぎ構造を、小角 X 線散乱法により解析した。さらに、双極子相互作用の有無が
極端な分子同士の混合流体の典型として、トリフルオロメタン(CHF3)-二酸化炭素
(CO2)系に関しても小角散乱実験を行った。解析は、小角散乱強度と密度測定より得
られる等温圧縮率や部分モル体積を組み合わせ、密度ゆらぎと濃度ゆらぎの分離を目
指して進めている。
【実験】小角X線散乱実験は、高エネルギー加速器研究機構の放射光共同利用実験施
設にある小角X線散乱装置(BL-15A)を用いて行った。試料ホルダーは、高温流体に対
しては、本体が純チタン、窓材には単結晶ダイヤモンドを白金線によりセル内部から
シールしたセルを用いた。常温付近での測定には、本体が SUS304 でインコネル製の
ベローズが付いた体積可変型セルを用い、ダイヤモンド窓は銀ロウ付けによりシール
した。体積可変型セルは、常温常圧下で混合しにくい試料や、濃度の不均一さが出や
すい試料に対し、モル分率を一定に保ちながら密度を変化させる実験に対応する目的
で開発した。体積可変型のセルの断面図を図1に示す。温度測定には、高温流体の実
験では熱電対を、常温域では白金抵抗体を用いた。圧力測定には歪みゲージを用いた。
今回、新たにメタノール水溶液及び CHF3- CO2 系ともに、等モル混合流体の測定をお
こなった。測定は、臨界温度より 4%高温側の超臨界状態を等温線に沿って密度を変
scattered beam
えながら行った。
metal bellows
x-ray incident
図1
10 mm
体積可変型小角X線散乱測定サンプルホルダー
離は、分子サイズの効果を考慮すると、
単成分の水より減少した。一方、
CHF3-CO2 系では、相関距離の変化は、
混合によっては見られなかった。また、
図 3 より、メタノールのモル分率が
0.1 から 0.5 の全ての等温線で、単成
分の水のそれより臨界密度付近で傾
きが急になっており、等温圧縮率が減
少していることを示している。これら
は、水分子間の水素結合性が、メタノ
ールの混合により弱められているこ
とを示している。現在、各等温測定の
結果を、ビリアル状態方程式でフィッ
ティングし、微分操作を行うことで等
温圧縮率を算出し、また、広い濃度範
囲で密度測定を行うことで部分モル
体積を算出して、これらと小角散乱測
定より得られた散乱角 0 度の散乱強
度と組み合わせることで、密度ゆらぎ
と濃度ゆらぎを分離する解析を進め
ている。
pressure / MPa
【結果と考察】メタノール水溶液の小
角X線散乱実験より得られた相関距
100*(dexp -deos)/deos
さらに、混合流体の密度ゆらぎと濃度ゆらぎを分離するために必要な、等温圧縮率と
部分モル体積の算出のため密度測定装置を立ち上げた。図 2 は、確認として行った二
酸化炭素の測定結果である。当初、図中□で示されるように、臨界密度付近に 4%程度
の誤差が生じた。このため、試料純度、熱安定性、温度計保護管の熱伝導誤差、圧力
測定誤差、攪拌機の必要性、パッキング材及びセル材質などを全て検討した。その結
果、大きな誤差要因は圧力測定に含まれていることが分かり、これを改善した。その
結果、図中○で示される偏差まで抑えることができた。現在、圧力測定は読値の±
0.05%以内の誤差で測定可能である。図 3 に、臨界温度から 4%高温側のメタノール水
溶液(メタノールモル分率 0.1,0.2 及び 0.5)の超臨界状態における密度測定の結果
を示す。図中の実線は、単成分の水とメタノールに対する状態方程式による計算値で
ある。
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
-3.0
-4.0
-5.0
0
2
4
6
8
10
pressure/ MPa
12
図2
密度測定誤差の圧力依存性
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
0
図3
0.1
0.2
0.3
0.4
-3
density / gcm
0.5
0.6
超臨界メタノール水溶液の密度測定
1Pa101
アンモニアのイオン化過程における理論的研究
(名大院人情) ○大石祐貴・永江有起彦・長尾浩道・長岡正隆
【序】 化学反応において、安定状態及び遷移状態を特定することは、分子の反応性に関する知見を得る上で大変重要
である。しかし、溶液中の化学反応においては、多数の溶媒分子群の中で結合の開裂及び生成の過程を考慮しなければ
ならず、これらの状態の特定は困難である。本研究では、QM/MM-MD シミュレーションを用いた自由エネルギー勾配
法(free energy gradient (FEG) method) [1,2]により、水溶液中のアンモニア水クラスターの安定状態及び遷移状態につい
て構造最適化を実行することで、アンモニア分子の水溶液中でのイオン化過程の研究を行った。また、QM/MM 法と溶
媒を均一な誘電体として取り扱う COSMO (conductor-like screening model)法[3]との比較により、溶媒効果に関する
微視的考察及び凝集系における構造最適化に関する本方法の妥当性を検討した。
【理論と方法】
A.計算方法
水溶液中でのアンモニア水クラスターに関して、NH3…H2O (1:1)を量子力学的(PM3 法及び AM1 法)に、溶媒水分子
を 241 個の TIP3P 水分子として分子力学的に取り扱い、FEG 法を適用した NVT 一定の QM/MM-MD シミュレーショ
ンを実行した。一辺 19.34Åの立方体の基本セルに対する周期境界条件の下で、能勢・フーバー鎖アルゴリズムにより温
度を 300K に制御した。時間刻みは 0.1fs とし、平衡化後の 3ps に関してサンプリングを行った。すべての MD シミュ
レーションには ROAR2.0 を用い、QM-MM 原子間のレナード・ジョーンズパラメータは、Ruiz-López らにより開発された
方法 1[4]に従った。
B.統計摂動法
統計摂動法により、溶質構造 qs が qsi から qsi+1 へ変化した時の自由エネルギー変化 ∆ Gi は以下の式により得られ
る。
∆Gi = Gi +1 − Gi = − kBT ln exp  − β {VRS (qsi +1 ) − VRS (qsi )}
(1)
i
ここで、 β = 1 kBT 、 VRS (q si ) は qsi における溶質のポテンシャルエネルギーと溶媒-溶質相互作用エネルギーの和で、
以下で表される。
VRS = Ψ Hˆ QM + Hˆ QM/MM | Ψ
= VR + Ψ Hˆ QM/MM | Ψ
(2)
C.自由エネルギー勾配(FEG) 法
MD 計算においては、全ての溶媒分子から溶質の各自由度に働く力が各時間刻み毎に計算される。自由エネルギー面
(FES)上で溶質に働く力(すなわち自由エネルギー面の勾配に負符号をつけた値)は、その力の時間平均を取ることによっ
て qs の関数として得られる。
F FE (qs ) = −
∂G (qs )
∂VRS (qs )
=−
s
∂q
∂qs
(3)
ここで G(qs) は自由エネルギー関数であり、(3)式に基づき FES における最適化構造の探索が可能になる。
【結果と考察】
まず、気相中において PM3 レベルで最適化した H3N…H2O を初期構造とし、FEG による水溶液中での構造最適化を
行った。図 1 に最適化過程における自由エネルギー変化 ∆G と 溶質のポテンシャルエネルギー変化 ∆VR を示した。第
一ステップで ∆G は急激に約–0.3 kcal/mol 減少し 9 ステップ目でほぼ収束した。実際、二乗平均 (root mean square; RMS)
力は 8 ステップ目で十分小さくなったため、8 ステップ目
0.4
の構造を最安定構造と考えた。対照的に ∆VR は初期構造
0.2
Energy change [kcal/mol]
から増加しているが、これは溶質の分極に伴ったポテン
シャルエネルギーの増加に反して、水和による溶質のエ
ネルギー安定化がそれを上回り、全体として自由エネル
ギー的安定化が得られていることを示す。
一方、誘電体モデルである COSMO 法[3]による最適化
0.0
-0.2
構造と比較した場合、O6-H7 間の結合長を除いて FEG 法
-0.4
により得られた構造は気相中での構造と比較して変化が
8
6
4
2
0
Optimization Step Numbe r
少なく、気相中の構造により近いことが確認された。こ
図 1 最適化過程におけるエネルギー変化
れは、COSMO 法では溶媒を連続で均一な誘電体として
近似しているために、ミクロスコピックな溶媒和エント
H3
ロピーの影響を過小評価していることが主な原因と考え
0.980
107.2
0.998
られる。ミクロ溶媒和エントロピーを考慮した場合、周
H2
囲の水分子は H3N…H2O 全体と水和するよりも、むしろ
H4
図2
局所的に H7 と強く水素結合する。その結果、FEG 法に
O6
H5
1.812
N1
1.001
178.9
107.9
0.964
H7
NH3…H2O(1:1)の最適化構造
より得られた最適化構造は、COSMO 法によるものと比
べて O6-H7 間の結合長が長くなったと考えられる。
表1
H3N…H2O 分子対の原子電荷および双極子モーメント
PM3
気相中及び水溶液中における各種計算方法により得ら
れた溶質の電荷を表 1 に示した。この結果から、水溶液
B3LYP/
COSMO
SCRF(CPCM)
FEG
6-31G(d)
(PM3)
B3LYP/
(PM3)
6-31G(d)
中では水の大きな誘電率により双極子モーメントが大き
くなる点と、ミクロ溶媒和エントロピー効果を考慮しな
い誘電体モデルでは分極による自由エネルギーの安定化
を過大評価している点が明らかとなった。また、この表 1
のように、PM3 法は NH3 の電荷に関して B3LYP 法の結
果を再現することが困難であることが判明したため、
PM3 法のパラメータの最適化を行った。
-0.066
-0.907
0.013
-0.951
0.023
H2
0.032
0.317
0.021
0.343
0.017
H3
0.033
0.318
0.021
0.344
0.033
H4
0.038
0.324
0.021
0.343
-0.010
H5
0.226
0.432
0.252
0.436
0.260
O6
-0.436
-0.845
-0.566
-0.905
-0.655
0.174
0.361
0.238
0.390
0.332
3.485
4.178
4.109
4.980
4.004
H7
当日は、ポテンシャルに AM1 法を用いた場合及び最適
Dipole
化したパラメータを用いた場合の安定状態や遷移状態の
a
構造について示し、アンモニア分子の水溶液中でのイオ
N1
a
単位: D
ン化過程について議論する予定である。
【参考文献】
[1]
N. Okuyama-Yoshida, K. Kataoka, M. Nagaoka and T. Yamabe, J. Chem. Phys. 113 (2000) 3519.
[2]
H. Hirao, Y. Nagae and M. Nagaoka, Chem. Phys. Lett. 348 (2001) 350.
[3]
A. Klamt and G. Schüürmann, J. Chem. Soc. Perkin Trans. 2 (1993) 799.
[4]
F. J. Luque, N. Reuter, A. Cartier and M. F. Ruiz-López, J. Phys. Chem. A 104 (2000) 10923.
[5]
Y. Nagae, Y. Oishi, N. Naruse and M. Nagaoka, J. Chem. Phys. in press.
1Pa102
溶液中におけるプロトン移動反応の理論的解析
(金沢大理) ○加藤信彦、後藤英貴、井田朋智、遠藤一央
プロトン移動は化学、生物学において重要な役割を果たしている。例えば、水素結合系におけ
るプロトン移動は、水素結合性結晶における相転移現象に深くかかわっているし、有機化学反応
における酸・塩基反応や、生体中の酵素触媒反応の反応素過程として重要である。これまでプロト
ン移動における電子状態や、ダイナミクスを解明するために多くの研究が行われているが、その
分子レベルでの詳細はまだよく分かっていない。その原因として、プロトンの量子力学的性質(プ
ロトントンネリング)や、移動過程における周囲との相互作用(溶媒分子、分子内(間)振動、・・・)が、
その反応機構をより複雑なものにしているためであると考えられる。
プロトン移動反応は次の 3 つのステップで進行する。
A-H + B
A(-)・・・H-B(+)
A-H・・・B
(ⅰ)
(ⅱ)
A(-)+H-B(+)
(1)
(ⅲ)
(ⅰ)は encounter complex の形成過程、(ⅱ)はプロトン移
動過程、(ⅲ)は complex の解離過程である。反応速度を
決定するのは(ⅱ)の過程であり、プロトンのポテンシャル
は Figure 1 に示すような double well potential (DWP) で
表される。この DWP はプロトンの座標以外に 2 つの座
Figure 1 Proton double-well potential
標によって特徴づけられている。1つは A-B 間の距離
である。これは水素結合の伸縮振動の座標に対応してい
る。一般に A-B 間の距離の変化は、DWP のポテンシ
(a)
ャル障壁の高さに影響を与える。水素結合が強いほど、
つまり A-B 間の距離が短いほどポテンシャルの高さ
は低くなり、逆に距離が長くなると水素結合が弱くなり、
障壁は高くなる ( Figure 2 (a)、Figure 3 (a) 参照 )。また、
ポテンシャルの形状は溶媒分子の座標にも依存する。周
(b)
囲の溶媒との静電的な相互作用は水素結合のダイポール
を変化させる可能性があるからである。このような溶媒
分子の運動に伴う分極揺らぎは、DWP の対称性に影響し
てくる。例えば、Figure 2 (b)、Figure 3 (b) に示すように、
最初は非対称のポテンシャルでプロトンが片側の極小点
に局在化していても、溶媒の分極揺らぎによりポテンシ
ャルが対称となりプロトン移動が促進される可能性があ
る。
Figure 2 Proton double-well potentialin in
the nonadiabatic limit.
(a) Influence of intra- or intermolecular
distance.
(b) Illustration of the solvent induced
asymmetry.
したがって、プロトン移動反応を扱う場合には、プ
ロトンの座標以外に、分子内(間)振動に関係する座
(a)
標及び溶媒の運動に関係する座標を考慮した反応ポ
テンシャルを考えなければならない。
一方、プロトンの移動過程は、DWP のポテンシ
ャル障壁の高さによっても変わってくる。1 つは、
(b)
水素結合が弱いためにポテンシャル障壁が高く、プ
ロトンの振動準位が DWP のそれぞれの極小点に
局在化している場合である。このとき、プロトン移
動は、プロトントンネリングが支配的となる
(nonadiabatic limit)。この場合、ポテンシャルが対称
のときにもっともトンネルが起こりやすく、
Figure 3 Proton double-well potential in the
adiabatic limit.
(a) Influence of intra- or intermolecular distance.
(b) Illustration of the solvent induced asymmetry.
nonadiabatic limit においては、溶媒効果が移動速度に大きく影響する。逆に、水素結合が強い場
合はポテンシャル障壁が低く、プロトンの振動準位は障壁よりもわずかに高くなる。このときの
移動過程はプロトントンネリングではなく断熱的な機構となる (adiabatic limit)。ポテンシャルが
対称のときはプロトンの振動順位が障壁よりも高いために、プロトンは非局在化しているが、非
対称になるとどちらか一方の極小点に局在化する。この場合は溶媒効果以外に、ポテンシャル障
壁の高さも重要となるため、分子内(間)振動の効果も移動速度に与える影響は大きくなる。いずれ
の場合も、Figure 2 (b)、3 (b)に示すように、ポテンシャルの形が変化することにより反応が進行
するため、移動機構の解明には溶媒及び振動のダイナミクスを取り入れた理論的解析を行う必要
がある。
本研究では、溶媒および分子内(間)振動のダイナミクスを考慮したプロトン移動反応について理
論的に考察する。溶媒および分子の核の自由度は調和振動子の連続体として表す。このとき、プ
ロトンの振動準位に直接結合する核の座標と、その座標に結合し、熱浴として振る舞う座標とに
分けて考える。これらの mode は核の運動についての情報を持つ熱浴のスペクトル密度によって
決定される。この model を用いて密度行列の時間発展を求め、プロトン移動の速度定数を決定す
る。理論の詳細および解析結果は当日報告する。
1Pa103
ネマティック液晶におけるずり誘起構造変化と
粘性および誘電的性質
(福岡大・理) ○ 祢宜田 啓史、井上 恵
【序】液晶のネマティック(Ne)相において定常ずり変形を与えると、Leslieの粘性係
数α2、α3にα2/α3 > 0の関係がある場合には、液晶の配向方向を示す
director がほぼ流
れ方向に配向しながら流動する流動配向が生じる。このような流動配向は、高温か
らアイソトロピック(Is)相−Ne相−結晶(K)相と相転移する物質では、Ne相の全温度
領域で観測される。ところが、Ne相の低温側でスメクティックA(SmA)相が存在しIs
相−Ne相−SmA相−K相と相転移する物質のNe相においては、Ne-Is相転移温度に近
SmA Ne
- 相転移
い温度領域ではα2/α3 > 0となり流動配向が生じるが、温度を下げて
点近づくとα2/α3 <0となり、流れ方向とは垂直な方向の周りにdirectorの才差運動が
起こり、その才差運動は温度領域によって変化することが知られている。また、
SmA相では、温度を一定にしてずり速度を変化させると、directorの方向が異なる二
つの構造が入り混じった状態から単一の構造へと変化することも明らかにされてい
る。本研究では、Is相−Ne相−K相と相転移する4-n-pentyl-4'-cyanobiphenyl (5CB)と
Is相−Ne相−SmA相−K相と相転移する4-n-octyl-4'-cyanobiphenyl (8CB)において、
粘度と誘電率を同時に測定し、それらの温度やずり速度依存性などから、定常ずり
変形下での液晶の動的構造や動的構造間でのずり誘起構造変化を考察した。
【実験】試料の5CBおよび8CBにはメルク社製のものを用いた。粘度から求めた、
5CBのNe−Is相転移温度は 308.8 Kで、8CBのNe-Is相転移温度は 313.6 K、SmA-Ne相
転移温度は 306.2 Kであった。粘度およびずり応力とずり速度の関係は二重円筒型粘
度計を用いて測定した。また、この二重円筒型粘度計の内筒と外筒間に信号発生器
(FG110、横河電機)からの低電圧を印加し、試料を流れる電流を2位相ディジタル
ロックインアンプ(LI5640、NF)で位相検波して、定常ずり変形下での誘電率の実部
(ε')および虚部(ε")を求めた。この装置構成のため、求めた定常ずり変形下での誘電
率は、流れ方向とは垂直の速度勾配方向の誘電率となる。試料温度は、外筒に取り
付けたヒーターと熱電対(クロメル−コンスタンタン)、および、温度コントローラー
(340、LakeShore)で、± 0.01 K以内に制御した。
【結果】5CBにおいて、粘度および誘電率の温度依存性を測定した結果が、それぞ
れ、図1および図2である。Is相から温度を下げていくと、粘度は、Is−Ne相転移点
で急激に減少し
た後次第に増加する。誘電率は定常ずり変形を印加するかどうかで
挙動が大きく異なる。定常ずり変形下では粘度と同様にIs−Ne相転移温度で急激に
減少するが、静止状態下では誘電率はIs−Ne相転移点で急激に増大し、その後、温
度とともに次第に大きくなる。また、Ne相での粘度および定常ずり変形下での誘電
率は、directorが流れ方向に配向した場合のものよりわずかに大きい値であった。こ
れらの結果から、5CBに定常ずり変形を印加すると、Ne相の全温度領域で、定常ず
り変形によってdirectorがほぼ流れ方向に配向することが明かとなった。
30
20
静止状態
Is
25
15
20
10
ε'
η / mPa s
Ne
15
定常ずり変形下
(329.5 s-1)
5
Ne
10
295
300
305
310
0
295
315
300
T / K
図1:
310
315
T / K
図2:
5CBにおける粘度の温度依存性
ずり速度:329.5
305
Is
-1
s
5CBにおける誘電率の温度依存性
電場:1 kHz、3 V/mm
一方、8CBにおいて静止状態下および定常ずり変形下で誘電率の温度依存性を測
定した結果が図3である。静止状態下でIs相から温度を下げていくと、誘電率はIs相
およびNe相で5CBと同様な温度依存性を示し、Ne-SmA相転移点でその温度依存性に
わずかな変化が観測される。一方、定常ずり変形下での誘電率は、Is-Ne相転移点近
傍では5CBの結果と同様であるが、Ne-SmA相転移点近傍の温度領域では5CBの結果
とは大きく異なる挙動を示し、SmA相で
14
る。得られた結果を考察した結果、8CB
12
に定常ずり変形を与えると、Is-Ne相転移
10
近傍ではdirectorは流動配向するが、SmA
ε'
は、温度ともに増大した後ほぼ一定とな
Ne
SmA
Is
静止状態
8
相に近い温度領域ではdirectorが流れとは
垂直な方向の周りに才差運動することが
ことが明かとなった。これらの結果など
6
4
定常ずり変形下
( .γ = 329.5s-1 )
302
を基に、Ne相およびSmA相における定常
ずり変形による液晶の構造変化を議論す
る。
図3:
306
310
T / K
314
318
8CBにおける誘電率の温度依存性
電場:1 kHz、3 V/mm
1Pa104
中性とイオン性ミセル中での溶媒和ダイナミクスに対する圧力効果
(1 京大院理,2 京大低温物質科学研究セ)〇馬殿 直樹 1,梶本 興亜 1,原 公彦 2
【序論】 生体反応をふくむ多くの化学反応において,溶媒は重要な役割を果たしている.
蛍光プローブ分子の動的ストークスシフトに基づく溶媒和ダイナミクス測定は,このよう
な溶媒効果を調べる有力な手法のひとつであり,高時間分解能レーザーをもちいることで,
溶液内高速反応ダイナミクスの詳細を明らかにすることができる.これまでの数多くの測
定から,アルコールや水のような均一溶媒中では,溶媒和は 1ps 以内に完了するが,ミセ
ル(逆ミセル)水溶液,蛋白質水溶液等の不均一溶媒中では(1)均一溶媒系より,2~4
桁おそい緩和時間(数 100ps~数 10ns)を示す,および,(2)2つの緩和時間(τ1:ps
オーダー,τ2:ns オーダー)をもつことがわかっている.
これら遅い二つの緩和時間の起源は何なのだろうか.これまで 不均一溶媒系での誘電
緩和測定でも同様に二つの遅い緩和時間が得られており,それらは異なる状態にある水,
自由水(free water:大分子に水素結合していないが,並進運動が制限されている水分子)
と束縛水(bound water:大分子に水素結合している水分子)との間の平衡に由来すると
されている.一方,溶媒和ダイナミクス測定では,τ1 は束縛水,あるいは大分子と水分
子との間の水素結合ダイナミクスに由来することが一般に認識されているが,τ2 の由来
はいまだに曖昧なままである.
本研究の目的は,この遅い緩和時間τ2 の由来を決定することである.そのために我々
は,τ2 の圧力変化を測定した.また不均一溶媒系としてミセル水溶液をもちいた.ミセ
ルは疎水性核と親水性表面をあわせもつため,蛋白質のもっとも簡単なモデルとなる.
【実験方法】 時間分解蛍光スペクトルは,単一光子計数法によって 480~580nm まで
10nm ごとに各波長で測定した蛍光減衰曲線をログノーマル関数でフィットして作成した.
得られたピーク振動数から以下の溶媒和応答関数を導出した[1].
C(t) = {νp(t) -νp(∞) } / {νp(0) -νp(∞) }
C(t) は溶媒和の進行の度合いを表しており,1 のときは溶媒和がまだ始まっておらず,0
のとき完了する.この C(t) を 2 成分指数関数フィットして緩和時間τ1,τ2 を決定した.
ミセルを形成する界面活性剤には,それぞれ代表的な非イオン性と陰イオン性のもので
ある,トリトン X-100(TX100)と硫酸ドデシルナトリウム(SDS)をもちいた.両界面
活性剤は,臨界ミセル濃度(cmc)や会合数の圧力変化[2]が既に測定されている.
蛍光プロープ分子にはクマリン 153(C153)をもちい,その濃度は,ミセル一個に C153
最大一個にするために,ミセル濃度の十分の 1 以下にした.圧力は 50MPa ごとに最大
400MPa まで測定し,温度は 17℃に保った.
【結果と考察】 緩和時間τ2 の圧力変化は TX100 と SDS とでまったく正反対の挙動を
示した.各ミセル溶液でのτ1,τ2 の圧力変化を図 1 に示した.TX100 ではτ1 は加圧と
ともに単調減少したが、τ2 は約 100MPa まで
ほとんど変化せずに約 100MPa 以上では減少
した.SDS では常圧ではτ1 とτ2 が明確に区
別されたが,約 80MPa 以上ではどちらも類似
の値を示した.またτ2 は加圧に伴って増加し
た.
まず,τ1 とτ2 の起源としてその時間スケー
ルからみて妥当な遅い過程を考えると,τ1 は
束縛水,τ2 は親水基のダイナミクスとみなさ
れる.
この仮定に基づいてさらに以下の事項を考慮
図 1.TX100 の(a)τ1(b)τ2 および,SDS
の(c)τ1(d)τ2 の圧力変化
に入れて考察した.まず,C153 は疎水性であり,またミセル核のような完全に無極性な
溶媒中では動的ストークスシフトを示さないため,ミセルの親水基層中にあると考えられ
る.さらに,イオン性ミセルのシミュレーション[3]から,ミセル内での隣接親水基は二つ
の水分子からなる架橋構造により構造安定化し,さらに溶媒和には親水基のダイナミクス
の寄与がもっとも大きいことが報告されている.すなわち,ミセルの安定化には(a)親水基
間での架橋構造の数,(b)架橋構造の水素結合強度が重要である.また,アルコール中での
C153 の溶媒和時間は加圧すると増加するが,これは加圧により溶媒の粘度が上昇するた
めであると考えられている[4].すなわち,(c)加圧による溶媒の粘度上昇の効果も考慮に入
れる必要がある.さらに会合数の圧力変化も重要な要素である.
【結論】 TX100 と SDS とで緩和時間の圧力変化が違うのは中性ミセルとイオン性ミセ
ルで親水基層の厚さが異なることを反映していると判断できた.すなわち TX100 につい
ては,常圧でミセル安定化には架橋構造の寄与が大きいが,約 100MPa 以上で架橋構造が
減少し親水基が動きやすくなりτ2 が減少する.一方,SDS については,親水基層が薄い
ため架橋構造の減少の寄与はほとんどなく,むしろ加圧によるバルク水層の粘度上昇の効
果により親水基の運動が制限されτ2 が増加したと結論できた.TX100 のτ1 が圧力に対し
て単調減少しているのは,水分子と親水基間の水素結合が加圧により弱まっていることを
反映している.SDS は親水基層が薄いため,高圧領域では束縛水が存在できずτ1 はτ2
に類似し,どちらも親水基のダイナミクスに対応すると考えられる.
[1] M. Maroncelli, G. R. Fleming, J. Chem. Phys. 86, 6221 (1987)
[2] N. Baden, O. Kajimoto, K. Hara, J. Phys. Chem. B 106, 8621 (2002)
[3] S. Balasubramanian, B. Bagchi, J. Phys. Chem. B 105, 12529 (2001)
[4] N. Kometani, O. Kajimoto, K. Hara, J. Phys. Chem. A 101, 4916 (1997)
1Pa105
超臨界トリフルオロメタン中における C153 の溶媒和ダイナミクス
○星原悠司・米谷紀嗣(大阪市大院工)、
梶本興亜(京大院理)、原公彦(京大低温物質科学研究センター)
【序】超臨界流体とは気液の臨界点(臨界圧力と臨界温度)を超えた流体のことで、わずかな圧
力・温度変化により多くの溶媒特性の微調整が可能である。これまでに超臨界流体中の溶質分子
の溶媒和に関して多くの研究がなされており、臨界点近傍において溶質周囲の局所溶媒密度が増
大するなど、興味深い結果が報告されている。しかし、超臨界流体中における溶媒和ダイナミク
スは、その時間スケールが一般に数百フェムト秒~数ピコ秒と極めて高速であるため、測定は非
常に困難である。本研究では、超臨界トリフルオロメタン中に溶解したプローブ分子クマリン 153
(C153)の蛍光寿命を up-conversion 法により測定した。さらに、各波長で測定した蛍光寿命か
ら時間分解蛍光スペクトルを再現し、ダイナミクスストークスシフトの解析を行った。
【方法】二方に石英窓を備えた光学高圧ディスク型セル内(光路長:2mm、容量:6ml)に C153
を濃度 5×10-5M になるよう調整して仕込んだ。続いてセル内を真空に引いた後、HPLC ポンプを
用いて CHF3 を注入し、T=303K、P=5.9 及び 9.4MPa に保った。数時間攪拌の後、それぞれにつ
いて up-conversion 法により時間分解蛍光スペクトルを測定した。測定に用いた装置図を Fig. 1
に示す。Ti:Sapphire Laser から 800nm(75fs, 80MHz, 10nJ)の光を LBO に入射し、第二高調波
を発生させた。その第二高調波(400nm)を励起光として試料に照射し、発生した蛍光と Optical
Delay Line によって光路差をつけた基本波(800nm)を BBO に入射して up-conversion 光を得た。
そして得られた up-conversion 光を分光器で分光し、光電子増倍管を通して Photon Counter で計
測した。この方法による装置応答関数の半値幅は約 200 fs であった。
また、定常状態の吸収・蛍光スペクトルは三方に石英窓を備えた光学高圧セル(光路長:1cm、
容量:3.0ml)内に試料を同様に仕込み、同条件下で、それぞれ分光光度計 V-560 と FP-750 を用
いて測定した。
Mode Locked Ti:Sapphire Laser
(800nm, 75fs, 80MHz, 10nJ)
Diode-Pumped
Nd-YAG Laser
Photon Counter
Computer
LBO
Dichroic Mirror
PMT
Optical Delay Line
BBO
SCF Cell
Specteometer
Fig. 1. Schematic diagram of the up-conversion system used in
this study.
【結果】up-conversion 法により得られた蛍光寿命曲線の一例を Fig. 2 に示す。ここでは蛍光波長
440nm についての結果を示したが、
長波長になるにしたがって蛍光強度の立ち上がりが見られた。
それぞれの波長における蛍光の時間変化を装置応答関数と二成分、または三成分の指数関数のコ
ンボリューション関数で最適化し寿命を得た。各波長についての蛍光寿命から、時間分解蛍光ス
ペクトルを再現した。それらを Log-normal 関数で最適化し、蛍光スペクトルの最大波数ν(t)を見
積もった。さらに、次式で定義される時間相関関数 C(t)を指数関数で最適化することにより、溶
媒和時間τs を得た。
C (t ) =
ν (t ) − ν (∞)
ν (0) − ν (∞)
ここでν(0)、ν(∞)はそれぞれ t=0、t=∞における蛍光スペクトルの最大波数である。圧力 P=5.9,
9.4MPa についてそれぞれν(∞)=19733cm-1, 19681cm-1 である。
また常温・常圧下の n-ヘキサン中および圧力 P=5.9, 9.4MPa のトリフルオロメタン中における
C153 の吸収・蛍光スペクトルを測定した。ヘキサン中での吸収・蛍光スペクトルを Fig. 3 に示し
た。極性溶媒トリフルオロメタン中では吸収・蛍光それぞれにおいて、圧力増加に伴ったレッド
シフトが見られた。Maroncelli et al.の報告[1]に従い、極性・無極性両溶媒中での定常状態スペク
トルから、t=0 における各圧力での蛍光スペクトルを見積もった。得られた t=0 の蛍光スペクトル
を Fig. 4 に示す。このスペクトルを Log-normal 関数で最適化し、圧力 P=5.9, 9.4MPa について
それぞれ最大波数ν(0)=21494cm-1, 21418cm-1 を得た。
以上の結果から溶媒和時間τs は、T=303K、
P=5.9MPa に お い て τ s=0.52ps 、 ま た
150
となり、圧力とともに増大することが明らか
になった。詳細な報告については発表で行う。
Intensity
T=303K、P=9.4MPa においてはτs=2.18ps
100
50
【参考文献】
0
[1] R.S.Fee, M.Maroncelli, Chem. Phys.
183 (1994) 235
0
1000
2000
3000
Time / fs
Fig. 2. The up-conversion signal
from emission of C153 in CHF3
at 303K, 5.9MPa. λem=440nm
19
[×10 ]
2
Abs.
300
400
500
Wavelength (nm)
Fig. 3. Steady-state spectra of
C153 in n-hexane at 303K
Intensity
Flu.
600
5.9MPa
9.4MPa
1
0
16000 18000 2 000 0 22000 24000 26000
-1
Wavenumber(cm )
Fig. 4. The eitimated time-zero emission
spectrum at 303K, 5.9MPa and 9.4MPa
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