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茶の低コスト・高品質・安定栽培技術および品質評価技術

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茶の低コスト・高品質・安定栽培技術および品質評価技術
平成 24 年度 普及指導員等研修
(農政課題解決研修 C17-A)
「茶の低コスト・高品質・安定栽培技術および品質評価技術」
(Aコース)
チャの侵入新害虫チャトゲコナジラミの対策技術
平成 24 年9月6日~9月7日
独立行政法人
農業・食品産業技術総合研究機構
野菜茶業研究所
金谷茶業研究拠点
目
次
Ⅰ チャトゲコナジラミの分類学的特徴と近縁種ミカントゲコナジラミとの相違点 ・・・・・・・ 1
Ⅱ チャトゲコナジラミの生理・生態的特性と有望天敵シルベストリコバチ ・・・・・・・・・ 18
Ⅲ チャトゲコナジラミの発生予察と個別的防除手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
Ⅳ チャトゲコナジラミの総合防除体系 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
Ⅴ チャトゲコナジラミの遺伝子診断法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
Ⅵ 実習用資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35
参考資料
・ 「農作物有害動植物発生予察事業調査実施基準」
(チャ編) 農林水産省生産局植物防疫課
別冊
・ 「チャの新害虫チャトゲコナジラミの防除マニュアル」 シリーズ
~侵入防止&初期防除編~ ~農薬による夏秋期防除編~
~秋冬期防除編~
~総合防除編~
本資料の取り扱いについて
本資料掲載の研究成果には、未公開のものも含まれております。
したがって、複製・転載および引用にあたっては、必ず原著者の承諾を得るよ
う、特にご注意ください。
Ⅰ
チャトゲコナジラミの分類学的特徴と
近縁種ミカントゲコナジラミとの相違点
久留米大学比較文化研究所
上宮 健吉
1.コナジラミ科の特徴
シラミは白虫の転訛とされるが、アタマジラミやハジラミなど、動物の血液を吸い、あ
るいは羽毛をかじる不快な昆虫である。類縁でもないのにトコジラミ、キジラミ、コナジ
ラミもシラミが後についている。共通して吸汁性で、トコジラミはヒトの血を吸い、南京
虫と呼ばれたカメムシの仲間である。キジラミは名のごとく幼虫が木本植物に群がって吸
汁する。さて、本題のコナジラミ科は、粉虱、ホワイトフライと呼ばれ、一般には馴染み
の薄い昆虫であるが、ほとんどの植物を揺すれば葉裏から成虫が飛び出す最もポピュラー
な昆虫である。粉虱のコナの由縁は、羽化直後の成虫が腹部からロウ物質を分泌し、それ
をこすりつけて身体中が白い粉をふいたようになるからである。コナジラミ科が属するカ
メムシ目(半翅目)は、口器の大腮と小腮が抱合して口針(刺針)を形成し、これを下唇
が唾液腺管と共にすっぽり包んで伸び、植物や動物組織から液状の養分を吸汁する。成虫
の前翅が全体膜状か、あるいは基半部が硬い鞘翅になっているかで同翅亜目(ヨコバイ亜
目)と異翅亜目(カメムシ亜目)に大別されてきたが、前者は側系統的(=その他おおぜ
い的)な集合であることが広く認められ、現在は腹吻亜目と頚吻亜目に二分され、頚吻亜
目がカメムシ亜目に近い群に置かれている。その理由として、腹吻群の属するアブラムシ、
カイガラムシ、コナジラミ、キジラミ科の後翅後方は細くなり、カメムシやウンカ、セミ
類のように扇状部とよばれる皺によって区別された拡大部を持たないからである。触角は
良く発達し、第2節がセミやウンカのように膨大せず、第3節は普通糸状に伸びた多数の
節からなり、セミやウンカのような短い触角で、第3節に糸状の触角刺毛があることとは
明瞭に区別される。他の二亜目と区別される腹吻亜目の最大の特徴は、口器が頭部の基部
からではなく、腹部の前脚基節から生じていることである。コナジラミの口器はセミやウ
ンカ類と違って軟弱であり、葉の裏面をもっぱら吸汁の場所に選ぶ。コナジラミ類がなぜ
葉の裏にいるかの理由がこれである。口器は基部の丈夫な穿孔部に対し、先の唾液管を含
む口吻は良く伸び、葉の柔組織をファイバースコープのように自由に動いて篩管に到達す
る(Rosell et al. 1995)。もし、篩管に到達できないほど柔組織が厚ければ吸汁できない。
コナジラミの植物選好性には表皮から篩管までの距離も関係し、植物の抵抗性とは柔組織
の厚みでもある。
2.コナジラミ科の分類
コナジラミ科に属する世界の既知種は 1,556 種である(Martin & Mound 2007)。本科に属
する種は成虫に形態的識別形質が乏しく、種の同定識別は蛹殻の外部形質に拠らねばなら
ないことに加えて、コナジラミ科に精通した分類学者が世界的に少ないことから、最も分
類が難しい昆虫とされている。したがって、日本国内のファウナに関する知見も極めて乏
1
しい。コナジラミ科に関する分類学的寄与は、日本では高橋(1963)による最後の貢献が
あって以降の成果は数少ない。
宮武
(1980)による種名リストで 64 種が記録されて以降は、
Kanmiya & Sonobe(2002)、 上宮・園部(2006)
、Kanmiya et al. (2011)などにより、今
日まで 10 種が日本のファウナに追加されたにすぎない。しかも、この 10 種は全て国外か
ら侵入した害虫種である。分類の困難性を克服するために、特定の系統集団に PCR 法など
の分子遺伝学的解析が始まった。我が国においても、近年害虫種として特に問題となって
いるタバココナジラミとチャトゲコナジラミの2種について形態観察による分類と分子マ
ーカーを用いた系統解析及び交尾行動における音声信号解析を融合させた新たなコナジラ
ミ科の系統分類に関する成果が発表されている
(Ueda et al. 2009; Kanmiya et al. 2011)。
3.害虫としてのコナジラミ科
コナジラミ類が非常に重要な作物害虫であることは、USDA が 1991 年以降毎年 5 億ドル
以上の被害損失額を算定していることからも理解される。栽培規模によって被害の程度が
大いに異なる。大規模農場では、移動するコナジラミの大集団が野焼の煙がたなびくよう
に、そして、ひとたび襲われた広大な圃場の作物が無残な姿になっている情景が USDA-ARS
の映像で示された。世界のコナジラミの研究は防除技術、ウイルス媒介性、天敵利用、寄
主選好性、など多岐に及んでいる。被害は 1980 年代までは散発的なものだったが、最近の
施設園芸の発展や寄生された植物の移出入による移動分散に伴う被害が世界的になり、抵
抗性系統の出現も問題を大きくしている。一方、減農薬果菜類の要請とそれによるポリネ
ータと放飼天敵の導入により、コナジラミの薬剤防徐が益々困難になっている。コナジラ
ミ類の寄主植物はアブラムシ、カイガラムシと比較して寄主特異性が低い。 最近薬剤耐性
を獲得して難防除害虫として特に問題となっているタバココナジラミのバイオタイプ Q と、
2004 年に京都で初発生して以来、急速に全国的に分布を拡大しているチャトゲコナジラミ
については、農水省の防除対策研究事業が相次いで実施された。この2つのプロジェクト
では、防除対策の基本情報として、害虫の形態観察による正確な分類と、国際基準として
遺伝子の分子マーカーを用いた系統解析、そして、日本の独自の手法である成虫の交尾行
動時に発する振動信号を系統解析に取り入れ、新たなコナジラミ科の分類と系統解析を統
合したプロファイリングの構築が期待される。
タバココナジラミは、世界各地の熱帯、亜熱帯を中心とする広い地域に生息する。寄主
範囲が広く(74 科 500 種以上の植物)、寄生した作物上で、肛門から排出される多量の蜜露
に起因するスス病害の誘発や、トマト黄化葉巻ウイルス等の病原性ウイルスの媒介者とし
て、世界で最も重要な害虫種として警戒されている。本種には世界各地に数多くのバイオ
タイプが存在し、それらが 12 遺伝子型グループに分類できることが報告されている
(Boykin et al. 2007)。1990 年頃以降、一部のネオニコチノイド系殺虫剤に対する抵抗性
を発達させた多犯性でアフリカ起源の外来系統(バイオタイプ B/シルバーリーフコナジラ
ミ)の日本への侵入や、ごく近年では、地中海イベリア半島を起原とするさらに高度の抵
抗性を発達させた新たなタバココナジラミ系統(バイオタイプ Q)(Guirao et al. 1997)
の侵入が確認されている(Ueda & Brown 2006)。特に、バイオタイプ Q に効果の高い薬剤
が極めて限定されていることから、農業面で日本だけでなく、世界各地の施設・露地作物
の生産において、防除対策は深刻な問題になっている。
2
一方、チャトゲコナジラミは、 2004 年に京都府南部でチャへのミカントゲコナジラミ
の寄生による吸汁被害と、幼虫の分泌物による下位葉へのすす病被害が報告され(山下ら
2005)関西の4府県でチャに甚大な被害を及ぼして以後、全国 22 都府県に分布拡大してい
る。
本種は中国や台湾、あるいは日本でも当初はミカントゲコナジラミと同定されていた。
ミカントゲコナジラミは大正時代頃から国内に侵入し分布拡大したカンキツの害虫であっ
たが、チャを加害した事例は無く、すなわち、チャを加害する国内系統はいなかったと判
断される。そこで、農水省の本研究プロジェクトによって、チャとミカンを加害する個体
群をそれぞれ採集し形態学的、並びに音声信号により比較解析を行ったところ、チャで被
害をもたらす個体群は、これまで国内に定着していた個体群とは異なる新系統であるとい
う確証を得るに至った。本種は南西諸島まで国内に広く分布しており、それら地域個体群
の移動や定着の歴史性がいずれ遺伝子情報によって解明されるだろう。ミカントゲコナジ
ラミは南アジアが分布の中心で、人為的要因で太平洋諸島やアフリカ北部、地中海にまで
分布が拡大し、果樹害虫として植物検疫上の要警戒種である。ミカン科のカンキツ類を寄
主とし、日本や中国大陸南部を北限とする熱帯起源の非休眠性昆虫である。
4.コナジラミ科の交尾信号
鳴くセミは空気振動波を出すが、セミと同じ頚吻亜目に属するウンカやヨコバイ類には
基質振動波による交尾信号が知られていた。しかし、腹吻亜目のアブラムシ、カイガラム
シ、キジラミ、コナジラミ類では発音による交尾信号は長らく未知であった。それは、キ
ジラミ類やコナジラミ類の振動信号が耳に聞こえるような音ではなく、非常に微弱な振動
波であって、特別の防音条件で、精密な振動波の検出と増幅の電子装置を必要としたから
だろう。頚吻亜目には2種類の発音方法が知られている。セミ科では雄の第1腹節の外側
に1対のドーム状に突き出たキチン化したプレートの発振膜があり、発音筋の収縮と弛緩
によりプレートが内外に変形するたびに出るクリック音は、腹腔の共鳴装置によって大き
く拡大される。
筆者は 1995 年に害虫コナジラミ類 3 種が腹部の律動によって葉に伝える基
質振動によって発音することを初めて明らかにした。 コナジラミ類の交尾信号は、その後
の調査から各種に固有な音響特性を示すことが分かった。極言すれば、ただ1個の信号を
知るだけで種の区別が可能である。筆者はオンシツコナジラミの雄が交尾前に振動信号を
出し、雌に交尾刺激を提示することを初めて明らかにし(上宮 1965、Kanmiya 1966a)
、国
際昆虫学会議で他の4属にも種特異的な交尾信号のあることを確認した(Kanmiya 1966b)。
その後も日本産の 13 種(上宮 1998)、さらに 32 種(Kanmiya 2006)のコナジラミ科に、雌
が交尾を受諾する同種の雄の交尾信号による配偶者認知システムが普遍的にあることを明
らかにしてきた。
以下の表と付図にてチャトゲコナジラミとミカントゲコナジラミの形態的な差異を表示
した。形態的な差異の記述的な説明はこの資料では省略し、研修会当日、実際のサンプル
で学習していただきたい。交尾信号などの行動や生態的な差異は未公表データを含むので、
研修会当日のスライド説明で行うことにする。
なお、本資料は 2009-2011 年度に実施された農林水産省「チャの新害虫ミカントゲコナジラ
ミの発生密度に対応した戦略的防除技術体系の確立」のメンバーによる研究成果による。京都
3
府立大学の吉安
裕、笠井
敦、京都茶業研究所の山下幸司、野菜茶業研(金谷)の佐藤安志
の各氏、および mt-COI の遺伝子解析を担当された九州沖縄農研センターの上田重文氏の寄与に
負うところが大きい。また、論文 Kanmiya et al.(2011)の付図を改変引用した。
~
MEMO
4
~
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
図 13
15
図 14
16
表1
17
Ⅱ チャトゲコナジラミの生理・生態特性と有望天敵シルベストリコバチ
京都大学大学院農学研究科
笠井 敦
1.チャトゲコナジラミ 概要
カメムシ目(半翅目)コナジラミ科の不完全変態昆虫
学名:Aleurocanthus camelliae Kanmiya & Kasai
英名:Camellia spiny whitefly
分布:東南アジアおよび東アジア
形態:成虫 体長約 1.1 ~ 1.3mm で、雌が雄より大きい。体色は橙色だが、紫褐
色の前翅に隠れるため、肉眼では濃い灰色に見える。ただし、羽化後に腹板
から分泌した粉状のワックスを全身にまとうため、白っぽく見えることもあ
る。前翅には不明瞭な白斑が 9 か所みられ、近縁種のミカントゲコナジラミ
のもの(7 か所)と区別される。口器が針状の口針を形成し、植物の師管液
などを吸汁する。複眼は赤色で、個眼の分布が上下に極端に分かれたひょう
たん型を形成する。
図 1. チャトゲコナジラミ♀成虫
幼虫 体長約 0.2 ~ 1.3mm、1 齢から 4 齢を経て成虫へと羽化する。体色は
艶のある黒色。先端から液体を分泌する明瞭な棘を複数有する。棘の数は齢
ごとに増加する。4 齢幼虫の外縁の棘の数が♀で 11 対であるのに対し、♂は
10 対であり、雌雄で異なる。体の縁に白いワックスを分泌し、周囲に帯を形
成する。
脱皮殻を背負っていることが多い。
口器が針状の口針を形成するが、
カイガラムシの幼虫のように著しく伸長しない。
18
図 2. チャトゲコナジラミ 4 齢幼虫
図 3. チャトゲコナジラミ卵・若齢幼虫と
左:♀、右:♂
シルベストリコバチ♀成虫
卵 長径約 0.2mm。黄褐色で曲玉状、卵柄を有し、葉裏に立てて生み付けら
れる。
生理・生態:チャ・ヤブツバキ・サザンカなどの Camellia 属、サカキ、ヒサカキ、
シキミ、サンショウを寄主植物とする。近縁種のミカントゲコナジラミと異
なり、サンショウ以外のミカン科植物を利用しない。他のコナジラミ類と同
様、幼虫期のうち孵化直後の 1 齢幼虫期のみ歩行移動し、その他の齢期では
葉裏に固着する。すす病を誘発する甘露を肛門から排出する。卵から羽化ま
での有効積算温度定数は 569.9 日度、発育零点は 11.9℃。成虫寿命は平均 2
~4 日だが、個体によっては 2 週間ほど生存するものもみられる。♀1 個体
あたりの生涯産卵数は平均約 26 個。
性決定様式は雄が半数体の半数倍数性。
野外における性比はほぼ 1:1。25℃における内的自然増加率 rm = 0.056。
有効積算温度の簡易計算式:
年間世代数 ≒(202 × 年平均気温(℃)- 938)/ 570
春期の成虫発生は、一番茶新芽生育期とほぼ一致する。羽化成虫は新芽に群
がり、交尾後に♀成虫は葉裏に産卵する。飛翔能力はそれほど高くないが、
風に乗って分散することもある。成虫は黄色に誘引されることから、黄色粘
着トラップによる発生モニタリングが可能である。京都府における成虫発生
は年に 3~4 回の比較的明瞭なピークがみられる。夏秋期には各齢幼虫が混
在し、冬期には成虫を除くすべてのステージが見られるが、越冬に成功する
のは老齢幼虫に限られる。薬剤抵抗性は現在のところ確認されていないが、
葉裏に寄生するため薬剤が到達しにくく、薬剤による防除には限界がある。
薬剤感受期は 1~2 齢幼虫期であり、この時期は成虫発生パタンから推測可
能である。
19
成虫寿命
1.1~1.3mm
2~4 日
4 齢幼虫期
卵期
(蛹期)
13~14 日
11~12 日
0.2mm
1♀あたり
平均産卵数
薬剤感受期
約 26 個
1.1~
1.3mm
0.2mm
1 齢幼虫期
3 齢幼虫期
7~8 日
5~6 日
2 齢幼虫期
0.8mm
5日
0.4mm
図 4. チャトゲコナジラミの生活環
2.チャトゲコナジラミ調査のポイント
幼虫:侵入直後の低密度段階で発見するのは非常に困難で、人海戦術に頼るしかな
い。茶園の周囲、風の通り道、人がよく通るところなどを特に念入りに調査
すると比較的見つけやすい。人手の入っていない山林のヤブツバキなどには
あまり寄生しない。しかし、民家の庭木として用いられているサザンカやツ
バキなどは要注意。高密度段階ではすすが発生するので、チャトゲコナジラ
ミが何なのかわからない人でも異変に気付く可能性が高い。被害が生じるか
どうか、個別防除を施すかどうかの判断は、すすの発生有無でおこなうとよ
い。
成虫:黄色粘着トラップが効率的で良い。クモの網などに捉えられている成虫を確
認する方法もあるが、確実ではない。局所的に発生している場合、トンボが
一部の茶畝に集中して捕食していることがあり、遠目でも確認しやすい(漁
師が鳥山を目当てにする感覚)
。
20
3.シルベストリコバチ概要
ハチ目(膜翅目)ツヤコバチ科
学名:Encarsia smithi (Silvestri)
分布:中国、日本、インド、アメリカ、南アフリカ
形態:成虫は体長約 0.7mm で、雌が雄より大きい。体色や形態において性的 2 型
がみられる。♀の前翅中央部は褐色透明だが、♂のものは無色透明で褐色部
がみられない。雄は全身が黒色であるのに対し、雌の頭部および胸部は褐色
で、小盾板が真珠色、腹部は茶褐色を示す。触角の第 1 鞭節が♂では他の鞭
節と同じ長さであるのに対し、雌では他の鞭節の半分程度。
生態:我が国のカンキツにおいてミカントゲコナジラミの被害が大きな問題であっ
た 1925 年に、イタリアのシルベストリ博士によって中国の広東省から約 20
匹の成虫が導入され、増殖の後に全国各地に配布されたことで分布を拡大し
た。本種によるミカントゲコナジラミ防除は、我が国における古典的生物学
的防除の数少ない成功例のひとつ。黄色粘着トラップで捕獲されるが、チャ
トゲコナジラミ調査時に設置する茶畝のすぐ上では♂に大きく偏る傾向に
ある。1♀あたりの生涯産卵数は約 68 個、1 卵あたりの産卵時間は約 28 分、
寄主体液摂取数は約 14 匹であり、同属他種と比べてその値は芳しくない。
図 5. シルベストリコバチ♀成虫
図 6. シルベストリコバチ
プレパラート標本
左:♂、右:♀
参考文献:
Kanmiya et al. (2011) Zootaxa 2797: 25-44.
笠井ら (2010) 日本応用動物昆虫学会誌 54: 140-143.
Kasai et al. (2012) Journal of Asia-Pacific Entomology 15: 231-235.
岸田ら (2010) 日本応用動物昆虫学会誌 54: 189-195.
ミカントゲコナジラミ研究推進連絡会 (2011) チャトゲコナジラミ防除マニュアル.
農水省 HP
http://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/siryou2/
21
Ⅲ チャトゲコナジラミの発生予察と個別的防除技術
農研機構 野菜茶業研究所(金谷)
佐藤
安志
この講義では、これまでに開発されたチャトゲコナジラミの個別的防除法や発生予察法
に関する諸技術の紹介や問題点等を解説する。また今後の研究戦略についても言及する。
1.チャトゲコナジラミの個別的防除法
1)化学的防除法
チャトゲコナジラミ Aleurocanthus camelliae Kanmiya and Kasai は、我が国初のチャ
の侵入害虫であり、現在その緊急的な防除対策の基幹となっているのは、化学合成農薬を
使った化学的防除法である。
2012 年1月末現在、チャのチャトゲコナジラミの防除には、表1に示した資材が利用可
能である。これら化学合成農薬を使って防除を行う際には、薬剤感受性が高い若齢(1、
2齢)幼虫を対象に薬剤散布する。また、薬液が葉裏に生息する幼虫にしっかりかかるよ
う、10aあたり 400 ㍑を丁寧に散布する。なお、10aあたり 400 ㍑という散布薬液量は、
本種幼虫が葉裏に固着して生息することから設定された数値である。当初の薬剤は、主に
農薬登録上の問題等から、散布薬液量が多く設定されているダニ剤やクワシロカイガラム
シ剤から選抜され、効果試験等を経て農薬登録されることが多かった。今後は、新芽加害
性害虫対象剤等の散布薬液量が少なく設定されている資材からもより有効な資材は見出さ
れ、農薬登録されていくことが期待される。
マシン油乳剤は、化学合成農薬では効果が劣る3齢、4齢幼虫に対しても効果があると
される。また、冬期のマシン油乳剤による防除は、天敵への悪影響が少ないうえ、他のチ
ャ園管理作業と重複しない農閑期に散布できる利点がある。山下・吉安(2010)は、冬期
にマシン油乳剤を2回散布すること
により、夏秋期に化学合成農薬を用
いて行った防除と同等の防除効果が
得られることを報告している。この
マシン油乳剤を使った冬期防除は、
現在多くの府県で、本種の基幹防除
法に位置づけられている(山下ら,
2010)。
薬剤散布前に裾刈りを行ったり専
用ノズルを使う等すると、葉層深部
まで薬液がかかるため、防除効果が
高まるとされる。ただし、市販の散
布機や特殊ノズルの中には、散布ム
ラや能力的に劣るもの等もあり、謳
図1 チャトゲコナジラミ専用ノズルを装着した乗用型防除機
専用ノズルが中央部(二重になっている)や側面等にある
22
表1 チャのチャトゲコナジラミに適用がある農薬(2012 年1月末現在)
商品名
使用時期
使用回数
希釈倍率
コテツフロアブル
摘採7日前まで
2回以内
2000 倍
ダントツ水溶剤
摘採7日前まで
1回
2000 倍
ダニゲッターフロアブル
摘採7日前まで
1回
2000 倍
コルト顆粒水和剤
摘採7日前まで
2回以内
3000 倍
ディアナSC
摘採7日前まで
1回
2500~5000 倍
アプロード水和剤
摘採 14 日前まで
2回以内
1000 倍
ハチハチ乳剤/フロアブル
摘採 14 日前まで
1回
1000 倍
アプロードエースフロアブル
摘採 21 日前まで
1回
1000 倍
ランネート 45DF
摘採 21 日前まで
2回以内
1000 倍
トモノールS
5月~9月
-
100~150 倍
10 月~3月
-
50~100 倍
5月~9月
-
100~150 倍
10 月~3月
-
75 倍
ラビサンスプレー
われている効果が疑問なものもあるので、
注意が必要である。防除効果を上げるためには、
チャ株の葉層深部の葉裏まで均質な薬剤散布が必要であるが、チャ株上方からの薬剤散布
だけでこれを実現することはなかなか難しい。現在野菜茶業研究所では、メーカーと共同
で乗用型防除機に装着できるチャトゲコナジラミ用散布ノズルの開発研究を行っている
(図1、研修時に実機展示予定)。
なお、本種が周辺圃場でも発生している場合は、地域一斉防除が効果的である。
2)物理的防除
本種の生息密度が極めて高い場合は、生き残った虫がすぐに拡散・増殖するため、薬剤
散布による防除効果が現れにくい。このため、著しい発生が見られた場合は、一番茶ある
いは二番茶の摘採後などに深刈り剪枝などを行い、卵や幼虫が寄生する葉を除去する。葉
がほとんど残らない深さで剪枝することで、圃場の生息密度を一気に低下させることが可
能である。なお、周辺の圃場で本種の発生がみられる場合、周辺圃場からの再侵入の可能
性があり、必要に応じて薬剤防除を併用する。
虫の発育段階によっては、剪枝された枝条でも発育が可能で、剪定残渣からの羽化も確
認されている。このため、これまで剪枝後の枝条は焼却や埋設処理等を行うように指導し
てきたが、現場からは「実施は難しい」との意見も寄せられている。今後は剪枝残渣から
の羽化がより少なくなる剪枝法を検討し、地域での根絶が困難となった局面等で活用して
行く必要があるだろう。
3)生物学的防除
本種には、寄生蜂やクサカゲロウ類、テントウムシ類など多種の天敵が知られるが(HAN
and CUI,2003)、中でも捕食寄生性天敵のシルベストリコバチ Encarsia smithi (Silvestri)
23
が最も著名である。シルベストリコバチは、カンキツのミカントゲコナジラミ対策として
1925 年に中国から日本に導入された天敵で、増殖配布事業の結果、日本各地に定着し、現
在でもカンキツ園のミカントゲコナジラミを低密度に抑えているとされる(大串,1969)。
近畿や九州等のチャ園では、チャトゲコナジラミに対してもシルベストリコバチの寄生
がみられ、その寄生率が 90%を超えるチャ園も報告されている。このため、本寄生蜂はチ
ャ園においても有望な生物学的防除素材となる可能性が高い。また、中国においては、昆
虫寄生菌の利用も検討されている(CHEN et al., 1997)。この寄生菌は日本のチャ園でも
確認されており、現在も継続的にその利用法の検討が行われている。
2.チャトゲコナジラミの発生予察法
チャトゲコナジラミの未発生地域においては侵入モニターのための生息調査が重要であ
り、既発生地域においては薬剤散布の要否や散布時期決定のための発生消長の調査が重要
である。本種は亜熱帯原産で明瞭な休眠性は有さないと考えられており、冬季の生残状況
は翌春の発生状況に大きな影響を与えると考えられる。さらに侵入間もない地域では、隣
接園毎に発生消長が異なる事例も報告されており、今後数年は各地域で発生消長の調査を
継続することが重要と思われる。
本種の発生予察用調査で最も情報量が多い調査法は、圃場から葉や枝条を抜き取り、葉
裏に寄生する個体を直接調査する方法と思われる。これにより、分布状況や卵や幼虫齢期
等のステージ構成、シルベストリコバチの寄生の有無(脱出痕調査や解剖調査)等の情報
が得られる。特に、他害虫等の調査があまりなく低温で野外個体群の発育があまり進まな
い冬季等は
(目的にもよるが)
、これらの方法により詳細な調査が行われることが望ましい。
侵入極初期で、発生密度が低い場合、黄色粘着トラップを使った成虫の調査も有効であ
る。本法では葉裏の調査では殆ど寄生を見つけられない低密度下(例えば寄生葉率 1.0%
以下)においても、1世代で 100 個体/トラップ以上の成虫捕獲が期待される。黄色粘着ト
ラップは、以前は黄色ITシートを 10×20cm に切りこれを塩ビ板に巻きつけたものを基
準としていたが、現在多くの資材が市販されている。8種の市販資材を比較したところ(図
2)、捕獲数は資材によって大分異なっており、ITシート(黄)は他のいくつかの資材に
比べて捕獲数が有意に低いことが明
らかとなった。特に侵入モニター用
のトラップでは、捕獲効率がより高
いものが求められるので、そういっ
た場面等では、捕獲効率のより高い
トラップを使うことが望ましい。現
在当研究所ではバグスキャン分割タ
イプを使用している。
なお、本種においては、既に Kasai
et al.(2012)により、発育零点や有効
積算温度が報告されているので、こ
れらのパラメータを活用した発生予
察が可能である。
図2 市販の黄色粘着トラップの比較試験
24
~ MEMO
25
~
Ⅳ
チャトゲコナジラミの総合防除体系
京都府山城広域振興局 山城北農業改良普及センター
山下 幸司
1.チャトゲコナジラミ侵入後の分布拡大経過
2004 年 8 月、京都府宇治市のチャ圃場でチャトゲコナジラミ(以下、 チャトゲ
と省略)の寄生が確認された(京都府病害虫防除所、2005)。これが本邦初 のチャ
トゲ発生の報告である。同年には、宇治市に隣接する 八幡市、城陽市および京田辺
市(いずれも山城盆地 、図 1)、さらにやや 距離の離れた和束町(山間傾斜地域)
において低密度で の発生を確認した 。
2005 年には宇治市から直線距離で約 100km 離れた丹波高地、および約 200km
離れた丹後半島で、2007 年には福知山盆地で発生を確認した(表 1)。この年にチ
ャトゲは 京都府内全域および近隣各県の チャ産地に分布を拡大した。これらの地域
で は 侵 入 直 後の 密 度 は低 か っ た が 、 半
年程度( 2~ 3 世代経過)を経過すると
爆 発 的 に 密 度が 高 ま り 、 約 1 年を 経 過
北
丹後半島
( 3~ 5 世代経過)する頃には甚発生と
福知山盆地
なる事例がみられた(表 2)。なお、チ
ャ ト ゲ は 丹 後半 島 に は寄 生 チ ャ苗 に よ
滋賀県
丹波高地
り 移 出 し た 可能 性 が 強く 疑 わ れた が 、
丹 波 高 地 お よび 福 知 山盆 地 へ の侵 入 経
宇治市
山城盆地
路は不明である。
山間傾斜地域
京都府でのチャトゲ密度は、侵入の
早 か っ た 山 城盆 地 お よび 丹 波 高地 で は
奈良県
50km
2008 年頃から 、山間傾斜地域では 2009
年 頃 か ら 低 下傾 向 に 転じ た と 考え ら れ
図1 京都府の地理とチャ産地
た(表 1)。山間傾斜地域および丹後半
∴ 主要チャ産地
表1 京都府におけるチャトゲコナジラミの発生程度の推移
調 査 年
地 域
2004
2005
2006
2007
2008
2009
丹後半島
?
微
微
少
少
少~甚
福知山盆地
?
無
無
微
無~少
少~甚
丹波高地
?
無
少~多
少~甚
少~中
少~甚
山城盆地
微
無~中
微~甚
多~甚
少~多
無~少
山間傾斜地域
微
微~少
微~甚
中~甚
少~甚
少~中
26
三
重
県
表2 定点観測ほ場におけるチャトゲコナ
ジラミ密度の推移
島 に お い て も、 発 生 地域 ご と にみ る と
概 ね 同 様 の パタ ー ン がみ ら れ た。 こ の
寄生葉率(%)
2004年 2005年
2006年
宇治市A
53
66
34
京田辺市A
68
100
100
宇治田原町A
0
100
88
宇治田原町B
2
100
78
和束町A
0 *
40
84
和束町B
0 *
100
96
* :調査外で発生を認めた
調査地点
ように、本府におけるチャトゲ密度は、
侵入 1~ 2 年後に急激に高まり、そのさ
らに約 2 年後には安定に転ずるパター
ンであったといえるだろう。
2.京都府でのチャトゲコナジラミの現状
2012 年 8 月現在、京都府 のチャにおいてチャトゲは中発生以下(多くは少発生)
の密度で ほ場内に常在する 程度である。被害については、チャの生育および品質は
影響を受けておら ず、発生程度が多~甚となった ときのみ 、摘採などの管理作業時
に作業者 が不快感を覚えるという程度である。チャトゲ密度が高まることがあって
も、その程度は侵入初期ほどではなく、特に対策をとらなくてもしばらくすると 低
密度に落ち着く。そのため、チャ生産者の多くはチャトゲ のみを対象とした防除を
行っておらず、冬~春期のマシン油乳剤散布によるカンザワハダニやクワシロカイ
ガラムシ などとの同時防除を行っているに過ぎない。すなわち、京都府におけるチ
ャトゲの害虫としての重要度は、侵入初期と比べて大きく低下したといえる。
チャトゲ密度が低い程度で安定した 要因のひとつとして、天敵類による密度抑制
が考えられる。京都府茶業研究所のチャトゲ発生圃場において 、チャトゲ密度およ
びチャトゲの寄生蜂シルベストリコバチ(以下、シルベストリと省略)の 発生状況
を調査したところ、本ハチはチャトゲ密度の抑制に大きく関与していると考えられ
た。そのため、天敵類の中でも、特にシルベストリによる密度抑制効果 は大きいと
思われる。チャトゲの侵入から 2~ 3 年経過した 現地圃場において、シルベストリ
~MEMO~
100
a
シルベストリコバチ寄生率 (%)
75
50
25
c
100
0
0
10
20
25
30
b
75
50
25
0
0
0
10
20
30
0
10
20
チャトゲコナジラミ幼虫密度(頭/葉)
図2
チャトゲコナジラミ幼虫密度とシルベストリコバチ寄生率の推移
a:農薬無散布、b:慣行防除、c:天敵温存防除、図中の数値は調査年および世代(OW は越冬世代)
27
30
の寄生率が 90%を超える事例(図 3)も知られて いることから、本ハチは現地圃場
においてもチャトゲの密度抑制に少なからず影響を及 ぼした可能性が考えられる 。
みかけの寄生率(%)
100
80
101
2006年12月調査
2007年7月調査
135
60
87
40
20
0
94 86
103
89
京
都
市
向
島
236 198
宇
治
市
白
川
八
幡
市
上
津
屋
宇
治
田
原
町
南
114
宇
治
田
原
町
立
川
94 4
京
田
辺
市
飯
岡
161
76
加
茂
町
例
幣
126 100
和
束
町
杣
田
和
束
町
石
寺
図3 シルベストリコバチのみかけの寄生率(京都府各地の茶園)
バーの上の数字は調査したチャトゲコナジラミの幼虫数
3.チャトゲコナジラミの総合防除
1)シルベストリコバチの保護利用
シルベストリ などの天敵類 を保護すれば 、 2~ 3 年程度でチャトゲ密度は低下す
る。シルベストリ の羽化脱出孔は円形、 チャトゲの脱出孔は逆 T 字形の裂け目で
ある(図4)ので、これを観察することで本ハチの発生を確認できる。普段の防除
において は、シルベストリ に対して影響の小さい農薬(表 3)を使用し、これを温
存する。
スピロメシフェンフロアブルは
チャトゲに対する防除効果が高く 、
シルベストリに対する影響が小さ
いので、チャトゲの防除とシルベス
トリの温存を両立できる。一方、有
機リン系 、ピレスロイド系 、ネオニ
コチノイド系などの殺虫スペクト
ルの広い農薬は、一般にシルベスト
リに対する影響が大き く、使用によ
りリサージェンスが懸念される の
で使用を控える。
図4
チャトゲコナジラミおよびシルベスト
リコバチによる脱出孔
(左)チャトゲが脱出した逆 T 字型の裂け目
(右)シルベストリが脱出した円形の孔
28
表3 シルベストリコバチ成虫に対する各種農薬の影響
分類
商品名
IGR系
その他殺虫剤
その他殺虫剤
その他殺虫剤
その他殺虫剤
ネオニコチノイド系
ネオニコチノイド系
ネオニコチノイド系
ネライストキシン系
ピレスロイド系
有機リン系
有機リン系
有機リン系
有機リン系
有機リン系
微生物農薬
殺ダニ剤
殺ダニ剤
殺ダニ剤
殺ダニ剤
殺ダニ剤
殺ダニ剤
殺ダニ剤
殺菌剤
殺菌剤
殺菌剤
殺菌剤
ファルコンフロアブル
デイアナSC
スピノエースフロアプル
ハチハチフロアプル
フェニックス顆粒水和剤
アルバリン顆粒水和剤
アドマイヤー顆粒水和剤
ダントツ水溶剤
パダンSC水溶剤
ロディー乳剤
スミチオン乳剤
ジェイエース水溶剤
カルホス乳剤
アクテリック乳剤
エンセダン乳剤
エスマルクDF
オマイト乳剤
カーラフロアブル
ダニサラバフロアブル
ダニゲッターフロアブル
マイトクリ-ン
サンマイトフロアブル
アニキフロアブル
ナリアWDG
カスミンボルドー
コサイド3000
フロンサイドSC
薬剤名
(有効成分含有率%)
メトキシフェノジド水和剤(20)
スピネトラム水和剤(12)
スピノサド水和剤(20)
トルフェンピラド水和剤(15)
フルベンジアミド水和剤(20)
ジノテフラン水溶剤(20)
イミダクロプリド水和剤(50)
クロチアニジン水溶剤(16)
カルタップ水溶剤(75)
フェンプロパトリン乳剤(10)
MEP乳剤(70)
アセフェート水溶剤(50)
イソキサチオン乳剤(50)
ピリミホスメチル乳剤(45)
プロフェノホス乳剤(40)
BT菌水和剤(10)
BPPS乳剤(57)
クロフェンテジン水和剤(40)
シフルメトフェン水和剤(20)
スピロメシフェン水和剤(30)
ビリミジフェン水和剤(4)
ピリダペン水和剤(20)
レピメクチン水和剤(1)
希釈倍率
ピラクロストロビン(6.8)ボスカリド(13.6)水和剤
カスガマイシン(5)+銅(45)水和剤
水酸化第二綱水和剤(46.1)
フルアジナム水和剤(39.5)
4000
2500
2000
1000
2000
2000
5000
2000
1500
1000
1000
1000
1500
1000
1000
1000
1500
2000
1000
2000
2000
1000
1000
2000
500
1000
2000
供試
補正死亡率
試験実施
虫数
44
0.0 京都農技C 茶研
20
100.0 奈良農総C 茶振C
39
100.0 京都農技C 茶研
22
100.0 京都農技C 茶研
24
0.0 京都農技C 茶研
20
100.0 奈良農総C 茶振C
19
100.0 京都農技C 茶研
19
100.0 奈良農総C 茶振C
20
100.0 奈良農総C 茶振C
20
100.0 奈良農総C 茶振C
38
100.0 三重農研 茶研室
42
100.0 京都農技C 茶研
20
100.0 奈良農総C 茶振C
40
100.0 京都農技C 茶研
20
100.0 奈良農総C 茶振C
18
0.0 奈良農総C 茶振C
20
100.0 京都農技C 茶研
44
2.3 京都農技C 茶研
71
10.3 三重農研 茶研室
38
0.0 京都農技C 茶研
18
100.0 京都農技C 茶研
57
100.0 京都農技C 茶研
52
98.1 三重農研 茶研室
20
15.8 奈良農総C 茶振C
20
0.0 京都農技C 茶研
20
10.5 奈良農総C 茶振C
40
100.0 京都農技C 茶研
2)農薬による防除
チャトゲの若齢幼虫は農薬に対する感受性が高く、老齢幼虫は低い。また、成虫に対す
る農薬散布でも一定の防除効果はあるが、散布後に飛来した成虫が産卵する懸念がある。
そのため、防除はチャトゲ若齢幼虫の発生期に行う。防除適期を把握するため 、黄
色粘着トラップを用いてチャトゲ成虫の発生状況を調査する。成虫がほとんど捕獲
されなくなり始めた頃が概ね防除適期にあたる(図 5)ので、この時期にルーペ等
成 虫
を用いて幼虫の発育状況を確認する。
4月
5月
6月
7月
8月
9月
卵
若齢幼虫
老齢幼虫
図5
図1 チャトゲコナジラミの発生経過
調査場所:京都府宇治市白川
バーは優占する発育態の発生期間
29
10月
11月
チャトゲ 幼虫は葉裏に寄生し、また、
薬液がかかりにくい葉層内部にも多い。
そのため、
農薬による防除は十分量(400L/10a)の薬液を丁寧に散布することが重要である。農薬
散布の前には、葉層内部 や葉裏に薬液が到達しやすいようにすそ刈りや整せん枝を
行うと効率的である。なお、秋期は発育態が混在するため、高い防除効果を得るために
は農薬散布を複数回行う必要がある。
マシン油乳剤を用いた冬期 防除は、春期の発生密度の抑制に有効である。本剤の
殺虫活性は化学農薬ほど高くないが 、2~ 3 回散布することで高い防除効果が得ら
れる(図 6)。また、冬期以外でも使用できる。
密度(頭/50葉)
1200
羽化後
脱出殻
4齢幼虫
600
3齢幼虫
32.8
前
後
50倍希釈
2回散布
6.6
3.9
0.6
0
前
後
7.7
前
後
前
100倍希釈 50倍希釈
2回散布
1回散布
後
75倍希釈
1回散布
11.3
前
後
100倍希釈
1回散布
2齢幼虫
1齢幼虫
前
後
無処理
図6 トモノールSの各種散布方法によるチャトゲコナジラミ越冬世代幼虫に対する防除効果
第1回散布日:2008年11月26日、第2回散布日:2009年1月20日、散布後調査日:2009年5月2日
前:散布前、後:散布後
カラム上の数値は、散布前密度に対する百分率
3)物理的防除
チャトゲが激発すると 、農薬散布だけでは防除効果が得られにくい 。そのため、
深刈りせん枝により葉層を除去し寄生量を低下させたあと、農薬散布および点滴の温存
を行うようにする 。
4.おわりに
チャトゲはわが国への侵入後、爆発的な密度上昇を起こし、産地に混乱をもたらした。
しかし、むやみな農薬散布などにより天敵類を駆逐してしまうなどの誤った対応を行わな
ければ、チャトゲ密度はいずれ安定する。チャトゲの侵入後間もない地域でも、あせらず
適切に対応することがもっとも重要である。
30
Ⅴ チャトゲコナジラミの遺伝子診断法
農研機構 野菜茶業研究所(金谷)
上杉
龍士
この講義では、遺伝子から見た日本のチャトゲコナジラミの個体群の特性を解説すると
ともに、チャトゲコナジラミの遺伝子診断法について紹介する。
1.ミカントゲコナジラミの遺伝的系統
ミカントゲコナジラミ Aleurocanthus spiniferus (Quaintance)は、もともと東南アジア
の熱帯から温帯にかけて自然分布していたと考えられるが、カンキツ類などの侵入害虫と
して、ミクロネシアやハワイ、西インド諸島、アフリカ南部、イタリアなどにおいても分
布が確認されている。日本では、明治中期に南方から侵入したと考えられており、1920
年代に九州のカンキツ栽培地帯で広く蔓延し大害虫となった後、本州や四国にも分布を広
げた。本種の防除には、寄生蜂であるシルベストリコバチ Encarsia smithi (Silvestri)の導
入が有効とされており、増殖されたシルベストリコバチが各地のカンキツ園に配布され、
ミカントゲコナジラミの個体群密度は劇的に減少している。
中国におけるミカントゲコナジラミのミトコンドリア COI 遺伝子の解析によって、A1
と A2 という2タイプの遺伝的系統が同所的に存在する(図1)。また、各系統内には遺伝
的な多様性がある(図1)。一方で、日本のミカントゲコナジラミは、A1 タイプの単一の
遺伝子型のみで遺伝的多様性が少ない(図1、表1)。これは、ミカントゲコナジラミはも
ともと中国土着の害虫であり、日本の個体群は中国から侵入した少数個体を創始者とした
ものであることを示唆している。
2.チャトゲコナジラミの遺伝的系統
チャトゲコナジラミ Aleurocanthus camelliae Kanmiya and Kasai は、中国、台湾およ
び日本など東アジア諸国におけるチャ Camellia sinensis (L.) Kuntze の重要な害虫である。
中国では 1950 年代に茶での寄生が見られはじめ、1980 年代には茶生産に深刻な被害を与
えるようになった。日本においては、2004 年 8 月京都府宇治市で初めてチャで確認され
た。その後は、滋賀県、奈良県、三重県など周辺地域へと被害を広げるとともに、島根県、
福岡県、埼玉県、大分県、静岡県などの遠隔地域においてもチャへの寄生が相次いで確認
され始めるなど、その分布は拡大の一途をたどっている。
中国におけるチャトゲコナジラミのミトコンドリア COI 遺伝子の解析によって、中国全
土の茶園で、ほぼ B1 という単一の遺伝子型のみ存在する(図1)。例外的として、重慶の
茶園では B2 という遺伝子型が存在する。系統内には変異はなく、遺伝的多様性は極めて
少ないことが分かり、中国のチャトゲコナジラミは近年になってから未知の原産地から中
国全土へと分布を拡大させたという仮説を支持する結果である。日本の茶園でも、B1 タ
31
図1 トゲコナジラミ(a)および寄生蜂(b)の近隣接合法による mtCOI 領域の系統
関係 数字はブートストラップ値
表1
mtCOI 遺伝子の塩基配列解析を行ったミカントゲコナジラミの寄主植物と
採取場所の情報および見つかったハプロタイプ
32
イプの単一の遺伝子型のみが見つかっている。また、中国から日本に輸入され、検疫で見
つかったヒサカキ寄生のトゲコナジラミは、B1 タイプの遺伝子型を持っており(図1、
表1)
、中国の B1 タイプのチャトゲコナジラミがヒサカキなどの切り花に付着して日本に
侵入した可能性が高い。
3.種特異的な PCR プライマーによるチャトゲコナジラミの判別
チャトゲコナジラミの未発生地域において、侵入後の早期に対策を行うためには、黄色
粘着トラップなどでチャトゲコナジラミの侵入をモニタリングする必要がある。
その際に、
捕獲された成虫がチャトゲコナジラミであるかミカントゲコナジラミであるかを判別する
必要がある。これら2系統は形態学的には、前翅の紋、配偶行動、4齢幼虫の棘およびワ
ックスの形状など細かい特徴によって識別することが可能であるが、それには専門家レベ
ルの経験を必要とする。また、黄色粘着トラップに付着した成虫は、翅の状態が悪く、形
態での判別がしにくい。したがって、チャトゲコナジラミとミカントゲコナジラミとの遺
伝的な違いを明らかにし、両者を分子遺伝的に判別する必要がある。
チャトゲコナジラミとミカントゲコナジラミはミトコンドリア COI 遺伝子の塩基配列
に違いあり(図1)、それぞれの mtCOI 遺伝子を種特異的に増幅するプライマー(表2)
による PCR 産物の有無で両種を簡易に判別することができる(図2)
。黄色粘着トラップ
に付着した後、数週間経過した成虫サンプルでも、PCR 法による種判別に必要なだけの
DNA を抽出できるということが分かっている。
表2 ミカントゲコナジラミの mtCOI 領域の PCR に用いた
チャ系統およびカンキツ系統を特異的に増幅するプライマーの塩基配列情報
チャトゲコナジラミ特異的プライマー
ミカントゲコナジラミ特異的プライマー
図2 (a)チャトゲコナジラミの mtCOI 遺伝子に特異的なプライマー(AsFcha およ
び AsR4cha)による PCR 産物の電気泳動写真、および(b)ミカントゲコナジラミの
特異的プライマー(AsFmik および AsR4mik)による PCR 産物の電気泳動写真
サンプルの採取場所は以下の通り。T1~T3(チャ):静岡県菊川市、京都府宇治市、福岡県
八女郡。C1~C3(カンキツ)
:静岡県藤枝市、京都府宮津市、大分県杵築市。両端は 100 bp ラ
ダー
33
~ MEMO
34
~
Ⅵ 実習編
1.チャトゲコナジラミの調査法実習Ⅰ
ここでは、チャトゲコナジラミの成虫・幼虫および天敵寄生蜂シルベストリコバチの野外調査法を習得する。
検出感度の高い黄色粘着トラップを自作して圃場に仕掛けるほか、チャ害虫の発生予察調査等で使われる調査
法を用いて、実地調査を行う。
1)成虫を対象とした調査
① 黄色粘着トラップ
チャトゲコナジラミが極低密度で、他の手法で見
つからない場合でも捕獲されることが多く、特に侵
入モニター調査等に適していると考えられる。通常、
園芸用支柱等を使い下辺が摘採面に接する位置(捕
獲効率が高い)に、1圃場あたり1~数枚設置する。
トラップは調査目的や発生密度等により、1~7日
程度ごとに交換するのが普通。市販の資材によって
誘引力が大分異なること等が分かってきている。
今回、各種種資材を取り揃えたので、資材の比較
等も行われたい。
【今回の準備資材】
・園芸用支柱
・針金、ペンチ
・ダブルクリップ(各種)
、山型クリップ
・市販の黄色粘着トラップ(バグスキャン、バグスキャンドライ、ホリバー(黄)
、スマイルキャッチ、虫とり
君、虫バンバン、ガード板3D、ピタッとトルシー、ITシート(黄)
)
・サランラップ、ビニールシート
② 吸引粘着トラップ法
茶園の生息する寄生蜂やチャノキイイロアザミウマ等の微小昆虫の調査用に考案されたトラップ。ベンチレ
ータで吸い込んだ虫を上部に配した粘着シート等で捕獲する仕組み。稼働に商用電源等を必要とするが、シル
ベストリコバチ等の捕獲効率は高い。
【今回の準備資材】
・吸引粘着トラップ
・ITシート(透明)
③ すくい取り法
規定の捕虫網を用いて、摘採面を往復25 回振りですくい取り捕獲される虫数を調査する(チャノミドリヒメ
35
ヨコバイ等)
。
【今回の準備資材】
今回の準備資材
・捕虫網(直径36cm、柄長90cm)
④ 叩き落とし法
茶樹下に白色バット(B5 判など)を置き、茶株を10 回たたき(あるいは強く揺する)
、落下虫数を調査する
(チャノキイロアザミウマ、チャノミドリヒメヨコバイなど)
。
【今回の準備資材】
・白色バット
⑤ 枠法
摘採面上に調査枠をあて、枠内の虫数や被害芽数等を調査する(チャノコカクモンハマキ等)枠の大きさや
調査ヶ所数は、対象となる害虫種により異なる。今回は下記の調査枠を用意した。
【今回の準備資材】
・調査枠(50×50cm枠、二つ折り式)
2)幼虫・卵を対象とした調査
⑥ 葉あたり寄生葉・寄生葉率調査
葉裏に寄生する卵や幼虫等を調査・計数する。調査葉のサンプリングは、必要枚数の調査葉をランダムに採
取したり、一定の基準を設けて(例えば圃場の周辺で互いに10m以上離れた10 ヶ所程度から、古葉が20 枚以
上ついている枝条を抜き取り、1ヶ所につき 10~20 枚(合計で100~200 枚)
)
、寄生虫数を調査する。なお、
調査葉数の目安は、圃場あたり500枚(未侵入地域等における侵入調査)
、200 枚(侵入初期等の低密度時)
、100
枚(密度が上がってきた時)。
本法は、葉裏に寄生する虫数を数えるということで、カンザワハダニの調査と共通項が多い。巡回調査など
では、調査葉のサンプリングを工夫する等で、両種の同時調査も可能であろう。
【今回の準備資材】
・剪定ばさみ
⑦ 枠法
上記参。調査枠を用いて卵や幼虫を調査。
~ MEMO ~
36
3)発生状況調査・記載法
チャトゲコナジラミの発生状況等について達観調査が行われることも多い。以下にその手順をまとめる。
調査手順
1.調査圃場の任意の20 ヶ所に置いて、茶株の裾部の古葉が着生している部分の枝条を、葉裏が見えるように
手でまくりあげて葉裏を見渡し、寄生葉を見取り調査する。調査部位ごとの寄生程度は表1に基づき指数化
する。
2.1圃場20 ヶ所について指数化した数値を基に、下記の算出式を用いて調査圃場の平均寄生程度を求める。
3.寄生程度別基準(表2)に照らして、調査圃場の発生程度を決定する。
表1
チャトゲコナジラミの寄生状況と指数の目安
程度
指数
1ヶ所あたりの寄生程度
多
3
半数以上の葉に寄生が見られ、かつ寄生虫数が著しく多い(概ね50 頭/葉以上)
中
2
半数以上の葉に寄生が見られる
少
1
寄生が見られる葉は半数以下
無
0
寄生が見られない
〔平均寄生程度の算出式〕
平均寄生程度=(0×N0+1×N1+2×N2+3×N3)/(20×3)×100
N0:上表の寄生程度無(指数0)のヶ所数。以下同。
表2
発生程度別基準
発生程度
平均寄生程度
無
0
少
1~40
中
41~60
多
61~80
甚
81 以上
~ MEMO ~
37
2.外部形態によるチャトゲコナジラミとミカントゲコナジラミの識別実習
ここでは、実体顕微鏡等を使ってチャトゲコナジラミの外部形態上の特徴を把握するとともに、近縁種であ
るミカントゲコナジラミとの見分け方を習得する。また、チャトゲコナジラミやシルベストリコバチ等の詳細
観察を行うためのプレパラート標本の作成法を習得する。
1)チャトゲコナジラミ・シルベストリコバチの簡易標本作成法
永久標本の作成にはカナダバルサムで封入するが、脱水などの作業が必要である。ガム・
クロラール系封入剤である Hoyer 氏液では長期保存はできないが、脱水作業などが不要で
あり、生きた小動物もそのまま封入できる。また、封入し硬化した標本でも、湯に浸すと
簡単に融解させることができ、Hoyer 氏液への再封入や脱水の後バルサムに封入すること
も可能である。下記に Hoyer 氏液の作成方法を記すが、市販もされているので、そちらを
用いてもよい。
Hoyer 氏液 (Krantz, 1978; Walter and Proctor, 2001)の作成方法
材料
アラビアゴム
30g
蒸留水
50ml
抱水クロラール 200g
グリセリン
20g
1. 蒸留水にアラビアゴムを混ぜて攪拌し、埃が入らないよう蓋をして、一晩置く。
2. 抱水クロラールとグリセリンを入れ、攪拌し、蓋をして、溶けるまで 2~3 日
置く。
3. 吸引濾過し、褐色瓶に入れ、密閉保存する。適宜、バルサム瓶などに移し替え
て使用する。
プレパラートの作成方法
1.
スライドグラスの中央に、Hoyer 氏液を適量滴下する。
2.
資料を Hoyer 氏液の中に沈め、見たい方向と上下を逆になるよう、柄付き針
などで整える。
3.
エタノールで洗ったカバーグラスを、泡が入らないように載せる。
4.
40℃に設定したホットプレートやオーブンに 3 日~2 週間入れて固める。
5.
水平なところで少なくとも 1 か月は静置する。
6.
固まったら、カバーグラスの周囲をマニキュアやソーンのセメント、バルサム
などでシールする。
脱色の方法
1.
蓋付きの小瓶に適量の 5~10%KOH に入れ、脱色したいサンプルを静かに入
れる。アルカリ注意!
38
2.
蓋をして、40~50℃くらいのオーブンに入れ、適当な時間加熱する。長時間
の KOH 浸漬・加熱はサンプルの微細構造を痛めるので注意!
3.
脱色できたら、蒸留水で洗う。
~ MEMO ~
39
3.チャトゲコナジラミの遺伝子診断法実習Ⅰ・Ⅱ
この実習では、チャトゲコナジラミの遺伝子診断法について習得する。黄色粘着板で捕
獲されたトゲコナジラミおよびエタノールの液浸サンプルから DNA を抽出し、遺伝子増
幅する方法を実習する。また、遺伝子診断によるトゲコナジラミの種識別法について習得
する。増幅したトゲコナジラミ遺伝子の差異から種を識別する手法を実習する。
使用する機器
・サーマルサイクラー(PCR 機):ABI GeneAmp PCR System 9700
・電気泳動装置:Mupid-2 Plus
・紫外線照射装置:Mupid-Scope
・各種ピペッター(10 µL、100 µL、1000 µL など)
消耗品
・200µL PCR チューブ、1.5mL チューブ
・各種ピペッターチップ
・ホモジェナイザ(磨り潰し棒)
・パラフィルム
試薬
・分子生物学用エタノール 99.5%
・DNA 抽出バッファ(右下ボックス参照)
・TE バッファ(DNA 保存用)
・Proteinase K 20 mg / mL(TaKaRa 製)
・Ex Taq(TaKaRa 製、PCR 試薬)
・PCR プライマー(10pmol / µL)
:シグマアルドリッチに合成委託(表2参照)
・Agarose S(ニッポンジーン製)
・TAE バッファ(電気泳動用)
・6 × Loading Buffer(TaKaRa 製)
・100 bp DNA Ladder(TaKaRa 製)
DNA 抽出バッファの作成法(10ml)
・エチジウムブロマイド(エチブロ)溶液
1M Tris-Hcl (pH8):0.1ml
(DNA 染色液)
0.5M EDTA (pH8):2.0ml
NP-40 (IGEPAL CA-630):50ul
4M NaCl:25ul
DW:7.825ml
40
1.サンプルの準備
・エタノール(99.5%)浸漬の成虫サンプル
・黄色粘着トラップ付着成虫サンプル
→エタノール(99.5%)とピンセットを使ってトラップから剥離
① ピンセットで虫体を掴み、キムタオルなどで虫体のエタノールを十分拭き取る
② ピンセットで虫体を 200 µL チューブに入れてエタノールを完全に蒸発させる
2.DNAの抽出(簡易抽出)
① DNA の抽出溶液の調製
DNA 抽出バッファ:プロテナーゼ K=19:1
② 虫体の入った 200 µL チューブに抽出溶液 20 µL を入れる
③ ホモジェナイザで虫体磨り潰す
④ PCR 機で 65℃15 分 95℃10 分インキュベート
(抽出効率が悪い時は、65℃の過程を 40 分にする)
⑤ 1.5 mL チューブに移し替える
⑥ 10 倍希釈した TE 380ul を加え、総量を 400µl に
3.PCR試薬の調整
① PCR 反応液(DNA 抽出溶液を除く)を必要な量だけ作り(下ボックス)
、200 µL PCR
チューブに、19 µL ずつ分注する。
※種判別のために、同一のサンプルについて、チャトゲ特異的プライマー入りの反応
液およびミカントゲ特異的プライマーを入れた反応液の2つを用意する。
② 2で作ったトゲコナジラミの DNA 抽出溶液を、分注した PCR 試薬に 1 µL ずつ加え
る。
③ PCR 機で適切な温度条件で PCR 反応(下ボックス)を行う。
PCR 反応液の調製(1 反応分)
PCR 反応条件
DW
12.9 µL
96℃
10×B
2 µL
-------------------↓40 cycles
2.5mM dNTP
2 µL
94℃
30 秒
Primer F
1 µL
55℃
1分
Primer R
1 µL
72℃
40 秒
Taq
0.1 µL
-------------------↑
DNA 抽出溶液
1 µL
72℃
5分
(総量
20 µL)
4℃
∞
41
5分
4.電気泳動
① TAE バッファ 100 mL に Agarose S 2g を加え、撹拌した後に、電子レンジで加熱し
ゲルを溶解させる。溶解したアガロースゲルを型に流し込み、泳動ゲル(2%アガロー
スゲル)を作成する。
② パラフィルム上で PCR 反応液 10 µL と 6 × Loading Buffer 2 µL を混合する。また、
100 bp DNA Ladder と 6 × Loading Buffer も同様に混合しておく。
③ 泳動ゲルに PCR 反応液および 100 bp DNA Ladder をアガロースゲルのウェル(穴)
に流し込む。
④ 通電スイッチを入れ電気泳動を行う(100V で約 20 分)
5.増幅DNAの染色
① あらかじめエチブロ溶液を作成しておく。
TAE バッファ 300mL に EtBr(10 mg / mL)30 µL を入れ、チップの先で撹拌。
※エチブロは、発ガン性が指摘されているので、ゴム手袋で扱う。
② エチジウムブロマイド溶液にアガロースゲルを漬け、約 30 分間室温でインキュベート。
③ 紫外線照射装置で増幅 DNA のバンドを確認。
6.結果の確認
チャトゲコナジラミからの抽出 DNA について、「チャトゲコナジラミ特異的 PCR プラ
イマー」を使った PCR 反応では綺麗なバンドが現れ、
「ミカントゲコナジラミ特異的 PCR
プライマー」を使った PCR 反応ではバンドが現れないことを確認する。また、ミカント
ゲコナジラミからの抽出 DNA については、その逆であることを確認する。
~ MEMO ~
42
4.チャトゲコナジラミの調査法実習Ⅱ
ここでは、前日設置した黄色粘着トラップの調査や成虫の見取りや枝条の抜き取り調査
等の比較実習の続きを行う。また、シルベストリコバチの寄生率の調査法を習得する。
1)シルベストリコバチの寄生率調査法
チャトゲコナジラミの羽化殻は葉に固着・残存する。また、チャトゲコナジラミ幼虫の
死亡個体と生存個体との区別は甘露の排出を個体ごとに見る必要があり、多数の幼虫が葉
裏に寄生している場合、その生死判別は不可能に近い。加えて、チャトゲコナジラミの幼
虫は黒色で、体内が透けない。これらのことから、シルベストリコバチのチャトゲコナジ
ラミへの寄生率を調査することは容易ではない。そこで、極めて実直な方法ではあるが、
解剖によるシルベストリコバチの寄生率調査法を紹介する。
準備するもの
1.
先の鋭いピンセット 2 本
2.
シャーレ
3.
生理食塩水(水 1,000ml に NaCl7,5g、KCl0.5g 溶かしたもの)
方法
1. シャーレに生理食塩水を入れ、葉からピンセットでコナジラミ幼虫を落とし入れる。
2. 両手にピンセットを持ち、ポテトチップスの袋を開ける要領でコナジラミ幼虫を開く。
3. 中から卵(白いゼリービンズ様)
、幼虫(うじ虫様)
、蛹(ハチの蛹の形をしています)
が出てくるので、カウントする。元々死んでいたコナジラミは中身が空っぽだったり
浮いたりと、明らかに不自然なので大体区別がつく。
この方法は慣れると予想以上に素早くできるだけでなく、サンプルを採集してすぐ結果
を知ることができるという点で、案外おすすめである。
43
参考資料
「農作物有害動植物発生予察事業調査実施基準」
抜粋(チャ編)
平成13 年3月
農林水産省生産局植物防疫課編
ⅩⅦ チャの病害虫
A.炭
そ
病
本病は主として二番茶期から秋期に発生し、地方によっては一番茶期にも多発することがある。しか
し、摘採を行う茶期の場合には潜伏期間内に感染葉の大部分が摘採されてしまうので、主として摘採残
葉のみへの発生となり、―般に防除の必要性は低い。したがって、二番茶まで摘採する園では夏、三番
茶まで摘採する園では秋の防除要否の判定に重点をおく。
なお、本病の感染は新葉に限られるため、防除時期は原則的に茶芽生育期と決っているが、手摘園や
三番茶を摘採しない茶園では茶芽の生育期間が長く、生育が不ぞろいになるため、かなり長期にわたっ
て感染の恐れもあるので防除の要否にとどまらず、防除の適期についても予察する必要がある。
1.調
査
ア.翌茶期の伝染源の調査
伝染源量を知る。
(調査方法及び調査項目)
成木園から株の頂部より片側半分の長さ2mの調査区を同一方位にかたよらないように6か所
選び、分生胞子層形成の有無別に病葉数を調査し、1㎡当たりの病葉数を求める。
(調査時期)
各茶期の発芽前に1回。
イ.発病状況調査
葉における発病状況及びその時期的消長を知る。
(調査方法及び調査項目)
ア.と同一の調査区で新葉(摘採残葉を含む)及び古葉別の病斑数を調査し、1㎡当たりの総
病葉数及び新葉、古葉別の病葉数を求める。
(調査時期)
5月から10月まで5∼10日ごと(特に重要な時期:開葉2週間以降)。
2.予
察
法
茶芽の生育期(1∼3葉期)に、気温25℃前後で降雨時間が長く湿潤であること、伝染源量の多
いことなどは発病を多くする要因であるので茶芽の生育状況と気象条件及び伝染源量から発生時
期、発生量を予察する。特に山間地帯のやぶきた園や多肥栽培は多発しやすい条件にあるので、巡
回調査によって伝染源量や茶芽の生育状況を的確に把握しておくことが必要である。
B.
も
ち
病
本病は山間地帯において、主として二番茶芽と秋芽に発生する。平年の発生は比較的に少なく局地的
で、同一ほ場でも樹木や家屋の陰になる部分に多発する傾向がある。しかし、年によっては全域的に発
生することもある。本病に対する感受性には明らかに品種間差異があり、くらさわは特に罹病性で、ま
た、被覆栽培は多湿と遮光条件のため多発しやすい。
1
本病の防除時期は茶芽の生育初期と決っているので、予察の重点は常発地を主体にした防除の要否の
判定におく。
1.
調
査
ア.翌茶期の伝染源の調査
伝染源量を知る。
(調査方法及び調査項目)
成木園から株の頂部より片側半分の長さ2mの調査区を同一方位にかたよらないように6か所
選び白色の子実体を形成している病葉数を調査し、1㎡当たりの病葉数を求める。
(調査時期)
二、三番茶芽及び秋芽の萌芽直前に各1回。
イ.発病状況調査
発病の時期的消長を知る。
(調査方法及び調査項目)
ア.と同一の調査区で病葉数を新(子実体形成あるいは未形成)旧別に調査し、1㎡当たりの
病葉数を求める。
(調査時期)
5月から10月までの各茶期及び秋芽の2葉∼5葉期(摘採期)に5日ごと。
2.予
察
法
気温20℃前後で高湿度、日照不足の条件下で多発するので気象条件と茶芽の生育状況から発病を予
察する。
C.網
も
ち
病
本病は通常三番茶以降の秋芽に最も多く発生する。
防除開始の時期は三番茶の摘採を行う場合は茶芽の生育状態によって原則的に決まるので、防除の要
否を判定することが重要である。三番茶の摘採を行わない場合の秋の発生は比較的に少ないが、茶芽生
育期間が長く芽の生育が不ぞろいになるため、かなり長期間にわたって感染の恐れがあり、防除の要否
について予察するだけでなく、防除の適期についても判定する必要がある。
1.
調
査
ア.病原菌の越夏状況調査
越夏菌量の多少を知る。
(調査方法及び調査項目)
成木園から株の頂部より片側半分の長さ2mの調査区を同一方位にかたよらないように4か所
選び、病葉を子実層の形成されているものといないものとに分けて調査し、1㎡当たりの各病葉
数を求める。
なお、夏期の発病は樹冠内部に多いので留意する。
2
(調査時期)
8月上∼中旬(三番茶摘採後)に1回、三番茶を摘採しない園は7月上旬(二番茶摘採後)に
も実施する。
イ.発病状況調査
葉における発病量及びその時期的消長を知る。
(調査方法及び調査項目)
ア.と同一の調査区のうちから任意に4区選び、発病葉数(できれば子実層形成の有無別)を
調査し、1㎡当たりの病葉数を求める。
(調査時期)
9月から11月まで月1∼2回。
2.予
察
法
本病は秋芽の伸育期に降雨が多く、高湿度の続く場合に多発し、晩秋まで比較的高温に経過する年
には茶芽が遅くまで生育を続けるためかなり遅い時期の感染も起こりうる。越夏病葉の多少は、秋の
発病と密接に関連するので、これらと秋芽の伸育状況及び気象、特に降雨との関連から発生の時期と
量を予察する。
D.輪
斑
病
本病は摘採、整技時に葉及び茎の傷口に病原菌の分生胞子が付着し、感染する。主な発生時期は二番
茶摘採後及び三番茶摘採後であるが一番茶摘採後や秋整枝後にも発生することがある。やぶきたは特に
罹病性である。本病の防除時期は摘採直後と決っているので予察の重点は防除の要否の判定におく。
1.調
査
ア.翌茶期の伝染源の調査
伝染源量を知る。
(調査方法及び調査項目)
成木園の株面上に50×25cmの枠を調査ほ場全体にわたるよう20カ所おき、枠内の病葉数を調
査し、1㎡当たりの病葉数を求める。
(調査時期)
二番茶、三番茶摘採5∼10日前に各1回
イ.発病状況調査
発病状況、発生地域及び時期的消長を知る。
(調査方法及び調査項目)
アに準ずる。
(調査時期)
一∼三番茶の摘採及び秋整枝20∼30日後。
2.予
察
法
3
摘採時に気温が高いこと、伝染源量の多いことなどが本病の多発要因である。前茶期の被害葉及び被害
枝が伝染源となるが、摘採約1週間前の気象条件が湿潤であると伝染源の胞子数は増加する。また、可搬
型摘採機の使用は発病を助長する。これらの状況から発生量を予察する。
E.白
星
病
本病は一番茶芽及び年によっては二番茶芽にも多く発生する。
本病の防除時期は茶芽の生育と関連して原則的に決まっているので、予察の重点は、一番茶、二番茶
における防除の要否を的確に判定することにある。
1.調
査
ア.病源菌の越冬及び翌茶期の伝染源の調査
伝染源量を知る。
(調査方法及び調査項目)
例年同一の成木園から発芽直前に100葉を任意に採取して病斑数を調査し、発病葉率及び1葉
当たりの病斑数を求める。
(調査時期)
一∼三番茶芽及び秋期萌芽直前
イ.発病状況調査
葉における発病程度及びその時期的消長を知る。
(調査方法及び調査項目)
アの調査ほ場から、50×25cmの調査区を任意に5か所選び新芽数、発病新芽数を調査し、発
病芽率を求める。
また、10病斑以上となっている芽数を別に記録する。
(調査時期)
一∼三番茶期の摘採10∼15日前と摘採期の2回及び秋芽生育停止期に1回。
2.予
察
法
平均気温15∼20℃で降雨日数が多く、高湿度が続くと多発するので、気象の推移と茶芽の生育状況
から発病の多少を予察する。
なお、茶芽の生育の後半になって、短時日のうちに急激に発病が増加することがあるので、一、二
番茶期に降雨の多い年には調査間隔を短かくして、発病の推移を的確に把握すれば以後の気象状況と
の関連から、更にきめの細かい発病の予察も可能である。
F.チャノコカクモンハマキ(チャハマキはこれに準ずる)
本種は例年二、三番茶及び秋期に多く発生し、収量、品質に多大の損失を与える。予察の重点は二、
三番茶期及び秋期における防除の時期並びにその要否を的確に判定することにある。
1.調
査
4
ア.予察灯又は性フェロモンによる発生消長調査
予察灯又は性フェロモンによる成虫の誘殺状況から、発生消長を把握する。
(調査方法及び調査項目)
茶園に昼光色や白色螢光灯(20W)又は性フェロモンを設置し、毎日の誘殺虫数(予察灯では
雌雄別)を調査する。フェロモントラップの設置場所は茶株の肩部又は地上1.0mの高さとし、
取りまとめ方法は総論に準ずる。
なお、チャノコカクモンハマキとチャハマキのフェロモントラップを同一園に設置する場合は、
最低5m以上離して設置する。
(調査時期)
平年の初発よりやや早い時期より終息日まで毎日。
イ.生息密度調査
発生量の予察及び防除要否の判定に資する。
(調査方法及び調査項目)
予察灯を中心とした半径50m以内の茶園から50×100cmの調査区を任意に10か所選び、巻葉数、
幼虫数を調査し、1㎡当たりの巻葉数、幼虫数を求める。
なお、発生の乱れによって蛹化しているものがある場合には、蛹数についても調査する。
(調査時期)
各世代の老令幼虫期に各1回。
ウ.天敵調査
天敵の寄生状況を調査し、発生量の予察に資する。
(調査方法及び調査項目)
(ア) イ.の調査の際に、同時に幼虫を採取(50頭)し、人工飼料などを用いて、個体飼育を行い、
天敵昆虫及び微生物を種類別に調査し、天敵寄生率を求める。発生が少ない場合には調査区外
からも採取する。
(イ) 吸引粘着トラップを茶園内に設置(チャノキイロアザミウマに準ずる)し、付着した寄生蜂
などを種類別に調査する。
(調査時期)
(ア)各世代の老令幼虫期に各1回。
(イ)4∼10月まで2∼5日ごと。
2.予
察
法
(1) 発生時期の予察
ア.各世代ごとに初飛来日を基にして50%誘殺日を予察する。
イ.各世代ごとに卵期間を調べて、幼虫のふ化最盛日を予察する。
ウ.アとイから防除適期を判定する。
(2) 発生量の予察
5
ア.各世代ごとに、総誘殺数から次世代幼虫の発生量を予察する。
イ.次世代幼虫発生量は、総誘殺数のほかに摘採の有無や早晩、降雨、天敵の多少等によって左右
されるので、総誘殺数にこれらの要因を加えて修正する。
ウ.アとイからの防除の要否を判定する。
G.チャノホソガ
本種は例年二番茶に多く発生し、特に製本品質に悪影響を及ぼす。予察の重点は二番茶期における防
除の時期並びに一、三番茶期におけるその要否を的確に判定することにある。
1.調
査
ア.予察灯又は性フェロモンによる発生消長調査
チャノコカクモンハマキに準ずる。
イ.産卵状況調査
新葉における産卵状況を調査し、発生量の予察及び防除の要否の判定に資する。
(調査方法及び調査項目)
予察灯を中心とする半径50m以内の代表的な早生種及び中生種の品種園からそれぞれ50芽を選
び、産卵数を調査し、産卵芽率及び1芽当たりの平均産卵数を求める。
(調査時期)
各茶期ごとに1∼2葉開葉期。
ウ.幼虫密度調査
幼虫の多少を調査し、発生量の予察に資する。
(調査方法及び調査項目)
イの産卵状況調査園から25×50cmの調査区を各8か所選び、巻葉数、在幼虫数を調査し、1㎡
当たり巻葉数、在幼虫数を求める。
(調査時期)
各茶期ごとの摘採期。
エ.天敵調査
天敵の多少を調べ発生量の予察に資する。
(調査方法及び調査項目)
イの産卵状況調査園から幼虫50∼100頭を巻葉のまま採取して室内飼育を行ない、天敵の寄生
数を種類別に調査し、天敵の寄生率を求める。
(調査時期)
各世代の巻葉期。
2.予
察
法
(1) 発生時期の予察
防除適期の判定は、チャノコカクモンハマキに準じて行う。
6
(2) 発生量の予察
ア.各化期ごとに、総誘殺数から次世代幼虫の発生量を予察する。
イ.次世代幼虫発生量は総誘殺数のほかに、産卵数、天敵等によって左右されるので、総誘殺数にこ
れらの要因を加えて修正する。
ウ.産卵数は茶芽の有無に支配されるので、発蛾期と茶芽との関係から修正する。
エ.製茶品質に影響する被害は、幼虫発生期と茶芽の生育程度によって決定されるので、防除の要否
決定にはこの関係についても考慮する。
オ.ア∼エによって防除の要否を決定する。
H.チャノミドリヒメヨコバイ
本種は夏秋季に多く発生し、二、三番茶の収量、品質に大きな損失を与え、秋季の生育を大きく阻害
する。予察の重点は、二、三番茶の萌芽期から1葉開葉期及び秋季発生量におき、防除の時期とその要
否を的確に判定することが必要である。
1.調
査
ア.発生状況調査
幼虫及び成虫の発生量及び時期的変化を知る。
(調査方法及び調査項目)
次のいずれかの方法により調査する。
(ア) 成木園から任意に5mの摘採面を選び、サクションキャッチャーで吸引し、幼虫、成虫数を
調査する。
(イ) 成木園の摘採面を捕虫網(径36cm)を用いて往復25回すくい取り、幼虫、成虫数を調査する。
(ウ) 成木園から任意に3か所の調査地点を選び、雨落ち部の下でかつ地上10cmの高さに径18.5
cmのろ紙を設置し、ろ紙上に落下する虫ふんをアンモニア性硝酸銀で発色させ、虫ふん数を調
査する。9時∼16時まで設置する。降雨があった場合には調査しない。
(エ) 黄色粘着トラップ(リボン式、30cm×7cm、表裏に粘着剤を塗布)をうね間(地上50∼100cm)
に設置し、付着した成虫数を調査する。
(調査時期)
3月から11月まで、ア、イは10日ごと、ウは5日ごと、エは継続設置し、2日おきに調査する。
イ.被害状況調査
被害状況を把握し、予察法の改善に資する。
(調査方法及び調査項目)
調査ほ場から50×25cmの調査区を8か所選び、その中の各50芽について被害芽数を調べて被害芽率
を求める。被害芽とは葉の約1/4以上の葉脈が褐変したものをいう。同時に成・幼虫数も調査する。
(調査時期)
一、二、三番茶摘採期及び秋芽生育期
7
2.予
察
法
(1) 発生時期の予察
ア.越冬状況により第1世代幼虫発生期を的確に把握する。
イ.第2世代幼虫発生時期及び第2回成虫発生最盛期を第1世代の発生状況より予察する。
ウ.ア、イより二番茶前の防除時期を予察する。
(2) 発生量の予察
ア.3、4月の調査から越冬量を推定し、その後の発生量を予察する。
イ.発生量は気象条件が大きな要因となるので、特に降雨、日照量等を考慮して防除の要否を決定する。
I.カンザワハダニ
本種は夏季にも多発することがあるが、通常春秋に多く発生し、一、二番茶の収量及び秋季の生育に
多大な損失を与える。予察の重点は一、二番茶期及び秋季における防除の時期並びに他の時期における
防除の要否を的確に判定することにある。
1.
調
査
ア.発生状況調査
発生状況を調査し、発生時期及び発生量の予察に資する。
(調査方法及び調査項目)
慣行管理の成木園から約2aの調査区を選び、畦の頂部及び下側部から各50枝を採取し、寄生
数を雌成虫(2∼3月は朱色、赤色別)、雄成虫、幼若虫、卵別に調査し、寄生葉率(寄生葉は
幼若虫が1頭以上寄生しているもの)及び1葉当たりの寄生数を求める。
ただし、若葉(3葉以上開葉したときの第3葉)がある場合は、若葉と古葉(摘採残葉を含む)
を50葉づつ採取して別々に調査、記録する。
(調査時期)
2∼11月は各月ごとに上、中、下旬の3回。12∼1月は月の中旬1回。
イ.天敵調査
天敵の種類及び発生量を調査し、予察法改善の資料とする。
(調査方法及び調査項目)
ア.の調査の際、天敵の発生数を種類別に調査する。
(調査時期)
ア.の全調査時期。
2.予
(1)
察
法
発生時期の予察
越冬雌成虫の体色の変化と気温の関係から産卵開始期における防除適期を決定する。
(2)
発生量の予察
ア.一∼三番茶の発芽前の生息密度から茶芽の生育期間における発生量を予察し、9月の生息密度から
8
秋冬季の発生量を予察する。
繁殖力は10∼30℃の範囲で高温のときほど大きく、増殖率は気温より推定式で求めることができ
る。
イ.発生量は特に降雨と天敵により抑制されるので、これらの要因についても考慮する。
J.チャノキイロアザミウマ
本種は主に二番茶以後に増加し、夏、秋芽を吸汁加害する。したがって、予察の重点は二、三番茶及
び秋芽の萌芽∼生育期の密度推定に置き、防除の適期とその要否を的確に判定し、収量に及ぼす影響を
最少限にとどめるようにする。
1.
調
査
ア.成幼虫生息密度調査
新芽に寄生した成、幼虫数を調査し、被害量との関連を把握し、防除要否判定の資料とする。
(ア) 洗
浄
法
(調査方法及び調査項目)
成木園から新芽50本をとり、中性洗剤を少量添加した水中で振り洗いした後、ろ過し、ろ紙上
の虫数を成、幼虫別に調査する。
同時に調査芽の生育ステージを記録しておく。
(調査時期)
4月から10月まで、芽のある時期(1葉開葉以上)に原則として7日おき。
(イ) 吸引粘着トラップ法
(調査方法及び調査項目)
慣行管理下にある成木園に吸引粘着トラップを設置し、捕獲した虫数を調査する。
吸引粘着トラップはうね間に設置し、ガラス面がほぼ茶株頂部になるようにする。トラップは
調査期間中連続運転する。
(調査時期)
4月から10月まで2∼5日ごと。
(ウ) たたき落し法
(調査方法及び調査項目)
樹緑下に白紙(B5版)又はバットを置き、茶株を10回たたき、落下した虫数(成、幼虫合計)
を調査する。
(調査時期)
4月から10月まで毎月上・中・下旬の3回。
イ.被害状況調査
被害状況を把握し、防除要否判定の資料とする。
9
(調査方法及び調査項目)
任意に100芽を採取し、被害芽率を求める。被害芽とは新葉の中肋の基部又は葉裏に黒褐色の
吸汁痕が認められるものとする。
(調査時期)
4月から10月まで芽のある時期(1葉開葉以上)に原則として7日おき。
2.予
察
法
発生量は新芽の生育状況と気象条件により左右されるので、調査時の芽の状態、虫数、虫態及びそ
の後の気象条件を考慮して防除の要否を決定する。
K.ウスミドリカスミカメ
一∼三番茶に発生し、成虫、幼虫ともに茶芽の芯や若葉を吸汁加害するため、減収と品質低下をもた
らす。予察の重点は、一∼三番茶期における防除の要否を的確に判断することにある。なお、本種は一
番茶期に主に発生する地域と、二、三番茶期にする地域に分かれるので注意が必要である。
1.調
査
ア.予察灯による発生消長調査
チャノコカクモンハマキに準ずる。
イ.産卵状況調査
枯枝(直径1∼4mm)の切口に産み込まれた卵を調査し、発生量の予察及び防除要否の判定に資する。
(調査方法及び調査項目)
調査園から枯枝100本を採取し、切口のずいに産卵された卵を計数する。
(調査時期)
11月と2月に各1回。
ウ.幼虫密度調査
幼虫の多少を調査し、発生量の予察に資する。
(調査方法及び調査項目)
(ア)すくい取り法
成木園の摘採面を捕虫網(径36cm)を用いて往復25回振りですくい取り、幼虫数を調査する。
(イ)たたき落し法
茶株の下にB4版の白紙又はバットを置き、茶株を強くゆすって落下した幼虫数を調査する。
(調査時期)
4月∼8月まで毎月上・中・下旬の3回。
エ.被害状況調査
被害状況を把握し、予察法の改善に資する。
(調査方法及び調査項目)
成木園から25cm×50cmの調査区を任意に8か所選び、被害芽数を調査する。
10
(調査時期)
各茶期ごとの摘採期。
2.予
察
法
(1) 発生時期の予察
平均気温10℃でふ化が始まり加害しはじめるので3∼4月の気温により、ふ化期を予察する。
(2) 発生量の予察
ア.前年、秋季の予察灯誘殺虫数の多少並びに産卵数の多少により第1世代幼虫の発生量を予察する。
イ.幼虫生息密度の多少により被害量を予察する。
ウ.ア、イにより防除要否を判定する。
L.クワシロカイガラムシ
いったん発生するとその被害は甚大であり、茶園荒廃の大きな要因となる。防除は幼虫ふ化期が中心
となるが、初期発見が困難であり、十分な防除効果があげにくい。
予察の重点は発生の早期発見と防除適期の的確な予測に置く。
1.調
査
ア.発生状況調査
発生状況を調査し、発生時期、発生量の予察に資する。
(調査方法及び調査項目)
茶園内に吸引枯着トラップを設置(チャノキイロアザミウマに準ずる)し、捕獲された雄成虫
数を調査する。
(調査時期)
5月から11月までの2∼5日ごと。
イ.ふ化調査
幼虫のふ化時期を知り、防除適期を判断する。
(調査方法及び調査項目)
5∼10日おきに発生園から雌成虫の寄生枝を採取し、50頭当りの産卵母虫率、抱卵及び抱虫母
虫率を調査する。
同時に、採取した枝を水挿しとし、室温下に置いて3∼5日おきにふ化状況を調査する。
(調査時期)
各世代産卵開始期からふ化終了まで。
ウ.寄生株率調査
茶園における発生程度を把握し、次世代の発生量を予察する。
(調査方法及び調査項目)
1調査園から20か所(株)を任意抽出し、寄生(雄繭量をもって判断する)の有無、程度を調査
し、寄生株率を程度別に示す。寄生程度は次による。
11
程
度
寄
生
状
況
多
雄繭が株の1/2以上にみられ幹を環状に覆う。
中
雄繭が株の1/4以上にみられるか、又は枝幹の一部に集中
し、枝、幹を環状に覆う。
少
枝幹に点々とみられる。
(調査時期)
各世代のふ化最盛期から20日後。
エ.天敵調査
天敵の発生及び寄生状況を調査し、防除要否の資料とする。
(調査方法及び調査項目)
(ア) アの調査の際、同時に寄生蜂を種類別に計数する。
(イ) イの調査の際、雌成虫50頭につき寄生蜂の寄生率及び病死虫数を調査する。
2.予
察
(1)
法
発生時期の予察
ア.積算温度から第1世代のふ化開始期を予測する。第2,3世代は各々第1,2世代のふ化開始期
から積算温度により予測する。
イ.雄成虫の発生時期から幼虫ふ化期を予測する。
(2) 発生量の予察
ア.幼虫ふ化期の天候、特に降雨によって発生量は抑制されるので、気象要因を十分に考慮する。
イ.天敵の影響が大きいので、天敵寄生状況を調査し、発生量を調査する。
M.ヨモギエダシャク
近年増加する傾向にあり、多発すると大量の葉を食害するため、甚大な被害が生ずる。令期が進むに
つれ、薬剤感受性が極端に低下するため、初期防除が重要であり、予察の重点は防除適期の把握に置く。
同時に、夏以後は発生が連続的となるので発生量も予察し、防除回数の削減に資する。
1.調
査
予察灯による発生消長調査
チャノコカクモンハマキに準ずる。
2.予
察
法
(1) 発生時期の予察
各世代の初飛来日及び成虫発生推移から最盛日を予察する。
(2) 発生量の予察
各世代の成虫誘殺状況から次世代幼虫の発生量を予察する。
12
〔チャの巡回調査実施方法〕
チャ園における巡回調査の方法は、総論のⅡのB及び次に示す方法によるものとする。
1.調査点、調査区の抽出方法
調査点数は、地図上において系統抽出法等により、労力の許容範囲内でできるだけ多く抽出する。
抽出すべき標本数は病害虫の種類、発生密度あるいは調査時期等によって変えるのが望ましいが、こ
のような操作は実際的でないので、なるべく同一標本及び標本数で各病害虫の調査ができるよう配意
する。
調査区は、原則として1調査地点から25×50cmの調査区を8か所選ぶ。
2.調査時期及び間隔
3月から10月までは原則とし月2回行い、その他の期間については必要に応じ実施する。
3.時期別調査項目
病
害
虫
名
調
査
項
目
期
炭
そ
病
も
ち
病
〃
二、三番茶の摘採終了期及び10月
病
〃
二、三番茶の摘採終了後及び11月
〃
二、三番茶芽及び秋芽の萌芽期
率
一、二番茶芽及び秋芽の伸育期
網
も
ち
輪
斑
病
白
星
病
チャ ノコカ クモ ンハマ キ
チ
ャ
ハ
マ
キ
チ
ャ
ノ
ホ
ソ
1㎡当たり病葉数
時
病
葉
一、二、三番茶の摘採終了期及び10月
1㎡当り幼虫数
3∼11月
〃
ガ
各世代老令幼虫期
1㎡当り三角巻葉数
各葉期の摘採期及び秋芽生育期
カ ン ザ ワ ハ ダ ニ
寄生葉率
2∼11月
チャノミドリヒメヨコバイ
被害芽率
注1)
各茶期の摘採期
〃
たたき落し虫数
注2)
3∼10月
チャノキイロアザミウマ
〃
注2)
〃
クワシロカイガラムシ
寄生株率
ウスミドリメクラガメ
被害芽数
各茶期の摘採期
ヨ モ ギ エ ダ シ ャ ク
1㎡当たり幼虫数
6∼10月
注3)
各世代蛹化期
注1)100葉における成、幼虫の寄生葉率
注2)1か所につき株面を5回たたきB5版白紙上の落花虫数を調査
注3)10株調査し、雄繭の有無で判別
4.発生程度別面積の算定方法
予察対象単位の面積と調査点数及び次に示す発生程度基準から発生程度別面積を求める。
13
ア.炭
そ
病
程
度
無
少
中
多
甚
1㎡当たり病葉数
0
1∼ 50
51∼200
201∼500
501 以上
イ.もち病、網もち病
程
度
無
少
中
多
甚
ウ.輪
斑
1㎡当たり病葉数
0
1∼
50
51∼ 300
301∼1000
1001 以上
病
炭そ病に準ずる。
エ.白
星
病
程
度
無
少
中
多
甚
病
芽
率(%)
0
1∼ 10
11∼ 40
41∼ 70
71 以上
オ.チャノコカクモンハマキ、チャハマキ
程
度
無
少
中
多
甚
1㎡当たり幼虫数
0
1∼ 5
6∼15
16∼35
36 以上
14
カ.チャノホソガ
程
度
1㎡当たり巻葉数
無
0
少
1∼
30
中
31∼100
多
101∼250
甚
251
以上
キ.チャノミドリヒメヨコバイ
程
度
被害芽率(%)
4ヵ所所当たりたたき落し虫数
0
0
無
少
1∼5
中
6∼15
1∼
8
9∼20
多
16∼30
21∼40
甚
31
41
以上
ク.カンザワハダニ
程
度
寄生葉率(%)
無
0
少
1∼10
中
11∼30
多
31∼70
甚
71
以上
ケ.チャノキイロアザミウマ
程
度
4ヵ所当たりたたき落し虫数
無
少
0
1∼
40
中
41∼120
多
121∼240
甚
241
以上
15
以上
コ.クワシロカイガラムシ
程
度
寄
生
株
無
率
(%)
0
少
1∼20
中
21∼50
多
51∼70
甚
71
以上
サ.ウスミドリメクラガメ
程
度
1㎡当たり被害芽数
無
0
少
1∼
25
中
26∼
80
多
81∼160
甚
161
以上
シ.ヨモギエダシャク
程
度
1㎡当たり幼虫数
無
0
少
1∼
中
5∼15
多
16∼30
甚
31
4
以上
16
Fly UP