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20 - 公立鳥取環境大学

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20 - 公立鳥取環境大学
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白青赤紫緑水黄黒 100線 45度 レベル2 PostScript 2003.10.28 8:29 20/48
寄
稿
国際的な海洋環境管理の意義と課題
−地中海行動計画(MAP)の実践をふまえて−
広島大学経済学部教授
戸
田
常
一
る事業である。
1.は じ め に
瀬戸内海は典型的な半閉鎖性海域であり、
筆者が訪問した関係機関においては、瀬戸
一旦海洋が汚染されるとその回復が困難であ
内海においての環境問題とこれまでの取り組
るため、経済開発と環境保全の調和は特に重
みを紹介して、地中海の取り組みとの比較の
要である。しかし、経済の高度成長期には環
もとで意見交換することに努めた。この中で
境破壊の大きなダメージを被り、自然・生物
明らかになったこととして、訪問機関に共通
資源の回復や環境管理は現在においても困難
した重点課題は、国家、民族、文化、宗教、
を極めている。
言語等が異なる沿岸諸国において、いかに環
瀬戸内海に海岸線をもつのは11府県であり、
境保全の問題意識を共有し、連帯した取り組
これは日本の陸地に抱かれた内海であり、本
みを進め得るかにあった。意見交換の中でも
来、日本国籍をもつ企業、事業者、住民など
時々出されたのは、「我々の取り組みは、北
の活動を規制し、調整することによって管理
東アジアであれば、日本海や黄海のような国
できると考えられる。しかし、一見、容易と
際的広がりのもとでの海洋環境問題の解決に
思えるこの調整が難行を極めている。また、
とってより参考になるのではないか?」とい
国内にある自治体間の歩調も必ずしも合って
う指摘を得た。筆者はこの意見に同感であり、
いるとは言えない。世界の半閉鎖性海域には
今回の地中海調査結果の一端を日本海におけ
同様な課題があるが、それぞれ独自の取り組
る環境問題の解決のために幾ばくかでも参考
みがなされている。それらの取り組みの中で
になればと思い、この度の調査結果の一端を
もっとも先進的と言えるのが、欧州、中東、
まとめ、寄稿させていただくものである。
アフリカに 囲 まれた 地中海 における MAP
なお、以下の内容では、MAP の活動を沿
( the Mediterranean Action Plan 、地中海行
岸域管理という側面から整理しているレポー
動計画)とよばれる国際的取り組みである。
ト『地中海における健全な沿岸管理のために』
筆者は、今年の3月に、文部科学省による
(参考文献 (2)) の 抄訳 を 活用 しており 、所
在外研究員 として 、 この MAP の 実情 を 調
々に私のコメントを記述している。なお、2、
査 するために 、 3 週間 をかけて MAP を 推
4、5の全体、3-1、3-4において抄訳を
進する5つの関係機関を訪問し、最近の取り
活用しているが、直訳ではなく、わかりやす
組みと緊急課題等についての情報収集を行っ
くするために相当の加筆・省略を行っている。
た 。 MAP は 、国際連合 の 環境 プログラム
(the United Nations Environmental Programme,
2
UNEP) のひとつであり 、沿岸20カ 国 と EU
2 -1
(European Union)が一体となって進めてい
− 20 −
地中海の過去と現在
10年前の地中海の状況
地中海は閉鎖的な海域であり、地勢、生態、
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水理、気候、環境などの面において固有の特
生態系の破壊をもたらすというマイナスの影
性をもつと同時に、人間活動のよる負荷に対
響をもたらした。
して脆い海域である。地中海とその沿岸域の
海域と沿岸域を含む海洋環境は、地球規模
環境は、これらの地域における社会経済的な
の生命維持システムとして重要な空間であり、
諸活動によって大きな負荷を被り、急激に悪
人類に持続可能な発展のための機会を提供す
化した。
る貴重な財産である。この点で、アジェンダ
1980年代および1990年代初頭、特に主要な
21は、次に示す事項のもとで、沿岸域と海洋
港と都市への経済活動の集中、居住およびレ
環境の統合管理と持続可能な発展を結びつけ
クリェーション施設に対する大きな需要の結
ることを要請している。すなわち、(a)複数
果として都市化が進んだ。この都市化は、自
の用途を両立させ、それらの利用バランスに
然生態系に大きな影響を与え、その多様性を
配慮した統合的な政策と意思決定過程を提供
破壊した。無秩序な都市化は、沿岸地域にお
すること、(b)沿岸域の現在の利用と将来の
ける大気汚染、水質汚濁、土壌汚染の状況を
利用、そしてそれらの変容過程を把握するこ
変化させ、海岸の浸食を引き起こした。さら
と、(c)将来の計画と実行において不確実性
に、都市の急激な成長は、域内における水需
に備えた予防的なアプローチを用いること、
要や廃棄物の増大をもたらした。
(d)沿岸や海洋の利用がよって立つ価値観の
産業による主な環境問題には、土地利用の
変化を反映した方法を開発し適用すること、
歪み、海洋・沿岸域の環境汚染、廃棄物や大
(e)個人や組織に対して、計画や意思決定の
気汚染を通じた土壌汚染がある。火力発電は
ための相談や参加の機会を確保するために、
地中海地域の大気汚染および海洋生態系の破
関連情報やアクセスをできる限り提供するこ
壊をもたらした。それは、化石燃料の燃焼、
とである。
暖房、温められた冷却用水の放出による影響
も大きかった。また海上における石油開発は、
2 -2
(1) 主な環境負荷とその影響
掘削場付近の環境を破壊した。人口増加や経
済活動(例えば観光)のための交通量の増大
地中海の現況
【都市化】
1997年、地中海沿岸の人口は、およそ4億
は、大気汚染、騒音、土地の占有を通じて自
然環境の脅威となった。地中海の海上輸送は、
5,000万人 であった 。 フランスのニ ー スに 設
海洋汚染のリスクをいっそう増大させた。
置 されていている NGO 機関 である 『 BP/
観光レクリェーションは、重要な経済便益
RAC(The Blue Plan Regional Activity Centre)
』
をもたらしたが、その中では環境的なコスト
は 、 2025 年 にはこの 人口 が 5 億 2,000 万人 を
は考慮されていなかった。地中海地域の観光
超えると予測している。また、都市化率は、
開発によってもたらされる最も重要な環境問
2000年で64%であったが、2025年には72%に
題は、廃棄物と水資源の管理であった。
成長すると予測している。この中で、地中海
農業は、土地や水資源の需要増加、さらに
北部(欧州側)の都市化率は、67%から69%
は沿岸生態系の破壊、富栄養化、土壌汚染を
とわずかに増加するだけであるが、南部(ア
通じてしばしば環境に圧力をかけた。漁業は、
フリカ側)は、62%から74%に急激に加速す
地中海の漁業資源を減少させる一方で、養殖
ると見込んでいる。地中海沿岸の総延長の40
はしばしば過剰な食物資源の放出によって富
%のみが、人間活動や定住の条件が備わって
栄養化をもたらした。そして、林業では、森
いると考えられているが、今日では沿岸の総
林火災と同様、森林伐採が土壌浸食あるいは
延長の30%以上において人が住むようになっ
− 21 −
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れている。しかし、鉛、カドミウムのような
ている。
遠い昔、地中海では短期間に急速な都市成
特定の汚染物質が大陸棚に接する深い峡谷内
長が見られたが、その当時の都市成長には農
において集中して発見されている。これは、
村開発との間にバランスがとれ、主要な都市
長期的な汚染の蓄積によってもたらされたも
は、沿岸開拓地や港の周辺に限定して開発さ
のである。
地中海の東部と西部の2つの地域における
れた。しかし最近では、所得の上昇、交通基
盤(主要道路)の整備、観光の普及とともに、
海洋汚染問題は独立していると考えられる。
地中海地域では海岸線に沿った都市化の拡が
これは、気象、地形、水循環、生態系などの
りが拡大しており、後背地から人口や経済活
面でそれらの間に相違があるためであり、西
動を引き寄せ続けている。地中海の都市化が、
部の表面水の環境特性が、東部の表面水の特
“ハイパーディベロップメント(hyper-developm-
性にそれほど影響を与えないためでもある。
ent)
”の状況に達し、急速な拡張の段階に入っ
沿岸域 では 、地中海 の 現状 および MAP
たことは明らかである。この段階では、沿岸
による 認識 としての 汚染“ ホットスポット
域にある特定の大都市に人口や経済活動が集
(hot spots)” の 存在 は 、地中海 の 主要 な 問
中する結果として、高い人口密度、環境破壊、
題を発生させる鍵となる港、大都市、産業地
生活水準の低下が予想される。この傾向は、
域の近辺の閉鎖的な湾において見られる。地
沿岸都市と隣接した内陸地域の間の不均衡、
中海地域において陸上活動に立ち戻って海洋
さらには国家や地域の間において成長速度の
汚染 の 解決 をめざす 戦略的行動計画『 SAP
格差を生み出すこととなる。
MED(Strategic Action Programme)』におい
【観
て、主要な汚染源として次のようなものがあ
光】
地中海 は 、 1990 年代半 ばには 1 億 7,000 万
げられている。すなわち、都市下水(微小有
人の来訪者が見られた世界でも主要な観光地
機物を含む)、都市廃棄物、大気汚染、さら
である。これらのうち、約24%が地中海の中
に殺虫剤、PCB、PAH、重金属、石油、放射
の国々からの観光客である(1993年統計)。
性物質、栄養物、懸濁物を含む有機汚染
このような集中は海岸で最大であり、それら
( POPs) である 。全体 として 、19 の 地中海
は季節性をもつが、地中海の北部と西部にお
諸国において101の緊急のホットスポットが
いて群を抜いている。
確認されている。その地理的分布を図−1に
多くの地中海諸国における観光開発は、沿
岸の都市化を加速して地域経済を成長させる
示す。
【歴史・文化資源】
が、これによって地方自治体に環境問題とい
地中海の歴史・文化遺産(記念碑、歴史的
う重い負荷をつくり出している。特に、マス
集落、考古学的遺跡、言語、文学、伝統、慣
ツーリズムは、汚染、廃棄物に加え、地表の
習など)は、価値のある地域資源である。独
占有や水資源消費などを通じて都市において
特で複雑な歴史の流れ、永続的な毎日の経験
多くの問題をもたらす。例えば、海や陸に生
が現在の地域における多様な文化遺産をつく
息する多くの野生生物の減少、漁業や農業な
りあげたのである。海岸の町や小さな島にお
どの伝統的な活動の放棄、さらには歴史・文
いては、独自の歴史、宗教、伝統、土地利用、
化的資源の劣化等を導く。
そして社会的・文化的様式が形成された。他
(2) 環境の現状
方、経済社会のグローバリゼーションは、地
【自然・生物資源】
方コミュニティに象徴される文化的アイデン
現在の地中海の水質は一般に良好と考えら
ティティに脅威を及ぼしている。
− 22 −
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図−1
101の緊急ホットスポットの地理的分布(もとは UNEP/WHO から引用)
(参考文献(2)より転載)
地中海地域の将来の環境評価(assessing the
文化的遺産の多くの有形の記念碑は、人工
的な景観である。それらは、海、沿岸、そし
future of the Mediterranean Basin)、
て山々を取り囲む形で建造された。残念なこ
地中海の自然・文化的遺産の保護(preserv-
とに、過去50年の間、地中海における人口の
ing the Mediterranean’s natural and cultural
集中が加速し、以前には考えられない水準に
heritage)、
達した。この傾向は、特に地中海の南岸(ア
地中海沿岸および海洋地域の統合管理の促
フリカ側)において衰える兆しはない。そし
進(promoting the integrated management of
て、一般に、最も脅威にさらされている景観
Mediterranean coastal and marine regions)、
資源は、まさに最も価値のある観光資源であ
そして
地中海地域の持続可能な発展の促進(promot-
ることが多い。
ing sustainable development in the Mediterranean
3.沿岸地域の改善と MAP の貢献
Basin)である。
3 -1
3 -2
MAP の目的と活動
MAP を支える組織
MAP は、UNEP の最初の地域海洋プログ
MAP の活動は、地中海地域を構成する20
ラムであり、1975年に開催されたバルセロナ
の国家と EU、そして地域の民間企業や自治
会議において提示されたものである。地中海
体、NGO など、多様な活動主体によって支
地域における海洋汚染は、瀬戸内海とほぼ同
えられており、これらの主体によって構成さ
じ時期である1970年代半ばに始まっている。
れる MCSCD(Mediterranean Commission on
経済活動の集積と都市化は海洋汚染をはじめ
Sustainable Development)という委員会によっ
として、様々な環境負荷を地中海にもたらし
て活動方針や予算配分が決められている。委
た 。 MAP の 目的 は 、「海洋環境 の 保全 と 地
員は、20カ国と EU、そして民間企業・自治
中海沿岸域の持続的発展を実現すること」に
体・NGO から3名ずつの合計30名から構成
ある。このため、MAP においては主に次の
されており 、各国 と EU 以外 の 委員 は 定期
ことに取り組まれてきた。
的 に 交替 となる 。 これが MAP の 最高 の 意
地中海 の 汚染 のモニタリング (monitoring
pollution in the Mediterranean)、
思決定機関であり、そのもとにアテネの国際
連合の建物に MEDU(the MAP Coordinating
− 23 −
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Unit)と呼ばれる事務局が設置されており、
MEDPOL、BP/RAC、CP/RAC、100HS の4
全体の事務や調整作業が行われている。これ
つの機関を訪問し、情報収集を行った。
らの組織図を図−2として示す。
1 MEDPOL(the Programme for the Assessm-
また、これらの活動のため、下記の8つの
ent and Control of Pollution in the Mediterranean
調査・研究活動のための資金を含めて、20カ
Region):アテネ(ギリシア国)の MEDU
国とEUによりつくられた基金と一部の寄附、
と同じ建物のなかに初期段階に設置された
及び EU や GEF(Global Environmental Facili-
プログラム(独立したセンターではなく、
ty)からの受託研究費などによってまかなわ
予算措置に留まる)であり、汚染のモニタ
れている。
リングと陸上活動からの汚染除去の施策検
3 -3
討を行っている。
分散的に設置された調査・研究機関
MCSD における重層的な組織形態に加え、
2 BP/RAC(the Blue Plan Regional Activity
MAP の活動を支えるもう一つの特徴は、活
Centre):ニース(フランス国)郊外にあ
動の基礎資料を作成するために必要となる調
る NGO の 性格 をもつ 研究機関 であり 、
査・研究が、地域的に分散した活動センター
開発による環境に対する影響を把握するた
を拠点にして行われていることである。これ
めに、地中海地域、国家、そして自治体レ
に相当する機関は、現在、8ヶ所設置されて
ベルにおける環境影響の計測と評価のため
いるが、現在その増設も検討されている。そ
のシステム開発を行っている。特に、環境
して、各センターにおける調査・研究の成果
保全のための評価指標の開発に力を注いで
としてのデータや開発された技術・手法等は
いる。
地中海地域を構成する各国の環境調査や環境
3 PAP/RAC(the Priority Actions Programme
Regional Activity Centre):東欧のスプリッ
対策のために共有されている。
調査研究の拠点を担う調査・研究機関は次
ト(クロアチア国)に設置された研究機関
の通りである。なお、筆者はこの3月の調査
であり、3.において述べる沿岸域統合管
において、上記の MEDU とともに、下記の
理のための手法開発や適応事例の蓄積に特
図−2
MAP を支える組織構造(参考文献(1)より転載)
− 24 −
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4
色がある。さらに、環境容量の研究につい
いている。これらの活動の多くは沿岸域を対
ても意欲的な試みが見られる。
象 としており 、 それらの 実行 には 、上記 の
SPA/RAC(the Specially Protected Areas
MAP における方針や組織すべての間での緊
Regional Activity Centre):チュニス(チュ
密な協力が必要である。1995年に採択され、
ニジア国)に設けられた機関であり、保護
2005年までの優先的な活動として定められて
地区の認定のための国家への援助、生物多
いる活動項目は次のとおりである。
環境 と 開発 の 統合( the integration of the
様性の国家的な保護戦略の構築、絶滅種の
保護のための行動計画などを支援している。
5
environment and development)、
自然資源の統合管理(the integrated managem-
REMPEC(the Regional Marine Pollution
E m erg e n c y R e s p o n s e C e nter fo r th e
ent of natural resources)、
Mediterranean Sea):マノエル島(マルタ
廃棄物のマネジメント(waste management)
、
国)に設置されている機関であり、海洋事
農業(agriculture)、
故による海洋汚染を防ぐための国家的な対
エネルギーと産業(energy and industry)、
応や地域間協力による訓練活動を組織化し
交通(輸送)(transport)、
ている。
観光(tourism)、
6 ERS/RAC(the Environmental Remote Sensing Regional Activity Centre): パレルモ
都市開発 と 環境( urban development and
the environment)、
(イタリア国)に設置されているセンター
情報(information)、
であり、リモートセンシングを活用した海
海洋汚染の評価と防御(assessing and prevent-
洋や沿岸域における学際的協力や計画・意
ing marine pollution)、そして
自然、野生生物、歴史的・文化的資産の保
思決定の支援を行っている。
7 CP/RAC(the Cleaner Production Regional
Activity Centre): バルセロナ ( スペイン
全( conserving nature, wildlife and historic
and cultural sites)である。
国)に設けられているカタローニア州政府
より良い沿岸域管理に向けての地域の協力
によって設立された機関であり、廃棄物の
体制 が 、 MCSD の 組織構築 とともに 出発 し
リサイクルや廃棄物の減少などを促進し、
た 。 MCSD は 、地域 の 環境 マネジメントの
新たな産業を育成するための一連の支援活
ための新しいモデルを促進している。中央・
動を行っている。
地方政府 のメンバ ー からの 代表者 に 加 え 、
8 100HS(the Programme for the Protection
NGO 等の専門家、民間企業への呼びかけが
of Coastal Historic Sites):マルセイユ(フ
ある。それらのすべては地中海とその沿岸域
ランス国)に設けられたマルセイユ市役所
の持続的な発展のための主要な担い手である。
の市長附属の特別機関であり、マルセイユ
1996年11月に、ラバトで最初の委員会が開催
市内の歴史・文化資産の評価・保存に加え、
されている。そこでは、地域の持続可能な発
地中海全域の歴史・文化資産の保存活動も
展を阻害していた多くの問題が検討された。
担い、ユネスコによる世界文化遺産の活動
その中で突出していたのが、沿岸域の統合管
にも貢献している。
理、観光開発、そして持続的な都市管理であっ
3 -4
MAP における優先的な活動項目
た。以下では、現在の重点課題のひとつであ
MAP によって現在行われている活動は、
アジェンダ MED21の規定と MAP 第2段階
る沿岸域の統合管理に焦点をあて、地中海に
おけるその後の活動状況を紹介する。
(1995)のもとに採択された優先項目に基づ
− 25 −
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4
を及ぼす主要因の分析を行うが、これには
地中海における沿岸域管理の方法と事例
4 -1
沿岸域統合管理(ICAM)
新旧の決定、外部的な影響、さらにはコミュ
ニティーからの反応などの要因が対象とな
ICAM(Integrated Coastal Area Managem-
る。
ent) は 沿岸域 に 対 する 環境 からみた 持続可
能な開発のための連続的、かつ柔軟な資源管
2.「沿岸域統合マスタープラン(Integrated
理プロセスである。lCAM の大きな目的は、
Coastal Master Plan ) の 準備」、 この 中 に
持続可能で、かつ最も有益な利用のために沿
は次の事項が含まれる。部門別の問題の識
岸域や海洋環境を適切に管理するための措置
別、沿岸域資源とそれらの相互作用に関し
にある。資源管理および環境保全は、経済成
ての現在かつ将来の用途分析、これまでの
長と両立し得る。実際、高度な長期的経済開
自然への影響と将来の見通し、目標と戦略
発は lCAM の全般的な推進力でありうるし、
の設定、および統合計画と方針の準備。
またそうであらねばならない。特に、lCAM
3.モニタリングと評価を含む「沿岸域統合
マスタープラン(Integrated Coastal Master
は次の事項を目指している。
訓練や法制度の整備等を通じて、部門間の
Plan) の 実行」、 この 段階 において 、長期
協力を強化する。
的な経営戦略はモニタリングおよび連続的
破壊、汚染および過剰開発の予防を通じて、
な情報フィードバックによって補完される
海岸の生態系の生産力および生物多様性を
行動計画や事業として具体化される。
保存し保護する。
この方法論は、多くの地域的事業の実施を
合理的な開発および沿岸域資源の持続可能
通じて試験され改善されてきた。とりわけ10
な利用を促進する。
以上 の 地中海 の 国々 において 、 ICAM の 枠
lCAM にとって 基本的事項 は 、沿岸域 の
組みのもとで、沿岸域統合管理事業(CAMP,
資源とそれらの用途、および経済、社会およ
Coastal Area Management Programmes)のプ
び環境の諸側面に対する開発による影響につ
ロジェクトが実施された。実施された場所は
いての明瞭な理解にある。様々な経済・社会
図−3の通りである。
的活動主体が海岸の資源を同時に使用するこ
MAP によって提示された方法論、および
とができるため、それらのすべての利用に関
特 に 「 Priority Actions Programme Regional
わる関係の解明と理解は不可欠である。また、
Activity Centre ( PAP/RAC )」 は 一般的 なフ
lCAM が 成功 するために 、主要 な 関係者 や
レームワークを開発してきた。その成果は、
利害関係者とのかかわり合いについても明確
これらの事業が実施された各々の国々におい
な把握が重要である。
て普及し、実際に用いられている。以下に、
参加する過程(プロセス)では次の3つの
CAMP の代表的な事業を紹介する。
段階に焦点を合わせることが必要である。海
洋資源の利用と開発にかかわるすべての団体
4 -2
と関係者の間で水平的かつ垂直的な対話を容
易にする協定や調整案が求められ、包括的で
統合された方法を用いて得られる知見である
代表的な CAMP プロジェクト:
業績と得られた知見
(1) チュニジア国南部の Sfax(産業と
商業都市)
産業・都市郊外における産業廃棄物の除去
ことが必要である。
ICAM の 過程( プロセス ) は 次 の 3 つの
と減少した資源とエリアの復興に向けたプ
段階で構成される:
ログラムの実行
1.「開始」、ここでは ICAM の遂行に影響
保護地域の創設、国立公園や多くの保養観
− 26 −
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図−3
CAMP が実施された場所の地理的分布(参考文献(1)より転載)
光施設
でいた。
帯水層保護、水環境の統合化された管理
ロードス島における CAMP の実施は、あ
南部地域との関係する地域の持続的な発展
る程度成功であるとみなされてきたにもかか
CAMP の 結果 を 踏 まえて 、 チュニジア 政
わらず、いくつかの障害にも遭遇した。具体
府は、プロジェクト提案の実現に向けて支援
的には、適切な制度の枠組みの欠如、自治体
を 増大 した 。 CAMP による 知見 は 、海洋 と
レベルにおける共同機能の運用の欠如があっ
沿岸地域の資源の保護に向けた事業 GEF 支
て、そのために CAMP の実行も遅れた。
援事業の実施を実現した。
(2) トルコ国の Izmir 湾
5.おわりに:新しい地中海沿岸域の創造に
向けて
Izumir 地域 における 統合化 された 管理学
持続可能な開発は、地球規模においての目
習という成果が生み出された
持続的でない資源利用に関する問題解決の
的でもある。そしてそれは、より繁栄し、よ
ための緊急手段
り清潔で安全で健康的な環境から成る社会に
統合化された沿岸マスタープランを可能に
対する、積極的な長期間に渡るビジョンを提
する評価
供するものである。持続可能な開発のための
マスタープランの準備に向けた方法論的な
戦略は、政策形成者と、来るべき時代におけ
枠組み
る大衆の意見にとっての刺激・触媒になるも
(3) ギリシャ国のロードス島
のでなければならない。そして、制度の改革
CAMP事業の地理的な範囲は、ロードス島
や企業と消費者の行動の変化にとって推進力
全土に及んだ。それは、多くの事業活動の
になる。あいまいなビジョンと実践的な政治
準備を想定したものであった。
的行動のギャップを埋めるために、地球と特
沿岸域の汚染管理、公害測定、水資源のす
に沿岸域の安全という将来に対して脅威を引
べてのマスタープラン、想定される気候変
き起こすいくつかの問題を明確にしなければ
動を包含する調査、エネルギー計画のプロ
ならない。この点について、持続可能な開発
グラム 、歴史・文化遺産 の 保護、 GIS 研
への主な脅威とは次のようなものである。
修 プログラム 、 EIA の 適用、開発 と 環境
1
のシナリオ、特別保護区の管理などを含ん
− 27 −
平均寿命の増加は歓迎すべきだが、少子
化と結び付いた結果としての人口の高齢化
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2
3
4
5
6
は、年金計画と公衆衛生の質的・財政的持
後長年にわたってもたらされる。しかし、
続と同様に、経済成長率を衰えさせる前触
その対策を後回しにすればするほど対策費
れである。
用は増大し、解決が不可能になるかもしれ
貧困と社会的排除は、病気であり、自殺
ない。
するような、そしていつまでも失業をして
信任 されかつ 先 を 見通 した 政治的指導力
いるよう個人に、深く直接的な影響を与え
(Committed and far-sighted political leadership)
る。貧困は、しばしば何世代にわたり続く
:持続可能な開発の実現のためには、利害
ものである。
が反する当事者間においての協定は、強い
交通混雑は急速に悪化し、身動きが取れ
政治的な関与を用いても、すみやかに調整
ないようなレベルに達しつつある。この問
することが必要である。
題は、都市地域に主に影響を与え、都市の
政策形成のための新しいアプローチ
衰退がそれによってもたらされる。そして
(A new approach to policy making):経
この問題は、郊外化を進め、厳しい貧困と
済、環境、社会の各面から持続性を謳う個
社会的な排除を集中的に拡大する。地域の
々の政策は、相互には十分な調整なしにつ
不均衡は、深刻な問題を残すことになる。
くられている。しばしば、短期的な視野に
ヨーロッパにおける生物の多様性の損失
たった費用の問題は、利益が多くの人々の
は、最近の10年間で劇的に増加している。
間で共有できる長期間のビジョンの実現を
ヨーロッパの水域における魚の貯蔵は、崩
困難なものにする。政策は、すべての関係
壊寸前 である。廃棄物 の量 は、GDP より
当事者との間で、体系的かつ建設的な対話
も早く持続的に増加している。土壌の損失
を維持することに大きな利益をもたらす。
や肥沃な土地の衰退は、生育できる農業地
政策評価(Policies evaluation):政策の実
を破壊している。
施効果の評価においては、経済・環境・社
公衆衛生に対する厳しい脅威は、治療し
会の諸側面を併せて検討すべきである。こ
にくい病気に対する抗生物質や、毎日使わ
の点について言えば、戦略的環境評価の方
れている多くの危険な化学物質の長期間に
法は体系的な視点に立って開発し、様々な
渡る潜在的な影響によって引き起こされる。
政策領域において利用するべきである。
食べ物への安全に対する脅威は、増加して
広範囲からの参加(Widespread participation)
いる。
:公的機関には参加の枠組みをつくるとい
人間の活動から排出される温室ガスは、
う重要な役割をもつが、持続的な発展を支
地球温暖化を引き起こしている。気候の変
える原点とも言える消費行動や投資行動に
化は、基盤、資産、健康、自然に厳しく関
変化をもたらす主体は、個々の市民や企業
わる(台風や洪水のような)極端な天候を
である。そのため、教育のあり方が、個人
引き起こす可能性が高い。
と集団の責任を認識し、そして行動の結果
上述の持続不可能な現象に直面し、これら
として持続可能は社会を実現するための基
の問題を克服するための方途は限られている。
本的な役割を果たす。
持続可能な開発によって与えられるビジョン
市場価格による調整(Adjustment of market
を達成するためには、各地域において次のよ
prices):社会・経済的 ニ ー ズを 満 たしつ
うな実践が必要と考えられている。
つ、かつ環境負荷を低減する新しい製品や
速やかな実践(Urgent action):生物の多
サービスを作り出す機会を実現するために
様性の破壊や気候の変化による影響は、今
は市場改革が有効である。この点に関し、
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本文.IPO
白青赤紫緑水黄黒 100線 45度 レベル2 PostScript 2003.10.28 8:29 29/48
公的機関の活動において環境問題と社会的
会人大学院)の博士課程後期(ドクターコー
問題を統合するために公共的な措置を実施
ス)所属の10名ほどの諸氏と共に授業の一環
すべきである。
として、MAP の勉強会を行った。本稿の執
科学 と 技術 への 投資(Investing in science
筆にあたっては、その場において作成された
and technology): エネルギ ー、輸送、情
翻訳レジュメを参考にさせていただいた。共
報等の分野においては、公的資金と報奨金
に勉強に加わっていただいた大学院生諸氏へ
の投入により、自然資源の消費や環境汚染
お礼申し上げたい。
(とっとり総研
を削減し、安全性を高め、かつ高い経済性
客員研究員)
をもたらすために新しい技術の開発や使用
を奨励すべきである。
参考文献
国際的な責任(International responsibility)
( 1 ) Daphne Kasriel ; The Mediterranean
:持続可能性への多くの挑戦は、様々な問
ActionPlan (MAP), UNEP/MAP Athens/
題を解決するための地球規模での行動を必
Greece, 2000.8 ( MAP のウエッブ ・ サ
要とする。特に先進国においては、どのよ
イトのアドレスは次の通り:www.unepmap.
うに開発を進め、それを支えるためにどの
org)
ような国際組織をつくるのかについて、大
( 2 ) Coccossis, Harry and others eds; For
きな責任を持つ。
a Sound Coastal M anagement in the
本稿においては、地中海の環境管理と持続
Mediterranean, PAP/RAC, Split, Croatia,
的発展をねらいとして、1970年半ばから沿岸
2002.6
20カ国と EU、地元の企業や自治体、NGO、
( 3 ) Izzo,G. and S.Moretti eds ; State and
市民の参加のもとで進められてきた地中海行
pressure of th e m arin e a n d c o astal
動計画 MAP の 活動 の 一端 を 紹介 した 。筆
Mediterranean environment, Environmental
者が MEDU において得た情報によれば、こ
assessment series No 5, European Environm-
の活動も30年間、絶え間なく活発な活動が行
ent Agency, 1999
われてきたわけではなく、最近のように様々
な取り組みが行われ、全体がネットワーク化
されてきたのは1996年に MCSD が設置され
て以降のことである。それからまだ、10年も
経っていないが、短期間における活動実績に
は目まぐるしいものがある。現在、日本海に
おいて環境管理のための国際的な協力体制が
必要という意識が大きく、基本的な環境調査
も始まっている。本格的な、環境管理のため
には、鳥取県は言うまでもなく、日本、韓国、
中国等の日本海沿岸の諸地域の間で協力体制
を構築してゆくことが必要であるが、本稿に
おいて紹介した地中海における取り組みがい
くらかでも参考になればと考える。
最後に、本稿の執筆に先立ち、広島大学大
学院社会科学研究科マメネジメント専攻(社
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