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米国のプライベート・エクイティとメザニン融資 ∼中堅企業の資金調達の

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米国のプライベート・エクイティとメザニン融資 ∼中堅企業の資金調達の
W
−
7
2
駐在員事務所報告
国
際
米国のプライベート・エクイティとメザニン融資
∼中堅企業の資金調達の観点から∼
2 0 0 4
年
3
月
ワシントン駐在員事務所
日 本 政 策 投 資 銀 行
部
要
旨
1. 米国において売上 50∼500 億円程度の中堅企業(middle market company)が資金調達
を行う際、借入や債券発行の他に有力な選択肢となるのが、プライベート・エクイティ(PE)・
ファンドからの非上場株式による増資やメザニン・ファンドからのメザニン融資である。PE
ファンドおよびメザニン・ファンドの業務の中心は、LBO(leveraged buyout)による企業の
買収であるが、同時にこうしたファンドは、成長を図る企業が自ら行う設備投資や買収への資
金提供を、主要業務のひとつとして行っている。近年、銀行融資および資本市場が縮小してい
る中で、PE およびメザニン融資による資金調達が拡大してきている。
2. PE 投資成功の鍵は、投資先企業の経営陣である。PE ファンドは、投資先の企業価値を
高めるために、株主として経営の規律を保つとともに、重要な経営事項において助言を与えて
いる。PE ファンドの経営陣に対する一般的な姿勢は、必要な助言はするが、過度に関与せず、
経営者に気持ち良く仕事をしてもらうことで企業価値を高めるが、物事が上手く進まない場合
は、株主に徹して経営者の交代を行う、というものである。
3.
PE による成長資金の供給は、伝統的な買収案件と異なり、経営権を握らない投資が中
心である。これが盛んになっている背景としては、PE 業界内での競争が増しているため、新
しい投資機会が求められている他、PE ファンドの経営者に対する姿勢が「友好的」なものに
変化してきているため、経営権を掌握することが必ずしも必要とならないことが挙げられる。
4.
メザニン融資は、通常の銀行融資と株式では担いきれない資本構成上のギャップを、柔
軟に埋める役割を果たしている。基本的に無担保の劣後債務と新株予約権からなり、融資と株
式の両方の性格を併せ持った資金であり、貸し手にとっては、株式よりは安全な立場にありな
がらも、通常の融資よりは高利回りを期待できるという、両者の利点を兼ね備えた手法である。
5.
メザニン融資の世界においても、参入者の増加から、競争は厳しくなりつつある。それ
に伴い、メザニン融資も新株予約権を付与しないもの、担保付のものなど、その経済環境に合
わせて新しい型の融資案件が登場しつつある。
6.
PE およびメザニン融資は、調達費用が高い資金であり、これによって調達を行う企業
は、基本的には通常の銀行融資では十分な資金が得られない企業であるが、これは、企業その
ものに与信リスクがあるというよりは、必要資金が与信限度を超えているという意味である。
資金を提供するファンド側は、経営陣への助言などの付加価値提供による企業価値向上により
win-win の関係を築き上げることで、利用の拡大を図っている。
1
目
次
はじめに
・・・ 3
第1章
・・・ 5
プライベート・エクイティ(PE)
1.米国におけるPE市場の概要
・・・ 6
(1)
PEとは
・・・
6
(2)
市場規模
・・・
7
(3) PE投資の流れ
・・・ 8
(4) 中堅企業向け案件の特色
・・・ 9
2.PEファンドによる買収
(1) LBOあるいはMBOによる買収
・・・ 11
(2)
リキャップ
・・・
13
(3)
その他の買収手法
・・・
13
(4)
PEファンドと会社経営陣の関係
・・・
14
3.中堅企業の資金調達手段としてのPE
・・・ 18
(1)
成長資金
・・・
19
(2)
経営権を握らない投資
・・・
19
(3)
上場企業の私募増資
・・・
20
4.PEファンドの類型
(1)
PEファンドの類型
・・・
21
(2)
中堅企業向けPE会社の概要
・・・
21
第2章
メザニン融資
1.メザニン融資とは
(1)
メザニンとは
・・・
26
(2)
メザニン市場の発達
・・・
28
2.メザニン融資の仕組みとその参加者
(1)
メザニン融資の一般的構造
・・・ 31
(2) メザニン市場の参加者
・・・ 32
(3)
メザニンをめぐる環境
・・・ 37
(4)
メザニン融資の長所と短所
・・・ 39
3.メザニン市場の動向
(1)
最近のメザニン市場の動向
・・・ 41
(2)
後順位有担保メザニン
・・・ 43
(3)
メザニン融資関係者の懸念
・・・ 49
2
はじめに
米国の中堅企業が資金調達を行う際、借入や債券発行の他に有力な選択肢となるのが、プラ
イベート・エクイティ(PE)
・ファンドからの非上場株式(PE)による増資やメザニン・ファ
ンドからのメザニン融資である。PE ファンドにおける業務の中心は、LBO(leveraged buyout)
による企業の買収であり、メザニン・ファンドの業務の中心となるのも、LBO 案件における劣
後融資の提供であるが、同時にこうしたファンドは、成長を図る企業が自ら行う設備投資や買
収への資金提供を、主要業務のひとつとして行っているのである。
近年、銀行の貸出姿勢が保守化の傾向にあり、資本市場が一時期に比べて縮小している中で、
PE およびメザニン融資による資金調達が拡大してきている。第 1 章では、まず PE について取
り上げる。米国における PE 市場について概観した後、成長資金の説明をするための前段階と
して、PE ファンドによる買収、特にファンドと投資先の経営陣の関係について検証する。PE
ファンドが買収を行う際、その出資比率は 70∼90%となることが一般的であるが、成長資金の
場合は 50%未満であることが殆どである。PE 投資の伝統的な形態は、投資先の経営権を握り、
経営を意のままにすることで、その企業価値を高めるというものであったが、最近では、PE
ファンド間での競争が増す中で、経営権を握りつつも、PE ファンドは、基本的には脇役に徹
し、経営陣に最大限に能力を発揮する環境を与えることで業績の拡大を図るというのが、むし
ろ主流となってきている。そしてこの流れの中で動きが活発化しているのが、経営権を握らな
い格好での成長資金の供給である。
成長資金については、形としては似通っているベンチャー・キャピタルによる出資との比較
を行った上で、PE により資金調達を行う企業の性格について触れた。PE は、要求される利回
りが高いため、最終的な調達費用が最も高い資金であり、これによって調達を行うのは、基本
的には通常の銀行融資で十分な資金が得られない企業であるが、これは、企業そのものに与信
リスクがあるというよりは、必要資金が与信限度を超えているという意味である。そして、ど
のような仕組みの下に、経営権を握らない投資が可能となっているのかについて検討している。
加えて、第 1 章の最後では、PE ファンドの類型に簡単に触れた上で、中堅企業向けの PE
ファンドが、どのような規模で、主にどういった資金を、どういった業種を対象に提供してい
るのかをまとめた。
第 2 章では、メザニン融資について分析を行っている。メザニンという言葉が指すものには
色々な種類があるが、本稿におけるメザニン融資とは、通常の銀行融資と株式の資本構成面で
のギャップを埋めるものであり、一般的には、新株予約権付きの無担保劣後融資である。つま
り、融資と株式の両方の性格を併せ持った資金であり、資金調達費用の面でも、両者の中間に
位置している。
ここでは、まずメザニンという概念について、その歴史的背景も踏まえて整理する。そして、
メザニン融資の仕組み、およびそれをめぐる環境について説明を行っている。中堅企業にとっ
3
てのメザニン融資は、大企業にとってのハイ・イールド債と同列で論ぜられるものであるが、
ハイ・イールド債と比較するとその調達費用は高く、規模の面でこれを発行できない中堅企業
にとって次善の策という色彩が強い。しかしながら、メザニン・ファンド間での競争が激しく
なる中で、仕組み面での柔軟性などハイ・イールド債にはない利点が提供されてきており、調
達する側にとっての魅力が増してきている。
さらに第 2 章では、メザニン融資の直近の動きとして、新株予約権なしのものと有担保メザ
ニンについて解説している。新株予約権なしのメザニン融資は、その分表面金利が高くなって
おり、より純粋な融資となっている。後者については、業績不振企業が対象となることが多く、
また今のところヘッジ・ファンドが主要な資金の出し手であるが、一般の企業による利用も増
えてきており、今後メザニン融資の主要な手法となるか、その行方が注目されている。
中堅企業の資金調達手段として PE とメザニン融資を比較すると、前者は、調達費用が高く、
経営への関与も行われるのに対して、当面の利払いは発生せず、資金面での余裕が生まれる。
後者は、これに比べると調達費用は低くなるものの、銀行融資に比べて大きな利払いがすぐに
発生してしまう一方で、経営への関与はあまり心配する必要はない。いずれにせよ、調達を行
うには決断の要る資金であるが、資金を提供するファンド側は、経営陣への助言などの付加価
値提供による企業価値向上により win-win の関係を築き上げることで、利用の拡大を図ってい
る。PE とメザニン融資による成長資金の現在の活況は、銀行融資と資本市場の縮小という外
的要因に負う部分も大きく、この状況が今後も続くという保証はないが、PE ファンドやメザ
ニン・ファンドが、銀行や資本市場が取らないリスクを如何にして取っているかを知ることは、
日本の金融を考える上でも役に立つものと思われる。
4
第1章
プライベート・エクイティ
日本でプライベート・エクイティ(PE)と言えば、業績不振の会社を対象とした事業再生の
印象が強く、また最近では、PE ファンドによる会社資産(余剰資金)を十分に活用できてな
い企業を対象とした敵対的買収が議論の対象となっている。他方、経営陣が PE ファンドと組
んで行う MBO(management buyout)が増えてきている(表 1 参照)
。
表1 日本国内におけるPEファンド参加によるMBO案件(2003年)
対象企業
PEファンド
スリオンテック
野村プリンシパ
ル・ファイナンス
キョウデン
ユニゾン・キャピタル
経営陣
出資比率
1%程度
メディカルトリ
ジャフコ
ビューン
買収
金額
概要
日立製作所グループの粘着テープメーカー。日立は引き続き6%程度の株式
を保有する。
プラスチック成型事業を統括する経営陣が、同社と海外子会社の同事
35億円 業を買収する。売上高は610億円。キョウデンは、プリント基盤に経営資源
を集中する。
医学・医療メディアの独企業の日本法人。売上高は32億円。
荏原と米社の合弁会社で、メッキ薬品を製造。荏原は32%の出資を残
40億円 すが、連結対象からは外す。荏原のノンコア事業整理の一環。合弁解
消を機に、当社は海外進出が可能になる。
上場企業を対象としたMBOとしては国内最大規模。当社は、主力の
東芝タンガロ 野村プリンシパ
3∼5%程度 358億円 超硬工具の収益力が高いが、デジタル分野を核に事業再編を進める
イ
ル・ファイナンス
東芝との連携が難しくなっていた。
アドバンテスト100%子会社で汎用電子機器の開発・生産を手がける。売
アドバンテスト みずほキャピタル
70%
上10億円。アドバンテストは、高付加価値品に特化して収益体質を改善
エーディー
パートナー
する。
日本ビルサービスの100%子会社でOAサプライ用品販売。当社は、従来の
ビー・エス・ 東京海上キャピ
10%程度 1億円 販路を活用してビルメンテナンス用品の販売を計画しており、親会社から
シー
タル
の独立を決めた。
MBI案件。当社は民事再生法を申請したレーザー加工技術会社。産業
レーザーテクノ エヌ・アイ・エフベン
40%
3億円
ロジー
チャーズ
機械向けのマーキング技術の売上を強化、収益改善を目指す。
法人向けトランクルーム最大手。財テクの失敗で銀行管理下。MBOとして
ワンビシアーカ 東京海上キャピ
500億円
は国内最大。
イブズ
タル他
神戸製鋼100%子会社で半導体検査サービス。売上110億円。神鋼は引
ジェネシス・テ 日興プリンシパ
35億円
き続き35%を保有し、支援する。
クノロジー
ル・インベストメンツ
(出所)レコフより作成
荏原ユージラ みずほキャピタル
10.4%
イト
パートナー
表2 国別PE投資規模
これに対して、PE の本国である米国の状況はどのようなものなので
あろうか。本稿では、米国の PE 業界について、特に案件数においては
中心となっている中堅企業(middle market company)案件1に焦点を
当てながら検討していく2。
(100億円)
2002
1 米国
415
2 イギリス
69
3 フランス
42
4 イタリア
15
5 日本
13
6 ドイツ
11
7 韓国
10
8 スウェーデン
8
9 オランダ
7
10 オーストラリア
6
(出所)PwC & 3i
厳密な定義はないが、売上もしくは企業価値が 50∼500 億円(1 ドル=100 円、以下同様)
の会社を指すことが多い。ファンドによる LBO 案件は、元々中堅企業案件から始まったもの
である。
2 過去 20 年間の数字を見ると、案件数の約 8 割が企業価値 250 億円以下、1 割が 500 億円以
下の案件である(Lawson 2003)。
1
5
1.米国における PE 市場の概要
(1) PE とは
PE3は、専門家によって行われる資本投資の対象となる公開・未公開企業の非上場証券を指
し、主に普通株式、転換優先株式、転換権もしくは新株予約権付劣後債権が含まれる(Fenn
1995)が、中心となるのは普通株式と優先株式である。投資主体は、ほぼ全てが有限責任組合
(limited partnership)によるファンドの形態を採る。ファンドを運営する PE 会社4からのフ
ァンド・マネージャーが無限責任社員(GP: general partner)、機関投資家や個人などの投資
家5が有限責任社員(LP: limited partner)となり、通常、GP がファンド全体の 1%の投資を
行い6、残りを LP が投資する。
PE ファンドは、一般的に、10 年間の有期限7であり、最初の 3∼5 年に投資が行われ、その
投資が 3∼5 年で回収され、GP および LP に投資収益が還元されるが、これが、ファンド・マ
ネージャーが投資家のために働くよう努力する仕組みとなっている。まず、ファンドが有期限
であるため、GP がこの業界で職を維持していくには、次のファンドの資金集めを円滑に行う
必要があることから、現在のファンドの投資成績を上げることが求められる。次に、ファンド
の投資収益の還元方法として、あらかじめ決められた利回り(通常 6∼10%)を超えると、GP
がその 2 割を得ることができるように設定されるのが一般的であり、GP は、ファンドの運用
成績が良い場合、大きな報酬を得られるようになっているのである8。
PE は、広義では、ベンチャー・キャピタル(VC)による投資を含むが、狭義では、VC を
除いた、一定程度以上に成熟した企業への投資を指す。本稿では狭義で用いる。
4 独立系が 6 割、投資銀行や商業銀行など金融機関の関連会社が 3 割を占める。
5 投資家は、企業および公的機関の年金基金が各 2 割程度、財団・基金、銀行持株会社および
資産家がそれぞれ 1 割程度を占めている(Liang 2001)。
6 GP が少なくともファンドの 1%を投資することが、かつて法律で定められていた。この条項
は現在撤廃されているが、依然として 1%程度の投資が行われることが多い。GP の投資が全体
に占める割合は小さいが、PE のファンド規模は 100 億円単位となることも普通であり、例え
1%であっても、数人規模の個人で行う投資としては大きな金額となることから、GP は投資実
績を上げようと真剣にならざるを得ない。
7 通常 2 年程度の延長条項あり。
8 例えば、100 億円のファンドで、10%の利回りが設定されている場合に、20%(20 億円)の
収益を上げれば、超過収益 10 億円の 2 割にあたる 2 億円が GP の報酬となる。
3
6
(2) 市場規模
米国における PE ファンドによる年間投資額は、1996 年に 1 兆円(1 ドル=100 円、以下同
様)を突破し、2000 年には 7 兆円を超えるまでになっている(表 1−1 参照)。PE 会社数は、
2002 年現在で 471 社に上っている9。
表1-1 PE投資額
(億円)
85
90
95
96
97
98
99
00
01
02
03
案件数
413
644
957 1,735 1,845 2,278 3,027 4,602 2,977 1,911 1,611
投資額
1,277 5,670 7,764 15,810 18,443 34,576 57,203 71,927 44,101 42,872 63,608
(1件あたり)
3.1
8.8
8.1
9.1
10.0
15.2
18.9
15.6
14.8
22.4
39.5
(出所)Thomson Financial Venture Economics
資金の供給側である投資家の立場から見た場合、PE の魅力は利回りの高さである。上場株
式などに比べると換金性が低く、非公開企業を対象とすることでリスクが大きいにもかかわら
ず、これだけ市場が伸び
ている理由として、それ
に見合うだけの利回りの
高さを確保できている点
が挙げられる10(表 1−2
参照)。これ以外の市場拡
大要因としては、機関投
資家による PE ファンド
表1-2 投資利回り実績比較
(2003年末現在)
1年
3年
ベンチャーキャピタル
-26.9% -20.0%
250億円以下
10.0%
-2.8%
251-500億円
4.1%
-8.3%
ファ PE
501-1,000億円
3.2%
-7.7%
ンド ファンド
1,000億円超
4.1%
-5.4%
全体
4.1%
-6.0%
メザニンファンド
2.5%
2.3%
イン NASDAQ
26.4%
-5.6%
デッ S&P500
50.0%
-6.7%
クス ダウ
25.3%
-1.0%
(出所)Thomson Financial Venture Economics
5年
10 年 20 年
24.1%
26.2%
16.1%
1.7%
13.1%
26.9%
2.8%
12.2%
16.8%
1.8%
11.1%
13.5%
0.1%
6.8%
7.9%
0.8%
9.0%
12.3%
6.6%
8.5%
9.9%
-2.0%
9.1%
10.0%
-1.8%
9.9%
9.1%
2.6%
10.8%
11.2%
への投資の拡大、後述す
る LBO 案件における融資比率の縮小、専門家や法制度、情報開示の充実、株主資本主義の浸
透といった PE を取り巻く環境が整備されていること、などが挙げられる(越 2000)。
外部資金調達残高に占める PE の割合は約 5%と推定さ
れる(表 1−3 参照)。確認可能な PE 投資の残高の数字は
ないものの、投資保有期間が 3∼5 年程度であることを勘
案して、2000 年から 4 年間の投資が 2003 年末残高として
残っていると仮定すると、その金額は 22 兆円になり、銀
行借入などと比較しても、その規模は一定のものになって
きている。
M&A 市場全体との比較においては、PE による買収案件
表1-3 一般企業調達手段別残高
2003
(兆円)
1
498.6
100.0%
外部負債残高 (A)
CP
10.8
2.2%
歳入債
16.2
3.2%
社債
285.2 57.2%
銀行借入
69.5 13.9%
その他借入等
66.8 13.4%
モーゲージ
49.9 10.0%
PE残高(試算)(B)
22.2
B/A
4.5%
(出所)Flow of Funds(FRB)
1
2003年第3四半期末
は、ここ 10 年間程度の数字を見ると、全体の 3%程度を占
めている11。因みに、日本における PE ファンドによる MBO 案件数は、M&A 市場全体の 0.6%
Thomson Financial Venture Economics
もうひとつの大きな理由としては、PE の価格変動と、上場株式や債券といった主要な投資
対象の価格変動との相関が小さいことが挙げられる。
9,11
10
7
(2003 年:M&A1,728、MBO10)であり、単純な比較はできないものの、今後その件数は増
えてくることが予想される。
(3) PE 投資の流れ
①
案件採択
PE ファンドにおいては、
実際に投資が行われるのは候補案件 100 社に 1 社と言われており、
投資案件を如何にして探してこられるかが重要な能力のひとつである。
候補案件の採択の是非については、PE 会社は、通常、案件金額、対象とする企業の規模や
業種、成長段階、用いる投資手法などについて投資基準を設定しており、これに該当するかど
うかの外形的な判断がなされるが、これによって概ね 9 割の案件が投資対象から外されること
になる。外形的な用件を満たした案件については、次の段階として、投資申込の信憑性や事業
計画の妥当性が簡単に検証されることになるが、この段階で殆どの案件がふるい落とされてし
まうのである。
投資可能性があると判断された案件は、投資対象の精査と案件をどのように仕組むかを含め
た条件交渉が行われ、これを潜り抜けた案件に投資が実施されることになる。
②
案件管理
PE ファンドによる投資期間中の案件管理は、株主としての立場から行われる。ファンドが
半数以上の株式を有する場合、取締役会を支配することになる。投資先企業の経営陣は、事業
再生案件を除けば、原則として投資後もそのまま残ることになる。PE 投資にとってその会社
に適した経営陣というのが投資を成功に導く最大の要因であり、むしろ優秀な経営者に残って
もらえるように雇用契約や報酬を設定することになるのである。50%未満の株式しか取得して
いない場合には、ファンドは、少なくとも取締役会に席を持ち得るだけの投資を行い、積極的
に経営に関与するのが一般的である。
③
売却
PE 投資は、3∼5 年程度で売却されるが、その方法としては、新規上場、他の事業会社への
売却、他の PE ファンドへの売却、といったものがある12。どの方法にも一長一短があり、ど
れが PE ファンドおよび会社にとって適切な方法であるかは、案件によって異なってくる。た
だひとつ言えることは、優れた会社であれば、必ず何らかの形で買い手が見付かるのであり、
その意味では、如何に企業内容を良いものにしておくのかが重要になってくる。
12
この他に投資先企業による買戻しがあるが、あまり一般的ではない。
8
新規上場は、会社としての独立性が維持されるとともに、
売却価格が高くなる点が有利であるが、市場環境によっては、
どんなに優良な企業であっても、上場が難しくなる可能性が
ある。また、新規上場後一定期間は、基本的に所有株式を売
却できないため、ファンドにとっては、すぐに現金化できな
いという欠点がある。いずれにしろ、PE 投資案件の新規上
場は年間 20∼30 件にとどまっており、その数はごくわずか
である(表 1−4 参照)。
他の事業会社への売却は、一般的に言って、最も価格が高
くなることが期待でき、さらにすぐに換金されるという利点
表1-4 PE投資案件の新規上場
市場全体に
案件数
占める割合
1990
24
3.6%
1991
40
6.0%
1992
51
7.6%
1993
49
7.3%
1994
34
5.1%
1995
28
4.2%
1996
27
4.0%
1997
33
4.9%
1998
23
3.4%
1999
30
4.5%
2000
17
2.5%
2001
15
2.3%
2002
22
3.3%
2003
21
3.1%
(出所)Venture Economics
があるものの、企業側にとっては独立性が失われるという欠
点がある。
他の PE ファンドへの売却13は、新規上場および他社への売却の代替手段であるが、近年は
売却方法の中心となってきており、PE 業界全体が資金余剰状態にある中で、今後もこの傾向
は続くと見られている。
(4) 中堅企業向け案件の特色
PE ファンドにとって、中堅企業案件はいくつかの特色を持っており、こうした特色のおか
げで高い利回りが確保できている(表 1−2 参照)。
まず、中堅企業案件の大きな特色は、その数にある。Dun & Bradstreet によると、売上が
50∼250 億円の企業が約 3 万社あるのに対して、250∼1,000 億円の企業は約 7 千社、1,000 億
円超は約 3 千社であり、中堅企業の PE 市場は裾野が広くなっている。このため、近年 PE 市
場が急速に拡大しているにも関わらず、競争はまだそれ程激しくなっていない。
次の特色としては、買収価格が比較的低いという
点が挙げられる。M&A 市場全体で見た場合、大企
業に比べて買収価格が相対的に安い14ため、PE フ
ァンドにとって投資がしやすい対象となっている
(表 1−5 参照)。但し、この点については、変化が
起きてきている。従前、中堅企業が売却される場合、
投資銀行がアドバイザーとして付くことは少なか
ったが、最近この点に変化が生じており、結果とし
表1-5 案件規模毎の買収価格相対比較
倍率:買収価格/EBITDA
案件規模(億円)
250未満 250∼500
500超
1995
5.5
6.4
7.1
1996
6.1
6.4
7.2
1997
7.0
7.9
8.3
1998
7.0
8.3
8.5
1999
6.3
7.3
7.9
2000
6.2
6.7
6.7
2001
5.9
6.3
6.4
2002
5.8
6.8
6.7
(出所)Standard & Poor's
同じ PE 会社の別のファンドがこれを購入することも考えられるが、これは、それぞれのフ
ァンドの LP を考えた場合、利益相反となるため、実際には不可能である。
14 理由としては、①競合が少ない、②非上場であるためにリスクが高い(IPO discount)
、③
経営の成熟度が低いためにリスクが高い、といったことが挙げられる。
13
9
て、オークション15を通じた買収を余儀なくされることが多くなっているのである。オークシ
ョンを如何に避けるか、あるいはオークション案件を如何に上手に買収するかは、中堅企業向
けの PE 業界において、現在最も注目を集めている議論のひとつであり、各社はこれに頭を悩
ませている16。
また、中堅企業は、優れた経営基盤を持ちながらも、大企業に比べると、経営を高度化して
企業価値を高める余地が残されている場合が多いことも、その特色である。PE ファンドによ
る経営への関与のあり方については後程詳述するが、この点は、PE ファンドにとって、魅力
であると同時にリスクでもある。PE ファンドは、中堅企業案件を扱う際、企業価値を高める
ための基礎となるだけの経営基盤は有しており、かつ自らの有する経営に関する専門知識を投
資先企業の企業価値上昇につなげることができる案件を探してくる能力が求められることにな
るのである。
15
投資銀行が売却候補案件の内容をまとめた資料を作成、これを複数(50∼100 社程度)の買
収候補に送付して、一番望ましい条件を提示した先に売却するもの。一般的に、オークション
を行うと売却価格を上げることができる。
16 外資系 PE ファンドで日本企業と提携関係にないところは、日本で買収先を発掘する際に、
投資銀行の行うオークションに参加せざるを得ないのが現状であり、これが、こうしたファン
ドが日本でなかなか実績を挙げられない原因のひとつになっている(Wright 2003)。
10
2.PE ファンドによる買収
(1) LBO あるいは MBO による買収
PE 投資の基本的な形態は、被買収企業のキャッシュフローを返済原資とする借入と PE ファ
ンドが提供する資本を組み合わせて買収を行う LBO(leveraged buyout)あるいは MBO17で
ある。VC とは異なり、PE ファンドが買収対象とする企業は、成熟した産業の成熟した企業と
なる18。
一般的な仕組みとしては、買収資金のうち融資は、
通常部分を銀行が出し、残りの劣後部分を銀行以外
図2-1 LBO案件における融資倍率
銀行
的には、議決権のない優先株式が大半を占め、これ
5.0
を PE ファンドが所有することになる。普通株式は、
70∼90%を PE ファンドが所有し、残りを経営陣な
どが所有する20。優先株式の配当は、現金ではなく
新たな優先株式の割り当てという現物配当
(pay-in-kind dividend)で支払われることが多い。
融資額/EBITDA
2−1 参照)。資本は、金額
6.0
の金融機関が出す19(図
4.0
1.7
1.2
1.2
3.0
2.0
3.5
3.3
1.0
非銀行
2.9
1.5
1.4
2.2
2.4
01
02
0.0
98
99
00
(出所)Standard & Poor's
優先株式の配当率はあらかじめ決められており、そ
れに足るだけの利益が上げられないと、その分だけ
普通株式の価値が減価していくことになるので、経営陣が業績を上げようとする動機付けとな
る21。
LBO は、80 年代から 90 年代初頭にかけて、①買収金額に占める資本の割合を小さくするこ
とで、出資者が高い利回りを達成できる、②借入金を用いることで少ない自己資金で大型案件
17
経営陣は、PE ファンドと利害関係を一致させ、収益を拡大する動機付けを与えるために、
通常、最大 10∼15%の出資を行うことになる。このため PE ファンドによる買収は、経営陣が
主導して行う狭義のもの(management-led buyout)だけはなく、一般的に MBO と呼ばれる。
PE ファンドによる買収の呼び名は、LBO、MBO、あるいは単純に buyout と、人によってあ
まり区別なく使われている。
18 買収候補が備えていると望ましい要素としては、①安定したキャッシュフロー、②景気循環
の波が激しくない、③融資の担保となる資産を有している、④借入が少ない、⑤多額の設備投
資を要しない、⑥実績のある優秀な経営陣、⑦収益性向上の余地がある、⑧ある程度の成長が
期待できる、といったものが挙げられる。
19 最近ヘッジ・ファンドが、業績不振企業の債権買い取りに続く投資先として LBO 案件に目
を付け、銀行が手を出さない案件に資金を提供して市場を乱している。行動様式や文化、考え
方が既存の金融機関と異なるため、異端視されており、金融機関から「ハゲタカ」と呼ばれて
いる。
20 普通株式が金額的に小さいため、経営陣は少ない資金で一定水準の議決権を得ることができ
る。経営陣は、分割して株式を購入するが、議決権は購入完了後に到達する予定出資比率見合
いで与えられる。経営陣が十分な資産を持たない場合、会社が購入資金を融資する。
21 さらに、経営陣に割り当てられる普通株式のうち何割かは、業績が決められた水準に達しな
いと、その権利が失われるので、これも動機付けとなる。
11
の買収が可能になる、といった理由で急速に市場が拡大した。現在でもかかる 2 つが、LBO が
用いられる理由であることには変わりはないが、その度合いは変化してきている。
図 2−2 は、LBO における資
図2-2 LBO案件における資本の比率
本の比率であるが、80 年代後半
%
45
40
35.7
35
30.0
30
25.2 26.2
20.7 22.0
25
37.8
40.6 40.0
大きく増えている。これは、逆
31.6
に言えば、買収金額全体に占め
23.7 22.9
る融資の比率が小さくなってい
20
15
10
から現在に至るまでその数字が
13.4
るということであるが、その原
9.7
因は、LBO 案件の破綻発生によ
5
り、融資比率の高い LBO に対
0
88 89 90 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02
(出所)Standard & Poor's
する銀行の姿勢が厳しくなった
ことと、銀行業界における大幅
な統合の結果、銀行間の競争が
少なくなったことである。当初はできるだけ高い融資比率で、経営資源が有効に活用されず市
場で過小評価されている企業や業績不振に喘いでいる企業を、できるだけ安く買収することで
高い利回りを得ることが可能であった22が、多くの PE ファンドが立ち上げられ、競争が激し
くなったことも相俟って、それが難しくなってきており、現在は、投資後に如何に企業価値を
向上させられるかが、投資収益を上げるための決め手となっている。
中堅企業を対象とした買収案件の主要なものとしては、大企業などの親会社からの事業部門
分離(spin-off)や子会社分離(carve-out)が挙げられる。PE ファンドへの売却は、同業他社
などの一般の事業企業への買収に比べると、合併効果が見込めない分価格が低くなるが、①業
績不振による資金繰り逼迫や事業再構築など、売却をせざるを得ない状況にある、②競争上の
観点から、競合他社への売却は望ましくない、③一般企業の買い手が見つからない、といった
理由から売却が行われることになる。
逆に、こうした消極的な理由ではなく、経営陣が主導して買収が行われることも多い。具体
的には、中核分野から外れているために十分な経営資源が投入されない、あるいは全社的な経
営戦略もしくは企業文化と相容れない部分がある、といったことが成長の制約要因となってい
るため、独立した経営体とすることが望ましい場合に、経営陣と PE ファンドが手を組んで買
収を行うのである23。
特に LBO が盛んになり始めた 1980 年代初頭頃は、業績不振の会社を買い叩きばらばらに
して売り捌く(bust-up)手法が取られることがしばしばあり、「会社乗っ取り屋」
(corporate
raider)とマスメディアで非難されることも多かった。(Olsen 2002)
23 経営陣と PE ファンドが組んで買収を行う方法としては、これ以外に MBI(management
buy-in)と呼ばれるものがある。実務経験の豊富な業界の専門家が、自らが経営者となり得る
22
12
(2) リキャップ
リキャップ(recap もしくは leveraged recapitalization24)は、会社所有者が、一定程度の
出資比率を残しつつ、その持っている株式を現金に替える手法である。完全な買収と異なり、
会社との関係が無くなる訳ではなく、さらに、出資を残しておくことで、企業がその後成長し
た場合には、新規上場や他社への売却がなされた際にもう一段の利益を手にする可能性がある
ことから、リキャップは、特に創業経営者にとって、心理的な抵抗感が小さいのが特徴である。
リキャップは、具体的には、融資および PE ファンドからの資本を原資として、企業が自社
株買いを行う、あるいは多額の一時配当を行うことで、会社資産として固定化されている株主
の所有資産を現金化するのである。従来の株主が一部残ることを除いては、実質上 LBO と殆
ど変わらないが、会計上 PE ファンドへの企業の売却と見なされないため25、のれんが計上さ
れず、その後のれんの減損処理によって収益が圧迫される心配がないという点が26、違いとし
てある。
リキャップの典型的な例としては、創業者が、影響力は残しつつも半分引退して世代交代を
行い、代わりに PE ファンドおよび他の経営陣が新しく株主として名を連ねるというものが挙
げられる。また、経営者が、引き続きその地位を維持しながら、それまで築き上げたものをと
りあえず現金化し、今後の更なる成長を目指して行きつつも、全ての資産を失うリスクを防ぐ27、
といったものも典型的なものである。
一方で、リキャップを行うと、会社の借入依存度が高まることになるため、借入余力のある
企業でなければ、この手法は使うことができない。また、既存株主の影響力が買収後もある程
度残るため、それが問題になるような場合は、利用することができない方法である。
(3) その他の買収手法
①
上場企業非公開化
上場企業を LBO により買収して非公開化する手法(public to private)は、PE ファンドが
大企業を買収する際に用いられる方法であり、大企業の LBO が盛んであった 80 年代後半から
90 年代初頭にかけてだけではなく、現在でも一般的に行われている。
これに加えて、最近では、規模の小さい上場企業が非公開化する動きが広がっており、その
一環として PE ファンドへの買収が用いられることが増えてきている。非公開化が増えている
理由としては、ひとつには、企業改革法(Sarbanes-Oxley Act of 2002)により上場を維持す
候補企業を見つけると、PE ファンドが資金を提供して、その会社を買収するのである。
leveraged recapitalization は、より一般的には、借入を増やして代わりに資本を減らす行為
を指し、LBO の他、多額の配当を実施する場合や自社株買いをする場合に行われる。
25 このためには、既存株主の出資比率を少なくとも 10%以上に維持する必要がある。
26 日本と異なり、米国では、のれんは償却の必要がなく、減損処理だけを行えばよい。
27 リキャップの結果、従前は必要であった会社借入に対する個人保証が不要になることが多く、
この意味でも、経営者はリスクを軽減することができる。
24
13
る費用が大きく増加している28ためであり、もうひとつには、EBITDA が 30∼40 億円を下回
る規模の会社は、市場でハイ・イールド債が発行できないことが多く、上場している意味がそ
の分小さいためである。
②
業界再編
PE ファンドが企業を買収した場合、その投資期間において追加的な買収を行うことで、企
業価値を高めようとするのは一般的なやり方である29。その中でも業界再編(consolidation あ
るいは buy and build)と呼ばれる手法は、複数の買収を実施して市場において一定の地位を
確保することを前提に、核となる企業の買収を行うものである。この手法は、規模の比較的小
さい会社が数多く存在している業界、例を挙げると、衣料品製造、プラスチック製品、ゴム製
品、精密金属部品、自動車部品、建設機械部品、ビル管理、情報サービス、ラジオ局、卸売、
などを対象に行われている。
③
事業再生
日本で PE ファンドと聞けば、
「ハゲタカ」という単語がすぐに浮かび、業績不振の会社を対
象とした事業再生の手法という印象が強い。しかしながら、米国においては、事業再生
(turnaround)は市場の一部に過ぎず、また、企業の事業再構築のためには特殊な技能が要求
されるため、事業再生案件を対象とするのは、それを専門に扱うファンドであることも多く、
また一般のファンドが対象分野から事業再生を除外していることも多い。
(4) PE ファンドと会社経営陣の関係
PE ファンドによる企業価値の創造
①
PE ファンドが投資先企業の企業価値を向上させる上で最も重視しているのが、経営陣であ
る。そして、PE ファンドにとって、株主として、取締役として、企業価値を向上させていく
ためにまず重要なことは、経営の規律を保つことである。
Rogers(2002)によると、成功している PE ファンドは、会社にとって鍵となる戦略を 1 つあ
るいは 2 つ決め、それに経営資源を最大限集中させている。投資の最初の段階で、中期的に見
て、会社のあり方を基本的な部分で変化させ、成長に向かうための経営方針を、数値目標では
なく、むしろ言葉で明確に定めて、その達成を経営の柱としていくのである。そしてその達成
度合を判断するために、利益ではなくキャッシュもしくは企業価値に基づく数値基準を、投資
関係する役員は、この対応に時間の 3 分の 1 を取られ、費用も、小さい上場企業で年間 3 億
円かかると言われている。
29 似たような手法で roll-up と呼ばれるものがある。これは、ほぼ同時に数社の買収を行い、
すぐに新規上場を図る手法で、規模を大きくすることで買収倍率を高める金融技術的なもので
ある。90 年代後半に流行したが、買収後の事業統合が上手く行かない案件が多い(Rickertsen
2001)。
28
14
先企業の性格に合う形で必要最低限設定し、総合的な評価の材料としている。さらにこうした
ファンドにおいては、目標の達成に経営資源を集中することに加えて、不稼動資産の再配置・
売却や、調達方法の高度化などにより、資産・負債を徹底的に見直すということについても規
律を図っていることが多い。
規律という面で、加えて重要なのは、売却する時、あるいは計画通りに物事が進まない時に、
心情的な部分を抑えて株主に徹するということである。特に重要なのが、経営陣の入れ替えで
ある。PE 投資においては、4 分の 1 から 3 分の 1 の確率で、業績が上がらない CEO を途中で
交替させざるを得なくなる。PE ファンドは、経営陣、特に CEO と密接な関係を築く必要があ
る中で、株主としてその首を切らなければならない局面が生まれるのである。これは、PE フ
ァンドにとって最も難しく、やりにくい事柄であるが、暫く様子を見るというのは禁物であり、
決して長く待ちすぎてはならないのである。
規律と同じように重要なのが、PE ファンドが、その持っている専門性を活かして、経営の
重要課題について助言を与えることである。PE ファンドは、経営戦略の立案や生産性・事業
効率の改善、経営環境の変化への対応、買収戦略、資本戦略の立案・支援、新しい取締役や経
営陣の導入、給与・報酬体系の構築などにおいて、経営に関与していき、そして、人的なつな
がりを活かして、新規顧客や資金調達先の紹介などを行うことで、企業価値を向上させていく
のである30。どの事柄でファンドが最大限の力を発揮できるかは、その専門性によるが、一般
的に、経営戦略と買収戦略の立案が、PE ファンドにとっての得意分野と言える。
ところで、PE ファンドは、どこまで経営に関与しているのか。別の言い方をすれば、どの
程度まで経営を管理しているのか。ある意味では、株主資本主義の究極の形と言える PE ファ
ンドによる企業統治は、株主と経営者の間に緊張関係を生み出すが、近年は、それが敵対的な
ものから友好的なものに変化してきている。極端に言えば、
「有能」なのは PE ファンドであり、
「無能」であるが故に企業価値を十分に高められていない経営陣を意のままに管理し、自らの
持つ専門知識と金融技術を駆使して収益を上げる、というのが当初の PE 投資の姿だとすれば、
現在の PE 投資においては、「有能」なのは経営陣であり、PE ファンドは、株主として経営陣
に規律は与えつつも、自らを経営陣にとって足りない部分を補う戦略的な相棒として位置付け
ているのである。有力 PE 会社のひとつ Texas Pacific Group の創立パートナーである David
Bonderman によると、「80 年代は、LBO 案件を実行する能力さえあれば大きな利益を得るこ
とができた。90 年代前半に入り、1 件あたりの期待収益が小さくなる中で、確実に投資回収を
図るために、投資先企業を取捨選択する判断能力が必要となった。さらに 90 年代後半には、
投資先の企業価値を上げることができなければ利益を得ることができなくなった。そして現在
有力な LP であるエール大学基金は、その PE 投資哲学として、
「金融技術は PE 投資におい
て重要な要素であるが、我々は、より優れた事業を根本的に作り上げるファンドを探している。
金融エンジニアリング技術は商品であり、すぐに手に入り、その費用も安い。しかしながら、
価値創造の実務経験は、貴重なものである。」としている(Lerner 2002)。
30
15
は、
(激しい競争の中で被買収企業から選んでもらうためには、投資期間が終了すればそれで終
わりではなく)投資期間内に上げた企業価値を、投資期間終了後も持続できる体制を作り上げ
られる能力があるかどうかが鍵となっている」のであり、PE ファンドは、企業にとって「乗
っ取り屋」ではなく、戦略的な連携相手と言える存在となってきているのである。
さらにこの延長線上で、最近議論になっているのが、PE ファンドが日々の業務運営に対し
てまで関与していくべきか否かについてである。PE ファンドが、①業務経験が豊富な業界の
専門家を PE ファンドに置く、②投資先企業に外部から COO を雇い入れる、③外部コンサル
タントを活用する、などによって、投資先企業の日々の運営まで関与していくことについては、
肯定・否定両方の意見がある。肯定派は、日々の業務についても会社に役立つことができると
していることに加えて、上手く行かない場合に CEO を交替させるのは費用がかかる上に時間
の無駄でもあるので、最初から積極的に実務に関与することで、そうした事態を未然に防ぐべ
きとしている。一方で、否定派は、業界のことを理解する上での専門的な知識を有しておくこ
とは重要であるが、実際の事業を運営する能力を有しておく必要はなく、日々の業務への過度
な関与は、経営陣の自負を傷つけることになり上手く行かないとしている。今のところ、PE
ファンド間の競争が激しくなる中で、日々の業務への関与を謳い文句にするところも出てきて
いるが、肯定派はまだ少数であり、株主あるいは取締役として、重要な戦略、設備投資や買収、
資金調達には必要に応じて口を出すが、日々の業務については基本的に経営陣に任せ、気持ち
良く仕事をしてもらうというやり方が主流であり、
「ハンズ・オン」型の経営関与は一般的では
ない31。そういう意味では、優秀な経営陣を有する投資先候補を見つけ出してくることが重要
なのである。
実績のない新規 PE 会社においては、日々の業務運営に関する能力を売りにすることで、既
存の PE 会社との差別化を図るところが増えてきている。
31
16
②
中堅企業における価値創造手法
前述したように、中堅企業においては、経営への規律の導入や経営に対する助言によって企
業価値を上げることが比較的容易である。むしろ、中堅企業は、PE ファンドによってもたら
される規律や知見を必要としているとも言える。
PE ファンドによる中堅企業の価値創造手法について、具体的に示したのが下の図である。
PE 投資の対象となる中堅企業は、安定したキャッシュフローを生み出しているところであり、
経営基盤が安定している一方で、成長余地には限りがあり、派手な買収や事業革新は適切な方
策ではない。むしろ、足りない部分をひとつひとつ地道に補っていくことが、企業価値を高め
る上で望ましい方法なのである。
図2-3 PE投資による中堅企業価値創造
PEファンドによる事業支援
・「ジャスト・イン・タイム」などの
・買収・新規事業進出
優れた経営手法の適用
・戦略提携・合弁事業
・新技術
・製品群の再配置・増加
・高度化された
・成長戦略に必要な
運転資金・在庫管理
経営資源改善・IT投資
・価格体系の見直し
中堅企業
優れた経営基盤を有する中堅企業を
PEファンドの持つ洗練された経営手法が補う
とともに、経営に規律を与えることで、
より高度化された経営基盤を確立して企業価値を創造
(出所)Kelly(1999)より作成
17
長期的な経営基盤
・十分に差別化された製品・サービス
・多様な顧客群
・多様な販売網
・市場での生き残り戦略
・複数の製品
・複数の潜在市場
・高いシェア(理想としては1か2位)
・参入が容易でない市場の確保
・顧客にとって費用面で乗り換えが困難
・市場が急激に変化しない
・安定的で高い収益性
・地理的にリスクが分散
・高い経常的収益の比率
・高い顧客保持率
・顧客との長期的な関係
・事業運営に必要な規模の市場の確保
3.中堅企業の資金調達手段としての PE
「我々は、貴社の事業拡大や買収に資金を提供できます。我々は、新しい顧客を開拓する手
助けができます。我々は、経営陣を入れ替えたくないだけでなく、彼らに一定以上の株式を与
えたいと思っています。
」これが中堅企業を対象とした PE ファンドの典型的な売り文句である
(2004 Venture Capital & Private Equity Conference)。中堅企業向けの PE 投資においては、
企業の買収という本来の姿に加えて、資金需要のある企業への資金供給という側面が大きくな
ってきている。
日本での現状を考えた場
合、PE を資金調達手段のひ
図3-1 2004年に予定している資金調達方法
とつと考えることには違和
銀行融資
感があるが、米国の中堅企業
自己資金
リース
において PE は資金調達の
CEO を対象に行われた調査
結果(Fleet Capital 2003)
であるが、これによると、約
19%
証券化
13%
メザニン・ファイナンス
ハイ・イールド債
その他
6%
3%
8%
資金使途
31%
機械・設備
27%
運転資金
2 割が PE による調達を計画
事業拡大
しており、銀行融資、リース
M&A
に次いで 3 番目に位置付け
DIP
られている。
36%
PE
重要な選択肢となっている。
右の図は、中堅製造業 32 の
74%
64%
24%
15%
6%
5%
買収
(出所)Fleet Capital (2003)
外部資金調達の手段とし
て考えた場合、
・ 資本であり、非上場であるため、リスクが大きく、投資家から 20∼30%の利回りが要求さ
れ、最も費用のかかる調達手段である
・ 現在の株主の持株比率が大幅に低下する
・ PE ファンドから取締役が送り込まれ、経営を監視される
・ 申し込みから調達できるまで 4∼6 ヶ月を要する
・ PE ファンドは、投資を 3∼5 年で売却する
といった欠点があるにもかかわらず、何故 PE は、中堅企業にとって重要な資金調達手段とな
り得ているのか。その大きな要因は、銀行の貸出姿勢が慎重になる中で、PE ファンドにおけ
る成長資金(growth capital)の供給が拡大してきていることにある。
32
調査対象は売上高 25∼2,000 億円で、このうち非上場企業は 81%。
18
(1) 成長資金
成長資金は、成長のための設備投資や買収に対する資金供給である。PE ファンドによる投
資の特徴は、経営権を握ることで株主としての意向が最大限に発揮できる土台を作り、投資期
間内に企業価値を最大化することにあるが、成長資金の供給は、形としては VC の投資手法に
近く、通常 50%未満の出資比率であり、経営権は握らない。会社にとっては、経営権が移らな
いので、他の PE 資金に比べて利用しやすい。
成長資金は VC による投資に近く、実際に、IT バブルの崩壊もあって投資機会を求めて VC
が PE の領域へ進出する例が増えてきているが、その投資内容は、VC とは異なっている点が多
い。第一に、対象となるのは、成長段階にある会社ではなく、ある程度成熟した企業である。
VC は、リスクの大きさよりも成長の大きさに投資判断の力点があり、極端な話、投資先 10 社
のうち 1 社でも大幅な投資収益が得られれば投資利回りが確保できるという行動様式にあるが、
PE ファンドの投資判断基準は、あくまで確実な事業計画にあり、10 社のうち 9 社は相応の投
資成績を上げる必要がある。第二に、対象業種があまり細分化されていない。VC は、
「ハンズ・
オン」型の投資を行い、経営に深く携わるため、専門知識が要求され、自ずと投資対象とする
業種が限定されてくるが、PE の投資は基本的に「ハンズ・オフ」型であり、専門的な業界知
識はそれ程要求されない。
PE の成長資金を利用する企業は、基本的には、通常の銀行融資だけでは十分な資金を得ら
れないところであるが、これは企業そのものに与信リスクがあるというよりは、必要としてい
る資金が与信限度を超えているという意味である。但し、PE 投資は、時間をかけて企業を分
析し、経営に参画することで、リスクを収益に変えることができるため、通常の方法では必要
な資本調達ができない企業でも調達が可能となる。加えて PE による調達については、①借入
に伴う利払いによる固定費用の発生なしに資金が得られる、②PE ファンドの持つ専門的な知
見によって成長の助けとなる経営支援が受けられる、③借入余力を残すことで資金面での柔軟
性を確保できる、④初期投資以降にも成長資金の供給が必要に応じて継続的に受けられる、と
いった利点が挙げられる。成長を目指す企業は、PE による資金調達の利点・欠点を比較検討
して、その是非を判断することになるのである。
(2) 経営権を握らない投資
成長資金の供給が拡大しているということは、経営権を握らない投資を行う PE ファンドが
増えてきていることを意味する。その理由としては、巨額の投資資金が PE 市場に流れ込み、
15 兆円を超える未投資資金が残っている中で、競争が増してきている伝統的な経営権を握る買
収案件を避け、出資比率 50%未満の案件に投資機会を求めるファンドが増えていることが考え
られる。特に、近年オークション案件が増える中で、伝統的な買収案件における PE ファンド
の価格決定権は限られてきているが、経営権を握らない案件では、PE ファンドは、まだ比較
的自由に自らの目標利回りに合わせて価格を設定できるのである。加えて、経営権を握ること
19
ができない分、買収価格が安くなる。経営権を握る買収は、市場価値に経営支配権の分を上乗
せした価格を支払う(control premium)33のが一般的であり、その分安くて済むのである。
一方で、出資比率 50%未満の投資の場合、当然のことながら、PE ファンドが投資先の経営
を管理できる能力が弱くなる。その対処方法としては、まず、株主間契約において、自らの拒
否権発動を可能にする絶対多数条項(super-majority vote)を設定するのが一般的である。絶
対多数条項の対象となるのは、一定額以上の新規借入、設備投資、M&A、資産売却、所有株式
の売却、新株発行、株主配当、報酬・賞与規程の変更などの、重要な経営事項および PE ファ
ンドの利益に反する可能性のある事項である。
他に一般的なのが、一定期間(通常 5、6 年)経過後に会社による株式買い戻しを要求でき
る権利を設定しておくことである。買い戻しを要求することによって、PE ファンドは、会社
から資金を回収できる、あるいは会社に十分な資金がない場合は、何らかの手段による第三者
への売却を会社にさせることが可能となる。但し、PE ファンドが実際に買い戻し要求を行う
ことは稀である。通常は、会社との間で協調関係を築き、お互いのことをよく理解することに
よって、投資回収を図る PE ファンドの意向を十分に踏まえた経営を会社が行っており、買い
戻し要求の条項を使わざるを得ない事態は発生しないのである。
逆に、何か問題が発生したときに強制的に株式を買い増すことができるとする条項を入れる
ことは、一般的ではない。色々と制限を掛けられる条項があるので、徐々に管理を強化してい
き、最終的に経営権を握ることはあり得るが、あくまで 50%未満の投資は、経営権を握らない
ことを前提とした投資となっている。
いずれにしろ、50%未満の投資案件が伝統的な買収案件と、仕組みにおいて違うということ
はない。絶対多数条項や買い戻し条項は、通常の買収案件においても含まれているものであり、
50%未満の投資案件において違う点は、その効果が大きいということである。前述した通り、
PE ファンド全体に、経営陣に気持ちよく仕事をしてもらうことで企業価値を高めるという傾
向が見られる中で、50%未満の投資が増えてくることは自然な流れということができる。
(3) 上場企業の私募増資
PE ファンドにからの資金調達の特殊な形としては、上場企業の私募増資(PIPE :private
investment in public equity)がある。これは、特定少数の投資家が公開企業の未登録株式に
投資することである。公募ではないため、諸手続きが簡素で、企業の資金調達に伴う時間、諸
経費を大幅に軽減することができる。PIPE は米証券取引委員会(SEC)に対する株式登録を
済ませていない状態での約定となるため、投資家は当該株式を市場で売却することは出来ない
が、その代償として、PE ファンドは、通常時価に対して 10∼15%の割引額で株式を取得する
ことが出来る。
33
30%程度。
20
4.PE ファンドの類型
(1) PE ファンドの類型
PE ファンドをその特徴によって分
類してみると、数および資金調達額の
いずれにおいても最も大きな割合を占
めているのが、買収とリキャップを中
心に行う買収型ファンドである。その
次に来るのは、買収を中心としつつも、
基本的にあらゆる手法に対応可能な総
合型のファンドとなっている。
表4-1 PEファンド種別調達額
2001
(億円)
1ファンド
数
金額
数
平均
買収
72 39,789
553 36
総合
13
5,696
438 8
グローバル
2
3,400 1,700 1
協調投資
6 12,221 2,037 3
成長資金
3
193
64 5
産業特化
13
2,640
203 8
事業再生
5
3,775
755 10
合計
114 67,714
594 71
(出所)Asset Alternatives
2002
金額
18,031
3,894
6,200
229
379
938
6,515
36,186
1ファンド
平均
501
487
6,200
76
76
117
652
510
世界的に展開しているファンドは、
金額的には大きいが、数的にはかなり限られてくる。海外における投資は、リスクの質が違っ
てくることに加えて、企業統治を行うために現地に職員を置く必要があることから、投資地域
を米国内に限定しているファンドが殆どであり、海外を投資対象に含めているファンドは、大
規模な PE 会社によるものであることが多い。
専門分野に特化しているファンドとしては、既に触れた事業再生の他、特定の産業分野に特
化したところや、成長資金に特化したところがある。PE ファンドが特定の産業に特化する理
由としては、①その業界の専門的な知識を有することが重要な要素となる業界を対象としてい
る、②専門性を活用することで、投資先の企業価値をより高めることができ、一般のファンド
と差別化が図れる、といったことが考えられる。
(2) 中堅企業向け PE 会社の概要
中堅企業向けのファンドを運営している PE 会社の概要について、以下に記していく。
まず、その規模を見てみると、1 社あた
りの管理資本額34の中間値は 457 億円とな
っている。大きい PE 会社は、管理額が 1,000
億円を超えているところがあるが、多くは
数百億円規模であり、この規模を超えると、
効率性の観点から大企業への投資へと移っ
ていくものと考えられる。
34
表4-2 中堅企業向けPE会社における投資
1件あたり
対象企業
管理
収入
企業価値
(億円)
投資額
資本額
下限 上限 下限 上限 下限 上限
会社数
95
67
66
81
81
94
93
平均値
765
33 333
38 308
13
56
中間値
457
25 300
30 250
10
40
上位25%
1,008
50 500
50 500
15
80
下位25%
203
20 250
25 200
5
25
上位10%
1,548
50 500
75 500
25 100
下位10%
110
15 200
15 125
5
20
(出所)Galante's VC & PE Directory、各社HP
現在投資されている資本額+LP から約諾を受けた未投資資本額
21
対象企業の規模は、収入基準で、小さいところが 15∼200 億円、大きいところが 50∼500
億円となっているが、売上数十億円の会社を対象とすることは多くなく、中心となるのは、売
上 100∼300 億円程度の会社である。売上 100 億円
未満の中小企業のみを対象とする PE 会社も多くあ
り、数億∼数十億円規模の会社は、そうした PE 会
社が投資することが多い。
対象とする投資手法を見てみると、ほぼ全ての会
社が買収を挙げており、挙げてないのは、事業再生
もしくは成長資金に特化している PE 会社である。
リキャップと成長資金についても 8 割近くの PE 会
表4-3 中堅企業向けPE会社の投資手法
会社数
投資手法
母数
買収
81 97.6%
リキャップ
66 79.5%
成長資金
64 77.1%
業界再編
31 37.3%
83
事業再生
17 20.5%
上場企業非公開化
9 10.8%
上場会社の私募増資
3 3.6%
民営化
3 3.6%
50%未満の投資も可能
32 72.7%
44
50%以上のみ
12 27.3%
(出所)各社HPより作成
社が扱っている。
出資比率については、50%以上の投資しか行わないとする PE 会社は少数で、多くの PE 会
社は、50%未満の投資を行う用意があるとしている。そして、50%未満の投資を行う場合とし
ては、成長資金があるが、むしろ一般的と言えるのが、他の PE ファンドとの協調投資
(consortium あるいは club deal)である35。協調投資においては、通常、案件を主導する PE
ファンドが 50%以上の投資を行い、これを補完
するファンドが 50%未満の投資を行う。協調投
資が行われるのは、案件金額が大きい場合36や、
地理的な制約がある場合37などであり、通常 2 つ
のファンドで行われる。協調投資は、買収案件に
おいて求められる株式部分の比率が高まってく
る中で、増加する傾向にある。
対象とする業界の中心となっているのが、サー
ビス業、製造業および物流・卸売である。実績(案
件金額基準)38を見ても、製造業 49%、サービ
35
表4-4 中堅企業向け会社の投資対象業種
対象
非対象
(会社数:87)
サービス業
71 81.6%
0 0.0%
製造業
67 77.0%
0 0.0%
物流・卸売
37 42.5%
0 0.0%
ヘルスケア
25 28.7%
2 2.3%
放送・出版
19 21.8%
2 2.3%
情報通信
19 21.8%
2 2.3%
金融
16 18.4%
4 4.6%
小売
15 17.2%
3 3.4%
ハイテク
8 9.2%
10 11.5%
情報サービス
6 6.9%
0 0.0%
教育
6 6.9%
0 0.0%
エネルギー
3 3.4%
7 8.0%
バイオ
2 2.3%
2 2.3%
不動産
0 0.0%
10 11.5%
(出所)VC & PE Directory、各社HP
協調投資は、特に実務面において、単独の案件より複雑になるが、リスク分散が図れること
に加えて、①他のファンドと評価方法などについて意見交換ができる、②競合するファンドの
数を減らすことができる、③融資を行う金融機関から好意的に取られやすい、④異なる専門知
識を結集することができる、といった利点があり、中堅企業向け PE 案件においては、しばし
ば行われている。一方で、元々複雑なことが多い大型の LBO 案件は、大規模ファンドの単独
で行われることが多かったが、近年は、案件に占める借入の比率を下げることが求められてき
ており、1 件あたりに必要となる資本が大きくなってきているため、大型案件でも協調投資が
増えてきている。他の PE ファンドとの協調投資の代替手段としては、LP による直接投資との
協調投資がある。
36 リスクを集中させないために、多くの PE ファンドは、1 つの会社に投資できる金額の上限
を、ファンド全体の 20∼25%としている。
37 未経験の土地や海外で買収を行う場合に、地元の PE ファンドと手を組んだりする。
38過去 20 年間(1980−2002 年)の中堅企業案件以外も含めた買収案件(Lawson 2003)
22
ス業 25%、物流・卸売 17%と、主要 3 業種で全体の 9 割以上を占めている。但し、製造業は、
80 年代に 54%を占めていたものが、00 年代に入って 42%に減少している一方で、サービス業
が増加しているが、これは PE ファンドの対象が変わったというよりも、米国経済全体がサー
ビス産業化しているためと考えられる。
確実性が求められる PE 投資では対象とされづらいのは、技術革新が激しい、好況不況の波
が大きい、あるいは成熟度が低いといった性格を持つ業界であり、このため、ハイテクや情報
サービスなどの IT 関連業種およびバイオ業界は、大幅な成長の可能性があったとしても、あま
り対象とされることはない。一方で、高い利回りを達成するためには、ある程度の成長は必要
であることから、今後市場規模が縮小することが予想されている業界は、対象とならない。
また、PE 投資は、投資回収まで 3∼5 年は期間があることから、参入障壁の低い業界は対象
となりにくい。このため、飲食店を含めた小売は、対象とされることが少ない。
(第1章担当
日本政策投資銀行ワシントン駐在員事務所
23
岩崎準 [email protected])
補足 所有株式現金化の選択肢比較
現状維持
他企業
への売却
PEファンド
への売却
PEファンド
による50%
未満の投資
リキャップ
ESOP
による売却
新規上場
売却価格
−
高
中
中
中
中
高
案件成立の可能性
−
中
高
中
高
中
低
事業の継続性
継続
案件による
継続
継続
継続
継続
継続
既存株主の
影響力保持
保持
保持
できない
保持
できない
保持
保持
保持
保持
経営陣の報酬維持
維持
一般的
可能性高い
維持
維持
維持
維持
経営陣による
株式所有の拡大
なし
可能性低い
拡大
可能性あり
可能性あり
拡大
なし
借入依存度上昇
−
−
中∼高
低∼中
高
高
低
現金化
−
全部
全部か一部
一部
一部
税金削減効果
−
なし
なし
なし
なし
(出所)Houlihan Lokey Howard & Zukin Capital
24
全部か一部 案件による
あり
なし
(参考文献)
Anson, Mark, 2002, “Handbook of Alternative Assets”, John Wiley & Sons
Baird, 2003, “US Middle Market Private Equity Survey”
DeGrassi, W. Duke, 2002, “Private Equity Opportunities in Middle Market Buyout”,
Hamilton Lane
Dolle, Peter, 2002, “Are Middle Market Deals the Future for Private Equity”, Buyouts, Dec
2
Fenn, George, Nellie Liang and Stephen Prowse, 1995, “The Economics of the Private
Equity Market”, FRB
Fleet Capital, 2003, “2004 Middle-Market Outlook”
Kelly, Timothy, 1999, “Private Equity Investing: The Attractiveness of the Middle Market
Buyout Segment”, the Journal of Private Equity, Spring, 47-58
Kieren, Thomas, 2001, “New Reality in Private Equity”, the Journal of Private Equity,
Winter, 74-79
Lawson, Douglas and Tina Chan, 2003, ”US Leveraged Buyout Market 1980-2002”, US
Bancorp Piper Jaffray
Lerner, Josh and Felda Hardymon, 2002, “Venture Capital & Private Equity”, John Wiley &
Sons
Liang, Nellie, 2001, “Development of the US Private Equity Market”, Inter-American
Development Bank
Olsen, Jonathan, 2002, “Note on Leveraged Buyouts”, Center for Private Equity and
Entrepreneurship; Tuck School of Business at Dartmouth
Rickertsen, Rick, 2001, “Buyout”, Amacom
Rogers, Paul, Tom Holland and Dan Haas, 2002, “Value Acceleration: Lessons Private
Equity Masters”, Harvard Business Review, June, 6-11
Wright, Mike and Motoya Kitamura, 2003, ”Management Buyouts in Japan” the Journal of
Private Equity, Spring, 86-95
Zachary Scott, 2002, “Anatomy of a Leveraged Recap”, Insight, Winter
越純一郎(2000)「プライベート・エクイティ」日本経済新聞社
25
第2章
メザニン融資
1.メザニン融資とは
近年、米国では中堅企業市場においてメザニン融資の果たす役割が注目されている。決して
目新しい金融手法ではなく、エクイティとシニア債務が企業にとって資金調達の柱である事実
は依然として変わらないものの、メザニン融資は今や企業金融の世界で独自の位置を確立しつ
つあると見られている。1980 年代初頭からメザニン融資は登場し、一時はジャンク債(ハイ・
イールド債)にその地位をとって代わられるかのようにも見えたが、今日、特に中堅企業にと
っては重要な資金調達方法となっている。近年、他の投資先の収益率が大きく変動している中、
メザニン・ファンドの収益率が比較的安定していたことが、投資家の関心を惹く一つのきっか
けとなったと言われる。また調達企業の資金需要に柔軟に対応できるその構造も近年注目の一
因である。
しかし、そうした柔軟性を備えるが故に、一口に「メザニン融資」といっても、その意味す
るところは広範で、捉え難い。一部には名称を混同する向きも見られるため、まずは本稿で取
り上げる「メザニン融資」の定義を整理するところから始めたい。
(1)メザニンとは
メザニン融資を非常に広義に捉えれば、上位債務と株式の間に挟ま
れるような位置に存在する中間的な債務形態、ということになるが、
図表1
シニア債務
企業活動を行う上で生じてくる「ギャップ」を埋めることがメザニン
融資の存在意義である、と考えるとさらに区分しやすくなる。その融
メザニン債務
資によって埋まるのが、①「時間のギャップ」なのか、②「資本構成
のギャップ」なのかによって、大きく二つに大別できると思われる39。
エクイティ
①「時間のギャップ」を埋めるメザニン融資の主要例には、ベンチ
ャー産業の世界において、IPO 等の liquidation event までのブリッジと
して貸し付けられるものが挙げられる。ブリッジ・ラウンドとも呼ばれ40、通常はベンチャー・
キャピタルが劣後ローンと新株予約権の組み合わせを貸し付け、償還期間 3 年、30∼40%の利
回りを目論む41。デュー・デリジェンスも最低限しか行われず、非常に短期間で融資が行われ
るが、調達企業はその対価を高金利と転換株式で支払わなくてはならない。これはベンチャー
企業の成長サイクルの中で、特定時期を乗り越える際に生じる資金需要に応じて提供されるも
のである。
また、不動産開発といったプロジェクト・ファイナンスに用いられるメザニン債は日本でも
Bailey S. Barnard. “Mezzanine Financing Demystified,” Caltius Capital Management,
January 2002 ; Anson, Mark J.P. Handbook of Alternative Assets. New York: John Wiley
& Sons, 2002.
40 Hewitt Investment Group.
“Mezzanine Debt,” In Brief. May 2001.
41 Barnard. “Mezzanine Financing Demystified”
39
26
比較的広く知られているが、これは、建設に伴うリスク、或いはその完工から運営が安定する
までの事業化リスク等を引き受けるものであり、当該プロジェクトのライフ・サイクルの中の
一定期間にわたるリスクを埋めるという点で、これも「時間のギャップ」を埋めるメザニン融
資に分類できよう42。
②「資本構成のギャップ」を埋めるメザニン融資とは、事業拡大に伴う資金調達の過程で生
じる、当該企業の資本構成ギャップを埋めるものを限定的に指し、本稿ではこの種類を中心に
解説していく。
米国においてメザニン・ファイナンスとは、中堅規模の非公開企業に対して、現金収支ベース、
無担保で貸し付けられ、デットとエクイティ双方の性格を併せ持つ債務を指すことが多い。資
金使途は LBO、リキャピタライゼーション(資本再構成)、その他事業拡張一般であり、資本
構成上、シニア債務とエクイティの間に挟まれるようにして存在するため、「メザニン」(中二
階)の名がある。一般的な形としては劣後ローンに新株予約権を付け加えたハイブリッド型で、
劣後のリスクを金利だけでは回収できない為、エクイティ要素43を付け加えることで投資家の
リスクに応えることを意図しており、借入企業にとってはシニア債務よりはコスト高の資本と
なる。
なお、メザニン融資の活用は米
図表2
欧米においてメザニン債務が占める位置
国に限られたことではなく、欧州
金融手法である。米国のメザニ
メザニン
ハイ・イールド
シニア(担保無)
メザニン
ハイ・イールド
5
だし、米国で一般的に言うところ
シニア(担保付)
4
法は着実に充実してきている。た
シニア(担保付)
3
で同地のメザニン融資の規模、手
優先順位
出していることもあり、ここ数年
米国
2
ン・ファンド、LBO ファンドが
英国を始めとして、欧州大陸に進
欧州
1
においても広く利用されている
エクイティ
のメザニン融資とはその意味合
エクイティ
Fitch Ratings, 2003
いが若干異なる44。
欧州と米国においてメザニン融資がそれぞれ占める位置を表したのが図表2である。どちら
のメザニン・ローンも資本構成上は上位債務と株式の間に位置し、主に非公開の中堅企業に対
する貸付という形をとり、流動性が無い、という点では両者は同一だが、欧州におけるメザニ
42不動産開発メザニンでは、資産をリスク別にトランシェ分けし、その中間順位を占めるもの
をメザニンと呼ぶが、これは既に企業金融の世界で使われていたメザニン融資に形が似通って
いたため、その用語を流用するようになったのが始まりと言われている。
43 “Equity kicker”, “kicker”と呼ばれる。
44 McGirt, Derek and Christine Pitre.
“Mezzanine Debt: Another Level to Consider,” Fitch
Ratings Corporates / US and Canada Criteria Report. June 2003.
27
ン・ローンとは一般的には有担保変動金利ローンを指し、無担保固定金利の米国のそれとは内
容を異にする。Fitch Ratings は、欧州メザニンはどちらかといえば米国のハイ・イールド債に
近い性格を持つと分析している。従って、英文資料であっても、資料の出所によっては「メザ
ニン」の表現を用いつつも、異なる融資手法を指している場合があり、注意を要する。
ただし、昨今のメザニン市場の競争の激化から、米国においても後順位の担保権を設定し、
担保資産の残余価値に基づき貸付を行うジュニア有担保メザニンの積極的活用が見られるよう
になり、資本構成のギャップを埋めるメザニン手法の新たな進化形として注目されつつある。
この領域には従来型のメザニン・ファンドや保険会社ではなく、ヘッジファンド、債権・動産担
保貸付業者等が進出しており、そうした最近の傾向についても後述したい。
(2)メザニン市場の発達
メザニン融資が最初に用いられるよう
になったのは 1980 年代初頭、銀行が劣後
債務と新株予約権を組み合わせたものを
図表3
一般的なバイアウト案件における資金構成比較
100
90
ストリップ45と呼び、買収ターゲットに対
80
70
する融資パッケージの一部として手がけ
シニア
シニア
60
たのが始まりであった46。当時はまだジャ
ハイ ・イ ールド/
メザニ ン
50
ンク債(ハイ・イールド債)が市場に登場
40
する前でもあり、バイアウト案件において
30
ハイ ・イ ールド/
メザニ ン
20
メザニン融資が占める割合は小さくなか
10
ったといわれる。
0
エクイティ
エクイティ
1980年代
ドレクセル・バーナム・ランバート社の
現在
Hewitt Investment Group 他,
マイケル・ミルケンによってジャンク債市
場が開かれると共に、企業買収の折にはジャンク債とメザニン融資の両者が、シニア債務とエ
クイティの不足分を補うような形で提供されるようになった。1980 年代の典型的なバイアウト
案件における資金構成は、シニアが 50∼55%、ジャンク債とメザニンの両者で 40∼45%、そ
して残りの 10∼15%ほどをエクイティで負担する、というものだった(図表3)。
1980 年代の M&A ブームにのって、メザニンの存在は大いに注目されたが、それ以上にジャ
ンク・ボンドが多用されるようになり、メザニンは市場の目立たない場所へと押し出されてし
まう。ジャンク・ボンドの発行額が特に伸びていた時期、1980 年代後半と 90 年代の半ば、に
はメザニンは市場からほぼ締め出されてしまった、との証言がある47。なお、80 年代にメザニ
ン・ローンを引き受けていた主要金融機関は保険会社と貯蓄貸付組合(S&L)であったが、そ
45
46
47
Strips
HIG. “Mezzanine Debt”
Schack, Justin. “Stuck in the Middle,” Institutional Investor.
28
October 2000.
の後の金融危機で S&L はメザニンの舞台から姿を消してしまう。
図表4
米国におけるハイ・イールド・ボンド発行額の推移(四半期毎)
百万ドル
Harrison, 2002
図表5
米国ハイ・イールド・ボンド年間発行額の推移
140
120
122.9
102.9
100
十億ドル
87.1
80
57.5
60
38.8
40
20
0
1999
2000
2001
2002
2003
The Bond Market Association, 2000-2004
ジャンク債優勢の流れを大きく変えたのが 1998 年のロシア危機であり、LTCM の破綻であ
った。これを受けてジャンク債発行市場は一気に縮小(図表4)、リスクに敏感になった投資家
は流動性を重視し、発行規模の小さい案件を避けるようになるが、そこに生じた資金供給のギ
ャップを埋めるために再登場し、注目され始めたのがメザニン融資である。
2003 年にはハイ・イールド債の発行総額は大きく回復したものの(図表5)、発行額が 1 億ド
ル(100 億円:$1=¥100)を切るハイ・イールド案件への投資家を確保するのが困難であること
には変わりはなく、メザニンは中堅企業にとっては重要な資金調達手段となっている。メザニ
ン・ローンを引き受ける金融機関も当初はその数、業種が限られていたが、現在ではパートナ
ーシップ運営によるファンド各種、商業銀行、保険会社、官民年金基金という具合に質、量共
に充実してきている48。ハイ・イールド・ボンドの発行が大きく落ち込んだ 1998 年のメザニン市
Fleet Capital. “Mezzanine Finance: Closing the Gap between Debt and Equity,”
CapitalEyes. Oct. 2002.
48
29
場規模は全米で 152 億ドル(1.5 兆円)であったのが 2002 年には 373 億ドル(3.7 兆円)規模
にまで育ってきたとの調査結果がある49。今や、メザニン融資は独自の足場を築き上げたと見
なされてはいるものの、現在に到るもシニア・レンダーの動向と、ハイ・イールド債の最低発
行限度額の推移には非常に敏感であり、景気回復とともに再び市場から締め出されることにな
りはしないか、と警戒する向きが非常に強い。この点については最後に触れたい。
49
McGirt and Pitre. “Mezzanine Debt”
30
2.メザニン融資の仕組みとその参加者
ここではメザニン融資の一般的な形態と、入手可能な情報の範囲内で、メザニン融資に関わ
る投資家、調達企業の概要、そして彼らをとりまく環境について整理する。
(1)メザニン融資の一般的構造
ここで基本的なメザニン融資の構造を簡潔にまとめてみたい。ただし、非公開企業への貸付
が主であるメザニン融資の全容をつかむのは容易ではなく、米国で実務に携わっている関係者
でさえ、何とか総合的な業界データの収集が出来ないものかと四苦八苦しているような状況で
ある。本稿では現在、入手可能な、公開されている様々な種類の資料を継ぎ合わせることで、
浮かび上がってくる姿を以下、紹介していきたい。
まず、メザニン・ローンは劣後債務であり、無担保。キャッシュ・フローに対して貸し付け
るのが原則で、5∼8 年で満期を迎え、期末一括返済を求められる。その収益構造は劣後ローン
の金利収入、エクイティ要素、PIK50、一時手数料から成る。これらの要素全てが常に揃って
いるわけではなく、案件毎に柔軟に諸要素を組み合わせる。
貸し付けられる劣後債務の表面利率は通常、固定金利で 12∼13%である。劣後のリスクをこ
の表面金利だけでは回収できないため、新株予約権、転換権、優先株といったエクイティ要素
を付与することでリスクに見合った利回りの確保を意図する。劣後債務に付与される新株予約
権に関しては、株式発行残高の 5∼15%相当分に設定されることが多い。最終的には内部利益
率(IRR)15∼20%となるように組み上げられるのがここ数年の一般的な形態だったが、近年
の競争の激化から、メザニンの利回りは着実に低くなってきており、現段階では、最終的に 15
∼17%の利回りを期待するのが現実的だろう、と言われている。この新株予約権の付与は貸し
手にとって重要な要素であることは間違いないが、あくまで劣後債務の補完材料として存在す
るものであり、メザニン融資とは基本的にはエクイティではなくデットであるという点を確認
しておきたい。
以上が、一番簡略な形だが、後述するように、昨今の経済状況を受けて、その収益の予測可
能性をより高める方向にメザニンの仕組みも変化しつつあり、特に多用されているのが PIK と
呼ばれる仕組みで、逆に不確定要素の強い新株予約権などは敬遠される向きがある。もちろん、
各メザニン・レンダーの融資手法は、案件に臨む彼らの基本的姿勢によって左右されるわけで、
安易に業界の一般像を描くことは出来ないが、資金保全重視の傾向が強い貸し手であれば新株
予約権に依存した従来型メザニンの収益構造からは距離を置きつつあるようである。なお、PIK
は 1∼2%、一時手数料は 2∼3%、という設定が一般的なところである。
案件当りの融資額は 300 万ドル(3 億円)から 2500 万ドル(25 億円)規模が多いというが、
50
Payment-in-Kind 現物配当。その仕組みに関しては後述。
31
1 億 5000 万ドル(150 億円)クラスの融資案件もある51。ただし、1 億ドル(100 億円)を超
える規模の融資というのは、メザニンをめぐる環境の項で説明するが、メザニンにて資金調達
を行うことの意味がなくなってしまう。なお図表6は各種債券を比較したものである。
図表6 各種債券の構造比較
シニア
ハイ・イールド債
メザニン
エクイティ
担保権
第 1 順位
担保無
NA
コベナンツ
包括的
債務・配当支払等
発生ベース
融資期間
5 年間
10 年間
利払い方法
キャッシュ
(変動利率)
キャッシュ
(固定利率)
オール・イン・レート
新株予約権の有無
早期弁済ペナルティ
資金調達方法
流動性
L+437.5
無
軽
銀行
中
Treasury+583
一般的には無
重
公募
高/中
担保無
制限的ではない。
主に財務制限条項
常時モニター
8 年間
キャッシュ
(固定利率)
PIK
13%
ほぼ常に有
中
私募
無
NA
NA
配当
可変
NA
NA
公募/私募
高
Fitch Ratings, 2003
(2)メザニン市場の参加者
(A)メザニン投資家
1980 年代を独占した保険会社と S&L、そしてリミテッド・パートナーシップ52の登場と機関
投資家の参入、といった具合にメザニン融資を担う金融機関もこの 20 年間で変遷してきた。
シカゴの投資銀行リンカーン・パート
図表7
メザニン・ローン引受機関数
ナーズの調査では、現在メザニン融資
を行う機関の数は 127、米国金融機関
ファンド, 58
の合併の流れもあり、今やメザニン貸
付業者の過半数を占めるのはファンド
保険会社,
17
である(図表7)。異なる性格の業者が
SBIC, 26
銀行, 23
こうしてメザニン市場に参入している
と、各々のスタンス、目標も当然なが
その他, 3
ら異なってくる。
Lincoln Partners, 2003
リミテッド・パートナー(有限責任
51
Fleet Capital.
“Mezzanine Finance: Closing the Gap between Debt and Equity,”
CapitalEyes. October 2002.
52
Limited Partnership、有限責任組合
32
社員)の出資によるファンドが登場する以前にメザニン融資の主要引受機関であったのが保険
会社である。長期的資金運用を行うという立場からすれば、メザニン融資は格好の投資手法で
あったといえる。ただし、その資金保全重視の立場から、低リスク、かつ大規模な案件への志
向が強く、どちらかといえばメザニン・ローンのクーポン収入による確実性の方を重視した貸付
を行う。従って、調達企業から見れば、案件毎の柔軟な対応を求めるにはやや困難な金融機関
とも言えるかもしれない。
銀行も 2000 年半ばまではシニア・ローンのストレッチ53、という形で積極的に無担保の融資
を中堅企業に対して提供していたが、近年ではそうしたキャッシュフロー・ベースの貸付はほぼ
なくなってしまい、米中堅企業にとってはシニアからの資金だけでは必要額を調達出来なくな
ってしまっている54。銀行はシニア・ローンからハイ・イールド債、メザニン・ローン、エクイテ
ィまで、一通りの金融商品を取り揃え、ワン・ストップ・ショップとして各種資金を一括提供す
ることの利便性を謳うが、彼らがシニア・レンダーであることに変わりは無く、保険会社同様、
資金保全の重視という立場から、厳格なモニタリングとコベナンツの忠実な遵守を融資管理の
中心にすえている。なお、ワン・ストップ・ショップを通じて調達する資金が、特にコスト高、
あるいはコスト安である、ということは無く、調達企業にとって、ワン・ストップ・ショップ
の利用は資金調達に成功する可能性が高くなるため、その利便性は確かに大きい。今では銀行
はメザニン投資家としてよりも、調達企業のためにオークションを主催し、メザニン投資の斡
旋を行うことによって手数料収入を重視することの方が多くなってきている、との報告もある
55。ただし、景気回復の動きの中で銀行がどこまで積極的に融資活動を再開するのか、という
のが現在、多くのメザニン・レンダーにとっては懸念材料であり、この点についてはメザニン
市場の動向の項で触れたい。
リミテッド・パートナーシッ
プの出資に基づくメザニン・フ
図表8
7
ァンドは、金利収入で最低限の
6
リスク・ヘッジを図りながらも、
5
メザニン・ファンド組成額
(10 億ドル)
4
エクイティ投資家同様、長期的
3
観点から企業価値の増大を目指
2
すのがその一般的な姿とされて
1
00
20
98
19
96
19
94
19
92
19
90
19
88
19
86
19
84
19
82
19
19
80
0
きた。クーポンレートもさるこ
とながら、新株予約権等のエク
Venture Economics, 2001
イティ・キッカーから将来的に
担保価値を大きく超えた額の貸付を行うこと。エア・ボール(air ball)と称されることもあ
る。
54 Barnard. “Mezzanine Financing Demystified.”
55 Fleet Capital.
“Mezzanine Finance.”
53
33
あがる利益をも加味した、全体的な収益率を重視した案件管理を行う、というわけである。ま
た調達企業の経営陣、シニア・レンダー、そして株式投資家等の間を積極的に取り持ち、協調し
て案件成立に持ち込む役割をこうしたファンドが担うことも多い。ベンチャー・キャピタル・フ
ァンドでは、ファンド運営担当者は IT、バイオ等特定の技術分野に特化しているか、ベンチャ
ー企業経営のプロが多いが、メザニン・ファンドの運営を担うゼネラル・パートナー(無限責任
社員)には金融実務の経験を有する専門家が多いという56。
若干、データが古いが、1980 年から 2000 年までのメザニン・ファンドの年間組成額の推移
を表したのが図表8である。1990 年代後半から、その金額が大きく伸びているのが分かる。な
お、2003 年 9 月にゴールドマン・サックスが 27 億ドル(2700 億円)のメザニン・ファンドの
立ち上げを発表した際は、業界の大きなニュースとなった57。そうしたメザニン・ファンドの
裏にいる投資家、リミテッド・パートナーの内訳は図表9にある通りである。
なお、図表7において 26 の
SBIC58がメザニン・ローン引き
受け機関として挙げられてい
る。中小企業に対するリスク・
図表9
メザニン・ファンドのリミテッド・パートナー
キャピタルの提供者としての
1997-2000
出資比率
イメージが強い SBIC であるが、
金融機関,
26.04
現在の彼らの主だった資金源
官民年金基金,
54.79
は米中小企業庁からのローン
に加えて、個人、財団、地銀と
いった比較的リスク回避型の
投資家層が多いため、その融資
個人, 6.02
基金・財団,
企業, 1.02
Venture Economics, 2001
管理は長期投資家というより
は、デットの提供者としての色
が強く出ると推測される59。
(B)調達企業とその資金使途
メザニン融資を利用する企業は業種的には横断的であり、特段傾向が見られるわけではない
Anson, Mark J.P. Handbook of Alternative Assets. P.311.
10 億ドル規模を超えるファンドを指して、メガ・ファンドと呼ぶことがある。ゴールドマン・
サックスの新ファンドに対する反応は、とうとうメザニンもそれだけの存在になったか、とい
う感慨と、今まで隙間市場で共存してきた業界が新規参入者の増大により厳しい競争にさらさ
れることになるのではないか、という懸念、というアンビバレントなものであった。
58 Small Business Investment Company
59 Kahn, Ronald.
“Mezzanine Morphs Again – A New Paradigm Emerges,” Buyouts.
May 12, 2003.
56
57
34
が、買収等を通じて急速な事業の拡大を図ろうとしている企業等では活発にその利用が検討さ
れている。
直接調達が可能な、大手の公開企業であれば一般的にはハイ・イールド債を通じて必要部分
の資金調達を行うことが可能だが、そうした調達手段を取ることが困難な中堅規模の企業はメ
ザニン債務によって資金需要の一部を満たすことになる。こうした企業の調達規模は 300 万ド
ルから 1 億ドルあたりまでとされる。
ファンド運営会社 Caltius Capital Management が挙げる、メザニン・レンダーから見た「貸
付先として好ましい産業」の三条件とは①景気循環の影響を受け難いこと、②ハイテク・ベン
チャーの様な技術的リスクが低いこと、③規制による商環境の変動が小さいこと、である。そ
して融資対象の企業は、安定した財務
実績とキャッシュフローがあること、
特定顧客に極度に依存していないこ
と、ブランド力があること、強力な商
品/サービスを有すること、財務管理
が行き届いていること、が好ましいと
している。もちろん経験に富んだ経営
陣が、一定のステークを当該企業に持
っていることも重要である60。なお、
図表 10
調達企業、及びメザニン・デットの典型的プロファイル
収入
EBITDA
負債総額
シニア・レバレッジ
総レバレッジ
メザニン債務/全債務
資金使途
メザニン調達金額
券面金利
PIK 金利
借入期間
150-200 百万ドル
25-30 百万ドル
135-145 百万ドル
3倍
4.4 倍
33%
LBO、買収、リファイナンス
35-40 百万ドル
12%
2%
8年
PIK (Payment-in-Kind)
Fitch Ratings, 2003
格付機関フィッチが調査したメザニ
ン・デットのプロファイルが図表 10
である61。
なお、バイアウトや事業拡大を図る
折の資金調達にメザニン・ローンは用
いられことが多いが、その他にもリキ
ャピタライゼーションや、既存債務の
リファイナンス等がその用途として
図表 11 メザニン・ファンドによる融資対象、及びメザニン資金使途
資金使途
成長資金
バイアウト
リキャップ
リファイナンス
事業再生
非公開化
挙げられる。しかし、件数でも、規模
の面から見ても、資金使途としては圧
倒的に LBO が多く、多くの LBO 投資
会社は自社案件の資金需要を満たす
ために独自のメザニン・ファンドを傘
会社数
21
20
18
7
1
1
対象産業
サービス業
製造業
流通業
消費財産業
小売業
健康産業
メディア産業
食品産業
IT
電話通信
応用技術産業
教育産業
特定せず
会社数
13
12
11
5
5
4
4
4
2
2
2
1
4
各社 HP、及び宣伝資料より
下に抱えている。
Barnard, “Mezzanine Financing Demystified”
図表は「B-」に格付けされたメザニン・デットのプロファイルである。Fitch Ratings,
“Mezzanine Debt”
60
61
35
図表 11 は PE ファンド運営会社名鑑62に名を連ねるメザニン・ファンド運営会社 23 社のウェ
ブ・ページから拾った各社の融資対象産業とその資金使途に関するデータである。どれも実績ベ
ースではなく、あくまで各社が参考として、そのサービス提供を宣伝している範囲でしかなく、
実務的にははるかに柔軟な対応をしていると推測されるが、少なくとも、どういった分野に、
どういった使途の資金を提供すると喧伝されているのかを知ることが出来る。
図表 12
メザニン・プレーヤー
投資家
企業
個人・財団
年金基金
調達企業
LP として
出資
メザニン・ファンド
公開企業
メザニン融資
専属ファンド
独立ファンド
SBIC
保険会社
銀行・保険会社の融資案件管
理の姿勢は資金保全重視の色
合いが強くなる。
非公開企業
調達資金の用
途はバイアウト、
成長資金といっ
たものが多い。
銀行
メザニン融資
Fleet Capital, Caltius をもとに作成
62
Alternative Investor. Galante’s Venture Capital and Private Equity Directory 2004
Edition. MA, 2004.
36
(3)メザニンをめぐる環境
メザニン・ファンドの組成額が大きく伸びてきている事実からも、メザニン・ローンの存在
感が市場関係者の間で増してきているであろうことは推測できる。それでは、そもそもメザニ
ン融資が埋めるべきギャップが生じるのは何故なのか、メザニン関係者の商機はどこから発生
しているのだろう。その環境要因をめぐる議論をここで紹介したい。
メザニン融資が注目され、活用されるようになったその理由は色々と挙げられているようだ
が、メザニン業界内における議論はほぼ以下の2点に収斂する。
① シニア・レンダーが貸付に当たって保守的になっていること。
② ハイ・イールド・ボンド(ジャンク・ボンド)の発行規模が大きくなっていること。
米連銀による、商業銀行の貸出態度調査を見る限りでは(図表 14)、銀行の貸出態度は 2001
年に非常に厳しくなったのを境に、以降、緩和されつつある様子が伺えるが、一方で実際の貸
付は前年比で見ても回復に到っていない(図表 13)。経済が回復基調にあると認知されつつも、
様々な関係者の証言として、シニア・レンダーの貸出態度の慎重化の話は広く見聞されるため、
現在でも大筋ではそれが一般的
な現状認識であろうことが量ら
れるが、一方で徐々に銀行によ
図表 13 商業銀行の預金残高、商工業向け貸付残高(前年同月比)
20.00%
る積極的な動きが見られるよう
10.00%
でもあり、この点に関しては最
5.00%
終章にて触れたい。借入企業の
0.00%
資産担保価値の低下、一連の業
-5.00%
界再編によるシニア・レンダー
の減少も、結果として、シニア・
1990 年代後半においては、調
達企業の EBITDA に対して 4∼
4.5 倍規模の融資を行うことを
もシニア・レンダーは厭わなか
ったというが63、2000 年に入る
と EBITDA の 3∼3.5 倍、ごく
最近までは 2∼2.5 倍という水準
貸付残高
-10.00%
1991 92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
FRB, Assets and Liabilities of Commercial Banks in the U.S., 2003
レンダーの保守化につながった
とされる(図表 15、16)。
預金残高
15.00%
図表 14 銀行の貸出態度
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
(1991∼2004Q1、四半期毎)
大中堅商工業向け
小規模商工業向け
91 92 93 94
95 96 97 98 99 00
01 02 03 04
FRB, Senior Loan Officer Opinion Survey, 2004
63
Barnard, “Mezzanine Financing Demystified”
37
まで後退したと見られている64。
図表 15 シニア・レンダー数
120
98
100
80
Number of Active
Non-Investment
Grade Lenders
110
80
68
60
49
40
34
35
2001
2002
20
0
1996
1997
1998
1999
2000
Lincoln Partners, 2003
図表 16 米銀行業界再編
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
American Nat’l Bank and Trust
Bank of Boston
Bank of New England
Bank One
Bank South
Barclays Business Credit
Bay Bank
Casco Northern Bank
Chase Manhattan Bank
Chemical Bank
Citibank
Citizens and Southern
Connecticut Nat’l Bank
Continental Bank
CoreStates Bank
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
First City Bancorporation
First Commerce
First Nat’l Bank of Chicago
First Pennsylvania Bank
First Union
Fleet Boston
Hamilton Bank
J.P. Morgan
Manufacturers Hanover Trust
Meridian Bank
NatWest
NBD Bank
NCNB
New Jersey Nat’l Bank
Norstar Bank
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
‹
Philadelphia Nat’l Bank
RIHT National Bank
Seattle-First Nat’l Bank
Security Pacific
Shawnut Bank
Salomon Smith Barney
Signet
Sovran Bank
Summit Bancorp
Texas Commerce Bank
Travelers
Wachovia
J.P. Morgan / Chase
Bank of America / Fleet Boston
Bank One
Citigroup
Wachovia
GulfStar Group, 2003
こうした上位債務に次ぐ資金源として多用されてきたのがハイ・イールド債(ジャンク債)で
あるのだが、1998 年に非投資適格債市場が大きく崩れてから、投資家は流動性を何よりも重視
するようになり、その結果、発行規模の最低限度が高くなり、発行総額が 1∼1.5 億ドル(100
億∼150 億円)を下回る案件は、ハイ・イールド債の発行を通じた直接調達は困難であるとい
64
シニア・レンダー復調の動きに関しては最終章にて触れる。
38
われ65、中堅企業にとってはあまり使い勝手の良い資金源ではなくなってしまった。ただし、1
億ドルを超える規模の資金調達であればハイ・イールド債を選択する企業は少なくない。
一番安価な資金であるシニア債務の枠が縮小し、次善の手段と見なされるジャンク債による
資金調達の道までも閉ざされるとすると、残された調達方法は基本的にはエクイティしかなく
なるわけだが、これは既存の所有権、経営権を侵食しかねず、既存株主の利益の希薄化にもつ
ながる。そこで、シニア債務でも、ハイ・イールド債でも、エクイティでも埋めきれない部分
を、誰かが補完する必要が生じてくるわけであり、その真空を埋めるかのように機能している
のがメザニン融資、という説が業界関係者の間でほぼ定着している。
(4)メザニン融資の長所と短所
メザニン・ローンが利用される背景、環境としては以上のような要素が挙げられるとしても、
貸し手、そして調達企業はメザニンの得失をどう見ているのだろうか。
貸し手の立場から見れば、まず利回りの高さが大きな利点であることはいうまでもない。メ
ザニン・レンダーは、シニア・ローンと比して、クーポンレートで 200bps ほどの上乗せをす
ることが出来る66。さらに新株予約権等、アップサイド重視のエクイティ要素がこれに付け加
わるため、最終的なリターンが IRR15∼20%になることが一般的には期待されているが、昨今
の経済状況では IRR15∼17%というのが現実的だ、という声も聞かれる。なお、新株予約権等
のエクイティ・キッカーは株式発行残高の 5∼15%相当というのが通常だが、クーポンレート
の高低に応じて、割り当てられる新株予約権の額も変更される。また、次章にて触れるが新株
予約権を付与しないメザニン債務も登場している。
この新株予約権を行使しない限り、メザニン・レンダーは貸金業者でしかないのだが67、そ
れでもエクイティ投資家に準じた扱いを受けることも多々見られる現象である。取締役会に席
を持つことは出来なくとも、オブザーバーとしての権利を認められることがあり、この場合、
エクイティ・パートナーとして振舞うことを暗黙のうちに求められているといえよう。もちろ
ん、何事もケース・バイ・ケースであるが、エクイティ並みのリスクは負いたくないが故にメ
ザニンという中間位置をとっているメザニン・レンダーがこうした権利を主張できるというの
は特徴的である。
また、メザニン・ローンは多くの場合、無担保で貸し付けられるが、それでもシニアにのみ
劣後する立場であることから、他の債権者よりは有利である。そしてコベナンツを通じて調達
企業の事業活動に一定の影響力を行使することも可能だが、これは特に債権者間合意をまとめ
数値が古くなるが、2000 年の段階で、発行総額が 1.5 億ドル以下のハイ・イールド・ボン
ドが全体に占める割合は 10%程度にすぎなかった(1997 年では 34.6%)。ただし、銀行同様、
ハイ・イールド債にも新しい動きが見られ、メザニン関係者はその動向を注視している。この
点については最終章で触れたい。HIG, “Mezzanine Debt.”
66 Anson, Handbook of Alternative Assets, p314.
67 仮に行使したとしてもマイノリティでしかない。
65
39
る際に問題となる点でもある。
一方、調達企業にとってメザニン・ローンを利用することの利点の一つとして、資本コスト
は高くつくものの、その柔軟性を挙げることが出来よう。調達企業のキャッシュフローが安定
するまで、利払いの数年間の延長を認めるなど、交渉を通じて、都合の良い条件に仕立て上げ
る余地がメザニン・ローンにはある68。またその柔軟性はコベナンツにも現れ、内容的にはシ
ニア債務と同一といわれるが、その数値基準は緩く設定されるのが一般的である。
そして、最終的に IRR15∼20%レベルの収益を上げることがメザニン融資業者の目標である
だけに、キッカーを付与することで、メザニン業者の利害と企業の利害を一致させることが出
来る。新株予約権の発行はメザニン・レンダーが最終的に手にする現金総額を釣り上げる、と
いう側面のみならず、メザニン・レンダーを経営陣、投資家サイドに取り込む、という側面も
あると見ることが出来る。
また無担保融資であることが多いため、資産に乏しい企業、或いは買収等を通じて事業の拡
大を図っている企業にとって、メザニン資金は貴重な存在となっている。
メザニン・ローンを指して、
「安価なエクイティ」と呼ぶ向きもあるが、これはその調達費用
面から見た評であるばかりではなく、既存株主(投資家、経営陣)の利益の希薄化を招かない、
という意味も含まれている。確かに新株予約権も行使されれば、最終的には発行済み株式の利
益を希薄化することになるが、それまでに数年間の猶予が調達企業には与えられるのである。
ただし、メザニン・ローンは確かにエクイティ要素を含んではいるが、それをもってエクイテ
ィ投資としてラベルを貼ってしまうことはやはり正確ではない。
68
一方で、誰も埋めることが出来なかった資金構成上の穴を、メザニン・レンダーは率先して
埋めているだけに、調達企業への姿勢は強硬なものがあるとも言われる。
40
3.メザニン市場の動向
メザニン融資の仕組み、参加者、その環境について概観してきたが、最後に米国メザニン市
場の現在の動向を報告したい。メザニン・ローンは常に時の経済状況に合わせて変化を遂げる
ことで、企業、投資家の需要を満たしてきたが、それは今に到るも変わっておらず、その仕組
みは変化し続けている。
(1)最近のメザニン市場の動向
経済の低速化に伴い、銀行はその与信スタンスを厳格化させ、ジャンク債も流動性を求めて
中堅企業市場から離れていった。そこで改めて、中堅企業の資金需要に応じるべくメザニン・
レンダーが活躍しているわけだが、そういった彼ら自身、全般的な経済環境の影響を受けずに
いるわけにもいかない。
以前であれば、その資金源、業種等によって、メザニン・ローンのデットとしての側面を重視
する貸し手と、アップサイド重視のエクイティ・ホルダー的考え方をする貸し手とに二分され
るという見方が主流であった69。しかし、今ではメザニン引受機関全てがデット・レンダーと
化し、企業成長よりもリターンの確実性を重視するようになっているという70。
そうした態度の保守化はマクロ
経済の動向のみならず、業界におけ
る競争の激化も大きな理由の一つ
であり、従来は限られた地域内で、
互いに見知った間柄のプレーヤー
しか参加していなかったメザニン
市場に新顔が急に増えてきたこと
図表 17 メザニン・レンダー数とシニア・レンダー数の推移
140
130
メザニン・レンダー
110
120
100
シニア・レンダー
80
66
60
35
40
20
0
から、当事者は肌でそうした環境の
1999
。
変化を感じるようである(図表 17)
2000
Lincoln Partners, 2003
また、プライベート・エクイティ業界同様、メザニン引受機関選定の為にオークションが用い
られることも珍しくなく、参加者は様々な条件面で競争を強いられている。
では具体的に、そうした競争激化と貸し手の保守化はメザニン債務の形態にどのような影響
を及ぼしているのか。その文脈で、ここ 1~2 年間、常に話題として挙がるのが PIK(現物配当)
の多用、新株予約権無メザニン・ローン、そして後順位有担保メザニン(Second-Lien Loan)
である。
PIK とは payment-in-kind の省略形で、しばしば「現物配当」と訳される。本来は農業分野
69
70
Kahn, Ronald, Susan Wilson and Alysia Tan. “Mezzanine Morphs Again”
Kahn, Ronald. Presentation at First Mezzanine Investing Masterclass, Sep.10, 2003.
41
で用いられていた表現71のようだが、今やメザニン業界において PIK は不可欠な仕組みの一つ
である。まず、債務のクーポンレートとは別に、PIK 利率が固定で設定される。現在のメザニ
ン市場においては 2%という値が一般的である。表面金利収入が定期的に債権者に現金収入を
もたらすのに対して、図表 18 に見るとおり、PIK の場合は一定利率で元加され、複利計算と
「Cash
なって満期とともに現金収入として債権者の手元に渡る。なお、図表 18 のような場合、
Interest が 14%、Stated Interest が 16%」と表現される。
図表 18 Payment-in-Kind
1 年目
元本
表面金利
PIK 収入
10,000,000
14%
2%
10,200,000
1,400,000
200,000
2 年目
10,404,000
1,428,000
204,000
3 年目
10,612,080
1,456,560
208,080
4 年目
10,824,322
1,485,691
212,242
5 年目
11,040,808
1,515,405
216,486
7,285,656
1,040,808
計 8,326,464
Allied Capital, 2002
こうした仕組みを通じて、利回りの確実性を高めることが広く利用されるようになると、
「そ
もそも何故、不確実なエクイティ要素を抱え込まなくてはならないのか」とばかりに、新株予
約権を付与しないメザニン・ローンが現れることとなったが、これは時間の問題であったのかも
しれない。新株予約権付きの従来型のメザニン融資は Warrant Deal と呼ばれ、新株予約権無
で貸し付けられるものを Rate Deal と呼ぶ。
Rate Deal においては、契約書に利率を書き込むことで、貸し手は将来の収入を確定するこ
とが出来る代わりに、エクイティ要素が無いため、アップサイド収入を期待することは出来な
い。一般的には図表 19 のような構図になる。
図表 19 Warrant Deal と Rate Deal の収益構造例の比較
クーポンレート等、収入の仕組み
Warrant Deal
12%(表面金利)+2%(PIK)+新株予約権
Rate Deal
12%(表面金利)+3∼4%(PIK)
メザニン融資がどちらの形態をとるかは、当該案件をめぐる競争の程度と、関係者間の調整
次第だが、貸し手が確実性を求め、借入企業とエクイティ投資家が将来の株主利益の希薄化を
嫌う場合は新株予約権無のローン形態が好まれるであろう事は容易に想像できる。また未投資
の資金を抱えているファンドは出資金を出資者にそのまま返却するぐらいならば、手数料収入
現在も米国農務省は特定作物の減反と在庫処理の一石二鳥を狙った PIK 政策を行っている。
これは農民に対して作付面積の制限を行う一方で、その面積に見合う分量の補償を現物(作物)
支給という形で行うことを指す。
71
42
を得るためにも、若干利回りが低くなろうとも新株予約権無のメザニン・ローンを引き受けた方
が良いことになる。
この様に、貸し手が利息収入のみに頼るような現況を指して、あるメザニン・ファンド・マ
ネージャーは「今や我々は皆が皆、デット・レンダーだ」と表現した72。エクイティ要素を切
り捨て、長期的観点から融資案件を見ることを放棄したかのような傾向を潔しとしない向きも
あるようだが、時々の環境に応じて、様々な形をとることが出来るのがこの資産クラスの利点
であり、強みなのではなかろうか。
なお、新株予約権を削り落としたメザニン融資においては通常の案件以上に、コール・プロテ
クションをかけることが重要になる。繰上弁済に対するペナルティは新株予約権付メザニン
(Warrant Deal)であれば 1 年目が 5%、2 年目は 4%と順次設定していくのが一般的だが、新
株予約権無メザニン(Rate Deal)であれば 1 年目が 10%、2 年目は 8%といった具合でペナル
ティが厳しくなる。競争激化のメザニン業界においてはコール・プロテクションの期間の短縮化
等が交渉材料となることもあるようだが73、今のところ、貸し手側がそこまで譲るケースはあ
まり多くは無い。
従来型のメザニン融資が無担保の劣後債とエクイティのハイブリッド・ローンであるのに対
して、その進化形として、エクイティ要素を削り落とし、デットとしての性格をより明確にし
た Rate Deal が登場した。「それでは有担保メザニンがあっても不思議ではあるまい」と誰か
が考えたのだろうか。現在、メザニン業界で多大なる関心を惹いているのが、後順位有担保メ
ザニンの伸張である。これを最後に紹介したい。
(2)後順位有担保メザニン
(A)構造
後順位有担保メザニンとは、シニア債務で足りない分を補う担保付劣後債務でメザニン融資
の一種として見なされるが、その担い手、手法からして、やや毛並みの異なる従兄弟という捉
え方のほうが正確かもしれない74。名称は後順位有担保メザニン、トランシェ B ローン、第二
順位ローン等々あり75、貸し手によって呼び方も様々だが、通常はシニアが既に抑えている担
保の残余価値に対して貸付を行う手法を指す。シニア債務に劣後していることからメザニン債
務の文脈の中で語られることが多いが、有担保という点からすれば債権・動産担保融資の一環
という文脈で理解する方が自然であるかもしれない。債権・動産担保融資は、最近まではレス
キュー・ファイナンスとして認識されており、企業にとっては「最後の手段」などと言われた
Kahn, Ronald. First Annual Mezzanine Investing Masterclass. Sep. 10, 2003.
Fleet Capital, “Mezzanine Finance”
74 担保付融資であることから、シニア債務の一種として見る向きもある。Monga, Vipal.
“Lien Future,” The Deal. March 15, 2004.
75 Junior Secured Loan, Tranche B Loan, 2nd Lien Loan
72
73
43
りもしたが、その認識は肯定的なものにとって代わりつつあり、その規模も充実してきている。
この点に関しては「後順位有担保メザニンの伸張」の項で再度触れる。
担保付ローンであるがため、後順位有担保メザニンに新株予約権、PIK が付与されることは
基本的には無く、現状では 9∼12%という金利設定が平均的だが、このレベルの利回りでは尻
込みをしてしまうメザニン・レンダーも多く、代わりにヘッジファンドが主な貸し手となってい
る。なお、金利は固定・変動のどちらもあり得る76。コベナンツはほぼ銀行債務と同一内容、
債務構成上は銀行債務に対
してのみ劣後であり、ローン
図表 20 後順位有担保メザニン融資総額の推移(1997∼Feb。2004)
(百万ドル)
3500
の規模は 500 万ドル(5 億円)
3000
∼5000 万ドル(50 億円)と
2500
いうのが一般的な範囲であ
2000
3256
3309
2003
2004
1500
る。
1000
この資 産クラスはリスク/
500
利回りという観点からみれ
0
615
195
1997
1998
394
1999
570
140
65
2000
2001
2002
ば、まさにスイート・スポッ
Standard & Poor’s Leveraged Commentary & Data
トであるとしてヘッジファ
ンドが積極的に乗り出して
図表 21 後順位有担保メザニン案件数の推移(1997∼Feb。2004)
おり、その市場規模の拡大を
30
受けて、多くのメザニン・フ
25
ァンドもこの手法で資金調
20
達を引き受ける旨、表では宣
15
伝しているが、実際に取り組
んでいるメザニン・ファンド
は数としては少ないのでは
2003
2004
12
5
2
3
3
2001
2002
0
1997
1998
ないか、という77。
Portfolio
25
9
10
5
26
1999
2000
Standard & Poor’s Leveraged Commentary & Data
Management
Data によれば 2003 年の、後順位有担保メザニンの平均金利は Libor+739 であり、従来型メザ
ニン78よりも安く調達できることになり、まさにこの有担保メザニンの進出こそが従来型メザ
ニン市場の「値下がり」の一因である、という見方もある。図表 22 は Fleet Securities がま
とめた、ハイ・イールド債、有担保メザニン、従来型メザニンの基本的な仕組みの比較である。
Fleet Capital, “Completing the Capital Structure with a Second Lien Loan,” CapitalEyes,
April 2003.
77 Interview with Frank Izzo, Allied Capital.
78 従来型メザニンでは表面金利 13%、最終的な利回りは 15~20%を目論んでいる。
76
44
図表 22 ハイ・イールド債、ジュニア有担保メザニン、従来型メザニン比較一覧
ハイ・イールド債
後順位有担保メザニン債務
メザニン債務
調達金額
1 億∼10 億ドル以上
1 千万∼1 億ドル
償還期間
7∼12 年、分割返済無
新株予約権
NA
順位
銀行債務に劣後
担保
NA
コベナンツ
発生ベース
1 千万∼2 億ドル
1∼7 年、分割返済無、
通常シニアと同一期間
NA
シニアとパリパス、
担保権は劣後
シニアと同一資産、
メンテナンス・コベナンツ、シ
ニアとほぼ同一
6∼10 年、分割返済無
有
シニアに劣後
NA
メンテナンス・コベナンツ、シニアとほ
ぼ同じだが基準は緩い
Fleet Securities,
後順位有担保メザニンは、貸し手の担保価値算定の取り組み方によって二種類に区分するこ
とが出来る。一つは資産価値重視型で、もう一方が企業価値重視型とでも呼べようか。資産価
値重視型は担保資産の清算価値を基礎に融資額を算定、それに対して企業価値重視型は担保の
残余価値以外に借入企業の継続企業価値をも考慮に入れて融資総額を算定する手法である。い
ずれにせよ調達企業の資産(有形・無形)に残余価値があることが前提であるのはいうまでも
なく、米国においてはシニアがシニアに徹しきっているからこそ可能な融資であるとも言えよ
う。またシニアが担保権を設定していない非稼動資産等を別個にメザニン・レンダーが先順位で
押さえた上で貸付、という場合もあり得る。
(B)資産価値重視型
通常、シニア・レンダー及び、資産担保貸付業者は担保価値の 70∼80%に対して融資を行い、
10∼20%の余白を残しておくが、後順位有担保メザニンの貸し手はまさに、その残余価値 10
∼20%分に対して融資を行う。もちろん、担保の清算価値のみならず、抵当権執行の費用から
全て試算した上で融資総額を設定する。資産の流動性及び換金性が高く、その市場価値も予測
しやすいものが好ましいのは言うまでも無く、その点、小売業などは格好の融資対象産業の一
つといってよい。
(C)企業価値重視型
担保資産の残余価値が必要調達額に満たなければ、その残余価値にのみこだわることなく、
借り手の継続企業価値を重視した融資を行うことになる。その案件審査においては、現金収支
の安定性、市場占有率、経営陣、無形資産(ブランド、専有技術、顧客層、配送網)といった
諸要素を全て加味し、債権・動産担保融資とキャッシュフロー融資の両手法を混合したような
形で、当該企業に対して貸付を行う。更には当該産業の全般的傾向、競争相手の動向、ライバ
ル技術といった背景情報とも突き合わせて分析し、清算の可能性を念頭に入れつつ、企業全体、
45
或いはその事業部門の将来の売却先の検討までつけておくのである。この売却先候補リストに
は現在はもとより数年後には買収能力がありそうな潜在的売却先まで含めたものを作成してお
くという。
ただし、競争相手の規模、業界全体の利益率、規制上の条件等を織り込み、様々なシナリオ
を想定した上で、それでもなおかつ当該企業が安定して事業活動を続けていけるだろうという
推測が成立するためには、強力なブランドや専有技術が無いと実際にはかなり厳しいという見
方が一般的だ。
(D)調達企業から見た後順位有担保メザニン
次に、調達企業から見た、後順位有担保メザニン・ローンの利点を挙げてみたい。一つは早
期弁済に対するペナルティの軽さである。10 年物ハイ・イールド債であれば 5 年間は償還不可
というのが普通であり、従来型メザニン債務ならば 2∼3 年間は償還不可であるのに対して、
後順位有担保メザニンの場合、早期弁済は名目上の費用、シニア債務と同程度のペナルティし
か伴わず、従って、企業は自身の成長と現金収支の伸びに合わせて返済計画を組むことがより
容易となり、その柔軟性の利点は中堅企業にとっては小さくない。
またその調達コスト(9∼12%)もシニア債務よりは高くなるが、従来型のメザニン債務(15
∼20%)よりは低く抑えることが出来る。引受機関選定のためにオークションが多用されるこ
ともさらなる低コストの理由であり、新株予約権等のエクイティ要素を付与することも無いた
め、先々、既存株主利益の希薄化を引き起こすことも無い。
Fleet Capital によれば、貸し手から見た、理想的な後順位有担保メザニン・ローンの貸付先
とは収益が 5 億ドル(500 億円)∼10 億ドル(1000 億円)の企業で、既に業界内で一定の地
位を確立しており、大きな拡張計画、設備投資計画がなく、債務の返済に専念できる環境にあ
ること。2 千万ドル(20 億円)∼1 億 5 千万ドル(150 億円)のリファイナンス需要があるも
のの、担保不足からシニアを通じた間接調達、或いは市場からの直接資金調達が困難な状況に
ある79、といった諸条件が挙げられている。
(E)後順位有担保メザニンの伸張
しかし、後順位有担保メザニンという手法に市場が慣れてくるにつれ、既存債務のリファイ
ナンス、手元資金の流動性の確保、といった用途に限られること無く、その適用範囲が広がっ
てきているという80。2003 年のトランシェ B ローンは、1998 年から比べると、その規模は 5
倍近くに拡大、30 億ドル(3000 億円)を超えた(図表 20)。件数の半数は従来通りのリファ
イナンスがその資金使途だが、あとはリキャップ、自社株の買い戻し、LBO、合併といった分
Fleet Capital. “Completing the Capital Structure with a Second Lien Loan”
Fleet Capital. “Why Today’s Borrowers and Investors are Leaning Toward Second
Liens,” CapitalEyes. February, 2004.
79
80
46
野であった81。これらは従来型メザニンが今まで担ってきた、既に確立されている領域であり、
つい最近まではレスキュー・ファイナンスの一つと見なされていた後順位有担保メザニンがそ
うした領域に進出しているということ自体、着実にその存在感を増してきている証左でもある。
現在、米国の中堅企業市場において話題として挙げられるものの一つに債権・動産担保融資
(ABL)82の進出がある。資金調達方法としては、「最後の手段」として見られることが多く、
そこに手を出すような企業は先行きが危ない、というのが関係者の共通認識であったが、今や
債権、動産を資金調達に生かすことに対する偏見は大きく変わってきている。それは銀行債務
調達が極めて困難になってきたこととともに、機関投資家の市場参入がその信頼性を大幅に向
上させたため、とも分析されており、その結果、超大型案件の成立も報告され始めている。そ
の一環として 5 億ドル規模の後順位有担保メザニンが組み込まれる案件が 2003 年 9 月にリー
バイストラウス社より発表された。
2003 年の超大型 ABL 案件を上から 4 件列挙したものが図表 23 である83。K マート社の 20
億ドル(2200 億円)は在庫及びその処理から上がる収益、一部の知的財産に対する融資でいず
れも担保に対する優先権を確保している。ドラッグストア・チェーンのライトエイド社の 19
億ドルは 14 億ドルのターム・ローンと 5 億ドルのリボルビング・ファシリティから成り、グ
ッドイヤー社の場合は 8 億ドルのターム・ローンと 5 億ドルのリボルビング・ファシリティか
らなる総額 13 億ドルの調達に成功した。以上、3 社の場合はいずれも先順位担保付のシニア融
資案件であるが、規模順位で第 4 位のリーバイストラウス社による 12 億ドル相当の資金調達
は、本項で取り上げている後順位有担保メザニンを利用している。
同社の年次報告書によれば、同社が調達した 11.5 億ドル(1150 億円)のうち 6.5 億ドル(650
億円)がリボルバーで、残り 5 億ドル(500 億円)が後順位有担保メザニンによる調達であっ
た。この 5 億ドルは固定
金利融資の 2 億ドル(200
図表 23 2003 年超大型 ABL 案件
億円)と変動金利融資の
3 億ドル(300 億円)に
さらに階層分けされ、こ
れらは商標、著作権、そ
れらに関連した知的財産
に対する優先権を持ち、
さらに先の 6.5 億ドル・
Kマート
(Kmart)
20
ライトエイド
(Rite Aid)
19
グッドイヤー
(Goodyear)
13
リーバイストラウス
(Levi Strauss)
12
(億ドル)
Fleet Capital, 2003
リボルバーが確保してい
Fleet Capital. Ibid.
Asset-Based Lending (ABL)
83 Fleet Capital.
“Tighter Credit and Bigger Deals are Making Asset-based Loans more
Respectable,” CapitalEyes. December, 2003.
81
82
47
る担保の残余価値に対して貸し付けられている。このように大きな案件は例外ではあるが84、
融資規模のみならず案件数にも伸びが見られることから、手法自体に一種の安心感をもって取
り組む貸し手が増えてきているであろうことが伺える。
図表 24 リーバイストラウス社と後順位有担保メザニン
リーバイストラウス社年次報告書、2004
図表 25 リーバイストラウス社の後順位有担保メザニン・ローン内訳
リボルバー
融資額と金利
6.5 億ドル
(LIBOR+2.75%)
2007 年 9 月満期、担保は在庫、債権、一部国内設
備、特許、及びそれに関連した知的財産、国内子会社
の株式100%、海外子会社の株式 65%(例外有)。
後順位有担保メザニン
(10%)
2009 年 9 月満期、
担保第一順位: 商標、著作権、及びそれに関連した
知的財産。
3 億ドル
担保第二順位: リボルバーにて先取りされている担保
の残余価値分。
2 億ドル
(LIBOR+6.875%)
リーバイストラウス社年次報告書より作成、2004
(E)後順位有担保メザニンの進化
この後順位有担保ローンを最も積極的に引き受けているのは現在でもヘッジファンドである
ようだが、一方で、景気の回復とともに銀行がこの分野に乗り出してきている、という報道も
見られるようになった85。その急激な伸びを従来型メザニンの引受機関は注意深く見守ってい
るが、調達企業のキャッシュフローを階層分けし、その劣後部分に無担保で貸し付けるもの、
或いは劣後部分の方が優先部分よりも大きい型等々、後順位有担保メザニンは既に形を変え、
新しい姿で市場に登場し始めているようである86。
もちろん、後順位有担保メザニンに最終的な判断が下るのはこれからである。関係者によれ
昨年から今年にかけての案件の平均規模は 1 億∼1.2 億ドルである。 Monga, Vipal. ”Lien
Futures.”
85 Monga, Vipal.
Ibid. P.28.
86 Fleet Capital, “Why Today’s Borrowers and Investors are Leaning toward Second Liens.”
84
48
ば、今後、後順位有担保メザニン案件がデフォルトを迎えた時の市場の反応こそが、真の試練
になる、という。従来型メザニンとリスク・プロファイルはほぼ同じでありながら、9∼12%
という低利で提供されているため87、デフォルトが相次げば、後順位有担保メザニンの現在の
地位が一時的なものなのか否かがはっきりするだろう、という論理のようだが、果たして棲み
分けをすることになるのか、或いはどちらかのメザニン・タイプが締め出されるようなことに
なるのか、まだ推測するに足るだけの材料は無い。
(3)メザニン融資関係者の懸念
中堅企業市場において、今や必要不可欠な存在とまで言われるメザニン資金であるが、関係
者の現在の懸念材料は実は「景気が回復すること」なのである。もちろん、2000 年に低速化し
た米国経済の勢いが再び上昇基調にあること自体は、金融業界の一員であるメザニン市場関係
者にとっても決して悪いことではないのだが、それでもやはり気になるのが景気回復に伴う銀
行融資とハイ・イールド債の動向である。
先に触れたように、現在のメザニン市場の好況はシニア・ローンの収縮と、ハイ・イールド債
の発行最低限度額が 1 億ドル(100 億円)以上になったことから生じていると関係者の間では
信じられており、景気回復とはつまりシニア・ローンの復調・拡大、そしてハイ・イールド債の
中堅企業市場への再参入へとつながる可能性が高いのである。それによってメザニン関係者は
自分たちが再び中堅企業市場から締め出されるのではないか、という恐怖感を抱いており、シ
ニア・ローン市場とハイ・イールド債の動きには多大な注意を払っている。
まずハイ・イールド債に関しては、今年に入って、既にその発行規模の下限が 1 億ドル(100
億円)から 7500 万ドル(75 億円)まで降りてきていると言われる。もちろん中堅企業の全て
が公開市場を通じた資金調達に手を出せるわけではないが、コベナンツも無く、メザニン資金
に比べれば安価な資金が魅力的な選択肢であることは今でも変わらない。
またシニア・ローンに関しても、その復調は明らかで、対 EBITDA 比で 2∼2.5 倍がシニア・
ローンの上限と見られていたが、再び 3∼3.5 倍にまで膨らむ勢いが見られるという。一時は、
シニア債務が収縮しすぎて、メザニン・ローンが参加してもなお資金需要のギャップを埋めき
れず、それがメザニン関係者の悩みの種であったこともあるのだが、シニア・レンダーの正々
堂々とした復活もこれまた「中二階」にいる者としては悩みの種なのである。
先に挙げた後順位有担保メザニンもこれまではヘッジファンドの独壇場と見られてきたが、
最近では銀行がこの領域に積極的に乗り出してきているとも言われている。これはまだ関係者
が皆、一致して認めるほどの明らかな傾向とはなっていないようだが、中堅企業市場における
価格競争の一番の担い手であるジュニア有担保メザニンにシニア・レンダーが参加してくると
表面金利だけで見れば、最近では LIBOR + 450∼650 というレベルまで下がってきていると
いう。Monga, Vipal. “Lien Futures.” P.28.
87
49
なると、メザニン関係者にとっては二重に気になる話であることは間違いない。
経済の回復、シニアの復活、ハイ・イールド債の再活性化が、メザニン市場にいかなる影響を
与えるのか、という予測に関しては今のところ、楽観派と悲観派の両者に割れている。それで
も、最近の業界記事を読んでいて気付くのは、ここ数年間の経験が関係者の自信となっており、
仮に非常に厳しい状況に陥ったとしても、メザニン融資の持つ柔軟性が故に、メザニン・レンダ
ーは必ず一定規模の存在感を市場において保ち続けることが出来るだろう、という半ば希望的
観測も混じえた意見が比較的優勢であることだ。
こうした見方の背後には、ここ 20 年以上にわたってメザニン融資を実際に担ってきた人々
の自負があるように思える。例えば、メザニン融資が登場した 1980 年代における主な担い手
は保険会社や S&L であったが、S&L はその後、金融危機を経て、米金融市場におけるプレゼ
ンスを失ってしまった。しかし、
「組織の消失」は必ずしも「知識の消失」にはつながらず、メ
ザニン融資のノウハウはそれを担った人材の拡散を通じて、結果的に幅広く米金融業界に伝播
する形となった。短期的には後退したかに見える動きも、実は次代の成長に向けた準備期間で
あった、というのはもちろん結果論だが、人の動きと共にノウハウが伝播する、というのは米
国社会全般に見られる強みなのかもしれない。
米国社会の強み、という観点からすれば、その優れた柔軟性と機動力の発揮をメザニン融資
という金融の一領域においても見ることが出来るのではないだろうか。つまり、シニア・レンダ
ーのみで抱えられるリスクには限りがあり、エクイティ投資家がかぶることの出来るリスクも
同様に限度がある訳だが、それはメザニン・リスクの担い手が登場することの必然性を意味する。
もちろん、その担い手、手法、規模は時々の経済状況によって異なろうが、絶え間なく変化す
る金融・産業環境の中で生じるリスクの隙間を見つけ、巧みに融資手法を編み出し、それを提
供する金融機関が現れる米金融業界の柔軟性、機動力、そしておそらくその人材層の厚さには
驚かされる。この 20 年間でメザニン融資が大きく姿を変えたように、10 年、20 年後の米国に
おけるメザニン融資は本稿で説明したその概容とは大きく異なった姿に変化、成長しているこ
とであろう。
(第 2 章担当
日本政策投資銀行ワシントン駐在員事務所
50
浅野貴昭 [email protected])
American Capital Done Deal Database (American Capital, 2003)
メザニン融資は公開企業、非公開企業を問わず双方に対して提供され、その案件当りの規模
も小さく、かつ私募債権であるため、その全体を俯瞰できるようなデータを入手することは非
常に難しい。メザニン・ファンドの一つ、アメリカン・キャピタルが、公表されている案件の中
から一定の基準に基づいて選別し、つくりあげたメザニン・データベースがあるので、その数値
を簡単に紹介する。
図表 26
メザニン成立案件データ(2003.1.1∼9/4)
メザニン案件
115 件
メザニン総額
21 億ドル
メザニン規模(平均値)
1800 万ドル
メザニン規模(中間値)
1500 万ドル
融資規模
500 万∼7000 万ドル
引受機関数
85
図表 27 規模別にみるメザニン案件分布
5-10百万ドル
19
件数
融資総額
(百万ドル)
10-25百万ドル
43
134.2
0%
25-50百万ドル
15
661.2
20%
50超百万ドル
510
40%
60%
2
125
80%
100%
図表 28 案件のタイプ別分布
件数
84
バイ アウト
金額
31
その他
1144
0%
20%
40%
285.3
60%
80%
51
100%
Fly UP