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日消外会誌 23(12):2716∼ 2722,1990年 食道癌手術侵襲 に対す る U l i n a s t a t i n効果 の に関す る検討 防衛医科大学校第 2 外 科 後藤 正 幸 島 脇山 博 之 吉 住 伸 吾 米 川 甫 豊 田 中 勧 森 崎 善 久 食道癌 の手術 に際 して臓 器保護 を 目的 として ウ リナスタチ ンを予防的 に投与 して検討 した。対象 は 当科 で切 除 した食道癌3 7 4 / 1 1つにいて無作為 に コン トロール群, ウ リナスタチ ン群 に分 け, ウ リナス タ チ ン群 には術直前 1 0 万単位 , 術直後2 0 万単位, 以後 1 日 3 0 万単位 を 4 日 間投与 し, 1 . 類 粒球 エ ラスタ ー ゼ, 2 . 末 梢 自血球 数, 3 . 血 清過 酸化脂質, 4 . フ ィブ P ネ クチ ン, 5 . 補 体, 6 . 肝 機能, 7 . 腎 機能, 8 . 呼 吸機能 につ いて経 日的 に観察 した. 両 群間で術 後 1 日 目の尿量 ( p < 0 0 5 ) と 呼吸指数 ( p < 0 , 0 1 ) で有意差 を認 めたが, 類 粒球 エ ラス タ ーゼ, フ ィブ ロネ クチ ン, 過 酸化脂質, 補 体, 肝 機能 では有意 差 は認 め られ なか った。 食道癌 手術 の侵襲 では 自血 球 を介 した過剰 な生体 防御反応 は起 きず, ウ リナ ス タチ ンは蛋 自融解酵素阻害作用以 外 の機序 で術後早期 の尿量増加 と呼吸 機能改善 作用 の あ る可 能性 が示 唆 された。 Key words: the surgical stressof esophagealcancer,Ulinastatin,granulocyteelastase,organ protection は じめ に Table I 食道癌手術 においては, も ともと低 栄養状態 に あ る 息者 に,開 胸 開腹 とい う大 きな侵襲 が加わ り, さ らに Ulinastatin Subjects 広範 囲 の リンパ節郭清 が行われ る こ とよ り,侵 襲 はか な り大 きな もの と考 え られ る.こ の よ うな過 大侵襲 時 に類 粒球 か ら放 出 され た エ ラス タ ーゼ な どの プ Pテ ア ーゼ に よって生体 が障害 され る可能性 が近年 いわ れ 始め てい る'分.一 方 ウ リナス タチ ンは多価酵素阻害剤 として,こ れ らの プ ロテア ーゼ を不活 化。し,ま た 末精 循環不全時 に肺,腎 ,肝 の保護作用 が あ る といわ れて い る。∼ゆ。今回われわれ は,食 道癌手術後 に臓器機能 を 保護す る 目的で, ウ リナスタチ ン (ミ ラク リッ ド)を 予防的 に投与 し,種 々のパ ラメー タ ーを測定 し,そ の 効果 を検討 した。 対象,方 法 1987年3月 か ら1989年6月 まで 当科 で切除 した 食道 癌 44例に対 して ウ リナス タチ ンを 1例 お きに投与 した Group profile Age Sex |7 66±12 yo Control Group 20 cases 65± 10 y i4:3 Operation time 447± 75 mn 468■95 mn Blood loss 721±445 gr 906±601 gr 位,術 直後20万単位 ,以 降術後 4日 目まで 1回 10万 単 3回 の one,shot静 注 とした.術 前,術 後 1, 位 を,1日 3, 7,14,21日 目に採血 ,採 尿 し次 の 1∼ 8の 各項 目を測定 した。 1.類 粒球 エ ラスタ ーゼ (EIA法 一 PI cOmplex) 2,自 血 球数 3.過 酸化脂質 (TBA法 ) 4 . フ ィブ P ネ クチ ン ( T I A 法 ) 5.補 体 ―C3(ラ テ ックス凝集免疫法),C3a(RIA‐ 2抗体法),C5(Laser‐nererometry法 ),CH50(CH50 結果,測 定項 目を満 た した症Trl137例 を対象 とした。ウ リナス タチ ン群 は17例,コ ン トロール群 は20例で あ る。 法) 両群 間 において年齢,男 女比,手 術時間,術 中出血 量 に,有 意差 を認め なか った (Table l). ウ リナスタチ ンの投与 スケジ ュール は術直前 10万単 (自己基質法) 7.腎 機 能 ― 尿量,BUN,尿 <1990年 7月 10日受理>別 刷請求先 !後 藤 正 幸 〒359 所 沢市並木 3-2 防 衛医科大学校第 2外 科 Group cases 6.肝 機能 ― T.Bil,transferrin(TIA法 ),LCAT 中 NAC(MCP比 色法) 8.肺 機能 一 呼吸指数 (R.I=A‐aD02/Pa02)群 間 の 有意差検定 は unpaired T,経 日間 の有意差検定 は, repeated ANOVAに Bon FerrOniの 修正 T検 定 に よ り行 った 。 なお,一 部 の項 目では症例数 に差が あ るが 9(2717) 1990年12月 これ は不 完全 なデ ー タの症例 を除 いたためで あ る。 結 果 1.頼 粒球 エ ラスタ ーゼ 術前 は コン トロール群 173±10町 g/L,ウ リナスタチ ン群205±96″g/Lで あ り,両 群 とも術後 1日 目に最 も 上昇 して コン トロール群383±185″ g/L(222%), ウ リ ナスタチ ン群417±134μ g/L(203%)と な り術後 3日 目 までは術前値 に比 べ有意 の上 昇 を認 めたが,以 後漸減 して術後 7日 日以後 は,術 前値 と有意差 を認め なか っ た,両 群 間 で は全 経過 を通 じて 有 意 差 は 認 め られ な か った (Fig.1). 術前 は コン トロール群6,990±2,120/mm3, ゥ リナ スタチン群6,800±2,700/mm3で , コ ン トP― ル群 は, 術後 1日 目8,040±2,880/mm3, 3日 目8,520±4,230/ 目8,490±3,240/mm3,と 3日 目を最大値 と して術前値の21%の 上昇 に とどまった。 また ウ リナス タチ ン群 は,術 後 1日 目9,000±3,890/HIm3, 3日 目 10,500±5,180/mm3, 7日 か った。類粒球 エ ラスタ ーゼ と末補 白血 球 数 の変化 に は相 関性 は認 め られ なか った ( F i g . 2 ) . 3 . 過 酸化脂質 コン トロール群 で は術前値 は2 . 8 ±0 7 n M o 1 / m l , 術 後 1 日 目2 . 4 ±0 . 7 n M o 1 / m l と 術 前 値 の8 8 % と 有 意 に 低下 したが, 術 後 3 日 目には術前値 に復 し, 術 後 7 日 目には術前値 の1 2 8 % へ と上 昇 した が有 意 差 は な く以 一 後術前値 へ と復 した。 方 ウ リナス タチ ン群 で は, 術 前 が3 1 ± 0 7 n M o 1 / m l で あ り, 術 後 はほ とん ど変動 を 示 さなか った。両群間 に有意 な差 は認 め られ な か った 2:末 補 白血 球数 mm3,7日 日目を最大値 として術前値 の5 4 % の 上昇 を認め, コ ン トロール 群 よ り増 加 して い るが有 意 差 は 認 め られ な 目9,570±2,520/mm3と 3 Fig. 1 Changesof PMN-elastase Fig. 2 Changesof white blood cell count (Fig.3). 4 . フ ィブ P ネ クチ ン 術前 は コン トロール群2 7 8 ±9 5 ″g / m l , ウ リナ ス タチ ン群2 7 8 ±1 2 2 ″ g / m l で あ ったが, 術 後 1 日 日, 3 日 目 に両群 とも有意 に低下 して術前値 の約 7 0 % と な った。 以後, 徐 々に回復 して術後 1 4 日目には, ほ ぼ術前値 に 戻 ってい る。両群 間 に有意差 は認 め られ なか った ( F i g . Fig. 3 Changesof lipid peroxide Fig. 4 Changesof fibronectin 10(2718) 食道癌手術侵襲 に対す る Ulinastatinの 効果 4)。 日消外会誌 23巻 12号 Fig.7 Changes OF C5 5.補 体 C 3 の 術前値 は コン トロール群8 6 ±2 4 m g / d l , ウリナ ス タ チ ン群8 9 ±2 1 m g / d l で あ り両 群 と も術 後 1 日 目 に コン トロール群5 7 ±1 5 m g / d l ( 6 6 % ) , ウ リナス タチ ン群6 6 ±1 5 m g / d l ( 7 4 % ) と ともに有意 に低 下 し, 以 後 徐 々に 回 復 して 術 後 1 4 日 目に ほ ぼ 術 前 値 に 復 した ‐ (Fig.5). C 3 a の 術前値 は コ ン トロール群2 0 7 ±4 8 n g / m l , ウ リ ナ ス タチ ン群2 8 6 ±8 8 n g / m l であ った が, コン トロー ル 群 は 術 後 3日 目 に 最 も上 昇 し て631±553ng/ml (305%)で あ った。ウ リナ スタチ ン群 は 1日 目に最 も 上 昇 し,490± 126ng/ml(143%)で あ った。以後徐 々 に低下 し術後21日 目に術前値 とな った (Fig.6). Fig.8 Changes Of CH50 C5,CH50は C3と ほぼ 同様 に推移 した.い ずれ も両 群間 に有意差 は認 め られ なか った (Fig.7,8). 6.肝 機能 総 ビ リル ビン値 は,術 前 コ ン トロール 群0.5±0.3 mg/dl, ウ リナスタチ ン群06± 0.3mg/dlが 術後徐 々 に上 昇 して 両 群 と も術 後 7日 目に コ ン ト ロール 群 2.5±1,7mg/dl, ウリナ ス タチ ン群25± 1.6mg/dlと Fig. 5 Changesof C3 Fig. 9 Changes Of tOtal bilirubin Fig. 6 Changesof C3a O Uliil3t.ti. Group それぞれ最 高値 を と り術前値 に比 べ 有意 に上 昇 してお り, 以後漸減 し術後2 1 日 目になば術前値 に復 した ( F i g . 9). トランス フェ リン (Tf)は 術前 ヨン トロール群222士 31mg/dl,ウ リナスタチ ン群204± 46mg/dlで あ り両群 共 3日 目 に167± 30mg/dl(74%), 163± 27mg/di 11(2719) 1990年12月 Fig. 12 Changes of urine volume Fig. 10 Changesof transferrin Fig. 11 Changesof lecithin-cholesterol-acyl transferase Fig. 13 Changesof blood urea nitrogen (79%)と 最低値 を と り術前値 に比 べ有意 に低下 してお り,以 後徐 々に回復 して術後 14日目に術前値 に復 して ン トロール 群 で は 術後 3日 目に1,700±720mlの 最 高 ヽヽる (Fig. 10). レシチ ン コレステ ロール アシル トランス フェラーゼ ー (LCATル ま,術 前 コン トロ ル群48± 23nMo1/ml, ウ リナ ス タチ ン群53± 24nMo1/mlで あ リ コ ン トロール 群 は 7日 日, ウ リナ スタチ ン群 は 3日 目に,そ れぞれ 25± 15nMo1/ml(51%),22± 1lnMo1/ml(42%)と 最 値 とな ってい るのに対 し, ウ リナ ス タチ ン群 で は早 く も術後 1日 目に,1,870±420mlと 最高値 を示 し,術 後 1日 目の両群間 で は有意差 を認 めた (p<0.05).術 後 1日 目以 外 は 両 群 間 に 有 意 差 は 認 め られ な か った (Fig. 12). ー ,術 前 コン トロ ル群 12±5mg/dl, ウ リナ ス タチ ン群1 4 ±6 m g / d l であ り両 群 と も術 後 7 日 目 BUNは 21mg/dl(252%)と 最 1 4 n M o 1 / m l に, 26± 9ng/dl(218%), 35± 低 値 を とった 後, 術 後 2 1 日目 で も3 0 ± 高値 を と り,以 後漸減 した。全経過 を通 じて両群 間 に ( 6 2 % ) , 2 6 ± 1 l n M o 1 / m l ( 4 8 % ) と 低値 とな ってい る (Fig. 11). 何 れ の値 も両群 間 に有意差 は認 め られ なか った。 7.腎 機能 尿量 は,術 前 コン トロール群 1,230±560ml,ウ リナ ス タチ ン群 1,300±420mlで あ り有意差 はなか った,コ 有意差 は認 め られ なか った (ng.13). ー 尿中 Nア セチル β グル コサ ミニ ダ ゼ (NAC)も 両群 ともほ とん ど同様 に経過 し, 7日 目に最高値 とな り以後下 降 したが,21日 目に も,尚 術前値 には復 して いなか った (Fig,14). 12(2720) 食道癌手術侵襲に対する Ulinastatinの 効果 F i g . 1 4 Changes of Nゃacety卜 β‐ giucOsaminidase 日消外会誌 23巻 12号 臓器 不全 へ と進 行す る といわれ て い る1 ) 。 われわれ の 検討 した食道癌手術患者 においては, コン トロール群 で は術後 1 日 目に3 8 3 ±1 8 5 / g / L と 術 前値 の 2 倍 程 度 に上 昇 し以 後漸減 した. こ の値 は, J o c h u l n ら1 ゆ が, 敗 血 症発症時 の死亡群9 5 0 μ g / L , 数 命群6 0 0 μ g / L と 報告 して い る値 や, 島 貫 らりの 汎 発 性 腹 膜 炎 の 術 前 値 5 0 0 ∼1 , 5 0 0 ″ g / L ( 7 例 ) と 比較す る と上 昇 が軽度 で あ り, 食 道癌 の手術 は侵襲 が大 きい とい って も, 局 所 で の エ ラスタ ーゼの爆発的放 出をお こす程で は な い と想 定 され る。 この程 度 の エ ラスタ ーゼの上昇 では生 体 内 Fig. 15 Changesof respiratory index (A-aDO2l PaOZ) に存在す る αl A T や 句 M G は 保 たれ てお り, そ の時点 に投与 された蛋 白融解酵素阻害剤 は有効 に作用 しない ことよ り, 両 群間 に有意 な差がで なか った もの と思わ れ る. 好 中球 は プ ロテ ア ーゼ と と もに活 性 酵 素 種 を放 出 し,共 闘 して細 菌や異物 を攻 撃す るが, これ ら活性酸 素種 が ひ きがねに な って脂質 の過酸化 を起 こす といわ れ てい る1。 .本研究 においては,こ の活性酸素種 の放 出 状態 の検討 として血 清酸化 脂質値 を TBA法 に よって 測定 した。 その結果 では術後 の変動 は, きわめて 小 さ か った。 この こ とは食道 癌患術 においては好 中球 の局 所的崩壊 はそれ ほ ど大 き くないか, また この検査法 が 間接的 で あ るので実際 の変動 を反映 で きな いかの どち 8 . 肺 機能 呼 吸指 数 ( R , I ) は両群 とも正 常 範 囲 内 の 変化 で は あ ったが, 術 後 1 日 目に コン トロール群 1 2 ± 0 5 , ウ らかであ ろ うと思われ る。 フ ィブ Pネ クチ ンにつ いては渋谷 ら19はホ モ ジ ネ ー トした 白血球 は培 養 した と 卜繊維 芽細胞 の フ ィブ ロネ リナス タチ ン群0 , 7 ±0 . 4 であ り有意 に コン トロール群 クチ ンを分解 す るが,3,000単位/mlの ウ リナ ス タチ ン が高値 で あ った ( p < 0 0 1 ) . 術 前, 術 後 3 , 5 , 7 , 1 4 , 2 1 日目は両群 間 に有意差 は認 め られ なか った( F i g . を投与す る と, この 分解 を抑制 した と報 告 してい る。 わ れわ れの結果 では, フ ィブ ロネ クチ ンは術後 1, 3 15). 日目に有 意 に低下 したが, これ は類粒球 エ ラス タ ーゼ の上 昇 と一 致 してい る ものの ウ リナス タチ ン投与 に よ る抑制 は認 め られ なか った。 考 察 食道癌術後 には, 2 5 ∼ 4 0 % の 頻度 で肺合併症 が発 生 ∼ 。 す る と報告 されてい るり 1 1 ) こ の原 因 として過大侵襲 時 に増加す る顆 粒球 エ ラスタ ーゼが 関与 してい るので ) , ウ リナ ス タチ ンの類 は な いか と考 え1 ル 粒 球 エ ラス ー タ ゼ に対 す る抑 制 効 果 を検 討 した 。顆 粒 球 エ ラス タ ーゼは, 好 中球 が細菌や異物 を処理す る際 に作用す る有用 な生体 の武器 で あ るが, 重 症熱傷や敗血症 の様 な病 態 に あ っては, 局 所 で爆発的 に多量 の顆粒球 エ ラ スタ ーゼの放 出 が起 こ り, 生 体 内 に存在す る阻 害 因子 補体 において も同様 の変化 が認 め られ, これ らの蛋 白は単 に術後,炎 症や組織修復 のため 消費 され産 生が 追 いつ か ないために低下 してい るので あ って頴粒球 エ ラスタ ーゼ に よる破壊 は あ ま り関与 していないのでは ないか と推測 され る。す なわ ち食道癌 手術 において顆 粒球 エ ラスタ ーゼは,局 所 で一 過性 に上 昇す るが,生 どの イ ン ヒビタ ー との パ ランス を壊す ほ どでは ない と考 え られ , このため ウ リ ナ スタチ ンに よる フ ィブ ロネ クチ ンや補体 の低下 を抑 体 に あ る αlATや 22MGな であ る ″1 アンチ トリプシン ( 以下 αI A T ) や 砲 マ ク ロ グ ロブ リン ( 以下 砲M G ) が 消費 されて両者 のバ ラン スが こわれ, 活 性を有す るフ リーのエ ラスターゼが非 制 す る効果 も認 め られ ないので は な いか と考 え られ 特異的に生体の既存構造 の破壊 を起 こし, A R D S や 多 また ウ リナスタチ ンは プ ロテ ア ーゼ ィ ン ヒビタ ー と る。 13(2721) 1990年 12月 ∼ しての作用以 外 の機転 で シ ョック時 の肺, 肝 り0 , 腎。 ゆ の臓器機能保護作用 もあ る といわれてい る。 そ こで各 臓器機能保護 につ いてみ る と, まず肝機能 につ いては, 抱合, 排 泄系 の代表 として T . B l l を , 蛋 白合性能 の代 表 として T f を , 脂 質 サ イクル を司 る系 として L C A T を検討 した 。 コン トロール群 で示 された変化 は, い ず れ も食道癌術後 としては妥 当な推移 と考 え られ るが, これ に対 しウ リナスタチ ンを投与 して も有意差 は認 め られず 今 回 の検 討 で は 肝 の保 護 作 用 は 否 定 的 で あ っ こ. ブ 腎機能 としての尿量 は術後早期 の乏 尿期 に ウ リナ ス タチ ン群 で は 有意 に増 加 した 。 しか し,BUN,尿 中 ,全 経過 を通 じて両群 間 に有意 差 はなか った こ とよ り少 な くとも糸球体 や尿細管 レベル での膜安定 NAGは 化 作 用 を介 して の 腎機 能保 護作 用 で あ る とは い い 難 い。術後早期 の 乏尿期 を作 らな い とい うこ とは ADH の移行 の阻 止 ,腎 血 の 分泌抑制 ,体 液 の third spaceへ 流 の 増 加 作 用 な どが 考 え られ るが,Swan‐ Gantzカ テ ーテ ル 検 査 で の CVP,PCWP,mPAP,Cardiac Outputな どは両群 間 に有意 な差 を認 めてお らず,さ ら に今後 の検討 が必要 で あ る と考 える。 ス タチ ンが侵襲初期 の肺組織間液 を減 少 させたため と 想定 され る。 本論文の要 旨は第35回日本消化器外科学会 において発表 した. 文 献 1)小 川道雄 t好 中球 の活性化 と臓器障害一 エ ラス ターゼ の 作 用 を 中 心 に一. 腫 瘍 と感 染 2 : 67--83, 1989 2 ) 島 貫公義, 柏井昭良, 笠原小五郎ほか : 血衆中にお ける顆粒球 エ ラスターゼ に関す る研究. 臨 病理 33 : 1289--1294, 1985 3 ) 八 木雅夫, 富 田 寛 , 中野泰治ほか : ミ ラク リッド on the Postoperative プシン阻害物質 (MR‐20)の抗 シ ョック作用 につい て。麻酔 33t137-142,1984 5)山 本保博,小 関一 英,安 田和弘13tかt実 験的 出血性 シ ョックにおける ウ リナス タチ ンの門脈,肝 動脈 血 流 に対す る影響.最新医 42,2190-2196,1987 6)山 村秀夫″玉熊正悦,中 島光好 1各 種 シ ョックに対 す る M R 2 0 の臨 床 評 価. 医 の あ ゆ み 1 2 9 ! 730--739, 1984 7 ) 山 本保博, 加 藤 一 良, 村 田 聡 ほか : イ ヌ出血 性 シ ョック モ デ ル に お け る u r i n a t t t t t p S i n i n ‐ hibitOrの 循環 動 態 に及 ぼ す影 響. 救 急 医 1 0 i l131--1137, 1986 8 ) 平 良隆保, 出浦昭國, 吉村吾志夫 ほか ! 急 性腎不全 に対す るウ リナ スタチ ンの効果. 腎 と透析 2 4 : 431--434, 1988 9 ) 村 上卓夫 , 本間喜一 , 丹黒 章 ほか ! 食 道癌術後 に おけ る呼 吸機 能 温存 の ため の工 夫. 日 胸 外会誌 37: 921--923, 1989 10)稚 井貞仁,磯野可一 ,坂本昭雄 ほか '食 道癌術後 に お け る呼 吸機 能温 存 のため の工 夫.日 胸 外 会誌 37:923--925, 1989 肺機能 としての呼吸指数 の検討 では術後 1日 目に ウ リナス タチ ン投与群 において 明 らかに低値 を示 した 。 これ は術後 1日 目の尿量 の多 さ と一 致 してお リウル ナ Effect of Ulinastatin を投与 した急性循環不全例 の シ ョックス ヨアお よ グル ク ロニ ダーゼ な らび に顆 粒 球 エ ラ び血 中 β、 スターゼ活性.臨 と研 64:283-286,1987 4)小 田利通,鮫 島照子,宮87J武 徳 ほか iヒ ト尿中 トリ 11)大 和 国進,宮本幸男,竹下正昭 ほか :食 道癌術後 の 一 呼吸不全 一 呼吸器感染症 を中心 に .日 臨外医会 誌 50:474-481,1989 12)吉 田 哲 ,青木宏明 !白血球 ブ ロテア ーゼ と肺.呼 と紛奇 34i 344--351, 1986 13)」ochum M, Lang H, Gunzer G et ali Cranulocyte enzymes and inaa.llnato■ F dis‐ VA. eases Edited by Froeschie WIC, Goetz ヽ Elastase一A new marker for inflammatory dis・ eases Dam Stadt,Gemany, 1985,pl-14 14)関 川利幸 iエ ン ドトキシン投与時 の生 化学的研究 一過酸化脂質 の産生機序 とこれ に及 ぼす抗酸化剤 の 効果 を中心 と して一.京 大 胸 部 研 紀 要 17: 1--19, 1984 15)渋 谷靖義,国 広靖之 :ウ リナスタチ ンの組織崩壊 防御作用.薬 理 と治療 14!6057-6071,1986 Course in Patients with Carcinona of the Esophagus Masayuki Goto, Shingo Shima, Hajime Yonekawa, Yoshihisa Morisaki, Hiroyuki Wakiyama, Yutaka Yoshizumi and Susumu Tanaka Department of Surgery II, National DefenseMedical College This study was designedto evaluate the effect of prophylactic administration of Ulinastatin which may protect important organs in patients with esophagealcancer from surgical damage.Thirty-seven patients were divided into two groups at random; 17 patients were given 100,000units of Ulinastatin intravenously just before the operation, 200,000U just after the operation and 300,000U per day for the next four days. The other 20 patients were not 14(2722) 食道癌手術侵襲に対する Ulinastatinの効果 日消外会誌 23巻 12号 given it. In order to determinethe effectivenessof Ulinastatin, the following parameterswere examined: granulocyteelastase, white bloodcellcount,lipid peroxide,fibronectin,complement, liver function,renalfunction andrespiratoryfunction.A significantincreasein urine volume(p<0.05)anda significantdecrease in respiratory index (p<0.01)on the first postoperative day werefound in the Ulinastatingroupas comparedwith the control group.Nosignificantdifferencesbetweenthe two groupsin the otherparameters werefound.It maybeconsidered that the surgicalstressdue to esophagectomy for esophageal cancerdoesnot causean excessivereactionof the host-defense mechanismwith granulocytes, andthat Ulinastatinincreasesurinevolumeandimprovesrespiratory functionin the earlypostoperative phaseby a mechanismotherthan inhibitionof neutralprotease. Reprint requests: MasayukiGoto Departmentof SurgeryII, NationalDefenseMedicalCollege 3-2Namiki,Tokorozawa359JAPAN