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英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制

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英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
古瀬 政敏
(立命館大学教授)
はじめに
イギリスにおいては、1986年金融サービス法にもとづき投資(in−
vestment)とされる生保商品について、同法の自主規制機関たる証券
投資委員会(SIB)や生保・投信規制機関(LAUTRO)が、不正行為の祭
止等の募集規制を行っているが、合わせて、顧客に対する商品内容等
の一定の契約締結前(一部契約締結後クーリング・オフ期間開始前)の
情報開示規制を設けている。また、生保商品募集の仲介人である会社
代理人や独立仲介人に支払われる報酬やコミッションの金額について
顧客への事前開示も求めている(ただし、後述のように、1995年1月
1日まで猶予期間がある)。さらに、顧客の請求があればいつ一でも、
有配当契約について、資産構成、投資方針、過去の運用利回り、ソル
ベンシー・マージン等を記載した文書(With Profits Guides)を提供
すべきこととしている。
このような情報開示規制の意義は、いうまでもなく、生保商品購入
者が商品(約款)の主要な内容ならびに解約価額、賦課される経費
(charge and expense)等の保険価格さらには将来の契約者配当を左
右する会社の効率性と健全性を推測させるデータをよく理解して購入
の意思決定(informed decision making)をなしうるようにすること
−67−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
にある。そして、このことを通じて生保商品とその助言(アドバイス)
市場の透明性を確保し、商品の質と価格による有効競争を促進するこ
とを意図しているのである。
ところで、筆者はこのようなイギリスにおける生保商品募集時にお
ける情報開示規制の1990年9月段階の状況について既に紹介した
(「米英における生命保険の募集時の情報提供規制」生命保険文化研
1)
究所文研論集No.92,172∼192頁)。しかし、この時点の開示規制は、
公正取引庁(Office of Fair Trading以下OFTという)から競争制
限的な点があると批判されたため、SIBとLAUTROは、監督庁(貿
易産業省、後に財務省)の指示の下に1991年4月、開示規制、助言(ア
ドバイス)の在り方等個人投資家向けの規制を抜本的に見直す作業に
着手した。数々のディスカッヨン・ペーパー、コンサルタテイブ・ペー
パーを公表し、有識者、業界人、消費者団体等の意見を聴取して、19
92年7月、SIBとLAUTROは新たな改正規則を制定した。ところ
が、金融サービス法122条5項にもとづいてこの改正規則をチェック
したOFTは、幾つかの点で著しく反競争的であるとの報告書を1993
年3月、大蔵大臣宛に提出した。そのため、1992年の改正規則は施行
されないまま、OFTの報告書を妥当であると判断した大蔵大臣(財務
省)の命令によって再度検討され、1994年7月、新たな商品内容と仲
介人の報酬(コミッション)の開示規則が制定されたのである(OFTお
よび財務省の検討中にいくつもの大規模な不正募集行為が発覚したこ
−.、
とが、結果として厳しい規制をもたらしたといわれている)。
本稿は、1990年9月以降のSIBおよびLAUTROの規則改正の経
緯ならびに1994年7月のSIBとLAUTROの商品内容と報酬(コミッ
ション)の開示規制の概要について紹介しようとするものである(ただ
し、わが国の変額保険に近いユニット・リンク保険ついては、イギリ
ー68−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
スでは定額保険に匹敵するウェイトを持ちその規制も重要であるが、
わが国での参考とするため、本稿では定額保険に限定して紹介する)。
折しも、わが国でも、平成4年6月の保険審議会答申は、保険事業お
よび保険関係法規の見直しにあたっては、①規制緩和、自由化による
競争の促進、事業の効率化、(亘)健全性の確保、(9公正な事業運営の確
保、の三つを指針とすることをうたっている。そして、これを受けた
平成6年6月の保険審議会報告「保険業法の改正ついて」は、銀行法
に倣って一般公衆縦覧制度の導入等の開示制度の改正についても言及
している。ただ、規制緩和と競争の促進の観点からの市場(価格)メカ
ニズムの活性化のための法整備については必ずしも十分ではないよう
に思われる。アメリカでは周知のように、生保商品のコスト開示によっ
j)
て価格メカニズムの活性化を図ろうとしているが、これとは異なった、
1、
生保商品に賦課される経費や仲介人への報酬(コミッション)開示によっ
て、また生保会社の将来の効率性や健全性を推測させるデータの開示
によって市場(将来の配当を加味した価格)の透明性を確保し、顧客の
informed decision makingと競争の促進を図るというイギリスの
方式は、今後わが国において、生保商品の市場メカニズムの活性化を
通じる競争促進の方策を考える際に一つの参考になるものと思われる。
その意味で本稿が何らかの参考になれば幸いである。
注1)1990年9月段階のSIBおよびLAUTROの規則(開示規制以外の部分も含む)に
関する論文として、上田和勇「英国金融サービス法にみる契約者利益情報の開示と
生保市場に与えた影響」保険の現代的課題(成文堂平成4年9月)371∼390頁および
同「英国金融サービス法が生命保険市場に与えたその後の影響」(文研論集No.107、
1994年7月、173∼208貢。以下、上田文研論文として引用)。また、この時点の規
制の翻訳として生命保険協会「海外生保関係資料一英国生命保険・ユニットトラス
ー69−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
ト機構(LAUTRO)自主規制規則」参軌
2)なお、この間、EUの第3次生保指令が出され、イギリスも1994年7月までに国
内法化を終了する義務を負うことになったため、検討においてはこの点も考慮され
た。詳細は、SIB AnnualReport for1993/94pp.27−29
3)アメリカの現状についても筆者は前掲の論文で紹介した。ただ、論文中で既に紹
介したように、金融市場がボラタイルな時代には現行コスト指数は問題があり、現
在、NAICで見直しが行われている。
4)ここでの「経費」は、付加保険料そのものではなく、生保会社の諸経費中、全保
険期間を通じて個々の契約に賦課されると見なされる経費をいう。イギリスの生保
商品は定額保険であっても一般に解約価額が保証されていない。契約者配当および
解約価額は個々の契約の観念的持ち分たるアセット・シェアから計算されるが、ア
セット・シェアの計算上投資収益とともに経費の配賦が必要になる。解約価額の保
証のない「投資」としての生保商品においては、この経費は投資信託等の購入・管
理手数料(経費)に対応するとも考えられるが、投資信託ではこの経費が明示されて
いるので、生保商品においてもこれを開示すべきである、というのがイギリスにお
ける生保商品の経費開示の意味である。
I 商品内容と仲介人の報酬(コミッション)開示に関する
SJBとLAUTROの規則改正の経緯
1.1990年9月段階の規則見直しの動き
1990年9月1日以降、LAUTROの商品内容とコミッション開示に
関する改正規則(Code of business conduct rule partV)が施行さ
れ、それまでのように会社代理人が生保商品の顧客(金融サービス法
上「投資家」とされるので、以下「投資家」という)に推奨(recommend)
する時点(販売時点)ではなく、投資家が申込書に署名した後、生保会
社から投資家宛にクーリング・オフの解約通知状(cancellationnotice)
−70一
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
とともに送付される商品明細(Product Particulars)中で、契約の主
要内容(保険料、保険金、配当の割当基準等)、契約締結後5年間の予
想解約価額、保険期間を通じて当該契約に賦課されると見込まれる経
費(charge,eXpenSe)による投資利回り低下効果、保険料の一定割合
で示される独立仲介人(independentintermediaries,一般にIndepenr
dent Financial Advisers略してIFAと呼ばれる)に支払われるコ
5ノ
ミッション等の情報を開示すべきこととされた。ところが、実はこの
LAUTROの規則が改正される直前の1990年4月、OFT長官は、生
保商品の内容とIFAに支払われるコミッションの事前情報開示に関
6) 7)
する報告書を国務長官(SIBの監督庁である貿易産業省=DTI)に提
出し、その中で、商品に関する情報の大部分が販売時点(point of
sale)より後で開示されること、ならびにSIBとLAUTRO規則によ
るコミッションや経費の開示方式が商品間の比較を困難にしているこ
とが競争制限的であるとして批判を加えていた。
したがって、投資家が申込書に署名する以前にも若干の事前情報を
開示すべきこととしていた旧規則を変更し、クーリング・オフ期間が
開始する以前であれば契約締結後であってもよいとした1990年9月の
規則改正は、その点では、むしろOFTの意向に反したものであった
(SIBやLAUTROは、「販売時点」とは、投資家にクーリング・オ
フ条項による解約権がある以上、投資家が申込書に署名をし契約が締
結された後のクーリング・オフ期間の開始時である、とのやや観念的
な解釈をしていたものと思われる)。
2.SIBとLAUTROによる個人投資家向け販売規制の抜本的見直しと
1992年7月の規則改正
OFTの強硬な申し入れもあって、当時のSIBの監督庁DTIは、
−71−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
1990年12月、SIBに対し、①生保商品の個人投資家(retailinvestor)
向けの商品内容、経費賦課、IFAに支払われるコミッションについ
ての事前情報開示規制、(鋤中介入を専属エージェント(会社代理人)と
IFAとに区分するいわゆる二極化(polarization)規制、および③これ
らの仲介人の助言の基準(standard of advice)についての抜本的見直
しを指示するに至ったのである。この指示をうけたSIBは、翌1991
年4月、個人投資家向けの生保商品の販売活動規制に関するRetail
RegulationIssues for Reviewを公表し、従来の①専属エージェン
トとIFAの立場(status)の開示(二極化のさらなる明瞭化)(り商品内
容の開示(彰IFAに対するコミッションの開示(り仲介人の助言基準
(standard of advice)等の規則の内容を徹底的に見直す作業を開始し
た。
その後、SIBは、傘下のLAUTROとともに、規則改正に係わる
数々のディスカッション・ペーパー、コンサルタティプ・ペーパー等
ト・
を公表し業界、識者、消費者団体等から広く意見を聴取して、1992年
6月、規則の改正を行いThe Financial Services(Miscellaneous
Amendments)(No.21)Rules and Regulations1992.Release No.
118.(SIB,July1992)を発表した。同時に、LAUTROも、改正規
則LAUTRO(Product and Commission Disclosure)Rules1992及
びLAUTRO(Disclosure of status)Rules1992をとりまとめ、同年
9)
7月1日公表した。
3.SIBとLAUTROの1992年改正規則に対するOFT、財務省の批判
と1994年の規則改正
これらのSIBとLAUTROの改正規則(以下、1992年改正規則ま
たは改正規則という)は、金融サービス法122条5項にもとづいて、0
−72−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
FT長官による競争制限的でないかどうかのチェックを受けた後施行
されることとなっていた。しかし、前述のように、1992年改正規則に
ついてもOFT長官は強く批判し(その内容は後述)、また、1992年7
月、SIBの監督庁が国務長官(DTI)から大蔵大臣(財務省)に交替した
こと、そして大蔵大臣もOFTの考え方を支持し、1993年7月、SIB
に再検討を命じたため再度抜本的見直しを余儀なくされた。そのため、
SIBはLAUTROを含む三自主規制機関および生保事業の監督庁た
るDTIと合同でタスクフォースを設け、識者、業界人、消費者団体
からの意見を再聴取して検討を加えた。こうして、結局、LAUTRO
(Product and Commision Disclosure)Rules1992は施行されない
まま、1994年7月に、新たな改正規則が出されることとなったのであ
る。
なお、LAUTRO(Disclosure of status)Rules1992については、
OFTも財務省も二極化ルールを堅持する方針を認めたため、特に見
直しを指示されなかったが、合同タスクフォースによる検討の結果、
3・15条の改正箇所(会社代理人に推奨理由の書面による交付(written
explanation of a recommendation)を義務づける規定)のみを1995
年1月1日付けで施行することを決め、残りの部分は、これまでの自
主規制機関を再編成して個人投資家の保護を徹底する目的で1994年中
にも発足が見込まれている新しい自主規制団体PersonalInvestment
lO)
Authority(PIA)の新規則に委ねることとされた。
以下「II」では、LAUTROの1992年規則の情報開示に関する規定
についてその概要を述べることとしたい。
注5)詳細は前掲拙稿186・∼192貢。
6)The dlSClosure ofinformation aboutlifeinsurance products and comission
−73−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
Paid toindependent financial advisers.The new requierment of the SEC(OF
T,April1990),pp.27−29。
7)SIBの監督庁は1992年7月以降、国務長官・貿易産業省(DTI)から大蔵大臣・財
務省(Treasury)に変更された。
8)森田章「情報提供に関する規制のあり方」(平成5年4月)生命保険文化研究所
参照。
9)Rules Bulletin No53(SIB,hly1992)で公表されている。
10)PIAが発足した後は、LAUTROとFIMBRA(金融仲介人・運用者・ブローカー
規制協会)もそこに吸収される予定である。なお、PIAについて、牛越博文「英国
の生保販売自主規制団体の改編をめぐる最近の動向」・生命保険経営62巻5号(77
∼88頁)参照。
II LAUTROの1992年改正規則の概要
1.二極化の強化とBuyer’s Gguideの変更
二極化による専属エージェント(会社代理人)と独立仲介人(IFA)の
立場(status)の相違をより明確に顧客に示すため、LAUTRO規則の
販売行為に関する第III編(PARTIII)および会社と会社代理人の行動規
範を定める付則(Schedule)2中のBuyer’s GuideをClient,s Guide
ll)
と名称変更の上、会社代理人とIFAとで別々に作成することとした。
このClient’s Guideの記載文言の詳細については、付則2Aで規定さ
ほ、
れている。
また、改正規則は、会社代理人の事務用品、建物内の掲示、名刺に
も、会社代理人としての立場を開示すべきこととして、独立仲介人の
立場との相違を明らかにすること(二極化の強化)を図っている(3・5D
条、3・9条、付則2・4条(1))。
−74−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
さらに、Client’s Guideで示された会社代理人の立場は、後述のよ
うに顧客が申込書に署名をした後クーリング・オフの解約期間の開始
以前に会社から郵送されるImportantlnformationにも記載すべき
13)
ものとされている。
2.商品内容とコミッションの開示に関する変更
LAUTROの1992年改正規則LAUTRO(Product and Commission
Disclosure)Rules1992は、商品内容の開示について、従来の規則第
Ⅴ編(PART v)Product Disclosure and Disclosure of CoIlunission
を次のように大幅に改正している。
(1)開示の三段階(Three Tier)方式の導入
商品内容の開示に関する従来の商品明細(Product Particulars)を
中心とする開示媒体を改め、契約締結に至る過程で、生保商品の投資
家にとって必要な情報をレベルを徐々にあげつつ提供するという次の
14)
ような三段階方式を採ることとした。
①Key Features
第一段階は、仲介人が投資家に生保商品を推奨する時点(販売時点)
で、換言すれば投資家が申込書に署名する以前に、当該商品について
購入の意思を決定するために必要な商品の重要項目を説明した文書
Key Featuresの提供である(5・8条、付則6、1章)。この文書には、
養老保険なら養老保険の当該投資家自身ではない仮定的な(標準的な)
申込者についての、保険料額、保険金額、早期解約の場合(当初5年
間)の解約価額(保証されない旨明記)と既払込保険料との対比表、解
約価額が既払保険料に追いつくまでの年数、全保険期間を通じて当該
契約に賦課される経費が投資利回りを年率で何%縮減させることにな
−75−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
るか、同じくその経費が総支払保険料1ポンド当たり何ペンスの控除
l.・
になるか等を開示し、また増加配当金の説明も記載すべきこととされ
ている。そして、契約者配当やWith Profits Guides等のより詳細
な情報が仲介人たる助言者から得られることもあわせて記載すべきも
のとされている。
ここで、解約価額の計算に当たっては、会社独自の経費を使用する
が、投資利回りは全社同一の標準化された利回り(通常の養老保険で
は7.5%)を用いるべきこととされている(付則4、1章3条)。また、
投資家の投資利回りや保険料に与える縮減(控除)効果の計算に当たっ
て用いられる経費も、当該会社自身のそれを基礎にすることとされて
いる。
なお、このKey Featuresは、投資家の請求があれば、(仮定的な
申込者についてではない)当該投資家ベースの情報(解約価額について
は例表でも可)として提供すべきものとされるが、これについては2
年間の・経過期間がおかれている(付則2、6A(2))。
⑦ImportantInformation
提供される情報の第二段階はImportantInformationである。こ
れは、契約締結後に、会社がクーリング・オフの解約通知状を送付す
16)
る以前に投資家に交付されるべきものとされている文書で、従前の
Product Particularsに相当する。
ImportantInformationに記載すべき項目それ自体はKey Features
と同様であるが、(Key Featuresとは異なって仮定的なものではな
く)当該投資家自身の購入した商品の保険料や保険金等が表示される
べきものとされている(ただし、保証されていない解約価額について
は2年間の経過期間が設けられており、その間は仮定的な申込者を対
象するものでもよい)。
−76−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
また、Key Featuresでは記載されない仲介人の立場もImportant
Informationでは開示が求められている(付則6、2章1条(5))。
①投資家の請求により提供される有用情報
第3段階の情報は投資家がいつでも請求しうる情報で、従来の
With Profits Guidesがこれに当たる。
なお、ImportantInformationでは、当該投資家に国有の重要情
報以外にも、有用情報(usefulinformation)として、投資家が要求し
た場合、ユニット・リンク保険ではない有配当保険について(D投資
ファンドの規模(参会貞会社の苦情処理手続き(事WithProfitsGuides
についても入手可能である旨を記載すべきこととされている(付則6、
3章1条(10))。
(2)将来給付額の予測(projection)
Key FeaturesやImportantInformationの必要的記載事項では
ないが、満期保険金や5年を超える期間の解約価額等の将来給付額の
予測(projection)も旧規則と同様認められる(LAUTRO規則上は予測
という表現であるが、通常、例示=illustrationと呼ばれる)。ただ
し、投資利回りを(たとえば養老保保険の場合)5%と10%と仮定し、
かつ個々の契約に賦課される経費も(Key FeaturesやImportantIn−
formationにおける投資利回りや保険料に与える効果の計算の場合と
は異なって)全社同一の仮定的な数値を用いるべきこととされている
(付則4、IV章2条)。この点が後にOFTの強い批判にあうことは後
述のとおりである。
(3)仲介人へのコミッション開示
IFAのコミッションは、1992年の改正前も、投資家が申込書に署名
一77−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
した後に生保会杜が送付する商品明細中において、COmissionsの見
出しで、保険料の一定割合として開示すべきこととされていた(いわ
ゆるソフト・コミッション開示。旧規則5・14条および同付則7中の2
条)。OFTは前長官時代からこの点について批判的であり、IFAが
投資家に推奨する時点でしかも実額で開示することを求めていた。
しかし、SIBとLAUTROは、この要請を受け入れず、合理的に
可能な限り早く、保険料の一定割合の形で開示することを原則とし、
投資家から請求がある場合に限って申込時に実額で開示すればよいこ
とにしたのであるが、この点もOFTの新長官から強く批判されるこ
ととなったのである。
注11)Client’s GuideとBuyer’sGuideの内容の相違について上田前掲文研論文188頁
参照。
12)なお、SIBのClient’s Guideについては改正規則のAppendix(Rule5・11B)に
記載があるが、そこにはAnnexlとして、会社代理人用と独立仲介人用の2種類の
見本が掲載されている。本文で述べているLAUTROのClient’s GuideはSIBの
会社代理人用Client’s Guldeの“SIB’’を“LAUTRO”に置き換えたものである。
13)仲介人の立場については、1990年9月時点のLAUTRO規則のProduct Particu−
lars上でも明示されている。
14) この3段階方式は当初、1991年10月のConsultative Bulletin No、11(DISClosure)
中で公表されたが、その導入理由として、顧客が一時に多くの情報を提供されても
オーバーフローになり理解しえないから、と説明されている。
15)「既払保険料1ポンド当たり何ペンスの控除」の開示は従前の商品明細(Produet
Particulars)には無かったものである。
16)IJAUTRO規則5・9条。解約通知状が存在しない場合は、契約締結後合理的に出来
るだけ早い時期とされる。なお、ImportantInformationの記載事項の詳細につい
−78−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
ては付則6、日,III童参照。
IIIOFTと財務省による1992年7月のSJB、LAUTROの改正
規則に対する評価
1.OFTが1992年7月のStB及びLAUTROの改正規則をチェックす
る際の基本スタンス
(1)概説
OFTの長官は、金融サービス法122条4項によって、SIBやLAU
TRO等自主規制機関の制定する規則が競争を著しく制限し、歪め、
妨げる効果を持つことを意図されたり、あるいは持つと思われる場合
は、大蔵大臣に報告する義務がある。また、同法122条5項によって、
これらの規則の改正が、そのような反競争的効果を持たないか、持つ
ように意図されていないか、あるいは持つように思われないかについ
ても大蔵大臣に報告する義務がある。
1丁)
1993年3月のOFT長官の報告書は、この法定の権限にもとづいて
大蔵大臣に提出されたものであるが、この報告書は、1992年7月のS
IBとLAUTROの改正規則が有用な改善を行っているものの、改正
事項中には依然、著しく反競争的な効果を持つと見られるものがある
ので、大蔵大臣が評価するにあたっては注意深く考慮してほしい、と
述べている。このOFTの報告書は、また、OFTがSIBとLAUTR
Oの1992年改正規則をチェックするに際しての基本スタンスを、競
争を促進するという観点から、生保商品の助言(advice)市場と生保商
品そのものの市場とに分けて、次のように明瞭に示している。
(2)生保商品の助言市場における競争の促進とIFAのコミッション
開示
−79一
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
1ト1
0FTは、先ず、いわゆる二極化(polarization)の下では、専属エー
ジェントによる助言市場とIFAによる助言市場の二つの市場があり、
それぞれの市場で有効競争がなされることが必要であると説く。その
ためには、先ず、仲介人の立場(status)と仲介人が受け取る対価の性
格を生保商品の購入者に理解させなくてはならない。とりわけ、IFA
の助言市場では、公認会計士等公認専門職団体の会員が付随的に取
扱うケースを除き、助言の対価が投資家によって直接フィーとして支
払われるケースは極めて少なく、大部分は生保会社からコミッション
として支払われている。このコミッションは、実質的には、(生保会
社の保険料に上乗せされて)投資家の負担になっているにもかかわら
ず、SIBやLAUTROの規則では、顧客が要求しない限り、申込時
点では開示されず、契約締結後に会社からクーリング・オフの通知状
(cancellation notice)とともに送付される書面で、(実額ではなく)保
険料の一定割合として開示されるに過ぎない(いわゆるソフト・コミッ
ション開示)。OFTは、これではIFAの助言市場で価格機構を通じ
た有効な競争がなされないと主張し、販売(推奨)時点で、助言の対価
を受け取るIFA自らがそのコミッションを実額で顧客に開示するよ
う求めている。
他方、専属エージェントたる会社代理人の助言市場においては、会
社代理人のいわゆるBest Advice義務は、自らが代理する会社の商
品群のなかから顧客のニーズに最も相応しい商品を推奨すべきものと
いうにとどまり、顧客の財務状況に適合した商品を奨めなければなら
ないという適合性の原則も、同様に自らが代理する生保会社の商品群
について言われているに過ぎない。ここでは、IFAの助言市場とは
異なり、会社代理人のコミッションが価格メカニズムを機能せしめる
ものとはなっていない。このような事情を考慮して、OFTは、生保
−80−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
会社が専属エージェントに支払うコミッション、年金給付、自動車お
よび事務所補助費等の報酬(remuneration)については、それらを独
立して開示しても専属エージェント間の助言の有効黄争が促進される
19)
とは考えられない、として要求しなかった。
(3)生保商品市場における競争の促進
OFTは、生保商品市場における競争促進について、以下のような
見解を示している。
生保商品市場には情報の非対称性があるため、自由放任では市場の
ZO)
失敗が生じ効率的な競争が行われない。そこで、平均的投資家向けに、
購入の意思決定をする前に、どのような契約内容の商品を購入しよう
としているのかが、理解しやすい形で開示されるとともに、保証され
ない解約価額等の価格情報が提供され、価格の透明性(price trans・
21)
parency)が高めらなければならない。生保商品の価格は商品内容の
質と表裏一体であるため、これによって、生命保険という投資につい
て一般に認識のレベルの低い消費者(投資家)向けの商品の品質と価格
の競争が促進され、効率的な会社が市場シェアを高め、生命保険を含
む金融市場における資源の効率配分が可能になる。こうして、生保商
品の購入者は、商品内容をよく理解した上で購入することができる、
いわゆるinformed decision makingが可能となり、直接利益を受
けるだけでなく、有効競争を通じて得られる成果の還元という形でも
利益を受けることになると考えられる。
ただ金融サービス法上投資(investment)とされる養老保険等の生
保商品では、会社の経費(charge andexpense)が(ユニットリンク保
険やアメリカの変額保険とは異なり)、保険料の外枠で徴収されずに、
当該契約の配当や解約価額計算上のアセット・シェア計算において会
−81−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
社が合理的に配賦するものとされている。また、ユニット・トラスト
等の通常の投資とは異なり、投資額である保険料中に、死亡、生存リ
スク保障のためのリスク・プレミアム部分が含まれている。このよう
な投資とされる生保商品の価格の透明性をどのようにして確保すれば
よいのかは極めて大きな課題である(銀行預金であれば金利が一種の
価格であり単純明解であるが)。この点に関して、SIBとLAUTRO
の改正規則は、契約後5年超の解約価額については、生命保険ファン
ドの投資利回りならびに会社が個々の契約に賦課すべき経費の双方を
標準化し、仮定的に計算された将来給付の予測値を顧客に開示すると
いう考え方を示したのであったが、OFTは、それでは価格の透明性
は確保されず、そのような規則は著しく反競争的であると批判したの
である。(SIBとLAUTROは前述のように、契約当初5年間の解約
価額については、会員会社に対し、当該会社の独自の経費率と7.5%
の仮定投資利回りを基礎として計算して例示することを強制し、それ
を超える期間についての解約価額を含む将来給付額は、運用利回りを
5%と10%の2つのケースに分け、全社の経費水準から算定される仮
定経費率を基礎に計算して例示することを認めることとした。ただ、
一方で、個々の会社の独自の経費賦課により、当該契約の保険期間全
体を通じて、投資利回り(年率)を何%引き下げる効果を持つか、およ
び、それが既払保険料1ポンド当たり何ペンスの経費賦課になるのか
を開示することを強制し、それによって、価格とりわけ経費率の透明
性は保たれると考えていたのである)。
OFTの考え方によれば、生保商品の価格の透明性を確保する方策
としては、(D(全社の平均値ではなく)当該会社のその時々の水準の経
費を基礎として解約価額(満期時受取額を含む)の例示を当初5年間の
みならず、5年を超える期間についても各年毎に開示すること、(95
−82−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
年を超える期間の将来給付額の例示(5%と10%の2ケース)を行う場
合にも、会社自身の経費にもとづいて行うべきこと、③会社の経費賦
課が投資利回りを何%引き下げるかについて、前述のSIBやLAUT
ROの方式で開示すること、が必要である。こうして、OFTは上記
22)
3点の開示を盛り込むよう規則の改正を勧告したのである。
以下では、このOFT報告書にもとづいて、より具体的にOFTによ
る1992年7月のLAUTRO改正規則の主要項目に関する評価を紹介す
る。
2.商品内容開示に関するLAUTROの1992年改正規則に対するOFT
の評価
(1)保険料から控除される経費の開示
先ず、Key Featuresが、従来の商品明細(Product Particulars)
で開示されていた「経費が投資利回りをどれだけ減少させるか」に付
け加えて「保険期間を通じて既払保険料1ポンドあたり何ペンスの経
費が控除されることになるか」を記載することとした点について、O
FTは、それが特に投資家を混乱させることにはならないとして、む
しろ積極的に評価している。
(2)顧客に固有の情報提供
投資家が請求しない限り、当面、当該投資家自身の固有の情報が申
込後でなければ開示されない(仮定的な顧客を想定しての開示にとど
まる)ことに関して、1990年4月の前OFI、長官の報告書は、契約締結
のプロセスの出来るだけ早い時期に顧客固有の情報が開示されるべき
ことを主張していた。しかし、今回のOFT報告書でカールスバーグ
長官は、早い時期での情報提供が望ましく、既に一部の会社は申込み
一83−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
時点で提供しているという実態を認めながらも、さらに、Key Fea−
turesやImportantInformation上に投資家国有の情報を記載するこ
とに2年の経過期間が設けられたことは、業界の努力が不十分である
ことの証拠であり残念であるとしながらも、そのような規則改正自体
は著しく競争制限的とは認められない、と述べている。
(3)解約価額
LAUTROの改正規則では、Key FeaturesとImportantInforma−
tionにおいて、契約当初の5年間の解約価額のみを例示すべきこと
とされていることについて、OFTは、LAUTRO規則が、解約価額
が支払保険料総額を上回る時点の開示を強制している(ただし、5年
間の解約価額表中に示されているときは除く)にもかかわらず、5年
超の期間について解約価額の例示を求めていないのは問題であると述
2J)
べている。5年超の期間の解約価額は生保会社の商品(価格)政策によっ
て相当変わりうる(たとえば25年満期養老保険の例で見ても、24年ま
での配当従って配当買増保険金や解約価額をなだらかな逓増型にする
会社と満期保険金にウェイトをかける会社がある)ので、当初5年間
だけの開示規制ではむしろ後年の解約価額の開示を妨げることとなり、
生保商品間および生保商品と他の商品間の公正な比較が出来ず、従っ
て、投資家の選択を妨げ著しく競争制限的である、というのがOFT
長官の主張である。
(4)将来予測額の例示(イラストレーション)における生保会社の経費
24)
の取扱
OFTは先ず、保険期間全体にわたっての将来給付額(いわばリター
ンの価額)を予測し例示することに関して一定の規制をなすのは、伸
一84−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
介者による詐欺的な使用がなされるのを防ぐという観点か・ら妥当であ
るという。そして、例示に当たって、改正規則が投資利回りについて
標準化された2つの利率(通常の養老保険については5%と10%)を用
いることに対しては、一般に将来のパフォーマンスが過去の実績と国
定的な関係を持つとの根拠がないことから同意できるものであるとす
る。
しかし、将来の給付額の予測に当たって、LAUTROの改正規則が、
(D生保会社の経費は将来変わりうるものであり、現在の僅かな差は長
期間で見れば極めて大きなものとなるので、各社の実績値を用いるこ
とはミスリーディングになる、(参将来給付額の例示は投資利回りも仮
定的な数値を用いた文字どおり例示的なものに過ぎない、との理由で、
仮定的な全社統一の経費を用いて計算すべきものとしている点につい
ては、前述のように強く非難している。
OFTは、その理由として、第−に生保会社が経費で競争するイン
センティブを喪失させ、経費の削減努力を減じることになる、第二に
仲介人に支払われる報酬は初年度にウェイトの高いフロント・エンド
方式が一般的であることから、計算時点における各生保会社の独自の
経費を用いて予測計算しても、それによって例示額がミスリーディン
グなものになることはなく、将来予測額も高度の確実性がある、と主
張する。また、契約後5年経過後の解約価額等の給付額の例示につい
ても、生保会社のアクチュアリーは、内部管理上、自社の経費を用い
て生保ファンドのパフォーマンスを予測しているであろうし、実際に
も、Key FeaturesとImportantInformation上で開示されるべき、
経費賦課によるファンドの利回り低下効果と既払保険料からの経費の
控除効果(1ポンドあたり何ペンス)を計算するためにもそうしなけれ
ばならないのであるから、それがなぜ投資家向けの例示に用いられる
−85一
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
25)
べきでないのか理解できない、と主張する。
OFTが主張するように、LAUTROの改正規則は確かに誤解され
やすいものである。改正規則の5・5条(1)では、当初5年間の解約価額、
経費賦課による投資利回り縮減効果および既払保険料からの経費控除
額を当該会社自身の経費にもとづいて計算(予測)させ、開示すべきこ
ととしながら、一方で会社が任意に開示する(配当による買い増し額
を含む)満期保険金や解約価額等の将来予測額(projection)について
は(当該会社自身の経費ではなく)全社統一の標準的経費に基づいて計
算し、例示すべきものとされているからである。
こうして、OFTは、経費と投資利回りの両方を標準化することで
競争を保険引受のための危険保険料に限定してしまうLAUTROの
改正規則では、会社の経費を削減する競争を阻害し、危険保険料の低
い会社が経費を削減する努力なしに優位に立ち、逆に業界平均を下回
る経費率の会社はその優位性を活かしえず、さらなる削減のインセン
26)
ティブが与えられないので競争を著しく制限する、と主張する。
このようなOFTの見解に対しては、利回りを標準化しつつ経費の
みを会社の実績値をベースに計算するならば、逆に経費は高いが平均
より投資パフォーマンスの良い会社は不利になるとの反論が生じうる。
これに対しても、OFTは、過去の投資実績が優れている会社のセー
ルスマンは販売時にそのことを力説するであろうし(過去の実績それ
自体を比較開示することはLAUTRO規則でも禁止されていない)、
もし会社に自信があるならば保証支払額を増加させればよいので、そ
のような批判は当たらないと言う。OFTの主張は、結局は、生保会
社の経費も投資商品としての生保商品のパフォーマンスに影響すると
いうことを投資家に十分理解させる必要がある、ということであるが、
イギリスの養老保険のように解約価額の保証のない貯蓄性の強い生保
−86−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
商品のパフォーマンスは第一義的には投資効率(運用パフォーマンス)
であろうから、そこを標準化しつつ経費のみを各社の実績値にもとづ
いて将来給付額を計算することにいかほどの意味があるか、やはり疑
問は残るように思われる。ただ、ユニット・リンク保険であれば、当
初から、保険料中手数料や経費として控除すべき部分が明示されてい
るのであり、保険契約者のアセット・シェア計算の過程で経費を控除
する有配当養老保険の経費賦課システムが曖昧であるとの理由から、
近年、いわゆるユニタイズド・ウイズ・プロフィット保険が急増して
27)
いることを考えると、OFTの批判や考え方もそのような文脈で理解
することが出来よう。変額保険の場合、手数料等の経費を別枠で明示
しつつ、保険金や解約価額等の将来給付額はあくまで仮定的な投資利
回りを用いて算出し例示するのが英米の共通の方式だからである。
そして、OFTは、実務的にみても、業界人は将来給付額の例示が
極めて重要なマーケテイング・ツールであることを認識しており、ま
た会社独自の経費に基づく給付額の例示を作成することにほとんど追
加コストがかからないことを認めている、と言う。さらに、業界の多
くの者がLAUTRO規則のような標準化された経費の使用がミスリー
ディングになることを認めている、とも述べている。
3.1FAに支払われるコミッションの開示規制(ソフト・コミッショ
ン開示)に対するOFTの評価
LAUTROの1992年改正規則は、前述のように、IFAに支払われる
コミッションが、契約締結後に生保会社から送付されるImportant
Information中で開示されることを予定しており、しかも、「商品の
詳細な開示」という見出し中で示されることもあって、保険料の一定
割合として開示されるだけである。これは、いわゆるソフト・コミッ
ー87−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
ションション開示と呼ばれるもので、1990年9月以来の方式と変わっ
ていない。もっとも、契約締結以前でも投資家が請求した場合は、IF
Aが受け取るコミッションの実額を開示すべきものとされているが、
投資家にはそのような請求をなしうることが示されておらず、現実に
請求がなされることはほとんど期待しえないといわれている。
このようなソフト・コミッション開示方式に対して、OFTは前長
官時代から批判的であり、ハード・コミッション開示(IFAが生保商
品を推奨する時点で、実額でかつ投資家の請求がなくても開示する方
28)
式)を主張してきたのであった。しかし、SIBとLAUTROは、IFA
に支払われるコミッションも生保会社の経費の一部にすぎず、この経
費については、投資家からの申込時以前に交付されるKey Features
の中で、それによる投資利回りの低下効果と既払保険料からの控除
相当額という形で開示すべきものとしているのであるから、独立して
開示しなくても価格競争はなされる(独立して開示しても投資家がそ
れに反応するとは考えられない)と主張し、ハード・コミッション開
示への移行を拒否したのである。
これに対して、OFTは、1990年1月以降LAUTROのコミッショ
ン協定がOFT自らの勧告によって廃止された後、IFAのコミッショ
ンがかえって高騰し、IFAによる投資助言市場における価格メカニ
ズムが機能していないことに不満を強めていた。そのため、SIBやL
AUTROのソフト・コミッション開示方式に対し詳細な反論を加え
ているが、ハード・コミッション開示を主張するOFT側の根拠は次
のように要約できよう。
①コミッションは、実質的には、投資家が代理人法(law of agency)
上その代理人であるIFAの助言に対して支払っているフィーと言え
29)
るので委任者たる投資家はIFAにその開示を求める資格がある。
一88−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
②ハード・コミッション開示がなされないと、生保会社が商品の質と
価格の競争によらずに、コミッション水準によってIFAを獲得する
非価格競争に走りやすく、それによって投資家が結果的に高コストの
商品・サービスを購入させられることになりかねない(前述のように、
1990年1月からのLAUTROのコミッション協定廃止後、コミッショ
ンは高騰しているが、SIBやLAUTROのソフト開示ではその抑止
力はない)。
③生保会社がIFAに支払うコミッションは実質的には助言(サービス)
市場において投資家からIFAに支払われる対価(価格)であるにもか
かわらず、価格メカニズムが機能し有効競争が行われる仕組みになっ
ていない。それは、コミッションが助言サービスのコスト(一般的に
は時間比例)とは無関係に、獲得された契約の保険金または保険料の
額に比例して決められているからである。コミッションが実額で事前
に開示されるならば、投資家は助言の対価を知りうるし、実際上高額
契約者が低額契約者に比し不当に高い対価を支払っていること(クロ
ス・サブスイダイゼーションが行われていること)も知りうるであろ
うから、投資家がIFAに対しコミッションの割戻を請求することが
30)
可能になる。
(りSIBとLAUTROの1992年改正規則にあるような、生保会社の賦
課する経費が投資利回りや既払い保険料にどのような縮減(控除)効果
を及ぼすのかの開示も、それ自体、競争を促進する要素ではあるが、
助言市場における競争には影響を与えない。中途半端なコミッション
開示規制がなければ、おそらくコストに敏感な大規模なIFAは会計
士のようなフィー・ベースのIFAのように、商品の推奨時点でコミッ
ションの実額を開示するであろう。さらに、コミッションを独立して
開示しても投資家が反応しないとのSIBやLAUTROの主張も当た
−89−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
らない。
(りハード・コミッション開示がなされないと、IFAは投資家に対し、
そのニーズや適合性を考慮するよりむしろコミッションの高い商品を
推奨しかねない。ベスト・アドバイス義務や適合性の原則を導入して
いるので防止しうるとの反論もあろうが、専属エージェントとIFA
に要求される助言の基準の相違を理解している投資家がほとんどいな
いような状況の下で透明性によって市場機能の活性化を図るためには、
コミッションの実額開示が強制されるべきである。さらに、SIBやL
AUTROの改正規則のように、(助言した当人ではない)生保会社が
契約締結後に送付するImportantInformationでコミッションを開
示する方式では、むしろ専属エージェントとIFAの立場(status)の
違いや助言の相違を曖昧にし、二極化の強化の趣旨を損なうことにも
なる。
以上のOFTの主張に対し、SIBやLAUTROはさらに、次のよ
31)
うな理由をあげて反論している。
(D生保会社がIFAに支払うコミッションは、専属エージェントに対
するそれと同じく生保会社からの報酬(reward)である。専属エージェ
ントやIFAが投資家に助言を行っていることは事実であるが、それ
に対して現実にフィーを受け取っているケースはほとんどなく、「実
質的に見て」助言の対価を受けているといったOFTの分析は承服出
来ない。
⑦1FAの助言サービスの質は計測しにくいので、コミッションによ
りIFAの価格競争が行われると、IFAの助言の質を低下させること
になる。
(りIFAのコミッションのみを実額で開示することは、IFAを専属エー
ジェントに比し不利に扱うことになり、結果としてIFAの市場を大
190−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
幅に縮減することになる。
これらのSIBやLAUTROの主張についても、OFTは次のよう
に再反論する。
先ず①について。IFAは、専属エージェントとは異なる市場で競
争しているのであって、生保会社は、投資家からの保険料を経由して
コミッションのコストを回収しているはずである。IFAは専属エー
ジェントとは異なり会社のエージェントではなく投資家のエージェン
トであり、その職務は独立した金融アドバイスを提供することである。
このように、両仲介人の市場の差(専属エージェントはretailに伴う
助言を行うが、IFAは助言とretailを別々に行う)を認識していれば
こそ、SIBとLAUTRO自身がIFAと専属エージェントに支払われ
る報酬等は共に会社の経費の開示の中に包含せしめる一方で、IFA
のコミッションのみをソフト開示とはいえ別途開示せしめることとし
たのではないか。また、(かについても、もしIFAのサービスの質を
計測できないとすれば、ベスト・アドバイスと適合性ルールを超えて
IFAがサービスの質を改善しようとのインセンティブがありえなく
なる。しかし現実には、アフター・サービスのように投資家の目に見
える形でIFA間で競争しうるサービスがあるはずである、というの
がOFTの主張である。
さらに、③についても、OFTが委嘱したコンサルタントの調査に
よれば、ハード・コミッション開示がIFAの規模を必然かつ実質的
に縮減せしめるとの証拠はない。また、IFAの中にも公認専門職団
体の自主規制でハード・コミッション開示を行っている者(弁護士、
会計士、税務アドバイザー)がいて、それらの者に投資助言に対する
フィーを支払う投資家がいることを考えると、IFAへのコミッショ
ンのハード開示が彼らにとって非常に不利になるとの指摘は当たらず、
−91−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
ソフト開示はむしろ会計士等を含めたIFA間の競争を阻害するとい
える、と述べるのである。
なお、OFTはlFAとのイコールフッティングの観点から専属エー
ジェントにもコミッション等の開示を要求すべきであるとの一部の考
え方にも言及し、専属エージェントに対する報酬(コミッションのみ
ならず、会社の自動車、コンピュータ機器、事務所使用便益、年金給
付、ボーナスの支給等も含まれる)を個々の契約に結び付けて割り出
し、それをIFAのコミッションと比較させるのは不可能ではないと
しても極めて困難であり、そうすることのコストが有用性を上回る、
12)
と述べこれを否定している。
こうして、結論として、OFTはSIBやLAUTROのソフト・コ
ミッション開示規制がIFAの投資助言サービス市場における透明性
を阻害し、IFA間の競争はもとよりIFAとその他の仲介人問の競争
をも著しく妨げていると批判した報告書を金融サービス法の122条4
項および同条5項にもとづいて大蔵大臣に掟出したのである。
4.その他のLAUTRO改正規則に対するOFTの評価
その他、SIBやLAUTROが検討を加えたものの結論的に現行通
りとした事項でOFTが反競争的であると批判したものとして、ベス
ト・アドバイス義務との関連で、専属エージェント問で効率性の差を
反映した料率設定がなされていないという問題がある。
これは、もし同一生保会社の同一商品でありながらチャネルによっ
て価格差がある場合(別の専属エージェントから安く入手可能な場合)、
ベスト・アドバイス義務を課せられている専属エージェント(会社代
理人)は自分の取り扱う商品を推奨出来なくなってしまうと解釈され
たため、実際上生保会社が専属エージェントという同一チャネル間で
−92−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
の商品価格に(チャネルのコストを反映した)料率設定(pricing)を行っ
ていないという点に向けられている。OFTによれば、そのため、調
査ではチャネル間のコストの差が相当あるにもかかわらず、ローコス
トのチャネル(不動産エージェント等)が活用されず、専属エージェン
トにもコストを圧縮しようというプレッシャーが働かず、専属エージェ
ント間の競争が制限されている。同一商品であってもチャネルの効率
性を反映した商品価格の差を設けること(differentialpricing)を認め
るため、修正ベストアドバイス義務(modified best advice frame−
work)を設定し、たとえば、専属エージェントが自ら提供出来る範囲
内においてのみベスト・アドバイスをなす義務を設けることにすべき
り)
であるというのがOFTの主張である。
5.大蔵大臣(財務省)による評価
1993年3月、OFT長官から金融サービス法にもとづく報告を受け
た大蔵大臣(財務省)は、検討を加えた結果、OFT長官の見解と同様、
商品内容の開示に関するSIBとLAUTROの改正規則は、投資家保
護に必要な限度を超えて競争を制限する効果を持つものであると判断
し、同年7月、SIBに改正を指示したことは前述のとおりである。
ところで、大蔵大臣は仲介人に支払われるコミッションの開示につ
いて、OFT長官の報告書が否定していた、専属エージェント(会社代
理人)へのコミッション、年金等のフリンジ・ベネフィットや事務所、
自動車等のサービス(これらを総称して報酬:remunerationという)
についても、開示すべきものとしている。その理由は、IFA側から専
属エージェントとの生命保険募集上のイコール・フッティングを強く
求められたからである。
−93−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
注17)OFT、“FinancialServicesAct1986:The Marketing and Sale ofInvest一
mentJinkedInsurance Products,The Rulesofthe SecurltiesandInvestment
孜)ard and’me・Li丘・Assurance and Unit TruSt Reguratory Organization,
March1993’’
18)1987年,SIBの助言(standards of advice)に関するcore ruleによって導入さ
れた原則で、仲介人は一社専属の会社の代理人か、顧客の代理人として複数の会社
の契約を仲介する独立仲介人(Independent FinancialAdvisors)のいずれかでなけ
ればならないとするルール。詳細は前掲上田文研論文186∼187頁。
19) しかし、後述のようにOFT長官の報告書を受領した大蔵大臣(財務省)は、IFA
との競争のイコール・フッティングの観点から、専属エージェントに対しても、コ
ミッションやフリンジ・ベネフィットを含む報酬(remuneration)の開示を求める
ようSIBとLAUTRO規則の改正を指示した(OFTも規制が仲介者の一方に有利
で一方に不利になることは問題であるとはしていたが、コミッション開示はIFA
に限定していた)。
20)OFTによれば、平均的投資家とは当該商品および市場について特別の訓練を受
けず、また特別の知識を持たない者を言う。OFTは、このような平均的投資家向
けに重要な事項を平易に開示したKey Featuresとともに、専門家(アナリスト・
エキスパート)向けに請求があれば開示されるより詳細な会社情報(With Profits
Guides)から、さらには(企業秘密情報部分は除くものの)極めて詳細なDTIへの年
次報告書であるDTI ReturnSの開示といった多段階の開示が必要である、として
いる。
21)ただし、OFTは同時に生保商品の購入者の評価や究極の意思決定に実質的に影響
を与える適切な情報でないと、生保会社や仲介者にコストがかかりすぎるし、購入
者にも情報過多でやはりコストがかかる。適切なバランスが求められる、という。
22) もっとも、アメリカのコスト開示規制のように生命保険の将来の契約者配当を加
味した実払保険料(コスト指数)の開示によって価格メカニズムの活性化を図るとい
−94−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
う行き方ではなく、金融サービス法上投資(lnVeStment)とされる生保商品の経費
(charge and expense)を開示することで市場の透明性を図ろうとするものである。
したがって、投資利回りについては、本文で述べるように仮定的な計算利回りを用
いて将来給付額の予測を行っている。
23)OFTIbid.pp20−21ただ、LAUTRO規則も、本文で述べるように、5年超の
期間の解約価額の例示(proJeCtionあるいはillustration)は、規則の定めるルール
(養老保険では5%と10%の利回りで、かつ、業界平均値を基礎として標準化され
た経費を用いて計算する方式)であれば認めている。もっとも、OFTは後述のよう
に、標準化された経費で計算すること自体が競争制限的であると批判している。
24)なお、LAUTROの改正規則では将来給付額の予測(proJeCtl0n)そのものは、Key
FeaturesやImportantIrlformationの必要的記載事項ではないが、第V編Pro−
duct Disclosure and Disclosure of Commission中で解約価額の開示規制とあわ
せて規定され、とりわけ5・2条(ProjectionandSurrenderValues),5・3条(Restric・
tions onissuing projectlOnS)、5・4条及び5・5条(Generalprovisions relating to
the giving ofprojections and surrender values),5・6条(Wording to accom・
pany projections)ならびに、付則4(The CalculatlOn Of Proiections.とりわけ
II、III,fV章)、付則5(Statements to Accompany ProJeCtions)で詳細な規制が
加えられている。また、予測をする場合には、当初5年間の解約価額、キャシュ・
バリューの価額、経費による利回りと保険料の低下(縮減)効果とともに記載すべき
こととされていること(5・5条(1))、生保会社が規則によらない予測をする場合には、
事前にLAUTROの認可を得なければならないこと(5・13条(2))、文書で開示され最
低3年間は記録を保持すべきこと(5・4条(1))とされていることに留意すべきかと思
われる。
25)なお、OFTは既に1988年3月の報告書中で、標準化された経費を用いた例示に
ついては批判をしており、SIBも検討段階では、この見解を受け入れていたようで
ある。RetaiJ Regulation Review Disscussion Paper No.3:Disclosure(SIB,
−95−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
Oct.1991),plO
26)これに対し、SIBは、本文で述べるように、将来給付額の例示の中で個別生保会
社の経費を用いるよりも、既払保険料1ポンド中何ペンスが経費として控除される
かをKey Features中で開示することで、生保会社の経費競争はなされると主張す
る(Policy Statement:RetallRegulation Review−Disclosure and Standard of
Advice(SIB,May1992)p.7)。これも一理あるのではないか、少なくともこの規
定がある以上、保険引受のための危険保険料のみの競争にはならないのではないか
と思われる。しかし、これに対してもOFTは、投資家は例示された解約価額を読
むのみでそれ以上先を読もうとはしないと言う。そして、改正規則は会社独自の経
費の保険料からの控除効果について特に太文字にすべき等の規定もしていないし、
また、例示額が純粋に仮定的なものである旨明示せよとも規定していないので、投
資家は全社同一の経費と利回りであると誤解しかねないと主張する。
27)川原則光「英国の個人保険商品の動向」生命保険経営第62巻4号(1994年7月)10
3−112貢参照。
28)The Life Assurance and UnitTrustReguratory OrganlZation(OFT,March
1988),Partl,p22及びThe Disclosure ofInformation about LlfeInsurance
Products and CommlSSions paid toIndependentFinancialAdvISerS.TheNew
Requirement of the Securities andInvestment Board(OFT,Apri11990),p
22.
29)実際にも、弁護士や公認会計士等の公認専門職団体の会員がIFAとして助言す
るケースでは、投資家から直接フィーを受け取るケースが一般的である。
30)これに対しては、IFAは投資の助言者であるが、同時に専属エージェントと同じ
く募集人(retaller)でもあり、弁護士等とは異なる、との反論もありうるが、OFT
はこの点についても、二極化のもとでは、IFAと専属エージェントはそれぞれ別の
助言市場を形成するのであって、専属エージェントと同じではない、と再反論して
いる(OFT,Ibid p.34)。
−96−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
31)なお、SIBもIFAのコミッション開示が、過剰販売(overselling)および会社や
商品に対する偏重(バイアス)を防止するために有効であることを認めつつも、ハー
ド・コミッション開示は必要不可欠なものではなく重要ないし有意義のレベルにす
ぎないと述べている(RetailRegulation RevleW−DiscusslOn Paper No.3:Dis−
Closure(SIB,Oct.1991)p.11)。
32)もっとも、OFTの報告書を受けた大蔵大臣(財務省)は、後述のように専属エー
ジェントに支払われるコミッションその他の報酬についても開示せしめるようSIB
に規則改正を命じたため、LAUTROの1994年規則では会社代理人とIFAの双方
にハード・コミッション開示の形でコミッション(報酬)開示を要求することとなり、
業界に大きな衝撃を与えている。たとえば、“Shake−upOndisclosure”PostMaga−
Zin5May1994
33)SIBも1991年、検討段階でdifferentlalpricingの導入について提案したが、①
チャネル間のコストの差は小さい、(彰システム変更やコスト配賦にコストがかかる、
(互)収益力のあるチャネルとないチャネル間のコストのプーリングは効率的である、
④differentialpricingの可能なIFAに比し専属エージェントが不利になっている
ことはない、(E磨果的に商品価格が全体として引き上げられる、等の主張によって
最終的に見送られたようである(RetailReview−Discussion Paper No.3:Discl0−l
Sure(SIB,Oct.1991)plO)。
IV1994年7月1日以後の商品内容とコミッション(報酬)開
示規制
1.概説
前述のように、1992年7月1日付けのLAUTRORULESBulletin
No.53で示されたLAUTRO規則第V編LAUTRO(Product and
Commission Disclosure)Rules1992は、OFTの批判と財務省の命
令を受けて施行されないまま大幅な改正が行われ、1994年7月1日施
−97−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
行のLAUTRO(Product and Commission Disclosure)Rules1994
(以下「新規則」という)として生まれ変わることとなった(新規則の
施行日は1995年1月1日であるが、後述のように各種経過期間が設け
られている)。以下ではこの新規則にもとづく、商品内容の開示規制
およびIFAに支払われるコミッションと専属エージェント(会社代理
人)に支払われる報酬(remuneration)に対する開示規制について紹介
する。
2.三段階の開示方式
新規則でも、1992年改正規則で採用された三段階の開示方式は変わっ
ていない。ただ、加盟会社が解約通知状(cancelation notice)ととも
に郵送する情報開示媒体の名称が1992年改正規則のImportantInfor−
34)
mationからPost SaleImformation と変更されている。
3.Key Features
(1)概説
新規則は、独立仲介人(independentintermediary)によって生命
保険が推奨される場合を除き、会員会社は投資家が申込書に署名をす
る前に、Key Features(規則上の正式名称はKey Features and
ImportantInformation)を交付されるようにしなければならないと
35)
規定している(5・8条(3))。このKey Featuresの記載内容は付則6
で詳細に定められているが、LAUTROは例(example)をいくつか作
成し、加盟会社が同様の形式で作成することを求めている。
36)
また、このKey Featuresは、原則として投資家が購入しようと
している生保商品及び当該投資家の固有の状況にもとづいて作成され
るべきものとされている(5・8条(4))。その意味では、1992年7月の改
−981
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
正規則に比し、OFTの要請に沿った形になっている。ただし、施行
に経過期間が設けられており、1995年7月1日前は標準的な顧客を想
定したモデル的な様式が認められている。
(2)Key Featuresの記載項目
LAUTROの新規則付則6の第1章はKey Features andImpor−
tantInformationという見出しで、その記載内容を定めている。
以下では、LAUTROの作成した「例」にもとづき、1992年改正規
則に対するOFTの批判及び財務省の改正命令を受けて改正された事
項を中心にその内容を概説する。
(》生保商品の販売に関するコミッS/ヨン及び報酬(remuneration)の
37)
開示
IFAに支払われるコミッションについて、OFTがいわゆるハード・
コミッション開示を求め、財務省がさらに専属エージェント(会社代
理人)に支払われるコミッション等の相当額(コミッションおよび年金
給付、自動車のサービス等)の報酬についても同様に、投資家への生
命保険の推奨時に開示することを求め、SIBとLAUTROに規則の
改正を指示したことは前述のとおりである。
これを受けて新規則は、1995年1月1日以降IFAや会社代理人に
支払われるコミッションや報酬について、投資家に対する生保商品の
推奨時に、その実額と支払われる時期を情報として公正、明瞭かつミ
スリーディングでない方法で助言者名とともにKey Featuresまた
は別の書面で開示すべきことを定めている(5・11条(1)付則6、IVCom一
mission and Remuneration)。会社代理人が仲介人となるケース即
ちKeyFeaturesが投資家に交付されるケースでは、一般にKeyFea−
tures中で「助言のコストはいくらか」という間に対し、「本契約の
一99一
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
アレンジのため、当会社は当初何ポンドその後年何ポンドのコミッショ
ンを支払うであろう」という答えの形で記載している。
(り契約後5年を超える期間についての将来給付額
OFTと財務省の要求に沿って、LAUTROの新規則は、将来給付
額(死亡保険金、満期保険金、解約価額)の予測(projection)を会社の
こ、
自らの経費(own charge and expense)に基づいて、またたとえば通
常の保険料払込方法の養老保険の場合であれば5%と10%の仮定投資
利回りに塞づいて計算して開示することを認めている(付則4、2章、
3章付則A)。
また、同時に、解約価額については、Key Featuresにおいて、契
約後5年以内の各年について毎年の金額を、それを超える期間(the
later years)については5年刻みで(養老保険の場合は満期保険金額
を含む)、表を別にして表示し、前者についてはさらに“WARNING
THE EARLY YEARS’’という見出しで契約後間もない間に解約す
ると解約価額は既払保険料を下回りうる旨を付記すべきものとされて
39)
いる(付則6、2条(5)(a)(b)及びその注1)。これらの2つの表の形
式は次のとおりである。
年
ここで、解約価額を計算するために必要な投資利回りは、全社統一
41)
で養老保険の場合7.5%と決められ(付則4、3条(a)),relevant pre・
mium(特約保険料を控除した保険料)に基づき計算される(付則4、
2条)。また、控除の効果(effect of deductions to date)は、毎年、
資産と保険料に対して課される経費の金額(すべての「適切な経費」
を含む)と、生命保険保障のコスト(危険保険料)の金額を、仮定投資
−100−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
利回り(養老保険の場合7.5%)で蓄積して計算される(付則6、3条)。
なお、LAUTROの「例」では、インフレがあれば表示された金額
では将来の購買力が減じられることになるとの注意文言がある。
③控除に関する要約(Deductions Summary)
1992年改正規則では、会社による経費の控除が当該商品の投資利回
りを削減する効果と既払保険料からの控除(保険料1ポンド当たり何
ペンス)を記載すべきこととされていたが、新規則においても、Deduc−
tions Summaryという見出しで、どのような控除(生命保険保障コ
スト、コミッション、経費、解約控除等)があるか、控除の金額は全
保険期間で何ポンドになるかとともに、保険保障コストを除く控除が
投資利回りを何%減ずる効果を持つかを、5年超期間の解約価額表の
直後に記載すべきものとしている(付則6、2条(6))。
(りその他の重要な情報
新規則は、Key Featuresの最後のページで、(i)投資家が負担す
べき経費の性格、金額または率を明瞭に示すこと、(ii)EC第三次生
保指令の付表IIによって保険契約者に通知することを求められる情報、
および(iii)投資家がさらなる情報を得ることができる方法、を(iv)
FurtherInformationとして記載すべきものとしている(付則6、2条
(9))。
このうち(i)について、前述の「例」によれば、「経費その他の控
除は現在の経験に基づくbest estimateである。それは将来変更され
うる」との記載がある。その他、「例」では、QueriesandComplaints
として投資家がPersonalInvestment Authority(PIA)に不服を申し
立てることが出来ること等が記載されている。
4.Post Salelnformation
−101−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
LAUTROの新規則は、生保商品の販売(推奨)時点で与えられた情
報を投資家にコ・ンファームし、また、販売時点と契約締結時の間の変
更について確認するために提供される情報開示媒体として、前述のよ
うにPost SaleInformationに関する規定を設けている。この書面
で開示されるべき内容は、Key Featuresで開示された当該投資家の
契約に関する解約価額、経費控除ならびに仲介人へのコミッションま
たは報酬、および将来給付額の予測値(illustration)等である。これ
らの情報は、1992年改正規則と同様、解約通知状の送付以前に郵送さ
れるべきものとされ、投資家が申込時点で開示された情報を思い出し、
またはチェックするのに役立つことが期待されている(5・9条及び付則
42)
6、II章)
なお、会社代理人が仲介人となったケースでは、 このPost Sale
Informationは‘‘ADVISERS STATUS”という見出しで、「この
契約について貴方に助言した者は○○会社(またはマーケテイング・
グループ)のみを代理します」という文言を記載すべきこととされて
いる(付則6、II章)。
5.いわゆるdiffrentiaIpricingを認めるためのCode of Conductの
改正
今回の改正でLAUTROは、OFTの批判と財務省の指示を受けて、
規則の第5編(PartV)のみならず、付則2(Schedule2)で規定され
1.i
ている行動規範(Code of Conduct)を改正し、専属エージェント間
で同一商品を異なる価格で、また、ある一人の会社代理人が異なる投
資家に同一商品を異なる価格で提供することを認めることとした。
注34)また、申込書に署名する前に交付する書画の名称は“Key Features’’で変って
−lL12l
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
いない。このKey Featuresには主要な特徴(key features)以外に重要な情報
(importantinformation)として、EC第3次指令のAnnexIIの項目等が記載され
るべきものとされている(付則6、2条(9))。
35)独立仲介人が推奨するケースでは、会社が事前に作成し独立仲介人に渡しておく
書画が交付される。また、Key Featuresを受領後投資家が申込み内容を変更した
場合(たとえば保険料をアップした場合)に投資家が同意すれば、修正KeyFeatures
が3営業日内に郵送されればよいととされている。
36)年間の保険料が120ポンド、保険期間全体で1000ポンド以下のときは、標準的な
(仮定的な)投資家についてのものでよい(付則6、2条(3)(C))。
37)コミッション(会社代理人については報酬)の内容と計算方式等についてLAUTR
Oは詳細なガイダンスを公表している。このガイダンスによれば、会社代理人が交
付する当該顧客ベースの予測またはKey Featuresにはその契約に関する報酬額を
あわせて開示すべき旨明記されている。
38)解約価額を含む将来給付の予測額の計算に当たっては、保険料から特約保険料、
特別保険料等を控除した「適切な保険料(relevant premium)」から「適切な経費
(appropriate charge)」と「保険保障のためのコスト(cost of risk benefit)を控
除した金額に基づくものとされる(付則4、II章)。ここで、「適切な経費」とは、
たとえば配当付き契約の場合、加盟会社が現在の経費水準をベースに①契約の主
要条項(り税効果(カ生保ファンドから株主勘定への振香額④確定剰余金から配当
されずに留保された部分⑤アクチュアリー会のガイダンスに従って、当該契約に
帰属せしめられるべきものとして合理的に決定された経費の金額をいう(付則4A、
1条(3)(b))。
39)付則4(5)の注6では明定されていないが、LAUTROの「例」では、養老保険の
満期前5年間については各年の価額が示されている。
40)英文では‘‘waht youmightgetback”という見出しである(付則6、2条(5)注1)
41)資産運用の実態からみて7.5%が高すぎると考える会社は、より低い利率を用い
−103−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
るべきものとされている。
42)ただし、1995年1月1日から1995年7月31日までは、当該投資家に関する情報で
はなく仮定的な情報(specimen)でよいという経過規定が設けられている。
43)なお、このCode of Conductは、会社代理人が報酬(remuneration)の詳細を投
資家に開示すべきものとする改正も行っている(6C条)。
V1994年7月に行われたLAUTRO(Disclosure of Status)
R山es1992の一部改正
SIBが1991年春に公表したRetailRegulationissues for review
中で取り上げた商品・コミッション開示以外の大きなテーマとして、
二極化の強化(独立仲介人と専属エージェントの立場の開示)とそれに
関連した会社代理人によるアドバイスの充実があった。LAUTROは、
前述のように、1992年6月23日、この点についてもLAUTRO(Disclo−
sure of Status)Rules1992を作成し、OFTの判断を仰いでいたもの
である。
今回、LAUTROは、そのうち一部(written explanation of a
recommendation)のみを規定し、残りは、今年中にも発足が予定さ
れているPIAに委ねることとしている。
今回の改正点は、いわゆる適合性の原則にもとづき会社代理人が生
命保険を推奨するときに、なぜ当該契約が投資家にとって適合的(suiL
able)であると考えられるかという説明文書を交付すべきものとする
点である(新規則3・15条)。この文書は、解約通知状の発行以前に交
付されなければならないが、説明文書のフォームの決定は生保会社に
委ねられている。また、説明に当たっては、会社代理人から投資家へ
の質問書である「事実の発見(fact find)」という文書を通じて収集
−104−
英国における生保商品内容と仲介人の報酬開示規制
された当該投資家の財務その他の状況を考慮する必要があるとされて
いる(3・15条(4)(b))。
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