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極限光物理学 講義ノート 第10講
2010/06/21 Azechi 1 第10講 流体力学的不安定性 0) はじめに 流体力学的不安定性は身の回りから宇宙までの豊かな現象 を作り出すメカニズムである。 小は 1mm のレーザー核融合ターゲットから 大は億光年規模の宇宙の大域構造まで ① その中からもっとも有名な 2 つの不安定性を取り出し、その基本 メカニズムを調べる。 ・ レイリー・テイラー不安定性 ・ ケルビン・ヘルムホルツ不安定性 ② 続いてこれらの不安定性の具体例を見る。 ③ 次に、流体力学の基礎式を前講とは別の見方で導出し ④ その応用例として、レイリー・テイラー不安定の非線形飽和現象を考 える。 …つもりであったが講義時間が足りないので断念 2010/06/21 Azechi 2 1) レイリー・テイラー(R-T)不安定性のゲリラ的解析 Positive feedback Ⅰ バブルでは浮力、スパイクでは重力が支配的となる。 Ⅱ バブルには上向きのスパイクには下向きの運動量が与えられる Ⅰ 浮力-重力= (ρ hi − ρ lo )ag Ⅱ 運動量= P = ∞ ∫ ρv( z )dz −∞ v(z ) を求めよう。ここでは数学的にやってみる。 ① 速度 v は速度ポテンシャルφを用いて v = ∇φ と書ける ② 非圧縮性流体 ∇ ⋅ v = 0 ∴∇ φ =0 2 (ラプラス方程式) φ = f ( z ) cos ky としてみると ∇ 2φ = −k 2 f ( z ) cos ky + f ′′( z ) cos ky = 0 ∴ f ′′ = + k 2 f → f ( z ) = f 0 e ∴ v z = ae −k z −k z cos ky 非常に良く似た話=グリッドの周りの静電場 グリッド間隔分はなれると電位一定となる 2010/06/21 Azechi 3 したがって ∞ P= ∫ρ hi e a − kz 0 dz + ∫ρ lo e + kz dz a −∞ 0 = ( ρ hi + ρ lo ) a k 運動量の時間微分=力より = a ρ hi − ρ lo kg ⋅ a ρ hi + ρ lo γ2:成長率 α A : アットウッド数 ρ hi >> ρ loでα A = 1 ρ hi = ρ loでα A = 0 解 a (t ) = a0 cosh(γt ) ≅ a0eγt 初期摂動 R-T 不安定性の特徴 ① 短波長の摂動ほど成長率が大きい ② 密度比が大きいほど成長率が大きい ③ 加速度 g が大きいほど成長率が大きい 数値例 レーザー核融合 10 7 cm / s = 1016 cm / s 2 = 1013 g 0 g= ns k = 2π / 50 µm αA = 1 → γ = 3.5 / ns e γ ⋅2 ns = 1000 2010/06/21 Azechi 4 自然の恵み: 低密度側の流体の中にエネルギー源がある ・ レーザー核融合 … レーザー ・ ワシ星雲 … UV 光 ・ Ia 型超新星 … C-C C-O 反応 エネルギーはレーザーの場合は電子、x 線によって界面に伝わり ・ 密度勾配 ・ アブレーション をもたらす。 レーザー核融合によっての福音 Ia 型 SN … hot な議論 2010/06/21 Azechi 5 半経験式を示す 2) 密度勾配とアブレーションの効果 γ = kg − β kva 1 + kL ① 密度勾配 ρ ∝e modified Takabe formula. + z L という密度プロフィールを考える 摂動は ± k 内に制限されているので実効 的な密度はそこで決まる。 すなわち ρ hi = ρ 0 e ρ lo = ρ 0 ∴αA = 2 kL ρ (e ρ hi − ρ l = 0 2 ρ hi + ρ lo ρ 0 (e kL 2 kL 2 −1 − 1) kL → 2 1+ +1 + 1) kL 1+ 1 1 kL (for kL >>1) = = 1 1 + kL 1+ kL ② ablation i)古典的 R-T の振幅 a ( z , t ) = a0eγt ⋅ e − kz ii)アブレーションがあると z → z + va t a ( z , t ) = a0 eγt e − k ( z +vat ) = a0 e (γ −kva ) t e − kz 係数βの物理的意味 ν a はピーク密度で定義されているのに対 し RT 最大となる密度はそれより低密度 β≈ ρ peak ρ RT 2010/06/21 Azechi 6 3) ケルビン・ヘルムホルツ不安定(KH) 2 つの流体に速度差 2 つの流体の重心系に乗った座標 Ⅰ それぞれの流体から見て不連続面が へこんでいる部分では流速が大 → 圧力が小 膨らんでいる部分では流速が小 → 圧力が大 不連続面の変形が加速される向きに運動量があたえられる。 Ⅱ Ⅱ. 運動量の時間変化= ( ρ1 + ρ 2 ) a k Ⅰ. 面積が狭くなる (RT と同じ) → 速度が上がる (1) → 圧力が下がる 図のような流管を考えよう ①面積:摂動 の振幅も表面から離れる にしたがって exp で減衰するから δa = δz + ae − kδz − a ≅ (1 − ak )δz ②速度: uδz = (u + δu )δa = (u + δu )(1 − ak )δz ≅ (u + δu − aku )δz δu = ak ∴ ∴ δu = + aku u ③圧力:ベルヌーイの定理より 1 2 ρu + p = const 2 2 → δp = − ρu δu u = − ρu 2 ⋅ ak ∴ δp1 = − ρ1u12 ak 、 δp 2 = + ρ 2 u 22 ak 流体 1 と 2 の圧力差 δp = δp2 − δp1 = ( ρ1u12 + ρ 2u22 )ak (2) 2010/06/21 Azechi 7 運動量の時間変化=力であるから、(1)=(2)として ρ1u12 + ρ 2u 22 2 = a k ⋅a ρ1 + ρ 2 (3) u1 ,u2 は重心系での速度。これを相対速度 v = v1 − v2 で書き直す = a ρ1 ρ 2 v2k 2 ⋅ a 2 ( ρ1 + ρ 2 ) (4) 2 ≡ γ KH 成長率を書き直す γ KH kv = ρ1 ρ 2 = ( ρ1 + ρ 2 ) 2 ρ 2 ρ1 (1 + ρ 2 ρ1 ) 2 (5) ρ1 ρ 2 1 4 1/4 γ kva 1/2 2/5 2/5 KH 不安定性の特徴 ① 速度差があれば( g =0 でも)成長 ② ρ1 = ρ 2 で成長率最大 −1 ③ 成長率の大きさ~ (波長 速度差 ) 考えるヒント:(3)→(4)を証明せよ。重心系では ρ1u1 = ρ 2u2 を使え。 2010/06/21 Azechi 8 u1 ,u2 は重心系での速度。これを相対速度で書き直す。 重心系では運動量=0 なので ρ1 (v1 − V ) + ρ 2 (v2 − V ) = 0 ∴ v1 = V + ρ v + ρ 2 v2 V= 11 ρ2 + ρ2 逆に → v = v1 − v2 v2 = V − ρ2 ρ1 + ρ 2 ρ1 ρ1 + ρ 2 重心系の速度は u1 = v1 − V = ρ2 v ρ1 + ρ 2 − ρ1 u2 = v2 − V = v ρ1 + ρ 2 圧力は δp1 = − ρ1u12 ak δp2 = − ρ 2u12 ak δp = δp 2 − δp1 = ρ1 ρ 2 2 v ak ρ1 + ρ 2 これを運動量の時間変化に等しいとおいて = a ρ1ρ 2 2 2 v k ⋅a 2 ( ρ1 + ρ 2 ) ≡ γ KH 2 v :相対速度 v v 2010/06/21 Azechi 9 2010/06/21 Azechi 10 2010/06/21 Azechi 11 2010/06/21 Azechi 12 2010/06/21 Azechi 13 2010/06/21 Azechi 14 2010/06/21 Azechi 15 5)まとめ 流体力学の基礎式を書き下しておこう。 連続の式: ∂ρ = −∇ ⋅ ρv ∂t 運動の式: ρ Dv = −∇p − ρ∇φ + f 粘性 Dt エネルギーの式: この講義では導いていないが書いておく 1 p ∂ 1 2 ( ρv + ρε ) = −∇ ⋅ ρv v 2 + ε + + q 粘、熱 ρ ∂t 2 2 エネルギー密度 エネルギー流速密度 かくも簡単な方程式の中に非常に多くの現象が隠されている。 地球、惑星、太陽の内部構造とダイナミクス 凝縮・進化・爆発する星 渦巻く(あるいは巻がない)銀河 銀河が形成する宇宙の大域構造 これら全ては流体方程式の中に含まれている。 しかし極めて簡単な場合を除いて方程式が意味する内容を 理解する方法はなかった。チェスや碁のルールは判ったが戦い方を 知らなかったのである。 それが可能になりそうだというのが今の状況。 大規模シミュレーションと観測、実験