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3.『二層の広域圏』のための地域マネジメントの基本的方向
3.『二層の広域圏』のための地域マネジメントの基本的方向 <第 3 章の要旨> 第 3 章では、 『二層の広域圏』の形成に向けて、 「(1) 『地域ブロック』」、 「(2) 『生活圏 域』」、 「(3) 『自然共生地域』」の 3 つの地域づくりについて、地域の主体的な取り組みに あたっての「地域マネジメントの基本的方向」について記す。 (1)『地域ブロック』 『地域ブロック』においては、経済力や財政力のマスメリットを活かし、日本海と 太平洋の 2 つの海などに面した圏域づくりなど「①圏域の戦略的な設定」が求められ る。また、「②『地域ブロック』の特性を活かしたマネジメント計画の立案」によっ て、国内の他地域そして海外から見て存在感があり、自立した圏域としていくことが 重要となる。そのためには、「③東アジア諸国に開かれた『地域ブロック』の構築」 を通じて、独自の東アジア諸国との交流・連携関係を築くとともに、国内においては 「④『地域ブロック』間の交流・連携の促進」を通じた相互補完を強化できるソフト とハードインフラを一層整えていく必要がある。また、国際競争力を高めるためにも、 「⑤国際的な魅力を備えた『地域ブロック』拠点都市の構築」により、拠点都市の機 能強化を急ぐとともに、「⑥地域の創意工夫を引き出すインセンティブ型の地域振興 の強化」を通じ、競争関係の中で全体を高めていく手法を取り入れていく必要がある。 (2)『生活圏域』 『生活圏域』の拡がりについては、移動目的別の圏域の広がりや地域構造を踏まえ、 それぞれの「①地域の多様な特性を活かした『生活圏域』」の形成ができる規模に設 定する必要がある。また、2050 年のわが国の人口は現在より約 20%減少することが 予想されることから、「②人口が減少しても生活レベルを維持する地域づくり」にも 配慮する必要がある。その際、今後の人口減少過程で、『生活圏域』内に存する都市 の縁辺部などで土地利用が虫食い状に縮小することのないよう、秩序立った「③土地 利用と都市機能のコンパクト化」が求められる。 (3)『自然共生地域』 『自然共生地域』に対しては、今後の地域マネジメントの方向性を考えていくため 「①『自然共生地域』の地域特性による 4 つの類型化」を行った上で、「②農業面か ら見た 4 つの地域類型の特性」を整理した。『自然共生地域』の状況は様々であり、 抱える問題も多様であることから、それぞれの「③地域の特性を活かした地域マネジ メントの強化」によるコミュニティの維持が急務である。そして、「④コミュニティ の維持に向けた地域の再構築」にあたっては、「⑤耕作放棄地に歯止めをかける計画 的な土地利用」を図る上からも、「⑥日本の原風景」を回復していくことが重要であ る。また、棚田や里山などを活用した「⑦地域コミュニティを支える産業の創出と新 たな地域交流」を通じて、集落、あるいは旧村単位での地域コミュニティ維持を図っ ていくことが重要である。 49 (1)『地域ブロック』 ①圏域の戦略的な設定 『地域ブロック』の圏域は、現状の地域間の結びつき、今後の東アジア諸国などと の交流関係、交通ネットワークの形成、地域の一体性など地域の実情を踏まえつつ、 経済力や財政力のマスメリットが活かせる、自立的な圏域となるよう戦略的に設定 する必要がある。 その際、脊梁山脈を横断する交通網を活かし、日本海側、内陸部、太平洋側の交 流・連携により、地域資源を有効活用していくことが重要である。すなわち、地理 的特性などを活かした独自性と戦略性のある東アジア・極東ロシアとの交流・連携 施策を立案していくためにも、国土を横断する方向の連携を視野におき、日本海と 太平洋の二つの海などに面した圏域を考えていくことは一つの重要な視点である。 注)下記図表については参考資料を参照。 図表-参3.(1).①.1 地域ブロックが備えることが考えられる機能・施設の一覧 ②『地域ブロック』の特性を活かしたマネジメント計画の立案 『地域ブロック』の形成にあたっては、国際競争力のある産業構造、国内外からの 投資先、訪日外国人及び国内観光客誘致先など、海外や国内他地域から見た存在感と 特性を有し、自立した圏域としていくために、 『地域ブロック』のマネジメント計画を 立案していくことが重要である。 図表-3.(1).②.1 世界の直接投資額に 占めるG7の割合 図表-3.(1).②.3 日本に占める東京都の 直接投資の割合 図表-3.(1).②.2 G7に占める日本の 直接投資の割合 図表-3.(1).②.4 英仏における海外直接投資の地方別割合 海外直接投資の地方圏別割合(フランス) 海外直接投資の地方別割合(イギリス) その他 26% イル・ド・フラン ス(パリを含む) 18% ロンドン 32% プロヴァンス・ア ルプ・コート・ダ ジュール 13% その他 41% スコットランド 8% ノースウェスト 8% ウェストミッドラ ンズ 9% ノール・パ・ド・カ レー 10% サウスイースト 17% アルザス 9% ※地方の数 :12 ミディ・ピレネー 9% ※地方圏の数:20(海外県を除く) 出典: National Statistics(イギリス)「Regional Trends 2001」 フランス国際投資局「Agence francaise pour les investissements internationaux」をもとに作成 50 ③東アジア諸国に開かれた『地域ブロック』の構築 これまでわが国の欧米諸国に対する国際交流・連携のゲートウェイは、その需要の 地域的偏在などから三大都市圏が中心であった。 各々の『地域ブロック』と東アジア諸国などとの国際航空旅客、国際航空貨物及び 国際コンテナ貨物の流動についても、関東、中部、近畿、九州ブロックについては自 ブロック内の空港、港湾を利用する割合が高いが、他のブロックについては、三大都 市圏の国際拠点空港、国際拠点港湾を利用する割合が高く、全てのブロックが独自の 東アジアとの交流関係を構築するには至っていない。 今後とも、増大すると見込まれる『地域ブロック』と東アジア諸国との人、モノの 移動に適切に対処するため、東アジア諸国や極東ロシアなどとの『地域ブロック』の 交流・連携については、四方を海に囲まれた南北 3,000km に及ぶ細長い国土上に連な る『地域ブロック』と東アジア諸国などとの地理的関係、 『地域ブロック』の持つ産業 構造の特性、優れた地域資源、既存の交通インフラなどを踏まえ、東アジア諸国、諸 地域、諸都市などと直接結びつきを持てる、開かれた環境としていくことが重要であ る。 そして、 『地域ブロック』が有する、自然、景観、歴史遺産、食の魅力、文化、学術、 スポーツなどを通じた国際交流が、 『地域ブロック』に新たな活力となることが期待さ れる。この結果、アジアとの人々の交流は、経済活動の面だけではなく、日常生活の 延長線での『地域ブロック』のグローバル化を促す可能性がある。 その際、『地域ブロック』は、東アジア諸国の成長期と予想される 2010~2020 年ま でに、人、モノ、情報などについて、地域資源を最大限活かせるように、東アジアな どにおける最適な交流の相手を見出し、交流・連携関係を築き、これに対応したゲー トウェイ機能(交流拠点)を備える視点も重要である。 図表-3.(1).③.1 東アジア方面の国際流動における自ブロック港湾・空港利用比率 (国際海上コンテナ貨物) (日本人出国旅客数) 88 89 94 92 92 51 41 51 61 26 北海道 85 94 北海道 近畿 19 中国 19 33 21 近畿 中国 東北 50 東北 93 97 92 93 95 93 9595 95 九州・沖縄 76 85 85 90 関東 28 44 四国 中部 その他 港湾利用比率 自ブロック内 港湾利用比率 1998 2003 ( 単位:%) 年 年 九州・沖縄 その他 空港利用比率 自ブロック内 空港利用比率 関東 0 25 四国 中部 1998 2003 年 年 注)各「地域ブロック」の国際海上コンテナ貨物取扱量及び日本人出国旅客数は、図表-2.(1).③.2 を参照。 出典:国土交通省「全国輸出入コンテナ貨物流動調査」「国際航空旅客動態調査」をもとに作成 51 ( 単位:%) ④『地域ブロック』間の交流・連携の促進 全国的な交通ネットワークの形成などにより、経済・社会活動が広域化し、業務、 観光、人材、原材料、エネルギー、工業製品、食料、廃棄物など多面的に『地域ブロ ック』間の相互補完・依存関係が深まりをみせている。 それぞれの『地域ブロック』が自立に向けた戦略的な取り組みを展開するために も、 『地域ブロック』単独では、供給、処理できない資源、機能について、国内の他 の『地域ブロック』との交流・連携を通じた相互補完を強化できるソフトとハード インフラを一層整えていく必要がある。 図表-3.(1).④.1 財・サービスの移出入 移出入額 (兆円) 200 移出 入 額( 兆円 ) 移出 移入 150 移出入 100 50 0 ( △23 ,010 億円) 北海道 ( △5,6 35億円) (28 0,5 80億円) ( 77,8 06 億円) 東北 関東 (8 1,98 5億円) 中部 ( 12 ,244 億円) 関西 近畿 (△10,6 91 億円) ( △2 0,11 2億円) 中国 四国 九州・沖縄 -50 注)平成 12 年度 県民経済計算(確報)にもとづく都道府県単位の財・サービスの 移出・移入バランスを用いて、地域ブロックごとの構成圏にしたがって集計 (複数の地域ブロック圏をまたがる場合は人口比で按分)した。 出典:「平成 12 年度 県民経済計算(確報)」をもとに作成 図表-3.(1).④.2 人口 1,000 人あたりの観光目的地域間移動者数 人口1000人当たり入込旅客数 人口1000人当たり出発旅客数 (人/日) 6 5.5 5 4 3.1 3 2.62.6 2.4 2 1.5 0.9 1 1.6 1.0 2.1 1.8 1.21.1 1.01.2 0.70.8 0.8 0 北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州 沖縄 注)入込旅客数は他地域居住者による当該地域への幹線旅客数 出発旅客数は当該地域居住者による他地域への幹線旅客数 出典:「第 3 回全国幹線旅客純流動調査(2000 年)」をもとに作成 図表-3.(1).④.3 産業廃棄物の搬出入 産 業 廃 棄 物 最 終 処 分 の 広 域 移 動 状 況 (H 12) 1 0 0 0 t/ 年 900 1 80 00 0 700 1 80 57 07 ~ ~ 他 地 域 へ の 搬 出 他 地 域 か ら の 搬 入 ~ ~ 600 486 500 406 400 399 332 267 300 200 116 100 0 1 2 北 海 道 24 東 北 144 103 27 関 東 中 部 近 畿 13 34 中 国 四 国 2 九 州 九州・沖縄 出典:環境省「平成 14 年度 廃棄物の広域移動体策検討調査及び廃棄物等循環的利用量実態調査報告書」をもとに作成 注) 上記の 3 図表は、p5 図表-1.③.2 のブロック区分を基本に都道府県別に集計したものである。 52 ⑤国際的な魅力を備えた『地域ブロック』と拠点都市の構築 国際競争力のある自立した『地域ブロック』とするためには、国際的な人材の育成、 「世界を相手にするリーディング産業 *」の創業、産業集積、起業を促進する環境を 整える必要がある。このためには、『地域ブロック』内の大学など学術・研究機関、 企業、行政など産学官の連携を強化するための交通ネットワークの整備などソフト・ ハード両面のインフラを国家戦略として進めることが重要である。 また、 『地域ブロック』の拠点となる都市が、それぞれの経済的集積、歴史、文化 を活かし、国際的にも魅力を持ち、開かれた都市となるため、その機能強化を急ぐ ことが重要である。 図表-3.(1).⑤.1 九州・バイエルン州の主要企業 ■九州の主要企業(主に九州内・国内で活動) 企業名 2003年度売上高 ■バイエルン州の主要企業(世界に事業展開) 備考 企業名 1兆3,183億円 電力 九州電力 SIEMENS NTTドコモ九州 6,477億円 通信 BMW トヨタ自動車九州 5,987億円 自動車販売 Audi TOTO 3,799億円 陶機器 adidas ベスト電器 3,447億円 家電販売 PUMA 2002年度売上高 備考 840億1,600万ユーロ ドイツ最大の電気機械製造企業 (10兆9,220億円) 422億8,200万ユーロ 自動車製造 (5兆4,967億円) 226億300万ユーロ 自動車製造 (2兆9,384億円) 65億2,300万ユーロ スポーツ用品 (8,480億円) 13億8,000万ユーロ スポーツ用品 (1,794億円) ※( )内の円表示は1ユーロ 130 円で計算 ※()内の円表示は1ユーロ130円で計算 出典:西日本新聞社「九州データブック 2005」、バイエルン州駐日代表部各社ホームページをもとに作成 図表-3.(1).⑤.2 国際交流に関係する施設のブロック内の立地状況 ゲート機能 ※1 ※2 北海道 2 0 交流機能 その他 コンテナ港湾 領事館 インター 海外 定期便就航港※3 国際 国際メッセ ナショナル アーティスト 中国・ 会議場 開催施設 欧米 アメリカ イギリス スクール 公演会場 アジア 国際空港 3 0 0 2 東北 5 0 6 0 1 1 関東 1 1 8 3 4 2 中部 1 1 4 1 3 4 北陸 2 0 3 0 1 0 近畿 1 1 6 2 3 3 中国 3 0 11 0 5 2 四国 2 0 6 0 1 0 九州・沖縄 7 0 11 1 5 8 北海道:北海道 北海道:北海道 東 関東:茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県 関 東:茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県 中 北陸:富山県、石川県、福井県 北 陸:富山県、石川県、福井県 近 中国:鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県 中 国:鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県 四 九 州:福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 沖 九州:福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 注) (注) 国際空港 ※1:国際定期便就航空港数 国際空港 ※1:国際定期便就航空港数 ※2:欧米定期便を有する空港数 ※2:欧米定期便を有する空港数 コンテナ港湾 :国際コンテナ航路を有する港湾数(H14) コンテナ港湾:国際コンテナ航路を有する港湾数(H14) ※3:欧米または中国・アジア(韓国を除く)への定期便を有する港湾 ※3:欧米または中国・アジア(韓国を除く)への定期便 1 2 1 数(週1便以上) を有する港湾数(週1便以上) 「数字でみる港湾 2002」、国際輸送ハンドブック 2003 をもとに作 「数字でみる港湾2002」、国際輸送ハンドブック 16 4 7 ○ ○ 成 2003より作成 領事館:○はアメリカ・イギリス領事館の立地箇所 領事館:○はアメリカ・イギリス領事館の立地箇所 「広域国際交流圏研究会:広域国際交流圏研究会報告(平成 6 4 1 ○ 「広域国際交流圏研究会:広域国際交流圏研究会 11 年)」をもとに作成 報告(平成11年)」より作成 国際会議場(国際コンベンション会場) 1 0 0 国際会議場(国際コンベンション会場) :収容人数 10,000 人以上の会場数 :収容人数10,000人以上の会場数 国際メッセ(見本市)開催施設 国際メッセ(見本市)開催施設 8 4 ○ ○ 3 :床面積 10,000m2 以上 :床面積10,000m2以上 http://www.jnto.go.jp(国際観光振興機構) http://www.jnto.go.jp(国際観光振興機構) 3 1 0 インターナショナルスクール インターナショナルスクール :文部科学省が指定する国際的な評価団体の認定 :文部科学省が指定する国際的な評価団体の認定 (WASC,ACSI,BCIS)を受けた大学入学資格を有する教育施設 2 0 0 (WASC,ACSI,ECIS)を受けた大学入学資格を有する 海外アーティスト公演会場 教育施設 :コンサートホール座席数 2,000 席以上 海外アーティスト公演会場 ○ 5 4 2 都道府県別ホール便覧 :コンサートホール座席数2,000席以上 (演奏年鑑 2003 社団法人 日本演奏連盟) 都道府県別ホール便覧 東北:青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、新潟県 北:青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、新潟県 (演奏年鑑2003 社団法人 日本演奏連盟) 中部:長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県 部:長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県 畿:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県 近畿:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県 国:徳島県、香川県、愛媛県、高知県 四国:徳島県、香川県、愛媛県、高知県 縄:沖縄県 沖縄:沖縄県 3 ○ 1 2 図表-3.(1).⑤.3 欧州における企業が進出したい都市ベスト30 企業が進出したい欧州の都市ベスト 30※ 順位 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 都市 ロンドン パリ フランクフルト ブリュッセル アムステルダム バルセロナ マドリッド ベルリン ミラノ ミュンヘン チューリッヒ ダブリン マンチェスター ジュネーブ リスボン デュッセルドルフ プラハ ストックホルム リヨン ハンブルク グラスゴー ワルシャワ ブタペスト ウィーン コペンハーゲン ローマ オスロ モスクワ ヘルシンキ アテネ 国名 イギリス フランス ドイツ ベルギー オランダ スペイン スペイン ドイツ イタリア ドイツ スイス アイルランド イギリス スイス ポルトガル ドイツ チェコ共和国 スウェーデン フランス ドイツ イギリス ポーランド ハンガリー オーストリア デンマーク イタリア ノルウェー ロシア フィンランド ギリシャ 人口50万人未満の都市 都市人口 (万人) 704 212 64 96 71 145 282 342 130 120 34 48 43 17 56 57 120 72 41 170 61 162 187 160 65 265 50 840 54 77 ※ 世界最大手の不動産コンサルタント会社 Healey & Baker 社(英国)によって行われた 「European Cities Monitor 2003」によるラン キング。 ランキングは欧州の大手企業 501 社を対 象に行なわれたアンケート調査に基づいて いる。 人口50万人~100万人未満の都市 欧州の都市の位置 出典:Healey & Baker 社 「European Cities Monitor 2003」をもとに作成 53 コラム 九州ブロックにおける国際ネットワークの進展状況 東アジアと地理的に近接している九州ブロックの拠点都市である福岡では、1989 年のアジ ア太平洋博覧会を契機とし、東アジア諸国との交流が急速に深まりつつある。1990 年から 2002 年までの間に、在外公館は 2.5 倍に、国際会議開催は 2.7 倍に増加している。また、九 州全体の留学生の受入数も 5.6 倍と顕著に増加している。さらに、福岡空港における国際線 の就航が 1990 年から 2003 年で 76 便/週から 156 便/週と 2 倍以上の増加を示している。こ のうちアジア便が占める割合が 89%と高く、韓国や中国といった東アジアを中心としたネッ トワークの形成が急速に進展している。 福岡県における東アジアを テーマとした国際会議開催状況 250 236件 120 194件 200 193件 99百人 100 1990年⇒2002年 2.7倍 留 学 生 数 110件 151件 50.0 108件 40.0 1990年⇒2002年 5.6倍 80 18.9 30.0 60 ( 国 際 会 150 議 開 催 件 100 数 九州における留学生の受け入れ状況 百 人 72件 ) 40件 50 1件 0件 5件 1件 84件 (43%) 85件 (36%) 85件 (44%) 20 32件 1980 1985 1990 1995 2000 9.9 0 2002 1990 1989年 「アジア太平洋博覧会」開催 アジアをキーワードに含むもの 18百人 3.6% 0 アジアをキーワードに含まない 66.5 12.5 40 28.1 7.3% 8.9% 20.0 対 全 国 比 % 10.0 13.3 6 0.0 1999 2002 韓国・朝鮮籍 中国籍 その他 対全国比(右目盛り) 注1)日本の大学もしくはこれに準じる機関等において教育を受けてい るもの 注2)中国籍・韓国朝鮮籍・ブラジル籍についてのみ公表 注3)データは(財)入管協会「在留外国人統計」 出典:九州経済産業局「九州アジア国際化レポート2003」をもとに作成 出典:独立行政法人国際観光振興機構 「コンベンション統計(1980、1985、1990、1995、 2000、2002年)」をもとにアジア地域に関すると思 われる会議を抽出して作成 福岡空港の国際線就航状況 凡 例 瀋陽 1990年以前から就航 1991年以降に就航 1991年以降に運休 便/週 北京 大連 青島 200 ソウル 1990年⇒2004年 2.1倍 156便 釜山 済州 福岡 武漢 150 17便 上海 ホノルル 100 香港 76便 グアム 台北 16便 バンコク ホーチミン クアラルンプール サイパン 139便 89% 50 60便 79% マニラ 0 1990 シンガポール コロンボ ブリスベン ケアンズ アジア便 2004 その他地域便 出典:「JTB時刻表(2004年10月、1990年4月)」をもとに作成 (直行便就航都市のみ表記) 54 ⑥地域の創意工夫を引き出すインセンティブ型の地域振興の強化 多様な地域の特性、個性を活かしつつ、持続的発展に向けた主体的な地域づくりを 行うためには、地域独自の創意工夫など、 「地域力」を引き出す仕組みをさらに整え る必要がある。これにより、地域自らが長期的な展望のもとに知恵を出しあい、競 争関係の中で全体を高めていくという地域振興を強化できるようにしていく必要が ある。 特に、定住面や交通面の条件が十分に整っていない地域については、国土管理、環 境面での機能の重要性や国土資源の有効活用の観点から、それぞれの地域にふさわ しいインセンティブが働く仕組みや支援策を用意することが重要である。 地域の特性に応じた規制緩和の特例を導入する「構造改革特区制度」の創設など により、交通施策の面でも地方自治体や民間事業者などの自発的な取り組みを促し、 地域独自の工夫を行っていく機運も高まってきている。 図表-3.(1).⑥.1 構造改革特区・地域再生計画の事例(交通関係) <構造改革特区の事例> 名称 概要 ポイント(規制緩和内容) 特徴・効果など ・臨時開庁手数料の軽減 ・平成 15 年外国貿易総額は開港(昭和 23 ・海に開かれた、 ・税関の執務時間以外におけ 年)以来の最高額を記録。 (総額 214 億円) 「観光、国際交流特区」 にぎわいある ・定期航路の運行期間の拡大 国際物流特区 る通関体制の整備 国際交流都市 ・国内国際フェリーターミナルの整備 (北海道 稚内市) ・数次短期滞在査証の発給 の形成 手続きの簡素化 ・総合的まちづくりの中に交通規制を取り 入れ、滞在時間や来街者が増加し、商業観 光産業の活性化が図れる。 「まちづくり特区」 ・地域参加型のまちづくり ・小説や歴史の舞台をゾーンニングし、物 松山市観て歩いて暮 ・市民参加の総 計画に基づく交通マネジ 語性のある観光都市を作り上げ観光客の 合的まちづく らせるまちづくり交 増加を図る。(平成 15 年 500 万人→平成 メントの実施 り計画 通特区 19 年 600 万人) (愛媛県 松山市) ・公共交通やレンタサイクルの利用が促進 され平成 20 年には二酸化炭素や NOx の 1%を削減。 ・平成 17 年4月から事業実施。貸出対象者 「カーシェアリング ・レンタカーと は小規模オフィス等を対象。 異 な り 限 定 的 ・無人の自動車貸出(レン のための無人貸出シ ・24 時間 30 分単位で利用可能。利用料金は ステム実施」 タカー型のカーシェアリ な利用者を対 315 円/30 分 (6 時間利用で 3,780 円、レ 市民力が創る「環境 象。 ング) ンタカーでは同 5,250 円) 首都」北九州特区 ・都市内の環境 ・世界の「環境首都」北九州の実現を目指 (福岡県 北九州市) 負荷の軽減 す。 <地域再生計画の事例> 名称 概要 地域再生計画のメニュー 特徴・効果など 花と海の南房総観光 交流空間プロジェク ト (千葉県 館山市、鴨 川市、勝浦市等千葉県 南部) ・交通手段の再 構築や参加 体験観光の 振興などを 図り、首都圏 住民に新し いライフス タイルを提 案する。 ・地域再生支援のための「特 定地域プロジェクトチー ム」の設置 ・「地域交通会議(仮称)」 の設置 ・観光振興目的の航路等に ついて輸送需要に応じた 運行ダイヤの設定 等 ・道の駅のネットワーク化を図り、情報と交 通の拠点を整備する。 ・宿泊業と参加体験型観光事業との連携を進 める。 ・健康志向の高まりに対応し、健康づくり ツアーの充実を図る。 出典:内閣官房構造改革特区推進室「特区は宝の山―特区成果事例集―(平成16年9月)」、 首相官邸構造改革特区推進本部ホームページ、千葉県ホームページ、タウンモービルネットワーク北九州ヒアリングをもとに作成 55 コラム 地域再生の事例(アイアンブリッジ峡谷) 18 世紀産業革命期にイギリスの鉄鋼生産の 4 割を占める鉄鋼業の街として栄えたが、19 世紀以降産業の衰退や環境の悪化のためゴーストタウン化した。1960 年代に、この地域を含 む一帯がニュータウン開発地に指定され、その一環として、アイアンブリッジ博物館トラストに よる地域の歴史的遺跡を博物館とする活動が展開され、市民のボランティアなどの協力を得 て、25 年に亘り街の修復作業が行われた。産業遺産を利用したテーマ博物館や、ビクトリア王 朝期の文化遺産をそのまま保存した野外博物館など、街一帯が「アイアンブリッジ峡谷ミュー ジアム」として再生され、現在では年間およそ 75 万人の観光客が訪れ、2,000 人の雇用機会 を作り出している。 産業遺産の活用により地域再生を成功させたアイアンブリッジ峡谷 産業革命期の史跡をそのまま 保存・復元し、街一帯を博物館 として再生した 19 世紀の町並みを完全に再現 した「ブリスツヒル野外博物館」 産業遺産を利用したテーマ (鉄・川・タイル・陶器)博物館の 一つである「アイアン(鉄) ・コールブルックデール博物館」 製鉄技術革新の地である「コールブ ルックデール製鉄所」の倉庫を利用 した「ジョージ博物館」 世界初の鉄橋 「アイアンブリッジ・ショージ」 出典:Ironbridge George Museums ホームページ、Virtual Shopshire ホームページをもとに作成 注)下記図表については参考資料を参照。 図表-参 3.(1).⑥.1 国内地域ブロック別の魅力度 図表-参 3.(1).⑥.2 ドイツ・ルール地域の大学・研究施設の設立 56 (2)『生活圏域』 ①地域の多様な特性を活かした『生活圏域』づくり 『生活圏域』は通勤、医療、買い物など目的別に圏域が重層化しているが、概ねこ れらを包含する形で、交通 1 時間圏を、 『生活圏域』の拡がりの目安として設定する ことができる。 なお、個々の『生活圏域』を設定していく場合には、移動目的別の圏域の拡がり、 産業構造や都市機能・サービスの配置や、それらへのアクセス条件などの地域構造 を踏まえ、それぞれの地域の特性に応じて考えていく必要がある。 そして、それぞれの『生活圏域』が多様な特性を活かした地域づくりの指針として、 都市的サービスやモビリティの水準などのあり方に関する施策を立案することが重 要である。その際、民間資本による各種サービスの提供や欧州で進行している逆都 市化 *を誘発していくなどの戦略性も求められる。 その際、 『生活圏域』とその周辺の『自然共生地域』は、それぞれの機能を相互補 完し合う関係にあることから、周辺の『自然共生地域』にとっても、 『生活圏域』の 都市的機能を増進していくことが重要である。 図表-3.(2).①.1 生活圏域の状況(静岡生活圏域の事例) 目的別の依存圏域 目的別の依存圏域 自動車の流動先からみた市町村間のつながり 自動車の流動先からみた市町村間のつながり 静岡 通勤影響圏域 通勤影響圏域 道路交通センサス 平日・全車種計 1999年 流動量(台/日) 通勤依存5% 以上圏域 250000 全目的 流動先のつながり 200000 相互に最大流動先 芝川町 南部町 150000 富士 川町 藤枝・焼津 医療依存圏域 医療依存圏域 100000 医療依存20% 以上圏域 50000 由比町 中川根町 30分 30分圏 富士市 本川根町 富士市 富士川町 芝川町 蒲原町 由比町 静岡市 清 水市 大井川町 焼津市 藤枝市 岡部町 島田市 金谷町 榛原町 吉田町 菊川町 袋井市 掛 川市 0 (メッシュ人口) 102.7万人 通勤影響圏 各市町村の通勤者数に占める 各中心市への通勤者数割合 (H12 国勢調査 通勤・通学地集計) 通常、5%以上が通勤影響圏域 富士宮市 静岡生活圏 静岡生活圏域 最大流動先 60分圏 蒲原町 旧清水市 30分圏 (メッシュ人口) 72.1万人 医療依存率 各市町村の通院目的流動の総数に占める 静岡市の依存割合(小ゾーン単位) (H13 静岡パーソントリップ調査) 30分 静岡市 買物依存圏域 買物依存圏域 岡部町 川根町 買物依存圏域 静岡市からの1時間圏域 60分 医療依存圏域 焼津市 藤枝市 通勤影響圏域 静岡市 島田市 買物依存30% 以上圏域 30分圏 (メッシュ人口) 72.1万人 購買依存度 各市町村の非日常買い物目的流動の 総数に占める 静岡市の依存割合(小ゾーン単位) (H13静岡パーソントリップ調査) 金谷町 大井川町 通勤影響圏域 焼津市 静岡市役所からの時間圏域 静岡市役所からの時間圏域 吉田町 菊川町 1時間圏域 1時間圏域 榛原町 通勤影響圏域 藤枝市 出典:国土交通省政策統括官付政策調整官室作成 注)下記図表については参考資料を参照。 図表-参 3.(2).①.1 生活圏域に備えることが考えられる機能・施設の一覧 57 ②人口が減少しても生活レベルを維持する地域づくり 2050 年のわが国の人口は現在より約 20%減少することが予想されている。このこ とから、地域の実情を踏まえつつ、交通 1 時間圏で人口規模が 30 万人前後のまとま りを目安とした『生活圏域』については、人口規模が 20%程度減少した場合でも、 現在の『生活圏域』内の都市的サービスレベルが引き続き維持されるよう配慮する 必要がある。このためには、圏域内のモビリティの維持、向上を図るとともに、既 存施設、機能の更新時期に、その配置、規模、機能などの最適化を図ることが重要で ある。 なお、合併以前(平成 11 年 3 月 31 日時点)の 3,232 市町村に対して、平成 18 年 3 月 31 日時点では 1,822 市町村と、1,410 市町村(44%)が減少する見込みである。合 併が最も進むのは、5,000~10,000 人規模の市町村であり、合併後は 10,000~20,000 人規模の市町村が最も多くなる見込みである。 また、合併すると見込まれる 1,966 市町村の内訳をみると、「同一の『生活圏域』 内の市町村同士の合併」が 48%、「『生活圏域』と周辺の『自然共生地域』との市町 村の合併」が 27%、 「『自然共生地域』の市町村同士の合併」が 25%と、 『生活圏域』 内の市町村との関わりがある合併が 75%を占めている。 図表-3.(2).②.1 ネットワークを考慮した将来の都市圏人口の予測 中心市 中心市(人口10万人以上) (人口10万人以上)からの1時間圏 からの1時間圏 都市圏人口 ≧ 都市圏人口 ≧30万人 30万人 都市圏人口 ≧ 都市圏人口 ≧ 25万人 25万人 2000年人口 現況ネット 2050年人口 現況ネット 2050年人口 将来ネット 人口 1.2億人 1.0億人 1.0億人 圏域数 82都市圏 (70都市圏) 58都市圏 68都市圏 人口カバー率 91% (89%) 88% 95% 面積カバー率 55% (49%) 41% 59% ( )は人口30万人以上の都市圏 中心市の人口要件 10 万 人以上 ・高規格幹線道路を利用 ・都市圏人口 25 万人以上 ・人口 10 万人未満の都市 も中心市とする ・都市圏人口 30 万人以上 ・中心市の人口要件 10 万 人以上 -24 都市圏 +10 都市圏 30 万人以上の圏域が維 持できなくなる可能性のあ るところ 圏域が増加する可能性の あるところ 出典:NAVINET 利用により作成 58 図表-3.(2).②.2 市町村合併による市町村の人口規模の変化 市町村数 900 (25.8%) 834 1999年 800 1999年3月31日 700 市 町 村数 ※人口は、平成12年国勢調査人口による。 ※市町村合併状況は、 総務省2005年3月31日時点の公表データにもとづく 500 (18.3%) 400 333 300 (14.8%) (5.1%)(8.6%) 196 53 22 0 ~1,000 1,000 ~5,000 5,000 ~10,000 10,000 ~20,000 224 20,000 ~30,000 1999年 2006年 市町村数 市町村数 (8.2%) (3.8%) 166 157 (3.0%)(5.8%) 96 106 (1.6%)(1.2%) (全国シェア) (全国シェア) (6.9%)280 258 (10.8%) 196 0 (15.4%) (8.0%) 270 (10.8%) 200 100 1,822 市町村 (44% 減) 1,410市町村 が減少 700 673 600 3,232 市町村 (21.7%) (20.8%) 2006年 2006年3月31日 30,000 ~40,000 40,000 ~50,000 122 149 (1.3%)(2.1%)(1.3%)(2.6%) (0.3%)(0.8%) (0.3%)(0.7%) 41 39 43 48 11 14 11 12 50,000 100,000 200,000 300,000 500,000 1,000,000 ~100,000 ~200,000 ~300,000 ~500,000 ~1,000,000 ~ 人口規模(人) 出典:国土交通省政策統括官付政策調整官室作成 図表-3.(2).②.3 合併市町村の動向(1999 年3月時点の市町村数:3,232) 合併に至らな かった市町村 自然共生地域内 市町村数 1105 (34%) 合併協議会に 不参加の市町村 128 421 232 ( 4%) (13%) 493 ( 7%) (15%) 合併に至らな かった市町村 自然共生地域 内の合併 252 ( 8%) 485 (15%) 生活圏域+ 自然共生地域 生活圏域内の合併 282 939 ( 9%) (29%) 生活圏域内 市町村数 2127 (66%) 市町村減少数 合併市町村の組合せ 市 生活圏域内計 生活圏域内の市町村の合併 生活圏域内の 都市を中心に 周辺の自然共 生地域の市町 村が一体とな る合併 自市町村が 生活圏 自市町村が 自然共生地域 計 町 村 割合 市 町 村 1,221 224 797 200 62% 生活圏域内計 485 122 323 40 68% 939 172 603 164 48% 生活圏域内の市町村の合併 442 116 289 37 62% 43 6 34 3 6% 13 1 10 2 2% 56 7 44 5 8% 219 29 132 58 30% 232 30 142 60 32% 717 152 465 100 100% 282 52 194 36 14% 75% 252 14 167 71 13% 534 66 361 107 27% 自然共生地域内の 市町村の合併 493 自然共生地域内計 745 66 506 173 38% 1,966 290 1,303 373 100% 合計 市町村数 合併に至らなかった市町村が予定 していた合併の組合せ 割合 52 339 102 生活 圏域 内の 都市 を中 心に 周辺 の自 然共 生地 域の 市町 村が 一体 とな る合併 自市町村が 生活圏 自市町村が 自然共生地域 計 自然共生域内の市町村の 市町村の合併 自然共生地域内計 25% 合計 ※1999/3/31時点の市町村数:3,232市町村、2006/3/31時点の市町村数:1,822市町村 ・合併により自治体名称が消失する市町村:1,687 ・合併前後で自治体名称が変更しない市町村:279市町村 ・合併により新設される市町村:277市町村 ※東京都23区を除く ※東京都 23 区を除く 出典:総務省発表の 2004.1.1 時点の合併協議会と 2006.3.31 合併予定市町村をもとに作成 59 ③土地利用と都市機能のコンパクト化 戦後の人口増加と急速な経済成長のなかで、都市部では、住宅や都市機能が郊外部 へ拡大するという外延化が進んだ。 しかし、今後の人口減少過程では、 『生活圏域』内に存する都市の縁辺部などでの土 地利用が虫食い状に縮小することのないよう、秩序立った土地利用のコンパクト化を 図る必要がある。 特に、住宅・社会資本の更新期を積極的にとらえ、生活の利便性の高い、環境に配 慮した秩序ある都市機能を再生しつつ、地場の民間活力の増進、行政コストの効率化 などの視点で、『生活圏域』の拠点機能の復活を図ることも重要である。 なお、青森市では、高齢化の進展や冬期の生活利便性の確保の観点などから、商業、 職場、住宅、学校、病院など様々な機能を都市の中心部にコンパクトに集中させるこ とで都市の活力を維持・増進する「コンパクトシティの形成」に向けた取り組みが行 われている。 図表-3.(2).③.1 青森市のコンパクトシティ 出典:青森市ホームページより作成 60 コラム 帯広生活圏域における圏域内の人口動態 帯広生活圏域では 1990 年から 2000 年の 10 年間において、帯広駅から自動車で 5 分以 内圏域の人口が約 3,700 人減少しているのに対して、10~30 分圏で人口増加がみられた。 一方、帯広駅からの徒歩 2 分圏域においては、2000 年に帯広市中心市街地活性化のため の計画が策定されるとともにマンションの立地が進んだことによって、同圏域の人口は 2000 年から 2004 年の間に約 30%増加している。 帯広生活圏域での人口動態 2000→2004:帯広駅から2分圏内の 1990→2000:生活圏中心部の人口が減少 人口が増加 25000 50% 10.2→12.1 (万人) 20000 40% 18,500 10000 20% 18.0% 33.7→34.2 人口増減率 (万人) ((2000-1990)/1990) 7.1→7.3 (万人) 5000 4,700 2,500 1.4% 3.5% 0 10% 圏域人 口 30% 人口 増 減率 人口 増 減 数 (人 ) 15000 0% -681 0.25→0.18 (万人) -7.4% -5000 -6,800 5.0→4.6 6.9→6.2 (万人) -10000 -5,800 -9.8% -3,700 (万人) -10% -12.9% 4.5→3.9 (万人) -20% -27.4% -15000 帯広駅からの 所要時間(分) (自動車) -30% 徒歩 2分圏 0-5 5-10 10-30 30-60 60-90 生活 圏域 出典:生活圏域での人口動態は NITAS 利用により作成 帯広駅から徒歩 2 分圏内は「住民基本台帳」を もとに作成 帯広駅から約500m以内のマンション等の施設の立地状況 ゼンリン住宅地図(1990年、2003年)より判別 マンションの立地変化 帯広市役所 (帯広駅から500m圏内) 藤丸百貨店 (旧)イトー ヨーカドー 1990年 2000年 2003 差 5件 23件 1818件 件増加 帯広市民 文化ホール 帯広駅 サンバード 長崎屋 1990年以前 に立地し 現在も存在 とかちプラザ 帯広市図書館 (建設中) 帯広駅 からの ヤマシタ家具 大型小 文化 マン 売店舗 商店 医療 施設 ション 2分圏 帯広第一 病院 50m 100m 200m 大型小 文化 マン 売店舗 商店 医療 施設 ション 1990年以降に立地 300m 1990年以降に撤退 出典:「ゼンリン住宅地図(1990 年、2003 年)」をもとに作成 61 (3)『自然共生地域』 ①『自然共生地域』の地域特性による類型化 『自然共生地域』に対する、今後の地域マネジメントの方向性を考えていくため、 ここでは以下の 4 つの地域類型を想定し、『自然共生地域』の市町村を区分した。 (イ)『生活圏域』に隣接し、モビリティの向上などによって、『生活圏域』とほぼ同等 の都市的サービスを享受できる地域(「生活圏域隣接地域」) (ロ)大規模農業などで自立している地域(「大規模農業地域」) (ハ)有力な観光資源などを有し、個性的で発展性のある地域(「有力資源保有地域」) (ニ)遠隔に位置し、深い自然に囲まれた地域など(「深自然地域」) (イ)の「生活圏域隣接地域」は、『生活圏域』を取り巻く地域であり、全国の人 口の4%、国土面積の14%、経営耕地面積の12%を占めている。 (ロ)の「大規模農業地域」は、生産農業所得が県別目標農業所得を上回る地域で、 人口では全国の0.4%を占めるにすぎないが、国土面積では全国の6%、経営耕地面積 でも約1割(9%)を占めている。なお、「大規模農業地域」の経営耕地面積の97%ま でが北海道に存することが特徴的である。 (ハ)の「有力資源保有地域」は、有力な観光資源などを有し、個性的で発展性の ある地域であり、全国の人口の2%、国土面積の6%、経営耕地面積の3%を占めている。 (ニ)の「深自然地域」は、人口では全国の 3%であるが、国土面積では全国の 2 割(19%)、経営耕地面積では「大規模農業地域」と同じ約 1 割(9%)を占めている。 図表-3.(3).①.1 自然共生地域の類型化の方法 類型化の方法 類型 類型に用いる指標 (イ) 生活圏域隣接地域 最寄り中心市(人口10万以上)までの所要時間 (高速道路未利用)<75分 または (高速道路利用) <60分 (ロ) 大規模農業地域 生産農業所得 ≧ 県別目標農業所得のブロック平均値 (ハ) 有力資源保有地域 課税対象所得 ≧324万円/人 または、 観光入込客数 ≧100万人/年 (ニ) 深自然地域 (イ)~(ハ)以外の市町村 62 図表-3.(3).①.2 自然共生地域の類型ごとの構成比 類型ごとの構成比 人口 (万人) 市町村数 412 37% (13%) イ 生活圏域 隣接地域 529 46% (4%) うち高速利用<60分 55 5% ( 2%) 144 611 55% 2.8 58 5% (0.5%) (19%) 13% ( 4%) ハ 有力資源 保有地域 5.3 32% (14%) 334 226 ロ 大規模 農業地域 面積 (万km2) 68% 2.2 13% ( 6%) (6%) 194 17% (1.5%) うち観光入込客数 ≧100万人/年 781 14% ( 6%) 121 ニ 深自然地域 494 45% (15%) 373 32% (3%) 7.0 42% (19%) イ~ニ の合計 1,105 100% (34%) 1,154 100% (9%) 16.8 100% (45%) 3,228 (26%) 2.3 56 全国計 9.8 58% 1 12,690 37.2 %は自然共生地域に占める割合 ( )内は全国に占める割合 イ 生活圏域隣接地域 ロ 大規模農業地域 ハ 有力資源保有地域 ニ 深自然地域 都市圏 注)自然共生地域の類型は図表-3.(3).①.1 の指標に基づく試算による。 出典:国土交通省政策統括官付政策調整官室作成 図表-3.(3).①.3 自然共生地域の4地域類型が全国に占める比率 9% 0% 4% 人口(2000 年) 面積(2000 年) 経営耕地面積(2000 年) 45% 2% 3% 33% 19% 3% 9% 9% 6% 55% 6% 91% 12% 82都市圏内 生活圏域隣接地域 大規模農業地域 有力資源保有地域 深自然地域 67% 14% 出典:「国勢調査(2000 年)」、2000 年農林業センサスデータをもとに作成 63 ②農業面から見た 4 つの地域類型の特性 『自然共生地域』における農林業などの第一次産業人口比率は平均で 16%と、82 都市圏の 4%の 4 倍、総人口に占める農家人口は約 28%(2000 年時点)と、82 都市 圏の 9%の 3 倍であり、地域における農業の果たす役割は小さくない。 その中で、 「生活圏域隣接地域」は、 『生活圏域』に近く都市化の影響を受けやすい ことから、1970~2000 年の 30 年間に耕地面積が 24%減と、 『自然共生地域』の中で も比較的耕地減少が進んでいる。 一方、 「大規模農業地域」では、経営耕地面積がこの 30 年間で 1.4 倍に増加すると ともに、農業就業人口 1 人あたりの経営耕地面積が 1970 年の 294a から 2000 年の 834a と 3 倍近く(他の『自然共生地域』では 1970 年の 50a 前後から 2000 年に 100a 前後 の約 2 倍)増加している。 「有力資源保有地域」と「深自然地域」は共に耕地減少が大きい。(30 年間に耕地 面積が前者は 21%減、後者は 26%減) 特に、 「深自然地域」は、2000 年における耕 作放棄地率が 6.2%と、4 類型の中で最も高くなっている。 このように、 『自然共生地域』の地域類型間で農業特性面での差異が明確になりつつ ある。 図表-3.(3).②.1 自然共生地域と 82 都市圏の一次産業就業人口、農家人口比率 ①一次産業就業人口比率の比較 16% 4% 15% 10% 5% 0% 9% 自 域 自然 然共 共生 生地 地域 自自然 然共 共生 生地 地域 域 圏圏 都市 8都 2市 82 28% 30% 25% 20% 8都 2都 市市 圏圏 第 20% 一 次 16% 就 12% 業 人 8% 口 4% 比 率 0% ②農家人口/総人口比率 農 家 人 口 / 総 人 口 比 率 82 出典:「国勢調査(2000 年)」、2000 年農林業センサスデータをもとに作成 図表-3.(3).②.2 自然共生地域(4地域類型別)の経営耕地面積の推移(1970-2000) 160 145143 133 100 100 95 100 87 93 100 85 100 76 94 89 100 79 92 85 ( = 1 140 9 経 120 7 営 100 0 耕 80 年 地 60 面 40 1 積 20 0 0 0 74 1970年 1980年 1990年 2000年 深自然地域 有力資源保有 地域 大規模農業 地域 生活圏域隣接 地域 自然共生地域 全体 ) 出典:2000 年農林業センサスデータをもとに作成 64 図表-3.(3).②.3 4地域類型別の農業就業人口 1 人あたり経営耕地面積の推移 (1970-2000 年) 1 人 1,000 900 あ 800 た 700 り 600 経 500 営 400 耕 300 地 200 面 100 積 0 (2.8) 834 294 (2.3) (2.1) 115 46 (1.9) 97 47 89 (2.0) 50 100 全国 有力資源保有地域 ) 大規模農業地域 生活圏域隣接地域 自然共生地域全体 ( a / 人 53 8 2都 市 圏 内 50 99 深自然地域 132 57 (2.1) (2.0) 出典:2000 年農林業センサスデータをもとに作成 図表-3.(3).②.4 4地域類型別の耕作放棄地率(2000 年) 耕 作 放 棄 地 率 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 % 1.0 0.0 6.2 5.5 5.5 5.5 5.1 4.5 ( 0.9 全国 8 2都 市 圏 内 深自然地域 有力資源保有 地域 大規模農業 地域 生活圏域隣接 地域 自然共生地域 全体 ) 出典:2000 年農林業センサスデータをもとに作成 図表-3.(3).②.5 農家経営規模の日独比較(2000 年) 日本の経営規模別農家数比率(総農家) 100% 98.6% 1戸当たり平均耕地面積 全国 1.25ha 北海道 14.33ha 都府県 0.95ha 80% 北海道 都府県 38.9% ) ) 40% 80% 農 70% 家 数 60% 比 50% 率 40% % 30% 30% 18.4% 20% 18.3% 1 戸当たり平均耕地面積 36.3ha ( ( % 100% 90% 90% 農 70% 家 数 60% 比 率 50% ドイツの経営規模別農家数比率 24.9% 24.2% 15.7% 20% 18.5% 18.5% 16.7% 10% 5.9% 10% 1.2% 0.1% 5-10ha 10-20ha 0% 0-5ha 0% 20-50ha 0-5ha 50ha- 5-10ha 10-20ha 20-50ha 出典:2000 年農林業センサスデータ、農林水産省ホームページ海外農業情報をもとに作成 注)下記図表については参考資料を参照。 図表-参 3.(3).②.1 農林業センサスからの 1km メッシュデータ作成手順 65 50ha- コラム 農林業センサスを基にした 1km メッシュデータ化による地域の農業状況の検証 農林業センサスから、過去 30 年間の農家人口と経営耕地面積の推移を、3 次(1km)メ ッシュデータに図化することにより、各地域の集落特性などを分析することを試みた。 その結果、営農の歴史が古く、山地も比較的なだらかな中国地方などでは、東北や北 海道に比べ、農家人口や経営耕地の存在するメッシュが山間地域を含め、くまなく分布 していることが明らかになった。また、「大規模農業地域」が多い北海道ブロックでは、 ここ 30 年間に農家人口の減少にも関わらず耕地が安定して維持されている。 これに対して、「深自然地域」が多い中国ブロックでは、農業人口減少が耕地面積減少 に直結する傾向となっている。また、全国的には、中山間地や離島半島などにおける耕 作放棄の進展が著しいことなども確認された。 農家人口増減率メッシュ図 経営耕地面積増減率メッシュ図 耕作放棄地率メッシュ図 出典:2000 年農林業センサスデータをもとに 3 次(1km)メッシュ化し作成 66 地域ブロック別の耕地の増減(1970-2000 年) 100 89 1970年 2000年 98 89 75 70 62 ( 経 120 営 耕 100 地 面 80 積 60 48 34 37 25 37 35 22 23 中部 近畿 21 21 13 ) 万 40 h 20 a 0 1970年 89 89 98 34 37 35 37 21 九州・ 沖縄 70 2000年 100 75 62 25 22 23 21 13 48 388 -16% -37% -26% -41% -34% -43% -38% -31% -24% 北海道 2000/1970 増減 東北 12% 関東 北陸 中国 四国 全国 511 注)地域ブロック区分は、P43 図表-2.(4).④.1 と同様 ※市町村別累年統計書より集計しており、1970 年の沖縄県分は含まれていない 出典:市町村別累年統計書をもとに作成 北海道、東北、中国のメッシュ毎の耕地面積増減メッシュ図 8282 都市圏 都市圏 自然共生地域・生活圏域隣接 自然共生地域・大規模農業 自然共生地域・有力資源保有 自然共生地域・深自然 経営耕地が有るメッシュの比率(2000) 全メッシュ数 全面積に占め 耕地のある る耕地のある メッシュ数 メッシュ比率 全国 389,186 219,265 56% 北海道 85,171 35,064 41% 東北 69,899 39,227 56% 中国 32,830 23,356 71% 経営耕地面積増減(中国、東北、北海道: 1970-2000) 1970年(万ha) 2000年(万ha) 増減(万ha) 増減率(%) 全国 508 389 -119 -23.4% 出典:2000 年農林業センサスデータより集計、三次メッシュ化 北海道 東北 中国 88 87 37 100 75 21 12 -13 -16 13.2% -14.5% -42.5% 北海道、東北、中国のメッシュ毎の耕地面積増減分布 中国 ッ 耕 メ地 増 シ減 率 内の で計 の算 比 さ 率れ る 60% ュ 50% 50% 40% 40% 30% 20% 北海道 東北 60% 60% 51% 27% 10% 20% 2% 0% 0~+30 +30%~ 0% ~-60% -60~-30 -30~0 40% 27% 30% 20% 経営耕地面積増減率ランク 50% 41% 16% 11% 31% 30% 10% 20% 5% 0% 22% 11% 23% 14% 10% 0% ~-60% -60~-30 -30~0 0~+30 経営耕地面積増減率ランク +30%~ ~-60% -60~-30 -30~0 0~+30 経営耕地面積増減率ランク 出典:2000 年農林業センサスデータをもとに 3 次(1km)メッシュ化し作成 67 +30%~ ③地域の特性を活かした地域マネジメントの強化 『自然共生地域』の中でも、それぞれの地域の状況は様々であり、抱える課題も多 様である。 「生活圏域隣接地域」は、 『生活圏域』に対し、水資源、保養機能、新鮮な地場食材 を提供する一方で、 『生活圏域』の都市機能を活用するなど、両者は相互補完関係にあ り、両地域の機能強化が相互に重要となっている。 また、 「生活圏域隣接地域」や「有力資源保有地域」では、農業と他産業との連携に よりコミュニティ維持や地域振興の可能性がある。 これに対して、「深自然地域」では、現状では農業の衰退がそのままコミュニティ や地域の衰退につながる危険がある。これに対しては、グリーンツーリズムなどを通 じた都市との交流、天然資源の価値の内部化、農業教育の場など、戦略的な取り組み やIT(情報技術)の活用による距離的なハンディキャップの克服も必要である。 『自然共生地域』については、それぞれの地域の都市地域との近接性、農業条件、 地域の農業以外の経営的資源の有無を踏まえ、急速な少子・高齢化を視野におき、そ れぞれの地域特性を活かした地域マネジメントを強化していくことが急務である。 図表-3.(3).③.1 日常生活に関係の深い周辺市町村までの平均所要時間(追加アンケート結果) 平均時間(分) 0 通勤 50 24 70 自然共生地域(n=100) 34 33 26 生活圏域隣接地域(n=35) 27 有力資源保有地域(n=12) 有力資源活用地域(n=12) 36 32 27 28 78 42 30 34 78 39 35 25 買い物(日用品) 22 30 65 36 32 40 買い物(高額品) 大規模農業地域(n=3) 70 深自然地域(n=50) 25 通院(救急) 200 82都市圏(n=114) 31 29 通院(日常) 150 30 29 26 通学 100 54 67 63 185 70 出典:「集落消滅の可能性がある」と回答した市町村に対する追加アンケート調査結果(2005 年 2 月)をもとに作成 68 ④コミュニティの維持に向けた地域の再構築 『自然共生地域』の地域コミュニティの維持に向けては、地域の主体的な取り組み が重要である。地域内の耕地の管理状況や農業従事者の動向などの定量的把握ととも に、10 年後、20 年後などの将来の地域の人口構成を、コーホート法*などで予測する ことによって、地域の農業やコミュニティの将来像について地域自らが検討していく 必要がある。 中山間地域などにおける耕作放棄の防止に効果を上げていると評価されている「中 山間地域等直接支払制度」においては、集落協定をまとめるプロセスで、地域のまと まりが強化されたり、地域のまとめ役が生まれるなどの動きも出ている。市町村に対 するアンケート結果でも、コミュニティの維持にとってリーダーの存在が重要である という回答が多いことから、リーダーの存在は今後の地域の再構築の鍵となる。 なお、種々の対策を講じることによっても永続的なコミュニティの維持が困難とな る集落については、新たなコミュニティづくりを視野に入れるなど、今後の地域経営 を考えていく必要があり、複数の集落から構成される旧村単位などの広域的な地域の つながりを念頭に、地域コミュニティの将来のあり方を検討していくことも有効であ る。 図表-3.(3).④.1 地域のリーダーの必要性(追加アンケート結果) 図表-3.(3).④.1 地域のリーダーの必要性(追加アンケート結果) 問2-7 リーダーの役割 0% 20% 40% 60% 80% 88% リーダーの役割は大きい リーダーの役割は大きくない 100% 10% n=214 注)地域のリーダー的存在は集落維持、発展に大きな役割を果たしているかという問に対する回答 出典:「集落消滅の可能性がある」と回答した市町村に対する追加アンケート調査結果(2005 年 2 月)をもとに作成 図表-3.(3).④.2 中山間地域等直接支払制度についての評価 「しかしながら、近年、農村においては、過疎化・高齢化・混住化等の進展により農業 生産活動の停滞・後退や集落機能の低下がみられ、農地・農業用水等の資源の適切な保 全管理が困難になりつつあるなど、多面的機能の発揮に支障が生じる事態が懸念されて いる。これに対し、平成 12 年度からは、中山間地域等を対象に、平野部との生産条件 の格差を補正する直接支払制度を導入し、耕作放棄地の発生の防止等の面で成果を上げ ているところである。」 出典:「食料・農業・農村基本計画」(平成 17 年 3 月閣議決定) 69 コラム 中山間地域等直接支払制度 中山間地域等における農業を支援し、農業・農村が持つ多面的機能を守るために、平成 12 年度より導入された国による支援制度。行政と集落等との協定(集落協定)に基づき、5 年 間の耕地維持を条件に、集落の代表者に交付金が支払われる。 交付金は、例えば、集落による農業機械購入、農道や水路の維持管理、農道整備の地元負 担金、共同活動で使用する物資の購入、周辺の林の下草刈り等に用いられる。 <16 年度までの事業概要> (1)対象地域及び対象農用地:①の地域振興立法等の指定地域のうち、②の要件に該当する農用地区 域内に存する 1ha 以上の一団の農用地 ① 対象地域:特定農山村法等、地域振興立法8法の指定地域及び都道府県知事が指定する地域 ② 対象農用地: ア 急傾斜農用地(田 1/20 以上、畑、草地及び採草放牧地 15 度以上) イ 自然条件により小区画・不整形な田(大多数が 30a 未満で平均 20a 以下) ウ 草地比率の高い(70%以上)地域の草地 エ 市町村長が必要と認めた農用地 オ 都道府県知事が定める基準に該当する農用地 (2)対象者:集落協定又は個別協定に基づき、5 年間以上継続して農業生産活動等を行う農業者等(第 3 セクター、生産組織等を含む) (3)交付単価:田 8,000~21,000 円/10a、畑 3,500~11,500 円/10a 等 <実施状況> 全国 1,965 市町村(対象市町村の 93%)で 33,970 協定を締結、交付面積は 66.5 万 ha(対象農用地 面積の 85%)。※平成 16 年度見込み 直接支払制度対象市町村数、交付面積の推移 交付市町村数等の推移 対象市町村数に対する割合 市町村数 2,000 100% 1,500 90% 1,000 500 (78%) 1,686 (90%) 1,913 (93%) (93%) (93%) 80% 1,946 1,960 1,965 0 70% 60% 平成12年度 平成13年度 平成14年度 平成15年度 平成16年度 (見込み) 交付面積等の推移 対象農用地面積に対する割合 交付面積(千ha) 700 600 500 400 300 200 100 0 (81%) (83%) (85%) (85%) 655 662 665 (68%) 632 541 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 平成12年度 平成13年度 平成14年度 平成15年度 平成16年度 (見込み) 出典:農林水産省ホームページより作成 <事業の評価>-「中山間地域等直接支払制度の検証と課題の整理」(平成 16 年 8 月 19 日) 農林水産省・中山間地域等総合対策検討会より整理- (1)耕作放棄の発生防止 ・ 集落協定が締結された 66 万 2 千 ha の農用地における農業生産活動等の継続的実施 ・ 水路や農道の共同管理、鳥獣害対策等の多様な協定活動による耕作放棄の発生防止・復旧等(耕 作放棄発生防止面積は約 1 万 3 千~3 万 ha と推計される。) (2)多面的機能の維持増進 ・ 農業生産活動等の継続的な実施による多面的機能の維持、農用地と一体となった周辺隣地の管 理等による国土保全機能の増進 ・ 体験農園等による保健休養機能の増進やビオトープの確保等自然生態系の保全 (3)将来に向けた農業生産活動等の継続的な実施 ・ 継続的な農業生産活動の体制整備等に向けた取り組みの活発化、集落営農組織の育成、認定農 業者数の増加、新規就農者の確保、農用地の利用権設定面積の増加。 (4)集落機能の活性化 ・ 集落内での話合いの活発化、一体感の強化、集落意識の高まり、集落機能の回復・向上 <17 年度以降の本事業の取組> 17~21 年度も本制度は継続的に実施されるが、①将来に向けた前向きな農業生産活動等の推進のた めに、集落の将来像の明確化と活動内容を具体化し、その体制整備の段階によって交付単価に差を設 ける、②集落協定間の連携を推進する、③地域の主体的取組みを一層活発化させる観点から、交付要 件や事務手続き等についての見直しを実施することとなっている。 70 コラム 旧村程度の広がりによる地域再構築の動き 集落消滅可能性のある市町村に対するアンケートにおいて、回答のあった 214 市町村 の約 7 割の市町村で、集落の集合体である旧村単位でのまとまりが維持されているとし、 2 割の市町村で旧村程度の単位での地域再構築の動きがあると回答している。こうした、 より広域的なコミュニティ単位での取り組みや、NPO 等の多様な主体による生活サービ ス提供等により、地域コミュニティの社会・生活機能を維持していくことが考えられる。 旧村単位のマネジメント(追加アンケート結果) イ)旧村単位のまとまりの維持状況 -回答 214 市町村中7割で旧村単位のまとまりが維持、但し北海道では低い維持率- 問2-5 旧村単位でのまとまりは現在も維持されている か 94% 100% 88% 90% 80% 71% 71% 維持されている 維持されていない 74% 71% 67% 70% 63% 56% 60% 50% 42% 38% 40% 29% 30% 29% 22% 22% 21% 20% 22% 19% 12% 10% 3% 0% 全国(n=214) 北海道(n=24) 東北(n=31) 関東(n=9) 北陸(n=14) 中部(n=31) 近畿(n=17) 中国(n=35) 四国(n=18) 九州(n=35) 注)上記のブロックの区分は以下による。 北海道:北海道 東 北:青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、新潟県 関 東:茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県 中 部:長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県 北 陸:富山県、石川県、福井県 近 畿:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県 中 国:鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県 四 国:徳島県、香川県、愛媛県、高知県 九 州:福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 沖 縄:沖縄県(回答なし) ロ)旧村程度の広がりでの地域再構築の動き -回答 214 市町村中 2 割で地域再構築の動き有り- 問2-4 旧村程度の広がりで地域の生活機能のあり方を再構築する動 きがあるか 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 問2-4 生活機能のあり方を再構築する動き(具体的意見) 回答数(複数回答) 0 80% n=214 ある ない ハ)地域の再構築の動きの内訳 -旧村・校区単位での取り組み地区が多い- (自由回答数 69、回答率 32%) 23% 71% 5 旧村・校区単位で地域活動に取り組んで いる 今後旧村・校区単位での取り組みを検討 している。 地区、自治会等の旧村以外の広域的単 位で取り組みを実施・検討している 4 市町村合併と合わせて検討 4 集落活動の支援を行っている 具体的動き無し その他 10 15 20 25 30 35 33 9 2 6 15 出典:「集落消滅の可能性がある」と回答した市町村に対する 追加アンケート調査結果(2005 年 2 月)をもとに作成 71 ⑤耕作放棄地に歯止めをかける計画的な土地利用 『自然共生地域』には全国の耕作放棄地(総農業ベースであり、土地持ち非農家の 耕作放棄地は含まない。)の約 3 割が存在している。このうち 82 都市圏に近い「生活 圏域隣接地域」における耕地は、比較的都市化の影響を受けやすい状況が考えられる。 また、 「深自然地域」では、農業条件の厳しいところから虫食い状に耕地が放棄されて いく状況などが考えられる。いずれの場合も、適正な土地利用を図る上で支障となる 可能性がある。 中山間地域などの耕作放棄地の増加に歯止めをかけるためには、コミュニティの維 持や国土保全の観点も含めて、土地の計画的利用に努めていく必要がある。 図表-3.(3).⑤.1 全国の耕作放棄地の内訳(2000 年) 全国の耕作放棄地 21.0 万 ha の内訳 29% 11% (自然共生地域内) 3% 2% 82都市圏内 生活圏域隣接地域 大規模農業地域 有力資源保有地域 深自然地域 13% 71% 注)総農家ベースであり、土地持ち非農家の耕作放棄地は含まない。 出典:2000 年農林業センサスデータをもとに集計 ⑥回復させたい日本の原風景 日本各地で発生している鳥獣被害は、農業生産のみならず日常生活にも影響を与 えている。これは耕作放棄地の拡大、里山崩壊などが影響していることが指摘され ている。一方、環境保全、伝統文化の保存などといった観点からも、日本の原風景と もいえる棚田や里山などの保全・回復が求められている。 このままでは維持が困難な棚田・里山などについては、都市住民が自然環境や農業 に接する場や、食農教育*の場として活用することも重要である。また、放棄される おそれのある耕地などについては地域に適合した植生に戻す(適地適木)など、積 極的な再自然化を図ることも考えられる。 72 ⑦地域コミュニティを支える産業の創出と新たな地域交流 集落、あるいは旧村などの地域コミュニティ維持を図っていくためには、居住者の 安定的な所得の確保が必要不可欠である。農業以外の就労機会に乏しい「深自然地域」 などでは、近年、有機農業など高付加価値農業への取り組みや地域農業の共同化、農 産物の加工・直接販売までをトータルで考えた収入拡大の取り組みなどが進められて おり、こうした取り組みを一層進めることが重要である。 さらに、意欲を持って農業に取り組もうとする新規参入者が技術力を養うことがで きる教育システム整備、農地の取得や新規の就労がしやすい環境づくりなども必要で ある。また、農業と他の就労の機会との両立を可能とするマルチワーキングの確立、 グリーンツーリズムや「地産地消」に基づいた伝統的な食の実践、海外のマーケット を視野に入れた農産物の輸出などを通じた、圏域外との国際化も視野においた交流の 促進などの視点も重要である。 なお、これらの地域交流の促進にとっては、人とモノのモビリティの向上とともに、 遠隔医療・教育、就労機会の多様化への対応、地域情報の発信、地域生産物のマーケ ットの拡大などに対応していくためにも、高度情報インフラの整備が不可欠である。 このため、高度情報インフラの全国的な進展にあたり、 『自然共生地域』において、新 * たなデジタルデバイド が生じないよう、適切な対応を行う必要がある。 図表-3.(3).⑦.1 ドイツ(バイエルン州)と日本の農業教育の特徴 ドイツ( バイエルン州) 日本 農業学校 農業者大学校 農業者であるとともに、地域の指導的役 割を果たす人材を育成する機関 自立した農業者を育成する機関 州内60校 州内47の農業局に設置 全国1 校 独立行政法人( 農水省設立) 対象: 農業に就く希望者ならば制限無し 履修内容: 農業技術全般に加えて 対象: 営農経験があり、 卒業後確実に農 業に従事する者 定員50名 経営論、 経営組織論、 履修内容: 農業経営 簿記、 直販、 民宿経営など 備考: ① 農業経営の担い手として女性( 農業者 の配偶者など) の役割を重視しており、 女性を対象として半年程度で農業と家 政を履修できるクラスもある。 ② 農業学校毎に特色のあるコースを用意 しており、 学生の経験と目的に応じて最 適なコースを選ぶことができる。 就農準備校 将来の就農や農村居住を希望 する人が、 現職に就きながら農 業について学習する機関 全国32校 自治体・学校法人 対象: 他産業分野就業者 農業大学校 農業経営の担い手を養成する 中核的な機関 全国49校 道府県・学校法人 対象: 高校・短大卒業者など 履修内容: 農業技術が中心 履修内容: 栽培、 農業経営など 出典:日本学術振興会特別研究員 松田裕子氏資料およびドイツの各農業学校ホームページなどをもとに作成 73 図表-3.(3).⑦.2 グリーンツーリズムへのニーズ 表 生活が便利なところか、自然の豊かなところか 表 農村村滞在型の余暇生活 100% 14.9 1.1 14.9 14.9 80% 26.4 16.8 2.4 過ごしてみ たいとは思 わない 41.3% 過ごしてみ たいとは思 わない 38.4% 16.8 16.8 21.6 100% 60% 45.4 過ごしてみ たいと思う 57.6% 過ごしてみ たいと思う 59.2% 46.1 20% 12.2 13.1 平成8年 平成11年 わからない どちらともいえ ない 41.8 自然環境に恵 まれたところ 生活が便利な ところ 43.7 40% あまり過ごしてみ たいとは思わない 40% 2.6 18.2 80% わからない 全く過ごしてみた いとは思わない 60% 1.5 14.5 20% 機会があれば過 ごしてみたいと思 う 是非過ごしてみ たいと思う 42.2 35.5 0% 平成 6年 平成13年 表 老後の居住に関する意向 0% その他 2% わからない 2% 都会のマン ション 14% 農村 29% 「一定期間農山村に滞在し、休暇を過ごしてみたいと思うか」 の質問に対し、「過ごしてみたいと思う」と答えた人の割合が 約6割である。 また、「過ごしてみたいと思う」と答えた人の割合は年々増加 している。 郊外の一戸 建て 53% 出典:森林と生活に関する世論調査(平成11年、内閣府) 「現在住んでいるところから他のところに移り住む場合、どの ようなところに住みたいと思うか」の質問に対し、「自然環境 に恵まれたところ」と答えた人の割合が増えている。 また老後の移住環境に関する意向では、家庭菜園やガーデ ニングができる郊外の一戸建てや、野菜作りができる農村で の暮らしを希望する人がそれぞれ5割、3割を占めている。 出典:国土の将来像に関する世論調査(平成13年、内閣府) 図表-3.(3).⑦.3 グリーンツーリズム事例(からいも交流) 目的 異文化交流による地域活性化 背景・動機 過疎化、高齢化、閉鎖性による農村社会の活力の停滞 事業主体 概要 一般向けの農家体験と しては、大分県安心院町 の「会員制農村民泊」が 有名。 財団法人カラモジア 参加者は、鹿児島や宮崎の各家庭において、2週間、家族として生活する。交流期間中は、家族や地域の人々との交流や、 学校訪問、労働体験等を通じて、家族の一員となる。 希望があれば、通年、日本人学生や社会人も農家滞在が可能。 対象者:「からいも交流・春」都会に住む在日留学生(1982年開始) 「からいも交流・夏」海外の大学で日本語を学ぶ学生(1986年開始) * 参加費 :大阪⇔鹿児島(フェリー利用)33,000円、東京⇔鹿児島(飛行機利用)47,000円、現地集合15,000円(からいも交流・春)。 *参加費には交通費(南西旅行開発㈱の協力)、連絡通信費、保険代、事務経費が含まれており、受入れ家庭は無償。参加者は、初日に 鹿児島市で歓迎式に出席してから、各家庭へ分かれる。 実績 実施回数:「からいも交流・春」は22回、「からいも交流・夏」は16回(2003年度まで) 受入れ家庭数:数万軒(鹿児島と宮崎の約60の市町村) 参加者数:約3,500名(70カ国)(1982年~2003年) ・留学生により、農村の価値を示されることで、農家に自信が生まれ、ふるさとを誇りに思うようになり、受入れ家庭は年々増 加している。 ・都会への流出が著しい農村の若者の中には、「田舎にいても自分自身がアンテナさえ持っていれば、世界を知ることが出来 る。誇りを持って農業に従事する両親のそばで暮らしたい」という人も現れている。 ・ホームステイ後も、留学生と受入家庭の間では、友人や家族としての交流が続いている。 ・「からいも交流・春」は、参加費が安価で、交通の便が良いため、東京、神奈川、大阪からの参加者が最も多く、次いで名古 屋、福岡も多い。東京以北については、航空券代などの交通費が高くなるため、参加者が少ない。 交通の課題 ・鹿児島市の集合場所からホームステイ先までは、各地域の実行委員会がバスで迎えにくるか、受入家庭が車で迎えにくる。 受入家庭が直接来る場合、鹿児島や宮崎の遠い地域の家庭は送迎が重荷となる。鹿児島市から、各地域(役場前)へ頻繁 にバスが運行されれば、遠方や高齢の受入家庭の負担が軽減され、また受け入れを希望する家庭の増加が見込まれる。 *なぜ「からいも」なの? 「からいも」とは、サツマイモの事で、約300年前,中国大陸から琉球王国(現在の沖縄県)を通り、鹿児島 に伝わりました。第2次世界大戦後、日本人が食糧難で苦しんでいたとき、「か らいも」は住民を飢餓 から救ってくれました。外国から入ったものが、自分たちの土地に根ざし世界へ広がり、鹿児島を豊かにしてく れたのです。「からいも交流」とは、「からいも」を敬 愛する南九州の人々が、「外国の文化を受入れ、新しい文化をつくっていこう」との思いを込め、このホームスティプログラムに名付けたものです。 出典:財団法人カラモジア ホームページ等をもとに作成 74