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商店街活性化に求められるコミュニティ支援機能

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商店街活性化に求められるコミュニティ支援機能
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C
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SHINKIN
SHINKIN
CENTRAL
CENTRAL
BANK
BANK
地域・中小企業研究所
地域調査情報
海外経済調査レポート
23−1
No.11
(2011.7.13
2000.10
)
〒103-0028 東京都中央区八重洲 1-3-7
TEL.03-5202-7671 FAX.03-3278-7048
URL http://www.scbri.jp
商店街活性化に求められるコミュニティ支援機能
−地域ニーズへの対応で新たな展開を目指す商店街事例−
視点
多くの商店街では、活性化への取組みの効果がなかなか現れず、個店経営者の活動への協力
にも陰りがみえ、行き詰まり感が大きい。従来、商店街ではこうした事態の原因を、大型店や
様々なチェーン店の進出、車社会の進展による地域機能の郊外化など、ほとんどを外部要因に
求めることが多かった。しかし、個店の魅力喪失や、コミュニティ機能低下など地域問題への
商店街としての対応不足といった、根本的な問題の重要性への気付きが広がりつつある。
今後予想される人口減少や人口構成の変化などから、コミュニティ機能低下問題に対する商
店街の役割はますます重要となってこよう。コミュニティ機能の支援は、商店街の売上げなど
にあまり寄与しないようにもみえる。しかし、単発的なイベントなどではなく、地域の根本的
な問題に対応することこそが商店街の活性化に不可欠なものとして積極的に取り組み、成果を
あげている商店街がある。個店の変化対応や魅力創出・発信への努力は当然として、地域住民
を巻き込みながら商店街として存在価値の再生・強化を図っていることに共通点がある。
要旨

商店街の景況感が厳しさを増している。今後、我が国では人口減少が本格化し、さらなる
高齢化の進展、生産年齢人口の減少などが予想されている。世帯数も遠からず減少に転じ
るが、高齢者単身世帯は増加するなど、商店街を取り巻く環境要因も大きく変化していく
見通しである。

こうした中、買い物弱者対応や子育て支援などコミュニティ機能を商店街が継続的に支援
し、地域と商店街の一体的な活性化につなげている事例が注目される。本稿では岩村田本
町商店街(長野県佐久市)、江戸川橋地蔵通り商店街(東京都文京区)、六ツ門商店街(福
岡県久留米市)、健軍商店街(熊本県熊本市)の4事例を紹介する。
キーワード
商店街問題、空き店舗、コミュニティ機能、商店街活性化、買い物弱者、子育て支援、
©信金中央金庫 地域・中小企業研究所
目次
はじめに
1.衰退が続く商店街の現状
(1)店舗数減少、空き店舗増加など一段と厳しさを増す
(2)多くの商店街で来街者が減少
(3)コミュニティの結節点としての商店街
2.今後見込まれる商店街を取り巻く環境変化
(1)人口減少の本格化
(2)単独世帯、特に高齢者の単独世帯の増加が顕著
(3)地域の維持再生に不可欠な商店街のコミュニティ支援機能の強化
3.コミュニティ機能支援で活性化を図る商店街事例
(1)地域密着顧客創造型商店街を目指す岩村田本町商店街(長野県佐久市)
(2)消費者目線で地域課題の解決に果敢に取り組む江戸川橋地蔵通り商店街(東京都文京区)
(3)コミュニティの再生で地域との一体化を図る六ツ門商店街(福岡県久留米市)
(4)地域に親しみ・やさしさ・利便性を提供する健軍商店街(熊本県熊本市)
おわりに
はじめに
都市部への人口集中、ドーナツ化現象、モータリゼーション、核家族化、少子化、個
人主義などが人々の生活スタイルを変え、それが、とりわけ地域に根ざした商店街に厳
しい環境変化をもたらしてきた。最近の調査結果からは、足元の商店街の景況感や空き
店舗などの状況から、その厳しさはさらに増している。
また、商店街に関わる今後の環境変化として、人口の減少が本格化するなかで、高齢
者のさらなる増加や生産年齢人口の減少、加えて、単独世帯、とりわけ高齢者単独世帯
が大きく増加するなどが予想されている。
こうした構造的な変化は、トータルの需要量減少とともに、商店街利用者の需要内容
の変化ももたらす。また、人口減少などのような社会的な変化は、単に商店街だけでな
く、すでに進みつつあるコミュニティ機能の低下という地域にとって大きな問題を一段
と深刻化させかねない。
本稿では、商店街やコミュニティの変化を概観したうえで、商店街問題をコミュニテ
ィ機能の再生支援という方向からも考えることの必要性を論じる。さらに、地域におい
て商店街が果たすべき役割を分析・検討するとともに、地域での存在価値を高めている
積極的な商店街の事例を紹介し、商店街活性化のあり方を検討する際の参考としたい。
なお、第3章の紹介事例の取組みでは、商店街問題の解決には、個店としてのたゆま
ぬ努力は当然として、商店街は地域の公共財としてコミュニティの課題解決を支援し、
地域にとって欠くべからざる存在となること、すなわち地域で認められる存在価値の再
構築が不可欠である、という考え方が共通している。
1.衰退が続く商店街の現状
中小企業庁の平成 21 年度「商店街実態調査報告書」(2009 年 11 月1日現在の調査、
1
地域調査情報
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©信金中央金庫 地域・中小企業研究所
有効回答件数 3,607)1によれば、商店街は店舗数の減少、廃業などによる空き店舗率
の上昇や来街者の減少など、厳しさを増している。とくに、最寄品中心の近隣型や地域
型の商店街、つまり、生活の最も基本的な分野に関わる比較的小規模で地域住民に密着
度合いが大きいはずの商店街ほど、厳しい実態となっている。商店街の衰退は、問題化
している地域コミュニティの機能低下にも大きく影響しているものと思われる。
(1)店舗数減少、空き店舗増加など一段と厳しさを増す
イ.厳しさを増す商店街の景況感
平成 21 年度「商店街実態調査報告書」 (図表1)商店街の最近の景況
(単位:%)
無 回 答 繁 栄 1.0
繁栄の兆し
1.5
2.0
では、景況を「繁栄」もしくは「繁栄の兆
し」としている商店街は僅かに 3.0%にす
ぎない。一方で、
「衰退している」が 44.2%、
「衰退の恐れ」が 33.4%と両者で 77.6%
横ばい
17.9
にも達している(図表1)。とりわけ、人
口規模別で5万人未満の小規模の都市や
衰退している
44.2
町・村、商店街タイプ別では近隣型で厳し
衰退の恐れ
33.4
い状況がうかがえる(図表2)。
ちなみに、前回の平成 18 年度調査(2006
年 11 月1日現在の調査)でも、「繁栄」
(備考)中小企業庁:商店街実態調査報告書(平成 21 年度)
より信金中央金庫 地域・中小企業研究所作成
と「繁栄の兆し」を合わせて 6.4%しかな
かったが、21 年度調査ではその半分以下である。逆に、「衰退」と「衰退の恐れ」は
前回 70.6%であったものが、21 年度調査では 7.0%ポイントの増加となった。
(図表2)商店街の人口規模別、商店街タイプ別の最近の景況
人
口
規
模
別
商
店
街
タ
イ
プ
別
政令指定都市・特別区
30万人以上の都市
20万人以上30万人未満の都市
10万人以上20万人未満の都市
5万人以上10万人未満の都市
5万人未満の都市
町・村
近隣型商店街
地域型商店街
広域型商店街
超広域型商店街
繁 栄
している
繁栄の
兆しがある
1.7
0.7
0.0
0.8
0.6
1.3
0.0
0.6
1.0
3.3
4.4
2.0
2.7
2.0
2.4
2.1
1.1
0.4
0.6
1.0
3.5
3.8
2.9
0.7
横ばい
である
24.8
21.3
18.0
13.0
10.9
7.2
8.1
15.1
19.1
27.5
44.1
23.8
(単位:%)
衰退の
恐れがある
衰 退
している
35.1
36.3
36.3
30.8
30.5
28.0
32.0
31.4
36.2
42.9
35.3
27.9
34.6
38.3
40.8
51.1
55.8
61.4
58.1
50.6
39.4
22.5
10.3
35.4
無回答
(備考)中主企業庁:商店街実態調査報告書(平成 21 年度)より信金中央金庫 地域・中小企業研究所作成
無回答
1.2
1.4
2.4
2.3
1.1
1.7
1.2
1.3
0.9
0.0
2.9
10.2
1
商店街実態調査報告書での商店街の定義は、①小売業、サービス業等を営む者の店舗等が主体となって街区を形成し、②これら
が何らかの組織(例えば○○商店街振興組合、○○商店会等で法人格の有無およびその種類を問わない。)を形成しているもの
をいう。ちなみに、平成 21 年度報告書では全国の商店街数は 14,467 となっている。なお、商店街の分類は以下のとおり。
・近隣型商店街:消費者が頻繁に購入する加工食品、家庭雑貨など最寄品中心の商店街。徒歩や自転車などで買い物に訪れる。
・地域型商店街:最寄品や消費者が店を比較して購入するファッション製品、家具家電など買回り品の店が混在し、徒歩、自転
車、バス等で訪れる。
・広域型商店街:百貨店、量販店などの大型店もあり、買回り品が最寄品より多い。
・超広域型商店街:百貨店、量販店、高級専門店などがあり、遠距離からも訪れる。
2
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ロ.店舗数の減少、空き店舗の増加
(図表3)商店街の店舗数別割合(2009 年度、2006 年度)
(%)
20.0
全店舗数平均
2009年度 51.7店
2006年度 59.2店
19.6
2009年度
16.7
14.7
15.0
14.8
14.2
11.9
2006年度
12.9
11.3
10.0
9.9
8.1
8.4
8.1
6.8
6.5
6.3
4.5
5.0
4.0
4.5
3.3
3.1
2.1
1.9
2.4
2.4
0.0
1∼19店
20∼29店
30∼39店
40∼49店
50∼59店
60∼69店
70∼79店
80∼89店
90∼99店 100∼149店 150∼199店 200店以上
(備考)中小企業庁:商店街実態調査報告書(平成 21 年度)より信金中央金庫 地域・中小企業研究所作成
こうした厳しい状況は、商店街の店舗数の減少や空き店舗の増加という形でも具体的
に現れている。店舗数減少や空き店舗の増加は、商店街機能を欠落させていくことを通
じて、さらなる商店街の衰退という悪循環を招来させていると考えられる。
図表3は 2006 年度と 2009 年度の商店街の店舗数別での割合をみたものである。2006
年度調査に比較して、40 店舗以上の層では 200 店舗以上を除き 2009 年度の方が割合が
少なく、39 店舗以下の小規模層では 2009 年度の割合が大きい。つまり、商店街全体に
店舗数は小規模化傾向にある。1商店街当たり全店舗数の平均では、2006 年度の 59.2
店から、2009 年度は 51.7 店と 7.5 店舗、率にして 12.6%も減少している。
このような状況から、図表4のとおり1商店街当たりの空き店舗数は 95 年度の 3.5
店から 09 年度には 5.6 店に増加している。空き店舗率では 95 年度の 6.87%から 09 年
度には 10.82%と、はじめて 10%台に達した。
次に、21 年度調査で3年間の空き店舗数の変化を商店街タイプ別にみると、もっと
も空き店舗が「増えた」のは地域型商店街で、44.4%となっている(図表5)。これに
次ぐのが近隣型商店街の 38.3%であり、日常生活により近いタイプの商店街で空き店
舗が増加している。
一方、人口規模別には、空き店舗が
(図表4)1商店街当たりの空き店舗数と空き店舗率の推移
(店)
「 増 え た 」という割合は、町・村が
5
51.7%で唯一過半となり、これに5万
人未満の都市が 47.9%で続いている
4
(図表6)。人口規模別には小規模ほ
3
ど空き店舗が増加した商店街が多くな
2
っている。信用金庫において取引があ
10.82
7.31
6.87
8
5.3
3.5
3.9
5.6
3.9
6
4
2
0
況の商店街にも多くあるものと考えら
12
10
8.98
8.53
1
る商店街の個店は、こうした厳しい状
れる。なお、地域別にみると、空き店
(%)
空き店舗数
空き店舗率
6
0
1995
2000
2003
2006
2009(年度)
(備考)中小企業庁:商店街実態調査報告書(平成 21 年度)より
信金中央金庫 地域・中小企業研究所作成
3
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(図表5)商店街タイプ別の最近3年間の空き店舗数の変化
増えた
近隣型商店街
変らない
38.3
広域型商店街
超広域型商店街
無回答
0%
45.5
44.4
地域型商店街
10.9 5.4
40.8
36.8
無回答
減った
10.9
3.9
52.2
8.2
2.7
26.5
60.3
23.1
5.9 7.4
51.0
20%
40%
10.2
60%
15.6
80%
100%
(図表6)人口規模別の最近3年間の空き店舗数の変化
政令指定都市・特別区
30万人以上の都市
20万人以上30万人未満の都市
増えた
変らない
31.6
53.5
40.1
44.2
46.5
10万人以上20万人未満の都市
41.7
5万人以上10万人未満の都市
42.1
5万人未満の都市
0%
39.2
6.0
9.6
6.1
14.0
41.0
11.8
37.3
51.7
8.9
10.6
39.2
47.9
町・村
減った 無回答
11.4
34.3
3.7
5.1
5.2
3.4
11.0
2.9
20%
40%
60%
80%
100%
(備考)図表5、6とも中小企業庁:商店街実態調査報告書(平成 21 年度)より信金中央金庫 地域・中小企業研究所作成
舗が「増えた」とする割合は、四国の 61.4%と北海道の 60.7%が特に高くなっている
(全8地域別の平均値は 47.6%)。
(2)多くの商店街で来街者が減少
最寄品主体の商店街であっても、最も基本的な生鮮3品を扱う店がなくなったと聞く
こともめずらしくはない。地域を支える基盤であるべき商店街では、基本機能の欠落に
より、地域住民の足が商店街からさらに遠のいている。
図表7と図表8は、商店街タイプ別と人口規模別にみた商店街への来街者の変化であ
る。商店街タイプ別では全てのタイプで「減った」が最も多く、中でも近隣型で 81.4%、
地域型では 74.3%に達している。これらと対極にある非日常的な超広域型商店街でさ
え、50.0%と半数に達している。全体でみれば、76.8%と4分の3強もの商店街で、来
街者は「減った」と答えている。一方、人口規模別での来街者の減少は、5万人未満の
都市が 90.7%でもっとも多く、町・村の 87.2%が続いている。人口の多い政令指定都
市・特別区ですら 67.6%と7割近くが「減った」としている。
4
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(図表7)商店街タイプ別の最近3年間の来街者数の変化
増えた
全体 5.6
変らない
減った
16.1
無回答
76.8
1.5
近隣型商店街 3.9
13.7
81.4
1.1
7.6
地域型商店街
17.0
74.3
1.0
9.9
広域型商店街
24.2
64.8
1.1
13.2
超広域型商店街
33.8
50.0
2.9
無回答 5.4
23.1
0%
10%
20%
60.5
30%
40%
50%
10.9
60%
70%
80%
90%
100%
(図表8)人口規模別の最近3年間の来街者数の変化
増えた
変わらない
8.2
政令指定都市・特別区
23.1
6.0
30万人以上の都市
減った
無回答
67.6
16.1
1.2
76.7
20万人以上30万人未満の都市 4.5
13.5
80.0
10万人以上20万人未満の都市 4.7
13.0
80.2
1.3
2.0
2.1
3.0
5万人未満の都市
83.9
11.2
5万人以上10万人未満の都市
2.1
5.9
2.9
町・村
0%
1.9
90.7
8.1
10%
1.3
87.2
20%
30%
40%
50%
60%
1.7
70%
80%
90%
100%
(備考)図表7、8とも中小企業庁:商店街実態調査報告書(平成 21 年度)より信金中央金庫 地域・中小企業研究所作成
来街者数の状況からも、ほとんどの商店街で厳しさが増しているが、一般的には大都
市の人口の多い地域で、広域を対象とする商店街ほど相対的には良い。ただ一方で、僅
かではあるものの、最も厳しい状況下にあると思われる町・村や小規模都市、近隣型、
地域型の商店街でも「増えた」という回答もあることには注目すべきであろう。
(3)コミュニティの結節点としての商店街
商店街の基本的な機能は、言うまでもなく買い物の場として、顧客が必要とする商品
やサービスを的確に提供することである。まずは、商店街を構成する店舗が、顧客のニ
ーズを満たすだけの種類があるのか。さらに、その商品・サービス自体の質・価格、店
舗の入りやすさや清潔感、店主・従業員の対応、商品・サービスにまつわるもの以外も
含めた顧客とのコミュニケーションなどが、個店の魅力を構成することになる。こうし
た基本的な要素が一定以上あり、ロードサイドの大型店やチェーン店などとは違う強み
を有する店舗が集まる商店街となる必要がある。つまり、基本的に魅力のある個店を抜
きにして人を引き付けて商店街を活性化することはできない、ということである。
このため、それぞれの個店は、経営的な視点で冷静に現状を把握し、自分達の強みを
5
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明確にする必要がある。その際に、顧客が望んでいること、顧客ニーズとは本当はどの
ようなことなのか、ということを供給者ではなく需要者の視点で考えることは欠かせな
い。その上で強みをもってどのように対応するのか、自らのスタンスを明確化し、その
内容を顧客・地域に積極的に発信していかなければ、成果には結び付きにくい。たとえ
ば、顧客自身も実は明確にニーズが分かっていない、あるいは、欲しいと思っているも
のと本当に顧客に相応しいもの、必要なものがズレていることもある。この場合、地元
商店ならではの、じっくりと顧客の話しを聞く、あるいは長年の付き合いで状況をよく
把握していることを強みとした相談機能を発揮する、といったことが差別化のポイント
となる。単なる価格や見た目だけではない実際に相応しいものを提案し、セルフ販売の
大型店にはない、商店街の店舗ならではの強みがあるはずだ。とかく、供給者サイドの
思い込みで、努力内容が独りよがりであったりする。商店街や個店の内部環境、外部環
境は時々刻々と変化しており、その変化に対応するのが経営者の最大の仕事であること
を忘れ、従来からのスタイルをただ繰り返している、という場合も少なくない。
また、顧客(地域住民)とのコミュニケーションは、商機能の面で顧客ニーズに敏感
に対応することに加えて、地域の一員である商店街に期待されているコミュニティ機能
維持のためにも欠かせない。都市部では商店街が地域の公共財であるという感覚が希薄
化し、一方で小規模な市町村などでは過疎化により、コミュニティ機能の維持そのもの
が危機に瀕している。このため、魅力ある個店がより多く存在することは、ただ単に商
品やサービスを提供する場、ということに止まらず、集合体としての商店街がコミュニ
ティ機能を果たしていくうえでも重要である。第2章の(3)で触れる商店街に求めら
れているコミュニティの維持発展を支える機能の提供という面では、やはり地元地盤の
商店街への期待は大きい。もちろん、そこでは地域住民が商店街のみにコミュニティ機
能の発揮を期待し委ねるのではなく、地域住民も地域の一員として責任と役割を自覚し、
地域での暮らしに主体的に関わる姿勢が欠かせないのは言うまでもない。
第2章に述べる、今後予想される厳しい環境変化の中で、商店街は地域住民を巻き込
み、コミュニティ機能の結節点として存在を強化し、地域をより住みやすく、快適、安
心・安全にすることで、結果として自らの存続・発展につなげていくことが必要である。
2.今後見込まれる商店街を取り巻く環境変化
(1)人口減少の本格化
商店街にとって、人口の増減は市場規模・売上高に関わる重要な要素である。我が国
ではその人口の減少が、いよいよ本格的になってくる。もちろん、個々の地域によって
状況・程度は違うが、多くの地域においては相当程度減少することが予想されている。
図表9は、国立社会保障・人口問題研究所による将来人口の予想である。2005 年に
1億 2,780 万人の総人口は、2055 年には 9,000 万人と 29.6%も減少する。内訳をみる
と、生産年齢人口(15 歳から 64 歳)では 3,840 万人の減少、率では 45.5%減、同様に
6
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(図表9)2055 年までの日本の推計人口(出生中位、死亡中位推計)
65歳以上
(万人)
15∼64歳
0∼14歳
14,000
12,777
12,000
14歳以下の若年人口は1,007万人減少
1,759
(14%)
10,000
8,993
6,000
752
(8%)
15∼64歳の生産年齢人口は3,847万人減少
8,000
8,442
(66%)
4,595
(51%)
4,000
65歳以上の高齢人口は1,070万人増加
2,000
0
3,646
(41%)
2,576
(20%)
2005
2010
2015
2020
2025
2030
2035
2040
2045
2050
2055
(年)
(備考)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成 18 年 12 月推計)、国土交通省「国土の長期
展望」中間とりまとめ(2011 年2月 21 日)などより信金中央金庫 地域・中小企業研究所作成
若年人口(14 歳以下)は 1,010 万人減少、率で 57.4%もの大幅な減少を予想している。
逆に、高齢人口(65 歳以上)に関しては、1,070 万人増、率で 41.5%の大幅な増加予
想と対照的である。それぞれの構成比でみてみると、最も構成比が大きい生産年齢人口
の割合は、2005 年の 66%から 2055 年には 51%となんとか過半を占めてはいるものの、
大きく低下する。一方で、高齢人口の構成比が 20%から 41%にまで高まる。
商店街の立場からすると、大幅な人口減少は消費需要に少なからずマイナス要因とい
うことになる。需要量が減少するとともに、消費者の年齢構成が大きく変化することか
ら、内容的にも大きな変化が起こることになろう。たとえば、高齢者向けの商品・サー
ビスのウエイトは当然高まろうが、その提供の仕方にも変化が起こるであろう。そうし
た変化は、新たな商品・サービスの需要を喚起することもあるかもしれない。積極的に
変化をチャンスと捉えて対応することも必要である。
(2)単独世帯、特に高齢者単独世帯の増加が顕著
人口減少、人口構成の変化とともに、世帯内容の変化も予想されている(図表 10)。
世帯数は目先は増加するが、2010 年代半ばにはピークを迎える予想となっている。
上記のとおり、今後高齢者人口が増加するのだが、世帯数でも高齢者の、しかも単独
世帯が増加の一途をたどる予想となっている。ちなみに、「単独世帯」全体では、2010
年に、それまで最も多い世帯類型であった「夫婦と子」の 1,403 万世帯を上回り 1,571
万世帯(全世帯の 31.2%)、これが 2035 年には 1,833 万世帯(同 38.8%)でピークを
迎える。2050 年には 1,786 万世帯とやや減少はするが、世帯数全体の減少の方が早い
ため、全世帯に占める割合は 42.5%にも達する。さらに、「高齢者単独世帯」でみる
と、2010 年は 465 万世帯(全世帯の 9.2%、単独世帯の 29.6%)、2035 年で 783 万世
帯(同 16.6%、42.7%)、2050 年は 982 万世帯(同 23.3%、55.0%)と、ついには単
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(図表 10)世帯累計別世帯数の推移(1980 年∼2050 年)
(単位:万世帯)
(年)
623
1980 88
671
1985 118
521
2015 高齢者単独 562
631
2025
673
946
867
2050
982
805
0
1,000
1239
896
501
819
821
779
745
2,000
526
473
503
456
440
478
455
3,000
5,044
4,984
4,880
544
489
900
5,060
565
556
503
983
856
5,029
482 その他の世帯 577
507
1070
4,906
595
ひとり親と子
1152
939
621
451
夫婦と子 1,326
976
4,679
411
1,403
夫婦のみ 1,019
948
4,390
654
1465
1004
2045
690
358
1,008
1050
882
2040
964
1106
783
2035
311
1492
1119
717
2030
4,066
706
1503
1102
2020
3,797
728
275
884
その他単独 1,094
3,582万世帯
240
762
1,105
465
2010
712
1517
1059
386
2005
1519
988
303
2000
205
629
904
220
1995
1508
777
162
1990
446
4,727
4,561
4,388
4,206
4,000
5,000
(備考)国土交通省「国土の長期展望」中間とりまとめ(2011 年2月 21 日)より信金中央金庫 地域・中小企業
研究所作成
独世帯の過半が高齢者と予想されている。しかも、高齢者の増加はとりわけ 80 歳以上
の年齢階層が大きく増加するとみられている。こうした変化をどのように個店・商店
街・地域の施策に生かしていくのかを考えなくてはならない。
したがって、経験と勘頼みの経営から脱却し、より確度の高い経営へのパワーアップ
が求められる。個店ベースとして、また、商店街として地域の中での位置付けや役割を
明確化し、理念や戦略にそった、具体的で一定の裏付けのある計画の実行と結果検証、
改善というPDCA(PLAN⇒DO⇒CHECK⇒ACTION)サイクルの継続で、
常に変化に対応していくことが、地域でその存在価値を認められ、活性化するためには
必要である。地域住民にとって暮らし易い、住みやすい、楽しい地域になるためには、
個店、商店街も含む地域構成員自身が真剣に取り組まなければならない。
たとえば、高齢化による日常の買い物の不便さに対して、徒歩で行ける利便性の高い
商店街、買った商品の配送サービス、買い物の代行、商品・サービスの分かりやすい説
明など商品選択がしやすい店員等の親切な対応、過疎地などでの移動販売、店舗までの
送迎サービス、ネット利用による買い物サービスなどがあろう(図表 11)。これらは
高齢者だけでなく、買い物に不便を感じている障害者や妊娠中・子育て中の人など、買
い物弱者への対応ということでもある。ちなみに、経済産業省の「地域生活のインフラ
を支える流通のあり方研究会報告書」(2010 年5月)によれば、過疎地だけでなく高
度成長期などに建てられた大規模団地などでもみられる高齢者の買い物弱者だけでも、
すでに約 600 万人に達すると推計している。
人口や世帯についての予想は、大きくはそうした方向性ということになろうが、個々
の商店街・地域においては、その取り組み次第で、全体の予想とは違う状況を期待する
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(図表 11)地域の不便な点(60 歳以上の男女 3,000 人へのアンケート)
5.2
日常の買い物に不便
7.5
医院や病院への通院に不便
交通事故にあいそうで心配
7.8
交通機関が高齢者には使いにくい、
または整備されていない
8.4
9.2
近隣道路が整備されていない
10.0
散歩に適した公園や道路がない
図書館や集会施設などの
公共施設が不足
16.6
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
10.0
12.0
14.0
16.0
18.0 (%)
(備考)内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査報告」平成 17 年度より信金中央金庫 地域・中小企業
研究所作成
ことも可能であろう。逆に、何もしなければ、より早い速度で商店街を取り巻く環境が
深刻な事態に陥ることもありえよう。
(3)地域の維持再生に不可欠な商店街のコミュニティ支援機能の強化
予想される変化から、今後の商店街の在り様を考えるに際して、単に物やサービスを
販売する場所ではなく、地域の視点から、コミュニティ機能を支援する場所、あるいは
そうした機能を果たす組織としての期待が高まっていることを認識すべきである。
空き店舗が多く、シャッター通りといわれる商店街は、顧客ニーズを満たす機能が低
下・欠落し、来街者の減少などから閑散としている。夜は多くの店が早い時間から閉店
し薄暗く、治安面の心配を感じさせる所もある。もし事件でも起きれば、人の足はさら
に遠のくことにもなりかねない。商店街は、防犯・防災など地域を維持する機能という
意味において、従来から重要な役割を果たしてきた。治安面以外にも、祭りなど地域イ
ベントなどの担い手、町並み・景観・自然などの保全、地域の様々なコミュニケーショ
ンの場、娯楽・遊びの場、青少年の社会教育の場、就業の場、起業の場、基礎自治体の
(図表 12)地域住民の地域活動への参加
月1日程度以上
12.6
町内会・自治会
16
19.7
スポーツ・趣味・娯楽活動
35.6
年に数回程度
8.8
その他の地縁活動
(婦人会、老人会、子ども会など)
無回答
参加していない
51.3
74.3
12.3
0.5
0.9
67.2
0.8
(各種スポーツ、芸術文化活動など)
NPOなどのボランティア・市民活動
7.2
11.3
7.9
7.2
80.7
0.8
(まちづくり、高齢者・障害者福祉や
子育て、美化、防犯、防災など)
その他の団体・活動
83.9
0.9
(商工会、業界組合、宗教など)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
(備考)1.内閣府の平成 18 年度「国民生活選考度調査」より信金中央金庫 地域・中小企業研究所作成
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税源、地元ならではの地域の顔、災害時などの助け合いや見守りなど、伝統・文化とい
った地域のアイデンティティを守り、地域の人々が快適・安全・安心に住み、暮らして
いくための様々な支援機能がある。
では、地域住民のコミュニティへの関わりはどうか。図表 12 は内閣府の平成 18 年度
「国民生活選好度調査」における「地域活動への参加」についての結果である。参加強
制力はないが、従来のつながりから比較的参加の多い町内会・自治会では 48.2%と、
半数近くが積極的かどうかは別にしても参加している。しかし、逆に言えば半数強は参
加しておらず、単身世帯や共働き世帯、都会を中心としたマンションやアパート居住な
どの増加が、地域での関係性を希薄化させ、放置すればさらに参加率は低下するものと
みられる。その他の活動においても趣味・娯楽性のあるものは相対的にはやや参加率が
高いものの、全体に不参加が多い。
地域コミュニティにおいて、すでに社会問題化している買い物弱者や高齢者等の見守
り、子育て支援、防犯・防災、就業の場の提供、女性の社会参加支援など地域における
ニーズはさらに増大しよう。
(図表 13)地域社会の変化と商店街に求められるコミュニティ機能
かつてこれらは家族や地域
◆中心商店街(特に近隣型・地域型)が担ってきた地域の存続・維持のための機能
○人が住み・暮らすために必要な商業が集積する場
での自助・共助で対応が行わ
○官公庁・事務所など地域の諸施設、諸機能が集積する場
れていたが、核家族化や個人
○見守りによる防犯など地域の治安・安全性向上の場
○地域の就業・起業の場
主義的な考え方から、その役
○様々な情報が集まり同時に発信されるコミュニケーションの場を提供
割を公共サービスに求めてき
○地域の顔としての景観・町並みを形成・保存する場
○地域の歴史・文化が維持・保存される場
た。ところが、これを公共サ
○娯楽・遊びを提供する場
ービスで賄うためには、ノウ
る。また、地域により異なり、
しかも複雑な課題には公共だ
けでは対応しきれず、様々な
ネットワークの活用なども必
要となろう。民間事業者やN
PO、地域の様々な団体など
関係者の活用、関与が期待さ
れる。その場合の結節点とし
て大きな役割を担える立場に
あるのが地域の公共財ともい
地域で居住・生活するために不可欠なコミュニティ機能の喪失が進展
ハウや財政上などの問題があ
○子育て・高齢者の見守りなど行政や民間企業だけでは不足する助け合い機能の場
人口や様々な施
設・機能が集中
土地にからむ複雑な権利関係、様々
なしがらみ、変化対応への意識欠如
などから地域基盤の整備が立ち遅れ
地域や人との関わりが
希薄化し個を重視する
生活スタイル
就学、就職などで大都
市などへの人口流出
居住環境・条件の悪化
大型店が投資効率の悪化した
中心部の店舗から撤退し郊外
のロードサイドなどへ進出。
様々な物販・サービスのチェー
ン店などが郊外に相次いで出
店。官公庁・事務所なども郊外
化が進展
車の普及やこれを
さらに促す道路整
備などの進展
人口の郊外への流出
中心部だけでなく
地域の人口が減少
少子高齢化
商店街の多くが、人口や大型店などの郊外化や、商店街として、ま
た、個店としての対応力不足等で厳しさが増大
TV ショッピング、
ネ ット 販売 、 SNS
など新たな流通、情
報交換手段の台頭
空き店舗や廃
業などが増加
まちの賑わいがなく
なり就業の場も減少
商店街全体として機能が
欠如、また、個店でも魅力
が減少、ますます商店街を
利用するメリットが低下
居住や生活のための機
能が低下し、従来はコミ
ュニティの機能も喪失
地域のコミュニティ、商店
様々な要因が絡み合って希薄
地価の上昇
核家族化
える商店街である。
街と地元住民の間の関わりは
大型店の中心
地への進出
商店街には単にモノやサービスを提供する買い物の場ではなく、
「人が安心・安全に居住し暮らす」
、
いわゆる「生活を支援する」
、
「交流の場」など地域社会を支えるという役割が求められている。
(備考)信金中央金庫 地域・中小企業研究所作成
10
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化している(図表 13)。SNS2(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のよう
な、ネット上でのコミュニティへの参加が増加する一方、日常生活に関わるリアルなコ
ミュニティにはあまり参加せず、コミュニティ機能の低下が著しいという現実がある。
コミュニティ機能が実の有るものとなり、地域商業者にとってもプラスとなるために
は、商業者のみならず、地域住民、地域の他の産業に関わる者が、地域の課題を具体的
に認識する必要がある。その課題の解決なくしては、それぞれの今後に重大な影響を及
ぼし、個別の努力だけでは解決しがたく協働での対応が欠かせない、という強い認識で
ある。要するに、コミュニティの構成員が主体的・積極的にかかわる意識が醸成される
ことが大きなポイントということになろう。
3.コミュニティ機能支援で活性化を図る商店街事例
いわむら だ ほんまち
(1)地域密着顧客創造型商店街を目指す岩村田本町商店街(長野県佐久市)
イ.商店街の概要
長野県東部、中山道にある岩村田は、佐久甲州街 (図表 14)岩村田本町商店街
道、日影新道なども通る交通の要衝として栄えたと
ころである。商店街は、97 年開業の長野新幹線佐久
平駅から東南東約1km に位置する。中山道沿いの
220m に現在 48 店、空き店舗は僅かに2店である。か
つて商圏は半径 30km、商圏人口約 20 万人(佐久市だ
けで 10 万人)といわれたが、佐久市の店舗面積の
82%は大型店が占める実態が示すように、商店街に
(備考)筆者撮影
とって厳しい状況となっている。65 年に南佐久に地域で最初の大型店が進出、現在は
競合する大型商業施設が7∼8店ある。新幹線開業での他県からの人口流入が大型店の
進出をさらに促した面もある。このため、96∼97 年当時は商店街の 42 店舗中空き店舗
が 15 店と3分の 1 以上にも達する状況に陥っていた。
96 年に、危機感を強めた商店街振興組合の現在の阿部理事長ら当時の若手メンバー
が役員に就いた。理事 14 人の平均年齢は 36.7 歳と約 30 歳若返り、全国一若い役員の
商店街振興組合となった。当初、イベントに積極的に取り組み多くの人を集めたが、売
り上げにはつながらず、反対意見が多くなり取り止めた。 商店街の基本は魅力ある個
店の集まり との原点に立ちかえり、2000 年から 01 年にかけて、若手経営者6人が毎
月1回1泊2日の勉強会を 15 か月続け、「商店街は地域住民・消費者の役に立つ商品・
サービスを提供する場所」であると改めて認識した。商店街は畑であり、その環境整備
2
人とのつながりを促進・サポートするためのコミュニティ型の WEB サイト。会員制でサービス提供が行われる。友人、知人間
だけでなく、地域、趣味、友人の友人など直接関係のない人とのつながりやコミュニケーションを促進する手段となっている。
また、企業が社内コミュニケーションや就職内定者の囲い込み手段として、地方自治体でも八戸市、秩父市、千代田区、掛川市、
大牟田市、八代市などが市民間のコミュニケーションや災害時の活用としてSNS利用が広がっている。
11
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は商店街振興組合で担うが、種をまき育てるのは各個店との考え方から、畑である商店
街に空き店舗があると衰退して見え、また、既存店舗に刺激を与えるためにも空き店舗
対策を重点課題に据えた。地域問題に対応する中長期的なビジョンに沿って積極的かつ
計画的・合理的に施策を展開し、来街者はここ8年で 1.5 倍近くに増加した。振興組合
では、各店舗の平均売上高を 2014 年度に 04 年度の 2.6 倍にすることを目標としている。
なお、様々な施策は各理事が一人一事業制で担当し、継続・発展に責任をもつ。この
ため、常に的確な対応を求められ、人材育成の観点からも有効な方法となっている。
ロ.取組み施策と成果
(イ) コミュニティスペース「中宿おいでなん処」
空き店舗を利用し、2002 年に商店街振興組合の事務 (図表 15)おいでなん処
所も兼ねる公民館的スペースとして設けた。各店舗の
売上げに直結はしないが、地域住民が望む公共的役割
に応えるもので、年間利用者は約 6,000 人、利用目的
は、カルチャースクール、展示会、子育てイベント、
祭りの本部、などである。学校帰りの子供たちも気軽
に立ち寄り、商店街との接点のひとつにもなっている。
(ロ) 直営惣菜店「おかず市場」
(備考)筆者撮影
商店街にあったスーパーが移転し、生鮮3品の店がなくなった。そこで、「手作り・
手仕事・技」が特徴で、地域で「共に暮らす・働く・生きる」を掲げる商店街は、地元
の農業高校などと朝市を行った。ところが、アンケート調査では惣菜販売の希望が多く、
空き店舗を利用した「おかず市場」を 03 年に商店街直営で開店した。スタッフ手作り
のコロッケ、あじフライ、ヒレカツ、野菜炒めなど 50∼60 品目が並び、年商 2,200 万
円、経常利益 300 万円(売上高経常利益率 13.6%)というすばらしい実績である。
(ハ)チャレンジショップ「本町手仕事村」
チャレンジショップは家賃がネックとなるケースが多い。そこで 35 坪の空き店舗を
商店街が借り、2.5 坪の6つのスペースに区切り1区画月 15,000 円の家賃で 04 年に始
めた。手作りのものに絞り、応募者から厳選して入居者を決め、これまで 10 店が入居、
卒業生が商店街にすでに3店出店し、4店目も独立間近である。なお、独立出店時には、
空き店舗オーナーとの交渉を商店街が行い、リーズナブルな家賃が実現している。
(ニ)子育て関連事業「子育て村」、「岩村田寺子屋塾」、「子育ておたすけ村」
地元小学校は児童数 1,100 人と長野県で2番目のマンモス校で、保護者の教育の質へ
の不安など子育ても地域の重要テーマである。07 年に子育て村を始め、子育てセミナ
ー、クリスマスケーキ作り、つり大会、公園の清掃、高原野菜の収穫など年間 15 程度
のイベントを通じて子育てを支援している。18 歳までの子供がいる約 1,000 世帯が加
入しており、会員証の提示で加盟店 50 店舗での割引など様々なサービスもうけられる。
この子育て村事業でのアンケート調査の結果、最多のニーズは学習問題であった。そ
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こで、09 年に商店街としては全国初の寺子屋事業「岩村田寺子屋塾」を専門業者に委
託して始めた。オーダーメードのカリキュラムによるマンツーマン対応が特徴で、子育
て村会員は授業料が割引となる。なお、塾では大人対象の講座も開催されている。
さらに、子育て不安や、託児所が欲しいなどの要望に対応し、2010 年3月に「子育
ておたすけ村」をスタートした。空き店舗改装費 1,500 万円の3分の2は国の地域商店
街活性化事業費補助金で賄い、有料短時間保育、元保育士の相談対応、保護者の井戸端
会議、授乳やおむつ交換などに利用されている。なお、一連の子育て関連事業は、日本
経済新聞社の 2010 年「にっけい子育て支援大賞」を受賞した。
(ホ)「佐久っ子WAONカード」
商店街から1km 弱の所にイオンの店舗がある。商店街では共存共栄を考えイオンと
提携し、このカードを導入した。カード会員は、イオンでの買い物ではイオンのポイン
トが、商店街での買い物では商店街とイオン双方のポイントが同時に付く。なお、商店
街とイオンの間にある店舗(商店街振興組合の準組合員)での利用も可能としたが、居
酒屋や理美容店などで積極的な店が多く、彼らの取組みは既存店に刺激を与えている。
現在約 7,000 枚のカード発行枚数は、今年度中に 15,000 枚を目指している。
(ヘ)直営食堂「三月九日・青春食堂」「九月九日・ふくろう亭」 (図表 16)直営食堂内部
昼は商店街と地元高校生のコラボレーション食堂「三月九
日・青春食堂」として、佐久平米の米粉うどんの提供、農業高
校とのメニュー開発での食材・食文化発信、高校生の職業体験、
高校生が気軽に立ち寄れる場となる。一方、夜は地域のコミュ
ニケーションを図る居酒屋「九月九日・ふくろう亭」となる。
築 100 年の呉服屋の店舗を改装して 2011 年3月にオープンした。
(備考)筆者撮影
ハ.今後の計画等
今年7月末に、商店街になかった生鮮3品を扱うミニスーパーを、おかず市場の隣に
開店する。商店街が場所の確保と内装を行い賃貸し、鮮魚店の経営希望者が、魚ととも
に地域農家の野菜、イオンから仕入れる肉類も同時に扱う。
2010 年にスタートした「起業家育成塾」は 11 年度も実施する。これは、店を持ちた
い人が専門家の座学と実店舗での実践で経営を学び、実際の起業までを支援するもの。
県のふるさと再生特別基金事業を利用したもので、商店街に金銭的負担はかからない。
地域ニーズに応えるため、空き店舗や県などの補助金を積極的に活用し、商店街に金
銭的負担をかけず、それぞれの事業が自立・継続できる計画を次々に実行している。同
時に、個店の活性化や新規出店の促進、人材育成など次世代を考えた取組みでもある。
なお、上田信用金庫岩村田支店では、佐久っ子WAONカードをプリペイドカードと
して利用する際のチャージ機の支店内キャッシュコーナーへの設置、事業実施に係る補
助金の申請から受領までのつなぎ融資、各種イベントへの協力などで積極的に商店街を
支援している。
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地域調査情報
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(2)消費者目線で地域課題の解決に果敢に取り組む江戸川橋地蔵通り商店街
(東京都文京区)
イ.商店街の概要
文京区の南に位置し、北側以外は新宿区と接して (図表 17)江戸川橋 地蔵通り商店街
いる。東西に約 230m の商店街で商店数は 70 店、商
圏(半径 1.2km)人口は約8万人、最寄品など日常
のニーズを対象とした近隣型の商店街である。商圏
内には 150∼300 坪の食品スーパーが 12 軒もあるが、
商店街の年商は 45 億円程度で、厳しい競争環境の中
でも横ばいを維持し、空き店舗もほぼゼロである。
地場産業の印刷業の変遷やマンション居住の増加
など地域住民の変化、競合激化、消費者ニーズの変
(備考)筆者撮影
化、高齢者や子育て世帯など買い物弱者の問題化などから、商店街振興組合としてコミ
ュニティにおける存在意義・あり方について議論を重ねた。その結果、島田理事長の強
力なリーダーシップのもと、都・区などの助成金を積極的に利用しつつ、地域住民が望
む様々な施策をステップを踏みながら具体化している。理事長は、商店街は正規雇用の
場として地域や社会に貢献し、基盤である地域のコミュニティ機能をもしっかりと支援
することが不可欠であるとの強い信念のもと、商店街の取りまとめとともに、行政など
にも積極的にアプローチしている。ただし、助成金は利用するが、自立的・継続的に運
営できる仕組みづくりを基本としている。
なお、商店街では新事業を模索する地元の印刷会社とともに、産学連携による地域全
体参加型の商店街振興、環境問題対応、買い物支援サポートなどを目的とした一般社団
法人ジェイ・コミュニティサポート(理事2人の他に専属の職員2人)を 2010 年7月
に設立した。さらに、消費者行動の変化に対応するために携帯サイトを利用した商店街
や個店の情報提供を積極化することも併せて行っている。
ロ.取組み施策と成果
(イ)宅配サービス「地蔵の横丁便」
東京都区部においても買い物弱者の問題が発生しており、当商店街では宅配サービス
を 2010 年 5 月 24 日に試験運用開始、7月には本格スタートさせた。
商店街の入口にサービスステーションを設け、2人を配して1台の配送用バイクでの
買い物宅配を行っている。当事業は、近隣の早稲田大学教育学部箸本ゼミによる来街者
や商店街の調査結果を基に、文京区の商店街宅配委託事業の制度を利用したもの。スタ
ート後2年間を第1ステージとし、買い上げ品の宅配のみに集中して行っている。1年
目は約 1,000 件の利用があった。
利用は登録制で、入会金は 1,000 円(70 歳以上無料)。1回 100 円で割増条件なし
に宅配を依頼できる。会員以外の利用も可能だが、当商店街で 2,000 円以上購入の場合
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200 円、それ以外は 300 円となり、割増条件 (図表 18)横丁便サービスステーションと横丁便バイク
として 12 ㎏以上 15 ㎏まで 100 円増し、荷物
の3辺の和が 90cm 以上 100 円増し、となっ
ている。
なお、サービスは水、日、祝日以外の 13
時∼18 時(受付は 17 時まで)である。
(ロ)寺子屋
昨秋、試験的に小規模ながら横丁便サービ
スステーションを利用し、1人1回 1,000 円
で寺子屋を実施した。今秋からの本格実施に
(備考)筆者撮影
向けて具体的な企画を策定し、小中学生を対象に、商店街や町内会などの社会人・大学
生などが先生となり、読み・書き・ソロバン・英会話を教える補習塾のような寺子屋と
する予定である。
宅配と同様に、地域の課題解決に積極的に取り組むものである。核家族化の進展、少
子化や共働き世帯の増加などで、かつて子育て支援を担ってきた家族やコミュニティの
力が希薄化している。学力はもちろん、人間教育という観点からも、地域の公共財であ
る商店街がふれあいの場として子育てに貢献することを目的としている。
(ハ)Jカード事業
前理事長時代に導入した買い物スタンプが、現在はJカードというポイントカードに
発展している。商店街の 40 店が対象店舗となっている。105 円で1ポイント、36,750
円で満点の 350 ポイント(毎月4のつく日はポイント倍セールなどもある)となり、500
円の買い物券としての他、東京信用金庫、東京シティ信用金庫、巣鴨信用金庫等4金融
機関の地元支店での預金もできる。
ハ.今後の計画等
現在第1ステージの横丁便は、次の第2ステージでは単なる宅配だけでなく、買い物
そのものの支援、例えばカタログ販売で注文品を届け、その訪問機会を御用聞きのよう
に利用し、買い物弱者に限らず消費者の利便性向上などニーズに合わせた対応に拡充す
るなどで、事業継続をより確かなものにすることを検討している。
理事長は、地域住民との一体化に加えて、商店街の構成員たる個店が消費者の変化に
果敢に対応することなしに生き残りや繁栄はないと考えている。そして、「消費者に素
通りさせない」、「労力を惜しまない」として町会長もつとめ、積極的にコミュニティ
に入り活動し、この7年で町会費収入を3割も増加させるなど、地域住民、消費者の取
り込みに意欲をみせている。一方で、個店の落ちこぼれを出さないように、時に厳しい
アドバイスをし、商店街の女性会の意見も積極的に取り入れるなど、消費者への対応を
強く意識している。このため、商店街振興組合の会計も、月末には当月の試算表がきち
んとでき、最新の情報に基づいた活動ができるような体制としている。
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む つ も ん
(3)コミュニティの再生で地域との一体化を図る六ツ門商店街(福岡県久留米市)
イ.商店街の概要
六ツ門商店街は福岡県南部、久留米市の中心 (図表 19)六ツ門商店街と六角堂プラザ
市街地に位置する。市の人口は約 30 万人と、
県内で福岡市、北九州市に次ぐ。福岡市から約
40km、九州新幹線で最速 16 分、西鉄の特急で
29 分という近さである。また、ブリヂストン、
ムーンスター、アサヒコーポレーション、ダイ
ハツ九州、東プレ九州などゴムや自動車関連企
業の工場も立地している。
六ツ門商店街は、西鉄久留米駅前から西に伸
びる 10 の商店街が 2006 年に結成した「ほとめ
(備考)タウンモビリティステーションのある
六角堂プラザは正面の柱後方、筆者撮影
き通り商店街」(約 800mに 250 店ほどの店舗)の最も西側に位置し、約 25 店が店舗
を構え、2004 年に久留米市と町づくり会社ハイーマート久留米が整備したまちのシン
ボル、「六角堂広場」(イベント広場、無料休息スペース、多目的トイレ、市民ギャラ
リー、地域FM局のサテライトスタジオ、商業施設)もある。
90 年代半ばのショッピングセンター出店を皮切りに郊外化が進展し、現在、中心商
店街から車で 30 分圏内に売り場面積 2.5∼5万㎡の大型商業施設が4か所ある。一方
で、福岡市の商業施設が若い層を中心として強い集客力をもち、中心商店街の顧客は高
齢者がほとんどとなってしまった。このため、六ツ門商店街の性格も、従来の広域型か
ら地域型に近いものに移行し、ターゲットを明確にした戦略的施策の必要性が高まって
いった。
商店街振興組合の黒川理事長は現在でも 62 歳と商店街の中では年齢が若く積極的で、
後述の「タウンモビリティ3」やカルチャースクールの「六ツ門大学」などの事業を推
進するNPO法人「シニア情報プラザ久留米」を 2001 年には設立した。中心商店街で、
自己所有の店舗に店を構える商店主がほとんどの六ツ門商店街は、コミュニティ意識が
比較的強いものの、地域のコミュニティ機能が弱体化する中、商店主は厳しい業況下で
売上増加に直結する施策以外にはなかなか取り組みにくい状況もあった。そこで、NP
O法人を利用することで、地域住民を巻き込みつつ商店主の負担感を軽減、地域の根本
的な問題への対応を通じて商店街を含む地域活性化を図っていくという方法を考えた。
ロ.取組み施策と成果
(イ) タウンモビリティ
2000 年に、地元の特別医療法人楠病院理事長が代表理事を務めるNPO法人「高齢
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タウンモビリティは、1978 年に英国で始まったもので、中心市街地で高齢者や障害者など歩行・移動に不自由のある人たちに
車椅子や電動三輪車などを貸与し、ショッピング、散策、金融機関・役所・映画館等の諸施設の利用などで、活動を可能とする
手段や環境をサポートするもの。
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者快適生活つくり研究会」の提案などから取り組 (図表 20)貸出用電動スクーター等
みを始めた。
高齢者等が一人での外出が不安である、移動手
段がないなどに対応して、車椅子・電動スクータ
ー・ベビーカー・買い物カートなどの無料貸与、
リフトカーでの送迎サービス、食事やトイレの介
助、地元大学生などボランティアの付き添いを行
っている。利用登録と基本利用料金 500 円で利用
でき、実施は年末年始を除く毎週木・土・日曜、 (備考)六角堂プラザ内、筆者撮影
利用時間は 10 時半から 16 時、利用日の一週間前までに電話予約をする。
利用例としては、散髪、映画、カラオケ、お昼ご飯を食べる会、本屋、趣味の教室、
高齢者向けパソコン教室、健康相談、福祉介護相談、住宅相談、フットセラピーなど多
彩である。外出で体を動かし、買い物をし、娯楽を楽しみ、他の人と交流が図れ、精神・
身体両面での健康増進や生き甲斐につながり、商店街も交流拠点として賑わい、売上拡
大にも寄与することになる。利用者数は年間で延べ 1,000 人超に達している。
(ロ) 生涯学習拠点「六ツ門大学」
安心・安全な交流の場、知識欲旺盛な地域住民の学びの場など生き甲斐を提供する生
涯学習拠点として、2004 年に商店街の六ツ門ビルに開設した。講師は地元大学の教員
や各分野の専門家などがほぼ無報酬に近い形でのボランティアとして務めている。
1 コマ 90 分の講座で、月に約 50 コマが実施されている。講座内容は、源氏物語、徒
然草、平家物語、短歌、木版画、水彩画、書道、グラスアート、映画、三線、英会話、
中国語、ヨガ、太極拳、スローフード、編み物等々豊富である。
入学金が 1,000 円、受講料は、学び放題コースが半年 18,000 円、通年で 30,000 円、
受講券コースは 13 回 10,000 円、6回 5,000 円、聴講は1回 1,000 円で、月間 550∼600
名もの受講者がある。入学すると学生証が交付され、特典として、これを提示すると商
店街の協力店で割引サービスなどが受けられる。受講で商店街を訪れると、多くが昼食
や買い物などで商店街を利用するため、売上げと交流に寄与している。
ハ.今後の計画等
タウンモビリティや六ツ門大学などの取組みにより、中高年層を中心に地域住民と商
店街の関係性の深化が図られつつある。商店街振興組合の宗野専務理事は、今後も商店
街としては地域住民との間で face to face でのより親密な関係を強めたい、との意向
である。現在は、久留米市は農業が盛んなことから、地産地消の朝市を今秋実現に向け
て検討を重ねている。中長期的には、久留米大学病院をはじめ高度な医療サービスが可
能な施設が多い特徴を生かした医療や介護福祉をテーマとした活性化や、オンデマンド
交通・LRT(次世代型路面電車)などの移動手段導入による活性化などが地元で動き
出せば、商店街としての新たな展開も検討することになろう。
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けんぐん
(4)地域に親しみ・やさしさ・利便性を提供する健軍商店街(熊本県熊本市)
イ.商店街の概要
健軍商店街は、熊本市中心部から約6km、商店街 (図表 21)健軍商店街
の入口にある健軍町電停まで市電で約 25 分という
位置にある。市東部のベッドタウンの中核的な商店
街として、戦後、発展してきた。近隣には住宅とと
もに陸上自衛隊健軍駐屯地もある。
店舗数は 61 店。空き店舗は 98 年頃までなかった
が、郊外の商業施設との競合、人口減少・高齢化、
ライフスタイルの変化などから、一時は 15 店舗程
度になった。現状では後述の施策等もあり 10 店程
(備考)筆者撮影
度である。ちなみに、商圏の半径2km 圏内には小型の食品スーパー、ドラッグストア、
ホームセンター、ディスカウントストアなどが 20 店ほど出店している。
商圏人口は周囲4校区の3万人弱だが、ここ 10 年で約8%減少している。熊本市人
口統計資料(2011 年6月1日現在)によれば、65 歳以上の高齢人口比率は、商店街の
東側の若葉校区で 26.0%、西側の泉ケ丘校区で 26.4%(両校区で商圏人口の 41.1%)
と、市平均の 20.9%を上回り高齢化が進展している。若葉や泉ケ丘では戦後間もなく
からの居住者が多く比較的コミュニティは保たれているが、高齢化で買い物弱者が増え
ている。一方、商店街北側の北西方向の健軍と北東方向の健軍東の2校区(商圏人口の
58.9%)は、マンションや市営団地、UR都市機構などの賃貸住宅もあり、0∼14 歳
の子供の構成比が、健軍 14.5%、健軍東 19.2%と、市全体の 14.7%並みかそれ以上の
状況にある。高齢者とともに子育てに関するニーズ対応も必要性が高い。当商店街は、
アーケードやカラー舗装、街路灯、駐車場などハード面の整備だけでなく、環境変化に
み
わ
対応したソフト面の取組みで成果を上げている。商店街振興組合の釼羽理事長は、コン
セプトは誰もが不自由なく買い物ができる「やさしい街づくり」としている。
なお、商店街のポイントカードの換金において、熊本第一信用金庫、熊本信用金庫な
ど4金融機関の地元支店が協力している。
ロ.取組み施策と成果
(イ)宅配サービス「らくらくお買物宅配」
2001 年度に、熊本市商店街活性化特別支援事業の中のいきいきショッピング推進事
業として、「らくらくお買物宅配」を始めた。買い物した手荷物を 300 円(商店街が
200 円、顧客が 100 円を負担)で、タクシーが自宅まで宅配するとういうもの。
この事業は好評で、03 年度には高齢者お買物支援事業として地元の肥後タクシーに
事業を移管し、料金負担を商店街が 100 円の補助、買い物客が 200 円の合計 300 円とし
た。同タクシーが商店街の空き店舗に顧客が荷物を預ける「らくらくステーション」を
設置し、運営されている。利用の状況は、02 年度の 3,627 件から増加の一途をたどり、
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09 年度には 16,579 件、10 年度は若干減少したものの、16,520 件と高水準であった。
利用者は、「らくらくステーション」で買い物の荷物を預け、配達は1日に昼と夕方
の2回となっている。「らくらくステーション」は単なる集荷場所ではなく、高齢者等
が買い物ついでに会話をしたりお茶を飲むなど、交流の場ともなっている。
(ロ)ふるさとショップ「まちの駅」
顧客の地場産品の販売ニーズに対応して、05 年度から地場産品を扱う業者に商店街
が空き店舗を無料貸与していたが、熊本県商工会連合会が販路開拓を模索していたこと
から、07 年度に同連合会青年部に賃貸し、地元の野菜や惣菜など食品を中心に販売を
始めた。日商6万円の目標が、実際には 20 万円を達成したこともあり、現在でも 15
万円は下らないということである。
(ハ) ピアクレスキッチン
商店街に不可欠な食品分野だが、とりわけ高齢者が多く惣菜などのニーズにより手厚
く応える必要が大きかった。そこで、07 年度から3年間の「やりがいビジネス創造事
業」として空き店舗を利用し、地域住民から惣菜・パン・デザートなどを販売する1日
オーナーを募集して1日 1,000 円の出店料で実施し、45 団体の参加があった。現在は
曜日により決まった出店者(かつての出店経験者)が出店している。
宅配やまちの駅もそうだが、継続できる形で事業を創出して任せていくというスタイ
ルで、顧客ニーズ対応と創業支援、空き店舗対策を同時に行っているともいえる。
(ニ) 健軍まちなか図書館「よって館ね」
09 年 10 月に、健康・福祉・子育て等の情報提供 (図表 22)「よって館ね」の内部
のため、関連図書の貸し出し、血圧・体脂肪の測定、
健康・栄養相談、関連商品の展示、健康・福祉・子
育て用品のリユース、英会話・ソロバン・日本語・
パソコン・書道・押し花といった習い事などの場と
してオープンした。さらに今年6月からは、実験的
ながら小中学生を対象とした寺子屋を月2回程度
でスタートさせ、高齢者だけでなく子供、子育て世
代など幅広い地域住民のコミュニケーションの場
として利用されている。健康・医療については、04
(備考)筆者撮影
年の商店街MAPの作成時に近隣には病院・診療所が多く、これらを地域資源として認
識してMAPへの病院・薬局一覧の掲載や、商店街振興組合HPへの掲載も行っている。
ハ.今後の計画等
商品力だけで集客はなかなか難しく、地域・まちとしての機能を高める商店街の行動
が必要としている。そのひとつとして、地元のサッカーJ2「ロアッソ熊本」の関連情
報のデジタルサイネージ(電子看板)での提供や、「健軍カード」の買い物ポイントに
よるロアッソへの寄付などで、商店街利用とホームタウンとしての活性化を図る。
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おわりに
今後の商店街を取り巻く環境は、ますます厳しくなることが予想される。人口減少な
どは、たとえ手が打たれたとしても、簡単に方向性が変わるような問題ではない。
2050 年に予想される人口規模は昭和 30 年代後半、すなわち、高度経済成長期真っ只
中と同程度である。この時代には、各地の商店街には活気があった。地域機能が分散し
てしまった現在とは違い、中心市街地等の地域の中核となる場所に様々な機能が集積し、
商店街を含む地元住民が担うコミュニティ機能もしっかりとしていた。
もちろん、その当時とまったく同じ状況を作り出すということではないが、過度な車
移動への依存からの脱却、コミュニティ機能低下への対応、地域のアイデンティティ再
構築などを図りながら、子どもから高齢者までが安心・安全に居住できるコンパクトで
暮らしやすい地域への再生が望まれる。居住や地域内の様々な施設・機能が分散した状
況での人口減少や高齢者単独世帯の増加は、暮らしにくさをますます増大させよう。
そうしたことからも、地域内の商店街には、必要な商品・サービスの供給ということ
だけでなく、地域の公共財としてコミュニティ機能支援の核となることが期待されてい
る。事例にみる商店街は、いずれも個店には顧客の変化に対応する質の高い経営への努
力を厳しく求めつつ、商店街としては基盤である地域の様々なニーズに応えるという視
点で、地域住民との密接な関係性や住民の暮らしを重視し、課題解決に積極的に取り組
み、その結果として商店街活性化に成果を上げつつある。
また、①商店街振興組合の理事長など中核となるメンバーの強いリーダーシップ、②
変化に積極的に対応する行動力、③地域活動は単なるボランティアではなく商店街の売
上増加につながるものとする、④施策は助成金などを積極的に利用はするが自立し継続
的に実行できるものとする、という基本姿勢などが共通している。それぞれの事例の商
店街のリーダーは、商店街としてはもちろん、個店としての変化対応にも努力を惜しま
ない。コミュニティ機能の支援は、打上げ花火のような一過性のイベント、つまり目先
の対症療法ではなく、根本的な問題解決を念頭においた取組みである。一見、商店街の
個店への寄与には遠回りのようにもみえる。しかし、地域の状況を的確に把握して、商
店街にとっての根本的な問題を正しく認識し主体的に対応しなければ、商店街活性化に
はつながりにくい。急がば回れということであろう。
以 上
(藤津 勝一)
<参考文献>
・中小企業庁「平成 21 年度 商店街実態調査報告書」(2010 年3月)
・経済産業省「地域生活のインフラを支える流通のあり方研究会報告書」(2010 年5月)
・国土交通省「国土の長期展望」中間とりまとめ(2011 年2月)
本レポートのうち、意見にわたる部分は、執筆者個人の見解です。投資・施策実施等についてはご自身の
判断によってください。
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