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南極東ク ィーンモー ドラン ド前進拠点に
5011:106(観測技術) 南極東クィーンモードランド前進拠点に おける無人気象観測* 菊 地 時 夫** 牧 野 章 汎*** 要 旨 南極東クィーンモードランドに建設した前進拠点において,約8か月間の無人気象観測を行うため,半導 体メモリー(CMOS RAM)方式による長期気象記録計を製作した.記録計は風向,風速,気温,雪温を 時間毎に測定し,CMOS RAM(16kB)に記録する.電源にはリチウム電池を使用し,保温用に風力発電 機を用いた.約7か月後にデータを回収して調べたところ,全期間にわたって記録が行われていたが,正常 なデータは気温,風向が9割,風速が5割程度であった.CMOS RAMは一60。C以下の極寒の条件でも, 一度書き込まれたデータを保持しており,極地におけるこの方式の記録計の有効性を確認した. 1.はじめに 第26次南極地域観測隊は1985年2月,東クィーンモー ドランド雪氷観測計画(東,1981)の一環として74。 12,S,34。59/E,海抜3200mの高原上に前進拠点 を建設した (上田,1986;Kikuchi and Ageta,1987). 第1図にその位置を示す.前進拠点は第25次隊によって その位置を定められたが(F可ii6∫α1.,1986),長期観測 のための居住兼観測棟の建設は第26次隊に委ねられてい た.拠点建設のための内陸旅行隊は3月1日にみずほ基 30。E 40。E 昭和鋤 』二1・。。一、 窩1 ・,ぎのの1 あすか基地 ’ン:・、. 、、 藤麺,響謄鞍 i畿埋漕砺雌∼、 ∫70ケS 三幅’・…・前進拠点 ’\・一・・3goq’1∫ ..35◎O’ O 75。S ・ 地への帰途につぎ,10月の本旅行まで前進拠点は無人と 。。 ’㌦・㌣.. § なった.この無人期間の気象データを取るために長期気 ふじド ム 象記録計を製作し,現地に設置した. 20’E 2.長期気象記録計の製作 南極の厳しい条件下で使用できるデータロガーとして ’75’S ム∫ 第1図 30’E 40。E 50轡E 南極,東クィーンモードランドの地図.前 進拠点と日本の観測基地. は,ディジタルカセットに記録する方式のもの(勝田・ 寺井,1986)や,低消費電力の相補型酸化金属半導体 で下がると考えられる内陸高原では保温が不可欠とな (CMOS)集積回路(IC)メモリーを使うもの(Endo る.一方,CMOS ICの多くは一55。Cまで動作が保 8」α」.,1987)などが考えられる.前者は一20。C程度ま 証されており,部品を注意深く選ぶことにより,わずか でしか動作が保証されず,最低気温が一60。C以下にま *Unmanned weather observat玉ons at the Ad・ の保温で十分使用に耐えるデータ・ガーを構成すること ができる.この考えに添っていくつかのデータロガー・が vance Camp in East Qpeen Maud Land, 商品化されているが,特に風速測定の点で気象観測に適 Antarctica. した形のものは見当たらなかった. **Tokio Kikuchi,高知大学理学部. ***Akihiro Makino,㈱牧野応用測器研究所. そこで,新たに低温下で使える長期気象記録計を製作 一1987年7月23日受領一 一1987年9月28日受理一 1988年1月 することにした.記録計の主な仕様と要求される性能を 第1表に示す.特に,風向風速の測定については,一世界 39 南極東クィーソモードラソド前進拠点における無人気観測 40 第1表 長期気象記録計の仕様 データ収録項目およびセソサーの規格 項目 1. 風向 内容 10分間の最頻値 規格 センサー 抵抗式矢羽根風向計 (n/300を2で割る) 16方位(牧野,VR236) 2. 風向頻度 1.の頻度 3. 風速 10分間平均値 4. 最大風速 5. 気温 白金抵抗温度計 6. 雪温 白金抵抗温度計 7. 通し番号 RAMの0番号に記録された番号をデータ取得のたびに 電接式三杯風速計 0∼150 分解能O.1m/s(牧野,AC860) 『10分間の最大値 一60∼40。C,分解能0.1。C 一一60∼40。C,分解能0.1。C 増加する 測定周期 3時間 収録期間 約8か月 動作温度(下限) 約一500C 記録媒体 半導体メモリー(CMOS−RAM) 補助機能 RAMのチェックと初期化 データ転送(RS−232−Cによる) 気象機関(WMO)に定められた10分間平均をとること によりデータの代表性が確保されるようにした.記録方 0.1m/sで10ビットで表す.風向は16方位で計測す る. 式については前述のCMOS−RAMを使用するが,紙テ (3)気温,雪温の測定…白金抵抗温度計(0。Cで100 ープに針でパンチすることによりバックアップすること Ω)を使っているが,測定時のみ回路に通電するよ を考えた(実際には電源部の事故によりこの部分は使わ うにして,電力を節約する.A/Dコンバータには れず,有効性は確かめられなかった). 10ビットの物を使用しており,分解能は約0.1。Cで 第2図に記録計の構成図を示す.CMOS型の中央処 理装置(CPU)であるIC,80C85は,32.768kHzの (4)CMOS−RAMへのデータ書込…RAM内に記録 水晶発振器で働くタイマーにより3時間毎に電源が入れ されている番地情報をもとにデータを記録すべき番 ある. られる.CPUは読み出し専用メモリー(ROM)に書き 地を計算してその番地のメモリーにデータを書き込 込まれているプログラムに従って計測を行い,必要な演 む.1データは8バイト(1バイトは8ビット)で 算を行い,得られたデータをCMOS−RAMに書き込 構成されるが,計測データは10ビットで表されるた む.続いてデータをパンチしたあと,電源を切る.タイ め,1バイトに各データの上位2ビットをまとめて マーの動作とCMOS−RAMのデー・タ維持に必要な電流 入れるなどの工夫をしてメモリーの節約を図ってい は非常に少なくて済む.電源には低温での特性の良いリ る.RAMは16kBが用意されており,ほぼ255 チウム電池(松下電池)を使用した. 日分に相当する. 計測のプ貢グラムは以下のようになっている. (1)風速風向測定の開始…10分間の計測中も2秒毎の (5)テープパンチの駆動…CMOS−RAMのバツクア ップ用として準備した.CMOS−RAMに比べてデ データ取り込み時以外はCPUの動作を停止して電 ータの保存性に優れているが,読み取りには困難が 力消費を軽減する. 予想される. (2)平均風速,最多風向の計算…10分間の計測の後 (6)CPUの停止…3時間後にタイマー一によって電源 300個のデータから平均風速,最大風速,最多風 が入れられるまで動作を停止するため,自分自身の 向,同風向の発生頻度を計算する.風速の分解能は 電源を切る. 40 、天気”35.1. 41 南極東クィーンモードランド前進拠点における無人気観測 :一外タ回収・一一一一一・・…一…1 ;⋮⋮ip ■ 幽 加コンi ⋮⋮ 一 RS−232−C 三 ア労クー ●一一一●●一ウー一●一“一一劇,魯一一,一‘一一●}一■」,●一b,“● 長時間気象記録計 ︸コ )Ω) 気温 (Pt100Ω) インターフェイス ン固一ル CPU CBOSメモリー アルス )Ω)一 雪温 16kB ︶ ︶ 6 0 風向 データ (VR236) デーウ コントロール (AC860) 風速 昧 一 … i… +5V(BO) ⋮; 、 紙テづ ⋮⋮三⋮⋮⋮ +5V(B1) +6V(B2) 一6V(B3) ・ . . 一 ■ ・ 一 “ ■ 一 一 一 き 一………一硬用せず」……一…一…一・一一} i+12V(B4) , ρ 一 一 ・ 一 − 一 ・ 一 一 , ルチャー ⋮ii⋮⋮⋮⋮:⋮⋮⋮⋮⋮■ ……”…’…軸一”…’…i ⋮﹂ リチウム電池 ・峠一“一一帰』,,●■●,●●一●,一‘』“甲●{一■一一■一一帰“●■一●● 一一一一一P一齢一,,, ●』一一−一一一一一騨一一一●』一●一一目幌一一一,』r,■ 第2図 長期気象記録計の構成. この他,記録計には(a)RAMのチェックと初期 3.現地での設置状況 化,(b)計測データの転送を行う機能が備わっており, 前進拠点建設のための内陸旅行隊(5名,リーダ}: CPU電源を手動で入れる際スイッチ操作でそれぞれの 上田豊),は1985年1月26日にみずほ基地(70。42’S, 機能プ・グラムを実行する.デー・タの転送にはRS−232・C 44。20’E,高度2230m)を出発して,2月7日に目的 によるシリアル方式を用いてパーソナルコンピュータに の前進拠点建設地に着いた.翌8日から9日にかけて, 収録できるようにした.但し,記録計からの出力は使 断熱パネルを組み合わせた幅3.6m,奥行き7.2m,高 用する電源の関係で+5VとOVなので,パソコン さ2.7mの居住兼観測棟を建設した.内装などの作業 (EPSON,HC・40)の規格に合う様に土9Vに変換する 終了後,2月14日より記録計の設置に取り掛かった.前 アダプター・を用意した. 進拠点における気象記録計の設置状況を第2図及び写真 記録計の電源は5組のリチウム電池からなっている. 1,2に示す.風向計と風速計は高さ5mのポールの ディジタル用2系統(5V/22AH,5V/1.5AH)とア 上部に取り付け,温度計のひとつはステンレスの日除け ナ・グ用2系統(6V/1.5AH,一6V/1。5AH),及び の中に入れて高さ1.5mに取り付けた.また,もうひと パンチ用(12V21AH)の計5系統に分かれているが, つの温度計は深さ2cmの雪中に埋めた.風力発電機は 低温での電圧降下を予想してほぽ2倍の起電力の電池を ポールの風下約10mのところに設置した.居住棟内に 用意した. 記録計本体と電池をセットして計測テストを開始したの 記録計と電池は10cm厚さの発泡スチロールで断熱 は2月16日である. した木製の箱に入れた.また,風力発電機(0−200−TM テスト中にいくつかの不具合が生じた. 1−24V,大島製作所)を電気ヒー・ターにつなぎ,保温の (1)風力発電機の故障…(a)回転が遅かった.これ ための熱源とした.但し,過大電流による温めすぎを防 は発電機内の軸受けのグリースの低温による固化 ぐため,記録計に付けたサーモスタットにより一5。C以 で,軸受けを灯油で洗浄することにより解決した. 上で断熱箱の外側につけたヒーターに切り換えるように (b)回転部のスリップリングでの断線により電流 した. 1988年1月− が流れなかったが,発電機より直接配線することに 41 42 南極東クィーソモードランド前進拠点における無人気観測 風向計 風速計 ” 風力発電機 居住兼観測棟 保温箱 =。.㌦、.噸∵ −鄭ゐ 気温 電池 合 記録計 ..,“:む 雪温 第3図 第3図 写真1 記録計の設置状況の概略図. 風上から見た観測用ポールと風力発電機,前進拠点 建物.後方は幌そりとデポ. 写真2 室内に置かれた記録計.保温箱ははずして横に置い てある.手前下はハンドヘルド・コンピ三一タ. 写真1 写真2 より解決した.(c)矢羽根が強風で共振すること (3)データの欠落…パンチ部の動作している間にデー があった.これは設置時点までの間に事故により矢 タがパンチされているのにメモリーに書き込まれて 羽根が曲がっていたことによるものかも知れない いないことがあった.プログラムかハードウェアの が,特に対策はとれなかった. ミスと思われるが再現性が乏しいため対策できなか (2)電池のショートとパンチ部の故障…点検のため電 池をはずす際に誤ってショートさせ,その影響でパ った. 以上のように不完全な形ではあるが,滞在期限も迫っ ンチ部が動かなくなった.復旧を試みたが部品もな てぎたので2月27日15時(昭和基地標準時間,UT+3h) く諦めた. から計測を開始した.前進拠点を出発する3月1日には 42 黙天天”35。1. 南極東クィーンモードラソド前進拠点における無人気観測 43 第2表電池電圧の変化 名称 規格値 B O 5(V)22(AH) 7<V) B l 5 1.5 10 9 B2 B3 B4 6 1.5 10 9 −6 1.5 −10 −9 電圧(1985年2月) 12 21 εトパ\ ロ 1 \ 3(V) (使用せず) 中\∼\ ム 電圧(10月) o直irTemp. ▲Sno四Temp. ▲\▲ 、▲ ▲一▲ 、▲1 \▲ \ ム 0 \▲ 8 0 器 \ ← 一50 0 \ O、0 0 ノ ¥〇一〇 Da ta Number 208 216 224 232 240 T ime 3/25 15L、T /2615LT /27(18LT) /2815LT !2915LT 第4図 データ欠落前後の気温と雪温の記録. 記録されたデータを読み出してデータ回収の際に比較で きるようにした. まで落ちていたため,予備の電源装置で5Vを供給する ことにより,かろうじて回収することができた.記録の 最初に入っているデータは拠点を離れる前に読み出した 4.データの回収 ものと一致しており,温度低下や電圧降下によっても一 昭和基地とみずほ基地で越冬したのち,内陸旅行隊 度記録されたデータに変化はなかった.一旦コンピュー (8名,リーダー:上田)は10月14日に前進拠点を再訪 タに入ったデータはディジタルカセット端末(TAFCO, した.まず,風力発電機が壊れていることを発見した. TFC−153)を介してカセットテープに移して持ち帰っ 発電機は尾翼の付け根が破断してプロペラが脱落してお た. り,設置時にみられた共振現象によるものと推察され た.壊れた時期は特定できないが,壊れた部品の雪に埋 5.データの検討 まった状況から数か月は経過していると思われ,保温の データの検討の際にまず注意したのは3節の(3)に 電源を失った記録計は一60QC程度まで温度が下がって 書いたようなデータの欠落がないかという点である.2 いた可能性がある. 月と3月のデータは気温に日周変化が見られるため,こ 次に,居住棟を暖房して記録計を温めたあと,電池の れを追うことによりある程度欠落をチェックできる.第 電圧を測定した孝ころ第2表に示すように電圧の降下が 4図に3月25日03時(デー一タ番号204)から5日分の気 見られた.続いてコンピュータを接続してデータの回収 温と雪温をプロットした.3月27日までは15時に日最高 を試みたが,CPUとシリアル出力の電源電圧が3Vに 気温が現われているのに対して,28日からは12時に現わ 1988年1月 43 44 南極東クィ1ンモ白ドラシド前進拠点における無人気観測 一30 1 , ● 1 ● ’, l I ● , , 1 , l l 1 , 1 1 ● l I , ハ ρ ) ①一40 l I ユ 蔀 ←一50 I , 1 ● 1 ● ■ , l l I 1 臨 1 ● 1 , 1 , ● , ● ● ■ ■ , 1 0 1 , , , ..● ・ .,一・『一 ●・●●・●,.●・ お 楚 お ‘ l I I l 噺 o , ・pr■暢●●●・.・....・■.●・}.■』. 3 1 ● 1 ● 一 ■ 1 ■ ■ 曹 , ● 9 1 , , 一 ・.甲.●o ・ .・.[・・・・… ●“o・P 一一 1 , ● l I ● 1 1 , 1 ・甲・・●躰■・.・一..・・⇔.『.・一・,o 一静,一●一・,「 l l 婁 電 1 富 r・ 1 1 1 1 , , , ヨ 幽 1 量 , 、 ㌻. ・、 I 1 J.軸 一・一・一一.一. 一 一・ ・ 臼 一. 一・・ 噛.・ ●暫暫 .』 《 ● 1 1 , 1 , 1 ■ 5 1 1 一60 ぎ , I f●.… .・●・,・・,.・齢・「一・.・・●・・ 1 1 ‘ , ’1 , 岩 S 8 .』 E 1 , l l , 1 1 曾 1 量 ● I l 1 ・一.・.… F・・●, ● l I o の コ じ ヨ i, li’ 1 ∠i・.・f」ギニl l : ””T’…1’”’『””こ壽プ1”’T’…“”…丁皿’” .・・,P・.「ド・・.●.,.・・ ● 1 _ 幌 ら“3^,! 1 . _.1 _ 電 豊 書 r・●..●●・・●.,””q.r一”””・.一”””・,1”一”・”畠“の●}・●帥■1軸”・・”・・”””.6・1騨”””一一・.””r.””””””.””γ・髄■”帥一””一γ一一一軸・一 , 暫 『 暫 電 1 。 o I 、 .一 一 ● ●o I l I l I o l 三 N ロ コ 1 1 1 1 臨 I I l I I t f Oり ・.,・一一 一軸・「 ・ , I 『 .し ・ .一・r ・・ 一帰・ .,,.一… 一一一q・ .・ 1 ・, 一・一 ・ 、 一 り 1 l l I l I 1 , 1 l 量 壷 , , 1 , I l 曽 1 1 r,・.一.・・.●・.●… 一・㌦一・“}軸・一価一。.・一軸,』一“r・一一・..一・...一.再・齢.㍉・… ..一・・●畠・曹.・●.・f.●… ●庸・・..… り,・、一・・一.畢..,・●.,・.・●桝1..一●・.p b.・・..り・.・、.… 一一一一一 1 1 1 l l I …… ‘ 1 , 1 , . , , ● ● 1 , 1 0 1 , 1 , , 1 , 1 電 ● l l , l l I I 1 』 l l I l l l l I l , ・ じ ● 豊 I l I l I l l , 0 1 , ( の ε 富 し 1 1 , 皐 ■ , ヨ ロ ・ . I l l , , 『 階 !810 a l .,■1 I I I l l l 1 ■ l I I 息 3 , 豊 ● 1 0 , I l l l , 第5図 1 1 1 1 ’I l I l ・1 G ぱ 1 , ■ ■ 1 1 ● , ロ も ヨ , l 尊 I l , 口 の ℃ 1 , , , 11 1 I l 1 , 1 1 1 l l γ :㌃ 鴛 0 1 魂 1 書 MAR APR 14ハY JUN JUL AUG SEP OCT 無人記録計による全期間の気温,風向,風速の記録. データの点を線で結んでいない部分は記 録に間題があったことを示す. れている.これ以降の日周変化も同様であり,27日から る.この128個のデータは,ちようど1組のRAM 28日にかけてデータの欠落が生じたことがわかる.これ 以上のことはデータのプロットからはわからないが,2 IC(4bit×1024のIC2個で1kBを構成する)に 相当する.常温ではRAMチェックプログラムに 月のテスト中にはデータ番号が32番,48番などの2進数 よっても異常は発見されなかったが,低温のために で切れのよい番号のところで欠落が生じていた.そこで 異常が生じたものと思われる. この付近で一番切れのよい224番(16進数でEO)のと (2)6月の後半より後の風速データでは,平均風速が ころで欠落が生じたものと推定した.その後の部分では 最大風速に比べて極端に小さくなっている場合が多 日周変化がなくなるため,この方法でのチェックはでき い.みずほ基地のデータ(Kikuchi8♂α」.,1986)と ないが,最後の部分のデータを再訪時の手動気象観測と 比べても平均風速は小さくなっており,風速測定に 比較することによリデータの欠落は前にあげた1箇所だ 間題が生じたことがわかる.風速計が電気接点方式 けであることが確認された. をとっていることから,間欠的な接触の検知ミスが 以上の他に,低温と電圧低下が原因と見られるデータ あったものと思われる.10月15目に居住棟を暖房し の明らかな誤りが見つかった(データの詳細については てからは正常な値に戻っていたことから考えると, Kikuchi and Ageta,1987を参照). 風速計の発信部に原因があるのではなく,低温によ (1)データ番号1278から1405の範囲では番号が250, る入力部トランジスタの作動不良など,電子回路に 250,0,0,…のように誤って記録されていた.この 期間(8月6日∼22日)の風速や気温もランダムに 変化しており,記録に異常があったことを示してい 44 原因があったのであろう. (3)温度の最低値を一一60。C (実際には現地較正の外 挿によると一62.6。C)に設定していたため,それ 、天気”35.1. 南極東クィーンモードランド前進拠点における無人気観測 45 0 15 じ し ロ ヨ ロ じ ロ し じ 3≧10 ほ じ じ こ ロ ロ じ ヨ l l l I ’ 1 ’ l l l コ コ ほ ヨ ロ じ じ じ l l l l l l l l 一 , } 1 ぜ ロ ロ ロ ほ ロ ロ じ じ ”{一皿…・・1一・一一・・{・一一一’一一 ・…卜一・一一一イー一一…・卜一・・一…{一。・一一・十一・・一一・,一一一一イー一 ・・一 , 1 豊 ● 書 , o 尋 1 1 0 1 1 , 書 r , 9 1 1 1 1 1 r . . 9 1 1 0 専 1 , , ・ 曹 1 , , ■ 書 0 1 , ) I O I l l 3 1 5 > 0 1 重 1 , 1 匹 一 ・ } I O l l l , 量 1 尋 , 1 ”『・・”・・..・・P・.。.■一”r●.””・b・r一..・一.・。・.r・・.・.傳・.●r●.・.”.・・.r・師 一り,●,●一・.。.q●r。●,●.,●。.?●”一一“●r.・.・.・・輔・ , 5 0 1 ・ 1 3 じ , I l , ・ 1 , 0 ・ 1 1 1 , 1 , , l O . D , ・ 1 ・ I l I o の 1 9 , l I 匪 曾 , O o ・ 1 g o , , 1 ● , I l o . 1 ・ 豊 I l , , I o , ・ 9 1 1 1 1 . , l l . 1 , , ・ , . 1 JRNFEBmRRPRmYJUNJULRUGSEPOCTNOVDEC 第6図 有人期間の観測をあわせた月平均の気温, △…昭和基地,いずれも1985年) 風速の記録,(○…前進拠点,X…みずほ基地, 以下に下がったときの気温,雪温の測定はできなか 24。08’E,海抜930m)に設置した同様の方式による った. 記録計のデータとの比較より,低気圧性擾乱の進入につ いて明らかにした.東クィーンモードランド高原域にお 6.結 語 ける気象,気候区分の間題については別に論ずる予定で 第5図に長期気象記録計のとった気温,風速の全デー ある. タを示す.但し,データにミスのある部分は線でつなが 世界気候研究計画(WCRP)の副計画である南極気候 ずに点のままにしてある.以上のように一部にデータの 研究(ACR)に関連して各国で無人気象観測の計画が実 ミスがあったものの,全体としては気温と風向で9割, 行されている.その主流は衛星によるデータ収集である 風速で5割程度の正常な記録を取得することに成功し が(例:Steams and Weidner,1986)経常経費がかな た. りかかることが欠点である.1年に一度程度訪れること 第6図に有人観測期間を含めた気温と風速の月平均値 ができて行動計画上は余り重要性がないようなところ をみずほ基地,昭和基地での値と比較して示した.図か (従って実時間でのデータを必要としないところ)では, らわかるように,みずほ基地と前進拠点の相関はかなり ここで扱っているような記録方式にも利用価値がある. よい.みずほ基地は昭和基地から約250km,みずほと前 第28次隊ではこの長期気象記録計を改良して無人とな 進拠点の間は約500kmで後者のほうが遠いのに相関が ったみずほ基地に持ち込み,他の方式の記録計(勝田・ よい.これは南極の気候区分が主に海抜高度で決まって 寺井,1986他)と共に1年間のデータ収集試験を行って いる(Dalrymple,1967)ことに関連している.また, いる.主な改良点は次の通りである. Endoh8」α」.,(1987)はあすか観測拠点(71。32,S, (1)風速計を発電方式のものに代えて電接方式にみら 1988年1月 45 46 南極東クィーソモードラソド前進拠点における無人気観測 れた低温での障害を避ける. M.J.,Am.Geophys.un五〇n,195−231. (2)データの圧縮性を高め16kBのままで1年分のデ Endoh,T.,G.Wakahama,S.Kawaguchi,M. ータが取れるようにする. (3)電池の接続にコネクターを使用して,短絡などの Sano and T.Kikuchi,1987:Tdal operation of a simple automatic weather station at Asuka Camp.,Antarctica.Proc.NIPR Symp. 事故を防ぐ. , . Polar Meteorol.Glaciol.,1.103−112. また,みずほ基地は前進拠点よりも10。Cほど気 F雨ii,Y.,K.Kawada,M.Yoshida and S. 温が高いので,風力発電機での保温をやめて,雪中 に埋まった基地建物の保温性にまかせている.第29 l Matsu憩oto・1986:Glaci・1・gica1「esearchpr・・ gram m East Qμeen Maud Land,East l Antarctica,Part4, 1984.JARE Data Rep., 次隊との交代のとぎ(1988年1月)にデータは向収一 一』・ 116,(Glaciol.13),71P. される予定である. ’ , 東 晃1981:南極東クィーンモードランド雪氷研 究計画について.雪氷,43,129−130. 勝田豊・寺井啓1986:南極用低消費電力デー 謝 辞 タ収録器の開発.南極資料,.30,175−188・ 風力発電機に関しては,湯浅電池(株)の松本完氏に Kikuchi,T・and Y.Ageta1987:Glaciological 御世話になった.現地での設置にあたっては国立極地研 research program in East Qμeen Maud Land, の吉田治郎隊員を始め,内陸旅行隊全員の協力を得た. East Antarctica,Part6,Advance Camp,1985. JARE Data Rep.,129,(Glacio1.15),104P. ここに記して,謝意を表します. Kikuchi,T.,T.Shimamoto,F.Okuhira and 文.献 上田 豊1986:内陸ドームから,あすか拠点へ. 極地,43,28−33. Dalrymple,P。C.1966:A physical climatology of the Antarctic Plateau.StudiesinAntarctic Me− Y.Ageta1986:Meteorological Data at Mizuho station,Antarctic4in1985.JARE Data Rep., 120,(Meteoro1.19)78P. Steams,C.R.and G.A.Weidner1985:Antarctic auto血atic weather stations,austral summer 1984−1985.Antarc。J.u.s.,20,189−191. teorology,Antarct・ Res. Ser。,9,ed by Rubin, Polar Ozone Workshopのお知らせ 極域オゾンの変動に対する観測及び理論の最近の知見 記 をまとめるため,右記によって国際研究集会が計画され 日時:1988年5月9∼13目 ております.興味のある方は連絡次第英文案内書をお送 場所:米国コロラド州アスペン りします。 アブストラクト〆切:1988年2月28日 照介先:気象研究所 忠鉢 繁 0298−51−7111 (内線348) 科学技術総合シンポジウム開催のお知らせ 日時:昭和63年3月16日(水)∼18日(金) (千代田区大手町1−9−5,TEL O3−270−0251) ところ:日経ホール 主催:科学技術庁 46 、天気”35.1.