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朱鞠内湖におけるワカサギの成熟齢および体サイズ
Title Author(s) Citation Issue Date 朱鞠内湖におけるワカサギの成熟齢および体サイズ 玉手, 剛 北海道大学 演習林研究報告 = RESEARCH BULLETIN OF THE HOKKAIDO UNIVERSITY FORESTS, 59(2): 99-102 2002-09 DOI Doc URL http://hdl.handle.net/2115/21479 Right Type bulletin Additional Information File Information 59(2)_P99-102.pdf Instructions for use Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP 北海道大学演習林研究報告第 5 9巻 第 2号 9 9 1 0 2( 2 0 0 2 ) 99 朱鞠内湖におけるワカサギの成熟齢 および体サイズ 王子 剛l Ageands i z ea tmaturityo fJapaneses m e l t (Hypomesus nShumarinaiLake,n o r t h e r nHokkaido,Japan nipponensis) i by T s u y o s h iTAMATE 1 要 旨 2 0 0 0年 2 月及び 2 0 0 1年3月に,朱鞠内湖のワカサギ (Hypomesusn i p p o n e n s i s ) を穴釣りによって採集し, 0 0 0 年は 8 7 個体が採集され,そのうち 8 2個体 ( 9 4 . 3 % ) が2 年魚 0+ 魚)であっ 成熟齢及び体サイズを調べた。 2 年魚 (0+ 魚)及び3 年魚 (2+ 魚)は,それぞれ 2 個体 ( 2 . 3 % )及び3 個体 ( 3.4%)のみであった。また, た 。 1 tS . D . )は , 0+ 魚で 6 1 .5 : t3 . 5,1+ 魚 は 7 5 . 8: t4 . 0,2+ 魚では 9 3 . 3土4 . 9であった。 2 0 0 1 齢別の平均全長 (mm: 年の全サンプル 1 1 3 個体中,1+魚及び 2+ 魚は,それぞれ 7 1個体 ( 6 2 . 8 % ) 及び4 2個体 ( 3 7 . 2 % ) であり,齢 3 . 0土 4 . 5, 2+ 魚では 8 9 . 3土 4 . 8であった。両年のサンプルにおいて 0+ 魚は未成熟 別の平均全長は, 1+魚で 8 であったが,1+魚及び 2+ 魚の雌雄全てにおいて生殖腺が発達しており,サンプリング年の春に繁殖に参加 すると考えられた。したがって,朱鞠内産ワカサギにおいて主な初成熟年齢は1+であり, 2+ 魚は 2 回目の繁 殖にむかう群であることが示唆された。また,ワカサギは冬期間ほとんど成長しないと考えられていることか ら,本研究おける 2 年魚及び3 年魚の体サイズは繁殖時(春期)の体サイズをそのまま反映すると推察した。 キーワード:ワカサギ,朱鞠内湖,成熟年齢,成熟体サイズ 2 0 0 2 年 3月1 2日受理. ReceivedMarch1 2 .2 0 0 2 北海道大学大学院農学研究科環境資源学専攻. ( 〒0 6 0 8 5 8 9札幌市北区北 9条西 9丁目〕 G r a d u a t eS c h o o lo fA g r i c u l t u r e .HokkaidoU n i v e r s i t y .K i t a9N i s h i9 .kitaku.Sapporo0 6 0 8 5 8 9 .Japan 北 海 道 大 学 演 習 林 研 究 報 告 第5 9 巻 第2 号 1 0 0 (Kolmogorov-Smirnovt e s tにより判断した)と等分 1.はじめに 北海道北部に位置する朱鞠内湖は発電を目的とし 散 ( L e v e n e ' st e s tにより判断した)が仮定できたので, 943年満水完了)でありへそ て建てられた人造湖 0 ( S t u d e nt "s )t t e s tを用いた。 の周囲の大半は北海道大学北方生物園フィーノレド科学 センタ 一雨龍研究林に囲まれている。朱鞠内湖に生息 3 . 結果と考察 するワカサギ (Hypomesusn i p p o n e n s i s ) は北海道 源として 1 9 4 3 4 4年及び 1 9 4 9年に網走湖から移植した 0 0 年における 8 7 個体の平均全長 (mm: tS . D . ) は, 7 6 . 0土 5 . 6で あ っ た 。 全 8 7個 体 の う ち . 8 2個 体 ( 9 4 . 3 % ) が2 年魚 0+ 魚)であり . 1 年魚 ( 0+ 魚) と3 年魚 ( 2+ 魚)は,それぞれ 2 個体 ( 2 . 3 % ) 及び 3 ものでありヘ 個体 ( 3.4%)見られただけであった(図 l -A)。 齢別 水産緋化場(現独立行政法人さけ ・ます資源管理セン ター及ひ♂北海道立水産瞬化場の前身)が内水面漁業資 ワカサギの他に本湖にはサクラ 7 ス ( Oncorhynchu s masou). ア メ 7 ス ( S a l v e l i n u s e r r yj ) と L、ったサケ科 l e u c o m a e n i s )• イトウ (Hucho p 魚類や, コイ ( C y p r i nu sc a r p i o ) . フナ ( C a r a s s i u s T r i b o l o d o nh a k o n e n s i s ) なとが a u r a t u s ) . ウグイ ( 生息している の 。 の平均全長(士 S . D . ) は. 0+ 魚で 6 1 .5: t3 . 5.1+ 魚は 7 5 . 8: t4 . 0 . 2+ 魚では 9 3 . 3: t4 . 9であった。 性別 は. 0+ 魚においては生殖腺が発達しておらず不明で あった。 1+魚及び 2+ 魚の全ての個体は,雌雄とも 生殖腺が大きく発達しており,当年に繁殖に参加する ワカサギは主に動物プランクトンを捕食する ) 1 , 3 )。 制 成熟;魚と判断された。最小成熟サイズは 6 6m m 0+ その一方で,朱鞠内湖ではワカサギはサケ科魚類(湖 魚,オス〕であり,これ以上のサイズの個体は全て 内生活期)の主要な餌生物であると推察される。した 成熟していた。 1 + 魚8 2個体のうち 5 0個体 ( 61 .0%) がって,本湖生態系の食物連鎖においてワカサギは重 がオスであったが,性比に偏りはなかった ( b i n o m i a l 要な役割を果たしていると恩われ,本種の基礎的な生 . 0 6 0 )0 2+ 魚3 個体のうち. 2 個体がメス t e s t,P = 0 物学的知見が必要である。また ,朱鞠内湖では他地域 同様,ワカサギは内水面漁業及ひ 遊漁の対象種である 5 0 F ことから,生態学的見地に基づいた適正管理法の確立 3 0 握するためには,基本的な生活史の情報は不可欠だが, 朱鞠内湖のワカサギに関しては食性に関する調査が行 2 0 われてきたに過ぎな L、 川 。そこで本研究では基本的 童 話 する 。 士 重 1 0 。 恩 2.材料と方法 B )2 0 0 1年 2 月2 9日 サンプリングは 2 0 0 0年 ( 0 0年) 2 月2 9日及び 2 0 01 年 ( 0 1年) 3 月1 2日に,穴釣りによって行った。両年 とも釣り場の水深は 1 .5-3mの浅場であった。釣り 針は秋田狐の 2 号,餌は紅サシを両年とも使用した。 0 0年は 8 7個体. 0 1年は 1 1 3個体釣獲された。サンプノレ は5%中性ホノレマリンに約 2ヶ月間保存した後,全長 (mm). 体重 ( g ) を測定した。年齢査定のため,背 鰭基底後端下における側線付近の鱗を 5%水酸化ナト リウム溶液で洗浄した後,実体顕微鏡下で休止帯を数 えた。また,生殖腺を直接観察することで性や成熟度 を判断した。サンプノレの性比の偏りは. b i n omi a lt e s t ( 二項検定)によって調べた。性問および年度聞にお ける全長の平均値比較には, 即 月2 9日 4 0 が本湖漁業共同組合から望まれている。資源動態を把 な生活史形質である成熟齢及び体サイス前について報告 r A )2 0 0 デ ー タの正規性 4 0 3 0 2 0 1 0 。 5 0 6 0 7 0 8 0 9 0 全長 ( m m) 図 1 朱鞠内湖において釣獲されたワカサギの体長 分布 +魚 , 白棒,灰色棒および黒棒は,それぞれ 0 1 +魚および 2 +魚を表す。 朱鞠内湖におけるワカサギの成熟齢および体サイズ(玉手) 1 0 1 であった。 1+ 魚において,平均全長に性差はなかっ イズと初成熟年齢に関してはあくまで推測の域を出な た ( t t e s t,P = 0. 49 3 ) 0 2+ 魚の性別平均全長(土 S . D . ) は,オスが 9 9m m ( 1個体),メスで 9 0 . 5: t2 . 3 のより詳細な調査が必要であろう。本研究において, ( 2個体)であった。 1+魚の雌雄全てが成熟していたことから, 2+ 魚は 0 1年の 1 1 3個体の平均全長(:tS . D . )は , 8 5 . 3土 5 . 6であった。全 1 1 3個体の齢構成は 1+ 魚が 62.8% ( 7 1固体), 2+ 魚は 3 7.2% ( 4 2個体)であり, 0+ 魚 は見られなかった(図 1 B )。齢別平均全長は1+魚 で8 3 . 0土4ふ 2+ 魚では 8 9 . 3: t4 . 8であった。 0 0年と 同じく,1+魚及び 2+ 魚の全てが成熟個体であった。 い。それらの正確な把握には,小型個体,特に 0+ 魚 少なくても 2 回目の繁殖に向かう群であると推察され る。一般にワカサギは 0+ 成熟し,繁殖後死亡すると 言われているが5) 多数回繁殖型のワカサギは網走湖 でも報告されている九本研究のサンプルでは 2 十魚 の割合は両年で大きく異なっていたので,1+成熟後 の生残はかなりの年変動があると考えられる。また, 1m m (1+魚,メス)であった。 最小成熟サイズは 7 ワカサギは冬季間ほとんど成長せず7)朱鞠内湖にお 1+魚 7 1個体のうち, 5 6.3% ( 4 0個体)がオスであっ いては融雪増水終了期に繁殖が始まることから,本研 たが,性比に偏りは認められなかった ( b i n o m i a l 究の成熟個体のサイズはそのまま繁殖時期におけるサ t e s t,P = 0 . 3 4 2 )。それに対して 2+ 魚では, 69.0% ( 2 9個体)がオスであり,有意にオスに偏っていた イズ(成熟サイズ)を表すと思われる。 ( b i n o m i a lt e s t,P = 0 . 0 21 )01 +魚において,平均 謝辞 全長は有意にオスが大きかったが(オス, 8 4 . 2土3 . 6; 朱鞠内湖淡水漁業協同組合には,標本採集に便宜を メス, 8 1 .4: t5 . 2 ;t t e s t,P = 0 . 0 0 9 ), 2+ 魚では 図っていただいた。北海道大学農学部の鈴木彩子氏 性差はなかった ( ι t e s t,P = 0 . 2 1 7 ) 0 (現所属:新日本製織株式会社)には,サンプル測定 全サンプルにおいて両年間で平均全長を比較した の際にご協力をいただいた。北海道大学北方生物園フィ一 場合,有意に 0 1年の方が大きかった ( t t e s t,P < ルド科学センターの前川光司教授と山本俊昭博士には, 0 . 0 01 )01+ 魚の比較においても, 0 1年の方が有意に 本論文に関して貴重なご意見をいただいた。ここに感 大きかった ( t t e s t,P < 0 . 0 01 )02+ 魚においては 謝の意を表する。 0 0年の捕獲数が 3個体と著しく少ないため Mann- Whiteny U t e s tによって検定を行った。その結果, . 1 3 2 )。 年度聞の差は認められなかった (P= 0 一般にワカサギの初成熟年齢は 0+ と言われてい 年目(1十)に初めて るが 5) 例えば網走湖では生活 2 成熟する群も出現する九成熟するには,その前年秋 参考文献 1)長内 稔(19 6 0 ):雨龍人工湖に於けるワカサギの 食性について(予報),水産購化場研究報告 1 5, 5 7 6 2 6 2 ):陸封型サクラマスの生態調査1. 2 )長 内 稔 ( 19 まで被鱗体長 60-70m mに成長する必要があるので, 雨龍人工湖の湖況の遷移と湖産サクラマスの食性に その臨界サイズにまで達しなかった個体は翌春繁殖し ない"非成熟群"になる九本研究において,成熟個体 ついて,水産癖化場研究報告 1 7,2 1 2 9 2 0 0 0 ):網走湖産ワカサ 3 ) 北海道立網走水産試験場 ( の最小サイズ(全長)は 6 6m mであり,それより小 7pp,北海道立網走水産試験場 ギの生態と資源, 4 さな 0+ 魚は未成熟, 6 6m m 以上の個体(1+と 2+ 4 )長内 稔(1961 ):雨龍人工湖に於けるワカサギの 魚)は全て成熟していた。また,サンプル中 0+ 魚 食性について(II),水産卵字化場研究報告 1 6,4 5 4 7 は最も少なかったが(両年の全採集個体 2 0 0尾中 2 尾が 5 ) 北海道立水産試験場研究員(19 91 ):北のさかなた 0+ 魚であった),これは"釣り"という捕獲方法の特 性から,相対的に小型の個体,つまり多くの 0+ 魚は 6 ) 字 藤 均 ( 19 8 8 ):ワカサギの生態と漁業,陸水学 釣獲され難かったと考えられる。したがって,生活 1 ち , 4 1 5 p p,北日本海洋センター 年目では釣獲可能かっ成熟の臨界サイズ ( 7 0m m付 雑誌4 9,2 9 6 2 9 9 9 9 ):網走湖産ワカサギの生活史多型 7 ) 鳥 津 雅 ( 19 近)まで達する個体は非常に少なく,生活 2 年目でほ 分岐と資源変動機構,北海道立水産試験場研究報告 とんどの個体がそのサイズを超え初成熟を迎えるのか 5 6,1 1 1 7 もしれない。しかしながら,本研究では小型個体(孟 7 0mm) のサンプル数が少ないため,成熟の臨界サ 1 0 2 北海道大学演習林研究報告第 5 9 巻 第2 号 Summary I nS h u m a r i n a iLake, n o r t l 悶 nH okkaido, J a p a n, J a p a n e s es m e l t s (砂' P omesusn i p p o n e n s i s ) wereca 昭h tbya n g l i n g onF e b r u a r y29,2000andMarch 1 2,2001, andt h e i rageands i z 沼a tm a t u r i t yweree x a m i n e d .Of8 7i n d i v i d u a l sc o l l e c t e d i n2000, 94. 3% (N= 82) werecomposedofthetwo-yearl i f es p 組 自s h( I+ f i s h ) .Underyωrlingf i s h( 0+ f i s h )and 曲r e e y e a rl i 免s p a nf i s h( 2+ f i s h )wereo n l y2 . 3% (N= 2 ) and3 . 4% (N= 3 ), r e s p e c t i v e l y .Th em捌 t o 凶 l e n g 曲 “ (mm士S . D . )i n c r e 泡s e dw i t ha g e , 0+,1+ 姐d2+fishbeing61 .5 : : ! : : 3 . 5,7 5 . 8 : : ! : : 4 . 0and9 3. 3: : ! : : 4 . 9, r e s p e c vely.Of1 1 3 f i s hc a p t u r e di n2001,6 2 . 8 % (N = 71 ) and3 7 . 2 % (N = 4 2 )c o n s i s t e dof1+加d2+ f i s h ,r e s p e c t i v e l y .Th e meant o t a ll e n g t hof1+ 組d2+ fishwere83.0::!::4. 5and89. 3: : ! : : 4 . 8, r e s p e c t i v e l y .I nbo白 y e a r s, a l l 1+ 組d2+fish i s hwereno t .Th e r e f o r e,Shum 釘i n a iJ a p a n e s es m e l t smayf r n t l ym a t u r ea t wered e t e r m i n e da ss e x u a l l ym a t u r eb u t0+f I+ s p 血1 9 )b e c a u s ea l lsampled 1+ J a p a n e s es m e l t sr e a c h e dt h e a g e1+.2+ f i s hs h o u l dhaveb r e di np r e v i o u ss p r i n g( ma 旬r a t i o n .百l et o t a ll e n g t h sofs e x u a l l ym a t u r ef i s h( I+組d 2+ f i s h )i n出i ss t u d yseemt or e t 1 e c t血el e n g t h sa t 旬r i t y (May-J u n e )b e c a u s eJ a p a n e s es m e l t su s 田 l l ydon o tgrowi nw i n t e r . ma Keywords: J a p a n e s es m e l t ,ShumarinaiLake,agea tm a t u r i t y ,s i z ea tm a t u r i t y