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No.34 (2003年10月)

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No.34 (2003年10月)
ISSN
1345–7063
http://www.stelab.nagoya-u.ac.jp/
October 2003
No. 34
電波星のまたたきから太陽風を予報
徳丸 宗利(太陽圏環境部門)
はじめに
き”現象(シンチレーション)であると結論しま
宇宙から電波がやって来ることに人類が気づい
した。夜空の星をながめるとチカチカとまたたい
たのは、今から約 70 年前のこと。その宇宙電波に
て見えますが、これと同様なことが電波星にも起
は、雲のように広がった方向から来るものもあれ
きていたのです。目で見る星の“またたき”は地
ば、星のように点に見える方向から到来するもの
球大気の揺らぎによって生じますが、電波星の
もあります。後者のことを、電波星と呼びます。
“またたき”現象は太陽から吹き出す電離したガ
但し、電波星の正体は必ずしも 1 個の星ではな
ス(プラズマ)の流れが原因です(図 1 参照)。こ
く、遙か遠くにある星の集まり(銀河)だったり
のガス流を太陽風と呼びます。
します。さて、1950 年代に英国の A. Hewish 博士
本稿では、太陽地球環境研究所で行っている電
らは電波星の観測を行っていたところ、電波星の
波星の“またたき”現象(電波星シンチレーショ
信号の強さが短時間で激しく変化することを発見
ン)の観測から、地球へ到来する太陽風を予報す
しました。その強度は、電波星の方向が太陽に近
る研究について紹介します。
づくにつれて増加し、遠ざかるにつれて減少して
太陽風と宇宙天気
いました。このことからHewish 博士らは、観測さ
太陽系の惑星と惑星の間(惑星間空間)は、物
れる強度変化が電波星自体によるものではなく、
質が何も存在しないように見えますが、真空では
太陽の近傍を電波が通過する際に生じる“またた
なく、太陽風のプラズマで満たされています。太
陽風の流速は、非常に速く、毎秒 300 − 700 km。
太陽風中の音速は地球付近で毎秒 50 km ぐらいで
すから、太陽風は超音速の流れです。また、太陽
風は変動に富んでいることも特徴です。人工衛星
で観測される太陽風のデータを見ると、その流速
や密度は絶えず変化しているのが分かります。時
には太陽表面で発生した爆発現象によって毎秒
1000 km 以上の暴風が発生し、惑星間空間を駆け
抜けてゆくこともあります。
超音速の太陽風は地球にも容赦なく吹き付けて
いるのですが、地球の磁場がバリアーの役目をす
図1
るので、太陽風が地球の大気と直接ぶつかり合う
星のまたたき現象と電波星のまたたき現象
ことはありません。地球周辺の宇宙空間には、地
1
電波星シンチレーションによる太陽風観測
球磁場で守られた領域ができているのです。しか
し、その領域も完全に太陽風の変動から遮断され
電波星シンチレーションは、地上から太陽風を
ておらず、太陽風の息遣いを反映して状態は時々
探ることのできる便利な手段として研究に使われ
刻々変わっています。もし先に述べたような太陽
てきました。例えば、複数のアンテナで電波星シ
風の暴風に地球が出くわすと、地球周辺の宇宙に
ンチレーションを観測すれば、電波星の方向を横
激しい擾乱(空間の状態が激しく乱れること)が
切って流れる太陽風の流速を求めることができま
発生することもあります。
す。また、シンチレーションの大きさから、電波
この擾乱に、最近、社会的な関心が寄せられて
星の方向に沿った太陽風の濃さに関する情報を得
います。それは、宇宙の擾乱によって気象衛星や
ることもできます。 当 研 究 所 では、 国 内 4 ヶ所
放 送 衛 星 などに障 害 が発 生 したり、 カーナビ
(富士、菅平、木曽、豊川)に大型アンテナを設
(GPS 衛星による)の精度が悪くなったりするか
置して、電波星シンチレーションによる太陽風の
らです。これらの人工衛星によるサービスは、今
観測を実施しています。この観測は、雪でアンテ
の私たちの生活にとって無くてはならないもので
ナが駆動できない冬期間を除いて、毎日連続して
あり、私たちはもう地球周辺の宇宙の状態に無関
行われています。
心ではいられません(宇宙は私たちの生活圏の一
しかし、今は人工衛星が太陽風を常時観測して
部なのです)。宇宙擾乱の影響は、人工衛星によ
いるので、電波星シンチレーション法のように間
るサービスだけでなく、地上の電力線設備や海底
接的な測定をしなくてもいいように思われがちで
ケーブルにも及びます。実際に大規模な停電事故
す。実は、電波星シンチレーションによる太陽風
が起きたこともあります。
の観測は、人工衛星にはない優れた点がいくつか
私たちの生活を脅かしかねない宇宙の擾乱に対
あって、太陽風の研究において未だに重宝がられ
して、地上の天気のように予報できないかと考え
ているのです。特に宇宙天気の予報という観点か
るのは当然のこと。最近では、地球周辺の宇宙の
ら、電波星シンチレーションによる太陽風観測に
状態を宇宙天気と呼んで、精度よく予報するため
は魅力的な点があります。それは、太陽に近い場
の研究が世界中で盛んに行われています。宇宙天
所における太陽風を観測できることです(図 2 参
気を大きく左右するのは太陽風ですから、地球に
照)。太陽に近い太陽風の情報が得られれば、地
到来する太陽風の変動をいち早く知ることが重要
球に到来する太陽風の変動をより早く知ることが
です。このため、現在では地球の上流の太陽風に
できます。私たちの行っている電波星シンチレー
人工衛星が送り込まれ、変動の監視が常時行われ
ションの観測からは、数日先の太陽風の変動を予
ています。この人工衛星のいる場所は太陽と地球
報することが期待できます。一方、太陽風を監視
の重力が釣り合う特別な地点(L1 地点)なので、
している人工衛星の場合は、太陽−地球間の距離
太陽風中に留まって連続観測することが可能です。
の約 1 / 100 だけ地球の上流なので、約 1 時間先
の太陽風が予報できるに過ぎません。
計算機トモグラフィーを応用した太陽風予報の実験
私たちは、日々集まってくる電波星シンチレーシ
ョンのデータを使って、地球に到来する太陽風を
予報する実験を数年前に開始しました。この実験
は、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の
B. Jackson 教授らのグループと共同で行っています。
電波星シンチレーション観測が太陽風の予報に
有利であることは、以前から知られていたのです
が、これにはある問題があって、精度よく太陽風
を予報できませんでした。その問題とは、シンチ
図 2 黄道面を流れる太陽風を北側から見た図。IPS(惑星間
空間シンチレーション:電波星シンチレーション)観測によ
って地球へ到来する太陽風を前もって測定することができる。
レーション観測によって得られる値が、電波星の
方向にあるいろいろな太陽風の情報を含んでいる
2
ことです。このため、従来のシンチレーション観
測データと人工衛星で測った太陽風のデータを比
較すると、シンチレーションのデータは変動が小
さめになる傾向があり、場合によっては両者に大
きな食い違いが生じていました。
私たちは、計算機トモグラフィー(CT)と呼ば
れる手法をシンチレーションデータの解析に応用
することで、この問題を解決することに成功しま
した。CT は、超音波で体内を診断する技術とし
て医療分野での応用が有名です。CT 解析法の開
発により、シンチレーション観測データから人工
衛星の測定値に劣らない精度で太陽風の速度や密
度の分布を決定できるようになりました(詳しく
は、STEL ニュースレター 1999 年 10 月号の巻頭記
事「惑星間空間シンチレーション観測の高精度
化」(小島正宜)を参照)。
太陽風予報の実験では、シンチレーション観測デ
ータをリアルタイムで処理できるようにCT解析法の
図 3 IPS データの CT 解析によって得られた太陽風速度の予
測値(太線)と ACE 衛星で観測された太陽風速度データ(細
線)。解析した時刻は図中の点線で示されており、点線より右
側が予報に相当する。
改良を行いました。また、観測装置についても自動
化や処理速度・信頼性の向上を図りました。これら
の準備が整った2001 年度の秋に実験はスタートし、
今後の課題
本実験の目的の一つは、電波星シンチレーショ
ンデータの CT 解析が太陽風の予報に有効である
ことを示すこと。そして、もう一つ重要な目的が、
実験結果に基づいて解析方法を改良してゆくこと
です。日々の検証を通じて、私たちの使っている
CT 解析法の問題点が浮き彫りになります。それ
を改良することで、より正確に太陽風の 3 次元構
造を解析することが可能になり、さらには太陽風
の謎解きに役立つことになります。
CT 解析法では、太陽風の運動と相互作用を方
程式で表現する必要がありますが、どんな方程式
を使ってそれらを簡潔かつ正確に表現するかが、
CT 解析法を改良するポイントの一つです。現在、
太陽風予報に用いている CT 解析法では比較的単
純な方程式を用いていますが、より複雑な方程式
を用いることで高精度化することが期待されます。
最近、私たちの研究グループでは電磁流体力学
(MHD)の方程式を組み込んだ新しい CT 解析法
を開発しました(詳しくは STEL ニュースレター
2001 年 8 月号の巻頭記事「太陽風の速度構造を探
る」(林 啓志)を参照)。MHD − CT 解析のいい
ところは、太陽風の速度、密度だけでなく、磁場
の情報も出せること。太陽風の磁場は、宇宙天気
をコントロールする重 要 なパラメータです。 目
現在も継続中です。実験では、シンチレーションデ
ータを迅速にCT 解析することで、地球へ到来する
太陽風の速度と密度を求めています。どれだけ先ま
で予報ができるかは、日々得られるシンチレーショ
ンデータの数や質、電波星の分布によって変わるの
ですが、観測が正常に行われた場合、約 2 − 4 日先
まで予報値が得られます。実験では予報精度を評価
するため、米国の太陽風監視衛星(ACE 衛星)の
最新のデータをインターネットから定期的に入手し、
予報値との比較をリアルタイムで行っています。そ
の結果から、速度については、±50 km /秒以内の
精度で予報できることが確かめられました。密度に
関しては予報精度が悪いようで、今後改良する必要
があるでしょう。予報結果はWeb ページ(http://
stesun5. stelab. nagoya-u.ac.jp/forecast/)にリアルタ
イムで公開されていますので、興味のある方はイン
ターネットからアクセスしてみて下さい。
図 3 には、私たちの実験で高速太陽風の到来を
数日前に予報できた例を示します。図中上段のグ
ラフは 2002 年 10 月 14 日 16 時 UT(世界標準時)
の太陽風予報で、太陽風速度が増加するという結
果が出ていますが、これが的中したことが17 日 16
時 UT(図中下段のグラフ)における ACE 衛星デ
ータとの比較から分かります。
3
下、この MHD − CT 解析法をリアルタイムで動
かしてテストを行っており、解析結果はインター
ネットから見 ることができます( アドレスは、
http://stesun5.stelab.nagoya-u.ac.jp/mhdtomo/)。
現在のバージョンの MHD − CT 解析は、ゆっくり
と変化する太陽風を対象にしており、惑星間空間
を駆け抜ける暴風のような成分はうまく扱うこと
ができませんが、将来は短時間の変動現象も扱え
るようにしたいと思っています。
CT 解析法の改良と同時に、電波星シンチレー
ションデータの量的・質的な改善も、正確な太陽
風予報を実現する上で重要です。即ち、1 日のシ
ンチレーション観測から得られる良質なデータの
数が多ければ多いほど、正確な太陽風予報が可能
になり、より細かな時間変動も予報できるように
なります。それには、高感度な観測システム(ア
ンテナ)が不可欠です。私たちは、日頃から観測
システムの感度の向上に努めてきましたが、現有
システムの感度向上はもう限界で、これ以上の高
度化は望めません。そのため、私たちは太陽圏イ
メージング装置と呼ばれる電波星シンチレーショ
ン観測専用の大型アンテナを新たに建設すること
を計画中です。これが完成すれば、1 日に観測可
能な電波星の数は約 3 − 5 倍に増えると予想され、
太陽風予報の精度もそれに比例にして大幅に改善
されるでしょう。
太陽活動極大期の太陽風構造
藤木 謙一(太陽圏環境部門)
き”現象を地上の離れた 2 点で観測することによ
り、太陽風の速度が求められること、そして、私
たちの研究室では、コンピュータトモグラフィー
(CT)と呼ばれる画像処理法を応用し、精度の高
い IPS 観測が可能になったことは、巻頭記事で紹
介しました。
この CT 法を適用するには、観測期間中(この
場合 27 日間)に、太陽風の構造が変化しないと
いう必要条件があります。太陽活動の静かな時期
は、この条件は満たされているのですが、太陽の
活動が盛んになると、太陽コロナの構造は、動き
が激しくなり、太陽風の速度構造もそれに伴い変
太陽はいつも変わらぬ姿で穏やかに私たちを見
守ってくれています。しかし、太陽を観測すると、
活発に活動する極大期と、静かな時期にあたる極
小期を繰り返していることが分かります。その活
動周期が 11 年であることはよく知られています
が、その周期で太陽から吹き出すプラズマ流(太
陽風)の速度分布(速度構造)もその姿を大きく
変えています。1990 年代に入り、探査機などによ
る飛翔体観測や、アンテナなどを使っての地上観
測により、太陽風の速度構造についての研究が飛
躍的に進みました。その理由の一つに、探査機ユ
リシーズの活躍があります。ESA(European Space
Agency)が打ち上げたこの探査機は、太陽の周り
で楕円軌道をとっています。これが黄道面を脱出
し、太陽緯度の南極から北極にかけて(S80 °
−
N80 °)の観測に成功したことで、大きな成果が生
まれました。そしてもう一つは、地上観測による
データ処理法が進歩したことです。これにより、
精度の高い太陽風の速度構造が得られるようにな
りました。
巻頭記事で太陽風の予報について紹介しました
が、この記事では、太陽活動極大期に注目しなが
ら、複雑で変化の速い太陽風の速度構造につい
て、紹介したいと思います。
太陽風を地上から観測する
惑星間空間シンチレーション(Interplanetary
Scintillation: IPS)と呼ばれる電波星の“またた
図 1 従来の方法(上段)と改良版(中段)の像処理の比較、
および 80°N で切り出した速度プロファイルの比較(下段)。
従来の方法で見られた 360°付近の不自然な速度差(点線)
が、改良版(実線)ではなくなっている。
4
の水色で表される 700 km/s 以上の高速風と接して
います。これは不思議なことで、太陽活動極小期
には、太陽風は、低速風と高速風の 2 成分から成
ることを意味し、太陽風の 2 態構造と呼ばれてい
ます。なぜ太陽風の加速がこのような 2 種類の太
陽風を作り出すのかは、太陽風加速機構の難題で
まだ解決されていません。また、1999 年のデータ
を見てみると、太陽活動の上昇に伴い、低速風の
赤色の帯が高緯度側に広がっているのが分かりま
す。そして、2000 年の太陽活動極大期には極域か
ら青色で表される高速風は消失します。
それでは今回の極大期の前後(1999 年− 2002
年)、太陽風分布はどのような変化をしたのか見
ていくことにします。(各年の間に4 自転周期分の
開きがあるのは、冬季の観測中断によるもの。灰
色の部分はデータが不十分であるため、速度分布
が得られなかった領域を表します。)1999 年のデ
ータを見てみましょう。キャリントン自転周期 ※
1950(CR1950)までは北極域に青色で示される
高速太陽風が観測されていますが、CR1951 −
1952 にかけて北極域の高速太陽風は消失していま
す。太陽コロナ中の磁力線を計算すると、確かに
CR1952 以降は北極域からの開いた磁力線がなく
なっており、極域の高速太陽風の源であるコロナ
ホールが消失していたと考えられます。一方南極
域の高速太陽風は少なくとも CR1952 の時点では
化してしまうので、必要条件を満たすことができ
ません。
従来の CT 法では、太陽の自転周期のデータご
とに処理をしています。速度分布は太陽の経度方
向に0 °
から360 °に広がる2 次元平面像として求ま
ります。しかし、実際には球面であるため 0 °と
360 °は接しているわけです。0 °付近と 360 °付近
の観測視線は、観測時期が約 1 ヶ月違うため、従
来の CT 法を太陽活動極大期のデータに適用する
と、誤差を大きくする危険性があります。そこで、
求める2 次元平面を0 °から360 °、そして次の周期
に移り720 °と、一自転周期に限るのではなく、経
度方向に連続する画像としてデータを取り扱うと
します。すると、前述の観測時期の違いによって
生じる CT 法の誤差は小さくなることが期待でき
ます(図 1 参照)。
太陽風の速度分布の変化
さて、IPS 観測を実際に CT 法で解析した、太陽
風の速度構造をご覧にいれましょう。図 2 は太陽
活動極小期(1995 年)と太陽活動極大期前後
(1999 − 2002 年)の太陽風の構造です。1995 年と
2000 年を比較すると、太陽風の速度構造が太陽活
動度によって驚くほど変わっているのが分かりま
す。1995 年の太陽風は低緯度に赤色で表される
300 − 400 km/s の低速風の細い帯があり、高緯度
図 2 IPS 観測により求めた 1995 年および 1999 年− 2002 年の太陽風速度構造の変化。各年の帯状のデータは 9 ブロックに
分かれており、各ブロック上の数字は、キャリントン自転周期※(CR)を表す。各周期毎の横軸は、キャリントン経度(太
陽経度)0 − 360 度を表す。○印は探査機ユリシーズが観測した太陽風の緯度経度位置を表し、色は速度を表す。
※イギリスの天文学者 R.C.Carrington が太陽黒点を観測し、明らかになった太陽自転数。
1 回自転する度に、一つずつ数字が増えていく通し番号がついている。
5
まだ存在しています(CR1953 の前後は雷被害に
より観測中断)。2000 年になると極域からは完全
に高速太陽風はなくなり、高速風は低−中緯度の
狭い領域から吹き出すようになります。そして極
小期にはあまり見られなかった、緑色で表される
中速風(500 − 600 km/s)の割合が増えています。
2000 年から 2001 年にかけて探査機ユリシーズ
は、太陽活動極大期の太陽風の緯度構造を約 1 年
かけて観測しました。ユリシーズが軌道を一周す
るには約 6 年かかりますが、この期間はユリシー
ズが近日点側を通過しているため約 1 年という短
期間で緯度構造を観測することができたのです
(図 3 参照)。そしてこの観測でユリシーズは、極
大期には消失していた高緯度高速風が再出現する
様を捕らえました。しかしその様子は、いったん
現れた高速風が出たり消えたりする奇妙なもので
した。ユリシーズは時々刻々軌道を回りながら観
測していますが、その間太陽も自転するため、こ
の高速風の奇妙な振る舞いが、時間的な変動なの
か、それとも空間的な変動なのかを区別すること
ができません。
それでは 2001 年の IPS 観測データは、どうなっ
ているのでしょうか。観測が開始された CR1974
の時点で、すでに青色の帯が見られ、高速太陽風
が出現していることが分かります。そして、その
分布は CR1975 には特定の経度に偏り、CR1976 に
なるとまた消失します。そして CR1977 以降は極
域高速風は安定して存在しています(CR1979 は
落雷の被害により観測中断)。図中の色つき丸印
は、ユリシーズの軌道を 2.5 太陽半径の球面に投
影したものです。この比較からユリシーズの観測
した高速風の奇妙な出現・消失の振る舞いは、時
間的な変動ではなく、特定の経度に偏って分布す
る極域高速風領域を通過したために起こった、見
せ掛けのものであることが分かります。一方、南
半球に目を向けると、極域高速風は北の極域高速
風 が安 定 している C R 1 9 8 0 以 降 に一 旦 消 失 し、
2002 年は南の極域高速風はほとんど観測されてい
ません。
今回の太陽活動極大期前後の太陽風速度構造の
特徴は、極域高速風の消失・出現を見ても分かる
とおり、北半球が先行していたといえます。面白
いことに、前回の極大期(1989 − 1990 年)の前
後でも、同じように北半球が先行しています。こ
の非対称性は極域高速風の源とされるコロナホー
ル生成の非対称性、ひいては太陽内部の運動に起
因するものでしょうから、非常に興味ある問題で
す。また「極大期の太陽風速度も 2 態構造か否
か?」という問題を考えると、2000 年の速度分布
から、「否」という答えが出ているように見えま
す。実際にそう主張している研究者もいますが、
複雑な吹き出し方をしている太陽風は、惑星間空
間で相互作用をして速度が変わってしまう可能性
があり、まだ結論づけることはできないと考えて
います。今後、加速が終了した領域である数十太
陽半径あたりの IPS 観測を重点的に行うことで、
加速そのものが 2 態構造になっているかどうかが
明らかになるでしょう。
今後に向けて
今回、IPS データ処理法に改良を加えて求めた
太陽風速度分布を、探査機のデータと比較した結
果、太陽活動極大期においても十分に精度の高い
解析が行えるということが明らかになりました。
前述したように、探査機の観測のみでは不確定な
問題が、IPS 観測との比較により解決することが
図 3 探査機ユリシーズの軌道。2001 年から 2002 年にかけて太陽の近くを通過する。
6
あります。すなわち、時間・空間分解能には優れ
ている探査機の観測が、一点観測であるのに比
べ、IPS 観測は時間・空間分解能は劣りますが、3
次元的な観測が短時間に行える特長があります。
この 2 つは、相互に欠点を補い合う相補的な関係
にあるのです。実際に 2001 年の IPS 観測とユリシ
ーズ観測の比較は、この相補関係を活かした研究
の有効性を示すものであり、太陽風の研究者たち
に驚きをもって受け入れられました。我々のグル
ープは、より精度の高い観測を行うために、大型
アンテナの建設に向けて基礎研究を行っています。
この大型アンテナでは、現在の数倍の電波星を観
測することを目標にしており、より高い空間分解
能で観測が行えると期待されます。
Consistency が要求される時代
上出 洋介(所長)
今はやりの manifesto を始め、availability とか
compliance など、“よく耳にするのに日本語にするの
が難しい”単語があります。Consistency もその一つ
でしょう。英和辞書で引くと、「自己矛盾しないこ
と」と出てきます。信念や見識という言葉ほど重く
はありませんが、今は大学人として consistency が強
く要求される時代だと思います。
「政策論議」と「身近に迫った選挙に勝つための
方策」に例を見るまでもなく、私たちの周りは矛盾
で溢れています。人間で出来ている世の中である限
り、大学も例外ではありません。大学附置研究所の
目指すことと、全国共同利用研究所が負っている役
割を、今こそ原点から見直すべきだと思います。「理
想と現実の違い」と逃げている問題ではありません。
友人に頼まれたからとか、研究費が得られそうだか
らという研究テーマ/予算/人事の選択は、およそ
inconsistent な結果を生みます。積み上げてきた議論
に逆行する意見を主張することも、consistent とは言
えません。
平成 8 年の行政改革会議から始まった国立大学法
人化の議論は、さる 7 月の参議院での「国立大学法
人法」の成立をもって一段落し、来年度より個々の
大学法人になることが事実上決まりました。昨年 3
月の「国立大学等の独立行政法人化に関する調査検
討会議」最終報告など、国会内外での様々な論点か
らの議論を経て、日本の大学の歴史にかつてなかっ
た活性化改革への第一歩が踏み出されたわけです。
“国が設立し、国が財政措置の責任をもつ”がた
めに要求される大学の長期展望や中期目標の策定に
絡み、業績評価や資源配分で慎重な対応、つまり短
絡的評価を避けることを求める人も少なくありませ
ん。それは、「国立大学の評価に当っては、基礎的
な学問分野の継承発展にも十分配慮すること」など、
参議院でのいくつかの附帯決議にも反映されていま
す。実際、太陽地球系科学は“太陽圏から大気圏ま
で”を“融合的”に扱う領域横断的な学問であるだ
けに、最先端の研究を遂行していく中で、初めの思
惑と違った方向へ動くことは当然考えられることで
す。だからといって、中期計画を“結果が見える”
範囲に小ぶりに書いたり、中間評価を不安に感じた
りする必要のない性質のことだと思います。研究計
画の変更が必要になった場合、その理由を述べて
堂々と変更すればいいだけのことでしょう。決して
consistency に反しません。
大学環境変革のこうした動きと併行して、大学附
置研究所の見直しも進みました。昨年 10 月、科学技
術・学術審議会/学術分科会に、法人化後の大学附
置研究所の在り方を検討する特別委員会が設置さ
れ、本年 4 月の最終報告書に至るまで、急ピッチで
厳しい審議が行われました。全国研究所長会議での
活発な議論の中には、必ずしも「現状維持」を支持
するものだけとは限りませんでした。報告書には、
大学の中期目標に明確に位置付けられる中核的研究
拠点としての附置研の重要な役割が書かれています。
とくに全国共同利用の附置研に関しては、全国連携
利用に関わる経費を運営費交付金として確実に配分
することなどが記されています。
附置研の今後については未だ流動的な要素が多く、
この原稿を書いている時点では、研究所内の部門構
成などについては、大学内で任意に変更ができ、文
部科学省への届け出さえも不必要になると聞いてい
ます。今後の附置研の統合/再編成などに関しては、
学術分科会の基本問題特別委員会で引き続き審議が
行われていくという理解です。附置研のポテンシャ
ル、競争力そして成果が、“見える形で”問われるこ
とになる新型の競争的研究費が、来年度の文部科学
省からの概算要求に盛り込まれています。今までの
所長リーダーシップ経費が姿を変えた予算です。当
研究所が提出した中期目標・中期計画には、現在各
部門で行われている研究テーマの自然な延長に加え、
存置目的と consistent な、「太陽活動と長期気候変動
の関係」や「比較惑星研究」も加えました。
7
平成 15 年度 21 世紀 COE プログラム
「太陽・地球・生命圏相互作用系の変動学」
小島 正宜
地球温暖化が進む現在は地球大変動の時期であ
り、人類活動の膨張がその要因とされています。
しかし、地球システムの仕組みの理解不足から、
人類活動の影響評価と変動予測には大きな不確定
性があります。一方で、気候の大変動が生命圏の
激変を伴う地球システムの相転移として生じてき
たことが、様々な地球科学的記録として残されて
います。本計画の目的は、過去の地球システム大
変動を高精度で復元する一方、現在の観測からエ
ネルギー・水・物質循環の素過程・機構を解明
し、両者を基に統合モデルに組み上げ、将来起こ
り得る変動を予測するという、太陽・地球・生命
圏相互作用系の変動学を柱に、地球の一部として
の人類の存在意義と役割を示す「新たな地球学」
を構築することにあります。
計画は、3 グループで行われます。高精度環境
変動解析グループは、過去 1000 万年程度の地球
システム・太陽活動の変動を連続的に読み出し、
抽出された様々な時間スケールの大変動イベント
を高時間分解能で解析します。変動機構解明グル
ープは、現在の太陽・地球・生命圏の変動の素過
程とフィードバック機構を観測データに基づいて
明らかにします。そして、将来起こりうる気候変
動の範囲を予測する統合地球システムモデルの構
築を、統合モデリンググループが行います。
この拠点形成計画は、様々な国際プロジェクト
と協働します。当研究所が深く関わるものに、平
成 16 年より始まる国際共同プロジェクト「太陽地
球系の気候と天気」(Climate And Weather of the
Sun-Earth System: CAWSES)があります。これは、
太陽地球系の中で生起している様々な現象の変動
のタイムスケールを指標として、比較的短い時間
変動現象(Weather)と長い時間変動(Climate)
の研究を行ない、太陽地球系全体の物理をより良
く理解することを目的とするもので、本拠点形成
計画の重要な一翼となるものです。
そしてその成果は、現在検討が進んでいる研究
所の再編構想へと引き継がれて行きます。研究所
再編構想は、地球水循環研究センター、年代測定
総合研究センター、そして当研究所を中心に改組
再編し、新しい研究所を設立するもので、この 3
関係部局の他に、環境学研究科地球環境科学専攻
と理学研究科素粒子宇宙物理学専攻が参加したワ
ーキンググループで検討が進んでいます。
過去や将来の気候の大変動を統合的に理解する
ためには、地球だけに閉じた系で考えるのでなく、
(1)エネルギー源である太陽放射、(2)エネルギ
ー・水・物質循環を担う宇宙空間・大気水圏・地圏、
(3)循環を能動的に調整する生命圏、この三者を
一体の相互作用系として捉える必要があります。
そこで、これらを統合する「太陽・地球・生命圏
相互作用系の変動学」の構築が、名古屋大学の 1
研究所、1 研究科専攻、2 センターの共同で、21 世
紀 COE プログラムとして今年度より始まります。
21 世紀 COE プログラムは、世界をリードする研
究と人材の育成を目的に、世界的な研究教育拠点
の形成を重点的に支援するために昨年度から始ま
った文部科学省新規事業です。平成 15 年度は、
「数学、物理学、地球科学」が支援分野の一つに
指定され、「地球科学」の分野に名古屋大学から
応募した計画「太陽・地球・生命圏相互作用系の
変動学」が採択されました。
この採択された拠点形成計画は、安成哲三教授
(地球水循環研究センター)を拠点リーダーとし、
地球システムの機構解明で世界的な成果を出して
きた環境学研究科地球環境科学専攻、高精度の解
析技術を開発してきた年代測定総合研究センタ
ー、水・物質循環過程の研究で多くの国際研究プ
ロジェクトを推進し実績を挙げてきた地球水循環
研究センター、そして太陽・宇宙・超高層大気分
野をカバーする太陽地球環境研究所の 4 部局がそ
れぞれの特長を活かして協同する計画です。
8
地域貢献特別支援事業 ― 冊子が続々と完成
「太陽・太陽風 50 のなぜ?」
“What is the Geomagnetic Field?!”
地域貢献特別支援事業のもう
地域貢献特別支援事業の一つとして制作してい
る、啓蒙用冊子「なぜシリーズ」の第 3 弾がこのほ
一 つのユニークな試 みとして、
ど完成しました。今回のタイトルは「太陽・太陽風
このほど、 英 語 のコミック冊 子
50 のなぜ?」で、執筆陣は太陽圏環境部門の小島正
“What is the Geomagnetic Field?!”
宜教授、徳丸宗利助教授、藤木謙一助手に、総合解
が出来ました。これは、先に出版
した「地磁気ってなんだ!?」の
析部門の増田智助教授という顔ぶれ。イラストはお
英語版にあたるものです。米国立
馴染みの大村純子さん(陸別町役場)が担当してい
宇宙環境研 究 センター( S p a c e
ます。「太陽はいつ生まれたの?」や「太陽風は熱い
新作コミック冊子
Environment Center)と同地球物
の、冷たいの?」など、様々な角度から、ダイナミ
理データセンター(National Geophysical Data Center)
ックな太陽にまつわる「なぜ?」に迫ります。シリ
との協同で制作され、月刊誌「子供の科学」の協力を
ーズで初めてカラーページを採り入れ、太陽の魅力
得ています。作者はやのん氏は物理学専攻の人気女
が一層伝わる一冊になりました。また、前 2 作「オ
性漫画家、監修は当研究所が行いました。地上の生
ーロラ50 のなぜ」
、「オゾン40 のなぜ」も好評で、近
命への地球磁場の大切さをコミカルに訴える内容で
いうちに増刷に入ります。
す。本冊子は、国際会議で配付されるほか、当研究
本冊子シリーズは、多くの人に手にとってもらえ
所玄関ホール、アメリカにある上述機関のアウトリ
るよう当研究所玄関ホールの他、陸別町宇宙地球科
ーチ部門にも置かれます。私たちの研究がさらに広
学館と豊川市ジオスペース館にも置かれています。
い世界で多くの人の興味を集めることになるでしょう。
太陽地球環境研究所が立地している豊川地区の、
今から 60 数年前の様子についてお話します。ここで
は、シンプルに事実だけをお伝えしたいと思います。
皆さんがこれを読んで、お感じになることを大切にし
たいからです。様々な受け止め方ができるでしょう。
私はそれでいいと思います。歴史を少し振り返って、
何かを考えてくださることが大事なのです。
昭和 12 年 7 月 7 日、中華人民共和国の蘆溝橋で一発
の銃声から日中戦争に突入しました。その翌年から、
豊川海軍工廠の用地買収が始まり、昭和 14
年 12 月 15 日には、従業員 1500 名で開
庁式が行われました。「工廠」とは陸
軍・海軍に直属し、艦船、兵器、弾
薬、機関などの軍需品の製造、修理を
行った工作庁のことです。豊川海軍工廠は
海軍の機銃と弾薬包(発砲が可能な完成品)を作る
ために建設されました。
昭和 13 年 3 月 24 日に「国家総動員法」が成立しま
した。ここから本格的に戦時体制に変化し、「徴用に
違反する者は1 年以下の懲役又は千円以下の罰金に処
す」と、戦争に国民を導き出しました。海軍工廠資料
によると、初期には満 16 歳以上 50 歳未満の成年男子
が労働対象にされました。しかし、終戦間近になる
と 13 歳前後から工廠で働いていたようです。
昭和 18 年 6 月には「学徒戦時動員体制確立要綱」
が閣議決定され、早稲田大学などの学生が配属にな
りました。初期には、女子の一部は「女子挺身隊」と
して働き始めましたが、翌年になると女子青年は挺身
隊に、中学生や女学生は学徒として、その他の人は徴
用として動員されました。
工廠の規模は年々拡大し昭和20年8月には、敷地面積
約90 万坪、総員56000名で、東洋最大となります。昭和
20年8月7日10 時26分頃からB29爆撃機による爆撃と
P51戦闘機により、約2600名以上の若い命が
失われ、その内の約1000名が女子でした。
その後、月日の流れとともに、今
日の豊川は、すっかり様変わりしまし
た。悲しい記憶は人々から忘れ去られ
ていくのでしょうか。毎日世界中の最新デ
ータが集まり、未来や宇宙空間に目を向けて研究が
行われている当研究所。その敷地内には今でも、当
時の面影を残す海軍工廠の施設がいくつか残ってい
ます。しかし、それらをいい状態で保存することは、
歴史を正確に伝えることと同様の難しさがあると思
います。手を入れすぎると、事実ではなくなります。
放っておけば、風化していつかなくなってしまう‥。
研究所にいて、思うことの一つです。
鳥山 哲司(技術部)
9
Visit to STEL
Wen-Yao Xu, Visiting Professor
(Professor, Institute of Geology and Geophysics, Chinese Academy of Sciences, China)
This has been my fourth visit to Japan and the longest
stay in a Japanese city and a Japanese Institute.
My principal research interest is space electrodynamics.
Most of my research papers are concerned with the
physical processes and the mechanisms of geomagnetic
storms and substorms and their response to solar
wind-magnetosphere-ionosphere coupling in terms of
magnetic field and electric potential and current
variations. The diagnosis and prediction of the
electromagnetic environment in space is becoming
more and more important as human activity expands.
When I first read the paper on the Kamide-RichmondMatsushita (KRM) method, a technique for
magnetogram inversion, I was greatly excited.
Previously I knew, as did most researchers in the field,
Fukushima’s result, namely that the three-dimensional
current system can not be inverted from ground-based
magnetic observations, with a homogeneous ionosphere,
if there are field-aligned currents. That is, the field at
the ground is that generated by the Hall current while
the field form the Pedersen current is completely
cancelled by the field associated with the roughly
vertical field-aligned currents. The key point in the
magnetogram inversion technique is the conductivity
model assumed for the (inhomogeneous) ionosphere.
By introducing a reasonable conductivity model and
solving the equations governing electrodynamic
process in the ionosphere, KRM were able to correlate
the magnetic disturbances at ground level with the
electric potential and the Hall, Pedersen and fieldaligned currents. This makes it possible to monitor, on
the basis of continuous ground geomagnetic
observations, the dynamics of the global electric field,
currents in the ionosphere and magnetosphere,
variations of the boundary and area of the polar cap
and the Poynting flux of the solar wind.
a visit to Toshogu in Kuno-Zan.
scientists work very hard and as a result they have
made great contributions to space science as a whole.
In addition to my research work, my wife and I have
visited a number of interesting places. The Aichi
Prefecture is rich in attractions for foreigners as well as
local people. I read some books on the history of Japan
and learned that many important events happened here
and numerous prominent persons, who have made
great contributions to Japanese history, were born and
were active in this area, including Oda Nobunaga
(1534-82), Toyotomi Hideyoshi (1536-98) and
Tokugawa Ieyasu (1542-82). Together with Professors
Kamide, Ogino and Sastri, we enjoyed strawberry
picking and Toshogu in Kuno-zan to see the tomb of
Tokugawa Ieyasu. We were very impressed by the
Toyokawa Inari shrine, which combines Shintoism and
Buddhism and attracts so many visitors. We also took
great pleasure in visiting Biwa Lake, which is the
largest in Japan, and Shirai-san’s house, which is
located in a beautiful village not far from Toyokawa.
The contributions and reputation of the scientists at the
Solar-Terrestrial Environment Laboratory have
brought researchers from all over the world to STEL. It
is a great honour for me to have been one of them. The
four months I spent in Toyokawa have been some of
the happiest of my life and I have learned a great deal
from the scientists in the Institute. During my stay I
have visited the National Institute for Polar Research in
Tokyo, Kyushu University in Fukuoka and the World
Data Centre in Kyoto. Professors N. Sato, K. Yumoto
and T. Iyemori have introduced me to their work and I
have benefited greatly from them. I have been
impressed very much by the fact that Japanese
My wife and I greatly enjoyed our visit to Toyokawa:
she never dreamed that her knowledge of Chinese
would be so useful in communicating with our new
Japanese friends. We came to love this small, quiet
town, the cherry blossom and the ST House
surrounded by dense trees like a reservoir of oxygen.
We love the kind and generous people in STEL who
looked after us so well from the very beginning of
applying for visas and even after returning home.
I would like to thank everybody who made our visit to
STEL such a memorable, wonderful and unforgettable
experience.
10
スウェーデン・ウプサラの我が家
小川 泰信(電磁気圏環境部門)
今 年 の 4 月 に S T E 研 に赴 任 するまでの 1 年 間
(2002 年 4 月から 2003 年 3 月まで)、私はポスド
ク研 究 員 としてスウェーデン宇 宙 物 理 研 究 所
(スウェーデン語で Institutet för rymdfysik、略称
IRF)ウプサラに勤務していました。ウプサラは
スウェーデンの首 都 ストックホルムから約 1 0 0
km 北に位置し、1477 年に設立されたウプサラ大
学を中心にして古くから栄えてきた街です。
IRF ウプサラでは、クラスター II 衛星と欧州非
干渉散乱(EISCAT)レーダーを用いた電離圏−
磁気圏結合の研究をしてきました。クラスター II
衛星は、2000 年夏に打ち上げられ、「4 機の人工
衛星による編隊飛行観測」という従来にない特色
を持っています。一方、EISCAT レーダーは、ス
カンジナビア半島北部とスヴァールバル諸島ロン
グイヤビンに設置されており、最近ではクラスタ
ー II 衛星の軌道にあわせた観測が実施されていま
す。IRF ウプサラには、クラスター II 衛星を用い
た研究をしている研究者や大学院生が数多く在籍
しており、これまで EISCAT レーダーを主に用い
て研究をしてきた私にとって、研究の幅を広げら
れる絶好の機会でした。さらに、以前に論文を読
んで感銘を受けた数多くの研究者にお会いし、話
ができたことも、私にとって貴重な体験でした。
ところで、 ウプサラに来 てから知 ったのです
が、スウェーデンには不動産屋が無く、下宿場
所を見つけるまでに大変苦労するそうです。私の
場合、ウプサラに赴任する直前に、IRF ウプサラ
ウプサラの我が家(中央)。家の奥に小さな煙突が見える。右
隣は大家さんの家。
の S. C. Buchert 博士が親切に物件を探してくれ
ました。 私 はその物 件 を全 く見 ていなかったた
め、どんなところか多少不安だったのですが、下
宿場所に着いてみてビックリ! そこは小さな一
軒家でした。その一軒家から IRF ウプサラの研究
所までは、自転車で約 10 分。途中にスーパーマ
ーケットがあり、自転車用の道路が整備されて
います。家の中の広さは 1 ルームマンション程度
で、床暖房の他に立派な暖炉もあります。また、
家のすぐ裏側には広い庭があり、晴れた日に食事
をするには絶好の場所です。
この一軒家でスウェーデン・ウプサラでの快適
な暮らしを満喫していたのもつかの間、秋頃から
頻繁に出張するようになりました。
8 月中はEISCAT レーダー観測のためノルウェー
に、9 月にはIRF の全体ミーティングに参加するた
め、IRF 本部のあるキルナに、さらにクラスター
ワークショップに参加するためイギリスに出掛け
ました。それらの出張後ウプサラの我が家に無事
戻って来る度に、ホッとした気分になっていまし
た。
私が日本に戻ってきた今では、次の下宿人が快
適に(!?)暮らしているだろうと思います。今後、
IRF ウプサラとの共同研究の関係でウプサラへ訪
れるときには、お世話になった大家さんに、そし
て住み慣れた一軒家に是非もう一度会いたいと思
います。
IRF の同僚と共に
11
一般公開・講演会を開催
当研究所は、一般公開・講演会を 6 月 7 日(土)
に豊川キャンパスで実施しました。この催しは、
豊川市を中心とした近隣の市民に研究所の研究活
動の内容を広く理解してもらうことを目的として、
豊川市と同市教育委員会の後援を得て平成 3 年度
から毎年行っています。今回で12 回目を迎え、毎
回多くの市民が参加し、教職員にとっても、貴重
な市民とのふれあいの場となっています。
公開当日は天候に恵まれて、最終的な来所者数
は記名された方だけで 430 名に達しました。小・
中学生にも研究内容を分かってもらうよう工夫を
凝らしたパネルや各種の実験・観測装置が展示さ
れ、さらに、見学者が自ら参加して行う企画・実
験も多数行われました。以下はその一例です。
実験を楽しむ子ども達。建物
内だけにとどまらず、戸外で
も展示や実験が行われました。
・「空気の力で木を折ってみよう」:新聞紙1枚
をのせ、机から半分はみださせて置いた割りば
しを、たたいて折る実験
・「電気ストーブで調べる地球の温暖化」:赤外
線を出すストーブと赤外線センサーの間に、数
種類の気体を詰めたビニール袋を差し入れ、ど
れが赤外線を良く吸収するか(どれが地球温暖
化に関係する気体か)を調べる実験
・「高感度カメラでポストくらぶ(暗部)
」:夜間大気
光観測に用いられる超高感度カメラで長時間露
出の画像を撮り、露出中の動きで絵を描く実験
・「紙コップでスピーカーを作ろう」
:紙コップ・永久磁
石・コイルを組み合わせてスピーカーを作る実験
・「宇宙の天気を知ろう」:太陽からの爆発をい
ち早く感知して、宇宙飛行士や人工衛星に警告
を出す状況を模型を使って見せる実験
・「ペットボトルロケット」:空気圧と水の力で
ペットボトルを空高く打ち上げる実験
「どうなるの?」「さわってみ
よう!」小さなお客様と上出
所長
また、午後 1 時 30 分から 3 時まで 1 階講義室で
講演会が行われ、増田公明助教授による「年輪で
見るむかしの太陽」と、関華奈子助教授による
「人工衛星でさぐるオーロラのふるさと」という 2
つの講演が行われました。増田助教授は、木の年
輪にわずかに含まれている放射性炭素の量を正確
に測定することにより、過去 1000 年の太陽活動を
探る方法を解説し、過去の太陽活動が、宇宙放射
線の量をコントロールすることによって地球の気
候を変えていたかもしれない、という大胆な仮説
を紹介しました。関助教授は、極地方の天空にあ
らわれるオーロラと、それを引き起こす宇宙空間
プラズマの研究を紹介し、スペースシャトルなど
の宇宙利用とのかかわりを解説しました。両講演
とも終 了 後 には聴 衆 から多 くの質 問 が寄 せ
られました。
大勢の人でにぎわうパネル展示前。教職員の解説にも熱が入
ります。
講演会での質疑応答タイム
12
市民をまじえて「理科はおもしろい」シンポジウムを開催
一 般 公 開 ・ 講 演 会 の翌 日 にあたる 6 月 8 日
(日)、「理科はおもしろい」シンポジウムと題し、
小・中学生の理科離れを考えるパネルディスカッ
ションを、豊川市と共催で開催しました。このシ
ンポジウムは、近年目立つ子供たちの「理科離
れ」の原因を探り、対策を考えることを目的と
し、NHK と中日新聞社の後援で行われました。豊
川市にあるプラネタリウム「ジオスペース館」を
会場にして、事前に用意された 137 席の整理券は
すべてなくなるほどの盛況ぶりでした。会場では
NHK 名古屋放送局の青木希久子アナウンサーの
総合司会のもと、ビデオ「太陽活動と地球気候の
なぞ」上映(15 分)
、パネルディスカッション(1.5
時間)、プラネタリウム上映(40 分)が行われま
した。
パネルディスカッションのコーディネーターは
当研究所の上出洋介所長、パネリストとして、清
パネリストの方々
水洋一氏(豊川市立中部中学校教諭/豊川市現
職研修委員会理科主任:教育の現場から)、鳥居
久子氏(主婦/かみしばい会代表/子育てネット
ワーカー:家庭から)、松島孝人氏(「子供の科
学」編集長:子供科学雑誌の編集者として)、小
島正宜氏(当研究所教授:最先端の科学界から)
と多彩な顔ぶれがそろいました。まずイントロダ
クションとして、上出所長が小中学生の理科離れ
の現 状 ・ 特 徴 をデータを交 えて紹 介 したのち、
「理科離れ」で気がつくこと、その原因、そして
考えられる対策を、家庭、学校、マスコミ、科学
者などの立場から各パネリストが議論をしました。
議論の合間には、客席からも活発な発言があり、
オーロラを見た感動、虫の生態をさわって感じた
ときの驚きなど、理科を学ぶ原体験となる感動を
子供に与えていくことが大切である、という認識
が広がりました。
熱心に議論に聞き入る豊川市民の皆さん
日韓中の宇宙天気研究ミニワークショップ豊川で開催される
日本学術振興会と韓国科学技術財団の日韓科学協力事業共同研究「太陽風と惑星間磁場の変動に対
する地球磁気圏電離圏の環境変化に関する研究」
(平成 13 年 10 月より 2 年間)を推進する一環として、
そのミニワークショップを 8 月 18 − 20 日に豊川市民プラザと当研究所で開催しました。参加者は韓国
からキュンブック国立大学校の Ahn 教授、チュンナム国立大学校の Yi 博士および大学院生 4 名を含め
て 6 名、日本滞在の外国人研究者 2 名、それに国内の参加者を含めて合計 29 名の参加があり、日韓中
の宇宙天気共同研究を推進するのに相応しい盛況なミニワークショップとなりました。
今回の豊川でのミニワークショップは、当初中国北京市での開催
を計画していた、第 3 回日韓中宇宙天気国際会議を、SARS 後遺症
のために断念した結果として開催したものでした。その関係で、次
の宇宙天気研究ミニワークショップが韓国大田市で 9 月 16 − 17 日
に開催されました。日韓共同研究は、今後 2 年間の新規研究課題が
採択されましたので、そのプロジェクト期間中には、是非とも日韓
中宇宙天気国際会議の北京市開催が実現されることを期待してい
ます。
13
「宇宙線とダークマター」小規模国際会議を開催
去る 7 月 28 日から 7 月 30 日までの間、当研究所主催
の「宇宙線とダークマター」に関する国際会議が名古
屋大学シンポジオンホールで開催されました。本会議
では、特別推進研究「マイクロ重力レンズ効果を利用
した新天体の探索」を皆さんに紹介し、今後期待され
る成果について議論が行われました。
特別推進研究関係ではマッチョ、エロス、スーパーマ
ッチョとモアの代表が集まり、光を放っていない星を、
重力レンズで検出する方法で観測してきた今までの成
果と、特別推進研究で新しくニュージーランドに作ら
れる 1.8 m 望遠鏡による観測で予想される結果について
話し合いました。これによって多数のブラックホールの
実証や、太陽系外地球型惑星の検出が期待できます。
一方宇宙線関係では、現在当研究所が世界の 7 ヶ所
の高山に設置している太陽中性子望遠鏡を使った観測
成果や、メキシコの高山(4600 m)に新しく設置した
観測装置で今後期待される成果が議論されました。ま
た 1994 年 G. E. Kocharov 教授とともに始まった、C14 に
よる過去の太陽活動の研究はいよいよ佳境に入り、昨
年客員教授で当研究所に滞在されたスイスの J. Beer 教
授のBe10 の話を交えてホットな議論が展開されました。
当研究所の結果の強みは、一本の古木から切り出した
素材を使用しているので時代がはっきり決まる点にあ
ります。しかしグリーンランドの氷柱の年代決定は、本
当に年代を信用できるのか我々は疑っています。
会議の始まる前の 7 月26日−27日にかけて、乗鞍岳山
頂の宇宙線観測所内に設置されている当研究所の 64 m2
大型太陽中性子望遠鏡の見学会が催されました。見学
後、山麓にある乗鞍高原温泉の白濁したお湯につかり、
旅の疲れをねぎらいました。この国際会議は今後の国
際共同研究に大変役立つでしょう。国際会議に出席さ
れた外国からの出席者は 22 名、うち乗鞍への参加者は
8 名、日本人は約 100 名でした。会議の成果は本として
出版されます。
STEL ニュースダイジェスト
豊川市内の中学生が校外学習
残暑厳しい中、豊川市内の中学生 2 名が、校外学習
の一環として当研究所豊川キャンパスを訪れました。
まだ夏休み真っ只中の 8 月 21 日、熱心に勉強してくれ
たのは、豊川市立金屋中学校 1 年の松本宙さんと、林
翔太さん。当研究所の研究を詳しく紹介したビデオ
「太陽、地球、そしてこの空」を見た後、実際に各研究
室に足を運び、最新の研究成果やプロジェクトについ
て、説明に耳を傾けていました。時折メモを取りなが
らの二人は、夏の暑さにも負けないほどの集中力を発
揮していたようです。これまで、ニュースレターでもお
伝えしてきましたが、当研究所は地域貢献特別支援事
業も進めており、太陽地球系科学を志す未来の科学者
が増えてくれることを、改めて期待する機会となったと
いえるでしょう。
IUGG2003 に研究発信ブースを出展 6 月 30 日から7 月 11 日まで2 週間、札幌市で開催され
た第23 回国際測地学・地球物理学連合総会(IUGG2003)
において、オーロラなど太陽地球間現象をテーマにし
た研究発信ブースを出展し、最新の研究成果を内外に
アピールしました。このIUGG2003 は、太陽活動、地球
磁気圏/電離圏、大気、海洋、地震、火山など、太陽
から地球中心までのすべての物理化学現象を対象にし
ており、1922 年のローマ大会以来 4 年ごとに開かれて
いる国際会議です。今回はアジアで初めての開催とな
り、世界 96 ヶ国から約 5000 人の科学者が集まりまし
た。
太陽地球環境研究所のブースでは、当研究所制作の
ビデオが常時上映され、データ CD-ROM,パンフレッ
ト、データカタログなどを配布し、各国の研究者との
交流を深めました。他の発信ブースとしては、米航空
宇宙局(NASA)や米海洋大気庁(NOAA)、国内から
は宇宙開発事業団、北海道大学、東京大学、宇宙科学
研究所、海洋科学技術センターなどがありました。7 月
3 日午後には天皇皇后両陛下が行幸され、発信ブースの
見学をされました。
名大祭・東山分室の一般公開
名古屋大学大学祭開催時には、オープンラボの一環
として、当研究所東山分室を公開しています。本年度
の東山分室の公開は 6 月 8 日(日)に開催され、各研究
部門を紹介する講演の後、研究内容の見学が行われま
した。紹介されたのは、放射性炭素計測システム、宇
宙線望遠鏡、大型 CCD カメラ製作の現場などです。ま
た、放電箱、霧箱を用いて宇宙線を目でとらえる実験
には大きな関心が寄せられました。
異 動
[招聘客員研究員]
2003.6.1 ∼ 2003.8.31
客員教授 Ahluwalia, Harjit Singh
〔ニューメキシコ大学物理・天文学部 教授〕
2003.9.1 ∼ 2003.12.31
客員教授 Lakhina, Gurbax Singh
〔インド科学技術省地磁気研究所 所長〕
2003.9.1 ∼ 2003.11.3
客員教授 Padmanabhan, Janardhan
〔インド物理学研究所 助教授〕
[研究機関研究員]
2003.8.16
採用
袁 志剛
〔中国科学院武漢物理及数学研究所より〕
期間中、多くの研究者がブースを訪れました。
編集:名古屋大学太陽地球環境研究所 出版編集委員会 〒 442-8507 愛知県豊川市穂ノ原 3-13
TEL 0533-86-3154 FAX 0533-86-0811
STEL Newsletter バックナンバー掲載アドレス: http://www.stelab.nagoya-u.ac.jp/ste-www1/doc/news-book-j.html
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