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活動報告 [PDFファイル/275KB]
48 東洋大学人間科学総合研究所 2015 年度活動報告 ■研究チーム⑧ 障害児(者)の生涯発達支援システムの設計と実践(12) -児童発達支援事業における個別支援計画の作成と展開について- 研究チームの研究課題名 障害児(者)の生涯発達支援システムの設計と実践(12)-児童発達支援事業における個別支援 計画の作成と展開について- チームリーダー 清水 直治(文学部教育学科・教授) 研究分担者名 研究員 緒方 登士雄(文学部教育学科・教授) 滝川 国芳(文学部教育学科・教授) 研究計画の概要および当該年度の研究活動 はじめに 「障害児(者)の生涯発達支援システムの設計と実践」に関する研究は、平成 15(2003)年度に開始 し、各年度で重要とされた喫緊のテーマやトピックを研究テーマに検討を行ってきた。爾来 13 年が経 過し、平成 27(2015)年度で第 12 回となった。 この間に、生涯発達支援システムを構築するための関連諸機関や専門家との連携・協働の在り方、 地域における生涯発達支援システムの実施のための事例研究、生涯発達支援の観点から特別支援教育 体制を推進するための個別の教育支援計画にもとづく支援体制の構築、小・中学校の通常学級に在籍 する児童生徒に対する個別の教育支援計画の作成と実施に関する検討、また、高等学校における特別 支援教育の体制整備の現状と今後の課題について、高等教育における障害あるいは発達障害のある学 生の支援の現状と課題などをテーマやトピックとして検討してきたが、昨年度は喫緊のトピックであ る、特別支援教育におけるICT活用を取り上げて検討を行ってきた。こうした経緯のなかで、平成 27(2015)年度はトピックの範囲を福祉領域に拡げ、児童発達支援事業における個別支援計画の作成と 展開をテーマに、総合的に検討を行った。 平成18(2006)年12月13日に、国連総会において、障害のある人の権利の実現のために「障害のある 49 障害児(者)の生涯発達支援システムの設計と実践(12) 人の権利に関する条約」が採択され、平成20(2008)年5月3日に発効した。日本は平成26(2014)年1月 にこの条約を批准したが、批准に先立って障害のある当事者の意見も踏まえて、平成23(2011)年8月 の障害者基本法改正から平成25年6月の障害者差別解消法の成立まで、 国内法令の整備が進められた。 この「障害のある人の権利に関する条約」の批准を踏まえて、 「合理的配慮」のもとに、障害のある子 どもの地域社会へのインクルージョンの推進が希求された。 1. 障害のある子どもを取り巻く近年の環境の変化 (1)児童福祉法改正と児童発達支援に係る枠組みの変更 障害のある子どもの支援体系は、平成24(2012)年の児童福祉法改正による障害のある子どもの施 設・事業の一元化により、それまで障害の種別で分かれていた体系が、通所・入所の利用形態の別に 一元化された。そこで通所支援に関しては「児童発達支援」として、「児童発達支援センター」が通 所利用の障害のある子どもへの療育やその家族に対する支援を行うとともに、その専門機能を活かし て地域の障害のある子どもやその家族の相談支援および障害のある子どもを預かる施設への援助・助 言を行う地域の中核的な支援施設としての役割を担い、「児童発達支援事業所」がもっぱら通所利用 の障害のある子どもへの療育やその家族の支援の担い手になった(児童福祉法第43条)。児童発達支 援センターは、医療機関の体制をベースとして肢体不自由児への治療を併せて行う「医療型児童発達 支援センター」を含めて、児童福祉施設として位置づけられた。さらに、放課後型のデイサービスと して「放課後等デイサービス」が創設された。このような障害のある子どもの支援は、子ども・子育 て支援新制度の後方支援に位置づけられ、保育所等訪問支援などを積極的に活用して、保育所などの 子どもの育ちの場における障害のある子どもの支援の体制づくりが進められた。 (2)インクルージョン教育システム構築と合理的配慮 平成24(2012)年7月の中央教育審議会初等中等教育分科会報告「共生社会の形成に向けたインクル ーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」を踏まえて、平成25(2013)年8月に、学校教 育法施行令の改正が行われた。こうして日本においても、障害のある子どもと障害のない子どもが共 に学ぶインクルージョン教育の方向性が明示され、インクルージョン教育システム構築を推進するた めに、学校の「基礎的環境整備」と、そのうえに一人ひとりの子どもの教育的ニーズに応える「合理 的配慮」の実現が目指された。 2.児童発達支援管理責任者の役割と機能 (1)トータルな個別の支援計画の作成・実施・評価 児童発達支援に係る事業を行ううえで、 「児童発達支援管理責任者」が重要な役割と機能を担ってい る。児童発達支援管理責任者は、「障害児相談支援専門員」が作成した障害児支援利用計画(「個別 支援計画」)を参照して、その所属する児童発達支援センターや事業所において、子どもと親(保護 者)・家族のニーズに応じてトータルな個別支援計画の作成・実施・評価を担う。 50 東洋大学人間科学総合研究所 2015 年度活動報告 児童発達支援管理責任者は、子どもや親(保護者)・家族のアセスメント(ニーズの把握)と課題 の整理、個別支援計画の作成に当たっての意見調整、実施状況のモニタリングや計画修正など、支援 プロセスの全体を管理する。 (2)障害児相談支援専門員との連携 障害のある子どもの一人ひとりの支援をライフステージに沿って進めるに当たって中心になるのが、 障害児相談支援専門員である。障害児相談支援専門員は、親(保護者)の「気づき」の段階からの配 慮された発達支援や家族を含めたトータルな支援、関係者を繋ぐことによる継続的・総合的な支援、 またそれらの支援を通して子育てしやすい地域環境を作ることに貢献するという重要な役割と機能が 与えられている。児童発達支援管理責任者は、障害児相談支援専門員が作成し関係者によるサービス 担当者会議で協議された個別支援計画を、障害児相談支援専門員との連携のもとで実施し効果の評価 を行う。 (3)ライフステージに応じた切れ目のない支援 障害のある子どもとその家族のライフステージに沿って、保健・医療・福祉・保育・教育・就労支 援などを含めて連携した地域支援体制の確立や、 子どもは 障害の有無にかかわらずライフステージに 応じてその関与の度合いは変化するものの保健・医療・福祉・保育・教育・就労支援などの様々な関 係者の支援を受けることになるので、それら多くの関係者の連携体制づくり(「横の連携」)が重要 である。そうした「横の連携」を基盤に、障害のある子どもやその親(保護者)・家族のアセスメント からの情報を反映した、子どものライフステージごとのニーズに応じた個別支援計画による「縦の連 携」のもとでの、切れ目のない支援の実施が求められる。 (4)ポーテージプログラムを適用した個別支援計画の作成と展開 『新版ポーテージ早期教育プログラム』(日本ポーテージ協会,2005)は、アメリカ合衆国ウィスコ ンシン州ポーテージのポーテージプロジェクトによって、障害のある乳幼児の早期からの発達支援と 親(保護者)・家族支援プログラムとして 1972 年に作成された『Portage Guide to Early Education: PGEE』 をもとに翻案した早期対応プログラムであり、 これまで世界数多くの国々で活用されてきた ( 「ポ ーテージプログラム」と総称する)。平成 27 年度人間科学総合研究所特別予算研究(「発達臨床相談 における相談員の研修と相談支援活動」 )において、児童発達支援事業者の個別支援計画の作成と実施 における「ポーテージプログラム」の適用可能性を検討する目的で、児童発達支援事業者を対象に全 国 4 カ所(東京、大阪、富山、福岡)でポーテージプログラム研修セミナーを実施し、ポーテージプ ログラムを用いた個別支援計画の作成・実施の有効性を実証した。 3.障害のある子どもの支援の今後の在り方 (1)子ども・子育て支援の新制度 平成27(2015)年4月から、子ども・子育て支援法にもとづく子ども・子育て支援新制度が始発した。 保育所や幼稚園、認定こども園で障害のある乳幼児を受け入れ、主幹教諭や主任保育士などが関係機 51 障害児(者)の生涯発達支援システムの設計と実践(12) 関との連携や相談対応などを行う場合に、地域の療育支援を補助する者が配置される。保育所ではこ れまでも、平成24(2012)年度に全国で約5.1万人の障害のある乳幼児が受け入れられていた(保育所利 用乳幼児全体の約2.3%:厚生労働省調べ)。子ども・子育て支援新制度によって、「① 市町村計画 における障害児の受入体制の明確化、② 優先利用など利用手続における障害児への配慮、③ 様々な 施設・事業において障害児の受入れを促進するための財政支援の強化や障害児等の利用を念頭に置い た新たな事業類型の創設」を実施する。 (2)児童発達支援センターなどを中心とする地域支援の推進 児童発達支援センターは、その専門的機能を活かして児童相談所などとも連携しながら、その地域 で生活している障害のある子どもやその家族からの相談に応じるほかに、児童発達支援事業所や障害 のある子どもを受け入れている保育所への専門的な支援の実施、地域住民が障害のある子どもの理解 を深める活動を行うなど、地域における障害のある子どもの支援を行う中核施設の役割を担う。児童 発達支援センターの設置数は、 平成26(2014)年1月現在で福祉型が410カ所、 医療型が116カ所であり、 平成26(2014)年2月の状況は、児童発達支援は2,726事業所(利用者約6.8万人)、放課後等デイサー ビスは4,132事業所(約7.1万人)であった(厚生労働省調べ)。全国的に着実に整備が進んでいる。 (3)放課後等デイサービスにおける福祉・教育の連携 放課後等デイサービスは、児童福祉法にもとづき、就学している障害のある児童に授業の終了後ま たは休業日に生活能力の向上のために必要な訓練、社会との交流の促進やその他の便宜を提供するも のであり、障害のある子どもに学校や家庭とは異なる体験を通して、一人ひとりの子どもの状況に応 じた発達支援を行うことにより、子どもの健全な育成を図るものである。 放課後等デイサービスに当たっては、一人ひとり子どもの状況に応じた「放課後等デイサービス計 画」(個別支援計画)に沿った発達支援を行うが、授業の終了後の支援を行うことから、学校で作成 される「個別の教育支援計画」と「放課後等デイサービス計画」を連動させるなど、福祉と教育の連 携が必要である。平成24(2012)年4月に、厚生労働省と文部科学省が連名で「児童福祉法等の改正に よる教育と福祉の連携の一層の推進について」を通知した。 (4)個別支援計画の実施と評価-P(計画)D(実行)C(評価)A(改善)サイクル 障害のある子どもの支援を行うに当たって、障害の種別や程度にかかわらず、障害のある子ども当 事者の最善の利益が保障されなければならない。児童発達支援センターや事業所、放課後等デイサー ビスの支援の展開は、Plan(計画) ・Do(実行) ・Check(評価) ・Act(改善)サイクルを繰り返すこ とで、事業運営を継続的に改善することができる。児童発達支援管理責任者は、PDCAサイクルに よる支援を展開するときには、支援を受ける側の子どもや親(保護者) ・家族のニーズを詳細に把握す ることがもっとも重要な要件となる。