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第15回日本産業衛生学会産業医・産業看護全国協議
産衛誌 48 巻,2006 15 形成に役立ったことを,山田は,学生時代からの志でこ 地方会・研究会記録 の道に入り,ここまでのキャリアを実現した経緯を,木 第 15 回日本産業衛生学会 産業医・産業看護全国協議会* 田は,個人的な事情で専門を変えて開始したキャリアと して現在に至った経緯を,それぞれ紹介した.今回紹介 されたキャリアは極めて多彩であり,それぞれがモデル <メインシンポジウム> になりうるものであったが,今回のパネラーがキャリア 産業保健の新しい潮流を求めて を積んだ時代は,上記のような卒後教育・卒後修練の仕 ―人間工学の役割と課題― 組みが全く無かった時代であり,専門性獲得にはいずれ 甲田茂樹(高知大学医学部), も本人の我慢強い努力が無ければ実現不可能なものであ 荒木田美香子(大阪大学医学部), った.今後少しずつ仕組みが整備されてくれば,より多 水野賢治(佐々木工業株式会社), くの人たちがこれらのキャリアを踏襲できると期待され 川上 剛(ILO アジア太平洋総局) , る.また,キャリア形成には,転職がほとんど不可欠で 酒井一博((財)労働科学研究所) あるが,その場合の相談機関の整備も重要である. 座長:宇土 博(広島文教女子大学), 福岡悦子(新見公立短期大学) 指定発言者: Sudthida(タイランド) , 朴 正鮮(韓国), 小木和孝((財)労働科学研究所), 広瀬俊雄(仙台錦町診療所・産業医学センター), < 3 部会共催リレーワークショップ> 「働く人の健康(元気)を生み出す組織(職場)づくり」 のまとめ 常任担当:広瀬俊雄(仙台錦町診療所・ 産業医学センター) 和田晴美(国際セントラルクリニック) <パネルディスカッション> 産業保健専門キャリアへの支援 座長:大久保利晃(放影研), 宇土 博(広島文教女子大), 中明賢二(麻布大学) 全体座長:井上正岩(山口大学衛生学センター) 吉武八重子(山口県教職員互助会 教職員健康管理センター) 細本清子(マツダ健康管理センター) 原 邦夫(労働科学研究所) 本パネルでは,今後この分野を目指す人たちに対する, 班座長:昇淳一郎(パナソニック四国エレクトロニクス (株) わかり易い産業保健専門家の生涯キャリアモデルの作成 松山地区健康管理室) とキャリア形成の支援方策を検討することを目的にし 寺澤哲郎(三菱東京 UFJ 銀行健康センター) た.先ず大久保が基調講演として,キャリア形成の構成 昨年に引き続いて 2 回目となる今回のリレーワークシ 要素として,産業保健に関する卒後基礎教育,卒後修練 ョップは,約 140 名の参加者を得て,会場内に 6 つのグ 整備の必要性に触れ,中でも,産業保健修士課程の設置 ループを形成してのワークショップとなった.テーマに が急務であると強調した.その他,キャリア支援のため は,「過重労働問題」が掲げられ,その要因と対策につ の組織作り,奨学金,相談者,遠隔教育システム,資格 いて議論が行われた.議論の進め方は,ワークショップ 制度,所属組織の必要性を述べた.パネラーとしては, の本来の意義を踏まえて,最終的に形ある結論を導き出 土 肥 誠 太 郎 (三 井 化 学 本 社 健 康 管 理 室 ),畑 中 純 子 し,さらにリレー企画であることから,次回のワークシ (NTT 東日本首都圏健康管理センタ),氏家睦夫(氏家 ョップに結論を引き渡せるようにしようということを主 労働衛生コンサルタント事務所),山田琢之(なごや労 眼に企画された.進め方について常任担当の広瀬俊雄か 働衛生コンサルタント事務所),木田哲二(プライム: ら要因抽出と対策案を効率的に行う方式を説明をした. 独立コンサルタント)の各氏が参加し,それぞれ各人の 想定を大きく上回る 140 名という(事前登録以外の当日 キャリアについて述べた.土肥は,上司の勧めで臨床医 参加が 30 名にのぼる)多数が主体的に参加出来,大変 から専属産業医に転向後実務を通じてキャリア形成をは にユニークで有効・有意義との評価を得た.各座長によ かった経緯を,畑中は,看護職がキャリア形成をする上 るグループ員の自己紹介の後,グループワークが開始さ で困難な状況に置かれている現状を,氏家は,開業医と れた.まず過重労働の要因についての検討であるが,最 して産業医を受託した事業所から学んだことがキャリア 初に各人が,社会的で根本的と思われる要因を赤色の紙 に,そして比較的容易に取り組めると考えられる要因を * 会 期: 2005 年 10 月 14 日(金)∼ 15 日(土) 青色の紙に 1 つずつ書き出した.次に書き出された数々 会 場:広島市アステールプラザ の要因がグループ内で討議されて,最終的には赤紙と青 企画運営委員長:宇土 博(広島文教女子大学福祉工学) 色の各班 5 つずつにまとめられた.メインテーブルには 産衛誌 48 巻,2006 16 各グループの座長とコアメンバー 2 名の計 3 名,全体で 来年の 3 回目は,常任担当者と来期の担当者で検討され 18 名が中央テーブルに集合し各グループから提出され るが,例えば「職能や雇用形態毎の検討」 「マネージメ た赤色紙,青色紙に記載されているそれぞれ 30 の要因 ントシステムによる対応」等が考えられている.会員か を,6 つの要因に絞る作業が行われた.その作業におけ らの意見を期待したい. る議論ややり取りはすべてマイクを持って語られ,公開 され,全参加者がそれを見・聞きするという仕組みをと <ワークショップ> った.社会的に重要課題であるとされる 6 要因と個人的 1.企業の災害対策・災害発生時の被害者のトリアージ で比較的容易な課題であろうとされる 6 要因が抽出し, (選別)―集団災害発生時のトリアージについて― それぞれの要因は各 1 つずつ 6 グループに分配され,そ 中田啓司(東亜大学医療工学部, の要因についての予防・対策方法がグループ内で議論さ 日本医科大学大学院侵襲生体管理分野) れた.抽出された要因を紹介すると, (A)社会的・根 座長:田口豊郁(川崎医療福祉大学医療福祉学部), 本的要因:①長い総拘束時間(= 労働時間+残業時間+ 小林敏生(広島大学大学院保健学研究科) 通勤時間),②労働観の歪み,③労務管理上の不十分さ, 本ワークショップは,一般市民にも公開され,およそ ④管理者による対策の不徹底,⑤雇用環境の悪化と人員 30 人が参加した.災害が起きると,一度に多くの傷病 不足,⑥人間関係の悪化, (B)個人的・比較的容易に 者を発生させる可能性が高く,その中で限られた医療資 取り組めそうな要因:①産業保健スタッフの資質向上, 源を活かし,より適切な判断のもと多数の傷病者に最善 ②生活習慣病対策,③単身赴任の軽減,④セルフマネジ の医療処置を実施する必要がある.その際,医療資源・ メントの推進,⑤裁量権増加と作業負荷軽減,⑥職場支 被災状況を前提にその重症度や緊急度にしたがって傷病 援体制の充実であった.これらの対策案が各グループで 者の選別を実施してゆくことが重要である.トリアージ 討議され,その後,各グループの座長がグループ内で検 とは, 「緊急時の限られた人的・物的資源の状況下で, 討された対策案をまとめた.その内容の例は以下の如く 最大多数の傷病者に最善の医療を施すため,傷病者の緊 である.(A)①管理監督者への「職場のマネージメン 急度と重症度により治療優先度を決めること」である. ト研修の徹底」「具体的改善策の実施能力,②「風通し 演者によって, 「集団発生時のトリアージについて」の の良い企業文化形成」「健全な労働観育成研修」,③「労 明快な講演(約 50 分)が行われた.その概要は,①ト 務管理好事例の公表とガイドラインへの採用」「労働者 リアージは,災害時の緊急医療(災害現場でのトリアー の健康を考慮した労務管理の評価の採用」,④「実態に ジ,災害現場から医療機関への搬送,医療現場での治療) 即し効果的な法体系への革新」「管理者を法規制から除 の第 1 段階である.②トリアージは動的(dynamic)で, 外しない」⑤「雇用を増やす抜本対策」 「安全衛生委員 繰り返し行う必要がある.③トリアージ「篩い分け: 会,労働組合(職員組織)の発言力強化」⑥「職場各層 sieve」では迅速に優先順位を決める.④トリアージ でのコミュニケーションの推進」「活発な人事交流への 「選別: sort」では,優先順位をさらに洗練させる.⑤ 支援」(B)①過重労働・過労死に関する知識,事例, 受傷機転や災害弱者を考慮する.⑥トリアージタッグは 行政動向の研修と事業所内動向把握力の向上,②健康作 変化しうる現時点の優先順位を示す―であった. その後, りの必要性の啓蒙, 「生活習慣病」予防への支援活動, 演者の指導のもと,座長も加わり全員参加で以下の実習 ③期間の全般的短縮と断れる制度に,単身赴任中の産業 を行った(参加者を 4 つのグループに分けた).実習内 保健スタッフからの支援,④教育・研修機会と自己目標 容は,【実習 1】ミニシミュレーション:与えられた 5 実現しうる環境作り,⑤まずは管理者教育,総拘束時間 人のけが人の観察結果をもとに,①まず自分自身で優先 短縮,⑥相談役を置く,職場内少人数単位でのミーティ 順位をつける.②各グループでディスカッションをし, ング.以上の内容を各班の代表が発表し,最後に常任担 優先順位を決定する.【実習 2】情報収集・トリアージ 当の和田晴美が全体のまとめをした.全体的に議論は非 タッグ記入: 2 人一組(患者役・トリアージ実施者役) 常に活発に行われており,過重労働に導かれる要因や過 になり,患者役からの傷病情報の聞き取りをもとに,ト 程についての検討がグループ内で深く行われた.またい リアージ実施者がトリアージタグに記入し,タグを患者 くつかの論点に集約するというグループワークとしての 装着する(役を入れ替わって再度実施)―であった.参 作業や,多角度から一つの論点を眺めるという作業は, 加者は,和気あいあいとした中で真剣に実習に取り組み, 参加者にとって過重労働問題を掘り下げる上で有意義な 成果を上げることができた. 企画であった.最終的なまとめ(Ⅰ∼Ⅴ回)は学会誌で 報告される予定となっているが,過重労働対策として一 般労働者のセルフマネジメントから企業風土への改革ま で幅広く小単位で論じられたのは大変に印象深かった. 産衛誌 48 巻,2006 17 2.作業関連性筋骨格系障害(上肢障害を中心に)と人 間工学 た.韓国産業安全公団産業安全保健研究院の朴正鮮氏か らは, (1)同国で筋骨格系障害の労災認定が急増し, 垰田和史(滋賀医科大学), 2003 年には労災認定総数の 65 %,(2)政府は,産業安 金 一成(トヨタ自動車), 全保健法に筋骨格系障害予防に係る条文を追加,(3)法 諏訪良子(三菱化学(株)), 規改正を受けて同公団が,職場における筋骨格系障害リ 小野雄一郎(藤田保健衛生大学) スク評価と対策のためのガイドラインを作った,(4)現 指定発言:玉川 聡(産業医科大学) 在,多くの企業で予防活動が進んでいることが報告され 座長:舟橋 敦(マツダ(株)健康推進センター), た.次いで,両氏提供の職場改善事例 8 例につき出席者 笠置恵子(県立広島大学) によるグループ討議を行い,参加型改善,国際交流の有 本ワークショップは,一般市民にも公開され満席の中, 用性について理解を深めた. 開催された.1960 年代にキーパンチャー病として登場 した上肢作業者の職業病は,キーパンチという特殊な業 4.メンタル作業負荷を調べる 務の作業負担に由来すると考えられていました.その後 座長:鎗田圭一郎(マツダ(株)健康推進センター), 電話交換手やベルトコンベアー作業者,保母など多くの 松山須美子(広島産業保健推進センター) 職種に認められるようになりました.最近の IT 化によ 産業医科大学 産業保健学部 第 2 環境管理学講座 三宅 り,対象となる作業者は爆発的に増加し,慢性化と難治 晋司教授にご講演いただいた.多くの文献から抜粋して 化の様相を呈しています.また,職業性ジストニアとい 「ワークロードの定義」を紹介された後,日本工業規格 う疾病があり,難病であると同時に一般の医療や産業保 人間工学―精神的作業負荷に関する原則―用語及び定義 健従事者にも認知されていません.両者は似通った作業 と ISO6385 の定義(2004)について述べられた.専門 から発症しうるだけではなく,相手に疾病に罹患してい 語と日常語との意味の違いのため,前者は理解しがたい るつらさを理解してもらえないという共通点があると感 が,負荷・負担・疲労の関係について,後者の説明のほ じていました.作業関連性上肢障害と職業性ジストニア, うが明確であるように思えるとのことであった.産業疲 それぞれの専門家から最近の状況を伺い,これ等の疾病 労をとらえるには,疲労よりも負担を指標にしたほうが を防ぐ手立てとして一番可能性のある人間工学的手法を よいことから,最近はワークロード(負荷・負担)評価 使って,両者の橋渡しを試みました.まず,演者の垰田 の研究が多く行われており,比較的簡便に用いられる主 先生から上肢障害の歴史と最近の知見を,金先生からは 観的指標について概説された.一つは日本産業衛生学会 工 場 の 人 間 工 学 的 改 善 事 例 ,諏 訪 先 生 か ら は 事 務 産業疲労研究会編 自覚症状調べ(2002)である.質問 (VDT)作業の人間工学的改善事例を発表いただきまし は 25 項目からなり,ねむけ感,不安定感,不快感,だ た.この後,上肢障害について小野先生にまとめていた るさ感,ぼやけ感の 5 つの群の得点を算出する.作業の だきました.次に職業性ジストニアについて 玉川先生 進行に伴い繰り返し行い,疲労状況を経時的にとらえる に指定発言をいただきました.動画で見るジストニアの ことを目的としており,個人や集団を比較するものでは 症状にフロアーから驚きの声が上がっていました.最後 ない.二つめは,NASA-TLX である.精神的要求,身 に,5 名の先生方と座長,そしてフロアーが一体となっ 体的要求,時間的圧迫感,作業達成感,努力,不満の 6 て上肢障害とジストニアについ議論をしていただきまし 項目について 低い/高い または 良い/悪い の両極を持 た.小さな架け橋が架けられた事で,新しい対策が生ま つ 12 cm の長さの線分上にしるしをつけさせ,どの程度 れることを確信をいたしました. 神経を使う作業であったかといった作業そのものについ て質問する.集計は,線分上に記された位置を 0 ∼ 100 3.アジアとの国際交流:タイ,韓国の参加型職場改善, の数値として読み取り素点とする.各個人毎に算出され 筋骨格系障害リスクアセスメントの報告とワークシ た重み付け係数を用いることが特徴であり,対象作業に ョップ 関して上記 6 項目すべての組み合わせ 15 通りを比較し, 座長:久永直見(愛知教育大学), どちらの項目がよりメンタルワークロードへの寄与が高 川上 剛(ILO アジア太平洋総局) いかを被験者自身に判断させて,寄与が高いと判断され タイ国立労働条件環境改善研究所のスチダ・クルンク た回数を係数とし,これを各素点に掛けた総和を係数の ライヲン氏から, (1)同国の労災千人率が 29.2 と高い, 総和 15 で割ることにより,ワークロードの平均値を得 (2)参加型の職場改善活動を 1986 年以来実施し,1996 年からは労災多発企業をも対象にして労災を減らした, (3)同活動は,農村,建設業,家内労働等にも拡大, (4) 国際的経験交流・ネットワークが重要なことが報告され る.最後に,産業疲労の問題は,いかにして疲労の発現 を抑制するかがその目的であり疲労評価だけでは対策は 生まれないと結ばれた. 産衛誌 48 巻,2006 18 5.口腔乾燥症(ドライマウス)と口臭症―その原因と 治療法について― 策を実施すると効果的であること.中小企業,建設業, 農業,給食調理,介護などの職場改善では,写真を用い 演者:小田正秀(広島市歯科医師会学術担当理事, た改善実施が広く行われてきたこと.職場の写真は,改 労働衛生コンサルタント) 善を促す大きな利点として,1)実施可能な改善策が理 座長:堤 明純(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科), 解できる,2)改善を行う手順が読み取れる,3)目標が 山田隆子(JA 山口厚生連) 明らかでグループ討議しやすいことが指摘された.その 近年,種々のストレスの増大,高年齢化,疾病構造の 後,参加者は,2 人ずつのペアに別れ,壇上の 13 枚の 変化,食生活の変化および清潔認識の高揚等に伴い,口 アスベスト除去および 12 枚の介護施設の改善写真のパ 腔乾燥症(ドライマウス)や口臭に悩む人が増加してい ネルを見ながら,グループ討議を行い,有効な対策に投 る.また,それらがテレビや週刊誌等のマスメディアで 票する形で行われた.アスベスト除去については,名取 も取り挙げられることが多く,社会的な関心も高くなっ 先生(ひらの亀戸ひまわり診療所)の説明があり,多く ている.口腔乾燥症は,文字通り「口が渇く」ことを主 の市民の関心を呼んだ.介護施設のグループ討議では, 訴とするが,「話しづらい」「食べ物が飲み込みにくい」 特別養護老人ホームのせせらぎ園の改善事例を取り入れ など QOL に影響を及ぼす.高校生のアンケート調査か た介護施設用のアクション・チェックリスト 30 項目が ら,口腔乾燥症はう触数や肥満と関連のあることも示唆 配布された.このうち,調理職場の改善事例については, された.口腔乾燥症の原因としては,シエーグレン症候 せせらぎ園の管理栄養師の國末さんにより説明が行われ 群など全身性疾患と同様に,薬剤に起因するものが多く, た.その後に,グループ討議により,必要項目に投票し, 健康管理上留意すべき点であることが分かった.口腔乾 投票率の高い項目 20 項目に絞り,翌日のメイン・シン 燥のケアにより,感染症や潰瘍をはじめとするさまざま ポジウムに合わせて参加者に配布された.最後のまとめ な口腔内疾患が改善するが,口腔乾燥症は水分摂取,口 に,悪い問題点ではなく良い事例を学んで改善してゆく 呼吸,いびき・睡眠時無呼吸症候群,室内環境など日常 ことが大切で,その際,参加型の改善を行うことによっ 生活もしくは関連疾患と関連していることから,これら て,改善をともに進める機会をつくれ,優先策が決めや へのアプローチが,本症の予防に寄与することが分かっ すい,すぐに実現できる,低コストが可能などの利点が た.口輪筋や舌の筋力アップは効果があり,その簡単な 多いことが強調された.今後,高齢化社会に対応した介 指導法が教示された.口臭症も自覚的な悩みの大きい症 護施設の作業条件の改善は緊急の課題であり,市民およ 状である.原因としては,歯周病のほかう触や舌苔をは び会員の関心を呼ぶ企画であった. じめ,口腔乾燥症や心理的な緊張感も関与することが示 唆されている.舌苔の予防法(ブラッシング)や,口腔 内における舌の運動などに気を配ることで症状が寛解す ることが示された.口腔乾燥症や口臭症に限らず,口腔 7.第 3 回 産業医・産業看護・産業衛生技術部会合同 セミナーの報告 河津雄一郎((株)平和堂 健康管理室) 疾患は作業関連疾患である可能性,タバコなどの生活習 今回で第 3 回となる合同セミナーは,産業医産業看護 慣や疲労との関連があること,ひいては医療費増大に関 全国協議会の会期の前日から一泊二日で,呉市にて開催 わる経済的な影響があること,などがうかがわれ,今後 されました.職場巡視は,呉市の株式会社サンワテクノ の産業保健活動において積極的に考慮されるべき健康課 スで実施しました.サンワテクノスは,主に発電所等の 題として理解が深まったワークショップであった. プラントの配管を設計・製作している会社で,工場は鋼 管を切断,溶接,塗装をするラインとなっていました. 6.市民公開・参加型人間工学講座 社長自らが,工程の説明をして頂いたり,参加者からの ―職場の写真で学ぶ,人に優しい仕事場の条件― 質問にも丁寧にお答え頂いたりし,非常に深いところま アスベスト除去と介護の負担軽減 で職場の観察をすることができました.社長を始め,従 宇土 博(広島文教女子大学) 業員の方々は,安全衛生に非常に熱心で,今回の企画を 車谷典男(奈良医大),河野啓子(産業看護部会長) 通じて,改善可能な部分があれば,是非導入したいとの の座長のもとで,多くの市民の参加を得て,介護施設の 熱意が伝わってきた為か,参加者も工程を観察したり, 改善とアスベストの問題を取り上げ,参加型のグループ 作業者に話を聞いたり,作業環境測定の結果を引っ張り ワークを行った.小木先生(労働科学研究所)より,産 出してもらったりして,2 時間以上かけて職場を巡視し 業保健の視点からみた職場改善に大きな関心が寄せられ ていました.今回のセミナーは,アクションチェックリ ており,どの産業でも,多くの改善策を取り入れた作業 ストを使った改善策の提案が目標であったため,事後措 関連健康リスク対策がすすんでいること.人に優しい仕 置を含めた提案が求められました.そこで,高コストの 事場の条件整備には,現場の工夫に学んで,有効な改善 改善策と低コストの改善策を 3 つずつ提案することと 産衛誌 48 巻,2006 19 し,4 班に分けて 2 日目に発表することとしました.3 容 が 変 化 し た 者 は 21.2 % ,休 職 又 は 退 職 し た 者 は 部会のジョイント企画であったため,様々な職種で働い 36.8 %であった.産業医がいる企業にいた 146 人では, ている産業医,産業看護職,安全衛生技術者が,夫々の それぞれ 28.8 %,36.3 %,21.2 %であった.産業医がい 職場の改善案を披露しつつ,多様な提案を挙げてきた為, る企業では,労働者の健康に配慮した就業上の措置が実 議論が尽きず,発表の原稿を夜中までかけて作成する班 施されている一方で,休職や退職に至る事例が防止され もありました.発表は,全国協議会と同じ会場であるア ていることが示唆された.産業医は主治医と連携協力し ステールプラザに場所を変え,4 班に分かれてプレゼン ながら ICD 治療を受けた労働者の就労を支援すること テーションをしました.職場巡視で撮影したデジタルカ が望まれる. メラの映像を加工し,各班が様々な発表をし,非常に活 発な議論を展開することができました.第 3 回となる当 3.交代勤務の従事は高血圧の発症と関連する セミナーは,全員で実際に職場をみた上で議論をするた ○井上正岩(山口大学医学部衛生学教室) め,非常に実践的な知識を得ることができます.協力し 交代勤務の従事が高血圧の発症と関連するかどうかに ていただける職場を探すのは大変であろうとは思われま ついての知見を得る.製造業某事業場の正常血圧の男性 すが,今後も継続して実施していきたいと考えます. 労働者 785 人(交代勤務者 468 人(交代群),日勤勤務 者 327 人(日勤群))を対象者とし,2004 年までの 5 年 <ポスターセッション> 間 の 観 察 を 行 っ た .高 血 圧 の 基 準 は ,収 縮 期 血 圧 1.夜勤交代勤務と PSA(前立腺特異抗原) 140 mmHg 以 上 ま た は 拡 張 期 血 圧 90 mmHg 以 上 と し ○斉藤政彦(大同特殊鋼星崎診療所) た.観察開始時の平均年齢と血圧値に有意差は認められ 大規模コホート研究で昼夜交代勤務が前立腺ガンの危 なかった.生存分析での交代群の生存率は低かった 険因子であると報告された.そこで 50 歳以上の男性 (p = 0.036) .Cox 回帰分析における交代群のハザード 447 名の血清 PSA を測定し,夜勤交代勤務と関連性を 比は 1.61(95 %信頼区間 1.04–2.49)であった.今回の 検討した.現在交代勤務に従事している,過去に経験し 結果は他報告の結果と一致し,高血圧の発症に交代勤務 た,一度も交代勤務をしたことがないの三群に分けて比 がポジティブに関与する可能性を支持した.交代勤務者 較 し た と こ ろ ,PSA 値 は そ れ ぞ れ ,1.12,1.16, の血圧管理は重要視すべきであると考えられた.交代勤 1.01 ng/ml で,一元配置分散分析の結果,有意差は認め 務の従事は高血圧を発症するリスクであると考えられ られなかった.PSA は前立腺ガンの大きさやステージ た. と非常に良好な相関を示し,たとえ正常範囲でも PSA が高いほど,将来ガン発生の危険性が高いとされている. 今回の検討では,交代勤務経験別で PSA 値に差は認め られなかった.過去の研究でも交代性勤務と前立腺ガン 発生との関連性を示した文献は極めて少なく,今後より 信頼性の高い研究が期待される. 4.東芝における産業保健スタッフ教育システムの構築 ○中川祐子,浦山智子,山崎有子, 中村佳代,橋本浩子,高崎正子 ((株)東芝) 2002 年東芝に所属する全医療職は,各事業場ごとに 活動していた業務内容をテーマごとに見直し,新健康管 2.ICD(埋め込み型除細動器)治療が就労に及ぼす影 響についての実態調査 1 理体制の構築について検討すべく,いくつかのプロジェ クトを立ち上げた.その中の 1 つである「産業保健スタ 1 1 2 2 ○川瀬洋平 ,堀江正知 ,河野律子 ,安部治彦 ッフ能力向上ワーキング」において,①各事業場での看 産業医科大学産業生態科学研究所産業保健管理学, 護職のおかれている現状及び業務の把握②現状に基づい 2 産業医科大学医学部第 2 内科学 た教育システムの構築と業務標準化③産業保健スタッフ わが国において ICD を埋め込む治療を受けた患者は 間での情報交換による孤立感の防止と連携強化④東芝に 累計で約 4,000 人と推定されている.2004 ∼ 2005 年に おける産業保健活動のあるべき姿(未来カタログ検討) かけて日本心臓ペーシング・電気生理学会の ICD 委員 を目的に活動を進めているが,今まで各事業場で抱え込 会と厚生労働科学研究・労働安全衛生総合研究事業研究 み解決できなかった業務上の悩みや課題を何度も検討す 班が ICD 治療施設を通じて患者に配布した調査の結果 ることで,まずは経年別教育システムを策定した.現在 を基に,ICD 患者の就労の実態に関して検討した.合計 は業務標準化のためのマニュアル作成,スタッフ間連携 で 1,901 人の回答者のうち,1,282 人(67 %)が ICD 治 強化のための地区別研修会を企画中であるが,社内独自 療前に就労しており,そのうち 896 人は企業等に雇用さ の教育ポイント制度の導入や教育成果を評価するための れている者(以下,労働者)であった.労働者のうち, 基準制度の確立などが今後の検討課題となっている. 治療後に,同じ仕事に復帰できた者は 31.7 %,仕事内 産衛誌 48 巻,2006 20 3 5.Survey for the Medical Needs and Living Condition in the 2004 Sri Lanka Tsunami スキルインフォメーションズ株式会社) 我々は,労働者にわかりやすい健診結果を開発するた Disaster めに,NPO 法人ささえあい医療人権センターの電話医 ○ Keiji NAKATA, Yuichi KOIDO, Hiroyuki YOKOTA, 療相談担当 6 名から,わかりやすい健診結果のあり方に Yasuhiro YAMAMOTO ついてヒアリング調査を行った.結果としては,1)用 (Dep. of Emergency and Critical Care Medicine, 紙のサイズ:保存しやすい A3 がよい.2)印字:薄い Nippon Medical School) 色はだめ.ドット・プリンターはわかりにくい.3)健 Objectives of the survey are 1. To clarify medical 診結果の裏面を有効に利用してほしい.4)経年グラフ needs, predict outbreaks of disease, and consider は意味がわからないので,なくてもよい.5)検査結果 changes in living conditions for the injured during the の表記: 2 年分で十分.5 年分もいらない.6)健診結 sub-acute phase in the Sri Lanka Tsunami disaster. 2. 果を 1 ヶ月も待てない人が多い.7)判定のコメント: To clarify the state of water and sanitary situation in 一般的に意味がわからない.「要精密検査」だけではな Sainthamaruthu, and provide a future direction for く,どういう病気が考えられるから,どのような検査を continued medical service. 3. To survey injured those いつまでにしないといけないのか,表記してほしい. who hurt too badly to come to our clinic. The study was performed by interviewing the displaced people in the camp according to the questioner sheet and examine the status of water and sanitation. The med- 7.プレチスモグラムを利用した血管壁インピーダンス の推定 ○寺尾 譲(広島大学大学院工学研究科) ical needs; The survey was conducted on 35 families 本稿では,血管の力学特性を機械インピーダンスを用 in Sainthamaruthu, a total of 199 persons. Regarding いてモデル化し,血管の状態変化を推定する手法を提案 to medical needs, Physical trauma was most common, する.血管のひずみをプレチスモグラム,血管に作用す affecting 24 % of those interviewed. Next was respi- る応力を動脈血圧を用いて測定し,最小自乗法を用いて ratory disease (14 %), skin disease (11 %) and finally, 一拍ごとにインピーダンスパラメータ(剛性,粘性)を mental problems (7 %). No serious cases were found. 推定する.本稿では,試作システムを用いてアセチルコ Water situation; Runnig water system was stopped by リン(ACh) ,及びカフェインを投与した際のインピー tsunami disaster. Drinking water/ There are 34 cases ダンスモニタリング実験を行った.ACh は,内皮細胞 of purified water and 1 case of mineral water. Most に作用して内皮由来弛緩因子を遊離させ血管を弛緩させ of the purified water was used as drinking water. る働きがあり,カフェインは,血管内皮機能の改善が予 Cooking water/There are 35 cases of purified water, 期されると言われている.実験結果から,アセチルコリ covering 100 % of the targeted persons. Maintenance ンの投薬量の増加に伴い剛性,及び粘性が低下している water/ Again, 35 cases of purified water covers 100 %. ことを確認した.また,カフェイン摂取後に推定した剛 Sanitation; Temporary public lavatories were used by 性が摂取前の剛性より低下していることを捉えた.以上 27 of the families, and domestic bathrooms were used より,本手法は時々刻々と変化する血管状態を評価する by the remainder. The insect bite situation; There was 手法として有用であることを確認した. an increase in 27 families after the disaster. There was a shortage of insect protection such as mosquito nets. Conclusion: 1. The survey of the first JDR medical team in Sri Lanka disclosed the typical features 8.ヘルシーレターを活用した健康増進活動の取り組み ○立花由紀,保戸田久子,村上 稔 (旭硝子株式会社京浜工場健康管理センター) of sub-acute phase in natural disaster. 2. Water and 本施設は健康増進 2005 運動を工場上げて実施してい sanitation were relatively good. 3. Early establishing る.その活動の一環として,ヘルシーレターを作成し活 measures of preventing insect bites are strongly rec- 動をした.モニターを募集し,月に 2 回レターを発送し ommended. 4. This type of survey is valuable to pro- た.電子メールは使用せず,各個人に封筒に入れて発信 vide data for making new plans of public health and した.また,実施前後でアンケートによる,意識調査を medical services in affected area. 実施した.レター開始前のアンケートでは,今後定期的 に運動,栄養管理を実行する予定はない.または,6 ヶ 6.受診者からみた,わかりやすい健診結果のあり方 1 2 ○清水隆司 ,清水嘉代 ,佐藤広之 月以内に実行する予定と回答した人が 79 %だった.終 3 (1 株式会社マイン,2 株式会社明電舎本社診療所, 了後,定期的に運動,栄養管理を実行している.維持も しくは,増進している.との回答が 92 %あった.これ 産衛誌 48 巻,2006 21 は,各個人へのレター発送の効果があったと思われる. 11.悪性中皮腫の病理診断―肺腺癌との鑑別― 今後も工場上げて活動できる内容を考えて行きたい. ○櫛谷 桂,武島幸男,井内康輝 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科病理学) 9.石綿管(水道管)の修繕作業に伴う石綿曝露 ○熊谷信二 1,中地重晴 2,車谷典男 3, 4 5 中桐伸五 ,片岡明彦 1 2 3 ( 大阪府公衛研, 環境監視研究所, 奈良医大衛生, 4 自治体労安研,5 関西労働者安全センター) 水道局職員の石綿管修繕作業における石綿曝露実態を 上皮型あるいは二相型胸膜悪性中皮腫と肺腺癌の鑑別 診断の免疫組織化学的染色による診断基準を確立するこ とを目的とする.胸膜悪性中皮腫 88 例(上皮型 69 例, 二相型 19 例)および肺腺癌 51 例のホルマリン固定パラ フィン包埋材料の薄切切片に対し,calretinin,WT1, AE1/AE3, CAM5.2, Cytokeratin 5/6, vimentin, 明らかにするため,石綿管切断作業時の石綿曝露濃度を EMA,thrombomodulin,mesothelin,CEA,CA19-9, 測定するとともに,119 市町村の水道局の修繕部門の職 CA125 に対する抗体を用いて,S.A.B.法にて免疫組織化 員を対象に質問紙調査を行った.石綿曝露濃度は 48 ∼ 学的染色を行った.単独の抗体では WT1 が最も高い感 170 f/ml であり,切断作業時(約 5 分間)以外の時間帯 度,特異度を示した.Calretinin も WT1 とほぼ同等の は石綿曝露がないと仮定して 8 時間平均値を算出すると 高い感度を示したが,特異度の面では WT1 に及ばなか 0.96 f/ml となった.この値は,日本産業衛生学会が示 った.Thrombomodulin は WT1 に次ぐ高い特異度を示 す評価値(過剰発癌生涯リスクが 1,000 人中 1 人の場 したが,感度の面では WT1,calretinin に劣った.腺癌 合: 0.03 f/ml,10,000 人中 1 人の場合: 0.003 f/ml)の の陽性マーカーでは,CEA が感度,特異度ともに最も 30 ∼ 300 倍のレベルである.また,質問紙調査からは, 高かった.複数の抗体の組み合わせでは,WT1 と CEA 修繕部門に所属していた職員 1 人当たりの累積日数が の 2 者の組み合わせが最も高い感度・特異度を示した. 235 日であることがわかり,石綿管切断作業の頻度を算 上皮型中皮腫と肺腺癌の鑑別には,WT1 と CEA の組み 出すると,1 年間に 17 日となった.これらの値から, 合わせによる検討がもっとも有用であると考えられる. 米国労働安全衛生局(OSHA)のリスク推定モデルを用 いて,水道局修繕部門の職員における,石綿管切断作業 12.阪神大震災によるアスベスト被害の経験と教訓 ○中地 重晴(環境監視研究所) に起因する生涯死亡リスクを推定すると,10,000 人中 6.0 人(肺癌 3.0 人,悪性中皮腫 3.0 人)となった. 我々は 1995 年の阪神大震災で大きな地震の二次被害 として,大気中のアスベスト濃度が増加したことを経験 10.岡山県玉野市で開設した「石綿臨時健康相談」の 効果・影響について ○道明道弘,石川 紘(岡山産業保健推進センター) した.阪神大震災では 26 万戸以上の家屋が破損し,鉄 筋のビルは 1,224 棟倒壊し,使用不能になった.倒壊し た建物の多くに,アスベストが吹き付けられており,解 8 月 10 日付で厚労省より実施通達が全国 7 都道府県に 体作業に伴って大気中のアスベスト濃度が上昇した.あ あり,当県では玉野地域を指定,岡山産業保健推進セン るクロシドライト吹き付けの解体現場周辺で,160 ∼ ターが一部を担当した.対象は健康被害が多発している 250 本/ L という高濃度のアスベストを検出した.平常 玉野三井造船の離職者を含む労働者や近隣住民で,8 月 時から,吹き付けアスベストの存在を調査し,見つかれ 30 日午後,当推進センター相談員で今回,厚労省石綿 ば除去工事を行う.その他のアスベスト含有建材も極力 対策研究班長に就任した岸本卓巳岡山労災病院副院長に 使用しないことが重要である.日本では,近い将来大地 よる「石綿による健康影響に係る講演」の後,当センタ 震の発生は確実であり,吹き付けアスベストによる環境 ー相談員(産業医学)3 名と同氏が当日の相談者 75 名 汚染を防止するためには,地方自治体が地震の防災計画 の内,27 名を担当した.①相談者は曝露歴のある労働 を作成する際には,建物のアスベスト対策は必ず検討す 者 25 名(全員男性)と同じくその家族 2 名(女性).② るようにしなければいけない. 平均 70 歳と離職者が多く曝露期間も平均 29 年で,認定 を含めた早急な対策を痛感.③石綿肺要健診者は 15 名 で,全てが労災病院での対応が中心となる点,新たな問 題が派生.④半数以上に当たる 14 名は既に何らかの診 13.心筋梗塞予報 ―心筋梗塞の予防と早期治療のために― ○松村 誠(広島県医師会) 断を受けており,内,8 名は現在も某病院に受診中のた 広島県医師会では,広島県下における心筋梗塞の発症 め指導内容に特に留意.⑤第 2 回目は 10 月 28 日に予定 と気象条件の関連を,県下 3 地域(広島地区・福山地 されている. 区・備北地区)で 2001 ∼ 2003 年の 3 年間の各地区にお ける救急隊による心筋梗塞症例の搬送状況と気象条件の 関連につき調査研究を行った.その結果,心筋梗塞の発 産衛誌 48 巻,2006 22 症には,気象条件(寒冷前線や帯状高気圧の通過時に多 発),特に気圧(1,013 hPa 未満に多発)と気温(6 ℃未 16.産医研における職業病・作業関連疾患全国サーベ イランスプロジェクトについて 満に多発)の変化が深く関係していることが明らかにな ○毛利一平(産業医学総合研究所) った.広島県医師会では,その結果をもとに「心筋梗塞 職業病・作業関連疾患(WRD)対策がより予防的指 予報」を 2004 年 11 月より,広島県医師会のホームペー 向を強める中で,サーベイランス手法の確立への関心が ジ(http://www.hiroshima.med.or.jp/)で開始し,毎日 高まっている.日本には代表的な例として労働者死傷病 更新している.この心筋梗塞予報を県民に広報すること 報告があるが,現状では WRD の発生を的確に把握でき により,心筋梗塞発症の予防と早期受診の喚起により, てはおらず,エビデンスに基づく安全衛生対策立案・実 早期診断・治療が推進されることが期待される. 施の妨げとなっている.産業医学総合研究所では,2003 年より新たなサーベイランスプログラムの構築を目指し 14.メタボリックシンドロームの危険因子を学校検診 から予測する たプロジェクトを進めており,すでに疾病の作業関連性 の 評 価 の た め の シ ス テ ム の 構 築 を 終 え た ○田中美紗,加藤匡宏 (愛媛大学教育学部附属教育実践総合センター) (https://wrd.niih.go.jp/).また,2005 年度からは特定 の WRD を対象としたサーベイランスも開始する.これ 小児肥満は,将来メタボリックシンドロームの危険因 までのところ,①喘息,接触性皮膚炎など二つ以上の疾 子となり,動脈硬化が原因となる脳心事故を発症する可 患で報告基準を作成すること,② 50 の定点/登録医を 能性が指摘されている.そこで,学校保健定期健康診断 確保することなどを目標として活動しているが,最も重 結果を用い,動脈硬化指標(LDL/HDL 比)と肥満指標 要な②が遅々として進んでいない.全国の産業医の皆さ との関連性を検討する.さらに,3 種の肥満指標(村田 んの積極的な参加をお願いしたい. 式肥満度,ローレル指数,BMI)の LDL/HDL 比に対 する敏感度と特異度を求め,肥満指標から児の動脈硬化 17.ゆびまがり症 (その 1)病因論について 1 2 ○田島隆興 ,上野満雄 を予測できるかを明らかにする.その結果,(1)肥満指 標全てにおいて,LDL/HDL 比との間に関連性が認めら れた. (2)ローレル指数が LDL/HDL 比に最も高い敏 1 ( ひまわり医療生協田島診療所,2 自治労顧問医) ゆびまがり症のこれまでの病因論を概括し,今後の理 感度を示し,村田式肥満度は最も高い特異度を示した. 論的な方向性を紹介した.1)従来の病因論は大体否定 本研究では,ローレル指数と村田式肥満度が,動脈硬化 されているようである.①遺伝: Stecher R. M. ②女 罹患の可能性を判断する指標として有効であることが示 性 hormone,甲状腺 hormone 唆された. tear,microfractures ; 1972 年に Radin 等が提案したが, ③老化 ④ wear and 15.健康日新 21 への取り組み(中間報告) 学公衆衛生学教室,中央災害防止協会,Framingham 2003 年に訂正した.2)最近の病因論:①仕事:岡山大 ○山本真二,戸村通子(日新製鋼(株)周南製鋼所) report(膝の OA と仕事との関係)②機械的因子:日本 平成 13 年から始まった健康日新 21(健康づくり活動) 整形外科学会 ③ microcracks(microdamage) : Radin の取り組みにおいて 4 年間の経過を振り返り,目標に対 は microfractures を撤回し microcracks(微細亀裂)が しての進捗状況を把握し,今後の取り組みについて検討 原因であると変更した. ④遺伝子:今年報告が出され することを目的とした.7 領域について 8 目標を設定し た(池川志郎他).3)その他の論点:① osteoporosis と 取り組みを行なってきた.対象は出向者を含む約 1,200 の関連: Dequeker J. 名.8 目標の中で「運動」「たばこ」 「高血圧」の進捗率 概念 ③ primary generalized OA(pGOA) . ②退行性変性という意味の無い は高く,「ストレス」「アルコール」の進捗率は低い傾向 であった. 「BMI」「糖尿病」「高脂血症」は H13 年度よ りわずかに劣る傾向にあった.自覚的ストレス増加やア ルコール摂取増加の一因として,職域での小人数化によ る業務負荷の増加も考えられ,衛生教育だけでなく業務 の見直し等も検討する必要が示された. 「BMI」 「糖尿病」 「高脂血症」は,平均年齢が 1 歳低下したにも拘らず改 18.指曲がり症 (その 2)近畿地区における手指変形 性関節症の公務災害認定の現状 1 2 ○田島隆興 ,上野満雄 (1 ひまわり医療生協田島診療所,2 自治労顧問医) ’88 年以来,私たちは学校給食調理員(大阪府,兵庫 県,奈良県)の手指変形性関節症を業務に由来すると考 善傾向になかった.特に 30 歳台から肥満傾向を示す者 え公務災害申請しました(’88 年より’03 年まで,全て女 が多く,今後は衛生教育や実践を交えた肥満者対策の取 性 ).申 請 者 数 116 人 ,公 務 上 と 認 定 さ れ た 数 65 人 組強化が必要である. (56 %),公務外と認定された数 51 人.申請時平均年 齢: 116 人: 53.1 才,公務上と認定された人の申請時平 産衛誌 48 巻,2006 23 均年齢: 65 人: 52.3 才.大阪市の学校給食調理員の総 数は 1,200 名程度ですから,認定者数は全調理員の 2 % 弱 と 計 算 さ れ ま す .神 戸 市 の 学 校 給 食 調 理 員 は , 21.看護師早期離職対策にあたって―退職者アンケー ト調査結果報告― ○坂田知子 1,原田みゆき 2,竹田智美 3,石橋静香 4, 5 5 5 6 尾久征三 ,山本尚寿 ,丸谷隆光 ,松林 直 500–600 人程度ですから 3 %強となります.民間にても (福岡徳洲会病院 1 地域医療部健診科, 2 名(1 名は,調理員,他の 1 人はプレス工)労災と認 2 定されています. 健康管理センター,3 庶務課,4 医療安全管理室, 5 19.学校給食調理員の変形性手指関節症(指曲がり症) の検討 総合内科,6 心療内科) 看護部早期離職対策を考えるにあたって問題点の確認 のため,退職者アンケート調査を施行した.平成 15 年 1 1 2 ○冨田 茂 ,天明佳臣 ,伊藤昭好 , 3 長須美和子 ,酒井一博 3 病院職員を対象とする職業性ストレス簡易調査票を用い たアンケート調査では,看護部 20 代女性,特に入職 (1 港町診療所,2 産業医科大学,3(財)労働科学研究所) 1–5 年未満に「総合健康リスク」,[仕事でストレス]・ 職場巡視を通じて学校給食調理員の手指に発生した変 心理的ストレス・身体的不調の訴えが高かった.仕事の 形性関節症(OA)の特徴と経時的傾向を検討.手指変 負担(量・コントロール) ,同僚の支援低下が要因であ 形のある 88 名の女性調理員を対象に X 線上 OA を評価. り,早期離職が悪循環を招いていると考えられた.今回 複数回撮影例は初回を対象.平均の差は t 検定,多重比 の調査では,平成 12–16 年に退職した看護師 416 名から, 較で検討.平均年齢 54.1 歳.年齢と OA 罹患関節数は正 主に 20 代女性を中心に 110 件のアンケート回収をえた. の相関.遠位指節間関節(DIP)に多く,小指に多かっ 約 8 割の人間が不満を持ってやめ,9 割が改善を希望し, た.左右に有意差なし.近位指節間関節(PIP)に OA 多くの建設的意見が寄せられた.不満点は待遇(特に有 のある群は罹患関節が有意に多い.一人当たり罹患関節 給・週休などの休暇・給与),人間関係,改善希望点は 数は 8.8(’94–96 年),8.1(’97–99 年),6.8(’00–02 年), 待遇,満足点は人間関係とやりがいであった.調査結果 3.6(’03–04 年).加齢の関与は在職年数も関係.小指 はストレス調査結果よりの推測を裏付け,その有用性を DIP の罹患が特徴的で作業特性と関係.PIP の OA があ 推奨するものであった. る人には多発傾向あり注意すべき群.巡視を通じ 8 名が 労災認定され,全員この群.近年の罹患関節数減少は作 22.過重労働者に対する産業医による面接指導及びそ の事後措置 業条件ならびに環境の改善による成果と考える. 1 1 1 ○佐々木直子 ,堀江正知 ,筒井隆夫 , 20.開発研究部門におけるストレスの背景因子の分析 1 1 2 ○森木千恵美 ,多久和千恵子 ,福江香織 , 2 2 1 2 天野芳子 ,橋口克頼 ,中西麻由子 ,伊藤正人 1 (松下電器産業(株) 本社 R & D 部門西門真地区, 2 本社地区,3 高槻健康管理室) 1 1 2 永野千景 ,川瀬洋平 ,寶珠山務 (産業医科大学産業生態科学研究所 1 産業保健管理学, 2 同環境疫学) 「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(平 14 年 2 月)に基づいて実施されている産業医による長 「職業性ストレス簡易調査票」の「仕事のストレス判 時間労働者の面接指導の実態を聞き取り調査した.対象 定図」12 項目と「心理的ストレス反応」18 項目(悪い は,面接指導を実施している 25 事業場とした.面接指 傾向にチェックした数を以下愁訴数),時間外労働時間 導の対象者の選択基準には,人事が把握している労働時 を自記式で問うストレス調査により,開発研究部門のス 間以外の要因も考慮されていた.実施体制では,呼び出 トレス背景因子を解析し,メンタルヘルス対策について し業務で人事と健康管理部門が協力する方策,事前に看 検討した.調査票は 2004 年度定健対象者 1,315 名全員か 護職の面接や調査票で対象者を絞る工夫等がみられた. ら回収し,1,225 名から有効回答を得た(平均年齢: 問診内容は,睡眠に関する事項が最も多く,通勤時間や 39.3 ± 9.2 歳).ストレス調査票の分析結果では,愁訴数 手段,実際の時間外労働時間,休日出勤数,出退社時刻, がメンタルヘルスの指標になり,コントロールは精神的 職場の人間関係,業務見通し,仕事の負担感,休日の過 愁訴に重要な因子であることが示唆された.よって開発 ごし方等であった.事後措置を講じた事例は,労働時間 研究部門のメンタルヘルス対策としては,従来の時間管 を短くする対策,労働時間以外の過重な負担感を改善す 理に加え,コントロール度を改善するような施策を行な る対策,過重労働者の健康障害を治療する対策,長時間 うことが大切であると考えられる.役職などに関係なく 労働に関連した職場の有害環境に関する改善対策,職場 夫々の立場にあった裁量権を明確にしていくような対策 以外の要因を改善する対策に分類することができた. を,事業主・人事労務担当者と共に,積極的に働きかけ ていくことが必要であろう. 産衛誌 48 巻,2006 24 23.過重労働による健康障害防止対策についての産業 医の意識および職域の実態に関する縦断調査 ○堀江正知,浜口伝博,土肥誠太郎, 後藤浩一,中野修治,廣部一彦 25.職場環境等の改善を通じたメンタルヘルス対策 ―第 1 報 職場環境等の評価と改善ためのグルー プディスカッションの概要― 1 1 2 1 〇福江香織 ,天野芳子 ,森木千恵美 ,橋口克頼 , 中西麻由子 2,田原裕之 3,三島徳雄 3,永田頌史 3 (サンユー会学術実務委員会) 平成 17 年 2 月,サンユー会会員 727 人を対象に質問 (松下電器産業 (株)本社 R & D 1 部門本社地区健康管理室, 2 紙により「過重労働による健康障害防止のための総合対 策」 (平 14 年 2 月)の実施状況と「労働政策審議会建議」 3 西門真地区健康管理室, 産業医科大学産業生態科学研究所精神保健学教室) (平 16 年 12 月)の意見を調査し,250 人(34.3 %)から 研究開発部門において職場環境等の評価を行い,改善 回答を得た.労働時間の把握は,本人申告に依存してお のためのグループディスカッション(以下,GD と記す) り,裁量労働者や管理職では客観的な把握方法が普及し を実施した.本稿ではその事例を報告する.某社研究開 ていなかった.面接指導の制度があり(220 人)実施し 発部門で,常勤産業医が在籍している二地区の社員 ていた事業場(199 人)での面接時間の中央値は 15 分 1,315 名を対象とし,参加は管理監督者の判断によるエ であった.実施率は,平 14 年の 32.9 %から増加したが ントリー制とした.GD は管理監督者をファシリテータ 平 15 年の 79.1 %とは不変であった.面接指導の内容は とし「仕事のストレス判定図」 「メンタルヘルス改善意 睡眠時間の確保(160 人)が最多で,医療機関への紹介 識調査(産業医大高度研究班作成) 」を使用し,GD で 事例は抑うつ状態(73 人)が最多であった.面接指導 改善目標を立てる形式で行った.本活動の定性的評価と は役立つという意見(130 人)が多かったが,実際は労 して,管理監督者に事後アンケートを行った.結果は概 働時間が減らないことなどから役立たないという意見 ね良好であり,一定の評価を得た.結果を各地区安全衛 (63 人)も認められた.建議に基づく面接指導の法制化 生委員会で報告し,次回は全地区・全員を対象として展 は,賛成(125 人)が反対(52 人)よりも多く,そのた 開する決議を得た.今後も現場から挙げられた意見を反 めのマニュアルは必要という者が過半数(183 人)であ 映させ,「仕事のストレス判定図」「メンタルヘルス改善 った. 意識調査票」の経年比較による定量的評価を加え,より 事業場に適した活動としてスパイラルアップさせていき 24.産業医による過重労働者の面接指導に関する情報 たい. 提供ツールの開発 1 1 1 1 ○永野千景 ,堀江正知 ,筒井隆夫 ,川瀬洋平 , 1 2 3 佐々木直子 ,津上正晃 ,寶珠山務 1 ( 産業医科大学産業生態科学研究所産業保健 26.職場環境等の改善を通じたメンタルヘルス対策 ―第 2 報 職場環境等の改善目標の傾向― 〇橋口克頼 1,福江香織 1,天野芳子 1,森木千恵美 2, 2 管理学研究室, ビズ・コレジオ株式会社, 3 産業医科大学産業生態科学研究所環境疫学研究室) 2 3 3 3 中西麻由子 ,田原裕之 ,三島徳雄 ,永田頌史 (松下電器産業 (株)1 本社 R & D 部門本社地区健康管理室, 2 過重労働に対する健康影響や対策については様々な報 告がなされているが,現場の健康管理スタッフや人事労 務担当者が必要な情報をすぐに簡便に入手することは困 3 西門真地区健康管理室, 産業医科大学産業生態科学研究所精神保健学教室) 研究開発部門において,職場環境等改善のためのグル 難である.そこで平成 16 年度厚生労働科学研究費補助 ープディスカッション(以下,GD と記す)を実施した 金労働安全衛生総合研究事業「事業場における過重労働 (第 1 報).本稿では GD から得られた改善目標の結果に による健康障害防止対策のための具体的方策に関する研 ついて報告し,その立て方について考察する.29 部署 究」で入手した過重労働の健康影響や対策に関する情報 から 121 の改善目標が挙げられた.研究開発では「勤務 をインターネット上にサイト(「過重労働対策ナビ」,平 時間・休息」 ,スタッフでは「組織運営・教育」のジャ 成 17 年 7 月 7 日より公開.http://www.oshdb.jp)を作 ンルが多く挙げられていた.改善目標の実施状況を職場 成し,過労死,衛生管理,安全管理,残業,脳卒中など 系統・改善目標の具体性で分類したが有意な差は認めら のキーワードを入力することにより必要な情報を無料で れなかった.ジャンル別では「裁量権限」「上司の支援」 検索することを可能にした.この情報提供ツールの利用 の実施率が良好であった.ともに管理監督者の判断に左 対象者は,企業の産業医や産業看護職,衛生管理者など 右される部分が大きいジャンルといえ,GD での効果と の産業保健スタッフ,人事労務担当者などを想定した. も考えられる.「技能活用・やりがい」での実施率が悪 情報源は前述の研究における文献や報告を用いた. かった.これは短期間での改善が難しいジャンルといえ, 3 ヶ月という評価期間の短さが影響したと思われる.今 回は,次年度展開のため 3 ヵ月後に評価を行ったが,引 産衛誌 48 巻,2006 25 き続き改善目標の実施状況についての評価を続けていき 29.小規模企業経営者の想いと安全衛生活動を結びつ けるツールの開発 たい. 1 1 2 3 ○下久保奈々 ,日野義之 ,山瀧 一 ,櫻木園子 , 4 5 6 菅 裕彦 ,茅嶋康太郎 ,藤野善久 , 27.妊娠後の就労率に影響する職場要因 ―産科外来 伊藤昭好 7,森田哲也 6,森 晃爾 1 受診者 1,200 人の分析― 1 1 1 ○車谷典男 ,鴻池義純 ,上坂聖美 , 1 井上俊之 ,牧野裕子 (1 奈良産業保健推進センター, 2 (1 産業医大実務研修センター,2 君津健康センター, 2 奈良県立医科大学医学部看護学科地域看護) 3 5 京都工場保健会,4 西日本産業衛生会, 鹿児島労働衛生センター,6 福岡労働衛生研究所, 7 産業医大産業保健学部) 妊娠女性の就労継続に関連する職場要因を明らかにす 経営者の想いと安全衛生を結びつけ,経営者に安全衛 るために,調査協力が得られた奈良県下の 7 医療機関を 生の必要性を自然に意識させるツールを作成する.安全 妊婦健診目的等で受診した全妊産婦を対象として,無記 衛生活動に対して理解がある企業 10 社の経営者を対象 名自記式のアンケート調査を実施した.1,231 人から回 に実施したインタビューデータに,以下の手順で検討を 答は得られ,妊娠判明時の就労者は 636 人であった.退 加えた.①インタビューデータから, 「経営が安全衛生 職の有無が不明または退職時期が無回答であった 34 人 と結びつく要素」を「○○だから(経営上の理由)×× を除いた 602 人のうち 295 人(49.0 %)が妊娠判明後に が必要(安全・衛生上の活動指標)」という形で抽出② 退職していたが,退職は特定の時期に集中することなく 抽出した経営上の理由・活動指標をグループ化し,経営 発生していた.Kaplan-Meier 法による退職率の検討で 上の理由を経営の要素とし,各要素を代表するキーワー は,年齢が若いほど,従業員規模は小さい方が,また正 ドを検討.10 社のうち A 社では,経営上・運営上の理 規社員に比べて非正規社員の方が,退職率が高く推移し 由として「会社として認められる」等が挙げられ,これ ていることが示された.これらの結果に経営主体を加え に関連する指標として「法律を守る」等が挙げられた. て,Cox の比例ハザードモデルを用いた調整オッズ比を 経営の要素として,人材確保・取引先・社会的信用・社 求めた結果では,年齢の若い群が,また官公庁に比べる 長自身の健康の 4 つが抽出された. と民間企業では退職オッズ比が有意に 1 を上回り,アル バイトに比べ正規職員は有意に 1 を下回っていることが 30.公災認定・労災保険給付請求書類を利用した針刺 し切創データベース構築とその分析 示された. ○吉川 徹 1, 2,酒井一博 1,松田文子 1 28.労働現場に応用できる対策指向型短期安全衛生研修 ○仲尾豊樹,内田正子,平野敏夫 (特定非営利活動法人東京労働安全衛生センター) WISE 方式の参加型安全衛生トレーニング教材を活用 (1(財)労働科学研究所研究部ヒューマンケアサービス 2 研究グループ, 職業感染制御研究会) 針刺し切創事例に関する公災・労災請求書の記載事項 をエピネット日本語版(Epysis109,職業感染制御研究 した参加型安全衛生研修を開発・実施した.対象者は地 会,2003)で分析した.対象 8 病院(総病床数 5,826 床) 方公務員現業職,実施時期は本年夏であった.事業場ビ において,12 ヶ月間に 200 件(3.4 件/100 床)の針刺し デオ映像等を見てチェックリストエクササイズとグルー 切創の公災・労災申請があった.感染管理室等の針刺し プ討議を行なった.また収集・選別した良好改善事例で 切創院内記録から申請率は 82 %(200/243 件).分析の ポストイットボーティングを行なった.グループ討議で 結果,1)針刺し切創発生率は看護師・常勤医師・検査 は多分野にわたりよい点の指摘と具体的な改善提案がみ 技師に比べ,レジデント・研修医は約 3 倍(9.2 件/100 られた.セッションの評価は「わかった」が多く,特に 人/年),2)医師と看護師では受傷原因器材が異なる,3) チェックリストエクササイズは全員が「わかった」 「よ 静脈留置針は使用後の片付け時,縫合針は使用中,翼状 くわかった」と評価した.職場ビデオ編集とトレーニン 針は使用中と片付け時に針刺し切創が発生する傾向にあ グキット開発で,効果的な参加型短期研修が出来ること り,受傷パターンは器材の種類とその使用特性(医療行 がわかった.但し,①研修の対象を労使の初級研修と位 為)と関連することが確認できた.対策提案に結びつく 置づける,②「良好改善事例ポストイットボーティング」 効率的な針刺し切創サーベイランスシステムの構築とそ や「対策志向型安全衛生活動の意義」をいれる,③フォ の活用は針刺し切創防止戦略立案に有効と考えられた. ローアップ研修を取り入れる,④トレーナー要請の中級 者研修を計画する,があわせて望まれる. 31.喫煙対策の現状と産業看護職の関わり状況調査 1 2 ○松本泉美 ,高橋裕子 (1 奈良女子大学大学院人間文化研究科,2 奈良女子大学) 産衛誌 48 巻,2006 26 日本産業衛生学会産業看護会会員を対象として,新喫 の作業場である内視鏡室におけるグルタルアルデヒドの 煙対策ガイドライン発令前後の職域の喫煙対策状況と, 気中濃度の測定を行った.グルタルアルデヒドの気中濃 産業看護職の喫煙対策への関わり状況の関連性を調査し 度測定は,大気中のグルタルアルデヒドをミニポンプお た.職域の喫煙対策は,空間分煙は進んでいるものの, よびアクティブサンプラーで採気した後,DNPH 誘導 喫煙場所の排気設備は変化がなくたばこの煙や臭いの漏 化固相吸着し,溶媒抽出を高速液体クロマトグラフ法 れが残存しており,受動喫煙防止の確立には至っていな (LC-10 型)で行った.測定は午前の作業時間帯に作業 いことが明らかとなった.また,喫煙対策の推進の障害 場と個人暴露における測定を分けて行った.測定条件は となるものとして,企業上層部の喫煙や喫煙対策への理 気温 25 ℃,湿度 45 %で,排気装置(壁付きファン 2 基) 解・喫煙者の反応が乏しいことなどがあることが明らか は稼働中であった.作業場における測定では内視鏡洗浄 となった.産業看護職は,喫煙対策への関わり度や関心 装置稼働中および洗浄装置の蓋開放時にはグルタルアル 度は高く,今後の喫煙対策の推進には,新ガイドライン デヒドの気中濃度は定量下限値(0.005 ppm)未満であ の遵守が必要であることが明らかであり,その推進役と った(0.004 ppm).また内視鏡洗浄装置の消毒剤(グル して産業看護職の活動が期待される.今後産産業看護職 タルアルデヒド 3.5 w/w %)交換時には 0.005 ppm であ が意欲を持って取り組めるようその位置づけが認めら った.一方個人暴露測定では内視鏡の洗浄後の取り出し れ,専門職としての役割を得ることと,継続的な教育受 作業時も,洗浄剤交換作業時も定量下限値未満であった 講の機会を得ることが必要であると考えられる. (検出下限値は 0.002 ppm).今回のグルタルアルデヒド 32.当社での禁煙支援の取り組み 「医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の の気中濃度は,厚生労働省平成 17 年基発第 0224007 号 ○新生修一((株)トクヤマ健康管理センター) 健康障害防止について」に準じた方法で測定した.作業 当社での禁煙支援の取り組みについて報告する.①ニ 場における測定では 0.05 ppm を超えた場所はなく,個 コチンパッチを用いた禁煙支援の開催:毎年 10 月に開 人暴露測定でも同様であったが,作業内容と測定環境に 催.平成 15,16 年度の参加者の 1 年後禁煙継続率はそ よっては現状よりも高濃度になる可能性はあるため,引 れぞれ 51.7 %(12 名/21 名),38.5 %(5 名/13 名)であ き続き保護具を装着しての作業が望まれる.またグルタ った.②禁煙外来開設:禁煙支援の機会を増やすため平 ルアルデヒドを取り扱う作業に従事する労働者に対して 成 16 年 6 月から開始.受診者は平成 17 年 7 月までで 53 は,労働安全衛生規則(昭和 47 年労働省令第 32 号)第 名であった.③ニコチンパッチ無料配布の実施:社員の 43 条に基づく健康管理や労働衛生教育が今後必要にな 要望に応え平成 17 年に 2 回実施.112 名に配布し,その るものと考えられる.今回,病院内視鏡室におけるグル うち 19 名が禁煙外来を受診した.④アンケートの実 タルアルデヒドの気中濃度測定を行った.作業場におけ 施:対象は禁煙外来受診者 53 名.回収率は 71.7 %(38 る測定も個人暴露測定も 0.05 ppm を超えた場所は無か 名/53 名).禁煙継続率は 39.5 %(15 名/38 名)で,回 ったが,今後の継続的な測定と合わせて労働者の健康管 答者の 8 割以上がニコチンパッチの効果を認めた.再喫 理や労働衛生教育が求められる.今回の測定を依頼した 煙のきっかけは「ストレス」や「アルコール」が多かっ (財)西日本産業衛生会・北九州環境測定センターと,助 た.禁煙支援においてニコチンパッチの処方は有効な手 言を頂いた黒木孝一労働衛生コンサルタントに深謝する. 段であるが,それに加えてカウンセリングによる意識づ 34.ハザード調査の実施と検知管による作業環境測定 けや継続的なフォローを行うことも重要である. 結果の報告 33.病院内視鏡室におけるグルタルアルデヒド濃度測 (1 金沢大学保健管理センター,2 プライム, 定の経験 1 1 1 1 ○丸山 徹 ,図師宏美 ,田畠弘子 ,岩本朋子 , 1 1 1 1 入江正洋 ,馬場園明 ,永野 純 ,上園慶子 , 2 3 3 清水周次 ,松本裕子 ,林 純 (1 九州大学安全衛生推進室, 2 1 2 1 3 ○亀田真紀 ,木田哲二 ,中林 肇 ,荻野景規 3 九州大学病院光学医療診療部, 同感染制御部) 3 金沢大学大学院医学系研究科) 国立大学の法人化にあたり,学内の全研究室を対象に ハザード調査を実施した.作業環境測定の実施と検知管 による日常管理の有効性について検討した.有機溶剤の 総ハザード件数は 2,445 件であり,有機則に基づく一部 今年度厚生労働省から「医療機関におけるグルタルア 適用除外申請結果は約 9 割が認可された.作業環境測定 ルデヒドによる労働者の健康障害防止について」の通達 結果はすべて第一管理区分であった.ハザード調査の実 があり(平成 17 年基発第 0224007 号),福岡労働局から 施と作業確認により,学内のハザードの把握が出来リス 各医療機関に周知徹底された(福岡労収基第 226 号). クコミュニケーションの機会にもなった.代替可能な作 今回これらに基づいてわれわれは本学病院の光学診療部 業もあった.短時間で少量多種の溶剤を使用する大学で 産衛誌 48 巻,2006 27 は,検知管による測定はスクリーニングとして活用出来 る.実験時の服装や保護具の着用,ドラフトの有効活 用・管理,薬品の管理のルール化と教育が大切である. ハザード調査の定期実施・管理,溶剤保管のルール化, 37.医療系大学における産業保健・看護の教育実習内 容の現状と課題 ○笠置恵子(県立広島大学保健福祉学部) 生活習慣病対策として厚労省は 40 歳以上の全国民が ドラフト管理のルール化,作業マニュアル,安全衛生教 健康診断を受けられる体制づくりに乗り出し,企業の健 育が必要であると思われた. 康保険組合など公的医療保険に対し,健診と保健指導の 実施を義務づける方針を打ち出し,予防の充実を図るこ 35.産業医学関連研修会の Web 配信に関する検討 1 ○織田 進 ,黒岩康教 とを検討している.また保健師国家試験の出題基準の中 2 (1 福岡産業保健推進センター, 2 九州電力株式会社・情報通信事業部・新規事業 開発グループ) でも“就職から退職までの産業保健・看護についての知 識や技術に対する能力”を求めているが,最近の医療系 大学における統合カリキュラムの中での保健師教育は十 分なものではなく,特に産業保健分野における取り組み 福岡産業保健推進センターの研修会について,インタ は弱い.そのような中で当大学では「1 日の多くの時間 ーネットを介した Web 配信の方法について検討した.1) をすごす職場における健康問題の考え方や歴史的変遷, ライブによる Web 配信および 2)パワーポイントを用 産業保健の概念特徴と実際を理解し援助の必要性と課題 いた研修会を MP Meister Slim(リコー)にて Web コ を学ぶ」という教育目標の中で産業保健看護に関する講 ンテンツに自動変換後配信した.【結果および考察】1) 義,実習をおこなっている.実習内容を検討すると職場 光ファイバーのネットワーク環境下で研修会をビデオカ の概況(オリエンテエーション)と最終カンファレンス メラで撮影しながら映像をウィンドウズメディアに変換 は殆どの実習施設で,また産業看護職の業務や役割の講 し,1 Mbps でライブ配信した.ブロードバンド環境が 義,健康相談や職場巡視・見学,健康診断の説明,見学, あれば世界中からリアルタイムで受信可能だが,受信側 実施等は各実習施設の特徴により行われている.短期間 のネットワーク環境の音声や映像に対する悪影響を少な の実習経験ではあるが,学生にとっては労働の現場での く す る た め 配 信 速 度 の 検 討 が 必 要 で あ る .2)MP 健康管理,安全管理などの実際を知る貴重な体験となっ Meister Slim を用いた Web 配信は,研修会終了後短時 ている.中壮年期からの保健予防活動は重要で健やかな 間で配信できるメリットは大きい.しかし,パワーポイ 老年期へつなげるためにも今後益々重要性を増すと考え ント中のアニメーションや動画に対応していなかった. られこの方面での対応を医療系大学においても取り組む 【結語】ライブおよび Web コンテンツについてインター 必要があると考える. ネットを介して配信できた.研修会を幅広く公開でき, さらに Web コンテンツは復習に活用できる. 38.自治体職場における,職場改善事例の紹介 ○上野満雄(自治労安全衛生対策室) 36.外国人向け,エルゴノミクスの研修コースの開発 と実施 自治労は安全衛生体制の確立と快適職場づくりをめざ して,職場改善を重視した全国的な取り組みを継続して ○戸上善夫,五十嵐晃一,住 潔 (中災防国際安全衛生センター) きた.自治労では,毎年 7 月を「安全衛生月間」として 位置づけ,全職場で安全衛生点検を進める取り組みを 国際安全衛生センターでは諸外国の安全衛生分野にお 1993 年から継続している.厚生労働省では,毎年 7 月 1 ける人材の養成を支援するため研修事業を行っている 日からの 1 週間を「全国安全週間」とし,10 月 1 日から が,今回当センターで実施している外国人に対するエル の 1 週間を「全国労働衛生週間」とした取り組みを行っ ゴノミクスの安全衛生教育について紹介した.諸外国に ている.自治労は,安全と健康を合わせて労働災害撲滅 おいても,物理的なハザード等による健康影響は大きな と快適職場の実現をめざした取り組みを行っている.今 問題となっていることから,エルゴノミクスの考え方を 回の報告は,安全衛生月間を軸に取り組まれてきた自治 導入した対策を含む研修コースの開発のため,医学,工 体職場の職場改善事例の一部を紹介するものである.活 学系の専門家から成るカリキュラム検討委員会を設け検 動の影響としては,自治体職場の職場改善事例を,単組, 討し,エルゴノミクスの基本について理解すること等を 県本部が報告し,安全衛生対策室で職場改善事例集とし 含むカリキュラムを作成し教育を行っている.これまで て集約し,全国に水平展開をすることによって,職場点 に,5 回実施し,15 ヵ国から 56 名の参加があり,研修 検活動の活性化に役立っている.職場改善のキーワード 参加者は日本で開発したカリキュラム等を自国の研修で は,参加,工夫,改善であることの認識が深まり,毎年 活用している.今後は,研修後の成果を,各国の研修参 多くの職場改善事例が集まってきた. 加者の協力得て,評価していきたい. 産衛誌 48 巻,2006 28 39.少人数ワークショップによる産業医実地研修会の 試み いと報告されている病棟看護師を対象に,対人関係技術 ―アサーション e ラーニング教材の学習効果を検証し ○木田哲二 た.中国地方の 1 病院の交代勤務に従事している女性病 (労働衛生コンサルタント事務所プライム, 棟看護師 32 名を対象とし,平成 17 年 2 ∼ 4 月に,計 3 石川産業保健推進センター相談員) 回の質問紙調査(学習前,学習後,1 ヵ月後)と,延べ 日本医師会認定産業医の単位取得にかかる研修会は, 70 分の e ラーニング学習を実施した.学習前と学習後, 講義型の教育が中心となり,産業医実務に直結する参加 学習前と 1 ヵ月後の得点変化を検定したところ,アサー 型研修会が不足している.そのために,石川産業保健推 ション得点の「知識」,「働きかける行動」は学習後に上 進センターで少人数ワークショップによる産業医実地研 昇し,1 ヶ月後も維持していた.また,学習前得点の高 修会を行った.【目的】1.産業医の経験が少ない受講者 い者は向上しにくいため,アサーションの下位因子別に が対象.2.参加型の講習.3.ひとりの講師により 90 対象者を中央値で 2 分した後,低得点群の変化を検討す 分の研修. 【内容】8 名 2 班の構成.1 班 4 名.研修内容 ると,「自己表現」 「他者尊重」 「合理的信念」も向上し は,講義 30 分:教育目的に関連する法や行政通達等, た.また,これらのアサーションの向上した低得点群の 及び実務事例の説明.討論 30 分:事例に対する判断業 職業性ストレスの変化に着目すると,「質的負荷」が軽 務についての討論.全体討論 30 分:講師による事例の 減する傾向がみられた. 解説と全体討論.【テーマ】1.健康診断の事後措置:就 労判定を中心として.2.過重労働・メンタルヘルス対 策の産業医面接の判定.【結果】産業医業務をリアルに 感じることが出来たと好評であった.【今後の展開】教 材の共同開発により,教育の内容を高めたい. 42.企業における禁煙推進活動 ○菖蒲田裕子(マツダ(株)健康推進センター) 社員の生活習慣病対策の柱として,禁煙対策に取り組 んでいる.仕組みづくり,職場づくり,人づくりの 3 つ の視点での取り組みの実際について報告する.1)仕組 40.福祉施設職場における参加型産業保健活動の一例 ○三橋 徹(ひらの亀戸ひまわり診療所) みづくり:総合安全衛生委員会で喫煙率低下の数値目標 を挙げ,管理監督者を中心に各部門で推進する流れをつ 参加型産業保健活動は,産業保健活動の有効な手法と くった.環境対策の推進のために「全社統一喫煙基準」 して報告されてきた.その特徴は,現場の多くの目で, を設定し,その徹底を図った.2)職場づくり:世界禁 良好実践を基に,できるところから段階的に多面からの 煙デーを起点とした禁煙週間に,職場ぐるみで活動でき 改善を働く人が自主的に継続して行っていくことであ る禁煙イベントを展開し,職場の禁煙意識を高めた.3) る.今回,日本の知的障害者福祉施設職場における参加 人づくり:禁煙したいと思った人の禁煙支援として,ニ 型産業保健活動の一例を報告した.安全衛生委員会活動 コチンパッチを使用した禁煙サポートプログラムを展開 では,アクションチェックリストを用いた職場巡回を毎 している.以上の活動により,2001 年度 51.4 %だった 月行い,委員による委員会の翌月は各部署メンバーを変 全社喫煙率は,活動 3 年後の 2004 年度には 42.0 %とな えて巡回し,なるべく多くの人が参加できるように工夫 っている.更に,社内の理解も得られ,タバコ自動販売 していた.この巡回は,参加者のトレーニングの役割を 機の撤去を行うことができた. 果たしていた.また,改善事例をインフォメーションシ ート(ビフォーアフターシート)の形で各部署で記録し 集積していた.これらのツールを用い PDCA サイクル 43.調理職場改善への取り組み ○國末礼子(さいきせせらぎ園) に沿った参加型産業保健活動により,各部署で自発的・ 本園は老人福祉施設で,一日平均 430 食を調理員 11 継続的に職場改善が行われ,職場の安全健康リスクの低 名で提供している.2004 年 7 月に腰痛や肩こりの治療 減に役立っていた. のため欠勤する者が数人出た.そのため,産業医から改 善案の提案を頂き,腰痛及び肩こりの原因になっている 41.e ラーニングを用いたアサーション教材の学習効果 ―看護師のストレス軽減のために― 1 な視点から取り組んだ.2003 年 7 月から 2004 年 9 月に 1 2 ○小林敏生 ,山岸まなほ ,小林丈真 , 3 2 1 長見まき子 ,島津明人 ,山口眞由美 1 ( 広島大学大学院保健学研究科, 2 3 中腰姿勢・上肢の挙上姿勢にポイントをあて人間工学的 栄養士と調理員のグループワークで①下洗いでの中腰, ②混和作業での腕の挙上③下膳シンクと洗浄器の配置の 不具合④重い排水溝のふたの掃除等 9 箇所の問題点を上 広島大学大学院教育学研究科, げ改善した.改善後の効果は,アンケート調査結果では 関西福祉科学大学社会福祉学部) 8 名(73 %)が軽減や良くなったと答えている.今回の 交代勤務や人命に関わる職務から職業性ストレスが高 取り組みで,調理員の意識の向上が見られ,作業中にも 産衛誌 48 巻,2006 29 腰痛や肩こり予防の視点で考え作業するようになった. 通所サービス・短期入所,グループホーム)では,日常 健全な環境で働くことが「安全な食事」「おいしい食事」 の移乗業務時の利用者の安心と介護員の負担軽減を目指 につながると考える.これからも働く人みんなの課題と して新しい移乗(スーパトランス)の普及に努めている. 考え,継続して取り組んでいきたい. 今回新しい移乗(スーパートランス)を踏まえての腰痛 アンケート調査を行った.介護 3 施設及び病院の移乗業 44.アルミナ使用特定粉じん発生源対策事例の人間工 学的考察 務にかかわる介護員,看護師全員を対象とした.回収率 は 68 %であった.開設時期,施設環境,平均年齢,経 ○昇淳一郎,吉田直樹 (パナソニック四国エレクトロニクス(株)) 験年数によって異なる結果となった.認知症の利用者の 多い施設の腰痛率が低い傾向があった.移乗の実施頻度 電気機械器具製造事業場で行われているアルミナ乾燥 が腰痛率に関与すると考えられた.また,スーパートラ 剤ふるい分け作業場において,自動搬送装置を設置した ンスの活用者の腰痛頻度が非活用者より低い傾向がみら 結果,粉じん濃度が低下し,作業時間も大幅に短縮した れた.この結果はスーパートランスを活用することによ 事例について,対策検討過程が人間工学的に妥当か否か り介護者の腰痛軽減につなげることが出来る可能性を示 を「ISO6385:2004 作業システム設計における人間工学 唆しているものと考えられた. の原則」に基いたチェックリストを作成し,事後的に検 証した.実際の対策は同チェックリスト各項目に概ね適 合しており,人間工学的に意義の有る改善策であったこ 47.ストレスは腰痛の原因に成り得るか?(腰痛重症 度評価指標の開発) とが裏付けられた.ISO6385:2004 に対応したチェック ○泉 博之,駒田裕之,神代雅晴 リストを用い,対策内容が人間工学的に妥当であるか確 認を行いながら改善対策を推進することが有用であるこ とが示唆された. (産業医科大学人間工学教室) 非災害性腰痛発症防止を目的として,腰部にかかる負 荷量と腰痛の重症度との関係についての調査を行う際, 対象者のストレス状態などの付加情報は,解析対象者の 45.EMG 信号を利用した代用発声システム ○杉山利明(広島大学大学院工学研究科) 条件をそろえるために重要である.本報告ではその中の ストレスと腰痛重症度との関連性について報告する.本 本研究では,発声機能障害者のための新しい意思伝達 調査では,職務内容および作業中に出現する姿勢等の負 装置の開発を目的とし,EMG 信号を利用した代用発声 荷評価項目,腰痛の重症度,付加情報(仕事以外の腰痛 システムを提案する.まず複数の生体電極を顔に装着し 発症要因および腰痛の重症度評価に影響を及ぼす要因) EMG 信号を計測する.次に,計測した EMG 信号のパ から構成される調査票を用いた.比較的短時間の繰り返 ターンの違いから母音および撥音(以下,音素)を推定 しを行う組立て作業に従事している約 1,100 名を対象と する.それを連ねた音素列をもとに,文脈から推定され して調査を行った.ストレスレベルは腰痛発症者数には る単語候補の中から単語識別を行う.音素および単語の 影響しないが,高いストレスを訴える作業者ほど腰痛の 推定には,統計構造を有するニューラルネットと隠れマ 重症度がより重度になる傾向が認められた.このことは, ルコフモデルを用いる.最後に,単語を順に繋ぎ合わせ ストレスは腰痛の発症原因にはならないが,腰痛への感 ることで文章生成を行う.また,粘着性の高い導電性ゲ 受性を高める,あるいは腰痛の重症化がストレッサーに ルをシート上に多数配置した電極を開発し,電極の装着 なっていることを示唆している. 性の向上と装着時間の短縮も図る.試作したシステムを 用いて発声機能障害者による文章生成実験を行った結 果,“おいしいお茶が欲しい”という文章が約 30 秒程で 48.ホームヘルパーの身体的負担軽減を目的とした介 入事例報告 1 2 1 ○北原照代 ,樋口由美 ,垰田和史 , 入力可能であった.試作した電極を用いて操作者の意図 1 1 辻村裕次 ,西山勝夫 する文章が精度よく生成可能であることを確認した. 1 ( 滋賀医科大学・社会医学講座・予防医学, 46.介護施設・病院における腰痛調査―新しい移乗の 試みを踏まえて― 2 大阪府立大・総合リハビリテーション学部 理学療法学講座) ○宮田信之,本間直美,尾崎恵美,川西弘晃, ヘルパーとその利用者家庭 10 例を対象に,介護作業 岩下 学 藤倉正行,宮田澄子 観察→チェックリストを用いヘルパーの身体的負担を把 (医療法人宮田病院・介護老人保健施設ごぎょうの里・ 握→介入策提案・実施→評価の手順で,負担軽減を試み ケアセンター桜づつみ) 医療法人宮田病院内の介護 3 施設(介護老人保健施設, た.①ベッドからポータブルトイレへの移乗介助にて, トイレ高を補高便座で高くした(福祉用具の導入).② 産衛誌 48 巻,2006 30 清拭・更衣介助にて,ベッド脇にある棚を作業時のみ移 今後,本作業負担評価方法を現場で運用し,フィードバ 動し,作業幅を 40 cm → 125 cm に拡大(家具・機器配 ックを行う予定である. 置の変更) .① ②ともに,ヘルパーの作業困難度は軽減 し,左背部と右腰部の筋電位改善率は比較的大きな正の 51.ポスターセッションのまとめ 値を示した.③車椅子からポータブルトイレへの移乗介 井上正岩(山口大学) 助にて,利用者を抱えて約 1 m 移動していたのを,ほぼ 55 演題のポスター発表が 14 のセクションに分かれて 回旋動作のみで移乗するよう助言(介護技術の助言) . 行われた.印象的だったのが,メインテーマにもある人 その結果,作業困難度は不変だったが,筋電位改善率は 間工学に関連した発表数の多さであり,全体の 1/4 を占 全部位で比較的大きな正の値を示した.今後事例を重ね, めた.内容も作業環境の改善事例から人間工学的対策の 労働負担の事前評価とそのマネージメントによる衛生管 検討,作業分析方法について,作業者の負荷評価等と多 理につなげていくことが課題である. 岐にわたっており,これからの産業保健が目指すべき方 向として,作業と人間の調和から対策を考える人間工学 49.膝当て付きズボン利用による身体負担軽減 ○辻村裕次,垰田和史,北原照代 (滋賀医科大学社会医学講座予防医学) 介護職員等に腰痛を主とした筋骨格系障害が発生して の視点の重要性が確認された.その他,現在最もホット な話題ともいえる石綿曝露に関連する発表,産業衛生ス タッフによる早急かつ効果的な対策が望まれている過重 労働問題に関する発表,さらに健康管理,作業関連疾患, いる.頻繁な体幹屈曲がその要因の 1 つである.改善の 快適職場形成,産業保健活動等に関連する演題が発表さ ために膝当て付きズボンを開発し,それを利用した膝着 れ,活発な討論が行われた.出題数が多数であったこと き姿勢による筋負担軽減効果を,中腰と膝着きで模擬患 もさることながら,会場での議論が大変に熱気を帯びて 者の脈拍測定時筋電図を測定することで評価した.膝着 おり,産業保健の実務の価値が深められる機会になった き姿勢の腰背部筋電位は約 1/7 であった.次に,膝当て ものと思われた. 付きズボンをはくことで,体幹屈曲から膝着きに転換で 平成 17 年度東海地方会学会* きた,または腰や膝が楽になった場面を紹介する.1) 障害児の排泄介助.「膝着きはたいへん楽」という感想 が得られた.2)車椅子への移乗後の足置き再設置.こ <特別講演> れは,介護作業で頻繁に行われる車椅子への移乗後に, 慢性疲労研究の成果と展望 必ず行われる作業である.3)床に座った被介護者の整 倉恒弘彦(関西福祉科学大学健康福祉学部健康科学科) 髪や椅座位被介護者と視線高さを合わせての会話.これ 座長:小林章雄(愛知医科大学医学部衛生学) らは,連続的に比較的長時間行われる作業である.対人 <教育講演> サービス業のみならず,産業現場において本報告のよう 1.職場における結核対策 な事例を収集し,その情報提供を推進したい. 犬塚君雄(愛知県健康福祉部) 座長:谷脇弘茂(藤田保健衛生大学医学部衛生学) 50.配電作業における作業負担評価方法の開発 2.職場における AED の導入・展開 1 1 2 3 ○駒田裕之 ,神代雅晴 ,近藤雄二 ,水野三津夫 1 2 中川 隆(愛知医科大学高度救命救急センター) 3 ( 産業医科大学, 天理大学, トーエネック) 配電作業は高圧活線工事など特殊な技術を必要とし, 座長:寺澤哲郎(UFJ 銀行名古屋健康管理センター) 3.職場における危機介入 中高年作業者(熟練作業者)の技能と知識,経験に依存 市川佳居(株式会社イープ) せざるを得ない局面が数多く見られる.一方,配電作業 座長:大久保浩司(浜松赤十字病院健診センター) の多くは高所作業が主体となり,重い使用工具や材料の 取り扱い,不良作業姿勢を伴うため,高い身体能力が必 <一般演題> 要とされ,作業者の身体負担は大きい.この対処には職 1.日本人の瞳孔直径の平均値と年齢との関連 1 1 2 ○山本敬子 ,赤松康弘 ,渡邊美寿津 , 務再設計が必須となり,そのためには,作業負担の的確 3 1 1 坪井宏仁 ,堀 礼子 ,小林章雄 な評価方法の開発が急務となる.我々は,東海地方の某 配電会社において経験的に用いられてきた作業負担評価 手法をベースとし,作業時の筋負担評価として全身 12 * 日 時:2005 年 11 月 26 日(土)10 : 00 ∼ 16 : 30 部位の表面筋電図測定を,作業の総合的な身体負担の評 会 場:愛知医科大学本館 3 階講義室,2 階「たちばなホール」 価として心電図測定を行い,またアンケート調査を実施 会 長:小林章雄(愛知医科大学医学部衛生学講座) して,単位作業当りの作業負担評価尺度の開発を試みた. 共 催:愛知県医師会 産衛誌 48 巻,2006 31 (1 愛知医科大学医学部衛生学講座, 目的とした.健常な成人男性 8 名を対象とし,搬入台高 愛知医科大学産業保健科学センター, および搬入台と搬入物との距離が異なる 3 条件を設定し 浜松大学健康プロデュース学部疫学・公衆衛生学研究室) 実験した.測定項目は,心拍数,酸素摂取量,節電図で 日本人の平均的な瞳孔直径のデータを考察するため あった.荷台の高さが同一の場合は,遠い位置からの積 に,愛知医科大学医学部衛生学講座が保有している瞳孔 み込み作業時の方が近い距離に比較し作業負担が低くな 画像データを用いて,年齢と瞳孔径の関係をまとめた. る傾向が示された.近い距離からの積み込み作業では, 2 年間の瞳孔測定調査を通して得られた 190 名(10 代か 荷台の高さが低い方が高い方に比較し作業負担が低くな ら 80 代まで)のデータを使用,喫煙者,服薬,糖尿 る傾向が示された.実験の被験者数が少なかったため, 病・血管障害(高血圧や心臓病等)・アトピー・バセド 統計的に十分な検討を行うことができなかった.しかし, ー病・うつ病・不眠症・その他の眼疾患を患っている者 軽量物を頻回に投入する作業においては,荷台の高さを を除外した.分析可能な人数は 127 名(男 82 名,女 45 低くすることや,荷台と積み荷との距離を一定程度離す 名)である.pearson 相関係数では中度の正相関が見ら ことにより,作業時の身体負担を低くすることが示唆さ れた(r =−0.56,p < 0.0001).比較基準年代を 20 代に れた.今後被験者数を増やし,軽量物の積み込み作業時 設 定 し ,各 年 代 間 の 相 違 を SAS の Dunnett 法 の 片 側 の身体負担についてさらに検討していく予定である. 2 3 (下方)で検定した.有意水準 5 %で推定した結果,40 代以降に瞳孔径が著しく小さくなることが判った. 4.身体障害者用コンピュータシステムの開発 ○飯田忠行,小野雄一郎,長岡 芳,今枝敏彦 2.幼稚園教諭の労働負担―作業中の姿勢解析結果 ○城 憲秀,井谷 徹,武山英麿,榎原 毅 (名市大・院・医 労働・生活・環境保健学) (藤田保健衛生大学医学部公衆衛生学教室) 筋ジストロフィーを罹患した大学聴講生を対象に対応 したコンピュータのシステムをソフト・ハード的に開 幼稚園教諭における運動器などの身体負担と作業中の 発・評価を行った.ハード面ではダブルクリック・ドラ 動作・姿勢との関連を探り,負担軽減策を検討するため, ッグが使用可能であった.しかし,身体障害者自身に合 幼稚園教諭の作業中動作・姿勢解析を行った.N 市 O った機器の整備を創り出すことにも困難と費用を伴っ 幼稚園に勤務する 4 名の担任(5 歳児担任 2 名: 20 歳代, た.課題として容易に PC 接続して,汎用性の高いシス 50 歳代,4 歳児担任 1 名: 30 歳代,3 歳児担任 1 名: 20 テムを作っていきたいと考える.本装置利用者に対して, 歳代)を対象として,2005 年 9 月に調査を実施した. 作業負担の軽減の度合いについての評価を行う必要があ 調査は,対象者の 1 日の仕事をビデオ録画し,後日,ス る.なお,ハード部のシステムは広島 TLO より,ダブ ナップリーディング法により姿勢や動作を観察した.各 ルクリック・ドラッグイベント制御装置として出願中で 教諭の 1 日の作業内容は,勤務時間の 6 ∼ 7 割が教育・ ある.ソフト部は,手の震えや不随意運動による誤った 保育作業であり,約 2 割が事務作業,1 割弱が休憩等の 文字入力にすることがあり,表示ボタンの大きさを変更 時間であった.姿勢をみると,立位時間の占める割合が, できるようにする必要がある.また,本ソフトはダウン 1 日の 50 %以上であり,とくに,園児在園時では,立 ロードおよび CD によって,広く配布可能な状態となっ 位時間は 6 割以上を占め,長時間にわたる立位姿勢がみ ている.今後,ハード装置およびソフトキーボードを普 られた.蹲踞や膝立ちなどの不安定な姿勢や前傾は,4 及させ高齢者および障害者雇用に役立てていきたいと考 名中 3 名の教諭で,それぞれ,1 日の作業時間の 15 %お える. よび 20 %以上の時間で発生していた.これらの姿勢は, 園児在園時に多く観察され,教育・保育時の姿勢を考慮 することが,幼稚園教諭の負担軽減に重要と思われた. その際,経験の長い教諭では負担軽減の工夫があり,軽 減策を考える上で,経験に基づく教育・保育手法は,他 教諭の参考になるものと推察された. 5.某社における騒音労働衛生対策について 1 1 2 ○塚田月美 ,飯田和子 ,榊原久孝 (1 松下電工電路システム株式会社, 2 名古屋大学医学部保健学科) 労働衛生教育によって,騒音に対する作業者はもちろ ん雇用者の意識を高めることで不必要な騒音暴露が回避 3.投入作業時の身体負担に関する実験的研究 ○村田健三郎,城 憲秀,武山英麿,榎原 毅, 久保智英,佐藤智明,高西敏正,井谷 徹 (名市大・院・医学研究科労働・生活・環境保健学分野) 本研究は,荷台の高さ,荷台と積み荷との距離に着目 し,反復する積み込み作業の作業負担を評価することを できれば,日々の一過性聴覚閾値移動が抑制され,結果 的に騒音性難聴の予防につながる.2004 年 3 月に実施 された騒音作業環境測定結果値が最大で 90 dB であった ので,正しい耳栓の着用により約 20 dB の遮音効果によ って,騒音による個人暴露は低減させることができる. 集団騒音労働衛生教育と,耳栓チェッカーを利用した正 産衛誌 48 巻,2006 32 しい耳栓の装着確認による個別労働衛生教育を実施し, ともにほとんど変化は認めず難溶性であった. 労働衛生教育前後に耳栓の遮音効果と着用意識を比較検 討したところ,改善がみられた.また,作業環境改善・ 作業改善により,2005 年 3 月の騒音作業環境結果が, 8.日本人男性における PPARα 遺伝子多型と飲酒との 関連 ○内藤久雄 1,李 85 dB 未満に改善された事例である. 鎬 1,上島通浩 1, 2 1 加藤貴彦 ,那須民江 6.実 験 的 VDT 作 業 負 荷 の 血 漿 セ ロ ト ニ ン お よ び 1 ( 名古屋大学大学院医学系研究科環境労働衛生学, 2 PDGF(血小板由来成長因子)濃度に及ぼす影響 ○寺平良治,川井 薫,石川浩章,伊藤康宏 (藤田保健衛生大学短期大学臨床化学) 宮崎大学医学部公衆衛生学) ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体 α(PPARα) は齧歯類におけるアルコール性肝障害に主要な役割を果 VDT(Visual Display Terminal)作業の心身への影 たしている.我々の研究の目的は第 1 に日本人男性にお 響を知る目的で,健常な男女大学生 22 名に 90 分間,日 ける PPARα 多型の存在とその頻度及び民族差を,第 2 本商工会議所ワープロ検定試験問題集からタイピング問 に飲酒と PPARα 多型との関連を見ることである.総計 題とビジネス問題を課題として与え,コンピュータ操作 706 名の遺伝子解析が行われ,一部既往歴などで除外し を負荷する実験的 VDT 作業を実施したところ,血漿セ た後,655 名の健康診断データをもとに飲酒と PPARα ロトニン(5-HT)濃度がストレスに同期して上昇した. 多型との関連を解析した.3 つの多型が発見され,その 血中 5-HT は腸管エンテロクロマフィン細胞か血小板に うち V227A の頻度が最も多く 0.05 であった.また,欧 由来するとされているので,まず血小板からの放出の可 米 で 報 告 の あ る L162V は 見 つ か ら な か っ た .逆 に 能性を確認する目的で,5-HT と同様に血小板から放出 V227A は欧米では報告がなく,民族・地域差があると される PDGF の濃度を血漿と血清について測定した. 考えられる.次に,頻度が高かった V227A と諸検査値 そ の 結 果 ,ス ト レ ス 負 荷 後 の 血 漿 PDGF 濃 度 は 有 意 との関連の解析を行い,V227A 群では総コレステロー (p < 0.002)に上昇し,血清 PDGF は有意な変動を示さ ル値が低く,飲酒により高くなることが明らかとなった. なかった.このことからストレス時の血漿 5-HT は血小 飲酒により V227A の活性が低下する可能性が推察され 板から放出されることが示唆された.VDT ストレス時 た. には血小板が活性化されるのかもしれない. 9.過重労働対策の実施状況に関する調査研究 7.シリコンカーバイドウィスカ(SiCW)の短期吸入曝 ○渡邊美寿津 1, 4 ,吉田 勉 2, 4,山田琢之 3, 4, 4 4 小栗利治 ,武井禧明 露におけるラット肺内繊維のクリアランスと形状変化 1 2 2 3 1 ○秋山 泉 ,大和 浩 ,大藪貴子 ,森本泰夫 , ( 愛知医科大学産業保健科学センター, 3 2 2 大神 明 ,山村香織 ,田中勇武 2 1 3 ( 東レ(株)三島工場健康管理室, 2 産業医科大学産業生態科学研究所呼吸病態学) なごや労働衛生コンサルタント事務所, 4 産業医科大学産業生態科学研究所労働衛生工学, 3 名城大学薬学部臨床医学研究室, 愛知産業保健推進センター) 過重労働による健康障害防止の取り組み状況を把握す 石綿に代表される繊維状物質の生体影響を評価するに るため,従業員 50 名以上の 700 事業場(某労働基準協 は,繊維の肺内沈着量,肺内滞留性とともに繊維の幾何 会会員)を対象に,回答のあった 455 事業場について検 形状の評価が重要であると考えられている.今回,人造 討した(回収率 65 %) .その結果,過去 6 ヵ月の間に月 鉱物繊維の一種であるシリコンカーバイドウィスカ 45 時間以上の残業「あり」49.2 %,うち産業医による (SiCW)の 1 ヶ月間の短期吸入曝露を行い,繊維の肺内 助言指導は 47.3 %が実施.月 100 時間あるいは 2–6 ヵ月 滞留性および繊維形状の変化について検討した. 間の平均 80 時間以上の残業「あり」は 24.6 %で,うち Wistar 系雄性ラット(9 週齢)40 匹を無作為に曝露群 産業医の助言指導は 69.1 %,産業医の面接による保健 とコントロール群に分け,吸入曝露(6 時間/日,5 日/ 指導は 60.0 %が行っていた.深夜業の健康診断につい 週,4 週間)を行った.曝露終了 3 日後,3 ヶ月後,6 ヶ ては年 2 回実施が 51.5 %,臨時健診や事後措置を実施し 月後,12 ヶ月後に各群 5 匹ずつ解剖し,肺内に滞留す ているのは 63.6 %であった.また,時間外労働削減の る繊維の本数および形状を測定した.繊維の幾何形状は, ための取り組みは,ノー残業デー,人員増員や補充,フ 走査型電子顕微鏡を用いて倍率 2,000 倍で撮影し,画像 レックスタイム制導入を中心に 71.4 %が実施,年次有 解析ソフトにて PC 上で計測した.ラット肺内に沈着し 給休暇を取得し易い環境づくりは 59.6 %が実施してお た SiCW の繊維本数の生物学的半減期は 4.0 ヶ月であり, り,半数以上の事業場が過重労働防止対策を実施してい 繊維径はいずれの解剖時期においても分布,幾何平均径 た. 産衛誌 48 巻,2006 33 10.長時間残業者の検討―現場系作業者と事務系従業 員との比較― 新健康管理体制の構築について検討すべく,会社の安全 健康担当部門の協力のもとにいくつかのプロジェクトを ○斉藤政彦(大同特殊鋼(株)) 単月 45 時間以上の残業者リストを,現場系作業者と 立ち上げた.その中の 1 つである「産業保健スタッフ能 力向上ワーキング」において,スタッフレベルの標準化 事務系従業員とで比較検討した.リストに上がってくる を目標に,全看護職の現状及び業務の実態調査を行った. 従業員の比率は事務系で高かった.また残業時間は,最 その結果,事業間における活動内容の格差だけではなく, 長・平均いずれも事務系の方が長かった.同じ人が 6 カ 個別スキルの格差があり,その背景に卒後教育の受講機 月のうち何回リストに上がったか調べたところ,現場系 会の少なさ,また 1 人配置でのアドバイザーの欠如など, では 1 回のみが最も多かったが,事務系は 6 回すべてに いくつかの問題が考えられた.以上の問題点について, 上がった人が多かった.1 回以上リストに上がった人を ワーキングメンバーによる検討を何度か重ねた結果,① 検討したところ,現場系では年齢が高く,ほとんどが夜 入社時から経年別での教育システムの構築②産業保健ス 勤交替勤務従事者であった.飲酒・喫煙習慣は現場系で タッフ間での情報交換による孤立感の防止と連携強化③ 悪かった.心理的負荷が主体の事務系に比べて,現場系 東芝における産業保健活動のあるべき姿(未来カタログ は肉体的負荷が主で,ほとんどが夜勤交代勤務をしてい 検討)が必要だという結論に至った. る.年齢も高く,喫煙・飲酒習慣も現場系で悪い人が多 い. 現場系作業者には時間以外の基準も必要と思われた. 一方,事務系では少数の人に過重労働が集中する傾向に あり,管理監督者がこのような人間を把握した上で配慮 13.管理監督者のリスナー研修に関して ○石橋正代,伊野ゆり子,冨田眞理,糟谷 歩, 奥村冨美恵,榊原一恵,斉藤政彦 する個別対応が有効と考えられた. (大同特殊鋼(株)) 過去 25 回実施したリスナー研修を,大きく 3 つの時 11.ある製造事業場における男性労働者の肥満と職場 ストレス,食行動との関連 期に分け,受講者のアンケートを中心に分析し,今後の リスナー研修の参考とするために検討した.第 1 期は, 1 ○西谷直子 ,榊原久孝 2 (1 東レ愛知,2 名大医学部保健学科) 講義と実習の両方に重きをおいて実施した.第 2 期では 講義を最小限にとどめ,実習を主体とした.第 3 期では 日本人の 30 歳∼ 60 歳代の男性に肥満者が増加し約 3 発見的体験学習法を取り入れた.第 1 期では,評価点は 割は BMI 25.0 kg/m2 以上である.その多くは労働者で 3.98 点(5 点満点)で,時間が短い,難しいなどの消極 あると考えられるが,現在の労働者は仕事に対する強い 的意見が多く聞かれた.第 2 期は 4.28 点で,聴くことの 不安やストレスを感じていると訴える人の割合が増加し 大切さがわかった等の積極的意見が増えた.第 3 期は ている.そこで肥満と職場ストレスおよび食行動との関 4.15 点で,体験学習ができて良かったという感想が目立 連を調べるため男性従業員 214 名に質問紙調査を実施し った.実習を主体とした方がより印象的で評価も高いよ た.その結果,心理的ストレス反応について活気,怒り, うである.また,受講 3 カ月後のアンケートでは,日頃 疲労,緊張・不安,抑うつのそれぞれのカテゴリ別で肥 部下への接し方として傾聴を心がけていると答える人が 満について年齢調整済みのオッズ比をみたところ,緊 多く見られ,参加した管理監督者に傾聴の大切さを理解 張・不安のカテゴリで有意差が認められた.この緊張・ してもらえたと評価している.今後も,いろいろな意見 不安のカテゴリと仕事のストレス要因との関係では仕事 を取り入れ,創意工夫を重ね,より効果の高いリスナー の量や質,人間関係で正の相関が認められ,コントロー 研修を目指して継続していきたい. ル度では負の相関が認められた.さらに食行動について 緊張・不安の心理的ストレス反応と食行動との関係をみ たところ,「早食い」といった食べ方や「お腹いっぱい まで食べる」という満腹感覚などと正の相関が認められ た. 14.集団自律訓練法教室の前後の比較検討 ―事業場の再構築過程において― 〇中村明美,石川浩二(三菱重工業(株)岩塚健康管理) 某事業場では,事業の再構築に伴い多くの従業員が転 任や職場変更等を迫られ,ストレスの増大が予想された. 12.東芝における産業保健スタッフ活動の現状と課題 ○高崎正子,月館有子,三谷和子, 八谷さゆり,中川祐子 ((株)東芝) そこでメンタルヘルス対策として集団自律訓練法(以下 AT)教室を開催し,参加者の教室前後での変化を比較 検討した.対象は教室に参加した 23 名で,方法は教室 前後に実施したアンケート,心と身体の健康調査表(以 2002 年東芝に所属する全医療職は,それまで各事業 下 STPH) ,自己成長エゴグラム(以下 SGE)である. 場ごとに活動していた業務内容をテーマごとに見直し, 教室前のアンケートより,多くの期待と今後のストレス 産衛誌 48 巻,2006 34 状況への対処法を習得したいという気持ちや興味が伺わ Ⅹ線は,肺結核の集団感染を防ぐとともに,肺がんを中 れた.教室後のアンケートでは,19 名が AT の習得が 心とした成人病,循環器疾患の発見,さらには石綿肺な でき,7 名で効果があった.また,STPH や SGE の変化 ど埋もれた職業性肺疾患の発見にも有用と考えられた. より,心身の症状等が改善され,穏やかな自分に切り替 第 45 回近畿産業衛生学会* えられるようになったと考えられた.4 週間での AT の 習得は難しいと思われたが,毎日の練習で少しずつ習得 <特別講演> を実感し,STPH や SGE での変化が得られた. 職場のメンタルヘルス―職場の診断と対策の進め方― 15.色覚異常検査表誤読者の就労と人権 川上憲人(岡山大学大学院衛生学・予防医学分野) ―産業医の役割について― 座長:夏目 誠(大阪樟蔭女子大学大学院) ○高柳泰世 1, 2 ,宮尾 克 2 (1 本郷眼科・神経内科,2 名古屋大学) <シンポジウム> 過重労働と循環器疾患対策の現状と課題 2001 年の労働安全衛生規則の一部改正により雇入時 車谷典男(奈良県立医科大学衛生学) 色覚検査が廃止となっているが,各企業に周知されてい 利光博洋(大阪産業保健推進センター) ない面があると思われる.私どもは 1993 年以来日本色 高田康光(松下電器産業(株)松下ホーム 覚差別撤廃の会の顧問をしているが,未だに多くの相談 アプライアンス社奈良健康管理室) を受ける.厚生労働省発行のリーフレットには「色覚検 木曽奈央子(NEC 関西) 査は現場に於ける職務遂行能力を反映するものではない 廣部一彦(みずほフィナンシャルグループ ことに十分な注意が必要です.検査を行う場合でも,各 大阪健康開発センター) 事業場で用いられている色の判別が可能か否かを確認す 座長:日高秀樹(三洋電機連合健保保健医療センター) ることで十分です. 」と明記されているにも拘わらず, 車谷典男(奈良県立医科大学衛生学) 多くの企業で未だに石原式色覚異常検査表が使われ,当 該受験者は不安を感じている.私が最近経験した警察官 <一般演題> 採用で問題なく勤務している例,消防職員として無難に 1.ストレスとライフスタイルに関する予防医学的研究 勤務している例,採用後色覚異常のため 3 ケ月で解雇さ (第 24 報)睡眠の質とライフスタイルの関連性 2 ○中山邦夫,森本兼曩 れた例,永年勤務していたバス運転手が色覚異常で職場 (大阪大学大学院・医・社会環境医学講座環境医学) 転換を命じられた例などを述べ,産業医との関わりを述 睡眠の質とライフスタイルとの関連性について検討し べる. た .2004 年 に 某 企 業 の 従 業 員 約 350 名 に ,睡 眠 の 質 16.職域健診における胸部Ⅹ線検査の現状とその意義 について (ピッツバーグ睡眠質問票)・ライフスタイル(森本の 8 つの健康習慣)に関する自記式質問紙法調査を実施した. 1 1 2 ○加藤保夫 ,片山博史 ,長岡 芳 , 2 2 今枝敏彦 ,飯田忠行 ,小野雄一郎 2 (1(財)岐阜県産業保健センター, 2 藤田保衛大・医・公衛) 某健診センターでは 2003 年度に 70,388 例に胸部Ⅹ線 有効解答が得られた男子 246 名を対象に解析を行った. 各ライフスタイルに関して二群(悪い/良い)に,健康 習慣指数に関しても二群(悪い・普通/良い)に層別化 を行い,ピッツバーグ睡眠質問票の総得点(6 点以上/ 5 点以下)に関し,χ 自乗検定でオッズ比(95 % CI)を を実施し要精検者は 580 例(0.8 %)であった.精検結 求 め た .オ ッ ズ 比 は ,運 動 : 2.19(1.24–3.88) ,睡 眠 時 果確認 482 例のうち 56 例は要医療,77 例は 6 カ月以内 間: 6.57(3.37–12.79) ,自覚的ストレス: 2.36(1.38–4.05) , 要観察者であった.発見疾患は肺結核,肺がん,肺炎, 健康習慣指数: 2.62(1.50–4.55)であった.睡眠の質が 非定型抗酸菌症,肺真菌症,肺線維症,気管支,胸膜, 良いのは,毎日運動を行い,睡眠時間が 7 ・ 8 時間で, 縦隔疾患,さらには循環器,甲状腺疾患にも及び本検査 ストレス量が普通であり,包括的健康度の良い者であっ が肺結核発見だけの検査ではないことは自明である.内 た. 訳では胸壁腫瘍疑(胸膜中皮腫の可能性) ,胸腺腫瘍, 大動脈瘤など致命的疾患もみられる.要医療者発見率は 10 万対 79.6(56/70,388)と高率であり,結核予防法の 検診打ち切り基準の患者発見率 0.02 %(10 万対 20)を * 日 時:2005 年 11 月 19 日(土)9 : 30 ∼ 16 : 50 大幅に上回る.また肺結核発見率は 10 万対 14.2(10 例) , 会 場:奈良県文化会館 肺がん発見率は 10 万対 9.9(7 例)であった.以上胸部 学会長:車谷典男(奈良県立医科大学衛生学) 産衛誌 48 巻,2006 35 2.ライン作業者の夏季・繁忙期のストレス調査結果 特有の役割を果たすことになった.近畿圏では,大阪を ○上坂聖美(関西セキスイ工業(株)総務部) 当社で行った昨年の調査結果,暑熱環境下・繁忙期に 中心に 10 社に及び,このうち 3 社が,この 2 年間に, 東京から進出して来ている.各社のサービス事業内容は ライン作業者はストレス要因やストレス反応所見が高率 多彩で,独自性を打ち出そうとしている.日本では, であった.そこで,平成 17 年 9 月初旬,ライン作業者 EAP ビジネスは保険制度に依拠していないため,ビジ 全員(班長以下 179 人)対象に自記式(職業性ストレス ネス展開が行き詰まったり,労使協定なしに,安易に外 簡易調査票使用)アンケート調査を行った.結果 98 % 部 EAP に任せて,訴訟等の新しいリスクを生む可能性 (176 人)の回収率で 69 人(39 %昨年と同率)が「仕事 を含み,健全な EAP 提供会社の育成のための政策が望 上ストレス要因や心身のストレス反応あり」と回答. まれる.本報告では,良心的な EAP 提供会社の包括的 「仕事上ストレス要因のみあり」32 人,「仕事上ストレ プログラムの機能評価として 16 のチェック項目を掲げ, ス要因ありかつ心身にストレス反応あり」が 11 人.設 研究者の立場から,当面のサービスの監視指針の役割を 問群別にみると,コントロール度が低いとの回答が 果せられればと考えている. 51 %.次が負担度が高いが 35 %,57 全設問では,「一 生懸命働かなければならない」に「そうだ・まあそうだ」 との回答 89 %を筆頭に,所見率上位 4 項目が負担度の 7 5.定期健康診断にみられたメタボリックシンドローム の頻度と背景因子に関する検討 ○瀧本忠司 1,大東正明 2 設問内にあり,7 割以上がストレス要因を感じている事 1 ( ダイハツ工業(株)京都工場診療所, がわかった.以上から 11 名のケアを最優先とした,職 2 場環境改善に向け事業主へ提言した. ダイハツ保健センター) 今回私達は,定期健診にみられたメタボリックシンド 3.ふたば相談(新規採用職員ストレス相談)のあり方 と今後の課題―アンケート調査結果から― た.2005 年 5 月から 8 月上旬までの定期健診を受検した 1 2 1 ○日裏明美 ,黒田基嗣 ,真本上枝 , 3 小西智恵 ,久保義文 1 (1 和歌山県総務部人事課職員厚生室, 2 3 ローム(MetS)の頻度と背景因子に関する検討を試み 2 男性 262 名(年齢 39.4 ± 11.4 歳,BMI 22.5 ± 3.3 kg/m ) を対象とした.MetS の判定には「8 学会合同委員会の 診断基準」を用いた.ウエスト周囲径≧ 85 cm の者は 和歌山県福祉保健部医務課, 26.3 % (69/262)を 占 め ,35 歳 以 上 の 男 性 に お け る 元・和歌山県総務部人事課職員厚生室) MetS の 頻 度 は 8.4 % (13/154)で あ っ た .MetS 群 新規採用職員のストレス相談(ふたば相談)実施から (n = 13)と Non-MetS 群(n = 141)の間では年齢,心 8 年が経過したのを機に,アンケ−ト調査を実施し,内 電図所見の有無,飲酒状況,勤務形態(常昼/交代)に 容等検討した.平成 14 ∼ 15 年度新規採用職員中,ふた 有意差を認めなかった.MetS 群では Non-MetS 群に比 ば相談を受けた 148 名を対象に自記式アンケート調査を べ喫煙量が多い傾向(p = 0.054)を認めた.MetS を呈 実施(回収率 79.1 %).カウンセリングを受けた印象は, した男性 13 例中,2 例で心電図所見を認め,3 例は高血 良い印象が多かったが,相談内容が職員のストレス解消 圧,3 例は糖尿病の治療中であった.当工場の定期健診 に必ずしもつながっていない結果だった.今後のストレ で,35 歳以上の男性にみられた MetS の頻度は 8.4 %で ス相談の希望は,カウンセリングの印象が良いほど相談 あった.MetS 群では喫煙量が多い傾向を認めた. への希望に結びついている.また,今後のあり方につい て,大半の者が相談事業の継続の必要性を感じており, 6.職場検診における軽度の脂質・肝機能・尿酸値異常 さらに,カウンセリングの印象が良いほど相談を必要と に対する 1 ヵ月後再検査の有効性に対する検討 していることがわかった.ふたば相談は目的である一般 1 1, 2 1 1 ○新田朋子 ,矢原勝哉 ,佐藤弘昭 ,田坂律子 , 職員のストレス相談への啓発の機会になっており,ふた 1 1 1 小渕啓子 ,渡辺あゆみ ,中本満子 , 1 1 1 角谷由里子 ,若林典子 ,平戸知恵 ば相談の必要性を再認識することができた.今後は対象 職員全員が良い印象を持てるように相談内容の検討を行 1 ( 三菱電機(株)伊丹製作所健康増進センター, 2 う必要がある. 産業医科大学放射線科) 定期健康診断は健診事後指導として生活習慣の改善に 4.近畿圏の EAP の実態と包括的プログラムの可能性 ○佐藤万亀子(関西大学社会学部) 向けた一次予防への活用が考えられている.我々は定健 で軽度の高脂血症・肝機能異常・高尿酸血症を認めた受 日本で,米国の EAP(従業員援助制度)が紹介され 診者に対し同日医師・保健師にて個別指導し,1 ヵ月後 始めてから約 10 年が経過し,リストラ社会の要望を受 の再検査にて有意な改善を認めた.2004 年度定健受診 け,予想をはるかに超える 40 社余りが設立され,日本 者 5,522 名のうち分析対象は高脂血症 169 名,肝機能異 産衛誌 48 巻,2006 36 常 216 名,高尿酸血症 48 名.再検査にていずれも統計 (groupB)までに CR 画像及び経時的差分画像を用いて 学的に有意な改善を認めた(t 検定) .理由として①健 診断された結果を用いた.異常陰影が疑われたものは, 診時の個別指導にて生活習慣改善の動機付けになった② groupA 再検査に向け目標が設定できデータ改善への意欲につな ぞれ,17 名,16 名であった.再検査において CT の施 がった,などが考えられた.今後の課題として①個別指 行は groupA 導内容確認のためのアンケート調査②健康増進に対する 影に関しては,経時的差分画像が有用であると思われる 意識を持続するため経年的な変動の評価などが考えられ 症例も見られた.今後症例を重ねる必要はあると思われ る.健診時 BMI 高値者に対し 1 ヶ月後体重測定を勧め, るが,モニター診断及び経時的差分画像を用いた診断は 肥満に基づく生活習慣病を予防する必要性が高いと思わ 有用であると示唆された. 206 名,groupB 126 名で活動性病変はそれ 162 名,groupB 4 名であった.異常陰 れる. 9.労働者のくも膜下出血予防のための現行法制度の問 7.職場検診における骨密度検査の現状についての検討 1 ○田坂律子 ,矢原勝哉 1, 2 1 題点と今後の整備の方向性 1 ,新田朋子 ,佐藤弘昭 , ○湯木知史,井上佳代子,小泉昭夫 1 1 1 小渕啓子 ,渡辺あゆみ ,中本満子 , 1 1 1 角谷由里子 ,若林典子 ,平戸知恵 (1 三菱電機(株)伊丹製作所健康増進センター, 2 産業医科大学放射線科) 2003 年より希望する女性社員を対象に 10 歳毎に実施 (京都大学大学院医学研究科環境衛生学分野) 「過労死」の問題点となるくも膜下出血の予防には 「脳動脈瘤の発見・治療」と「労働環境の改善」が不可 欠である.現在,「過労死」予防のため,「二次健康診断 等給付」制度と「過重労働による健康障害防止のための している骨密度測定の結果の分析をすることにより実施 総合対策」がある.しかし,後者に「労働環境の改善」 期間の妥当性と今後の活用方法について検討した.2003 の効果があるのみで,診断項目や対策の趣旨から明らか 年 6 月 25 日から 2004 年 12 月 1 日までに測定した 191 人 なように,どちらも「脳動脈瘤の発見」に対し実効性の (25 歳,35 歳,45 歳,55 歳)を対象とし,測定方法は あるものではない.問題の本質は,現行労災補償制度が, 骨密度測定器により全例踵骨で測定を行った.測定結果 業務や産業保健とは直接関係ない「脳動脈瘤の発見」と は骨密度標準値カーブを用いた自動解析を行い,年齢間 いう労働者個人の一般的健康管理問題を事業者の責務と については t 検定を行い解析をした.自動解析における しているところにある.また現行制度には,産業医等医 判定結果は 55 歳のみ相対的に良好な結果が得られた. 療資源の有効活用や健康情報の適切な管理の点でも問題 また,年齢間比較においては 55 歳時のみが 45 歳に比べ がある.そこで,くも膜下出血予防のための「脳動脈瘤 て有意に低値であった.55 歳の測定結果が良好であっ の発見・治療」は,事業者を責任主体とする労災補償制 たのは運動習慣によるところが大きいと思われた.年齢 度とは異なった労働者自身も責任主体に加えた労災予防 間比較においては 55 歳時のみ有意に低値であったこと 制度の創出を今後の法整備のあり方として検討すべきで は,45 歳–55 歳間については測定回数の増加および指導 ある. の必要性が考えられる. 10.職域健康診断の問診票による生活習慣の調査 8.当センターの職場健診における胸部 X 線検査の特色 1 1 1 藤田正憲 ,阪上皖庸 ,木村 隆 と再検査の有効性に対する検討 ○佐藤弘昭 1,矢原勝哉 1, 2,新田朋子 1,田坂律子 1, 1 1 1 1 小渕啓子 ,渡辺あゆみ ,中本満子 ,角谷由里子 , 1 1 1 若林典子 ,平戸知恵 ,塩谷由美 (1 三菱電機(株)伊丹製作所健康増進センター, 2 1 2 1 1 ○保田和之 ,坂手誠治 ,惠千恵子 ,園伊知郎 , 産業医科大学放射線科) (1 財団法人近畿健康管理センター,2 滋賀県立大学・院) 勤労者に対する効果的な健康教育を進めるため,運動, 喫煙および飲酒習慣の頻度および相互の関連性について 検討した.運動習慣は男性 30,40 歳台の実施率が低く, 実施頻度も低いことが明らかとなった.喫煙習慣では喫 2003 年 8 月より CR 画像によるモニター診断を開始 煙率,本数とも男性が多く,喫煙本数は男女とも加齢と し,2004 年 8 月からは経時的差分画像を用いた診断も ともに増加する傾向を認めた.飲酒習慣では男性が加齢 併 用 し ,積 極 的 に 1 ヶ 月 後 再 検 を 実 施 し た .今 回 は とともに増加する傾向であったが,男女とも 1 回の飲酒 Xfilm と CR 画像による所見比較及び,再検査の所見を 量に大きな違いは認めなかった.またこれらの習慣の組 比較することにより,モニター診断及び経時的差分を用 み合わせが動脈硬化性疾患リスクファクターに及ぼす影 いた診断の有用性を検討することを目的とした.2002 響を検討した結果,「運動+喫煙」群では肥満度および 年 8 月 1 日∼ 2003 年 7 月 31 日(groupA)までの Xfilm 血清脂質が異常値を示す率は高くなり, 「運動+飲酒」 を 用 い た 診 断 と ,2004 年 8 月 1 日 ∼ 2005 年 7 月 31 日 群では血圧および高尿酸の異常値を示す率が高くなっ 産衛誌 48 巻,2006 37 た.以上より健康教育を行う場合には年齢による傾向を 三者評価実施の継続 healthy happy world ver. 2005 把握し,運動習慣の客観的な判断基準の作成や生活習慣 key point : 保 健 ・ 医 療 ・ 福 祉 ・ 教 育 ・ 文 化 の 連 携 全般に対する対応が望まれる. key person :保健師 11.アンケート調査からみた衛生管理者の活動の現状 13.フォークリフト運転手の腰痛等のリスクファクタ と課題 ーに関する質問紙調査結果 ○森岡郁晴 1, 2 ,生田善太郎 宮下和久 1, 4 1, 3 ,山本則夫 1, 3 , ○西山勝夫,辻村裕次,垰田和史 ,岡 久雄 1,山本博一 5, 宮井信行 4,武田眞太郎 4 (1 和歌山産業保健推進センター, (滋賀医科大学社会医学講座予防医学) 2000 年に,全日本港湾労働組合所属の全国のフォー クリフト運転手 1,432 名に対し実施した質問紙調査で, 2 和歌山医大・保健看護学部,3 和歌山健康センター, 対照と比較し有意に愁訴率の高かった項目と人間工学的 4 和歌山医大・医・衛生学,5 中災防・大阪センター) 要因との関連を検討した.腰部症状については,腰痛の 衛生管理者のおかれている現状や問題点を明らかにす 持病がない者 806 名について, 「腰が疲れる」 「腰の痛み」 るために,第 1 種衛生管理者の資格を有し,衛生管理業 「最近 1 ∼ 2 カ月間に腰痛がある」のいずれかの症状を 務に従事している衛生管理者 148 名を対象として,勤務 有する者といずれも有しない者のオッズ比を従属変数と 実態,業務内容の達成度に関する自己評価,業務遂行上 し,年齢,勤続年数,フォークリフト乗務年数及び人間 の障害,取り巻く環境等に関して,自記式アンケート調 工学的要因を説明変数として,変数増加法による多変量 査を実施した.その結果,主に他の業務を行っているこ ロジスティック解析を行った.その結果「ヘッドライト とが多く,実際に衛生管理業務に従事する時間が短かっ の照度は不十分(オッズ比 2.1)」「ブレーキペダルはふ た.「できている」と自己評価した衛生管理業務は,健 みやすくない(2.1)」「運転席は振動をうまく吸収しな 康診断の計画・実施・管理などの比較的ルーチンに近い い(1.8) 」「ハンドルのグリップがすべって操作しにく 業務が多かった.衛生管理の業務遂行上の障害として, い(2.2)」の 4 要因が選択された(R2 = 0.17).腰部症 時間や担当者の人数が不十分,知識・情報・経験の不足 状の予防には人間工学的改善の必要性が確認されたと考 を挙げているものが多かった.また,衛生管理業務を遂 えられる. 行する上で予算・権限にも制約があった.一方,事業者 をはじめ周囲の衛生管理業務に関する理解度や認知度は 比較的高かった.今後その理解や認知をいかにして衛生 14.港湾フォークリフトの作業・走行別全身振動 ○辻村裕次,垰田和史,西山勝夫 (滋賀医科大学社会医学講座予防医学部門) 管理活動の向上につなげていくかが課題である. フォークリフト運転手には腰痛リスクが指摘されてお 12.奈良に結核を広めない会カンファレンス(ATAC り,その要因として全身振動曝露等が挙げられている. in NARA)の新しい取り組み―産業保健と地域保 全身振動曝露低減のための効果的な対策を明らかにする 健の連携― ことを目的として,作業状態別の曝露全身振動や作業密 ○畠山雅行 2 1, 2, 3 ,田村猛夏 2 度を検討した.阪神地区港湾で使用されていた 3 車両を (1 労働衛生コンサルタントオフィス畠山, 対象とし,実作業中の全身振動測定,操作情報収集,ビ 独立行政法人国立病院機構奈良医療センター, デオ撮影を行い,各々 1 日の作業について解析した.曝 3 奈良産業保健推進センター) 露全身振動では,鉛直は優越な方向ではなかった.『積 ATAC(AntiTuberculosisAssociationConference)in み降ろし』作業において,3 台とも前後が最も大きい人 Nara 2001 年設立.会員 103 名計 48 回開催 1.第 3 者 体影響を与える振動方向であった.着座時間内では,1 評価表作成(Ver. 2005.H&N&青木&山下)2.結核核標 分あたり 8.5 回前後進が切り換えられ,荷積みまたは荷 準フィルム Hatakeyama & Takayama’s Pleural Check 降ろしが 3.3 回行われた.健康障害要因の 1 つが全身振 Sheet 改良版(PCS Ver. 2005)作成.3.教育・啓発・ 動曝露や高密度のフォークリフト操作であることが示唆 研修会計 73 回実施:結核研修会テキスト(Ver. 2004) された.また,全身振動曝露低減のためには,鉛直方向 の使用(Ver. 2005H&N&青木)改良中.結核対策シス だけでなく前後方向全身振動を考慮した評価や対策が行 テム評価表を計 4 回使用(Ver. 2005)改良中.4 月例会 われるべきであることも明らかになった. 開催事例検討し地域保健と産業保健分野の人と組織の交 流.DOTS 研修.卒後臨床研修医(5 名)の積極的参加 の受け入れ.奈良県医師会生涯研修制度認定の取得.今 後の課題は産業保健・地域保健の連携と活動に対する第 産衛誌 48 巻,2006 38 15.レーザー血流画像化装置を用いた振動工具取扱い 者の冷水負荷試験における末梢循環動態の評価 17.働く女性の妊娠・出産・育児―就労継続のために 求められているもの― ○牧野裕子 1,車谷典男 2,鴻池義純 2, (第 3 報)―冷水浸漬による皮膚血流変化に対する 2 2 2 有山雄基 ,上坂聖美 ,井上俊之 加齢の影響― 1 1 1 (1 奈良県立医科大学看護学科, ○寺田和史 ,宮井信行 ,冨田耕太郎 , 1 1 1 前島 幸 ,吉益光一 ,坂口俊二 , 1 戸村多郎 ,山本博一 1, 2 ,宮下和久 1 2 奈良産業保健推進センター) 働く女性が妊娠中や出産後も就労の継続を希望した場 (1 和歌山県立医科大学医学部衛生学教室, 合に必要となる支援を明らかにするために,平成 16 年 中央労働災害防止協会大阪労働衛生総合センター) 11 月∼ 12 月に奈良県内の産科 7 施設を受診した妊産婦 我々はこれまでに,レーザー血流画像化装置(LDPI) を対象に,アンケート調査を実施した.事前に設定した 2 を用いた振動工具取扱い者の末梢循環機能の評価を行っ 10 項目では「子供の病時休暇」,「職場の理解・支援」, てきている.今回は,手指に循環障害を認めない 30 ∼ 「長期の育児休暇」の順に回答が多く,「給与・ポスト等 50 歳代の健康な男性 60 名(各年代 20 名)を対象に測定 待遇保障」,「職場の理解・支援」,「就学後の託児施設整 を実施し,冷水負荷試験中の手指皮膚血流の変化を各年 備」の 3 項目では「就労継続」群が「育児に専念・分か 代間で比較検討した.皮膚血流は,冷水浸漬に伴い急激 らない」群に比べ有意に多かった.さらに自由記載内容 に減少した後に一定となるが,そのレベルは年代が上が の分類から「職場の理解」,「育児支援制度の充実」,「夫 るにつれて低くなっていた.さらに,浸漬終了後の回復 や家族の理解や協力」等が必要とされ,同時に制度を利 の程度にも加齢による顕著な差異が認められた.次いで, 用できない職場の実態が明らかとなった.以上から①育 冷水負荷試験の各段階で,手指皮膚血流の 50 パーセン 児支援施策や制度の充実,②職場の理解と支援,③夫や タイル値を年代別に求め,これを基準に比較すると,50 家族の理解と協力等が求められ,制度を浸透させるため 歳代の白指を有する林業労働者では,同年代の基準値を に④事業主への支援,⑤社会の理解を促す働きかけ等の 上回る者は認められず明らかに低値を示していた.この 基盤作りが重要であることが明らかとなった. ことから,LDPI を用いた冷水負荷試験における手指皮 膚血流の測定は,振動障害における末梢循環障害の評価 18.ホームレス生活者・野宿労働者の口腔保健の現状 ○渡邉充春(医療法人南労会松浦診療所歯科) 法として有効であるものと考えられた. 大阪市のホームレス生活者数は全国の大都市の中で最 16.頸肩腕障害検診受診者の機能検査所見の検討 も多い.大半は建設土木産業で最下層の日雇い労働者が 1 2 1 1 ○垰田和史 ,重田博正 ,北原照代 ,中村賢治 , 高齢や失業のために野宿に追いやられた結果である.彼 1 らの健康状態で,歯の状態が悪いことが指摘されてきた 1 辻村裕次 ,西山勝夫 ,福地保馬 3 (1 滋賀医大社会医学・予防医学,2 大阪社医研, 3 藤女子大院・人間生活学) が実態は明らかでないため,大阪市あいりん地区の社会 医療センター付属病院入院患者を対象とした歯科に関す 頸肩腕障害の特殊検診を受診した女性保育士 1,960 人 る聞き取り調査と,口腔健診を実施した.116 名の結果 を対象に,身体部位別の自覚症状と機能検査との関係を を全国調査の「保健福祉動向調査」や「歯科疾患実態調 検討した.機能検査項目は,指尖振動感覚閾値,ピンチ 査」と比較した.結果 20 歯以上の歯を有するものは, 力,タッピング,握力,肩腕押引力,背筋力,体位前屈 54 歳未満,55–64 歳,および 65 歳以上のいずれも小さ で,身体部位別自覚症状は,頸肩腕背手指の, 「こる・ かった.未処置のう歯を有するものの割合,重度の歯周 だるい」「いたい」「しびれる」 「ひえる」 「ふるえる」 病を有している者の割合はすべての年齢で大きかった. 「動きが悪い」という症状について尋ねた.「こる・だる 今までに義歯を作ったことがないと回答した者も大きか い」が「時々ある」場合は 1 点, 「いつもある」は 2 点, った.これらのものは医療保険を大半が有しておらず, 他の症状については「時々ある」場合は 2 点,「いつも 歯科医療を受ける機会は極めて少ない.彼らに対する ある」は 4 点を配し,自覚症状得点により受診者を 4 群 「医療支援」が求められていることがわかった. に分けて,各機能検査値との関係を一元配置分散分析お よび多重比較法により検討した.その結果,各検査値は いずれも自覚症状得点の増加に伴って平均値が低下し 19.輸入木材「ファルカタ」 (Falcata,学名: Albizia falcataria)による職業性喘息の一例 1 1 1 ○冨岡公子 ,熊谷信二 ,中野ユミ子 , た.特に握力,肩腕押引力,背筋力,体位前屈は全群間 2 2 亀田 誠 ,片岡葉子 で差が認められた.以上の検討より,機能検査結果は頸 1 肩腕障害の予防・診断に有効な情報であると判断でき た. ( 大阪府立公衆衛生研究所, 2 大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター) 産衛誌 48 巻,2006 39 症例は,成人発症型中等度喘息の既往のある 72 歳男 おいて Haplotype の相関を検討した.同対象において 性木材家具製作作業者.喫煙歴はなし.本人がファルカ ex3-5 の全 sequence を行った.さらに危険因子をマッ タを丸鋸で切った際に,症状が出現していることに気が チさせた UC,CO 各 150 名を用いて,MHC class Ⅱ遺 ついた.他の木材では,症状はなかった.確定診断を得 伝 子 (HLA-DQB2,HLA-DOA)の SNPs を 加 え るため検査を実施した.皮内反応は即時型が陽性.沈降 Haplotyape 相関を検討した.FP3 家系において delete- 抗体反応は陽性.抗原吸入試験は即時型が陽性,遅発型 rious mutation(K154X, c.585-586insA, G76C)を検出 は陰性であった.本症例は,吸入試験陽性判定基準の 1 し た . Non-synonymous changes が UC( 2.1 % : 秒量の低下 20 %は満たしてはいないが,喘鳴が確認さ 13/608)において CO(0.6 %: 4/664)よりも有意に高 れたため,即時型喘息反応は陽性と判断した.ファルカ かった(p = 0.025).Protective haplotype(OR = 0.69 タは土地を肥沃にする事ができるため注目されており, 95 % CI 0.52–0.92 p = 0.012)を確認し,危険因子とし 現在は東南アジア地域に植林されている.地球に優しい て 女 性 (OR = 2.26 CI 1.55–3.30 p = 0.000) ,高 血 圧 木材というイメージが大きいが,木屑を吸入することで (OR = 1.97 CI 1.44–2.70 p = 0.000) ,喫煙(OR = 1.64 上気道症状を訴える者もおり,また,喘息の原因となる CI 1.12–2.42 p = 0.012)を同定した.さらに MHC class ことが確認された.ファルカタによる職業性喘息の報告 Ⅱとの haplotype 解析でも protective haplotype(OR = は,これまでになく貴重な症例と考え報告した. 0.22 95 % CI 0.08–0.57 p = 0.0017)を確認した.SAH, IA の原因に自己免疫の関与が示唆された. 20.MVEQ を用いた医師の疲労自覚度―奈良医大同窓 会研究― 22.ライフスタイルと末梢血白血球染色体 DNA 変異 ○森田徳子,岡本 希,佐伯圭吾,国分清和,車谷典男 (奈良県立医科大学衛生学教室) 《その 1 》 コメットアッセイによる労働時間との 関連性評価 本学医学部卒後 1 年目から 20 年目までの同窓生 1,902 人を対象に,郵送法による無記名自記式アンケート調査 を行った.回収率は 41.8 %(795 人),平均 37.2 歳,臨 ○呂 玉泉,中山邦夫,森本兼曩 (大阪大学大学院・医・社会環境医学講座 環境医学) 目的は労働時間と末梢血白血球 DNA 損傷の関係につ 床医が 742 人で,男性は 590 人,女性が 203 人であった. いて検討すること.対象者は大阪市内の某企業の男子従 MVEQ は平均 18.8 点で正規分布を示した.性・年代・ 業員である.定期健康診断受診時に,書面による同意を 臨床経験年数別には有意差は認められなかった.職種別 得た 118 名の従業員の労働時間を含む生活習慣の調査を には院長・診療所長の平均値 15.2 に対し,勤務医は 19.6 自記式質問紙法で行い,白血球 DNA 損傷レベルをアル と有意に高かった.臨床医の週労働時間が 40 時間未満 カリコメットアッセイ法で測定した.年齢,睡眠時間と 群の平均 MVEQ 値 17.2 および 50 時間以上 60 時間未満 朝食をコントロールした末梢白血球 DNA 損傷レベル 群の平均 18.0 に対し,80 時間以上群は平均 22.5 とそれ は,労働時間の長さと有意な相関を示した(r = 0.267, ぞれ有意に高かった.周囲の人からの支援を充分に受け p = 0.004,偏相関指数).労働時間が 8 時間を越える労 られる医師は,そうでない医師に比べて MVEQ 値が有 働者群は,8 時間を越えない労働者群と比べ,白血球 意に低かった.MVEQ 値を従属変数としたステップワ DNA 損傷は有意に高かった(p < 0.01).職種別に分析 イズ法を用いた重回帰分析では,健康状態,職業性スト すると,24 名の事務・技術の非管理職である従業員群 レス等が有意な説明変数として選択された. の労働時間と白血球 DNA 損傷との相関は最も強かった (p < 0.0001) .今度の調査で長労働時間と末梢白血球 21.くも膜下出血および脳動脈瘤の遺伝要因の探索 DNA 損傷の間有意な相関があると示唆された. ○井上佳代子,峰晴陽平,井上純子,小泉昭夫 (京都大学大学院医学研究科環境衛生学) くも膜下出血(SAH)は,過労死,高次脳機能障害 23.日本におけるヒト血中 PCB 濃度の 30 年間にわた る変遷 に陥る可能性の高い疾患である.業務関連疾患と考えら 1 1 1 1 ○井上純子 ,原田浩二 ,井上佳代子 ,小泉昭夫 , れ労働災害保険の対象となる.脳動脈瘤(IA)の破裂 2 2 2 2 吉永侃夫 ,藤井滋穂 ,蜂谷紀之 ,甲田茂樹 , と形成・増大の危険因子を同定し予防することは産業衛 2 2 2 2 日下幸則 ,村田勝敬 ,大前和幸 ,齋藤憲光 , 生学上,必須の課題である.対象は家系群(FP)29 名, 2 2 2 2 竹中勝信 ,竹下達也 ,和田安彦 ,廣澤巌夫 , 弧発群(UC)333 名,対照群(CO)332 名.京都大学 2 2 2 2 等々力英美 ,渡辺孝男 ,新保慎一郎 ,池田正之 (1 京都大学大学院医学研究科環境衛生学, 医の倫理委員会の承認を得て実施した.TNFRSF13B に お い て FP29 名 , UC29 名 の 全 coding region の sequence で検出した 4SNPs を UC304 名と CO332 名に 2 厚生労働科学研究班京都大学サンプルバンク 研究者メンバー) 産衛誌 48 巻,2006 40 生体試料のサンプルバンクを利用し,2003 年に日本 致死毒および肝腎障害および電解質異常における量反応 各地で収集した一般人女性の血清中(8 都県各 10 人) 関係を検討した.24 時間 LD50 iv(3.29 mg/kg)は他の および食事試料中(7 県各 10 検体)の PCB 濃度を測定 カドミウム化合物に比して強いと考えられた.コントロ した.異性体 10 種を定量し,合計を総量とした.血清 ールとして生食およびフッ化ナトリウム溶液を用い 中 PCB は脂肪当たりの濃度として算定した.食事中 (mg/kg)とし, CdF2 投与群を 1.34,2.67,4.01(LD90) PCB は 1 日当たり摂取量として算定した.これを昨年 投与 5 時間後に採血した.AST および ALT は 2.67 群お 報告した 1980 年代,1990 年代の PCB 濃度と比較し,生 よび 4.01 群において量依存的に急上昇し,4.01 群におい 体内 PCB の変遷について検討した.この結果,30 年間 て 1,500 IU/L を 上 回 っ た .m-AST と お よ び LDH は で食事中 PCB は激減していた.血清中 PCB は全般には 4.01 mg/kg 群において著明に上昇した.BUN および K 有意に減少していたが,若年層での減少に対して,50 は量依存的に上昇し,4.01 mg/kg 群において明らかに 歳以上ではむしろ増加していることが明らかになった. 上昇した.以上より重篤な肝機能障害が確認され,腎へ 特に塩素化率の高い異性体は人体からの排泄が非常に遅 の有害影響の合併が示唆された. いことが認められた.50 歳以上での増加の原因は PCB が汎用されていた時代の高濃度曝露の影響,または加齢 26.フッ酸の希釈濃度および静注後の急性生体影響に ついて による代謝能力低下が考えられる. ○三井 剛,足立和也,土手江美,藤本圭一, 24.硝酸カドミウム静脈内投与後の毒性および動態 (第 2 報)―血中動態に及ぼす急性肝障害および腎 不全の影響― 新保有佳里,藤原美智子,清水宏泰,臼田 寛, 土手友太郎,呂 波,河野公一 (大阪医科大学衛生・公衆衛生) ○土手江美,土手友太郎,臼田 寛,清水宏泰, フッ酸(HFA)の高濃度曝露事故事例や研究報告は 林さつき,三井 剛,足立和也,新保有佳里, 多いが,低濃度曝露による急性影響についての報告は殆 藤原美智子,孫 ,河野公一 (大阪医科大学衛生学・公衆衛生学教室) 昨年の当会においてラットへの硝酸カドミウム静注後 どない.そこで低濃度急速曝露による致死毒性および曝 露後の肝・腎障害,電解質異常を検討した.ラットに低 濃 度 HFA 溶 液 (1 ml)を 静 注 し 算 出 し た 24 時 間 後 の LD および血中濃度の推移を報告した.今回は濃度変 LC50 は 0.52 %であった.低濃度 HFA の量反応関係につ 化から定量的に動態を把握し,肝腎障害の量反応関係か いては LC5(0.30 %)を上限する 4 種類の濃度,生食お ら致死毒性への影響を検討した.動態に関しては 2.7, よび 0.3 % HFA の F および H と同量となる NaF 溶液と 5.4,8.1(LD90)mg/kg 投与群の速度論的パラメーター 塩酸を 1 ml 静注し 1 時間後採血した.全群において明 の比較により 8.1 群において明らかな Cd の滞留を示し らかな肝酵素の上昇はなかったが 0.1 %以上の HFA 群 た.量反応関係に関しては生食,硝酸,上記 3 量を投与 の BUN,Cr は著明に上昇し,腎機能障害を示した.塩 5 時間後に採血し,露呈した膀胱から 5 時間連続採尿し 酸群では BE の低下はなかったが HFA 群では量依存的 た.血清 AST, m-AST, ALT, LDH, BUN, Cr, K は上昇 に BE が著明に低下し,H の負荷以外の要因による代謝 し,尿量低下および K 排泄量の低下,尿糖上昇を認め 性 ア シ ド ー シ ス が 示 唆 さ れ た .NaF 群 お よ び 0.3 % た.これらは量依存的に変化したが,特に 8.1 群におい HFA 群において K が上昇し,イオン化 Ca が低下し共 て AST, m-AST, ALT, LDH はより上昇していた.致死 存する F の影響と考えられた. 毒性の発現に関しては強い肝障害による Cd 代謝遅延の 相乗作用が主因と考えられたが,合併した急性腎不全に よる高 K 血症の関与も示唆された. 27.モノクロロ酢酸曝露後から高濃度グルコース投与 までの時間がラットの生存率に与える影響 ○藤原美智子,清水宏泰,新保有佳里,孫 25.フッ化カドミウム静脈内投与後の急性致死毒性に ついて , 三井 剛,土手江美,川崎隆士, 臼田 寛,土手友太郎,河野公一 ○足立和也,土手友太郎,臼田 寛,清水宏泰, 土手江美,三井 剛,藤原美智子, 新保有佳里,藤本圭一,河野公一 (大阪医科大学衛生学・公衆衛生学教室) (大阪医大衛生学・公衆衛生学教室) モノクロロ酢酸(以下 MCA)は低血糖により蛋白崩 壊をきたし乳酸アシドーシスをきたすことが致死的要因 であると考えられており,グルコース静脈投与が有効で フッ化カドミウムは超高速大容量通信機器における絶 ある事が報告されている.今回は MCA 曝露後からグル 縁体として実用化中であるが,その有害影響に関しては コース投与までの時間と死亡率の関係を検討した.SD 報告がない.そこでラットを用い静注後の CdF2 の急性 系 ラ ッ ト に モ ノ ク ロ ロ 酢 酸 ナ ト リ ウ ム (SMCA) 産衛誌 48 巻,2006 41 80 mg/kg(LD99)を 投 与 し ,0 分 後 (20 匹 ),15 分 後 1.6 ppm に減少した.また,IPA 個人曝露量は 26.6 ppm (19 匹),30 分後(20 匹)よりグルコースを静注した 3 から 3.0 ppm に減少した.キシレンから IPA への代替は 群と,0 分後(15 匹)より生食を静注した 1 群に対して キシレン曝露を減少させるのには有効であるが,さらに 血糖と血中乳酸を静注の間,経時的に測定し生存率を 有機溶剤全体の曝露を減らすためには,発生源の囲い込 SMCA 曝露後 14 日間検討した.生食の群では 4 日後す みと排出を行うことが重要と考えられた. べてのラットは死亡し,14 日後の生存率は 0 分群 90 %, 15 分群 68 %,30 分群では 55 %であり 30 分群では有意 な低下であった.グルコースは SMCA 曝露後 15 分以内 の投与でなければ有効でないと考えられた. 30.酢酸エチルの曝露評価としての尿中エタノールの 応用 ○味山友里子,山内恒幸,杉田隆博,河合俊夫 (中災防・大阪センター) 28.企業規模別・溶剤職場別にみた多用される溶剤の 種類とその頻度 酢酸エチルは作業現場では接着剤の希釈液や香料原料 として用いられる.一般に有害物質の代謝反応は肝臓で ○池田正之,佐本 一,福井良成,鵜飼博彦,岡本 浩, 高田志郎,大橋史子,森口次郎,江嵜高史 ((財)京都工場保健会) 起こるが,我々は血液に着目して血液での分解性を検討 し,次に生物学的モニタリングの応用を検討した.1) 血中での検討:男性の希釈された血液 0.9 ml に酢酸エチ 有機溶剤職場で多用されている溶剤と 2)溶剤職場別 ル 0.1 ml を加え 38 ℃で反応させるとエタノールとアセ の高濃度曝露の危険性を企業の規模別に比較するため, トアルデヒドが反応時間に対応して増加した.2)曝露 1,010 有 機 溶 剤 使 用 単 位 作 業 場 所 (156 企 業 )で 第 一 評価としての適応:作業場での酢酸エチル曝露濃度と尿 種・第二種溶剤の濃度を求めた.企業は従業員数別に 中エタノールの関連(男子 29 名)は有意な相関 0.677 が ≦ 50,51–300,301–500,≧ 501 人 に 4 区 分 し た .100 得られた.補正を行っても著しい相関係数の改善は見ら 単 位 作 業 場 所 以 上 の 事 例 の あ る 職 場 の 場 合 ,印 刷 れない.結論:酢酸エチルは血液中で酢酸,エタノール (64 % )・ 塗 装 (18 % )・ 接 着 剤 塗 布 お よ び 接 着 職 場 に加水分解し,エタノールはアセトアルデヒドに酸化さ (47 %)ではトルエンが最も頻度高く用いられていたが, れる.酢酸エチルの曝露指標として尿中エタノールを見 表面加工(51 %)・洗浄/払拭職場(42 %)ではイソプ ると相関が見られ,曝露指標の可能性を示唆した.尿中 ロピルアルコールが最も広く用いられていた.メタノー エタノールは飲酒により尿中に排泄されることから飲酒 ルも全職場を通じて多用されており(全体の 36 %) ,芳 等の管理をして応用する必要がある. 香族溶剤からアルコール類への移行傾向が認められたこ とが特徴的であった.企業規模が小さいほど気中濃度は 高く(ことに印刷職場),小企業(従業員≦ 50 名)での 加算値平均値は大企業(≧ 501 名)での値に比して約 5 31.ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)のマ ウス細気管支繊毛運動に及ぼす影響 1 1 1 1 ○松原英理子 ,金星匡人 ,原田浩二 ,浅川明弘 , 1 2 1 井上佳代子 ,中張隆司 ,小泉昭夫 倍の高値を示した. (1 京都大学大学院医学研究科 29.細胞診のスライド標本作製における有機溶剤曝露 社会健康医学系専攻環境衛生学分野, 2 の対策事例 1 1 1 ○吉田 仁 ,冨岡公子 ,田淵武夫 , 1 2 熊谷信二 ,阿倉 薫 (1 大阪府立公衆衛生研究所生活環境部生活衛生課, 2 NTT 西日本大阪病院臨床検査科細胞診) 細胞診のスライド標本を作製する際,キシレンを使用 大阪医科大学第一生理学教室) ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)によるマ ウス細気管支線毛細胞運動変化を観察する.マウスから 肺を取り出し細胞を解離させたものを PFOS 溶液で処理 し録画して解析した.PFOS 1 µM 処理時線毛の振幅頻 度割合に差は見られなかったが振幅角度割合は 1.28 倍 2+ solution のみでは振幅頻度,角度割合 する.キシレン曝露を減少させることを目的とし,キシ 上昇した.Ni レンを用いた作業およびキシレンの代替としてイソプロ ともに低下したが Ni2+ solution に PFOS 100 µM を加え ピルアルコール(IPA)を用いた作業における作業環境 た場合いずれも大きな変化は見られなかった.Ca 濃度および個人曝露濃度を測定し,IPA への代替の有用 free solution に PFOS 100 µM を加えた場合振幅頻度割 性を検討した.封入作業におけるキシレン個人曝露濃度 合に変化は見られなかった.PFOS 100 µM 処理時の は 4.6 ppm であったが,IPA に代替した結果,1.0 ppm [Ca2+ ]i には周期的な変化が示唆された.PFOS は Ca 2+ 2+ ]i を変化させ線毛 に減少した.一方,IPA 個人曝露濃度は 1.1 ppm から チャネルを阻害した場合でも[Ca 26.6 ppm に増加した.発生源の囲い込みおよび排気を 運動に影響を及ぼす可能性が示唆された.今後作用機序 行 っ た 結 果 ,キ シ レ ン 個 人 曝 露 量 は 4.6 ppm か ら をさらに解明していきたい. 産衛誌 48 巻,2006 42 32.残留性有機汚染物質 perfluorooctane sulfonate (PFOS)の摂食抑制作用 が報告されている.今回,我々はアルコール嗜好性の異 なる 2 系ラットを用いて,トルエン長期曝露による NK ○浅川明弘,金星匡人,松原英理子,原田浩二, 井上純子,井上佳代子,小泉昭夫 (京都大学大学院医学研究科環境衛生学分野) 難分解性の環境汚染物質である,POPs(persistent 細胞活性への影響を比較検討した.低嗜好性 LAP 系お よび高嗜好性 HAP 系の 10 w ♂ Wistar rat を用い,コ ントロール(C),トルエン 200 ppm 曝露(TL) ,トル エ ン 1,000 ppm 曝 露 (TH)3 群 (各 N = 6)に 分 け , organic pollutants)は生物濃縮を受けるため,その人 8 h/d,5 d/wk × 6 w 曝露を行った.曝露終了後,肝臓 体への影響を評価することは非常に重要な問題となって + CYP2E1 酵 素 活 性 の 測 定 ,肝 脾 リ ン パ 球 の CD4 , いる.今回,我々は PFOS をマウスの中枢に投与し, CD8+細胞の解析,および IL-2 添加後の脾 NK 細胞にお 摂食に与える影響に関して検討を行った.マウス−脳室 いて Perforin,granzymeA,B RNA 発現を比較した. 内(第 3 脳室)投与系を用い,絶食下において雄性 ddy TL 群は,C 群に比べ CYP2E1 の上昇を認めなかったが, マウスに PFOS(0.03, 0.1, 0.3 mg/kg)を急性投与し, TH 群では著しく増加した.2 系ともに TH 群の肝リン 投与後 20 分,1 時間,2 時間,4 時間,12 時間,24 時間 パ球の CD4+細胞の割合が低下し,一部ラット脾 NK 細 後の摂食量を測定した.PFOS は,脳室内投与において 胞活性の低下を認めた.高濃度トルエン長期曝露は,肝 用量依存的に,有意に摂食を抑制した.この摂食抑制作 + の CD4 細胞数および脾 NK 細胞活性の低下を誘導し 用は,0.3 mg/kg 投与においては,投与後 20 分より認め た.2 系 TH 群の CYP2E1 活性に差は認めなかったが, られ,24 時間持続した.以上により,PFOS が中枢にお 免疫能への影響は HAP 系において強く認められた. いて摂食行動に影響を及ぼしている可能性が示唆された. 35.MTBE 腹腔内注射における投与量と尿中代謝物と 33.京都府における大気粉塵中ペルフルオロオクタン の関係 1 1 1 1 ○前島 幸 ,寺田和史 ,吉益光一 ,宮井信行 , 酸(PFOA)とペルフルオロオクタンスルホン酸 1 1, 2 2 1, 2 宮下和久 ,河合俊夫 ,山内恒幸 ,山本博一 (PFOS)の粒子径分布と経気曝露の推定 1 2 3 2 (1 和歌山県立医科大学衛生学教室, ○原田浩二 ,中西貞博 ,佐々木和明 ,古山和徳 , 中山 1 3 2 1 嗣 ,齋藤憲光 ,山川和彦 ,小泉昭夫 1 2 ( 京都大・医・環境衛生学, 京都府保健環境研究所, 3 岩手県環境保健研究センター) 2 中央労働災害防止協会大阪労働衛生総合センター) ガソリン添加剤である MTBE の曝露評価を行うため の基礎的研究として,尿中 MTBE とその代謝物である PFOS ・ PFOA は,環境中で広く検出される残留性 TBA との関係等について検討を行った.まず MTBE お 有機汚染物質である.本研究では PFOS,PFOA の粒子 よび TBA の保存性実験として,20 mg/L の各溶液を冷 径分布を明らかにする.京都府大山崎町 2 地点と福知山 却および室温で放置したところ,MTBE 濃度は 6 時間 市で 2005 年 4–6 月にかけて,粒子径別に 8 段式アンダ 後で既に 3 %以下と低くなったが TBA 濃度は冷却放置 ー セ ン サ ン プ ラ ー を 用 い て 30 日 間 を 通 じ て 大 気 下で 24 時間後も 92 %が保持されていた.Wistar 系ラッ 3 1,080 m を 捕 集 し ,LC/MS に よ り 定 量 し た .PFOA, トに MTBE を腹腔内注射した際の尿中 TBA 濃度では, PFOS 粒子径別濃度の合計は大山崎国道 171 号線沿線で フリーおよび加水分解後の TBA 濃度は MTBE 投与量 3 3 319.7 pg/m ,6.8 pg/m であった.国道から離れた測定 に伴って増加する傾向が示された.また,加水分解後の 3 3 点ではやや低い値を示した(204.8 pg/m , 2.9 pg/m ). TBA 濃度は加水分解前の 4 ∼ 5 倍高値を示した.以上 粒 子 径 1.1–11.4 µm に は 全 粒 子 中 PFOA ・ PFOS の のことから,TBA を MTBE 曝露の指標として用いるこ 58.3–89.8 %が含まれていた.国道 171 号線測定点での大 とが可能であること,さらに TBA は抱合されているた 気からの PFOA 曝露は 3.4 ng/d と推定された.京都市 め加水分解後に尿中濃度を測定することがより有用であ 飲料水中濃度から推定される 1 日摂取量は 10.8 ng/d で ることが示唆された. あり,大気からの曝露も同程度にあると考えられる. 36.テトラヒドロフラン吸入曝露後のラットの迷路行 34.トルエン長期曝露がラット免疫能に及ぼす影響の 検討 動におよぼす影響 ○寺本敬子(大阪市大・医学研究科・産業医学) 1 1 2 ○馬 露 ,郷司純子 ,大内晴美 , 1 2 島 正之 ,木下博之 (1 兵庫医科大学公衆衛生学教室, 2 兵庫医科大学法医学教室) トルエン取り扱い作業者において,NK 細胞数の低下 THF の毒性の影響を明らかにするために迷路を用い て THF 曝露後のラットの行動を観察した.Hebb & Williams(1946)によって考案されたフィールド型迷路 を使用.実験動物は Wister 系雄生成熟ラット(体重 250–300 g)18 匹.各濃度の THF に 4 時間吸入曝露させ 産衛誌 48 巻,2006 43 市原佐保子 6,宮田麻衣子 1,竹内康浩 1 たラットを曝露後すぐに迷路に入れ,入り口から餌箱に (1 名古屋大学大学院医学系研究科, 至るまでの時間を計測した.THF 吸入曝露濃度(曝露 箱の中)は低濃度群(5 匹)375 ± 36.7 ppm,中濃度群 2 上海市生育科学研究所,3 愛知医科大学医学部, 4 (8 匹 )2,200 ± 150.7 ppm,高 濃 度 群 (5 匹 )8,580 ± 6 1,630 ppm とした.今回の予備実験における THF 吸入 広東省職業病防治院,5 宜興 CDC, 三重大学生命科学研究支援センター) 曝露が及ぼすラットの迷路学習への影響を見ると約 400 1-ブロモプロパン(1-BP)は新しいフロン代替溶剤と および 2,000 ppm では曝露前後の所要時間(3–4 秒)に して,世界的にその使用が拡大している.ここでは,1- 違いが認められず,このことは使用した迷路の経路が単 BP 工場で働く 40 人の 1-BP 曝露女性労働者と年齢をマ 純であったと考える.高濃度曝露の場合は麻酔作用によ ッチングさせた同数の非曝露女性労働者について,個人 り行動量が低下し,所要時間(約 2 分)が延長したと考 曝露濃度と健康影響を調べた.パッシブサンプラーによ る個人曝露量評価で時間加重平均値は 15.3 ± 16.2 ppm えられた. (最大 73.7 ppm,最小 0.65 ppm)であった.曝露群にお 第 17 回産業神経・行動学研究会* いて足振動覚の低下,遠位潜時の延長,運動神経伝導速 度の低下,血清蛋白の上昇,Benton テストと感情プロ <特別講演> フィールの Tension,Fatigue における低スコアが有意 職域における中毒性神経障害 に示された.動物実験で確認され,なおかつ,これまで 小林槇雄 (東京女子医科大学医学部病理学第一講座) の曝露集団調査に対し本研究で新たに示されたのは,運 動神経伝導速度低下と血清蛋白値上昇である.1-BP はヒ トの中枢,末梢神経に悪影響を及ぼすことがわかったが, <一般演題> ヒトでの量―反応関係にはさらなる研究が必要である. 1.産業保健領域における平衡機能の評価 ○岩田豊人,嶽石美和子,村田勝敬 (秋田大学・医・環境保健) 産業保健領域の異なる 3 群の作業者で,平衡機能影響 3.アクリルアミドによる p53 リン酸化ならびに細胞毒 性発現への ERK の関与 奥野丈夫 1,松岡雅人 2,住澤知之 1,○伊規須英輝 1 (1 産業医科大学産生研環境中毒学, を検討するため神経行動検査システム Catsys2000 を用 2 いた身体重心動揺検査を行った.以下の結果が得られた. 東京女子医科大学衛生学公衆衛生学一) ①男子鉛作業者 121 名は対照群 60 名と比べ,開眼時前 ヒト神経芽細胞種由来細胞(SH-SY5Y)にアクリル 後方向の移動距離を除く全ての指標が有意に大きく アミドを曝露したところ,曝露時間,用量に応じて, (p < 0.01),移動距離および前後方向 Romberg 指数も p53 蛋白量,p53 リン酸化,MDM2 蛋白量の増加がみら 増大していた.②トルエン,キシレン,スチレン,n-ヘ れた.また,トリパンブルー排除の低下および LDH 漏 キサンに曝露する有機溶剤作業者男女 62 名は対照群 35 出増加がみられた.p53 リン酸化はセリン 15 部位に特 名と比べ,閉眼時の移動面積と前後方向の移動距離,お 異 的 で あ っ た .MAPK(mitogen-activated protein よび前後方向 Romberg 指数が有意に大きかった(p < kinase)の う ち ,ERK(extracellular signal-regulated 0.05).③ 3 交替制看護師 37 名と日勤看護師 37 名の間に protein kinase)ならびに p38 のリン酸化の増加はみら はいずれも有意な差を認めなかった(p > 0.05).以上 れたが,JNK リン酸化増加はみられなかった.p38 の阻 より,平衡機能(身体重心動揺)検査は,鉛や有機溶剤 害では p53 リン酸化の抑制はみられなかったのに対し, のような神経毒性物質の慢性曝露作業者では検出可能で ERK 系阻害剤存在下では,p53 リン酸化は抑制され, あるが,勤務態様の相違では十分な検出力を持たないと MDM2 蛋白量増加の抑制がみられた.さらに,トリパ 考えられた. ンブルー排除の低下および LDH 漏出増加も減少した. これらから,アクリルアミドによる p53 リン酸化ならび 2.1-ブロモプロパン曝露のヒト中枢神経および末梢神 経への影響の解析とリスク評価 1 2 に細胞毒性発現に,ERK 系が関与していることが推測 された. 3 2 ○市原 学 ,李 衛華 ,柴田英治 ,丁 訓誠 , 2 4 5 李 潔斐 ,王 海蘭 ,彭 四盟 , 4.ある新築校舎で発生したシックハウス症候群の検討 1 2 1 ○木田博隆 ,北村文彦 ,横山和仁 * 会 期:平成 17 年 11 月 12 日(土) 会 場:東京女子医科大学 世話人:松岡雅人 (1 三重大学医学部公衆衛生学講座, 2 産業医学総合研究所) 今回,某新築校舎で集団発生したシックハウス症候群 産衛誌 48 巻,2006 44 について検討した.対象は 36 名(男 7 名,女 29 名,平 6.働く女性の女性特有の疾患とストレス 均年齢 28.56 歳) .方法は 1.室内環境測定:揮発性有機 ○野原理子 化合物やカルボニル化合物の濃度測定,2.自己記入式 (東京女子医科大学医学部衛生学公衆衛生学一) 質問紙:症状の有無,飲酒習慣,喫煙習慣,STAI テス 働く女性が持つ女性に特有の症状・疾患の実態把握 ト(状態不安と特性不安),3.血算,血中 IgE 量など, と,それら症状に関連のある因子の推定を目的として, 4.採血後 Cytokinesis block 法による小核標本作製し 全国の女性労働者 8,150 人を対象として,アンケート調 Historical control 群との小核頻度の比較.結果より,基 査を行った.調査項目は勤務時間・雇用形態・勤務形 準を超える TVOC とホルムアルデヒドが検出されると 態・作業環境・年齢・出産経験・ストレス・喫煙・飲酒 ともに目,鼻,のどなどの粘膜刺激症状を中心にだるさ を挙げた.女性特有の症状は,月経不順,月経痛,子宮 や頭痛などの症状が屋内を中心に多く認められたことで 内膜症,更年期症状等を尋ねた.調査の結果,月経不順 シックハウス症候群と考えられた.対象に占めるアレル は 20 %にみられ,月経痛は「かなりひどい」 「ひどい」 ギー疾患および血中 IgE 高値の割合は高く,また,シッ 「月経痛はあるが我慢できる程度」をまとめると 4 分の クハウス症状ありと考えられる群でのアレルギー疾患を 3 の女性が症状を持っていた.子宮内膜症は今回の調査 有する割合も高かったことより,アレルギー素因も重要 での定義で推定すると,7.1 %,同様に更年期症状は な因子と推定された.シックハウス症候群の心理的影響 34 %が該当した.また,月経不順・月経痛・子宮内膜 を推測する方法の 1 つとして STAI テストを用いたが症 症では,ストレスが関連因子であり,ストレスを感じる 状変化に伴う経時変化の追跡が必要と考えられた.シッ ものの割合は,勤務時間の長い者,正社員,不規則勤務 クハウス群で小核頻度が上昇したことから,基準を超え のある者で高くなっていた.よって,勤務時間や作業環 る TVOC やカルボニル化合物に曝露されることにより 境の改善がストレス軽減の重要な因子であり,ストレス 変異毒性が増大すると推測された. の軽減が女性特有の症状の改善につながると考えられた. 第 49 回中国四国合同産業衛生学会* 5.マレーシアのタバコ作業者における農薬影響 1 2 ○北村文彦 ,横山和仁 ,石川 仁 2, 3 4 ,高木健次 , 5 2 6 豊川智之 ,木田博隆 ,Rusli Bin Nordin 1 ( 独立行政法人産業医学総合研究所, 2 <学会長講演> 豊島廃棄物等処理事業と健康管理の現状 氏家睦夫 三重大学大学院医学系研究科公衆衛生・産業医学分野, 3 4 現山形大学大学院医学系研究科公衆衛生学講座, (香川県豊島廃棄物等処理事業健康管理委員会委員長) 名古屋大学大学院医学系研究科病態化学解析学講座, 座長:影山 浩(元香川労災病院副院長, 5 東京大学大学院医学系研究科 前香川産業保健推進センター所長) 社会医学専攻公衆衛生学分野, 6 マレーシア科学大学医学部地域医療学講座) ピレスロイド系農薬の長期微量曝露による非顕性影響 <特別講演Ⅰ> 心理社会的健康障害要因への対応戦略のあり方 を調査した.マレーシアの Kota Bahru(Kelantan 州) 森 晃爾 周辺でタバコ公社に登録された男子タバコ栽培者 63 人 (産業医科大学 副学長,産業医実務研修センター所長) (農薬使用群,内ピレスロイド系使用者 29 名)を対象と 座長:實成文彦(香川大学医学部教授) し,対照群は農薬曝露が無いタバコ公社男子職員 30 人 で,尿中のニコチン代謝産物(コチニン),ピレスロイ <特別講演Ⅱ> ド剤代謝産物(3PBA)の分析と振動覚検査,重心動揺 職場における生活習慣病の管理 検査を行った.両群間において尿中コチニンおよび 松尾裕英 3PBA 値に差がなかった.振動覚検査では農薬間に差が (四国電力(株)健康開発センター所長, ないものの対照群に比べ,ピレスロイド使用,非使用作 香川大学名誉教授) 業者ともに手指の低下が認められた.重心動揺検査では, 座長:森下立昭(香川県医師会 会長) ピレスロイド非使用作業者では,開眼時の動揺面積,閉 眼時の移動振幅が対照群より増加していた.また,前者 はピレスロイド使用者と比べても大きかった.ピレスロ イド剤を含め農薬曝露による非顕性影響が認められた * 会 期: 2005 年 11 月 26 日(土)∼ 27 日(日) が,症例数も少なく今後大規模な調査と様々な条件を検 会 場:サンポートホール高松(高松市) 討する必要性があると思われる. 学会長:氏家睦夫 産衛誌 48 巻,2006 45 <一般演題> 自記式アンケートを実施した.月内変形労働時間制の導 1.暑熱曝露の生体影響について(その 2)―心拍変動 入前後の生活の変化は,女性が「食事内容が悪化した」 を用いて― ○山本真二 「食事摂取時間に変化があった」 「睡眠状況が悪くなった」 1, 3 ,岩本美江子 2,井上正岩 3,原田規章 3 1 2 ( 日新製鋼(株)周南製鋼所, 山口大学保健学科, 3 山口大学衛生学) が有意に高かった.39 歳以下で「喫煙本数が増えた」 「飲酒量が増えた」が有意に高かった.現在夕食を 21 時 以降に摂取する群では「食事内容が悪化した」「食事摂 健 常 男 子 学 生 6 名 を 被 験 者 と し ,快 適 条 件 取時間に変化があった」が有意に高かった.「食事内容 (WBGT21 ℃)および暑熱条件(WBGT35 ℃)で 30 分 が悪化した」を選択した群では 21 時 30 分以降に夕食を 間曝露した.快適条件では有意な変化を認めなかったが, 摂取する割合が高く,「ストレスが強い」「食事摂取時間 暑熱条件では心拍数上昇,体温上昇,心拍変動の HF % に変化があった」「睡眠状況が悪くなった」「運動する頻 の減少,LF/HF の増加,自覚症状の熱感,発汗,気分, 度が減った」が高かった. 顔のほてりに有意な変化を認めた.前回(WBGT30 ℃) に比べ暑熱条件では,心拍数の有意な上昇が新たに示さ れ,他の測定項目の結果は同様の傾向であった.暑熱負 4.交代勤務と高血圧の発症との関連について ○井上正岩,山本真二,管 裕彦,原田規章 荷による自律神経反応として,交感神経機能の軽度亢進 (山口大学医学部衛生学教室) および副交感神経機能が低下している状態であることが 交代勤務に従事することが高血圧の発症に関与するか 心拍変動より示された.この傾向は生体反応と自覚症状 どうかについて検討した.製造業某事業場に勤務する男 において矛盾のない結果を示した. 性労働者を対象に,1999 年時点で血圧値が正常値を示 2.建設業者の熱中症対策 人(日勤群) )を調査対象として登録し,2004 年までの す 785 人(交代勤務者 468 人(交代群) ,日勤勤務者 327 ○林田昭子 1,小河孝則 2 (1 岡山県建設国保組合,2 川崎医療福祉大学) 5 年間の観察を行った.高血圧の基準は,収縮期血圧 140 mmHg 以 上 ま た は 拡 張 期 血 圧 90 mmHg 以 上 と し 岡山県建設国保組合に加入する建設業自営業者,零細 た.観察開始時の平均年齢と血圧値に有意差は認められ 事業者(大工,左官を主体とする多職種)834 人に対し, なかった.生存分析での交代群の生存率は低かった 熱中症の知識と予防対策の実態について,質問紙調査を (p = 0.036) .Cox 回帰分析における交代群のハザード 実施した.実施時期平成 17 年 4 月∼ 6 月.よく理解し 比は 1.61(95 %信頼区間 1.04–2.49)であった.今回の結 て い る 人 の 割 合 は 5 % 未 満 で ,知 ら な い 人 の 割 合 は 果は他報告の結果と一致し,高血圧の発症に交代勤務が 30 %に上った.知識の取得先はマスコミからが 50 %で, ポジティブに関与する可能性を支持した.交代勤務者の 仕事関係からの 20 %を上回った.予防対策をとってい 血圧管理は重要視すべきであると考えられた.交代勤務 ない人の割合は 40 %であった.零細事業者や自営業者 の従事は高血圧を発症するリスクであると考えられた. である当国保組合員は,体系的な知識を取得する場がな く,知識も対策も不十分であった.平成 17 年 7 月と 8 月に作業現場の WBGT 値を測定したところ,気温 30 ℃ で RMR 中等度作業での許容濃度 27.5 ℃を上回り熱中症 危険職場であった.知識の普及が積極的に図られる必要 があった. 5.簡易調査用紙を用いた医療スタッフの職業性ストレ スと QOL の測定 ○國次一郎,奥田昌之,杉山真一,芳原達也 (山口大学医学部公衆衛生学講座) 医療スタッフの職業性ストレスや QOL にはさまざま な研究があり,女性の不利な点も多く指摘されている. 3.変形労働時間制勤務者の生活習慣調査 1 今回われわれは,簡易質問紙票によるストレス・ QOL 2 2 ○槇本宏子 ,杉原由紀 ,太田充彦 , 2 2 安田誠史 ,大原啓志 1 2 ((株)高知大丸, 高知大学医学部公衆衛生学教室) 測定を職場全体で行い,医療スタッフの健康状態を維持 していく根拠を得ようとした.結果,対象 74 名から 68 名(93.2 %)の有効回答を得た.SF-36 による QOL 評価 当社においては,1994 年の大規模小売店舗法改正の スコア(調整前)では,三つの専門職で高値となったの 施行以降の段階的閉店時間延長に伴い,月内変形労働時 は看護師で,身体機能,活力,社会生活機能,日常役割 間制が導入された.変形労働時間制勤務者の生活習慣実 機能(精神),心の健康の五項目でもっとも高かった. 態を知り,変形労働時間制と生活習慣および健康状態と 保育士では,日常役割機能(身体),体の痛み,全体的 の関連を検討することを目的として,定期健康診断受診 健康観,心の健康の 4 項目で低い数値を示した.さらに 者を対象として,生活習慣と現在の健康状態,月内変形 JSS-R の結果ではストレス反応,職域ストレスにおいて 労働時間制の導入前後の生活の変化の有無等についての 医師は看護師・保育士と比較して高いスコア平均を認め 産衛誌 48 巻,2006 46 た.医師のストレス反応で高いのは疲労感であり,様々 (NTT 西日本中国健康管理センター) な関連要因が連想された. 労働者を取り巻く環境は激しく変化しており,心の健 康問題による休職者は増加の傾向にある.休職後,職場 6.病院看護職における婚姻状況とうつ尺度の関係 1 ○奥田昌之 ,中尾久子 1, 2 復帰する時点での回復程度は 7 ∼ 8 割の場合が多く,再 1 ,國次一郎 , 1 1 杉山真一 ,芳原達也 1 ( 山口大学医学部公衆衛生学講座, 2 九州大学医学部保健学科) 発する率も高い.今回,休業後比較的順調に職場復帰が できた事例と再発をくり返し,業務遂行に支障をきたし 対応に苦慮した事例をとりあげ,これらを職場適応良好 群と職場適応不良群に分けその発症要因,上司の疾病に これまでの女性看護職の研究では,婚姻がストレス反 対する理解度,本人の復職への準備状態などについて比 応に陽性に働く関連があるものというものと関連がない 較検討をおこなった.その結果,1.発症要因について というものがある.今回,山口県の地方都市で婚姻とス は,職場発症要因の数が少ないほど職場適応は良好で, トレス反応との関係を調査した.総合病院 3 施設に勤務 発症要因が重複し,家族の要因が加わった社員の職場適 する女性看護職 946 名に依頼し有効回答 787 名を対象に 応は不良であった.職場発症要因の内容では適応良好群 解析した.ストレス反応は Zung の自己評価式抑うつ性 と比較して職場の人間関係の変化,昇進・昇格が適応不 尺度を用い,仕事や家庭の要因を調査した.抑うつは, 良群で高率を占めた.2.上司の疾病に対する理解度に 未婚者よりも既婚者で低かった.さらに年齢で区分する ついては,適応不良群では,本人の処遇に対し情緒的な と,若年の 20,30 歳代でも,中年の 40,50 歳代でも関 判断をし,客観的判断ができない上司が約 4 割みられ, 連があった.抑うつと婚姻状況の関係を検討するため, ラインによるケアの充実・重要性が認識された.3.本 共分散分析したところ,既婚者で抑うつが低く,年齢を 人の復職への準備状態については,適応不良群では通院 層化すると若年の 20,30 歳代で婚姻状況と SDS 得点と 間隔,服薬量ともに休職初期に比べ変化がない人が約 9 に関連性があった.今回の結果には横断的調査の限界が 割であった.また,パソコン,読書などの知的作業がで あるが,働いている女性看護植の精神健康対策のひとつ きていないものが約 3 割あり,復職の意欲,気力ともに として,婚姻について考慮していく必要があるといえる. 低い傾向にあった. 7.定健時の面談により休務にいたらなかったメンタル 9.シリンジヘッドスペース法による血中トルエンのモ ヘルス不全の 3 症例 ニタリング 1 3 4 1 ○須那 滋 ,浅川冨美雪 ,呉羽晃徳 ,鈴江 毅 , ○平林修子 1 2 4 1 万波俊文 ,平尾智広 ,多田慎也 ,實成文彦 (日本郵政公社四国支社健康管理室) 人事異動後,新しい職場へ適応できず,メンタルヘル ス不全に陥る従業員が見受けられる.そして,休務の診 1 ( 香川大学医学部衛生・公衆衛生学,2 同 医療管理学, 3 倉敷芸術科学大学人間環境科学,4 香川労災病院健診部) 断書が提出され,初めて産業保健スタッフが知ることが われわれは,微量末梢血を利用したシリンジ・ヘッド 多い.従業員が休務に至ることは本人のみならず,企業 スペース・ガスクロマトグラフ法を考案し,良好な精度 にとっても損失であり,できれば回避したいことである. で ppb オーダーの血中 VOCs の測定を可能にした.そ 今回の 3 症例は,定期健康診断における面談で体調不良 こで本法を印刷作業者の血中 Toluene 濃度の測定に適 を訴えたため,数回の面談を繰り返し行った.その結果, 用し,個人暴露濃度や尿中場尿酸との関係を検討した. 環境調整が必要との判断のもと,職場,人事,産業医が 溶剤の主成分が Toluene である某グラビア印刷工場に 連携をとり,適切な人事異動が行われた.3 症例とも休 おいて作業環境測定と個人曝露および作業者血中 務に至らず,現在はほぼ完全寛解状態で勤務を継続して Toluene,尿中馬尿酸を測定した.作業環境測定と個人 いる.近年,諸事情により健診を外部委託する企業が多 曝露はパッシブサンプラー法によった.また,血中 くなっている.そのような場合でも,定期健康診断にお Toluene と尿中馬尿酸は作業終了後の検診時に採取され ける企業の産業保健スタッフの面談や問診票の充実は, た血液と尿を用い測定した.作業環境中 Toluene は, 従業員の健康管理のためには,必要不可欠であると思わ GM17.9 ppm,GSD1.71 であり,作業環境管理区分Ⅰに れる. 属した.個人曝露濃度は 3.2–31.5 ppm の範囲にあり,許 容 濃 度 を 越 え る 者 は い な か っ た .血 中 Toluene は 8.うつ病の職場復帰事例の比較検討―職場復帰適応良 好群と適応不良群との比較検討― ○久澄園子,長岡ひとみ,竹本雪枝, 二井田令子,山内敬子,原 均 42.4–438.1 ng/ml の 範 囲 で ,個 人 曝 露 濃 度 と 血 中 Toluene 濃度の間には強い相関(r = 0.787)がみられた. なお,個人曝露濃度と尿中馬尿酸濃度の関係に相関はな かった. 産衛誌 48 巻,2006 47 10.医学解剖実習時の気中ホルムアルデヒド濃度―第 3 12.歯科医療受療動向と関連要因について ○青木つね子 1,影山 浩 1,呉羽晃徳 2, 報 夏季と冬季の比較― 1 2 3 2 2 2 大柳直子 ,見市 昇 ,守安秀行 , ○須那 滋 ,一原由美子 ,浅川冨美雪 , 1 1 1 鈴江 毅 ,万波俊文 ,實成文彦 3 5 4 平尾智広 ,浅川冨美雪 ,實成文彦 1 1 ( 香川大学医学部衛生・公衆衛生学, 2 3 ( 大倉工業(株)総務部安全衛生環境グループ, 2 香川県立保健医療大学, 倉敷芸術科学大学人間環境科学) 3 香川労災病院健診部, 4 香川大学医療管理学, 香川大学衛生・公衆衛生学, 5 医学部での解剖学実習時の気中ホルムアルデヒド 倉敷芸術科学大学人間環境科学) (HCHO)濃度は高く,教育に従事する教職員にとって 過去に行ってきた保健事業や保健活動の効果把握のた も,実習を受ける学生にとっても好ましい環境とはいえ めの結果指標として,診療報酬明細書(以下レセプト) ない.われわれは,解剖学実習時の室内 HCHO 濃度と に着目し,医療費全体にしめる歯科医療費のインパクト 個人曝露濃度について比較検討した.室内濃度,個人曝 を知るとともに,割合の大きい歯科医療費について,受 露濃度測定は,Sep Pak Xposure を捕集材として用い, 療動向と関連要因について分析を行った.平成 16 年 4 高速液体クロマトグラフ法により分析した.夏季,冬季 月∼平成 17 年 3 月分のレセプトと平成 15 年 5 月に実施 いずれも,実習開始とともに急激な濃度の上昇がみられ, した『健康調査』の両方のデータがある者 1,533 名を対 開始後 30 ∼ 90 分間に,夏季では 3,000 ∼ 5,000 µg/m3, 象とした.また,歯科医療動向の解析については,平成 3 冬季では 1,500 ∼ 2,500 µg/m の高濃度に達したまま定 16 年度に歯科受診をしたレセプトのある 648 名を対象 常状態となる状況が観察された.幾何平均濃度は,夏季, とした.医療費全体に占める歯科医療費のインパクトは 冬季いずれも基準値をはるかに越えており,夏季は冬季 大きく,また高医療費群の詳細な分析が必要ということ の 2 倍以上の濃度であった.幾何標準偏差は 2 以下であ が分かった.また,歯科検診やブラッシング指導など, り,室内全体がほぼ均等な濃度分布であった.これらの 予防効果の高い方法の実践を行う必要があるので,保健 結果から,排気装置の換気能力の不足がうかがわれた. 事業に取り入れたり,保健指導の場を利用して,実際の 個人曝露濃度も,夏季は冬季よりも高く,しかも室内濃 歯磨き方法を確認しながらブラッシング指導をするな 度より高い傾向を示した. ど,積極的に歯科疾患の予防を図っていきたい. 11.蛍光ラベル化試薬を用いる尿中ホルムアルデヒド 13.頚動脈肥厚と循環器関連疾患既往歴―高血圧・高 測定―職業的非曝露者における濃度分布― 脂血症・糖尿病・脳卒中・心筋梗塞について― 1 1 1 1 ○呉羽晃徳 ,守安秀行 ,見市 昇 ,多田慎也 , 浅川冨美雪 2, 3 3 ,平尾智広 ,實成文彦 3 ○三宅耕三 1, 3 ,万波俊文 1,大西真由美 2,徳満久美子 2, 2 2 4 1 大野まゆみ ,浅野育恵 ,本田夕紀子 ,鈴江 毅 , (1 香川労災病院健診部, 2 1 2 1 須那 滋 ,麻田ヒデミ ,實成文彦 1 倉敷芸術科学大学生命科学部健康科学科, 3 ( 香川大学医学部人間社会環境医学講座 香川大学医学部人間社会環境医学) 我々は 47 回の本学会において,蛍光ラベル化試薬― 4-Amino-3-penten-2-one(商 品 名 Fluoral-P,同 仁 化 学 ) 衛生・公衆衛生学, 2 3 麻田総合病院, 香川短期大学,4 株式会社アロカ) 平成 13 年より,職場の一次健診で高血圧,高脂血症, ―を用いて尿中ホルムアルデヒドを測定する方法を報告 糖尿病,肥満の 4 項目をすべて満たした者に対して,労 した.今回はこの方法を若干改良した結果,感度を上げ 災から二次健康診断等の給付が実施されるようになり, ることができた(ND = 0.005 µg/ml → 0.001 µg/ml) .そこ その中の検査の 1 つに頚部超音波検査があり,その重要 で,この改良した方法を用いて人間ドック受診者(職業 性が認識されつつある.目的は頚動脈肥厚と関連が深い 的非曝露者)の尿を測定したところ,全対象者(n = 133, と思われる 5 つの既往歴(含現病歴),すなわち高血圧, 男 91 名 ,女 42 名 ,年 齢 : 平 均 49.9 歳 (25 歳–74 歳 )) 高脂血症,糖尿病,脳卒中,心筋梗塞既往歴者の頚動脈 の 幾 何 平 均 値 は 0.021 µg/ml(95 % 信 頼 区 間 の肥厚の程度を調べることである.平成 16 年 7 月∼平 0.005–0.090 µg/ml)であった.また,男女別,年齢別で 成 17 年 8 月までの間に A 病院に入院および内科外来を は有意差が認められなかったが,喫煙の有無別では, 受診した患者(男性 151 名,女性 152 名の計 303 名)を “喫煙なし”で 0.019 µg/ml(0.005 ∼ 0.077 µg/ml)に対 対象として頚部超音波検査等を実施した.解析は主とし し,“喫煙あり”では 0.027 µg/ml(0.007 ∼ 0.099 µg/ml) て男女別に上記の既往歴有無別の左右の総頚動脈および と有意に高値(p < 0.01)を示すなど,尿中ホルムアル 分岐部から内頚動脈にかけての最大内中膜複合体厚 デヒドに関しての基礎的データが得られた. (MAX-Intimal Medial Thickness; MAX-IMT)を比較 検討することであった.男女ともに高血圧および脳卒中 産衛誌 48 巻,2006 48 の既往有りの群の方が無い群より MAX-IMT が有意に 今回我々は,視覚刺激と疲労の関係の分析に資する基 厚く,女性においては心筋梗塞の既往有りの群の方が無 礎データを得る目的で,AV タキストスコープを用いた い群より MAX-IMT が有意に厚かった.高血圧,脳卒 実験を行った.被検者は大学 1 年生 45 名であり,刺激 中,心筋梗塞既往と MAX-IMT 肥厚との間に有意な関 の呈示コントロールには岩通アイセック社の AV タキス 連が認められ,特に心筋梗塞既往とに関する報告は今ま トスコープを使用し,反応キーユニットを使用して反応 でほとんどなく,今回の結果は頚部超音波検査の重要性 時間の計測を行った.その結果を前後半に分けて検討し を示唆する内容のものではないかと考える. たが,どちらにおいても平均反応時間と正答率には有意 な相関関係を認めなかった.このことより,正答率が反 14.AV タキストスコープを用いた疲労度測定の試み ―大学生を対象とした反応時間の測定― 1 1 た前半に比べて後半には誤答数が少なかったが,このこ 1 ○鈴江 毅 ,國本政子 ,須那 滋 , とは「慣れ」を示している可能性がある.これらの結果 1 2 1 万波俊文 ,平尾智広 ,實成文彦 が,今回の被験者である大学生という集団のみで認めら ( 香川大学医学部人間社会環境医学講座 れる結果なのか,あるいは疲労を伴う作業の前後ではど 1 衛生・公衆衛生学, 2 応時間の長短に影響されていないことが示唆された.ま 香川大学医学部人間社会環境医学講座医療管理学) 書評 職場における心理的ハラスメント ―その認識を高めるために― う変化するか等,今後さらに多方面から検討していく予 定である. されているとは言いがたい.世界的に増加傾向のあるこ の問題について,その概念から対処法まで系統的に編み 上げられたのが本書である.すでに世界各国で注目され 翻訳出版されているが,時期を得て本書を日本に紹介し 著者 M. G. Gassitto, E. Fattorini, R. Gilioli, C. Rengo, V. Gonik た監訳および訳者の方々の努力に敬意を表したい. 本書の内容を簡単に紹介すると,まず心理的ハラスメ 編者 R. Gilioli, M. A. Fingerhut ントおよび本書でもっとも重要視されているモビングの 監訳 荒記俊一 定義と実態が述べられ,続いて,モビングが引き起こす 訳 横山和仁,澤田晋一,藤原哲也 健康障害,モビングが家庭や社会に及ぼす影響が示され 発行 労働調査会 ている.最後にモビングの原因,予防,対処法が簡潔に 解説されており,読者は心理的ハラスメントについての 心理的ハラスメントは,非論理的行為により労働者に 概観を捉えることができる.本書はたいへんコンパクト 危害を及ぼす従業員虐待の一形態,とされる.本書が紹 で 30 分もあれば一読できる.巻末には参考図書が挙げ 介している国際機関の調査によると,心理的ハラスメン られており,より深く勉強したい読者への便宜が図られ トのうちもっとも頻度の多いものが「言葉による暴力」 ている. で あ り ,次 い で ,職 場 に お け る 「い じ め /脅 か し 現代の職場において,心理社会的要因は健康関連要因 Bullying」と「モビング Mobbing」であるという.モビ としてますますその重要性を増している.その要因の 1 ン グ と は ,集 団 の 一 人 あ る い は 複 数 の メ ン バ ー つ心理的ハラスメントについて日本ではまだ研究が少な (Mobber)による,標的または被害者となる個人に向 い.この問題に立ち向かうには,すべての関係者の努力 けられる攻撃的で脅迫的な行動を指し示すものとされ を結集する必要がある.そのためには,まず,心理的ハ る. ラスメントへの注意を喚起することが肝要であり,本書 本書は WHO(World Health Organization)が出版し は,この任を果たしている.副題にもあるように,すべ た“Raising awareness of Psychological Harassment at ての健康専門職,政策決定者,管理職,人事担当者,法 Work”の全訳である.職場における心理的ハラスメン 曹関係者,労働組合,労働者に一読していただき,現代 トは,その影響の大きさにも関わらず,一般労働者のみ の職場における重要な課題についての理解を促したい. ならず第一線の産業保健スタッフの間でも,十分に理解 (堤 明純,岡山大学)