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宮城県および岩手県における震災復興活動への参加 ~東北未来

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宮城県および岩手県における震災復興活動への参加 ~東北未来
PwC’s
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特集 :
Vol.
サイバーリスクへの対応
3
July 2016
www.pwc.com/jp
トピックス
宮城県および岩手県における
震災復興活動への参加
~東北未来創造イニシアティブ人材育成道場への会計士派遣~
PwC あらた監査法人 成長戦略支援
( MDS)本部
パートナー 椎野
泰輔
はじめに
PwC Japan グループでは、2011年(平成 23年)3月の東
1
活動開始の経緯と活動の概要
日本大震災に遭遇した宮城県、岩手県の復興を目的として、
同じ志を持った他団体・企業の方とともに地域の事業家・起
今年で発災から丸 5 年を迎えた東日本大震災。大地震そ
業家を育成するという従来と異なる新しい手法の支援活動
のものによる被害もさることながら、その後の大津波によっ
を続けてまいりました。
て甚大な被害を受けた地区にいわゆる三陸沿岸地域があり
本稿では、震災から 5年を経過した現在の現地における
ます。その地形的特性から、過去の大地震・大津波でもたび
状況とともに、活動の初期から続けてきたこの支援活動の
たび被害を受けてきた同地域は、地元住民の強靭な精神力
取り組みとその成果をご紹介いたします。
と郷土への深い愛情に支えられてそのたびに立ち上がり、
実り豊かな海や山を愛しながら生きてきたと聞きます。しか
しながら今回の東日本大震災では、過去の災害をはるかに
超える犠牲を目の前にして、日ごろから粘り強いといわれる
この地域の人たちをしても、まさに途方に暮れるといった有
り様であったと、ある地元の方から伺いました。そのような
なか、震災から1 年後の 2012 年(平成 24 年)4 月に、産学
の有志の呼び掛けにより、これまでとは全く異なる復興プロ
グラムが立ち上がりました。これまでの震災復興は、どちら
かといえば物質面、あるいは経済面に着目した各種の支援
によって成り立ってきましたが、この産学有志による復興プ
ログラム『東北未来創造イニシアティブ』、またその活動の柱
である『人材育成道場』は、単に災害からの復旧ではなく、さ
らにその先の復興に向けて、東北の人たちが自らの手で未
来を創り上げていくために必要不可欠な地域リーダーを育
成するためのお手伝いをするため、公益社団法人経済同友
会の全面的なバックアップのもと、活動の趣旨に賛同する各
企業・団体に加え、日本の4 大監査法人に身を置く会計士が
メンターとなって、地元の事業家・起業家を 5 年間にわたっ
て支援するという壮大なプログラムです。
私たち PwC Japan グループでは、PwCアドバイザリー株
式会社(当時)がイニシアティブ創設当初より事務局に対し
て出向者を送り出してきました。また、2014 年度(平成 26
年度)からは、あらた監査法人(当時)の会計士 5 名が、宮城
県気仙沼市および南三陸町の事業家向け人材育成道場(宮
城県での呼称は経営未来塾、岩手県での呼称は未来創造
塾)にメンターとして初めて参加し、1 期間あたり半年に及ぶ
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PwC’s View — Vol. 03. July 2016
トピックス
プログラムの期間中は、主に週末を使って宮城県に通いな
がら塾生の皆さんに対して会計専門家の立場を生かした事
業上のアドバイスを行い、最終的には彼ら・彼女らの未来に
向けた事業構想を練り上げていくお手伝いを行ってまいりま
した。
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活動の内容
この人材育成道場を通じては、これまで宮城・岩手両県で
120 人もの地域リーダー候補者が卒塾され、それぞれ思い
描いた事業構想の実現のために、歩むスピードは違えど着
実に前に向かって進んでおられます。1 期間あたり約 15 名
から20 名の塾生が公募で選ばれ、開講式を経て 4 班ないし
ただきます。半年前には遠慮がちに塾の門をくぐった事業
5 班にランダムに分かれていただき、それぞれの監査法人
家の皆さんが、実に堂々と、晴れやかな顔つきでプレゼン
がそれぞれ一つの班を担当するというスタイルで半年間を
テーションされるのを見ると、毎回のことながらこちらが感
過ごします。最初のうちは事業構想そのものを描くことがで
極まって涙ぐんでしまい、まさにわが子を送り出す親のよう
きない塾生が多いのですが、それでも中には、塾の開始当
な心境になります。また卒塾の後も定期的な集まりを塾生た
初から実にしっかりと未来を見据えて自らの事業構想を描き
ちが進んで企画し、私たちメンターもご招待いただいて、そ
切っておられる方もいらして、そうした塾生の方々は地域の
れぞれの事業構想の進捗を報告してくれることもあります。
リーダーの中のさらにリーダーとして、ゆくゆくは地域経済を
しっかりと支えていく存在となるだろう予感を感じさせます。
私たちは会計の専門家ではありますが、自ら事業を営んだこ
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活動への参加を通じて
とはなく、あくまで彼ら・彼女らが描く事業構想を事業計画
や損益計画の面からサポートさせていただく立場であるた
この人材育成道場への参加は、その後、岩手沿岸の釜石
め、決して考えを押し付けず、とはいえ離れ過ぎず、意外に
市・大船渡市でも実施され、時には両県の塾期間が重なる
難しい立ち位置で塾生との濃密な時間を過ごします。故に、
こともあり、私たちメンターは週末はほとんど東北地方で過
私たちが塾生から教えていただくことも大変多く、本業に立
ごすという生活を送ってきました。
ち返った際の参考とさせていただくべき場面にとても多く遭
遇します。
私たち公認会計士が、このような立場で震災復興のお手
伝いができるなどとは当初は思いもしなかったことでした。
塾の活動は、半年の間に 5 回開催される現地での定期
震災復興といわれて頭に思い描いていたのは、津波で流失
セッションへの参加以外に、普段の週末や平日を使って塾
した町の区画整備や家屋再建、またはそれらにかかる事業
生の皆さんに対してメンタリングを行うことで成り立っていま
費の拠出(寄付)、あるいはよくいわれるボランティアのよう
す。メンタリングは塾生の皆さんからのご要望を伺いなが
な活動で地元のお手伝いをするなど、どれも縁遠いものと思
ら、時には夜遅く、また時には丸々1日使ってじっくりと行わ
い込んでいたものでした。しかし、これらの活動はいわゆる
れますので、現地に足を運ぶこともあれば、ウェブ会議シス
復旧であって、真の意味での復興はその先にあり、さらに言
テムを駆使して遠隔で実施することもあります。さまざまな
えば復興こそ地元の手で成し遂げられる必要があるというこ
視点からの気付きを得るために、塾生とメンターの関係は
とを聞かされた時はまさに驚きでした。その復興ステージに
1対1で固定せずに、緩やかな主担当は決めるものの基本はメ
向けたリーダー育成のお手伝いができるなど考えてもいな
ンターチーム総掛かりで個々の塾生とのやりとりを重ねます。
かったことで、塾生と同じく活動初期段階では私たちも大い
半年の塾活動の最後には卒塾式が執り行われ、市長、商
に不安に思っていましたが、そこは日ごろの専門領域を生か
工会議所会頭、地元行政の係官やその他大勢の関係者の
すことで徐々に慣れていくことができましたし、かれこれ 2 年
皆さんの前で、塾生が自ら決めた事業構想に関するスピー
になろうとしている活動を経て、いまや東北地方に数多くの
チをそれぞれ 8 分間の持ち時間でプレゼンテーションを行
友人ができ、彼らもまた私たちを温かく迎え入れてくれるた
います。また、特に優れた事業構想を描いた塾生を数名選
め、これらの地域は私たちにとってさしずめ親戚が多く住ん
び、15 分間の持ち時間でさらに詳細な構想説明を行ってい
でいる町であるかのような錯覚を起こすことがあります。
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トピックス
活動の今後に向けて
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情ですから、議論が白熱してお互い気まずい空気になるこ
とすらありますが、それだけみんなが真剣にこの塾に取り組
んでいる証しでもあります。
世の中には実にさまざまな復旧・復興への関わり方があり
私たちメンターにとってこれまでほとんどかかわりのな
ます。私たちは東北未来創造イニシアティブへの参加を通
かった地域の皆さんと、ここまで濃密なお付き合いができる
じて大変貴重な機会を頂戴しましたが、いよいよこの活動も
こと、またこれら活動を通じて東北の未来に微力ながらも貢
年限の 5 年を終えようとしています。これから先、この活動
献できることを大いなる誇りに思って、私たちは残すところ
が終了した後も、私たちがどのように東北地方の皆さんと向
あと 1 期となった人材育成道場の活動にコミットしたいと思
き合っていくのかが極めて大切ということを、ここのところよ
います。皆さんも、それぞれのお立場で、それぞれできる範
く考えています。実際に被災したわけではない私たちは、震
囲で、東北の未来が明るく輝くようなご支援を頂けると大変
災で計り知れない痛みを伴った東北・三陸地区の皆さんの
うれしく思います
想いに、最後の最後までは迫ることができません。生半可な
2016 年度(平成28 年度)は、4月から気仙沼・南三陸道場
理解で知ったような口を利くこともはばかられますから、
『大
(経営未来塾)の第 5 期が開講します。また 8月からは岩手沿
変でしたね』などとは軽々しく口にできません。だからと言っ
岸道場(未来創造塾)の第 4 期も開講します。引き続きこの
て、これは彼ら・彼女らだけで解決すべき問題ではなく、例
取り組みを継続してまいりたいと考えております。
えば将来に対する備えや防災意識のさらなる醸成という意
味で、私たち『非』被災者も積極的に議論に参加すべきだと
表:本プロジェクト参加メンバー
思います。またそのような継続的な意識こそが、震災の記憶
水野 文絵 ディレクター(PwCあらた監査法人 MDS第2製造流通サービス部)
を風化させないためにも大事なことだと思っています。
眞田 崇 ディレクター(PwCあらた監査法人 成長戦略支援MDS本部)
私自身、阪神淡路大震災では小学校の幼なじみの家や昔
住んでいた辺りの商家が壊滅的な被害を受けました。また、
中越大地震では妻の実家が被災し義母が自衛隊機で救出さ
れた経験があります。それでもいつも、自分は何もできない
志村 博 シニアマネージャー(PwCあらた監査法人 成長戦略支援MDS本部)
髙橋 秀一 シニアマネージャー(PwCあらた監査法人 成長戦略支援MDS本部)
加藤 義久 シニアマネージャー(PwCあらた監査法人 成長戦略支援MDS本部)
島袋 信一 シニアマネージャー(PwCあらた監査法人 成長戦略支援MDS本部)
土井 さやか シニアアソシエイト
(PwCコンサルティング合同会社)
(所属等は2016年3月31日現在)
と思い込んで遠くから不甲斐ない気持ちで被災地を眺めて
いました。今回の東北地域での活動は、私個人にとって、そ
れらの気持ちをはねのけて、今回こそはお役に立てるチャン
スと思い定めたものでしたので、何をおいても最後までやり
遂げたいものです。
とはいえ被災地の現状はまだまだ復旧ステージです。例
えば、私たちメンターチームがよくお邪魔する気仙沼市の中
央公民館が建っている場所の周辺は、津波で流出した一帯
をまず土盛りでかさ上げし、そのかさ上げ工事が完成して初
めてその上にさまざまな建築物を建てる構想ですが、2016
年(平成 28 年)の春の時点では、ようやくかさ上げのめどが
付いて、周辺道路の整備に着手した段階ですので、実際に
建物が立ち並ぶ街並みが回復するにはまだ数年の時間を要
すると思われます。
塾生が描く事業構想は、それでも待ったなしで取り掛かり
ますので、復旧ののちに復興というよりは、復旧しながら同
椎野 泰輔 (しいの たいすけ)
PwCあらた監査法人
成長戦略支援(MDS)本部 パートナー
時に復興も目指すという言い方が正しいかもしれません。塾
1993年公認会計士二次試験合格。1999年より4年間、PwC米国・シカゴ
生の方々とは気仙沼市内で食事しながら語り合うこともしば
事務所に赴任し、日本企業の米国子会社の監査等を担当。2003 年に名
しばですが、表面的にそれが見て取れるかどうかは別にし
て、皆一様に内なる熱い思いを持っておられます。またそれ
古屋事務所へ帰任後は自動車産業に特化した業務に従事。
2008 年より2 年間、PwCベルギー・ブリュッセル事務所に赴任し、中東
欧ロシアを含む欧州域所在の日本企業子会社に対するサービスを提供。
が私たちメンターのよって立つところでもあります。自分た
2010 年に帰任後は事業開発担当、および PwC Japan産業材監査リー
ちの世代だけでなく、次の世代に受け継いでいくものを確
ダーを務めている
(現在)。
実に残したい、それは塾生もメンターも等しく持っている感
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PwC’s View — Vol. 03. July 2016
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