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JICA の途上国支援における 災害とジェンダー・多様性

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JICA の途上国支援における 災害とジェンダー・多様性
JICA の 途上国支援における
災 害 と ジェンダー・ 多 様 性
−男女、多様な人々が参画し、希望と尊厳のある社会の構築に向けて−
2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災は、人々の生命、生活、生業に対する甚大な被害により日本のみなら
ず世界に衝撃をもたらし、これまでの防災・災害復興対策を大きく見直す契機となりました。その後、被災地での復旧・
復興が進んでおり、ジェンダー注 1 や多様性、貧困などの視点に立ったこれまでの取組みについても新たな課題や教訓
が明らかになりました。日本が行う国際協力においても、国内で得られた知見や教訓を共有し反映していくことが必
要であり、一層の取り組みが求められています。
災害はすべての人に同様の影響を与えるわけではない
自然災害による被害の内容や度合いは男女間や年齢、障害の有無など
で差異があることは、過去の災害事例で示されており、災害とジェンダー・
多様性には密接なつながりがあります。例えば、自然災害における死者
数(人口比)では、先進国・途上国を問わず、多くの場合、女性の死者
数の方が男性より多くなっています。また、東日本大震災での障害者の
死傷者数(人口比)は非障害者の 2 倍以上でした。さらに、被災後には
女性の方が失業率が高くなったり、女性に対する暴力が増加するなど、
災害後の影響も男女で異なり、女性、多様な人々のニーズに即した支援
2004 年スマトラ沖 大 地 震・ インド洋 津 波
( スリランカ ): 亡くなった方・ 行 方 不 明 者
の 65 % が女 性、19 ∼ 29 歳の女 性の割 合は
79%。注 3
2008 年サイクロン・ナルギス(ミャンマー)
:
亡くなった方の 61 % が女 性、18 ∼ 60 歳の
女性死者数は男性の 2 倍以上。注 4
2011 年東日本大震災(宮城県南三陸町):
亡くなった方は人 口の 4.5 % であったのに対
し、障害者の死亡率は 13%。注 5
が必要です。注 2
災害による被害 の相 違に は多 様な 要因 が あ る
災害前から社会に存在する以下のような要因が災害被害によるジェンダー差異に影響しています。
▶男女の社会的状況:平常時から女性の社会的地位が低く、知識や情報へのアクセスが限ら
れているため、女性は災害リスクの認識、避難経路・施設など防災に関する知識や情報が
入手できず、発災の際、避難等適切な行動ができないことがあります。また、普段から意
思決定権が男性にあるため、迅速な判断ができず女性が逃げ遅れる場合もあります。さら
に、被災後には女性や子どもへの暴力や性的虐待、人身取引が増加する傾向にあります。
▶ジェンダーを巡る規範:社会によっては、女性は夫や男性親族の同伴なしに避難所へ移動
できない、女性が着用するサリーなどの服装では動きにくいなど、固有の規範や行動様式
が災害時に影響します。例えば、スリランカでは、男子のみが水泳や木登りを教えられる
ため、多くの女性や女児が身を守れず水害の犠牲者となったと報告されています。注 6
▶性別役割分担:一般的に女性は、男性よりも家にいる時間が長く、乳幼児や子ども、高
齢者の世話を担っています。また、家畜を守るといった役割のため、緊急災害時に避難が
遅れることがあります(逆に、男性が家財を守るために避難が遅れたというフィリピンの
事例もあります)。被災後には、飲料水や燃料、食料の確保が難しくなるため、女性の家
事労働の負担が大きく増加することも報告されています。
注 1:ジェンダーとは、
生物学的な性別
(sex)
ではなく、
社会・文化的に作られる性別のことで、
女らしさや男らしさといった言葉に代表される特定の社会での価値観や男女の社会・文化的役割の違い、
男女間の関係性のことを示す
注 2:統計は内閣府男女共同参画局『平成 24 年版男女共同参画白書・特集 男女共同参画の視点からの防災・復興』を参照
注 3:ESCAP(2013)
,“Who is vulnerable during Tsunami? Experiences from the Great East Japan Earthquake 2011 and the Indian Ocean Tsunami 2004”by Mari Sawai
注 4:Caritas Internationalis(2008)
“Caritas making a difference three months after Myanmar cyclone”by Tim O'Connor
注 5:内閣府(2012)平成 24 年度版障害者白書
注 6:Oxfam International(2005)
“The Tsunami's impact on women”
女性は防災および 復旧 ・復 興の 主体 的 な 担 い 手 で あ る
女性および「災害リスクの高い人々」(障害者、子ども、高齢者、貧困者、外国人、乳幼児を持つ母親など)の固有のニーズ
に応じた支援が必要です。同時に女性は、平常時から家族のケアやコミュニティ活動への参加を通して、地域における人間関係
を構築しており、避難行動・復旧・復興に必要な人的ネットワークを活用することができます。しかし、防災計画は従来男性
中心に作成されることが多く、女性および「災害リスクの高い人々」の意見やニーズが反映される機会が多くありませんでした。
女性および「災害リスクの高い人々」を防災・復旧・復興の重要な担い手(当事者)と位置づけることが必要です。女性および
多様な人々の声を地域防災・災害復興の計画づくりに活かすことが、災害に強いコミュニティの再建につながります。 災害とジェンダーに関する国際的動向
兵庫行動枠組(HFA)
日本政府「防災協力イニシアティブ」
国連女性の地位委員会(CSW)
「自然災害とジェンダー」 決議案
2005 年の国 連 防 災 世 界 会 議( 神 戸 )
2005 年、国際防災世界会議で日本政府
で採 択された「 兵 庫 行 動 枠 組 2005 ‐
2015」 は、 優 先 行 動に「 あらゆる災 害リ
スク管理政策や計画、意思決定過程にジェ
ンダー視点を取り入れることが必要である」
「 災 害リスク軽 減 計 画を立てる際に、 文 化
的多様性、年齢、及び脆弱な集団が適切に
考 慮されるべきである 」と明 示し、 随 所で
女性、子ども、貧困層、高齢者、障害者な
どに対する取り組みについて言及している。
しかし、兵庫行動枠組に基づいた各国の取
り組みの中で、 防 災にジェンダー 視 点を統
合することが最も進 捗の遅い課 題であると
指 摘されており、 更なる取り組みが必 要で
ある。
の包括的な援助方針「防災協力イニシアティ
2014 年に開催された第 56 回 CSW にお
ブ」が発表された。人間の安全保障の視点
から、「 一 人 一 人の人 間を中 心に据えて、
災 害から個 人を保 護し、また災 害に対して
個人や地域社会が自ら行動する能力を高め
ることが重 要である。 さらに子どもや貧 困
層などの災 害に対して特に脆 弱な人 々に配
慮する」、およびジェンダーの視点から、
「政
策決定への参画、経済社会活動への参加、
情 報へのアクセスなど様々な面で男 女 格 差
が存 在するため女 性が災 害 時に被 害を受け
やすい。したがって、 防 災 協 力の全ての側
面においてジェンダーの視 点に立った支 援
を行う」との基本方針を定めた。
いて、日本政府代表団より「自然災害とジェ
ンダー」 に関する決 議 案が提 出された。 防
災、災害対応、復旧・復興におけるすべて
の局 面での、 ジェンダーの視 点を取り入れ
た政策立案の必要性と復旧・復興に係る女
性の意思決定過程への参画を確保すること
の重 要 性が提 起され、 日 本を含む 50 カ国
が共 同 提 案 国となり採 択された。これは、
2013 年の第 55 回 CSW においても日本政
府が提出し、満場一致で採択された災害と
ジェンダーの決議案に続くものである。
【ジェンダーと開発に関する JICA の協力方針】̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶
JICA は「すべての人が恩恵を受ける、ダイナミックな開発(Inclusive and Dynamic Development)」を目指し、「人間
の安全保障」の視点に基づき、開発途上地域の人々に包括的な支援を迅速に実施することを目標としています。協力の実施
にあたり、地域・社会の開発や平和の定着のための重要な「担い手」(主体)として女性の役割や能力を認識し、女性が生活
や人生を決定する力を発揮し、世帯や地域、政治の分野などで意思決定過程に参加し、社会や環境を変えていく力をもつこと
ができるよう、女性のリーダーシップと社会参画を推進していく方針です。防災、災害緊急援助、災害復興においても、女
性の参画とリーダーシップを推進し、ジェンダーおよび多様性の視点に立った取組みを推進しています。また、女性や多様な
人々の固有のニーズに応え、その安全と権利を守る取り組みを強化するとともに、希望と尊厳のある社会の構築に向けた支援
を積極的に推進していきます。
JICA協力戦略:ジェンダー平等と女性のエンパワーメント
開発目標
ジェンダー平等と女性のエンパワーメント
戦略目標
女性の社会参画とリーダーシップの実現
優先開発課題
Ⅰ 女性の経済的
エンパワー
メントの推進
女性の生産資源へのア
クセス向上、生計向上、
雇用・就業機会の拡大、
起業の推進
Ⅱ 女性の人権と
安全の保障
Ⅲ 女性の教育と
生涯にわたる
健康の推進
Ⅳ ジェンダー平等
なガバナンスの
推進
Ⅴ 女性の生活向上
に向けた基幹
インフラ整備
紛争や災害、暴力や
人身取引被害からの
女性の保護と社会復
帰・自立支援
女性の生涯にわたる
健康の推進、女性の
自己実現に向けた教
育の推進
ジェンダー平等を推進
する政策・制度の整備
と組織の能力向上
女性の生活と活躍を
後押しする農村・都
市インフラの整備
●女性の可能力(ケイパビリティ)の強化 ●差別の撤廃 ●生活基盤整備
【防災の主流化への取り組み】 ̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶
JICA が促進している「防災の主流化」の世界共通の
定義はありませんが、主要なアプローチは、①政府が
防災を国家の優先課題と位置付けること、②防災の視
点をあらゆる分野の開発に取り入れること、③災害対
策への事前投資を拡大することの 3 点に集約されてい
ます。近年、世界各地で発生している大災害により、
「防災」に対する関心が高まり、防災投資の重要性が
認識され、減災に向けた投資額の増加が期待されてい
ます。しかし、「防災」はその事業を単独で、あるい
は防災のみを対象とした事業を実施することにより災害に強い社会を構築することには限界があります。将来にわたり、災害か
ら人命を守り経済・社会的損失を小さくしていくには、「防災」の視点をどのように社会・経済開発の中に組み込み、減災を推
進させていくかといった、多様なセクター(教育、保健、農業、環境、エネルギー、インフラ整備など)との協働・双方向コミュ
ニケーションの必要性が高まっています。
【災害とジェンダー・多様性への取り組み事例】̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶
事例 1.フィジー、ソロモン、大洋州地域コミュニティ防災能力強化プロジェクト
大洋州地域は、台風、地震・津波、火山噴火などの自然災害が多く、また、気候変動に起因すると考えられる海面上昇
や異常気象の影響を受けやすい環境にあります。国土が広範囲に広がっている国が多く、運輸・情報通信体制が不十分で、
災害情報が地方や離島の住民まで迅速かつ的確に伝達されないという課題があります。
2010 年から 3 年間、フィジーとソロモンにおいて、JICA は、中央行政機関の防災能力強化を支援するとともに、パイロッ
ト事業としてコミュニティにおいて住民(男女)が洪水時に適切に避難できる体制づくりへの協力を行いました。県の女性
局が実施したパイロット事業では、研修などの参加機会が少ない女性を対象に防災啓発活動が行われました。はじめにコミュ
ニティの女性グループの代表者を対象に防災の基礎知識に関する研修が実施され、次に彼女らがファシリテーターとなり、
コミュニティの女性に対するワークショップが開催されました。コミュニティの高齢者や障害を持った人の避難を青年グルー
プが支援する取組もはじまりました。女性や障害者が防災・災害復興の重要な担い手となることで、災害に強いコミュニティ
作りが進むことが期待されます。
ジェンダー視点に立った取り組み
パイロット事業
雨量、水位の
モニタリング
体制整備
防災啓発活動
住民の
災害対応能力強化活動
村落の
ハザードマップ
作成
避難訓練
女性の参加を促進し、
活動に女性の意見を反映
コミュニティの女性グループ
代表者への防災などに関する
研修の実施
背景:女性は災害時に様々
な役割を担っているにもか
かわらず、なかなか研修の
機会がない
関係行政機関
教訓
女性グループ代表者による主
に女性を対象にした防災啓発
のためのワークショップ開催
防災活動への女性の参加を促進し、
災害に強いコミュニティへ
災害発生時の女
性の役割等につ
い て 共 有 さ れ、
コミュニティに
おける防災活動
の改善に役立て
られる
事例 2.フィリピン 台風ヨランダ 災害緊急復旧・復興支援プロジェクト
2013 年 11 月にフィリピンを襲った台風ヨランダは、死者 6,000 人以上、被災家屋 100 万戸以上、避難民 400 万
人以上の被害をもたらしました。被災地の復興には、住宅や公共施設の再建とともに生活や生計手段の回復も重要です。
そのため JICA は緊急復旧・復興支援プロジェクトで、即効的な効果が見込めるクイックインパクト事業を実施しています。
これは女性たちによる農水産物加工やその販売促進、またこれらに女性が参加しやすくする託児所を支援するものです。
これらの支援に際しては、被災前からの女性グループとそこへの支援を行ってきた自治体の女性職員など、女性たちのネッ
トワークが地域のニーズの把握や支援の実施に効果的な役割を果たしました。
ジェンダー視点に立った取り組み
− クイックインパクト事業の例 −
被災女性
グループによる
農水産加工を
通じた
生計手段の復興
女性グループの加工食品
生産活動の再開支援
被災者の
生計向上を
図るための
販売促進
▶地域で被災住民男女が生産・加
工した特産物の販売促進拠点
の整備・拡大
▶加工及び販売者として働く女
性グループへの加工品調理技
術訓練も実施
デイケア
センターの
再建
保育所の機能を持つデイケアセ
ンターを再建し、女性の働く環
境を整備するとともに、住民の
交流の活性化を支援
生計向上のための食品加工女性グループ
(クイックインパクト事業)
復旧・復興支援にお
いて地域の女性の参
画を促進し、災害に
強いコミュニティの
再建を目指す。
事例 3. 国際緊急援助による取り組み
世界では、災害が発生した際に十分な救援活動を行えない実情があり、こうした課題に応えるべく、日本は国際緊急
援助を行っています。支援には、人的援助、物的援助、資金援助があり、災害の種類や被災国のニーズに応じて、単
独もしくは複数を組み合わせて実施しています。
医療は特に各国、地域の文化や社会的背景の影響を受けますが、こうしたことを理解していないと、医療サービスを
必要とする「災害リスクの高い人々」を見逃してしまうことにつながります。緊急援助隊の医療チームでは、ジェンダー
視点に立った以下のような取り組みを行っています。
① 派遣前の事前研修において「患者の 8 割が男性であったが、なぜか。」などについて議論し、医療の利用状況に男女
差があることを参加者に理解してもらいます。また、模擬診療で男性医療従事者と話したがらない模擬女性患者を配
置し、女性が男性と接することが難しい社会があることにも
理解を深めてもらい、派遣時の適切な活動につなげるように
しています。
② 災 害 発 生 後、 医 療チームのメンバーとして可 能な限り女 性
医師・看護師、必要に応じ妊婦健診のために助産師を派遣
します。
③ 被災地では、巡回医療を通じて医療サービスへのアクセスが
難しい女性や障害者もケアしたり、特に女性の非識字率の高
い地域では、字の読めない人にも理解できるような説明方法
をとるなどの工 夫をしています。 また女 性 専 用 診 療 室・ 待
合室の設置や女性現地ボランティアの協力を得るなど、女性
や障害者が利用しやすい医療サービスを行っています。
フィリピンの台風被害への
緊急援助における取り組み
2013 年 11 月にフィリピンを襲った台 風ヨランダ発
生直後、医療チーム(1 ∼ 3 次隊)を派遣し、約 1 ヵ
月間にわたり、診療テントでの診療と巡回診療を実施し
ました。
妊婦への対応や、女性患者の心理的負担を考慮し、
女性医師や助産師を派遣しました。逆に男性看護師も
派遣し、意識的にジェンダー・バランスを図りました。
現地雇用の通訳も女性を多く配置しています。
診療の際は、可能な限り同性の医師・看護師が担当
しました。
事例 4. コミュニティ防災における障害者の参画
台風ヨランダ(2013 年 11 月)の被害を受けたフィリピンのイロイロ市では、平常時に行っていた障害者団体の能力
強化が功を奏し、被災した障害者のニーズに適した支援が可能となりました。その背景には、JICA 草の根技術協力事業「イ
ロイロ市におけるコミュニティ防災推進事業」を通じた、住民と行政の連携や自主防災体制の整備がありました。また、
同じ地域の障害者団体に派遣された青年海外協力隊員の働きかけで、このような活動に障害者が主体的に取り組んでいま
した。
イロイロ市では、市の防災計画の策定過程に障害者団体の代表が参加し、避難所の運営方法などについて意見を出すと
ともに、平常時から、障害者がどこに住んでいるかを把握するためのマッピングが実施されていました。台風ヨランダの
際にも、障害者団体の協力により、被災地の障害者団体のリーダーが所属メンバーの連絡先を把握していたことが、緊急
支援物資の確実な配布につながりました。また、障害者だけでなく、シングルマザーなど支援の手が届きにくい人に対す
る支援も同時に行いました。
障害者の権利に関する条約
Convention on the Rights of
Persons with Disabilities(CRPD)
2008年に発効したCRPDは、締約国に対し、
災害を含む危険な状況において障害者の保護及
び安 全を確 保するために全ての必 要な措 置をと
ることを求めている。
障害者団体と自治体との連携により、緊急物資が配布された。
事例 5. 災害とジェンダー・多様性に関する研修
JICA では、途上国の政府、民間、NGO 関係者などを対象とし、多様なテーマをとりあげた「課題別研修」を日本国内
において年間 400 コース以上実施しています。これらは、日本が有する知識や経験を通して途上国の多様な開発課題に応
え、情報や経験を共有しようとする目的で実施されています。災害に関する課題別研修では、「コミュニティ防災」「災害
に強いまちづくり戦略(災害弱者への人権配慮、ジェ
ンダー、避難運営について)」などを実施しています。
開発途上国において災害に強い地域社会をつくる
ためには更なる取り組みが求められており、 ジェン
ダー視点に立った災害への取り組み、災害対策におけ
る女性のリーダーシップ強化を促進する防災分野の研
修について、日本の経験を踏まえ「災害とジェンダー・
多様性」(仮称)の実施を予定しています。
「コミュニティ防災」の研修生が地域の防災訓練に参加
ジェンダー・多様性の視点に立った災害レジリエンス 注 7 の向上を目指して
先進国、開発途上国を問わず、ジェンダー・多様性の視点に立つ、とは女性固有の課題のみならず、男性と女性がともに固
定的な性別役割にとらわれず、責任、役割、仕事を分かち合い、コミュニティの活動や意思決定に共同参画することです。防災
においては、災害が起こる以前から十分な備えが必要であり、水害、台風、地震などのそれぞれの災害リスクに対応して、災害
時における役割分担を家庭やコミュニティで決めておくことが必要です。例えば、ハザードマップや避難マップを作成し、世帯
およびコミュニティにおいて、誰がいつ、どこへどのように避難し、連絡を取り合うのか、飲料水や医療品、食料など、どれく
らい備蓄しておくのかなどについて、よく話し合い、決めておくことが必要です。途上国では、緊急避難所が不足することも多
いため、相対的に災害に強い学校や病院を避難場所に指定し、所有者や管理者と合意を取り付けておく必要もあります。また、
高齢者や障害者、妊産婦、乳幼児を抱えた母親などの避難経路や方法についても、平常時から避難訓練などを実施し、備えて
おく必要があります。なかでも、特に女性に対する社会的制約やジェンダー規範による課題を男女、コミュニティ、地方政府な
どが理解する必要があります。そのため、国内外から支援する側においても、ジェンダーと多様性の視点に立った研修やオリエ
ンテーションを計画・実施することが必要です。
注 7:各種災害や緊急事態に対応できる、自らの脆弱性を低減できるような能力。
【今後の協力の方向性】̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶
女性・多様な人々の参画
早期警戒・避難メカニズム
災害リスク軽減のために、中央お
よび地方における、防災対策、緊急
援助、復旧・復興計画の策定及び
実施にあたり、女性および「災害リ
スクの高い人々」の能力や役割を十
分に認識し、幅広い年代、多様な活
動をしている人々の意 見やニーズを
反映する仕組みを構築する。
女 性および「 災 害リスクの高い
人々」
、宗教、文化、生活基盤、ジェ
ンダー規範などの特徴を考慮し、全
ての住民男女が理解でき、必要に応
じて適切な行動がとれるような早期
警戒・避難メカニズムを開発し、住
民が率先して警戒・避難を実践でき
るようにする。
固有のニーズへの対応・
ジェンダーに基づく暴力への対応
防災研修・教育
災害発生後、早期に女性および
「災害リスクの高い人々」など、声
をあげにくい人々の課 題やニーズを
聞き取り、緊急時、復旧・復興時の
段階に応じて、対応・支援する。被
災者の心のケアや被災後に発生する
女性・子どもや障害者などに対する
暴力、性的虐待などへの早急な対応
も行う。
女 性および「 災 害リスクの高い
人々」がそれぞれの地域の災害リス
クや防災対策に関する研修や教育を
受けられるようにする。同時に、防
災における女性リーダー育成のため
の研修を実施する。さらに国内外の
「 支 援する側 」 に対しても、 ジェ
ンダー・多様性の視点に立った災害
対応研修を実施する。
女性の経済的
エンパワーメントの促進
災 害からの復 活 力、 復 元 力のあ
る、レジリエントな地域社会のため
には、仕事のみならず、家事、子育
て、介護を担い、コミュニティを支え
ている女 性の知 見やネットワークを
活用することが必要である。特に、
貧困が災害レジリエンスと深い関係
があることから、女性及び貧困層の
経済的エンパワーメントを促進する。
災害とジェンダーの調査研究
「災害とジェンダー」に関する調査
研究を実施し、有効な知見や教訓を
抽出し、今後の防災対策、緊急援助、
災害復旧・復興事業に反映するため
の教訓集やガイドラインを作成する。
研究過程において日本国内外の災害
と女性関連グループや研究者との連
携・協働関係を構築・強化する。
独立行政法人 国際協力機構(JICA)
社会基盤・平和構築部 ジェンダー平等・貧困削減推進室
〒 102-8012 東京都千代田区二番町 5-25 二番町センタービル 1 階∼ 6 階
TEL:03-5226-6660(代) http://www.jica.go.jp/
2015.3
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