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Adobe Japan Education Vanguards ® Interview 早稲田大学 大学院国際情報通信研究科 早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 表現工学科 准教授 河合 隆史 氏 新たなコミュニケーションツールとしての先端メディア 人間科学の視点から、人に優しい先端メディアコンテンツの開発・普及に取り組んでいる 早稲田大学 大学院国際情報通信研究科 河合隆史准教授。立体映像やバーチャルリアリティを駆使した コンテンツ制作やシステム開発、クリエーターの育成などについて伺いました。 著者:佐原 勉(株式会社ユニゾン) 河合 隆史(かわい・たかし) 早 稲田大学 大学院 国際 情 報 通信研 究科 早 稲田大学 理 工学術院 基 幹理 工学部 表現 工学 科 准 教 授 1993年 早稲田大学 人間科学部・卒業 1995年 早稲田大学 大学院人間科学研究科修士課程・修了 1998年 早稲田大学 大学院人間科学研究科博士後期課程・修了 1998年 早稲田大学 人間科学部・助手 2000年 早稲田大学 国際情報通信研究センター・専任講師 2002年 早稲田大学 大学院国際情報通信研究科・助教授(2007年より准教授) 2007年 早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 表現工学科・准教授を併任、現在に至る。 人間工学を専門とし、映 像情報メディアの生体影響、特に立体映 像やバーチャルリアリティなどの先端的なメディア技術の評価や応用、 コンテンツの制作等に関する研究に従事。人間科学の視点から、人に優しい次世代情報通信技術の発展・普及に取り組んでいる。 主な活動・著 作 著作 『次世代メディアクリエータ入門1 立体映像表現(カットシステム,2003年)』、 『先端メディアと人間の科学(トランスアート,2006年)』 『医学3Dコンテンツの最先端(カットシステム,2007年)』など 活動 超臨場感コミュニケーション産学官フォーラム 技術開発部会・主査(五感・認知分科会) (財)デジタルコンテンツ協会 3Dコンテンツ調査委員会・委員長ほか ht tp://w w w.tkawai.giti.waseda.ac.jp/ [email protected] Vol. 1 Adobe Japan Education Vanguards Interview Vol.1 立体映像の人体への影響が出発点 先端メディアの必然性を解明する 上 越・長 野 新幹 線本 庄早 稲田 駅 から5分ほどの所に、先 河合研究室では、人間工学の観点から、先端メディアの医 端メディアと人間工学を研 究している河合研 究 室 があり 療・福祉・文化・教育等への応用を目的とした多様な研究 ます。本庄早 稲田は、その名の通り早 稲田大学の最 新研 プロジェクトを推進しています。コンテンツに重点を置いて 究 施 設(早 稲 田リサーチパークコミュニケーションセン いるのが特徴です。なお、 「先端メディア」とは、 「現時点で ター、国際情報通信研究センター、国際情報通信研究科、 普及していないが、その将来に魅力や期待を抱かせる新し 環境総合研究センター、環境・エネルギー研究科)があり、 いメディア技術の総称」と河合准教授は定義しています。 産学官連携の研究を展開しています。河合准教 授が 研究 の対 象としている立体 映 像やバーチャルリアリティ(V R : 「今までのようにびっくりさせる、単に飛び出すだけの立 Virtual Reality)は、人間との新たなインタフェース、コミュ 体映像では飽きられてしまいます。2次元映像と立体映像 ニケーションツールとしての役割が期待されています。 の差、なぜ立体 視が必 要なのか、その 体 験の本質的な特 徴を科学的に明らかにする必要があります。2次元映像と VRと聞いてすぐに思い浮かべるのは、CGを駆使したゲー 違って立体映像は、ユーザの認知や感性に対してどんな違 ムや設 計 の3 次 元 C A D、航 空機 の 操 縦シミュレーション いがあるのかを理 解し、その必 然性を明らかにしない限 など でしょう。さらに 、多 様 な 立体ディスプレイなども り、今までのようなブームに終わってしまう危険性があり 登場し 、専用メガネを装着しなくとも立体映像を観察でき ます」と、河合准教授は話します。 るようになってきました。最 近は、このような先 端的なメ ディア技術を用いたコミュニケーションの可能性に注目が 確かに科学万博などで飛び出す立体映像が大きな話題に 集まっているのです。ちなみにVRとは、実際には存在しな なって以来、先端メディアの可能性に大きな期待が寄せら いが、あたかもその場にあるかのように感じさせる技術の れ、立体映像も何度かブームになったことがありました。 総称であり、 「仮 想現実感」や「人工現実感」とも呼ばれ しかし、その後、VRがゲームや一部のシミュレーションな てきました。 どに利用されたものの、一般的には普及しませんでした。 その壁になっているのが、ユーザにとっての本質を明らか 早 稲田大学 人間科 学部出身である河合准教 授が立体映 にできなかったこと、そしてコンテンツを容易に制作でき 像やVRに出会ったのは、人間工学研究室の学生のときで るツールやクリエーターの不足にあるといいます。そこで した。それ以来、河合准教授は先端メディアの可能性に魅 河合准教授は、立体映 像やVRの評価研究と同時に、コン 入られ、研 究の最前 線を歩むことになります。「当時、人 テンツ制作ツールの開発やクリエーターの育成にも取り組 間 工学 研 究 室で は立体 映 像 の人体 に与える影 響 調 査を んでいます。 やっており、立体 映 像 を見て い る 際 の 視 覚 的 な 負 担と 同 時に、リラクゼーションなどの 積 極 的な用途に使 えな 「先 端メディア研究では、感性的な側面を扱うことが多く いか、臨床心理学の先生とコラボレーションを行っていま なりますので、クリエーターとのコラボレーションが増えて した。立体映像コンテンツで、どんな心理的変化が起きる います。現在は、映画監督と一緒に立体映像コンテンツを のか、ストレス状態からの回復効果があるのかなどを研究 制作し、奥行き感の豊かさや質感などの評価を通じて、新 していたのです。人とメディア、コンテンツとのかかわりに しい表現手法を検討しています。また、制作環境の整備に 興味があり、学部から大学院に進学して現在に至るまで、 取り組むと同時に、それらを活用するクリエーターの育成 この分野にいるというわけです」 にも注力しています。特に立体映 像では、ユーザに与える 視覚的な負担などの安全性についても配慮しなければな 我々が 暮らしているリアルな世界は、縦、横 、高さの3 次 りません。人体に対する影響(疲労や負担)の軽減と快適 元 空間から成り立っています。一方、テレビや映画のスク 性の向上を考えながら、医学教育や文化遺産の保存と公 * 立体視:現実の立体を見るとき リーン、コンピュータ・ディスプレイは縦、横の2次 元平面 開などにおける活用方法、そしてそれらを通したコンテン と左眼では異なった像が映って です。視 差を持った2次 元映 像を呈 示して立体 視*すると ツのつくり方を研究しています」と、河合准教授は研究範 いる。この見え方の 違いが 両眼 いう立体映像の原理は、100年以上前から変わりません。 囲とスタンスを話します。 には、両眼の 位置の差から右眼 視差であり、2つの映像の差異を 利用して脳は空間の再 構築を行 しかしそ れ は 、1つ の 視 点 から見 た 立体 映 像 に 過 ぎ ま う。2次元映像でも両眼に視差が せ ん。ところがコンピュータを利用することで、視点の変 河合研究室では人間工学の基礎、特に生理・心 理指標を 脳に立体として認識させることが 化に対応したインタラクティブ性を獲得できるようになっ 用いたメディアの評 価手法と同時に、立体映 像やV Rのコ できる。両眼視差を利用して2次 たことで、河合准教授は立体映像やVRを活用したコミュニ ンテンツ制作 技 術を学びます。具体的には立体視を伴う ケーションの可能性に惹かれたといいます。 映 像表現やインタラクションの構築 方法について実技を 生じるように映像を映すことで、 元映像を3次元的に見る方法を立 体視という。 2 Adobe Japan Education Vanguards Interview Vol.1 ドイツ・アーヘン大学病院での立体手術撮影と、開発したソフトによる編集 作業例 (河合准教授提供) 通して 習 得し 、研 究プロジェクトへ 参 加していきます。 事故に巻き込まれる“錯覚”を体験できるわけです。 また、河合研究室では、先端メディアの人間工学的評価、 システムデザイン、コンテンツ制作の3つを柱として研究プ 「このシステムでは、視 覚と触 覚 が、あるルールに従って ロジェクトを展開しています。それらの一端について、河合 呈示されることで、特徴的な感覚が生じることを意図して 准教授は次のように話します。 います。それは、CGで描かれた腕の映 像に対して投 影さ れた、ユーザの身体イメージであり、一種の錯覚といえる 「立体映 像コンテンツの人間工学的評 価では、現在、フィ でしょう。こうした事故の疑似体験だけでなく、クロスモー ンランド・ヘルシンキ大学の心理学部とのコラボレーショ ダル 刺 激 を用 いて、身 体イメージ を 仮 想 空 間 に お いて ンを行っています。また、初期のシステム開発では、 (株) 誘 発・制 御 することによる、新たなコンテンツやアプリ レッツ・コーポレーションと連携して開発した立体映 像コ ケーションも浮かんできます。従 来の立体映 像やV Rは、 ンテンツの編集ソフトウェアがあります。これは、まだノン 眼 や手 を指 向したコミュニケーションでした が、クロス リニア編集が標準的ではなかった時代のプロジェクトで、 モーダル や共 感 覚といった、人の認 知・脳機能の解明に 巨大な設備が必要だった立体映像特有の編集処理を、PC 伴って、新しいものがどんどん提案されてくるでしょう」と、 とソフトウェアで低コストかつ簡便に実現するもので、市 河合准 教 授はクロスモーダルによる新たなコミュニケー 販もされました。コンテンツ制作では、ドイツ・アーヘン工 ションの可能性について話します。 科大学と連携して、外科手技教育への応用を目的とした、 立体映像教材の制作に取り組みました。最近では、クロス モーダル刺激を活用して、事故に巻き込まれる“錯覚”を体験 することで、危険への予知や注意配分の改善を意図したシ ステムの開発に携わりました。これは、視覚と触覚を統合し て呈示することで、労働災害を疑似体験するものです」 クロスモーダルによる 新たなコミュニケーションの可能性 人間は視覚や聴覚だけでなく、五感を使ってコミュニケー ションしています。そこで最 近ではクロスモーダル刺激に よるコミュニケーションの研究が行われています。クロス モーダルとは、視 覚や触 覚、聴 覚などの複 数の感 覚を統 合することによって、これまで単一の感覚刺激では困難で あった感覚や体験を呈示する方法の1つです。前述のシス テムでは、視覚と触 覚を統合して呈示することによって、 クロスモーダル刺激を利用した、労働災害の疑似体験システム。 (株)ソリッドレイ研究所との連携により開発 (河合准教授提 供) 3 Adobe Japan Education Vanguards Interview Vol.1 文化遺産の公開用、インタラクティブ立体視ビューワー。凸版印刷(株)との連携により開発 (河合准教授提 供) 先端メディアの面白さとユーザの果たす役割 一方、映 像 の立体化やクロスモーダル 化 、心 理 的 効 果 の 付 加など、コンテンツ制作への科学的なアプローチに関し しかし、立体映像やVRを活用したコミュニケーション研究 ては、クリエーターとコラボレーションすることで、今まで は、端緒についたばかりであり、 「関連する人間工学会、 にない表現を探 求できるのではないかと考えています」 映 像情報メディア学会、バーチャルリアリティ学会など、 と、河合准教授は先端メディアの広がりに対する非専門家 複数の学会に所属しています」という河合准教授の言葉か の役割に期待しています。 らも窺えるように、その研 究分 野は学際的かつ未開拓な 反面、大きな成 果が期待できる分野であることは間違い 2008年10月からは、早稲田大学 基幹理工学部 表現工学 ありません。 科 に お いて、立体 映 像コンテンツの 制 作 手 法 の 習 得 を 必 修としたカリキュラムがスタートします。若い人たちが 未 開 拓 な 分 野だ け に先 駆 者としての 苦 労 も多 いようで 立体映像の可能性を自ら切り拓くことで、想像を超えつつ すが、先端メディア研究の面白さにについて河合准教授は、 も人間らしさを失わない、新しいメディア表現が生まれて 「立体映 像やV Rの面白さは、人の感 覚や認 知の特性と、 くることが期待されます。さらに、先 端メディアの可能性 メディアやコンテンツ 技 術とのコンバージェンスにあり を現実のものとするためには、より一層の産官学連携が求 ます。私自身は、昔から両方に興味があったので、なんだ められるため、河合准教 授は「立体映 像やV Rなどの先 端 か 得 をしている気 分です( 笑 )。また、立体 映 像 やV R の メディアと、私たちのアプローチに興味をお持ちの方は、 研究内容が、2次元映像を通して、なかなか人に伝わりにく 気軽に声をかけてください」と専門や領域を超えたコラボ いところは、悩ましくもあり、既存のメディアの限界として レーションを呼びかけます。 面白くも感じています」と話します。 「先 端メディアのコンテンツ制 作では、今まで手が届かな か った ユー ザ ビ リティの 高 い 制 作 環 境 が 使 える よう に なることで、ユーザ側からの 変 革の可能 性に注目して います。最近では、UGC(User G enerate d Content)と 呼ばれていますが、思ってもみなかったコンテンツや使い 方が、ユーザの 側 から出てくることに 期 待しています。 Education Vanguards の詳しい情報は www.adobe.com/jp/education/hed/vanguards/ アドビ システムズ 株式会社 〒 141- 0032 東京都品川区大崎 1-11-2 ゲートシティ大崎イーストタワー www.adobe.com/jp/ AdobeおよびAdobeロゴは、Adobe Systems Incorporated(アドビ システムズ社)の米国ならびに他の国における商標または登録商標です。その他すべての商標は、それぞれの権利帰属者の所有物です。 ©2008 Adobe Systems Incorporated. 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