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24. 中高年のための健康支援システムの構築 小熊 祐子

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24. 中高年のための健康支援システムの構築 小熊 祐子
 上原記念生命科学財団研究報告集, 25 (2011)
24. 中高年のための健康支援システムの構築
小熊 祐子
Key words:健康支援システム,地域連携,中高年, 生活習慣,インターネット
慶應義塾大学 スポーツ医学研究センター
緒 言
近年,運動不足や食生活の変化などにより,生活習慣病が急増しており,その予防・治療は重大な課題である.わが国でも健
康日本 21 の中間報告を受けて,平成 20 年度より,メタボリックシンドロームを念頭に入れた特定健康診査とその後の特定保健
指導が開始された.生活習慣修正は,生活習慣病の予防・治療に必須であり,著者らの研究結果や,文献からハイリスク者へ
の強力な生活習慣介入が,短・中期的に効果的であることが証明されている 1,2).プログラム終了後の長期維持については,未
だ検討が不十分である.改善された生活習慣を長期に維持していくためには,個人の努力だけでなく,周囲の社会環境が大き
く影響し,種々のサポート体制が必要不可欠である 3,4).特定健康診査が開始された日本においても,ハイリスク者への介入だ
けでなく,長期的な視野に立った医療に頼りすぎない支援システムの構築が必須である.
一方,わが国の平均寿命の延長と少子化がもたらす高齢社会において,高齢者がより長い期間健康でいられることは,医療費
抑制の面,高齢者自身の QOL の向上や社会の活性化という側面から重要である.高齢者の地域活動への参加意欲は年々高
まっており,また,インターネットの利用も年々増加傾向で,使用しやすいシステムができれば,中高年者においても,インター
ネットを上手に取り入れた健康支援体制の重要性が増すと考えられる.インターネットを活用した健康プログラムに関しては,い
くつかの先行研究がある 5,6).これらの多くは,若年から中年のいわゆる IT を活用している世代を対象にしたものであり,60 歳
以上の高齢者を対象としたものは実現していない.さらに,既存のインターネットを介した食事入力・評価システムは,使用に手
間がかかる,その世代の食生活に合う品目が不足するなど中高年には適していない.また,指導者側からはフィードバックが適
切でなく,正確さに疑問を感じるものが多い.そこで,著者らはこれまでの経験 7,8)を活かし,シニア NPO と協力し,開発の段
階で利用者側の意見を反映し,かつ専門家が最初から入り,結果の検討も行える形で,中高年に最適化する食事入力評価シ
ステムを開発し,さらに,実用化に向けての準備を行い,総合的に使用可能な web システムを構築していくこと,そして,地域
において効率よく利用すること,より専門的な健康状態の評価や健康増進プログラムを提供できる施設と連携して,健康的な生
活習慣定着・QOL 向上のためのインターネット・地域連携健康支援システムの構築を目指した.
方 法
1.ウェブ上での健康支援システムの開発
1)食事記録システム:共同研究者の渡邊が中心となり開発した簡易食物摂取頻度調査票について,さらに,ウェブ上での入
力および結果のアウトプットが可能な形にウェブ版を作成した.
2)生活習慣,健康状態アセスメントシステムの開発:共同研究者の矢作が中心となり開発に着手していた,ウェブ上での生
活習慣,健康状態アセスメントシステムの開発を進めた.特に今回食事摂取記録の部分を,より簡便にかつ結果の精度を上げ
るべく,渡邊らが開発中の食物摂取頻度調査票(23 品目)を取り入れた.
3)上述の1),2)について,試用版を藤沢市にあるシニア NPO,湘南藤沢シニアネット(SFS)および健康応援団の協
力を得て,13 名のモニターを募り,試用した.食事摂取状況については,妥当性の検討を行うため,より精度が高く,妥当性
の検討がなされている,食物摂取頻度 82 品目調査票 9)を合わせて行った.
1
2.ふれあい健康教室 5 年前より SFS の協力を得て行っているインターネット健康コミュニテイ(共同研究者宮川が主催)
の発展版として,本年度からは NPO 側が主催する形で,「ふれあい健康教室」を行った.医療施設・大学とも連携する中で,
インターネット・地域連携コミュニティの醸成をはかった.本教室では,インターネットでの記録蓄積(食事,歩数,体重など)・
コミュニケーションと対面型のコミュニケーション(月 1 度の健康教室)を併用した.1.のシステムが試用状態であったため,
インターネットでの記録蓄積には本年度 eatsmart(株式会社 Eat Smart, 東京)を用いた.
3.藤沢市,藤沢市保健医療センター,大学との健康増進システムの連携:体制作りのための定期的な会議を 3 者で行っ
た.また,実際2.のふれあい健康教室について,運動を行う上でハイリスクとなる参加者を,藤沢市保健医療センターに紹
介し,ヘルスチェックを受ける体制を試行した.
結果および考察
1.ウェブ上での健康支援システムの開発,特に食事記録システム,および,健康診断システムの開発と試行
1)食事記録システム:入力画面(図1), 出力画面の一部 (図2)を示した.
図 1.食事記録システム 入力画面の一部.
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図 2.食事記録システム出力画面の一部.
2)生活習慣,健康状態アセスメントシステムの開発:入力画面の一部を図 3 に示した.
図 3.生活習慣・健康状態アセスメントシステム入力画面の一部.
3)13 名 (男性8名,女性5名) のモニターは年齢 64.7 ± 8.2 歳(mean ± SD),BMI 22.1 ± 1.7 kg/m2 であった.1
週間に二回行った簡易食物摂取頻度調査票より計算した摂取エネルギーは各々 617-6,432 kcal/day, 637-6,432 kcal/day
であり,級内相関 ICC(1,1)は 0.95(95%信頼区間 0.84-0.99)であった.脂肪 (%エネルギー) は各々 16-33%,
15-34%, ICC (1, 1) は 0.72 (0.28-0.92) であった.妥当性については,簡易 FFQ の初回調査と FFQ82 とを比較した.
FFQ82 で得られた摂取エネルギーは 1,331-1,824 kcal/day.簡易 FFQ のデータのうち,摂取エネルギーが 5,000 kcal/day
以上を示した 2 例を外れ値として除外し,摂取エネルギー,脂肪 (%エネルギー),果物摂取量の相関を求めた.順に r=0.43,
0.06, 0.75 であった.
簡易 FFQ については,ウェブで行い,その場で結果をフィードバックできることは,大きな利点であるが,十分な理解を得て行
わないと,基準の摂取量の誤解,食品区分の誤解などから,誤差が大きく生じる可能性があり,注意が必要である.再現性に
ついては比較的良好であった.
2.ふれあい健康教室 本年度参加者は計 28 名(うち女性 12 名).平均年齢 64.6 歳.スタッフとして,SFS より 4 名,慶應義塾大学から宮川,仰
木,小熊らが関わった.栄養教室および日頃のインターネットでの食事記録サポートとして,鎌倉女子大学の協力を得た.対面
式の健康教室は計 9 回行った.各回の平均参加者は 14 名(8-21 名)だった.参加者の平均参加回数は,4.6 回(1-9
回)だった.インターネット上の記録蓄積の指標として,入力食事回数を図 4 に示した.
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図 4. ふれあい健康教室 食事記録アクセス回数.
ふれあい健康教室の食事記録へのアクセス回数を頻度の少ない順にソートし示した.
平均食事入力回数は 292 回となるが,使用状況は様々であった,健康教室出席回数と入力食事回数には一定の傾向を認め
なかったが,経時的にみると,健康教室出席を契機に食事入力頻度も増える傾向があり,両者の利点を効果的に利用すると,
モチベーションの維持につながると思われた.
3.藤沢市,藤沢市保健医療センター,大学との健康増進システムの連携: 22 年度運動実施の際のハイリスク者が4名お
り,うち 2 名が同センターを受診した.受診希望者は必ずしも多くなく,今後の位置づけが課題となった.地域(あるいは自主
的なコミュニティ)で行う健康教室であるため,23 年度は,質問紙によるハイリスク状態のセルフチェックを行い,該当者はヘル
スチェックをセンターで行うことのできるバックアップシステムを構築中である.さらに同センターの定期的利用者に健康教室参加
をよびかけ,センターでのトレーニング以外の運動を行う場,コミュニテイ形成を促す試みを現在試行中である.
共同研究者
本研究の共同研究者は,国立成育医療センター研究員の矢作尚久,千葉県立保健医療大学栄養学科教授の渡邊智子,お
よび慶應義塾大学看護医療学部准教授の宮川祥子である.最後になりましたが,研究に協力していただいた参加者の皆さ
ん,そして,本研究を援助していただきました上原記念生命科学財団に深く感謝申し上げます.
文 献
1) Knowler, W. C., Barrett-Connor, E., Fowler, S. E., Hamman, R. F., Lachin, J. M., Walker, E. A. &
Nathan, D. M. : Reduction in the incidence of type 2 diabetes with lifestyle intervention or
metformin. N. Engl. J. Med., 346 : 393-403, 2002
2) Tuomilehto, J., Lindstrom, J., Eriksson, J. G., Valle, T. T., Hämäläinen, H., Ilanne-Parikka, P.,
Keinanen-Kiukaanniemi, S., Laakso, M., Louheranta, A., Rastas, M., Salminen, V. & Uusitupa, M. :
Prevention of type 2 diabetes mellitus by changes in lifestyle among subjects with impaired glucose
tolerance. N. Engl. J. Med., 344 : 1343-1350, 2001.
3) Yancey, A. K., Fielding, J. E., Flores, G. R., Sallis, J. F., McCarthy, W. J. & Breslow, L. : Creating a
robust public health infrastructure for physical activity promotion. Am. J. Prev. Med. 32, : 68-78,
2007.
4) Sallis, J. F., Cervero, R. B., Ascher, W., Henderson, K. A., Kraft, M. K. & Kerr, J. : An ecological
approach to creating active living communities. Annu. Rev. Public Health., 27 : 297-322, 2006.
5) 橋本栄里子, 東山朋子, 高橋裕子 : 電子コミュニティを利用した禁煙指導プログラムの有効性の検討--「インターネ
ット禁煙マラソン」の再喫煙者へのフォローアップの取り組み. 医療と社会, 10 : 39-59, 2000.
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6) 久保田晃生, 鈴木輝康. : インターネットによる運動習慣定着支援プログラム (i-exer:アイエクサ) の開発及び有効
性について. 体育の科学, 53 : 543-547,2003.
7) 小熊祐子, 八木紫, 橋本玲子, 大澤祐介, 木下訓光, 勝川史憲, 大西祥平 : メタボリックシンドローム・その予備群に
おける効率的なライフスタイル改善法の探索 -第二報-. 日本臨床スポーツ医学会誌. 17 : 5126, 2009.
8) 宮川祥子, 仰木裕嗣, 大澤繁男, 山下光雄, 小熊祐子, 佐藤蓉子 : 中高年向け生活習慣改善プログラム「インター
ネット健康コミュニティ」. IT ヘルスケア, 3 : 14-17, 2008.
9) 安達美佐, 渡辺満利子, 山岡和枝, 丹後俊郎. : 栄養教育のための食物摂取頻度調査票 (FFQW82) の妥当性と
再現性の検討. 日本公衆衛生雑誌, 57 : 475-485, 2010.
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