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石油・石炭等の利用に関する税制調査 報 告 書

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石油・石炭等の利用に関する税制調査 報 告 書
石油・石炭等の利用に関する税制調査
報 告 書
平成 23 年 12 月
株式会社 三菱総合研究所
環境・エネルギー研究本部
はじめに
経済産業省では我が国の基盤的産業の競争力を確保するため、国際的なイコールフッテ
ィングの観点から、平成 24 年度税制改正要望の最重要項目の一つに、揮発油税、石油石炭
税(以下「石油石炭税制等」という)に係る石油化学製品製造用原料ナフサ等の免税・還
付措置の恒久化・本則化を要望してきた(現状は租税特別措置法における暫定措置)
。
仮に現行の免税措置等が廃止される場合には、関係業界において石油石炭税で 1,100 億
円程度、揮発油税で 3 兆円/年程度もの新たな税負担が発生し、我が国石油化学産業及び関
連産業の国際競争力や基礎素材の安定的供給の観点から甚大な影響が想定され、サプライ
チェーンの空洞化や雇用不安を招く惧れがある。
このような状況を鑑み、本業務では石油化学製品製造用原料ナフサにこれらの税が課税
される場合における国内の関連業種やサプライチェーンへの影響分析を行い、また関連企
業への影響についてアンケート等による調査を行うことにより詳細を明らかにしたもので
ある。
2011 年 12 月
株式会社 三菱総合研究所
-目 次-
第1章
1.1
原料用途分への課税による関連業種への影響分析 ..............................................1
分析フロー ............................................................................................................... 1
1.1.1
原料用用途分への課税の影響分析の概要 ........................................................ 1
1.1.2
GTAPモデルの概要 .......................................................................................... 2
1.1.3
本調査における分析の枠組 .............................................................................. 7
1.2
課税シナリオの設定................................................................................................11
1.2.1
分析対象とする免税措置 .................................................................................11
1.2.2
課税シナリオについて.....................................................................................11
1.3
インプットデータの整備 ........................................................................................11
1.4
影響分析の結果 ...................................................................................................... 15
1.4.1
各国経済への影響 ........................................................................................... 15
1.4.2
業種別の影響 .................................................................................................. 17
1.4.3
その他シナリオの試算結果 ............................................................................ 17
第2章
2.1
原料用途分への課税による個別製品への影響分析 ............................................19
分析方針 ................................................................................................................. 19
2.1.1
概要 ................................................................................................................. 19
2.1.2
ケーススタディ対象製品の特定 ..................................................................... 20
2.1.3
影響分析の方法............................................................................................... 20
2.2
分析結果1:トラベラーリッド ............................................................................ 22
2.2.1
トラベラーリッドとは.................................................................................... 22
2.2.2
製品価格への影響分析.................................................................................... 23
2.2.3
サプライチェーン企業への影響分析 .............................................................. 35
2.3
分析結果2:ペットボトル.................................................................................... 39
2.3.1
ペットボトルとは ........................................................................................... 39
2.3.2
製品価格への影響分析.................................................................................... 41
2.3.3
サプライチェーン企業への影響分析 .............................................................. 51
2.4
分析結果3:レジ袋............................................................................................... 55
2.4.1
レジ袋とは ...................................................................................................... 55
2.4.2
製品価格への影響分析.................................................................................... 55
2.4.3
サプライチェーン企業への影響分析 .............................................................. 65
第3章
化学関連企業へのアンケート調査 ......................................................................68
3.1
実施方針 ................................................................................................................. 68
3.2
調査結果 ................................................................................................................. 68
3.2.1
回収状況.......................................................................................................... 68
3.2.2
集計結果.......................................................................................................... 69
3.2.3
まとめ ............................................................................................................. 76
参考資料 アンケート票
2
第1章 原料用途分への課税による関連業種への影響分析
第1章では、石油化学製品製造のために利用される化石資源に課税される場合、関連業
種や我が国のマクロ経済にどのような影響が見られるかについて、国際的に信頼度の確立
した応用一般均衡モデルである GTAP(Global Trade Analysis Project)モデルを用いて、定
量分析を行った。
1.1 分析フロー
1.1.1
原料用用途分への課税の影響分析の概要
モデル分析においては、まず揮発油税・石油石炭税等の原料用途分への課税により、当
該の原料(ナフサ)を投入する業種にもたらされる価格の変化について分析を行い、価格
上昇率に関するシナリオを設定する。次に、上記のシナリオに基づいて、それぞれのシナ
リオにおける価格上昇率を計算し、インプットデータとして設定を行う。合わせて、これ
らのインプットデータを外生条件として与える GTAP モデル内の変数を決定する。
以上の設定に基づいて、GTAP モデルを用いてシミュレーションを実施する。GTAP モ
デルの試算結果としては、各国別の実質 GDP、輸出入などのマクロ変数に加えて、生産高
や輸出入額など産業別のアウトプットを得ることができる。これらの試算結果から、原料
用途分への課税による国全体・関連業種への影響について分析を行う。
これらの分析フローの手順は、以下に示すとおりである。
①課税シナリオの設定
②インプットデータの設定
・①の課税シナリオをモデルに適用
可能なデータとして設定
③モデル分析
・GTAP モデルを用いて課税の政策効果を分析
④アウトプットデータの分析
・③の結果を必要なパラメーターに変換・解釈(輸出
入、産業構造、GDP 等)
図 1-1
原料用途分への課税による国全体・関連業種への影響分析のフロー
1
1.1.2
GTAPモデルの概要
(1)世界全体のデータベースを包括する経済モデル
GTAP モデルは、当初はウルグアイ・ラウンドなどの国際貿易自由化の経済効果の分析
を目的として、1992 年に米国パデュー大学のハーテル教授を中心とする研究グループによ
り開発された、世界 CGE モデルである。同大学では、GTAP モデルのプログラムを開発す
ると同時に、分析で使用する GTAP モデルのデータベースを整備している。
GTAP モデルの大きな特徴は、まず世界全体の経済データを包括する世界経済モデルと
いうことであり、GTAP モデルで用いるデータベースは、世界各地域の産業連関表に基づ
いて作成されている。パデュー大学は各国の大学、公的機関の協力を得てデータ収集を行
い、それを元に係数パラメータを推計し、これらのデータやパラメータを総合して、GTAP
データベースとして整備している。
GTAP データベースは 1992 年の開発以降データ更新を2、3年に一度ずつ繰り返してき
ており、更新される度に地域・産業分類は細分化されてきている。現在最新の GTAP Data
Base 7.0 は、113 地域・57 産業に分類された 2004 年時点の世界経済データに基づいて構
成されている。
石油石炭税の租税特別措置の見直しに関しては、それがわが国の国際的な競争力の低下
につながるという指摘がある。そのため、分析においては我が国に加えて他国の経済動向
の分析も同時に行っていくことが重要となるが、国際的な影響経路の分析のためには、使
用する経済モデルが世界経済モデルである必要がある。既述のように、関税引き下げ・撤
廃の効果の分析用のモデルとして出発した GTAP モデルは、当初より世界経済モデルとし
て作成されており、輸出入動向の分析に適した経済モデルである。そのため、税制改革の
影響が、エネルギー価格の上昇をもたらし、その結果としての国内価格や輸出価格の上昇
が日本の当該産業の輸出入や生産量に与える影響について、シミュレーション結果を得る
ことが可能である。一方、日本におけるこのような影響の結果、アジア諸国においては、
相対的な生産価格の変化や、このような価格の変化が輸出入や生産量に与える影響など、
国際的な影響を分析することが可能となる。
(2)国際的に信頼度が確立した経済モデル
GTAP モデルは世界各地域を同時に分析できる唯一の国際経済モデルとして、また国際
的に信頼度が確立した分析ツールとして、発足以来主要な国際機関(OECD、WTO、世界
銀行、UNCTAD など)や各国政府機関の協力を受け続けて発展してきた。また、GTAP モ
デルで用いられる各種の関数やデータ、パラメータなどは、CGE モデルの標準版として参
照されることも多い。
また、エネルギー・環境分野では、従来から政策の各産業における国際的な波及効果の
分析を行うことを目的として、多くの CGE モデルの開発が行われてきた。世界全地域のデ
ータを包括する GTAP モデルもしばしばエネルギー・環境分野の分析に用いられ、また
2
GTAP モデルも IEA のエネルギーデータをデータベースに組み込むなどの改良を行い、エ
ネルギー・環境分野のデータの改良を行ってきた。近年ではこのように IEA の協力も得て、
さらに国際的な信頼度が定着し、GTAP モデルは多くの国の研究機関で分析に使用されて
いる。
(3)分析の対象となる分野
GTAP モデルは、税・生産性・人口・生産要素(資本・労働など)・価格など多くの変数
を整備していることから、様々な分野において分析に用いることが可能である。またアウ
トプットとして各国別の GDP・輸出入などのマクロ指標や、産業別の生産額や輸出入額、中
間投入額、家計消費額など、多くの変数を得ることができるため、現在では国際貿易に留
まらず、技術進歩・人口や労働力・各種税政策の変更の経済効果など、多くの分野で分析
に用いられている。
(4)GTAP モデルの構造
GTAP モデルの参考書としては、開発者であるハーテル教授による”Global Trade
Analysis Modeling and Applications ”が広く用いられている。同書が出版されてから
GTAP モデルにも様々な改良が加えられているが、その基本構造には大きな変化はない。
GTAP モデルの基本構造は、大別すると以下の 98 本の方程式群から構成される。
内生変数の中には地域別(地域区分は次ページ参照)のマクロ変数1から、各地域の産業
別の変数、さらに地域別の各産業における各財の動向、また貿易変数の多くは財別・地域
別にまで分類されて結果が得られるため、実際にはこれらの取引関係をすべて記述するこ
とが必要となる。そのため、GTAPのモデル式の本数は非常に膨大な数にのぼる。
1)会計式(1)~(14)
:取引高、所得などの定義式
2)価格式(15)~(27)
:市場・取引価格が記述される
3)貿易式(28)
(29)
:貿易財の構成を示す
4)企業行動式(30)~(36)
:生産関数(基本的に CES 型)
5)家計行動式(37)~(49)
:ストーン-ゲリー型効用関数に基づく支出関数
6)初期賦存量式(50)
(51)
:家計が当初保有する資源式
7)投資関数(52)~(60)
:投資、利益率、貯蓄などの関数式
8)輸送産業式(61)
(62)
:世界貿易における輸送価格・輸送量を記述する式
9)要約式(64)~(98)
:GDP などのマクロ変化を算出する式
上記の数式のうち例えば企業行動式について、GTAP モデルにおいては産業別に生産関
数が定式化されている。図 1-2 に、GTAP モデルにおける生産関数の構造を示した。生産
1
GDP、民間消費、政府消費、輸出額、輸入額、人口など。
3
関数は、当該の産業における生産構造を記述するものであるが、その具体的な姿は、下図
に示されようにツリー状(あるいは入れ子構造)にある。産業の生産活動においては、生
産高(output)は、労働、資本などの付加価値(value added)と中間投入(other input)の結合に
よって実現される。このような生産関数において、中間投入のうち、石炭、石油、ガスな
どの投入物の価格が税制において上昇すると、企業における生産活動が変化し、その変化
分が政策導入効果として分析されることになる。
図 1-2
GTAP モデルにおける生産関数
4
表 1-1
GTAP7 における地域分類
1 オーストラリア
2 ニュージーランド
22 パキスタン
23 スリランカ
43 パナマ
44 その他中米
64 ポーランド
65 ポルトガル
85 その他旧ソ連
86 アルメニア
106 タンザニア
107 ウガンダ
5 香港
6 日本
26 アメリカ
27 メキシコ
47 ベルギー
48 キプロス
68 スペイン
69 スウェーデン
89 イラン
90 トルコ
110 その他東アフリカ
111 ボツワナ
3 その他オセアニア
4 中国
7 韓国
8 台湾
9 その他東アジア
10 カンボジア
11 インドネシア
12 ラオス
13 ミャンマー
14 マレーシア
15 フィリピン
16 シンガポール
17 タイ
18 ベトナム
19 その他東南アジア
20 バングラディッシュ
21 インド
24 その他南アジア
25 カナダ
28 その他北米
29 アルゼンチン
30 ボリビア
31 ブラジル
32 チリ
33 コロンビア
34 エクアドル
35 パラグアイ
36 ペルー
37 ウルグアイ
38 ベネズエラ
39 その他南米
40 コスタリカ
41 グアテマラ
42 ニカラグア
45 カリブ海諸国
46 オーストリア
49 チェコ共和国
50 デンマーク
51 エストニア
66 スロバキア
67 スロベニア
70 イギリス
71 スイス
72 ノルウェー
52 フィンランド
53 フランス
73 その他EFTA
74 アルバニア
57 アイルランド
78 ルーマニア
54 ドイツ
55 ギリシャ
56 ハンガリー
58 イタリア
59 ラトビア
60 リトアニア
61 ルクセンブルグ
62 マルタ
63 オランダ
75 ブルガリア
76 ベラルーシ
77 クロアチア
79 ロシア
80 ウクライナ
81 その他東欧
82 その他欧州
83 カザフスタン
84 キルギスタン
5
87 アゼルバイジャン
88 グルジア
91 その他西アジア
92 エジプト
93 モロッコ
94 チュニジア
95 その他北アフリカ
96 ナイジェリア
97 セネガル
98 その他西アフリカ
99 その他中央アフリカ
100 その他中南部アフリカ
101 エチオピア
102 マダガスカル
103 マラウィ
104 モーリシャス
105 モザンビーク
108 ザンビア
109 ジンバブエ
112 南アフリカ
113 その他南アフリカ関税同盟
表 1-2
GTAP7 における産業分類
1 Paddy rice
22 Dairy products
43 Electricity
4 Vegetables, fruit, nuts
25 Food products nec
46 Construction
2 Wheat
3 Cereal grains nec
5 Oil seeds
6 Sugar cane, sugar beat
7 Plant-based fibers
8 Crops nec
9 Bovine cattle, sheep and goats, horses
10 Animal products nec
11 Raw milk
12 Wool, silk-worn cocoons
13 Forestry
14 Fishing
15 Coal
16 Oil
17 Gas
18 Minerals nec
19 Bovine meat products
20 Meat products nec
21 Vegetable oils and fats
23 Processed rice
24 Sugar
44 Gas manufacture, distribution
45 Water
26 Beverages and tobacco products
27 Textiles
28 Wearing apparel
29 Leather products
30 Wood products
31 Paper products, publishing
32 Petroleum, coal products
33 Chemical, rubber, plastic products
34 Mineral products nec
35 Ferrous metals
36 Metals nec
37 Metal products
38 Motor vehicles and parts
39 Transport equipment nec
40 Electronic equipment
41 Machinery and equipment nec
42 Manufactures nec
6
47 Trade
48 Transport nec
49 Water transport
50 Air transport
51 Communication
52 Financial services nec
53 Insurance
54 Business services nec
55 Recreation and other services
56 Public Administration, Defense, Education, Health
57 Dwellings
1.1.3
本調査における分析の枠組
GTAP モデルのデータベースは 113 地域・57 産業を包括するものであるが、実際にシミ
ュレーションに用いる際には、分析の目的に応じて分類を行うことが必要となる。
ここでは、日本における原料用途分への課税の影響が注目される地域を中心に、表 1-3
に示す 15 地域に分類を行った。産業については、石油・石炭製品関連とその関連産業を中
心に、表 1-4 に示す 20 産業に分類を行った。
表 1-3
略称
JPN
KOR
TWN
SGP
ASN
地域分類
日本
韓国
台湾
シンガポール
その他ASEAN
本調査における地域分類
略称
6 CHN
7 ASA
8 USA
9 GBR
10 GER
地域分類
中国
その他アジア
米国
英
独
7
11
12
13
14
15
略称
FRA
ITA
OEU
CHE
ROW
地域分類
仏
伊
その他EU
スイス
世界その他地域
表 1-4
略称
産業分類
本調査における産業分類
GTAP分類番号
1~14
GTAP分類内容
Paddy rice、Wheat、Cereal grains nec、Vegetables, fruit,
nuts、Oil seeds、Sugar cane, sugar beet、Plant-based
fibers、Crops nec、Bovine cattle, sheep and goats,
horses、Animal products nec、Raw milk、Wool, silk-worm
cocoons、Forestry、Fishing
1
AGR 農林水産業
2
OIL 石油産業
3
MNG 鉱業
4
PFD 食料品製造業
19~26
Bovine meat products、Meat products nec、Vegetable oils
and fats、Dairy products、Processed rice、Sugar、Food
products nec、Beverages and tobacco products
5
TXL 繊維製品製造業
27、28
Textiles、Wearing apparel
6
PPP 紙・パルプ・印刷業
31
Paper products, publishing
7
P_C
石油・石炭製品製
造業
32
Petroleum, coal products
8
CRP
化学・ゴム・プラス
チック製品製造業
33
Chemical, rubber, plastic products
9
NMM 窯業
35
Mineral products nec
16
15、17,18
Oil
Coal、Gas、Minerals nec
10
ITL
11
TEQ 輸送機器製造業
38、39
12
ELE 電子製品製造業
40
Electronic equipment
13
OME 機械設備製造業
41
Machinery and equipment nec
14
OMM その他鉱工業
15
EGW 電力・水道・ガス業
16
CNS 建設業
46
Construction
17
TRD 商業
47
Trade
18
TRP 運輸・通信業
19
SER その他サービス業
20
OSG 政府サービス業
鉄鋼・金属業
35、36、37
29、30、42
43~45
48~51
52~55、57
56
Ferrous metals、Metals nec、Metal products
Motor vehicles and parts、Transport equipment nec
Leather products、Wood products、Manufactures nec
Electricity、Gas manufacture, distribution、Water
Transport nec、Water transport、Air transport、
Communication
Financial services nec、Insurance、Business services nec、
Recreational and other services、Dwellings
Public Administration, Defense, Education, Health
次に GTAP モデルの構造を図 1-3 に、
また GTAP モデルによる影響把握の考え方を図 1-4
に示す。
8
地域家計全体
家計最終
消費支出
政府最終消
費支出
貯蓄
民間家計
政府
グローバル銀行
世界全体の資本を管理
家計最終
消費財(国
内財)購入
生産要素
投資
政府最終消
費財(国内
財)購入
政府最終消
費財輸入
家計最終消費
財輸入
生産者
中間財価格
・国内財
pfd(i,j,r)
・輸入財
pfm(i,j,r)
中間財(国
内財)購入
中 間 財
輸入
最 終 製
品輸出
世界各地域
図 1-3
GTAP モデルの構造
9
国内の動き
需要(主に最終消費財への課税が影響)
国内物価への影響により需要の減少
国内価格
各 国 内 で新た な国内需
給バランスに到達
税収増により政府消費は増加傾向
GDP の 変 化 に 伴 う エ ネ
ルギー使用量の変化
の変化
供給(主に中間財への課税が影響)
生産コストの変化による影響
①初期の
①初期の
均衡状態
均衡状態
日本における
国内外での調整
税制の変更
各国における
動き
各国における動き
世界各地域の貿易構造の変化
・日本のGDP・貿易価格の変化に伴う各国の輸出量の変化
・各国のGDPの変化に伴う輸入量の変化
図 1-4 GTAP モデルによる影響把握の考え方
10
世界全体で貿易
バランスを調整
②新たな
②新たな
均衡状態
均衡状態
1.2 課税シナリオの設定
ここでは、GTAP モデルによる影響分析にあたり、必要なシナリオの設定を行う。
1.2.1
分析対象とする免税措置
分析対象とする免税措置は下記の通りである。
租税特別措置法
・ 国産ナフサについて、石油精製企業の段階で一度課税されているため、租税特別措
置法第 90 条の 5 により、石化企業の届出書により、石油精製企業に石油石炭税が
還付される。
・ 輸入ナフサについて、
租税特別措置法第 90 条の 4 により石油石炭税が免税される。
・ 石油化学製品製造のために揮発油を消費する場合、揮発油税が免税となる(注.揮
発油とは比重 0.8017 を超えない炭化水素油であり、所謂ガソリンに限定されない)
。
上記の免税・還付措置が廃止された場合の影響を GTAP モデルを用いて分析し、免税・
還付措置が廃止された場合の足下の影響を明らかにする(元々の均衡状態と当該措置が廃
止された場合の新たな均衡状態の差分が政策的効果となる)
。
1.2.2
課税シナリオについて
免税撤廃シナリオ(課税シナリオ)として、具体的には以下を想定する。
原料用途ナフサへの課税(石油石炭税)
① 全額課税された場合(税率の 100%)
② オフガス分のみ課税された場合(税率の 12%程度)
③ 税率の 1%程度課税された場合
原料用途揮発油への課税(揮発油税)
オプションは石油石炭税と同様とする。
1.3 インプットデータの整備
設定したシナリオは、GTAP モデルの構造・データに整合した形に変換する必要がある。
GTAP モデルにおいては、各シナリオは、
「免税撤廃措置によって生じる、特定部門から特
定部門への中間財投入の価格の変化」に対応する。すなわち、課税シナリオの各オプショ
ンに対応したインプットデータを作成する。
GTAP モデルで石油化学産業に関連するセクター(産業分類)は、16(石油産業)
、32(石
油・石炭製品製造業)
、33(化学・ゴム・プラスチック製品製造業)である。課税シナリオ
11
によりこれらセクターへ投入されるエネルギー価格の変化率をインプットデータとしてモ
デルに与えることとなる。
本分析の対象となるナフサ等に関する免税スキームは下図の通りである。
まず、輸入時に課税される石油石炭税(2,040 円/kl)が免税・還付となっており、更に石
油化学製品製造のために炭化水素油を製造場から移出(蔵出し)
、あるいは輸入する際の揮
発油税が免税とされている
これらの免税措置が廃止される場合には、下図(a)~(d)の各段階でナフサ等の価格が上昇
することとなる(注.(b)については石油精製企業がナフサに価格転嫁することによるナフ
サ価格上昇を想定する)
。
(b)
(c)
【セクター16石油産業/32石油・石炭製品製造業】
石油石炭税課税
2,040円/kl
揮発油税課税
53,800円/kl
減免額
1,100億円
減免額
3兆円
図 1-5
(d)
ナフサ
石油精製企業
原油
(b)
石化企業
ナフサ
(a)
【セクター32
石油・石炭製
品製造業】
化
化学
学・
・
ゴ
ゴム
ム・
・
プ
プラ
ラス
スチ
チッ
ック
ク製
製品
品
輸入
【セクター33
化学・ゴム・
プラスチック
製品製造業】
ナフサに関する免税スキームと想定される価格上昇の考え方
これらの価格上昇をGTAPモデルにどのように反映させるかであるが、上記フローの上流
に相当する 16(石油産業)や 32(石油・石炭製品製造業)における製品価格を一律に変更
することは化学製品製造と関係のない製品価格を一律で変更することとなり、本分析の前
提としては不適切であるため、ここでは上記2つのセクターからセクター33(化学・ゴム・
プラスチック製品製造業)へ投入される製品 2の価格上昇率をインプットデータとして与え
ることとする。
2
石油化学製品製造に用いられる石油・石炭製品はほぼ石油製品に限定される。
12
表 1-5
化学・ゴム・プラスチック製品製造業(セクター33)に投入される製品の
価格上昇率の考え方
投入元セクター
価格上昇率の考え方
32 石油・石炭製品製造業
図 1-5 の(a)~(c)の価格上昇の影響を間接的に(石
(石油化学企業が含ま
油 化 学 企 業 の 製 品 価 格 転 嫁 と し て )、 即 ち 図
れる)
1-5(d)の影響を受ける(価格上昇率①)
。
→現状の免税総額が石化企業負担となり、それが
100%製品に転嫁される場合を想定する。
16 石油産業
図 1-5 の(a)~(c)の価格上昇の影響を直接受け、ナ
フサ価格が上昇する(価格上昇率②)。
注)ただし、投入量はほぼゼロである。
価格上昇率①の推計方法
① =ナフサ免税相当額の税負担/石油化学企業の出荷額
=(1,100 億円+3兆円) 3/(88,270 億円 4)=35%
価格上昇率②の推計方法
輸入ナフサと国産ナフサの石油石炭税課税に伴う価格上昇率(a,b´とする)
、ナフサの揮
発油税課税に伴う価格上昇率(cとする)と輸入ナフサと国産ナフサそれぞれの投入量シ
ェア 5(x,yとする)を用いて計算する。
② =(1+(a*x+b*y)
)*(1+c)-1=1.10(=110%)
3
4
5
化学課資料より(それぞれ平成 22 年度見通し、平成 21 年度見通し)
石油化学工業協会資料より(2009 年実績)
GTAP モデルでの設定値を用いた
13
また、上記推計に用いる係数の推計方法は下記のとおりである。
表 1-6
化学・ゴム・プラスチック製品製造業への投入製品の価格上昇率の考え方
係
対象
価格上昇率の考え方
数
(a)
輸入ナフサ
輸入時に石油石炭税が課税されることによ
る価格上昇。
(b)
国産ナフサ
ナフサ製造用の輸入原油に対し、石油石炭
税が課税されることによる価格上昇。
(c)
輸入ナフサ・国産ナフサ共通
石化製品製造用のナフサに揮発油税が課税
されることによる価格上昇。
a~cの推計方法
a=(石油石炭税率)/(石化用ナフサ価格)
=2,040 円/kl/52,000 6円/kl=4%
b=(石油石炭税率)×(石化用ナフサ向けの原油シェア)/(原油価格)
=(2,040 円/kl/56,000 円/kl)×(石油精製業で製造されるナフサ/石油精製業に投
入される原油) 7=4%×(21.3×106kl/209×106kl)=0.37%
c=(揮発油税率)/(石化用ナフサ価格)
=53,800 円/kl/52,000 円/kl=103%
貿易統計 CIF 価格(http://www.paj.gr.jp/statis/trade/data/03/cif-3.2011.10.28.xls、2011
年 8 月時点)
7 総合エネルギー統計(2009 年データ)
6
14
1.4 影響分析の結果
ここでは、前述の課税シナリオおよびインプットデータを用いて原料用ナフサ・原料用
途揮発油につき、全額課税された場合について GTAP モデルを用いた分析を行った。分析
結果は以下に示す。
1.4.1
各国経済への影響
図 1-6 に全額課税シナリオが各国実質 GDP に与える影響を示す。また、各国経済に与え
る影響として、実質輸出入への影響を表 1-7(変化率)、表 1-8(変化金額)に示す。これら
のデータから下記が示される。
・ 全額課税のシナリオでは、化学・ゴム・プラスチック製品業を中心に関連産業にお
いて生産額が減少し(後述参照)、日本のGDP総額は 85.7 億ドル8(▲0.18%)程度減
少する。
・ 日本においては国全体の生産額が減少する結果、国全体の輸入額も減少する傾向が
示される 9。また、課税により化学・ゴム・プラスチック製品等の価格が上昇する結
果、日本の物価が上昇するために輸出品価格も上昇し、日本の輸出にマイナスの影
響が見られる。
・ 他国の動向を見ると、日本の GDP が低下することを受けて、他国では GDP が増加
している。特にシンガポールでは伸び率が高く、輸出入についても増加しており、
日本の経済活動が海外へ流出する結果が示されている。
(単位:%)
0.10
国
ン 台
ガ 湾
そ
の ポー
他 ル
AS
EA
N
そ
の 中
他 国
ア
ジ
ア
米
国
ド
イ
フ ツ
ラ
ン
イ ス
タ
リ
イ ア
ギ
そ リス
の
他
EU
そ スイ
の
他 ス
地
域
-0.20
シ
-0.10
韓
日
本
0.00
-0.30
図 1-6
全額課税シナリオが各国の実質 GDP に与える影響(単位:%)
2004 年米ドル価格である(以下同様)。
業種別に見た場合、例えば石油・ゴム・プラスチック製品については海外製品の輸入が増
加する。これは課税による国内製品の価格上昇に伴う影響と考えられる。
8
9
15
表 1-7
全額課税シナリオが各国経済に与える影響(単位:%)
実質GDP
日本
韓国
台湾
シンガポール
その他ASEAN
中国
その他アジア
米国
ドイツ
フランス
イタリア
イギリス
その他EU
スイス
その他地域
表 1-8
実質輸入
実質輸出
-0.18
-0.32
-0.20
0.01
-0.03
0.00
0.02
-0.08
-0.04
0.09
0.05
0.03
0.03
-0.04
-0.02
0.00
-0.05
-0.03
0.02
0.03
0.02
0.01
0.02
0.00
0.02
0.01
0.01
0.01
0.03
0.02
0.02
0.03
0.02
0.01
0.02
0.02
0.02
0.03
0.03
0.01
0.05
0.03
0.02
0.02
0.01
全額課税シナリオが各国経済に与える影響(単位:百万米ドル、2004 年価格)
実質GDP
日本
韓国
台湾
シンガポール
その他ASEAN
中国
その他アジア
米国
ドイツ
フランス
イタリア
イギリス
その他EU
スイス
その他地域
実質輸入
実質輸出
-8,573.5
-1,719.1
-1,306.4
87.9
-70.0
11.5
54.8
-136.9
-78.1
94.7
75.6
57.5
172.5
-145.9
-106.6
49.4
-377.3
-211.0
179.5
66.7
35.7
1,092.0
385.3
30.6
501.0
113.6
111.1
277.1
144.9
84.4
311.5
118.1
96.0
252.5
123.0
71.5
896.5
657.0
503.4
34.3
67.0
55.1
1,129.0
337.5
284.8
16
1.4.2
業種別の影響
全額課税シナリオが日本の生産額に与える影響については、以下の通りである。
・ 全額課税シナリオでは、化学・ゴム・プラスチック製品業において生産額の減少が
大きく、191.4 億ドル(4.9%)減少する。
・ 化学・ゴム・プラスチック製品の生産額が減少する影響を受け、他の関連産業でも
生産額の減少が見られる10。
・ 日本の産業全体では、マイナスの影響がプラスの影響よりも強く、生産額総額は
187.0 億ドル減少する。
・ 日本の化学・ゴム・プラスチック製品の生産が減少し、また輸出競争力が低下する
結果、他国における化学・ゴム・プラスチック製品の生産が増加傾向を示す。
・ 石油・ゴム・プラスチック製品は、海外製品の輸入が 22.2 億ドル(5.3%)増加す
る。ただし、国内生産がこれを上回り 191.4 億ドル(4.9%)減少するため、トータル
の石油・ゴム・プラスチック製品の国内需要は減少する。
1.4.3
その他シナリオの試算結果
ここでは、オフガス分のみ課税された場合(税率の 12%程度)、税率の 1%程度課税され
た場合のシナリオが各国実質 GDP に与える影響について表 1-9 に示す。
・ オフガス分のみ課税された場合、税率の 1%程度課税された場合のシナリオでは、
いずれも全額課税シナリオの場合と同様に化学・ゴム・プラスチック製品業や、そ
の他関連産業において生産額が減少する。
・ オフガス分のみ課税された場合には、日本の GDP 総額への影響は 10.3 億ドル
(0.02%程度)の減少となる。税率の 1%程度課税された場合のシナリオでは、さ
らに影響は小さくなり、日本の GDP 総額には 0.9 億ドル(0.002%)程度の減少と
なる。
10
原料用ナフサ・原料用途揮発油につき、全額課税された以外は経済には外生条件を与え
ていないため、化学・ゴム・プラスチック製品や関連産業に向けられていた投資が影響の
少ない他の産業に向けられるというモデルの動きを反映して、一部の産業で生産が増加す
るケースがある。
17
・
表 1-9 各国の実質 GDP に与える影響
オフガス分のみ課税され
税率の1%程度課税され
た場合(税率の12%程
た場合
度)
変化額(百万
変化額(百万
変化率(%) 米ドル、2004 変化率(%) 米ドル、2004
年価格)
年価格)
日本
韓国
台湾
シンガポール
その他ASEAN
中国
その他アジア
米国
ドイツ
フランス
イタリア
イギリス
その他EU
スイス
その他地域
-0.02
-1026.5
-0.002
-85.5
0.00
10.4
0.000
0.9
0.00
6.6
0.000
0.6
0.01
11.6
0.001
1.0
0.00
20.6
0.000
1.7
0.00
5.1
0.000
0.4
0.00
22.7
0.000
1.9
0.00
137.0
0.000
11.0
0.00
62.8
0.000
5.3
0.00
34.9
0.000
2.9
0.00
39.5
0.000
3.3
0.00
31.8
0.000
2.8
0.00
113.0
0.000
9.5
0.00
4.3
0.000
0.3
0.00
142.5
0.000
12.0
18
第2章 原料用途分への課税による個別製品への影響分析
第2章では、原料用途のエネルギー製品(ナフサなど)に課税された場合に、トラベラ
ーリッドを含む特定製品の価格上昇やサプライチェーンにおける関連企業への影響につい
てケーススタディを実施し、製品価格や需要面での影響について分析を実施した。
2.1 分析方針
2.1.1
概要
免税措置や課税によるマクロ的な産業・経済への影響は、前章のとおり一般均衡モデル
GTAP を用いた分析により把握できる。ただし、モデル分析では、産業区分が細分化され
ておらず、詳細な製品毎の影響については把握できない。
よって、ここでは、個別製品への課税がもたらす影響について、統計情報の利用や業界
へのヒアリング等の情報を活用したケーススタディを行うこととする。分析に当たっては、
その製品に関わるサプライチェーンにおける関連企業への影響も分析する。
課税がもたらす企業への影響フローは、図 2-1 のように想定される(トラベラーリッド
の例)
。課税により中間製品・最終製品の価格が変化し得るのみでなく、企業の財務状況の
変化も生じ得る。例えば価格上昇を受けて顧客企業が海外製品や代替製品への切り替えを
行えば売上減少の可能性があり、一方で価格転嫁をしなければ利益減少となる。本分析で
は、このようなフローを念頭に、影響分析を行う。
課税
石油メーカー:石油精製・ナフサ製造
ナフサ価格変化(国
産・輸入とも)
石化メーカー:スチレンモノマー製造
国内:旭化成ケミカルズ、三
菱化学など
樹脂メーカー:ポリスチレン系樹脂製造
国内:PSジャパン、東洋スチ
レン、DIC
国産スチレン樹
脂価格変化
加工メーカー:PSシート製造
国内:RP東プラ、アイシート、
電気化学工業など
国産スチレン
シート価格変化
成型メーカー:容器製造
国内:東罐興業、日本デキ
シーなど
国産トラベラー
リッド価格変化
海外: LG化学、CHI
MEI、Formosaなど
代替輸入製品へ
の切り替え
海外:
代替輸入製品へ
の切り替え
海外: Huhtamaki社、
Solocup社など
代替輸入製品へ
の切り替え
需要家:飲料業界、外食業界
一般消費者
図 2-1
課税によるトラベラーリッドのサプライチェーンへの影響
19
2.1.2
ケーススタディ対象製品の特定
分析実施にあたり、ケーススタディの対象とする、石油化学製品を 3 品目特定した。
ケーススタディ対象の特定の観点は下記のとおりである。
・ 一般消費者に馴染みがあり、原料課税の影響を解りやすく示せる製品
・ 原料課税による影響が大きいと想定される製品
・ 製品サプライチェーン中の特定の業界に負担が集中する可能性がある製品
・ 製品自体の輸入品への代替が比較的容易に可能な製品
以上より、下表のケーススタディ対象製品を選択した。
表 2-1
2.1.3
ケーススタディ対象製品
対象製品
原料
トラベラーリッド
ポリスチレン樹脂
ペットボトル
PET 樹脂
レジ袋
ポリエチレン樹脂
影響分析の方法
ケーススタディ対象製品について、原料用途への課税が与える影響について分析を行う。
分析の方法は以下のとおりである。
(1) 製品価格への影響分析
1) 製品のサプライチェーンの設定
原料→中間製品→最終製品→消費者のサプライチェーンを対象製品について特定する。
2) 価格転嫁シナリオの想定
原料課税による原料コスト変化が製品価格にどれだけ転嫁されるかについて、各業界の
状況をヒアリング等により把握した上で、「価格転嫁シナリオ」を設定する。
<価格転嫁判断に影響を与える要因>
・ 代替素材・調達元の有無(輸入品の価格、製品付加価値)
・ 自社の財務状態 など
<価格転嫁シナリオの例>
・ サプライチェーン中の特定の業界が全額自己負担、他の業界は全額転嫁
・ サプライチェーン中で全額転嫁
20
3) 製品のコスト構造の把握
サプライチェーン中の中間・最終製品のコスト構造を調査し、2)で想定したシナリオ上に
よる、原料課税がもたらす製品の価格変化を推計する。
(2) サプライチェーン企業への影響分析
(1)の製品価格への影響分析結果を用い、製品サプライチェーンにおける関連企業(石化
メーカー、加工メーカー、成型メーカー等)の製品価格の変化が製品需要に与える影響に
ついて、分析を実施する。
①原料価格上昇分を転嫁、②原料価格上昇分吸収、のそれぞれの場合に対し、下記のよ
うな影響が想定される。
表 2-2
企業への影響
シナリオ
予想される影響
①原料価格上昇分
価格転嫁の結果、製品価格が上昇
を転嫁
→サプライチェーンのいずれかの段階で競合(海外)製品への切り
替えが発生
→切り替えが発生したサプライチェーンについて、各段階における
製品需要が減少
②原料価格上昇分
価格転嫁出来ず、自社の財務状況が悪化(利益減少)
を自社内で吸収
→影響が長期化すれば、①の対応にシフトせざるを得ない。
製品価格上昇による企業への影響について、製品需要への観点からその程度を評価する。
ここでは、国内製品と海外製品の切り替えの考え方がポイントとなるため、製品需要家企
業へのヒアリングにより、製品選択にあたっての考え方や、その上での国内製品の強みに
ついて整理する。
<製品切り替えの考え方:国内→海外>
・ 製品価格の比較
・ 製品品質・ブランド等の考慮 など
21
2.2 分析結果1:トラベラーリッド
2.2.1
トラベラーリッドとは
ここで分析対象とする「トラベラーリッド」とは、ファストフード店などが提供するホ
ット飲料の使い捨て容器の、蓋部分を指す(図 2-2)。蓋をしたままでも飲料が飲めるよう
に、飲み口が設けられている。
素材は耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)で、これを押出した不透明のシート(PS シート)を
成型して製造される。耐衝撃性ポリスチレンは、スチレンモノマーに少量のブタジエン(合
成ゴム)を加えて共重合させることにより耐衝撃性能を高めた樹脂で、熱可塑性・非結晶
性の性質を持つ。
重量は 2.5g 程度であり、3,000 枚のロットでは 5.4 円/枚程度で販売されている。
生産量に関する統計は無いが、ここではリッドの枚数を国民一人当たり 1.9 枚/年として
(下記参照)
、年間のリッド消費量を 128 百万人×1.9 枚/人=243 百万枚、重量では 243 百
万枚×2.5g/枚=608 トン程度と仮定する。
図 2-2
トラベラーリッド
出典:
(左)東罐興業ウェブサイト、
(右)日本デキシーウェブサイト
※トラベラーリッド消費量の推計
全日本コーヒー協会統計 11によると 2010 年に国民が喫茶店、コーヒーショップ、レストラン、ファスト
フード店で飲んだコーヒーは、週に 0.32 杯、つまり 17.3 杯/年と公表されている。さらに 2008 年の「カ
フェ白書」 12から、テイクアウト率は 11%(89%は店内で飲む)と推定され、これら数値からコーヒーを
テイクアウトするに際し使用されるリッドの枚数は概ね、国民一人当たり、17.3×0.11=1.9 枚/年と計算
される。なお、アイスコーヒーの場合はリッドを使用しない、またホットティーに使用されるリッドを加
算していないなどの課題がある。
11
12
http://ajca.or.jp/wp-content/uploads/2011/09/data04_2011-04.pdf
マークス JP 自主調査、http://www.markth.jp/omni/11omni/0804omni07.htm
22
2.2.2
製品価格への影響分析
(1) 製品のサプライチェーン
以下では、トラベラーリッドのサプライチェーンとして下図を想定し、分析を行う。
課税
石油メーカー:石油精製・ナフサ製造
ナフサ価格変化(国
産・輸入とも)
石化メーカー:スチレンモノマー製造
国内:旭化成ケミカルズ、三
菱化学など
樹脂メーカー:ポリスチレン系樹脂製造
国内:PSジャパン、東洋スチ
レン、DIC
国産スチレン樹
脂価格変化
加工メーカー:PSシート製造
国内:RP東プラ、アイシート、
電気化学工業など
国産スチレン
シート価格変化
成型メーカー:容器製造
国内:東罐興業、日本デキ
シーなど
国産トラベラー
リッド価格変化
海外: LG化学、CHI
MEI、Formosaなど
代替輸入製品へ
の切り替え
海外:
代替輸入製品へ
の切り替え
海外: Huhtamaki社、
Solocup社など
代替輸入製品へ
の切り替え
需要家:飲料業界、外食業界
一般消費者
図 2-3
トラベラーリッドのサプライチェーン(再掲)
<トラベラーリッド>
トラベラーリッドの代表的なメーカーは、国内では東罐興業株式会社、株式会社日本デ
キシーである。東罐興業は紙・プラスチック製の食品容器に加え、段ボールなどの梱包品、
一般樹脂製品などを製造している。日本デキシーは食品紙容器を専門に製造している。海
外では、フィンランドの Huhtamaki 社、米国の Solocup 社が代表的なメーカーであり、い
ずれも食品容器全般を扱っている。
いずれの社も、トラベラーリッドと紙カップの両方を製造している。リッド単価は上述
のとおり 5 円程度、カップ単価は 10 円程度である。飲料・外食業界が購入する際も、リッ
ドとカップを同一企業から調達することが一般的と考えられる。カップの断熱性能やリッ
ドの機能性に加え、カップへの印刷などデザイン面への対応可能性、また配送費を含めた
価格などが、製品選択における基準となり得る。
表 2-3 には、国内のファストフード店チェーンにおけるトラベラーリッドの調達元を示
23
す。多くのファストフード店チェーンが、東罐興業の製品を使用している。国内のハンバ
ーガー業界のシェア 70%13を占めるマクドナルドは、日本デキシーの製品を使用している。
表 2-3
ファストフード店チェーンにおけるトラベラーリッドの調達元
東罐興業
スターバックス、タリーズコーヒー、ドトールコーヒー
フレッシュネス、バーガーキング、ファーストキッチン、モスバ
ーガー、サブウェイ
日本デキシー
マクドナルド、ロッテリア
出典:MRI 調べ
<ポリスチレン樹脂>
国内では 1997 年から、石油化学メーカー9 社のポリスチレン部門の再編が行われ、PS
ジャパン株式会社、DIC 株式会社、東洋スチレン株式会社の 3 メーカーが現存する。図 2-4
には、国内のポリスチレン業界の再編状況を示した。2009 年にも日本ポリスチレン株式会
社の解散や PS ジャパンからの三菱化学株式会社の撤退により、生産量は縮小している。
海外では、韓国の LG 化学、中国の CHI MEI、台湾の Formosa が代表的なポリスチレ
ン樹脂メーカーである。
図 2-4
ポリスチレン業界の再編状況
出典:石油化学工業協会「石油化学工業の現状」2011 年
表 2-4 には、日本におけるポリスチレンの需給バランスを示す。ポリスチレンは、成型
用と発泡用に分類されており、合計した国内生産量は 82 万トンである。輸出入は生産量に
比較して小さく、輸入量は内需の 2.6%を占めている。
13
2005 年度日経 MJ「飲食業調査」
24
表 2-4
ポリスチレンの日本における 2010 年の需給バランス
国内生産
821,673 トン
(成型用
698,113 トン)
(発泡用
123,560 トン)
輸出
55,918 トン
輸入
20,770 トン
純輸入
-12,230 トン
809,343 トン
内需
出典:石油化学工業協会「石油化学工業の現状」2011 年
25
(2) 価格転嫁シナリオ
<転嫁対象額>
ナフサへの免税措置が廃止されるとすれば、現在 52,000 円/kL のナフサが、石油石炭税
2,040 円/kL・揮発油税 53,800 円/kL の合計 55,840 円/kL だけ価格上昇することになる。
2010 年には、ナフサ 33,451 千kLの分解精製により、6,236,743 百万円の石油化学品 14が
生産された 15。ナフサへの 55,840 円/kLの課税は、この石油化学品の生産額に対して、
55,840 円/kL×33,451 千 kL/6,236,743 百万円=29.9%
に相当する。これより、ナフサへの課税により、これら石油化学品の価格が、一律に 29.9%
上昇するものとする。
トラベラーリッドサプライチェーンにおいては、スチレンモノマーの価格上昇が 29.9%
であるとして、下流への影響を推計する。化学品に占めるスチレンモノマーの生産額比は
5.3% 16であるから、ナフサ課税 55,840 円/kLのうち 2,943 円/kLが、スチレンモノマーに転
嫁されることに相当する。
<価格転嫁の状況>
スチレンモノマーは、ナフサとベンゼンの価格変動を指標とした価格改定が行われてい
る。図 2-5 には、2009 年 9 月~2010 年 3 月の、スチレンモノマー価格の変化と、ナフサ
市況・ベンゼン市況の変化の関連性を示す。スチレンモノマーの価格が、ベンゼン・ナフ
サに連動していることがわかる。なお、ベンゼンもナフサから生成されるが、ナフサ自体
の価格変動の影響よりも、ベンゼン自体の需給バランスが価格に与える影響が大きいとさ
れている。
14
経済産業省「化学工業統計」における特掲石油化学品。
石油化学工業協会「石油化学工業の現状」2011 年
16 石油化学工業協会「石油化学工業の現状」2011 年より、2010 年の石油化学品生産量は
6,236,743 百万円、スチレンモノマー生産数量は 2,939 千トンであった。スチレンモノマー
単価は 111.9 円/kg(貿易統計 FOB 価格、2011 年 8 月)として、スチレンモノマー生産額
比は、111.9×2,939÷6,236,743=5.3%と計算される。
15
26
価格
(09年9月を100とする)
130
120
ナフサ
110
100
スチレン
90
80
ベンゼン
70
図 2-5
2010年2月
2010年1月
2009年12月
2009年11月
2009年10月
2009年9月
60
スチレンモノマー価格とナフサ価格・ベンゼン価格の関係
出典:日本オキシラン株式会社ウェブサイトより作成
http://www.oxirane.co.jp/kakaku/kakaku.html
ポリスチレン樹脂もスチレンモノマー同様、ナフサ価格とベンゼン価格に連動して価格
が決定される。ナフサとベンゼンの価格変動は、およそ 3:7 の割合でポリスチレン樹脂価
格の改定に反映されると言われている。近年、ポリスチレン樹脂価格は、2~4 か月毎に+
25 円/kg 前後の幅で改定が打ち出され(表 2-5)、概ね下流企業に受け入れられている。
表 2-5
プレスリリース
値上げ時期
ポリスチレン値上げ幅、打出し
補足:値上げ対象ポリスチレン製品
近年のポリスチレン価格改定状況
2009年5月 2009年8月 2010年1月 2010年6月 2011年2月 2011年4月
2009年7月 2009年9月 2010年2月 2010年7月 2011年3月 2011年5月
+25円以上 +25円以上 +30円以上
-
-
+20円以上
汎用・コ HI・コポ
難燃グ
ポリ・難 リ・難燃グ
全グレー
汎用は+
レードの
全グレード
燃グレー レードの値
ド
25円
み値上げ
ドの値上 上げ
出典:PS ジャパン株式会社プレスリリースより作成
プラスチック加工・成型メーカーへのアンケート調査結果においては、食品容器用プラ
スチックは転嫁が進展していないとされている。トラベラーリッドはポリスチレン製食品
容器の中でも、ファーストフードチェーンのブランドイメージとも結び付いた高付加価値
品であり、成型メーカーの価格交渉力が比較的強いものと考えられる。
27
表 2-6
プラスチック原料・製品の価格転嫁状況
出典:経済産業省製造産業局化学課「プラスチックの原料及び製品価格状況調査」平成 17
年
<価格転嫁シナリオ>
以上を踏まえ、スチレンモノマー以下のサプライチェーンにおける、価格転嫁シナリオ
を以下のとおり想定する。
表 2-7
価格転嫁シナリオ
転嫁
シナリオ 1
備考
全業界が 100%転嫁(全額を一般消費者
が負担)
シナリオ 2
シナリオ 3
石化メーカーは 100%転嫁、樹脂メーカ 樹脂メーカーの価格転嫁率につ
ーが 100%吸収
いて感度分析も実施
樹脂メーカーは 60%、加工メーカーは
脚注を参照
30%、成型メーカーは 60%、飲料業界・
外食産業は 0%をそれぞれ転嫁
注:シナリオ 3 については下記考察のもとに転嫁率の設定を行っている。
・ 石化メーカーは価格転嫁が一般的と判断し 100%とした。
・ 最終品メーカーなど価格転嫁が難しい業界は 0%とした。
・ 本報告書第 3 章にて後述するが、化学企業(プラスチック製品工業)へのアンケート調査を
実施している。その結果、ナフサ免税撤廃に際して価格転嫁を行うと回答した企業は約 6 割
であり、その理由は利益確保のために止むを得ないというものであった。このアンケート結
果を踏まえ、海外からの安価な輸入樹脂等との競合にさらされている樹脂メーカー、あるい
は中小規模のため比較的価格転嫁が難しいと想像される成型メーカーについては、転嫁率を
60%と設定した。
・ 加工メーカーについては、競合品の存在に加えて、規模的にも価格転嫁が難しいと想像され、
転嫁率 60%の半分の 30%と設定した。
28
(3) 製品のコスト構造の把握
原油からトラベラーリッド、さらには一般消費者までの物量フローと、中間・最終製品
価格を下図に示す。
石化メーカーは、ナフサの分解精製によりエチレンとその他各種石油化学品を同時に生
産する。また、ナフサ由来品の接触改質などによりベンゼンが生産される。エチレンとベ
ンゼンとの反応によりエチルベンゼンが生成され、これを脱水素化することにより、スチ
レンモノマーが得られる。2010 年のナフサの分解精製用消費量は 33,451 千kLであり、ス
ナフサ 1kLあたりでは 87.9kgである。
チレンモノマーの生産量は 294 万トンである 17から、
スチレンモノマーはポリスチレンに重合される 18が、この際の歩留りを 95%とすれば、ス
チレンモノマー87.9kgから生産されるポリスチレン樹脂は 83.5kgである。
加工メーカーは、ポリスチレン樹脂から PS シートを生産する。この際の歩留りを 95%
とすると、ポリスチレン樹脂 83.5g から生産される PS シートは 79.3kg である。
成型メーカーは、PS シートからトラベラーリッドを生産する。この際の歩留りを 90%と
し、またトラベラーリッドの重量は約 2.5g であるため、PS シート 79.3kg から生産される
リッドは約 29,000 枚である。
以上のように、スチレンモノマー87.9kg から、リッド約 29,000 枚が生産される。
17
石油化学工業協会「石油化学工業の現状」2011 年
ポリスチレンには少量のブタジエンが含まれ、ブタジエンもナフサ由来であるためナフ
サ課税により価格は変化し得る。ここでは、ナフサ課税によるブタジエン・スチレンモノ
マーへの影響は同程度であるとして、ポリスチレンは 100%スチレンモノマー由来であると
見做して計算を行った。
18
29
図 2-6
表 2-8
トラベラーリッドの物量フロー
トラベラーリッドの物量フロー・価格(ナフサ 1kL あたり)
入力
物質
量
単位
1 kL
出力
単価
金額[円]
物質
量
単位
単価
金額[円]
石化メーカー
石油化学用ナフサ
52,000
52,000 スチレンモノマー
0.0879 t
111,852
9,827
樹脂メーカー
スチレンモノマー
0.0879 t
111,852
9,827 ポリスチレン樹脂
0.0835 t
175,591
14,656
加工メーカー
ポリスチレン樹脂
0.0835 t
175,591
14,656 PSシート
0.0793 t
392,734
31,141
成型メーカー
PSシート
0.0793 t
392,734
31,141 トラベラーリッド
28,546 枚
5.40
154,147
飲料産業
トラベラーリッド
28,546 枚
5.40
28,546 杯
300
8,563,700
消費者
飲料
28,546 杯
300
28,546 杯
0
0
154,147 飲料
8,563,700 飲料消費
注:ナフサ単価は財務省貿易統計 2011 年 8 月の CIF 価格、スチレンモノマー、ポリスチレン
樹脂および PS シートの単価は同統計同年月の FOB 価格を引用した。トラベラーリッドの単価
は 5.4 円、トラベラーリッドを用いて提供される飲料の単価は 300 円と仮定した。
30
表 2-9
トラベラーリッドの物量フロー・価格(減免撤廃後ナフサ 1kL あたり)
入力
物質
量
単位
1 kL
出力
単価
金額[円]
物質
量
単位
単価
金額[円]
石化メーカー
石油化学用ナフサ
54,943
54,943 スチレンモノマー
0.0879 t
145,352
12,771
樹脂メーカー
スチレンモノマー
0.0879 t
145,352
12,771 ポリスチレン樹脂
0.0835 t
210,854
17,599
加工メーカー
ポリスチレン樹脂
0.0835 t
210,854
17,599 PSシート
0.0793 t
429,853
34,085
成型メーカー
PSシート
0.0793 t
429,853
34,085 トラベラーリッド
28,546 枚
5.50
157,090
飲料産業
トラベラーリッド
28,546 枚
5.50
28,546 杯
300
8,566,643
消費者
飲料
28,546 杯
300
28,546 杯
0
0
157,090 飲料
8,566,643 飲料消費
注:ナフサの価格変化は、スチレンモノマーへの転嫁分のみを示す。
(4) 製品価格の変化
各価格転嫁シナリオに対する製品価格の変化を示す。
<価格転嫁シナリオ 1>
ナフサからスチレンモノマーへ転嫁される 2,943 円/kL の全額を、消費者が負担する。ス
チレンモノマーは 29.9%、ポリスチレン樹脂は 20.1%(35 円/kg)上昇する。PS シートは
9.5%(37 円/kg)
、トラベラーリッドは 1.9%(0.1 円/枚)価格上昇する。
この結果、トラベラーリッドを用いた飲料が、0.1 円(飲料を 300 円とすると、0.03%)価
格上昇する。
表 2-10
製品
価格転嫁シナリオ1
転嫁率
負担額
[円/kL-ナフサ]
0
0
0
0
0
2,943
製品価格
上昇率
29.9%
20.1%
9.5%
1.9%
0.03%
―
石化メーカー
スチレンモノマー
100%
樹脂メーカー
ポリスチレン樹脂
100%
加工メーカー
PS シート
100%
成型メーカー
トラベラーリッド
100%
飲料産業
飲料
100%
消費者
―
―
(製品価格上昇率の計算式)
スチレンモノマー価格上昇率
=製品 1 単位あたり負担額÷製品単価
=(2,943 円/kL-ナフサ÷(87.9kg-スチレンモノマー/1kL-ナフサ)
)
÷(111.9 円/kg-スチレンモノマー)
=29.9%
ポリスチレン樹脂価格上昇率
=(2,943 円/kL-ナフサ÷(83.5kg-ポリスチレン樹脂/1kL-ナフサ))
÷175.6 円/kg-ポリスチレン樹脂
=20.1%
PS シート価格上昇率
31
利益減少率
(売上比)
0%
0%
0%
0%
0%
―
=(2,943 円/kL-ナフサ÷(79.3kg-PS シート/1kL-ナフサ)
)÷(392.7 円/kg-PS シート)
=9.5%
トラベラーリッド(リッド)価格上昇率
=(2,943 円/kL-ナフサ÷(28,546 枚・リッド/1kL-ナフサ)
)÷(5.4 円/枚-リッド)
=1.9%
飲料価格上昇率
=(2,943 円/kL-ナフサ÷(28,546 杯・飲料/1kL-ナフサ))÷(300 円/杯-飲料)
=0.03%
<価格転嫁シナリオ2>
ナフサから転嫁される 2,943 円/kL の全額を、樹脂メーカーが負担する。原料であるスチ
レンモノマー樹脂 29.9%の価格上昇により、
PS シートは売上比 20.1%もの利益が減少する。
これは、PS シート製造の利益率が 20.1%であったとしてもその利益がゼロとなることを意
味する。
表 2-11
製品
価格転嫁シナリオ2
転嫁率
負担額
[円/kL-ナフサ]
0
2,943
0
0
0
0
製品価格
上昇率
29.9%
0%
0%
0%
0%
―
石化メーカー
スチレンモノマー
100%
樹脂メーカー
ポリスチレン樹脂
0%
加工メーカー
PS シート
―
成型メーカー
トラベラーリッド
―
飲料産業
飲料
―
消費者
―
―
(利益減少率(売上比)の計算式)
PS シート利益減少率(売上比)
=製品 1 単位あたり原料費上昇額÷製品価格
=(87.9kg-スチレンモノマー×111.9 円/kg-スチレンモノマー×29.9%)
÷(83.5kg-ポリスチレン樹脂×175.6 円/kg-ポリスチレン樹脂)
=20.1%
利益減少率
(売上比)
0%
20.1%
0%
0%
0%
―
上記の利益減少率を樹脂メーカーが吸収することは現実的に困難と予想されるため、以
下では価格転嫁率を 20%~100%に変化させたケースの感度分析を行った。結果は下表表
2-12 のとおりであり、転嫁率が製品価格や業績に与える影響が大きい。
32
表 2-12
価格転嫁シナリオ2(感度分析)
製品
樹脂メーカー
転嫁率
ポリスチレン樹脂
0%
20%
40%
60%
80%
100%
負担額
[円/kL-ナフサ]
2,943
2,355
1,766
1,177
589
0
製品価格
上昇率
0%
4.0%
8.0%
12.0%
16.1%
20.1%
利益減少率
(売上比)
20.1%
15.5%
11.2%
7.17%
3.46%
0%
<価格転嫁シナリオ3>
樹脂メーカーは 60%、加工メーカーは 30%、成型メーカーは 60%、飲料業界・外食産業
は 0%をそれぞれ転嫁する。
スチレンモノマーは 29.9%、ポリスチレン樹脂は 12.0%、PS シート 1.7%、リッド 0.2%
の価格上昇が生じる。各段階での価格吸収により、各製品の売上比として、ポリスチレン
樹脂 7.2%、PS シート 3.9%、トラベラーリッド 0.14%の利益が減少する。
経済産業省による“平成 22 年企業活動基本調査確報-平成 21 年度実績- 19の付表 5 に
よると、売上高営業利益率の平均は、化学工業(石化・樹脂メーカーが該当)で 6.8%、プラ
スチック製品製造業(加工・成型メーカーが該当)で 3.1%である。
シナリオ 3 においては上述の通り、ポリスチレン樹脂メーカーで 7.2%、PS シートメー
カーで 3.9%の利益減少と試算され、事業が赤字化するレベルと推察される。従って、設定
よりも価格転嫁率を高めるか、あるいは安価原料への置換を進めるなどの対策が必要とな
る。
表 2-13
製品
価格転嫁シナリオ3
転嫁率
負担額
[円/kL-ナフサ]
0
1,177
1,236
212
318
0
製品価格
上昇率
29.9%
12.0%
1.7%
0.2%
0%
―
利益減少率
(売上比)
0%
7.17%
3.90%
0.14%
0.004%
―
石化メーカー
スチレンモノマー
100%
樹脂メーカー
ポリスチレン樹脂
60%
加工メーカー
PS シート
30%
成型メーカー
トラベラーリッド
60%
飲料産業
飲料
0%
消費者
―
―
(負担額の計算式)
スチレンモノマー負担額=2,943 円/kL-ナフサ×(1-60%)=1,177 円/kL-ナフサ
PS シート負担額=2,943 円/kL-ナフサ×60%×(1-30%)=1,236 円/kL-ナフサ
トラベラーリッド負担額=2,943 円/kL-ナフサ×60%×30%×(1-60%)=212 円/kL-ナフサ
19
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/result-2/h22kakuho.html
33
飲料産業負担額=2,943 円/kL-ナフサ×60%×30%×60%=318 円/kL-ナフサ
(製品価格上昇率の計算式)
スチレンモノマー価格上昇率
=(2,943 円/kL-ナフサ)
÷(87.9kg-スチレンモノマー/kL-ナフサ×111.9 円/kg-スチレンモノマー)
=29.9%
ポリスチレン樹脂価格上昇率
=(2,943 円/kL-ナフサ)×60%
÷(83.5kg-ポリスチレン樹脂/kL-ナフサ×175.6 円/kg-ポリスチレン樹脂)
=12.0%
PS シート価格上昇率
=(2,943 円/kL-ナフサ)×60%×30%
÷(79.3kg-PS シート/kL-ナフサ×392.7 円/kg-PS シート)
=1.7%
トラベラーリッド価格上昇率
=(2,943 円/kL-ナフサ)×60%×30%×60%
÷(28,546 枚・リッド/kL-ナフサ×5.4 円/枚-リッド)
=0.2%
(利益減少率(売上比)の計算式)
ポリスチレン樹脂メーカー利益減少率(売上比)
=(2,943 円/kL-ナフサ)×(1-60%)
÷(83.5kg・ポリスチレン樹脂/kL-ナフサ×175.6 円/kg-ポリスチレン樹脂×(100%+12.0%)
=7.17%
PS シートメーカー利益減少率(売上比)
=(2,943 円/kL-ナフサ)×60%×(1-30%)
÷(79.3kg・PS シート/kL-ナフサ×392.7 円/kg・PS シート×(100%+1.7%))
=3.90%
トラベラーリッド利益減少率(売上比)
=(2,943 円/kL-ナフサ)×60%×30%×(1-60%)
÷(28,546 枚・リッド/kL-ナフサ×5.4 円/枚-リッド×(100%+0.2%))
=0.14%
飲料産業利益減少率(売上比)
=(2,943 円/kL-ナフサ)×60%×30%×60%
÷(28,546 杯/kL-ナフサ×300 円/杯)
=0.004%
34
2.2.3
サプライチェーン企業への影響分析
以上では、企業の価格転嫁行動による、トラベラーリッドサプライチェーン中の各製品
への価格変化を分析した。
二次的には、価格転嫁行動の影響として企業の財務状況の変化も生じ得る。例えば価格
上昇を受けて顧客企業が海外製品や代替製品への切り替えを行えば売上減少の可能性があ
り、一方で価格転嫁をしなければ利益減少となる。これにより、ある段階での国内生産が
失われれば、その影響は各化学製品のサプライチェーンの上流に波及する。
ここでは、これらを念頭に原料用途分への課税がもたらす、サプライチェーンへの企業
への影響を分析する。
(1) 影響発現のシナリオ設定
減免撤廃によるポリスチレン樹脂価格への影響は、金額 35 円/kg(値上り率 20.1%)と
推計された。また、この原料価格上昇がトラベラーリッドに全額転嫁された場合は、リッ
ドあたり 0.1 円(1.9%)程度の価格上昇が見込まれた。
ポリスチレン原料のナフサやベンゼンの値動きに応じて、ポリスチレン樹脂メーカーは
20 円/kg 程度の幅で価格改定を打ち出している。これに比して 35 円/kg という価格改定は
非常に大きなものではないが、価格差の拡大により、海外品の流入を招く恐れがある。
ここでは、ポリスチレン樹脂メーカーに着目して、その価格吸収の可能性と、海外樹脂
メーカーの参入可能性について、分析する。つまり、樹脂メーカーによる価格吸収が行わ
れる可能性(シナリオ1)と、国内加工メーカーが海外樹脂メーカーからの購買量を増や
す可能性(シナリオ2)がある。
石化メーカー
スチレンモノマー価格上昇
樹脂メーカー
シナリオ1:樹脂メーカーによる価格吸収
ポリスチレン樹脂
海外樹脂メーカー
加工メーカー
シナリオ2:国内樹脂価格上昇により海外樹脂メーカー参入
PSシート
成型メーカー
リッド
飲料業界・外食産業
飲料
消費者
図 2-7
影響発現のシナリオ
35
(2) 影響評価
シナリオ1は、樹脂メーカーによる価格吸収を想定するものである。ポリスチレン事業
の売上高営業利益率は 3%程度と推測され、ナフサ課税による 20%もの利益逸失は受け入れ
不可能である。価格転嫁率が 60%であっても、利益減少は約 7%となる。
ポリスチレンは、将来の需要増加も見込みにくく、生産量は縮小傾向にある。ポリプロ
ピレンなどの樹脂は海外生産比率が高い自動車産業においての需要があるが、ポリスチレ
ンは食品容器などの国内需要が中心であるため、輸出比率は 5%程度と小さい。最近では、
2009 年に 15 万トンの生産能力を持つ日本ポリスチレン株式会社が解散、PS ジャパン株式
会社の四日市工場も閉鎖した。
国内のポリスチレン樹脂メーカーは、いずれも国内大手化学メーカーの出資によるもの
である。国内ポリスチレン事業の採算性が悪化すれば、ポリスチレン生産はシンガポール
などの海外にシフトし、より高付加価値品である樹脂のみを生産するよう再編が進むがあ
る。
8.0%
30,000
6.0%
20,000
4.0%
百万円
10,000
2.0%
0.0%
0
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009
-10,000
-2.0%
-4.0%
-20,000
-6.0%
-8.0%
-30,000
売上高
図 2-8
営業損益
売上高営業利益率
日本ポリスチレン株式会社における利益
出典:
「化学業界の話題(データベース)
」http://www.knak.jp/より作成
シナリオ2は、輸入品への切り替えが進むとするシナリオである。
ポリスチレン樹脂は、国内品と輸入品との間で品質差が小さい。流通に関しても大きな
課題は無いため、
「下流企業による調達元の変更は容易である」と公正取引委員会が指摘し
ている(表 2-14)。過去には異物混入が少ないなどの理由で国内品ポリスチレンの品質が
高いという認識があったが、近年は海外品の品質も改善している。また、輸送費を含めて
20~30 円/kg 程度海外品が割安である。現在は成型用ポリスチレン消費約 70 万トンの 9 割
以上が国内品であるが、輸入比率は微増しており、今後も増加するものと見られている。
このことから、ナフサ課税という国内のみの価格押し上げ要因によりポリスチレン価格
36
を改定すれば、海外品への切り替えが進む可能性がある。
表 2-14
イ
ポリスチレン業界の特徴
取引先変更の容易性
ポリスチレンは国内外のメーカー間に品質差がみられず,また,ユーザーによる使い慣
れの問題もない。
さらに,ユーザーの海外移転によって国内需要が縮小傾向にある中,当事会社以外の他
の国内メーカーは一定の供給余力を有しているほか,後記ウの輸入圧力の存在を踏まえる
と,ユーザーにおいては,当事会社の価格の状況に応じ,輸入品も含め,取引先を変更す
ることは容易である。
また,ユーザーの多くは,前記のとおり取引先の変更が容易であるため,低廉な価格に
よる調達を重視する観点から,複数のメーカーから購入するとともに,より低い価格を提
示したメーカーからの調達割合を増加させるとの方針を採っており,ユーザーの価格交渉
力は強いものとなっている。
出典:公正取引委員会「エー・アンド・エム
スチレン(株)及び出光石油化学(株)に
よるポリスチレン事業の統合について」2002 年
(3) サプライチェーンへの影響金額
トラベラーリッドの 2010 年における国内出荷分が海外生産にシフトした場合の各サプラ
イチェーンへの影響金額を試算する。ここで、トラベラーリッドの日本国内需要を 608 ト
ン/年、その全量が国内製品と仮定した(2.2.1 項、2.2.3 項参照)。影響金額の推計結果は以下
の通りであり、総額は約 18 億円となる。
表 2-15
トラベラーリッドの海外生産移転による影響金額
影響金額
石油メーカー
23 百万円
備 考
ナフサ 1kl から生産されるスチレンモノマーは 87.8kg、必
要なナフサ量は 749/0.0878=8,530kL、ナフサ価額のうちス
チレンモノマーとなるのは 5.3%、ナフサ単価 52,000 円/kl。
石化メーカー
84 百万円
スチレンモノマー単価 112 円/kg(貿易統計 FOB 価格 2011
年 8 月)
。ポリスチレン樹脂を製造する際の収率を 95%とし
て、国内生産のリッド向けスチレンモノマーは 711/0.95=
749 トン。
樹脂メーカー
1.2 億円
ポリスチレン樹脂単価 176 円/kg(貿易統計 FOB 価格 2011
年 8 月)
。PS シートに加工する際の収率を 95%として、国
内生産のリッド向けポリスチレン樹脂は 676/0.95=711 ト
ン。
37
加工メーカー
2.7 億円
PS シート単価 393 円/kg
(貿易統計 FOB 価格 2011 年 8 月)。
リッドに加工する際の収率を 90%として、国内生産のリッ
ド向け PS シートは 608/0.9=676 トン。
成型メーカー
13.1 億円
トラベラーリッドの国内需要 608 トン/年。標準的トラベラ
ーリッドの重さ 2.5g/枚、単価 5.4 円/枚。
(4) まとめ
以上の検討結果により、各サプライチェーンに生じ得る影響を下記にまとめる。
<ポリスチレン樹脂メーカーへの影響>
・ 減免措置撤廃により発生する国内製造コストアップは製品価格の 20%程度である。川下
への価格転嫁が必須となり、海外競合品に置換されるリスクがある。
・ 置換のリスクを抑える手段として、海外生産への移行が進むと考えられる。
<加工メーカーへの影響>
・ ポリスチレン樹脂の国内品を使い続ける場合、減免措置撤廃により発生する国内製造コ
ストアップは製品価格の 9%程度であり、価格吸収は難しい。
・ 一方で、品質差の小さいポリスチレン樹脂の海外品が利用可能となってきているため、
海外品への移行が進む。
・ トラベラーリッドはポリスチレン製食品包装の中でも高付加価値品であると考えられ
るが、その他の弁当容器など用途においては、国内ポリスチレン樹脂を使用した上での
価格転嫁も生じると考えられる。
38
2.3 分析結果2:ペットボトル
2.3.1
ペットボトルとは
ペットボトルは昭和 57 年に食品衛生法が改正されて初めて国内に登場した。軽くて割れ
ない、透明で中身が見える、再栓性があるなどの利便性に特徴があり、主に清涼飲料など
指定表示製品の容器として利用される。
導入当初はウーロン茶など 2L 大型容器が主流であったがその後、炭酸飲料やコーヒー、
ジュースに適用され、さらにスポーツ飲料、ミネラルウォーター、緑茶飲料など清涼飲料
業界の発展に伴って、ペットボトルの使用もまた伸びてきた。2010 年では飲料用容器の
64.9%がペットボトルと報告されており、缶の 20.6%、紙容器の 10.4%を大きくしのぐ。
図 2-9
清涼飲料品目別生産量推移(1991 年~2010 年)
出典:全国清涼飲料工業会のみもの情報館 20
20
http://www.j-sda.or.jp/about-jsda/sd-statistics/stati03.html
39
2010 年のペットボトル成型用の原料であるポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂需
要は約 60 万トンであり、うち 56 万トン弱が指定表示製品(清涼飲料向け 52 万トン、その
他、しょうゆ等特定調味料・酒類向け 4 万トン)に使用されている。 21
ペットボトルの種類について下図に示した。機能面から、茶系飲料などを高温で充填す
るための耐熱ボトル、炭酸飲料を充填する耐圧ボトル、ミネラルウォーターなど無菌充填
に使用される無菌ボトルに区分される。
また近年の重要なテーマとして環境負荷低減およびコスト削減の目的から、ペットボト
ルの軽量化が進められている。例えば下図によると 2004 年の一般的 500ml耐圧ボトルは
31.1gあったのが、2010 年には 90.9%に減量されている 22。さらにサントリー“ペプシネ
ックス”では 24gを達成したと発表されている 23。また図中 2004 年の一般的 500ml無菌
ボトルは 25.2gから 2010 年には 85.4%に減量されており、日本コカコーラ“いろはす”に
至っては、12gと発表されている 24。
図 2-10
ペットボトルの軽量化
出典:PETボトルリサイクル推進協議会 25
PET ボトルリサイクル推進協議会データ
31.1g(2004 年)の 90.9%として 28.3g(2010 年)と計算される。
23サントリー株式会社 2010 年 1 月 21 日プレスリリース
http://www.suntory.co.jp/news/2010/10655.html
24日本コカコーラ株式会社 2009 年 4 月 23 日プレスリリース
http://www.cocacola.co.jp/corporate/news/news_20090423.html
25 http://www.petbottle-rec.gr.jp/data/weight_saving.html
21
22
40
2.3.2
製品価格への影響分析
(1) 製品のサプライチェーン
以下では、ペットボトルのサプライチェーンとして下図を想定し、分析を行う。
図 2-11
ペットボトルのサプライチェーン
<ペットボトル>
ペットボトルの代表的なメーカーは、東洋製罐株式会社と、株式会社吉野工業所である。
東洋製罐は飲料用ペットボトルを含む食品用プラスチックボトル工場を日本国内に 12 箇所
稼働し、この他中国、タイに進出している。吉野工業所はペットボトル工場を 6 箇所稼働
し、この他米国に進出している。
ペットボトルの製造に際しては、まず容器用 PET 樹脂を熔融成型してプリフォームを作
成し、これをブロー成型という工程を経る。なお、近年の動きとして飲料メーカーによる
ペットボトルの自製が挙げられる。その際、成型メーカーからプリフォームを購入して自
社でブロー成型する場合と、容器用 PET 樹脂を購入してプリフォーム成型からブロー成型
まで一貫して行う場合がある。
こうした飲料メーカーによる自製の動きは、成型メーカーにとって経営上大きな影響が
ある。最大手の東洋製罐は、包装容器関連事業として①缶詰用空缶等、②プラスチック製
品、③ガラス製品、④紙製品、⑤エアゾール製品等の合計を公表しており、2010 年度当該
事業の売上高は 6,061 億円である。顧客によるペットボトル内製化の影響について最近の
41
決算短信では、炭酸飲料向けとミネラルウォーター向けで売上の減少が続いており、その
対策として客先でのオンサイト製造システム・新充填システムという新たなビジネスモデ
ルを展開していると報告している。 26
図 2-12
ペットボトルの成型
出典:経済産業省ウエブページ 27
<石化原料~容器用 PET 樹脂>
国内は容器用 PET 樹脂事業の統合が進んでいる。現在の大手は三菱化学・東洋紡績系の
日本ユニペット株式会社と、2011 年 4 月設立の三井化学・帝人系の MCT ペットレジン株
式会社である。
三菱化学は、ナフサ製造から、中間原料であるパラキシレン(PX)
、高純度テレフタル酸
(PTA)
、エチレン、エチレンオキシド、エチレングリコール(EG)
、そして最終的にポリ
エチレンテレフタレート(PET)樹脂製造まで、垂直統合している。
三菱化学、東洋紡績ともに、PET フィルム事業は自社内に残し、容器用 PET 樹脂につい
ては合弁会社である日本ユニペット株式会社で事業を行っている。日本ユニペットは生産
拠点を三菱化学と東洋紡績の工場内に有しており、原料供給も両社から受けている。
26
27
東洋製罐株式会社ウエブページ: http://www.toyo-seikan.co.jp/
http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/chemical_wondertown/
supermarket/page02.html
42
図 2-13
日本ユニペット株式会社 28
三井化学と帝人は、両社国内の容器用 PET 樹脂事業を 2011 年 4 月に統合し、MCT ペッ
トレジン株式会社を設立した。原料面からのシナジー効果を含めたサプライチェーン一貫
での競争力強化を目的としている。生産は三井化学岩国大竹工場に生産委託する形となる。
この統合は日本国内のみを対象としており、この他に三井化学はタイおよびインドネシア
にて容器用 PET 樹脂の共同企業体(JV)を所有する。
図 2-14
MCTペットレジン株式会社 29
以上のように容器用 PET 樹脂事業はグループ内での石化原料面からの垂直統合と、容器
用 PET 樹脂としての事業統合が進んでいる。従って以下の分析では、石化原料メーカーと
樹脂メーカーを切り分けずに、
“石化・樹脂メーカー”として一体で取り扱う。
28
29
三菱化学株式会社ウェブサイト: http://www.m-kagaku.co.jp/aboutmcc/index.htm
2011 年 3 月 1 日三井化学株式会社、帝人株式会社プレスリリース
43
下表には、日本における容器用 PET 樹脂の需給バランスを示す。容器用 PET 樹脂の国
内生産量は 21 万トンである。輸入量が大きく、内需の 65%を占めている。
表 2-16 容器用 PET 樹脂の日本における 2010 年の需給バランス
区
分
量
供
国内生産
208,578 トン
給
純輸入
391,972 トン
内
600,550 トン
需
出典:化学工業統計年報(国内生産)、PET ボトルリサイクル推進協議会(内需)
(輸入量はこれらより算出)
(2) 価格転嫁シナリオ
<転嫁対象額>
ナフサへの免税措置が廃止されるとすれば、現在 52,000 円/kL のナフサが、石油石炭税
2,040 円/kL・揮発油税 53,800 円/kL の合計 55,840 円/kL 価格上昇することになる。
トラベラーリッドの項で記載したとおり、ナフサへの課税分を石油化学製品の生産額
(6,236,743 百万円)に転嫁した場合、石油化学製品価格は一律に 29.9%上昇する 30。
従って、ここではペットボトルサプライチェーンにおいて PET 樹脂の価格上昇が 29.9%
であるとして、下流への影響を推計する。
また容器用PET樹脂ビジネスは石油化学製品の生産額の約 0.787% 31を占める。そのため
ナフサへの課税分 55,840 円/kLのうちの 0.787%、即ち 439 円/kLを、容器用PET樹脂に転
嫁することとする。
30
輸入ナフサの場合を想定する。
石油化学工業協会「石油化学工業の現状」2011 年による、石化メーカーの生産額
6,236,743 百万円と、経済産業省化学工業統計による、容器用 PET 樹脂の 2010 年販売数量
215,480 トン、2010 年 10-12 月単価 227.8 円/kg から計算した。
31
44
<価格転嫁シナリオ>
以上を踏まえ、ポリスチレン以下のサプライチェーンにおける、価格転嫁シナリオを以
下のとおり想定する。
表 2-17
価格転嫁シナリオ
転 嫁
シナリオ 1
備 考
全業界が 100%転嫁(全額を一般消費者
が負担)
シナリオ 2
シナリオ 3
石化・樹脂メーカーは 100%転嫁、成型
成型メーカーの価格転嫁率につ
メーカーが 100%吸収
いて感度分析も実施
石化・樹脂メーカーは 60%、成型メーカ シナリオ1とシナリオ2の中間
ーは 60%、飲料業界・外食産業は 0%転 的シナリオ
嫁(100%吸収)
注:シナリオ 3 について、飲料品メーカーなど価格転嫁が難しい業界は 0%とした。
(3) 製品のコスト構造の把握
原油から容器用 PET 樹脂、ペットボトル成型、一般消費者までの物量フローと、中間・
最終製品価格をに示す。
2010 年ナフサ消費量 33,451,000kL(「石油化学工業の現状」2011)
、国産の容器用 PET
樹脂販売数量 215,480 トン(経済産業省化学工業統計、2010 年)より、ナフサ 1kL からの
PET 樹脂量を 6.44kg とした。つまり石化・樹脂メーカーは、ナフサ 1kL から容器用 PET
樹脂 6.44kg、その他各種石油化学品を同時に生産する。
成型メーカーは、容器用 PET 樹脂からペットボトルを生産する。樹脂を熔融してプリフ
ォームを作成し、ここからブロー成型をしてボトルとする。不良品は工場内にて再熔融再
使用できる、もしくは市場に出ていない清浄なボトルとして有効に回収できるものと考え
られるので、成型時の歩留まりは 100%と仮定する。
ペットボトルは求められる機能や容積が様々であるが、本シミュレーションでは最も出
荷数量の多い炭酸飲料を想定し、容積 500ml、耐圧ボトル重量 28.3g 32の場合について試
算した。このとき、容器用PET樹脂 6.44kgからボトル 228 個が生産される。
また、前記ボトルの価格については 15 円/個と仮定した。
32
前述の 2.3.1 のデータより。
45
図 2-15
表 2-18
ペットボトルの物量フロー
ペットボトルの物量フロー・価格(ナフサ 1kL あたり)
入力
物質
量
石化・樹脂メーカー 石油化学用ナフサ
単位
出力
単価
金額[円]
1 kL
52,000
成型メーカー
PET樹脂
6.44 kg
227.8
飲料産業
ペットボトル
228 個
15.0
消費者
飲料
228 杯
120.0
物質
52,000 PET樹脂
量
単位
単価
金額[円]
6.44 kg
227.8
1,467 ペットボトル
228 個
15.0
3,414
3,414 飲料
228 杯
120.0
27,314
228 杯
0
0
27,314 飲料消費
1,467
注:PET 樹脂単価(227.8 円/kg)は 2010 年 10-12 月の販売数量 50,705 トンと販売金額 11,549
百万円(経済産業省化学工業統計)から算出した。ペットボトルおよび飲料の単価は各々、15
円、120 円とした。
表 2-19
ペットボトルの物量フロー・価格(減免撤廃後ナフサ 1kL あたり)
入力
物質
石化・樹脂メーカー 石油化学用ナフサ
量
単位
出力
単価
金額[円]
1 kL
52,439
成型メーカー
PET樹脂
6.44 kg
296.0
飲料産業
ペットボトル
228 個
16.9
消費者
飲料
228 杯
121.9
物質
52,439 PET樹脂
単位
単価
金額[円]
6.44 kg
296.0
1,907 ペットボトル
228 個
16.9
3,854
3,854 飲料
228 杯
121.9
27,754
228 杯
0
0
27,754 飲料消費
注:ナフサの価格変化は、PET 樹脂への転嫁分のみを示す。
46
量
1,907
(4) 製品価格の変化
各価格転嫁シナリオに対する製品価格の変化を示す。
<価格転嫁シナリオ 1>
ナフサから転嫁される 439 円/kL の全額を、消費者が負担する。
容器用 PET 樹脂は 227.8 円/kg から 296.0 円/kg へ、68.2 円/kg(29.9%)価格上昇する。
500ml耐圧ペットボトルは 15.0 円/個から 16.9 円/個へ、1.9 円/個(12.9% 33)価格上昇す
る。
表 2-20
製品
価格転嫁シナリオ1
転嫁率
負担額
[円/kL-ナフサ]
製品価格
上昇率
利益減少率
(売上比)
石化・樹脂メーカー
PET 樹脂
100%
0
29.9%
0%
成型メーカー
ペットボトル
100%
0
12.9%
0%
飲料産業
飲料
100%
0
1.6%
0%
消費者
―
―
439
―
―
(製品価格上昇率の計算式)
PET 樹脂価格上昇率
=製品 1 単位あたり負担額÷製品単価
=(439 円/kL-ナフサ÷(6.44kg-PET 樹脂/1kL-ナフサ)
)÷(227.8 円/kg-PET 樹脂)
=29.9%
ペットボトル価格上昇率
=(439 円/kL-ナフサ÷(228 個-ボトル/1kL-ナフサ))÷(15 円/ボトル)
=12.9%
飲料価格上昇率
=(439 円/kL-ナフサ÷(228 個-ボトル/1kL-ナフサ))÷(120 円/ボトル)
=1.6%
なお、上記では 500ml 耐圧ぺットボトルを想定し、重量 28.3g/個のボトルの価格上昇を
記載した。価格上昇幅はボトル重量によって変わるので、種類・容量の異なる幾つかのケ
ースについて以下に試算した。
33
3章のアンケート結果では、原料用ナフサ等への減免措置が廃止された場合に想定され
る製品価格上昇の平均は 20%程度であった。なお、桁落ちの関係で本文中の数値から直接
計算される値とは若干異なる点に留意されたい。
47
表 2-21
ペットボトル重量別のコスト変化
ボトルの種類(*1) 容器重量(*2)
減免撤廃時コストアップ
(ペットボトル 1 個当り)
耐圧ボトル, 500 ml
28.3g
1.9 円/個
耐圧ボトル, 1.5L
48.2g
3.3 円/個
無菌ボトル, 500ml
21.5g
1.5 円/個
無菌ボトル, 2L
41.6g
2.8 円/個
(*1) 図 2-10 から代表例を引用した。
(*2)
図 2-10 の数値から軽量化後の標準的重量を算出して記載した。
<価格転嫁シナリオ2>
ナフサから転嫁される 439 円/kL の全額を、成型メーカーが負担する。原料である PET
樹脂は 29.9%価格上昇する。これにより、ペットボトルは売上比 12.9%の利益が減少する。
これは、例えばペットボトルの利益率が 10%であったとすれば、2.9%の赤字となることに
対応する。
表 2-22
製品
価格転嫁シナリオ2
転嫁率
負担額
[円/kL-ナフサ]
0
439
0
0
製品価格
上昇率
29.9%
0%
0%
―
利益減少率
(売上比)
0%
12.9%
0%
―
石化・樹脂メーカー PET 樹脂
100%
成型メーカー
ペットボトル
0%
飲料産業
飲料
0%
消費者
―
―
(利益減少率(売上比)の計算式)
ペットボトル成型メーカー利益減少率(売上比)
=製品 1 単位あたり原料費上昇額÷製品価格
=(6.44kg・PET 樹脂×227.8 円/kg-PET 樹脂×29.9%)÷(15 円/個ペットボトル×228 個)
=12.9%
上記の利益減少率を成型メーカーが吸収することは現実的に困難と予想されるため、以
下では成型メーカーが価格転嫁を 50%~90%行ったケースの感度分析を行った。結果は表
2-23 のとおりである。50%の価格転嫁ができれば、利益減少率は 6%となる。
48
表 2-23
価格転嫁シナリオ2(感度分析)
製品
成型メーカー
転嫁率
ペットボトル
0%
50%
60%
70%
80%
90%
負担額
[円/kL-ナフサ]
439
220
176
132
88
44
製品価格
上昇率
0%
6.4%
7.7%
9.0%
10.3%
11.6%
利益減少率
(売上比)
12.9%
6.05%
4.78%
3.54%
2.33%
1.15%
<価格転嫁シナリオ3>
ここではシナリオ1とシナリオ2の中間的シナリオとして、石化メーカーは 60%、成型
メーカーは 60%、飲料業界は 0%をそれぞれ転嫁するケースを想定する。
PET 樹脂は 18.0%、ペットボトルは 4.6%の価格上昇が生じる。これは 28.3g の 500ml
ボトル(単価 15 円)あたり 0.7 円に相当する。また、各段階での価格吸収により、各製品
の売上比として、PET 樹脂 10.2%、ペットボトル 3.0%、飲料 0.58%の利益が減少する。
経済産業省による「平成 22 年企業活動基本調査確報-平成 21 年度実績-」34の付表 5
によると、売上高営業利益率の平均は、化学工業(石化・樹脂メーカーが該当)で 6.8%、プ
ラスチック製品製造業(加工・成型メーカーが該当)で 3.1%である。
シナリオ 3 においては上述の通り、PET 樹脂メーカーで 10.2%、ペットボトルメーカー
で 3.0%の利益減少と試算され、事業が赤字化するか、利益がほぼゼロとなるレベルと推察
される。従って、設定よりも価格転嫁率を高めるか、あるいは安価原料への置換を進める
などの対策が必要となる。
図 2-16
製品
価格転嫁シナリオ3
転嫁率
負担額
[円/kL-ナフサ]
176
105
158
0
製品価格
上昇率
18.0%
4.6%
0%
―
石化・樹脂メーカー PET 樹脂
60%
成型メーカー
ペットボトル
60%
飲料産業
飲料
0%
消費者
―
―
(負担額の計算式)
石化・樹脂メーカー負担額=439 円/kL-ナフサ×(1-60%)=176 円/kL-ナフサ
成型メーカー負担額=439 円/kL-ナフサ×60%×(1-60%)=105 円/kL-ナフサ
飲料産業負担額=439 円/kL-ナフサ×60%×60%=158 円/kL-ナフサ
(製品価格上昇率の計算式)
34
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/result-2/h22kakuho.html
49
利益減少率
(売上比)
10.2%
3.0%
0.58%
―
PET 樹脂価格上昇率
=(439 円/kL-ナフサ)×60%÷(6.44kg-PET 樹脂/kL-ナフサ×227.8 円/kg-PET 樹脂)
=18.0%
ペットボトル価格上昇率
=(439 円/kL-ナフサ)×60%×60%
÷(228 個-ペットボトル/kL-ナフサ×15 円/個-ペットボトル)
=4.6%
(利益減少率(売上比)の計算式)
PET 樹脂メーカー利益減少率(売上比)
=(439 円/kL-ナフサ)×(1-60%)
÷(6.44kg・PET 樹脂/kL-ナフサ×227.8 円/kg-ポリエチレン樹脂×(100%+18.0%))
=10.2%
ペットボトルメーカー利益減少率(売上比)
=(439 円/kL-ナフサ)×60%×(1-60%)
÷(228 個-ペットボトル/kL-ナフサ×15 円/個-ペットボトル×(100%+4.6%))
=3.0%
飲料メーカー利益減少率(売上比)
=(439 円/kL-ナフサ)×60%×60%
÷(228 杯/kL-ナフサ×120 円/杯-飲料)
=0.58%
50
2.3.3
サプライチェーン企業への影響分析
以上では、企業の価格転嫁行動による、ペットボトルサプライチェーン中の各製品への
価格変化を分析した。
二次的には、価格転嫁行動の影響として企業の財務状況の変化も生じ得る。例えば価格
上昇を受けて顧客企業が海外製品や代替製品への切り替えを行えば売上減少の可能性があ
り、一方で価格転嫁をしなければ利益減少となる。これにより、ある段階での国内生産が
失われれば、その影響は各化学製品のサプライチェーンの上流に波及する。
ここでは、これらを念頭に原料用途分への課税がもたらす、サプライチェーンへの企業
への影響を分析する。
(1) 影響発現のシナリオ設定
減免撤廃による容器用 PET 樹脂価格への影響は、金額 68 円/kg(値上り率 29.9%)とい
う大きなものであった。また、この原料価格上昇の飲料製品への影響は、500ml 炭酸飲料
の場合に 1.9 円と見積もられた(シナリオ1)
。これは市販価格を 120 円とした場合 1.6%
のコスト増に相当する。
2010 年度の飲料業界業績は好調であり、営業利益率として 4~5%程度の数字をあげてい
る。これら飲料メーカーにとって、容器用 PET 樹脂価格の値上がりによるコスト増はかな
り大きなインパクトがあると言わざるを得ず、サプライヤーへの対策検討要請、並びに自
社での対策検討がなされると思われる。
サプライヤーへの検討要請に対しては具体的に、下図のシナリオが設定されるものと考
えられる。つまり、国内メーカーが海外への生産シフトを進める可能性(シナリオ1)と、
成型メーカーが台湾・韓国などの海外樹脂メーカーからの購買量を増やす可能性(シナリ
オ2)がある。
原油10kL
石油メーカー
石油石炭税 2,040円/kl
揮発油税 53,800円/kl
ナフサ
日系 海外製造拠点
石化・樹脂メーカー
石化原料、PET樹脂
価格上昇
シナリオ1:日本国内製造から海外拠点での生産へのシフト推進
成型メーカー
ペットボトル
海外樹脂メーカー
価格上昇
シナリオ2:海外樹脂メーカーの参入による国内樹脂メーカーの衰退
飲料業界・外食産業
飲料
消費者
図 2-17
影響発現のシナリオ
51
また、飲料メーカー自社での対策としてペットボトル内製化の推進が考えられる。この
場合にも原料樹脂を、国内メーカーの国内製造品として調達するか、あるいは国内外メー
カーの海外製造品として調達するかとの議論になる。
(2) 影響評価
シナリオ1、シナリオ2は突き詰めると“国内製造品から海外品へのシフト”である。
そこでまず、現状の国内品と海外品の関係を整理した。
容器用 PET 樹脂の需要量は PET ボトル推進協議会から報告されており、ここ数年 60 万
トンで横ばいである。容器用 PET 樹脂の生産量は経済産業省から公表されており、これら
数値から輸入により賄われた分が計算される(下図)
。2003 年頃には 20 万トン弱であった
輸入品が、現在は 40 万トンに達する事がわかる。
700,000
容器用PET樹脂需要量(トン)
600,000
500,000
400,000
輸入量
国内生産量
300,000
200,000
100,000
0
2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
図 2-18
容器用 PET 樹脂の需要量/国内生産量/輸入量推移
需要量:PET ボトルリサイクル推進協議会まとめ
国内生産量:経済産業省化学工業統計年報
輸入量:上記[需要量]から[国内生産量]を減じて算出した
輸入品が増える原因としては国内品と海外品の価格差が考えられる。容器用 PET 樹脂と
しての価格は調査が困難なため、繊維向け等他の用途も合計したトータルの PET 樹脂価格
を調査し以下に比較する。これら価格は経済産業省ならびに財務省が公表する統計資料か
ら算出できる。
これらデータによれば、もともと国内品と海外品で比較的大きな価格差があったことが
わかる。
52
価格差(円/kg)
2010, 4Q
2010, 3Q
2010, 2Q
2010, 1Q
2009, 4Q
2009, 3Q
2009, 2Q
2009, 1Q
0
2008, 4Q
0
2008, 3Q
50
2008, 2Q
50
2008, 1Q
100
2007, 4Q
100
2007, 3Q
150
2007, 2Q
150
2006
200
2007, 1Q
200
2005
250
2004
250
2003
単価(円/kg)
価格差
PET樹脂(全体)の国内出荷価格(*1)
PET樹脂(全体)の輸入単価(*2)
図 2-19 PET 樹脂(全体)の国内出荷価格と輸入品単価の比較
国内出荷価格:経済産業省化学工業統計年報をもとに算出
輸入単価:財務省通関統計をもとに算出
(注:容器用 PET 樹脂は食品関連として、グラフ中の単価よりも高い
価格で取引される)
(3) サプライチェーンへの影響金額
上記のように、先のシナリオ1、シナリオ2ともに十分に発現しうるものであると言え
る。その際、容器用 PET 樹脂の 2010 年国内生産出荷分が海外生産に全てシフトした場合
の各サプライチェーンへの影響金額は以下のように推計される。合計金額は約 610 億円と
なった。
表 2-24
石油メーカー
容器用 PET 樹脂の海外生産移転による影響金額
影響金額
備 考
133 億円
ナフサ 1kl から生産される容器用 PET 樹脂 6.44kg、必要なナ
フサ数量は 208,578/0.00644=32.4 百万 kL、ナフサ価額のう
ち容器用 PET 樹脂となるのは 0.787%、ナフサ単価 52,000 円
/kl
石化・樹脂メーカー
475 億円
経済産業省化学工業統計 2010 年国内生産 208,578 トン、出荷
平均単価 228 円/kg
(4) まとめ
以上の検討結果により、各サプライチェーンに生じ得る影響を下記にまとめる。
<国内容器用 PET 樹脂メーカー>
・ 減免措置撤廃により発生する国内製造樹脂コストアップは製品価格の 30%に達する。
53
・ 川下への価格転嫁が必須となり、海外競合品に置換されるリスクがある。
・ 置換のリスクを抑える手段として、海外生産への移行が進む。
・ MCT ペットレジン(三井化学/帝人)など現時点では国内販売に限った連携を、海外
を含めた連携に拡大する検討が行われる。
<成型メーカーへの影響>
・ 減免措置撤廃により発生する国内製造樹脂コストアップは、売上金額の 5~13%に相当
する。飲料メーカーに価格転嫁しなければビジネスは赤字になる。
・ 対策として、より安価な減量樹脂に置換する検討を行う必要がある。日系企業には海外
生産によるコストダウンを要請する。また安価な海外競合品を探索し置換検討が行われ
る。
・ ペットボトルの軽量化技術は、コストダウンに有効な手段であり、省エネルギー、省資
源といった観点からも、飲料メーカーと連携して進捗する。
<飲料メーカーへの影響>
・ 減免措置撤廃により発生するペットボトルのコストアップは、
28.3g 耐圧ボトルでは 1.9
円、21.5g 無菌ボトルでは 1.5 円である。飲料の価格が 120 円の場合、1.3~1.6%の売
上減に相当するので、利益減へのインパクトは極めて大きい。
・ 樹脂メーカーおよび成型メーカーに対して、安価樹脂への置換を働きかけると考えられ
る。
54
2.4 分析結果3:レジ袋
2.4.1
レジ袋とは
レジ袋は、スーパーマーケットやコンビニなどで商品を持ち帰るための袋である。袋の
上部に「封止弁」
(縛って袋を閉じる部分)が付いており、高密度ポリエチレン(HDPE)製
である 35。2010 年における日本ポリオレフィンフィルム工業組合加盟企業のHDPEフィル
ムの出荷額は、2010 年に 206,628 トン 36(うちレジ袋 100,071 トン)であった。
なお、HDPE 製の袋は 2010 年に 480,000 トン輸入されている。これはレジ袋の他、ご
み袋や産業用袋などの合計の数量であるが、レジ袋がかなりの量を占めると考えられる。
従ってレジ袋の場合には、国内品よりも輸入品の比率がかなり高い。
サイズ・形状・用途により単価が異なるが、一般にスーパーマーケットで使われる形状
で、340mm×430mm(約 2.8g)の大きさのエコノミータイプのものは、1.2 円程度である。
図 2-20
レジ袋
出典:福助工業株式会社資料
2.4.2
製品価格への影響分析
(1) 製品のサプライチェーン
以下では、レジ袋のサプライチェーンをとして下図を想定し、分析を行う。
環境省委託調査「平成 20 年度 資源循環推進調査委託費容器包装リサイクル推進調査
(容器包装使用合理化調査)調査報告書」
36 日本ポリオレフィンフィルム協会
35
55
課税
石油メーカー:石油精製・ナフサ製造
ナフサ価格変化(国
産・輸入とも)
石化メーカー:エチレン製造
国内:東燃化学、三井化学、
三菱化学、住友化学など
国産エチレン価
格変化
樹脂メーカー:高密度ポリエチレン製造
国内:日本ポリエチレン、プ
ライムポリマーなど
国産ポリエチレ
ン樹脂価格変化
加工メーカー:フィルム製造~製袋
代替輸入製品へ
の切り替え
国内:福助工業、スーパー
バッグ、大倉工業など
国産レジ袋価格
変化
代替輸入製品へ
の切り替え
海外:各社海外工場、大
韓油化、福建煉油など
海外:
需要家:食品等小売業
一般消費者
図 2-21
レジ袋のサプライチェーン
<レジ袋>
レジ袋の代表的なメーカーは、スーパーバッグ、福助工業、中川製袋工業である。シェ
アの合計は国内販売量全体の 3 割程度で、その他にも多数の中小メーカーが存在する。例
えば、日本ポリオレフィンフィルム協会加盟企業で、レジ袋など手提げ袋が主力製品であ
るとしている企業は 30 社以上ある。
ポリエチレン樹脂からレジ袋製造においては、ポリエチレンフィルムの製造工程と、袋
への加工である製袋工程とがある。大手メーカーでは自社もしくは子会社でフィルム製造
と製袋を行っているメーカーが多い。中小ではフィルム原反は他社のものを使用し、製袋
のみを行っているメーカーもある。
福助工業,
48,800
その他,
172,000
スーパー
バッグ,
40,300
大倉工業,
28,000
中川製
袋加工,
18,000
ザ・
ネクスタ, パック,
18,000 22,400
ジェイフィ
ルム,
23,500
出典:日本経済綜合研究センター「包装資材シェア辞典 2008 年版」2009 年 3 月
図 2-22
ポリエチレン製袋のシェア
注:大倉工業はごみ袋の大手。
56
表 2-25 には、ポリエチレン製の袋類・フィルムの輸出入実績を示す。ポリエチレン製の
袋類が 2010 年の実績で 48 万トン輸入されており、このうちのかなりの部分をレジ袋が占
めると思われる。
業界推計によれば、国内のレジ袋市場規模約 35 万トンに対し、日系メーカーの生産量(国
産、海外産含む)は約 10 万トンである。少なくとも 25 万トンは、海外品が資料されてい
る。
表 2-25 ポリエチレン製の袋類およびフィルム類の 2010 年における輸出・輸入実績
2010 年輸入
2010 年輸出
ポリエチレン製の袋類(*1)
480,067 トン
5,474 トン
ポリエチレン製のフィルム類(*2)
149,307 トン
104,331 トン
出典:財務省通関統計、 (*1): 3923,21-000、(*2): 3920.10-000
<ポリエチレン樹脂>
近年、中国、東南アジアや中近東にてエチレンセンターの新設や増設が相次いでおり、
日本のエチレンおよびエチレン関連製品のメーカーは厳しいコスト競争にさらされている。
そのような中でポリエチレンメーカーの統合が進められ、1994 年の 14 社から現在は 8 社
となっている 37。2003 年には三菱化学、昭和電工、JX日鉱日石エネルギーが連携した日本
ポリエチレン株式会社が設立された。同社はポリエチレン(PE)事業に特化した国内最大
手で、三菱化学の鹿島工場・水島工場、昭和電工の大分工場内などに生産拠点を有する。
三井化学と出光興産は 2005 年に、プライムポリマー株式会社を設立した。同社はポリエ
チレン(PE)の他にポリプロピレン(PP)も事業とする。
37
石油化学工業協会 http://www.jpca.or.jp/62ability/2p_olefin.htm
57
図 2-23
ポリエチレン(PE)事業の統合状況
(注: 図中 PP 事業はポリプロピレン事業の略)
ポリエチレン樹脂はその製造方法と物性によって、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密
度ポリエチレン(LDPE)
、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)などの区分があるが、本報
告書で対象とするレジ袋は、高密度ポリエチレン(HDPE)から製造される。
表 2-26 には、HDPE(1次製品)の 2010 年需給バランスを示す。国内生産量は 102 万
トンである。現状日本はポリエチレンについての輸出国であり、19 万トンの輸出超過にな
っている。
表 2-26
HDPE の日本における 2010 年の需給バランス
1,015,260 トン
国内生産
輸出
237,597 トン
輸入
47,825 トン
純輸入
-189,772 トン
825,488 トン
内需
出典:経済産業省化学工業統計年報
財務省通関統計(3901.20-000、3901.20-010、3901.20-090)
上表の内需 82 万トン強のうち、フィルム用途に出荷されたのが、少なくとも 206,628 ト
ン 38である(うちレジ袋向けが 100,071 トン)。日本におけるHDPE生産量は 1,051,000 ト
ン 39であるから、全体の約 2 割がフィルムとして出荷され、約 1 割がレジ袋となっている。
38
39
日本ポリオレフィンフィルム協会
経済産業省化学工業統計年報
58
(2) 価格転嫁シナリオ
<転嫁対象額>
ナフサへの免税措置が廃止されるとすれば、現在 52,000 円/kL のナフサが、石油石炭税
2,040 円/kL・揮発油税 53,800 円/kL の合計 55,840 円/kL 価格上昇することになる。
トラベラーリッドの項で記載したとおり、ナフサへの課税により、これら石油化学品の
価格が、一律に 29.9%上昇するものとする。
レジ袋サプライチェーンにおいては、ポリエチレン樹脂の価格上昇が 29.9%であるとし
て、下流への影響を推計する。55,840 円/kLのうち約 2.3% 40の 1,289 円/kLが、エチレンに
転嫁されることに相当する。
<価格転嫁の状況>
ポリエチレン価格は、ナフサ価格増減に応じた値上げが打ち出されており、その幅は 10
~20 円/kg 程度である。2010 年の高密度ポリエチレン樹脂の単価が平均 140 円/kg 程度で
あるから、改定幅は大きい。
表 2-27
プレスリリース
値上げ時期
(A)前々期ナフサ(確報又は速報) [円/kl]
(B)前期ナフサ(見込み) [円/kl]
(C)値上げ時期ナフサ(見込み) [円/kl]
ポリエチレン値上げ幅、打出し
ナフサ値上げ幅[(C)-(B)]
近年のポリエチレン価格改定状況
2009年6月 2009年9月 2010年2月 2010年5月 2010年12月 2011年3月
2009年7月 2009年10月 2010年3月 2010年6月 2011年1月 2011年4月
27,000
33,300
42,700
45,100
33,000
40,000
42,500
47,700
45,000
52,000
50,000
40,000
45,000
50,000
50,000
60,000
~53,000
+20円以上 +10円以上 +10円以上 +10円以上 +15円以上 +20円以上
2,300
7,000
5,000
7,500
5,000
8,000
~5,300
出典:日本ポリエチレン株式会社プレスリリースより作成
40
石油化学工業協会「石油化学工業の現状」2011 年による、石化メーカーの生産額
6,236,743 百万円と、経済産業省化学工業統計による、容器用 PET 樹脂の販売金額 47,998
百万円から計算した。
59
<価格転嫁シナリオ>
以上を踏まえ、ポリエチレン以下のサプライチェーンにおける、価格転嫁シナリオを以
下のとおり想定する。
表 2-28
価格転嫁シナリオ
転 嫁
シナリオ 1
備 考
全業界が 100%転嫁(全額を一般消費者
が負担)
シナリオ 2
加工メーカーが 100%吸収
加工メーカーの価格転嫁率につ
いて感度分析も実施
シナリオ 3
石化・樹脂メーカーは 60%転嫁、加工メ 脚注を参照
ーカーと成型メーカーもそれぞれ 60%
転嫁
注:シナリオ 3 については下記考察のもとに転嫁率の設定を行っている。
・ 石化・樹脂メーカーならびに成型メーカーについては、表 2-7 脚注に説明した通り、第 3
章にて後述のアンケート調査を踏まえて、転嫁率を 60%と設定した。
・ 加工メーカー(ポリエチレンフィルム)について、海外安価品との価格競争はあるものの、
薄肉化技術による技術的差別化要因(2.4.3 項に後述)も勘案して、60%と設定した。
(3) 製品のコスト構造の把握
原油からレジ袋までの物量フローと、中間・最終製品価格を下図に示す。
石化メーカーは、ナフサの分解精製によりエチレンとその他各種石油化学品を同時に生
産する。エチレンはポリエチレンに重合される。2010 年のナフサの分解精製用消費量は
33,451 千kLであり、高密度ポリエチレンの生産量は 101.5 万トンである 41から、ナフサ 1kL
あたりでは 30.4kgである。
加工メーカーは、ポリエチレン樹脂からポリエチレンフィルムを生産する。この際の歩
留りを 95%とすると、ポリエチレン樹脂 30.4kg から生産されるポリエチレンフィルムは
28.8kg である。
成型メーカーは、ポリエチレンフィルムからレジ袋を生産する。この際の歩留りを 90%
とし、ポリエチレンフィルム 28.8kg から生産されるレジ袋は、1 枚あたり 2.8g とすれば、
約 9,300 枚である。
以上より、ポリスチレン樹脂 30.4kg から、レジ袋約 9,300 枚が生産される。
41
石油化学工業協会「石油化学工業の現状」2011 年
60
図 2-24
表 2-29
レジ袋の物量フロー
レジ袋の物量フロー・価格(ナフサ 1kL あたり)
入力
物質
量
石化・樹脂メーカー 石油化学用ナフサ
出力
単位
1 kL
単価
金額[円]
52,000
物質
52,000 高密度ポリエチレン樹脂
量
単位
単価
金額[円]
0.0304 t
141,810
0.0288 t
212,529
6,128
9,268 枚
1.2
11,121
800 7,414,233
加工メーカー
高密度ポリエチレン樹脂
0.0304 t
141,810
4,304 ポリエチレンフィルム
成型メーカー
ポリエチレンフィルム
0.0288 t
212,529
6,128 レジ袋
小売
レジ袋
9,268 枚
1.2
11,121 販売
9,268 回
消費者
販売
9,268 回
800 7,414,233 消費
9,268 回
0
4,304
0
注:高密度ポリエチレン樹脂単価は石油化学工業協会「石油化学工業の現状」2011 年記載の数
量 1,015,260 トン、価額 143,974 百万円から算出した。ポリエチレンフィルム単価は財務省貿
易統計 2010 年 CIF 価格を引用した。レジ袋単価は 1.2 円と仮定した。
表 2-30
レジ袋の物量フロー・価格(減免撤廃後ナフサ 1kL あたり)
入力
物質
石化・樹脂メーカー 石油化学用ナフサ
量
出力
単位
1 kL
単価
金額[円]
53,289
物質
53,289 高密度ポリエチレン樹脂
加工メーカー
高密度ポリエチレン樹脂
0.0304 t
184,282
5,593 ポリエチレンフィルム
成型メーカー
ポリエチレンフィルム
0.0288 t
257,236
7,417 レジ袋
小売
レジ袋
9,268 枚
消費者
販売
9,268 回
1.34
12,410 販売
800.0 7,414,233
注:ナフサの価格変化は、ポリエチレン樹脂への転嫁分のみを示す。
61
量
単位
単価
金額[円]
0.0304 t
184,282
0.0288 t
257,236
7,417
1.34
12,410
9,268 枚
9,268 回
5,593
800.0 7,414,233
(4) 製品価格の変化
各価格転嫁シナリオに対する製品価格の変化を示す。
<価格転嫁シナリオ 1>
ナフサからポリエチレン樹脂へ転嫁される 1,289 円/kL の全額を、消費者が負担する。ポ
リエチレン樹脂は 29.9%(42 円/kg)
、ポリエチレンフィルムは 21.0%(45 円/kg)上昇す
る。レジ袋は 11.6%(0.14 円/枚)価格上昇する。
表 2-31
製品
価格転嫁シナリオ1
転嫁率
負担額
[円/kL-ナフサ]
0
製品価格
上昇率
29.9%
利益減少率
(売上比)
0%
ポリエチレン樹脂
100%
ポリエチレンフィ
加工メーカー
100%
0
21.0%
ルム
成型メーカー
レジ袋
100%
0
11.6%
消費者
―
―
1,289
―
(製品価格上昇率の計算式)
ポリエチレン樹脂価格上昇率
=製品 1 単位あたり負担額÷製品単価
=(1,289 円/kL-ナフサ÷(30.4kg-ポリエチレン樹脂/1kL-ナフサ)
)
÷(141.8 円/kg-ポリエチレン樹脂)
=29.9%
ポリエチレンフィルム価格上昇率
=製品 1 単位あたり負担額÷製品単価
=(1,289 円/kL-ナフサ÷(28.8kg-ポリエチレンフィルム/1kL-ナフサ)
)
÷(212.5 円/kg-ポリエチレンフィルム)
=21.0%
レジ袋価格上昇率
=製品 1 単位あたり負担額÷製品単価
=(1,289 円/kL-ナフサ÷(9,268 枚・レジ袋/1kL-ナフサ)
)÷(1.2 円/枚-レジ袋)
=11.6%
石化・樹脂
0%
0%
―
<価格転嫁シナリオ2>
ナフサから転嫁される 1,289 円/kL の全額を、加工メーカーが負担する。原料であるポリ
エチレン樹脂 29.9%の価格上昇により、ポリエチレンフィルムは売上比 21.0%の利益が減
少する。これは、ポリエチレンフィルム製造の利益率が 10%であるとすれば、逆に 10%強
の赤字化に相当する。
62
表 2-32
製品
価格転嫁シナリオ2
転嫁率
負担額
[円/kL-ナフサ]
0
製品価格
上昇率
29.9%
利益減少率
(売上比)
0%
0%
21.0%
0%
―
0%
―
ポリエチレン樹脂
100%
ポリエチレンフィ
加工メーカー
0%
1,289
ルム
成型メーカー
レジ袋
―
0
消費者
―
―
0
(利益減少率(売上比)の計算式)
ポリエチレンフィルムメーカー利益減少率(売上比)
=製品 1 単位あたり原料費上昇額÷製品価格
=(30.4kg・ポリエチレン樹脂×141.8 円/kg-ポリエチレン樹脂×29.9%)
÷(28.8kg・ポリエチレンフィルム×212.5 円/kg・ポリエチレンフィルム)
=21.0%
石化・樹脂
加工メーカーが 50%~100%価格転嫁したケースの感度分析を行った結果は下表 2-33 の
とおりである。
表 2-34
製品
加工メーカー
ポリエチレン
価格転嫁シナリオ2(感度分析)
転嫁率
0%
50%
60%
70%
80%
90%
負担額
[円/kL-ナフサ]
1,289
645
516
387
258
129
製品価格
上昇率
0%
10.5%
12.6%
14.7%
16.8%
18.9%
利益減少率
(売上比)
21.0%
9.52%
7.47%
5.50%
3.60%
1.77%
<価格転嫁シナリオ3>
ここではシナリオ1とシナリオ2の中間的シナリオとして、石化・樹脂メーカーは 60%、
加工メーカー、成型メーカーともに 60%をそれぞれ転嫁するケースを想定する。
ポリエチレン樹脂は 18.0%、ポリエチレンフィルムは 7.6%、レジ袋は 2.5%の価格上昇
を生じる。また、各段階での価格吸収により、各製品の売上比として、ポリエチレン樹脂
10.2%、ポリエチレンフィルム 4.7%、レジ袋は 1.6%の利益が減少する。
経済産業省による「平成 22 年企業活動基本調査確報-平成 21 年度実績-」 42の付表 5
によると、売上高営業利益率の平均は、化学工業(石化・樹脂メーカーが該当)で 6.8%、プ
ラスチック製品製造業(加工・成型メーカーが該当)で 3.1%である。
シナリオ 3 においては上述の通り、ポリエチレン樹脂メーカーで 10.2%、ポリエチレン
42
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/result-2/h22kakuho.html
63
フィルムメーカーで 4.7%の利益減少と試算され、事業が赤字化するレベルと推察される。
従って、設定よりも価格転嫁率を高めるか、あるいは安価原料への置換を進めるなどの対
策が必要となる。
表 2-35
製品
価格転嫁シナリオ3
転嫁率
負担額
[円/kL-ナフサ]
516
製品価格
上昇率
18.0%
利益減少率
(売上比)
10.2%
ポリエチレン樹脂
60%
ポリエチレンフィ
加工メーカー
60%
309
7.6%
4.7%
ルム
成型メーカー
レジ袋
60%
186
2.5%
1.6%
消費者
―
―
278
―
―
(負担額の計算式)
石化・樹脂メーカー負担額=1,289 円/kL-ナフサ×(1-60%)=516 円/kL-ナフサ
加工メーカー負担額=1,289 円/kL-ナフサ×60%×(1-60%)=309 円/kL-ナフサ
成型メーカー負担額=1,289 円/kL-ナフサ×60%×60%×(1-60%)=186 円/kL-ナフサ
消費者負担額=1,289 円/kL-ナフサ×60%×60%×60%=278 円/kL-ナフサ
石化・樹脂
(製品価格上昇率の計算式)
ポリエチレン樹脂価格上昇率
=(1,289 円/kL-ナフサ)×60%
÷(30.4kg-ポリエチレン樹脂/kL-ナフサ×141.8 円/kg-ポリエチレン樹脂)
=18.0%
ポリエチレン(PE)フィルム価格上昇率
=(1,289 円/kL-ナフサ)×60%×60%
÷(28.8kg-PE フィルム/kL-ナフサ×212.5 円/kg-PE フィルム)
=7.6%
レジ袋価格上昇率
=(1,289 円/kL-ナフサ)×60%×60%×60%
÷(9,268 枚・レジ袋/kL-ナフサ×1.2 円/枚-レジ袋)
=2.5%
(利益減少率(売上比)の計算式)
ポリエチレン樹脂メーカー利益減少率(売上比)
=(1,289 円/kL-ナフサ)×(1-60%)
÷(30.4kg・ポリエチレン樹脂/kL-ナフサ×141.8 円/kg-ポリエチレン樹脂×(100%+18.0%)
=10.2%
ポリエチレン(PE)フィルムメーカー利益減少率(売上比)
=(1,289 円/kL-ナフサ)×60%×(1-60%)
÷(28.8kg・PE フィルム/kL-ナフサ×212.5 円/kg・PE フィルム×(100%+7.6%))
=4.7%
レジ袋メーカー利益減少率(売上比)
=(1,289 円/kL-ナフサ)×60%×60%×(1-60%)
÷(9,268 枚・レジ袋/kL-ナフサ×1.2 円/枚-レジ袋×(100%+2.5%))
64
=1.6%
2.4.3
サプライチェーン企業への影響分析
以上では、企業の価格転嫁行動による、レジ袋サプライチェーン中の各製品への価格変
化を分析した。
二次的には、価格転嫁行動の影響として企業の財務状況の変化も生じ得る。例えば価格
上昇を受けて顧客企業が海外製品や代替製品への切り替えを行えば売上減少の可能性があ
り、一方で価格転嫁をしなければ利益減少となる。これにより、ある段階での国内生産が
失われれば、その影響は各化学製品のサプライチェーンの上流に波及する。
ここでは、これらを念頭に原料用途分への課税がもたらす、サプライチェーンへの企業
への影響を分析する。
(1) 影響発現のシナリオ設定
減免撤廃によるポリエチレン樹脂価格への影響は、金額 42 円/kg(値上り率 22.9%)と
推計された。また、この原料価格上昇がレジ袋に全額転嫁された場合は、レジ袋あたり 0.14
円(11.6%)の価格上昇が見込まれた。
ポリエチレン原料のナフサの値動きに応じて、
ポリエチレン樹脂メーカーは 10~20 円/kg
程度の幅で価格改定を打ち出している。これに比して 42 円/kg という価格改定は非常に大
きなものではない。また、ポリスチレン樹脂の石化・樹脂メーカーの規模に比較すれば、
ポリエチレンフィルムの製造・レジ袋の加工を行うメーカーには中小企業が多く、この段
階での転嫁は進むものと考えられる。
ここでは、フィルム製造・レジ袋加工メーカーに着目して、その価格吸収の可能性(シ
ナリオ1)と、海外樹脂メーカーの参入可能性(シナリオ2)について、分析する。
図 2-25
影響発現のシナリオ
65
(2) 影響評価
シナリオ1は、国内加工・成型メーカーによる価格吸収を想定したシナリオである。
レジ袋は過去から安価な輸入品の脅威にさらされており、日系企業も早くからアジア地
区に生産拠点を設け、競争力の維持を行ってきた。例えば、スーパーバッグ株式会社は 1991
年台湾、1992 年タイ、1994 年中国(上海)に子会社を設立している。福助工業株式会社は
1994 年中国(天津)
、1996 年インドネシア、2004 年中国(上海)に子会社を設立している。
2010 年の HDPE 製袋の輸入量は 480,000 トンであり、
主な輸入先は中国 268,000 トン、
タイ 66,000 トン、インドネシア 63,000 トンとなっている。この中には日系企業が海外拠
点で製造し国内に輸入する分がかなり含まれると考えられる。
このように過去においても、価格を吸収してでもレジ袋生産を国内に留める動きは業界
には無く、競争力維持のために海外生産移転が積極的に行われている。
シナリオ2は、海外レジ袋メーカーの参入を想定するシナリオである。
レジ袋に限らず、海外の安価なフィルムや袋などの製品に対して競争力を維持するため、
日本国内メーカーは薄肉化を可能とする技術開発を続けている43 44。この結果、日系メーカ
ーのレジ袋は、薄さ、突き刺し強度、引っ張りへの強さ、形状、袋の開きやすさ、品質の
安定性の点において品質が優れているであるとも評価されている 45。
このため、単純に海外メーカーの製品への切り替えが起こるとは考えにくい。
ただ、日系メーカーも、上述のとおり海外に生産拠点を保有しているため、国内品のみ
に 1 割程度の価格上昇が生じると、国生産拠点の海外流出が加速する可能性がある。
(3) サプライチェーンへの影響金額
レジ袋の 2010 年における日本ポリオレフィンフィルム工業組合加盟企業出荷分
(100,071 トン)が海外生産にシフトした場合の各サプライチェーンへの影響金額は以下の
ようになる。影響金額の合計は約 880 億円となった。
表 2-36
レジ袋の海外生産移転による影響金額
影響金額
石油メーカー
46 億円
備 考
ナ フサ 1kl か ら 生産 され る レジ 袋向 けポ リエ チレ ン 樹脂
30.4kg、必要なナフサ量は 116,938/0.0304=3.85 百万 kL、ナ
フサ価額のうちレジ袋向けポリエチレン樹脂となるのは
2.31%、ナフサ単価 52,000 円/kl。
43
44
45
イー・ベーシック株式会社添加剤 http://www.e-basic.co.jp/info.html
出光 ULU 樹脂 http://fineeast.idemitsu-rh.co.jp/pc/pla/cost.html
日本経済新聞「レジ袋で国内メーカーシェアが上がる理由」2010 年 8 月 12 日
66
石化・樹脂メーカー
166 億円
ポリエチレン樹脂単価 142 円/kg(石油化学工業連盟“石油化
学工業の現状 2011”掲載の数量と価額から算出)
。ポリエチレ
ンフィルムに加工する際の収率を 95%として、国内生産のレ
ジ袋向けポリエチレン樹脂は 111,091/0.95=116,938 トン。
加工メーカー
236 億円
ポリエチレンフィルム単価 213 円/kg(財務省通関統計 2010
年、HS Code 3920.10-000。レジ袋に加工する際の収率を 90%
として、国内生産のレジ袋向けポリエチレンフィルムは
100,071/0.9=111,190 トン。
成型メーカー
429 億円
2010 年における日本ポリオレフィンフィルム工業組合加盟企
業の HDPE フィルム、レジ袋向けの出荷量は 100,071 トン。
標準的レジ袋の重さ 2.8g/枚、単価 1.2 円/枚。
(4) まとめ
以上の検討結果により、各サプライチェーンに生じ得る影響を下記にまとめる。
<ポリエチレン樹脂メーカーへの影響>
・ 減免措置撤廃により発生する国内製造コストアップは製品価格の 23%程度である。川下
への価格転嫁が必須となる。
・ 置換のリスクを抑える手段として、海外生産への移行が進むと考えられる。
<加工・成型メーカーへの影響>
・ ポリエチレン樹脂の国内品を使い続ける場合、減免措置撤廃により発生する国内製造コ
ストアップは製品価格の 7%程度であり、価格吸収は難しい。これによって、レジ袋価
格は 1 割程度上昇し得る。
・ 日系メーカーのレジ袋の品質は高いとされているが、ナフサ課税により、生産の海外流
出が進む可能性がある。
67
第3章 化学関連企業へのアンケート調査
第3章では、国内の化学関連企業に対し、揮発油税、石油石炭税に係る原料用途分へ
の免税・還付措置が廃止された場合に想定される企業活動への影響や企業行動についてア
ンケートを実施した。
3.1 実施方針
アンケート実施の概要は次の通りである。
表 3-1
項
アンケート概要
目
調査対象
概
要
化学関連企業
*業界団体(全日本プラスチック製品工業連合会)
傘下の企業に対し、調査票を発送。
調査数
全日本プラスチック製品工業連合会傘下の正会員
796 社に対し実施。
形式
質問数は選択式を基本として数問程度とし、回答し
易い内容・分量とする。
主な質問内容
・原料ナフサ等に課税された場合の経営・生産への
影響
・原料ナフサ等に課税された場合の原材料調達、生
産場所への影響
・海外から原材料を調達する場合の問題点
・原料ナフサ等に課税され、原材料の購入価格が上
昇した場合、製品への価格転嫁の有無・程度
アンケート・回答票は、関連団体の意見も踏まえ、設計を行った(参考資料に添付)
。
3.2 調査結果
3.2.1
回収状況
アンケート発送は 2011 年 11 月 25 日であり、最終的な回収数は 212 件となった。また、
回答頂いた企業の基本情報は次のとおりである。中小企業が多い業界の特徴を良く表して
いる。
(1) 代表的製品
代表的製品としては、自動車用プラスチック製品(90 社)、電子電気用プラスチック製品
68
(77 社)
、日用品用プラスチック製品(54 社)
、容器用プラスチック製品(47 社)の順に
多い結果となった。
(2) 年間売上高
平均の年間売上高は 23 億円程度となっている。最も多い売上高レンジは 1 億円~20 億
円で過半数を占めており、中小企業の大きな業界構造を表している。
(3) 従業員数
平均従業員数は 145 人であり、最も多いレンジは 20~40 人未満が 41 社(19.3%)であ
り、150 人以上が 37 社(17.5%)で次いでいる。
3.2.2
集計結果
以下に個別質問に対する回答の結果を示す。
(1) 原料ナフサ等に課税された場合の経営・生産への影響
質問:原料のナフサ等に課税された場合、貴社の経営や生産が変化することは想定され
ますか。
(想定される場合、どの程度変化するかもお答え下さい。
)
【あてはまるもの一つに○をつけて下さい。
】
経営面への影響
・ 原料のナフサ等に課税された場合の経営上の影響・課題として、「採算性が悪化する」
と答えた企業が 195 社(92.0%)と9割以上にのぼった。
「変化しない」は 14 社のみで
あった。
・ また、収益減少の程度は 10~20%未満の回答が最も多く 22.6%であり、平均では約3
割となっている。なお、本回答は「原料製品の価格が3割程度上昇する」ことを前提と
して想定している点に注意が必要である。
69
(%)
92.0
6.6
1.4
変化しない
採算悪化
図 3-1
表 3-2
表 3-3
その他
経営への影響
経営への影響(上段:回答数、下段:割合)
調
査
数
変
化
し
な
い
採
算
悪
化
212
100.0
14
6.6
195
92.0
そ
の
他
3
1.4
収益減少の程度(上段:回答数、下段:割合)
5
0
%
2
0
%
未
満
3
0
%
未
満
5
0
%
未
満
44
22.6
21
10.8
1
0
0
%
未
満
20
10.3
~
3
0
%
1
0
%
未
満
15
7.7
~
27
13.8
2
0
%
~
195
100.0
1
0
%
~
1
%
~
調
査
数
1
0
0
%
以
上
9
4.6
無
回
答
59
30.3
生産活動への影響
・ 次に自社工場の生産への影響について、「稼働率が低下する」と答えた企業は 123 社
(58.0%)と過半数を占めており、
「変化しない」は 60 社(28.3%)であった。稼働率
低下は業績の低下に直結するため、過半数の企業では業績低下が予想されることになる。
・ また、稼働率低下の程度は 10~20%未満の回答が最も多く 17.9%であり、平均では
25.3%となっている。
70
(%)
58.0
28.3
8.5
5.2
変化しない
稼働率低下
図 3-2
表 3-4
その他
無 回 答 生産活動への影響
生産活動への影響(上段:回答数、下段:割合)
表 3-5
稼
働
率
低
下
212
100.0
60
28.3
123
58.0
そ
の
他
無
回
答
11
5.2
18
8.5
収益減少の程度(上段:回答数、下段:割合)
1
%
1
0
%
未
満
2
0
%
未
満
3
0
%
未
満
5
0
%
未
満
12
9.8
22
17.9
11
8.9
15
12.2
71
5
0
%
~
3
0
%
~
2
0
%
~
1
0
%
~
123
100.0
変
化
し
な
い
~
調
査
数
調
査
数
1
0
0
%
未
満
17 13.8 -
1
0
0
%
以
上
無
回
答
46
37.4
(2) 原料ナフサ等に課税された場合の原材料調達、生産場所への影響
質問:原料のナフサ等に課税された場合、貴社の原材料調達、生産場所が変化すること
は想定されますか。
(想定される場合、どの程度変化するかもお答え下さい。
)
【あてはまるもの全てに○をつけて下さい】
・ 原料のナフサ等に課税された場合、「原材料の全量、あるいは部分的に海外から調達す
る」と答えた企業は 112 社(52.9%)と過半数に達した。
・ その場合の海外調達の割合は 50~60%未満と 30~40%未満の回答が多く、それぞれ
18.0%、16.0%であり、平均では約4割となっている。原材料調達を海外にシフトした
場合、第 2 章に示したように原材料製造のサプライチェーンに重大な影響を与える可能
性がある。
・ 次に「自社生産設備を全て、あるいは部分的に海外移転する」と答えた企業は 53 社
(25.0%)であった。移転の割合は 50~60%未満が最も多く、7 社であり、平均では約
4割を移転するという回答となっている。
47.2
(%)
28.8
17.5
14.6
7.5
図 3-3
に
海
的
備
を
部
分
設
生
産
原材料調達・生産場所への影響
72
無
回
答
他
そ
の
す
へ
移
転
外
外
へ
移
を
海
産
設
備
自
社
生
を
部
原
材
料
る
る
転
ら
分
的
に
海
外
か
か
ら
外
全
量
を
海
の
原
材
料
す
調
調
達
達
5.7
表 3-6
原材料調達・生産場所への影響(上段:回答数、下段:割合)
調
査
数
ら原
調材
達料
の
全
量
を
海
外
か
か原
ら材
調料
達を
部
分
的
に
海
外
移自
転社
す生
る産
設
備
を
海
外
へ
外生
へ産
移設
転備
すを
る部
分
的
に
海
そ
の
他
無
回
答
12
5.7
100
47.2
16
7.5
37
17.5
61
28.8
31
14.6
212
100.0
表 3-7
7
0
%
8
0
%
9
0
%
2
0
%
未
満
3
0
%
未
満
4
0
%
未
満
5
0
%
未
満
6
0
%
未
満
7
0
%
未
満
8
0
%
未
満
9
0
%
未
満
1
0
0
%
未
満
10
10.0
16
16.0
5
5.0
2
2.0
9
9.0
2
2.0
1
1.0
1
1.0
27
27.0
1
0
0
%
以
上
無
回
答
18
18.0
9
0
%
2
0
%
未
満
3
0
%
未
満
4
0
%
未
満
5
0
%
未
満
6
0
%
未
満
7
0
%
未
満
8
0
%
未
満
9
0
%
未
満
1
0
0
%
未
満
37
100.0
5
13.5
6
16.2
2
5.4
7 18.9 -
73
4 10.8 -
~
8
0
%
~
7
0
%
~
6
0
%
~
5
0
%
~
4
0
%
~
3
0
%
~
2
0
%
~
1
0
%
~
調
査
数
3
8.1
1
0
0
%
以
上
~
~
9
9.0
~
6
0
%
~
5
0
%
~
4
0
%
~
3
0
%
~
2
0
%
~
100
100.0
1
0
%
~
調
査
数
海外調達および海外移転の割合(上表:海外調達、下表:海外移転)
-
-
無
回
答
10
27.0
(3) 海外から原材料を調達する場合の問題点
質問:海外から原材料を調達する場合、どの様な問題点等があるとお考えですか。
【あてはまるもの全てに○をつけて下さい】
・ 前問では、原料ナフサ等に課税された場合、原材料を海外調達にシフトすると答えた企
業が過半数を占めたが、その際に想定される問題点として、供給安定性を挙げた企業が
166 社(78.3%)
、また品質を挙げた企業が 153 社(72.2%)に達した。価格の観点か
ら海外調達へのシフトを余儀なくされるものの、これらの面での不安を抱えていること
が明らかとなった。
78.3
(%)
72.2
22.6
8.5
品質
供給安定性
図 3-4
表 3-8
その他
無 回 答 原材料調達・生産場所への影響
原材料調達・生産場所への影響(上段:回答数、下段:割合)
調
査
数
品
質
供
給
安
定
性
そ
の
他
212
100.0
153
72.2
166
78.3
48
22.6
74
無
回
答
18
8.5
(4) 原料ナフサ等に課税され、原材料の購入価格が上昇した場合、製品への価格転嫁の有
無・程度
質問:原料のナフサ等に課税され、原材料の購入価格が上昇した場合、製品への価格転
嫁を行いますか。また転嫁する場合、御社の製品価格はどの程度上昇すると想定されま
すか。
・ 製品価格への価格転嫁について、
「転嫁する」と答えた企業は 121 社(57.1%)と6割
弱に達し、
「転嫁しない・できない」との回答は 79 件と4割弱となった。
・ その場合の自社製品価格上昇の割合は 10~20%未満の回答が最も多く、39 件(32.2%)
であり、平均では2割強となった。本アンケートでの想定は通常のナフサ価格の変動幅
よりも大きいことから、製品の価格上昇幅も大きくなっていると言える。
・ 一方、
「転嫁しない・できない」理由としては、
「顧客からのコスト削減要求が強い」と
の回答が最も多く 71 社(89.9%)となった。次いで「国内他社との価格競争が激しい」
が 50 社(63.3%)となっている。
・ 転嫁する理由としては、
「利益確保のために止むを得ず」が 102 社(84.3%)と最も多
く、自社努力の限界があることを示している。「価格以外の競争力がある」との回答は
1割弱に留まった。
57.1
(%)
37.3
5.7
転嫁しない、できない
図 3-5
転嫁する
無 回 答 製品への価格転嫁について
75
表 3-9
製品への価格転嫁について(上段:回答数、下段:割合)
転
嫁
す
る
転
嫁
し
な
い
、
調
査
数
無
回
答
で
き
な
い
212
100.0
表 3-10
79
37.3
12
5.7
転嫁しない・できない理由(左表)、転嫁する理由(右表)
調
査
数
求顧
が客
強か
いら
コ
ス
ト
削
減
要
が国
激内
し他
い社
と
の
価
格
競
争
激輸
し入
い品
と
の
価
格
競
争
が
激代
し替
い品
と
の
価
格
競
争
が
そ
の
他
79
100.0
71
89.9
50
63.3
28
35.4
13
16.5
8
10.1
3.2.3
121
57.1
調
査
数
を利
得益
ず確
保
の
た
め
に
や
む
る価
た格
め以
外
の
競
争
力
が
あ
121
100.0
102
84.3
11
9.1
無
回
答
1
1.3
そ
の
他
18
14.9
無
回
答
6
5.0
まとめ
以上の調査結果から下記が示唆される。
・ 原料用ナフサ等に課税した場合のプラスチック製品メーカーへの影響は経営面では採
算悪化・収益減少に直結することが明らかとなった。
・ その理由として、工場稼働率の低下が挙げられ、また、利益確保のためには止むを得ず
自社製品への価格転嫁が6割近くの企業で必要となるという結果となった。
・ 自らの経営維持のためには、海外製品へのシフトや生産拠点を海外に移転せざるを得な
いという回答が大半を占めており、その結果我が国石油化学製品のサプライチェーンが
大きな影響を受けることが予想される(極端な例で言えば、2 章のケーススタディで示
されたように特定製品のサプライチェーンが全て海外製品に代替されてしまうような
状況が想定される)
。
・ このように現行の原料用ナフサ等への減免措置を廃止した場合には、関連業界への甚大
な影響が予想され、制度変更については慎重な検討が必要と言える。
76
【参考資料】
アンケート・回答票
ナフサ免税の状況
1.免税措置(根拠法)
・石油石炭税:租税特別措置法に基づき 2 年間の暫定措置(本則:石油石炭税法)
・揮発油税
2.税
:租税特別措置法に基づき期限なしの特別措置(本則:揮発油税法)
率(ナフサ価格との比較)
ナフサ価格:53,500 円/kl(出所:財務省通関統計 2011 年 1-8 月平均 CIF 価格)に対する税割合)
・石油石炭税率: 2,040 円/kl
←ナフサ価格の4%に相当
・揮発油税率
←ナフサ価格の101%に相当
:53,800 円/kl
*これらの課税額は各種製品価格に転嫁されることが予想されます。
お願い:ナフサ等課税により、貴社が調達しているナフサ由来の原材料価格が仮に 3 割程
度上昇した場合を想定して、以下の太線□内をご回答ください。
1. 原料のナフサ等に課税された場合、貴社の経営や生産が変化することは想定されますか。
(想定される場合、どの程度変化するかもお答え下さい。)
【あてはまるもの一つに○をつけて下さい。】
経 営
生 産
1.変化しない
2.採算悪化
(収益減少の程度:
3.その他(
1.変化しない
1
%程度)
)
1
2.稼働率低下
2
(稼働率低下の程度:
3.その他(
3
2
%程度)
3
)
2. 原料のナフサ等に課税された場合、貴社の原材料調達、生産場所が変化することは
想定されますか。
(想定される場合、どの程度変化するかもお答え下さい。)
【あてはまるもの全てに○をつけて下さい】
1.原材料の全量を海外から調達
1
2.原材料を部分的に海外から調達(海外調達の割合:
2
%程度)
3.自社生産設備を海外へ移転する
3
4.生産設備を部分的に海外へ移転する(海外移転の割合:
5.その他(
4
%程度)
5
)
3. 海外から原材料を調達する場合、どの様な問題点等があるとお考えですか。
【あてはまるもの全てに○をつけて下さい】
1.品 質
1
2.供給安定性
2
3.その他(
)
77
3
4. 原料のナフサ等に課税され、原材料の購入価格が上昇した場合、製品への価格転嫁を行います
か。また転嫁する場合、御社の製品価格はどの程度上昇すると想定されますか。
【あてはまるもの一つに○をつけて下さい】
1.転嫁しない、できない(自社内で価格上昇分を吸収する)
1
2.転嫁する(御社の製品価格が上昇する割合:
2
%程度)
また、上記ご回答の理由をお答え下さい。【あてはまるもの全てに○をつけて下さい】
転嫁しない、できない
転嫁する
1.顧客からコスト削減要求が強い
1
1.利益確保のためにやむを得ず
2.国内他社との価格競争が激しい
2
2.価格以外の競争力があるため
3.輸入品との価格競争が激しい
3
4.代替品との価格競争が激しい
4
5.その他(
)
(具体的に
1
)
3.その他(
)
2
3
5
貴社についてお伺いします。
(1) 貴社の代表的な製品を以下の選択肢から選んで下さい。また、代表的な製品をお書き下さい。
(複数記入可)
1.プラスチック製品(自動車用) 2.プラスチック製品(電子電気用)
3.プラスチック製品(日用品用) 4.プラスチック製品(容器用)
5.その他(
)
代表的製品〔
〕
(2)貴社の売上等について差し支えない範囲で教えて下さい
直近の年間売上高〔
〕万円
従業員数〔
〕人
最後に、本調査票の回答に関するお問い合わせ先につきましてお伺いします。
お問い合わせ先につきまして情報をご提供頂けます場合には、以下へのご記入をお願い致します。
(部署名及びご連絡先電話番号については、本アンケートの回答に関するお問合せ先としてのみ利用さ
せて頂きます。
)
会社名
部署名
上記部署のご連絡先電話番号
ご協力ありがとうございました。
本調査票 1~2 ページを下記番号までFAXにてご送信を宜しくお願いいたします。
送信先FAX番号:XX-XXXX-XXXX
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