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「LAGEOS」SLR データ解析による下里の移動速度の再計算
海洋情報部研究報告 第 45 号 平成 21 年 3 月 28 日 REPORT OF HYDROGRAPHIC AND OCEANOGRAPHIC RESEARCHES No.45 March, 2009 「LAGEOS」SLR データ解析による下里の移動速度の再計算† 佐藤まりこ*1,松下 優*2,藤田雅之*3,仙石 新*4 Re!estimation of the velocity of Simosato from analysis of LAGEOS SLR data† Mariko SATO*1, Hiroshi MATSUSHITA*2, Masayuki FUJITA*3 and Arata SENGOKU*4 Abstract Simosato Hydrographic Observatory in Wakayama Prefecture has been carrying out Satellite Laser Ranging (SLR)observation for AJISAI, LAGEOS‐1, LAGEOS‐2, and other geodetic and Earth!observation satellites, since19 82. More than2 6, 00 0passes have been obtained. In this report, we re!estimated the velocity of Simosato from LAGEOS SLR data for15years. As a result, the velocity of2. 9cm/year in direction to29 4°N relative to the Eurasian plate was obtained. This velocity is close to the subduction velocity of the Philippine Sea plate. This indicates that the interplate coupling at this region is strong. In addition, our result is consistent with other researches using SLR data (e.g., ITRF20 00,ITRF2 00 5SLR rescaled) . 1 はじめに れた離島や本土の海洋測地網一次基準点等1 5ヶ 海洋測地網の本土基準点である下里水路観測所 所における可搬式 SLR 装置によるキャンペーン (和歌山県那智勝浦町)では,19 82年以来,国産 観測では,島嶼等の精密な位置決定のための本土 の測地衛星「AJISAI」や米国の測地衛星「LAGEOS 基準点としての役割を果たした(例えば,Sen- ‐1」「LAGEOS‐ 2」等 の 人 工 衛 星 レ ー ザ ー 測 距 goku,1 99 9). (SLR : Satellite Laser Ranging)観測を行ってお 長期にわたる定常的な SLR 観測は,長波長の り,現在までの観測回数は2 6, 0 00パスを超えて 地球重力場とその時間変動の決定に貢献し,地球 いる(Fig. 1) . 科学の基礎となる国際地球基準座標系(ITRF : In- これまでに,200 2年4月に経緯度の基準を世 ternational Terrestrial Reference Frame)の構築 界測地系への移行するため,日本測地系から世界 に寄与しているとともに,グローバルな視点でプ 測 地 系 へ の 変 換 パ ラ メ ー タ を 決 定(仙 石・ レート運動を観測することを可能とし,地震の発 他,200 0)して「海洋測地成果200 0」として取 生メカニズムの解明等の地球科学の理解にも貢献 りまとめた.また,198 8年から200 1年まで行わ している. †Received December2 6,2 0 0 8;Accepted January2 9,2 0 0 9 *1 航法測地室 Geodesy and Geophysics Office *2 第二管区海上保安本部2nd Regional Coast Guard Headquarters *3 技術・国際課 Technology Planning & International Affairs Division *4 海洋調査課 Hydrographic Surveys Division −1− Mariko SATO, Hiroshi MATSUSHITA, Masayuki FUJITA and Arata SENGOKU 行ったので,その結果について報告する. 2 SLR データ解析 まずはじめに,SLR データ解析について述べ る. 解析に用いたデータは,199 3年から2 00 7年ま でに世界中の SLR 観測局で取得された LAGEOS‐ 1及 び LAGEOS‐2の ノ ー マ ル ポ イ ン ト(NP) データである.年ごとの観測局数,パス数,NP データ数を Table. 1に示す.観測局数は年平均 Fig. 1 Satellite Laser Ranging at the Simosato Hydrographic Observatory. 37局であり,2 005年以降若干減少しているもの の,パス数及び NP データ数は増加傾向にあり, 現在でも世界中で精力的に観測されていることが SLR デ ー タ か ら プ レ ー ト 運 動 を 求 め る 研 究 分かる. は,19 70年代末以来,数多く行われており(例 SLR データの解析は,NASA ゴダード宇宙飛行 えば,Smith et al., 1 97 9,Tapley et al., 19 85な セ ン タ ー(GSFC)で 開 発 さ れ た GEODYN−II/ ど),その大半は世界中の SLR 観測局で日々多く SOLVE(Eddy et al.,19 90;Ullman,1 99 2)を用い のデータが得られている米国の測地衛星 た多衛星結合解析により行い,各年における各観 「LAGEOS」の SLR デ ー タ を 使 用 し た も の で あ 測 局 の 位 置(1年 解)を 推 定 し た(藤 田・仙 石,19 97).GEODYN−II の解析に用いたモデル る. Sengoku(1 99 8)は,19 86年 か ら19 94年 ま で は概ね次のとおりである.詳細については,藤 の8年間の「AJISAI」SLR データを用いて,下里 田・他(19 98),松 下・他(2 0 05a)を 参 照 さ れ を含む SLR 観測局のプレート運動を求め,下里 たい. のユーラシアプレート安定域に対する移動速度 ・重力モデル:GGM01C(Tapley et al.,2 00 3) (2 91°,3. 2cm/year)を報告した(以下,本稿で ・海洋潮汐荷重変形:IERS Conventions(McCarthy,19 96) は,方位角を北から時計回りの角度として定義す る). 「AJISAI」は,「LAGEOS」と 比 べ て 衛 星 の 軌道高度が低く,また形状も大きく表面力の影響 を大きく受けるため,衛星に働く力のモデル化が Table. 1 Summary of global LAGEOS data from1 9 9 3to 2 0 0 7. 難しく,地球基準座標系の決定には不利である が,「LAGEOS」SLR データ等から求められるプ レート運動と整合的な結果が得られることを示し た.この成果は,当庁が行っている GPS 地殻変 動監視観測や海底地殻変動観測においても本土基 準点の動きとして,現在でも幅広く活用されてい る. 今般,Sengoku(1 998)による移動速度の推定 か ら1 0年 が 経 過 し た こ と か ら,近 年 の 「LAGEOS」SLR データを用いて下里のユーラシ アプレート安定域に対する移動速度の再計算を −2− Re!estimation of the velocity of Simosato from analysis of LAGEOS SLR data Fig. 2 Time series of estimated coordinate of Simosato station. Large earthquakes(M7. 4,M6. 9)occurred about1 0 0km southeast of Simosato on September5th,2 0 0 4. ・地球回転パラメータ:IERS Bulletine B の最終 得されていることから,座標を固定する局として 妥当と判断している. 値 ・基準座標系:ITRF20 00(Boucher et al.,20 04) 解析結果の一例として,下里の経緯度及び楕円 ・解析で固定した座標及び速度場:ITRF2 00 0で 体高の推移を Fig. 2に示す.参考として1ヶ月解 与 え ら れ た 米 国 メ リ ー ラ ン ド 州 の Greenbelt (1ヶ月ごとの座標値)も併せて示した.Fig. 2よ (710 5)局 の 経 緯 度 と そ の 速 度,英 国 の り,1ヶ月解にはばらつきが見られるが,1年解 Herstmonceux (784 0)局の緯度とその速度. では非常に安定していることが分かる.200 4年9 Greenbelt 局 と Herstmonceux 局 は,プ レ ー ト 月5日 に は,下 里 の 南 東 約1 00km の 海 域 で M 境界から十分に離れておりプレート内の安定域に 7. 4及び M6. 9の地震(2 00 4年紀伊半島南東沖 あることからほぼ一様な動きをしているとみなす 地震)が発生し,この地震に伴う地殻変動として ことができ,また解析期間中十分なデータ量が取 南 に2cm,1∼2cm の 沈 降 が 報 告 さ れ て い る −3− Mariko SATO, Hiroshi MATSUSHITA, Masayuki FUJITA and Arata SENGOKU えられるため,本稿では各1年解に対する地心補 (松下他,200 5). 正は行っていない. 3 移動速度の算出 具体的には,以下の手順で移動速度を算出し 3.1 算出方法 た. 移動速度の算出は,観測局間のアーク長の変化 !各観測局の観測期間,データ量,1年解の安定 率を使用する方法で行った.アーク長とは,地球 性等から,移動速度の算出に使用する観測局を を半径が赤道半径に等しい球と仮定したときの観 選定する. 測局間の球面上の距離であり,次の式で表わされ "年ごとに2局間のアーク長を全ての組み合わせ る(Fig. 3). について求め,直線回帰により,それぞれの l = aeΨg アーク長の変化率を計算する. =aecos (sinφ1sinφ2+cosφ1cosφ2cos(λ1−λ2)) −1 #アーク長の変化率から,最小二乗法により,各 ここで,ae は地球の赤道半径,Ψg は観測局間 観測局の絶対速度(ここでは,no−net−rotation の地心角度,φ は観測局の地心緯度,λ は観測局 (NNR)系に基づく速度を便宜的にこう呼ぶ) を推定する. の地心経度である.通常の SLR 解析で得られる 座 標 の 時 系 列 に は,座 標 系 の 原 点(地 心),方 $#で得られた絶対速度から,地質学的に求めら 向,スケールの不一致による誤差が含まれている れたプレート運動モデル(NNR NUVEL‐ 1A : が,アーク長は座標系の方向とスケールの誤差に DeMets et al., 19 94)で計算される速度を差し よる影響を受けないため,より安定した移動速度 引く. を求めることができる.さらに,アーク長の変化 なお,#の速度の推定においては,プレート内 率は,観測局の水平速度のみに依存し,レンジバ の安定域に位置し,NNR NUVEL‐1A で表わされ イアス等により生じる観測局位置誤差の鉛直成分 るプレート運動とほぼ一致した動きをしている米 の影響を受けないという利点があり,プレート運 国メリーランド州の Greenbelt (71 05) 局の速度, 動のような水平速度を求めるのに適している 英国の Herstmonceux (784 0)局の南北方向の速度 (Sengoku,199 8).なお,第2節で得られた1年 を,同モデルに整合的な ITRF2 000(Boucher et ごとの座標系の地心のばらつきはたかだか1cm al., 20 04)で与えられている速度に固定した.こ 程度であり,アーク長に与える影響は小さいと考 れにより,ここで求めた速度は,定義上,no-netrotation (NNR)系に基づく速度と考えることがで きる.その量的な整合性の評価については3. 4で 議論する. また,$で得られる速度は,言い換えると,各 観測局の位置するプレートが仮想的に剛体だとし たときの速度と観測された速度との差であり, ユーラシアプレート上にある下里では,この速度 が本稿の目的であるユーラシアプレート安定域に 対する移動速度となる. 3. 2 観測局及び観測期間の選定 第2節で得られた1 9 93年から2 007年までの各 Fig. 3 Definition of arc between station1and station2 (Sengoku,1 9 9 8) . 観測局の1年解の時系列から,5年以上安定した 1年解が得られていることや観測局の幾何学的配 −4− Re!estimation of the velocity of Simosato from analysis of LAGEOS SLR data Table. 2 List of SLR stations used for the estimation of velocities. 置等を考慮して,移動速度の算出に使用する観測 局2 4局 を 選 定 し た(Table. 2及 び Fig. 4).ま た,観測が行われていてもデータが少ない等の理 由により,1年解のばらつきが大きい期間は除外 しており,Table. 2には移動速度の算出に使用し た期間も示した. 先に述べたように,下里(78 38) 局の近傍では, 20 04年9月5日に紀伊半島南東沖地震(M7. 4, M6. 9)が発生し,2cm 程度の地殻変動が検出さ れた(松下他,20 05) .200 4年の1年解について は,1年分のデータに占める地震後のデータが少 なく,2 004年の1年解への地震の影響は小さい と考えられることから,移動速度の算出に使用し た.20 05年以降の1年解には,この地震に伴う Fig. 4 Locations of SLR stations used for velocity estimation. 地殻変動に加え,測距値の較正方法の一時的な変 更や信号の検出方法の変更等による人為的な影響 が反映されている可能性が高いため,移動速度の 算出には使用していない.また,Arequipa (74 03) 局 は,200 1年6月2 3日 に ペ ル ー 南 部 地 震(M −5− Mariko SATO, Hiroshi MATSUSHITA, Masayuki FUJITA and Arata SENGOKU 8. 1)が発生したため,1年解が安定している19 95 一例として,下里と各観測局とのアーク長変化 年から20 00年までの解を使用した.ただし,Har- 率を Table. 3に示す.アーク長変化率の推定誤差 tebeesthoek (75 01)局は200 0年に観測を開始して は平均0. 0 8cm/year で,全アークの平均より小 い る た め,Arequipa (740 3)局 と Hartebeesthoek さい.McDonald (70 80) 局 と Arequipa (7 40 3)局 は (750 1)局 と の ア ー ク 長 変 化 率 を 求 め る と き の 下里とのアーク長が若干伸びているが,それ以外 み,20 02年 か ら2 0 07年 ま で の1年 解 を 使 用 し の観測局は2∼7cm/year の速度で縮んでいる. た. 下里との変化率が最も大きいのはオーストラリア 移動速度の算出に使用した観測局はヨーロッパ の Yarragadee(70 90)局 で−7.3 cm/year,最 も 小 には多く集中しているが,南米,南アフリカ, さいのは McDonald (70 80)局で0. 3cm/year であ オーストラリアの観測局を採用し,できるだけ異 る. なるプレート上の観測局を使うよう努めた. 3. 4 絶対速度の推定 3.3 アーク長変化率 3. 3のアーク長の変化率から最小二乗法により 次 に,3. 2で 選 定 し た24局 の 観 測 局 に つ い 各観測局の絶対速度(no−net−rotation(NNR)系 て,2局間のアーク長を年ごとに全ての組み合わ の速度)を求めた.速度の推定にあたっては,米 せで求め,直線回帰により,各アーク長の変化率 国メリーランド州の Greenbelt (710 5)局の速度及 を計算した.アーク長の組み合わせの数は27 6 び英国の Herstmonceux (7 84 0)局の南北方向の速 で,アーク長変化率の推定誤差は平均0. 1 1cm/ 度を ITRF2 00 0で与えられている速度に固定し year である. た.絶対速度の推定結果を Table. 4及び Fig. 5に Table. 3 Arc length rates between Simosato and other SLR stations. −6− * Vn, Ve of Greenbelt and Vn of Herstmonceux are fixed to the velocities of ITRF2000. Table. 4 Estimated velocities and the differences from velocities of ITRF2 0 0 0,ITRF2 0 0 5 (SLR rescaled) and NUVEL‐ 1A.(unit : cm/year) Re!estimation of the velocity of Simosato from analysis of LAGEOS SLR data −7− Mariko SATO, Hiroshi MATSUSHITA, Masayuki FUJITA and Arata SENGOKU Fig. 5 Velocity vectors of SLR station:(a)World, (b)Europe, (c)Asia. Red arrows, blue arrows, purple arrows and green arrows show the estimated velocities, velocities of ITRF2 0 0 0,ITRF 2 0 0 5 (SLR rescaled) and NUVEL‐ 1A, respectively. 示す.なお,Table. 4及び Fig. 5には,比較のた ての観測局について0. 1cm/year 以内である. め,ITRF20 00,ITRF2 00 5 (SLR rescaled, Altamimi この結果を ITRF2 00 0及び ITRF20 05 (SLR res- et al., 20 07) ,NUVEL‐1A による速度及びそれぞ caled) による速度と比較すると,一部の観測局を れの速度と今回推定された速度との差も併せて示 除き,差は0. 1∼0. 2cm/year と非常に良い一致 している. を示していることが分かる.Riyadh (78 32)局で 絶対速度の推定誤差は,南北方向,東西方向と は,ITRF2 00 0による速度との差が2cm/year 以 も に 平 均0. 0 3cm/year で あ り,南 半 球 に あ る 上 あ る が,ITRF20 05 (SLR rescaled) で速度が改 オーストラリアの Mt.Stromlo (7 84 9)局とペルー 善され,我々の結果との差はほとんどなくなっ の Arequipa (74 03)局ではやや大きいものの,全 た.一方,Arequipa (7 40 3)局では,ITRF20 00,ITRF −8− Re!estimation of the velocity of Simosato from analysis of LAGEOS SLR data Fig. 6 Correlations between estimated velocities and(a)ITRF2 0 0 0/(b)ITRF2 0 0 5 (SLR rescaled) . Fig. 7 Differences between estimated velocities and velocities calculated from NUVEL‐ 1A. 20 05 (SLR rescaled) ともに推定された速度との差 Fig. 6に示す.いずれも相関係数は0. 9 5以上と が 大 き い.こ れ は,本 稿 で 用 い た Arequipa 非常に強い相関を示しており,相対的には ITRF (740 3)局の1年解の期間が5年と短いことや他の 20 05 (SLR rescaled) の方が推定結果と合ってい 観測局に比べて1年解のばらつきが大きいことが る. 影響している可能性があるが,今後慎重に検討し 次に,推定された絶対速度を地質学的に求めら ていきたい.また,ITRF20 00,ITRF2 00 5 (SLR res- れたプレート運動モデルである NUVEL‐ 1A と比 caled) の速度と今回推定された速度との相関を 較する.絶対速度と NUVEL‐1A による速度との −9− Mariko SATO, Hiroshi MATSUSHITA, Masayuki FUJITA and Arata SENGOKU 差 を Fig. 7に 示 す.Table. 4及 び Fig. 7よ り,プ レート内部に位置しているヨーロッパや南アフリ カ,オーストラリア等の観測局では,NUVEL‐ 1 A との差が0. 2cm/year 程度と小さく,SLR デー タによる絶対速度の推定結果は NUVEL‐ 1A と良 い一致を示していることが分かる.プレート境界 付近に位置する観測局では,NUVEL‐ 1A による 速度との差が大きいが,この差は隣接するプレー トとの相互作用を示唆しており,次節で取り上げ ることとする. 以 上 よ り,推 定 さ れ た 絶 対 速 度 は,ITRF 2 00 0,ITRF2 00 5 (SLR rescaled)に よ る 速 度 及 び NUVEL‐ 1A による速度(プレート境界付近を除 く)と調和的であることが示された. 3. 5 プレート境界付近に位 置 す る 観 測 局 の NUVEL‐1A に対する移動速度 Fig. 8 Velocity vectors of Simosato station relative to the Eurasian plate. The solid arrow shows our result and the open arrow shows the velocity vector estimated from Sengoku(1 9 9 8) . ここでは,本稿の目的である下里のユーラシア で西北西4∼5cm/year と推定される.この速度 プレート安定域に対する移動速度について述べ は,今回求められた速度と方向,大きさともに近 る.繰り返しになるが,ここでいう「ユーラシア いことから,この辺りの海底下ではプレート間の プレート安定域に対する移動速度」とは,下里が 固着が強いことが示唆される. 位置しているユーラシアプレートが仮想的に剛体 Table. 5に,今回の結果とこれまでに報告され だとしたときの速度,すなわち NUVEL‐1A に対 ている下里の移動速度についての他の研究結果を する速度のことであり,この速度は隣接するプ 示 す.本 稿,Torrence(19 98)及 び ASI0 7L0 1 レートとの相互作用を示唆していると考えられ (Luceri and Bianco,200 8)は「LAGEOS」SLR る. データ,Sengoku(199 8)は「AJISAI」SLR デ ー また,下里以外でも NUVEL‐1A による速度と タ,ITRF 2 00 0 及 び ITRF 200 5(SLR rescaled) の差が大きい観測局があるため,本論の趣旨とは (Altamimi et al.,20 07)は SLR/VLBI/GPS/DORIS やや逸れるが,そのような観測局についても簡単 の観測データから求めた速度である.全ての結果 に言及することとする. において概ね良い一致を示しており,時期の違い と見られる有意な変化は見られない.Sengoku 3. 5.1 下里 (19 98)による移動速度は, 「AJISAI」SLR データ Table. 4及び Fig. 7より,下里では,NUVEL‐ 1 を使用していることもあり,若干推定誤差が大き A(ユーラシアプレート)に対する動きとして いが,LAGEOS 等から求められた速度の推定誤 2 94°,2. 9cm/year の 速 度 が 求 め ら れ た 差 は0. 1cm/year 程 度 で あ り,方 位 角 が29 1∼ (Fig. 8).この速度は,隣接しているフィリピン 2 94°,大きさが2. 6∼3. 0cm/year の範囲内にあ 海プレートの沈み込みに伴って下里が西北西方向 る.比 較 的 最 近 求 め ら れ た ITRF20 00や ITRF に引き込まれていることを意味している. 20 05 (SLR rescaled) ,19 84年 か ら2 0 07年 ま で の Seno et al. (199 3)によると,南海トラフに沈 LAGEOS データを使用した ASI07L0 1と比べる み込むフィリピン海プレートの速度は紀伊半島沖 と,方位角は若干大きい結果となった.これらの − 10 − Re!estimation of the velocity of Simosato from analysis of LAGEOS SLR data Table. 5 Velocities of Simosato station by other researches. 速度の違いは,主として移動速度の推定に用いた ラシアプレートに対する動きとして,2 9 4°,2. 9 衛星,観測局,観測データの期間によるものと考 cm/year が得られた.当庁で長年使用してきた えられる. Sengoku(199 8)の結果と比べると,速度はやや 小さく,方位角はやや大きくなったが,SLR デー 3. 5.2 その他の観測局 タから求められた他の研究結果と比べて有意な差 中 国 の Changchun (723 7)局,Beijing (7 24 9)局, はなく調和的だと考えられる.今後は,GPS 観 Shanghai (7 83 7)局 で は,NUVEL‐1A(ユ ー ラ シ 測等,他の観測手法による結果との比較も行って アプレート安定域)に対して東から東南東の方向 いきたい. に約1cm/year の速度が検出された.ユーラシア 移動速度を精度良く決定するためには,長期に プレートの東方にはユーラシアプレートよりやや わたる安定した観測が重要であることは言うまで 東向きの速度が大きいアムールプレートの存在が もない.アジアを代表する SLR 観測局である下 示唆されており(例えば,Heki et al., 19 99),今 里水路観測所において,今後も継続して観測が 回の結果はそれと調和的である. 行っていくことが重要である. また,南米の Arequipa (74 03)局でも NUVEL‐ 1 A(南米プレート安定域)に対して南東へ1. 2cm 謝 辞 /year の速度が求められた.NUVEL‐ 1A による 観測に携わった歴代の下里水路観測所の所長及 と,アレキパ沖ではナスカプレートが約8cm/ び所員の方々のご尽力に深く感謝いたします.ま year の速度で東北東方向に沈み込んでおり,Are- た,本稿の作成にあたり,LAGEOS‐ 1,LAGEOS quipa (7 40 3)局の移動速度もナスカプレートの沈 ‐2のグローバルデータを使用させていただきま み込みの影響を受けて東北東方向に移動している した.また,SLR 解析では,NASA/GSFC の GEO- と推定されるが,SLR データによる速度は南東方 DYN−II/SOLVE を使用させていただきました. 向を示しており方向が異なっている.今回得られ 本稿の改訂にあたっては,匿名の査読者から大変 た速度は,3. 4で述べたように ITRF20 00や ITRF 有益なコメントをいただきました.記して感謝い 2 005 (SLR rescaled) とも異なっていることから, たします. 速度の差異については今後注意深く検討していき たい. 要 旨 下里水路観測所では,19 82年以来,測地衛星 4 まとめ 「AJISAI」や「LAGEOS」等の SLR 観測を実施し 19 93年 か ら2 00 7年 ま で の「LAGEOS」SLR ている.今回,19 93年か ら2 0 07年 ま で の1 5年 データを用いて下里のユーラシアプレートに対す 間の「LAGEOS」SLR データを用いて,下里の移 る速度の再計算を行った.その結果,下里のユー 動速度の再計算を行った.その結果,ユーラシア − 11 − Mariko SATO, Hiroshi MATSUSHITA, Masayuki FUJITA and Arata SENGOKU プレート安定域に対して,29 4°の方向に2. 9cm /year という速度が得られた.この速度はフィリ daf.mt.asi.it/html_old/ASImed/solution.html. 松下 タ解析におけるモデルの更新とその評価,海洋情 ピン海プレートの沈み込み速度に近く,この辺り のプレート間カップリングが強いことを示唆して いる.本結果は,これまでに SLR データから求 優・藤田雅之・佐藤まりこ(2 0 0 5a) :SLR デー 報部技報,23,73‐77. 松下 優・藤田雅之・河合晃司・長岡 継(2 0 0 5b) : SLR グローバル解析により検出された紀伊半島南 められた他の研究結果と概ね調和的である. 東沖地震による地殻変動,日本地球惑星科学連合 2005年大会予稿集 . 参考文献 McCarthy, D. 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