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事業原簿 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構

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事業原簿 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
第 1 回「細胞組織工学(ティッシュエンジニ
アリング)の研究開発」(事後評価)分科会
資料 6-1
「細胞組織工学(ティッシュエンジニアリング)
の研究開発」
事業原簿
作成者
作成時期
新エネルギー・産業技術総合開発機構
健康福祉技術開発室
2002年5月31日
目
次
0.
概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.
NEDO の関与の必要性・制度への適合性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.1.
NEDO が関与することの意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.2.
費用対効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
2.
事業の背景・目的・位置づけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
2.1.
事業の背景・目的・意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
2.2.
事業の位置づけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
3.
事業の目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
4.
事業の計画内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
4.1.
事業全体、個別研究開発項目の計画内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
4.2.
研究開発項目毎の内容の詳細・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
4.3.
研究開発実施主体の体制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
5.
実用化、事業化の見通し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
5.1.
事業全体についての実用化の見通し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
5.2.
要素研究開発項目毎の実用化の見通し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
6.
今後の展開(政策目標達成までのシナリオ)・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
7.
中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期・・・・・・・・・39
8.
研究開発成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
8.1.
事業全体の成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
8.2.
研究開発項目毎の成果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
9.
情勢変化への対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
10.
今後の事業の方向性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
11.
実施方針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
0.概要
制度名
医療福祉機器技術研究 事業名
細胞組織工学(ティッシュエンジニアリング)の
開発
研究開発
事業の概要
高齢化社会を迎えた我が国の医療費は、1999 年度には約 30.4 兆円にも
達し、毎年約 5%ずつ増加しながら国民経済を圧迫しつつある。国民が高
度な医療を享受してゆくためには、臓器移植、組織移植等に対する医療
費抑制を可能とする細胞組織工学(ティッシュエンジニアリング:多種
類の細胞を生体中にある状態と同様に組織化し、組織・臓器の持つ高次
な機能を再現するための工学)を基礎としたヒト組織の再生技術とその
ための基礎的技術を早急に確立させ、再生医療用製品生産に関わる産業
の発展を促進させることが必要である。
当該分野に関わる研究開発は、基礎生物学や基礎医学に重点を置いた、
発生・再生・分化研究を中心とする基礎研究分野と、医療関連産業技術
の展開を睨んだ細胞組織工学研究分野とが進みつつあるが、本研究開発
では、将来の産業技術展開を積極的に図っていくため、細胞組織工学技
術の確立を目的とする。
1.NEDOの関与の必
本事業は、民間企業(あるいは大学等)が単独で実施する事が困難な
要性・制度への適合性 技術開発であるのでナショナルプロジェクトとして推進する必要があ
る。
困難な理由としては以下の各要素が挙げられる。
①産官学の連携が不可欠である。
②医工の連携が不可欠である。
③現状では市場が成立し難い分野である。
④実用化すれば国民の医療福祉に多大な貢献を見込むことができる。
⑤国民のための医療技術として早期に実用化すべきである。
⑥ベンチャー企業の育成が強く望まれる分野である。
2.事業の背景・目的・位
置付け
本研究に関わる技術分野では、従来、ミレニアムプロジェクト等にお
いて未分化細胞を用いた軟骨等の研究が行なわれた。しかし、従来技術
のうち未分化細胞を用いる培養技術は、スキャホールドなど組織培養技
術に重点が置かれており、限定された組織にしか適用できなかった。そ
こで、本事業では、多分化能力を有する幹細胞を探索・取得する技術を
開発し、組織を分化誘導により形成する方法の開発を目指した。特に骨
再生については、患者本人の骨髄から得た間葉系幹細胞を用いて臨床応
用を行い、その有効性を検証した。本事業で得られた成果により、国民
医療の質の向上と費用の低減に多大な恩恵をもたらすことが期待され
る。
- 1-
3.事業の目標
本事業の目標は、主として体性幹細胞を用い、幹細細胞の分化誘導と
(全体目標) 培養技術、組織再生のためのスキャホールドなどのバイオマテリアル技
術を総合して開発し、それら技術を用いて、軟骨・骨・歯、心筋・心臓
弁などの修復・人工的な形成を目指す。また、産業応用可能な、実用的
な技術として開発を行うことである。
主要な目標としては、体性幹細胞・前駆細胞の分離・増殖技術に関し
ては、幹細胞分離用マーカーの開発、幹細胞特性評価の確立、その方法
を用いて、骨髄系幹細胞から特定の細胞を分種・分離する方法を確立す
ることである。細胞組織化技術の開発に関しては、細胞培養に対して、
適当な機能を持つマトリックスの開発、機能発現のための方法の確立、
臨床応用可能な量的質的培養技術を確立することである。
4.事業の計画内容
2000fy
2001fy
総 額
(単位:百万円)
(2 年間)
一般会計
0
1,382
1,382
0
1,382
1,382
特別会計(電特)
特別会計(石特)
特別会計(エネ高)
総予算額(計)
研究開発体制
(実態に併せて記載)
5.実用化、事業化の見通
し
省内担当原課
商務情報政策局サービス産業課医療・福祉機器産業室
運営機関
新エネルギー・産業技術総合開発機構
委託先
財団法人大阪科学技術センター
再委託先
東京大学、京都大学、大阪大学、サントリー生物医学研究所他
研究協力先
産業技術総合研究所、九州大学、帝人
他
当研究開発は、ティシュエンジニアリング技術の基盤技術として、幹
細胞の分離解析技術、細胞培養技術とマテリアル技術を開発し、さらに
それらの技術を用いて、骨、軟骨、心筋、血管、神経、皮膚の再生技術
を開発するものである。これら組織部位は再生医療の中心的なものと考
えられ、2010 年までの間に、最も大規模に実用化が期待されている。幹
細胞の分離技術は今後の細胞ビジネスの帰趨を占う重要な課題である
が、骨髄細胞を中心に基盤技術を確立しつつある。また、この幹細胞を
培養して形成した人工骨は臨床試験がすでに行われ、良好な結果を得る
までに発展した。骨の臨床試験は日本が世界に先駆けて行ったもので、
当プロジェクトの成果として特筆されるべきものといえよう。軟骨も研
究室から企業の開発レベルへ進んでいる。心筋・心臓弁については、米
国企業との共同で大型動物による実験にまで達しているなど、研究によ
って実用的な医療技術としての可能性が明確になりつつある。
-2-
6.今後の展開
本プロジェクトの研究開発成果を基に、なるべく早い段階での実用化
を目指す。例えば、幹細胞探索、制御技術に関しては、再生医療の標準
化戦略であり、新薬黄金時代が到来すると予想される 2010 年に上市を目
標としている。軟骨に関しては、1年後には大型動物モデルで臨床実験
に入り、2∼3年後には治験に移行する予定。
7.中間・事後評価
2002 年度に事後評価を実施する。
8.研究開発成果
特許(出願)数:0(11)、査読論文数:178、新聞発表数:23
9.情勢変化への対応
基本計画の変更
なし
変更内容
評価履歴
10.今後の事業の方向性
作成日
2002年5月31日
-3-
1.NEDOの関与の必要性・制度への適合性
1.1.NEDOが関与することの意義
本事業は、民間企業(あるいは大学等)が単独で実施する事が困難な技術開発で
あるのでナショナルプロジェクトとして推進する必要がある。
単独で実施する事が困難な理由としては以下の各要素が挙げられる。
①産官学の連携が不可欠である。
②医工の連携が不可欠である。
③現状では市場が成立し難い分野である。
④実用化すれば国民の医療福祉に多大な貢献を見込むことができる。
⑤国民のための医療技術として早期に実用化すべきである。
⑥ベンチャー企業の育成が強く望まれる分野である。
1.2.費用対効果
ティッシュエンジニアリングを応用した新医療技術は国内で 2010 年には 2800
億円の市場規模に成長すると予想される。特に、骨、軟骨、神経、循環器は、大き
な比重を占め、2010 年には 2500 億円の売り上げ(市場全体の90%)が見込ま
れる。また、当該細胞組織に関する技術は、日本もレベルが高く、世界をリードで
きる可能性が大きい。少なくとも欧米製品に国内市場を譲り渡すことはないと考え
られる。
2.事業の背景・目的・位置づけ
2.1.事業の背景・目的・意義
本研究に関わる技術分野では、従来、ミレニアムプロジェクト等において未分化
細胞を用いた軟骨等の研究が行なわれた。しかし、従来技術のうち未分化細胞を用
いる培養技術は、スキャホールドなど組織培養技術に重点が置かれており、限定さ
れた組織にしか適用できなかった。そこで、本事業では、多分化能力を有する幹細
胞を探索・取得する技術を開発し、組織を分化誘導により形成する方法の開発を目
指した。特に骨再生については、患者本人の骨髄から得た間葉系幹細胞を用いて臨
床応用を行い、その有効性を検証した。本事業で得られた成果により、国民医療の
質の向上と費用の低減に多大な恩恵をもたらすことが期待される。
2.2.事業の位置づけ
高齢化社会を迎えた我が国の医療費は、1999 年度には約 30.4 兆円にも達し、毎
年約 5%ずつ増加しながら国民経済を圧迫しつつある。国民が高度な医療を享受し
てゆくためには、臓器移植、組織移植等に対する医療費抑制を可能とする細胞組織
工学(ティッシュエンジニアリング:多種類の細胞を生体中にある状態と同様に組
-4-
織化し、組織・臓器の持つ高次な機能を再現するための工学)を基礎としたヒト組
織の再生技術とそのための基礎的技術を早急に確立させ、再生医療用製品生産に関
わる産業の発展を促進させることが必要である。
当該分野に関わる研究開発は、基礎生物学や基礎医学に重点を置いた、発生・再
生・分化研究を中心とする基礎研究分野(たとえばミレニアムプロジェクトなど)
と、医療関連産業技術の展開を睨んだ細胞組織工学研究分野とが進みつつあるが、
本研究開発では、将来の産業技術展開を積極的に図っていくため、細胞組織工学技
術の確立を目的とした。
国内外において、一部のヒト体性幹細胞の分離、培養、解析などはすでに行われ
ているものの、確立した方法は無く、医療用デバイス開発のための総合的な取り組
みはなされていなかった。これまで開発できたのは、皮膚などの単純な組織に限定
されていたが、本プロジェクトの技術開発を基礎として対象組織・臓器を骨、軟骨、
神経、血管、循環器などへ進めることが可能となった。これにより、高度な臓器再
生に大きく道を開き、患者の救命、医療の質を大いに高めることにつながると考え
られる。
皮膚の培養では他国より大きく進んでいる米国においても、骨、神経、循環器な
どの臨床応用は始まっておらず、当該プロジェクトの実施により世界をリードでき
る可能性が高まった。2002 年 2 月に産業技術総合研究所ティッシュエンジニアリ
ング研究センター(TERC)と奈良医科大学が、世界で初の再生骨を用いた人工関
節を用いた臨床治療を行うことができたのは、本プロジェクトの成果である。また、
東京大学と産業技術融合領域研究所(現産業技術総合研究所)は軟骨細胞の加圧培
養方法を世界に先駆けて開発している。
3.事業の目標
本事業の目標は、主として体性幹細胞を用い、幹細胞の分化誘導と培養技術、組
織再生のためのスキャホールドなどのバイオマテリアル技術を総合して開発し、そ
れら技術を用いて、軟骨・骨・歯、心筋・心臓弁などの修復・人工的な形成が可能
となることを目指す。また、産業応用可能な、実用的な技術として開発を行うこと
である。
主要な目標としては、体性幹細胞・前駆細胞の分離・増殖技術に関しては、幹細
胞分離用マーカーの開発、幹細胞特性評価の確立、その方法を用いて、骨髄系幹細
胞から特定の細胞を分種・分離する方法を確立することである。細胞組織化技術の
開発に関しては、細胞培養に対して、適当な機能を持つマトリックスの開発、機能
発現のための方法の確立、臨床応用可能な量的質的培養技術を確立することである。
4.事業の計画内容
-5-
4.1.事業全体、個別研究開発項目の計画内容
本研究開発では、将来の産業技術展開を積極的に図っていくため、細 胞組織工学
技術の確立を目的として研究を行なう。
(1)体性幹細胞・前駆細胞の分離・増殖技術の開発
体内の通常の細胞は増殖・分化能力が限られていることから、組織形成には、心
臓、肝臓、膵臓、腎臓、中枢神経系などの様々な組織に分化する能力を有する「体
性幹細胞・前駆細胞」が必要である。
本研究では、これまで既に存在が知られている体性幹細胞や前駆細胞について、
これを再生医療に貢献する産業技術として適用可能なレベルに達するまでの分
離・増殖する技術を開発する。更に、特定の組織・臓器で特異的に発現しているタ
ンパク質およびその遺伝子を網羅的に探索するなどの方法により、目的の幹細胞を
迅速に同定・分離・増殖する技術を開発する。
(2)細胞組織化技術の開発
ヒト細胞増殖や機能の発現は、細胞同士の相互作用により複雑に制御されている。
品質の一定した細胞および組織デバイスを生産するには培地の規格化、培養プロセ
スの自動化、スキャホールドの多機能化などが必要である。また、細胞培養途中で
突然変異、ガン化、目的としない分化、あるいはウイルス・細菌などの汚染の起こ
る可能性があり、細胞の状態管理も同時に行う必要がある。
本研究開発では、再生医療デバイスの実現につながるリアクターシステム技術の
開発をすることとするが、そのために必要となる多機能担体等の培養用器材の開発
とそれと一体となった細胞の高密度培養及び分化制御を行い得るとともに、また、
細胞への酸素・栄養分の供給や刺激因子の付加を円滑・迅速に行えるシステムの開
発を行う。
併せて、組織化されるプロセス段階での細胞に係る安全性を担保するためのモニ
タリングシステムの開発を行う。
-6-
実施計画工程
(単位:百万円)
2000 年度
第1
第2
2001 年度
第3
第4
第1
第2
第3
第4
四半期 四半期 四半期 四半期 四半期 四半期 四半期 四半期
1.体性幹細胞・前駆細
胞の分離・増殖技術
の開発
(1)分離・解析技術の開
380
発
145
(2)分化誘導・幹細胞
増殖技術の開発
2.細胞組織化技術の開
発
127
(1)アクティブ細胞外マ
トリックスの開発
(2)3次元組織培養リア
クター技術の開発
(3)組織工学を応用した
各種デバイス化技術
の開発
(4)組織工学により開発
されたデバイスの安
全性評価技術の開発
180
330
200
20
3.総合調査
4.2.研究開発項目毎の内容の詳細
(1)体性幹細胞・前駆細胞の分離・増殖技術の開発
1)分離・解析技術の開発
①中枢神経系幹細胞の分離と培養
ヒト胎児脳由来神経幹細胞(以下 HNCS)の分離・培養は現在、世界中で汎用
されている神経幹細胞の分離・培養法である EGF 及び FGF2 を含む無血清培地下
で の 浮 遊 培 養 系 で あ る neurosphere 法 を 用 い て 行 わ れ て い る 。 し か し こ の
neurosphere 法は、主にげっ歯類の神経幹細胞の分離・培養法として確立・最適化
されたもので、それを HNSC の培養に用いるに際し、増殖因子(Ex.LIF)の添加
などの修正は行われているが、基本培地の組成を含め、現在用いられている条件が
HNSC の培養に最適な方法かどうかの検討は十分なされていない。将来、CPC に
-7-
おいての神経幹細胞移植治療への利用を前提としたヒト神経幹細胞を安全にかつ
大量に分離・培養を可能にするため、その安全性確保のため、まずその培養の基本
条件の全てを HNSC の培養に最適化(ヒト化)する。それをベースとして HNSC
の選択的分離法の開発を進める。例えば、neurosphere 法は HNSC を分離する方
法の 1 つとして有用ではあるが、neurosphere を形成する全ての細胞が NSC であ
るわけではなく、また neurosphere を形成してはじめてもとの細胞が NSC であっ
たことが retrospective にわかる方法である。 HNSC の安定・大量培養には
prospective な HNSC の同定がより有効であり、そのためには HNSC により選択
的なマーカーの同定が必須である。そこで HNSC のマーカーの詳細な検討と、そ
の選択的分離法の開発を行う。
具体的な方法として、HNSC における既知表面抗原(CD)の発現様式を検討す
る。血球系の細胞の分離に汎用されている各種 CD 抗原の HNSC における発現様
式は必ずしも十分に検討されていない。これら CD 抗原の発現の組み合わせにより、
HNSC を高率に分離することができないかを解析する。
更に、HNSC の安定、大量培養法の確立を目指す。HNSC を用いた移植医療を
実用化するためには、その安定・大量培養が必須であり、HNSC の大量培養は、
従来行われてきた株化細胞の大量細胞培養法や、細胞そのものではなく産生物質の
精製目的での大量培養(ハイブリドーマ等)とは異なり、分化能を有する正常細胞
を安定に培養する必要があるという極めて特殊な条件を有する培養系であり、培養
装置・方法を含め、関連技術の多くを新規に開発する。
②骨格組織系の幹細胞及びマーカー分子の探索・同定
本研究では、骨・軟骨・腱などの運動器官の再生誘導技術の開発を中心に行う。
このために、骨髄などに存在が確認される間葉系幹細胞を標的として捉える。現在、
間葉系幹細胞の分化は多段階に進行する。この幹細胞の分化段階を評価するマーカ
ー分子の同定が未だ十分ではない。
軟骨では比較的研究段階が進んでいるものの、骨をはじめ腱に至っては全く未同
定である。そこで、幹細胞増殖分化因子の応答を手がかりに retrospective に分化
マーカー候補分子を網羅的に解析する。また、腱細胞の細胞生物学的解析や分化制
御については不明の点が多い。そこで、腱の分化マーカーの探索を行う。更に、こ
れを利用したマーカー分子の探索・同定を実施する。
③遺伝子マーカーを用いた分離技術
細胞を移植の材料として利用する細胞補充療法は、様々な疾患分野で有効性が確
認されている。しかし、移植用細胞を大量に調製する技術の不足から一般的な医療
への応用は遅れている。細胞は細胞補充療法ならびに組織工学に不可欠な要素(エ
レメント)であり、移植に適した細胞を安全かつ効率的に大量生産する技術の開発
が求められている。この目的を達成するために、まず細胞採取の比較的容易な骨髄、
臍帯血ならびに末梢血の体性幹細胞に着目し、複数の体性幹細胞のなかから、多分
化能と高い分裂能を有する幹細胞を分離し株化する。次に、取得したヒト体性幹細
-8-
胞で特異的に発現している表面抗原、受容体、転写因子を DNA chip を用いて網羅
的に解析し、本幹細胞を効率的に分離・培養する技術を開発する。
上記の研究開発を実施するためには、安全でかつ倫理上問題のない骨髄、臍帯血
ならびに末梢血サンプルの供給が必要である。また、多分化能と高い分裂能を有す
る体性幹細胞の存在比率は、非常に少ないと推定されることから、初期スクリーニ
ングでは目的の細胞を落とさない網羅的アプローチが必要であり、また分離プロセ
ス開発では高い分離精度を持った技術の開発が必要である。目的の体性幹細胞を選
択的(特異的)に増殖させられる条件を見出すことが出来れば、スクリーニングなら
びにプロセス開発はかなり容易になる。
複数の体性幹細胞のなかから、多分化能と高い分裂能を有する幹細胞を分離し株
化する。次に、取得したヒト体性幹細胞で特異的に発現している表面抗原、受容体、
転写因子を DNA chip を用いて網羅的に解析し、本幹細胞を効率的に分離・培養す
る技術を開発する。
④骨髄間葉系幹細胞の分離と再生心筋細胞の開発
近年、動物実験ではあるが、心筋細胞移植により心不全を治療する方法が報告さ
れ注目をあびている。心筋細胞移植はこれまで胎仔あるいは新生仔の心筋細胞を用
いて行われてきたが、ヒトへの応用を考えた場合ドナーとなる細胞の問題で行き詰
まっていた。我々は骨髄間質細胞中に含まれる間葉系未分化幹細胞を用いることに
より心筋細胞が得られることを報告した。これまでの研究により、骨髄間質細胞由
来の心筋細胞(CMG 細胞)は自己拍動能を有し、胎仔期心室筋型の遺伝子表現型
を示すこと、カテコラミンのα1、β1、β2 受容体を発現していることを明らかに
した。
また、心筋細胞のみの選別には後述のごとくミオシン軽鎖-2v のプロモーターを
用いれば FACS により心筋細胞のみを選択的に集められることも明らかにした。
これらの実績を踏まえ、本研究は、ヒト骨髄間葉系幹細胞を用いた心筋細胞への分
化誘導法の確立とヒト重症心不全症例への心筋細胞移植療法の確立を目指すもの
である。
本研究開発では、ヒト骨髄細胞を用いた心筋細胞分化誘導法の確立と間葉系幹細
胞から心筋幹細胞に分化する際の表面マーカーの探索、分化誘導因子の同定等を計
画している。具体的には heterogeneous な骨髄細胞の中から心筋細胞に分化し得
る間葉系幹細胞の単離法を開発すること、およびこれに必要な細胞表面マーカーの
特定、脱メチル化以外に如何なるエピジェネティカルな操作を行うことが分化誘導
に必要であるかの確認、心筋分化に必要な細胞増殖因子、サイトカインシグナルの
特定、多分化能を持つ細胞から心筋細胞のみを単離する方法の確立、細胞移植を行
う際の具体的手法の確立等を研究開発の目標とする。
2)分化誘導・幹細胞増殖技術の開発
①間葉系幹細胞の培養技術
-9-
骨髄より分離される間葉系幹細胞の体外増幅に関わる生理活性物質、例えば、
HGF、FGF、BMP などにより、間葉系幹細胞の性格を有する胎児性組織細胞株の
体外分化モデル系を構築する。
次いで、これら生理活性サイトカインにより誘起される幹細胞内応答をプロテオ
ーム解析を中心に特定する。一方、幹細胞から形成された分化組織の毛細血管網の
コントロールは組織再生を臨床の場に還元する上で不可欠であるから、これを制御
する ChM-I の徐放化技術との複合化を進める。
未分化間葉系細胞を従来の如く骨髄のみでなく、臍帯血から採取し移植に用いる
に十分な大量培養法を確立する。培養に関しては従来の化学的刺激に加え、メカノ
トランスダクションに代表される物理学的刺激を加える。これと並行して、骨、軟
骨欠損あるいは腱の欠損部分に集積する組織前駆細胞の分離培養技術の開発を行
う。
これと並行して、骨・軟骨欠損あるいは腱の欠損部分に集積する組織前駆細胞の
分離培養技術の開発を行う。
また、骨格組織の組織構築と代謝状態の評価システム及びその代謝改善剤に関す
る技術的蓄積を活かし、その評価システムと代謝改善に作用するホルモン・ビタミ
ンの供給により骨格運動器、特に腱の組織化を実現する体外培養系を確立する。ま
た、組織欠損部に集積する幹細胞の選択的かつ効率的補足技術として利用する
scaffold としての生体親和性人工材料の探索を行う。
②3 次元構築細胞組織機能改変技術
組織工学を用いた新たな治療技術・医療用デバイスの開発は再生医療の中心的な
役割を担うであろうと予想されている。幹細胞を分離し、それから組織を構築する
研究が主流であるが、細胞機能を、遺伝子を用いて、その機能を自由に改変できれ
ば、さらに応用範囲が拡大されると考えられる。
そのために、ティッシュエンジニアリングに Genetic engineering を合体させた
新たな技術特に、遺伝子導入と発現技術の開発をめざす。具体的には以下の計画を
有している。超音波処理により心・血管系への遺伝子導入法を開発し、そのための
至適条件を検索する。造影剤との併用、ポリカチオンとの併用などにより遺伝子導
入効率を高める技術を開発し、心・血管系においてその至適条件を探る。核内で染
色体外に遺伝子を安定に維持する cis-element とそれにトランスに作用する因子を
同定する。そのために EB virus, Adenovirusのゲノム構造を模倣する事を試みる。
温熱或いは低酸素下で誘導がかかる遺伝子( HSP70 や Hif-1)のプロモーターを用
いてストレス時に導入遺伝子の発現を高めることが可能かどうか検討する。
また、テトラサイクリンによる遺伝子発現誘導系や EBNA-1 と EB virus の oriP
配列を用いた遺伝子発現誘導系による組織での遺伝子発現のスイッチングを試み
る。導入遺伝子はクロマチンの修飾により転写レベルで抑制されることが多いので、
その修飾の影響を受けない cis-element を利用する。具体的には insulator を用い
る。既知の DNA 結合ドメイン、転写活性化ドメイン、ヒストンアセチル化酵素
- 10 -
(HAT)の HAT ドメインを連結させたキメラ遺伝子を、その産物によって制御さ
れるプロモーターの支配下においた恒常的遺伝子発現ベクターの有用性について
検討する。さらに、魚類のトランスポゾンとトランスポゼースの組み合わせ
(sleeping beauty)を導入することにより遺伝子挿入効率を飛躍的に増強できる
ことがわかっている。このシステムに標的部位の遺伝子配列に相補的な配列を組込
み、ゲノム部位特異的な遺伝子挿入技術を開発する。
③3 次元培養細胞増殖因子の開発
3 次元培養細胞を実現化させるために、各種細胞に及ぼす増殖因子の作用を詳細
に検討する必要がある。特に、血管内皮細胞増殖作用を有し、内皮を利用した血管
構築に重要な役割を果たすと考えられる肝細胞増殖因子(HGF)を用いて 3 次元
培養での内皮増殖作用を検討する。欧米では、主に VEGF(血管内皮増殖因子)
を用いて実施されており、我が国で発見された HGF を用いることは、従来技術に
比較して、別の培養構築をもたらすことが可能になる。
また、細胞接着の観点から、特に内皮細胞接着に関して現在発現する遺伝子を同
定しており、新規に発見された増殖因子を用いて 3 次元培養での血管構築に及ぼす
作用を検討する。本研究では、HGF をモデルとして 3 次元培養血管の臨床応用の
ため、ヒト臨床試験に用いる安全性の評価を行う。特に、発現期間の面から将来的
には組み替え型より遺伝子導入による血管構築がより重要性を有することが予測
されるので、HGF 遺伝子の安全性及び長期安定性の評価系を構築する。本研究開
発の目標は、a.肝細胞増殖因子( HGF)の 3 次元培養での内皮増殖作用を検討し、
血管構築に必要な容量を同定する。b.内皮細胞接着に関して発現する遺伝子を同定
し、新規に発見された増殖因子を用いて 3 次元培養での血管構築に及ぼす作用を検
討する。c.HGF 遺伝子の安全性及び長期安定性の評価系を構築する。
さらに、分化型形質を維持した血管平滑筋細胞培養系の確立と長期培養技術の開
発を行い、血管内皮細胞・血管平滑筋細胞・外膜より構成される全層性人工血管の
技術開発を目的とする。
(2)細胞組織化技術の開発
1)アクティブ細胞外マトリックスの開発
細胞外マトリックス研究では、フィブロネクチンの自己会合ドメインを導入した
人工細胞外マトリックス、糖鎖を含む人工細胞外マトリックス、光制御や温度制御
人工細胞外マトリックスと実用的医用材料ゼラチン等の研究開発に加え、人工細胞
外マトリックス表面をナノ光学手法によって精密に解析する。
①キメラタンパク分子マトリックス
情報の集積と伝達の“場”としての細胞外マトリックスの役割に着目し、細胞増
殖因子や分化誘導因子を積極的に細胞外マトリックスに組み込むことにより、生体
外細胞操作や生体内での組織修復・器官再生に有用な新しい細胞外環境の設計技術
を確立する。具体的には、フィブロネクチンの自己会合ドメインやアグリンのラミ
- 11 -
ニン結合ドメインと様々な細胞増殖因子や分化誘導因子をキメラ化することによ
り、これらの液性因子を活性保持したまま細胞外マトリックスに自己組織化させる
新しい基盤技術を確立する。
細胞と基材の複合化の基本は、基材への細胞の接着である。種々の培養基材、ま
たポリ乳酸、ポリグリコール酸、またその共重合体、ハイドロキシアパタイトなど
のセラミックからなる組織再生用骨組みに簡便に細胞接着性を付与する方法とし
て、同一分子内に細胞接着に必要なオリゴペプチド(RGD や IKVAV)と材料への物
理吸着に必要な部位を有するキメラタンパク分子を用いてこれらの問題を解決す
る。細胞に応じて他の生理活性オリゴペプチドを組み込んだキメラタンパク分子の
開発も行う。さらに、これらの表面をナノ光学手法を用いて精密に解析する。開発
した材料のティッシュエンジニアリングでの有効性を in vitro また in vivo で評価
する。
②糖鎖を有する細胞外マトリックス
肝細胞表面には、アシアロ糖タンパクレセプターすなわち 2∼3 種のβ-ガラクト
ース認識型レクチンの複合体がある。この様な糖を介した細胞の認識機構を細胞外
マトリックス設計に導入する。従来の研究で、疎水性の高いポリスチレンの側鎖に
ラクトース(ガラクトース-β-1.4-グルコース)を導入した両親媒性マトリックス
を合成し、このマトリックスは、培養シャーレに簡便に塗布でき、この表面で肝細
胞機能のコントロールを行うことが出来ることを明らかにした。この糖鎖を有する
細胞外マトリックスの考えをさらに発展させる。軟骨細胞を 3 次元培養し、その形
質を成熟軟骨細胞のまま維持し、線維性軟骨ではなく、硝子軟骨を再構築するため
に、ポリグリコール酸またはポリ乳酸のマクロポアの中にⅡ型コラーゲンに細胞へ
のシグナルを有するヒアルロン酸を共有結合させた複合マトリクスのマイクロポ
アを形成させた 3 次元培養担体を創製する。マクロポアを持った 3 次元スポンジ作
製時にはポロジェンとして微小塩粒子、または新たに開発した微小氷結晶法を用い
る。(特許出願中,Adv. Mater. 12 (6): 455-457 (2000))一方、マイクロスポンジ
の作製には凍結乾燥法を適用する。また、細胞毒性を避けるためにグルタールアル
デヒドを用いない方法でマイクロスポンジの形状を固定する。
末梢神経誘導チューブの開発が行われているが、チューブ内への繊維芽細胞の過
増殖が神経再生を阻害し、十分な神経再生が起こらない。これまでに行ってきた研
究において、線維芽細胞がある種の糖鎖により増殖及び接着抑制をきたすことから、
これらの糖鎖についてもその可能性を検討する。さらに、神経幹細胞移植後に神経
関連成長因子を発現させることのできるマトリックスの開発も行う。
③機械的強度を有するアクティブ細胞外マトリックス
軟骨疾患患者の大多数が罹患している変形性関節症のように軟骨組織が広くダ
メージを受けている場合には、十分な機械的強度を有し、かつ軟骨下骨と強固に結
合することの可能な再生軟骨を創製することが必須である。軟骨下骨と接触する部
分に骨伝導性のマトリックスであるハイドロキシアパタイトを用いた構造を設計
- 12 -
する。
これと同時に、多孔体ハイドロキシアパタイトの気孔サイズ、気孔率、気孔関連
通孔径を制御し、人工骨として至適立体構造、強度を有する連通孔型(細胞侵入、
血管新生を促す構造)ハイドロキシアパタイトを開発する。
④増殖因子の徐放化機能を有する細胞外マトリックス
脂肪組織の再生に用いる細胞外マトリックスの開発を行う。天然の細胞外マトリ
ックスの主成分であるコラーゲンタイプⅠから多孔質で 3 次元構造をもつ成形体
を作製する。これらの成形体に単離された脂肪前駆細胞と徐放化細胞増殖因子を封
入し、in vitro で脂肪組織の再生を調べる。
また、成形体に種々のタイプのコラーゲンあるいは他のタンパク質、多糖などを
混合し、その混合が脂肪組織の再生に与える効果についても調べる。
本研究ではマトリックスに種々の徐放化機能を付与し、移植後の骨芽細胞への誘
導を行う増殖因子の徐放化機能を有するマトリックスを開発する。また、以前から
用いられている高分子マトリックスに種々の糖鎖および細胞成長因子を付加して、
移植後の細胞機能発現または周囲からの血管新生を観察する。
2)3 次元組織培養リアクター技術の開発
①細胞の分化制御リアクター技術の開発
バイオプシー等で採取した軟骨片からそれよりも大きな軟骨を再生させるため
には、軟骨細胞を増殖させることが必須である。しかしながら、その増殖ステップ
と並行して生ずる軟骨細胞の線維芽細胞様細胞への脱分化は不可避である。従って、
脱分化した軟骨細胞を如何にして再分化させるかは、硝子軟骨組織を再生する上で
不可欠の要素技術である。脱分化した軟骨細胞の再分化においても細胞外マトリク
スとの接着によるシグナルや静水圧という物理的刺激によるシグナルの効果を検
証する。
一方、細胞の足場となる 3 次元担体へのサイトカイン、増殖因子などの固定化に
より、再生医工学において重要課題である 3 次元組織中における細胞の分化機能発
現の制御技術を確立する。期待される成果としては、骨、軟骨、肝臓など立体的組
織の再生に必須な細胞分化機能の維持を伴った 3 次元培養法の汎用的基盤技術を
提供するとともに、心筋細胞等の多種類の臓器再生技術開発を促進させる。
②物理的・化学的刺激因子による組織培養リアクター技術の開発
これまでに 2 次元培養された軟骨細胞に生理的な負荷と考えられている静水圧
(5MPa)を一定または変動的に負荷すると、主要なセカンドメッセンジャーである
カルシウムイオン濃度の変化や、細胞の増殖や分化を調整するシグナルタンパクの
一つである ERK の活性化が起こり、軟骨組織の基質の一つであるコンドロイチン
硫酸等のマトリックス分子の産生が促進されることを見いだした。この静水圧負荷
技術を、3 次元培養担体を用いた軟骨細胞の 3 次元培養に適用し、一定または変動
静水圧下で軟骨細胞を 3 次元培養することにより、軟骨組織の基質であるⅡ型コラ
- 13 -
ーゲンやプロテオグリカンの産生を促進させ、さらには成熟軟骨細胞としての形質
を維持させることができるかどうかを検証する。
また、これまでに成人 T 細胞白血病由来因子としてヒトチオレドキシンをクロ
ーニングし、チオレドキシン(TRX)が、種々の酸化ストレスにより誘導され、抗酸
化作用を示し、細胞組織保護作用を示すことを明らかにしてきた。神経・肝・骨・
軟骨再生、組織臓器保護、遺伝子導入タンパクの活性化などの組織工学的分野への
TRX の応用を目標とする。
例えば、TRX 投与による虚血障害後の脳神経細胞の再生、細胞死の防御につい
ての解析、発生過程における TRX の役割と、神経再生における TRX 投与の効果、
骨・軟骨形成における TRX の役割と、骨・軟骨再生における TRX 投与の効果、
肝再生における TRX 投与の効果等について解析する。
③3 次元細胞・組織培養リアクターの総合管理技術の開発
工学的基礎として、細胞の最適な培養条件を検索するため継代培養中に見られる
種々の生物的現象(細胞接着、増殖、分化、細胞寿命、拍動など)を、適切で合理
的な培養操作を可能とするプロセスパラメータで整理する(生物パラメータの工学
的解釈)。さらに、組織内の増殖因子、酸素、無機イオンの物質移動を解析し、こ
れらの組織内移動現象や細胞外マトリックスの発現メカニズムを解明する。
また、個々の細胞増殖から組織再構築までを俯瞰した細胞の増殖・分化・組織化
に関する速度論的解析を行い、3 次元的に組織を再構成させるための培養条件の最
適化を行う(増殖・組織化予測ツールの開発)。得られた結果をもとに培養容器を
開発し、増殖過程のモニタリングツールや組織内での細胞分布シミュレーターを具
備し、細胞の動態を常時監視するだけではなく、雑菌汚染等のアクシデントにも対
応しうる培養リアクターシステムを構築する(培養リアクターシステムの開発)。
さらに、一連の培養を自動的に行う生産プロセスを構築するため、細胞の付着面か
らの剥離および再接着の制御を行うことによる培養操作の自動化を実現するとと
もに、細胞量変化のオンライン測定と知的制御等のコンピュータシミュレーション
技術を統合することにより、培地交換、培養停止等の時間的最適化を図る(新規生
産プロセスの開発)。
一方、骨髄には多機能の自己増殖能を有する幹細胞が存在する。ラットおよびヒ
ト骨髄細胞を用いて、in vitro で未分化細胞(幹細胞)の骨芽細胞への細胞分化を
おこす条件が確立されている。そこで、この培養骨髄細胞研究を、種々担体を用い
て行い、担体上での細胞活性を維持する条件を決定する。
また、骨髄には、このような骨芽細胞へ分化するのみならず、最近では肝細胞等
のこれまで思いもつかなかった細胞への分化することが知られている。そこで、こ
の担体を用いて細胞活性を効率よく維持する条件下でのバイオリアクター開発を
目指す。
3)組織工学を応用した各種デバイス化技術の開発
- 14 -
デバイス化技術の開発のための具体的な方策は、
まず、目的臓器の幹細胞、前駆細胞を含めた複数種類の細胞において遺伝子導入
を中心とする細胞工学を駆使し、本来の臓器組織の機能を強化、あるいは特殊機能
化する生体外細胞操作の基礎研究を行う。
次に、従来の人工臓器にこれらの幹細胞、前駆細胞を含めた複数種類の細胞、複
数機能をもつマトリックスなどを導入し、複合型ハイブリッド人工臓器を作成し、
細胞外環境設計による組織工学の基礎研究を行う。
これらの生体外細胞操作と細胞外環境設計を駆使し、本来の臓器組織の機能をさ
らに強化、あるいは特殊機能化する機能やホルモン、サイトカイン、代謝物質等を
介する組織内・組織間コミュニケーション機能を付与させ、本来の各臓器機能を凌
駕する機能を有する複合型ハイブリッド人工臓器を作成する。また、新たな組織構
造形成が困難な臓器では、生体外細胞操作により機能を強化し、目的細胞に分化さ
せた複数種の細胞を細胞移植することにより臓器機能を向上させる。
最終目標として、半永久的埋め込み型バイオ人工臓器を目指し、自己由来組織ま
たは生体にとけ込みうる人工組織に、複数種の自己由来細胞または抗原性を制御し
た他家由来細胞を付加し、生体組織と同等以上の強化機能を有する人工組織ユニッ
トを形成する。
①皮膚、神経、骨系
a.線維芽細胞機能向上及び末梢神経再生による人工真皮の開発
人工真皮の開発においては、褥創のような固い組織が必要である場合や、通常の
柔らかい皮膚組織が必要である場合等の選択肢があるため、線維芽細胞の機能向上
が最も重要である。
そこで、本研究においては、人工真皮の開発にあたって、線維芽細胞に種々の機
能を付与し、必要に応じた固さに調節可能な新しいタイプの人工真皮を開発する。
即ち従来から用いられてきた線維芽細胞に加え、種々の細胞成長因子(とりわけ上
皮細胞に影響をもたらすもの)の発現は残し、線維芽細胞自体は増殖能を抑制する
ものを細胞生物学的手法にて作製する。さらに、真皮構築に関与するマトリックス
として従来の生体吸収性高分子材料に、種々の機能を線維芽細胞に対して付与する
ことのできる糖鎖を結合させ、新しいタイプの高分子マトリックスを開発し、さ ら
に再生技術を組み込んだティッシュエンジニアリングによる末梢神経、皮膚の再生
を行う。
これら線維芽細胞は周囲からの線維芽細胞遊走を拮抗的に阻害するものが望ま
しい。われわれはすでに、これに関する種々の因子を明らかにしており、遺伝子導
入を用いた新しい機能を有する線維芽細胞を添加した人工真皮を開発する。また、
この線維芽細胞は増殖能をほとんど有することがなく、臨床応用上の安全性を確保
しうるものである。
b.再生軟骨・全関節再生技術及び幹細胞組込型人工関節の開発
本研究において生体外で再構築させた軟骨様組織が実際の生体内で、周囲の軟骨
- 15 -
組織と適合するかどうか、軟骨組織としての生理的機能を発現するかどうか、摺動
特性や粘弾性などの機械的特性は軟骨組織として十分かどうかを、ヒトと関節の大
きさ、構造等が類似しているヤギを用いて検証する。この実験はヒトへの適用の前
段階としての前臨床試験と位置づけ、組織化学的、生化学的、機械工学的観点から
総合的な評価を実施する。
第 1 段階の臨床応用ステップとして、直径 10 ㎜ほどの軟骨欠損が自己細胞を用
いた再生軟骨組織移植により治癒することが可能かどうかを検証する。
また、将来の治療現場を想定して、患 者を長期間ベットに拘束させずに治療を行
うための各種支持器具を併せて開発する。この技術はティッシュエンジニアリング
的手法が人工関節置換術に代わる新しい治療法となるために最も重要となる基本
技術であり、臨床整形外科学、解剖学、人工関節学、バイオメカニクス、生体材料
強度学等の広い知識と経験を必要とする。
一方、幹細胞の骨芽細胞への分化は骨芽細胞のマーカーである
alkaline-phosphatase(ALP)や Osteocalcin (Bone Gla protein)の定量、およびこ
れら遺伝子の発現量により定量する必要がある。また、骨芽細胞前駆細胞や骨芽細
胞の組織上での同定には抗体を用いた免疫染色等の技術を必要とするが、我々は幹
細胞の細胞分化を定量、定性する関連技術をすでに開発している。
以上の当該技術ならびに関連技術を用いて、より強力に幹細胞を骨芽細胞へ細胞
分化させ得る培養技術の確立を目指す。これらの研究は予備実験としてラットの骨
髄を用いるが、主にはヒト骨髄を同意のもとに採取してヒト骨髄細胞を用いて行う。
②代謝系
a.3 次元細胞組織体を有するバイオリアクターを応用したバイオ人工肝臓の開発
本研究においては、タンパク吸着毒物の除去、血漿タンパクの補充等も行える肝
細胞 3 次元組織体を封入した全血液灌流型バイオ人工肝臓の開発を行う。細胞源と
して、従来から使用してきたブタ肝細胞に加えて、ヒト肝芽腫由来細胞、さらに出
来ればヒト肝幹細胞由来の細胞を用いたバイオ人工肝臓を試作し、それらの機能評
価を in vitro さらに in vivo で行う。
バイオ人工肝臓モジュール内には、100 億以上の極めて多数の細胞を必要とする。
また、他のティッシュエンジニアリングでもヒトの疾患の治療を目的とするため、
従来のマウスを対象とした基礎生物学研究では必要の無かった大量の細胞を扱う
必要がある。このため、細胞への酸素の供給等物質拡散・輸送の問題が重要になる。
これらの問題の解析、さらに解決する方策の研究を併せて行う。
具体的には、各種分画分子量を有する中空糸膜を用いて、バイオリアクターを試
作する。このバイオリアクターの中空糸内に肝細胞を封入し、バイオ人工肝臓とす
る。これを in vitro 灌流培養システムに組み込み、アンモニア、リドカインやガラ
クトース等の負荷試験を行い、モデル動物において頭蓋内圧の測定、また、培養液
中のアルブミンや血液凝固因子の増加量を測定することより、バイオ人工肝臓の解
毒能とタンパク合成能の評価を行う。さらに、肝不全モデル動物を試作バイオ人工
- 16 -
肝臓にて治療し、その有効性を評価する。
また、ブタ肝細胞を用いたバイオ人工肝臓をヒト患者に適用したとき、内在性の
レトロウイルスが患者に感染する危険性が指摘されているため、上記 in vivo 評価
実験の後、経時的にモデル動物のレトロウイルス感染の有無を評価する。大量の細
胞を封入したバイオリアクターに共通する問題とし、3 次元組織体形成法、灌流速
度、細胞への酸素の供給と酸素運搬体の問題、培養液組成の変化、細胞機能評価法、
細胞回収法等について検討する。
③循環器系
a.細胞シート積層化による 3 次元組織化を応用したバイオ人工心筋グラフト開発
重症心不全症例における不全心筋の心機能補助を目的とした組織工学を応用し
たバイオ人工心筋グラフトの開発として、3 次元の支持体は用いずにシート状の心
筋細胞を積層化するという新たなコンセプトで 3 次元の心筋組織の構築を試み、新
規の心筋組織モデルの構築および移植可能な人工心筋組織創成に必要な基盤技術
の確立も目指す。
このような最終目標であるバイオ人工心筋グラフトが開発されれば、現行の機械
的人工心臓や移植臓器の問題点を凌駕した理想的半永久的臓器となりうると考え
られる。
本研究においては、多数の心筋細胞シートの積層化を行い、その形態と機能を評
価する。また、心筋細胞シートあるいは重層化された心筋細胞シートに配向性をも
たせる新たな手法を開発することにより、より生体に近い組織の構築を行う。具体
的には、遊離した心筋細胞シートを伸展培養機により徐々に伸展させる、あるいは
培養皿表面を微細加工しあらかじめ心筋細胞シートに配向性を付与するといった
手法を検討する。さらに、それと平行してラット心筋梗塞モデルを用いた in vivo
での移植実験を行い、構築した心筋組織の生着・電気的結合の有無や移植後の心機
能評価を行い、最適な移植法を検討し、大動物実験を経て臨床応用を目指す。
b.血管組織工学技術に平滑筋細胞分化維持技術を応用した新しい小口径人工血管
の開発
血管内皮細胞・血管平滑筋細胞・外膜より成る全層性人工血管の開発は、恒久的
治療法として期待されながら、その開発が遅滞していた。そこで血管の拍動圧を感
受して血管と同様に伸縮し、生体組織に応力負荷を加えず、且つ経壁的な組織侵入
を可能にする、しなやかな管状の人工骨格の成型加工技術の開発もするとともに、
分子生物学的手法を組織工学に応用した血管内皮細胞・血管平滑筋細胞・外膜より
成る全層性人工血管の開発を行う。
血管の径圧依存性を低圧から高圧まで忠実に実現する成型加工技術を開発し、且
つ組織再構築を厳密に制御できる表面加工技術を開発する。さらに、血管内皮細
胞・血管平滑筋細胞・外膜より構成される全層性人工血管の技術開発を行う。
その際に、新生内膜増殖による内腔閉塞を防止するため、種々の成長因子を用い
て、その重要な因子である血管平滑筋細胞の脱分化を阻止し、分化度を維持する機
- 17 -
能を盛り込むことにより、小口径でも開存率の高い人工血管を作製する。細胞源と
しては、自己静脈より採取した平滑筋細胞を用いた大量の血管平滑筋細胞分化系を
確立し、応用する。
c.組織細胞工学を応用したハイブリッド人工心臓弁の開発
高齢化社会を迎えるに当たって、耐久性が高く患者の生活の質(QOL: Quality of
life)の高い人工弁の開発が望まれる。最近、ブタ大動脈根部を用いたステントレス
生体弁(Freestyle 人工弁)が開発され、臨床応用されているが、現状では長期使用
により、異種に基づく生体免疫反応により、石灰化や弁の劣化が依然問題となる。
そこで、このような異種生体弁に組織細胞工学を応用し、自己血管構成細胞を付着
させたハイブリッド人工心臓弁の開発とそのための基本的手法の確立を主たる目
標とする。
この研究では、最終目標として生体と同様の自己組織で構成される心臓弁を作成
し、自己幹細胞より分化誘導機能強化させた細胞または抗原性を制御した他家由来
細胞を付加することにより、生体組織に匹敵するハイブリッド人工心臓弁の開発を
目指す。
具体的には、まず現状で製品化されている異種生体弁をベースとし、自己静脈よ
り分化誘導し、抗血栓性や抗炎症機能を強化した増殖能を有する血管を構成する各
細胞で被覆したハイブリッド人工心臓弁を開発し、その実用化を目指す。さらに、
生体と同様の心筋組織構造マトリックスをポリラクなどの高分子材料を用いて人
工的に作成し、自己由来骨髄幹細胞(CMG cell, K Fukuda,JCI) より分化誘導した
自己血管細胞を充填したハイブリッド人工心臓弁を開発する。
このような最終目標であるバイオ人工心臓弁が開発されれば、現行の人工弁の問題
点を凌駕した理想的半永久的心臓弁となりうると考えられる。
4)組織工学により開発されたデバイスの安全性評価技術の開発
再生医療を定着させるため、3 次元培養組織の安全性及び機能評価技術の開発が
必要不可欠である。すなわち、使用する細胞、組織および細胞の足場となる基材
(scaffold)等、あらゆる素材の機能、有効性、安全性が担保されなければならな
い。このため、一般医薬品に求められる以上の品質、機能、安全性を正確に評価す
る方法が確立されなければならない。そこで 3 次元的に構築された組織を臨床試験
に移行させる際の安全性評価ガイドライン及び倫理基準を策定するための基盤研
究を行うことを本研究の目的とする。
Scaffold として用いられる医用材料上で、細胞は増殖ならびに分化機能に関して
様々な影響を受けることが予想され、その変化が品質、安全性に対して重要な問題
となりうる。そこで 3 次元培養に用いられる基材が様々な細胞の遺伝子発現に与え
る影響を調べ、発現プロファイルによる基材の評価系確立を試みる。Scaffold 用基
材、特に生分解性培養基材に関しては中間分解産物の細胞毒性、生体のアレルギー
性応答について安全性の評価を行う。
安全性の高い 3 次元組織の構築に際し、目的の細胞を組織から夾雑細胞の混入を
- 18 -
極力防いで迅速に単離することが重要となる。そこで骨髄や肝臓に存在する多能性
幹細胞をモノクロナル抗体を用いて単離濃縮する方法を確立する。また、遺伝子導
入により細胞機能を改変した細胞の Viability および機能安定性も安全性に深く関
わるため、遺伝子導入用ベクターの安全性を多様な指標で評価を行う。自家移植以
外の場合ではドナーに対する免疫応答が起こり一旦これら副反応が起こった場合、
同様の治療法は二度と成立しない。特にウィルスベクターを用いた場合ウィルス遺
伝子産物に対する免疫応答、各組織の変化等を安全性評価の指標として取り入れる。
また、当該医療の倫理的妥当性を判断するため疫学的調査等を実施する。再生医
工学の重要な要素である scaffold の安全性評価に DNA マクロアレイ、リアルタイ
ム PCR を用いた遺伝子発現解析が応用可能となることが期待され、網羅的かつハ
イスループットの評価系となりうる。未来医療の非臨床試験からヒト臨床試験への
移行に際し、科学的かつ倫理的側面からの客観的評価が行われ、未来医療の安全性
が確保されることになり、その定着を支えると共に、随伴する新産業の育成に貢献
する。
4.3.研究開発実施主体の体制
(1)研究組織及び管理体制
1)研究組織
①再委託先
・ 東京大学
・ 大阪大学大学院
・ 京都大学再生医科学研究所
・ 京都大学ウイルス研究所
・ 京都大学医学部
・ 京都大学大学院工学研究科
・ ㈱サントリー生物医学研究所
・ テルモ㈱
・ アンジェスエムジー㈱
・ 泉工医科工業㈱
・ 日本メドトロニック㈱
②研究協力先
・ 九州大学
・ 慶應義塾大学
・ 産業技術総合研究所
・ ナカシマプロペラ㈱
・ 新田ゼラチン㈱
- 19 -
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
㈱アドバンス
鐘淵化学工業㈱
スミス・アンド・ネフュー㈱
㈱高研
協和発酵工業㈱
旭光学工業㈱
オステオジェネシス㈱
ニプロ㈱
㈱ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング
㈱イニシアム
・
・
・
・
・
三菱ウェルファーマ㈱
帝人㈱
味の素㈱
三洋化成工業㈱
小野薬品工業㈱
・
旭メディカル㈱
研究体制は、東京大学・大阪大学・京都大学及び協力機関である産総研を拠点と
し、各大学及び各企業と協力し集中研方式で研究を実施する。各拠点間は強力な連
帯関係を構築することにより、より効率的に研究開発を行っていく。
新エネルギー・産業技術総合開発機構
(財)大阪科学技術センター
(研究実施責任者:組織細胞工学研究開発推進会議 委員長)
研究協力機関
東京大学
産業技術総
合研究所
京都大学
ナカシマプロペラ、新田ゼラチ
アドバンス、鐘淵化学工
協和発酵工業、旭光学工
テルモ、アンジェスエムジー、
ン、旭メディカル、三菱ウェル
業、スミス・アンド・ネ
業、オステオジェネシス、ニプロ、
泉工医科工業、日本メドトロ
ファーマ、帝人、味の素、三洋
フュー、高研、イニシア
ジャパン・ティッシュ・エンジニアリ
ニック
化成工業、小野薬品工業
ム
ング
大阪大学
サントリー生物医学研究所、
九州大学、慶應義
塾大学
- 20 -
(2)管理体制
管理法人である財団法人 大阪科学技術センターに、「組織細胞工学研究開発推
進会議」を設置し、当該会議委員長(東京大学 立石哲也教授)を研究実施責任者
とする。
研究実施責任者:(財)大阪科学技術センター 組織細胞工学研究開発推進会議
委員長、東京大学拠点リーダ−
立石 哲也
- 21 -
経理責任者
京都大学拠点リーダー
大阪大学拠点リーダー
産業技術総合研究所拠点リーダー
:(財)大阪科学技術センター 総務部
財団法人
会
長
岩田 博夫
松田
暉
三宅
淳
杉本 茂美
部長
大阪科学技術センター
専務理事
事務局長
総務部長
技術・情報振興部長
研究実施責任者
(組織細胞工学研究開発推進会議委員長)
組織細胞工学研究開発推進会議
各拠点会議
拠点リーダー会議
各分科会
(3)再委託先研究組織及び管理体制
1)大阪大学(分離・解析技術の開発、分化誘導・幹細胞増殖技術の開発、アク
ティブ細胞外マトリックスの開発、組織工学を応用した各種デバイ
ス化技術の開発)
総長
医学系研究科科長
事務長
大阪大学再生医療研究
プロジェクト実施責任者
慶應大学医学部
医学系研究科
九州大学医学系
研究科
薬学系研究科
基礎工学研究科
蛋白質研究所
生物工学国際交流センター
- 22 -
2)京都大学
総長
再生医科学研究所(アクティブ細胞外マトリックスの開発)
京都大学再生医科学研究所所長
3)京都大学
総長
京都大学再生医科学研究所
医学部(アクティブ細胞外マトリックスの開発)
医学部附属病院長
4)京都大学
医学研究科消化器外科
総長
ウイルス研究所(アクティブ細胞外マトリックスの開発)
京都大学ウイルス研究所所長
京都大学ウイルス研究所
生体応答学研究部門
5)京都大学
総長
工学部(アクティブ細胞外マトリックスの開発)
工学研究科長
事務部長
工学研究科高分子化学専攻
高分子物性講座高分子機能学研究室
6)東京大学(アクティブ細胞外マトリックスの開発、3次元組織培養リアクタ
ー技術の開発)
総長
工学系研究科長
事務部長
東京大学再生医療
研究プロジェクト
実施責任者
工学系研究科
医学部整形外科
7)(株)サントリー生物医学研究所(分化誘導・幹細胞増殖技術の開発)
役員会議
総務部長
SAB
CSO
社長
研究チーム
- 23 -
8)テルモ(株)(アクティブ細胞外マトリックスの開発)
経営会議
総合管理会議
経理部
社長
湘南本社
知的財産部
湘南センター
研究開発センター
開発企画部
開発プロジェクト
9)アンジェスエムジー(株)(分化誘導・幹細胞増殖技術の開発)
ライセシング
企画部
経営企画
法務
研究所
社長
研究開発部
臨床開発
薬事
総務
管理部
経理
人事
10)泉工医科工業(株)(組織工学を応用した各種デバイス化技術の開発)
大阪営業所
営業本部
商品企画部
役員会
生産開発本部
開発部
管理本部
11)日本メドトロニック(株)(アクティブ細胞外マトリックスの開発、組織工学
を応用した各種デバイス化技術の開発)
Medtronic Inc
Medtronic Cardiac Surgery
Medtronic Heart Valve
Research and Development
Medtronic
日本メドトロニック(株)(川崎)
Asia Pacific(川崎)
日本メドトロニック(株)
カーディアック・サージェリー事業部
- 24 -
12)(株)アドバンス(アクティブ細胞外マトリックスの開発)
社長
開発本部
開発部
新素材科学研究所
バイオ研究本部
細胞工学研究室
経理部
13)鐘淵化学工業(株)(3次元組織培養リアクター技術の開発)
ライフサイエンス研究所長
研究テーマリーダー
研究員
経理担当者・業務担当者
14)スミス・アンド・ネフュー(株)(分離・解析技術の開発、分化誘導・幹細胞
増殖技術の開発)
スミス・アンド・ネフュー本社
スミス・アンド・ネフュー研究所
スミス・アンド・ネフュー(株)
研究者
ティッシュエンジニアリング担当者
15)(株)イニシアム(組織工学により開発されたデバイスの安全性評価技術の開
発)
総務会計
代表取締役
資材調達
研究開発
16)(株)高研(アクティブ細胞外マトリックスの開発)
常務会
研究開発本部
学術室
研究所
管理本部
製造本部
製造3部
17)協和発酵工業(株)(分離・解析技術の開発)
社
長
医薬カンパニー
プレジデント
創薬研究本部長
東京研究所
再生医療グループ
医薬部門
総務課
- 25 -
18)旭光学工業(株)(アクティブ細胞外マトリックスの開発、3次元組織培養リ
アクター技術の開発、組織工学により開発されたデバイスの
安全性評価技術の開発)
QA室
バイオテクノロジー課
社長
ニューセラミックス事業部
技術開発部
経理部
セラミックス課
製造部
営業部
業務管理課
19)オステオジェネシス(株)(分離・解析技術の開発、アクティブ細胞外マトリ
ックスの開発)
取締役会
代表取締役
企画総務担当取締役
企画総務部
業務統括担当取締役
業務統括部
製品開発部
研究開発担当取締役
研究開発本部長
基盤技術部
20)ニプロ(株)(アクティブ細胞外マトリックスの開発)
社長
生産開発事業部
総合研究所
第六研究開発部
再生医療グループ
総務課
経営企画会議
管理部
品質保証課
試験課
21)(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(分離・解析技術の開発)
生体材料研究C
研究開発部
培養研究C
生産技術開発C
品質管理部
社長
管理統轄取締役
法務部
総務部
- 26 -
(4)組織細胞工学研究開発推進会議
団
体
名
東京大学
大阪大学
所
属 及
び 役 職(職名)
氏
名
大学院工学系研究科 教授
立石 哲也(委員長)
大学院工学系研究科 助教授
牛田
多加志
医学部 整形外科
教授
中村
耕三
医学部 整形外科
整形外科医
川西
誠
医学系研究科機能制御外科学 教授
松田
暉
医学部遺伝子治療学 教授
金田
安史
医学系研究科臓器移植学
白倉
良太
蛋白質研究所蛋白質化学構造 研究部門 教授 関口
清俊
医学系研究科神経生化学
教授
基礎工学系研究科
教授
祖父江 憲治
化学工学分野反応化学工学 田谷
正仁
教授
薬学系研究科神経薬理学
京都大学
教授
馬場
明道
医学系研究科加齢医学 教授
荻原 俊男
医学系研究科病態情報内科学 教授
堀
生物工学国際交流センター 教授
吉田
敏臣
医学系研究科器官制御外科 教授
吉川
秀樹
生物工学国際交流センター 助教授
高木
睦
医学系研究科遺伝子治療学 助教授
森下
竜一
医学系研究科機能制御外科学 講師
澤
再生医科学研究所
岩田
教授
再生医科学研究所
再生医科学研究所
組織工学部門 教授
教授
正二
芳樹
開
博夫
祐司
田畑
泰彦
ウイルス研究所 教授
淀井
淳司
再生医科学研究所
助教授
宿南
知佐
再生医科学研究所
助教授
富田
直秀
ウイルス研究所 生体応答学研究部門
助教授 中村
肇
ウイルス研究所 生体応答学研究部門
助手
増谷
弘
医学部 消化器外科 講師
猪飼
伊和夫
大学院工学研究科
伊藤
紳三郎
高分子化学専攻 教授
東京工業大学
大学院 生命理工学研究科 教授
赤池
敏宏
東京女子医科大学
医用工学研究施設
岡野
光夫
新岡
俊治
清水
達也
教授
小児外科 講師
先端生命医科学研究所 助手
- 27 -
東京医科歯科大学
大学院 循環制御学 教授
磯部
光章
慶應義塾大学
医学部 生理学教室 教授
岡野
栄之
慶應義塾大学
医学部 病理学教室 助教授
梅澤
明弘
循環器内科
講師
福田
恵一
大学院医学研究科
頭頚部 感覚器外科学講座 上田
名古屋大学
実
教授
医学部 組織工学(JTEC)寄附講座 助教授
畠
九州大学
信州大学
大学院 医学系研究科 構造機能医学
松田
武久
整形外科 助手
脇谷
滋之
産業技術総合研究所
ヒューマンストレスシグナル研究センター
石井
保之
ティッシュエンジニアリング研究センター
三宅
淳
副センター長
ティッシュエンジニアリング研究センター
細胞工学チーム チームリーダー
原
教授
賢一郎
主任研究員
正之
ティッシュエンジニアリング研究センター
メディカルデバイスチーム チームリーダー
大串
始
ティッシュエンジニアリング研究センター
平松
宏之
中村
徳幸
主査
ティッシュエンジニアリング研究センター
動物実験代替システムチーム チームリーダー
湯元 昇
人間系特別研究体 副系長
ティッシュエンジニアリング研究センター
硬組織形成チーム
伊藤
敦夫
小沼
一雄
チームリーダー
ティッシュエンジニアリング研究センター
主任研究官
ティッシュエンジニアリング研究センター
陳
国平
研究員
ティッシュエンジニアリング研究センター
金村
米博
研究員
農業生物資源研究所
生体機能模倣チーム チーム長
玉田
靖
旭光学工業株式会社
ニューセラミック事業部
開発部長
小川
哲朗
ニューセラミック事業部
技術開発部セラミッ 松島
麻子
羽室
淳爾
ク課
味の素株式会社
研究員
基盤研究所
主席研究員
- 28 -
常務取締役開発部長
鈴木
仁
主任研究員
梅津
義一
代表取締役
石井
泉
実川
友史
北川
全
大野
山下
博之
憲司
ライフサイエンス RD センター 研究員
竹生
丹羽
一行
英夫
東京研究所
桜田
一洋
創薬研究所 テクノロジーマネージャー
美王
宏之
学術室 室長
伊藤
博
経理部 部長
阿蘇
雄
株式会社サントリー生物 取締役
主席研究員
医学研究所
西原
達郎
及川
信三
主席研究員
杉村
恵二郎
医療産業分社 分社長
杉浦
正和
黒川
祐人
株式会社アドバンス
株式会社イニシアム
研究開発グループ
マネージャー
オステオジェネシス株式 代表取締役
会社
小野薬品工業株式会社
創薬研究所
所長・理事
鐘淵化学工業株式会社
ライフサイエンス RD センター 基幹研究員
ライフサイエンス RD センター 研究員
協和発酵工業株式会社
株式会社 高研
三洋化成工業株式会社
再生医療グループ
主任研究員
医療産業分社 チーフケミスト
株式会社ジャパン・ティ 管理統括取締役
ッシュ・エンジニアリン
グ
スミス・アンド・ネフュ ティッシュエンジニアリング担当
大須賀 俊裕
木村
義尚
ー株式会社
泉工医科工業株式会社
開発部 部長
神谷
勝弘
帝人株式会社
医薬開発研究所 薬理研究部 部長
研究開発センター 専門研究員
研究開発センター 開発企画部 主任部員
上村
北嶋
清水
孝
隆
正樹
藏本
孝一
土居
伸年
松田
取締役大阪工場 伊藤
和久
典一
萬代
本部長 岡部
佳宣
信宏
株式会社 テルモ
ナカシマプロペラ株式会 ナカシマメディカル事業部 部長
社
ニプロ株式会社
新田ゼラチン株式会社
総合研究所
第6研究開発部 副主任研究員
総合研究所
第6研究開発部 副主任研究員
研究開発部 生物化学研究所
長・生物化学研究所長
研究開発部 生物化学研究所 主務
日本メドトロニック株式 カーディアック サージェリー事業部
会社
- 29 -
三菱ウェルファーマ株式 医薬総合研究所 主管研究員
近藤
淳
小谷
均
会社
アンジェスMG株式会社 取締役副社長
(5)管理法人
団体名
所属及び役職
氏名
(財)大阪科学技術セン 理事・事務局次長
ター
部長
小川
裕策
田村
格
技術・情報振興部
技術・情報振興部
技術・情報振興部
主席調査役
遠山
伸次
技術・情報振興部
調査役
栂村
哲男
技術・情報振興部
副長
脇坂
啓司
技術・情報振興部
副参事
森山
昌己
技術・情報振興部
研究員
加藤
真哉
技術・情報振興部
研究員
澁谷
功
技術・情報振興部
研究員
山中
ゆか
技術・情報振興部
研究員
上田
勇一郎
技術・情報振興部
研究員
國井
佳衣子
技術・情報振興部
研究員
戸井田 賢士
技術・情報振興部
研究員
横井
雅子
技術・情報振興部
研究員
金村
米博
技術・情報振興部
研究員
堀
技術・情報振興部
研究員
Mohammed
昌平
Omedul Islam
技術・情報振興部
研究員
池内
技術・情報振興部
研究員
森
技術・情報振興部
研究員
内村
正子
英樹
英一郎
5.実用化、事業化の見通し
5.1.事業全体についての実用化の見通し
当研究開発は、細胞組織工学技術の基盤技術として、幹細胞の分離解析技術、細
胞培養技術とマテリアル技術を開発し、さらにそれらの技術を用いて、骨、軟骨、
心筋、血管、神経、皮膚の再生技術を開発するものである。これら組織部位は再生
医療の中心的なものと考えられ、2010 年までの間に、最も大規模に実用化が期待
されている。幹細胞の分離技術は今後の細胞ビジネスの帰趨を占う重要な課題であ
るが、骨髄細胞を中心に基盤技術を確立しつつある。また、この幹細胞を培養して
形成した人工骨は臨床試験がすでに行われ、良好な結果を得るまでに発展した。骨
- 30 -
の臨床試験は日本が世界に先駆けて行ったもので、当プロジェクトの成果として特
筆されるべきものといえよう。軟骨も研究室から企業の開発レベルへ進んでいる。
心筋・心臓弁については、米国企業との共同で大型動物による実験にまで達してい
るなど、研究によって実用的な医療技術としての可能性が明確になりつつある。
5.2.要素研究開発項目毎の実用化の見通し
(1)体性幹細胞・前駆細胞の分離・増殖技術の開発
1)分離・解析技術の開発
幹細胞分離技術に必要な要素技術の実用化について述べると、間葉系幹細胞の無
血清培養法は実用化に極めて近い開発段階にあるといえる。無血清培養技術の確立
により、新規成体多能性幹細胞の分離に関する研究は急速に進展することが考えら
れ、株化の達成も期待できる。これら状況から、2005 年には成体多能性幹細胞の
大量培養法の確立も可能といえ、それ以降、成体多能性幹細胞デバイスから誘導さ
れた組織特異的幹細胞の前臨床試験の実施に移行できるものと考えられる。
さらに先駆的な分離法として遺伝子マーカーを用いた技術が期待されるが、現状
ではマーカーの種類に限界があり、細胞の性質の多様性に対応しておらず、さらな
る技術開発が必要な段階といえる。しかし、DNA マイクロアレイやそれに代わる
新規技術を用いた研究等の進展により、多くのマーカー遺伝子が発見される可能性
は高い。本研究開発によって、細胞の性質に対応した遺伝子マーカーが開発されれ
ば、研究終了後、速やかに実用化を達成することも可能といえる。
2)分化誘導・幹細胞増殖技術の開発
神経系再生に関する実用化の見通しを述べると、神経幹細胞の培養はヒト胎児由
来神経幹細胞については、大量培養技術の開発を行っており、2002 年までに技術
的な問題は解決されると考えられるが、社会的な配慮から、ヒト胎児由来神経幹細
胞の実用化には時間がかかると考えられる。近年の研究開発により、廃棄物として
処理されている胎盤や臍帯血から神経細胞に分化する幹細胞が分離される可能性
は極めて高く、実用化しうる細胞ソースとして期待されている。他方、末梢神経再
生デバイスに関しては、動物による神経再生効果の確認、ヒトでの臨床試験を経た
後、2005 年には承認、実用化を達成できる可能性は極めて高い。
骨格組織系の幹細胞及びマーカー分子に関する実用化の見通しについて述べる
と、特に歯槽骨再生に関わる幹細胞デバイスの実用化に期待が持てる。既に、骨形
成材料の開発はほぼ確立されている段階にあり、大型動物を用いた前臨床試験の評
価基準について検討から臨床試験を経て、2007 年上市を達成できる可能性は高い。
そのために、前臨床、臨床試験における細胞評価技術の開発が重要となる。
(2)細胞組織化技術の開発
1)人工細胞外マトリックス
- 31 -
神経分化用細胞外マトリックス:本細胞外マトリックスに含まれる生理活性物質
の分子実体の探求を行っており、これが明らかになれば、まずは研究用試薬、次ぎ
に組織細胞工学デバイス開発用マトリックス、さらに、神経再生用の医薬品へと発
展する可能性がある。
脂肪組織への分化誘導する細胞外マトリックス:コラーゲンスポンジに繊維芽細
胞増殖因子をイオン間相互作用で固定化した人工細胞外マトリックスは、マウスで
効率よく脂肪組織を誘導出来ることを明らかにした。また、一連の我々の研究結果
を考えると、得られた基礎的知見は、脂肪組織のみにとどまらず、多くの生体組織
の再生にも適用でき、再生医療を実現していくためには必要不可欠な支援技術であ
ると考えている。
未分化肝細胞を成熟させる環境:本プロジェクトで行ったマウスでの実験結果を
もとにすれば、将来的には手術検体からのヒト肝幹細胞分離も可能であると考えら
れ、人工肝臓や細胞移植治療などへの応用が可能になると思われる。
2)細胞外マトリックス高速スクリーニング機器
①イメージング表面プラスモン共鳴測定装置:試作 1 号機を完成させた。この機器
の汎用性は比較的高いため、理化学研究機器として市販できると考える。
②走査型近接場光学顕微鏡:開発された表面分光分析装置には汎用性があり、生体
関連物質の表面分析の実績を積み重ね、その有用性を実証することにより、今後の
細胞工学、材料表面化学、バイオマテリアル全般の研究に活用される。
3)骨、軟骨
培養骨については多孔質セラミックを担体とするハイブリッド人工骨および人
工関節表面の培養骨細胞による表面修飾が実用化段階に入り、数例の臨床応用に成
功した。採取した患者の骨髄細胞をセルプロセッシングセンターで上記担体を用い
て増殖させ、骨形成を行う技術は確立しており患者、医療機関および許認可機関等
を含む環境が整備されれば企業化は十分に可能である。一方、培養軟骨については
第一世代の軟骨細胞移植に関する細胞増殖技術は既に企業化されている。コラーゲ
ンゲルを担体とする軟骨細胞複合体は第二世代に属し、一部臨床応用されているが
これらの培養軟骨は必ずしも硝子軟骨になっておらず、関節軟骨としての性能を維
持するに至っていない。本プロジェクトで志向した培養軟骨は第三世代に属するも
のでセルソースとして体性軟骨細胞のほかに骨髄細胞中に存在する間葉系幹細胞
から分化誘導した軟骨細胞も対象とし、生体外で軟骨組織形成を達成することを目
標としている。現在、軟骨細胞が脱分化することを防止する技術が確立しつつあり、
また大動物(ヤギ)に対する実験モデルも完成しつつあり、第一、第二世代に比較
しより完成度の高い関節軟骨が得られているので臨床実験に入れる段階に到達し
ている。
- 32 -
4)循環器
細胞機能化技術の開発に関してはフィブロネクチンの自己会合ドメイン(フィブ
ロネクチンが細胞表面で重合して、線維を形成するために必要なドメイン)と EGF
のような増殖因子を組み合わせたキメラタンパク質を作製し、これが本来の増殖因
子の活性を保持しつつ、フィブロネクチンと同じように細胞外マトリックスに不溶
化されることを明らかにした。このようなマトリックス組込型の増殖因子は、拡散
性の増殖因子単独と比較して、創傷治癒を促進する活性が有意に亢進していること
を確認した。フィブロネクチンの自己会合ドメインとのキメラタンパク質の場合は、
間質に液性因子が組み込まれることになるが、他のマトリックスタンパク質の基底
膜結合ドメインや基底膜タンパク質の自己会合ドメインを利用すれば、液性因子を
基底膜に選択的に不溶化することができるはずである。
近年、マスコミ等で盛んに取り上げられている再生医療や細胞組織工学において
は、様々な細胞や組織に分化しうる胚性幹細胞(ES 細胞)を生体外や生体内で増
殖・分化させ、機能不全に陥っている組織・器官を再生させるというのが基本コン
セプトである。しかし、ES 細胞を望み通りの細胞に分化させるためには、まだま
だ多くの技術的な問題を解決する必要があり、また、各組織にも自己再生能と分化
能を保持した幹細胞(組織幹細胞)が存在しており、これらを生体組織から取り出
し、生体外で自由に増殖・分化させることも、ES 細胞の操作技術と同様、重要な
課題である。ES 細胞にしても、組織幹細胞にしても、自己再生能と分化能を保持
したまま増殖させるためには、各幹細胞に最適化された細胞外環境(ニッチェ;
niche)が必要であると言われている。つまり、正しい環境を与えてやらないと、
幹細胞を自由に増やしたり、分化させたりすることはできないのである。このニッ
チェの分子的実体の解明は今後の課題であるが、おそらく各幹細胞ごとに最適化さ
れた細胞外マトリックス環境と近傍の間質細胞から分泌される液性因子の両方が
必要であろうと想像される。液性因子を始めから組み込んだ人工細胞外マトリック
スを使ってこのニッチェを再構築し、これまで生体外での培養が困難であった組織
幹細胞(たとえば膵臓のランゲルハンス島細胞の幹細胞)を自由に生体外で増殖・
分化させることにより実用化が考えられる。疾患組織・臓器の代用となるインプラ
ント型デバイスを開発に関しては脱細胞化により作成された組織骨格(scaffold)
のみの弁に、自己の平滑筋細胞や血管内皮細胞の前駆細胞をハイブリッド化(複合
化)することにより、移植直後の血栓形成を抑制しながら,血管構成組織の再生を
誘導して、生体弁と同等の機能構造を獲得し、従来の材料では得られない半永久的
使用可能な組織工学弁の開発に必要な技術を開発することであり、組織工学弁の動
物実験にて石灰沈着の定量評価、石灰化を抑制する方法の確立し、10 年間石灰沈
着のない組織工学弁、血圧 300mmHg に耐久できる組織工学弁を作成し、組織工
学 弁 の 製 品 化 の た め に GMP ( Good Manufacturing Practice for Medical
Devices:医療用具製造工程規則)基準をクリアした組織工学弁を製品化するため
のプラントの作成、製造ライン化を確立する。心筋細胞グラフトに関しては心筋組
- 33 -
織再生医療における細胞ソースの開発→大量培養法→組織再構築法→移植法とい
う過程において組織再構築法のステップを我々が開発した温度感応性培養皿を用
いる独自の組織工学的手法を用いて行い、他研究班の研究開発成果との融合により、
自己細胞、同種細胞由来高機能心筋シートを作製し、大動物を用いた前臨床試験を
経て、臨床研究を開始する。これらに伴い 2006 年を目処に実用化の見通しである。
6.今後の展開(政策目標達成までのシナリオ)
(1)体性幹細胞・前駆細胞の分離、増殖技術の開発
1)再生医療の実用化に向けてのシナリオ(第1のシナリオ)
IT とバイオの最大の違いは、商品開発までに要する時間であり、競争力のない
標的を目標とした研究・開発では投資を回収することは難しい。再生医療も他の医
薬品同様に 10 年近い開発期間がかかると一般に考えられている。本事業は、再生
医療の標準化戦略であり、新薬黄金時代が到来すると予想される 2010 年に上市を
目標とする。再生医療の標準化とは、再生医療のターゲットするすべての組織を1
つの幹細胞を用いて治療することであり、これにより再生医療のコスト・ダウンが
可能となる。これは、すべてのパーソナルコンピュターに Intel のプロセッサーや
Windows のシステムが利用されているのに近似している。本事業では、安全性・
有効性・倫理の観点から ES 細胞ではなく成体多能性幹細胞を材料とすることを特
長としている。従って、成体多能性幹細胞の効率的な分離・培養技術に関するプラ
ットホーム技術を世界に先駆けて確立することが本研究開発の成敗を決定する。本
技術の開発により「臓器移植、組織移植等に対する医療費抑制を可能とする細胞組
織工学を基礎としたヒト組織の再生技術とそのための基礎的技術を早急に確立さ
せ、再生医療用製品生産に関わる産業の発展を促進させる事」が可能となる。
①臨床試験に入る時期
2005 年度以降に、免疫不全マウスなどを利用した前臨床試験を実施する。本前
臨床試験のデータ−を基礎として、2006 年度以降にセルプロセッシング・セン
ターを有する大学あるいは公的研究機関でトランスレーショナル・リサーチの
方式で臨床試験を実施する。トランスレーショナル・リサーチの状況を見て臨
床試験を実施する。臨床試験については、厚生労働省の Regulation が明示され
た時点で詳細な戦略を策定することが必要である
②製品の形態
幹細胞補充療法として用いることを第1の目標とすることから、純化した培養
成体多能性幹細胞が第1世代の商品となる。第 2 世代としては、培養成体多能
性幹細胞から誘導した組織特異的な幹細胞を純化したものが商品となる。機能
性細胞補充療法は、第 3 世代の商品と位置付ける。
③製品化の時期
2010 年に第1世代、第 2 世代の一部の上市を想定している
- 34 -
④販売形態等
図1に示したように、成体多能性幹細胞の分離・培養・純化を担い、組織特異
的な再生医療を進める企業やベンチャー企業に組織特異的な幹細胞への加工や
機能性細胞の加工を依頼するという形式により、組織別に個別的に進むと推定
される技術と競合することなくシナジーを形成した統合が可能になると推定さ
れる。現時点では、厚生労働省から細胞医薬に対する Regulation が明示されて
いないので、正確な販売形態方式は予見できない。
再生医療標準化開発戦略案
GMP
● 多能性幹細胞の分離・培養・
細胞製剤化
細胞製剤化
● 多能性幹細胞のサテライト・
ベンチャー・病院への供給
● サテライト・ベンチャー(
サテライト・ベンチャー(SV
SV)
)
の加工品の購入
● 多能性幹細胞・
多能性幹細胞・SV
SV加工品の販売
加工品の販売 GMP
循環器系
ベンチャー
臨床試験
実用化
GMP
GMP
造血系
ベンチャー
病院
医学部
神経系
ベンチャー
代謝系
皮膚
骨
ベンチャー ベンチャー ベンチャー
サテライト・ベンチャー
図1 再生医療標準化 開発戦略
※GMP:Good Manufacturing Practice for Medical Devices(医療用具製造工程規則)
2)再生誘導薬開発に向けてのシナリオ(第2のシナリオ)
成体の体性幹細胞は、ES 細胞や胎生幹細胞とは異なり患者自身の体内に存在す
ることから、合成化合物をはじめとする内科薬の創薬ターゲットとし利用すること
も可能である。体性幹細胞は組織中の存在比率が低いことから、従来から行われて
いる組織を用いた医薬探索では特異的な化合物を選別することは困難であった。こ
の課題を解決するには、組織中の幹細胞を培養に増幅した上で、医薬品の開発の指
標となるレポーター系などを組み込むなど、医薬品探索に有効なスクリーニング系
を構築することが必要である。このように成体多能性幹細胞に関するプラットホー
ム・テクノロジーは再生医療(細胞医薬)だけではなく、再生誘導薬(内科薬)の
開発に応用することが可能である。
①臨床試験に入る時期
2006 年以降
②製品の形態
- 35 -
従来の医薬品と同様の合成化合物あるいは、タンパク医薬
③製品化の時期
2010 年以降
④販売の形態
現在の医薬品と同様
(2)細胞組織化技術の開発
1)人工細胞外マトリックス
①神経分化用細胞外マトリックス
今後、本事業で見いだした細胞外マトリックスの、ヒト胚性幹細胞の神経への分
化誘導能、さらに、体性幹細胞への効果等の検証を進め、2003 年までには、研究
室レベルでの実証研究を終了させることができる。また、この細胞外マトリックス
に含まれる生理活性物質の分子実体の探求を開始しており、これについては今秋ま
でに終了する計画である。
②脂肪組織への分化誘導する細胞外マトリックス
本プロジェクトでは、コラーゲンスポンジに繊維芽細胞増殖因子をイオン間相互
作用で固定化した人工細胞外マトリックスを脂肪組織の再生に最適化してきた。一
方では、同様のアイデアで行っている一連の研究で、他の多くの組織にも用いるこ
とが出来ることを明らかにしており、今後再生医療を実現していくための必要不可
欠な人工細胞外マトリックスとなり、近い将来実用化されると考える。
③未分化肝細胞を成熟させる環境
将来的には手術検体からのヒト肝幹細胞分離も可能であると考えられ、人工肝臓
や細胞移植治療などへの応用が可能になると思われる。
2)細胞外マトリックス高速スクリーニング機器
①イメージング表面プラスモン共鳴測定装置
試作1号機を完成させた。この機器の汎用性は比較的高いため、理化学研究機器
として市販できると考える。2002 年度には、即効型地域新生コンソーシアム研究
開発事業へと引き継ぎ、現在市販機の開発を進ている。2002 年度 10 月期には市販
機1号の開発を終了し、秋の学会シーズンには会場での展示さらに販売することを
計画している。
②走査型近接場光学顕微鏡
1年間の開発研究により作製された装置は、すでにタンパクやDNA一分子にア
クセスし、サブミクロンのスケールで単一分子分光・分析する能力をもっている。
今後、実用化に向けてさらに空間分解能と感度を向上させ、より広範囲の生体試料
について信頼性のあるデータ収集ならびに精細な表面マッピングを可能にするこ
とが重要であり、このために、光学的、機械的、制御要素技術の改善を図る。さら
に応用検査技術として確立するために、分析機能を厳選した簡易装置と画像解析等
- 36 -
のソフト開発を行うべきである。これにより、再生医用材料の分子レベルでの表面
機能解析ツールが、研究用としてのみならず、実用使用できるようになるであろう。
3)骨、軟骨
①培養骨
a.ヒト骨髄細胞中の間葉系幹細胞から骨芽細胞を分化・誘導し、リン酸カルシウ
ム又は水酸アパタイト多孔質体を細胞担体として生体外で培養して骨類似体を作
製した後、体内に移植する動物モデルは産業技術総合研究所ティッシュエンジニア
リング研究センターおよび旭光学、オリンパス光学の共同研究で完成しており臨床
応用は近い。
b.コラーゲン・水酸アパタイト・リン酸カルシウムマイクロビーズを担体とし、
培養骨芽細胞と共に骨中にインジェクションするタイプの骨再生は産業技術総合
研究所ティッシュエンジニアリング研究センターとアドバンスで動物実験が行わ
れ、2∼3 年中に臨床応用可能である。
c.セラミック人工関節や多孔質表面を有する金属又はセラミック内固定器具の表
面に骨芽細胞を増殖させ体内にインプラントする骨再生技術は産業技術総合研究
所ティッシュエンジニアリング研究センターによって実用化され、今後独立した
CPC による企業経営が行われるであろう。
②軟骨
軟骨細胞移植は既に企業化している。コラーゲンゲルに埋入した軟骨細胞移植は
臨床実験が実施済みであるが、両者共にネガティブな結果も報告されており、しっ
かりした動物モデルの裏付けが必要である。産業技術総合研究所ティッシュエンジ
ニアリング研究センター が主導して複数臨床現場の実証実験が計画されており、1
∼2 年後に結論が出る。産業技術総合研究所ティッシュエンジニアリング研究セン
ターの PLGA・コラーゲン多孔質担体中での回転培養、静水圧刺激培養による生体
外軟骨形成は細胞の脱分化防止策として有望であり、東大の大型動物モデル(ヤギ)
の完成を待って1年後には臨床実験に入り、2∼33 後には治験に移行する予定で
ある。
4)循環器
細胞の分離・増殖技術の開発に関しては幹細胞の効率的増殖技術の開発、及び心
筋再生および心組織再構築技術の開発に関しては着手した。細胞機能化技術の開発
に関してはラミニンやフィブロネクチンをモデルとして、細胞外マトリックスの接
着タンパク質の構造と機能を調べる一方、人工的な細胞外マトリックスを利用して
細胞の増殖・分化を人為的に制御する新しい方法論の開発を進めた。2003 年度に
は本事業ので分離される心筋細胞の発生、分化、増殖、生存維持に関わる遺伝子及
び抗原抑制遺伝子をヒト幹細胞に低侵襲・高効率に遺伝子導入できるベクターを確
立し心筋細胞への分化誘導を促進するとともに、免疫寛容を獲得した心筋細胞を開
- 37 -
発する。さらに、2005 年度にはさらに細胞機能化技術の開発に関してはラミニン
やフィブロネクチンをモデルとして、細胞外マトリックスの接着タンパク質の構造
と機能を確立し、人工的な細胞外マトリックスを利用して細胞の増殖・分化を人為
的に制御する新しい技術を開発し、組織再生を行う。これは、構造・性質の全く異
なる2種類の成長因子をコラーゲン結合性に改良でき、ほとんどの成長因子に適用
可能な技術としての将来、商業化が有望は技術である。また、成長因子そのもので
は治癒しない難治性皮膚損傷の治癒効果を確認し、再生医療材料としての実用化を
目指す。組織工学を応用したデバイス化技術及びそのための装置の開発に関しては
2004 年度までには循環器領域においてさらなる治療効果改善を目指して組織工学
的手法により同種細胞由来心筋細胞から作製した心筋組織を移植する開発研究を
行い、本研究終了時 2006 年度には、心筋グラフトや組織工学生体弁が開発され、
実際の臨床での治験が開始されることを想定している。更に 3 次元モジュール化に
よるバイオ人工心臓の開発にも着手する。
【産業化・市場性】
本テーマは、基礎研究と臨床応用を結ぶ架け橋となる基本技術であり、その成果
は移植可能な心筋細胞の安定供給を通じて医療費の大幅削減と患者の QOL を飛躍
的に高めるものである。医療費削減という経済効果のみならず、再生医療に関わる
産業全体へ基本技術を提供することにより、中 -長期的な経済的波及効果が大きい。
2005 年度末までに、上記 2 項目の基礎技術が実用化され 2006 年度には確立した
技術を基に他の関連テーマにさらに推し進めることが期待される。
各種分離・加工を行った同種ヒト細胞そのものをビジネス展開することは、一部
の研究開発用を除いて現在までにほとんど存在しない新しいタイプの産業である。
既存の企業では、研究開発の柔軟性や機動力の面で産業展開しにくい側面がある。
細胞ビジネスに特化した、新規ベンチャー企業の創出を視野に入れた実用化を計画
する。
本プロジェクトにより開発される技術を用いれば、死因のトップを占める心筋梗
塞、心不全に対して健常な心筋細胞を提供できる可能性があり、年間国内だけでも
数百万人のニーズに応える医療技術となり得るであろう。取り組むベンチャーカン
パニーにおいてもこのプロジェクトが成功すれば新規雇用者と収益の増加は間違
いないといえる。本プロジェクトのうち導入技術についてはすでに開発が進んでお
り、また臨床グレード用のベクター生産の基礎も完成している。し たがって焦点は
ヒト心筋細胞への応用であり実現の可能性は極めて高いと予想される。
さらに組織工学を応用したデバイス化技術に関しては、本研究により、従来の材
料では得られない生体適合性が高く、長期使用可能な人工弁が開発されると、心 血
管系疾患の根本的治療が可能になり、重症疾患の生存が可能になるほか、社会復帰
の道が広がる可能性が期待される。さらにハイブリッド化技術により得られる生体
適合性が高い生体埋込み医用材料は、生体埋込み型センサー等の幅広い医用材料へ
- 38 -
の適用が可能と考えられる。また、ヒトの臓器と同等な高度な機能を持つ人工肺、
人工心臓等の人工臓器の開発の基盤的な技術になると推察される。市場規模に関し
ても現在実施されている心臓外科領域において人工弁は、機能不全に陥った心臓弁
の代用物として弁膜症治療に大きな役割を果たしている。人工弁は大きく機械弁と
生体弁に分類される。日本では人工弁を用いた治療において、機械弁の占める割合
が多く、現在使用されている人工弁の約 85 %を占めている。米国では機械弁の使
用比率は約 45 %前後、ヨーロッパでは約 70 %といわれており、 高齢者に対す
る適応などが定着して、生体弁の割合は年々高くなっている。現在、人工弁は年間
一万個程度使用されており、その市場規模はは百億円規模の市場規模があると考え
られている。従って細胞分化が制御された自己細胞によるバイオグラフトを早急に
確立することで、この分野における先導的な立場を維持できるものと期待される。
7.中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期
2002 年度に事後評価を実施する。
8.研究開発成果
8.1.事業全体の成果
当プロジェクトは、再生医療の実現を目指し、ヒト細胞の組織培養によって組織、
臓器機能を有する医療用デバイスを製造する技術を開発するものである。研究開発
においては、幹細胞の分離解析技術、細胞培養技術と各種組織への分化誘導が可能
となる材料等を開発した。これら技術を応用して、骨、軟骨、心筋、血管、神経、
皮膚の再生基礎技術を開発した。当プロジェクトにおいて扱った上記組織部位は再
生医療を実用化する上で中心的なものと考えられ(再生医療の国内予想市場の
90%以上を占める)、2010 年までの間に、最も大規模に実用化が期待されている。
臨床応用まで最も早く進んだのは骨細胞の培養であり、骨髄細胞から間葉系幹細胞
を分離してセラミック材料からなる人工骨上で培養して骨への分化誘導を行い、患
者本人の骨によって覆われた人工関節を形成する技術を開発した。この人工関節を
患者に移植する臨床試験もすでに開始しており、良好な治療成績をおさめている。
当該技術は当プロジェクトチームが世界に先駆けて行ったものであり、米国におい
ても未だ開発されていなかったものである。軟骨も研究室から企業の開発レベルへ
進んでいる。神経細胞についても 1 ヶ月以上の培養試験を行い、長期培養条件を確
立したことも先端レベルである。心筋・心臓弁については、米国企業との共同で大
型動物による実験にまで達しているなど、研究によって実用的な医療技術としての
可能性を明らかにできた。総じて細胞の取り扱い、医療用デバイスの形成のための
基盤を作り、今後の世界レベルの開発・産業化に対応できる基礎技術を確立できた
と考える。
- 39 -
8.2.研究開発項目毎の成果
(1)体性幹細胞・前駆細胞の分離・増殖技術の開発
本事業では、多分化能力を有する幹細胞を探索・取得する技術を開発し、組織を
分化誘導により形成する方法の開発を目指した。骨再生については、患者本人の骨
髄から得た間葉系幹細胞を用いて臨床応用を行い、その有効性を検証した。特に本
研究開発では成体型多能性幹細胞の分離技術及びその分化誘導制御評価技術の開
発を目指した。以下に結果の概要を述べる。
1)分離・解析技術の開発
中枢神経系幹細胞の分離と培養に関しては、ヒト神経幹細胞(human neural
stem cell :以下 HNSC)の生体外での培養技術の確立のため、EGF、EGF2 ならび
に LIF を含む無血清培地で浮遊性の細胞塊( neurosphere)として増幅させる方法
(neurosphere 法)を応用するための周辺技術の開発に着手した。HNSC の多分
化能を客観的かつ再現性よく評価するための蛍光免疫組織学的評価法を開発し、神
経細胞マーカー、グリア細胞マーカーを用いた多重染色法による評価方法を標準化
させた。これら開発、標準化された周辺技術を用いて、約 250 日間におよぶ長期
間の HNSC の持続培養を行った。そのプロセスにおいて、神経細胞へ分化能力に
変化のない細胞が、理論値で 100 日間で 100 万倍程度の増幅を行うための培養条
件(培養方法、培地組成)を確立させた。
骨格組織系の幹細胞及びマーカー分子の探索・同定に関しては、骨再生剤として
事業化が試みられている成体型多能性幹細胞の一つである間葉系幹細胞(MSC)
を用いて検討を行った。具体的には、無機系生体分解性材料からなる多孔質内での
MSC の培地に分化誘導物質としてβ-グリセロリン酸、デキサメタゾン、L-アスコ
ルビン酸等を添加することにより骨細胞を誘導する技術を開発した。未分化の MSC
から骨系細胞への分化は、アルカリフォスファターゼ、オステオカルシンの発現量
を測定することにより確認した。
遺伝子マーカーを用いた分離技術に関しては、遺伝子機能の相互作用をマーカー
とした全く新規な細胞識別技術の開発を行った。幹細胞の分化誘導過程には外的な
変化を伴わないことがあるため、当研究開発では、遺伝子発現の変化に着目し、分
化誘導過程にある細胞の遺伝子発現状態を評価する技術を開発した。具体的には、
ガラス基板に非共有結合によって半固定化した DNA をその上に付着した細胞に確
実に導入する技術、「固相系トランスフェクション技術」を応用し、多種のレポー
ター遺伝子を細胞に一括導入できる細胞チップの開発に成功した。本技術を発展さ
せることによって、幹細胞の分化過程が詳細に評価できるようになり、遺伝子マー
カーを用いたターゲット幹細胞の分離が可能になると考えられる。
骨髄間葉系幹細胞の分離と再生心筋細胞の開発に関しては、有血清(10%FSC)培
地の培養と同等の MSC を培養可能な無血清培地を開発した。その培養技術を用い
- 40 -
て、ヒト骨髄液由来単核球細胞や臍帯血中から新規幹細胞の探索を行った結果、臍
帯血には CD45 陰性/GlycophorinA 陰性の細胞が微少(単核球中 0.01%以下)に存
在し、これらは血球系細胞と比較しても小さい細胞集団であることを見出した。こ
れらの細胞は、従来から知られている間葉系幹細胞より上流に位置している可能性
が高く、より高い多分化能を有していることが期待できる。
2)分化誘導・幹細胞増殖技術の開発
骨・軟骨を再生するに当たっての細胞ソースとして、他家細胞ではあるが未分化
細胞であり、さらに免疫的にも抗原性が低いと考えられているヒト羊膜上皮由来細
胞に着目し、その可能性を検証した。その結果、ヒト羊膜より羊膜上皮細胞の分離
技術を開発し、その分離した羊膜上皮細胞を骨分化培地、軟骨分化培地培養したと
ころ、それぞれ骨芽細胞様細胞、軟骨細胞様細胞へ分化させることに成功した。一
方、樹立した間葉系幹細胞をモデルとして、軟骨分化を誘導するための間葉系幹細
胞の活性化技術を開発すると共に、腱特異的分子マーカー(Tenomodulin (TeM))
を同定した。
幹細胞の効率的増殖技術の開発と心筋再生および心組織再構築技術の開発を行
い、ヒト培養細胞株培養上清に存在する造血幹細胞に対する(新規)増幅因子の部
分精製に成功した。またマウス MSC の増殖促進因子のスクリーニングを行い、あ
る種の増殖因子の組み合わせが有効であることを確認したが、新規有用因子の同定
には至らなかった。マウス MSC に対する心筋分化誘導因子のスクリーニングを行
ったが、有用な候補因子を得ることはできなかった。マウス ES 細胞に対する心筋
分化誘導因子のスクリーニングを行い、BMP-2/4 が促進効果を有することを明ら
かにしたが、新規有用因子の同定には至らなかった。心不全状態特異的に発現亢進
する遺伝子として同定した OSF-2 が接着因子として機能を有することを確認した。
血管新生遺伝子を用いた生体内再生遺伝子治療臨床研究については、阪大病院に
おいて実施されているところであるが、このような再生治療をさらなる難病治療に
まで拡大することを目指して、非侵襲的な遺伝子導入法の開発とそれを用いたゲノ
ムライブラリーの大量・迅速スクリーニングによる治療用遺伝子の分離を試みた。
遺伝子導入法としてウイルスベクターと非ウイルスベクターの両者の長所を兼備
する HVJ-E ベクターの開発に成功した。このベクターは細胞融合能をもつ HVJ
(hemagglutinating virus of Japan;Sendai virus)のゲノムを不活性化し、このエン
ベロープ内に遺伝子を封入し、ほぼあらゆる細胞、多くの生体組織に導入可能なベ
クター系である。このベクターが複数の遺伝子を同時に同じ細胞に高効率で導入可
能であることがわかり、また10分程度の短時間に遺伝子導入が可能であって細胞
毒性も低いことがわかった。そこで血管新生遺伝子のスクリーニングのため初代培
養のヒト大動脈内皮細胞にヒト心臓のゲノムライブラリーを導入し、細胞増殖アッ
セイを施行し、2度のスクリーニングによって候補遺伝子を得ることに成功した。
- 41 -
(2)細胞組織化技術の開発
1)アクティブ細胞外マトリックスの開発
幹細胞から機能を有する分化細胞へと誘導するための細胞外マトリックスの開
発をすすめた。先ず、神経細胞への分化誘導する細胞外マトリックスの研究では、
マウス頭蓋骨由来のストローマ細胞である PA-6 細胞からヘパリン溶液にて回収し、
この成分を固定化した組織培養フラスコ上でマウス胚性幹細胞を培養すると高効
率に神経細胞に分化誘導出来ることを明らかにした。さらに中枢神経由来の細胞へ
の影響についても研究を進めた。
基材への細胞接着、培養、組織再生に至る全過程の初期段階を決定する重要な表
面機能について、材料開発、生体分子機能の研究に指針を与え、その実用展開を支
援する機器の開発を行った。細胞外マトリックス開発のために必要な機器の開発、
並びに、その計測手法の研究を行った。表面プラズモン共鳴法の欠点を克服する方
法として、分光も行える走査型近接場光学顕微鏡の開発と計測技術の開発を行った。
物理的・化学的刺激因子による組織再生に関して、チオレドキシンの抗酸化作用
が、組織障害の緩和に効果があることに着目し、本プロジェクトでは種々の組織再
生修復に及ぼす効果を評価した。その結果、神経細胞の分化・再生にチオレドキシ
ン過剰発現・チオレドキシン誘導剤・組換え型チオレドキシン投与が有効であった。
増殖因子の徐放化機能を有する細胞外マトリックスに関して、脂肪組織への分化
誘導する細胞外マトリックスとして、繊維芽細胞増殖因子を固定化したコラーゲン
スポンジ有効であることを明らかにした。マ ウスをモデル動物として用いて、未分
化肝細胞の分離とその増殖、分化した成熟幹細胞へと誘導する細胞外マトリックス
を含めた培養環境の決定を行った。
均一に培養細胞を播種することが可能な3次元培養担体の開発を目的として、厚
み1cm以上のコラーゲンを材料としたハニカムスポンジを作製する方法を確立
した。また、再生軟骨と骨との接合部分の3次元培養担体の開発を目的として、多
孔質で球状のアパタイトビーズの大量製造装置を開発し、最適条件を確立した。ま
た、バイオビーズの基礎的な細胞接着・増殖促進能を観察し、最適な粒子サイズを
決定した。
組織幹細胞および実質細胞の生体内外での増殖を人為的に制御するため、本来拡
散性の増殖因子を人為的に不溶化した高機能人工細胞外マトリックスの構築技術
を開発した。具体的には、基底膜の構成分子の一つであるアグリンの基底膜組み込
みドメインを利用し、このドメインとのキメラ化によって様々な液性因子を基底膜
に選択的に不溶化する方法を開発した。実際に肝細胞増殖因子 HGF とアグリンの
基底膜組み込みドメインとのキメラタンパク質が HGF の生理活性を保持したまま、
基底膜に不溶化されることを実証した。
既存のハイドロキシアパタイト人工骨(アパセラム:気孔率0-60%)とラット骨芽
様細胞及びヒト骨髄を用いた培養実験により、緻密体、多孔体ともに良好な細胞の
付着性、増殖性を示した。さらに気孔率の高いハイドロキシアパタイトブロック(気
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孔率60-90%)を粉砕し、整粒して得た顆粒状基材はバイオリアクターに充填可能
で、しかもラット骨芽様細胞は顆粒の機能内部まで侵入し増殖可能であった。実際
の臨床を想定した長さ50mmのアパセラム円柱(気孔率:50%)の全周に骨芽細胞
を均一に付着増殖することができた。本技術を応用して、顆粒、ブロックなど様々
な形状を有する人工骨表面に骨を形成することに成功した。
成長因子にコラーゲン結合性を付与するタンパク工学的設計法の確立とコラー
ゲン結合性成長因子の組織再生効果を検討した。コラーゲン結合性配列としてヒト
フィブロネクチンの特定配列を選択し融合タンパクを設計した。基本的にすべての
種類の成長因子をコラーゲン結合型に改良する技術が確立したEGFおよびHG
Fについて、コラーゲン結合性融合タンパクの大量生産が可能となり、精製技術も
確立した。さらに強い組織親和性、活性持続性を証明成長因子そのものでは治癒し
ない難治性皮膚損傷を治癒する効果を立証した。コラーゲンスキャホールドとの併
用も効果的で、循環器領域への適用では、損傷血管部位への集積性・持続性を確認
した。
細胞親和性の高い生分解性材料で、末梢神経再生部位を保護する外筒部と、再生
する神経軸索に伸展する方向性を与え、最短距離で反対側の接続端に到達すること
を可能にする繊維状構造体を持つ末梢神経再生用デバイスを作製した。このデバイ
スにより、大動物(ビーグル犬)の深腓骨神経 35mm 欠損を 12 週間で再生した。
骨などへの充填後の占有体積を最小限にするため、出来るだけ多孔質で均一なハ
イドロキシアパタイトが望まれる。各種ハイドロキシアパタイトを用いて液体窒素
に滴化することにより上記条件を満足する多孔質ビーズの開発に成功した。
無機系生体分解性材料であるβ-TCP(β―リン酸三カルシウム)の多孔体とラッ
ト骨髄由来間葉系幹細胞と共培養し、分化誘導をかけた複合体を作成した。この複
合体をラット皮下に移植したところ、成熟した骨組織の形成が確認された。さらに
骨系細胞への分化能を獲得した間葉系幹細胞と、細胞の成長の足場となる無機系生
体吸収性材料(β-TCP; β―リン酸三カルシウム)、さらに骨形成系の細胞の増殖、
分化促進効果を有する成長因子を豊富に含む多結晶板結晶(PRP)とを混合して
流動性を有する組成物を作成した。
2)3次元組織培養リアクター技術の開発
静水圧負荷技術を用いた3次元組織培養リアクターを開発し、このシステムを用
いることにより、生体外で培養することにより脱分化した線維芽細胞様軟骨細胞を
正常な機能を持つ軟骨細胞に再分化させる方法を確立した。すなわち、骨膜を用い
ない固定が可能な力学的強度(圧縮強度、縫合性)を有し、周辺組織(骨、軟骨)
との整合性を有する軟骨モジュールを体外培養出来る装置を開発した。その装置の
特長は、装置全体がオートクレーブ滅菌可能な構造を有すること、長期間の周期的
高圧力負荷に耐える構造を有すること、生体本来の圧力パターンの再現が可能であ
ること、自動化運転が可能であることである。その長期無菌培養が可能な静水圧培
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養装置を作製し、その稼働性(無菌培養性、加圧性)を確認した。また同装置を用
いた至適加圧培養条件を絞り込んだ。
多孔質ハイドロキシアパタイトは生体適合性と骨伝導能をもち人工骨として広
く臨床で使用されているが、自家骨のような骨誘導能がないため適用が限定される
場合がある。我々は骨誘導能を有する培養骨を開発するため、多孔質アパタイト上
で骨組織由来細胞の三次元培養法を検討した。さらに高密度な培養骨を得るために
バイオリアクターによる三次元高密度培養法を開発した。気孔率80%の多孔質ハイ
ドロキシアパタイトを粉砕して得た顆粒(直径1-2mm)を充填したラジアルフロ
ー型バイオリアクターで培地を循環しながら、ラット骨髄由来骨芽様細胞
(UMR106)を培養したところ顆粒内部まで細胞が侵入していることが確認でき
た。
移植用培養組織(自家培養)の作製は、テーラーメイド的な生産プロセスである
ため、患者ごとに細胞特性(活性、寿命)が変化したり(原料の不均一性)、患部
の大きさが個々で変わるために(生産量と生産時間の変動)、生産者側においては
定量的評価に基づく情報(指標パラメータ)の提供による安定した生産システムの
構築が望まれている。そこで、皮膚角化細胞を中心に自己組織化過程の速度論的な
現象解析する増殖予測ツールの構築、皮膚培養に適した皮膚組織培養システムの試
作を目指し、2 次元的速度論モデルの構築と種々の培養条件による有用パラメータ
評価(細胞増殖シミュレータの構築)、および増殖・分化現象を非襲撃・非破壊で
把握するための観察ツールを作成した。このツールを用いて培養の定量的に評価す
るため、継代培養中に見られる種々の生物学的パラメータ(細胞接着、増殖、分化、
細胞寿命のパラメータなど)を用いて整理・データベース化を行った(観察システ
ムの構築)。特に、細胞面積が、細胞寿命の指標となりうることを見出し、細胞面
積をオンライン測定できる培養容器を試作した。
3)組織工学を応用した各種デバイス化技術の開発
生体と同様の自己組織で構成される心臓弁を、現在、ヒトの代替臓器として、世
界で広く利用されているブタ大動脈基部より作成し、自己幹細胞より分化誘導機能
強化させた細胞または抗原性を制御した他家由来細胞を付加することにより、生体
組織に匹敵するハイブリッド人工心臓弁の開発を目指した。成果は、平成 13 年度
中に、ブタ大動脈基部から、この研究の基礎となる、脱細胞化処理を施した心臓弁
を作成することが出来た。現在共同研究グループである大阪大学において、実験、
検討を実施している。
循環器領域における再生医療の実用化に向けて不全心への細胞の供給システム
の開発の問題と細胞治療時の遺伝子治療併用療法に関する検討を行った。心筋細胞
移植及び遺伝子治療の併用療法により心機能回復、心筋壁厚の回復、局所血流の改
善を認めた。また、温度変化に応答して水和/脱水和の構造変化を起こす温度応答
性培養皿にて心筋細胞を培養し、シート状の培養心筋細胞グラフトを作成しその有
- 44 -
効性を評価した。移植した心筋グラフトは recipient 心筋に生着しており、効果が
認められた。
生体の血管の構造を模した、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞および外膜より構成
された全層性構造とすることにより、耐久性、生体適合性を高め、恒久的治療法を
目指した小口径人工血管の開発を目指した。生体の血管の構造を模した血管内皮細
胞、血管平滑筋細胞および外膜より構成された全層性構造物の開発において、生体
適合性を持たせた小口径(3mm)人工血管を足場材料に自己細胞を培養したもの
を、現在大阪大学との共同研究において小型犬に埋埴して評価するまでのレベルに
達した、短期間の埋埴における人工血管の状態を観察中である。
長期無菌培養が可能な静水圧培養装置を作製し、その稼働性(無菌培養性、加圧
性)を確認し、至適加圧培養条件を絞り込んだ。そして軟骨細胞の生育性に優れた
特性を示す生分解性ポリマー(PLGA)を材料とする三次元多孔質支持体を開発し、
その支持体を用いて軟骨細胞を静水圧下で長期培養することにより、再生軟骨デバ
イスを開発する技術を確立した。
4)組織工学により開発されたデバイスの安全性評価技術の開発
再生軟骨の力学的評価として、再生させた軟骨の粘弾性測定、indentation test、
peeling strength 測定、摩擦係数測定方法を開発した。 また、再生軟骨の生化学
的評価技術として、水晶発振子マイクロバランス法によるマトリックス内計測を実
証し、水晶発振子マイクロバランス法の細胞系への応用計測の為の要素技術を確立
した。
厚生労働省 GTP ガイドラインに従い培養骨の安全性試験に関する作業標準書を
作成し、ヒトから採取した骨髄細胞を無菌的に培養する工程に適用し妥当性を確認
した(3 例培養実施 2 例臨床実施)。
9.情勢変化への対応
10.今後の事業の方向性
11.実施方針
平成12年度実施方針を以下に示す。
- 45 -
平成12年度実施方針
1.件名:
細胞組織工学(ティッシュエンジニアリング)の研究開発
2.業務の内容
高齢化社会を迎えた我が国の医療費は、平成11年度には約30.4兆円にも達し、毎年
約5%づつ増加しながら国民経済を圧迫しつつある。国民が高度な医療を享受してゆくた
めには、高度医療(臓器移植、組織移植等)に対する医療費抑制を可能とする細胞組織工
学(ティッシュエンジニアリング)を基礎としたヒト組織の再生技術とそのための基礎的
技術を早急に確立させ、再生医療用製品生産に関わる産業の発展を促進させることが必要
不可欠である。
当該分野に関わる研究開発は、基礎生物学や基礎医学に重点を置いた、発生・再生・分
化研究を中心とする基礎研究分野と、医療関連産業技術の展開を睨んだ細胞組織工学研究
分野とが進みつつあるが、本研究開発では、将来の産業技術展開を積極的に図っていくた
め、細胞組織工学技術(ティッシュエンジニアリング:多種類の細胞を生体中にある状態
と同様に組織化し、組織・臓器の持つ高次な機能を再現するための技術)の確立を目的と
して研究を行なう。
3.予算規模
細胞組織工学(ティッシュエンジニアリング)の研究開発
1396百万円(新規)
4.実施方針
(1)体性幹細胞・前駆細胞の分離・増殖技術の開発
体内の通常の細胞は増殖・分化能力が限られていることから、組織形成には、心臓、
肝臓、膵臓、腎臓、中枢神経系などの様々な組織に分化する能力を有する「体性幹細胞・
前駆細胞」が必要である。
本研究では、これまで既に存在が知られている体性幹細胞や前駆細胞について、これ
を再生医療に貢献する産業技術として適用可能なレベルに達するまでの分離・増殖する
技術を開発する。更に、特定の組織・臓器で特異的に発現している蛋白質およびその遺
伝子を網羅的に探索するなどの方法により、目的の幹細胞を迅速に同定・分離・増殖す
る技術を開発する。
(2)細胞組織化技術の開発
ヒト細胞増殖や機能の発現は、細胞同士の相互作用により複雑に制御されている。品
質の一定した細胞および組織デバイスを生産するには培地の規格化、培養プロセスの自
動化、スカフォールドの多機能化などが必要である。また、細胞培養途中で突然変異、
ガン化、目的としない分化、あるいはウイルス・細菌などの汚染の起こる可能性があり、
細胞の状態管理も同時に行う必要がある。
本研究開発では、再生医療デバイスの実現につながるリアクターシステム技術の開
- 46 -
発をすることとするが、そのために必要となる多機能担体等の培養用器材の開発とそ
れと一体となった細胞の高密度培養及び分化制御を行い得るとともに、また、細胞へ
の酸素・栄養分の供給や刺激因子の付加を円滑・迅速に行えるシステムの開発を行う。
併せて、組織化されるプロセス段階での細胞に係る安全性を担保するためのモニタ
リングシステムの開発を行う。
5.実施の方法
委託により実施する。
注)予算規模については、多少の変動があり得る。
- 47 -
Fly UP