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アルミニウム表面処理のための生分解性ケミカルスの紹介
アルミニム表面処理のための生分解性ケミカルスの紹介 Introduction to the biodegradable chemicals for aluminum surface finishing 安清一、丸田正敏、布留川宏、佐藤敏彦 Chung il AHN, Masatoshi MARUTA, Hiroshi FURUKAWA, Toshihiko SATO 今後、一層の必要性が予想される生分解性界面 活性剤や生分解性キレート剤などを紹介する。 1. はしがき アルミニウムを含む金属の湿式表面処理 で不可欠な界面活性剤やキレート剤の一部 は環境負荷が大きいので、PRTR法の規 制対象になっている。この問題を解決する 一手段として生分解性界面活性剤や生分解 性キレート剤が使用されつつある。これら の問題を解説する。 コスト,性能の問題から,実用化にいたるま でかなりの年月を要した。しかし近年,海外 での大型プラント建設による,原材料のコス トダウン,環境問題に対する技術開発の推進 など,問題も徐々に解消され,世界規模のス テージでの製品使用により一般に浸透した。 現在,“生分解性”はプラスチックにとどま らず,原料,製品など,様々な分野で,高性 能化の研究開発がおこなわれている。また, 今後の開発において,生分解性素材は不可欠 の要素であり,グリーン購入法により,その 製品も多様化されることはまちがいない」と 出版社のホームページで簡潔に解説されて いる(http://www.cmcbooks.co.jp/ books/ b0708.php) 表 1 は「生分解」との組み合わせキーワ ードで検出された情報の件数を示す。 2. 生分解性ケミカルスの歴史と現状 「生分解」とは、有機物が水中や土中の 微生物で分解されて水と二酸化炭素に変化 する生化学反応である(図 1) 。そして、 「生 分解性ケミカルス」は生分解性プラスチッ クや生分解性界面活性剤、生分解性キレー ト剤などの総称として使われている。 図 1 「生分解」のイメージ図 (http://www.so-seru.co.jp/sei.html) これらの生分解性ケミカルスの歴史は浅 くて、 「1980 年代に開発された“生分解性プ ラスチック”は,環境低負荷にもかかわらず, 1 表 1 「生分解」と関連の情報件数 組み合わせた ホームペ 特許 文献 キーワード ージ情報 情報 情報 プラスチック 295,000 2615 9,247 界面活性剤 75,000 223 919 キレート剤 10,300 68 71 潤滑剤 18,200 13 373 洗剤 201,000 93 419 洗浄剤 51,700 102 494 表面処理剤 123,000 4 4 化成処理剤 26,600 0 5 アルミニウム 68,700 44 163 3. 生分解性界面活性剤の歴史と現状 洗剤による環境問題の経過が図 2 の花王 (株)の「環境コラム」 (http://www.kao.co. jp/corp/ecology/e6/colum/c11.html)に掲 載されているので、抜粋を以下に引用する。 上記の家庭用洗たく洗剤の場合と同様に、 アルミニウム表面洗浄でも生分解性界面活 性剤や生分解性キレート剤への移行が必要 になりつつある。 ライオン(株)のホームページに「各種 界面活性剤の生分解」 (http://www.lion. co.jp/kankyo/column/3gen.htm)の具体例 が示されている(図 3)。なお、図 3 はカラ ー曲線で示されていたので、筆者らが点線 の矢印を追加した。同図より界面活性剤の ABSは「生分解性」が悪いが、MES(α ―スルホ脂肪酸エステル塩)やAOS(α ―オレフィンスルホン酸塩)は「生分解性」 が良好であることがわかる。 図 2 花王の「環境コラム」 「1960年代の中ごろまで、洗剤に使わ れていたのはABS(分岐鎖型アルキルベ ンゼンスルホン酸塩)という界面活性剤が 主流でした。ABSは、水中の微生物(バ クテリア)で分解されにくいという性質が ありました。これを"生分解性"が低い(悪 い)といいます。一部の河川や下水処理場 で泡立ってしまうという問題が起こりまし た。 この問題を解決するため、生分解性の 高いLAS(直鎖型アルキルベンゼンスル ホン酸塩)という界面活性剤が開発されま した。1970年頃までには、ほとんどの 洗剤の界面活性剤がLASに置き換えられ ました。それによって、河川などでの泡立 ちはほとんどみられなくなりました。もう 一つは洗浄力を高めるために使われていた リン酸塩です。これは1970年代後半に 湖沼や内海の赤潮による汚染で問題になり ました。リン酸塩は水中のカルシウムやマ グネシウムのような金属イオンをつかまえ て、界面活性剤の働きを助ける"水軟化剤" などとして大切なものだったのです。しか し1980年に滋賀県でリンの入った洗剤 の使用を禁止する「琵琶湖条例」が施行さ れました。このようなこともあり、リン酸 塩に代わる物質が開発され、現在ではほぼ 100%の洗剤(家庭用洗たく洗剤)が無 リンになっています」 図 3 各種の界面活性剤の残存率 生分解性界面活性剤の文献として、松村 秀一 ;生分解性ケミカルス 生分解性界面 活性剤の最新動向、月刊エコインダストリ ー、Vol.8, No.1, Page12-23 (2003)がある。 表 1 に示す 223 件の生分解性界面活性剤 の特許の多くは汎用や繊維用や化粧品用で あるが、用途が金属表面処理関連と思われ る特許は以下の 5 件であった。 ●特開 2004 – 002644、重合用界面活性 剤及びそれを含有する重合用界面活性剤組 成物(ノニルフェノール系界面活性剤を代 替えしうる重合用界面活性剤として、環境 生分解性が良好で、低起泡性、低流動点で 作業性に優れ、かつ水への溶解性が良好)、 ●特開 2003 – 335714 不飽和アルコール 及びその製造方法(ノニルフェノール系界 2 は、日本界面活性剤工業会のホームページ ( http://www.jp-surfactant.jp/index.ht ml)が有益である。同ホームページには、 「界面活性剤等一覧WEB検索サービス」 のページがあって、 「会員会社が提供する約 6000 種の製品を搭載したリストです。商品 名、会社名、需要分野、機能等で検索するこ とができます」と説明されている。45 社の 界面活性剤会社リンク集でもある。 なお、PRTR対象物質の一覧表は環境 省のホームページに掲載されている(http: //www.env.go.jp/chemi/communication/fa ctsheet/top3.html)。そして、PRTR法 に該当する界面活性剤は●2-アミノエタノ ール、●直鎖アルキルベンゼンスルホン酸 及びその塩(R=C10~14) 、●ポリ(オキ シエチレン)=アルキルエーテル(C=12~ 15)、●ポリ(オキシエチレン)=オクチルフ ェニルエーテル、●ポリ(オキシエチレン) ノニルフェニルエーテルの 5 物質である。 面活性剤の代替界面活性剤の原料として、 環境生分解性が良好で、低曇点の植物系不 飽和アルコール) 、●特開平 11 – 158498 車 両用洗浄剤組成物(車両塗装面の洗浄剤は 水垢が効率良く洗浄でき、車両の他の部品、 特に軽金属部品を腐食することがなく、安 全性にすぐれ、生分解できて環境への負荷 が小さい) 、●特開平 08 – 325303 アクリ ル酸エステル誘導体およびその製造方法並 びにアクリル酸エステル系重合体(アクリ ル酸エステル系重合体は、表面処理剤、医 療用材料、吸水性樹脂、界面活性剤等とし て有用である)、●特開平 05 – 163592 脱 脂洗浄方法(環境に悪影響を及ぼすおそれ を有するリン化合物を含まない脱脂液を用 いて、金属材に対し、低起泡性で良好な生 分解性を示す脱脂液を用いて脱脂洗浄) 。 「生分解性界面活性剤」と「アルミニウ ム」の組み合わせキーワードで検出された 公開特許は「アルミ材用洗浄剤」(特開平 05-214569)だけであった。同特許の【要約】 は、【目的】が「 生分解性が高くて廃液に よる公害惹起の虞れがなく、また、粘度が 少ないために残留して汚れを誘発すること もないアルミ材用洗浄剤を提供することを 目的とする」で、 【構成】が「アニオン系界 面活性剤と生分解性が 90%以上の非イオン 系活性剤とビルダ-を主成分とし、これに 必要に応じて蛋白質分解酵素と芳香剤とを 加え、水で希釈して成り、研摩用には更に 粘性の少ないチャ-ジ・ソ-プと酸化アル ミニウムを加える」である。 【効果】は「 ア ルミ建材の表面腐食部分や汚れを簡単確実 に洗浄除去でき、洗浄部周囲のアルマイト 部分を傷める虞れがないだけでなく、生分 解性が高く、粘性が低くて廃液処理に伴う 環境汚染の虞れ、並びに、処理後における 汚れ誘発の恐れがない」である。 本節の特許情報は有益な情報であるが、 これらの生分解性界面活性剤が市販されて いるとは限らない。市販品のリストとして 4. 生分解性キレート剤の歴史と現状 生分解性キレート剤の歴史についての適 切な情報を見つけられなかったので、昭和 電工(株)のホームページ情報である「新 規生分解性キレート剤本格販売開始へ(1 998年2月2日)」 (http://www.sdk.co. jp/index.htm)の抜粋を以下に示す。 「天然物由来の食品添加物である L-グル タミン酸ソーダを出発原料とする、新規生 分解性キレート剤 Lーグルタミン酸二酢 酸(製品名 GLDA、グルダ)を、工業レ ベルで開発に成功いたしました。近年、生 分解性キレート剤に対するニーズが高まっ ており、アメリカ・ヨーロッパでも、各社 がその開発に注力しております。このよう な背景の下、国内での本格的販売は当社の GLDAが最初となります。生分解性が確 認されており、一般の活性汚泥処理設備で 容易に微生物分解されるとともに、自然界 でも経時的に生分解いたします。また、キ 3 325742 モノアミン型生分解性キレート剤 を用いた無電解Cuメッキ浴、●特開平 08 – 296049 モノアミン型生分解性キレート 剤を用いた無電解Niメッキ浴、●特開平 05 – 302097 金属キレート剤及び粉体用分 散剤(スケール防止剤、洗浄剤用ビルダー 等の金属キレート効果を必要とする分野に 応用できる)。 上記の特許情報は有益な情報であるが、 これらの生分解性キレート剤が市販されて いるとは限らない。個人のホームページに 「キレート剤メーカー」のリンク集があり (http://www.ip.mirai.ne.jp/~osamu717 /rawmaterials.html#chelete) 、ナガセケム テックス、ライオン、昭和電工、BASF、 藤沢薬品工業、キレスト、旭硝子エンジニ アリング、三菱レーヨンの 8 社のホームペ ージへアクセスできる。 なお、PRTR法に該当するキレート剤 は政令番号 47 番のエチレンジアミン四酢 酸(EDTA)と政令番号 233 番のニトリ ロ三酢酸(NTA)の 2 種類の化合物だけ である。 レート性能も使用条件・対象金属によって は、EDTAと同等の能力が得られるほか、 高濃度アルカリへの溶解度が高い、アルミ ニウムに対する腐食性が低い等の優れた特 徴を有します」と記されている。 生分解性キレート剤の文献としては、鷲 巣正人, 高梨裕幸;環境にやさしい技術の 紹介 りん・窒素及びノニルフェノール フ リー環境対応型脱脂剤の動向、防錆管理、 Vol.47, No.6, Page234-237 (2003)や伊藤 博;生物解性ケミカルス 生分解性キレート 剤の最新情報 月刊エコインダストリー、 Vol.8, No.1, Page24-37 (2003)がある。 表 1 に示す 68 件の生分解性キレート剤の 特許で、金属表面処理に関係が深いと思わ れる特許は以下の 11 件であった。 ●特開 2002 – 173665 キレート剤及び その処理方法、キレート樹脂及び繊維、錯 体の形成方法並びにホウ素、重金属の回収 方法、●特開 2001 – 342453 キレート剤 組成物(洗浄剤や漂白剤、無電解メッキ浴 組成物を提供する)、●特開 2001 – 270854 アミノポリカルボン酸塩、その製造法及び その用途(このキレート剤を用いた金属捕 捉剤を提供する) 、●特開 2001 – 123300 メ ッキ用薬剤又は金属の電解剥離剤(生分解 性に優れしかもメッキ性能や剥離性能の良 好な銅、銀、金、亜鉛、カドミウム等のメ ッキ浴又は電解剥離液を提供すること) 、● 特開 2001 – 123148 新規なキレート剤(特 に軽金属イオンに対して優れたキレート性 能を有し、かつ、生分解性に優れるキレー ト剤) 、●特開平 10 – 059912 アスパラギ ン酸誘導体の製造方法(生分解性キレート 剤として繊維染色用薬剤、洗剤用ビルダー、 金属表面処理用錯化剤、無電解メッキ用錯 化剤などに広く用いられる) 、●特開平 09 – 049084 ジアミン型生分解性キレート剤を 用いた無電解Cuメッキ浴、●特開平 09 – 013175 ジアミン型生分解性キレート剤を 用いた無電解Niメッキ浴、●特開平 08 – 5. その他の生分解性ケミカルス情報 日本製箔(株)は図 4 に示す生分解性プ ラスチックとアルミ箔の複合材料による 「実用レベルで使用可能な機能性包装材料 “エコース”」を開発した(http://www. nihonseihaku. co.jp/seihin/ecoce.htm)。 この技術の関連特許は特開平 08-290526 の 「アルミニウム-生分解性プラスチック積 層体」であろう。特許の【構成】は「この アルミニウム-生分解性プラスチック積層 体は、アルミニウム材と、分解時に酸が発 生する生分解性プラスチックとが積層され てなるものである。アルミニウム材として は、アルミニウム箔やアルミニウム蒸着層 等が採用される。生分解性プラスチックは、 フィルム形態、接着剤形態、インキ形態等 が採用される。分解時に酸が発生する生分 4 界面活性剤が分解することで、廃水中の洗 浄剤と油汚れ等は水中に乳化、分散される ことなく、水面に浮上するので油汚れと水 に分離できます」とのことである。補足説 明をすると、 「このマッチ棒のような」の比 喩は、 「球が親水基で、棒が疎水基」の表現 である。そして、 「界面活性剤とは親水基と 疎水基で構成されている分子であるが、本 発明の界面活性剤は酸を加えると、親水基 と疎水基が分解される特殊な分子構造にな っている」のである。 解性プラスチックとしては、3-ヒドロキ シ酪酸と3-ヒドロキシ吉草酸との共重合 体、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸 との縮合物、乳酸を重合したポリ乳酸等が 採用される。このような生分解性プラスチ ックは、分解時に、原料となった脂肪族ジ カルボン酸や乳酸等の酸が発生する。この 酸によって、アルミニウム材は酸化アルミ ニウムに変換され、アルミニウム材が分 解・消失する」である。 図 4 「エコース」 湘南工大の村木正芳らは「アルミニウム 合金に対する生分解性油の摩擦・摩耗特性」、 日本機械学会関東支部・精密工学会茨城講 演会講演論文集 Vol.2003, Page27-28、 (2003)を研究している。 図 5 化学分解性界面活性剤による油と水 の分離メカニズ 6. 化学分解性界面活性剤の開発報道 前節までは「生分解性ケミカルス」の解 説であったが、本節で紹介する話題は「化 学分解性ケミカルス」である。 大阪市立工業研究所は平成 14 年 10 月 31 日の「報道発表」として、 「環境に優しい化 学分解性界面活性剤の開発に成功-洗浄後 には分解できる廃水処理の容易な洗浄剤 -」をホームページに掲載している(http ://www.omtri.city.osaka.jp/ what/ press/ 20021031.html)。「このマッチ棒のような 界面活性剤分子に特殊な構造を持たせ、酸 を加えることで容易に分解できる機能を与 えた界面活性剤を開発しました(図 5 参照)。 7. むすび 最も身近な界面活性剤であるオレイン酸 ナトリウムの水溶液中で、アルマイトを陽 極電解するとアニオン電着塗装と同じ原理 でアルマイト皮膜の孔中にオレイン酸が電 解析出する。その結果、アルマイト表面は 疎水性になり、潤滑性にもなる。なお、本 稿も共著者との討論し、佐藤敏彦が作文し た。 5