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資料 - NIRA総合研究開発機構

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資料 - NIRA総合研究開発機構
1. アジア域内国際債市場
(Asian Intra-regional Professional Securities Market)
創設提言
Ⅰ.エクゼクティブサマリー
¾ 域内の市場参加者と市場インフラのレベルアップ
アジア経済共同体の発展のためには、アジアの共有財産としてのオープンな
域内金融資本市場の発達が不可欠である。そしてそれには、日本など域内の市
場参加者と市場インフラのレベルアップが必須条件として求められる。
これからは、世界の舞台で活躍できる日本発、アジア発の金融のプロの育成と、
そのための国際水準のインフラ整備を本格的に行い、日本とアジア市場の発達
の遅れを克服する必要がある。いわば、プロサッカーの世界におけるJリーグ、
あるいはアジアリーグのようなプロのリーグの創設と国際水準のスタジアムの
建設が、金融資本市場の世界にも必要となっているのである。そしてそこでリ
ーダーシップをとるべきは、まずは、国内資本市場の規模と発展段階で勝る日
本と韓国であろう。
¾ 国際債発行流通市場としての「アジア域内国際債市場」の必要性
日本を中心とする東アジアでは、近年、域内の発展と競争力確保のため、域内
に自由な取引環境を備えたプロの参加者のための市場として発展してきた「ユ
ーロ債市場」のような国際的金融市場を積極的に作り出すことが、関係者の努
力次第で、基本的には可能な状況となりつつあると考えられる。
現在まで、域内主要国の国内金融資本市場では、関連の法制や決済システムな
どの市場インフラ構築が進みつつあるが、それに対し、国際債が発行され売買
流通される場としての、アジア域内で自己完結する「国際債市場」の発達は、
決定的に遅れている。そして、その必要性すらあまり認識されていない。
国際債といえば、アジア域内市場関係者は、依然としてロンドン金融街の金融
機関と欧州国際証券決済システム(ICSD)の使用を前提とする、英国とベネル
クス三国の連携システムとしての「ユーロ債発行流通市場」に依存する形とな
っている。
すなわち、自国以外の市場でのアジアの発行体の証券については、証券の発
行・流通・償還にかかわる仲介業者・証券決済システム・関連法制・格付け機
関、発行関連法実務に関する法律家・弁護士などまで含め、英国や欧米を中心
とするアジア域外の業者や専門家やシステムの使用が前提となり、日本とアジ
アの発行体にとって、欧米の発行体と同等のコストの優位性と自国通貨建て債
券発行などの利便性が確保できているとはいえないのである。
日本円以外のアジア通貨建ての国際債証券には、基本的に、それらの発行と流
通に際して、自国内のみならずユーロ債市場も含め、さまざまな制約が存在す
る。また日本を含むアジアの金融機関(各種の金融サービス産業)についても、
欧米と対等に勝負できるだけのプロの技を磨く環境が、アジアに整っていると
はいえない。
1
アジアにおいて、いまだに明確な形では実現していない域内を中心とした独自
の「アジア域内国際債市場(ユーロ債市場型アジア域内国際債市場)(Asian
Intra-regional Professional Securities Market)」の創設は、域内のプロの
育成・鍛錬と市場イノベーション創造の場の創出、また域内の貯蓄を域内中心
に循環させるための、費用対効果の高い、自国通貨建てを含む国際債市場の創
出として、大きな意義がある。
その実現のためには、アジア域内で自己完結可能な、国際債のための各種市場
インフラの構築実現が必要とされる。またその域内クロスボーダー・インフラ
は、各国国内市場を有機的かつ自然な形でつないで、かつての金融危機のよう
な国を跨いだ資金循環不全を未然に防止する働きもするであろう。
いま、わが国をはじめとする域内各国の主要市場参加者の主導によって、足元
の種々の制度的制約(周知不足を含めた国内法制上の制約・税法上の制約・有
効な国際的証券決済システムの不在など)をさらに本格的に取り除く努力が必
要となっているのである。
その際、アジア域内国際債市場では、経済共同体としての姿を示しはじめた東
アジアにおいて、発行体も投資家もその主軸はアジア諸国のメンバーであると
の想定が可能であるし、また域外の市場関係者の参加も当然のこととして想定
可能である。つまりそれは世界中の市場と市場関係者に開かれた構造を持つ。
¾ アジア域内国際債(アジアボンド)市場ヴィジョンの構築と共有が必要
各国政府と ADB が中心となってここ数年来進められている「アジア債券市場
育成イニシアティブ(ABMI)」は非常に重要な取り組みであり、種々の重要な
成果を挙げてきていると考えられる。
今後は、アジア資本市場の参加者であるべき公的な証券発行体と民間の発行
体・仲介業者・機関投資家などの市場参加者(市場のプロの実務家)による、
アジア域内国際債(アジアボンド)市場のヴィジョン構築と共有が必要となっ
ているといえよう。
2
¾ アジア域内国際債(アジアボンド)発行市場へのロードマップ提言
主な提言内容は、次の4点である。
(1)自国通貨建てアジア域内国際債(アジアボンド)市場の必要性と、実現
への具体的な道程(ロードマップ)の提言
(2)域内国際債(アジアボンド)市場に関する法制の留意事項の提言(日本
の発行体の発行準拠法につき、新会社法上は社債ではないものとして構
成しアジアボンドを発行することも可能であるとの高次元の理想的対応
が示されたものの、現状の変更を好まない実務界の混乱があり、法務省
令等による解決が望まれる。)
(3)アジア資本市場協議会(CMAA)創設の提言
(4)証券決済方式としての Dual Core アプローチ等の提案
3
Ⅱ.詳細説明
„
背景説明:自国通貨建てアジアボンド市場の基本的役割
アジア危機をもたらした理由も、なお現在も続くアジア通貨・経済の不安定
さも、その大きな要因は、ドルペックである。言い換えれば、ドルに対する自
国通貨の切り上げ要求であり、ドルによる外貨準備についての為替リスクの肥
大化である。
他面、アジアの域内貿易による関係各国の密接な関係は、その決済がドルで
行われていても、そのような貿易用のドルは各国の通貨に交換されるものであ
るから、各国の通貨が貿易に使われていることになる。
従って、自国通貨建てアジアボンド市場の存在は、為替の交換手数料の節約
にもなるし、輸出債権(とりわけプラント輸出など長期債権)に裏付けられて
いる限度では、為替リスクのない各国通貨建の社債債務の存在が、必要かつ正
当化される。
また、現地生産のための資本の輸出に伴い、従来は、長期資本が各国現地通
貨で固定されてきた。この場合は、現地生産国の通貨建ての債券を発行して資
金調達をすることができれば、為替リスクを回避できる。
さらに、歴史を振り返れば、日本企業は、1970 年代から、その高度成長を支
えるための資金調達を、金利の安いエクイティファイナンス(転換社債や新株
予約権付社債)の形でユーロ債市場において行ってきた。そして、欧米の投資
家は日本の高度成長に投資した。
現在この関係は、東アジアの先進国である日本や韓国と、それを追いかける
ASEAN 諸国等の間に成立している。
投資信託を含む日本や韓国の機関投資家は、円建てやウォン建ての ASEAN
諸国のエクイティファイナンスに、資金の出し手として対応できる。それは現
在の BRICs ブームに象徴されている。
上記のような自国通貨建ての社債やエクイティ債に関しては、実体経済であ
る貿易や直接投資といった厚みのある底辺がすでにアジアに存在し、また物流
はお互いに近い国の間でより多く行われ、そこで必要とされ正当化されること
はいうまでもない。
以上は、各国の政府当局の対応を待たなくても自然に発生する経済の流れで
ある。しかしその出発点は、各国の外為政策、通貨の自由化の進展や、会計・
ディスクロージャーの状況等を考えると、その始まりは、ユーロ債市場がそう
であったように、
「プロの投資家と市場参加者の作るアジア域内国際債市場」と
いうことになろう。
しかし、ユーロ債市場では、アジアの主要通貨については、基本的に、円を
別にすればウォンでさえ利用に制限があり、ましてやそれ以外のアジアの通貨
建て債券の受入は、個別に状況は異なるものの、総じて困難であろう。
(ただし、
アジア開発銀行(ADB)・国際協力銀行(JBIC)等のサポートする ABMI
4
(ASEAN+3 財務大臣プロセスで進められているアジア債券市場育成イニシア
ティブ)でも、タイバーツ債等アジア通貨建て債の発行に力を入れ始めている。
)
„
個別課題認識と前提条件
Q: 21 世紀型のアジア共通の国際債市場構築を、どうやって推進すべきか。
具体的に、特に金融資本市場分野において、アジア共通の市場インフラを構築
するには、どういった課題が存在するのか?
A: まずは、各国で市場関連の法規制システムの調和を図る必要がある。アジ
ア債券市場の構築は、これまで、各国の財務当局、中央銀行、政治家の並々な
らぬ努力で推進されてきた。現在も、日本を始めとするアジア各国財務省のサ
ポートのもとで、アジア開発銀行(ADB)を中心に、「ASEAN+3 Asian Bond
Markets Initiative (ABMI)」という枠組みでの持続的な検討が進んでおり、各
国が知恵を絞っている。
今後、重要となるのは、市場実務家、金融機関、シンクタンク等の重層的な
連携であると考えられる。特に、日本市場の重要性を考えると、日本の発行体
企業や機関投資家などの市場関係者は、率先してアジア金融資本市場の中核と
しての日本国内の金融資本市場改革を進める必要があろう。
そして、それに続いて、アジアの社会・経済的発展のためには、域内共通・共
同の市場インフラとして、各国の国内市場の枠を超えたクロスボーダー型の金
融資本市場を育成し、市場制度基盤を整備していくことが必要となる。そのた
めには、域内共通・共同の金融資本市場を支える、各国の既存の枠組みを超え
たアジア共通の制度システムが必要となる。
例えば、各国国内の金融資本市場にかかわる法制度・税制などのシステムが、
Asian Intra-regional Professional Securities Market での国際的な証券の
発行・流通を阻害しないよう、柔軟でシンプルな制度構築と対応が必要とされ
る。
また、それらの証券の情報開示と情報登録のためのシンプルなルールが必要
である。
それと、決済システム。すなわち、
(欧州のシステムを利用しなくてもアジア
域内で自己完結可能な)国際的な証券決済システムが備わっていなければなら
ない。
さらに、各国国内市場ではなくクロスボーダーの国際債市場で発行された証
券のためのリスティング、つまりファイリングないしはレジスター(開示登録)
を行うための場所(アジア域内の証券取引所を想定)の整備である。
(債券の場
合のリスティングは、株のそれとは概念が異なることに注意。)
また、域内市場参加者の間の自主的な国際債市場取引ルール形成のための市
場参加者による主体的な組織の創設、などである。
5
こういったことまで含めて、アジアでは、これまで一流の発行体による自由
な国際的証券発行流通市場の代名詞であった「
(英国とベネルクス3国の連携で、
開示書類の登録・証券決済・発行流通市場などの全体システムが構成されてい
る)ユーロ債市場」のような、他の国際的証券市場に負けないだけの、アジア
独自のソフトインフラのイノベーションが必要となろう。
なお、日本円以外のアジア通貨建ての証券には、基本的に、それらの発行と
流通に際して、自国内のみならず、ユーロ債市場も含めた欧米の外債市場にお
いて、さまざまな制約が存在する。たとえば、ユーロ債市場では、日本円以外
のアジア通貨建て証券は、制度的に発行ができないか、発行が困難もしくは証
券決済が遅れるというような障害が存在する。したがって、ユーロ債市場では
できないが、アジア債市場によってならコスト的にも劣後せず発行が可能とな
るものとしての、アジア諸国の発行体の自国通貨建て債券発行・流通の必要十分
な受け皿となりうるような、アジア共通の国際債市場の創設には、大きな意義
がある。
ただし、そこで重要な前提が2つある。それらは、①アジア債市場のインフ
ラは、債券だけを対象とするのではなく、エクイティ物の証券の発行・流通に
も利用可能となるはずであること、また、②これらアジアに構築される共通の
国際債市場インフラは、アジア国籍の参加者だけのものではないということで
ある。世界中の資本市場関係者にオープンな形の、最も進んだ、世界に開かれ
た国際的証券市場インフラを構築する、との前提を、アジアの市場関係者は、
忘れてはならない。
域内各国の発行体企業・証券引受金融機関・格付機関、法律家などの市場実
務家、研究者などの主体的な連携による努力の継続は、近い将来、アジア共同
の証券市場に固有の、
「アジア・スタンダード」と呼ぶことのできる、共通の市
場ガバナンス原則の確立につながっていくと考えられる。
まさに、域内の代表選手としての日本の市場実務家・市場専門家・政府の責
務は重大である。
„
-アジアボンド市場への構想
わが国をはじめとするアジア各国政府・財務省の主導により、現在アジア開
発銀行を事務局として、アジア債券市場構想とその構築のための具体的検討が
進展している。そしてそこでは数々の重要な成果が現れてきている。韓国提案
のアジアボンド・スタンダード1はその重要な成果であるといえよう。
1
(参考) 2005 年 5 月 4 日イスタンブールに於けるASEAN+3会議で合意された新しい検討課題。
1.アジア通貨バスケット建債券の研究 (ABMIロードマップにおける日本提案)
−域内で共通の債券発行単位をもつことにより、域内全体としての規模の利益を追求。
2.メンバー国による自己審査 (ABMIロードマップにおける日本提案)
−市場参加者から指摘された、アジアの債券市場における投資等に対する障害について、各国が自己審査を実施するこ
とを通じ、よりuser-friendlyな債券市場育成を目指す。
3.アジアボンド・スタンダード (韓国提案)
6
韓国は、
「アジアボンド・スタンダード(The Asian Bond Standards)」なるもの
を提唱し、2005 年 5 月 4 日のイスタンブール合意で取り上げられた。
その前提として、債券を次の 3 種類に分類している。
(i)各国国内債、
(ii)域
内の一国が他国で発行する債券(いわゆる各国の「サムライ債」)、(iii)域内各
国で登録されない債券(いわゆる「ユーロ債」)。
その三つとも重要性は認めつつ、(iii)を「アジア債」と命名し(
「ユーロ債」
とすると、今ではユーロ通貨建債と誤認されるのであえて別の名称を用いると
されている)、これが共同で構築すべき市場であるとしている。
その目的は、ヨーロッパやアメリカの投資家に依拠しないで東アジアの国が
債券を発行できれば、アジアの貯蓄の域内での循環が可能となることであると
されている。
また、そのロードマップとしては、ユーロ債と同じ、個別契約にもとづく発
行 か ら 始 ま り IPMA や ICMA に 相 当 す る 自 己 規 制 機 関 ( Self-regulating
Organization)の創設、および Euroclear や Clearstream に相当するアジア債のた
めの Real Time でできる振替決済機関の創設を提唱している。
そして、この提唱は、ユーロ市場から独立したアジア投資家市場を作ろうと
するものではないことを明確にしている。
そこで指摘された市場インフラや起債手続き等の整備に関し、今後、具体的
かつ実現可能性の高い、優先順位の高い特定の分野についての独自の提言を、
市場実務家中心のグループで行うべく、2005 年 7 月以降NIRA研究プロジェク
トは実施された。
以下に、これまでに抽出された問題意識と検討のポイントを挙げる。
¾ 問題意識と検討のポイント:
1. アジア債市場を、英国とベネルックス 3 国を中心に隆盛を誇っているユーロ
債市場のアジア版のようなものとして、ユーロ債市場の自主ルールの基本
(IPMA2を引き継いだICMA3 ルール)を共有しつつ、アジアの市場関係者
自身の手で、アジア独自のものとして構築することはできないか。
2. 発行市場および流通市場のすべてにわたっての大構想を考えるよりも、まず
はより身近で現実的な、重要性・必要性の高いアジア債の発行市場にかかわ
る問題点を集中的につぶすこととしてはどうか。たとえば、アジア各国の国
内の金融資本市場の大きさ、市場参加者の理解度、国内の関連の法制度シス
テムインフラの整備状況などを勘案すると、日本と韓国がまず手を携えてこ
れを行うことに意義があるのではないか。(日韓ワールドカップの開催成功
を想起したい)
-東アジア債券市場における市場インフラや起債手続き等の整備において、東アジア地域の国際債券市場の育成、及び、
そのための基準の設定に関する長期的な検討を行う。
http://asianbondsonline.adb.org/documents/Asian_Bonds_Standard_2005_May.pdf
2
3
IPMA: International Primary Market Association
ICMA: International Capital Market Association
7
3. そのための、日本の市場関係者の役割は何か。官庁・官民の発行体・地域経
済団体・仲介機関・投資家のうち、どのセクターがイニシアティブをとるべ
きか。(証券発行という、最初のアクションを起こす、発行体グループの重
要性が大きいのではないか) また、その中で仲介機関、特に国内を越えた
アジア金融資本市場における金融機関の役割をどのように認識するか。
4. 日本に続いて市場規模が大きく、また市場機能の活用について真剣に取り組
んできている韓国は、日本にとって重要なパートナーとなるが、その韓国に
とっての制度的制約・プロジェクトの阻害要因は何か。
5. 具体的検討のポイントとしては、次のような項目が特に重要と考えられる
(詳しくは、以下の「アジア域内国際債(アジアボンド)発行市場へのロー
ドマップ」表参照) 。
① アジアの発行体とアジアの金融機関などで構成される、(最初の時点で
はアジアボンド発行のための、民間主導の発行市場創設に向けた)資本
市場関係者の推進母体「CMAA:Capital Market Association for Asia」
の設置を検討する必要がある。
② ユーロ債型の域内国際債(国内市場で発行されないインターナショナル
債)としてのアジアボンドの発行手続きとシンディケートのルールのあ
り方をどう考えるか。
③ アジアボンドの発行にかかわる法制のあり方(どの国の法制かも含め
て)はどうあるべきか。
・日本の外債(アジアボンドを含む)の発行体は日本法準拠が可能であ
るべきことが、新会社法のもとで確認され、それを法務省令(会社法施
行規則)で明文化しようとの動きがある。すなわち、 Made in Japan
の国際債(外債)を作るために、会社法上の社債の社債管理者必置原則
は、①社債管理者を置かないいわゆるFA方式により、各社債の金額が一
億円以上である場合(現行の会社法 702 条ただし書)、および②社債の
総額を各社債の金額の最低額で除した数が 50 未満である場合(会社法
施行規則 169 条)の、2 つの社債管理者設置義務免除のケースに加えて、
③外債の場合に限定した、社債管理者の設置の強制などの適用を除外す
べき場合としての「プロ限定の募集」のケース、または④会社法上の社
債4としない選択肢を含めることによって、制約とはならない。
・また、韓国の発行体は韓国法準拠が可能か? そのほか資本規制など
に問題はないか。 それら韓国法制上の制約は何か? またその解決方
法は?
④ ユーロ債型の国際債としてのアジアボンドの証券決済と決済インフラ
のあり方をどう考えたらいいか。欧州の決済システムを用いずとも国内
債とみなされない、アジア域内におけるユーロ債型の共同国際債のつく
り方をどのように構想するか。
4 社債について、「この法律の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、第 676
条各号に掲げる事項についての定めに従い償還されるもの」との定義規定を設けた(会社法2条 23 号)。
8
今回、一つの構想提案として、Dual Core Asian International CSD の
アプローチを提言する。これは、欧州ユーロ債市場における、国際債と
しての認知を受けるための、ユーロクリア(ベルギー)とクリアストリ
ーム(ルクセンブルク)という、2 つの国際的証券決済機関の利用のさ
れ方からヒントを得た。
“Dual Core Asian International CSD”とは、日本の居住者による国際債
の発行の場合に、例えば韓国の CSD を国際的証券決済機関(ICSD)と
して使い、一方で、韓国居住者など日本以外のアジアの発行体による国
際債の発行の場合に、日本の CSD(保振機構、その他)を国際的証券決
済機関(ICSD)として使うことを指す。
ユーロ債市場におけるユーロクリア(ベルギー)とクリアストリーム(ル
クセンブルグ)の2大決済機関のように、この 2 つの、アジアの異なる
国に存在する証券決済機関を、「2 つのコア(Dual Core)」の ICSD と
して使うことで、欧州の2大決済機関に頼ることなく、アジア内で発行・
流通を自己完結的に行うことのできる共同国際債市場創設が可能とな
ると考えられる。
ちなみに、英国居住者発行の債券が、ユーロクリアかクリアストリーム
で決済されれば、その債券は英国の国内債ではなく、ユーロ債(国際債)
として認識される。ベルギーの居住者発行の債券は、ユーロクリアでは
なくクリアストリームで決済されてはじめてユーロ債として認識され
ることを想起したい。
⑤ 外−外・国際債市場においては免除されるべき、源泉徴収税など、アジ
アボンド市場における関連の税のあり方をどう考えるか。
⑥ 外−外・国際債であるアジアボンドにかかわる情報開示と開示書類の登
録(レジスター、ファイリング、ないしリスティング)のあり方をどう
するか。(たとえば、アジアとの接合点としての大阪証券取引所の活用
という考え方はどうか?)
⑦ 国際証券引受・社債等の資産管理・総合投資運用管理(グローバル・カス
トディ業務)などに関する、日本とアジアの金融機関の役割の再認識と再
確認が必要ではないか。
(犬飼 重仁)
参考文献:
•
"KEIO-NIRA" アジア資本市場研究フォーラム 議事録 (2003 年 10 月 18-19 日)
http://www.nira.go.jp/newsj/kanren/150/157/index.html
•
「邦銀はアジア債券市場育成に主体的な関与を−域内で資金が還流する仕組みが必要−」(慶応大学吉
野教授と犬飼との共同執筆), 『週刊金融財政事情』, (2004 年 1 月 19 日号)
http://www.nira.go.jp/newsj/kanren/130/135/002.pdf
•
「東アジア域内共通の金融資本市場構築への課題」 中国経済サミット 2005(北京市人民大会堂)におけ
る犬飼重仁講演 (2005 年 5 月 24 日) http://www.nira.go.jp/newsj/kanren/150/159/keizais.html (日本
語・英語・中国語のプレゼンテーション資料)
•
「JERI Report: 東アジア共同債券市場構築の必要性」 犬飼重仁 (原文: 韓国語) 『韓国中央日報』,
(2005 年 11 月 18 日)
•
「特集 邦銀の復活?: タテ割りから顧客サービス志向の組織体制へ変革を」 犬飼重仁 『週刊金融財政
事情』 (2005 年 11 月 28 日号)
•
『クロスボーダー証券取引とコーポレート・ファイナンス』 金融財政事情研究会刊 松本啓二著 2006 年
9
2.アジアボンド発行市場へのロードマップ
下の表(ロードマップ)は、2005 年秋以降の日韓の専門家による議論と 2006
年 3 月 27 日の NIRA-ADB 共同フォーラムでの討論を踏まえ、できるところか
らやっていくとの発想のもとで、
(流通市場についての構想はさておいて)まず
は発行市場のグランドデザインの骨格案として、整備すべき市場のソフトイン
フラを、時系列に沿って纏め 2006 年 5 月 15 日に公表し、提言したものに若干
の加筆修正を加えたものである。
Road Map to the Asian Bond Primary Market1
Category
(提言の要素項目)
①
Issuing
Procedure
(発行手続)
Syndicate
rule (募集ル
ール)
③ Governing
Law
(Issuing)
(発行準拠法)
②
④
Settlement
(証券決済)
⑤
Withholding
TAX
Present
(現在)
Y2007
(日本・投資サービス法(金融商品取引法)
施行年)
ICMA (ユーロ債
市場における市場
協議会)
an Asian self-regulatory organization
(自主ルール策定団体)
→Creation of CMAA2 (JCMA3を母体と
して創設) (当初は、アジアの発行体及び
発行市場の協議会としての位置づけから
出発する)
Asian bond market primary standard
((ICMA)ベースのモデルを作成する)
Eurobond
syndicate
(ICMA4)
Issuer’s country
law ただし、日本
の発行体は商法
上の制約が存在し
たことで、93 年以
降これまで、すべ
て英国法準拠で
発行されてきた。
Euroclear ( ベ ル
ギー・ブラッセル),
Clearstream (ル
クセンブルグ)
Exempt
Y2009
(日本版金融サービス
市場法施行の目標
年)
Harmonization by
legal enforcement +
CMAA
Asian bond market
primary standard
Asian country law5
(ユーロ債市場でも、先進国発行体は母国
法準拠が一般的慣行)
Asian country law
Dual Core6 Asian international CSD
(ただし早期実現のための現実解として、カ
ストディアン利用のアプローチも考えられ
る)
Exempt, based on the use of the above
International
Settlement
(to
be
Dual Core Asian
international CSD
Exempt
1
流通市場のルールのあり方については、発行市場の発達に応じて、追って別途検討を要する。
アジアの資本市場にかかわる協議会:(CMAA:Capital Markets Association for Asia)
3 日本資本市場協議会 (JCMA:The Japan Capital Markets Association)
4 International Capital Market Association http://www.icma-group.org/
5 「クロス・ボーダー証券取引とコーポレート・ファイナンス」 金融財政事情研究会刊 松本啓二著
(2006) 参照。
6 “Dual Core Asian international CSD”とは、日本の居住者による国際債の発行の場合に、例
えば韓国の CSDを国際的証券決済機関(ICSD)として使い、一方で、韓国居住者など日本以外
の発行体による国際債の発行の場合に、日本のCSDを国際的証券決済機関(ICSD)として使う
ことを指す。ユーロ債市場におけるユーロクリアとクリアストリームの2大決済機関のように、この
2 つのアジアの異なる国に存在する証券決済機関を、「2 つのコア(Dual core)」のICSD として
使うことで、欧州の2大決済機関に頼ることなく、アジア内で発行・流通を自己完結的に行うことの
できる共同国際債市場創設が可能となる。
2
10
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
(源泉税)
Accounting
Standard ( 会
計)
Disclosure
(Filing) ( 証
券内容の開
示)
Electronic
Disclosure
(電子的開示)
Documentati
on ( 発 行 要
項など関係書
類)
Credit
Rating
(格付け)
Decided by bond
issuer’s country
Securities
exchange
(Mostly
LSE,
Lux)
Introduced
by
each country
confirmed or cleared)
Harmonization
of
accounting
standards (国際標準との間に差異があ
る場合は、それを明記することで対応可能)
Asian Major Securities exchange
・ JPN
・ KOR (KRX)
・ SGP (SGX)
Harmonization of regulations, Linkage
with EDINET7 with XBRL (eXtensible
Business Reporting Language8)
Use
Eurobond
(ICMA) form
Develop Asian standard bond form
(JCMA+CMAA がモデル案作成)
Market practice,
Market
judgment
Market practice, Market judgment
(市場慣行による。日系格付機関の利用を
含む)
Global accounting
standards
Securities exchange
(JPN, KOR, SGP,
etc.)
Harmonization of
regulations,
Linkage
with
EDINET
Use Asian standard
bond form
Market
practice,
Market judgment
なお、ADB で検討中のアジア通貨のバスケットによる債券計算単位(ACU)
の検討の将来の進展をにらんで、せっかくの前向きの取り組みをより実りある
ものとするために、たとえば、ACU 建ての債券先物市場や通貨先物市場の創設
を域内の投資取引所で行うなど、合わせ技の取り組みで、アジア域内国際債(ア
ジアボンド)市場をより使い勝手の良いものとする努力が、そこには欠かせな
いとも考えられる。
7
投資家のために金融庁が行政サービスの一環として運営・提供する電子的な情報開示のため
のネットワークシステム。『証券取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示
システム』のこと。
8 企業の財務諸表などを記述するためのXMLベースの言語。金融、監査、会計、コンピュータな
どの企業、団体からなる業界団体、XBRL Internationalによって仕様が制定されている。
XBRLが企業の財務情報の標準データ形式として普及すれば、企業、会計士、官庁、投資家、市
場など関係者間での財務・会計情報の流通が円滑に進むことが期待される。企業内の会計シス
テムなどをXBRL対応にすれば、決算などに伴う集計や法定書類の作成等を大幅に自動化でき、
業務の効率化が可能となる。
11
3.
アジア国際債市場創設に関する法制実務上の留意点
1.日本における外債の出発点
(1) 国内債
社債権者保護: 社債管理会社と日本の裁判所の監督の下の社債権者集会
社債管理会社は発行会社が任命するものであるが「社債権者のため善管義務
(Duty of Good Manager)にもとづき公平且誠実に社債の管理を為す義務を負
う」
新会社法では、その内容をもっと明確にし、
「弁済の受領、債権の保全その他
の社債の管理」としている。
この考え方は、歴史的には社債は一般の投資家が取得するので、銀行預金と
同じく元本が事実上保証されるべきものであるとの考え方にもとづいていた。
その結果、事実上はメインバンクの融資の Refinance 的な機能が歴史的な出発
点であった。
(2) 外債
外債はそれに対し、社債権者保護のうえでは、社債権者の自己リスク原則に
もとづく欧米の発行地の制度に従うというのが国際的な考え方であり、日本も
それに従ってきた。
2.1993 年改正商法
社債発行限度の廃止と引換に、社債管理会社の設置は強制設置とされてしま
った結果、外債の準拠法は、全部外国法になってしまった。社債管理会社の重
い義務に伴う Fee が高すぎるので、その Fee の安い英米型の Trustee (受託者
といっても権利はあっても義務はない) & Paying Agent もしくは Fiscal
Agent (単なる発行体の支払代理人)が用いられた。
3.本 2006 年 5 月施行の会社法
(1) 会社法の立場
本年 5 月施行の会社法においては、社債の定義(会社法2条 23 号)が設けら
れ、会社法の規制に従って、割当および償還が行われるもののみが社債とされ、
社債でない債券の発行も認められた。したがって、外債は、準拠法が日本法で
あっても、社債でない債券になると予想された。
(2) 予想された実務の対応
発行会社にとって、社債は、多数者からの多額の借入に過ぎないが、同じ債
務であっても劣後関係(Seniority)があるので、その点は明確にされる必要が
ある。
他方、外債に社債の管理者を用いると Fee が高くなるので、それを用いない
こととすると、外債は一部の例外を除き、会社法の社債の定義に基づかないで
発行されることとなり、会社法上の社債でなくなる。
従って、外債は、
「社債同順位外債」といった名称で発行されることになると
予想された。
(「社債でない債券」として構成する場合についての補足:社債でなければそ
の発行のための取締役会の決議が必要でなくなるが、この点は裁判所でなく法
12
務省の解釈に過ぎないので、法的安全のため社債と同様、取締役会の決議で授
権することになろう。
(やらないでよいことを念のためやっても害はないし、代
表取締役に対する包括授権の制度は既に認められているから実務上も困らない
からである。) 対外的には、社債の名称が用いられるであろう。既存の外債の
Negative Pledge 条項や同順位(pari passe)条項や国際的整合性が必要である
からである。)
(3) 社債管理者の設置強制などの適用を除外すべき場合の明確化
しかしながら、
「社債以外の債券」という新しい概念は、実務界からの抵抗を
受け、従来どおり、英国法を社債の準拠法とし、社債管理者を設置しない社債
の形で、新会社法は出発している。
これについては、英国法を準拠法とする社債についても、その割当・償還は
会社法に従っているのではないかとの疑問が提起され、
「準拠法の如何を問わず、
プロの投資家に対する社債の発行については、社債管理者を不要とする」との
法務省令(会社法施行規則)の改正が検討されている。
4.源泉税
日本の民間国外債については、それが非居住者に保有されるものについては、
利子についての 20%の源泉税が免除されている。その根拠となる時限立法であ
る租税特別措置法は「平成 20 年 3 月 31 日までに発行された民間国外債」につ
いての免除」について規定されている。国税庁から3.
(2)の外債も民間国外
債に含まれるとの確認を得ている。
5.新会社法のもとにおける日本の発行体のアジア国際債
予想される発行は、普通債、転換社債型新株予約権付社債となろう。
普通債の場合、Fiscal Agent 方式による社債同順位外債、または各社債の金
額が 1 億円以上である場合の社債の管理者強制設置規定の免除(会社法702
条)にもとづく発行になろう。
転換社債型新株予約権付社債の場合、通常社債発行単位は 1000 万円前後であ
り、1 億円以上というのは実務に合わないので、「社債でない債券」とする場合
には、社債同順位外債に新株予約権をつけたものになると予想されたが、その
方向での進展はまだみられない。
そこで、上記の3(3)のような、法務省令(会社法施行規則)の改正が、
強く要望されている。
準拠法については、社債管理者のないものは、国内債であっても国外債であ
っても社債ではないとの法務省の見解(会社法の立場)にもとづき、よりコス
トのかからない日本法準拠ということになろう。
6.日本の投資家
アジア国際債を購入する日本の投資者は、サムライ債のような一般の投資者
でなく、ユーロ市場と同様のプロ=適格機関投資家(Qualified Institutional
Investors:QII)になる。QII の範囲は新金融商品販売法で拡張される予定であ
る。QII 以外の投資家に販売する場合には、日本の証券取引法による有価証券届
出書(Securities Registration Statement)の提出と目論見書(Prospectus)の
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使用が必要となるからである。
(松本 啓二)
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4.アジア資本市場協議会(CMAA)設立構想
EU 統合指令以前から隆盛を誇る国際・非国内債としてのユーロボンド市場が、
EU 統合指令後にオンショア化が進むと見込まれることに鑑み、従前ユーロボン
ド発行市場を利用してきたアジア各国発行者にアジア域内引受業者を加えたメ
ンバーを中心に、アジア開銀ならびに米欧の金融機関の支援も得ながら、アジ
ア 各 国 の 国 内 市 場 に 対 す る ア ジ ア 域 内 国 際 証 券 市 場 と し て Asian
Intra-regional Professional Securities Market を構築・発展させる。
各国国内市場における規制との関係においては、域内プロ向けのホールセー
ル国際(Intra-regional)証券市場としての位置付けを当初から明確にして、各
国規制当局間の協力・協調を得ながら各国国内法対応を行うとした場合の摩擦
を回避しつつ、域内でオンショア−オフショア間の資金循環を阻害しない構造
の確立を狙う。
アジア域内国際債市場においては、従前のユーロ債では取り扱えなかったア
ジア域内通貨の国際債券発行の登竜門として位置付けられ、アジア・タイム・ゾ
ーン内での約定・決済のメリットが追及される。
アジア各国国内市場の成熟度・市場の厚みおよび各国国内業者の発展度を鑑
み、発行(起債)市場にかかるルール・市場慣行の形成(発行手続き、シンディケ
ートのルール、情報開示と開示書類のファイリングおよび公示のあり方)などを
決め、アジア域内国際債発行市場創設を推進する主体としての Capital Markets
Association for Asia (CMAA)を創出するに際しては、ユーロ市場での起債経
験が豊富なアジア域内発行者を中心に、アジア各国主要業者ならびに域内外の
クロス・ボーダー取引に秀でた国際的証券業者がアドバイザーとして参加する
形が望ましい。
当初のスタートを引受業者のみとせず、むしろ発行体主導での母体設立とす
るのは、長期産業資金ニーズに基づく調達の場としてのアジア域内国際債市場
を想定していることと、アジアの債券流通市場での活発なセカンダリー育成に
は、かつての NTT に始まる日本の社債市場改革の経験からも、資本市場ユーザ
ーとしての発行体のリーダーシップが必要と考えるからである。
特に流通市場の形成に関しては、本来市場取引の仲介者・金融取引の媒介者
である証券会社・投資銀行にとって、自ら買い向かい・売り向かいして自己ポ
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ジションを取るリスクは避けられるに越したことはないので、結果、流動性の
小さい市場の発展・育成にはアジア開発銀行債や日本の社債市場のケースを見れば
わかるように、発行者の強いコミットメントとリーダーシップが必要となる。
母体としては、2003 年 10 月に東京で NIRA と日本資本市場協議会(JCMA)
が主導的な役割を果たして創設された Asian Capital Markets Study Group を
2006 年中に発展的に再編成し、それにアジア各国の主要な証券業者、および若
干の域内外のクロス・ボーダー取引に秀でた国際的証券業者がアドバイザーと
して参加する。
具体的には、ユーロ市場での起債経験が豊富な各国主要民間発行者が Asian
Intra-regional Professional Securities Market のユーザーとして、ユーザ
ー・フレンドリーな市場慣行の枠組みを提唱し、アドバイザーとして参加する
証券業者が助言および指導を行い、引受参加者にとっても受け入れられる制度
設計を目指す。
制度設計に向けては、少なくとも以下の 7 つの部会を CMAA 内に設置し、そ
れぞれが担当分野における提言・勧告に向けた検討を開始し、第一次レコメン
デーションを Road Map にあわせ 2007 年末までに発表することを提言する。
1. 開示(Disclosure)部会
2. 準拠法・引受契約(Legal and Documentation) 部会
3. シンディケート・ルール(New issue practice and syndication rule) 部会
4. 決済部会(CSD との合同部会: Clearing & Settlement))
5. マーケット・メーキング・ルール(Market Practice) 部会
6. キャッシュマネジメント部会
7. システムインフラ部会
これらの検討に際しては、IPMA(現 ICMA)の Recommendation を参考に
詳細を詰めてゆく。
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¾ IPMA を参考とした場合の CMAA の位置付け(案)
An organization concerned with new issue procedure including
disclosure in the Asian Offshore Capital Markets, but it will not be an
exchange, nor a regulator empowered by statue. CMAA’s rules take the form
pf recommendations, which will be based on the general agreement of the
major participants in the Asian Offshore Capital Markets. This agreement is
to be secured by a philosophy of consensus among issuers and underwriters.
CMAA will have no power to sanction and members are free to waive any
particular recommendation when launching an issue.
CMAA will mandate from its members is to facilitate the operation of
the Asian inter-region / cross border markets. Factors in the smooth
functioning of the markets may involve legal or documentation questions,
best market practice, clearing and settlement, regulation, disclosure or
others.
域内国際債市場における各国主要業者の成長および市場の発展とともに将来
的に Asian Capital Market Dealers Association アジア証券業協会が別途形成
され、発行者の会であるアジア資本市場協議会と車の両輪で市場振興機能を果
たすことは十分想定されることであるが、それまでは CMAA がいわゆる自主規
制団体として機能することを想定。
¾ 実務上の課題
・ 域内外クロス・ボーダー取引経験のあるアジア証券取引業者は日系業者が
殆ど
・ 流動性の付与・維持に関する問題としては、域内各国内引受業者の資本力、
資金調達力、トレーディング能力等の差が大きい
・ 域内各国の国内金融証券市場の厚みの差
・ 証券取引環境の違い:OECD メンバーであるアジアの先進国の日本と韓国
は銀行と証券を分離する金融資本市場構造をもつが、日本と韓国以外のア
ジア諸国は OECD 非加盟国でユニバーサルバンキングの金融資本市場構
造となっている。
また、外為規制の点では IMF 4 条国か 8 条国かによる外貨取引規制の違い,
外貨建証券取引規制の違いが存在する。
(鈴木 裕彦)
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5.“Dual Core Asian International CSD”フレームワーク
<To Be Model>と<Can Be Model>
コンセプト
日韓が相互協力の下、既存機能を最大限活用し、実現性の高いフレームワー
クを構築する。当該フレームワークは、安全かつ効率的でコスト競争力ある
決済サービスを Asian Bond Market に提供する。
基本スキーム
<To Be Model>
(1) 日本・韓国それぞれが自国の発行・決済システムを整備しつつ、相互協力
の下、早期にアジア域内国際債市場インフラを利用可能とするフレームワ
ークを構築する。
<日本企業の Asian Bond 起債例>
発行会社
(代理人契約等)
FA・登録機関
Dual Core
韓国 KSD(NCSD)
保振機構(NCSD)
(買取引受契約)
口座
口座
引受主幹事証券
記帳の流れ
口座
口座
カストディ
(引受証券)
日本投資家
(韓国投資家)
購入
日本投資家
NCSD: National Central Securities Depository
その国を代表する証券集中預託機関
① 発行体は相手国で発行体の属する自国法を発行準拠法とする起債手続
きを行う。
② 相手国の NCSD(証券集中預託機関)を現地預託機関として利用。
9 日本企業であれば韓国 KSD を現地預託機関として発行。
③ 現地預託機関たる相手国 NCSD と自国 NCSD のリンクにより、自国
投資家が通常の国内社債と同様にローコストで当該債券を決済できる
仕組みを目指す。
9 自国投資家は自国 NCSD を経由して当該債券を取得。
・ 日本においては、外国株券振替制度と同様に自国 NCSD(保振
機構)が海外預託機関(NCSD 等)に直接リンクするイメージ
が考えられる。
9 相手国投資家も相手国 NCSD を通じ当該社債を購入可能。
9 両国の NCSD が“Dual Core”となり、“Virtual”な“International
CSD”(国際的な証券集中預託機関)を構成するイメージとなる。
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9 まず、発行企業と投資家層に比較的厚みがあり、決済インフラの
整備が進みつつある日本と韓国が“Dual Core”として互いに協力
し、アジア債券市場の決済インフラ整備の具体化を目指すことを
検討する。
・ 日韓以外のアジア諸国発行体にもインフラを開放することが
前提。(但し、決済リンク整備の関係で投資家は日韓が中心と
なろう)
・ 両国の NCSD は、IT、制度、ビジネス等で連携を一層強化す
るとともに、制度およびシステム改革によりサービスレベルの
向上をはかり、国際的に通用する NCSD を目指すことが必要
(政策的取組みが必要)
。
9 実現可能性にかかる下記の点について検証が必要
・ 他のアプローチ(後述の代替策等)と比べ、中期的視野で優位
性はあるか。NCSD として先行投資が可能か。
・ 両国 NCSD に企画推進、システム開発のマンパワーはあるか。
(両国 NCSD が国際的な展開に取組むことが可能か)
<Can Be Model>
(2) 上記アプローチが早期実現困難と判断される場合、下記代替策(“Can Be
Model”)により決済インフラを段階的に発展させ、“To Be Model”(上記
アプローチおよび“Asia Settle”等)に繋げていくことが考えられる。現段
階では、案 C が現実的であると考えられる。
① 案 A:市場関係者(含発行会社)等の出資等により、新たな限定目的
CSD を設立しシステムを構築。
9 コストに見合う取引を確保できる見通しがあるか。経営を軌道に
乗せることは容易ではないと考えられるがどうか。
9 商品横断的かつ標準インターフェイス(照合・決済システム等)
の利用が出来ないと、参加者の使い勝手・コストに影響が出てく
るのではないか。SWIFT 等の利用促進が必要。
。
② 案 B:決済はユーロ債と同様とする(International CSD 利用)
9 通常のユーロ債と同様に ICSD(ユーロクリア等)で集中決済を行
う。通常のユーロ債と同じであるため、別途、イニシャルコスト
はかからない。
9 国内取引の使い勝手はユーロ債と同じ。域内の発行流通市場を前
提とすると決済インフラが遠隔地となり非効率的にならないか。
また、
「アジア域内で自己完結可能な費用対効果の高い国際債券市
場の創設」というコンセプトに繋がるのかどうか疑問。
9 韓国レポートが指摘するように、資金決済にかかる時差の問題、
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ICSD のアジア通貨の適用範囲の狭さが問題になると考えられる。
通常の国内債の例
一般的なユーロ債の例
CSD
口座 X
決済
カストディ X
ICSD
口座 Y
口座 X
口座 Y
決済
欧州
照合シ
ステム
国内
カストディ X
投資家 A
証券会社 Y
投資家 A
取引
証券会社 Y
取引
③ 案 C:大手カストディ銀行(Asian Trustee)が現地預託機関(現地
NCSD 等)にリンクし決済機能を提供(競争原理による集中化を期待)
。
9 カストディ銀行のビジネス戦略やフィー次第となるが、アジア地
域にこのようなビジネス展開を目指すカストディが現れるかどう
か。
9 将来、NCSD 同士の努力により“Dual Core Asian ICSD”アプロー
チが現実となった場合には、そのまま大手カストディとして活躍
可能。
9 なお、NCSD が Asian Trustee となり現地預託機関と直接リンク
する形態も考えられ、これが日韓の場合、上記“To Be モデル”とな
る。
起債例
NCSD
相手国
口座 X
※NCSD の直接参加者とならない
場合はサブカストディ経由
(現地法人経由※)
Asian Trustee “X”
投資家 A
取引
日本
証券会社 Y
※Asian Trustee X は仲介業者および投資家をできるだけ顧客
とすることが必要。Asian Trustee が複数となる場合の跨る決
済は NCSD レベルでの決済が発生し効率が低下する。
その他
(1) 証券決済にかかる法律関係
① 証券決済の準拠法は、日本では法例 10 条の適用により「物権所在地
法」となる。従って券面の所在する国の法律が適用されることになる。
ヘーグ条約(「口座管理機関により保有される証券についての権利の準
拠法に関する条約」)批准後は、投資家と口座管理機関の口座契約に従
い、口座管理機関が属する国の準拠法を適用することが可能(準拠法
として日本法を適用する場合の諸問題について、現在、法制審議会「間
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接保有証券準拠法部会」で議論されている)
。
9 韓国等における外国証券決済法制については、要確認。
② アジア諸国のみならず国際的に、証券決済の各国実質法の標準化をは
かっていくことが望ましい。“UNIDORIT(=私法統一国際協会)”中
心に議論が進められており(東大神田秀樹教授が中心メンバーとなり
活動されている)、これらの動きをフォローすべきであろう。
(2) その他検討すべき論点
① アジア域内国際債も、“Dual Core Approach”等により国内 NCSD を
利用可能であれば、国内債同様に中央銀行の適格担保証券として、中
央銀行による担保貸付制度が利用可能となることが期待される。
② 流動性の高い銘柄は各国 CCP(Central Counter Party:清算機関)
の取扱対象とすることも考えられる。
9 CCP における債務引受・ネッティングによる、カウンターパーテ
ィ・リスクの軽減、および資金流動性の節約効果を期待。
9 日本においては、独立 CCP である JGBCC(日本国債清算機関)
の国内取扱銘柄の拡大が考えられる。ただし、アジア域内国際債
が保振取扱対象であることが必要。
③ いずれのアプローチにせよ、カストディ(“Asian Trustee”)の発達を
促し、国内証券・外国証券の預託取扱を拡大・集約させることが望ま
れる。
9 日本においては、一般債振替制度の実施により、カストディ利用
が拡大中。
9 カストディ銀行において、決済資金の流動性調達が行いやすい枠
組みを検討すべき(決済対象証券の円滑な担保利用スキーム、オ
フセッティングによる流動性節約スキーム)
。
9 預託証券のレンディング・サービス、トライ・パーティ・レポ等
の拡充がはかられれば、市場の厚みを増すことにも繋がる。
(吉田 聡)
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