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意識障害、発熱にて搬送された一例

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意識障害、発熱にて搬送された一例
症例検討会
意識障害、発熱にて
搬送された一例
与論徳洲会病院
和足孝之、高杉香志也、久志安範
【症例】 61歳 男性
【主訴】 意識障害、発熱
【既往歴】 アルコール依存症
【現病歴】
大量飲酒後に一年前にも意識昏迷にて搬送された経緯があ
る方。
1月1,2日に併せて有泉(焼酎)計一升程ないしそれ以上飲
酒した。
1月3日朝から飲酒をしていたが鼻づまりとくしゃみがあり、
市販薬を買いにでかけたが、そのまま道端で寝ていた為に
歩行者が救急要請。
午前11時、救急隊現着時に本人が歩いて帰れるとのことで
帰宅を促した。
午後3時頃再度通行者から救急要請あり、現着時には意識
レベル300、左共同偏視あり救急搬送となった。
来院時強直間代性痙攣が出現。
【内服薬】
なし
【生活歴】
職業 大工
(ここ数年はめっきり仕事も減っている)
タバコ 21歳より40本/日、
アルコール 21歳よりビール2杯~有泉1升/日
【家族歴】
姉が沖永良部にいるが、他兄妹親戚とは絶縁。
家族歴は不明
【現症】
<意識レベル>JCS300 GCS3
<Vital sign>general condition :Very Sick
BT37.8℃ BP200 /120 mmHg HR100 bpm
RR20 bpm 呼吸不整、SpO2 98% 10L
[頭頸] 眼瞼結膜貧血なし。眼球結膜黄疸なし。
口腔咽頭の発赤なし。 舌乾燥なし。
頸部リンパ節触知せず。項部硬直なし。
Jolt Accentuation 評価不能。
口腔外に泡を吹いている。嘔吐はなし。
[胸部] 肺野の呼吸音清。明らかな雑音聴取せず。
心音regular ,心雑音認めず。
[腹部] やや膨満、軟。Glu音良好。圧痛不明
筋性防御、反跳痛なし。
[皮膚] 発疹、乾燥所見なし。尿失禁あり
[四肢] 浮腫なし、冷感軽度。
[神経所見]
対向反射 鈍 3mm/3mm +/+
左共同偏視(初診察時)→右共同偏視(10分後)
脳神経系 その他 評価不能
深部権反射
評価不能
MMT
評価不能
下肢膝立て不能
Babinski反射 両側陰性
感覚
四肢感覚評価不能
【来院時 LAB data】
BS 126 mg/dl (簡易)
<CBC>
WBC 190 10^2/μl
RBC 456 10^4/μl
Hb 15.5 g/dl
D-NEUT 66.6 %
D-LYM 29.5 %
PLT 24.8万
<血液ガス>
RR 20 不整 O2 10L R
pH 6.97, PCO2 70, PO2 351
BE -16.9, HCO3 15.8
<生化学>
CRP 0.4mg/dl、
CPK 592 IU/l、
AST 68 IU/l
ALT 33 IU/l、
BUN 12.8 mg/dl、
CRE 0.8 mg/dl
Na 146 mEq/l、
K 5.4 mEq/l、
Cl 102 mEq/l、
LDH 191 U/I
ALB 5.0g/dl
【心電図】
Sinus tachycardia HR 110
No ST change
Normal PQ interval
Normal P wave
→ 特に異常所見なし.
来院時
胸部Xp
CPA 両側Sharp
CTR 52%
両側肺野清明
【Problem List】
• 意識障害 JCS300、GCS3
• 強直間代性痙攣
• 高血圧 BP200/120
• 発熱 37.8℃
• アルコール多飲あり
• WBC 190 10^2/μl
• Metaboclic acidosis, Respiratory acidosis混合
(pH 6.97, PCO2 70, PO2 351 BE -16.9, HCO3 15.8)
• 喫煙歴著明
• 高CK血症 CPK 592 IU/l
• 独居 (家族支援なし)
鑑別診断
【Differential Diagnosis】
•脳出血
クモ膜下出血
慢性硬膜下血腫など
• アルコール離脱症状
•
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•
低血糖
てんかん
脳梗塞
電解質異常 Na、Ca、Mg
尿毒症
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•
•
細菌性髄膜炎
ヘルペス脳炎
脳腫瘍
脳動静脈奇形
外傷性痙攣
血管炎 (SLE等)
アルツハイマー病
頭部CT
出血性病変なし
左前頭葉に
陳旧性病変を
認める
頭部MRI
Diffusion
新規梗塞巣なし
T1、T2で
左前頭葉の陳旧性
病変以外の所見なし。
側頭葉の炎症所見
なし。
経過
1月3日 検査結果前に50%Glu2A+Vitamin B1,6,12 IV。
CT前に強直性間代性痙攣が出現、Diazepam 5mgIV→5㎎IVするも再発。
血液ガスの結果から気管挿管施行。続いてPhynytoin 750㎎ DIV。
頭部CTでは出血性病変は否定的。
MRIでDiffusionのみ撮影可能、新規梗塞も否定的であった。
アルコール離脱、てんかん、細菌性髄膜炎、ヘルペス脳炎 etcを考慮し
腰椎穿刺を行い、髄液検査、Gram染色のみ施行.
血液培養、尿培養、髄液培養、各染色、HSV抗体価を採取
(これらは翌日月曜に提出)
<髄液所見>
顆粒球 正常
リンパ球 正常
BS 79
TP 0.1 g/dl
<髄液Gram染色>
細菌 -
白血球 -
経過と治療
<抗生剤>
CTRX2g 12hq
VCM、ABPCは投与せず.
ステロイドも使用せず.
<抗ウィルス薬>
Asycrovir250mg 8hq 2
<抗けいれん、アルコール離脱>
10% Glycerol 200ml 12hq
Propofol 20mg/ h
Phenytoin 250mg 12hq
その後の経過
1月4日 覚醒あり、意識レベルJCS3、見当識障害強く、不穏状態.
呼吸状態良好であったために抜管. ジアゼパムで対応.
残りのMRI施行、ヘルペス脳炎を疑う所見はなし.
1月5日 CRP8.5、発熱はなし。意識レベル清明になり、見当識障害なく疎通
性良好。実姉と禁酒、痙攣薬内服の説得を行う。沖永良部より姉来院、一年前
にもアルコールを大量に摂取した後に痙攣を起こし救急搬送されたとのこと.
その後もアルコールは止める事ができていないと.
1月6日 発熱なし、CRP3.6と改善。抗生剤、ウィルス薬終了.
AM10 タバコを買いに離院してしまう.
嫌酒薬は本人と相談の上飲まない方向に。今後一切飲酒しない、止める、
外来受診の約束、バルプロ酸内服継続、沖縄での脳波検査の約束を行い退
院を許可とした。
1月7日 腹部エコー実施、全て正常との結果. 退院.

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採血結果
LAB 1/3、 4、
WBC 190
112
CRP
0.6
1.7
AST
68
64
ALT
33
29
CK
592
Mg
2.1 (正常)
ALC
不明
5、 6
7
77
67
58
8.5
6.1
3.8
49
55
26
34
344
血液培養 2セット 陰性
HSV IgM, IgG, PCR すべて陰性
髄液培養 陰性
尿培養 陰性
診断
アルコール関連てんかん疑い
Alcohol-related seizures
てんかん発作の原因
睡眠不足
△
動静脈奇形(AVM)
×
頭部外傷
○
薬物中毒
×
アルコール
◎
感染症(脳炎や髄膜炎) ×
熱性痙攣
×
低血糖
×
電解質異常
×
妊娠(子癇)
×
水頭症
×
脳梗塞、脳出血
×
・症候性てんかん
・アルコール関連
てんかん
アルコール関連てんかん
Alcohol-related seizures
【定義】アルコール関連てんかんは、慢性的アルコール依存症に罹患する
患者において成人発症したものと定義されるが、局在てんかん、全般てん
かんの除外を試みる事が望ましいとされる. アルコール関連てんかんは
アルコール離脱症状の一症状とされ、痙攣発作は大量の飲酒や、多くの
場合は逆に6~48時間の禁酒により、NMDA受容体やGABA受容体の
Ca,Cl電流を阻害し異常脳波が誘発させる為とされる.
【診断】臨床所見、病歴から髄液検査、CT、MRI、脳波等を行い他疾患を
除外する以外にはない。
【治療】治療は主にてんかんとしての治療薬に準ずる
カルバマゼピン(CBZ)(テグレトール®)
フェニトイン(PHT)(アレビアチン®)
バルプロ酸ナトリウム(valproic acid; VPA)(デパケン®)
ジアゼパム(DZP, DAP)(ホリゾン®、セルシン®)
フェノバルビタール(PB)(フェノバール®)
Up to Dateより
アルコール関連てんかん
Alcohol-related seizures
ERに受診した初発痙攣発作患者の9~25%はこの診断に入るとされる.
Emerg Med Clin North Am. 2011 Feb 29
入院後にアルコール関連てんかん(離脱症状主に含む)を防ぐ一時予防
としてはベンゾジアゼピン系や抗てんかん薬の内服が顕著に発症を予防
したが、逆に抗精神約クロルプロマジン、ハロペリドール、リスペリドン等
では発症のリスクが増加した.
CNS Drugs 2003 Volume17 PP1013~
禁酒が成功していれば、二度とてんかん発作は起きないとされるために
抗てんかん薬を内服し続ける必要はない.治療の方針は、今後の痙攣予
防よりもアルコール依存症に対する禁酒、支持的療法が優先される.
N Engl J Med. 2003;348(18):1786-95.
考察
今回の問題点
・離島で脳波検査ができない→確定診断はできない。
・発熱のフォーカスは結局不明であった。
・てん
・コンプライアンスが非常に悪く飲酒・内服管理が困難
・与論献奉 (焼酎の回しのみ)文化
・周囲の支持者がいない
結語
今回、飲酒により誘引されたてんかん発作
の一症例を経験した。
てんかんの診断の流れ

・大発作
特発性の全般発作です。前兆なしに突然意識消失。全身の強直性けいれん、通常1分以内に治まる。この
間呼吸停止のためチアノーゼがみられます。その後に関節の屈曲と伸展を交互に繰り返す間代性けい
れんに移行します。この間に舌をかんだり、尿便の失禁がみられたりします。間代性けいれん終了後
には、深呼吸状態となり、口中に増加した唾液が泡となって吹き出されます。その後もうろう状態を
経て睡眠に移行します。数十分で覚醒しますが、発作中のことはまったく記憶に残りません。

・小発作
特発性の全般発作です。短時間の意識消失発作で、通常、大きなけいれん発作は伴いません。前兆
なく突然に生じます。急に一点を凝視したり、会話を中断したり、話しかけに応じなかったりします
が、2~10秒後には正常に戻ります。あまりに短時間すぎて患者自身にすら自覚がないこともあり、単
にうわのそらといった印象しか与えないこともあります。この発作は、5~10歳の小児期に発症し、成
人期までに約半数は治癒しますが、一部は大発作に移行することもあります。8歳以降の発症、男児、
難治例、光過敏症の存在などは大発作になる危険性を増大させるといわれています。





・単純部分発作
小発作や大発作は原因不明の特発性てんかんですが、単純部分発作は大脳皮質に限局性の病変が存
在する症候性てんかんです。症状は病変の存在する部位によって異なりますが、意識障害は伴いませ
ん。例えば前頭葉の運動領野の病変では、反対側の手足にけいれんが生じます。異常放電が周囲に広
がり、それに応じて局所のけいれんが次々と進展していく発作は、ジャクソン型てんかんと呼ばれて
います。この異常放電が全脳に波及し、意識障害と全身のけいれんが生じ、二次的に大発作に移行す
ることもあります。
・複雑部分発作
単純部分発作と異なり、発作の開始後の早い時期より意識障害を伴います。病巣は側頭葉に存在し
ます。既視感(きしかん)、未視感、幻嗅(げんきゅう)、幻聴などの前兆の後に意識障害と自動症
(口唇、舌、手指の自動的な運動や歩行など)が出現し、2~3分持続します。その後にもうろう状態
となります。発作中の記憶は残りません。
てんかんの4大類
型
原因不明
発作タイプ
部分発作
全般発作
特発性局在関連 特発性全般
性てんかん
てんかん
原 腫瘍や交通事
因 故等による
症候性局在関連 症候性全般
脳の器質的障
性てんかん
てんかん
害*が原因
①ローランドてんかん、②小児欠心てんかん③側頭葉・前頭葉てんかん
④Westなど。
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