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「企業グローバル行動指針」ガイダンス
「企業グローバル行動指針」ガイダンス 1.1987 年(昭和 62 年)「海外投資行動指針」 (以下「87 指針」)概要 (1) 基本的姿勢 企業発展と投資先国の経済・社会との両立 (2) 現地会社の主体性尊重 (3) 相互信頼を基盤とした事業活動の推進 (4) 良好で適正な労使関係の確立 (5) 雇用、登用の推進 (6) 教育、訓練の推進 (7) 派遣者の自主性尊重 (8) 派遣者の選定、教育 (9) 派遣者の派遣期間、生活基盤の整備 (10) 投資先産業との協調 (11) 技術移転の促進 (12) 再投資の推進 (13) 投資先国社会との協調、融和 *本指針は、1973 年(昭和 48 年)「発展途上国に対する投資行動の指針」の 改定版であり、両指針の基本原則は同じ。 2.改定理由 (1) 87 指針には、1990 年代以降に企業に求められ、国連グローバル・コン パクト、OECD 多国籍企業行動指針等に規定された企業の社会的責任概念 が反映されていない。 (2)87 指針第 12 条「再投資の推進」は、貿易収支の悪化を海外投資利益で 補完し、投資立国を目指すわが国の方針と矛盾する。 (3)わが国に昔から存在する伝統的な行動原理を指針に反映させたい。 3.新指針の骨子 (1)世界の企業・団体の行動指針は、国連グローバル・コンパクトに基づき 作成されたものが多い。OECD 多国籍企業行動指針や ISO26000(企業の 社会的責任の国際標準)は、企業が作成する「具体的な行動指針」の標 準としては有効だが、項目が多く内容が詳し過ぎると考えた。会員企業 が容易に遵守・参照できるグローバル・コンパクトをモデルとした。 (2)持続的な社会、経済、環境の発展を確保するために障害となる企業の グローバル・リスクとしては、人権侵害(含む労働者の権利侵害)、 環境破壊、外国腐敗、反競争的行為と考え、国連グローバル・コンパク トに定める「人権」 「労働」 「環境」 「腐敗防止」の4つの骨子に「反競争 的行為」を加えて5つの柱とした。これらに基本的姿勢(総則)及び前 文を入れて全 7 章で構成した。 4.前文 (1) 87 指針の位置づけ 昭和 48 年「発展途上国に対する投資行動の指針」(その普及のため に日本在外企業協会が設立された)の改定。40 年前の基本原則。 (2) 1974 年の日本の海外直接投資額 2,395 百万㌦ (13 年は 74 年の 1987 年の日本の海外直接投資額 33,364 百万㌦ 60 倍) 2013 年の日本の海外直接投資額 134,510 百万㌦ (87 年の 4 倍) 海外でのわが国のプレゼンスが著しく高くなり、これは今後も続く。 (3) OECD 多国籍企業行動指針 1976 年採択、1984 年、1991 年、2000 年。2011 年改定 (4) 国連グローバル・コンパクト 1999 年 「人権」「労働」「環境」採択 2004 年 上記に「腐敗防止」を追加 (5) ISO26000(Guidance on social responsibility) 2010 年 11 月発表 (6) 企業の社会的責任 欧州:企業の存続のために必要不可欠な社会の持続的発展に対する 投資、未来の為の投資としての企業活動 米国:1990 年代後半以降 企業は利益を追求するだけでなく、法律 の順守、環境への配慮、コミュニティーへの貢献 日本:1970 年代から「企業の社会的責任」という言葉が使われた。 しかし、この言葉は「企業の持続的発展」した後の、即ち、 企業収益を達成した後の寄付、社会貢献、メセナ、フィラン ソロピーの意。 (7) 企業は、上記(3)から(6)の通り、その活動する国や地域の法律を順守 するだけではなく、国際的に宣言された基準に従って、人権尊重、 労働者保護、環境保護、腐敗防止、反競争行為の防止などに努めなけ ればならないという考え方が普及。 (8) 他方、わが国には以下の通り企業を社会の公器と考える商人哲学が古 くから存在する。 近江商人の家訓 ・三方よし-売りてよし、買いてよし、世間よし 石田梅岩 ・二重の利を取り、甘き毒を喰ひ、自死するようなこと多かるべし ・実の商人は、先も立ち、我も立つことを思うなり 三井家家訓 ・多くをむさぼると紛糾のもととなる ・不心得の一族は協議し、処分せよ 住友家家訓 ・職務に由り自己の利益を図るべからず ・名誉を害し、信用を傷付くるの挙動あるべからず ・廉恥を重んじ、貪汚(どんお)の所為あるべからず ・我営業は信用を重じ、確実を旨とし、以て一家の鞏固隆盛を期す (9) グローバルな動向に対応するとともに、わが国特有の企業倫理を取り 入れ、「企業グローバル行動指針」を制定する。 5.基本的姿勢(以下の 5 項目の総則) (1) (2) (3) (4) (5) 企業は、利害関係者の承認を経て、存在が認められる社会の公器。 社会の公器としての自覚と誇りをもって、持続的成長のために経営。 企業は行動原理を実践し、実践内容をステークホルダーへ説明責任。 企業は、本指針を参照して、「具体的な行動指針」を策定。 「具体的行動指針」の実効性を確保するために内部管理体制の整備 ① 経営者は、行動指針の順守を誓約(コミットメント) ② 柔軟で効果のあがるリスクベースの内部管理体制の整備 ③ 指針に基づく行動が妨げられる場合 責任者が明確な対応決定 (担当者に決定を委ねず、権限ある責任者がリスク対応を決定) ④ 違反行為に対して、恣意的運用を許さず、妥協のない姿勢。 ⑤ リスクに応じた取り組み 検証しながら精度を上げる。 ⑥ 計画的・体系的な教育・研修 ⑦ 内部管理体制の PDCA を回す サプライチェーンへの自らの影響力の行使 6.人権 【行動指針】 1.企業は、国際的に宣言された人権を尊重した事業活動を行わなければ ならない。 2.企業は、自らの事業活動が、人権侵害への加担・助長につながること ないよう努めなければならない。 【解説】 1.企業はなぜ人権保障に取り組まなければならないのか? 人権保障は、本来は国家の責務だが、保障されていない国家が存在。 こうした国家では、企業は自らの社会的責任として、相手国・地域 住民のために人権保障に取り組むことが期待されている。 2.企業はなぜ人権保障に取り組まなければならないのか? 相手国における人権擁護の促進が消費者を含めたステークホルダー からの信頼獲得による企業の持続的成長につながる。 3.企業の人権保障の取り組みの姿勢は? 企業は、基本原則と行動指針に対する自らの誓約を明示する。 4.企業の人権保障の取り組みの姿勢は? 企業は自らの人権保障の取り組みだけでなく、サプライチェーン全体 に対して注意を払うこと。 5.企業は人権保障の取り組みのために、具体的に何をするのか? 企業は人権デューディリジェンスのサイクルを回すこと。 7.労働 【行動指針】 1.企業は、労働者保護に努めなければならない。 【解説】 1.企業は、なぜ労働者保護に取り組むのか? 労働者は幸福追求権をもち、企業活動に不可欠なパートナー 2.企業は、なぜ労働者保護に取り組むのか? 企業は労働者との共存共栄を図ることで、進出国で企業市民と認めら れ、持続的な成長が実現できる。企業は、労働者の自己実現を支援。 3.企業は、労働者保護のために具体的に何をするのか? 職場の安全・衛生の確保 4.企業は、労働者保護のために具体的に何をするのか? 企業は、不合理な理由に基づき差別してはいけない。 5.企業は、労働者保護のために具体的に何をするのか? 児童労働と強制労働の禁止 サプライチェーンへの自らの影響力の行使 6.企業による労働者保護の取り組みの姿勢 労働者、特に組合代表者との十分なコミュニケーション 8.環境 【行動指針】 1.企業は、環境を破壊しないように予防的措置を講じなければならない。 2.企業は、環境に優しい技術の開発と普及に努める。 【解説】 1.企業はなぜ予防的アプローチに取り組むのか? 環境へのダメージを小さくするため。環境を破壊すれば回復のための 費用は予防のための費用をはるかに上回る。 2.企業は予防的アプローチのために何をするのか? 予防的対応の誓約及びそれを基礎づける行動規範、ガイドライン制定 3.企業は予防的アプローチのために何をするのか? 予防的対応のために情報収集 ステークホルダーとのコミュニケーション 4.企業はなぜ環境にやさしい技術開発に取り組むのか? 環境破壊の防止 新たなビジネスチャンスのため 5.企業は環境保護のために具体的に何をするのか? サプライチェーンの環境保全のために自己の影響力を行使 9.腐敗防止 【行動指針】 1.企業は、その従業員やエージェントによる如何なる贈収賄などの腐敗 行為も許してはならない。 【解説】 1.企業は、なぜ腐敗防止に取り組むのか? 不正な利益提供は、外国公務員をマスターに仕上げ、相手国の持続的 発展を阻む。 2.企業は、なぜ腐敗防止に取り組むのか? 腐敗した公務員は、賄賂を提供する企業を食い物にする。悪循環。 企業は、腐敗防止のため、「リスク志向」の取り組み。 3.企業は、腐敗防止のために具体的に何をするのか? 「不正な意図」の有無を示す明確な禁止・許容基準を示す内規の策定 4.企業は、腐敗防止のために具体的に何をするのか? 内規の定着のために、経営者の本気度 トップの誓約 5.企業は、腐敗防止のために具体的に何をするのか? (対応が遅れている)エージェントの管理、買収後の内部統制の整備 10.反競争的行為 【行動指針】 1.企業は、公正な競争を妨げる行為、特に市場価格に影響を及ぼすよう な調整行為に加担してはならない。 【解説】 1.企業は、なぜ反競争的行為の防止に取り組むのか? 社会・国が得るべき利益の逸失をふせぐため。 2.企業は、なぜ反競争的行為の防止に取り組むのか? 企業の持続的成長のための自由な取引の場を確保するため。 3.企業は、反競争的行為の防止のために具体的に何をするのか? 遵守すべき方式や手続の具体化 4.企業は、反競争的行為の防止のために具体的に何をするのか? トップの誓約(コミットメント)と役職員の教育・訓練 5.企業は、反競争的行為の防止のために具体的に何をするのか? 問題発見後の事後対応 (以 上)