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保険契約 抜本的な会計処理の変更の提案

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保険契約 抜本的な会計処理の変更の提案
保険契約
抜本的な会計処理の変更の提案
概要
•
国際会計基準審議会(以下 IASB とする)は 2010 年 7 月 30 日に公開草案を公表し、保険契約に関する認識、測定、表示および開示に
ついての包括的な会計基準を提案している。財務会計基準審議会(以下 FASB とする)は、予備的見解(ディスカッション・ペーパー)の
公表を予定している。
•
公開草案は、保険会社だけではなく、保険契約を発行している事業体に適用される。公開草案は、IFRS第4号に定める保険契約の定
義を継続的に適用しているが、適用範囲の修正を行って、固定報酬サービス契約を保険契約の範囲から除き、ある種の金融保証契約
は保険契約の範囲に含むことを提案している。
•
公開草案によれば、保険者は保険契約について現在測定モデル(つまり、各報告期間末に再測定を行う測定モデル)により測定する
ことを求めている。
•
測定に関しては、保険者が契約の義務の履行に際して発生すると予想される、偏りのない確率により加重平均された将来キャッシュ・
フロー、貨幣の時間的価値の効果、明示的リスクマージンおよび当初認識において利益を認識しないために設定される残余マージン、
のビルディング・ブロックに基づき計算を行う。
•
保険期間がおよそ 1 年以内もしくはそれ未満である短期契約について未解消の保険期間においては単純化された測定アプローチが
求められている。しかし、この方法はほかの契約には認められていない。
•
審議会は、最終的な会計基準を 2011 年の中頃には公表することを予定しているが、発効日は提案されていない。遡及適用が求めら
れるものの、いくつかの実務的な移行措置がついている。
•
経営者は、公開草案が現行のビジネスおよび投資家とのコミュニケーションにどのような影響があるかについての評価を行い、新しい
モデルにおけるデータや追加的なシステム要件についての査定が必要となる。
PricewaterhouseCoopers
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総論
1. IASB の目的は、ひとつの、高品質の保険契約に関する、認識、測定、表示および開示についての会計基準を開発することにある。
2007 年には、IASB は、ディスカッション・ペーパーを公表した。現在では公開草案が公表され、これは、多様な会計処理を容認している中
間的な会計基準である IFRS 第 4 号保険契約に置き換わるものである。多様な保険契約に関する会計が存在する現状においては、ひとつ
の包括的なモデルを採用する公開草案の目的は、IFRS により財務報告を行っている保険業界、作成者およびアナリストにより、歓迎され
ることである。公開草案では、発行されたすべての種類の保険契約(および保有する再保険契約)に、ひとつの包括的な測定アプローチを
適用することが提案されている。公開草案では、IFRS 第 4 号の保険契約の定義が引き続き適用されている。
2. 短期契約を除き、保険契約の測定モデルは、確率により加重平均された割引キャッシュ・フロー、リスク調整および当初認識において利
益を認識しないために設定される残余マージンからなるビルディング・ブロックに基づく。割引キャッシュ・フローおよびリスク調整は各報告
期間末に再測定される。保険期間が約 1 年もしくはそれ未満の短期契約については、未解消の補償に対して保険料から増分契約獲得費用
を控除した金額で測定される。これらの契約に関して、保険金負債は、ビルディング・ブロック・アプローチ(残余マージンを除く)を適用して
測定される。
考察:公開草案は、予備的見解における出口価値の概念をとりやめ、保険者が契約の義務の履行に際して発生すると予想するキャッシュ・
フローを考慮するアプローチを採用する。予備的見解からのほかの主要な差異は、提案された残余マージン・アプローチが当初利益の認
識を防止する点である。
公開草案は、いくつかの保険者に対してはその影響が大きいと考えられるが、すべての保険者に対して影響を及ぼす。以下の項目は、多
くの保険者にとって、現行の会計実務からの乖離が予想される。
•
各報告期間末に再測定を行おうとする、現在の測定モデル
•
一時点での見積りはもはや十分ではない。
•
多くの負債は直近の利率により割り引かれる。
•
全ての契約獲得費用は、もはや資産としての繰り延べを行わない。非増分契約獲得費用は費用処理される。
•
投資の構成要素や組込デリバティブは区分処理が適用される。
3. コメント期間は、2010 年 11 月 30 日までである。
4. 2008 年 10 月に FASB はプロジェクトに参加し、以後、両審議会はともに公開草案についての検討を行ってきた。FASB は、IASB の提案
をほかの見解とともに取り込んだ予備的見解を公表する予定である。 また、コメント期間は、2010 年 11 月 30 日までを予定している。
考察:予備的見解を公表するという FASB の決定には、この問題に関する異論のための時間が少ないとの事実が反映されている。
USGAAP においては保険契約に関する固有の会計基準が存在する。このため、IFRS の適用者が保険契約の会計基準を必要とするのと
は異なり、保険契約の会計基準について検討する緊急の必要性はない。
FASB と IASB との間には、重要な2つの見解の差異が生じている。詳細は後に説明する。ひとつは、IASB が直近の測定に基づく明示的リ
スク調整と残余マージンを適用することを考えているのに対し、FASB は、ひとつに統合され、ロック・インされた複合マージンを適用するこ
とを考えている。ほかの相違点は、FASB は裁量権のある有配当性を伴う投資契約については、提案の範囲から除きたいと考えている点
である。
主要論点
定義および範囲
5. 公開草案は、保険者だけでなく、保険契約を発行しているすべての事業者に適用する。公開草案は、「ある主体(保険者)が、ほかの主
体(保険契約者)から、特定の不確実な将来事象(保険事故)が保険契約者に不利益を与えた場合に保険契約者により補償(もしくは保障)
を行うことを同意することにより、重大な保険リスクを引き受ける契約」という IFRS 第4号の定義を引き続き適用することが提案されている。
IFRS 第4号のとおり、保険リスクは、金融リスク以外のリスクであると定義されている。ここにおける金融リスクは、「特定の利率、金融商品
価格、商品価格、外国為替レート、価格またはレートの指数、信用格付けまたは信用指数、またはそのほかの変数のうち非金融変数の場
合にはその変数が契約の当事者特有のものでないもので、ひとつあるいはそれ以上の、将来の変動リスク」である。IASB は、IFRS 第4号
の定義を引き続き適用するが、もし、ネット・キャッシュ・アウト・フローの現在価値が、保険料の現在価値を超えるという商業実態のあるシ
PricewaterhouseCoopers
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ナリオがなければ、契約が重大なリスクを移転しないという点を明確化するために、IFRS 第4号のガイダンスを改訂した。
考察:ガイダンスの明確化により、保険料の返還を保証するある種の契約は、もはや保険契約の定義を充足しない可能性がある。現時点
では、IFRS 第4号の定義に該当するが改訂された定義に該当しない契約は、ほかに判明していない。
ある銀行は、顧客の死亡または就労不能により貸付金残高の支払いを免除する貸付を行っている。これらの契約は保険契約の条件に該
当する可能性がある。しかし、この公開草案で影響をうける範囲は、後に検討を行う、公開草案に含まれている区分処理(アンバンドリン
グ)に依拠する。
6. IASB は、引き続き保険契約の定義に該当するある種の契約を、保険契約の範囲から除いている。IFRS 第4号から継続して保険契約の
範囲から除かれている項目は以下のとおりである。
•
製造者、卸売業者および小売業者により発行された製品保証
•
製造者、卸売業者および小売業者による残価保証、ならびに、ファイナンス・リースに組み込まれた借り手の残価保証
•
企業結合における条件付支払対価
•
従業員給付制度における雇用者の資産および負債
•
企業が保険契約者となる、元受保険契約(しかし、出再者は、この公開草案を自社が保有する出再保険について適用する。)
7. IFRS 第4号は、金融保証契約を、期日が到来しても特定の債務者が支払を行わないために、保証契約保有者に発生する損失を、発行者
がその保有者に対して補填することを要求する契約としている。IFRS第4号は、ほかの事業者がこれらの契約を金融商品として取り扱った
場合でも、保険者がこの契約を発行した場合には保険契約として取り扱うことを許容している。IASB は、現時点では、保険契約の定義に該
当するすべての契約(個別に適用が除外されている項目を除く)を保険契約として会計処理を行うことを要求している。金融保証契約の定義
をIAS第39号から除き、保険契約の会計基準に含めることが提案されている。これにより、保険契約の定義に該当しない金融保証契約は、
IAS 第 39 号の適用範囲に含まれる。
8. IASB は、保険契約の範囲についての改訂を行い、固定報酬サービス契約を保険契約の範囲から除くことを提案している。固定報酬サー
ビス契約(たとえば、サービス提供者が、故障の後に、特定に部品の修理を行うことについて合意するメンテナンス契約)は、サービス提供
の水準が不確実な事象に依拠するため、サービス提供者をリスクにさらす契約である。しかし、公開草案においては、保険者が保険契約者
に対して、保険事故の補償をするために商品またはサービスを提供する保険契約に関しては、保険者はこの公開草案を適用すべきである
としている。
考察:しばしば、銀行で発行される金融保証保険、住宅ローン保証保険、取引信用保険およびいくつかの信用状は基準の範囲内に含まれ
る。しかし、相手方が基礎となる負債商品を保有するかに拘らず支払いを行う契約や、信用格付けまたは信用インデックスの変化により支
払う契約は、継続して金融商品としての会計を適用することになる。保険契約の会計は、現在の IAS 第 39 号の範囲に含まれる金融保証の
会計とは異なるかもしれないが、測定結果は、IFRS 第 9 号で求められている会計処理と著しく異ならないかもしれない。
IASB は固定報酬サービス契約(たとえば、ロードサイド・アシスタンス契約や補修契約)について保険契約の公開草案の範囲から除こうと
することはあきらかである。しかし、範囲に関する記述には、保険事故が生じ、保険契約者の保障するために、保険者が商品やサービスの
提供をおこなうという契約が含まれている、これにより、このような契約は、公開草案において提供された保険契約の定義に含まれるように
も考えられる。ガイダンスに明示されない契約も存在することから、そのようなものに関して保険契約の会計基準に含まれるか否かについ
ては不透明である。
9. 公開草案は、裁量権を有する配当性を含む金融商品を、その範囲に含んでいる。これに関しては、裁量権のある有配当性に関するセク
ションにおいて、その検討を行う。
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測定モデル
10. 公開草案は、すべての保険契約をひとつの測定モデルで測定することを提案している。そして、保険契約は、契約に基づく権利と義務
を履行するように、保険者が、現在保有する契約が創出すると予想している、将来キャッシュ・フローの金額、時期およびの不確実性の直近
の評価であると説明される。この測定は公開草案において、履行キャッシュ・フローの現在価値と定義され、以下のビルディング・ブロックを
利用して測定される。
•
明示的な、偏りのないかつ確率により加重された見積り(たとえば、予想額)による将来キャッシュ・アウト・フローから将来キャッシュ・
イン・フローを控除した額
•
貨幣の時間的価値を反映するためにキャッシュ・フローに適用した割引率
•
将来キャッシュ・フローの金額および時期について不確実性の影響に関する見積りを反映させるための明示的リスク調整
残余
マージン
明示的リスク調整
貨幣の時間的価値
直近の、偏りのないかつ確率により加重されたキャッシュ・フロー
図表1:測定モデル
11. IASB は、保険契約に関して当初利益を認識すべきではないとの結論に至った。これは、収益認識プロジェクトにおける提案と整合性を
有する考え方である。この結果、もし上述の計算により資産が認識されるのであれば、当初利益を相殺するために残余マージンが加えら
れる。それゆえ、保険契約は当初はなしと測定される。もし履行キャッシュ・フローの現在価値がゼロよりも大きければ、不利な契約におい
て損失を認識するように、保険者は、その現在価値を損失として認識する。履行キャッシュ・フローの現在価値の事後の変動は保険資産も
しくは保険負債を創出する。
12. FASB により好まれているモデルでは、明示的リスク調整ではなく、保険契約の引受時においては、利益を消去するために複合マージ
ンが設定される。予想キャッシュ・アウト・フローが予想キャッシュ・イン・フローを上回る場合には即座に損失が認識される。
考察: FASB の複合マージンモデルにおいては、予想キャッシュ・アウト・フローが予想キャッシュ・イン・フローを超過する場合に、当初損
失が認識される。IASBモデルは、FASBモデルにおいては損失が認識されていない状況においても損失が認識される可能性がある。これ
は、FASB モデルが予想キャッシュ・フローの見積りにおいてリスク調整を含んでいないことに起因する。
13. 公開草案は、保険者に対して外貨建の保険契約について IAS第21号を適用する際の貨幣性資産として取り扱うことを求めている。この
要請は、履行キャッシュ・フロー、リスク調整および残余マージンに対して適用される。
考察: この変更は、歓迎される変更かもしれない。IFRS 第 4 号においては、損害保険会社において未経過保険料や繰延契約獲得費用を
非貨幣性項目として取り扱っていたことにより生じる会計上のミスマッチを相殺するからである。
キャッシュ・フロー
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14. 保険者が保険契約を履行するために生じる履行キャッシュ・フローは、明示的で偏りのない確率で加重された増分キャッシュ・アウト・フ
ローの見積りに含まれる将来キャッシュ・アウト・フローから将来キャッシュ・イン・フローを控除した金額である。この予想額は、すべての範
囲の可能性のある結果を反映するシナリオを考慮して決定される。各シナリオでは、ある特定の結果をもたらすキャッシュ・フローに関する
金額と時期、およびその結果が生じる確率が特定化される。各結果から生じるキャッシュ・フローは予想現在価値をもたらすために割引か
れ、確率要素に基づいて加重される。一つの最良の見積もりを行おうとする、多くの現行会計モデルとは異なり、すべての発生可能性(ほと
んど生じない場合に対しても)を考慮し、加重される。しかし、非線形的な動向を示す複雑な基本的要素が含まれる場合には、洗練された確
率モデル(Stochastic model)が必要となるかもしれない。
15. キャッシュ・フローには、保険契約のポートフォリオから生じるあらゆる増分キャッシュ・イン・フローとキャッシュ・アウト・フローを含むべ
きである。これらのキャッシュ・フローには、直接費および一定の方法により配賦された契約および契約活動に直接関連する費用を含む。こ
れらのキャッシュ・フローは、契約管理や契約維持の費用が含まれる。しかし、一般的な間接費や IAS 第 12 号により認識、測定される税金
の受取額や支出額は除かれる。キャッシュ・フローは直近の状況を表し、市場変動要因を除いて、保険者の観点を反映すべきである。なお、
市場変動要因は、市場と整合的であることが求められる。適用ガイドラインにおいては、ポートフォリオの複製(複製資産とは、そのキャッシ
ュ・フローが契約キャッシュ・フローと完全に整合している資産である)が市場変動要因を組み込む際に適切な方法の一つであるとされてい
る。
16. ビルディング・ブロック測定に含められるべきキャッシュ・フローの範囲は、保険者が現在の契約を履行するために生じるキャッシュ・フ
ローのみを含める。多くの契約は延長、解約および再引受のオプションなど契約期間の確定を困難にする性質を含んでいる。よって、これ
らのキャッシュ・フローについて契約の境界を設定することが必要である。公開草案は、保険者がもはや保険契約に基づいた補償を提供す
ることが必要とされていない時点、もしくは、特定の保険契約者のリスクを再評価する権利、または実務的な能力を有しており、その結果と
して、当該リスクを完全に反映させた価格を設定することができる時点のいずれかまでの予想キャッシュ・フローを含むことを提案してい
る。
17. 保険契約には、組込オプションおよび保証、たとえば、最低運用保証や死亡に対する最大費用支払額、解約オプション、もしくは補償内
容についての削減や拡充が含まれる。提案された測定モデルにおいては、予想キャッシュ・フローに、予想される契約者の行動を反映させ
ることが求められている。これらの契約者の行動には、保険契約者に認められている、保険契約者が受取る保険契約の保険金額や、支払
時期、あるいは補償内容を変更するという特性や、そうした保険契約者の行動の不確実性に対処するためのリスク調整が含まれている。
考察:予想額は、すべての可能性のある結果について、ある特定の結果をもたらすキャッシュ・フローの金額と時期、および、その結果が生
じる予想確率を考慮して、評価することに基づく。これは、たいていの場合一点の見積りのみを測定し、ある範囲のシナリオを用いるのでは
ない多くの評価モデルとシステムに重大な変更を要求するであろう。保険者は、評価システムと財務報告の日程に生じるプレッシャーにつ
いて理解する必要がある。
保険監督者が個別の保険契約者の保険料の再評価について制約を課しているある種の健康保険もしくは、ほかの保険に対しては、契約
の境界の定義が影響をもたらすであろう。いくつかの地域については、これらの契約は短期契約として取り扱われている。しかし、上記の
提案によれば、もし、保険者が完全に保険料の再評価や再引受ができないのであれば、予想キャッシュ・フローは 1 年という境界を超える
かもしれない。
その代わりに、現在、長期の契約として取り扱われているものについて、契約の境界に関する提案によってより短い期間のキャッシュ・フロ
ーが考慮されるべきであると導かれることになるかもしれない(たとえば、リスクの変化に対応して保険料の再設定が認められる場合)。も
しこれらの契約が、契約の境界を超える後の期間におけるキャッシュ・フローから回収する多額の契約獲得費用を有している場合には、当
初認識においては、損失が生じるかもしれない。
IAS 第 12 号 法人所得税に基づいて認識かつ測定される法人所得税に関する支払や受取りは、キャッシュ・フローには含まれない。いくつ
かの地域では、保険契約者の給付は、課税後の投資成果に依存している。この公開草案においては、これらの将来の税金を負債の測定
に含めることは認められていない。キャッシュ・フローには、投資成果と関連する投資費用を含まない。これは、投資は個別に認識され、資
産と負債を個別に評価することに起因する。
いくつかの国では、保険者は保険契約を担保として顧客に契約者貸付を行っている。保険者は、契約者貸付が保険契約に基づくキャッシ
ュ・フローであるのか、IAS 第 39 号や IFRS 第 9 号により会計処理される個別の金融商品なのかを検討する必要があるであろう。
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割引率
18. ビルディング・ブロックモデルにおいて適用される割引率は、時期、通貨、流動性といった観点から、保険負債の特徴を反映しているキ
ャッシュ・フローを有した商品における観察可能な直近の市場価格と整合的であるべきである。この特徴は、負債の裏付けとなる現実資産
の期待成果に基づいた割引率を用いることで反映されるものではない。キャッシュ・フローが特定資産の運用の結果に依存するものではな
い契約については、割引率は、流動性を考慮したリスクフリーのイールドカーブによるべきである。キャッシュ・フローが、すべて、もしくは、
部分的に特定の運用結果に基づいている契約については、保険負債の測定において、その依存を反映するべきである。履行キャッシュ・フ
ローの現在価値は、保険者の不履行リスクを反映させるべきではない。
考察:最近の信用危機が、市場価格における流動性リスクと信用リスクとの区分が困難であることを明確化した。保険負債の評価において
は、契約者の解約オプションにより、明確に流動化する場合があるし、ほかの契約、たとえば、“年金保険”においては、キャッシュ・フロー
は事前に確定され、弾力性がないことから、流動性に乏しい。保険者における挑戦は、これら二つを両端として、その間にある契約に対す
る流動性の調整をどの時点で適用するかについて決定することにある。
加えて、一つの割引率ではなく金利のカーブを使用する場合には複雑性が生じるであろう。ある状況下においては、異なる給付のため、複
数の金利のカーブが必要となる可能性がある。そのうちのいくつかは、投資成果を反映することになるかもしれない。直近のレートを使用
することにより、デュレーションや信用特性などの投資資産と負債のミスマッチが、現在多くのモデルに使用されている長期的な仮定とは異
なる直近の仮定のもとで、財務諸表において測定されるであろう。
IASB は、履行キャッシュ・フローが、保険者の不履行リスクを反映すべきか否かについて、個別にコメントを求めている。この提案への対
応のためには、保険者は、保険負債に対応する金融資産の測定に対する IFRS 第 9 号の影響を考慮する必要があるだろう。特に、信用リ
スクによる市場価格の変動により金融資産の公正価値の変動が損益計算において反映されるが、一方で、負債の測定においては、市場
の変動のいくつかが排除されるため、もし変動が保険者による不履行リスクに帰属する場合には、会計上のミスマッチが生じるのだろう
か。
リスク調整
19. 保険契約プロジェクトにおける審議において最も見解の分かれる論点は、確率で加重されたキャッシュ・フローに加え、追加的な金額
(明示的なリスク調整)が、将来キャッシュ・フローの見積りに固有の不確実性を反映させるため、保険負債の測定に含まれるべきということ
である。多くの議論の後に、公開草案は、明示的なリスク調整をビルディング・ブロック測定における一部として取り扱うこととした。他方、
FASB は含むべきではないとした。
20. したがって、公開草案は、市場参加者の観点よりも、保険者の観点からの将来キャッシュ・フロー(金額、時期)に関する不確実性の影響
のための明示的なリスク調整を含んでいる。リスク調整とは、最終的な履行キャッシュ・フローが予想を超過するというリスクからの開放を
行うために保険者が合理的に、そしていとわずに支払いを行う場合の最大金額である。リスク調整は、明示的な方法によりビルディング・ブ
ロックモデルに含め、割引将来キャッシュ・フローの見積もりとは区別し、別途開示を行うことが求められている。適用ガイダンスは、リスク
が重複しないことを確かめる注意を必要とすることを明らかにしている。たとえば、もしキャッシュ・フローが、ポートフォリオの複製や他の
市場において観察できるインプットを利用している時には、その測定においては、それらのキャッシュ・フローに関連するリスク調整がすで
に含まれている。
21. 比較可能性と信頼性の懸念に対する取り組みのため、ガイダンスは許容されるリスク調整の計算手法を、信頼水準法、条件付テイル期
待値法および資本コスト法の 3 つの方法に限定している。いくつかの適用ガイダンスは、どのような状況においてどの手法が適切であるか
という説明を含み、各手法についての説明がされている。加えて、たとえ資本コスト法や条件付テイル期待値法がリスク調整の測定に適用
されている場合であっても、リスク調整に対応する信頼水準を開示することが求められている。
22. 公開草案によれば、リスク調整はポートフォリオレベルで測定することが求められている。ポートフォリオとは、“広い意味で同様のリス
クかつ単一のプールとして管理される保険契約”と定義されている。それゆえ、この調整は、同一グループにおける異なるポートフォリオ間
の分散効果(diversification)を認めるのではなく、この調整は、ポートフォリオ内におけるリスクの分散効果(diversification)を認めている。
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考察:もし、資本コスト法が適用されるならば、これは、契約の価格設定や支払余力(ソルベンシー)目的に利用されるのとは異なるのかも
しれない。
明示的なリスク調整の利点は、明示的リスク調整が、各報告日における負債に含まれるリスクに対する明示的な金額を反映していることで
ある。リスクの事後の変動は反映され、マージンを含む保険負債が確保される。明示的リスク調整は、金融商品やオプションのプライシン
グならびに IAS 第 37 号の公開草案における提案と整合的である。さらに、明示的リスク調整は、償却される残余マージンの金額を圧縮す
る。
信頼性の高い継続性を有するリスク調整の測定をおこなう保険者にとっての挑戦は地域によってさまざまであり、同様のリスク調整の技法
が資本管理や支払余力の測定の制度的要件のために実施されているか否かに依存している。リスク調整に影響を与える指標、たとえば資
本の価格が資本コスト法へ影響を与えるのと同様に、各技法により利益の発生は異なる。
事後測定と残余マージン
23. 各報告期間末において、保険負債は明示的リスク調整を含む履行キャッシュ・フローの現在価値と残存する残余マージンの合計額によ
り測定される。それゆえ、各報告期間において、負債は、キャッシュ・フローの直近の見積り、直近の割引率、およびキャッシュ・フローの
金額、時期についての残存する不確実性リスクを考慮したリスク調整、を反映している。いかなる見積りの変更も、即時に損益計算に反
映される。
24. 保険者が保険契約を開始する時に、引受の時点で利益が認識されることを避けるように、残余マージンの金額が測定される。残余マー
ジンは、ポートフォリオ内の引受日や契約期間ごとにより決定される。残余マージンは、保険期間にわたり提供されている補償内容から生
じるエクスポージャーを反映する一定の方法により認識される。つまり、時の経過によるか、もしくは保険金が時の経過と異なるパターンで
発生すると予想される場合には、予想保険金の発生のタイミングに基づく。
当初に認識された金額が償却される
残余マージン
リスク調整
貨幣の時間的価値
直近の、偏りのない、かつ確率により加重されたキャッシュ・フロー
が、再測定はされない。
直近の見積りにより更新される
市場のレートにより更新される
直近の見積りにより更新される
図表2:事後測定
25. 契約が終了しないのであれば、金融変数(割引率および株価)の見積もりおよび他の見積もり(経費や失効)に変更が生じたとしても、
残余マージンは調整されない。残余マージンには、契約引受時の利率により利息が付される。
考察:損益計算書において見積りの変更を認識することは、多くの保険者にとって、目下、固定された仮定を使用して報告される利益に関す
るボラティリティを増加させることにつながる。IASB はいかなる(会計上の)見積りの変更についても、IFRS 第 4 号とは異なり、その他の包
括利益で認識することを許可していない。資産が償却原価で測定され、または株式が、その他の包括利益を通して公正価値で認識されるこ
とにより会計上のミスマッチをもたらしてしまうとの議論がある。
公開草案に対する批判の一つとして、当初利益を損益に反映させることが認められていない点がある。翌日(day two)にもし好ましい(利益
方向の)キャッシュ・フローの変更があった場合には、即時に損益計算書において認識を行うことになるからである。
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IASB は各報告期間末において、すべての直近の情報を考慮し、残余マージンを再構築することにより残余マージンの事後測定を行うとい
う代替的な方法を考えていない。この代替的なモデルによると、残余マージンは保険契約の引受時のように修正再表示を行い、保険期間
にわたり償却を行う。その際には、(報告日までの)更新された実績の調整と、将来キャッシュ・フローの仮定が反映される。この方法によれ
ば、会計上の見積りの変更の一部は即時に損益に反映され、残りの部分は、残余マージンの未償却部分を調整し、残りの保険期間にわた
り認識される。しかし、このアプローチは長期契約にとっては複雑なモデルとなる。
残余マージンは保険期間にわたり一定の方法により損益計算書において認識される。しかし、公開草案において償却計算の方法を変更す
ることが認められるか否かについては明確ではない。たとえば、保険金の発生が、以後の保険金のリスクの減少または削除を意味してい
るのであれば、残余マージンはリリースすることができるのだろうか。
26. FASB による代替的なモデルは、保険契約の引受時に、一つの複合マージンを認識する。このアプローチにおいては、各報告期間末の
保険負債は、確率により加重されたキャッシュ・フローの現在価値の合計(リスク調整は含まない)と複合マージンの残額である。複合マー
ジンは、保険期間と保険金の処理期間において、以下の算式により償却される。
当期に配分された保険料+当期の保険金および給付金
総保険料+総保険金および給付金
複合マージンに関しては、リスクや不確実性の変更を反映するための再測定は行なわれない。複合マージンに対して利息は付されない。
考察:複合マージン・アプローチの支持者は、リスク調整は公開草案における履行の対象と不整合であるとの懸念を主張する。このアプロ
ーチの利点としては、リスク調整の計算を異なる方法で行うことよって生じる比較可能性と継続性の問題について、この懸念を除くことがで
きるということがある。また、リスク調整アプローチに比べて適用が容易であり、コストがおさえられる可能性もある。
契約獲得費用
27. 個別の契約から生じ、個別の契約の増分として認識される契約獲得費用は、「履行キャッシュ・フローの現在価値に含まれる。これらは、
保険契約の販売、引受、開始に関する費用であり、特定の保険契約を発行しなければ、発生しない費用」と定義される。これらの費用を、履
行キャッシュ・フローの現在価値に含めることは、契約の当初認識において残余マージンを減少させる。その他の費用は、発生時に費用と
して認識される。
考察:増分契約獲得費用に対する制限は、IAS 第 39 号における取引費用の考え方と整合している。しかし、多くの地域において、配賦され
た直接費や間接費を繰延契約獲得費用として取り扱う現行の会計よりも限定的である。
公開草案は、販売モデルが報告利益に対して影響を与えることを意味している。独立した仲介者を利用している(または、コミッションベース
で社内営業員に支払を行う)保険者は、コミッションを生じさせる。これは通常契約単位において増分であり、ビルディング・ブロック・アプロ
ーチにおける履行キャッシュ・フローに該当する。この取り扱いは、当初認識において認識された残余マージンの金額を減少させる。そして
コミッションが支払われた時においても、保険負債に関するキャッシュ・フローとして取り扱われ損益計算には影響を及ぼさない。
しかし、ダイレクトマーケティングや給与制の社内営業員による営業活動を行う保険者にとって、特定の保険契約に対して増分の性格を有
する契約獲得費用は、おそらく、相対的に少ない金額となるであろう。したがって、保険者は、保険契約に関するより多くの残余マージンを
保険期間にわたり認識する。そして、多くの契約獲得費用は当初認識において費用され、損益計算書において損失を生じさせる。
保険契約と投資契約の双方を発行している生命保険者については、契約獲得費用に関しては双方の契約について異なる取り扱いを行うこ
とになる。現行の会計基準では、投資契約の販売に関する手数料は、しばしば、IAS 第 18 号に準拠して繰延べられる。収益認識の公開草
案においては、これらの費用は、即時に費用処理化される。双方の取り扱いは、この費用を契約キャッシュ・フローとして含めるとする保険
契約の公開草案の取り扱いとは異なっている。現行の IAS 第 18 号の取扱いと、提案された保険契約の会計の取り扱いの間での報告利益
における差異は、現行の繰延契約獲得費用の償却と残余マージンの償却との相違に依存する。
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短期契約の保険事故発生前負債についての簡便化した測定アプローチ
28. 公開草案は以下の提案をしている。組み込みデリバティブやオプションが含まれておらず、保険期間がおおよそ 1 年かそれよりも小さ
い短期契約は、当初認識において、受け取った保険料に、契約の境界内における予想保険料を加算し、契約の発行に関する増分契約獲得
費用を控除した額でもって保険事故発生前負債を測定する。財政状態計算書において、この負債を保険料の期待予想現在価値と相殺して
表示する。
これらの契約から生じる保険金は、他の保険契約と同様に、ビルディング・ブロックモデルを適用して、履行キャッシュ・フローの現在価値と
して測定される。
29. 保険事故発生前負債に適用される簡便法に関しては、不利な契約に関するテストが必須とされる。これは負債十分性テストや保険料不
足のテストと同じ概念である。当初認識および事後において、もしリスク調整を含む履行キャッシュ・フローの現在価値が保険事故発生前負
債の残高を超過していれば、不利な契約となる。この場合、保険者はその差異を追加負債として認識し、損益計算書において費用を認識す
る。この不利な契約に関するテストは、類似の日に引受けた契約によるポートフォリオレベルで実施される。
30. 保険事故発生前負債は、補償の提供によるエクスポージャーを反映した一定の方法で保険期間にわたり償却される。ビルディング・ブ
ロックモデルにおける残余マージンの償却に類似しているが、時の経過によるか、もしくは保険金が時の経過とは異なるパターンで発生す
ると予想される場合には、予想保険金の発生のタイミングに基づく。 直近の利率により、負債残高に対して利息が付される。
考察:IASB は、基準を満たす短期契約の保険事故発生前の負債に関して、簡便化した測定モデルの適用を必須としている。これは、損害
保険会社が、同種の契約について、保険期間のみが異なるために、異なる二つの測定アプローチを適用しなければならないかもしれない
ことを意味している。実務的な簡便法であるので、IASB においても簡便化したアプローチを強制するのではなく許容することについての検
討を行った。しかし、他の保険者との比較可能性を強化するために、特定の状況を充足した場合には簡便化した測定アプローチの適用を
要求することを決定した。
公開草案においては、保険事故の発生により残りの保険期間が短縮される場合に、保険者が保険事故発生前負債をリリースすることが許
容されているのか、それとも要求されているのか明確ではない。また、もし保険金および給付金の支払パターンの予想が変更されるので
あれば、保険事故発生前負債のリリースのパターンも変更することができるのか否かについても不明である。
不利な契約テストは類似の引受日の契約のポートフォリオを基礎として実施される。これは現行の会計基準よりも詳細な単位での計算を必
要とする。ポートフォリオの定義についても、さまざまな解釈が可能であるかもしれない。
もし、基礎となる保険契約の保険期間を再保険契約の保険期間であるとみなせるのであれば、元受保険者が将来 12 カ月の間に引
受ける保険契約を、受再保険者が再保険により引き受けることを約束している場合には、当該再保険契約は短期契約にならないか
もしれない。
再保険
31. 受再保険契約は、発行された他の保険契約と同じビルディング・ブロック・アプローチにより測定されることが提案されている。出再者に
支払われた出再手数料は、保険料から控除される。
32. もし、出再に関する費用の純額が、再保険による回収の予想額(リスク調整を含む)を超過している場合には、その超過部分は、再保険
資産において残余マージンとして認識される。 しかし、出再に関する費用の純額が、再保険による回収の予想額(リスク調整を含む)に満
たない場合には、その部分は即時に利益として認識される。出再手数料は、再保険者への出再保険料から控除される。
33. 再保険者による不履行リスクは、再保険資産の履行キャッシュ・フローの見積りにおいて、予想額に反映させる。
34. IFRS 第4号に求められているように、保険者は、財政状態計算書において再保険資産と保険契約負債との相殺が禁止されている。ま
た、再保険に関する収益および費用と保険契約に基づく収益および費用の相殺が禁止されている。
考察:元受会社は、当初利益を認識することは認められていないが、公開草案は再保険契約を購入した際に、利益の当初認識を容認して
いる。この方法は、元受保険の取扱いのみならず、金融商品ならびに収益認識における取扱いとは整合的ではないとの議論がある。
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フロンティング・アレンジメントを提供している保険会社に対して、保険契約の定義の適用および重大な保険リスクの移転の評価を行うため
に、受取の契約と支払の契約を個別の契約として取扱うのか、あるいは一つの契約として取扱うべきなのかについて、IFRS 第 4 号以上の
ガイダンスは提供されていない。適用ガイダンスによれば、単一の取引の相手方と同時に契約を開始したのであれば、一つの契約を構成
することとなるが、そうでなければ契約は独立した契約として取扱うとされている。
比例再保険については、出再者による再保険資産の測定と再保険者による保険負債の測定との間には、対照性がないかもしれない。差異
は、反映されたリスク分散の水準、もしくは、他の企業固有の仮定のため、明示的リスク調整から生じるかもしれない。加えて、再保険者
は、出再者によって引受けられていない契約のキャッシュ・フローを含むかもしれない。
区分処理
35. 保険者は、保険契約において特定化されている補償内容と密接に関係しない契約の構成要素については、区分処理を適用することが
要求される。特に公開草案は以下の構成要素についての区分処理を求めている。
•
特定化された資産プールの運用実績に基づいて決定される運用利回りにより付利することが明確な契約者勘定:付与される利率は、
全ての投資実績が反映される。このため、運用成果について上限を課すことは、この要件に該当しないと考える。
•
IAS 第 39 号に定める主たる契約からの区分処理を行う組込デリバティブ
•
保険の補償と密接に関係しない商品やサービスの提供に関連し、商業実態のない理由により組み込まれている契約条項
36. 公開草案においては、契約者勘定を区分する際には、保険者はすべての契約者勘定に対するすべての課金および手数料について、
保険契約に関する構成要素または他の構成要素に帰属するものとみなす。しかし、投資要素の一部とはみなさない。契約者勘定に適用さ
れる利率は、利率と当該契約者勘定に課される課金および手数料の間の相互補填を控除した後に計算される。
考察:保険契約の測定モデルが他の測定モデル(金融商品やサービス収益モデル)と異なるため区分処理は重要な問題である。区分処理
の要件は適用ガイダンスに含まれていない。このため、契約者勘定残高、手数料やほかに課されるもの、相互補填、公開草案で使用され
ているほかの用語(“密接に関連する”という用語を含めて)についての解釈が未確定のままである。また契約獲得費用についても、どのよ
うに異なる構成要素間に配賦するかについて明確ではない。
IASB の議論はユニバーサルライフ契約を、隔離された保険契約と金融資産の要素に区分するという意図を含んでいるようである。しかし、
付与される利率の要件が、構成される資産からの運用収益のすべてを受取れない契約者勘定の区分を禁止しているとの考え方がある。
保険者勘定は死亡や就労不能により未決済の残高を減少させている貸付金のような資産であると仮定できる。貸付金であれば、もし、付与
される利率の要件にあてはまるのであれば、将来の IFRS 第 9 号の範囲にある残高と保険要素(保険契約の範囲に含まれる)に区分でき
る。
裁量権のある有配当性
37. 公開草案は、その範囲に、保険者により発行された保険契約として、保険契約者に対して保証された給付(たとえば、死亡給付)を提供
するものを含み、また関連する特定の契約種類や、関連する資産またはその双方に関する良好な業績に参加する権利-“裁量権のある有
配当性”を提供するものも含んでいる。公開草案は有配当性から生じる支払については、他の契約上のキャッシュ・フローと同様の方法に
より(つまり、予想現在価値による)、保険契約の測定に含まれるべきであるとしている。
38. 保険者はまた、保険契約ではなく有配当性のある投資契約を発行する。しかし、契約者に対しては、保証された給付と、保険者による裁
量に基づき変動する追加的な給付を提供する。もし、保険契約が、同じ保険契約の業績、同じ資産プールの業績、または、同じ会社、ファン
ド、もしくは他の事業体の業績に参加する、類似した契約上の権利を提供するのであれば、公開草案は、これらの契約を保険契約の範囲に
含んでいる。この取扱いを行わなければ、このような契約は金融商品として取り扱われるであろう。FASB は、裁量権のある有配当性を有
する投資契約を金融商品として取り扱っている。
39. もし有配当性のある投資契約を保険契約に含めるのであれば、契約の境界は、契約に含まれる有配当性から給付を受取る契約上の
権利をもはや有しなくなった時である。
40. 配当性のある投資契約の残余マージンは、損益計算書において契約期間にわたり一定の方法(時の経過もしくは、もしパターンが時の
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経過と異なる場合には、管理している資産の公正価値)に基づき認識される。
考察:配当付契約の定義は地域によって異なる。保険者は、配当性のある投資契約について配当付保険契約のように、同じ資産プールを
共有しているか否かについて、特に、配当の区分を決定する際(たとえば、限定的なもしくは取るに足らない金額の配当性保険契約が同じ
プールを共有している場合)は、評価する必要がある。
ある地域では、契約者に対して、投資ファンドについて、ユニットリンクファンドと裁量権のある有配当性を含む投資ファンドとの間の振替を
認めている。もしこれらが当初はユニットリンク契約のファンドに投資されていたら、保険契約の範囲に含まれるための要件を満たす否か
検討する必要がある。
公開草案に含まれているガイダンスによれば、予想キャッシュ・フローは、有配当性の結果、現在または将来の契約者に対する支払いを含
むとしている。どのようにして将来の契約が現在の契約の境界の内側に含まれてくるのか、そして、相互保険者や未払い配当金の繰越額
(Inherited estates)にとってどのような影響があるのかについては明確ではない。
配当付契約は、しばしば保証を含んでいる。公開草案は、キャッシュ・フローが、特定の資産のパフォーマンスに基づくのであれば、保険契
約の測定は相互関係を反映しなければならないため、ポートフォリオ複製の技法を使用することになるであろう。配当性を有する契約に含
まれている保証は、市場との整合性を有する基準で測定される。これにより、現行の会計方針における測定結果と比較して、保証が付与さ
れた相当金額の大きい負債が測定されることもある。
保険契約の認識および認識の中止
41. 保険者は保険契約を保険者が保険契約の条件に拘束された時点、もしくは、保険者が保険契約に基づくリスクに初めてさらされた時点
のいずれかの早い時点において認識する。
42. 保険者は、保険契約負債(または保険契約負債の一部)が消滅したとき、その認識を中止する。これはつまり、保険契約の義務が免責
または取り消し、または期間満了した時点である。この時点では、保険者はもはやリスクにさらされておらず、もはや保険債務の履行を行う
ために、経済的資源を移転させる必要はない。
考察: 保険者が保険契約に拘束されるかは、事業を行う地域における法的要件により依存し、地域により異なる。
保険者が保険契約により拘束される期間は、保険期間とは同じではない。保障が開始される日よりも早く契約が認識されるため、認識の要
件は、多くの保険者、特に再保険者が保険契約について会計処理を行う方法を変更するであろう。この拘束期間において、保険者は、負債
十分性テストを行うことが求められている。そして、負債の十分性テストにより損失が損益計算書において認識され、また計算仮定と割引率
が変更される。しかし、保険者は保険期間が開始されるまで残余マージンの償却を行わない。
出再者が翌年に発行する保険契約を補償する特約再保険を、強制された保険料で引受ける再保険者は、たとえば、まだ引受がされていな
い元受契約を基礎とするキャッシュ・フローを見積るなどして、その契約を測定モデルに準拠して認識することが求められる。
元受契約の更改がなければ、再保険契約の締結は保険契約負債の認識の中止をもたらすものではない。
IAS 第 39 号の金融商品や USGAAP と異なり、保険契約の実質的な変更を、どの時点で契約の消滅として扱うかについて、公開草案は、ガ
イダンスを何ら含んでいない。
企業結合およびポートフォリオ移転
43. 公開草案は、保険者に対して、ポートフォリオ移転により取得した保険契約のポートフォリオに関して以下のいずれか大きい金額で測
定することを求めている。
•
同一の取引により取得した他の資産、負債を調整した受取金額:この場合、履行キャッシュ・フローの現在価値を超過する受取額は、
当初認識において残余マージンを形成する。
•
履行キャッシュ・フローの現在価値:もし、履行キャッシュ・フローの現在価値が受取額を超過する場合は、超過額は損失をもたらし、
即時に損益計算書において認識される。
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44. 企業結合により所得された保険契約のポートフォリオは、以下のいずれか大きい方で測定される
•
ポートフォリオの公正価値:この場合、ポートフォリオの公正価値が履行キャッシフローの現在価値を超過する場合、残余マージンが
形成される。
•
履行キャッシュ・フローの現在価値:履行キャッシュ・フローの現在価値がポートフォリオの公正価値を超過する場合には、その超過
額は、のれんの金額を増加させる。
考察:公開草案における提案が、保険契約は、公正価値で測定されるのではなく他の保険者により発行されたほかの契約に対しても適用さ
れるのと同じ原則に従うという点において IFRS 第 3 号の原則から剥離するため、IFRS 第 3 号は改訂されるであろう。
取得した事業の価値を表す個別の資産(VOBA または PVIF)を認識する現行の実務は消滅するであろう。
ユニットリンク契約
45.ユニットリンク契約(時々変額契約と呼ばれている)は、給付の一部または全部が、内部もしくは外部の投資ファンドにおけるユニット価格
によって決定される。公開草案はユニットリンク契約の資産および負債が財務状態計算書において独立の項目とされ、他の保険資産およ
び保険負債と混在しないで表示されることを求めている。ユニットリンク契約から生じる収益費用は独立項目として表示されることが提案さ
れている。
46. IFRS 第 9 号、IAS 第 32 号と IAS 第 16 号に対する改訂の提案として、IASB は、ユニットリンク契約の資産プールにおける保有者の持
分に関連する公正価値の変動にかぎり、会社(保険者)が自己株式と自社所有の不動産を公正価値で認識することを要請する。
考察:保険契約とそのほかの金融商品の両方がユニットリンク契約の定義を満たすことができる。契約者勘定に関する区分処理のルール
とユニットリンクの表示の要件がどのように関連しているかについては明確ではない。IASB としてはこの開示要件をユニットリンク契約の
契約者勘定に適用することを意図しているようである。しかし、公開草案は、ユニットリンク契約内で区分した契約者勘定については、金融
商品として会計処理を行うことを求め、保険契約の基準に含まれている、独立した表示を行う項目の対象としていない。同様に、IAS 第1号
もしくは金融商品の会計基準に類似の要件が含まれていない限り、独立の項目としての表示はユニットリンク投資契約に対して適用されな
い。
IFRS 第 9 号、IAS 第 32 号および IAS 第 16 号に関する改訂案は、保険者によって発行された自己株式並びに保険者による自己使用の不
動産について取り扱っている。それゆえ、この改訂が保険契約のみに適用されるのか、または、ユニットリンク投資契約についても適用さ
れるのかについては明確ではない。
表示
包括利益計算書
47. 少なくとも、以下の項目は包括利益計算書において表示されなければならない。
•
引受マージン(リスク調整の変動および残余マージンのリリースに分解して、包括利益計算書上、あるいは注記において記載する。)
•
当初認識における利益または損失(ポートフォリオ移転の損失、再保険の購入による利益、および、負債の十分性テストの結果として
の当初損失に分解して、包括利益計算書上、あるいは注記において記載する。)
•
非増分契約獲得費
•
実績に基づく調整や見積もりの変更(実績に基づく調整、キャッシュ・フロー見積もりにおける変更、割引率の変更、再保険の減損損失
に分解して、包括利益計算書上、あるいは注記において記載する。)
•
保険負債に対する利息(負債の裏付けである資産の投資成果との関係を強調して開示する)
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契約引受時
上半期
下半期
1/1
6/30
12/31
リスクマージンの変動
21
26
残余マージン
13
13
引受マージン
34
39
実績調整
(10)
(10)
会計上の見積りの変更
(20)
0
当初利益
0
0
投資収益
40
38
(25)
(23)
19
44
契約獲得費用
10
保険負債に対する利息
損益
(10)
図表 3: 包括利益計算書の表示
48. 保険事故発生前負債について、短期契約の測定方法を適用した場合、以下の項目を開示する。
•
引受マージン(保険契約に基づく補償内容の提供による保険事故発生前負債からの減額である保険料収入、発生保険金、発生費用、
増分契約獲得費用の償却に分解されて、包括利益計算書上、あるいは注記において記載する。)
•
不利な契約のための負債の変動額
49. 上述の保険事故発生前負債を適用する場合を除き、保険料、保険金、保険負債の測定に含まれるその他の費用は、包括利益計算書上、
表示されず、預け金の受取/支払として処理される。
考察:この表示形式は測定モデルに基づいている。現在、エンベッデド・バリューに関する情報を利用していない保険者にとっては、公開草
案における包括利益計算書は、保険者が現在業績を報告している方法と著しく乖離していると考えられる。
単純化した測定モデルを適用する契約と、ビルディング・ブロック・モデルを適用する契約の双方を引き受けている損害保険者は、包括利益
計算書に、すべての保険料を計上することができない。複合産業グループにおいてもまた、統合した業績についてどのように表示を行うか
を検討する必要がある。
保険金の事後の変動が、単純化された測定モデルにおいて、どのように表示されるか明確ではない。
経営陣とアナリストは表示の形式やビルディング・ブロック・アプローチが報告利益にもたらす影響についての理解が必要である。保険料、
保険金、増分契約獲得費用や、その他管理費用を(それらがビルディング・ブロックのキャッシュ・フローに含まれるという点において)損益
計算書上で見ないことに慣れるには時間がかかるであろう。
開示
50. 公開草案において、財務諸表の利用者が、保険契約から生じる将来キャッシュ・フローの金額、時期、および不確実性を理解するのを
助けるため、保険者は、財務諸表で認識されている金額や保険契約から生じるリスクの性質や金額に関する情報を開示する。利便性の高
い情報が不明確にならないように、保険者は情報を統合もしくは分割して開示を行う。公開草案により提案されている開示の要件は、現行
の IFRS 第 4 号の開示要件に基づく。そして、測定モデルから生じる以下の開示を行うように改訂されている。
51.公開草案は、以下の各々の、保険残高および再保険残高の合計について、開始残高から期末残高への調整を提案している。
(a)保険契約負債と保険契約負債から区分された保険資産
(b) (a)に含まれるリスク調整
(c) (a)に含まれる残余マージン
(d) 出再者として保有する再保険契約から生じる再保険資産
(e) (d)に含まれるリスク調整
(f) (d)に含まれる残余マージン
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(g) 再保険資産に対して認識された減損損失
52. 上記の調整計算においては以下について記載を行う。
•
開始残高
•
期間中に認識された契約
•
受取保険料
•
支払に関する情報―保険金、費用および増分契約獲得費用
•
他の現金支払
•
損益計算において認識された収益および費用
•
ポートフォリオ移転および企業結合に関連する金額
•
外貨建の金額から生じる外貨換算差額
53. 採用した方法およびインプット決定のプロセスの開示において、保険者は、リスク調整に対応する信頼水準を含めて、リスク調整の決
定の方法およびインプットについて開示しなければならない(保険者が条件付テイル期待値法または資本コスト法を採用した場合)。
54. 公開草案は、測定において重大な影響を与えるインプットの不確実性分析の開示の要求を含んでいる。もし、ビルディング・ブロックに
おいて1つもしくはそれ以上のインプットを、その環境で、合理的に用いられうる異なる金額に変更した場合に、金額的に重大で異なる測定
をもたらすのであれば、保険者はその影響を開示することが求められる。影響を決定する際には、保険者の発生の可能性の低いシナリオ
を無視するべきである。しかし、インプット間の相関の効果は含むべきである。重要性は損益、純資産および純負債に照らして判断される。
55. 保険負債から生じるリスクの性質と金額の開示については現在の基準と同様であるが、保険者が事業活動を行う法規制上の情報につ
いて、たとえば最低資本制度や最低保証割引率など、開示を行うように、開示項目は拡大した。
56. 公開草案の開示要件では、最初から最低 5 年間のクレームディベロップメント表の開示要件が、継続的に提案されている。基準が適用
されれば、表は 10 年間まで積み上げられる。1 年以内に決済される保険金には適用されない。
考察:上記の要請は、現行の基準よりも詳細であり、保険者のシステム上の要件に対して重大な影響を及ぼす可能性がある。システムは
保険および再保険に関する残高の異動との調整を表示するために十分な情報を保有し、情報を作成することが必要とされるだろう。
アナリストは、保険者のフリー・キャッシュ・フローへの関心、つまり、どのキャッシュ・フローが、創出(獲得)されたものの保険契約者のもの
ではないのか、常に関心を有している。公開草案における開示の要件は株主のキャッシュ・フローと契約者のキャッシュ・フローとの間の区
別を含んでいない。
移行措置
57. 公開草案は、過去の実務に関する例外的な取り扱いのない、全ての有効契約に対する完全な遡及適用が望ましいと考えている。開示
する最初の期間の期首において、保険者は:
•
各保険契約のポートフォリオに関して(残余マージンを除き)履行キャッシュ・フローの現在価値(リスク調整を含む)を測定する。
•
現存する繰延契約費用について認識の中止を行う。
•
従前の企業結合により引受けた保険契約から生じる無形資産の認識の中止(将来の契約に関係する顧客との関係や顧客リストを除く)
を行う。
58. 開示する最初の期間の期首において、保険者が提案する基準を最初に適用する時、保険者は金融資産を公正価値で測定し、損益を認
識する区分への再指定を認めている。しかし、金融資産について、現在公正価値で認識しその変動を損益で認識する区分から、償却原価
への区分する再指定を認めていない。
考察:この基準の最初の適用における期首剰余金への調整は、引き受けている保険契約の収益性や従来適用していた会計方針(保守性
の水準を含む)などの多くの要素の影響を受ける。長期の保険を引き受ける保険者は、リスク調整を超える利益部分に関して懸念を有して
いる。なぜなら、本来は損益計算書において認識される部分であるが、移行時に資本において認識されるからである。
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この移行措置の結果、移行時において残余マージンがないため、新契約よりも移行時の有効契約が将来の期間において利益が少なくなる
だろう。公開草案は、保険者が IAS 第 8 号を適用することを認めておらず、公開草案が遡及的に、かつ完全に適用される。
IFRS 第9 号で定める再分類は、公正価値評価を行い、変動額を損益に反映する区分(FVTPL)への資産の再指定に限定される。もし、保険
契約から契約者勘定を区分する要件が契約者勘定を償却原価で評価することを許容するのであれば、資産を FVTPL から償却原価に再指
定したいと考える保険者もあるかもしれない。公開草案では、償却原価への再指定は認められていない。
コメント期限
公開草案へのコメント期限は、2010 年11 月30 日である。経営陣がコメントレターへの関与を行うこと、および、そして、公開草案に含まれる
質問については、IASB に対して正式に回答を行うことを推奨する。
より詳細な情報について
このプロジェクトに関して、IASB によるすべての暫定的な決定に関する要約は以下に記載されている。
http://www.ifrs.org/NR/rdonlyres/AE74059B-25DE-4C85-A14E-5D8AEDFC1E60/0/Decisions_at_a_glance_30July.pdf.
<お問い合わせ先>
あらた監査法人
東京都中央区銀座 8 丁目 21 番 1 号
住友不動産汐留浜離宮ビル(〒104-0061)
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pwcjp-ifrs.com
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