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プロジェクト法を活用したライティングの指導
プロジェクト法を活用したライティングの指導 プロジェクト法を活用したライティングの指導 ―郵便による留学資料請求プロジェクトの授業報告― 中條純子 Chujo, Junko Abstract This report covers a semester long English writing group project which was undertaken in a university for undergraduate freshmen in engineering from 2002-2007. The project was an integration of paragraph writing and letter writing in English. It had four purposes for learners: to acquire communication skills in English, to acquire letter writing skills in English, to increase confidence in their English skills by mailing letters to obtain information from foreign educational institutions, and to broaden their horizons toward the world and understand the connection to their daily life. In this report, the details of the project process are described. Then, the pedagogical effectiveness and significance of this project based instruction is discussed. 1. はじめに この小論は以下の 3 つの目的を持っている。 (1)四年制大学工学部の 1 年生を対象とする英語ライティングの実践記録を提示すること。これ により、学術的検討の対象となる教育実践記録のひとつのモデルを示したい。 (2)英語学習への動機づけと英語の知識技能の獲得の両面においてプロジェクト法が有効で あることを示し、その理由を提示すること。これによりすぐれた英語教育実践の要件のひとつを示 したい。 (3)プロジェクト法に関わる教材と教授行為の分析を行い、実践知あるいは暗黙知において展 開される教師の教授タクトを可能な限り明示的に取り出すこと。これにより英語教師の授業づくり における共有財産を増やすことが期待される。 以下、授業の概要と教師の問題意識を説明し、その後で、授業過程を詳しく追いながらプロジ ェクトの展開を記述し、最後に英語のライティング指導においてプロジェクト法がどのような有効性 を持つかを検討する。 11 Forum of Language Instructors, Volume 2, 2008 2. 授業の概要と実践者の問題意識 実践報告の対象となるのは工学部1年生配当の英語ライティングの必修授業である。1 クラスの 受講者は約 20 名。2002-2007 年度前期に行った全 15 回の授業においては「プロジェクト」を中 心に学習活動を展開した。ここで言う「プロジェクト」は「現実の生活と密接なつながりを持って追 求される、目的を持ったひとまとまりの活動」といった内容である。 プロジェクト・メソッドで有名なキルパトリックによる定義には、今述べた内容に加えて「学習者が 計画する」という要素が入っている。今回の実践においては、教師が活動内容を決めている。した がって、多くのヒントを得てはいるものの、小論で提起するプロジェクト法はキルパトリックの言うプ ロジェクト・メソッドとは異なるものであることは最初に確認しておく。 では、学生たちはどのような学習活動に取り組んだのだろうか。 まず、海外(英語圏)の教育機関あてに英文の手紙を書く。留学に関する資料請求をするのだ。 その後、到着した資料を読み込み、各自が報告書を作成する。最後に、小学習集団ごとにまとめ をして自分たちの活動のふり返りを行う。 授業過程全体において、学習者の能動的な活動を組織しようと意図した。まず、その意図の背 後にある問題意識を説明したい。 工学部において英語の授業を担当して 6 年になる。大体どの年も授業開始時にアンケートを取 っていた。「英語が好きかどうか」「将来英語を使いそうか?」「英語の必要度を感じるか」といった かんたんなアンケートである。 「英語が好きか嫌いか」という設問がある。どの年も<嫌い>と答える学生が半分以上いる。「得 意か苦手か」と問う設問に対しては、多くの学生が<苦手>と答える。客観的な能力評価・到達度 評価は別にして、少なくない学生が英語への苦手意識、英語に対する否定的感情を持っている ことは明白だった。 このような状況を前にして、英語教師である私がどのようなことを考えたか。まず、あまり整理を しないままのコトバ、つまり実践家言語を用いて記述してみよう。 授業で、英語での書き方のフォーマットや注意事項は説明できる。少人数のクラスだから添削 をはじめとする個々の受講生への対応もやりやすい。しかも英語を書くというのは基本的に個人 的な営みだ。個別対応とクラスへの効率的な説明をうまく組み合わせればライティングの授業とし てはまずまずだろう。でも、それでは何となく不満足だ。不燃焼感が残る。授業でせっかく学習集 団をつくっているのだから、集団のダイナミズムを活かせないものだろうか。教室の中での学習で はあるが、学んだ英語が生きて働くことを何とか実感させることはできないだろうか。英文を書く力 がつくこと、英語が好きになること、そして自分に自信が持てることが同時にできないだろうか。し かし教師だけがたいへんな努力をし、学生がそれを笑いながら見ているような授業はしたくない。 やはりなんと言っても、学生が英語学習にエネルギーを使わないといけない。その上で、学んだこ とが現実の社会で役に立つことを実感させることが大事だ。なにかいい方法はないだろうか。毎回 毎回あの手この手でやっていくのもたいへんだし。学生たちが喜んで取り組める課題はないだろ 12 プロジェクト法を活用したライティングの指導 うか…… 今ふり返ってみると、おおよそこういったことを考えていたように思う。 この思いを、今度はもう少し明晰なコトバ、つまり理論言語で整理してみよう。 授業を構想するにあたって、具体的にはシラバスを開発する段階で、以下のような問題意識を 教師は持ったと考えることができる。実践後のふり返り(reflection)の結果を記述してみよう。 (1)文章を書くということは個人的営為である。一方授業は集団的な営みである。また文章を書 くという個人的営為は文法や単語という社会的集団的な約束によって現実化される。この個と集 団という矛盾する二つの特性を組み込んだ授業が構想されなければならない。 (2)その際の要点は、英文を書くという個人的営為を、ひとつは授業における学習集団へとつ なげる回路をつくることであり、もうひとつは社会という授業外の現実へとつなげる回路をつくること だ。 (3)この回路づくりは教材と授業形態を工夫することで実現されなければならない。 (4)教材と授業形態の開発にあたっては、学習者の側から見た有効性と教授者の側から見た 機能性の両面を考慮する必要がある。 (5)学習者の側から見た有効性に関して大切なことは以下の三点。 1)英語ライティングの知識と技能が着実に向上すること。 2)自己の英語力の社会的有用性をより深く認識できること。 3)セルフ・エスティームすなわち自己の有能感、有用感が増大すること。 (6)教授者の側から見た機能性に関して大切なことは以下の三点。 1)教材と授業形態に関して使用不能要素を含まないこと。たとえば総合的な費用が合 理的な枠に収まること。 2)教授者と学習者の両者に過度の負担がかからないこと。 3)授業形態が既存の授業運営、評価システムとの深刻な矛盾を生じないこと。 (7)教材については、単元的展開を追求することが効果的だと判断できる。 このようなことを考えながら開発したのが<海外の教育機関に留学に関する資料を請求する> というプロジェクトである。 ではこのプロジェクトの内容はどのようなものか。またその特質は何か。次節で説明する。 3. プロジェクトの概要と実践の経緯 3-1. プロジェクトの概要 <留学資料請求>プロジェクトは 8 つのステップから成る。ただしこのステップは授業の回数と は一致しない。1つのステップを何回かの授業で展開することもあり得る。 1.英文レターの書き方について学習 2.英文レターの作成 13 Forum of Language Instructors, Volume 2, 2008 3.手紙を郵便局より発送 4.パラグラフ・ライティングの学習 5.資料到着、粗読み 6.資料の内容の読み取り、請求機関の概要を1パラグラフで作成:グループ活動 7.資料の中で興味のある内容を選び、個人パラグラフ作成 8.学生によるまとめとふり返り この<留学資料請求>プロジェクトにおける学生の活動と到達の目標は次の 4 点である。 1.英文レターの基礎的な書き方を習得し、海外の教育機関への資料請求の英文レターを作成 し実際に送付する。 2.パラグラフ・ライティングの基礎的な技法の概要、そして 3 つのパラグラフの展開法(空間配 列・時間的順序・過程と指示)を理解し、単一パラグラフを 200 語以上で作成する。(なお、200 語 の単一パラグラフの英作文を書かせるという到達目標は教養教育課程の英語科が全体として掲 げている到達目標である。) 3.留学資料を請求するという活動を通して、海外とのつながりを身近に実感し、日常生活にお いて視野を海外にも向ける。 4.英語運用能力の自己評価が高まること。そのことを通して自尊心も育つこと。 このプロジェクトでは、大学(大学院)と語学学校という 2 種類の教育機関に資料を請求した。理 由は以下の通りである。 1. まずプロジェクトの活動時期と先方の学年暦との時期的な兼ね合いを考慮した。 学生による資料請求活動は 4 月下旬~5 月上旬である。通常 9 月入学体制をとる英語圏の大 学と大学院において、この時期はその年度の入学者がすでに決まっている時期である。したがっ て大学資料の発送が次年度の資料配布時まで延ばされる事態が考えられる。一方、語学学校は 夏プログラムへの申し込み期間である。そのため資料が短期間で送られてくる可能性が高い。こ の点で、大学と大学院だけでなく語学学校も資料請求の対象に加えた。 2. 送付されてくる情報の多様性を確保したいため。 近年どの教育機関も入学案内資料作成には力を入れている。それぞれの大学、大学院、語学 学校の特色や持ち味、メリットをていねいに説明している。当然、大学と大学院は自国民を対象と する内容になっている。一方語学学校は外国人を対象とした内容になっている。その点で違いが あり、結果的に多様な情報が得られることになる。二つを比較することで、英語文献を批判的に読 む経験を学生たちに積ませることも期待できる。 3-2. プロジェクトの実践経緯 プロジェクトの 8 つのステップを追いながらプロジェクトの展開を実践に即して説明する。 【1. 英文レターの書き方について学習】 14 プロジェクト法を活用したライティングの指導 学生にエアメール用の封筒と便箋を見せながら、「この便箋一枚の手紙をこの封筒に入れてア メリカに送るのにいくらかかるでしょう?」という英語の質問から導入する。 ここが学生の興味をひきつける第一歩。入学したばかりの学生たちでクラスも始まったばかりだ。 英語の質問に自発的に答えるような雰囲気はまだ教室にはない。10 秒ほど考えさせた後、列指 名によって発表させ、出てきた答えを板書する。 500 円程度というのが彼らの大方の予想である。1000 円以上という答えも毎年出てくる。海外 にエアメールを送付した経験がないため、送料に見当をつけるのはかなり難しそうである。 学生たちにはここでは正解を教えない。「なるほどね。それでは答えは、自分たちで郵便局から 郵送するときに見つけ出してください」と言う。それを聞いた学生たちは「先生教えてよ~。今知り たい」という表情をする。声が上がることもある。学生たちの知りたいという気持ちが喚起され興味 のレベルが少し上がったと判断できるので、導入としてはうまくいったと思える。 この活動で使用するエアメール用封筒は 100 円ショップで販売しているものだ。便箋は通常の 授業で使用するコピー用紙である。手書きではなく、ワープロで作成しプリンタで印字して送付す るルールとなっているので、エアメール用の便箋は配布していない。 実はエアメール用の封筒をわざわざ使用する必要は実際はない。普通の白封筒でもクラフト封 筒でも最低料金で郵送できる。しかし、外国へ手紙を郵送することはほとんどの学生にとって初め ての経験である。国際郵便の雰囲気を出すためにエアメール用封筒を使用する。 「この封筒は 100 円ショップ○○に売っています」と伝える。学生たちがふだん身近に利用して いる店なのでおどろきと親近感が同時に湧くようである。 【2. 英文レターの作成】 ハンドアウトを使って、英文手紙の書き方の基本を教える。 教師による説明と個人での学習に先だって、3 人程度からなるグループをつくる。このグループ がプロジェクト展開の基礎単位となる。 3 種類の教材を配布する。 1. <ハンドアウト 1>大学、語学学校名、住所の情報 工学部の学生が興味を引き、また認知度が高く、都市部にある教育機関のリスト。 2. <ハンドアウト 2>手紙用文例 大学、大学院、語学学校、資料請求用文例をあえて混在して収録している。 3. <ワークシート 1>資料請求の手紙、封書の表書き用のワークシート 学生たちは「外国で英語を勉強すること」が留学だと漠然と思っていることが多い。そのため、 語学学校と大学、大学院との学校としての性格の違いについては最初にかんたんに説明する。 語学学校は英語の運用能力を学ぶ学校、大学や大学院は原則として専門的な学問を学ぶ学校 といったように対比して説明をする。 ここで学生たちが誤解をすると、後に資料請求の手紙を書くときにかみ合わない内容になって 15 Forum of Language Instructors, Volume 2, 2008 しまうことになる。 ハンドアウト 1、2 を参照しながら、ワークシート 1 を完成させる。 まず、資料請求の手紙を送る教育機関を決定する。 その後、送付先に応じて適切な文を選び、配列する。 参考文例には出願や大学生活に関する表現が多い。重要だが学生にとってはなじみのうすい 表現を抜粋し、発音と意味を確認する。 グループごとに少なくとも大学と語学学校にそれぞれ 1 通ずつ送付するように指示する。また、 リストにあがっている以外の学校についても資料請求していいことにした。学生たちの関心が特に 高いのはオーストラリアやニュージーランドの教育機関である。年度ごとにとりまとめ、可能なもの はリストに加えた。 いよいよ資料請求先の選定である。机と椅子の配置も変える。グループごとに机を寄せ集め、 小集団での活動が行いやすいようにする。 請求先選びが始まると、とたんににぎやかになる。学生たちの生の声が聞こえてくる。 「本当に海外の大学から返事が来るのだろうか」 「こんな一流大学が僕たちを相手にしてくれるのだろうか」 学生たちは、自分の出す手紙によって何らかのリアクションが起こるということに生き生きとした イメージが湧かないようである。 他にもさまざまな声が聞こえてくる。 「もし外国から手紙が届いたら、おかあちゃんびっくりするわ」 「海外から封筒が届いても英語なのでひょっとすると家族に捨てられるかもしれない」 「多額の料金を請求されたらどうしよう」 受け取る側の住所氏名を書くように指示すると、 「えっ、自分の住所を書くんですか?」 「本当に自分の家に届くのですか?」 また、あて先を書きながら、 「ハワイってどこの国?」 「日本の切手でいいんですか?」 ワークシートを利用して下書きをつくる。下書きが完成したら封筒を取りに来るシステムをとる。 教師にとっても学生にとっても全体の進行具合が確認しやすいという利点がある。 最後にサインする時の緊張感は見ていて清々しいものである。手紙の折り方も慎重で、活動に 実に丁寧に取り組んでいる姿が印象的である。 また、ハンドアウト 1 では「その機関について知りたいこと」を少なくとも 3 つ以上グループで挙げ させることにしている。資料請求の活動により実感、興味を持たせる為である。グループで余力が あれば質問を手紙に盛り込むことも推奨している。アメリカなど英語圏の学生生活についての具 体的イメージが学生たちには無い。だから例年「どんなクラブ活動がありますか」という質問が多 い。 16 プロジェクト法を活用したライティングの指導 【3.手紙を郵便局より発送】 最寄りの郵便局はキャンパスのすぐ近くにある。各自郵便局へ行き手紙を発送する。 多くの学生たちが、「今日、あんまりお金ないんだけど…」「お金が足りなかったらどうしよう」と不 安そうである。海外への郵便なので何千円もかかるかもしれないと思っているのだ。 送付前は不安そうな学生であるが、実際に郵便局まで足を運んでみて、窓口で料金(110 円) を知り、予想外の安価さに拍子抜けした様子である。(日本国内での送料が 80 円なので)「30 円 で海をわたるのか… 安い!」「缶ジュース買うのと同じくらいなんだ!」たかがエアメールの切手 代を知ったというだけのことではあるが、自分たちの生活と海外との心理的距離が大きく縮まる経 験をしたと言っていいだろう。 翌週、進行確認のために、手紙送付時に郵便局で受けとった領収書をワークシートに貼り付け 提出させる。 最初の数年はハンドアウトとして配布した下書き用封筒フォーマットが実際の封筒より大きかっ た。そのため、下書きは終えたのに実際に書くとバランスが悪くなる学生が続出した。また、もとも とは枠のみで示していたものを、実際の封筒をコピーして臨場感を増し、その上に下書きを書か せることにした。これによって下書きをより実物に近い状態において全体のバランスを考えながら 書くことができるようになった。 学生の多くに署名は筆記体という固定したイメージがある。毎年「署名が書けません」と言う学 生が出てくる。「筆記体の○ってどんなのだった?」と友人に聞く学生もいる。最近の学生の多くは cursive としての筆記体を練習していない。しかし漠然と英語のサインは筆記体という固定概念が あるようである。漢字でも構わないと指導する。 【4.パラグラフ・ライティングの学習】 このステップは授業としては 6-7 コマ(9-10 時間程度)かける。すなわち、海外からの資料が届く までの時間を利用して、次の活動に必要な知識を教えておこうという内容である。 1.学生たちはまずパラグラフ・ライティングの概要を学習する。パラグラフの概念については topic, main idea, topic sentence, supporting sentences, concluding sentence, organization of the paragraph といったキー・ワードを使って説明。教科書に練習問題があるの で演習を行う。 2.次にパラグラフの展開法 3 種類(空間配列・時間的順序・過程と指示)をサンプル・パラグラフ を通して学ぶ。 3.その上で直前に学んだ3つの性格の異なるパラグラフ展開法より 1 つを選択し 200 語以上の 文章を構成を考えて書く。 大学までの道のり、朝起きてから寝るまで、料理の作り方、など、学生たちが選ぶテーマは多様 だ。英文和訳や単文の英訳なら、学生の多くが経験している。しかし、彼らはひとまとまりの文章を パラグラフを意識して書くという経験はほとんどしていない。語数ばかりが気になっているようであ る。 17 Forum of Language Instructors, Volume 2, 2008 【5.資料到着、粗読み】 資料請求の手紙送付後、おおよそ 3,4 週間でグループにつき、最低1通の資料が送付されてく る。 「資料が届いたら報告しなさい」と学生には伝えてある。 学生たちは嬉しそうに「届きました!」と報告に来る。 毎年、大半の学生が自分宛に届いている、つまり自分の名前が表書きに明記されているにもか かわらず、封を開けることなく授業時に持参する。 海外から自分宛に郵便物が届くという事態への感動がありつつも、授業で取り組んでいる活動 の一環という意識、グループ活動であるという意識も働いているようだ。自宅で開封していいかどう かためらいがあるのだろう。 この時期は、授業の始まる前からにぎやかな声が教室に響く。 「○○の切手がはってある!」 「けっこう分厚いけど、アメリカからこれだけの資料を送るのにいくらかかるんだ?」 カバーレターに自分の名前が Dear …,と英語で表記されているのを見て、「ちょっと嬉しい!」 「外国のにおいがする」 こういった感想が飛び交っている。 届く資料の様態は教育機関によって様々である。三つ折の簡単なチラシのようなものから写真 や DVD 入りの豪華なパンフレット、出願書類を管理するための請求者情報が印字済みのバーコ ードステッカシート付資料、願書やビザ関係の書類一式が封入されているものまである。 夏前のこの時期、大学から送られてくる資料は大学のかんたんな紹介や学部学科の概要など それぞれの教育機関のアウトラインを示すものであることが多い。一方、語学学校に関しては、夏 の短期語学留学にむけて、コースの詳細、学費、ビザ取得の案内等が詳しく説明された資料が送 られてくることが多い。出願書類も一式そろっていることがほとんどだ。 語学学校の資料では英語においてもより分かりやすい表現が多用されている。付近の観光名 所等の写真(例えばロサンゼルスであれば、ドジャースの野球観戦の課外活動の様子、ハリウッド サイン、パームツリーやビーチの風景)もあり、学生の興味を惹きつける資料になっている。学生が 手紙で尋ねた内容(例えば、どんな課外活動があるか)の該当箇所を蛍光ペンでしるしをつけてく れている親切な語学学校もある。 語学学校の中には資料の一部を日本語化しているところもある。また、名前から判断すると日 本人と思われる担当者の名刺が同封されていることもある。留学に興味はあるが、自分が留学す るという可能性をあまり具体的にイメージできない学生たちである。日本語資料や日本人担当者 の名刺は、そんな彼らに語学留学先にはいろいろなサポートがある場合も多いということを知って もらえるいい手がかりとなる。 速い例としては「米国西海岸の語学学校に手紙を送ったら資料が 12 日後に到着した」という学 生の報告があった。一方で、資料請求しても返答がない、あるいは夏休みや後期になってから届 18 プロジェクト法を活用したライティングの指導 くというケースもあるということも学生に説明している。私自身のアメリカの留学生事務局での勤務 経験を話す。世界中から届く資料請求の手紙に対しての返答に時間がかかるさまざまな事情も実 際に見てきた。担当者が長期休暇に出ると、その間対応しない大学もある。また、ある程度の請求 が溜まった段階でまとめて処理するシステムをとっている大学もある。学生たちは、資料が届かな い場合、自分に落ち度があったからだとまず考える。自分の手紙に英語のミス、書き方の不備が あったのではと考える。事後的にはアメリカの教育機関における職場(社会)慣行について情報を 与えることが必要である。同時に事前に複数請求をすることによって、1 通も資料が届かないという リスクを減らしておくことが大切である。 【6.資料の内容の読み取り、請求機関の概要を1パラグラフで作成:グループ活動】 まず、クラス全体で、どこの機関から資料が届いていて、どんな資料なのかを共有する時間をと る。教室の端の列のグループから、自分たちが受け取った機関の名前を言いながら、全体に資料 をクラス全体に見せる。もし他のグループで、同じ教育機関から資料が来ている場合は挙手をし て発表者とクラス全体に知らせることにしている。同じ機関でも、学部、大学院と違う場合もあるの で資料が同一の内容か確認させる。 この確認を行うことで、後にグループ同士で不足している情報を交換するときのきっかけにもな り、教室内でグループを超えた横のつながりができる。 全体に聞き終わると、教室全体として受け取った資料のイメージが湧く。その後で学生たちは 配布されたワークシート 2 に示される学習課題に取り組む。ワークシート 2 では、グループワーク で資料より 10 の項目について読み取り、内容を記入する様式となっている。 項目は、1.教育機関の運営形態(公立、私立)、2.立地(都市、田舎、郊外) 3.創立 4.学生数 (学部、院、性別、マイノリティー)、5.出願条件(GPA) 6.出願条件(TOEFL) 7.学費、 8.宿泊 形態、9.願書締め切り 10.留学生数 である。 これは資料の読み込みをして、対象の教育機関の全体像を把握する活動である。手紙の送付 時点では機関名と住所しか情報がなかった。しかし資料を読むことでその機関の全体像を知るこ とができる。 届く資料の分量にはかなりの差がある。チラシの様なものから、かなり厚い冊子まで多彩である。 しかし、多くの学生に共通することがある。とりあえず一つ資料を取り出して、最初のページの一 文から、分からない単語はすべて辞書を引きつつ読んでいこうとする。提供される情報の全体構 造を把握しようとしないのである。そこでスキミング技法を紹介する。まず、見出し部分に注意して 文章全体の趣旨を理解しようとするように指導する。これでたくさんの資料の全体に目を通すこと ができるようになる。 「英語でいっぱいだ!」と最初は言っていた学生たちである。しかし自分たちの働きかけで得た authentic な資料である。分厚くてもそれほど心理的な抵抗感はないようである。 最終レポートは以下のような構成となる。 a さん、b さん、c さんから成る 3 人のグループがA大学について最終レポートを作成するとす 19 Forum of Language Instructors, Volume 2, 2008 る。 3 人はそれぞれ、A 大学について次のような内容に興味を持った。 a さん「下宿先から A 大学への道のりについて」(空間配列展開法) b さん「A 大学への資料請求から入学までのスケジュール」(時間的順序展開法)、 c さん「A 大学の出願書の書き方」(指示と過程展開法) このレポートは大きく分けて 3 つの部分から構成される。 上記のグループの例では、1 つの最 終レポートは 5 パラグラフ構成となる。また、前期はパラグラフの展開法の習得も目標である。空間 配列、時間的順序、指示と過程の展開法のうちのひとつを基軸として作成することをルールとして いる。教養教育課程英語科が全体として掲げている後期の到達目標にエッセイ・ライティングがあ る。そこにつながるものとしてこの活動がある。 1.イントロダクション(3 名のグループ活動) まず、先のワークシート 2 に記入した情報を基に、200 語以上で「請求機関の概要」というテー マで第一パラグラフを作成する。クラス全体のルールとして、このパラグラフの最後を次のように結 ぶことを決めておく。「このレポートでは自分たちが資料を得た教育機関について次の 3 点につい て記述する。第一に△△△、第二に△△△、第三に△△△である。」 (△の部分は個人が興味を持った内容についてである。後に詳述する。) 従って上の例では、パラグラフは次のような内容で結ぶ。「このレポートでは、A 大学について 次の 3 点に焦点を当てて説明する。第一に下宿先から A 大学への道のり、第二に A 大学への資 料請求から入学までのスケジュール、第三に A 大学の出願書の書き方についてである。」 2.ボディー(個人活動) 3 名が、興味を持った上記の内容でそれぞれ 200 語以上の 1 パラグラフでまとめ説明する。ま た、トピックセンテンスから始まるパラグラフを作成するというルールで統一しておく。先のイントロ ダクションの終わりの部分がそれぞれの個人パラグラフのトピックセンテンスとなる。 従って先の例の、第一、第二、第三パラグラフのトピックセンテンスが、それぞれ、「第一に下宿 先から A 大学への道のりを説明する」、「第二に資料請求から入学までについて説明する」、「第 三に A 大学の出願書の書き方について説明する」となる。 3. コンクルージョン(3 名のグループ活動) グループごとに「請求機関の概要」というテーマで 200 語以上の1パラグラフを作成する。 【7.資料の中で興味のある内容を選び、個人パラグラフ作成】 グループ内での個人テーマはグループのメンバーで相談したうえで決定する。選択する内容 によっては、より理解度を深めるためインターネットや文献で調査する。例えば、財政能力証明書 やビザ(I-20)については、送られてきた資料のみではイメージが湧かないことが多い。そのため 独自に調べないといけない。与えられた情報のみではなく、さらに調べることで、積極的に活動に 20 プロジェクト法を活用したライティングの指導 かかわることができる。過去には、日本の空港から、大学までの道のりの具体的なスケジュールと 料金を調べた学生もいた。また現地空港から大学まで車を使用した場合の道順を詳細地図の該 当部分をつなぎ合わせ示した学生もいた。 このパラグラフの活動では資料から文章をそのまま抜き出してパラグラフの一部にしてはいけな いと指示している。読み取った内容や調べた内容を自分のことばで書くように指導する。一文を短 くする、辞書から引っ張ってきた一見難しそうな単語を使わない、自分が使い慣れている表現を 駆使する、といったことを繰り返し指導する。 【8.学生によるまとめとふり返り】 最後にファイナル・レポートを提出させる。カバーページ、グループ、個人パラグラフ、送付資料、 参考資料等を全てまとめレポートとし、グループごとに一部提出させる。 4. プロジェクトによるライティング指導の特質 このグループにおけるライティング・プロジェクトの特質は以下の 6 点にまとめることができるだろ う。 4-1. 各タスクの過程、プロジェクトの最終的な形(全体像)を学生たちがイメージしやすい このプロジェクトは各プロセスの概要とスケジュールを説明することから開始する。プロジェクトは 小さなタスクを積み上げていくことで完成する。最終的な完成形をあらかじめ学生が認識しておく ことで一つ一つのタスクを全体の流れを意識しながらタスクに取り組むことができる。グループ活 動→個人活動→グループという流れがある。完成形を目指し、個々がパーツを作成。その後、パ ーツを組み合わせる。そして全体として 1 つ出来上がるという構造がある。 4-2. 個々の学生が活動に積極的に取り組みやすい 個人パラグラフの作成、パラグラフの学習を除き、このプロジェクトは学生による共同作業を基 本とする。1 グループは 3 名程度の少人数としている。そのため、タスクを完成するためには個々 の積極的な活動への関わりが要求される。 また、タスクによっては数回の授業を通して完成させるものもある。そのため、締め切り日から逆 算して、グループ内で段取りをし役割を分担する。そのため各自が見通しを持ち作業を進めてい かなくてはいけない。 以前学生たちから「先生の授業は自由ですね」というコメントを受けたことがある。学生自身が活 動する時間の多い授業形態への印象であろう。講義スタイルの授業を受けることに慣れている工 学部学生たちから見ると新鮮に映るようである。 浅野誠氏は言う。 学生自身が活動を主体的に展開できる授業、具体的なスキルを獲得できる授業、現実 21 Forum of Language Instructors, Volume 2, 2008 生活や自己の将来とのかかわりが読み取れる授業のなかでは、学生たちは生き生きする。 あえていえば生き生きできる授業が大学のみならず、それまでの小中高校で、あまりにも 少なかったために、そうした授業に出会うと、初めは面くらい、自ら主体的に活動すること に躊躇することがあるとしても、いずれ生き生きと活動しだす事例は、多くの大学教員た ちが報告するところである。(浅野、2002, p.10) プロジェクトによる授業展開は、浅野氏が指摘する「学生自身が活動を主体的に展開できる授 業、具体的なスキルを獲得できる授業」となる要素を多く含んでいると言っていいだろう。 4-3. 学生に選択の幅がある プロジェクトではプロセスの中で、グループ、個人が活動内容、働きかけの対象を選択する場面 が多い。 たとえば、送付国、資料請求する教育機関、パラグラフの展開法などについて、学生たちはそ れぞれ選択をしながらプロジェクトを展開する。選択はおおむね自らの意思と判断において行わ れる。指示されたことを受身で単調に行うのではない。最終エッセイはそれぞれの選択の積み重 ねが盛り込まれた産物である。そのため最終レポートの内容は様々でバラエティーに富む。 4-4. 一つ一つのタスクの遂行に伴う達成感の積み重ねによりセルフ・エスティーム、つまり 自己に対する有能感や有用感が高まる たとえば次のようなタスクにおいて、学生たちは達成感を得るようである。 1.英語で手紙を書き上げたとき。 2.200 語以上で英語のパラグラフを完成したとき。 3.資料請求した資料が届いたとき。 4.第二言語としての語学教材ではない authentic な情報を読み取れたとき。 5.グループで協力し、複数パラグラフ(エッセイ)を作成したとき。 冒頭で述べた学生たちの英語に対する意識調査より、学生の英語に対するセルフ・エスティー ムは一般には高くないことがうかがえる。セルフ・エスティームを挙げるためには自信をつけること が大切である。自信は経験を積むことで生まれる。 生徒が積極的に学習身向かうのは、何らかの達成感、成就感を得られたときで、さらに、 その感触を持続・発展させるのは、学習に知的な喜びを発見するからである。その喜び を引き出すのが教師の最も重要な務めである。(浅野、2002, p.30) しかし英語に対するセルフ・エスティームの低さの一方で、学生たちは英語を駆使できることへ の憧れを強く持つ。今までやったことのない実際にコミュニケーションを取ることで、知的な喜び、 22 プロジェクト法を活用したライティングの指導 また、英語を学習する意義を見いだすのである。 また、プロジェクトは最終的にレポートという作品となる。作品としてカタチが残ることには大きな 意義がある。 何よりも、学習の過程において重要なふり返りを深く行うことができる。学習過程では感情を伴う 学び、気づき、発見、間違えなどがある。また一つ一つのタスクを遂行しているときには気づかな いこともある。これらを総合的に再度全体の流れの中でふり返り総括するのである。 数ヶ月前にできなかったことができるようになった。その結果が視覚的に形として存在する。そし てその記録の産物を見返すことで自己の成長を確認できる。 4-5. コミュニケーション能力が高まる 学生たちは入学してまだ数週間である。 プロジェクトでは自分とは違った考え方、価値を持っている相手とお互いを尊重しないと完成し ない。授業を通して価値観の違う相手とうまくかかわっていく知恵をつけることが大学生活を送る 上で、また社会の中で生きてくために必要な能力である。 手紙は、グループのメンバーで一緒に郵便局に出向いて送付することを薦めている。近所にあ る郵便局であっても、歩いていく間に何らかのコミュニケーションをとることになる。教室を離れたと ころでの会話から生まれるつながりが、その後の授業での発言や活動により、心地良い雰囲気が できることも期待しているのである。 4-6. 教室を離れた社会とのつながり、コミュニケーションを経験できる 社会が変化する中、なぜ今の時代 e-mail でなくあえて、snail-mail なのか。ハイテクでなく、 ローテクなのか。 確かに瞬時に届く e-mail には利便性が高い。コンピュータとメールアドレスがあれば、コストもほ ぼかからない。メールを送った後、短時間で返事がくれば、それは自分の日常生活とかけ離れた 外国がとても身近に感じられる。またホームページにアクセスすれば、情報や書類の様式をダウン ロードできる機関も多い。出願申込書類をオンラインで提出できる機関もある。 しかしこのプロジェクトではあえて郵送の手段をとる。手紙を作成→タイプ→プリントアウト→手 書きでサイン→封筒に宛名書き→郵便局まで足を運ぶ→料金を支払う→手紙の返事を待つ→ポ ストにて資料を受け取る。この手間と時間をかける過程が授業論的には意味がある。自分たちの 働きかけがどのように展開するのかということについて社会と関わらせつつ想像力をふくらませる 時間を十分に取ることが重要なのだ。手紙を郵便局で窓口に出したその日から「今頃・・・かな。」 という想像が広がる。 また、家のポストに郵便物が実際に届くこと、また個人用に作成されたパケットが届くことで、より 外国とのつながりを実感できる。切手、使用されている紙、担当者の手書きの宛名のアルファベッ トのスタイルのくせや違い、消印などから想像も広がる。 23 Forum of Language Instructors, Volume 2, 2008 5. 学生たちはプロジェクトをどう受けとめたか 学生たちは自らの学習をどのようにふり返っているのだろうか。ふり返りをことばにしたコメントカ ードをもとに考察する。これは最終レポート提出直後の「ライティング」についての日本語での記述 である。 「自分の文章がよりよくなっていくのがわかり少し感動しました。簡単な英語で表現してパラグラフ を作ることは案外大変であった。」 「自分でも少しのことに注意すれば英語の文章が書けることがわかった。思っていたより文章を 書くことが難しくなかった。」 「最初は英文を書くことに少しとまどったけれど、推敲を重ねていくにしたがって、だんだんと良い ものになっていった。それにつれて英文を書くのが楽しくなってきた。」 「とにかく長いパラグラフを作ったので、今までよりは、英語の文章能力が上がったと思え、有意 義な時間を過ごせたと思う。」 「1 つの物事について内容のあるまとまった文章を書けるようになり、自信も少しできました。」 「自分では完璧にできたつもりでも、先生やクラスメートに評価をしてもらうと、誤字があったり、イ ンデントしてなかったり、文法がおかしかったり、といろんな間違いがあったので驚いた。」 「同じ題材でも回を増すごとに自分でも良くなっていっているのが分かったのでうれしく感じた。 改めて推敲の大切さを悟った。」 「この2,3年日本語で文章すら書かなかったので、英語で文章を書けるかどうか心配だった。た だ書けばいいのではなく文章の流れを考えなければならなかったので、すごく悩んだ。」 「推敲を重ねるたびに新たな発見があり思っていた以上にパラグラフ構成が大変奥が深いと感じ た。」 「英語は語彙も少なく慣れていないので、文 1 つ書くのにも頭を使った。日本語の文を書くことに も参考になったこともあるかもと思った。」 「英語は苦手だったけど、苦手なりに頑張れたと思う。」 「難しい英文法を使わなくてもまとまった英作文ができるようになり、少し英語に楽しさを感じた。」 「1つの文章を完成させるのに、何度も何度も見直して作り直し時間をかければ、自分でも英文ら しきものができあがるんだな。と思いました。」 「文章というものは、1回書いただけではまだまだ不十分であり、何回も読み直し書き直し、いろ いろな人に読んでもらい、注意点を見つけることが重要であると感じた。そして、その誤った点を 直していくことで、よりよい文章が構成されるのだと思いました。大切なのは 1 つ 1 つの積み重ね です。」 「苦手な長文を自分でしっかりと書く機会が与えられた。1st draft ではものすごく不満足なパラグ ラフを書いていて、この先に不安もあった。しかし、先生の助けもあり、満足がいくパラグラフを書く ことができた。」 「私は昔から英語があまり得意ではなかったので、なんとなく書き方というものが分かってきたとき 24 プロジェクト法を活用したライティングの指導 にはとてもうれしかった。なんでもとりあえず一生懸命やれば、できるということを再認識した。」 「回を重ねて推敲していくことで自分の writing が完成していくのが分かって楽しかった。Final draft は満足のいくでき具合だと思う。」 「最初は何をどう書いていいのやらわかりませんでしたがパラグラフがだんだんよくなっていくの が感じられ、英文を書くのが楽しくなってきました。」 「クラスメートの文章を読むことは非常に為になったし、自分も刺激された。先生のアドバイスもや る気を起こさせてくれた。」 「同じ題材でその内容を高めていくことの大切さがわかった、他人に自分の文を読んでもらうので、 やっぱり客観的にみることは大事だと思った。」 「構成を考えるのは面白かった。おおまかな構成が決められていたから、書きやすかった。」 「簡単な英語で表現してパラグラフを作ることは案外大変であった。」 「一度文章を書いたときより、書き直すほうが時間がかかった。」 「英文を書くことに慣れることが必要だと思った。だんだんまとまった文が書けるようになった。」 「書いていくうちに文のつながりや構成が分かるようになってきて勉強になった。」 「今まで作文を書けと言われても、題材が思い浮かばなかったけど、主題文を作ればそこからの 展開が簡単であることがわかった。」 「できるだけ分かりやすい単語で自分の主張を的確に伝えることの難しさを学んだ。」 「クラスメートのパラグラフを評価する活動は自分の英語能力に自信がなくて、アドバイスすること が少ししかできなかった。」 毎年授業のガイダンスでの「200 語以上の英文を書きます」との説明に「自分に果たして書くこ とができるのであろうか」という表情を見せる。実際書き始めても、何語書くことができたかを何度も 何度も数える姿が教室のあちらこちらで見うけられた。しかし、上の記述から、学生達が英語のラ イティングに時間をかけて向き合ったということが伺える。また、自己評価、達成感も高い。何度も 書き直すことは大変な作業であったのであろう。しかし、多くの学生がその draft を重ねる中でライ ティングの醍醐味を感じ取ってくれたようである。 6. おわりに 毎回の授業で私が大切にしているのは「英語って(もしかして)おもしろいかもしれない」と学生 たちに感じてもらうことである。 大学での英語の授業や日常生活で少なからず触れる「英語」に対し、まず興味を持ってほしい と思う。一度持ってしまった英語への否定的感情を払拭しもう一度興味を持ってほしいのだ。 実社会で英語でコミュニケーションをとることのできる能力は彼らのキャリアにとって強みである。 この一連の活動が今後エンジニアとして活躍していく学生にとって授業の枠を超えて彼らの将来 につながってくれることを期待したい。 25 Forum of Language Instructors, Volume 2, 2008 参考文献 浅野誠 『授業のワザ一挙公開 大学生き残りを突破する授業作り』、大月書店、2002. 26