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質の良い共感性を有する介護職員のバーンアウト
質の良い共感性を有する介護職員のバーンアウト ○北村世都1・内藤佳津雄1 (1日本大学文理学部) キーワード: 介護職員 共感性 バーンアウト Relation between the high quality of empathy of care worker and their burnout Setsu KITAMURA1, and Katsuo Naito1 1 ( Nihon University College of Humanity and Science) Key words: care worker, empathy, burnout 目 的 共感性は他者理解の基礎となる認知的・情動的構成概念 (Davis,1996)であり,福祉人材教育の中では同情と異なる概念 であることが強調されることも多い。他方その実践は,共感 できているかどうかが不明瞭で客観的に観察できず,きわめ て曖昧さを含んだものである。共感の実践は,共感も含めた 対人コミュニケーションにともなう曖昧さに寛容になりつつ, 同時に相手を観察分析してコミュニケーションをとり,曖昧 さの解消に向けた努力を継続する必要があり,高度な認知的 プロセスが存在するとされる。介護職員を対象とした先行研 究からは,同情と区別した質のよい共感が可能であった職員 は,相手と自らの経験を区別しにくくより同情に陥りやすい 職員よりも,バーンアウト傾向が高いことが示されており, 人材の質の担保とバーンアウト回避の両立が課題となる。 そこで本研究では,同情とは異なる質の良い共感性を有す る介護職員におけるバーンアウト傾向にかかわる要因を検討 する。曖昧な状況に対する態度,およびケアに対する自己評 価の関連を明らかにし,介護職員におけるケアの質の向上を めざした介入可能性について検討することを目的とする。 方 法 調査方法:WAM-net より無作為抽出した全国の通所介護事業 所・特別養護老人ホーム各 1500 か所を対象に調査票を郵送し, 任意の各施設の介護職員 3 名(監督職・経験 3~5 年・経験 2 年未満)への回答を依頼した。回答者自ら調査票を厳封し所 属施設を通して調査者に返送するよう依頼した。 調査項目:属性のほか,共感経験尺度・曖昧さへの態度尺度, 日常ケアの困難さを問う 7 件法 25 項目,8 つのキャリアアン カーを参考に作成したキャリア志向に関する 5 件法 16 項目, バーンアウトに関する 5 件法 1 項目。 調査時期 平成 23 年 12 月~平成 24 年 1 月。 結 果 回答者属性 調査回答者は 2446 名(女 1569 名・男 876 名, 返送率 27.2%) ,介護福祉士資格保有率は 61.6%,平均年齢 36.1 才,平均介護経験は 76.8 月であった。 測度の処理 曖昧さへの態度尺度は因子分析(主因子法プロ マックス回転)により 5 因子を抽出した。日常ケアの容易さ 25 項目について,主成分分析により 5 成分の合成得点を算出 した。次に,共感経験尺度得点により対象者を両向型 374 名・ 共有型 720 名・両貧型 551 名・不全型 735 名と分類し,これ を共感性類型とした。次に,バーンアウトに関する 1 項目に ついて, 「まったくそう思わない」 「そう思うこともたまにあ る」をバーンアウト低群, 「ときどきそう思う」 「よくそう思 う」 「いつもそう思う」をバーンアウト高群とした。キャリア 志向は,キャリアアンカーに基づく 2 項目の合計得点を 8 つ のキャリア志向の得点とした。各アンカー共感性類型とバー ンアウト高低を独立変数,日常ケアの困難さ 5 成分の合成得 点,キャリア志向,曖昧 さへの態度尺度因子得点 について二要因分散分析 を行った。その結果,共 感性類型の主効果は,年 齢,キャリア志向のうち 「保障・安定」 「ライフス タイル」を除いたすべて の変数に,バーンアウト 高低の主効果は,曖昧さ への態度のうち「曖昧さ への困惑」 「曖昧さへの解 消欲求」 ,日常ケアの容易 さのうち「関係者との連 携相談」 ,年齢,キャリア 志向のうち「保障・安定」 「自立・独立」 「起業家的 創造性」 「専門・職能別コ ンピタンス」 「ライフスタ イル」に認められた。交 互作用は「曖昧さの解消 欲求」のみ有意であった。 考 察 バーンアウトの高い職員 は,曖昧さへの困惑が強 それを解消しようとする 欲求も高く,またキャリ ア志向としては,安定し た生活やライフスタイル 重視の志向が強い場合, また独立や起業を考えた り,専門職志向が強いと バーンアウト傾向が強い ことが示唆された。しか し,質の良い共感性とさ れる両向型では曖昧さの 解消欲求は,バーンアウ トと関係なく高く,同情 に陥りやすい共有型にお いては,曖昧さの解消欲 求が高いとバーンアウト しやすく,低いとバーン アウトしにくい,という 結果とは対照的であった。 表 各従属変数の平均値 従属変数 FAC1曖昧さの享受 共感性 タイプ 両貧型 共有型 曖 昧 さ へ の 態 度 FAC3曖昧さの解消欲求 FAC4曖昧さの受容 総和 -.1555266 .3549911 .0727353 .0933126 .0810538 -.2739646 -.1553757 -.2264385 .0420501 .0148508 .0330759 両貧型 -.3397169 -.1229270 -.2866976 共有型 -.3391200 .0236672 -.2356404 両向型 .1030169 .1420423 .1187931 不全型 -.2839784 -.0418373 -.1869371 総和 -.2620310 < .0006284 -.1753683 両貧型 -.1513275 < -.0026589 -.1149683 共有型 -.1095994 < .4199395 両向型 .1505712 不全型 -.2125030 総和 -.1097710 両貧型 共有型 両向型 不全型 .0414436 .1550351 .1523758 < -.0671781 -.1542621 < .1279401 -.0313397 -.0097022 -.0579599 -.0215044 -.1635044 -.1145785 -.1495490 .2323550 .4079315 .0071010 .1497990 .3033327 .0642891 -.0262097 .0912110 .0125325 -.3035438 -.2846588 -.2989252 -.0204315 .1862564 .0385231 両向型 -.0178632 -.1065451 -.0537133 不全型 -.3857000 -.2721033 -.3401746 総和 -.1831364 -.1082937 -.1584426 両貧型 -.0325350 -.1709559 -.0663879 共有型 .1671121 .0892508 .1449033 両向型 -.0301374 -.1230720 -.0677067 不全型 -.1075253 -.2633533 -.1699754 総和 F2関係者との連携相談 .0196619 -.1190887 -.0261180 両貧型 -.1076152 -.2870255 -.1514928 共有型 .2815285 .0507290 両向型 .1093506 -.0803671 .0326562 不全型 -.1881949 -.2632615 -.2182788 -.1398204 -.0182844 -.1745395 -.0938892 総和 F3正確な助言主張記述 両貧型 共有型 F4予防やレク .1749413 .0960061 .0644295 -.0016815 .0377038 -.0419944 -.2441130 -.1229962 .0449580 -.0870599 .0013996 両貧型 -.2267913 -.0984042 -.1953923 共有型 .2544863 .0865687 .2065903 両向型 .0121175 -.0253032 -.0030100 不全型 -.1331441 -.1963639 -.1584803 自立・独立 起業家的創造性 奉仕・社会貢献 専門・職能別コンピタンス 純粋な挑戦 ライフスタイル 年齢 経験総月数 .1524262 .0047147 -.0655149 -.0184571 両貧型 -.1305367 -.0760342 -.1172073 共有型 .2550330 .0544900 .1978312 両向型 -.0915374 -.0572375 -.0776715 不全型 -.1357081 -.2015557 -.1620974 総和 保障・安定 > 不全型 総和 全般管理コンピタンス .0415614 -.0677793 .2156964 両向型 総和 F5認知症ケア 属 性 .3771308 FAC5曖昧さの情報による統 両貧型 制 共有型 F1情報のない人のケア キ ャ リ ア 志 向 ( 2 ~ 1 0 ) 高群 -.3716455 不全型 総和 日 常 ケ ア の 容 易 さ .3461560 両向型 総和 FAC2曖昧さへの困惑 バーンアウトHL 低群 有意差 -.0855600 .0121115 -.0795061 -.0181171 両貧型 5.04 5.31 5.11 共有型 5.66 5.68 5.66 両向型 5.57 6.09 5.78 不全型 5.34 5.22 5.29 総和 5.42 5.54 5.46 両貧型 5.06 5.89 5.26 共有型 5.08 5.98 5.34 両向型 5.43 6.35 5.80 不全型 5.17 5.87 5.45 総和 5.15 6.00 5.43 両貧型 4.79 5.51 4.97 共有型 5.30 5.73 5.42 両向型 5.44 6.21 5.75 不全型 5.08 5.46 5.23 総和 5.14 5.69 5.32 両貧型 4.92 5.36 5.03 共有型 5.60 6.05 5.72 両向型 5.45 5.84 5.61 不全型 5.16 5.47 5.28 総和 5.30 5.69 5.43 両貧型 6.26 6.13 6.23 共有型 7.12 7.00 7.08 両向型 6.63 6.89 6.74 不全型 6.18 6.23 6.20 総和 6.60 6.57 6.59 両貧型 6.09 6.42 6.17 共有型 6.71 6.92 6.77 両向型 6.20 6.49 6.32 不全型 6.05 6.28 6.14 総和 6.32 6.53 6.39 両貧型 6.09 6.04 6.08 共有型 6.69 6.91 6.75 両向型 6.15 6.72 6.38 不全型 5.89 6.05 5.95 総和 6.26 6.43 6.32 両貧型 5.72 6.91 6.01 共有型 6.00 6.74 6.21 両向型 5.93 6.81 6.28 不全型 5.89 6.31 総和 5.90 < < < < < 6.06 6.63 6.14 両貧型 36.22 35.78 36.11 共有型 37.13 35.59 36.69 両向型 37.18 34.28 36.01 不全型 38.66 34.90 37.15 総和 37.33 35.11 36.60 両貧型 96.29 107.33 98.99 共有型 91.31 90.75 91.15 両向型 89.25 87.09 88.38 不全型 98.97 85.70 93.66 総和 94.22 90.78 93.08 > 注:共感性タイプの主効果が有意でない部分は網かけ。バーンアウト高低での有意差がある場合は>または <を表示。交互作用のあった「曖昧さの解消欲求」のみ各共感性類型ごとのバーンアウト高低の有意差の有 無を示した。 注)本研究は平成 23 年度老人保健健康増進等事業「災害等緊急時に対応可能な地域包括ケ アと介護職の機能と役割に関する調査研究事業」の一部である。 (Setsu KITAMURA, Katsuo NAITO)