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GEが仕掛けるリバース・イノベーション

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GEが仕掛けるリバース・イノベーション
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日米欧はいまや「その他地域」
2010・08・23 691号
GEが仕掛けるリバース・イノベーション
財部誠一 今週のひとりごと
8月中下旬にかけて夏休みをとりました。今年前半もアジア中心に
海外取材を重ねましたが、恐ろしいもので世界の経済構造の変化は
私の取材先にそのまま直結。欧米の取材が激減しました。しかし来
月下旬、久しぶりに渡米します。米国の政治経済を肌で感じてくるつ
もりですが、その後には北京政府高官との意見交換の機会もありそ
うです。いずれにしてもやたらと移動の多い日常から離れ、今夏は以
前から行ってみたかった軽井沢の「星のや」でのんびりしてきました。
東京から新幹線で軽井沢まではたったの1時間です。高速道路の渋
滞情報とは無縁。それでも軽井沢の朝晩の気温は21度前後。涼し
いなかで読書三昧を満喫しました。
報道ステーションの特集放送、8月30日(月)予定です。是非ご覧く
ださい。
(財部誠一)
※HARVEYROADWEEKLYは転載 ・ 転送はご遠慮いただいております。
「発明王」
と呼ばれたトーマス・エジソン最大の発明はGE(G
eneral Electric) だったのではないではないでしょうか。 もっと
も史実に従えば、 エジソンはGEの創業オーナーではなく、 雇
われ社長だったようです。 そんな戯言をいいたくなるほどGE
は世界屈指のコングロマリット (複合企業) になりました。
米国誌 『フォーブス』 が売上、 利益、 資産、 市場価値など
主要な企業価値にもとづいて、 世界の公開会社上位2000社
ランキングを毎年公表していますが、GEはトップ3の常連で
す。 そのGEの真骨頂はイノベーション力です。 2000社ラン
キングのトップクラスキープは、 わずかな潮流の変化を捉えて、
来るべき新時代に適した新たなビジネススタイルを確立し続け
てきたことに尽きます。
リーマンショックを境に世界経済の地軸は先進国から新興国
へとドラスチックに時代が転換しつつあるなかで、 やはりGEは
再び世界を仰天させる新たなビジネスモデルを創出していま
す。 それを一言で集約する言葉があります。
「リバース・イノベーション」
いったいどんな概念なのでしょうか。
『Harvard Business Review』 (2010年1月号 ) は、 09
年5月にGEが医療分野において従来とはま逆のプロセスでグ
ローバルな製品開発、 販売を行っていくことをいち早く伝えて
います。GEが仕掛ける新興国中心時代のイノベーションを象
徴する2つの医療機器を同誌は次のように記しています。
「1000ドルの携帯型心電計 (ECG)、 そしてノートパソコン
を利用する、 1万5000ドルという低価格のコンパクト超音波
診断装置の二つである。 これらが画期的なのは、 小型で低
価格であるという理由だけではない。 そもそも新興経済の市場
向け――ECGはインドの農村向け、 超音波診断装置は中国
の農村部向け――に開発されたが、 現在ではアメリカ国内で
も販売され、 新たな利用法も生まれつつあるという点でも特別
なのです。 我々はこれら二つの機器の開発とグローバル化の
プロセスを 『リバース ・ イノベーション』 と呼んでいる」
これまでは新興国向けに医療機器を開発するということはGE
ではまったく行われてきませんでした。 技術開発も商品化もす
べて米国本社がその機能をもち、 新興国の拠点は営業拠点
◆ゼネラル・エレクトリック(GE)
【概要】
電 気 機 器、 医 療 用 画 像 機 器、
航空機エンジン、 水素電気車、
原子力発電、 メディア、 軍事産
業、 金融など幅広い分野でビジ
ネスを展開。 各分野、 1 位か 2
位のシェアであることが事業存続
の条件。 これは 1981 ~ 2001 年
まで CEO を務めたジャック ・ ウェ
ルチ氏が打ち出した。 1896 年に
ダウ平均株価を算出開始以来、
唯一残存する構成銘柄企業。
【沿革】
1878 年 トーマス・エジソンが電
気照明会社を設立。
1890 年 エジソン・ゼネラル・エレ
クトリックを設立。
1892 年 トムソン・ヒューストンと
合併し、 ゼネラル・エレ
クトリックが誕生。
1919 年 米最大手の電話会社
AT&T と共同で電機メ
ーカー RCA を設立。
後にカラーテレビの市
販化をに成功。
1955 年 人工ダイヤモンドの合
成に成功。
1959 年 汎用コンピュータ事業
に参入。
1986 年 経営危機に陥った RCA
を完全子会社化。 米 3
大ネットワークの 1 社
NBC を傘下に収める。
2007 年 日立製作所と原子力部
門を統合、 合弁会社
を設立。
2010 年 遠隔医療と高齢者の自
立支援を目的としイン
テルと共同で会社を設
立すると発表。
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東、ブラジル、カナダ、オーストラリア、ロシアといっ
た 『資源大国』、あるいは中国やインドなどの 『人
口大国』が議論の中心である。 そしてアメリカ、ヨー
ロッパ、 日本は 『その他地域』 になった」
まさか日本が 「その他地域」 扱いされるなんて、
いったい誰が想像したでしょうか。
GEか ら み る と、 頑 張 っ た と こ ろ で せ い ぜ い
2~3%の成長率が限界になりつつある先進国市
場の魅力が急速に低下する一方で、 「資源大国」
や 「人口大国」 こそがGEの未来を左右する主戦
場とみなされるようになったのです。
GEの機先を制した日本のコマツ
リバース ・ イノベーションもこうしたグローバルな
マーケット認識の変化によって創り出されたビジネ
スプロセスの転換です。
もっとも我々日本人はこうしたGEの先進的な取
組みに驚き、 尊崇してばかりいる必要はない。 リ
バース ・ イノベーションのような概念を創出するこ
とは日本人の得意とするところではないですが 「人
口大国」 のひとつである中国相手に、 リバース ・
イノベーションを具現化している日本企業がじつは
少なくありません。
たとえば建設機械業界。 巨大な国土を持つ中
国では社会インフラの整備が急ピッチで進んでい
ますが、 それを支える建設機械では日本のコマツ
やコベルコ建機が中国各地に生産拠点をもち、
最新技術を搭載した高額な建設機械を販売してい
ます。 そのなかにGE顔負けのリバース ・ イノベー
ションがみてとれます。
GPS機能を搭載した建機です。
コマツは自動車のナビゲーションシステムとして
知られるGPS機能を搭載することで、 中国での
建機販売数が加速しました。 建機の位置情報を
もとに、 工事現場から持ち出されたらエンジンが
自動停止するセキュリティ機能を付与し、 工事現
場など一定の区域の外に建機が移動したら自動
的にエンジンが停止する。 1000万円もする高額
⇒
⇒
でありアフターサービスの拠点でしかありませんで
した。GEの医療機器部門が相手にするのは高額
な製品を購入してくれる先進国であり、 それを大
前提としてGEの製品開発は行われてきました。
もちろん新興国に売らないというわけではありませ
ん。 先進国向けに開発された製品にマイナーチェ
ンジを加えて新興国用にカスタマイズするというビ
ジネススタイルです。
しかしマイナーチェンジをいくら施したところで、
販売価格が半値になるわけもなく、 新興国で高
額な医療機器を販売するのは簡単なことではあり
ません。
たとえば超音波診断装置。 「エコー」 と呼ばれ
る機器で血管の太さを計測したり、 胎児の健康
状態を診たりする際に使われます。 私自身も人
間ドックでこの 「エコー」 の世話になっています。
エコーを首筋にあて血流の変化から脳梗塞のリス
クを判定することもできるし、 内視鏡検査のでき
ない腎臓や肝臓などの臓器の異変をチェックした
りもします。
がっちりとした据え置き型で、 最低でも1000万
円。 日本の医療機関からみれば1000万円とい
う価格はさほど大きな問題にならないのかもしれ
ませんが、 新興国となれば事情が変わります。
そこでGEが中国農村部向けに開発したエコー
は150万円ほど。 中国市場にも一気に受け入れ
られました。 もっとも興味深いのは中国農村部向
けに開発された低価格のエコーが、 先進国でも
売れているという事実です。 新興国で製品開発
し、 それを先進国市場に投入するというビジネス
スタイル、それがGEの言う 「リバース・イノベーショ
ン」 です。
そのGEについて 『Harvard Business Revie
w』 (2010年1月号 ) が衝撃的な記述を載せてい
ます。
「10年前ならば、GE経営陣は、 アメリカ、 ヨーロッ
パ、 日本、 その他地域に分けて、 グローバル
市場について議論していた。 しかしいまでは、 中
な建機の盗難が多発していた中国でこのシステ
ムを誰よりも高く評価したのは銀行でした。 建機
の担保は建機それ自体で、 その建機が盗難に
あったが最後、 資金回収が絶望的になってしま
います。GPS機能は盗難防止機能が銀行融資
の担保価値として大いに評価されたのですが、
機能はそれにとどまらず、 建機の稼働情報を販
売代理店や中国本社が詳細に把握できるシステ
ムへと練り上げました。
中国の作業者は日本人が想像もできない不正
行為をします。 監督者がいなければ作業時間中
に昼寝もするだろうし、 雇われている現場から建
機を持ち出して他の現場でアルバイトをしてしまう
なんてことも朝飯前。 こっそりガソリンを抜き出し
て横流しする。 およそ日本の工事現場では考え
られない不正行為が中国では横行しています。
考えられるありとあらゆる不正行為と盗難防止を
GPS機能によって抑え込む。 そして作業の効率
性まで把握できるのです。
この画期的なシステム開発は日本にあるコマツ
本社で生まれたわけではありませんでした。 元
来そうしたシステム開発は本社が担当するもので
したが、 それではあまりにもコストが高すぎるこ
とを理由に中国本社が多少の軋轢を覚悟のう
え、 上海でのシステム開発を押し切ったのです
が、 まさにそれこそが最大の成功要因になりま
した。
日本人技術者には想像もできぬ中国人作業者
の悪辣非道な不正行為を中国人技術者は次々と
あげつらい、 それらを抑止するシステムを次から
次へと開発していったのです。 その結果できあ
がったコマツのGPSは世界最高のセキュリティ機
能を備えたシステムへと昇華。 中国国内で開発
したシステムが、 先進国に逆上陸、 世界のどこ
でも売れるグローバルヒット商品となったのでし
た。GEに先んじたコマツの 「リバース ・ イノベー
シ ョ ン」 で す。 (財部誠一)
◆リバース・イノベーション例
GEはリバース ・ イノベーションに
よって、 ポータブル型超音波診断
装置の需要を新興国だけでなく、
世界中に生み出した。
売上高 : 02年 400万ドル
08年 2億7800万ドル
○オリジナルプロダクト
90年代米国と日本で開発された超
音波診断装置を中国市場に売り込
んだ。
【既存の超音波診断装置の価格】
02年 : 10万ドル
【主な顧客】
先端技術を備えた病院の画像診断
センター
【主な利用法】
血管の大きさや心臓内の血流を測
る、 胎児の健康状態をモニター、
前立腺の状態を見る
★高価で大型の診断装置は売れ
なかった
○新興市場発のイノベーション
中国ローカルチームは低価格の携
帯型超音波診断装置を開発。
【ポータブル診断装置の価格】
02年 : 3万~4万ドル
07年 : 1万5千ドル
【主な顧客】
中国 : 農村部の診療所
米国 : 救急隊、ER
【主な利用法】
中国 : 肝臓肥大や胆石の発見
米国 :ERでの子宮外妊娠診断、
事故現場の心嚢水貯留測定
★超低価格のモデルを販売、 中
国での売上げは急増
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