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「ながおかバル街」による 中心市街地・店舗活性化

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「ながおかバル街」による 中心市街地・店舗活性化
長岡大学地域志向教育研究ブックレット vol.1
ISSN 2189-4248
「ながおかバル街」による
中心市街地・店舗活性化
中村大輔
長岡大学地域志向
教育研究ブックレット
2009.4 -2016.3
文部科学省「地
(知)
の拠点整備事業」
=大学COC事業
(平成25∼29年度)
長岡大学COC事業=長岡地域<創造人材>養成プログラム
平成26年度 長岡大学地域志向教育研究ブックレットvol.1
「ながおかバル街」
による中心市街地・店舗活性化
【著 者】中村大輔
【発行日】平成27年3月25日
【発 行】長岡大学地(知)の拠点整備事業推進本部
長岡大学地域連携研究センター
2009.4 -2016.3
長岡大学は、文部科学大臣が認証する財団法人日本高等教育評価機構によ
る大学機関別認証評価を受け、平成22年3月24日付で、「日本高等教育評
価機構が定める大学評価基準を満たしている」と「認定」されました。
認定期間は、2009年4月1日∼2016年3月31日です。
〒940−0828 新潟県長岡市御山町80−8
TEL 0258−39−1600(代)
FAX 0258−39−9566
http://www.nagaokauniv.ac.jp
長岡大学地域志向教育研究ブックレット vol.1 (2015年3月)
「ながおかバル街」による中心市街地・店舗の活性化
長岡大学准教授
中村 大輔
1.研究概要
本論文は「ながおかバル街」を通じた長岡市中心市街地および店舗の活性化について研究を行うものである。
「バル街」1は 2004 年に函館で始まった一種の飲み歩き・回遊型のイベントである。長岡では 2012 年6月に「な
がおかバル街 Vol.1」が開催された。その後は年2回のペースで開催され、2015 年5月 30 日に第7回目が開催さ
れる予定である。
函館で行われている「函館西部地区バル街」は、参加者が 5,000 人規模と大規模なイベントとなっている。一方
の長岡は 1,500 人前後であり、参加者(=規模)の面で見る限り函館にはまだ及ばない。しかし、この「バル街」
は今まで中心市街地において行われてきたイベントとは大きく異なるものであり、発展可能性を持っているイベン
トであると考えている。そこで本研究では、ながおかバル街を今後も継続・発展させていくためにはどのような課
題があり、何を変えていくべきかについて考察する。後述するがバル街は中心市街地・店舗の活性化を「目的」と
して行われているイベントではない。中心市街地・店舗の活性化はあくまで「結果」である。
本研究は 2013 年度後半から 2014 年度にかけて行った。2013 年度は、予備調査としてバル街の仕組み等につい
て、文献やバル街への参加を通じて調査を行った。また、長岡・弘前・函館の実施事務局の方へのインタビュー調
査を行った。2014 年度は、研究および教育の両面からアプローチしている。本報告では第2~7節が筆者個人の調
査・研究であり、第8節がゼミ活動を通じた教育活動の概要報告となっている。
2.
「バル街」イベントと「ながおかバル街」
「バル街」というイベントは、
「函館西部地区をスペインの「バル街」に見立てて、飲み歩きを徹底的に楽しもう
という「異文化交流」の試み」
(スペイン料理フォーラム in HAKODATE 実行委員会 2004 年、p.19)として、2004 年
に北海道の函館市西部地区で始まった。
「バル街」は、参加者が 5 枚 1 組になったチケットを購入し、チケットと共
に渡されるマップを片手に参加店舗を飲み歩く回遊型のイベントである。参加者は参加店を訪れると、チケット1
枚と引き換えにドリンク1杯とピンチョー(ピンチョスとも)と呼ばれるちょっとしたつまみを楽しむ。参加者が
参加店を回ることで一連の流れが繰り返されるため、街に人が回遊することになる2。
当初、函館西部地区バル街はスペイン料理フォーラムの前夜祭イベントとして開催された。1 回限りのイベント
として始まったバル街であるが、参加者からの反響が大きく、それ以降年 2 回のペースで開催され(松下 2009、
p.191)、2013 年 9 月 8 日には 20 回目に至った。第 20 回ではチケット販売数が約 5,000 組となり、一大イベントと
なっている。
もともとバル街(函館西部地区バル街)は、函館市のスペイン料理店のオーナーシェフである深谷宏治氏が考案
したイベントである。深谷氏はスペインで修業していたときに、その旧市街が持つ魅力について肌で感じていた。
そこで日本に帰ってきたときに、函館の旧市街地にある明治時代末建築の実家に住むことにした。しかし函館市民
でも西部地区から離れてしまう人たちも多く、ゴーストタウン一歩手前のような街に住みたがる事を不思議がられ
たという。西部地区は人口が減り続けて経済活動の中心ではなくなっていた一方で、西部地区には函館山、赤レン
ガ倉庫、そして教会群や旧函館区公会堂などの観光スポットがある。無論、観光客は新市街地のショッピングセン
ターなどではなく、こうした旧市街地である西部地区に訪れる。こうした中、何か西部地区そして社会に貢献でき
ることはないか、という想いを持っていた深谷氏はバル街をはじめることになる。それが 10 年以上も続いてきた
結果、市民も「西部地区がこんなに良い街だとは思わなかった」と言うようになったという。すなわち、深谷氏が
1
2
「バル街」は函館西部地区バル街の実行委員長である深谷宏治氏が権利保有する登録商標である。
バル街(特に函館西部地区バル街)の仕組みについては松下(2012)を参照されたい。
1
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長岡大学地域志向教育研究ブックレット vol.1 (2015年3月)
函館西部地区バル街を始めた事によって、市民が旧市街(西部地区)の魅力を再発見できるようになったのである
(インタビュー、2014 年2月)。
図表 2 旧函館区公会堂
図表 1 赤レンガ倉庫
こうして、バル街によって旧市街の魅力が再発見されるようになったが、函館市全体が 2014 年4月には過疎地域
自立促進特別措置法により「過疎地域」と指定されてしまった(総務省資料)。筆者が 2014 年に函館山より市街地
の夜景を見たとき、子供の頃に感激した夜景よりずっと暗い印象であった。人口減によるゴーストタウン化問題は
西部地区だけではなく、函館市全体の問題となっていると言えよう。
図表 1 函館山からの夜景(2014 年)
函館西部地区バル街の成功に目を付け、全国各地でも「バル街」が開催されるようになる。その数は数百か所と
も言われている3。その中で「ながおかバル街」は 2012 年 6 月 1 日に第 1 回が長岡市中心市街地において開催され
た。
ながおかバル街は、NPO 法人まちなか考房(以下、まちなか考房)事務局長の大沼広美氏が 2011 年 9 月開催の函
館西部地区バル街に参加したことがきっかけで始まった。大沼氏は函館西部地区バル街とバル街開催時の街のにぎ
わいに感激し、長岡でも是非開催したいという想いを持つ。以前よりまちなか考房は「まち探見録」という店舗を
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さまざまな形態で実施されている(バル街が登録商標であるため、街バルと称している場合もある)ため、正確
な開催数は掴みきれない。
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会場としてその店舗の雰囲気と店主の心意気を知ってもらう小さなイベント等を行ってきた。大沼氏は「(バル街
は)それら今まで私たちがやってきたものの集大成」であると感じたという(インタビュー、2013 年 12 月)。それ
からバル街の開催に邁進することとなったが、当初は事務局内では反対意見もあった。なぜなら、まちなか考房は
当時飲食店との繋がりがほとんどなく、参加店舗が集まるかという不安があったからである。また、長岡は日本酒
文化圏であり、腰を据えて酒を飲む(飲み歩きしない)ということが根付いており、5軒も飲み歩くのかという不
安もあったようだ。しかし、東日本大震災後の 2011 年 11 月に宮城県石巻市で開催されたバル街にまちなか考房の
メンバーが参加したことがきっかけで、2012 年6月の第1回バル街開催につながっていく。その後は函館と同様に
年 2 回のペースで現在まで6回開催しており、一回あたり 1,500 人前後の参加者を集めている。
3.なぜバル街に人が集まるのか -函館と長岡の比較-
バル街はなぜこれほどまでに人が集まるのか。松下(2009)は、函館西部地区バル街の集客力について「料理店・
街・人の連鎖反応と、参加を通じた学習が行われており、それらが高い集客力を生み出している」
(松下 2009 p.197)
と述べる。松下(2009)は、バル街参加者の動機として①割安感、②「はしご」のしやすさ、③街歩きの楽しさ、
④相互作用の楽しさの 4 つを挙げている。これらは函館西部地区バル街への参与観察を通じて得られた結論である
が、長岡でもこの4つの動機が当てはまるのかを検討する。
①割安感
割安感について松下(2009)は「通常よりも低価格で、参加店の料理と飲み物を試すことができる」(p.195)と
いう経済合理的な動機であると述べる。
長岡でも函館と同様に5枚1組のチケットは前売り 3,500 円(1 枚当たり 700 円)
、当日 4,000 円(1 枚当たり 800
円)である。このチケット1枚で飲み物とピンチョスが提供される。多くの店において飲み物(アルコール)1杯
だけでも通常は 5~600 円(あるいはそれ以上)することを考えれば、700 円でこれだけのものを得られるのは割安
(すなわち満足感>チケット代)であり、満足感は非常に高いと言えるだろう。
図表 2 ピンチョスの例(ながおかバル街)
バル街では、ライブなどのイベントも同時開催されている。これらは参加店舗等を使って行われている(実行委
員会が企画するものと、店舗自身が企画するものがある)が、チケットを持っていれば観覧することができ、これ
らのイベントも参加者にとっては楽しみの一つであり、割安感に繋がっているだろう。
②「はしご」のしやすさ
「はしご」のしやすさは「通常よりも低価格で、複数の店の料理を組み合わせて楽しむことが出来る」経済合理
的な動機であるという(松下、2009、p.195)。バル街では1店舗回るのにかかるコストが 700 円であるが、通常「は
3
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しご」をしようと考えても1店舗あたりのコストが 700 円で済むとは到底考えにくい4。また、そもそもバル街が「は
しご」することが目的であるため、飲み物1杯と料理1品で店を出る事に後ろめたさがないこと5が「はしご」のし
やすさに繋がっている。
しかし、
「はしご」することを目的にしていない参加者(回遊型イベントの趣旨が理解できていない参加者)が多
くなってしまうと、主催者側の意図と参加者側の意図にズレが生じてしまう。こうしたズレが蔓延してしまうと、
満足感とは逆方向に働いてしまう可能性があり、注意が必要であろう6。
③街歩きの楽しさ
松下(2009)は街歩きの楽しさについて「気になる店で食事をしながら、街歩きすることの楽しさを体験できる」
(p.195)という経済合理的な動機と説明する。また、松下は函館西部地区は旧市街地が持つ景観の魅力が街歩きの
楽しさに繋がっていると指摘する。筆者が参加した弘前バル街の場合も函館と同様であった。弘前には古くからの
洋館などがライトアップされており、こうした市街地の景観を楽しみながら街歩きを楽しむ事ができる。
一方、長岡のバル街実施地区(中心市街地)には景観の魅力に繋がるような歴史的建造物などは存在しない。そ
のため、函館のような景観の魅力を基礎とした街歩きを求めてバル街に参加することは考えにくい。
しかし、
「今まで知らなかった店を発見するための街歩き」という意味において街歩きの楽しさは感じているだろ
う。これは「こんな場所に、こんな店が」という発見を伴う一種の「探検の楽しさ」と言い換えても良いだろう。
まちなか考房の大沼氏も「多分バル街でなかったら、あんな道は多分通らないだろうし、こんなところは絶対見つ
けられないだろうなという所が、発見があるのでしょうね。観光だけで行ったら、絶対こんなところたぶん通らな
いだろうなと。絶対見逃しているなと。それが自分も体験してすごく思ったんですよね」
(インタビュー、2013 年
12 月)と話す。こういった意味での「街歩きの楽しさ」は長岡に限らずどの地区でも共通した楽しさであると考え
られる。
④相互作用の楽しさ
これは「コミュニケーションを通じた、人との触れ合いの楽しさを経験できる」という感情的動機である(松下
2009、p.195)。バル街では参加者が同じマップを持ち、これが参加証や通行手形のような役割を持っている。マッ
プを持っている人=参加者であることが一目で分かるため、参加者同士でコミュニケーションを取るためのハード
ルが低くなっている。実際、イベント中はマップを持った知らない人同士が、お店に入るために並んでいる際に参
加店舗に関する情報交換を行っている様子を良く見かける。
参加者同士だけではなく、参加者と参加店舗との相互作用も大きい。
(特に函館や長岡、弘前などでは)バル街は
参加者、参加店舗、実行員会の 3 者が皆楽しむことを主眼においているため、参加者と参加店舗とのコミュニケー
ションも大事な要素である。
このコミュニケーションはイベント後での集客にも大いに関係すると考えられるため、
参加店舗側の「相互作用の楽しさ」に関する意識は、営業面においても重要な要因となるだろう。
4.長岡市中心市街地の現況
バル街は、長岡においても4つの参加動機を与えるイベントであることを考察した。バル街の魅力はバル街の集
客力に繋がるが、一方で長岡市中心市街地そのものは集客力を持つような魅力的な街なのだろうか。ここでは公表
されたデータと、そのデータを元に分析された論文もとに中心市街地の現況を概観する。
『長岡市中心市街地活性化基本計画』(以下、単に基本計画)によれば、長岡市の中心市街地の人口は昭和 55 年
には 7,187 人であったが、平成 20 年には 5,521 人と 23.2%減少した。事業所数、従業者数は昭和 56 年に 3,286 か
所、29,447 人であったが、平成 18 年には 1,957 箇所、15,934 人とそれぞれ 40.4%、45.9%減少している。こうした
4
いわゆる「お通し代」と飲み物1杯だけでも 700 円あるいはそれ以上かかってしまうだろう。
バル街の場合は、並んでいる人が大勢いる可能性があるため、長居する方がマナー違反である。
6
それゆえ、ながおかバル街のマップでは「バル街の楽しみ方」の中で「1軒で飲み、食べ終えたら次の店へ回る
のがバル通です。次に待っている方へ席をお譲りしてくださいませ」とアナウンスしている。
5
4
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ことから、基本計画では「経済活力は著しく低下している」(基本計画 p.11)と指摘している。
一方、2012 年に市役所本庁舎やイベントスペースなどが一体化した「長岡市シティホールプラザ
アオーレ長岡」
7
(以下、アオーレ)が中心市街地に完成し、ナカドマ と呼ばれる施設(広場)を中心とした多くのイベント等が開
催されるようになった。平成 24 年度には全体で約 152 万人がアオーレに来場している8。
図表 3 アオーレ「ナカドマ」で行われるイベント
では、アオーレに人が集まるようになった一方で、その他の土地・建物の利用状況はどのようになっているのだ
ろうか。樋口(2013)によれば、中心市街地にある土地・建物利用は全部で 678 か所である。そのうち「居酒屋等
(酒)」として利用されているのは 2002 年に 172 か所(25.3%)であったのに対し、2012 年には 163 箇所(24.0%)
である。すなわち中心市街地店舗のおよそ4分の1を居酒屋等が占めており、いずれの年においても中心市街地の
土地利用としては居酒屋等が最も多い。市民の中心市街地に対する利用目的は買い物が 76.9%、飲食が 39.2%(2 つ
以内の複数回答)と買い物が多くを占めている(基本計画、p.19)9。換言すれば長岡市の中心市街地は、市民の利
用目的としては買い物の街である一方で、土地・建物の利用目的から考えれば居酒屋等を中心として形成されてい
る街といっても過言ではないだろう10。
しかし、その居酒屋等も 172 箇所から 163 箇所と 5.2%減少している。そのうち 2002 年から 2012 年まで用途変化
がなかったのは 123 店舗(71.5%)である一方、28 店舗(16.3%)は空き店舗となってしまった。また、2010 年には
中心市街地にあった百貨店が閉店した。現在は「カーネーションプラザ」という物産店が1階に入っているが、ま
だ建て替え等による新規利用の目処は明らかになっていない。
土地・建物利用から考えると、現状ではアオーレの完成が中心市街地の活性化に寄与するようになるためにはま
だまだ時間がかかるのではないだろうか。そしてバル街の舞台となる居酒屋等の活性化への道も道半ばである。
7
シティホールプラザ アオーレ長岡ウェブサイト http://www.ao-re.jp/facility/26/ (2015 年3月 20 日閲
覧)
8
長岡市長記者会見資料 http://www.city.nagaoka.niigata.jp/shityo/kaiken/file/20130327-1-2.pdf (2015
年3月 20 日閲覧)
9
これは 2007 年のデータであり、まだアオーレ長岡は建設されていない。
10
なお、小売(日用雑貨等、食品等、サービス)を合わせれば 2012 年で 172 箇所、飲食(食堂等、居酒屋等
(酒))を合わせれば 227 箇所である。
5
-5-
長岡大学地域志向教育研究ブックレット vol.1 (2015年3月)
5.ながおかバル街の開催状況
長岡市中心市街地はアオーレがオープンしたものの、
集客力を持つ街として再興したとまでは言えない。一方で、
バル街というイベントは参加動機をもたせるイベントであることが分かった。では、ながおかバル街はどれだけの
集客をしているのだろうか。ここではながおかバル街の開催状況について概観する。
前述したとおり、ながおかバル街は 2012 年 6 月に第 1 回が開催され、2014 年 11 月に第6回目を開催した。バル
街の基本的なシステムは函館西部地区バル街と同様であり、前売券は5枚1組 3,500 円で販売し、チケット1枚に
対して1ドリンク・1ピンチョスが提供される。
① 開催場所
ながおかバル街はアオーレを中心とした約 1km 四方の中で開催している。ただし、参加店舗は長岡駅大手口側(西
側)が圧倒的に多い(例えば Vol.4 では、大手口側 57 店舗、東口側 6 店舗)。
図表 4 ながおかバル街の参加店舗の範囲
この地図は、国土地理院発行の 2 万 5 千分の 1 地形図(長岡)を使用・加工したものである
②参加店舗数
参加店舗数は Vol.1…63 店、Vol.2…61 店、Vol.3…68 店、Vol.4…63 店、Vol.5…70s店、Vol.6…74 店と、初期
では概ね 60 店舗前後が参加していたが、最近は 70 店舗前後と増加してきている。なお、函館は 76 店舗(Vol.21)
弘前は 74 店舗(Vol.6)であり、店舗数は長岡と同水準にある11。
③チケット販売数
チケット販売数は、Vol.1…1,541 組、Vol.2…1,391 組、Vol.3…1,380 組、Vol.4…1,394 組、Vol.5…1,726 組、
11
後述するが、店舗数が同規模ということは、参加人数によって1店舗あたりの客の回転率に大きな差が出ると
いうことになる。
6
-6-
長岡大学地域志向教育研究ブックレット vol.1 (2015年3月)
Vol.6…1,573 組となっている。Vol.5 から新たな試みとして、学生に対しては学生証提示で1枚 700 円でバラ売り
を開始し、Vol.6 からは追加チケットを1枚 800 円でバラ売りを開始した。
④チケット販売場所
当日券
6%
まちなか考房
20%
ネット予約
10%
参加店
16%
委託店
48%
まちなか考房
参加店
委託店
ネット予約
当日券
図表 5 ながおかバル街 Vol.5 チケット販売箇所
当日券
5%
まちなか考房
18%
ネット予約
8%
参加店
17%
委託店
52%
まちなか考房
参加店
委託店
ネット予約
当日券
図表 6 ながおかバル街 Vol.6 チケット販売箇所
注:当日券の中には学生や一般向けのバラ売り分を5枚1組で換算したものが入っている。
出所:まちなか考房内部資料(図表 5 ながおかバル街 Vol.5 チケット販売箇所)
7
-7-
長岡大学地域志向教育研究ブックレット vol.1 (2015年3月)
ながおかバル街では、チケットの販売は①まちなか考房事務所(あるいは実行委員メンバー経由)、②参加店、③
委託店(コンビニエンスストア(5か所)とながおか市民協働センター)
、④ネット予約(チケットは当日引き換え)、
⑤当日券の5か所である。函館と比較すると長岡で特徴的なのは委託販売の割合が5割前後となっていることであ
る。函館西部地区バル街では参加店が 41%を販売している一方、プレイガイド等の委託販売は 15%に留まっている
(松下 2013 年、p.92)。参加店での販売数が多いことには二つのメリットがある。一つは1組あたり 200 円の販売
手数料12を販売店が受け取れることである。もう一つはチケット代金の決済は差額決済13になるため、前売りで販売
した分はバル街当日の運転資金になることである。地域によっては参加店の割当販売数が実質的なノルマとなり、
(売れない場合はそれが)実質的な参加費となっている事もあるようだ(インタビュー 2014 年2月)。
データを見ていくと、長岡ではバル街が市民の間で定着したとは(函館の参加人数と比較するなら)言い難いの
ではないか。これをどのように、参加者を増やし、そして中心市街地・店舗の活性化に繋げていくかを考えていく
必要がある。
バル街(ないし似たイベント)は数多く行われているが、その運営母体や運営方針はその場所によって大きく異
なる。函館のように純粋に「参加者・参加店・事務局」が三位一体となって楽しむ事によって地域の魅力を再発見
するきっかけを作っているところもあれば、かなり商業主義的に行っていると見受けられるところもある。無論ど
れかが正しいということは無いが、筆者は、ながおかバル街は函館の理念に近い運営を行っており、そうした運営
を続けていくことが結果としての地域活性化に役立つのではないかと考えている。
6.店舗はなぜバル街に参加するのか
参加者は前述の通り割安感など4つの動機によってバル街に参加する。では店舗はバル街の参加にどれだけの意
味があるのだろうか。バル街参加は追加的な利益をもたらすのだろうか。もし、追加的な利益をもたらさないなら
ば、なぜバル街に参加するのだろうか。ここでは、ある仮定を元に、通常(バル街未参加)の場合とバル街参加の
場合の収支を計算し、その上でバル街参加の理由を考えたい。
①1,500 組チケットを販売できた場合
・収支計算の前提
まず、以下のような仮定を設ける。ここでは長岡で 1,500 組チケットが販売されると仮定する。
チケット販売数:1,500 組
参加店舗数:70 店
⇒
⇒
5枚/組×1,500 組=7,500 枚
7,500 枚÷70 店≒107 人/店
席数と回転率:1店舗あたり 20 席、通常は一日で1回転
客単価:4,000 円/人
原価率:通常=30%、バル街=60%14
・通常営業の収支
以上の仮定をもとに通常営業の収支を考える。ここで売上高-原価(変動費)=貢献利益とするならば、以下の
とおりとなる。
売 上 高=4,000 円/人×20 人=80,000 円
原
価=4,000×30%×20 人=24,000 円
貢献利益=80,000 円-24,000 円=56,000 円
12
函館西部地区バル街の場合
函館西部地区バル街の場合
14
一般的に飲食店の原価率は 30%が理想とも言われる(それが真に理想の値なのかはここでは問わない)。バル街
の場合、広告効果や参加者の満足度等を考えて普段より原価率を上げると仮定した。
13
8
-8-
長岡大学地域志向教育研究ブックレット vol.1 (2015年3月)
・バル街営業の収支(全席バル街向けにした場合)
そしてバル街に参加し、全席をバル街参加者向けに開放した場合の収支を考える。ただしここでは販売店のチケ
ット販売手数料収入は考えない。
売 上 高=600 円/枚×107 枚=64,200 円
原
価=600×50%×107 枚=32,100 円
貢献利益=64,200 円-32,100 円=32,100 円
もしバル街時(107 人来店)に通常と同様の貢献利益を得ようとした場合、通常より大幅に低い(12.7%)原価に
する必要がある。すなわち 80 円弱/食になる。こだわったピンチョスとお酒の原価を 80 円にするのは不可能だろ
う。通常と同じ原価率で同等の貢献利益を得るためにはこの仮定はバル街時に平均客数(総チケット枚数÷店舗数)
で計算しており、これより客数が少なければ貢献利益も当然少なくなる。
すなわち、この計算からは通常営業では常連客をメインとしていると考えられる小規模店がバル街に参加しない
という選択肢を取ることはおかしくない。なぜならば、短期的(1日)に見れば参加しない方が機会費用を少なく
することができる(参加しないほうが利益大)からである。
しかし、バル街は①参加費用を徴収しない(ことが多い15)、しかも②バル街マップにお店の紹介が載せられる(し
かもクーポンブックより見てもらえる確率が高く、そのマップは参加証でもあるからバル街後に捨てられる確率が
クーポンブックよりは少ないと想像できる)。このことを考えた場合、バル街への参加は媒体に掲載するならば本来
かかるべき広告費を支払わずに済むという利点がある。さらに、店舗でチケットを売る場合、前述したとおり①手
許に運転資金が入ってくる、②販売手数料が入る、という利点もある。
単純な仮定の下では、バル街に参加しない方が機会費用を少なくできるかもしれないが、広告費や運転資金、販
売手数料を勘案すると、短期的に見てもバル街に参加する方が機会費用を少なくできるとも考えられる。
もちろん、お店は単純に金銭面での機会費用だけでは無く、常連客を入れられないという機会費用も考慮に入れ
ているかもしれない。しかし、バル街参加は新規顧客の獲得機会という側面もある。これらをすべて天秤にかけた
結果として店はバル街に参加するか否かを検討しているのではないだろうか16。あるいは参加したとしてもバル街
に充てる席数を制限して常連客を入れたり、通常の顧客が1回転したあとでバル街営業を行ったりするという動機
も、バル街をお祭りとして捉えるのではなく、
「儲からないけどお付き合いもあるし…」という感覚がそうさせてい
るのかもしれない。
②5,000 組チケットを販売できた場合
①は 1,500 組チケットが販売された仮定であった。これが 5,000 組販売された場合はどうなるか。チケット販売
数以外の仮定は全く同じとし考えてみたい。
・収支計算の前提
チケット販売数:5,000 組
参加店舗数:70 店
⇒
⇒
5枚/組×5,000 組=25,000 枚
25,000 枚÷70 店≒357 人/店
席数と回転率:1店舗あたり 20 席、通常は1回転
客単価:4,000 円/人
原価率:通常=30%、バル街=50%
15
16
前述のとおり、チケットノルマが実質的な参加料になっている場合もある。
もちろん、利益等は一切考えずに純粋に祭りとして参加している店舗もあるだろう。
9
-9-
長岡大学地域志向教育研究ブックレット vol.1 (2015年3月)
・通常営業の収支
通常営業の収支は 1,500 組の場合と同じと仮定する。
売 上 高=4,000 円/人×20 人=80,000 円
原
価=4,000×30%×20 人=24,000 円
貢献利益=80,000 円-24,000 円=56,000 円
・バル街営業の収支(全席バル街向けにした場合)
売 上 高=600 円/枚×357 枚=214,200 円
原
価=600×50%×357 枚=107,100 円
貢献利益=79,800 円-39,900 円=107,100 円
もし 5,000 組チケットが販売されるならば、
(貢献利益だけを考えれば)1,500 組の場合と結果は真逆でバル街に
参加しない方が高い機会費用を被ることになる。ただし、貢献利益は大きくなるが、回転率が高くなることに注意
が必要である。すなわち、1,500 組の場合ではバル街に参加すると約 5.4 回転だったものが、5,000 組では約 17.9
回転することになる。17 時から 23 時までの6時間営業を仮定すると、1,500 組では1回転するのに 67 分かかるが、
5,000 組では(回転率が3倍以上あるので)3分の1以下の 20 分で回転することになる。これだけの回転ペースを
こなすとなると、客さばきのために普段よりも人件費等が余計にかかる事も考えられるため、実質的にはここで仮
定したほどの利益17は得られないかもしれない。また、客さばきが上手くないと、回転率も高められないし、参加者
からの苦情も予想されるため、店舗の悩みは大きいだろう。
③チケット販売数の目標をどう設定するか
では、バル街実行委員会が「儲かるイベントではありませんし、目が回るほど忙しいですが、平均的には通常
営業と同じだけの利益(貢献利益)はなんとか得られますので是非協力してください」とお願いできるチケット
の販売数はどれだけなのだろうか。基本的な仮定は前述のとおりである。原価率 50%で通常営業と同じ貢献利益
56,000 円を達成しようとするならば、バル営業では一店舗平均 187 人の来店が必要である(300 円/食×187 人=
56,100 円)。70 店舗全体では 187 人/店×70 店舗=13,090 枚となる。チケット1組が5枚なので、13,090 枚÷5
=2,618 組がこの仮定を元にした販売目標数となる。これだけのチケット販売数の目処が立つようになれば、積
極的に協力してくれる店舗が増えるのではないだろうか 18。ちなみに、187 人ならば 20 席の店舗の場合 9.35 回転
することになり、1回転にかかる時間は 38.5 分(6時間営業)となる。また、1回転にかかる時間は現状より
28.5 分だけ短縮される事になることになるから、それだけ客さばきが重要になってくる。現在、ながおかでは立
食で提供している参加店は数少ない。逆に函館では後述するように多くの参加店が立食であり、今後チケットの
販売数が劇的に伸びてくるような事があれば、実行委員会側から立食のスタイルに変更してもらうようにお願い
する必要も出てくるだろう。
いずれにしても、労力と比べて莫大な利益を得られるイベントではないため、参加店側も楽しむという意識が
なければ成り立たない。そのため、規模が拡大すればするほど店舗に対する実行委員会のアカウンタビリティは
重要になってくるだろう。函館西部地区バル街の場合、毎回「バル街レポート」としてA3両面のリーフレット
を作成している。そこでは、参加者数のデータ等が記載されており、
「自分の店が平均より多かったのか少なかっ
たのか」などが分かるようになっている。店主は店で営業しているので他店の様子をうかがい知る事が難しい。
しかし、こうしたレポートが実行委員会から配布されると店主はデータでバル街全体を知ることができるし、実
行委員会への信頼感を醸成するのにも役立っているだろう。
17
貢献利益ではなく、営業利益相当
バル街はイベント(祭り)であるが、参加することによって金銭的なマイナスが大きくなってしまうのであれ
ば、参加に躊躇するのは当然である。
18
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長岡大学地域志向教育研究ブックレット vol.1 (2015年3月)
120,000
107,100円 357人
100,000
80,000
187人
20人
60,000
56,000円
107人
40,000
32,100円
20,000
0
1
51
通常営業
101
151
バル営業
201
分岐点
251
301
1,500組
351
5,000組
図表 7 通常営業とバル街参加での貢献利益の増え方
7.インタビューおよびバル街参加から見えたこと
2013 年度、バル街実施地区のうち長岡、弘前、函館(訪問順)の実行委員会メンバーにインタビューする機会を
得た。また、2013~2014 年度にはそれぞれのバル街に参加してその特徴を見る機会を得た。ここでは、インタビュ
ーおよびバル街参加から見えたことを記す。
この 3 箇所を選んだ理由は、特にそれぞれの実行委員会同士に繋がりがあったことが理由である。長岡と弘前で
は中越地震の時から関係があり、弘前と函館では料理人同士の繋がりがあった。長岡の実行委員会メンバーが函館
で弘前のメンバー(山﨑氏)との再会があるなど、他の地区よりも繋がりがある事から長岡以外は弘前と函館を選
択した。
なお、インタビュー内容については書き起こしを行っているが、紙面の関係で掲載することは不可能である。こ
こではインタビューの中で筆者が重要ないし特徴的であると感じた点について記載することに留める。
(1)NPO 法人まちなか考房事務局長 大沼広美氏に対するインタビュー(2013 年 12 月 15 日実施)
バル街を始めるに至った経緯は前述のとおりである。そして実際に店舗開拓を始めた際、まず長岡一番のお店に
参加してもらうことが重要であると考え、割烹Kを説得することから始めた。なんとか割烹Kに参加してもらえる
事になったが、その後の店舗開拓で最も難儀したのがバル街のシステムを説明することだったようだ。店舗開拓を
進める際に決めていたのは大手の居酒屋チェーン等は入れないということであった。そこでチェーン店ではなく、
メンバーがお勧めしたい店をリスト化し飛び込みで交渉を行った。その結果、初回で 63 店舗の参加店を集めること
ができたが、店主の中には「長岡の街をなんとかしないと」という意識の高い人や、マップに自店が掲載される事
だけで参加を決めた人もいたという。
実際に参加者を集める段階になり街を回っていても、いわゆる「街コン」と勘違いしている人や、聞いただけで
は面白さが分からないので参加しないという人も多かったという。しかし、実際に蓋を開けてみると 1,500 人を超
える参加者を集めることができた。また実施後、店主の中には新規のお客がついてくれたと喜んでいる人もいる一
方で、
「忙しさ3倍、儲け普通」ということで今後の参加を望まないという店主もいたようだ。今後はバル街の日は
お祭りであるという共通認識が各店舗ととれれば成功であると考えている。
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今後、まちなか考房としてさらに力を入れていかなければならないのは、広報の充実と参加店の意識向上という
ことであった。
(2)レストラン山崎(弘前市)
山﨑隆氏へのインタビュー(2014 年2月2日実施)
山﨑氏はもともと函館の深谷氏と親交があり、2004 年に開催されたスペイン料理フォーラムに呼ばれた。その際
に函館西部地区バル街の第1回が開催されたのだが、お店もお客も初めての事だったので店内は混乱状態にあった
ようだ。そこで山﨑氏は自ら厨房で手伝いをしていたという。その話が深谷氏の耳に入り、継続開催されることと
なった函館西部地区バル街に出店することになっていく。
もともと弘前は「フランス料理の街」とするために活動してきた。自分が函館に出店していたりすることで弘前
でも形を変えて始めてみようと考え行動を開始した時に東日本大震災が発生してしまう。交通が遮断され、人の往
来がなくなってしまった。様々なイベントに対する自粛ムードが高まっていたが、市長がさくらまつりを開催する
決断をしたため、山﨑氏もバル街の開催を決断した。
実際に開催してみると 1,600 枚のチケットが販売され、路地では肩が触れ合うほどの人が集まり「あんな街のに
ぎわいは何十年ぶりかで見た」という話を聞いた事で成功したと感じたという。さらに、フランス料理の店である
ため高級店と思われる山﨑氏の店などもバル街によって一度店に入ってもらえるため、その店を理解するお客が増
えたという効果もあったようだ。
今後は、バル街を宿泊込みのイベントにしたいという。バル街に参加するだけではなく、宿泊やお土産を伴うお
客を増やすことで街を活性化したいと意気込んでいる。一方で参加店には待ちの姿勢ではなく自分で考えてほしい
という。食事をさせてそれで終わりというレベルから上がって欲しい、そして自ら「バル街に参加したい」と言っ
てくるレベルになってほしいと考えている。
さらに、弘前では「支援バル」という試み(チケットではなく、募金することでピンチョスとドリンクを貰える
仕組み)を行っている。バル街によって自分たちは食事をしているけれども、その一方で世界中には一食の食事も
ままならない人も大勢いるという事を考えてほしいという。飲食業に従事している者としての社会貢献を今後も進
めていきたいと考えているそうだ。
(3)レストラン・バスク 深谷宏治氏へのインタビュー(2014 年3月 10 日実施)
深谷氏は、函館西部地区バル街は経済効果や商店街の活性化等を「目的」として行っているのではないと断言す
る。こうしたものを「目的」としてしまっている所では、街歩きの楽しみがすっぽり抜けていたり、ラクをするた
めに補助金を使ってイベント会社に依頼してしまったり、ノルマのような形でチケットをさばいたりする事が多い
という。
深谷氏は特に行政の補助金を使わないことを信条としている。なぜなら、補助金を使うことが当たり前になって
しまうと民間の人から「どうせ税金を使っているのだろう」と思われてしまい、価値がぐんと下がってしまうと考
えているからである。そのため、深谷氏は自らが面倒なことを引き受け、さらに常に新しい事をはじめようとして
いる。そして長岡でもその土地で特色がある事を独自に組み合わせていかなければならないと指摘する。
その一方で、実行委員会ではみんなが楽しくなくなったらやめようと話しているという。2011 年には開催直前に
なって東日本大震災が発生した。実行委員会の中に友だちが仙台にいて連絡が取れないという事があった。完成し
たチケットやマップが目の前にあったが、自分はその気になれないという人が一人いた事で中止を決めた。そして
バル街を予定していた 4 月中旬の当日に、被災地支援のためのチャリティーイベント「バルまち応援会」を開催し
て、寄付金や収益金を被災地に贈った。
(4)函館西部地区バル街実行委員会
事務局長
加納諄治氏、プランナー
田村昌弘氏に対するインタビュー
(2014 年3月 10 日実施)
函館西部地区バル街では、参加店ごとに実行委員の中で連絡役を決め、店側とのコミュニケーションを図ってい
る。事前説明、参加物品の配付、精算などはすべて連絡役が各店舗を訪問して行うこととしているため、それが結
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果的に店主たちの負担の軽減となり、参加しやすい環境ができあがっている。
ポスター、フライヤーおよびウェブなど告知媒体の制作には力点を置いているが、告知のためのCMや新聞・ミ
ニコミ広告などへの広告出稿はほぼゼロである。
(一部、路面電車内でのポスター掲示あり。またミニコミ紙・誌に
掲載される記事は、発行元からの要請に応える形で掲載されている。)一方で新聞記事掲載による周知を図るため、
各回ごとに市庁舎内の記者クラブにおいてインタビュー形式の大々的なプレスリリースを行っている。これにより
新聞やテレビニュース等で広く告知がなされる。
飲み歩き時には、
「バル街マップ」が参加者のアイコンとして機能し、マップを持っていれば同じバル街参加者で
あることが分かる。そのため、見知らぬ者同士での新しいコミュニケーションがすぐに生まれるケースが多い。こ
うしたアナログなコミュニケーションを大切にしたいというポリシーから、実行委員会による情報発信においては
facebook や twitter 等の SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の利用は行っていない。インターネットの
利用としては、ウェブサイトを作成し、それを通して、主として遠隔地の参加希望者のために前売りチケットの予
約を受け付けている。
開催に際しチケットは約 100 の販売箇所に向け配達するための仕分け作業を行う。チケットは金券であり厳密な
管理が必要となるため、作業手法や配付方法等において混乱を回避するための様々なノウハウを蓄えてきた。具体
的には、当日券やネット予約券はチケットとマップをクリアパックにセットする方法などである。
「バル街」を「100 円商店街」や「まちコン」などともに中心市街地活性化等の成功手法とする単行本などもあっ
て各地から函館西部地区バル街を視察に訪れるが、函館の実行委員自身にとっては、活性化などの使命感はあまり
強くない。バル街当日の集客数は大きいとしても、年に二夜のみの開催に過ぎない。開催に向けたプロセスやイベ
ント当夜の賑わいを体験することで、参加者や参加店そして主催者自身も自分の街の魅力に気づくということを第
一の目標にしている。「まずは主催する自分たちが楽しいと思うことをやってみる、より楽しくなるよう工夫する、
楽しいと思ううちは続ける、というシンプルな動機でやっている」と二人の実行委員は語っている。
バル街の仕組みは全国に広がったが、こうした手法は大きな利益を生むものではないし、運営の担い手の労力も
決して小さくはない。純然たる商業イベントとして開催し、かつ継続していくことは、なかなか難しいことなので
はないかとも実行委員は感じている。
(5)各地のバル街に参加して見えたこと。
ここでは、筆者が参加した長岡以外の弘前、函館のバル街について、特に長岡に無い部分について述べたい。
①立食形式を採用している店の多さ
弘前、函館とも長岡と比べて立食形式を採用している店が多い。立食にした場合も、特別なテーブル等を用いる
のではなく、ビールケースの上に普段使用していると思われるテーブルを載せることで立食対応にしたり、寿司店
ではカウンター席をそのまま立席として利用していたりする。立食形式の採用は、回転率アップにつながり、回転
率アップは並んでいる人の待ち時間を減らす事にもつながる。着席形式がほとんどの長岡の店では、1時間(ある
いはそれ以上)並んでしまうこともある。一方、ある函館の店(この店は②と③を組み合わせて営業している)で
は、開店前に 7~80 人も並んでいたのに数十分後には列は半分になっており、その後に並んでも入店まで 20 分と
待たないで済む店があった。
②セルフサービス型
バル街では客数が多いので、普段使用している食器類を使うと洗うのに手間暇がかかってしまう。そこで、紙皿
と紙コップを使う例は長岡でもある。さらに、セルフサービス形態を持ち込むことで配食の時間と人件費をカット
する例が函館西部地区バル街で存在した。これは①とも絡めて③において説明したい。
③事前改札
ある店では、まず客が外で並んでいる間、店員がチケットにパンチで穴を開けることで事前改札を行い、その時
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点で人数を把握していた。これは当該参加店が人気店である一方、限定数を設けているためである19。事前改札を済
ませた客は順番が来ると入店し、奥の厨房と食事スペースを区切るカウンターへ向かう。そして、そこでドリンク
を注文し、ピンチョスとドリンクを受け取る。この時の食器は紙皿と紙コップである。その後、相席の立食スペー
スでピンチョスを楽しんだあと、紙皿と紙コップはゴミ箱に捨てて店から出る。この店では、お店の素晴らしいオ
ペレーションと参加者のマナー(食事を済ませたら並んでいる人のためになるべく早く出る)がマッチしており、
回転スピードがとても速い。
こうしたノウハウは店の中で仕事をしているだけでは分からない。長岡でもこれからもっと参加者が増加してく
るとピンチョスの内容だけでなくこうしたオペレーションも店の評判に繋がりうる。お店の人が動けないようであ
れば、実行委員が優れたオペレーションを見つけるようにし、それを各店で共有するような仕組みが必要になるの
ではないか。
図表 10 ビールケース上にテーブルを置く
図表 11 寿司店はカウンターで立食
図表 12 開店前から 7~80 人が並ぶ
④交通機関
長岡や弘前では、チケット1枚を 700 円分のタクシー券として利用可能である。バル街はお酒を飲むイベント
19
人数を把握しているので、並んでいる途中で売り切れるという「並び損」が発生しない。
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であるから、こうした交通手段の充実は大変重要である。他方、函館では函館市電が「バル街電車」を運行し、
チケット提示により無料で乗ることができる。また、終電後には「バル街お帰りバス」が運行され、こちらはチ
ケット提示により 100 円で乗車可能となっている。
長岡では、週末に優良運転者免許証(いわゆるゴールド免許)を提示することでバス運賃が 50 円引きになった
り、最近は金曜日の終バス後に深夜バスを特別料金で増発する実験が行われたりしている。長岡でもバル街参加
者にバス利用者を促せるような施策があると、参加者も今まで以上に参加しやすいのではないだろうか。
8.教育活動
本年度は、筆者の調査研究に加えて、ゼミナールにおいて本学の地域活性化プログラムにバル街をテーマとし
て参加することで教育面でもバル街というイベントにアプローチを試みた。本節では、その概要について記した
い。ゼミナールの成果について詳細は、学生の報告書20を参照いただきたい。
(1)活動の概要
本年度、中村ゼミナールⅢ・Ⅳ(3・4年生)は、ながおかバル街を通じた中心市街地・店舗の活性化をテー
マとして活動に取り組んだ。具体的には①地域活性化およびバル街に関する文献調査、②3・4年生に対するア
ンケート調査、③本学大学祭(長岡大学悠久祭)におけるバル街シンポジウムの開催、④ながおかバル街運営へ
の関与、を通じバル街の地域活性化に対する意義を学んだ。そしてこれら学んだことから今後ながおかバル街が
これまで以上に活性化するためにはどうしたら良いのかについて提言を行った。
(2)地域活性化およびバル街に関する文献調査
ゼミでは地域活性化およびバル街に関するいくつかの文献を調査した。ゼミ生はその中でも特に小長谷ほか
(2012)
『地域活性化戦略』における「観光要素モデル」をバル街に当てはめて考えることができると考えた。これ
は「地域の素材(①見る・②食べる・③買う)×ソフト+④回遊性で統合」というものである。これをバル街に当
てはめると、①参加店や街を見て、④その街をあるいて店を発見し、③その店で食べることが当てはまる。しかし、
仕組みとしては③の「買う」がまだ無い。そのため、バル街のマスコットキャラクターや、振る舞いイベントで出
されるピンチョスやワイン等をお土産として販売してみてはどうかという結論を得た。
(3)3・4年生に対するアンケート調査
学生が長岡の中心市街地において、どのような店を利用しているのかを知り、若者がバル街への参加とその後の
店舗利用に繋がる対象なのかについて調査を行った。
調査の結果、学生は雰囲気で店を選択したいと考えているが、かかるコストがチェーン店等の飲み放題プランと
比較して分かりにくいこともあり、個人店は敬遠されている。しかし、お店が気に入ればその店を再訪するという
意思は比較的強いので、バル街の参加によって個人店の雰囲気が分かればチェーン店ではなく、個人店にも足が向
かうのではないか。しかし、そもそものバル街に対する認知度が低いために、若者向けにもさらに広報を充実させ
る必要があるのではないかと結論づけた。
(4)ながおかバル街シンポジウムの開催
大学の学園祭には学生だけではなく、地域の方々が大勢いらっしゃる。そこで大学生および地域の方にバル街を
しっていただく機会とするために、バル街に関する展示とシンポジウムを開催した。
バル街に関する展示は、ながおかバル街 Vol.6 に参加する店舗一覧をA3サイズのパネルにし、さらに函館西部
地区バル街のポスターを展示した。また、シンポジウムで学生が発表したスライドについて液晶ディスプレイ上で
スライドショー上映を行った。
シンポジウムでは、まず弘前バル街を始めた山﨑隆氏に基調講演を行っていただいた。その後、アンケート調査
20
学生の報告書は長岡大学ウェブサイト(http://www.nagaokauniv.ac.jp)上に掲載予定である。
15
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結果とバル街の楽しみ方について学生より発表が行われ、最後に山崎氏、まちなか考房の大沼市、ゼミ生代表、筆
者(中村)によるパネルディスカッションが行われた21。
なんとかシンポジウムの開催まではこぎつけたが、全くと言っていいほど広報活動ができなかったために、参加
者を集めることができなかった。シンポジウム参加者に対するアンケートでも、
「せっかくの良いお話が勿体無い」
というご意見を頂戴した。
(5)ながおかバル街運営への関与
2014 年 11 月に行われた「ながおかバル街 Vol.6」の運営とその準備に関していくつかのお手伝いを行わせて
いただいた。具体的には、マップの校正やウェブ記事の作成、開催日の実施本部等の設営や開催中の店舗情報の
収集などである。
(6)今後への提言
以上の活動を行った結果として、以下の3つの提言を行った。
①次回開催日の早期告知
バル街は半年に一度しか開催されないので、一度逃すと次は半年後である。告知が遅くなると予定が埋まって
しまっていて参加できないという事も多い。これは本来リピートしてくれるはずの客を逃していることになって
しまう。早期に開催日が明らかになっていれば、リピーターを確保することも可能であるし、参加店舗も予定が
合わなくて出店できないという事態を避けられる。函館西部地区バル街は実施日に次回の予定が決まっている。
長岡も Vol.7 については早々に開催期日が発表された(2015 年5月 30 日開催)。
②独自性を出す
参加店舗側は、バル街後に再訪してくれる客を増やすための施策が必要である。バル街は普段来ていない客が
自らの意思で大勢来るイベントである。こうした機会を逃してはならない。また、実行委員会側も観光要素モデ
ルに当てはめた場合の「買う」について考える必要がある。
③広報手段とその内容の充実化
バル街はいわゆる「街コン」と比べて対象年齢層が高めなイベントであるが、かといって若者を排除するイベ
ントでもない。事実、長岡では学生証提示により、5枚セットではないバラ券が前売券価格(1枚 700 円)で購
入できる。しかし、バル街の存在を知らない若者も多い。そのため、大学等を通じた広報を充実させることによ
って認知を高めるべきである。
以上が学生の活動の概要である。指導教員としては、学生の「やる気」を十分に引き出せなかった事により、
活動が中途半端になってしまった事、そしてまちなか考房にも迷惑をかけてしまった事が大きな反省点である。
もう一度、学生の指導方法について熟考する必要性を強く感じた。
9.結論と今後の研究課題
これまでの調査により、バル街は参加者・参加店舗・実行委員会の三者それぞれが「楽しむ」ことが出来れば成
功するが、逆に誰かが楽しめないならば失敗してしまうイベントであることが明らかとなった。しかし、学生の提
言にもあるように、
(特にまだ6回しか開催していない長岡では)まだまだ進化の余地が大きい22。参加者が急激に
21
内容等は学生の報告書を参照されたい。
例えば 2014 年 11 月のバル街開催時には、上越・長岡・新潟のバル街のチケットの相互利用が行われる等、進
化は続いている。
22
16
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増加した場合は客さばきも大変重要な問題となる。こうした点を一つ一つ進化・改善することが出来れば、補助金
に頼らなくても多くの人を集めるイベントが定期的に開催し、それを成功に導くことができる。また、函館等で取
り組んでいる事(特に店舗に対するアカウンタビリティ)にも取り組む必要があるだろう。
今回は予定していた店舗へのインタビュー調査を行うことができなかった。もし、今後も継続することが可能で
あれば、店舗に対するインタビュー調査を行って、店舗側のバル街に対する意識を調査したい。
謝辞
本研究を進めるためにインタビュー調査にご協力いただいた大沼広美氏、山﨑隆氏、深谷宏治氏、加納諄治氏、
田村昌弘氏(順不同)に感謝申し上げる。また、バル街の広報については京都産業大学准教授の伊吹勇亮氏にお
世話になった。ゼミ活動はゼミ生の協力無しには進まなかった。ゼミ生の小倉美樹さん、髙橋奏さん、平野友望
さん、村山夏生さん、波多将志くん、藤本峻生くんにも感謝申し上げたい。
本研究は長岡大学「地(知)の拠点整備事業」における「地域志向教育研究経費」による成果である。
参考文献
小長谷一之・福山直寿・五嶋俊彦・本松豊太(2012)『地域活性化戦略』晃洋書房
樋口秀「長岡市を対象とした公共施設の中心市街地回帰と連鎖型市街地再開発事業の評価と活用(概要)」『Urban
Study』第 56 号、pp.54-72。
松下元則(2009)「函館西部地区バル街のメカニズム」『食生活科学・文化及び環境に関する研究助成研究紀要』
pp.191-199
松下元則(2013)「函館西部地区バル街の概観:歩み・参加者行動・仕組み」『福井県立大学論集』第 41 号、pp.87112。
長岡市(1998)『長岡市中心市街地活性化基本計画』
参考ウェブサイト
総務省「過疎地域市町村等一覧」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000291622.pdf(2015 年3月 20 日閲覧)
ながおかバル街ウェブサイト
http://bargai.machinaka.biz/(2015 年3月 24 日閲覧)
北海道新聞(2014a)『函館「バル街」、旧ロシア領事館も公開へ』
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/chiiki2/528617.html (2014 年3月 28 日閲覧)
北海道新聞(2014b)『2色ソースに魚介類「八雲スパゲティ」函館「バル街」に 20 日登場』、
4月 11 日、http://www.hokkaido-np.co.jp/news/chiiki2/532686.html(2014 年4月 21 日閲覧)
その他参考資料
2004 ペイン料理フォーラム in HAKODATE 実行委員会(2004)『2004 スペイン料理フォーラム in HAKODATE プログ
ラム』
17
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文部科学省「地
(知)
の拠点整備事業」
=大学COC事業
(平成25∼29年度)
長岡大学COC事業=長岡地域<創造人材>養成プログラム
平成26年度 長岡大学地域志向教育研究ブックレットvol.1
「ながおかバル街」
による中心市街地・店舗活性化
【著 者】中村大輔
【発行日】平成27年3月25日
【発 行】長岡大学地(知)の拠点整備事業推進本部
長岡大学地域連携研究センター
2009.4 -2016.3
長岡大学は、文部科学大臣が認証する財団法人日本高等教育評価機構によ
る大学機関別認証評価を受け、平成22年3月24日付で、「日本高等教育評
価機構が定める大学評価基準を満たしている」と「認定」されました。
認定期間は、2009年4月1日∼2016年3月31日です。
〒940−0828 新潟県長岡市御山町80−8
TEL 0258−39−1600(代)
FAX 0258−39−9566
http://www.nagaokauniv.ac.jp
長岡大学地域志向教育研究ブックレット vol.1
ISSN 2189-4248
「ながおかバル街」による
中心市街地・店舗活性化
中村大輔
長岡大学地域志向
教育研究ブックレット
2009.4 -2016.3
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