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構造計画概論と建築設備の関連

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構造計画概論と建築設備の関連
99
設備技術者のための建築構造入門(1)
構造計画概論と建築設備の関連
長尾直治
神戸大学工学部建設学科
キーワード:ラーメン構造
(Moment Frame)
,曲げモーメント
(Bending Moment)
,せん断力
(Shear Force)
,許容応力度
(Allowable Stress)
,剛性
(Stiffness)
,強度
(Strength)
人間が,安全・安心,かつ,文化的で快適な生活を
営むための建築空間を自然の多様な外力に抵抗して支
える骨組が建築構造である。建築構造の基本的な成り
立ちを解説し,構造と設備の技術者の対話が重要であ
ることを記述する。
はじめに
建築学科に入学した学生は,建築は用・強・美の 3 要素
を備えなければならない,というビトルビウス(ギリシャ
時代の建築家)
の 3 原則を,最初のころに教えられる。こ
のうちの“強”
に関係する部分を取り扱うのが“建築構造”
の
図!1
役割である。
構造物の荷重―変形曲線
最近は,妙なきっかけ(耐震偽装問題)
から建築構造の話
題が新聞などで取り挙げられる機会が多くなったが,ここ
営むための建築空間を自然の多様な外力に抵抗して支える
では,構造設計や構造計画に関する基礎的な事項を取り出
骨組が建築構造である。屋根や床の重量を梁や柱で支持
して,主に設備設計や設備工事に従事している方々に解説
し,その力を基礎に伝達する強度のある安定した骨組がま
することとする。
ず重要である。
我国では建築士法に基づいて,建築士,特に一級建築士
しかしながら,普段は動かない建築物が,地震時にはダ
が,意匠・構造・設備の設計ができる資格者として業務独
イナミックなふるまいをする。台風のときには押す力と同
占権を有している。しかしながら,超高層ビルや複合用途
時に引く力も作用し,窓ガラスがたわみ,瓦が飛ぶ。大雪
建物の出現など建築物が複雑で高度になってきており,と
のときには屋根がしなり,木造住宅では梁がたわんでふす
ても一人の技術者が全部をカバーできる状態ではなくなっ
まが開かなくなる。剛性の低い建物,例えば,駅前商店街
ている。このため,一定規模以上の建築物は,一級建築士
などに多い中低層鉄骨造ビルでは,前の道路でバスが発車
だけでなく,一定の資格を有する建築構造や建築設備の専
するごとに床が振動することがあり,これが続くと,いろ
門技術者が,設計しなければならない,と法律を改正する
いろなねじが緩んで設備系にも不具合を起こすことがあ
方向で議論が進んでいる。
る。このような振動源はポンプ,エレベータ,あるいは人
従来は,建築家が構造や設備の技術者と個別に打合せを
間歩行まで多様である。
して設計をまとめることが多く,このため,構造や設備の
このような外力がどのような性質と大きさを有している
設計が下請けとなるような形態が多くみられた。しかしな
かを知ることや,このような外力を受けたときに部材や架
がら,各専門家が対等な関係で責任を果たすためには,こ
構がどのように抵抗するかを知ることが構造設計の始まり
れまで以上に,構造と設備の間の対話が重要であり,少な
である。特に,部材や架構の剛性と強度を知ることは重要
くとも基本的な言葉が通じることは必要と考える。
である。
1.建築空間を支える骨組
梁や架構などの構造物に荷重 P を載荷したときに構造物
部材や架構に力が作用すると変形が生じる。図!1 は,
建物を人体に例えて,“建築構造は骨組・筋肉系,建築
のある点の変形(変位)δ がどのように変化するかを,縦軸
設備は神経・循環器系である”
といういい方をすることが
を荷重 P ,横軸を変形 δ として示したものである。構造
あるが,人間が安全・安心,かつ,文化的で快適な生活を
物の性質を表現するもので,いわば構造物の顔ともいうべ
空気調和・衛生工学
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0
講座!設備技術者のための建築構造入門(1)
*1
は,構造物の性質を示
“強度”
,“剛性”
,および“靭性”
す基本的な指標である。
2.骨組に作用する力(荷重)
図!2 に 示 す,固 定 荷 重,積 載 荷 重,積 雪 荷 重,風 荷
重,地震荷重の五つが建築基準法に規定されている。この
ほかに,土圧,水圧,振動,衝撃,熱荷重などがある。最
近では,航空機の衝突やガソリンの燃焼なども設計荷重に
含めることが一部で要求されているが,このようなことを
普通は考慮せず,平和であることを前提にしている。
図!2
荷重の種類
経年劣化は抵抗力の低下現象であり,荷重とするかどう
かは議論があるところであるが,木造の生物劣化(シロア
きものである。
リや腐朽菌による劣化)
,コンクリートの中性化,鉄骨の
荷重 P が降伏荷重 Py 以下であれば,あるいは変形 δ が
腐食などは,自然からのインパクトである。
降伏変形 δ y 以下であれば,弾性的に挙動し,除荷すると
2.1
変形がゼロに戻る。部材や架構が弾性のとき,荷重 P を
固定荷重は,柱,梁,床などの構造物自体の重量,およ
変形 δ で除した量を初期剛性 K ,あるいは単に構造物の
び仕上げ材(床仕上げ,内外壁,天井)
の重量が原因となる
剛性という。弾性時の荷重 P と変形 δ の関係を示す次式
荷重である。それぞれの材料の厚さや広さ,あるいは大き
は構造の基本である。
さなどに基づいて容積を算定し,比重を乗じて重量を推定
P =K・δ
……( 1 )
固定荷重と積載荷重
する。
例えば,梁の剛性 K が小さいと小さな力 P でも変形 δ
積載荷重は,家具や人間の重量が原因となる荷重で,固
(=たわみ量)
が大きくなって梁に取り付いている管などに
定荷重に比べて変動することが特徴である。建築基準法で
不都合が生じることがある。また,剛性が小さいと振動し
は部屋の用途および部材ごとに標準値が定められており,
やすくなり,不快な感じがする。
例えば,事務室では,床設計用として 2 900 N/m2,柱・
荷重 P が降伏荷重 Py を超えると弾塑性域に入り(除荷
梁設計用として 1 300 N/m2,地震荷重設計用として 800
― δ 曲線の接線こう
すると残留変形が生じる)
,剛性 K(P
t
N/m2 と記述されている。これは,積載荷重の集中度を考
配で,瞬間的な荷重と変形の関係を表す)
が徐々に低下
慮したもので,床は積載荷重が集中しても十分な強度と剛
し,最大荷重 Pu に達した後,破断する。最大耐力時の変
性を持つように設計し,幾つかの床を支持する柱ではやや
形 δ を安定限界変形 δ u といい,このとき剛性 Kt はゼロ
小さな値,階ごとの全重量が関係するような地震荷重を計
となる。
算するときにはもっと小さい値としている。このように,
降伏した後,どの程度の耐力が上昇するか,あるいは,
積載荷重と一口にいっても 3 種類もあり,例えば,屋上の
安定的に変形できるかを“靭性”
(粘り強さ)
といい, δ u/ δ y
床に機械基礎を設けるときに参考にする値はどれかを,そ
や Pu/Py が大きいほど靭性が豊かな構造物である。
れぞれの場合に応じて使い分ける必要がある。
荷重と変形を乗じた量を構造物が吸収できるひずみエネ
が
ルギーといい,荷重―変形曲線下部の面積(積分した値)
それに相当する。
地震荷重は,最近ではエネルギーが入力されるものと理
解されており,靭性の乏しい構造物は,入力されたエネル
2.2
地震荷重
坪 井 忠 治 著“新・地 震 の 話(岩 波 文 庫 1967 年)
”
による
と,日本および日本周辺には,このように狭い地域にもか
かわらず,全世界の地震エネルギーの 15% が集中してい
るそうで,日本はやはり大変な地震国であると感じる。
ギーを消費できないので,脆性的に破壊することとなる。
地震荷重は建物を水平方向に押すような荷重として取り
このように,靭性は,主に構造物の耐震性能に関係する。
扱われるが,風圧力のように実際に建物の横から作用する
*1
荷重ではなく,地面の揺れに応じて発生する慣性力(質量
剛性,強度,および靭性:部材や架構の
“強度”
(=荷重
に耐える能力)
というのはわかりやすい指標であるが,
“剛
性”
はややなじみが薄い。部材や架構の
“剛性”
とは部材や
架構の変形しにくさを表す指標であり,構造の剛さを指
す。
“靭性”
は,構造の粘り強さに対する指 標 で あ り,主
に,耐震性能に関係する。
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平 成1
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と加速度を乗じた力)
である。したがって,図!3 のよう
に,断層の形式や大きさ,伝播経路の性状,地震波の種
類,地盤の軟弱度や地形,建物の揺れやすさや重量などで
大きく変化する荷重である。
1981 年に改正された建築基準法に記述されている耐震
10
1
構造計画概論と建築設備の関連/長尾直治
図!3
(a)
(b)
(c)
(d)
地震荷重に及ぼす要因
(震源断層・伝播経 路・増 幅 特
性・実体波と表面波など)
設計法を新耐震設計法といい,1995 年の阪神淡路大震災
でもその有効性が示されたが,ここで用いられているのが
二つのレベルの地震荷重である。建物が使用中に一度は起
こるような地震動(再現期間 50 年程度の中地震動)
は建物
重量の 20% を,起こるかどうかわからないような大きな
地 震 動(再 現 期 間 100 年 以 上 の 大 地 震 動)
は建物重量の
写真!1 材料と 構 造
〔
(a)
ロ イ ズ 本 社 ビ ル,
(b)
コ ロ シ ア ム,
(c)
ローマ時代の橋,
(d)
香港上海銀行ビル〕
100% を,それぞれ地震荷重として建物に水平方向に作用
させるのである。ただし,“地震荷重は,高層ビルのよう
ある香港上海銀行ビル(鉄骨造)
であるが,時代のほかに構
に固有周期が長い建物では周期に応じて低減できる”
,お
造材料などによって架構の形式や表情が変化している。
よび“大地震動に対する地震荷重は建物に靭性(粘り)
があ
これらは材料の保有する圧縮強度と引張強度の大きさが
,として
れば,その程度に応じて 1/2∼1/4 に低減できる”
関係している。コンクリートは圧縮強度が大きいが引張強
いる。
度の小さい材料である。鋼材は引張強度も圧縮強度も大き
2000 年に改正された建築基準法では,“稀に発生する地
い材料であるが,鉄筋のように細長くすると圧縮荷重を受
震動”
と“極く稀に発生する地震動”
の 2 段階の地震荷重
けると座屈が生じて圧縮強度を失う材料である。木は中程
を,開放工学基盤における 5% 減衰の加速度スペクトルで
度の引張強度と圧縮強度を有している。
表現しており,地震荷重を簡単に計算できるようにはなっ
石を積んだ架構(組積造)
では,圧縮力を伝達できるが,
ていないが,敷地の地盤条件や建物の固有周期などの性質
引張力を受けると目地が離間して構造は壊れる。したがっ
を反映できるようになっている。
て,石造では引張応力が発生しないように積んでいく工夫
日本の建物の多くは地震荷重で柱や梁などの部材の大き
が必要である。19 世紀に構造力学が実用化できるまで,
さが定まるため,耐震設計法は我国の構造設計の中心的課
組積造建物は経験に基づいて引張応力の大きさが自重によ
題である。これらについては,連載の最後で記述する。
る圧縮応力を上回らないようにしてきたが,ドーム屋根の
2.
3 長期荷重と短期荷重
崩落など何度かの失敗を経て進歩してきたものである。
固定荷重と積載荷重は永久的に作用しているので,長期
現代の建物では,構造力学によって構造各部に発生する
荷重といい,風,雪,地震などのような一時的に作用する
圧縮応力や引張応力の大きさを予測することができる。こ
荷重(短期荷重)
と区別し,材料の安全率などを変えている
のため,それに抵抗できるコンクリートや鋼材を,その材
(長期荷重に対しては大きな安全率とし,短期荷重に対し
料強度に応じて,適切に空間的配置することができ,構造
ては小さな安全率としている)
。
材料を節約して空間を構成できるのである。
引張力だけに抵抗する膜を用いた構造(テント構造)
で
3.骨組を構成する構造材料
は,あらかじめ引張力を与えておいて(プレストレスを導
木,石,土,コ ン ク リ ー ト,鉄,膜(プ ラ ス チ ッ ク や
入して)
,いろんな荷重が作用しても引張応力状態が保持
布)
,ガラス,セラミック(レンガや瓦を含む)
,草,氷,
できるように(X 方向にも Y 方向にも圧縮応力が発生しな
など人は昔から手近にあるあらゆるものを利用して建物を
いように)
,例えば,曲面を構成しておくことで成立す
構成してきた。写真!1(a)
はロンドンのロイズ本社ビル(鉄
る。
筋コンクリート造)
,(b)
はローマのコロシアム(石造)
,
どのような材料でもその力学特性(圧縮および引張強度
(c)
はトレドにあるローマ時代の橋(石造)
,(d)
は香港に
や剛性など)
に適合した構造形式が存在し,例えば,空き
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講座!設備技術者のための建築構造入門(1)
N/mm2 と JIS で定められているが,F 値=235 N/mm2 と
降伏点の下限強度を用いている。
材料に発生している応力が F 値を超えると塑性化し
て,その外力が作用しなくなっても永久ひずみが残留する
(地震荷重の場合には地震後にも傾いたままとなる)
が,F
値以下なら,弾性状態を保持しそのようなことが起こらな
い。
鋼材の場合には,長期荷重および短期荷重によって発生
図!4
材料の応力―ひずみ曲線
(鋼材の引張試験とコンクリート
の圧縮試験)
する引張応力に対して,安全率をそれぞれ 1.
5 および 1.
0
5(長期)
,
としている。すなわち,許容引張応力度=F /1.
0(短期)
である。また,コンクリートに圧縮応力が発
F /1.
瓶とロープで屋根を架けることも可能なのである。
生する場合では,F 値を圧縮強度とし,許容圧縮応力度=
3.
1 応力!ひずみ
(歪)
関係(σ!ε 曲線)
0(長期)
,F /1.
5(短期)
としており,鋼材とは別の考
F /3.
代表的な構造材料である鋼材とコンクリートの応力( σ )
え方を用いている。
の関係を,図!4 に示す。
とひずみ( ε )
(1) 鋼
安全率は,構造の安全性と経済性を関係づける尺度であ
材
り,昔から多くの議論がある。クモの糸の安全率を調べた
図!4(a)
のような標準試験片(日本工業規格 JIS で定めて
大崎茂芳著“クモの糸のミステリー(中公新書 2000 年)
”
に
いる)
を引張載荷して定めるが,縦軸が応力 σ ,横軸がひ
よると,最も重要な自重を支持する糸は 2 本で構成されて
ずみ ε であり, σ は荷重 P を断面積 A で除した量( σ =
おり,その降伏強度はクモの自重のちょうど 2 倍で,1 本
であり, ε は変形 δ を標点間
P /A:単位面積あたりの力)
が切れても後の 1 本で自重を支持できるようになってい
である。
距離 L で除した量( ε = δ /L:無次元化した変形)
る。すなわち,安全率=2.
0 というのは,クモが命がけで
σ(降伏点)
,あるいは ε(降伏ひずみ)
までは弾性であり,
y
y
数億年かけて最適化した結果だとのことである。考えさせ
これを超えると塑性域に入り,除荷すると残留ひずみが生
るものがある。
じる。初期剛性をヤング係数 E といい,鋼材では E ≒205
kN/mm2 である。
4.建築構造の種類
σ y,あるいは ε y を超えるといったん剛性がゼロになる
建築構造は,図!5 のように,鉄筋コンクリート造(RC
に達するとひずみ硬化が生じて
が,硬化ひずみ( ε st≒2%)
造)
,鉄骨造(S 造)
,あるいは鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC
引張強さ σ u まで強度が上昇する。その後,断面がくびれ
造)
のように,構造材料ごとに区分されている。
で破断する。
て ε(破断伸び)
f
4.1
鉄筋コンクリート構造(RC 造)
普通軟鋼(SS 400,または SN 400 材)では σ y=235∼325
圧縮強度が大きく引張強度の小さいコンクリートを,大
N/mm , σ u=400∼490 N/mm , ε f=30∼40% で あ り,鋼
きな引張強度を有する鉄筋で補強した構造である。英語で
材は豊かな靭性(変形能力)
を有している。また,圧縮時の
は Reinforced Concrete(補強コンクリート)
構造といい,
性状もほぼ同じである。
一般に“RC 造”
と略称される。
2
2
( 2 ) コンクリート
鉄筋組立て,型枠設置,コンクリート打設の手順で建築
図!4(b)
のようなシリンダ試験体を圧縮載荷して定め
物が構成される。壁や梁に設備用開口を設けたり,配管を
る。圧縮強度 Fc で最大強度になる。Fc=18∼27 N/mm2 が
埋め込んだりする必要があり,構造と設備で調整が必要と
2
一 般 に 用 い ら れ,ヤ ン グ 係 数 E =20∼24 kN/mm で あ
なる。
鉄骨構造(S 造)
る。最近,超高層鉄筋コンクリート造住宅などでは Fc=
4.2
60∼100 N/mm2 の高強度コンクリートも使用されている
引張強度も圧縮強度も大きい鋼材を,柱や梁に使用した
が,E は強度に比例して大きくなる。引張時の強度は Fc
建築物である。溶接性がよく強度と靭性(粘り)
が大きい鋼
の 1/10 程度と小さく,また脆性的に破断するので,許容
材(鉄の一種で炭素などの合金要素を 0.
4% 程度含む低合
引張応力度はゼロとして設計する。
金鋼)
を用いるので,日本建築学会では鋼構造と呼んでい
3.
2 材料の安全率と許容応力度
るが,鉄骨構造あるいは S 造が通称である。
材料の抵抗力(許容応力度)
を建築基準法では F 値で表
製鉄所で製造された鋼材(鋼板や H 形鋼など)
を,鉄骨
現する。普通の鋼材(SN 400 材)
の場合には,降伏点 σ y お
製作工場(鉄工所)
で切断・孔あけ・溶接などの加工を行
よび引張強さ σ u の下限値は,それぞれ,235 N/mm ,400
い,現場に搬入後,クレーンで揚重し,ボルトなどで組み
2
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3
構造計画概論と建築設備の関連/長尾直治
(a) 鉄筋コンクリート造
図!6
荷重の伝達
(鉛直荷重)
立てる手順をとる。
梁貫通孔に代表される設備関連の工作も鉄骨製作工場で
行われるため,その情報を伝達する手段やタイミングなど
構造と設備で調整が必要となる。
4.3
鉄骨鉄筋コンクリート構造(SRC 造)
RC 造の柱や梁の芯に鉄骨を配置してより大きな強度や
剛性を持つようにした構造で,SRC 造と略称される。1995
年の阪神淡路大震災では,古い設計規準で設計された SRC
造が中間層崩壊をしたが,それまでの地震では被害が少な
く,最も信頼性の高い構造形式として本格的な中高層ビル
建築に適用されていた。
最近は,従来形式の SRC 造は設計されることが少なく
なり,RC 造柱と S 造梁で構成されたビル建築など,適材
適所の構造形式を組み合わせたハイブリッド構造(合成構
(b) 鉄 骨 造
造)
の適用例が多くなっている。特に,高層ビルの柱材で
は CFT
〔Concrete Filled Tube=鋼管柱の内部に高強度コ
ンクリートを充てん(填)
した柱〕
が多用されている。
5.構造部材と部材応力
建築骨組は,鉛直荷重と水平荷重の支持機構を備えてお
り,各種の構造部材(柱,梁,床・屋根,基礎)
から構成さ
れている。
鉛直荷重は床や屋根などの部材で,まず支持される。
床や屋根に作用した鉛直荷重(固定荷重,積載荷重,積
雪荷重)
は周辺の梁に伝達され,さらに,柱や壁を伝わっ
て基礎に伝達される(図!6)
。
水平荷重(風荷重,地震荷重)
は柱と梁で構成された架構
(ラーメン構造:後述)
,または,耐震壁で支持され(図!
7)
,最終的には基礎を通じて地面に伝達される。実際の架
構は立体的に構成されており,このような平面架構が幾つ
(c) 鉄骨鉄筋コンクリート造
図!5
ビル建築構造の種類
か共同して水平力に抵抗する(図!8)
。立体骨組の水平強度
は,直交する二つの主軸(X および Y 方向)
について検討
しているが,それで十分ならその他の方向に対しても十分
である。
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講座!設備技術者のための建築構造入門(1)
図!7
荷重の伝達
(水平荷重)
図!9
図!8
曲げモーメントとせん断応力
平面骨組と立体骨組
建築骨組が鉛直荷重や水平荷重などの外力を受けると,
図!10
それを構成する部材には,応力が発生する。代表的な応力
梁の応力
は,軸力,曲げモーメント,せん断力の三つである。この
うち,最もわかりやすい応力は引張力と圧縮力のような部
材の材軸方向に作用する軸方向力(軸力)
である。
曲げモーメントは,梁のように部材軸の横から荷重が作
用したときなどに発生する応力で,部材を折り曲げる力で
あるが,その概念がややわかりづらく,構造力学を勉強す
る初学者が最初に混乱する部分である。
図!11
また,鉄筋コンクリート造建物の弱点の一つがせん断破
壊であり,せん断応力も正確に理解することが大切であ
上載荷重を受けて曲がる梁
図!11 は,曲げモーメントを受ける鉄筋コンクリート造
梁の抵抗機構を示すものである。
る。
図!9 は,曲げ応力(モーメント)
と曲げ変形,およびせ
圧縮強度だけがあるブロック群(コンクリート)
と引張強
ん断応力とせん断変形(ずれ変形)
の関係を示す。曲げ変形
度だけがある糸(鉄筋)
で構成された梁(構造物)
が,上載荷
は材軸方向に一対となった伸びと縮み変形の組合せであ
重を両端の支点に伝達する様子である。梁に曲げモーメン
り,せん断変形は材の斜め方向に一対となった伸びと縮み
トが発生し,その大きさは,支点ではゼロ,部材中央部で
変形の組合せである。いずれも構造部材を線材置換して解
最大値になる。曲げモーメントによって,部材中央部の上
析するのに便利なように考案されたものである。
端縁部に最大圧縮応力が発生し,下端縁部に最大引張応力
5.
1 曲げモーメント
が発生している。これに抵抗できるような強度を有するコ
図!10 は,一端がピン支持,他端がローラー支持された
ンクリートと鉄筋を配置する。
梁(単純支持された梁,または単純梁という)
の中央に集中
図!12 は,実際の鉄筋コンクリート造梁が荷重を支持し
荷重が作用したときの変形と梁部材内部の応力であり,曲
ている様子である。鉄筋が引っ張られて伸びるとコンク
げモーメントの概念を視覚的に示したものである。
曲げモーメントが作用すると,軸方向に伸びる部分(引
リート下端縁に材軸直交方向のひび割れ(コンクリートの
引張破断:曲げひび割れ)
が生じる。さらに載荷するとコ
張域)
と縮む部分(圧縮域)
があり,伸縮しない部分(中立
ンクリートの圧縮破壊,または鉄筋の引張降伏(主筋降伏)
軸)
が断面中央にある。梁は中央部で最も大きく折れ曲が
で定まる耐力のうち,小さいほうの荷重で最大強度に達す
り,上端縁に圧縮応力が下端縁に引張応力が発生する。
る。
20
平 成1
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5
構造計画概論と建築設備の関連/長尾直治
図!14
図!12
せん断力による鉄筋コンクリート造柱や壁の X 形ひび
割れ
曲げ破壊する鉄筋コンクリート造梁
(a) ラーメン構造
図!15
図!13
(b) 壁
構
造
ラーメン構造と壁構造
せん断破壊する鉄筋コンクリート造梁
5.
2 せん断力
せん断力は部材をずらす力であるが,これを分解する
と,斜め方向の引張応力とこれと逆方向の斜め圧縮応力の
組合せとなり,これらが一対となった断面力である。
(a) 鉛直荷重時
図!13 は,鉄筋コンクリート造梁に斜めひび割れが生じ
図!16
(b) 水平荷重時
ラーメン構造
てせん断破壊した様子を示したものであるが,一対の斜め
方向の引張応力とこれと逆方向の斜め圧縮応力が発生し,
柱は,主に圧縮力に抵抗する部材(圧縮材)
である。柱と
引張強度の小さいコンクリートがひび割れたものである。
梁を剛接合した架構をラーメン構造というが,鉛直力や水
この引張応力に抵抗するようにあばら筋や帯筋という材軸
平力が作用すると,柱にも曲げモーメントが発生する。
直交方向の鉄筋,あるいは斜め筋を配筋する。
床は鉛直力を支持する部材である。木造では,大梁の間
梁は,せん断強度あるいは曲げ強度の小さいほうの値で
に根太を架け渡し,さらに根太の間に板をはって床を構成
破壊するが,せん断破壊の性状は脆いため,なるべく靭性
する。鉄骨造では梁の間にデッキプレートを架け渡し,
の大きい曲げ降伏が先行するように設計する。
デッキプレートの上にコンクリートを打設して床を構成す
図!14 は,地震で鉄筋コンクリート造柱や壁が X 形にひ
る。これらは,小さい梁(曲げ材)
を並べたようなもので,
び割れた様子である。地震力によって上下階に横ずれ変形
鉛直荷重を 2 辺で支持する床形式である。RC 造床スラブ
(せん断変形)
が生じると,部材の斜め方向に圧縮応力と引
では,4 辺の梁で支持された周辺固定スラブが最も多用さ
張応力が発生し,引張強度の低いコンクリートに斜めひび
れる構造形式であるが,その他に,3 辺支持,2 辺支持,
割れが発生する。さらに,繰返し荷重(逆方向の荷重)
を受
あるいは 1 辺支持(片持ちスラブ)
などがある。
けると,X 形のひび割れとなる。
5.
3 構造部材
6.ラーメン構造と壁構造
梁は,床や屋根に作用した鉛直荷重を支持し,柱などに
図!15 に示すように,柱と梁・床で構成した骨組をラー
伝達する横架材であり,主として曲げ力に抵抗する部材
メン構造,壁と梁・床で構成した骨組を壁構造という。こ
(曲げ材)
である。梁部材の折れ曲がりに対する抵抗力(曲
れらは,鉛直力や水平力に抵抗する様式が異なっている。
げ強度)
は,梁せい H が大きいほど増加する(長方形断面
材では H の 2 乗に比例する)
。
ラーメン構造
(Rahmen:ドイツ語で枠組の意
6.1
味)
一方,スパン(支持点距離)
が大きくなると折り曲げる力
ラーメン構造は,柱と梁が剛接合されている架構のこと
(曲げモーメント)
も大きくなり,したがって,スパンに応
であり,筋交いや耐震壁がなくても水平荷重に抵抗できる
じて大きな断面の梁が要ることになる。
ため,使い勝手のよい建築構造として,我国では最も多用
空気調和・衛生工学
第8
1巻
第2号
21
10
6
講座!設備技術者のための建築構造入門(1)
のよい間取りとすることができる。150∼250 mm 程度の
厚さの RC 造壁あるいはブロックなどで RC 造床を支持す
るもので,壁の間隔が大きくないことや壁量が十分である
こと,あるいは壁と床の間には RC 造のがりょう(臥梁)
を
設けることなどが要求される。
RC 造の壁は大きな水平強度を有しているため,我国の
壁構造は非常に耐震性能が大きく,阪神淡路大震災などで
も無被害であった建物が多い。しかしながら,壁構造は水
図!17
ドミノ架構
(ル・コルビュジュエ)
平剛性も同時に大きいので,加速度応答は大きくなり,家
具などには大きな被害が発生する。
されている。
最も単純な 1 層 1 スパンのラーメン構造に鉛直力や水平
7.筋交い(ブレース)
,耐震壁(耐力壁)
力が作用したときの変形の様子を図!16 に示すが,柱と梁
筋交いや壁は建物の水平方向の動きを拘束するため,地
に曲げ変形が生じており,対応する曲げモーメントが各部
震や台風による横力によく抵抗する。これらの耐震要素を
材に発生している。ラーメン構造ではこれらに抵抗する太
ラーメン架構にうまくを組み込むのが,日本のような地震
い柱と梁が必要となる。筋交いをラーメン架構に挿入する
国で発達してきた方法である。
と,水平荷重時に曲げモーメントが大幅に低下するので,
1923 年関東大震災のとき,日本興業銀行(設計者は内藤
柱や梁部材を小さくすることができる。筋交いは効果的に
多仲)
が大きな被害を受けずに済んだのは,多数の RC 造
水平力に抵抗する耐震要素である。
耐震壁を内蔵した頑丈な剛構造*2 であったからであり,我
さて,柱・梁接合部が剛に接合されている,というの
は,節点が角度変化しない(直角度を変形後も保持する)
だ
国に超高層ビル(柔構造)
が出現するまでは,最も信頼でき
る構造形式であった。
けの強度を有していることがその構造的要件である。この
筋交い(ブレース)
は,木造や鉄骨造のような軸組構造に
ような曲げモーメントを伝達できる接合部(モーメント接
用いられる耐震・および耐風要素であり,架構に水平剛性
合)
はコンクリートを現場打設する構造では容易に達成で
と水平耐力を付与する。工場や体育館などでは,小径の棒
きるが,例えば,木造では難しい。鉄骨構造では最も大き
鋼(16∼28 mm 程度のターンバックル付き)
や小径の山形
な曲げ応力が発生する柱梁接合部に溶接や高力ボルトを用
鋼などを引張力に抵抗するブレースとして用いるが,圧縮
いて剛接合を実現しているが,その製作・施工には注意が
力が作用すると簡単に座屈して抵抗力を持たなくなる。ま
必要で,1995 年阪神淡路大震災でもこの部分に被害が生
た,木造の筋交いは土台との接合部に引張力を伝達できる
じた。
金具を十分に配置しないと簡単に引き抜けて耐震要素とな
図!17 は 20 世紀初頭にル・コルビュジュエによって提
らない。最近の S 造や SRC 造の高層ビルでは,通常のブ
案されたドミノと呼ばれる架構形式である。西欧では従来
レースを改良した多様な種類の特殊ブレースが制震要素
はレンガや石の壁で床(RC 造床のほかに,木造根太や鉄
(ダンパ:地震エネルギー吸収装置)
として用いられてい
骨小梁を架け渡して構成する床もある)
を支持していたた
る。
め(これを壁構造といい,柱ではなく壁が鉛直力を支持す
ところで,ブレースや耐震壁は部屋の用途を区切り,使
る部材となる構造形式である)
,大きな窓開口を設けるこ
い勝手を制限するため,用途の定まった小さな部屋が多い
とができなかったが,当時の最先端技術であった鉄筋コン
建物,例えば,住宅,ホテルの客室,小規模なレストラン
クリート構造では,柱と床の接合部に十分な強度が得られ
などの場合には比較的バランスよく設けることができる
るために可能となった構造形式である。壁を構造的に不必
が,大きな空間が必要なホテルのロビーや間仕切りを自由
要とできるもので,壁構造から柱構造への転換であった。
ただし,我国では地震力が大きいため,床と柱だけのフ
ラットスラブ構造では接合部の水平強度が不足するため,
梁を設け,梁と柱を剛接合(モーメント接合)
したラーメン
構造を用いることとなる。
6.
2 壁 構 造
我国では壁構造は,中低層の RC 住宅などに採用される
構造形式であり,部屋の中に柱形が現れないので使い勝手
22
平 成1
9年2月
*2
剛構造と柔構造:地震荷重に強度で抵抗するというのが
剛構造の考え方であり,頑丈で揺れにくい低層の RC 造建
物などが該当する。
一方,五重の塔のように,揺れることによって地震力を
受け流すというのが柔構造の考え方であり,超高層の S 造
ビルや免震構造などが該当する。柔構造では,したがっ
て,揺れることを許容する外壁とするなど,仕上げや設備
の構法,あるいはディテールなどはやや高級となる。
10
7
構造計画概論と建築設備の関連/長尾直治
(a) ピロティ建物の被害
図!18
(b) 偏在壁によるねじれ破壊
壁配置のアンバランスによる地震被害
に動かす必要のある事務所ビルなどでは設置場所が限られ
る。多くは,エレベータや階段の横などコア周りに配置さ
れるが,コアには機械室が設置されることが多く,ダクト
図!19 直接基礎と杭基礎
や配管などの出口をふさぐことになる。
また,RC 造耐震壁は,柱 5∼6 本分に相当する大きな
水平剛性(変形しにくさ)
を持っているため,バランスよく
能や遮音性能などが低下するため,痛し痒しの状態であ
る。
配置しないと,剛性の低い部分(柱梁架構)
が集中的に変形
して,建物全体が早期に破壊する。ピロティ形式の建物
9.地盤・基礎
(上階に設けられた壁が 1 階でなくなるような構造形式
建物の重量と地盤の条件で,図!19 のように,直接基礎
で,1 階に店舗や駐車場を持っている中層集合住宅などで
とできる場合と杭基礎としなければならない場合がある。
生じる)
は,RC 造壁の立面的配置バランスが悪いため,
軽い建物は直接基礎とできるが,重い建物や埋立地などの
地震時には 1 階の 柱 が 早 期 に 折 れ る こ と が あ る〔図!18
軟弱地盤では杭基礎が必要となる。
(a)
〕
。また,RC 造壁の平面的配置のバランスが悪いと,
その反対側の柱を早期にねじり倒す〔図!18(b)
〕
。
地盤の硬さを示すのに“N 値”
という尺度がある。地質
調 査(ボ ー リ ン グ 調 査)
の と き に,錘(63.
5 kg=140 ポ ン
ド)
を一定の高さ(76 cm=30 インチ)
から落として鋼棒が
8.鉄筋コンクリート造の雑壁
30 cm 沈むのに“N 回”
必要である,という試験方法であ
RC 造では雑壁,あるいは非構造壁(垂れ壁,腰壁,袖
る。おおむね,N 値が 50 以上は硬質地盤,N 値が 10 以
壁など)
と分類される壁がある。従来,構造計算では地震
下の地盤は軟弱地盤で表層地盤の N 値が 30 以上の敷地は
力に抵抗する耐震要素として算入せず,安全側のゆとりと
よい地盤とされ,高層ビルなどは N 値が 50 以上の地盤に
して扱われてきた壁である。したがって,耐震壁に孔を明
支持させる。
けるときには十分な補強が要るが,雑壁にはひび割れ補強
筋を配置する程度で開口を明けることができる。
例えば,東京新宿の超高層ビルでは,地下 3 階くらい地
面を掘ると N 値 50 以上の東京礫層が出現するので,ここ
しかしながら,このような壁は,例えば,マンションの
を支持地盤とする直接基礎としている。東京湾臨海副都心
廊下側の雑壁は,地震時には簡単に破壊して玄関ドアが開
の超高層ビルでは,地表面下 40∼60 m にしか N 値 50 以
かなくなる。阪神淡路大震災のときに,建築的には損傷し
上の層が出現しないので,それだけの長さの杭基礎として
ているが構造的には破壊していないと建設業者が説明して
いる。
も,住民の理解を容易には得られなかったことがあった
が,総合的な耐震安全性の配慮が必要な部位である。
我国の多くの都市は,河口付近の平野に位置している。
縄文時代に地球が暖かくなって海の水位が上昇(海進)
し,
また,例えば,学校校舎の外壁は柱の間に窓を設けると
その後,海退して泥が固まった地層構成(沖積層)
の地域で
き,上階の梁下部に垂れ壁を設け,下階の梁上部に腰壁を
ある。したがって,地盤条件は一般的にあまりよくない。
設けることが多い。このとき,柱上部は垂れ壁によって,
地盤は砂質地盤と粘土質地盤に分類されるが,両者で力
柱下部は腰壁によって水平方向の変形が拘束されることに
学性状などが大きく異なる。砂は粒子の大きさが比較的大
なり,可撓長さが短い状態(短柱状態)
となる。地震時に層
きいためサラサラしているが,粘土は粘着力が大きく,含
間変形(各層間の水平変形で,大地震時には階高寸法の
水量が大きいのが特徴である。
が生じると水平変形が集中する短
1/200∼1/100 に達する)
柱部分が早期にせん断破壊することとなる。
最近では地震時の雑壁損傷防止や短柱防止のために,柱
や梁部材と壁の間に耐震スリットが設けられるが,防水性
粘土質地盤では,建物の重量など力がかかると含まれて
いる水を吐き出して縮み,時間の経過とともに圧密沈下す
る。建設後しばらくして建物が傾く原因となるが,図!20
(a)
のピサの斜塔は有名である。
空気調和・衛生工学
第8
1巻
第2号
23
10
8
講座!設備技術者のための建築構造入門(1)
(a) 地盤の圧密沈下
図!20
,彰国社
(1998―12)
3) ヴィジュアル版建築入門編集委員会:建築の構造
(2002―
7)
,彰国社
4) アンガス・マクドナルド著・斉藤公男監訳・渡邊富雄・岡
田 彰訳:建築の構造とデザイン
(1996―8)
,丸善
5) 日本建築学会近畿支部鉄筋コンクリート構造部会:1995
年兵庫県南部地 震・コ ン ク リ ー ト 系 建 物 被 害 調 査 報 告 書
(1996―7)
6) 日本建築構造技術者協会:阪神大震災に学ぶ・これからの
耐震設計
(1996―10)
,オーム社
(b) 地盤の液状化
地盤による建物被害
(2006/12/11
原稿受理)
建物周辺(犬走り部分など)
の埋め戻しを,砂でなく粘土
Introduction of Building Structures for Mechanical and Environmental Engineers
(Relationship of Structural and Mechanical Design Works)
で行うとやはり沈下することがある。ライフライン(電気
やガスなど)
の引込み口や各種のます(枡)
などの支持を,
躯体でなく埋め戻し土に頼るときには注意が必要である。
砂質地盤では,地震時に液状化が生じるおそれがある。
水位が高い砂質地盤では,地震動が加わると粒子の間の水
Tadaharu Nagao*
圧が高くなり,砂粒子がばらばらになって支持力を失う現
象である。このため,建物は傾き,空の水槽やマンホール
Synopsis
のように軽いものは浮き上がり,杭は地面の中で折れる。
The building structure is the shelter and
信濃川河口に位置する新潟市の地盤は,水位が高い砂質地
the skeleton for resisting to various natural hazards or
盤で構成されており,1968 年新潟地震のときに中層の壁
disastrous loadings in order to maintain the human lives
式 RC 造集合住宅が横倒しになったことがあった〔図!20
to be healthy, safe, comfortable, cultural and intellectual.
The basic concept of structural design of the buildings
(b)
〕
が,液状化の怖さをよく示すものである。
is to be described with focusing on the importance of collaborations between structural and mechanical engineers.
おわりに
(Received December 11,2006)
古い RC 造集合住宅の設備改修工事で,配管開口を外壁
*
に設けるときに,間違えてダイアモンドカッタで柱の主筋
を切断した事故があった。このときは,結局,構造強度を
Dept. of Architecture and Civil Engineering, Faculty of
Engineering, Kobe University
回復する補修ができないため取り壊して再建することと
長尾直治 ながおただはる
昭和 21 年生まれ/出身地 神戸市/最終学歴 大阪
大学大学院工学研究科構築工学専攻博士課程/学位
工学博士/資格 一級建築士・建築構造士・APEC
エンジニヤ
なったが,構造と設備が対話することの重要性を示してい
る。小稿がこのようなことに役立てば幸いである。
参 考 文 献
,技報堂
1) 日本建築学会:建築構造用教材
(2005―2)
2) 日 本 建 築 構 造 技 術 者 協 会:図 説・建 築 構 造 の な り た ち
- (
S
H
A
S
E
G
ガ
イ
ド
ラ
イ
ン
︶
24
SHASE-G 0002-1997 建築設備の耐震設計 施工法
空気調和・衛生工学会新指針 総説(耐震性能確保のための設備システムの考え方、耐震設計・施工の目標、他)/機器(設計の手順と条件、各部材の許容応
用力度、他)/配管・ダクト(設計の手順と条件、各部の設計、他)/施工管理(アンカボルトの施工、他) 付録
B 5 判 312 頁 上製本 定価 5,250 円 会員価格 4,725 円 送料 520 円(消費税込)
配 会社名
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平 成1
9年2月
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TEL
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