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ワロン地域における太陽光発電の進展状況(ベルギー)(27KB)

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ワロン地域における太陽光発電の進展状況(ベルギー)(27KB)
NEDO海外レポート
NO.1011,
2007.11.14
【再生可能エネルギー特集】 太陽光発電
ワロン地域における太陽光発電の進展状況(ベルギー)
はじめに
太陽光発電では遅れをとっていたベルギーのワロン地域 1 であるが、地域政府が太陽光
発電の奨励に本腰を入れ始めたこともあり、太陽光電池を設置する家庭や企業が増え始め
ている。
本稿ではまず、ワロン地域政府による様々な奨励策について述べる。次にそうした奨励
策を受けた太陽光発電の進展状況(例)について述べる。
1.ワロン地域政府による太陽光発電の奨励策
ベルギーのワロン地域政府は、再生可能エネルギー部門の発展に力を入れている。エネ
ルギー政策を担当するアンドレ・アントワーヌ住宅・運輸・地域開発相は 2006 年 12 月、
「ワロン地域の未来のための優先的な行動(マーシャル・プラン)
」の枠内で導入された再
生可能エネルギー部門の研究プログラム「FuturEnergy」に、2007 年度には 500 万ユー
ロを充当することを決めた。
「FuturEnergy」は、再生可能エネルギーの新しい生産手段の開発や既存の生産手段の
費用対効果の改善などを目指すものであり、大学や研究センターと企業(中小企業を含む)
間のパートナーシップを基盤とする。
ワロン地域におけるグリーン電力の生産は、2005 年から 2006 年にかけての 2 年間で
60%以上の伸びを示した。また、2004 年度には、12 万 7,000 世帯しかグリーン電力の供
給を受けていなかったのに対し、2006 年度には 33 万 1,000 世帯がその恩恵を受けるよう
になった。これは、52 万 8,000 トンの CO2 の排出削減に相当する。
また、2007 年 6 月には、再生可能エネルギー関連の設備の生産やサービスの提供を行
う 130 以上の企業、研究機関が結集するプラットフォーム RBF(Renewable Business
Facilitator)が発足した。ワロン地域では、2007 年から 2012 年にかけ、再生可能エネル
ギー部門で 8 億 4,000 万ユーロあまりの投資が行われると予想されており、RBF は、拡大
を続け競争の激化する再生可能エネルギー市場において、企業や研究機関を支援する。
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ベルギーは、同じ言語を話す住民の集合体を示す共同体(オランダ語、フランス語、ドイツ語)、
地理的な領域を示す地域(フラマン(フランドル)、ワロン、ブリュッセル)、及び連邦で構成される複層
的な連邦国家である。共同体は、教育・文化を、地域は経済を主として所管している。
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ワロン地域でのグリーン電力の生産には、主に風力やバイオマスが利用されており、多
額の投資が必要となる太陽光発電ではワロン地域は遅れをとっている。EU 域内では、ド
イツが最も太陽光発電を利用しており、2005 年度の出力は 1,537MWp に達した(EU 全
体では約 1,791MWp)。これに対し、ベルギーは、国全体でも 2005 年度の出力が約 2
MWp(=2,000kWp)というオーダーで少ないが、地域別に見ると支援制度が整備されている
フラマン地域の出力が 2,223kWp であったのに対し、ブリュセッル首都圏は 14kWp、ワ
ロン地域は 44kWp にすぎなかった。こうした状況を改善するため、アントワーヌ住宅・
運輸・地域開発相は、2007 年 3 月 8 日、家庭や企業、特に中小企業での太陽光発電の利
用を奨励するためのプログラム「SOLWATT」を発表した。
同プログラムには、以下のような措置が盛り込まれている。
①太陽光発電モジュールの設置のための都市計画許可(permis d’urbanisme)は不要
②グリーン証書の取得手続きの簡素化(出力が 10kWp を超えなければ、自己申告に
より、再生可能エネルギーの生産者と認める)
。
③5kWp の出力の太陽光発電施設で生産されるグリーン電力には、生産支援として 7
枚のグリーン証書 2(7×65 ユーロ=455 ユーロ)が交付される。施設に 5kWp の
出力が追加されると、さらに 5 枚のグリーン証書(5×65 ユーロ=325 ユーロ)が
与えられる。また、1,000kWh の電力生産に対し 1 枚のグリーン証書(150 ユーロ)
が 10 年間交付され、その後の 5 年間は、グリーン証書の価格が 65 ユーロとなる(10
年間であったグリーン証書の交付期間が 15 年間に延長された)
。
④太陽光発電の利用を容易にし、促進する機関「Energie Facteur 4」(非営利団体)
の設置。
「Energie Facteur 4」は、情報提供などを通じ、家庭や企業での太陽光発
電の利用を奨励する。
⑤ワロン地域の 10 のコミューン(市町村)で、太陽光発電のパイロット・プロジェ
クトを実施する。
⑥ベルギーに支給される EU の構造基金 3(2007∼2013 年)より、2,000 万ユーロを
太陽光発電に充当する。
⑦太陽光発電設備の設置を希望する低所得者への融資制度の整備。
⑧2008 年から太陽光発電設備を設置する全ての家庭への投資援助(上限:3,500 ユー
ロ)を行う。
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ワロン地域のエネルギー市場の規制機関である「エネルギーのためのワロン委員会(CwaPE)」が、グリー
ン証書制度を運営する。グリーン電力を生産する施設はまず、グリーン電力の生産が CO2 の排出削減につな
がることを証明する「原産保証証書(CGO)」を取得しなければならない。
グリーン電力生産は、1,000kWh の電力生産に 456kg の CO2 を排出するタービン−ガス−蒸気(TGV)発
電施設の電力生産との比較の対象となる。1 枚のグリーン証書は、CO2 の排出されない 1,000kWh の電力生
産に相当する(つまり 456kg の CO2 排出削減)。グリーン証書制度はグリーン電力の生産援助制度であり、
グリーン電力が生産場所で消費されるか送電網に送られるかに関係なく、生産者は CO2 の排出削減につなが
る限り、生産した電力相当分のグリーン証書を受け取る事ができる。高圧送電網の管理者である Elia 社は、
グリーン証書を保証価格で購入する義務があり、太陽光発電の場合、150 ユーロで購入することになる。
EU 地域政策の一環として、加盟国間および地域間の発展格差の縮小を目指す EU の財政支援制度。
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太陽光発電設備の設置には 2 万ユーロあまりの投資が必要で、これまで減価償却には 20
年以上の期間が必要であったが、ワロン地域政府は、「SOLWATT」プログラムにより、7
年あまりで減価償却が可能になるとしている。
2.太陽光発電進展状況(例)
2007 年 9 月に、ドイツ国境に近いヴェルヴィエ市にある中小企業 Alan & CO(歯科製
品の製造)の社屋の 1,200m2 の屋根に設置された 264 の太陽光モジュールが稼働を開始し
た。ワロン地域では、最大規模の太陽光発電施設であり、総投資額はおよそ 30 万ユーロ。
同施設は年間 36,000kWh の電力を発電する能力があり、同社の必要とする電力の 50%あ
まりを供給できる。結晶系太陽光電池が使用されており、30 年以上の寿命が保証されてい
る。同社は、グリーン電力に与えられるグリーン証書の恩恵を受けるほか、再生可能エネ
ルギーに対するワロン地域政府の補助金制度やベルギー連邦政府の税制優遇措置の対象と
なる。
太陽光電池を供給したのは、やはりヴェルヴィエ市にある中小企業 Issol 社で、同社は
2006 年 2 月に資本金 25 万ユーロで発足し、同年 9 月 22 日には、太陽光電池の生産施設
を正式にオープンさせた。当初 8 人だった従業員数は、現在 10 人に増えている。
Issol 社の 2006 年度の主要な市場は、スペイン、イタリア、オランダ、アフリカなどベ
ルギー以外の国々で、生産された太陽光電池の 98%が国外に輸出された。しかし、ワロン
地域政府が太陽光発電の奨励に乗り出したこともあって、2007 年度の同社の売上に占める
輸出の割合は、50%以下と想定されている。なお、同社の 2007 年度の売上は 300 万ユー
ロと予想されている。
同社は、設置される場所に応じてカスタマイズ
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された太陽光電池の生産を得意として
おり、これを BP Solar、Total、シャープ、三洋電機といった大手の競合企業に対抗する
ための有力な「切り札」としている。また、同社のキトル CEO は、
「弊社の太陽光電池の
生産コストの 70%は原料のシリコンで、人件費は 6%でしかない」として、生産移転の必
要もないとしている。「太陽光電池をどこで購入したらよいか、知らない人が多い」(同
CEO)ことから、同社はインターネットを通じた販売にも力を入れている。今後は、資本
金の倍増が目標となる。
Issol 社の発足当時、ベルギーでは太陽光発電はあまり普及していなかった。しかし、キ
トル CEO は、
「ベルギーでは、太陽光発電の利用が奨励されておらず、太陽光エネルギー
は一般の人に馴染みのないものとなっているが、ベルギー市場は素晴らしい潜在力を秘め
ている」と語っていた。同 CEO によると、ワロン地域の住民の 5%が今後 5 年間で、地域
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customize ユーザの用途や使用方法、好み、設備の設置場所等に合わせて、製品の基本形に変更を加える事。
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政府の奨励制度を利用して 5kWp の太陽光電池を設置すれば、現在の 1 万倍に相当する
350MW の発電が可能になるほか、1,500 口の雇用(セルの組み立て:800 口、太陽光電
池の設置:300 口、研究開発:50 口、間接雇用:300 口)が創出される、としている。
調査会社 Eurostaf(フランスの経済紙 Les Echos グループの系列)が 2007 年 4 月に発
表した調査「世界の太陽光発電発展の展望」によると、太陽光発電により生産される電力
は、2002 年に比べ 40%増加している。Eurostaf はこうした傾向は今後も続くとし、発電
量は年 35%の割合で増加、2015 年には 41,200GWh、2020 年には 66,400GWh に達する
と予想している。また、Eurostaf によると、世界中で設置される太陽光電池は、2005 年
の 3,700MWp から 2020 年には 66,000MWp に増える。一方、グリーンピースによると、
太陽光発電の世界市場は、2005 年の 70 億ユーロから 2015 年には 310 億ユーロに拡大す
る、としている。
出典
ワロン地域(エネルギー):http://energie.wallonie.be/xml/doc-IDC-2822-.html
アントワーヌ大臣のホームページ:
http://www.min-antoine.be/dossiers/dossiers.php?id_dossier=407
Energie Facteur 4(SOLWATT):http://www.ef4.be/fr/photovoltaique/plan-solwatt/
Issol 社:http://www.issol.eu/
Eurostaf:
http://electronique.eurostaf.fr/fr/catalogue/marche_photovoltaique/resume.html?det
ail&PHPSESSID=t3softqk9i2qtkfs7eilquhgb3
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