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投資不動産に係る会計基準の比較検討
一 投資不動産 に係る会計基 準の比較検討 一 45 投資不 動産 に係 る会計基準 の比較検 討 −SSAP19号 とIAS40号 を取 り上 げ て一 大 キ ー ワ ー ド:SSAP19号 、IAS40号 智 弘 、投 資不動産 、公正価値 評価 、評価差 額、原価 モデル 目 1.は 野 次 じめ に ll.会 計 基 準 の 背 景 と概 要 1.イ ギ リス の会 計 基 準(SSAP19号) 2.IASCの 会 計 基 準(IAS40号) 皿.会 計 基 準 の 比 較 検 討 1.投 資不動産 の定義 2.公 正 価 値 評 価 と評 価 差 額 の 会 計 処 理 IV.お わ り に 1.は じめ に 現 在 、 投 資 不 動 産 の 会 計 を 個 別 の 会 計 基 準 で 規 定 す る 国 ま た は 機 関 に は 、 イ ギ リス 、 ニ ュ ー ジ ー ラ ン ドお よ び 国 際 会 計 基 準 委 員 会(InternationalAccountingStandards Committee、IASCと 略 す)が あ るnn。そ の 他 の 国 々 で は 原 則 的 に 固 定 資 産 と 同 様 の会 計 処 理 が 適 用 され る た め 、 投 資 不 動 産 に係 る個 別 の 会 計 基 準 は公 表 され て い な い 。 し か しな が ら、会 計 基 準 の 国 際 的 調 和 化 を 進 め るIASCが 、2000年4月 AccountingStandards,IASと 「投 資 不 動 産(InvestmentProperties)」 略 す)40号 に 国 際 会 計 基 準(International を ,公表 した こ と に よ り、 投 資 不 動 産 の 会 計 が 俄 然 注 目 され る よ う に な って き た 。 そ の 主 要 な 論 点 は 、 投 資 不 動 産 に 公 正 価 値(時 価)評 価 を適 用 す べ きか 否 か で あ る。 公 正 価 値 評 価 の 適 用 は 、 オ フ バ ラ ン ス取 引の オ ンバ ラ ン ス 化 や 恣 意 的 な 利 益 操 作 の 制 限 一 46 経 理 知 識一 等 の 必 要 性 か ら、 金 融 商 品 に 対 して は そ の 意 義 が 広 く認 知 され て い る②。 日本 に お い て も 金 融 商 品(の 一 部)を 時 価 で 評 価 す る 会 計 基 準 が公 表 され て い る。 一 方 、 投資 不 動 産 に っ い て は 、 そ れ が 一 般 に非 金 融 資 産 で あ る との 考 え方 な ど に よ り、 公 正 価 値 評 価 の 適 用 に つ い て は 、 賛 成 あ る い は 反 対 の 立 場 か ら様 々 な 見 解 が提 示 され る こ と に な る。 本 稿 の 目的 は 、 投 資 不 動 産 の 会 計 基 準 を 世 界 に 先 駆 けて 公 表 し た イ ギ リス と、 日本 の会 計 基 準 の 動 向 に 多 大 な 影 響 を及 ぼ し得 るIASCに 目 を 向 け、両 者 の会 計 基 準 の 背 景 、内 容 お よ び特 質 な ど に つ いて 比 較 検 討 す る こ とに あ る。 以 下 、 第H章 る イ ギ リ ス の 会 計 基 準 とIASCの 続 く第 皿 章 で は 、2つ で は ま ず 、 投 資 不 動 産 に係 会 計 基 準 に つ い て、 そ の 背 景 と 内 容 を簡 単 に 整 理 す る。 の会 計 基 準 の う ち、 と く に投 資 不 動 産 の 定 義 と 公 正 価 値 評 価 お よ び 評 価 差 額 の 会 計 処 理 に 係 る 会 計 規 定 を比 較 検 討 す る もの と した い 。 11.会 計 基 準 の 背 景 と概 要 1.イ ギ リス の 会 計 基 準(SSAP19号) イ ギ リス に お い て 投 資 不 動 産 の 会 計 を規 定 す る の は 、 会 計 実 務 基 準 書(Statementsof StandardsAccountingPractice、SSAPと forInvestmentProperties)」 略 す)19号 で あ る。SSAP19号 は 当時の会計 基準設定 機関で ある会 計 基 準 委 員 会(AccountingStandardsCommittee、ASCと も の で 、1992年10月 もっ と もASCと か ら1999年2月 「投 資 不 動 産 の会 計(Accounting 略 す)が1981年11月 に公 表 した まで に5回 の 小 幅 な 修 正 を経 て 現 在 に 至 っ て い る。 して は 、 当 初 、 個 別 の 会 計 基準 に よ っ て投 資 不 動 産 の 会 計 を 規 定 す る意 図 は 持 っ て い な か っ た よ う で あ る 。 な ぜ な ら、1980年9月 (ExposureDraft,EDと 略 す)26号 に 公 表 され た 公 開 草 案 「 投 資 不 動 産 の 会 計 」 は 、 あ く まで もSSAP12号 「 減 価 償 却 の会 計(AccountingforDepreciation)」 を追 補 す る もの と して 公 表 さ れ た に 過 ぎ な いか らで あ る。 そ れ が 最 終 的 にSSAP12号 か ら切 り離 さ れ 、 別 個 の 会 計 基 準 と して 公 表 さ れ た の は 、 「従 来 、"properties"な 扱 わ れ て き た"土 地 ・建 物"に る 名 称 の も と に 減 価 償 却 の 対 象 外 と して 一 般 に取 り つ い て も有 限 の 耐 用 年 数 を 有 す る 限 りす べ て 減 価 償 却 が 強 制 さ れ る こ とに な っ た。」[原(1982年)、1ペ ー ジ]こ と に 、当 時 の 不 動 産 業 界 か ら強 い 反 対 意 見 が 提 出 され た た め で あ る と され て い る 。 原[同 上 、3-4ペ の論 拠 は 以 下 の3点 ー ジ]に よ れ ば 、 そ の 反 対 に 整 理 で き る と して い る。 ① 実務上、減 価償却 の適用 は困難で ある とする反対論 ② 投 資 不 動 産 の 本 質 を 重 視 す る 立 場 か らの 反対 論 ③ 経 営 政 策 の見 地 か らす る反 対 論 まず 上 記 ① の 反 対 論 は 、 耐 用 年 数 の 見 積 も りや 土 地 と建 物 を 区 別 して 評 価 す る こ と の 困 難 性 を指 摘 す る の が 特 徴 的 で あ る 。 具 体 的 に は、 投 資 目的 で 保 有 す る 不 動 産 と く に賃 貸 目 一 投 資不動産 に係 る会 計基準の比較検 討 一 47 的 の不 動 産 は 、 賃 借 人 が 不 動 産 の 補 修 ・保 全 を 行 う と い う 契 約 を交 わ す の が 一 般 的 で 、 自 己 使 用 目 的 の 不 動 産 に 比 べ て 耐 用 年 数 の見 積 も りが 困 難 で あ る こ と を 指 摘 す る 。 さ らに 、 イ ギ リス で は 伝 統 的 に 土 地 と建 物 を ひ とつ の 有 機 的 な 資 産 とみ る会 計 慣 行 が あ り、 土 地 と 建 物 を個 々 別 々 に購 入 した 場 合 は別 に して も、 土 地 付 建 物 を 購 入 した 場 合 に は 、 土 地 と建 物 の価 額 を 区 別 す る こ と は 困 難 か つ 実 際 的 で は な い と主 張 さ れ る。 次 に 上 記 ② の 反 対 論 は 、 自己 使 用 目的 の 不 動 産 と投 資 目 的 の 不 動 産 と を保 有 目的 の 観 点 か ら明 確 に 区 別 す る こ と を 前 提 に して い る 。 す な わ ち 、 減 価 償 却 は 自己 使 用 不 動 産 に 生 じ る価 値 の 費 消 、 消 耗 あ る い は 喪 失 を 組 織 的 に 反 映 す る た め の 会 計 処 理 で あ っ て 、 そ れ を 賃 貸 収 益 の 獲 得 を 目 的 と して 保 有 す る 投 資 不 動 産 に適 用 す る こ とは 、 保 有 目的 と会 計 処 理 と の 適 合 性 の 面 で 合 理 性 に欠 け る と の 考 え に 基 づ い て い る。 最 後 に 上 記 ③ の反 対 論 は 、 多 く の 不 動 産 を保 有 す る 不 動 産 会 社 に とっ て 、 減 価 償 却 の 適 用 は 当 該 会 社 の 財 政 状 態 お よ び 経 営 成 績 に 悪影 響 を 与 え か ね な い と の懸 念 か ら導 か れ る。 つ ま り、 減 価 償 却 が適 用 され る と、 減 価 償 却 費 の計 上 に よ っ て 企 業 利 益 が 圧 迫 され 、 配 当 不 能 に陥 り、 再 評 価 剰 余 金 が 大 幅 に 減 少 な い し 消滅 す るよ う な 事 態 が 起 こ り得 る と の考 え か ら 主 張 され る。 原[同 上 、4ペ SSAP19号 ー ジ]に よ れ ば、 こ の経 営 政 策 的 見 地 か ら の 反 対 論 が 、 を公 表 せ しめ る最 大 の原 動 力 に な った と 指 摘 され る。 こう し た 反 対 論 を 背 景 と して 、 イ ギ リス で は 、 投 資 不 動 産 の 会 計 基 準 がSSAP19号 う形 で 公 表 され る に至 っ た。 そ の 内 容 は 全 体 で19の パ ラ グ ラ フか ら な り、 第1部 (pars.1∼6)、 よ び 第4部 第2部 の 用 語 の 定 義(pars.7∼8)、 第3部 の解 説 の 会 計 基 準(pars.9∼16)お の イ ギ リス と ア イ ル ラ ン ドに お け る 法 的 要 件(pars.17∼19)の4部 され る 。 図 表(本 稿49ペ ー ジ)はSSAP19号 とい か ら構 成 に おけ る投資 不 動産 の会 計処 理 と開示 に係 る 内 容 を整 理 した も の で あ る。 2.IASCの 会 計 基 準(IAS40号) IASCに お い て 投 資 不 動 産 の 会 計 を 規 定 す る の はIAS40号 の パ ラ グ ラ フ か ら な り 、 目 的 、 範 囲(pars.1∼3)、 ∼16)、 当 初 の 測 定(pars s.24∼50)、 .17∼21)、 振 替(pars.51∼59)、 発 効 日(pars.75∼75)、 定 義(pars.4∼14)、 事 後 の 支 出(pars.22∼23)、 開 示(pars.65∼69)、 現 行IASに 対 す る 修 正 お よ びIAS25号 て 規 定 し て い る 。 ま た 会 計 基 準 で は な い が 、IAS40号 (pars.1∼12)、 付 録A(IASの 図)お よ び 付 録B(pars.B1∼B67)が で あ る 。IAS40号 は 全 体 で75 認 識(pars.15 当 初 認 識 後 の 測 定(par 経 過 規 定(Dars.70∼73)、 の廃止 といっ た内容 につい を 理 解 す る た め の 記 述 と して 、 序 説 適 用 対 象 と な る 多 様 な 種 類 の 不 動 産 を要 約 す る た め の判 定 追 加 収 録 さ れ て い る。 パ ラ グ ラ フ の 数 か ら も 分 か る よ う に 、IAS40号 で は 投 資 不 動 産 の 当 初 認 識 後 の 測 定(評 価)に 最 も 多 く の 規 定 を 設 け て い る 。 同 様 に 、 序 説 や 付 録Bに お い て も そ の 説 明 に 多 くの 一 48 経 理 知 識一 ペ ー ジ を費 や し て い る。 図 表 に は 、 イ ギ リス のSSAP19号 と対 比 す る 形 式で 、IAS40号 に お け る 投 資 不 動 産 の 定 義 、 当 初 認 識 後 の測 定(評 価)、 評 価 差 額 の会 計 処 理 お よ び 開 示 に係 る主 な 内 容 が 整 理 さ れ て い る。 IAS40号 はIASCが2000年4月 され たIAS25号 に 公 表 し た も の で 、 そ の 経 緯 か ら す る と1986年 「 投 資 の 会 計(AccountingforInvestment)」 しか しな が ら、 別 稿[大 野(2002年b)、174-177ペ 号 の根 底 に あ る 考 え 方 は 、 実 質 的 に はIAS25号 を形式 的に引き継 いで いる。 ー ジ]に お い て 検 討 した よ う に、IAS40 とは 異 な っ て い る。 また 、IAS40号 価 償 却 を適 用 す る評 価 モ デ ル(原 価 モ デ ル)の 選 択 が 認 め られ る が 、1999年7月 れ たED64号 に公 表 では減 に公 表 さ 「 投 資 不 動 産 」 で は、 投 資 不 動 産 に対 す る 全 面 的 な 公 正 価 値評 価 の 適 用 が 提 案 され て いた こ と に注 意 しな け れ ば な らな い「m。この よ う な 変 更 に 関 して 、IAS40号 で は、 そ の 理 由 を以 下 の よ うに 述 べ て い る。 「当理 事 会 が 非 金 融 資 産 に対 して 公 正 価 値 会 計 モ デ ル を導 入 した の は 、 本 基 準 書 が 最 初 の こ とで あ る 。ED64号 に 対 す る コ メ ン トで は、 多 数 が この 措 置 を 支 持 した が 、 そ れ ら以 外 の 多 数 は 依 然 と して 非 金 融 資 産 へ の 公 正 価 値 モ デ ル の 拡 大 に つ い て、 重 要 な 概 念 上 お よ び 実 務 上 の 疑 義 を 有 し て い る こと を示 した 。 ま た 一 部 の 者 は 、 一 定 の不 動 産 市 場 は 公 正 価 値 モ デ ル が 容 易 に 機 能 で き る ほ ど 成 熟 して い な い と考 え る 。 さ ら に一 部 の 者 は、 投 資 不 動 産 の 厳 密 な 定 義 を 設 定 す る こ と は 不 可 能 で あ り、 した が っ て 現 時 点 で 公 正価 値 モ デ ル を 要 求 す る こ とは 無 理 で あ る と考 え る。」[IAS40号 、IntrOduction,par.7] 上 記 の 引用 の よ う に、IASCで は 原 価 モ デ ル の選 択 が 認 め られ る も の の 、基 本 的 に は 依 然 と して 公 正 価 値 モ デ ル の優 位 性 を 固辞 し続 け て い る。 な ぜ な ら、 原 価 モ デル の 選 択 は 「い く つ か の 不 動 産 市 場 が い っ そ う 成 熟 す る ま で の 時 間 的 猶 予 を 与 え る」[IAS40号 Introduction,par.8]た 、 め の も の と考 え られ てお り、 そ の 間 、 「 財 務 諸 表 の作 成 者 お よ び 利 用 者 が 公 正 価 値 モ デ ル の 使 用 を 通 じて よ り多 くの 経 験 を 得 る こ と を 可 能 にす る」[IAS40 号 、Introduction,par.8]こ 将 来 、IAS40号 とが 期 待 され て い る か らで あ る。 こ う し た 指 摘 を考 慮 す る と、 で は 原 価 モ デ ル が 除 去 され 、 公 正 価 値 モ デ ル へ の 一 元 化 が 図 られ る可 能 性 が 高 い もの と い え る。 一 図 表:SSAP19号 とIAS40号 規定項 目 投資不動産 に係 る会 計基準の比較検 討 一 49 の概要 SSAP19号 の概要 IAS40号 の概 要 投資 不動産 の定義 投 資不 動産 とは 、土 地 お よ び (あ る い は)建 物 に 対 す る 権 利 で あ っ て 、(a)そ の 建 設 工 事 お よ び 開 発 が 完 了 し て お り、 か つ 、(b)投 資 収 益 力 、つ ま り、 当事 者 間 の対 等 な 立場 で 取 り 決 め られ る賃 貸 収益 を得 る 目 的 で 所有 す る不 動産 の こ と を い う。 投 資 不 動産 とは 、賃 貸 収 益 の 獲 得 お よ び (ある いは)資 本増 加 を 目的 と して 保有 す る土 地 およ び(あ るい は)建 物 で あって 、 (a)製品 の 製造 ・販 売 また は サ ー ビス の 提 供 あ る い は経 営 管 理 目的 の た め に使 用 す る もの、 お よび(b)通常 の 営 業 過程 で販 売 され る ものを除 く不 動産 の ことを い う。 当初認識 後の 投 資 不 動産 は、 自由競 争 市 場 にお け る価 値 で 貸 借対 照 表 に 記 載 しな け れ ば な らな い。 し た が って、 投 資 不 動産 には 規 則 的 な 減価 償 却 は 適用 され な い。 た だ し、賃 貸 契 約 に よ り 保 有 す る 不 動 産 で、 契約 有 効 期 間 が20年 以 下 の ものは、 少 な く ともそ の契 約期 間 にわ た って 、償 却 を実 施 しな けれ ばな らな い。 企 業 は 公 正価 値 モ デ ル また は 原価 モデ ル の いず れ か を会 計 方 針 と して 適用 しな け れ ば な らな い。 また 、選 択 した 方 針 は 投 資 不 動 産 の すべ て に対 して 適 用 しな けれ ばな らな い。 公正 嚇 モデル こ公正 価 値 モ デル を選 択 す る企 業 は、 公 正価 値 が 信 頼性 を も って 測 定 不 可 能 な 場 合 を 除 い て、 す べ て の投 資 不 動 産 を公正 価 値 で 評 価 しな け れ ば な らな い。 なお、 投 資不 動産 の公 正価 値 は、 過 去 また は 将来 の いず れ の 日で もな く、 貸 借 対 照 表 日現 在 の市 場 の実 勢 お よ び状 況 をあ らわ さな けれ ばな らな い。 願 モラ%ご 原 価 モ デル を選 択す る企業 は、投 資不 動 産 のす べ て を減 価償 却 累 計 額 お よび 減 損 累 計額 を控 除 した 取 得原 価 で評価 しな けれ ばな らな い。 測 定(評価) 評 価差額 の処理 投 資不 動 産 の 市場 価 値 の変 動 投 資不 動 産 の 公 正価 値 の変 動 か ら生ず る 分 は、 投 資 再評 価 積 立金 の変 損益 は、発 生 した 期 の 純 損 益 に含 め な け 動 と して 計 上 し、 総 認識 利 得 れば な らな い。 損失 計 算 書 に 開示 しな け れ ば な らな い。 た だ し、 投 資不 動 産 の価 値 変 動 が恒 久 的 で あ る と予 想 され る場 合 に は、 そ の 評価 差 額 は 当期 の損 益 に 算 入 しな け れば な らな い。 補 足 的開示項 目 評 価 を実 施 し た者 の 氏 名、 鑑 定 人 の 資格 の 明 細 お よび 評 価 基 準 を 開示 しな け れ ばな らな い。 も し、評 価 を実 施 した 者 が 当該会 社 また は グル ー プの 従 業 員 か 役 員 の場 合 に は、 そ の事 実 を 開示 しな け れ ばな ら な い。 2モ テカ 繊 分 のみ'企 業 は、次 の内容 を 開 示 す る。(a)分類 が困 難 な 場 合 には、 投 資 不 動産 を 区別 す る た め に 企 業が 設 定 し た 規 準、(b)投資 不 動産 の公 正 価値 の算 定 に際 し採用 され た方 法 およ び重 要な 前提 、 (c)独 立 の 鑑 定 人 に よ る 評価 に基 づ いた 投 資 不動 産 の 公 正価 値 の範 囲、(d)投資 不 動 産 か らの 賃 貸料 収 入 な ど、損 益 計算 書 に含 まれ る金 額 、(e)投資 不 動 産 の 実現 ま た は収 益 お よ び売 却 対 価 の 制 限 お よ び金 額 、(f)投資 不動 産 の購入 、建 設 または 開発 に 関す る重 要 な 契 約 上 の債 務 、 あ る い は 維 持 また は 改 良 の ため の重 要 な 契 約 上 の 債 務。 一 50 経 理 知 識一 11│.会 計 基 準 の 比 較 検 討 1.投 資不動産 の定義 (1)不 動 産(property)の 概念 投 資不 動 産 の会 計 基 準 に 関 して ひ と つ の 論 点 と な る の は、 投 資 不 動 産 を いか に 定 義 す る の か とい う こ とで あ る。 そ して 、 投 資 不 動 産 の定 義 を 検 討 す る 際 に 重 要 な こ と は 、 不 動 産 の 概 念 と投 資 の意 義 な い し 目的 と を便 宜 的 に分 けて 検 討 す る こ とで あ ろ う。 こ こで は ま ず 不 動 産(property)の 概 念 に つ い て 検 討 して み た い。 不 動 産 とい う用 語 は 、 日常 的 に 、 土 地 、 建 物 あ る い は そ の両 方 を指 す 用 語 と して 用 い ら れ て い る。 あ ま りに も 身近 な 用 語 の た めで あ ろ うか 、 不 動 産 と い う用 語 を会 計 学 で 使 用 す る 際 、 そ の 内 容 を 改 め て 問 い 直 す こ と は、 ほ とん ど の 場 合 に お いて な さ れ て いな い 。 日常 的 あ る い は 一 般 的 に 用 い られ て い る用 語 を、 そ の ま ま の 形 で 会 計 学 に 持 込 ん だ と し て も、 そ の こ と 自体 は 特 に 問 題 で は な い。 しか し、 会 計 学 が 他 の 領 域 とは 区 別 さ れ た ひ と つ の 学 問 領 域 と し て 存 在 して い る以 上 、 結 果 的 に同 じ内 容 を示 す と して も、 そ の 前 提 と し て 用 語 の 意 味 内 容 を 一 度 検 討 して み る 必 要 が あ ろ う。 な ぜ な ら、 同 一 の 対 象 で あ っ て も、 対 象 を い か に 捉 え る の か は、 学 問 の特 殊 性 に 大 き く依 存 す る こ とが 多 い か らで あ る(`)。 さ て 、 投 資 不 動 産 に い う不 動 産 とは 、"property"と い う用 語 で 示 さ れ る 不 動 産 の こ と で あ る 。 日本 で は 明確 に 区別 さ れ る こ とは な い が 、 欧 米 にお け る こ の"property"な る用 語 は 、"realestate"と い う用 語 と は、 概 念 的 に 区 別 し て用 い られ て い る。 具 体 的 に は 、 " realestate"が 土 地 ・建 物 等 の 物 理 的 な 存 在 を指 す 用 語 と し て 一 般 に使 わ れ る の に 対 し て 、"property"は 法 律 上 の 概 念 と して 用 い られ る[lnternationalValuationStandards Committee(1997年)、par.2.3お よ びpar.3.1]。 ま た"property"と い う用 語 は 、 広 義 に は土 地 ・建 物 に 付 帯 す る 諸 権 利 を一 体 化 し た も の と し て、 狭 義 に は そ の諸 権 利 の み を 示 す も の と し て 用 い ら れ る の で あ る[lnternationalValuationStandardsCommittee、 (1997年)、par.2.3,par.3.2お よ び 野 村 総 合 研 究 所(1991年)、145ペ こ う した こ と を 念 頭 に 置 き な が らSSAP19号 とIAS40号 ー ジ]。 の投 資不動産 の定義 をみ るに、 そ こ に は 土 地 ・建 物 に対 す る権 利 に限 定 して 不動 産 を定 義 す るSSAP19号 む有 形 の土 地 ・建 物 と して 不 動 産 を 定 義 す るIAS40号 ち、 投 資 不 動 産 を 定 義 す る にあ た り、SSAP19号 と、 諸 権 利 を 含 との 相 違 に 気 付 くで あ ろ う。 す な わ は 狭 義 の 不 動 産 概 念 を 前 提 と し、IAS40 号 は 広 義 の 不 動 産 概 念 を 前 提 に して い る。 さ らに、 投 資 不 動 産 に い う不 動産 は 、SSAP19 号 で は 有 形 の 資 産 と い う よ りは む しろ 無 形 の 資産 と して 理 解 さ れ て お り、IAS40号 ではど ち らか と い え ば 有 形 の 資 産 と して 理 解 さ れ る。 投 資 不 動 産 を 定 義 す る に あた り、 いず れ の 不 動 産 概 念 を 前 提 と す べ き か、 そ の 是 非 を 問 う こ と は 難 し い。 と い うの も、 不 動 産 に対 す る考 え 方 は 、 そ の 国 の 歴 史 、 制 度 あ る い は 慣 一 投資 不動産 に係 る会計基準 の比較検討 一 51 習 な ど に よ り大 き く異 な る もの で あ り、 そ の 違 い が不 動 産 の 概 念 に 反 映 され る もの と考 え られ る か らで あ る。 た と え ば 、 土 地 ・建 物 に 付 帯 す る 諸 権 利 を 焦 点 とす る不 動 産 概 念 、 つ ま りイ ギ リス を 典 型 とす る狭 義 の不 動 産 概 念 は 、 理 論 上 、 す べ て の 土 地 は 国 王 に 属 す る との 考 え 方 を基 礎 と して い る[野 村 総 合 研 究 所(1991)、206ペ ー ジ]。 した が っ て 、 不 動 産 所 有 権 も絶 対 的 所 有権 で は な く、 不 動 産 に関 す る 諸 権 利 を保 障 さ れ た 「期 限 の あ る所 有 権(占 有 権)」 と して 特 徴 付 け られ る。 そ の 不 動 産 占有 権 は 、 相 続 の 自 由 ま で 保 障 さ れ た 最 も 完 全 な 占 有 権 で あ る 「フ リー ・ホ ー ル ド」 と、 与 え られ た 期 間 で の み フ リー ・ホ ー ル ドの 所 有 者 と同 様 の 諸 権 利 を 行 使 で き る 「リー ス ・ホ ー ル ド」 と に分 け られ る が[野 村 総 合 研 究 所(1991年)、 208ペ ー ジ]、狭 義 の不 動 産 概 念 の 特 徴 は 、 いず れ に し て も不 動 産 の 「所 有 」 よ り も 「 利 用」 を重 視 して 概 念 規 定 が な され る。 一 方 、IASCに 見 られ る広 義 の 不 動 産 概 念 は、 諸 権 利 を 含 む 有 形 の 土 地 ・建 物 を焦 点 とす る概 念 で あ る こ とか ら、 不 動 産 の 「 利 用 」 と と も に、 不 動 産 の 「 所 有 」 そ れ 自体 も概 念 規 定 上 の 基 礎 に 据 え られ て い る。 しか も この 場 合 、 「 利用」 と 「 所 有」 の 優 劣 関 係 は必 ず し も 明 確 に は な らな い た め 、 不 動 産 の 「 利 用 」 を重 視 す る 国 で も、 不 動 産 の 「 所 有」 を重視す る 国 で も、 不 動 産 の 概 念 そ の も の が 相 対 的 に 受 容 しや す い もの と な っ て い る。IASCは 投 資 不 動 産 の 定 義 を す る に あ た り、 そ う した 広 義 の 不 動 産 概 念 を前 提 に した こ と にな る 。 (2)投 資の 目的 次 に 、SSAP19号 とIAS40号 に お け る投 資 の 目 的 に つ い て 検 討 し て み よ う。 投 資 不 動 産 の 定 義 に お いて 、SSAP19号 とIAS40号 とで 共 通 す る点 は 、 投 資 不 動 産 と他 の 不 動 産 と が 、 そ の 保 有 目 的 な い し 投 資 目的 の 観 点 か ら区 別 さ れ る こ とで あ ろ う。 そ し て 、 投 資 不 動 産 で あ る こ との 判 断 基 準 と して 、 不 動 産 が 企 業 の 主 た る営 業 活 動 とは 切 り離 され た 存 在 で あ る とす る点 も共 通 す るen。す な わ ち 、SSAP19号 で は 「企 業 の 所 有 す る 固 定 資 産 の 大 部 分 が、 営 業 に お い て 費 消 さ れ る の で は な く投 資 と して 保 有 さ れ て お り、 これ を 処 分 して も企 業 の 製 造 活 動 や 営 業 活 動 に 大 きな 影 響 を 及 ぼ さ な い場 合 に は 、SSAP12号 は 異 な る 会 計 処 理 を す る 必 要 が あ る。」[SSAP19号 、par.2]と され 、IAS40号 と では 「 投資 不 動 産 は 、 企 業 に よ っ て 保 有 され る 他 の 資 産 と は か な り の 程 度 独 立 し た キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー を 生 み 出 す 。」[IAS40号 、par.5]と され て い る。 しか しな が ら、 そ れ ぞ れ の 会 計 基 準 に定 義 さ れ た 具 体 的 な投 資 の 目的 をみ る と、 両 者 に は ひ と つ の 重 要 な 違 い を 見 出 す こ とが で き る。 す な わ ち 、SSAP19号 有 か ら生 じ る賃 貸 収 益 の獲 得 が 主 た る 目的 で あ る と さ れ 、IAS40号 で は 土 地 ・建 物 の 保 では賃貸 収益の獲得 と とも に資 本 増 価 の 目的 が 加 え られ て い る 。 よ っ て 投 資 に 対 す る 考 え 方 も 、 不 動 産 の 概 念 と 同様 に、IAS40号 の方 が 広 く捉 え られ て い る と いえ る。 一 52 SSAP19号 経 理 知 識− に み られ る よ う に 、 投 資 の 目 的 を賃 貸 収 益 の 獲 得 に 限 定 し た場 合 、 そ こ に は 賃 貸 収 益 の獲 得 に 対 す る企 業 の積 極 的 な 意 思 が 存 在 し な け れ ば な らな い 。 つ ま り営 業 活 動 にお け る 余 剰 資 金 を 単 に不 動 産 の 取 得 に あ て た と い う だ け で は 、 投 資 不 動産 に定 義 され る 投 資 に は 該 当 しな い。 結 果 的 に、 取 得 した 不 動 産 の価 格 が 上 昇 し保 有 利 得 が 生 じた と して も、 単 な る保 有 に よ っ て 生 じ た利 得 は 、 不 動 産 へ の 投 資 に よ っ て も た ら され た も の で は な い。 こ こで は 、 賃 貸 収 益 の 獲 得 に 高 く貢 献 す る か ら こそ 、 不 動 産 の 価 格 が 上 昇 し、 そ の 結 果 、 保 有 利 得 が 生 じ る もの と考 え る こと が 重 要 にな る 。 一 方 、IAS40号 に み られ る よ う に、 賃 貸 収 益 の 獲 得 に加 え て 、 資 本 増 加 が 投 資 目的 に 追 加 さ れ る と、 投 資 に対 す る 企 業 の 積 極 的 な 意 思 の 存 在 は 、 必 ず し も必 要 充 分 な 条 件 と は い え な くな るで あ ろ う。 す な わ ち 、 常 識 的 に 考 えれ ば、 事 前 に 価 格 下 落 が 予 想 さ れ る不 動 産 に余 剰 資 金 を 投 下 す る企 業 は な い 。 しか し、 明 確 な利 用 目 的 もな い ま ま 、 価 格 が 比 較 的 安 定 して い る とい う理 由 で 、 余 剰 資 金 が 不 動 産 の取 得 に まわ され る可 能 性 は あ る。 つ ま り、 こ う した 形 で の 不 動 産 へ の 資 金 投 下 は 、そ れ で け で 資 本 増 加 を 目的 と した 投 資 と判 断 さ れ る こ と に な り う る。 極 端 な 言 い 方 をす れ ば 、 販 売 目的 不 動 産 、 自 己使 用 目的 不 動 産 の い ず れ に も 区 分 さ れ な い不 動 産 へ の 投 資 は 、 す べ て こ こに い う 投 資 不 動 産 へ の投 資 と い う こ と に な るで あ ろ う。 そ の 是 非 は と もか く と して 、IAS40号 の投 資 不 動 産 は 相 対 的 に 広 く定 義 さ れ て お り、 保 有 目 的 が 曖 昧 な 不 動 産 に つ い て も投 資 不 動 産 に該 当 す る こ と に な る。 2.公 正 価 値 評 価 と評 価 差 額 の 会 計 処 理 投 資 不 動 産 の 会 計 基 準 に関 して 最 も 重 要 な 論 点 とさ れ る の が 、 投 資 不 動 産 に 公 正 価 値 評 価 を 適 用 す べ き か 否 か で あ る。 そ して 、 この 問題 を検 討 す る 際 に重 要 な こ とは 、 減 価 償 却 の適 用 を否 定 す る論 拠 が 、 そ の ま ま公 正価 値 評 価 を正 当化 す る 論 拠 と は な りえ な い と い う こ とで あ る。 もち ろ ん 、SSAP19号 の 設 定 過 程 で 提 示 さ れ た 反 対 論 は 、 投 資 不 動 産 の 会 計 処 理 を検 討 す る 上 で 見 逃 して は な らな い論 点 で あ る。 と は い え、 経 営 政 策 の 見 地 か らす る 反 対 論 は も ち ろ ん 、 減 価 償 却 の 適 用 が 会 計 実 務 上 困難 で ある とす る 反 対 論 は 、 減 価 償 却 の 会 計 そ れ 自 体 を も否 定 す る こ と に な りか ね な い。 重要 な こ と は、 公 正 価 値 評 価 自体 に何 らか の 意 義 が 見 出 され な け れ ば な らな い と い う こ と で あ る 。 最 初 に指 摘 した よ うに 、 公 正 価 値 評 価 の 適 用 は 、 現 在 、 金 融 商 品 に 関 して は 広 く一 般 に 認 め られ て い る 。 そ れ は 投 資 者 に 対 す る会 計 情 報 の拡 充 化 要 請 を背 景 と して 、 よ り経 済 的 実 態 に 近 い会 計 情 報 の提 供 を なす こ と に あ る 。 と りわ け、 営 業 活 動 と は 別 の次 元 で な され る投 資 は 、 市 場 との 関係 性 や 資 産 の 自 由換 金 性 が 相 対 的 に 高 い こ と か ら、 取 得 原 価 と は 別 の測 定 属 性(公 正 価 値)に よ っ て評 価 す る こ と の合 理 性 が 主 張 さ れ る。 そ う した こ と は 投 資 不 動 産 に対 す る 公 正 価 値 評 価 の適 用 に 関 して も同 様 に い え る こ とで 、 そ の 主張 の 背 後 に あ 一 投資不動 産 に係 る会 計基準の比較検 討 一 53 る考 え 方 と して は、 財 政 状 態 の 表 示 を 第 一 義 に 重 視 す る も の と 経 営 成 績(財 務 業 績)の 表 示 を重 視 す る もの と が あ る。 財 政 状 態 の 表 示 を 重 視 す る か 、 経 営 成 績 の 表 示 を重 視 す る か の 違 い は 、 典 型 的 に は、 公 正 価 値 の 適 用 に よ っ て 生 じる 評 価 差 額 の会 計 処 理 の違 い と な っ て 現 れ る 。 換 言 す れ ば、 評 価 差 額 を 当 期 の純 損 益 に 算 入 す る か 否 か の違 い に あ る と い っ て も よ い で あ ろ う。 具 体 的 に は、 評 価 差 額 を 投 資 再 評 価 剰 余 金 に 計 上 す るSSAP19号 す るIAS40号 SSAP19号 の 会 計 処 理 と 当 期 の純 損 益 に算 入 の 会 計 処 理 とが あ る。' とIAS40号 で は い ず れ も 、 投 資 目的 で 保 有 す る不 動 産 に つ い て は 、 毎 期 組 織 的方 法 で 減 価 償 却 費 を 計 上 す る よ りも、 公 正 価 値 お よ びそ の 変 動 の ほ う が 重 要 で あ る 考 え られ て い る。 す な わ ち 、 減 価 償 却 は 自 己 使 用 不 動 産 に係 る 価 値 の 費 消 、 消 耗 あ る い は 喪 失 を財 務 諸 表 に 反 映 さ せ る た め の も の で あ り、 賃 貸 収 益 の 獲 得(お よ びIAS40号 では 資本増 価 が 加 わ る)を 目 的 とす る 不 動 産 へ の 投 資 は 公 正 価 値 に よ っ て 評 価 し た 方 が、 会 計 情 報 利 用 者 に とっ て 有 用 な 情 報 が 提 供 で き る と考 え られ て い る。 し か し、SSAP19号 とIAS40号 とで は 、 公 正 価 値 評 価 の変 動 に よ る 評 価 差 額 の 会 計 処 理 に違 い が あ る。 ま ずSSAP19号 で は、 評 価 差 額 は 当期 の 純 損 益 に算 入 さ れ る の で は な く、 投 資 再 評 価 剰 余 金 と して 資 本 の 部 に計 上 され る。 そ う した 会 計 処 理 を妥 当 とみ る 背 景 に は、 公 正 価 値 評 価 が ど ち らか とい え ば経 営 成 績 の 表 示 よ り も、 財 政 状 態 の表 示 を指 向 す る考 え 方 が あ る か らで あ る。SSAP19号 では、 「 財 政 状 態 を 正 し く 認 識 す る」[SSAP19号 、par.2]た め の 会 計 処 理 と して 、 評 価 差 額 の 資 本 の 部 へ の計 上 を規 定 して い る。 も っ と も、 評 価 差 額 を 投 資 再 評 価 剰 余 金 に計 上 す る こ とに 関 して は 、 単 に 財 政 状 態 の 表 示 を指 向 し た だ けで な く、 純 損 益 の ボ ラテ ィ リテ ィー を 回 避 す る た め に そ の よ う な 会 計 処 理 を 規 定 し た と も考 え られ な いわ け で は な い 。 と い うの も、SSAP19号 では、投 資不動産 の価 値 変 動 が 恒 久 的 な もの で あ る と 予 想 され る 場 合 に は 、 評 価 差 額 は 当 期 の 純 損 益 に算 入 され る か らで あ る[SSAP19号 、par.13]。 一 般 に 公 正 価 値 評 価 の 適 用 に あ た っ て は 、 公 正 価 値 の 短 期 的 変 動 に 伴 う純 損 益 の ボ ラテ ィ リテ ィー が 問 題 視 さ れ て き た 。 こ の 問 題 は 公 正 価 値 評 価 に 対 す る 反 対 論 と して も主 張 さ れ るが 、 公 正 価 値 評 価 を 規 定 す るSSAP19号 にお いて も 例 外 で は な い で あ ろ う⑥。 一 時 的 に 生 じた 評 価 差 額 を 当期 の純 損 益 に 影 響 さ せ な い よ う に す る た め に 、 す な わ ち 公 正 価 値 の一 時 的 な 変 動 で 生 じた 評 価 差 額 を 当 期 の 純 損 益 に 算 入 す る こ と を 避 け る た め に、 投 資 再 評 価 剰 余 金 へ の 計 上 を 求 め た 可 能 性 が な いわ け で は な い。 こ の こ と は 評 価 差 額 を 総 認 識 利 得 損 失 計 算 書(statementoftotalrecognizedgains andlosses)に お い て 開 示 す る とい う こ と に も 無 関 係 で は な い 。 す な わ ち、SSAP19号 で は評 価 差 額 を 投 資 再 評 価 剰 余 金 と し て 資 本 の部 に 計 上す る と と も に、 総 認 識 利 得 損 失 計 算 書(statementoftotalrecognizedgainsandlosses)で も 開 示 す る も の と規 定 して い 一 54 経 理 知 識一 る 。 イ ギ リ ス の 会 計 基 準 審 議 会(AccountingStandardsBoard,ASBと 略 す)に よ れ ば 、 総 認 識 利 得 損 失 計 算 書 の 意 義 は、 企 業 の財 務 業 績 を 当期 の 純 損 益 と い う単 一 の指 標 に 集 約 して し ま う の で は な く、 財 務 業 績 の 重 要 な 構 成 要 素 を 強 調 す る こ とに あ る と さ れ る [ASB(1992年)、TheDevelopmentofStandards劃 。 当 該 計 算 書 は内 容 的 に純 損 益 計 算 書 とは 区 別 され る も の の 、 長 期 保 有 目 的 の 金 融 商 品 や 投 資 不 動 産 に 係 る評 価 差 額(未 実 現 損 益)を そ こ に 開 示 す る こ とで 、 将 来 の 財務 業 績 に 係 る 情 報 を投 資 者 に提 供 で き る も の と考 え られ て い る。 よ っ て、 財 政 状 態 の 表 示 に第 一 義 的 な 意 義 を認 め る と し て も、 財 務 業 績 に 係 る表 示 に も多 分 な 意 義 付 け を な して い る も の と い え る で あ ろ う 。 一方 、評 価 差 額 を 当期 の 純 損 益 に 算 入 す る と規 定 す るIAS40号 は、 「 公 正価 値 モ デ ル の 概 念 上 の 論 拠 は 、主 と して 、そ れ が 最 も 適 切 か つ透 明 に 投 資 不 動 産 の 財 務 業 績 の 実 態 を 示 す 」 [IAS40号 、pa仁B65]こ と に あ る と して い る 。 そ れ ゆ え 、 評 価 差 額 に つ いて 「資 本 勘 定 に 計 上 す る こ と を許 容 ま た は要 求 す る こ とは この 前 提 に 矛 盾 す る こ と に な る。」[IAS40号 pa仁B65]と 、 の考 え 方 を 強 く打 ち 出 して い る 。 公 正 価 値 が 投 資 不 動 産 の 経 済 価 値 を よ り経 済的 実 態 に近 い か た ち で 表 示 す る こ と は い う ま で もな い。 そ れ と 同 時 にIAS40号 が 極 め て 重 要 で あ る と考 え る の は 、 公 正 価 値 の変 動 に よ っ て 生 じ た評 価 差 額 を 当期 の 純 損 益 に算 入 す る こ と、 す な わ ち そ れ を 経 営 成 績 に反 映 す る こ と にあ る。 そ こ に は 純 損 益 の ボ ラ テ ィ リテ ィー の 回 避 と い っ た 考 え は ま っ た く見 受 け られ な い。 む しろ そ れ を財 務 業 績 の ひ とつ と して 積 極 的 に 当期 の 純 損 益 に反 映 さ せ よ う と す る意 図 が あ る。 も っ と も、 上 述 した よ う に、IAS40号 ん 、 当初 案(ED64号)で で は 原価 モ デ ル の 選 択 適 用 が 認 め られ る。 も ち ろ 提 案 さ れ た よ う に、IASCの 根 本 に あ る考 え 方 は あ く ま で も公 正 価 値 評 価 の 適 用 に あ り、 評 価 差 額 を 当 期 の 純 損益 に 反 映 す る こ と に あ る。 しか し、 そ れ を 困 難 に して い る の は、 投 資 不 動 産 の公 正 価 値 そ の も の に対 す る 信 頼 性 の 問題 で あ る。 そ こ でIAS40号 で は 、 そ う し た 問 題 に 対 処 す べ く補 足 的 開 示 項 目 を 詳 細 に 規 定 し て い る。 図 表 に は公 正 価 値 モ デ ル と原 価 モ デ ル に共 通 す る 項 目 の み を 示 して い るが 、 補 足 的 開 示 に係 る項 目 は、 公 正 価 値 モ デ ル と原 価 モ デ ル に共 通 す る 項 目だ けで は な く、 さ ら に は 公 正 価 値 モ デ ル の 適 用 時 に 開 示 す る項 目 と原 価 モ デ ル の 適 用 時 に 開 示 す る項 目が 追 加 され て い る(η 。 な お 、 こ う し た 問 題 はSSAP19号 に 関 して も考 え られ 得 る が 、 イ ギ リス で は 不 動 産 市 場 が 相 対 的 に 整 備 され て お り、 市 場 に お け る価 値 を も っ て評 価 を行 う場 合 に は、 比 較 的 高 い 客 観 性 が 保 持 さ れ る。 しか しな が ら、 鑑 定 人 によ る 評 価 が 実 施 さ れ 、 そ れ を評 価 額 とす る 場 合 に は 、 財 務 報 告 の 信 頼 性 を 確 保 す る た め に、 投 資 不 動 産 を評 価 した 者 の氏 名 、 資 格 お よ び 評 価 基 準 の 開 示 が 求 め られ て い る。 一 IV.お 投 資不 動産 に係る会計基準 の比較検討 一 55 わ りに 本 稿 で は これ ま で 、イ ギ リス とIASCに お け る投 資 不 動 産 の 会 計 基 準 を 取 り上 げ 、そ の 背 景 、 内 容 お よ び 特 徴 に つ い て 比 較 検 討 を行 っ た 。 そ こで 最 後 に、 日本 に お け る投 資 不 動 産 の 会 計 規 定 等 につ い て も、 若 干 考 察 して お く こ と に した い。 周 知 の よ う に、 日本 には イ ギ リ ス やIASCの よ うな 投 資 不 動 産 の会 計 基 準 は存 在 しな い。 通 常 は 、有 形 固 定 資 産 と同 様 の 会 計 処 理 が 適 用 され る に 過 ぎ な い。 ま た 「 財 務諸表等規 則」 第33条 に は、 投 資 不 動 産 を 「投 資 の 目的 で 所 有 す る土 地 、 建 物 そ の 他 の 不 動 産 」 と定 義 す る記 述 は あ る が 、 そ こで 想 定 され る投 資 と は何 か が 明 確 で な い た め に、 投 資 不 動 産 の 定 義 そ の も の が 曖 昧 に な っ て い る 。 と は い え 、 投 資 不 動 産 を 明 確 に 定 義 しな い(あ る い は 定 義 で き な い)の が 、 日本 の状 況 と も い え る。 2000年6月 に 企 業 会 計 審 議 会 か ら公 表 され た 「 固 定 資 産 の 会 計 処 理 に関 す る論 点 整 理 」 と、そ の後 の 審 議 経 過 を明 らか に した 「 固 定 資 産 の会 計 処 理 に 関 す る経 過 報 告 」(2001年7 月 公 表 、「 経 過 報 告 」と略 す)で は 、投 資 不 動 産 の 会 計 処 理 をひ と つ の 審 議 事 項 と して 取 り上 げ て い る。 そ の 出 発 点 とな る 投 資 不 動 産 の 定 義 は 、 最 初 か らIAS40号 た。 そ して 、これ ら一 連 の 審 議 で は 、IAS40号 に準 じる も の と され との 調 和 化 を いか に 図 る のか 、 した が って 公 正価 値 モ デ ル を投 資 不 動 産 に 適 用 す べ きか 否 か の 審 議 が 重 要 な 課 題 と さ れ た 。 現 在 にお い て もそ の 最 終 的 な 結 論 は 出 て いな い。 た だ し、「 経 過 報 告 」が 公 表 さ れ た 段 階 で は 、「 他 の 有 形 固 定 資 産 と 同 様 に取 得 原 価 基 準 に よ る 会 計 処 理 を行 い、必 要 が あれ ば 減 損 処 理 を行 う こ とが 妥 当 で は な い か と考 え られ る 。」[企業 会 計 審 議 会(2001年)、 第 一 の 二]と され た 。 い わ ば 原 価 モ デ ル が 支 持 され た わ けで あ る 。 確 か に、 審 議 が 開 始 され た ば か りの 日本 にお いて は、 公 正 価 値 モ デ ル の 導 入 に は 困 難 と な る 課 題 が 多 数 あ る。 しか しIASCの 将 来 的 な 方 向 性 と して は 、 投 資 不 動 産 に対 す る 全 面 的 な 公 正 価 値 モ デ ル の 適 用 で あ る こ と を 忘 れ て は な らな い。 そ の 時 期 が 何 時 にな る か は わ か らな いが 、 日本 にお け る 問題 は 、 公 正 価 値 モ デ ル の導 入 に対 して 明 確 な 論 拠 を も っ て 賛 成 な い し反 対 の 意 見 を 述 べ る こ とで あ ろ う。 そ の た め に も、 投 資 不 動 産 の 会 計 に つ い て 、 さ らに 積 極 的 に 議 論 を 進 め る必 要 が あ ろ う。 注 (1)2001年4月 の 組 織 再 編 以 後 、IASCは 国 際 会 計 基 準 審 議 会(lnternationalAccounti㎎Standards Board)と い う新 組 織 と して 生 ま れ 変 わ っ た。 しか し、 本 稿 の 考 察 対 象 とな るIAS40号 公 表 され た 会 計 基準 で ある た め、本 稿 で はIAS40号 はIASC当 時 に が公 表 され た 当時 の 組織 名称 を用 い る こと にす る。 (2)金融 商 品 に対 す る 公 正 価 値評 価 の適 用 の意 義 につ いて は 、 大 野[(2002年a)、146-151ペ ー ジ]を 参 照 の こ と。 (3)全面 的 な 公 正 価 値 評価 の提 案(ED64号)か ら、公 正価 値 モ デ ル と原 価 モ デ ル の選 択(IAS40号)へ と変 一 56 経 理 更が な され た こと に対 して 、古 賀[(2000年)、1ペ 知 識一 ー ジ]はED64号 か ら一 歩 後 退 した感 が あ る との指 摘 を して い る。 (4)ある対 象 を ど のよ う に捉 え る のか は、 学 問 の特 殊性 に依 存 す るば か りで な く、 対 象 に 対 す る 論者 の 立 場 や考 え方 に よっ て も左右 され る。 本 稿 の 内容 とは直 接 結び つ か な いが 、 以下 に示 す 笠 井 の 指 摘 は 、 そ れ を 明確 に 示す も ので あ る 。 「 こ の資 産2分 類論(貨 幣 性 資 産 ・費 用性 資 産 分 類 論 … 引用 者)に 問題 が 生 じた こ との 根 因 は 、 本来 、国 民経 済 に 属す る シ ェー マ を機 械 的 に 企 業 会計 に導 入 した こ とに求 め ら れ る。 した が って 、 貨幣 性 資 産 ・費 用性 資 産 分 類 の企 業会 計 的 な 変 容 に よ って 、 妥 当な 資 産 分 類(ひ い て は勘 定 分 類)が 形 成 され 得 る と筆者 は考 え て い る。」[笠井(1997年)、18ペ (5)SSAPI9号 ー ジ] とIAS40号 の そ の 他 の 共 通 点 と して は、 建 設 ま た は 開発 が 完 了 して いな い 不 動 産 に つ い て は 、そ れ が 将 来 投 資 不 動 産 として 使 用 され る も ので も投 資不 動 産 の 定 義 か らは除 外 され る こ とで あ る [SSAP19号 、par.7お よびIAS40号 、par.4]。 また同 一 グル ー プ内 の 他 の会 社 に賃 貸 し、当該 他 の 会 社 が 占有 す る もの に つ いて も、投 資 不 動 産 の定 義 か らは 除外 され る こ とな どがあ る[SSAP19号 、par.8お よ びIAS40号par.4]。 ⑥ 純 損 益 の ボ ラテ ィ リテ ィー が 大 き くな る こ とに 社会 的 な 反発 が 生 じる こと も考 え られ る。 (7)原価 モ デ ル を 適用 した と して も、IAS40号 で は 補足 的 開 示項 目 のひ とつ と して 公 正価 値 の 表 示 が 求 め られ て い る。 した が って 、公 正 価 値 モ デル を選 択 して も、原 価 モ デ ル を選択 して も、信 頼性 あ る公 正 価 値 の 測 定 が で きな い場 合 は 例 外 的 と して、 投 資 不 動産 の 公 正価 値 は見 積 られ な け れ ば な らな い こ と に な る。 (参 考 文 献) ・大 野(2002年a)、 大 野智 弘 稿 「日 本 に お け る 時 価 会 計 の 導 入 」 高 橋 俊 夫 監 修 、 崎 章 浩 ・中 嶋 隆 一 編 著 『会 計 の 戦 略 化 』税 務 経 理 協 会 。 ・大 野(2002年b) 、大 野 智 弘 稿 「投 資 不 動 産 会 計 の 展 開 と 我 が 国 の 課 題 」 『経 営 論 集(明 治 大 学)』 第50巻 1号 。 ・笠 井 昭 次(1997年) 、笠井昭次稿 「貨 幣 性 資 産 ・費 用 性 資 産 分 類 論 の 総 合 的 検 討 一 総 説 一 」 『三 田 商 学 研 究 』 第40巻2号. ・企 業 会 計 審 議 会(2000年) 、 企業 会 計 審 議 会 「固 定 資 産 の 会 計 処 理 に 関 す る 論 点 の 整 理 」。 ・企 業 会 計 審 議 会(2001年) 、企 業 会 計 審 議 会 「固 定 資 産 の 会 計 処 理 に 関 す る 審 議 の 経 過 報 告1。 ■ .古 賀(2000年)、 古賀智敏稿 ・野 村 総 合 研 究 所(1991年) ・原(1982年) 巻 第3号 、原光世稿 「投 資 不 動 産 の 時 価 会 計 と 業 績 評 価 」r不 動 産 研 究 』 第42巻 、 野 村 総 合 研 究 所r地 第2号 。 価 と詳 細 都 市 計画 』 野 村 総 合研 究 所 総 合 開 発部 。 「イ ギ リ ス'にお け る 投 資 不 動 産 の 会 計 処 理 」r商 経 論 叢(大 阪 学 院 大 学)』 第8 。 ・ASC(1981年)、SSAP19;AccountingforInvestmentProperties .(田 中 弘 ・原 光 世(1997年)、 『イ ギ リ ス 会 計 基 準 書 』 中 央 経 済 社) ・ASB(1992年) 、FRS3:ReportingFinancialPerformance. ・IASC(1986年) 、IAS25;Accounti㎎forInvestmenL ・IASC(1999年)、ED64;InvestmentProperties ・IASC(2000年) 2001』 . 、IAS40;lnvestmentProperties(日 本 公 認 会 計 士 協 会(2001年)、 『国 際 会 計 基 準 同 文 舘) ・lnternationalValuationStandardsCommittee(1997年) 本 不 動 産 鑑 定 協 会 国 際 委 員 会(1998年)、 、InternationalValuationStandards.(日 『最 新 国 際 評 価 基 準 』 東 京 布 井 出 版)