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健康な生活を送るために(高校生用)第5章 感染症 その1

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健康な生活を送るために(高校生用)第5章 感染症 その1
5
第5章 感染症
感染症とは
Q1
感染症とはどんな病気
■世界の死因別死亡率
外傷 感染症及び
9% 寄生虫疾患
19%
細菌やウイルスなどの病原体が、環境を介し
たり、または動物や人との接触を通したりし
て、人の体に入って増えることを「感染」とい
非感染性疾患
59%
います。こうした病原体に感染して起こる病気
栄養失調 1%
は しょうふう
は、破傷風のように病原体が原因であっても人
Q2
母胎の原因に
よるもの
1%
周産期異常に
よるもの
4%
のことを「感染症」といいます。感染症の中に
から人へうつらない病気も含まれます。世界全
呼吸器感染症
7%
WHO(2002年)
■感染症及び寄生虫疾患 ■呼吸器感染症 ■母胎の原因によるもの
■周産期異常によるもの ■栄養失調
■非感染症疾患 ■外傷
体で死亡原因をみると、生活習慣病などの感染
性でない疾患によって死亡する割合は5割以上とかなり高くなっていますが、感染症につ
いても全ての死因別死亡率の4分の1を占めており、様々な感染症に対する適切な対策が
重要となっています。
感染症の原因となる病原体
Q3
人間に病気を起こす様々な細菌やウイルスです。
ま しん
腸管出血性大腸菌O157の電子顕微鏡写真 結核菌の電子顕微鏡写真
麻疹(はしか)ウイルスの電子顕微鏡写真
Q4
資料:国立感染症研究所感染症情報センターホームページ
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/
米国疾病予防管理センター(CDC)
Cynthia S.Goldsmith; William Bellini,Ph.D.
細菌とウイルスの違い
細 菌
●自分自身で分裂して増えていく仕組みをもっている
(定義上は生物)
●毒素などをつくる
●光学顕微鏡で見える大きさ
(細菌が原因で起こる感染症と原因菌)
結核(結核菌)
、細菌性赤痢
(赤痢菌)
コレラ
(コレラ菌)、
腸管出血性大腸菌感染症
(病原性大腸菌O157)
破傷風
(破傷風菌)
など
26
5章 感染症
ウイルス
●自分だけでは増えることができない。生物の細胞の
中にもぐり込んで一体化して増えていく(定義上は非
生物)
●電子顕微鏡を使わないと見えない
(ウイルスが原因で起こる感染症と原因ウイルス)
風疹(風疹ウイルス)、麻疹《はしか》
(麻疹ウイルス)、イ
ンフルエンザ(インフルエンザウイルス)、水痘《みずぼう
そう》
(水痘ウイルス)、SARS《サーズ》
(SARSコロナウ
イルス)など
5
感染経路と感染症の予防法
感染経路
感染症の感染経路は、いろいろあります。病原体によってその経路が違っています。
○接触感染
病原体に直接触れたり、ドアノブ、タオルなどを介して感染する場合のことを
言います。
(流行性角結膜炎など)
ひ
まつ
○飛沫感染
「飛沫」とはせきやくしゃみの「しぶき」のことです。病原体がせきや
くしゃみなどにより飛び散って、それをすぐに隣の人が吸いこんで体の中に入りま
す。このように比較的近くにいて(1m程度)せきやくしゃみを浴びて感染するよ
うな経路を飛沫感染と言います。(インフルエンザ、風疹など)
○空気感染
病原体が軽いので空中に長くただよい、空気の流れに乗って移動したものを人が
吸い込んで感染するようなものを空気感染と言います。
患者と同室にいたり、すれ違っただけでも感染するような感染力が強い病原体も
多く見られます。(麻疹《はしか》、水痘《みずぼうそう》、結核など)
その他に、病原体に汚染された食物、水などから感染したり、病原体をもった蚊、ハ
エ、ダニ、ネズミなどに刺されたり、接触したりかまれたりすることによって感染するもの
もあります。
感染症の予防法
人
(主体)
感染を成立させる条件としては、感染源(病原体)、感染経
路、
人
(主体)の3つを挙げることができます。
このうちのどれかをSTOPすることにより、感染症を
予防することができます。
感染源
(病原体)
感染経路
(手など)
対策のポイント
感染源を絶つ
感染経路を絶つ
殺菌消毒
清潔・清掃・衛生管理・検疫など
殺菌消毒の方法は病原体
により様々です。
皮膚・衣服の清潔、住居の
清掃、水道の整備、衛生的
な食料の流通・保管、冷蔵
抵抗力を高める
バランスのとれた食事、適
度な運動、休養、睡眠、予
防接種
※抵抗力とは…病原体などに打ち勝つための体力や免疫力のことです。免疫とは自分を病原体から守る仕組みです。
例えば血液中の白血球の一種(リンパ球など)が侵入した病原体を攻撃するなどの働きをします。
5章 感染症
27
5
感染症の歴史
Q1
人類の歴史は感染症との闘いの歴史でもあります。時には感染症の大流行で文明が滅び
たこともありました。
「感染症と医学の進歩」年表
時 代
世界で流行した感染症
紀元前
エジプトのミイラに痘そう(天然痘)や結核のあとが残る
6世紀
天然痘がシルクロードから運ばれる
14世紀
ペスト(黒死病)の流行(ヨーロッパの人口の1/3 を失う
日本の感染症事情
天然痘流行(奈良時代)
大流行)
16世紀
Q2
世界に広がる梅毒の流行。大航海時代
17∼18世紀
天然痘、発疹チフスの流行
江戸末期にコレラ、明治
18世紀末
ジェンナーの種痘の発見
にペストが入ってくる
19世紀
コレラ、結核の流行
19世紀末
コッホがコレラ菌、結核菌を発見、北里柴三郎が
ペスト菌、破傷風菌を発見、志賀潔が赤痢菌を発見。
パスツールがワクチン療法発見
20世紀
インフルエンザ,エイズの流行
1980
WHO による天然痘根絶宣言
21世紀
SARSの発生
Q3
1976 日本での種痘中止
コレラの出現と対策
コレラは、19世紀末までに数回にわたる世界的な流行を記録しています。
Q4
1829年から始まったコレラの大流行は、世界中を混乱させる状態になり、イギリスも例
外ではありませんでした。
1854年、イギリスの医師スノーは、コレラ流行が飲料水の糞便汚染によることを明らか
にし、この原因説が次第にヨーロッパ中に拡がって、人々は次第に水を加熱して飲むよう
になりました。この頃から、ヨーロッパ各国の政府は、安全な水の確保のために上下水道
の整備を本格化するようになりました。
薬剤耐性菌の出現
人間は菌に対する対抗手段としてペニシリンなどの抗生物質を開発してきました。とこ
ろが、こうした薬を使えば使うほど、その薬に対して抵抗性をもつ菌が出現するようにな
せい そく
りました。このような菌を薬剤耐性菌と言います。たとえば、手指や鼻などに棲息してい
る黄色ブドウ球菌が耐性を備えた菌をMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と言い、
抵抗力(免疫力)がおちている患者にはとてもやっかいな菌です。
28
5章 感染症
感染症の今
5
ー感染症の克服に向けてー
人類は様々な感染症と闘ってきました。
予防接種(ワクチン)は、皆さん一人ひとりが感染症にかからな
いようにするだけでなく、感染症の流行を抑え、病気そのものを
なくすことができる可能性のあるものです。
現在、世界中で天然痘にかかる人はおらず、人間が地球上から
根絶した唯一の感染症です。天然痘に続き、ポリオ*の根絶に向
けて世界中が努力しています。
天然痘根絶作戦
病原体……天然痘ウイルス
症 状……口や鼻から入ったウイルスは、のどで増え血流に乗って全身に運ばれま
す。高熱が出て、全身の皮膚に特徴的な水ぶくれのようなぶつぶつがで
きます。感染力が強い上に死亡率も高く20世紀だけでも世界で数億の人
がなくなっています。日本でも江戸時代の死亡原因の第一位は天然痘と
言われて恐れられていました。
そこには一人の日本人医師の活躍があった……
1967年にWHOのリーダーシップのもと、天然痘根絶計画を開始、1980年、ソマリアでの
最後の患者(1977年)をもってこの病気が根絶されました。この作戦のリーダーを務めた
ありたいさお
のが日本人の蟻田功医師です。天然痘には既にワクチンがあったので流行している国に入り
ワクチンを接種するという計画を立て、戦争中の地域、未開の熱帯雨林、砂漠……ときびし
く危険な条件の地域にもどんどん出かけて行きました。このような苦難を乗り越えて達成で
いぎょう
きた偉業なのです。
ま しん
麻疹(はしか)とは
●麻疹の原因となるウイルスは、麻疹患者のせきやくしゃみなどで飛び散るしぶきに含まれ、空気中を漂います。
そのウイルスを吸い込むことによって人から人にうつり、大人でもかかることがあります。
●麻疹にかかると、ウイルスに感染した後、約10∼12日間の無症状の期間(潜伏期)を経て、熱・せき・鼻水など
の症状が出はじめます。数日すると、首すじ・顔から赤い発疹(ぶつぶつ)が出はじめ、熱も高熱となり
発疹は全身に広がります。38∼39℃台の熱は1週間から10日程度続くことがあります。その後、
熱が下がり回復に向かいます。
●麻疹にかかった3割くらいの人が肺炎や中耳炎、下痢などを併発し、入院する人も4割くらいいま
す。また、麻疹は1000人に1人程度に脳炎(脳の病気)を引き起こし、その約15%が命を落とす
ことがある病気です。
●麻疹にかかると10年ほどして重い脳炎が発生することがあります(麻疹患者の10万人に1人くらい)。
せん ぷく
き
ほっ しん
*ポリオ:ポリオウイルスの感染により、筋肉、特に足に麻痺を起こすことがある病気で、かつては「小児マヒ」と呼ばれました。日
本におけるポリオの予防接種は生後3ヶ月から7歳半までの間に2回投与することになっており、1980年の患者を最後に感染者の報告は
なく、日本ではポリオの流行は確実に抑えられています。
5章 感染症
29
5
麻疹(はしか)の予防法
Q1
−日本における麻疹(はしか)の予防接種の現状−
●麻疹は、予防接種でその発症と流行を防ぐことができる病気です。
●麻疹の予防接種は、1978年から2006年6月までは生後1歳から7歳半までの間に1回行うこ
とになっていました。
●1回の予防接種では麻疹を国内からなくすことは難しいという判断から、2006年7月から
1歳児と小学校に入る前の1年間の2回行うことに変更されています。
Q2
知っていますか?
2007年春に日本全国で過去に一度も予防接種を受けていない人に加えて、1回のみの
予防接種を受けてきた10代、20代の人を中心として麻疹の流行が起きたことから、新た
に2008年4月から2013年3月までの5年間に限り
中学1年生と高校3年生に相当する年齢の人が予防
接種の対象となっています。
Q3
最近では、大学や専門学校、医療機関や保育・
福祉施設などでは、進学や実習、就職に際して麻
疹の予防接種を受けていることを求めているところ
もあります。
Q4
●現在の麻疹の予防接種には、原則として、麻疹と風疹*の二つの病気に対するワクチン
が1本になった混合ワクチンを使います。
麻疹(はしか)の予防接種による副作用
●麻疹の予防接種を受けてから約4∼14日経つと、約4人に1人に発熱、約10人に1人に発
疹が現れることがありますが、これらはいずれも1∼3日で治ります。
●極めてまれ(100万人接種に1人以下)に、脳炎が報告されています。
ふうしん
ほっしん
*風疹:風疹も発熱と全身に淡い色の発疹がでますが麻疹よりは軽い病気です。しかし、免疫のない妊婦さんが妊娠初期にかかると、
はくないしょう
なんちょう
おなかの中で赤ちゃんが風疹ウイルスに感染して、赤ちゃんが心臓の病気や白内障、難聴などになってしまうことがあります。
30
5章 感染症
感染症Q&A
Q1
感染症は一度かかると
再びかかることはないのですか?
Q2
感染症にかかってしまったら、
どうすればよいのですか?
Q3
予防接種は受けないと
どうなりますか?
Q4
インフルエンザにかかったら、
なぜ出席停止になるの?
A
麻疹(はしか)、風疹などのウイルスによる病気では、一度かかると
一生涯にわたる免疫ができ再びかかることはまずありません
5
体の中に「抗体」ができ、リンパ球が感染したことを覚えているからで
す。予防接種によってもほぼ同等の効果を期待できますが、中には長い
年月のうちに効果が下がることがあるので、2回以上接種するものもあ
ります。しかし、インフルエンザやかぜの原因となるウイルスでは、新し
いタイプのウイルスが比較的短い間に出現するので、何回もかかってし
まうことがあります。
A
かかってしまった場合、私たちの体では、病原体から身を守るため
免疫系を中心とする様々な防御反応が起こります
しかし病原体の力が強いと病気が起こってしまいます。医療機関を受
診し、正しい診断を受け、適切な治療を受けることが大切です。なるべ
く感染の早い時期から治療を受ける方が効果的です。
治療を受けると共に、状態に応じて、温かくして横になり休養しましょ
う。また適切な栄養や水分をとることも大切です。
A
予防接種を受けないと、病原体が体に侵入した時、
病気にかかってしまう危険性がとても高くなります
麻 疹を例にとると、子どもの時に予防接種を受けていなければ、その
後、どこかで麻疹ウイルスに感染すると、麻疹を発病してしまいます。
予防接種の対象とする病気は、かかれば重くなり、健康上の不利益が
大きいものが多いことにも注意しましょう。
A
他の人にうつしやすい期間があるからです
熱が下がったあと2日を過ぎるまで出席停止となります。この間は、他
の人にうつしやすいため、学校でインフルエンザが流行しないように、
法律で守られています。
*インフルエンザにかかって休む人が増えた場合には、学校は学級閉
鎖、学年閉鎖や学校閉鎖をすることもあります。
他にも、プールで拡がる感染症についても拡がらないように法律(学
校保健法など)で守られています。
●下記ホームページも参考にしてください
感染症と予防接種に関する情報
●国立感染症研究所感染症情報センター http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
●(財)結核予防会結核研究所 http://www.jata.or.jp/
●米国疾病予防管理センター(CDC) http://www.cdc.gov/
●海外で注意すべき感染症についての情報提供(厚生労働省)ttp://www.mhlw.go.jp/topics/2005/04/tp0425-1.html
●日本医師会感染症危機管理対策室 http://www.med.or.jp/kansen/
●国際感染症臨床情報 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsb/infect/
5章 感染症
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