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ヒートアイランド現象による環境影響に関する調査報告書(概要)

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ヒートアイランド現象による環境影響に関する調査報告書(概要)
ヒートアイランド現象による環境影響に関する調査報告書(概要)
−環境省環境管理局大気生活環境室−
1
ヒートアイランド現象とは
ヒートアイランド現象とは、都市化による地表面被覆の人工化(建物やアスファルト舗装面などの増加)
やエネルギー消費に伴う人工排熱(建物空調や自動車の走行、工場の生産活動などに伴う排熱)の増加によ
り、地表面の熱収支が変化して引き起こされる熱大気汚染であり、都心部の気温が郊外に比べて島状に高く
なる現象をいいます。
ヒートアイランド現象を形成する要素には、地表面被覆が変化することによる反射や放射の変化、地表面
と大気の間の対流顕熱や蒸発潜熱の変化、人口や産業が集中することによる人工排熱の増加やその放出の仕
方、都市をとりまく海陸風などの気候条件など多くの要素が絡み合っています。
図1 ヒートアイランド現象に係る要素
2
注)対流顕熱、蒸発潜熱の説明は P.10 を参照のこと
検討対象スケール
ヒートアイランド現象やその対策を検討する場合、対象とするスケールの大きさが重要となります。ヒー
トアイランド現象そのものは当該都市の全体が覆われる5∼50 万分の1スケールで把握されるものですが、
その対策を検討する場合にはスケールの大きい都市形態の改変から地表面被覆の改善、人工排熱の削減など
5百分の1以下の非常に細かいスケールにまで議論が及びます。この調査ではスケールを4つに分け、その
うち第 1、第2階層を中心に検討を行いました。
階層 スケールの目安
1
2
3
4
検討の視点
1/500,000∼ 都市全体のヒートアイランド現象が捉えられる
1/50,000
□都市全体の形態
指標
都市と郊外の気温差
風向風速
1/30,000∼ 熱的・気候的特性によって等質な地域がゾーニングできる 気温分布
1/ 3,000
1/2,500∼
1/1,000
1/500∼1
□都市計画等
局地的な高温化、通風阻害など問題箇所を指摘できる
□地区総合計画等
個々の建物周辺で体感的な熱環境の問題を指摘できる
□建物計画等
1
大気熱負荷量
局地的な気温分布
局地的な風向風速
体感指標
3
現象の把握
日本全体では地球温暖化によると考えられる気温上昇が 100 年間で約 1℃(平均気温)であるのに対し、
東京の平均気温は約 3℃上昇しています。また、東京の日最高気温の年平均値は同期間で約 2℃上昇してい
るのに対し、日最低気温の年平
均値は約 4℃上昇しています。
上昇幅の大きい日最低気温で、
東京都心部(大手町) と周辺都
市(横浜、熊谷、宇都宮、銚子)
のここ 100 年間の変化を比較し
ました(図 2)。周辺都市の上昇
3.5
日
最
低
気
温
の
年
平
均
値
の
上
昇
3.0
2.5
1.5
1.0
0.5
0.0
℃ -0.5
昇しており、関東平野の都市の
-1.0
︶
京都心部はその 2 倍の勢いで上
最低気温が上昇する中でも東京
都心部のヒートアイランド現象
が顕著になっています。
4
東京
熊谷
宇都宮
横浜
銚子
2.0
︵
が 2℃前後であるのに対し、東
4.0
1900
1910
1920
1930
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000 年
図 2 東京と周辺部の日最低気温の年平均値の変化(5年移動平均)
出典)気象庁年報 2001 より作成
注)1900 年から 1909 年の 10 年間の平均値を基準として基準値からの上昇
分を示した。
影響の把握
600
ヒートアイランド現象による都心部の高温化は、
500
熱中症の増加や桜の開花時期の変化などにその影響
東京都内の 1984 年∼2001 年の夏季(7 月∼9 月)に
搬
送
400
人
員
数 300
おける高温及び日射病による搬送人員数と各年の
人 200
30℃以上時間数との関係を表したものです。これを
100
見ると、30℃以上時間数が増えると搬送人員数も増
0
が現れていることが本調査でわかりました。図 3 は
y = 0.8287x - 29.004
r = 0.72
︵
︶
0
える関係にあることがわかります。
100
200
300
400
500
600
30℃以上時間数[時間]
エネルギー消費の面では夏季の冷房使用による電
図 3 搬送人員数と 30℃以上時間数との関係
出典)東京消防庁資料、気象庁アメダス観測年報
力エネルギーのピーク需要が増加し、都市全体のエ
ネルギー効率の低下やそれに伴う CO2 の排出量の増大が懸念されます。(東京電力管内(1都 8 県)では、
気温が 1℃上昇することにより最大電力は 160 万 kW 増加するといわれます)
また、ヒートアイランド現象が都市の大気汚染を助長しているという指摘があります。冬季は、ヒートア
イランド現象が顕著な日に都心部の窒素酸化物濃度の上昇が認められました。これは冬季の夜間から朝方に
かけて都市の上空に逆転層(上空に行くに従い気温が上昇する大気層)が形成され、これにより蓋をされた
ダストドーム状の混合層が形成されるため、都市内で排出された大気汚染物質の拡散が阻害されていると考
えられます。また、夏季の光化学オキシダントによる広域大気汚染に都市のヒートアイランド現象が関与し
ていることも疑われます。
2
ヒートアイランド現象の要因
5
都市化が進むにつれ、建物や道路が整備されることにより自然的な被覆が減少し、ライフスタイルの変化
や情報化社会の到来などとあいまって都市に多くのエネルギーが投入され、人工排熱が増加しています。こ
れら地表面被覆の変化と人工排熱の増加がヒートアイランド現象を促進しています。
【地表面被覆の変化】
緑地や水面の気温低減効果や周辺に冷涼な気流を供給する機能は、多くの観測結果で明らかにされていま
す。緑を含む自然的被覆を、東京の
都市開発が本格化する以前の状況
(1930 年代)と現況で比較しました
(図 4)。1930 年代には東京 23 区平
均で 70%以上を占めていた裸地や草
地は現況では 40%以下となっており、
これが対流顕熱の増加につながって
います。
また、アスファルトなどの人工的
図 4 裸地・草地分布の変化 左:1930 年、右:現況
被覆は熱容量が大きく、昼間に日射を受けて蓄えた熱を夜間に放出するため、夜間の気温を上昇させる一因
となっています。
【人工排熱の増大】
人工排熱には、空調など建物に起因して発生する建物排熱、自動車の走行に伴う自動車排熱、工場などの
生産活動に伴うエネルギー消費によって生ずる工場排熱な
どがあります。東京 23 区全体で見ると建物排熱が約 50%
を占め、自動車排熱が約 40%、工場排熱が約 10%を占めて
います。
図 5 は日平均の人工排熱(顕熱+潜熱)の分布を示した
ものです。東京 23 区の人工排熱の平均値は 31W/㎡で、
これは東京の 8 月における平均全天日射量の 18%に相当し
ます。また、都心3区や池袋、新宿、渋谷といった商業業
務施設が集積した地区では 100W/㎡を超えており、中に
は 200W/㎡を超えるようなところも見られ、ヒートアイ
ランド現象に少なからず寄与しているものと考えられます。
6
図 5 日平均の人工排熱の分布
都市の形態
都市におけるヒートアイランド現象の抑制には、対流顕熱や人工排熱(顕熱)を削減することと同時に、
暖められた大気を効率的に換気し、都市内の気温を上昇させないことも重要です。多くの高層建物が密集し
ているところでは通風を阻害したり、夜間の放射冷却を妨げることが知られています。
中長期的には大気熱負荷量が多い地域を中心に、対流顕熱と人工排熱(顕熱)を抑制するよう配慮すると
ともに、地域の風の流れを考慮し、また、緑を確保するなど、快適な都市環境の形成が求められます。
3
7
熱環境から見た都市の気候解析
現象としての気象(気温、風速など)、要因としての地表面被覆や大気熱負荷量の分布などを、目的に応
じて地図上で重ね合わせること
熱帯夜出現日
により、検討すべき問題が見え
出現日数
てきます。例えば、熱帯夜日数
の最も多い地区は東京でいえば
日
15
40日
辺部に移っています(図 6)。熱
35日
25日
響を受ける夜間人口の多くは周
30 日
20
日
大手町などの都心部ですが、影
帯夜の緩和に向けた対策を効果
的に行うには、夜間の熱負荷の
発生量が多い都心部のみでなく、
夜間人口
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
周辺の住宅地などにも積極的に
対策を講じる必要があります。
その際、有効となるのが下の
ような気候解析図です。ここで
は例として夜間(22:00)におけ
る大気熱負荷量(顕熱)の多い
0
5
-
30,000人
25,000人
20,000人
15,000人
10,000人
5,000人
10 km
図 6 夜間における熱環境問題図の例(H7国勢調査、大気常時監視の気温データ)
注)人口のデータは東京 23 区のみ表示
地区を風況などとともに示して
います。これらを重ね合わせて見ることにより高温暴露人口が多く熱負荷の高い地区から対策を講じること
が効果的と考えられます。
すなわち問題の明確化とこれに対処するための基礎情報の解析により、ヒートアイランド対策の課題を明
確にすることができます。
被覆面対流顕熱上位30%:
30W/㎡以上
人工排熱(顕熱)上位10%:
30W/㎡以上
日
建物面積率:0.35以上
35日
30日
25日
20 日
15
河川・水面
40
日
自然的被覆(農地、森林、
公園緑地、裸地等)
人工的被覆(業務用地、住宅地、
交通用地、各種施設用地等)
0∼2m
2∼4m
4∼6m
6∼8m
8m∼
※風配図については 1998∼
2000 年の 7∼9 月の熱帯夜
出現時のデータを適用
0
5
図 7 夜間(22 時)を対象とした気候解析図の例
4
10 km
8
シミュレーションによるヒートアイランド対策の検討
ヒートアイランド対策は、人工的な地表面被覆の改善、省エネルギーや新エネルギーの活用による人工排
熱の削減、中長期的には都市内に放出される熱を効果的に発散できる都市形態の構築の 3 つに大きく分ける
ことができます。本調査では東京 23 区を対象に、夏季における「熱帯夜の削減」と「昼間の高温化の緩和」
を目標とし、都市の建物形状の改変を伴わない短期的な対策として、地表面被覆の改善と人工排熱の削減を
中心に、独立行政法人建築研究所の足永氏らにより開発された UCSS
注)
を用いて詳細及び簡易シミュレー
ションを行い、効果的なヒートアイランド対策のあり方について検討しました。
STEP1
現況の把握(ヒートアイランド現象の把握)
500
300
図 8 は、UCSS の詳細シミュレーションシス
200
テムにより東京 23 区の現況と 1930 年代の大気
1930 年に比べ、昼間(7:00∼18:00)の大気熱
0
(100)
負荷量(顕熱)が約 50%増加しています。ま
(200)
た、夜間(19:00∼6:00)の大気熱負荷量(顕
(300)
熱)は約 5 倍に増加しています。
500
1
400
田区などの都心部では増加分の 80%程度が人
300
工排熱(顕熱)ですが、世田谷区など住宅用途
200
の多い地区では、増加分の 60%以上が地表面
100
STEP2
要因から見た都市の類型化
W/㎡
増加要因を区別に分けると(日平均)、千代
被覆の人工化による対流顕熱となっています。
現況
100
W/㎡
熱負荷量の日変化を見たものです。現況は
人工排熱(潜熱)
蒸発潜熱
人工排熱(顕熱)
対流顕熱
400
3
5
7
9
11
13
15
17
人工排熱(潜熱)
蒸発潜熱
人工排熱(顕熱)
対流顕熱
19
21
23 時
1930 年
0
(100)
(200)
(300)
1
ヒートアイランド対策を効率的に進めるに
3
5
7
9
11
13
15
17
19
21
23
時
図 8 東京 23 区の 1930 年と現況の大気熱負荷量
は、「どこ」に「どのような施策」を行うかが
問題となります。施策によっては適用可能な場所が限定されたり、また目標や地域によって効果の高い施策
にも違いがあるものと考えられます。
本調査では、東京 23 区を土地利用、建物用途により、水辺エリア、人工被覆エリア、住宅エリア、業務
系エリア、住宅と業務系の建物が混在している混合エリアの 5 つに分類し、さらに建物の建て詰まり状況な
どから住宅、業務系、混合エリアをそれぞれ 2 つに分類し、合計 8 つの地区に分類しました。
注)UCSS とは、都市気候予測システム(Urban Climate Simulation System)の略称であり、都市気候シミ
ュレーションプログラムを都市GIS(地理情報システム)と合わせてシステム化したものである。本調査
では、この UCSS を用いて 2 種類のシミュレーションシステムを開発し、対策の検討などに活用した。
①詳細シミュレーションシステム:各メッシュに対応したデータを入力し、これらを総合化して各メッシュ
ごとの大気熱負荷量や気温等を予測する。本調査では東京 23 区を 500m メッシュ(64×64)に分けて計
算を行った。(所要時間:1 週間/ケース)
②簡易シミュレーションシステム:メッシュに同じデータを入力(つまり同じ形態の町が連続していると仮
定)し、その中の 1 つのメッシュについて大気熱負荷量や気温を予測する。モデルの感度分析を目的とし
て開発されたシステムで、比較的短時間で結果を得ることができる。(所要時間:5 時間/ケース)
5
STEP3
各類型の熱特性の把握と対策地区の抽出
各地区の熱特性を見ると、舗装や建物などにより地表面被覆の人工化が進んでいる地区ほど対流顕熱が多
く放出されていることが分かりました。また、業務系や混合エリアでは、冷房使用などにより人工排熱が多
くなっています。本調査の検討では次のような視点から対策地区を抽出しました。
目標
住宅系エリア
熱帯夜の削減
夜間対流顕熱の削減
昼間の高温化の緩和
昼間対流顕熱の削減
業務系エリア
夜間人工排熱の削減
昼間人工排熱の削減
昼間対流顕熱の削減
その結果、熱帯夜対策が重要で対流顕熱の多い「住宅密集地区」、昼間の人工排熱が多い「業務系高容積
地区」、住宅・業務両地区の特徴を持った「混合密集地区」の 3 つを対策地区としました。
面積にすると、住宅密集地区は東京 23 区の約 20%、業務系高容積地区と混合密集地区は各 10%程度で、
対策対象地区の合計面積は東京 23 区の面積の約 40%に
該当します。
200
150
蒸発 潜熱 夜
蒸発 潜熱 昼
人工排熱 潜熱
人工排熱 潜熱
人工排熱 顕熱
人工排熱 顕熱
対流 顕熱 夜
対流 顕熱 昼
[W/㎡]
100
50
0
夜
昼
夜
昼
(50)
混合密集
混合非密集
業務系高容積
業務系低容積
住宅密集
住宅非密集
人工被覆
水 辺 エリ ア
東 京 2 3区
(100)
図 9 大気熱負荷量の比較
図 10 対策対象地区
STEP4
施策の検討
ヒートアイランド対策には「地表面被覆の改善」、
「人工排熱の低減」
、
「都市形態の改善」に資する様々な
施策があります。各施策にはそれぞれの特徴があり、その効果や実現可能性などを検討し、対策を効率的に
進める必要があります。例えば地表面被覆の改善としては自然的地覆化の推進など、人工排熱の低減として
は省エネルギーの推進などがあります。本調査では次のような対策項目を中心に検討を進めました。
目標
熱帯夜の削減
昼間の高温化の緩和
住宅系エリア
自然的地覆化の推進
業務系エリア
夜間エネルギー消費の削減
省エネルギー等による人工排熱削減、
植樹、屋上緑化などの推進
熱帯夜対策が重要な住宅密集地区では、アスファルトなどに比べ昼間に蓄えられる熱が減少し、夜間に放
出される対流顕熱が減少する自然的地覆化などが有効と考えられます。この対策は、昼間の対流顕熱の削減
にも有効です。昼夜ともに人工排熱の多い業務系高容積地区では、都市へのエネルギー投入を削減する省エ
ネルギー等の推進が重要です。植樹は、地上に到達する日射を遮り、蒸発潜熱を放出するとともに木陰を作
り、昼間の屋外環境の快適性を向上させる効果を持ち、屋上緑化などの建物緑化は、昼間の建物表面からの
対流顕熱を抑制し、特に屋上緑化は断熱効果により最上階の室内温度の低減に寄与します。
6
STEP5
施策効果の検証
対策地区ごとに対策を実施した
表 対策内容
場合と、3 つの対策地区で同時に対
対策ケース
対策対象地区
策を実施した場合の合計 4 ケース
住宅地区対策
住宅密集地区
(右上段表)の詳細シミュレーショ
業務地区対策 業務系高容積地区
6,825
839
1,170
627
20%カット
混合地区対策
混合密集地区
6,475
619
648
469
10%カット
全地区対策
業務系高容積地区
27,250
2,657
2,516
1,096
上記各地
区に準じ
る
ンを行いました。
住宅密集地区では夜間の気温低
減に寄与する自然的地覆化などを
主体とし、業務系高容積地区では人
工排熱の削減に結びつく省エネ、植
樹や屋上緑化などを組み合わせた
対策項目
対象地区
面積(ha) 自然的地覆面積 樹木面積 屋上緑化面積 人工排熱
(増加分:ha) (増加分:ha) (増加分:ha) 削減率
13,950
1,199
698
−
−
住宅密集地区
混合密集地区
表 全地区対策による東京 23 区全体の対策効果
対策指標
最低気温25℃未満となるメッシュ数
30℃以上時間数(メッシュ×時間数)
対策を設定しました。これにより例
13:00
現況
989
8,786
全地区対策
1,166
7,348
対策効果
18%増加
16%減少
5:00
えば全地区対策では東京 23 区の面
積(2,667 メッシュ:66,675ha)の
を植樹することになります。
対策効果を見ると(右中段表)、
東京 23 区全体で最低気温 25℃未
住宅地区対策
3.8%(現況の樹木面積率は 6.5%)
満となるメッシュ数は 18%増加し、
30℃以上時間数(メッシュ数×時
間数)は 16%減少し、熱帯夜や昼
間の高温化が緩和されることがわ
気温の低減効果を見ると(図 11)、
全地区対策で最大 0.3℃程度の気
温低下(13:00)が見られました。
業務地区対策
かります。
昼間の気温が低下した業務地区で
は冷房需要の減少、夜間の気温が低
下した住宅地区では寝苦しさの緩
和が期待されます。
また、対策を施さなかった地区
が見られ、熱的に問題のある地区を
把握し、これらの地区の熱環境を順
次改善することにより、周辺地区で
全地区対策
(東京 23 区の 60%)にも気温低下
も対策の波及効果が期待できるこ
とがわかりました。
図 11 地区ごとの対策による気温低減効果(現況−対策)
7
9
ヒートアイランド対策と熱の管理
人為的な行為、すなわち地表面被覆の人工化や人工排熱の増加が、生活環境としての都市気候までも変化
させるほど過大になってしまったのがヒートアイランド現象であり、今後は各要素を総合的に管理する必要
性が生じています。つまり、ヒートアイランド対策は「熱」という視点で都市を捉え直し、地表面被覆の改善、
人工排熱の削減や排出方法、風による熱の移流・拡散、熱の発生源やクールスポットの配置などの改善を通
じて都市の熱を総合的、統一的に管理することです。
この都市の熱、すなわち大気熱環境と
大気熱環境(熱大気汚染)
対策・施策を適切にコントロールするの
が「都市の熱管理」です(図 12)。
熱管理の手法
この熱管理の検討の基本的な流れを図
モニタリング
13 に示します。まず、対象となる都市
都市環境気候図
評価指標
数値シミュレーション
で熱環境のバランス変化、その特徴的な
現象としての熱帯夜の発生状況などを
施
策
把握・評価します。次いで、現象と対策
対策手法
のスケールを整理して、対策のスケール
に応じた密度のデータを気象、土地利用、
人工排熱などの分野について収集ある
地表面被覆
の改善
(短期)
個別対策
人工顕熱の
削減
都市形態の
改善
(中長期)
都市計画、エネルギー計画等
図 12 都市の熱管理の概念図
いは推計します。こうしたデータは、同
じスケールの地図上に表して(基礎情報図)、それらを重ね合わせることにより、気象や地表面被覆、人工
排熱の関係を分析し、問題点の抽出や課題を見ることができます(考察図)。これらの一連の図を「都市環
境気候図」と呼び、本調
【数値シミュレーション】
査では東京 23 区を例に
【詳細シミュレーション・広域】
この試作を行いました。
【都市環境気候図】
ヒートアイランド現象の把握
現象再現
要素図
一方、同じデータを用
スケールの整理
いて定量的に現況の熱収
支や地区の熱特性、対策
効果を把握するには数値
シミュレーションが有用
です。本調査では UCSS
をもとに詳細、簡易シミ
【詳細シミュレーション・23 区】
策効果の検証を行いまし
要素図
熱収支の分析
要因の相互関係の解析
【簡易シミュレーション】
気候解析図
地区別熱特性の分析
ュレーションシステムを
開発し、現況の再現、対
要素のデータ収集・整理
対策地区の抽出
課題図
【簡易計算システム】
地区別対策手法の検討
地区別対策効果の検討
た。さらに、対策効果が
簡便に把握できるよう簡
易計算システム(業務系、
東京・大阪地区)を開発
しました。
都市全体の効果の検証
対策目標の提案
【詳細シミュレーション】
注)数値シミュレーション手法は基本的に同じ UCSS を用いているが、作業を簡易化するため「詳細シミュ
レーション(スケールによって広域、東京 23 区と使い分けている)」、仮想する空間モデルを単一化
した「簡易シミュレーション」、簡易シミュレーションで予め計算した結果を指定されたパラメータ毎
に表示する「簡易計算システム」等がある。
図 13 都市の熱管理の流れ
8
10
都市環境気候図の体系
「都市環境気候図」とは、日本の都市・気候特性を踏まえて都市の熱環境・大気汚染の改善方策を検討す
るために作製される一連の地図群のことです。都市環境気候図は、大きくは熱環境の基本的な要素を表す「基
礎情報図」とそれらの基本的な要素を組み合わせて課題などを抽出するための「考察図」に分けられます。
また、基礎情報図は作製目的や盛り込まれる要素によって要素図、大気・熱汚染図、熱環境評価図の 3 種類
に分類できます。報告書の第Ⅱ部ではこの都市環境気候図の作成方法について解説しています。
基礎情報図
要素図:気候要素や熱環境・大気質に影
響を及ぼす自然条件や人工物等の分布を
示すためのもので、気温分布図や地形図、
土地利用分布などがある。
第2階層の都市環境気候図( 1/30,000 ∼1/3,000 ):人工排熱・被覆面熱発生状況の把握(東京23区)
被覆面顕熱分布図
土地利用図
国土地理院
数値データ
考察図
気候学的見地から都市の熱環境および大
気質の改善方策を提示するもので、要素
図、大気汚染図、熱環境評価図を用いて、
熱的問題点の抽出や気候解析により、課
題を浮き彫りにする。
・季節別、時刻別
住宅地
業務商業用地
交通用地
その他
河川・水面
空地
田
畑・果樹園
公園・緑地
森林
大気・熱汚染図:大気汚染や人工排熱の発
生・分布状況を示すためのものであり人
工排熱(顕熱)
、汚染物質の環境濃度の分
布などがある。
熱環境評価図:熱環境評価図とは、熱環
境の評価結果を表すためのものであり、
地表面温度分布図や体感指標などがあ
る。
植生・水面分布図
0
5
1 0 km
<土地利用図>
<植生・水面分布図>
<被覆面顕熱分布図>
蒸発潜熱分布図
建物分布図
各種物性
データ
・季節別、時刻別
建物面積分布図
自治体
データ等
建物用途別排熱
原単位データ
<建物分布図>
<蒸発潜熱分布図>
事業所等大規模
発生源データ
人工排熱分布図
交通量分布図
・顕熱分布(季節別、時刻別)
・潜熱分布(季節別、時刻別)
350
350
300
300
250
250
200
200
150
150
100
100
50
50
0
単位:W /㎡
交通センサス等
0
5
10 km
排熱原単位データ等
0
5
1 0
km
<交通量分布図>
<人工排熱顕熱分布図>
0
単位:W/㎡
0
5
10
km
<人工排熱潜熱分布図>
図 14 都市環境気候図の体系例(人工排熱、被覆面熱の把握)
11
簡易計算システムの開発
本調査ではUCSS を用いたシミュレーションにより対策効果の検討を行いました。しかし、高性能パソコ
ンを利用しても、23 区(500mメッシュ)のメッシュに個々のデータを入力して計算する詳細シミュレーシ
ョンで1週間以上、メッシュに同じデータを入力して均一な条件下で対策効果を検討する簡易シミュレーシ
ョンでも複数の施策を比較するためには数日を要するという問題点がありました。そこで、対象地区の対策
手法に応じたパラメータで、あらかじめ計算したデータベースから対策効果を気温、大気熱負荷量の変化と
して参照することができる「簡易計算システム(業務地区用)」を試行的に開発しました。これにより対策
の実現可能性を考慮した複数の対策案の中から最も効果的と考えられる対策手法を推測することが可能と
なります。簡易計算システムは市販の表計算ソフト上で動作しますので、希望する自治体に試行的に配布す
る予定です。
裸地面積率による気温の変化
Parammeter
建物高さ
建物面積率
樹木面積率
裸地面積率
屋上緑化率
透水性舗装率
最高気温 最低気温 平均気温
31.64
25.44
28.20
31.21
24.88
27.82
30.84
24.36
27.51
30.58
23.72
27.21
30.40
23.05
26.89
設定値
3
32
35
−
24
100
34
32
30
気温(℃)
裸地面積率
0
25
50
75
100
28
26
24
最高気温
最低気温
平均気温
22
20
0
25
50
裸地面積率
75
100
裸地面積率による熱負荷量の変化
蒸発潜熱 人工潜熱 対流顕熱 人工顕熱
35.3
0.0
99.8
38.6
47.9
0.0
92.3
39.2
56.7
0.0
86.9
39.6
63.4
0.0
83.8
40.0
70.0
0.0
80.7
38.5
150
100
熱負荷量(W/㎡)
裸地面積率
0
25
50
75
100
50
0
人工顕熱
対流顕熱
人工潜熱
蒸発潜熱
-50
-100
0
25
50
裸地面積率
図 15 簡易計算システムの活用例
9
75
100
12
今後の課題
これまでの調査で、ヒートアイランド対策に一通りの道筋が付けられたと考えていますが、今後も以下の
ような課題を検討していく必要があります。
1)現象の解明
・都市全体の熱収支の評価(都市全体を1つのセルに見立て熱収支のバランスを評価する)
・大気汚染との関連性(大気汚染の高濃度化とヒートアイランド現象の関連性を明らかにする)
2)管理の手段の開発
・全国各都市のモニタリングデータの蓄積(ヒートアイランド現象が把握・解析できる精度のデータ)
・評価指標の設定(各都市のヒートアイランド現象の進行状況を評価する指標など)
(本報告で取り扱っている「熱」についての補足説明)
本報告では、人工的なエネルギー消費による排熱や建物表面を含む地表面から地表面付近の大気に放出される
熱、すなわち「大気熱負荷量」を主に取り扱っています。大気熱負荷量には、大気を直接暖める顕熱と水分の蒸
発に伴う潜熱があります。この大気熱負荷量について、詳細を下図に示します。
対流顕熱
人工排熱(顕熱)
蒸発潜熱
人工排熱(潜熱)
屋上緑化、保水性
建材(屋上面)
冷却塔
屋根緑化
建物敷地
その他
住宅
エアコン
室外機
ビル
道路
工場
水面
保水性建材
(舗装面)
対流顕熱
(地表面) :建物敷地、道路、水面等の地表面から大気に放出される対流顕熱
(建物表面) :ビル、住宅、工場建物等の建物表面(屋根・屋上面、壁面)から大気に放出される対流顕熱
(樹木)
:樹木から大気に放出される対流顕熱
蒸発潜熱
(地表面) :建物敷地、道路、水面等の地表面から大気に放出される蒸発潜熱
(建物表面):ビル、住宅、工場建物等の建物表面(屋根・屋上面、壁面)から大気に放出される蒸発潜熱
:樹木から大気に放出される蒸発潜熱
(樹木)
人工排熱(顕熱) :建物、自動車、工場のエネルギー消費により大気に放出される人工排熱(顕熱)
人工排熱(潜熱) :建物、自動車、工場のエネルギー消費により大気に放出される人工排熱(潜熱)
大気熱負荷量(顕熱):対流顕熱(地表面、建物表面、樹木)+人工排熱(顕熱)
大気熱負荷量(潜熱):蒸発潜熱(地表面、建物表面、樹木)+人工排熱(潜熱)
対流顕熱:日射などにより地面や建物が暖められると高温の地表面から周囲の大気に熱が放出されます。この
熱を対流顕熱と呼び、空調から排出される熱い空気や自動車の走行など、エネルギー消費に伴い放
出される熱を本報告では人工排熱(顕熱)と呼びます。
蒸発潜熱:地面の温度が高くなると地面に含まれていた水分が大気中に蒸発します。この時、水分は蒸発に必
要な熱を地面から奪いとります。この熱を蒸発潜熱と呼び、植物の蒸発散作用も蒸発潜熱の一つで
あり、水冷式の空調などから排出される水蒸気は本報告では人工排熱(潜熱)と呼びます。
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