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2010年 ESRI国際コンファレンス 「世界金融危機後のマクロ経済学の
2010年
ESRI国際コンファレンス
「世界金融危機後のマクロ経済学のフロンティア」
日
時:
2010年6月24日
9:50~16:50
※以下は、会議の音声記録等を基に経済社会総合研究所にて和訳し作成したものであり、
本議事録上の内容についての文責は事務局にあります。
1 司会:
皆様、おはようございます。
2010年ESRI国際コンファレンスにご参加くださり、感謝いたします。2010年ESRI国
際コンファレンスを開催したいと思います。まず初めに、ESRI所長、岩田一政氏に開会の
ご挨拶をいただきます。岩田所長、お願い致します。
[開会挨拶]
岩田
一政(経済社会総合研究所長):
皆様、おはようございます。
2010年ESRI国際コンファレンスの開会の挨拶をさせていただくに当たり、本日の集まり
にご参加下さった全ての方々に感謝の意を表したいと思います。アメリカ、オーストラリアの
NBERメンバーの方々をはじめ、海外からお越しいただいた方々のご参加を歓迎致します。また、
日本の皆様には、私共の研究所に対する長年のご協力・ご支援をいただいておりますことに感
謝申し上げます。NBER International Conferenceの歴史を振り返りますと、最初の会議が、私共
の研究所の初代所長である浜田宏一教授の指導の下に2001年に開催されましたことは皆様よく
ご存知だと思います。当時、バーナンキFRB議長はプリンストン大学の教授として参加され
ていました。2003年には、Woodford教授がデフレ脱却のためのインフレ・ターゲティング政策
についての記念碑的論文を発表されました。また2005年にはSvensson教授がデフレ脱出の確実な
方法について発表されております。
本日の会議のメインテーマは「世界金融危機後のマクロ経済学のフロンティア」です。日本
を含めて経済は回復途上にあり、1年前の予想よりもはるかに良好な状態にあります。しかし、
ヨーロッパでは、ギリシャ経済の脆弱性、金融の脆弱性を背景とした金融危機が出現していま
す。また、景気刺激策の効果が薄れてきており回復が弱まる兆しがみられます。異例の経済政
策から脱却できず、金融政策も異例の政策を平時に戻しているところです。
最初の講演者はプリンストン大学の清滝教授です。清滝教授は資本市場での摩擦状態におけ
るフィナンシャルアクセラレーター(financial accelerator)の研究の先駆者です。私が数年前に
Svensson教授にお会いしたとき、教授は後にスウェーデン中央銀行の副総裁になられましたが、
彼にこう言いました。「あなたとバーナンキ教授、Woodford教授がプリンストンを去った今、
経済学部の主流は『インフレ目標』派から『流動性』派に移りました。清滝教授とHyun Song
Shin教授がプリンストン大学に移ったからです。」今日は清滝教授が金融仲介と信用政策の役割
の問題を取り上げて話してくださいます。信用政策とは、信用摩擦環境下における信用緩和政
策、量的緩和政策のことです。異例政策評価の分析は、学者そして中央銀行にとって挑戦的か
2 つフロンティア的な研究です。セッション1の後半ではStein教授が出された論文の中にあるマ
クロプルーデンス政策の役割について議論します。これはトロントのG20サミットでも話題とな
りました。セッション2では、1997年、1998年にアジア通貨危機を経験したアジア経済諸国と
の相互作用という観点で、景気循環会計の手法を用いて日本経済の経済実績評価の問題につい
て話し合います。最後のセッション3では、バブル経済崩壊後の日本における雇用制度の構造
変化について議論します。日本の雇用システムによるものかはまだ明確になっていませんが、
人口構造の変化の中で起きた金融危機が、年齢/賃金プロファイル(age profile of wages)に大
きな変化をもたらしました。これらのテーマについては色々と意見が分かれておりますが、重
要なものですので、政策的視点と分析的視点の両方から、良い講演並びに討論がされることを
願っております。皆様のご協力をお願い致します。ありがとうございました。
[セッション1]
世界金融危機後の金融システム
「景気循環分析における金融仲介と信用政策」
議長:Anil Kashyap(シカゴ大学教授):
ありがとうございます。それでは流動性派の先生
のお話を聞きましょう。
清滝
信宏(プリンストン大学教授):
ありがとうございます。
この論文はMark Gertlerとの共著で、Handbook of Monetary Economicsに掲載される予定です。
この中で私たちは、金融的な要因と経済活動全体との相互作用を考える枠組みを提供する意図
で問題に取り組み、特に今回の危機を理解することを目指しました。従来の文献は企業の借入
制約を強調しています。例えば、投資や、労働者の雇用に関する資金調達の制約です。しかし、
今回の金融危機の場合の金融摩擦は、企業だけでなく、金融仲介機関も資金の調達に苦労して
いるようです。また、もう1つの側面は、金融仲介機関の相互間の資金融通が困難となったこ
とです。
主な阻害要因は銀行間市場、あるいは金融市場全体の混乱です。2007年の夏の金融危機が始
まる前、現先(Repo)市場はよく機能していました。このグラフに各種社債、資産担保証券が示
されています。いくつかの社債は格付けの高いもので、現先市場で資金調達する際の超過担保
(頭金)は3%程の僅少なものです。ジャンク債でも頭金は僅か25%で、残りの75%を借り入
れできた訳です。当然、スプレッドは非常に低い状態で、ジャンク債でも2%程度でした。し
かし2007年の夏以降は状況が変化します。いくつかの金融資産は、最も悪名高いのは資産担保
3 証券ですが、現先市場で利用できなくなりました。例えば、超過担保は100%になり、借入れ不
能となりました。借入れ頭金が100%です。当然スプレッドは上昇し、10%台となりました。
2008年9月のリーマンショック後は、それがさらに上昇しました。もはや、スプレッドライン
に沿って上昇するのではなく、スプレッドライン自体の傾きが変化し、急勾配となりました。
標準的な文献は、金融政策の影響を分析するために抽象化された単一金利を使用しています。
しかし今回の金融危機を考えると、そのような状況下で単一金利を想定することは不可能です。
そこで私たちは、金融仲介機関の混乱と資金調達の制約及び市場全体の混乱について考えたい
と思います。金融危機後、連銀はいわゆる、異例の信用政策を実施し始めました。危機前はF
RBの負債の殆どが貨幣であとは僅かに準備金がありました。資産は大半が財務省証券でした。
しかし金融危機が始まると、FRBは大規模な流動性の供給を始め、銀行だけではなく、プラ
イマリー・ディーラーやその他の金融仲介機関に資金を供給したのです。そのときの担保は、
財務省証券だけでなく、資産担保証券も対象となり、範囲・期間共に広がっていました。翌日
物や短期物だけなく、3~6か月の長期物によるものも含まれていたのです。それに加えて、
政府が証券の購入に直接関わるようになりました。政府がファニーメイ、フレディマックから
モーゲージ証券を購入したのです。その結果、それらがFRB資産の大きな部分を占めるよう
になりました。さらに一番異論が多い政策は資本注入です。私たちは、これらの異例の信用政
策の影響を理解したいと思います。
ここで単純なモデルを考えましょう。標準的な実物的景気循環モデルを拡張するモデルです。
財は様々な地域で生産されます。この地域を「島」と呼ぶことにします。そして資本が各島で
投資され、労働力は島の間を移動できます。その結果、労働の限界生産性は各島で均等となり
ます。規模に関して収穫一定の生産関数を想定しているため、労働の限界生産性が均等になれ
ば資本の限界生産性も均等化します。その結果、総生産は総資本ストック量と総労働量の関数
となります。しかし、投資は様々な地域/島で行われ、一部の島(πの割合)は投資機会があり
ますが、その他の島(1 – π)は投資機会がありません。投資が実施される島では新規の投資Iと、
加えて減価償却後の資本ストックがあります。減価償却率は1 – δです。πの割合の島は新規融資
に加えて更新融資が必要です。この、括弧の中は総借入れです。投資しない島では減価償却後
の資本ストックがあり、これらの更新融資が必要です。この確定的減価償却に加えて、確率的
減価償却があります。ψt+1を「資本の質的ショック」と呼びましょう。地震等で資本が崩壊す
るようなケースです。そのほかに実効資本ストックが変化するのは、資本ストックはそれぞれ
の産業に特有で、ある産業が突然、国際競争で比較優位を失くすと、その資本はもはや生産的
4 ではなくなるケースです。ですから、標準的な全要素生産性Atショックに加えて、「資本の質
的ショック」がメインのショックです。次の式は、生産市場の均衡です。生産物は消費される
か投資される、あるいは政府によって使われます。閉鎖経済を想定するので、経常収支はゼロ
です。fは資本財生産者のChristiano、Eichenbaum、Evans式の調整コストです。資本財生産者は、
特定の島だけでなく国全体で活動しており、前期から投資変化する場合、規模に関して収穫が
逓減します。投資が前期から不変であれば、fはゼロ、投資が前期と異なればプラスになります。
家計は多くの人々で構成され、銀行と労働者がいます。1 – fの部分は労働者で、fは銀行家で
す。労働者は労働を提供し、賃金を家計に持ち帰ります。各銀行家は1つの銀行を経営します。
最初は、家計から少額の事業開始資金を拠出しますが、銀行経営が開始されると家計から追加
資金を調達することはできません。そして各銀行家はそれぞれの資金フロー制約に従って資金
を運用しなければなりません。銀行家は家計に金銭を持ち帰ることはできますが、事業開始の
とき以外は資金を拠出できません。基本的に、銀行家は事業者に融資し、家計から内部資金を
調達できるのは事業開始当初のみです。また、銀行が外部資金を調達したい場合は、他の家計
との預金契約によって行います。しかし、幸福な家族は一緒に消費します。よって、抽象化さ
れた代表的な消費者家計を使って消費を説明します。各期において、この種の資金制約がある
場合、銀行家は利益を貯蓄して内部留保しようとするでしょう。これが続くと銀行家は大きく
なって、銀行部門は相当な純資産を持つことになり、資金制約にしばられることがなくなりま
す。そこで退出を考えます。銀行の1 – σ の部分が退出するとき、銀行家は配当という形で全て
の純資産を持ち出します。これをシンプルな配当ルールとしてみることができます。しかし、
銀行家が退出したら、誰かが代わりにならなければなりません。新たに労働者、労働者の一部
が新銀行家となります。彼らは少ない開業資金で事業を始めます。総資産の内のξ部分が 開業資
金となります。家計は消費、労働力供給、貯蓄を選択します。家計の貯蓄は預金、又は政府債
によって行われます。Dは合計値です。政府債や預金の利回りはRtです。フロー資金制約は、消
費は賃金と退出銀行家がもたらす利益から一括課税を差し引いたものと、前の預金と政府債の
収益から新しい預金を差し引いたものの純額です。
財の生産者は労働者を雇用します。国全体がひとつの労働市場となっているため、賃金は同
一で、労働資本比率も同様です。その結果、単位資本当たりの粗利Zは完全資本移動性によりど
の島でも均一となります。ここでは銀行と事業者(財の生産者)の間の金融摩擦はありません。
事業者は融資する人々に対して将来すべての粗利を支払うことをコミットできます。従って生
産者は株式契約によって有効に資金を調達し、生産者は投資を行う度に株式を発行できます。
5 1単位の株式は標準化され、1単位の投資から将来得られる収益に対する請求権となります。
従って、1単位の投資は、資本の質的ショック以後は次期はψt+1 が有効単位となり、それぞれ
が収益Zt+1 を上げ、次期の配当となります。減価償却1 – δ後、さらに資本の質的ショックがあ
り、残りの資本ストックはZt+2 の収益を上げる、となります。これが株式です。こうして事業
者の借入制約は無視できるので、銀行の借入制約、資金調達の制約に分析を集中します。
ここで重要なのは銀行家です(図)。銀行家は初めに預金契約、債務により、家計から資金
を調達します。家計からの資金調達が終わると、小売、金融市場は閉じられます。投資機会は
色々な島で起こります。いくつかの島は投資機会があり、銀行家は新しく融資しなければなり
ません。また、既存貸出の更新融資も必要です。当然、銀行家は資金不足に陥ります。一方、
投資機会のない島では銀行の顧客は投資機会がないですから、唯一の貸出は既存貸出の更新融
資です。それは、減価償却があるため前より小さくなります。そこで、投資が行われない島の
銀行家は、投資機会がある顧客がいる銀行家に融資します。それが銀行間市場の役割です。こ
の時点で銀行家は家計から資金調達することはできません。これによって小売金融市場は動き
が遅く、卸売金融市場は動きが早いことを捉えようとしています。フロー資金制約に関しては、
貸出 Qt St の資金全体は純資産ntで賄われるか、預金dt 、または銀行間市場におけるローンbt
で賄われます。資産は前期の証券金融からの収益ですから、St -1は前期に証券を購入するために
融資した金額です。資金の質的ショック以降、残ったのものが配当として Zt を支払います。
(1 – δ)Qt は証券の再販売価値です。銀行家には債務があります。Rt dt - 1 が預金債務、Rbt - 1 dt
- 1
が銀行間市場での借入債務です。bt
– 1
がマイナスの場合、貸し手ではなく借り手になります。
これらの資産と負債の差が、銀行家の純資産の定義となります。
また、重要な摩擦の中には、銀行家が資産を流用する可能性があります。私の祖父は銀行家
でした。彼は27 歳から77歳まで、50年間頭取でしたが、彼は銀行の資金を僅かですが個人的な
ことに使っていたと思います。これがモラルハザードの危険です。銀行が資金を流用し、人々
がそれを知ったら、その銀行は閉鎖されなければなりません。ですから、流用できる資産は銀
行の価値に比べて小さくなくてはなりません。資産の θ部分は、流用できます。QtSt の資産規模
のθ部分が、銀行家は流用できます。もし、銀行家が資産取得資金を銀行間市場で調達していた
ら、盗むのは難しくなります。 ω は銀行が銀行から資金を流用するときの困難度です。ωがゼロ
なら、他の銀行は流用を食い止めるのが家計と同様困難な状態です。ωが1なら、銀行家は銀行
から盗むことはできません。なぜなら、銀行間市場では、全ての融資に担保が設定されており、
盗むことは殆ど無理だからです。また、ωが1だと、基本的に、銀行間市場は摩擦が全くありま
6 せん。ωがゼロの場合は、銀行間市場に摩擦があることを意味します。私たちは、金融危機の1
つの解釈として、1であったωがゼロとなったと考えます。銀行間市場がデフォルトの危機に晒
される可能性に関しては後に議論します。今したいのは2つの経済の比較で、 1つはωが1の
経済(完全銀行間市場)です。もう1つはωがゼロ、銀行間市場に家計と対称的な摩擦がある状
態です。銀行家が資金を盗むとフランチャイズ価値を失い、閉鎖を余儀なくされます。フラン
チャイズ価値Vtは将来配当の純現在価値です。退出確率は1 – σで、それまでは配当を支払いま
す。支払い金額は純資産ntです。 Λtτ は確率的割引ファクターで、t時点消費とτ時点消費間の限
界代替率です。もしθ がゼロなら、お金を盗めないためRBCモデル(実物的景気循環モデル)
とおなじになります。
投資がある島の証券市場では、新規投資に加えて、残りの資本ストック分の証券が供給され
ます。これを民間あるいは政府が購入します。このモラル・ハザードの問題がある場合、民間
銀行が融資できる金額はレバレッジ 率に純資産額Nを乗じたものになります。φtは投資が行わ
れる島におけるレバレッジ率で、私たちのパラメーターでは、その島でレバレッジ制約が有効
となります。その結果、融資可能な金額は純資産に比例します。ω がゼロだと融資可能額はそ
れだけですが、 ωが1の場合は銀行間市場で調達する金額部分はレバレッジ制約を受けません。
銀行同業者から資金を盗めないからです。通常、投資が行われない島では投資はレバレッジ制
約にしばられるほど大きくありません。純資産は証券の収益から負債を差し引いたもので、投
資機会がIIDにも発生するため、純額ベースでは銀行間部分は誰かが資金を提供し、誰かが
資金を借り、全体の合計は0となります。最後の等式は民間部門の総資金で、投資が行われる島
あるいは行われない島の純資産、または預金です。こちらも、銀行間部分は差し引きゼロとな
ります。
私たちが検討する信用政策は、生産者への直接融資と銀行への融資です。銀行への融資は、
基本的に銀行間市場での介入です。問題は中央銀行が銀行よりも資金の盗用をうまく防げるか
どうかです。中央銀行の方が有効に防げない場合は、介入する意味はありません。もし防げる
なら、効率改善のために仲介可能です。しかし、より高い金利を課さなければ、中央銀行は民
間銀行間市場を駆逐するでしょう。それは実際に金融危機の際起きました。中央銀行が課すよ
り高い金利は、懲罰金利のようなものです。一方直接融資の方は、政府が各島の事業者に直接
融資をします。各銀行は島の中の事業者に対してのみ融資できますが、政府の影響力は大きい
ため色々な島で融資ができます。さらに、トレードオフがあります。政府が非効率なために、
資産の τ部分は浪費され、融資で余分な管理費用がかかるからです。
7 この図は資本の質的ショックに対する反応です。ψtは-5%、資本ストックの5%が失われま
す。金融摩擦のないRBCの点線をみてください。突然生産量が落ちますが、これは資本スト
ックが低いためです。投資と労働力をみると、資本が損害を受けた後、投資と労働力は急成長
します。金融摩擦がないθがゼロのときは、資本ストックが低下すると、経済は、労働と投資を
活発にすることで定常状態に戻ろうとします。消費は犠牲になりますが、人々は早く正常な経
済に戻ろうとします。従って消費は削減され、労働力供給が上昇し、投資が急拡大します。こ
れは今回の不況には該当しません。金融摩擦はあるが銀行間市場が完全である、θ はプラスでω
は1の場合をみると、純資産が低下するに伴い銀行は預金者からの資金調達が難しくなり、銀
行の家計から資金を調達する能力は低下します。家計が純資産の少ない銀行に対し懸念を持つ
からです。その結果、融資能力が下がりスプレッドが上昇します。スプレッドは融資の金利、
証券融資の期待収益率と預金金利のギャップです。これは投資抑制の要因になります。投資が
抑制されると、労働力も抑制されます。さらに株価の下落につながり、Qが下落、純資産がさら
に縮小します。純資産は大幅に縮小します。これは信用サイクルと同じ理屈で、借り手に純資
産がなくなると借入能力が低下し、資産を取得する能力も低下します。これが資産価格下落の
フィナンシャルアクセラレーターです。銀行間市場が不完全であれば、一部の借り手・一部の
銀行には余剰が生まれます。しかし余剰資金は資金が不足している銀行にスムーズに移動しま
せん。一部の銀行に余剰資金があっても、銀行間市場が機能しておらず、借り手は資金の調達
に苦労します。皆様の中には私が以前にJohnと共同で作ったモデルをご存知の方もいるでしょ
う。ωは市場流動性制約に対応するものです。θ は借入制約に対応します。もし市場流動性制約
が厳しいなら、いくつかの銀行に余剰資金があります。それらの銀行は資金不足に陥っている
銀行に融資することをためらいます。その結果、資産価格はさらに下落し、スプレッドは急拡
大します。ローン市場のスプレッドは、例えば、1%から5%になります。そして、投資が崩
壊状態になります。これが経済の波及効果です。
議長:Anil Kashyap(シカゴ大学教授):
資本の調整コストを取り除いた場合、Qは横ばいに
なりますか、それとも、モデルの中に何か他にQを変化させる要因がありますか。
清滝
信宏(プリンストン大学教授):
調整コストがなければ、投資はすぐに崩壊します。
調整コストが存在するため、Christiano、Eichenbaum、Evansモデルのように、すぐ下がるのでは
なく、こぶのような曲線を描くと思われます。それ以外は同じです。
議長:Anil Kashyap(シカゴ大学教授):
Qの動きですが、完全に調整コストにより決まりま
すか。
8 清滝
信宏(プリンストン大学教授): そうではありません。ちょうどトービンのQと同じよ
うに、証券価格で評価したからQは資本ストックの再生産原価より低くなることがあります。銀
行が唯一の資金の供給者だからです。
議長:Anil Kashyap(シカゴ大学教授):
清滝
信宏(プリンストン大学教授):
銀行の株式は政策介入の影の価値を含みますか。
はい、そうなります。政府が介入すれば問題を緩和
することができます。今回はそういうケースです。不完全な銀行間市場が存在すれば、政府が
非効率であっても介入する理由があります。もし、介入しなければスプレッドが5%まで急上
昇するからです。しかし、政府が介入すれば信用スプレッドを低減できます。ただ、政府は非
効率なので、最終的には役割を縮小させるべきです。赤線は、政府資産部分を示しますが、こ
れはゼロになっていくはずです。資本の質的ショックの波及効果について話しましたが、同じ
ことはω ショックに関しても言えます。銀行間市場が混乱状態に入った場合です。他の問題は、
外部株式の問題です。これまでは、銀行は外部株式を発行することによって家計から資金を調
達して追加資産を得られないという事を前提としていました。外部株式を発行する際の問題は、
銀行はどれだけ外部の株式保有者から盗めるかということです。通常、企業および金融業者は
外部株式保有者から盗むことが比較的簡単にできます。これらの事柄は最小資本基準とモラ
ル・ハザードの議論に関連してきます。政府が毎回介入したら、危機が起こるときに外部株式
の発行に関するインセンティブが変わります。
議長:Anil Kashyap(シカゴ大学教授):
ありがとうございました。西山氏からコメントを
いただきたいと思います。
西山
慎一(経済社会総合研究所主任研究官):
ありがとうございます。
この清滝先生とGertler先生の書かれた論文「景気循環分析における金融仲介と信用政策
(Financial Intermediation and Credit Policy in Business Cycle Analysis)」は大きな影響を与える
と思われます。Gertler and Kiyotaki論文に先立つBernanke, Gertler and Gilchrist(BGG)モデル
の特徴ですが、これは、企業のバランスシートと外部資金プレミアムのモデルとしてこれまで
標準なものとなっていました。しかし、BGG は、残念ながら、銀行部門のバランスシートの
状態を考慮していませんでした。リーマンショック後の最近の出来事、世界金融危機の全体を
みて明確になったことがあります。それは、金融危機の際に重要だったのは、企業のバランス
シートではなく、銀行部門のバランスシートだったということです。
しかし残念ながら、このBGGモデルは銀行のバランスシートを考慮できていませんでした。
そのギャップを埋めるためにGertler-Kiyotakiモデルが登場します。このモデルは、実は、銀行の
9 バランスシートと銀行間金利の標準的モデルになり得ます。また、この論文が書かれたタイミ
ングも絶妙でした。様々な世界金融問題を分析するために有効な手段となる可能性を秘めてい
ます。
私はこのDSGEモデルをフローチャートで考えます。私はこれが、このモデルの全体像を
理解するために有効な方法だと思います。t期において、(フェーズ1)預金フェーズでは、預
金者は小売金融市場で総額Dt を預金します。そして、各預金者ごとの預金額dtは預金者間で同じ
額となります。預金は銀行に行きます。この時点では、私たちは銀行が投資の行われる島にあ
るか、投資の行われない島にあるかは分かりません。ここで起きていることは、その経済の中
で利用可能な全銀行に預金者が同金額を預金するということです。フェーズ2では、銀行が預
金者から預金を受け入れますが、島には投資が行われるものと行われないものがあります。経
済の状態、世界の状態はフェーズ2で明らかになります。そして、この銀行n、これは投資機会
のない島の銀行です。投資機会がない銀行が何をするかというと、余ったお金、余剰資金を投
資機会のある島の銀行に融資します。さて、次の期(t+1)に何が起きるかというと、会社iが債
務を全て返済します。つまり、全ての配当を銀行iに返済します。[Zt+1+(1-δ)Qit+1]ψt+1/Qitが配
当率、証券1単位当たりの利益であり、t+1期の資本の価格です。これはもちろん減価償却され
たものです。そして、資本の質的ショックが起こります。QitSitは、前期に、会社iが実際に銀行i
から受け取った投資額です。そして銀行iに全額返済されます。これらの資金から銀行iはRbt+1Bt
を銀行nに返済し、銀行はRt+1dtを預金者に返済します。ここで、小売金融市場の金利と銀行間ロ
ーン市場の金利は異なっています。小売金融市場では Rt+1が課され、銀行間ローン市場では金融
摩擦があるため、銀行iは銀行nに対してRbt+1 を返済します。銀行nの島では、前期は新規の投資
がありませんでした。そして、投資機会のなかった島に会社 nがあり、この会社nはロールオー
バーしていた債務から得られた配当を銀行nに渡します。これを元に、銀行nは預金者に対して
Rt+1Dtを返します。これが、この経済のフローチャートです。
これは別の角度からみられます。決定フェーズのタイムラインでみるのです。t期の初めには
資本の質的ショックと生産性ショックが起きています。これらが起きたことによって、企業と
銀行は、銀行及び預金者に、それぞれ負債を返済しています。これがフェーズ3です。その後
に、預金者はまた資金を預け始めます(フェーズ1)。この時点で覚えておかなくてはならな
いのは、経済の状態がまだ分かっていないことです。つまり、銀行は投資機会のある島にいる
か、投資機会のない島にいるかが分からないのです。しかし、この預金フェーズの後に世界の
状態を知ります。つまり、一部の銀行は投資機会のある島に行き、別の銀行は投資機会のない
10 島に行きます。これは確率性 の問題があります。このフェーズ2では、銀行間ローン、銀行間
ローン市場でやり取りが起きます。投資機会のない島の銀行と投資機会のある島の銀行の取引
が発生します。これが経済、決定のタイムラインです。
次に指摘したいことは、Gertler-Kiyotaki モデルが非常に重要なものであり、銀行のバランス
シートの標準となることです。しかし、これ以前にも銀行のバランスシートのモデル化の取組
がいくつかありました。最初はAikmanとPaustianが2006年に書いたイングランド銀行の論文です。
また、カナダ銀行のAli Dibが書いた論文もあります。これ以外に、日本銀行のエコノミストが
書いた平形、須藤、上田論文があります。この論文は今年1月に一橋大学のJEDCコンファ
レンス で発表されました。あと、Meh、Moranが論文を書いています。Césaire Mehはカナダ銀
行の研究部長で、Moranは以前、カナダ銀行に所属していました。彼らの論文は今年のJEDC
で公刊されています。例えば、Meh、Moran論文はHolmstrom-Tiroleタイプの金融摩擦を使って、
銀行のバランスシートのモデルを提示し、平形、須藤、上田論文はBGG式の金融摩擦を採用
しています。金融摩擦とは、銀行部門の金融仲介業者に関するもので、同論文は銀行と企業の
バランスシートを同時にモデル化することを目指しています。Dib論文は銀行間市場のモデルを
提案しています。Gertler-Kiyotakiモデルとは異なる種類のものですが、実は、銀行間ローン市場
がこのモデルの中に組み込まれています。非常に興味深いことは、これらの取組は中央銀行、
中央銀行のエコノミストが実施したという点です。
Gertler-Kiyotakiモデルの利点は、3種類の金利をモデル化できることです。その金利とは融資
の金利のことで、図に示されているのは日本の金利です。青線は平均貸出金利を表しています。
つまり、銀行から企業、全企業に対する貸出の平均金利です。ピンク線は預金金利、預金者で
す。これは預金者が銀行から受け取る金利の平均レートです。緑色線はコール翌日物金利です。
ここに示されているのが、3種類の金利です。Gertler-Kiyotakiモデルのおかげで異なる3種類の
金利(平均貸出金利、銀行間ローン金利、預金金利)を捉える事ができます。ここの動きをみ
ればお分かりいただけるように、預金金利とコール翌日物金利との間にスプレッドがあります。
また、コール翌日物金利と平均貸出金利の間にもスプレッドがあり、それは時間が経過すると
変化します。Gertler-Kiyotakiの良い所は、これらの3種類の金利に関してスプレッドの動きをモ
デル化できることです。
今お話ししたのは日本の金利についてでした。図に示されているのはアメリカの金利です。
私は預金金利をセントルイス連銀のウェブサイトで探しましたが、譲渡性預金の金利以外の預
金金利はみつけられませんでした。プライムローン金利、これは銀行の最優良企業への貸出金
11 利で、緑線になります。フェデラルファンド金利は銀行間市場金利です。残念ながら私は連銀
のウェブサイトから求めている預金金利を探し出せませんでしたが、考え方はご理解いただけ
ると思います。プライムローン金利とフェデラルファンド金利の間にはスプレッドがあります。
また、求めている預金金利は絶対に何かあると思いますが、その預金金利とフェデラルファン
ド金利間にもスプレッドがあります。Gertler-Kiyotakiモデルは3つの金利の動きと、3つの金利
間のスプレッドの動きをモデル化できます。私がみるGertler-Kiyotakiモデルの利点は、なぜ預金
金利が銀行間金利より低いか、なぜ銀行間金利は貸出金利より低いかを答えられることです。
もう1つには、銀行部門のバランスシートをモデル化すること、3つの金利を関連付けること
が可能だということです。つまり、各金利を銀行のバランスシートの状態に関連付けることが
できるということです。ですから、私はこのモデルをマクロ経済学の分野において標準的なも
のとなる、非常に有用なモデルであると評価しています。さらに、私はこのモデルはマクロプ
ルーデンス政策の影響、例えば、中央銀行による流動性供給や政府による資本注入等の影響を
評価するのに非常に有効だと思います。マクロプルーデンス政策の定性的影響は明白です。し
かし、政策決定者にとってより重要なことは、マクロプルーデンス政策の定量的影響を評価す
ることです。このモデルは、中央銀行や、FSA等の金融当局の政策決定者にその情報を提供
することが可能です。ですから、このモデルは政策決定者にとっても非常に有用なものだと言
えます。マクロプルーデンス政策の定量的効果を分析できるからです。
以上のことを述べた上で、この論文に関して質問を提起したいと思います。最初の質問は基本
的なものです。この論文はインセンティブ制約を課しています。例えばこの不等式ですが、こ
れは小売金融、卸売金融市場のエージェンシー問題から生じるものです。初見の際は、インセ
ンティブ制約を課す有効な方法だと思いました。しかし、なぜBGGのように、最適負債契約
のような金融摩擦を課さなかったのでしょうか。BGGを除外する特別な理由があったのでし
ょうか。なぜBGG方式の銀行間ローン市場、預金市場の金融摩擦を避けたのでしょうか。2
番目の質問です。このモデルはRBCモデルの1つですが、それに金融仲介機関が加えられて
います。Gertler-Kiyotakiモデルにある種の名目的硬直性を導入し、その上で例えば、金融政策ル
ールを設定したい場合はどうでしょうか。銀行間金利を金融政策の操作目標すべきでしょうか。
このモデルの中ではRbtがそれに該当します。この論文の中では預金金利はRt、あるいは割引率
Rmtです。銀行間金利を金融政策の操作目標とした場合、問題は発生するでしょうか。この質問
をするのは、私が金融政策とGertler-Kiyotakiモデルの親和性に懸念を抱いているからです。私は、
このモデルのRbtと金融政策金利を結び付けることに問題があると思っています。現実的には、
12 中央銀行は銀行間コール金利をコントロールする目的で公開市場操作を実施します。この銀行
間コール金利は銀行のバランスシートの状態如何に関わらずコントロール可能です。先程みま
したが、アメリカの金利がここ(図)に示されており、これがコール金利です。ピンクの線は
フェデラルファンド金利です。ここで2008年のリーマンショックのときをみてみましょう。大
体この辺りです。銀行間金利、フェデラルファンド金利、これらはFRBによって操作されて
いますが、上昇はしていません。実際は低下しています。これがFRBのとった金融政策でし
た。それで私は少し混乱し、心配になりました。もし金融政策金利を銀行間金利と結び付け始
めたら、問題が発生するのではないでしょうか。私が指摘したいことは、現実には、銀行間コ
ール金利は中央銀行にコントロールされており、銀行部門のバランスシートの状態に関わらず
操作されるということです。これが2番目の質問でした。
次にこの論文の技術的面で質問します。投資機会がない島のインセンティブ制約は、時折バ
インドする制約(occasionally binding constraint)となり、均衡状態にある場合でもそうです。こ
の時折バインドする制約は重大な非線形現象をもたらし、最適政策関数、最適状態遷移方程式
に何らかの影響を与える可能性があります。システムを定常状態付近で対数線形化できるモデ
ルとして、Blanchard-Kahn定理を適用することは適切でしょうか。また、この論文では、価値関
数は線形だと推測されています。しかし、時折バインドする制約があるとき、価値関数はもは
や線形でなくなる可能性があります。最後の技術的な質問は、この論文は銀行の価値関数は線
形になると推測しており、(時間変化する)投資の限界価値νs、銀行間ローンνb、預金金利νを
得るために未定係数法を用いて解いていることについてです。私はこのような手法でモデルの
動学方程式を導き出す方法は非常に特殊だと思いましたが、なぜこの解法を採択したのでしょ
うか。なぜ、通常の動学的ラグランジュ法を使わなかったのでしょうか。通常、標準的なDSGE
モデルにおいては、動学的ラグランジュ法を採用します。そして動学的最適化問題の一階条件
を導き出し、次に状態遷移方程式を導き出し、そしてBlanchard-Kahn定理を適用します。これが
DSGEモデルを解く方法です。しかしこのモデルは、この論文は動学的ラグランジュ法を使って
いません。なぜこの方法を使わなかったのですか。
清滝
信宏(プリンストン大学教授):
ありがとうございます。
私たちは銀行と言っていますが、実際は金融仲介業者全般を指します。これらの事業者は証
券による融資を実施し、投資銀行やベンチャーキャピタルも入ります。そして、ローンスプレ
ッドは銀行プライム金利と銀行間金利のスプレッドではありません。実際は、証券の収益と預
金金利の差、銀行間ローン金利との差です。そういう理由で私たちは繰り返し証券を使ってい
13 ます。モラル・ハザードに関して言えば、私たちが誘引制約条件を金融摩擦として使った理由
は、有償状態監査(costly-state-verification)は預金者と銀行の間には馴染まないからです。もし
銀行が債務不履行に陥ったとして、何千人もの預金者が監視したとしたら、監視コストがかか
り過ぎます。銀行は、規制当局が監視すると考えるのが妥当です。また、有償状態監査は、動
的な視点から誘引整合的とは言えません(動学的不整合性)。これに対し誘引制約条件は、1
つの等式の中で借入制約と再販可能制約を考えることができる簡便な方法であり、容易に解く
ことができます。以上の理由で、銀行には、有償状態監査よりも誘引制約を課す方が現実的だ
と思われます。金融政策に関しては、銀行間市場金利を使うべきだと考えますが、銀行間金利
はフェデラルファンド金利とは異なります。銀行間金利は LIBORです。それは金融危機の間は
フェデラルファンド金利よりも高くなります。ですから、私たちはLIBORを使うべきです。ま
た、これも金融政策についてですが、金利は1つではなく幅広くみる必要があります。スプレ
ッドが拡大しているときは金利全体をみるべきで、もし金融政策目標が使われるなら、銀行間
市場、LIBOR金利を対象とすべきです。時折バインドする制約に関してですが、それは個別の
銀行に対してであって、全体ではありません。技術的なことについては時間がかかりますので、
個別にお話しさせていただきます。
議長:Anil Kashyap(シカゴ大学教授):
質問のある方はいらっしゃいますか。それでは、
まずJohnson教授、どうぞ。
Simon Johnson(マサチューセッツ工科大学教授):
私の祖父は事業を営んでいましたが、彼
らは銀行に対して非常に懐疑的でした。彼らが正しかったことが確認できて良かったです。私
が現代の銀行ビジネスの重要課題と考えることが数点、47ページの最後のパラグラフに格下げ
されて扱われていることを、若干心配しています。このパラグラフでは、モラル・ハザードの
問題が付随懸念事項として述べられています。しかし、もしこれがアメリカ経済政策を左右す
る政策として考えるなら、もっと中心的な課題として扱うべきではないでしょうか。モラル・
ハザードがどのような影響を与えるかは重要な問題です。それはどれだけのレバレッジが経済
全体で使われるかということです。そしてそれが景気循環の中でどのような位置を占めると予
想されるか。このことはすでにお考えになっているとは思いますが。もう1つは、このモデル
をもう少し拡張する予定があるとしても、金融サービス業界にどれだけの参入者が現れるかと
いう問題があります。これは大きな波及効果をもたらす要因となります。人々が、リスクを取
ることができる、自己に有利なルールを求めてロビー活動がなされ、それが救援対策の中で認
められた場合、これは大きな影響を与えます。また、もし、人々が救援対象に投資できて、救
14 援の可能性が高まるとしたらどうでしょう。もし、特定の島が戦略的に重要である場合、例え
ば、マーケットシェアが拡大するとか、大きすぎて潰せないというような場合です。
浜田
宏一(イェール大学教授):
日本やアメリカのようにゼロ金利の状態で、他の証券、
最低金利でないものを買うかどうかよく聞かれます。しかし、それらの資産のリスク特性を直
接的に取り扱うことに関して、いくつかの見方があると思います。もちろん西山氏が述べたよ
うに、名目と実質の両面で調整する必要がありますが、中央銀行は市場操作をするに当たって、
どのようなメンタルフレームワークを持つべきでしょうか。
M. Ayhan Kose(IMF調査部長補佐):
私はJohnson教授と同意見です。これらのモデルの
中でロビイストを考慮すべきです。これはこの論文の価値を高めます。モデルの中で議論され
ている内容は、供給サイドの摩擦を考える上で、有効で洗練されたものです。清滝教授に質問
ですが、供給サイドの摩擦を考えるときに、需要サイドの摩擦は考えていないようですが、そ
れらの摩擦も存在しており、増幅メカニズムによって大きくなって行きます。この問題につい
てはお考えでしょうか。2番目の質問です。これらのインパルス応答は、ある意味で、モデル
が定性的に示唆するものを考えるととても有効だと思います。しかし、IMF等の政策機関に
おいては、定量的な示唆は非常に重要です。定量的な示唆を考えるとき、そのモデルが標準的
な景気循環のモーメントを作り出すという点で優れているかどうかを考えます。それをみたい
と思いますが、摩擦を考慮した場合、RBCモデルよりもうまく機能すると思われます。また、
一般的なボラティリティーの高い時期や共変動(co-movement)の時期について検討されている
かどうかを知りたいと思います。政策実験の段階に進める前に、マッチしていることを確認し
なければなりません。
Jeffrey Campbell(シカゴ連邦銀行):
Ayhanさんの2番目のポイント、特に共変動について
聞きたいと思います。学生と共に銀行間ローン市場が摩擦の無い状態でどう機能するかを2つ
目の論文で検討してみるのはどうでしょう。テクノロジーの際はどんな共変動がみられるかな
どを検討するのです。ここに提示されたものを理解するうえで有益な資料となると思います。
私はこのモデルをシカゴ連銀に戻って推奨するつもりですが、あなたの助言が必要です。割引
窓口(discount window)担当に「銀行に融資したら、銀行は事業者に融資できる」と伝えます。
彼らは銀行に融資するのは流動性を供給するためと思っているので笑うでしょう。もし彼らが
企業業績は好転すると考え、割引窓口で借りた資金が新規事業者への新規融資に使われると考
えたら、彼らは実行しないと思います。そこで、あなたの結論が銀行間ローン実施について
様々な理由付けがある中でどれだけ確かなものかお聞かせ下さい。2番目は、これもAyhanさん
15 の質問に関連していますが、これらの銀行は家計に対する融資は行いません。しかし家計への
融資は金融危機の主要な原因でした。一部の人が主張したのは、一番強く主張したのはWatter、
Day、Hahnで評判が悪かったのですが、これらが金融政策の波及メカニズムの大きな部分を占め
たことです。これについてお考えを聞かせてください。
議長:Anil Kashyap(シカゴ大学教授):
既に質問されているものですが、違う角度から質
問してみたいと思います。モデルを閉じて、借り手サイドの摩擦を追加すると、IS曲線は通
常のIS曲線となります。そして、金利は複雑なものとなり、色々なものに左右されます。な
ぜなら、銀行間金利に種々の信用供与コストが上乗せされたり、借り手の純資産状況が金利に
反映されたりして、様々な要因が金利に影響するからです。中央銀行でDSGEモデルを構築
する誰もが抱える問題があります。モデルで採用する金利をどれにするかを決める必要があり
ますが、その候補となる金利間の相互関連性があまりありません。この件に関して、状況を進
展させるための近道として、中央銀行の連中に何をお勧めになりますか。理論的には現在3つ
から4つの候補があることを踏まえてお答えください。
清滝
信宏(プリンストン大学教授):
コメント、ありがとうございます。
最後にされた質問から順番に答えていきます。借り手の純資産に関してですが、借り手も借
入制約を受けている場合は、銀行等の貸し手の純資産と、借り手の純資産が問題となります。
景気循環のそれぞれのフェーズにおいて、借り手の純資産の状態が重要になります。しかし、
この論文では、銀行の金融摩擦を中心的に扱っています。そういう理由で借り手の純資産は完
全に無視しています。振り返ってみると、実は、BernankeとGertlerはBanking in General
Equilibrium (NBERWP, 1985)に最初の論文を書いており、大恐慌を考察するに当たって銀行の借
入制約への対応に関する理論的価格の記述があります。しかし、Sandy Grossmanさんは、銀行
の借入制約と事業者の借入制約の違いは何かという質問をされ、恐らく違いがないと思うと述
べられています。それで、事業者の借入制約にスイッチすることになりました。そこで
Bernanke-Gertler (AER, 1987)の論文が登場します。この論文には事業者の借入制約についてもっ
と詳細な議論をしています。Sandy Grossmanさんの手に負えない質問の前に戻りましょう。実
際にそのようなことになっていますが。
また、共変動についてはおっしゃる通り問題になります。そして、資本の質的ショックを選
んだ理由は共変動です。殆どが生産性ショックの影響のようです。資本ストックがダメージを
受けると生産能力も低下し、消費と投資が同じ動きをします。しかし、資本の評価額が変わる
だけで資本ストックに変化がない場合は、投資は落ちますが、消費は上昇します。価格が硬直
16 している場合は、共変動の問題は解決します。しかし、価格の硬直性を追加したくなかったの
で、代わりに、資本の質的ショックを使用しました。家計への融資も重要ですが、投資する家
計、つまり家を購入したり、子供を大学に通わせたりしている家計は、活動は事業者と同じよ
うなものとなります。そういう理由で、家計も事業者に近いものとみなしました。
定量的示唆についてですが、価格の硬直性及びゼロ下限制約が必要となります。そして、ス
プレッドが拡大し、金利が低下してゼロとなる可能性があります。政府は、スプレッドの対策
を講じなければ実施できなくなります。ここで重要なのは金利、銀行間金利、預金金利の水準
だけではありません。金融不安によってスプレッドが大きくなったら、スプレッド対策をすべ
きです。
モラル・ハザードも重要だと考えました。もし中央銀行が融資を実施したら、モラル・ハザ
ード、銀行が中央銀行からどれだけの資金を盗むかということは重要な要因となります。どれ
だけの金額の融資を受けられるか、銀行同業者からどれだけ盗むことができるかに加えて重要
な要因です。少なくとも銀行間市場での資金流用を防ぐようなことを、政府が優先して実行で
きないなら、政府は介入すべきではありません。しかし、ショックは、ω、ωは1から0の範囲で
変化しますが、政府が突然、銀行間市場に介入する理由はあると思います。流動性の短期的変
動はωの変化が原因です。そういうときは、政府は介入し、公開市場操作等の方法で銀行間市場
金利を平準化させるべきです。最後の方に、外部株式についての記述があります。外部株式に
関する議論は、基本的に、外部株式を発行することによって銀行がレバレッジ比率を引き下げ
ることができるというものです。しかし、銀行は外部株式の保有者から資金を盗むかもしれま
せん。外部株式保有者は、もし配当を支払わなければ黙っていません。そういう意味では、銀
行にとって、外部株式は高くつく資金調達方法です。しかし、外部株式を発行することの利点
は、レバレッジ比率を引き下げることができ、銀行の脆弱性が低減することです。これは社会
にも良い影響を与えます。銀行のレバレッジ比率が下がれば、経済のボラティリティーが減少
します。民間銀行にも利益があり、社会にとっても利益があるということです。コストは全て
民間が負担します。ですから銀行の外部株式発行レベルはそれほど高くないわけです。これは
金銭的外部性でよく議論している問題です。もし政府が不況のたびに介入するとしたら、外部
株式を発行するインセンティブはさらに低下するでしょう。それは恩恵が少ないからです。以
上のような意味において、モラル・ハザードについて議論することは可能です。金融危機に関
連してモラル・ハザードが語られる場合が多く、この議論の中に外部株式の発行が含まれます。
外部株式は銀行にとっては割高ですが、有益であり、社会にとっても有益です。
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