Comments
Description
Transcript
聴取者だけに音を伝える 音場制御技術
スピーカ 制御前 0 1 2 2 3 4 5 スピーカに対 水平方向の距 し 離(m) ⒞ 残響ビーム型 サラウンドスピーカ 6 −2 1 面 正 ) カ m ー 離( スピ の距 から −1 0 −10 −20 3 個の音波が同位相で干渉し, 振幅 3 倍に局所増音 2 次音源どうしが逆位相で 干渉消滅し,主音源だけ残る 2011 年のアナログ放送の完全停波及び地上デジタ A 普及し,家庭でも映画館さながらの臨場感ある高画質 映像と,重低音の音響を楽しむユーザーが増えていま 聴取エリア 2 次音源 B 東芝は,家庭のリビング空間に広がるスピーカ再生 音場を対象に,聴取者だけに音を伝え,その周囲には伝 えにくくする音場制御技術の開発を進めています。特 に,低音域で制御効果の高い方式として,二つの 2 次 音源を用いる技術を開発し,その効果を検証しました。 上・BS デ ジ タ ル 放 送 の 普 及 な ど に よって,高画質・高音質を家庭で楽し める環境が一般化しています。それに 伴い,迫力のあるシーンは,より大音 68 ⒜ 従来方式(時間遅延) 2 次音源どうし干渉せず,残った音波と 主音源が干渉し減音する ⒝ 開発方式(音響エネルギー最小化) 図 2.音響エネルギー最小化方式による空間遮音制御 ̶ 従来方式では音波 どうしの干渉減音はありませんが,開発方式では逆位相に近い関係にある二 つの 2 次音源を用いることで,減音エリアで低音域の空間遮音量が大きいこ とが特長です。 こうした背景から東芝は,視聴者だ けに音を伝えて,その周囲には伝えに くくする音場制御技術の開発を進めて います。 従来の音場制御技術 アレー状スピーカを使った時間遅延制 ますが,生活時間帯の変化や住宅事情 御 に よ る サ ウンドスポット (図 1 ⒜) とも相まって,特に周りが静かな深夜 や,超音波を利用した超指向性スピー 3 4 5 スピーカに対 水平方向の距 し 離(m) 6 −2 1 面 正 ) カ m ー 離( スピ の距 から −1 0 ⒝ 開発方式(音響エネルギー最小化) :制御オフ :制御オン 2.0 3.0 減音エリア (4.0 m 地点) 4.0 5.0 6.0 7.0 −5.0 −4.0 −3.0 −2.0 −1.0 0 200 400 600 70 60 50 40 30 20 10 0 0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 スピーカに対し水平方向の距離 (m) 図 5.音の流れ分布 (250 Hz の場合)̶ 聴取エリア後方で,音の流れ の向きが左右に変化し,正面方向には流れにくくなっています。 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000 制御周波数帯域 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000 周波数(Hz) スピーカ 55 0.5 1.0 1.5 50 聴取エリア 45 2.0 40 2.5 35 3.0 30 3.5 減音エリア 25 4.0 20 −0.6 −0.4 −0.2 0 0.2 0.4 0.6 55 50 1.0 聴取エリア 1.5 40 2.5 35 3.0 30 3.5 減音エリア 4.0 25 20 0.2 0.4 0.6 スピーカに対し水平方向の距離(m) ⒜ 制御オフ時 図 4.パワースペクトル ̶ 2 kHzまでの広い周波数帯域において,1.5 m 地点 では制御前後で音圧が変化せず,4.0 m 地点では減音効果が得られています。 45 2.0 −0.6 −0.4−0.2 0 スピーカに対し水平方向の距離(m) ⒝ 減音エリア (スピーカ正面方向 4.0 m) スピーカ 0.5 ⒝ 制御オン時 図 6.音圧分布 (250 Hz の場合) ̶ スピーカ正面から 2 m 以上離れた広 い範囲で,10 dB 以上の低減が検証できました。 とが特徴ですが,これも低音域の局所 ネルギーの和を最小化する方式です。 積の異なるスピーカを複数組み合わせ とがわかります。これにより,図 6 に 増音には不向きです。 従来の増音方式に比べて,低音域でも 空間遮音制御技術を適用したスピーカ 示す音圧分布も,スピーカ正面から 聴取エリアと減音エリアの音圧差であ システムを構築しました。 2 m 以上離れた広い範囲で 10 dB 以 低音域はもともと壁の遮音効果が期 待できないため音漏れの原因にもなりや すく,低音域における空間遮音性能の向 上は大きな課題となっています。 局所空間に音を再生する技術には, 量で楽しみたいという要求が増えてい 2 周波数(Hz) B 音源どうしの位相はずれるが逆位相には ならず,干渉減音しない 1 ⒜ 聴取エリア (スピーカ正面方向 1.5 m) 非聴取エリア なりうる危険性をはらんでいます。 0 40 30 20 10 0 減音エリア ことは,これらの音響が聴取者以外の周囲では騒音とも 近年,薄型大画面テレビ(TV)や地 聴取エリア 70 60 50 逆位相に近い 状態で放射 す。しかし,音響システムが一般生活にまで普及する 一般家庭の最近の音場環境 A 主音源 音圧レベル (dB) ル放送への移行を背景に,近年,薄型テレビが急速に 2 図 3.低音域 200 Hz での従来方式と開発方式の比較計算結果 ̶ 従来方式では 全体に増音していますが,開発方式ではスピーカ正面で音圧を維持し,側面で約 10 dB 近く減音しています。 音圧レベル (dB) 図 1.局所空間に音を再生する技術 ̶ 局所空間に音を再生する技術はいく つかありますが,いずれも低音域の局所増音には不向きです。 聴取エリア (1.5 m 地点) 0 ⒜ 従来方式(時間遅延) 二つの 2 次音源を用いて 低音域での制御効果を向上 1.0 10 音圧レベル(dB) −10 −20 20 音圧レベル(dB) 0 30 スピーカ正面からの距離(m) ⒝ 超指向性スピーカ 10 0 スピーカ正面からの距離(m) ⒜ 時間遅延制御による サウンドスポット 20 制御後 制御前 40 スピーカ正面からの距離(m) 超音波 30 音圧レベル (dB) 聴取者だけに音を伝える 音場制御技術 音圧レベル(dB) 制御後 40 低音域で優れた空間遮音制御 当社は,低音域での空間遮音性能を る空間遮音量が大きいことが特長です。 各スピーカから聴取・減音エリア内 従来方式と開発方式を比較した計算 に設定した制御代表点までの空間伝達 結果を図 3 に示します。前者では全体 特性を基に“同一空間で音圧維持と減 , に増音していますが,後者ではスピー 音を両立する制御フィルタ”を導出し, カ 正 面 で 音 圧 を 維 持 し, 側 面 で 約 リアルタイムで処理します。 10 dB 近く減音しています。 向上させるため,逆位相に近い関係に 上の低減が検証できました。 今後の展望 反響の少ない空間なら現状のままで も十分適用可能ですが,実際の生活空 一例として,聴取と減音各エリア内 間では多重反射や暗騒音といった様々 の 制 御 代 表 点 を,ス ピ ー カ 正 面 方 向 な外乱が存在するため,制御効果の劣 1.5 m と 4.0 m の位置に設定した場合 化が予測されます。それに伴い,この外 時は近隣や隣室への音漏れに配慮し, カ(図 1 ⒝)などがあり,博物館などの ある二つの 2 次音源を用いることで聴 空間遮音制御のスピーカシステム 日常やむをえず音量を控えています。 音声展示支援として公共の場で実用化 取と減音のエリアを生成する,音響エ 音の向きを変える指向性スピーカ の制御効果を図 4 に示します。2 kHzま 乱による影響をどこまで補正できるか また,日中でも,同じリビング内で されています。しかし,これらは低音 ネルギーの最小化による空間遮音制御 や,遠方まで音を伝えやすくする平面 での広い周波数帯域において,1.5 m地 が大きな課題となります。また,制御 TV に夢中になっている家族に対し 域の音にあまり効果がありません。 技術を開発しました(図 2)。聴取エリ スピーカは既に実用化されています。 点では制御前後で音圧が変化せず,4.0 m エリアの拡大も期待されています。実 環境への適用を目指して,効果のいっ て,聞きたくない番組の音量を小さ 一方,音質重視の民生用システムで アでは,2 次音源どうしの音響エネル しかし,スピーカ正面から 2 m 程度の 地点では減音効果が得られています。 くするよう求めることも多々ありま は,残響ビーム型サラウンドスピーカ ギーの和を最小化することで主音源の 近距離だけに音を伝えやすくするス 特に,低音域(250 Hz)に着目する す。つまり,音響はその周辺に対し (図 1 ⒞)があります。時間遅延制御で 音響エネルギーだけを残し,減音エリ ピーカはありません。そこで,点や面 と,図 5 のように聴取エリア後方で て新しい騒音になりうる危険性をは 生成した鋭いビームを側面や背面に反 アでは,わずかに残った 2 次音源どう など音源形状の違いで音の伝わり方が は,音の流れの向きが左右に変化し, らんでいます。 射させてサラウンド音場を再生するこ しの音響エネルギーと主音源の音響エ 変化する距離減衰率に着目し,放射面 正面方向には流れにくくなっているこ 東芝レビュー Vol.64 No.4(2009) 聴取者だけに音を伝える音場制御技術 そうの向上に取り組んでいきます。 蛭間 貴博 研究開発センター 機械・システムラボラトリー 69