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日本語版
適度な刺激策?
財政赤字で低迷?
2016/17 年度
オーストラリア連邦予算案
The better the question. The better the answer.
The better2016/17
the world works.
年度オーストラリア連邦予算案
1|Page
エグゼクティブ サマリー
大規模事業からの資金により、中小事業
への投資
大規模事業は、2026/27年度に法人税を25%へ減
税される約束を得たが、それまでに租税回避防止規
定の強化、著しく大きな追徴課税に直面するであろう。
これが財政支出を増やさずデフレの瀬戸
際に立っている経済の活性化をはかる
政府最大の試みである。
さらに、高所得者に対する年金制度の税制優遇措置
の改正によって、税収の不足分を補うことを期待して
いる。喫煙者も同様に役割を担うことが期待される。
それ程極端なものでなく、適度なレベルの今年の連
邦予算パッケージは、防衛とそれに関連する産業に
焦点をあて、イノベーションを含む内容となっている。
一方、構造的な税制改革は次の選挙まで後回しにさ
れた。
全体的にこの予算案は、財政支出を制限し、イノベー
シ ョ ン へ の 取 り 組 み を 示 唆 し な が ら Ten Year
Enterprise Tax Plan(事業税制計画10ヵ年計画)を
始めるにあたり、その移行期間において景気刺激策
を行うという困難な課題を舵取るためのもである。
しかしながら財務大臣が考えるように、この景気刺激
策が、オーストラリアをさらに強く、多角化した新しい
経済へ移行するのに十分であるかは、明白ではない。
その代わりに、多国籍企業に対する税制を強化する
ことにより中小企業が得る税制優遇措置のパッケー
ジは、景気の刺激策を推進する。政府は、即座に法 この景気刺激策がどれだけ現実味を帯びるかは両院
人税の引き下げを行うことや、幾つかの経費の即時 ダブル選挙のあとまで待たなければならないであろう。
損金算入を認めるなどその他の税制優遇措置の範
囲を広めることにより、小規模事業の成長を促進する。
2|Page
2016/17 年度オーストラリア連邦予算案
経済
理にかなった選挙年度の予算案
外的経済環境が穏やかである中、2016/17年度予
算は、政府が適度な成長へ方向を変えるための空
の戸棚のようなものである。これは、選挙年にあり
がちな財政支出への甘い誘惑を回避し、財政赤字
を統制するための公約を政府がどうにか達成する
ためのものである。
一方、必要な経済成長は、中小企業(SME)の支出
傾向にゆだねている。2016年7月1日以降導入さ
れる効果的な減税パッケージにより賢明な投資と生
産性を上げるために、いくつものイニシアチブを行な
い、中小企業をターゲットに経済刺激策を導入する。
中小企業が法人税の引き下げや経費の即時損金
算入等のメリットで浮いた資金を消費する傾向にあ
るという前提に、これらのイニシアチブは経済的に
みて妥当にみえる。このイニシアチブは、高い売上
をともなう技術的なイノベーション組織をもったSME
にも対象を広げる。
財政緊縮
この予算案はすでに発表されているイニシアチブを
もとに策定され、イノベーションと新たな経済への移
行維持するためのものである。
政府の持続性のある収入政策と支出の制限により
根本的な赤字の統制をする。その結果、政府債務
残高の増長の抑制をおこない赤字は将来減少する
見通しである。
政府は、自分達の問題を自ら解決する姿勢を明示
している。機能効率性レビュープログラム
(Functional and Efficiency Reviews)を通して、政
府の価値を高めることに継続して努力をしている。
過去18ヶ月にわたり12のレビュープログラムによっ
て、政府は27億ドルもの歳出削減を達成した。この
予算においては、さらに8つのレビューにより、継続
してこの分野の対応に焦点をあてている。
政府はまた現行の投資モデルを破壊する変革に気
づいている。例えばクラウドファンディングについて
言及している。このようなイニシアチブによって、資
金調達方法は、借入と返済という従来のモデルから
離れ、新規市場の開拓と成長、および製品の開発と
成長するために企業家が直面しているコストの軽減
を効果的に提供するであろう。
景気対策資金
堅実な対応策として、これらのイニシアチブと減税
は下記を通して実現される。
•
•
•
多国籍企業による租税回避に対する新しい法令
富裕層における年金の拠出金の優遇措置の改正
タバコ税の増税
これらの対策は、現行の税制における不平等さを指
摘すると同時に、選挙年の税制改革の難しさを避け
ることになる。
防衛産業は棚からぼた餅
この予算案は、特に産業に対して優遇するようなも
のはないが、イノベーションと産業政策を見る限り防
衛産業に大きく焦点を当てている。継続した造船プ
ログラムを通じてオーストラリア海軍の性能を高め
るという以前の発表の再確認ではあるが、メジャー
な新規インフラストラクチャーへの支出がない中、防
衛は予算の主要な受益者となる。
海軍の性能を高めることにより3,600人の直接雇用
を創出し、サプライチェーンにおいてさらなる雇用機
会を促進する働きが予期される。これは、政府のイ
ノベーションの政策を支援するだけでなく、高度に熟
練し技術的な能力をもつ労働力の開発を助けるだ
ろう。財務大臣は、真の生産性向上を与える高度な
サービスとイノベーティブな製造へ移行する経済へ
貢献することを期待している。
イノベーション
国家レベルでの科学技術への投資を基盤とし、この
予算は経済の全体を通して革新的な思考を促進す
るための計画を発表している。中小企業を対象にお
こなわれる税制改正は、技術革新分野の成長にエ
ネルギーを注ぎ、この分野の投資と成長を助長する
であろう。
3|Page
2016/17 年度オーストラリア連邦予算案
税務
予算案での税務上の施策は税収減をもたらす経
済の過渡期におけるオーストラリアのニーズを反
映しており、高所得者のスーパーアニエ-ションを
減額するとともに多国籍企業および大規模事業か
らの税収増に焦点を当てている。政府は追加の消
費および投資をもたらす下記の領域に財源を投入
することで経済成長を促進することを意図している。
•
所得が1,000万ドル未満の中小事業
•
所得が80,000ドル以上の中所得者
•
退職年金基金への拠出が奨励されている低所
得者
スーパーアニュエーション
予算はまた持続可能なスーパーアニュエーション
を確立するための下記の税務アプローチを含んで
いる。
•
多国籍企業を含む税務規定の強化プログラム
として、2016年より移転 価 格税制の拡大 、
2017 年 よ り 革 新 的 な オ ー ス ト ラ リ ア 版 の
Diverted Profit Tax (迂回利益税) 、2018年よ
り国際的なBEPSプログラムに基づくOCEDハイ
ブリッド防止規定の適用
•
売上が1億ドル以上の企業に対する税務情報
の透明性規範(Tax Transparency code)
•
通報者保護(Whistleblower protection)およ
び潜在的な租税回避への税務当局への開示
の強化策
•
税の不払および税務データの未開示に対する
罰金の増額
税務上の優遇措置
•
スーパーアニュエーション制度における持続不
可能な寛大な免除規定の削除
これまで述べた施策は働くオーストラリア人および
中小事業の税負担を軽減することを目的としており、
下記の施策を伴っている。
•
低所得者の退職年金基金の積立額の改善
•
•
スーパーアニュエーションへの積立の年齢上限
につき65歳から75歳への引き上げ
租税回避対策
加えて、特に多国籍企業を標的とした下記の租税
回避対策が含まれる。
•
多国籍企業および富裕層による租税回避を標
的に今後4年間で37億ドルの税収を上げること
を目的とした、税務長官を中心とする新租税回
避 特 別 委 員 会 を 含 む 税 務 当 局 (Australian
Taxation Office、ATO)への投資およびATOの
組織再編
売上高が1,000万ドル未満の中規模事業に対
する27.5%の税率の適用および法人化してい
ない小規模事業への追加の税制優遇措置。従
来の売上高200万ドル未満から1,000万ドル
未満の売上高上限の引き上げは、500,000以
上の中規模事業に影響を与える。さらに、職人
などの個人事業主、サービス業、ITビジネスお
よびオーストラリアの取引業といった事業は、
簡素化された小規模事業の税務規定によって
も恩恵を受ける見込みである
• 中間層の個人に適用される所得税率の上限
を80,000ドルから87,500ドルへ引き上げ
4|Page
2016/17 年度オーストラリア連邦予算案
法人税
財務大臣の認識どおり、オーストラリアの30%の
法人税率は国際的な競争力がない。しかしながら、
オーストラリアは即時に重大な改革に着手する立
場にもない。代わりに、予算では法人税率を段階
的に引 き下 げ 、 2026/27 年度に は税 率を 一律
25%にする長期的な計画を練っている。時間軸の
長さはあるが、国際的な法人税率のトレンドとの調
和という観点において最初のステップとして歓迎す
べきものである。
税務の付録においては、歓迎すべき重要な施策に
ついて述べている。これら歓迎される重要な施策
は、多大な財政支出または税制改革をもたらすこ
とはなく、連結納税の改正、様々な税制の簡素化
および海外投資家からオーストラリアへの投資に
係る仕組の改善を含む。またオーストラリアの税制
のガバナンスを強化する措置が含まれている。
予算案における税務上の施策につき読者はこう思
うかもしれない;
“これが税務改革のすべてなのか?”しかしながら、
オーストラリアの厳しい財政状況に照らし合わせ
ると現実的な改革であるといえよう。
5|Page
2016/17 年度オーストラリア連邦予算案
スーパーアニュエーション
スーパーアニュエーション制度の改革
政府はスーパーアニュエーション制度の「目的」を
発表し、予算案に含まれている税制優遇策の改
正はそれを支えるために設計されている。とりわ
け、新たな繰延年金商品のための改正やこれか
•
NCCs(生涯 NCCs)を導入。予算案開示時より
発効され、2007 年 7 月 1 日より拠出された
すべての拠出金が対象となる。導入開始前の
らの年金制度を強化するための基礎的要素を再
配置している。
2017 年 7 月 1 日より開始される多数の施策は
下記を含む。
•
•
•
•
•
年間税制優遇拠出上限額を 25,000 ドルに
引き下げ
2017 年 7 月 1 日から過去 5 年間に拠出上
限額に達していない個人は追加の税制優遇
拠出が可能。上限枠内までの追加拠出が可
•
•
•
•
能の人は(積立金)残高が 50 万ドル未満に
限られている
65 歳から 74 歳に対する就業基準の制限を
排除。就業状況に関わらず、75 歳までは個
人の拠出金額を所得控除することができる
年間最大 540 ドルの低所得配偶者拠出控除
額 の 対 象 収 入 基 準 額 を 10,800 ド ル か ら
37,000 ドルまでに引き上げ
年金口座への資金移転限額を 160 万ドルま
で に 制 限 。 現 行 の 税 引 後 拠 出 (nonconcessional contributions、NCCs) に対す
る税制処置と同様に、上限額を超える金額が
振り込まれた部分(超過分の運用益含む)に
ついては追加の課税対象となる。既に年金受
いる場合は 2017 年 7 月 1 日までに残高を
上限額に減らすことが要求される
インデックス調整対象 50 万ドルの lifetime
拠出金については超過額とはならない。しかし、
それ以降の拠出額で上限を超える部分につい
ては引き出すか加算税の対象となる
低所得者へ代わり、退職金基金に対して年間
最大 500 ドルの控除を導入
追加課税対象の高所得者となる年間調整後
所得基準を 30 万ドルから 25 万ドルに引き
下げ
損失阻止規定の廃止
Transition to Retirement Income Streams
(退職への移行を補助する定期収入)のベー
スとなる資産運用益に対する免税処置を廃止
•
特定の定期的年金所得に関して、税務上一時
金としてみなす措置も廃止
繰延終身年金の運用益は非課税
•
確定給付型にも類似の改正を導入
これらの改正は特定されたスーパーアニュエーシ
ョン制度の目的のためのものであるが、短期の効
率性を目指す年金基金、サービスプロバイダー及
び関連政府機関にとって更なる運営負担となるこ
とは課題となるかもしれない。
給者で(積立金)残高が 160 万ドルを超えて
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2016/17 年度オーストラリア連邦予算案
その他
高齢者介護プロバイダーへの更なる給
付削減
Aged Care Funding Instrument (ACFI)マトリックス
は修正され、今後 4 年間にわたり 12 億ドルの効率
改善を達成することが見込まれている 。Complex
Health Care Component の ACFI インデクセーショ
ン率は、その他の構成要素と比較して 2.5 倍の速さ
で増加していることから 50%削減される。
給付削減に伴い高齢者介護プロバイダーに対する
支援のため、政府は 5,330 万ドルの暫定的支援基
金を設立する。郊外や地方の介護プロバイダーは修
正版モナシュモデル(Modified Monash Model)を適
用し て 高齢 者 介 護 補 助金 ( Aged Care Viability
Supplement)を申請することで、4 年間にわたり追
加 1 億 230 万ドルを受け取る。追加情報を提供す
ることに対する支援として、My Aged Care コンタクト
センターも 1 億 3,660 万ドルの資金を受け取る。
7|Page
2016/17 年度オーストラリア連邦予算案
付録
連邦政府予算案
8|Page
2016/17 年度オーストラリア連邦予算案
税務関連の分析
法人税率の引き下げ — 2026/27年
度において25%
公共及びATOに対する透明性の拡大
10年以上かけて段階的に法人税率の引き下げ
税制委員会の推奨により2016年度より適用。
法人税率の引き下げは2016/17年度から開始さ
れ、2026/27年度に全ての納税者の税率が25%
に達する。売上高の限度額は徐々に緩和され、
2016/17年度の1,000万ドル未満から2022/23
年度には10億ドル未満の企業が27.5%となり、
26/27年度には、全ての納税者が25%の法人税
率に引き下げられる。
法人形態を有する売上高1億ドル以上の事業者
は下記の税務情報を公表する:
税率引き下げの初期段階では、大規模企業グル
ープのオーストラリア子会社は、全世界における
売上高を合計して限度額を決定する可能性があ
ることを認識すべきであろう。
Company income tax rate table — 2016/17
income year and following:
Income
Turnover Threshold
Year
(in $) is less than
Company Tax
2015/16
2m
28.5^
2016/17
10m
27.5*
2017/18
25m
27.5
2018/19
50m
27.5
2019/20
100m
27.5
2020/21
250m
27.5
2021/22
500m
27.5
2022/23
1bn
27.5
2023/24
All companies
27.5
2024/25
All companies
27.0
2025/26
All companies
26.0
2026/27
All companies
25.0
Rate (%)
任意の税務情報の透明性規範
•
•
会計上利益と支払税額または未払法人
税との照合
オーストラリア国内の事業およびグロー
バル事業の実効税率
税制委員会は、オーストラリア会計基準委員会に
対して財務報告において使用する実効税率の共
通の定義に関するガイダンスを発表することを提
案する。当ガイダンスが発表されるまでは、一般
的に認められる計算方式の採用を事業者に促す。
更に、年間売上高5億ドル以上の事業者に対して
は、次の項目の開示を推奨する。
•
•
•
税務方針、税務戦略およびガバナンス
税金の総支払額
海外関係会社との取引
任意の税務情報の透明性規範では、オーストラリ
ア一般目的財務諸表(general purpose financial
accounts)、他の目的で作成する税務レポートま
たは同制度の目的で作成するレポート内のいず
れかで開示することが可能である。ただし、いずれ
のレポートにせよ誰でも簡単に事業者のウェブサ
イトを利用してアクセスできなくてはならず注意が
必要である。一般的財務諸表内に記載する場合
は通常の会計監査の対象となることが予想される
が、税制委員会は会計監査の強制を推奨しない
方向でおり、事業者に対して具体的にどのような
形で開示を促すかは現時点では詳細が発表され
ていない。
^The company tax rate for certain small business entities 28.5%
*Company tax rate for small business entities reduced to 27.5%
(announced in 2016/17 Federal Budget)
Source: Budget Paper 2016-17 No.2
9|Page
2016/17 年度オーストラリア連邦予算案
通報者保護
迂回利益税(Diverted profits tax)
租税回避を巡る内部通報者への新たな措置
多国籍企業に対する新しい租税回避防止規定
政府は、2018年7月1日以降に租税回避行為やそ
の他税金に纏わる事項についてATOに内部通報
者への保護措置を導入する。内部通報者の身元
は機密事項として保護され民事・刑事訴訟から守
られる。
2017 年 7 月 1 日より適用が開始される迂回利
事業納税者はこれらの措置を利用して利益を得よ
うとする者に対する対策を検討する必要がある。例
えば、行動規範の中に会社の税務処理に懸念を
持つ従業員が活用できる社内報告システムを含め
ることが考えられる。
益税(DPT)は 2015 年 12 月に施行された多国
籍企業による租税回避防止規定に対する改正で
あり、当該規定の内容を英国における迂回利益
税の規定により近づく結果となった。
これにより、大企業グループの一部を構成する下
記の国外事業体の利益がオーストラリアで課税さ
れることとなる。
タックス・プランニングの開示要件
•
アグレッシッブなタックス・スキームの報告
•
アグレッシブなタックス・スキームが報告されるよう、
税務アドバイザーやファイナンシャル・アドバイザー
に対する規定を今後検討する。
タックス・ガバナンス
•
オーストラリア国内の関連会社が関与する決
済および取引から発生する利益
オーストラリア国外における課税所得が仮に
その利益がオーストラリアで課税対象となった
場合に課される税額の 80%以下となる利益
「経済的実態が不十分」とされる利益、すなわ
ち ATO により取引が課税所得の減少を目的
としていると合理的に判断された場合の利益
ガバナンス強化に向けての新たな施策
2014年の税制改正ディスカション・ペーパーでは
オーストラリア税制に関する複雑性と税制改正に
おける枠組みが欠如していると認識しており、今回
の予算案の中には下記のようなガバナンス強化に
向けた対策が含まれている。
•
•
•
•
税制の更新・改善を後押しする税制改正法案
に対するコミットメント
改正に対するオンラインによるフィードバックを
促進
税務専門家を交えた税務方針および法律の構
築
ATOが発表したガイドラインに基づく税法の簡
素化
現時点では包括的ではないが第一歩としては歓迎
すべきものであろう。オーストラリアは更に組織的
な税制改正の取組みを必要とされ、将来的には税
制改正委員会の構築が検討されることが見込まれ
る。
税とは無関係の経済的利益が税務上の利益より
多く存在する場合は、この経済的実体要件が満
たされることになるが、税以外の経済的利益の有
無およびその数量化は実際には容易ではない。
迂回利益税(DPT)の対象となる取引の範囲は意
図的に広く設けられており、オーストラリアの移転
価格税制を充分に遵守している取り決めであって
も迂回利益税の対象となる取引に含まれる可能
性がある。
迂回利益に対しては 40%の税率が適用されるが、
この対象となる取引について外国で納税された事
実があったとしても外国税額控除は認められない。
この規定は 2017 年 7 月 1 日以降はもちろん、
それ以前に開始された取引についても適用される
ことから、納税者は、既存の取引がこの規定の対
象範囲に入っているか否かを速やかに判断し罰
則規定に対処する必要がある。
この規定は ATO による「評価」を経て適用される。
10 | P a g e
2016/17 年度オーストラリア連邦予算案
連結納税
以前に発表された保全施策からの改正
企業は以前に提案された組織再編取引に対する
下記の影響を確認する必要がある。
•
•
•
控除可能な負債は配賦可能原価(ACA)の計
算より除外される見込みである。これは、2013
年5月14日に所得とみなすと発表された以前
の通知からは企業にとって有利な変更となり、
2016年7月1日より適用開始される
配賦可能原価の計算における繰延税金負債の
取り扱いが変更され、繰延税金負債に関する
調整が不要となる見込みである。これは法案の
導入以後に開始される
以前に発表された証券化資産に関する規定は、
非金融機関を対象として2016年5月3日より延
長され、移行措置は早期に整理される見込み
である
外資グループの再編およびグループ内負債に対す
る規定などの以前に発表された連結納税の保全措
置について予算案は何も述べていない。連結納税
グループおよびMECグループは以前に提案された
控除可能な負債の規定の範囲につき、過去の取
引を緊急に見直すべきである。将来の取引につい
ては新規定が税務ストラクチャーおよびデューデリ
ジェンスへの影響を確認する必要がある。
多国籍企業
ATO 特別調査委員会
ATO は今後 4 年間にわたり 6 億 7,900 万ドル
の予算を用いて、2020 年 6 月 30 日まで多国
籍大企業、プライベート・グループ、富裕層に対す
る現行の法律遵守制度を強化・拡大するための
特別調査委員会を設立する。この特別委員会に
より向こう 4 年間で 37 億ドルの税収が期待され
る。
ATO が力を入れてくるためこの調査に耐えうる準
備をしっかりとしておくことが必要となる。また意図
的な租税回避については裁判による判例を通じて
現行の法律を審査する準備が ATO にあることも
留意する必要がある。
特別委員会は税務長官を中心に著名な本判事に
より補佐され、1,000 人超の専門家(うち新たに
任命される 390 人の専門分野に特化する役人を
含む)により構成される。特別委員会はオーストラ
リア証券投資委員会(ASIC)との更なる情報交換
によりリスクの分析と発見を強化する。
移転価格
予 算 案 で は 、 2015 年 版 OECD レ ポ ー ト
( Aligning Transfer Pricing Outcomes with
Value Creation BEPS 行動規範 8-10)にある独
立企業原則の適用に関する新しいガイドラインの
導入開始日が 2016 年 7 月 1 日になると発表さ
れた。
行動規範 8-10 は、当該ガイドラインで下記に挙
げるグループ内取引に関連する移転価格の適用
範囲を拡大することにより課税基盤の侵食を防止
する。
•
•
契約上リスクを負うことだけを理由にした、リス
クと利益のグループ内関連会社への移転
第三者間においては起こらないもしくはほとん
ど起きることがない取引
•
商品取引の価格設定に対して独立価格比準法
(Comparable uncontrolled price method)の
適用指示
•
無形資産の移転と利用について価値の創造
に基づいた利益配分の保証(費用分担契約(
Cost Contribution Arrangement)を含む)
一般的な課税基盤を侵食する支払いを含むグ
•
ループ内の役務提供取引。例えば、マネージ
メント費用、本社費用
当該ガイドラインにより ATO は、改正法に基づき
利益移転取引に対して異議を唱える権限を手に
入れた。納税者は ATO の移転価格取引に対す
る広範囲にわたる権限に対処する準備をしておく
必要がある。現段階ではこれからのガイドライン
がまだきちんと整備されていないため、取引相手
よりも先に対処しすぎると逆に税務訴訟や二重課
税のリスクを増大させる結果につながりかねない。
このことから、OECD ガイドラインへの変更は、こ
れまで部分的焦点を当てるのではなく、移転価格
における様々な局面を考慮した上で全体を見て判
断されてきた。OECD ガイドラインへの変更は例
外なく受け入れられるものでなくてはならないとさ
れてきた。
11 | P a g e
2016/17 年度オーストラリア連邦予算案
ハイブリッド・ミスマッチ取決めの効果否認
2018 年 1 月 1 日、もしくはこの法案が有効な法
律となる上で必要とされる総督の裁可から 6 ヶ月
後のいずれか遅い日よりハイブリッド・ミスマッチ
取引の効果を否認する OECD のルールがオース
トラリアで導入される。
導入開始までに時間があることから法の複雑さは
あるもののオーストラリアが他の国に先立って導
入することにはならない。
金融機関については規制上の所要自己資本が問
題となることから、税制委員会からの勧告が考慮
に入れられた上でこの法案の最善な導入方法が
検討される。
行政上の罰金の増額
政府は、全世界におけるグループ総売上高が 10
億ドル以上ある企業が税務開示義務を遵守しな
い場合に行政上の罰金を増額する見込みである。
この規定は 2017 年 7 月 1 日より適用すること
を予定している。あえて税務開示義務を満たさず
罰金を支払うことを検討している納税者は、今後
は罰金の増額を考慮に入れるべきである。
税務申告書の ATO への提出に関する罰金は
100 倍に増加し、罰金の最大金額は 4,500 ドル
から 45 万ドルへと引き上げられる。これにより多
国籍企業があえて税務開示義務を怠ることを思
いとどまらせる狙いがある。
税務事項について意図的にまたは不注意を起こ
さないようにする狙いがある。
金融取引に関する税務(TOFA)
金融取引に関する税務(Taxation of Financial
Arrangements)規定は、その内容の複雑さから
実務への適用が難しく、この規定が導入された
2010 年当初より改正が検討されてきた。予算案
にある改正案は、この規制を精査するにはいたら
ず、下記の点に焦点を当てている。
•
規定の適用を減少する目的から発生主義、実
現主義に関する税務規定の簡素化
•
•
•
新しい税務上のヘッジング制度の導入
為替差損益に関する規定の簡素化
会計上と TOFA における税務上の概念の関
連性の強化
これにより、金融機関を除く大半の納税者は
TOFA 規定の適用から除外されることが期待され、
規定が簡潔になり適用の確実性が確保される。
改正案は 2018 年 1 月 1 日以降に始まる課税
年度から適用されることとなる。
動産・債権担保融資
他のファイナンスとの整合性を確保
大型インフラ・プロジェクトを推進する政策の一環と
して、2018年7月1日以降、動産・債権担保融資も
他の有利子負債や投資と同じような税務上の扱い
を受けられるよう法律を改正する。
ATO への開示内容の不備に対する罰金は現行
の 2 倍となる。これにより、多国籍企業が社内の
12 | P a g e
2016/17 年度オーストラリア連邦予算案
小規模事業に対する施策について
税制優遇処置へのアクセス
予算案では小規模事業の上限金額を 2016 年 7
月 1 日より 200 万ドルから 1,000 万ドルまで引
き上げることを発表した。これに伴い、該当する事
業については、2016 年 7 月 1 日より下記を含
所得税率 32.5%の所得基準枠を 2016 年 7 月
1 日(選挙前日)より 80,000 ドルから 87,000 ド
ルまでに引き上げることを発表した。メディケア税
免除を受けれる低所得者の所得基準は
2015/16 年度より調整される。高所得者につい
ては、18 万ドルを超える所得に対する時限的 2%
む数々の税制優遇措置を受けることが出来る。
の予算均衡税の延長は行わず、当該時限税は
2017 年 6 月 30 日をもって廃止される。
•
個人所得税率及び所得基準について:
•
•
•
•
•
•
2017 年 6 月 30 日までは 2 万ドル以下の資
産の購入については一括控除でき、それ以降
については 1,000 ドル
コンプライアンスに基づいた棚卸資産において
の簡易法など
簡略的な ATO 算出による分割納税の支払
GST の現金主義算出法および ATO 算出によ
る GST の分割納税の支払の選択
様々な起業費用の一括控除
前払金 12 ヶ月の規定
2017 年 4 月 1 日より適用される FBT にお
ける税制優遇措置
なお、CGT の小規模事業優遇措置については引
き続き、現行の 200 万ドル売上高基準が適用さ
れる。
Taxable Income
Tax Rate (2016 / 17)
0 – $18,200
Nil
$18,201 – $37,000
19c for each
$1 over $18,200
$37,001 – $87,000
$3,572 plus 32.5c for each
$1 over $37,000
$87,001 – $180,000
$19,822 plus 37c for each
$1 over $87,000
$180,001 and over
$54,232 plus 47c* for each
$1 over $180,000
*Rate inclusive of 2% temporary budget repair levy
Rates do not include the Medicare Levy of 2%
Source: Budget Paper 2016-17 No.2
小規模事業の減税措置について
法人税率の調整の一環として、新たに 1,000 万
ドルの小規模事業基準を満たす企業の法人税率
は 2016/17 年度より現行の 28.5%から 27.5%
へ引き下げられる。法人化されていない小規模事
業の減税額(または税額控除)については 2016
年 7 月 1 日より 5%から 8%へ引き上げられ、
16%になる 2026/27 年度までの 10 年間におい
ては 10%となる 。当該の売上基準については
500 万ドルまでに引き上げられる。個人事業主に
ついての減額上限は 1,000 ドルで据え置かれる
予定である。
その他の施策
新しい集団投資ビークル
新たな「ルックスルー」形態である集団投資ビーク
ルが2017年7月1日より、パートナーシップ形態の
集団投資ビークルが2018年7月1日から導入され
る。これらの施策は、アジア地域ファンド・パスポー
トと合わせて、オーストラリアが国際的な資金運用
のプラットフォームとなる重要な第一歩となる。
新しい投資ビークルは管理投資トラスト(managed
investment trusts)と同じような要件を満たす必要
がある。委員会レポートや国際ファンドと同等に、
投資ビークルによる受動的投資の支配能力がルッ
クスルーのステータスに影響を与えないことが望ま
れる。
税制委員会の 2015 年度の報告書に基づき、
Division 7A 規定上における非公開法人の運営
と管理の改善のために特定した改正点が 2018
年 7 月 1 日より発効する予定である。
個人所得税についての改正
現在の経済状況のなかで課税枠の押し上げ要求
に対応するため、政府は最低限の改正として個人
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2016/17 年度オーストラリア連邦予算案
間接税
2017年7月1日よりGSTの低額非課税枠の廃止
非居住者の事業者はネット販売におけるGSTの納
税義務が発生する。
政府は2015年8月に発表した通り、主にネットで
購入し輸入される物に対するGSTの低額非課税枠
を廃止する意向を再確認した。これにより、2017
年7月1日から1,000ドルの非課税枠が廃止され、
非居住者の事業者はGSTを消費者から徴収し納
税することが求められる。ただ、海外事業者に対す
る同措置の法令遵守に向けた実務的な詳細や、
自主的にGST登録した海外事業者が販売した物の
関税処理の取り扱いについても発表されていない。
デジタル通貨のGST取り扱い
フィンテックにおける起業家を後押しする変更
今回の予算案の中で具体的には示されなかった
が、同予算案が発表された同じ日に財務省はデジ
タル通貨(例:ビットコイン)に対するGSTの取り扱い
についてのディスカション・ペーパーを発表した。同
ペーパーにはビットコインを通常の通貨と同じ扱い
にするようGST制度の改正を挙げている。現在、オ
ーストラリアではデジタル通貨はGSTが発生するた
め、この改正は今後オーストラリアの起業家が世
界のフィンテック市場で対等に競争できるようにな
るために必要である。消費税やVATなどを導入し
ている他の国では既に通常の通貨と同じ扱いにし
ておりオーストラリアは遅れをとっている。
中小企業基準値拡大による GST への
影響
対象企業は簡素化メソッドの選択が可能
中小企業の定義変更(該当企業は年間売上高
1,000万ドルまで)により、2016年7月1日から
様々なGST優遇措置を利用することが出来る。こ
の措置の中にはGSTを現金ベースで勘定すること
や前年度の実績額をベースにした分割納付が可
能となる。また、簡素化したBASフォームの導入も
2016年7月1日から試験的に導入することを予定
している。
ワイン生産者向けのリベート
縮小と引き締め
ワイン均等税に対するリベート額の上限が2017年
7月1日から50万ドルから35万ドルに、2018年7
月1日から同リベートは29万ドルに更に縮小される。
同リベートの活用も2019年7月1日から引き締めら
れる。新しい適格条件では、ワイン生産者は自分
のワイナリーを持つかワイナリーの長期リース契約
を保持し、国内でパッケージされたブランドのワイ
ンを販売することが求められる。これらの措置は見
かけ上のストラクチャーの利用やリベートの重複活
用を排除し、ワイン業界における歪みを取り除く目
的としている。
また今後4年間において5,000万ドル超の新しい
支援金プログラムも用意されており、オーストラリア
のワイン観光や輸出を後押しする。
蒸留酒製造業者向けの物品税還付
2017年7月1日より国内スピリッツ(非伝統サイ
ダーも含む)生産者に拡大
現行スキームでは該当業者に対して年3万ドルを
上限に支払った物品税の60%を還付できる。
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