シリコンバレーにおける仕事探しから入社まで

連載コラム シリコンバレーの技術者たち
シリコンバレーにおける仕事探しから入社まで
③面接
篠原 秀
ジョブ・ハンティングをはじめてから，目的の明確化，Resume
論理，HDL 記述，タイミングなど，プロジェクトや役割に応じて聞
作成，会社選考などの過程を踏んだ技術者たちは，面接の段階に
かれる．ときには，なぞなぞ的なクイズもある．シニア・レベルの
入る．これは，彼/彼女らにとっては，自分たちを売るための絶好
応募者は，アーキテクチャ，テスト方法論などについても聞かれる．
のチャンスである．また会社にとっても面接は，採用の是非や，報
また，どんな思考パターンをもっているのか，臨機応変に解決策
酬範囲を決めるのにかかせないところでもある．今回は，ジョ
を作れるかといったことである．技術職でもプロジェクト・リー
ブ・ハンティングのクライマックスである，技術者たちの面接につ
ダ・レベルになると，マネージメントへの報告，仕様の作成，役割
いて紹介していきたい．
のコーディネーションなどのタスクについても聞かれる．
面接する側の技術者たちは，必ずしも正解を待っているのでは
面接の目的
ない．応募者に設計，実装および解決能力があるかを調べている
雇用側から見ると，面接は，応募者が会社で役に立てるかどう
のである．
か調べるために行う．また，収入を決める際，どこまで払うかとい
技術的な質問を受けた技術者は，ある程度，面接者とのディス
う目安にも使われる．面接の機会を使い，Resume の信憑性をチ
カッションを許される．質問自体に問題がある場合もあり，このと
ェックする．また，プロジェクトのメンバとして役に立つのかどうか
きは，技術関係を解決するためのコミュニケーション能力が問われ
をテストする．さらに，応募者の就職目的や人柄なども調べる．し
ている可能性がある．
たがって，技術者の場合には，事務的面接と技術的面接がある．
前回説明したように，応募者の中には，実力以上のことが示唆
技術者にとっては，面接では，直接自己 PR ができる機会であ
されたResume をもってくる者もいるので，面接側の技術者が根
る．自分が，部署やプロジェクトにおおいに貢献できる，というこ
掘り葉掘り，過去のプロジェクトについて聞くときがある．技術者
とを売り込むのだ．ただし技術的面接では，技術能力が問われるだ
である面接側も，内容を把握できるので，Resume に偽りがある
けで，実力の売り込みは，後の交渉段階で役に立つようだ．
のか，すぐに見破ってしまう．
応募者側の技術者は，この段階で，会社側の技術能力を知るこ
事務的面接
とができる．それは，技術的面接における質問の内容をみれば，
技術者が初めて雇用先に訪れると，まず事務的な面接が始まる．
技術レベルがわかるからである．
ここで応募者は，人事部から書類を渡され，会社の紹介や面接過
応募者が技術的チャレンジを目的に転職するならば，この段階
程を説明される．また，マネージャ・レベルの人が技術者に対し
では会社に対しての評価は大きいはずだ．こういう応募者は，仮
て，簡単な仕事内容を話したり，今後のプロジェクトについての説
に問題が解けなくても，答えの出し方を説明してもらい，次回の
明がある．技術者は，この段階で自分の目的を説明したり，会社
面接に向けて勉強をする．
また，応募者が，会社がかかえているマネージメントやエンジニ
に対しての一般的な質問をする．
もし，双方の見解に違いがありすぎる場合，どちらからでもすぐ
に，面接を中止することができる．これは，シリコンバレーの雇用
原理である，At Will Employment
注1
という相互扶助の概念に基
づいているのだと思う．
ア・レベルの問題点を聞き出すのも，この段階である．入社前に
実務レベルの情報を聞き出すのは，この機会しかないのである．
面接者と応募者といっても，やはり技術者同士の会話なので，面
接側の技術者も，労働環境や会社にある問題点について，機密情
報でなければ話してくれるようだ．
技術的面接
技術者にとってもっとも重要なのが，この技術的面接である．
また，多くの技術者は，この面接で聞かれたことを，入社した後
社内見学
面接の一環として，普通，社内見学というのは一般的ではない．
で同僚と話し合うことがある．技術的には，楽しい話題でもある．
しかし，応募者がリクエストすれば，面接先の会社の中を見せて
技術的面接では，ハードウェアのポジションならば，回路設計，
もらえる．これは，環境を大事にする技術者には，重要項目にな
注1
At Will Employment
雇用の条件で，雇用側と会社員の意志（will）によって雇用関係が成り立っているということ．どちらからでも，雇用関係の意志がなくなったときから24 時間後に
雇用関係をうち切ることができる．
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る．たとえば，夜遅く来社しても多くの技術者がいれば，労働時
間が長いと推測される．ラボが散らかっていれば，忙しすぎると
か，整然さが足りないのではないか，とも考えられる．
うなインパクトを与えるかなどが評価される．
これらの評価は，マネージメントや人事部に渡され，会社の求人
内容のレベルに合っているのかがチェックされる．求人内容のレ
見学をしたり入社前に多く来社する技術者は，入社後「イメージ
ベルに合っていれば，会社側は，応募者が希望する報酬が範囲内
が違う」と言ってやめる可能性が比較的低いのではないかと思う．
であるならば，採用の準備にかかる．報酬レベルが高すぎるとき
は，可能であれば，求人内容のレベルを上げて調整する．面接で
面接の後
良い結果を出した技術者でも，要求が高すぎれば採用されない．
面接の後，会社側は，面接者を集めて応募者の長所や短所など
まとめ
を話しあう．コーディネーションが良い会社では，重複した質問は
前もって避けるので，項目別に評価を行う．短期的には，プロジ
技術者たちは，ジョブ・ハンティングのフロントエンドの段階を過
ェクトに貢献できるのかまとめる．長期的には，グループにどのよ
ぎると，プロセスのクライマックスともいえる，面接の段階に入る．
?コラム
「技術的面接の実際」
技術的な面接は，仕事探しをする技術者がよく話題にするとこ
ろだ．論理設計の求人には，状態遷移図の作成や，HDL 記述の
実装能力などがよく問われる．実装以外では，タイミングやブロ
ック・レベルのデザインなどの話題もでる．
それから，その横に表 A を付け加え
「この表は，このブロックの
動きを表す」と彼は言った．
筆者が，
「最初4 行にある入力以外の場合はどうなるのか」
と聞い
たら，すぐに最終行を付け加え，表 B のようになった．
今回は，昔，筆者がシリコンバレーの会社の面接で実際に聞か
れたブロック・レベルの質問の一つを紹介する．
彼は，
「この組み立てブロックと論理プリミティブ
（AND，OR，
MUX など）を使って，次のブロックを設計せよ」と言ってさらに
＊ ＊ ＊
図 B のようなブロックを描いた．そしてこのブロックの動きを表
数年前，シリコンバレーのある会社に面接に行った．すると，
面接側の技術者の一人に，使っていない会議室に連れていかれた．
彼は，なぞなぞと実装関連の質問をした後，目の前にあるホワイ
ト・ボートに，図 A のようなブロックを描きはじめた．
す表 C を付け加えた．このときも最終行は書かず，こちらが指摘
するとすぐに付け加えた．
「では，はじめてください」と言われたので，こちらがどう考え
ているのかを説明しながら，答えを作っていった……．
＊ ＊ ＊
この問題において，筆者が推測する面接者から見た場合の解説を
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したい．
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この問題に，一つの正解というのはないと思う．彼は，答えを
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出す過程を見ていたのではないだろうか．たぶん，どの技術者で
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〔図 A〕最初に示された論理ブロック
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〔表 A〕図 A の真理値表（最初に示されていたもの）
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〔表 B〕図 A の真理値表（質問をしたら最終行が付け加えられた）
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他の組み合わせ
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〔図 B〕問題― 図Aのブロックと論理プリミティブを使ってこのブロックを設計せよ