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「茶の品種識別と茶の化学成分の分析法」 野 菜 茶 業 研 究 所

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「茶の品種識別と茶の化学成分の分析法」 野 菜 茶 業 研 究 所
平成18年度
革新的農業技術習得研修(高度先進技術研修)
「茶の品種識別と茶の化学成分の分析法」
2006(平成18)年7月26~28日
独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
野
菜
茶
業
研
究
所
目
次
1.主要品種及び最近の品種の栽培・加工特性
・・・・・・・・・・・・・・
1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
2.低カフェイン茶の製造法
3.緑茶の品種識別技術
4.電気的特性指標による茶葉の水分状態の計測
・・・・・・・・・・・・・
5.茶の遊離アミノ酸類、カテキン類、カフェイン、全窒素の定量法
・・・・
27
・・・・・・・・・・・・
33
・・・・・・・・・・・・・・・
39
6.味覚センサーによる緑茶の渋味の客観的評価法
7.茶に含まれる香気成分の抽出法と分析法
21
主要品種及び最近の品種の栽培・加工特性
茶施肥削減技術研究チーム
佐波
哲次
1.はじめに
チャの品種は平成 17 年度末現在 52 の農林登録品種がある(付表1)。また、府県や個
人で育成した品種を含めるとその数はさらに多くなる(付表2)。最近では優良品種以外
の在来実生園はほとんどなくなりつつあるが、‘やぶきた’の占める割合は3/4程度と
非常に高く、‘やぶきた’以外の品種の割合はそれほど多くない(図1)。
育成された数多くの品種が、普及しず
らい理由としては、以下のように考えら
面積(1000ha)
60
れている。
チャは定植してから成木になるまでに
40
5~6年以上かかり、それまで十分な収
20
0
1950
茶栽培面積
入が得られない。そのため、定植する品
品種茶園面積
種の選択を誤ると、再度別の品種を定植
やぶきた面積
することになり、10年程度十分な収入
が得られない事態が生じるおそれがあ
1970
1990
西暦
図1 品種茶園面積の推移
2010
る。評価の定まっていない品種を栽培す
ることはリスクを負うことになるため、
改植する場合にも評価が定まっている‘
やぶきた’を選んでしまうからである。
ところでその‘やぶきた’が選ばれたのは、80 年程度前である。杉山彦三郎氏が明治 41
年に原樹を選抜し、竹藪を開墾した場所にその株から得られた種子を播種し、その中から
優れたものを2個体選抜し、北側の個体を「藪北」南側の個体を「藪南」と名付けた。
「藪
北」は諸形質が良好であったので、昭和2年から取り木で増殖し、特性調査を開始し、昭
和6年頃に特に優秀であることが認められ、静岡県が栄養繁殖園を造成し、普及活動を開
始した。
1970 年頃以降の実生茶園から品種茶園への転換期において、‘やぶきた’に匹敵する品
種はなかったため、茶の世界では「優良品種=やぶきた」の印象が強く、そのイメージが
今でも続いているのが現状である。実際には 1970 年頃から数多くの優良品種が育成され、
使用場面においては‘やぶきた’より能力を発揮する品種の数多くある。それらの品種に
ついて紹介するので、チャを新改植するときの品種導入の参考にして頂きたい。
2.主要品種の紹介
図2に平成 15 年における品種ごとの栽培面積を示した。‘やぶきた’を除く上位品種に
ついて簡単に説明する。
やぶきた
ゆたかみどり
さやまかおり
おくみどり
かなやみどり
さえみどり
あさつゆ
その他品種
在来種
0
10
20
30
40
茶園面積(1000ha)
図2 平成15年における品種ごとの茶園面積
(1)ゆたかみどり
‘あさつゆ’の実生である。1934 年に交配され、1954 ~ 1961 年に茶樹地方適否試験(現
在の系統適応性検定試験にあたる)に供試された。
生育は優れていたが品質がやや劣ったため、選抜されなかった(旧系統名
Y2)。早
生で生育が良かったため、その頃茶園の増加が著しかった鹿児島県が注目し、摘採前に被
覆し、蒸し時間を長くすることで、茶の色沢が良くなり渋みも軽減されることを明らかに
した。栽培適地が限られるため、命名登録(農林登録)品種とならなかったが、鹿児島県
では奨励品種となり、‘やぶきた’栽培面積の6割程度栽培されている。
早生の特徴を発揮できる暖地で、摘採前に被覆する労働力があり、品質より収量を重視
する場合に適する。
(2)さやまかおり
‘やぶきた’の自然交雑実生である。1958 年に播種され、1971 年に命名登録(農林登
録)された品種である。
冬季の寒害である凍害(赤枯れ )・低地温条件下での吸水阻害(青枯れ )・裂傷型凍害
に対する抵抗性が‘やぶきた’より顕著に高く、春先の晩霜害後の回復力も高い。クワシ
ロカイガラムシに抵抗性がある。冷涼地では摘採期が‘やぶきた’より数日早いが、暖地
ではほぼ同等かやや遅れる傾向にある。炭疽病に対する抵抗性は既存品種の中では最も弱
いグループに属する。
製茶品質は苦渋味がやや強く、この傾向は暖かい地域ほど顕著になる。また新葉がやや
厚いこともあり、蒸熱を少し強くする方が良いとされている。
冷涼地ではやや早生となり、全般的な耐寒性も強いため能力を発揮する。
(3)おくみどり
種子親は‘やぶきた’、花粉親は生育が良好な静岡在来 16 号である。1953 年に交配さ
れ、1963 ~ 1973 年に栄養系系統性検定試験に供試され、1974 年に命名登録(農林登録)
された品種である。
‘やぶきた’より摘採期が8日程度遅い晩生品種である。樹勢は良好で多収である。秋
芽の停止時期が遅いため、初冬期に急に温度が低下する地域では寒害が発生することがあ
る。炭疽病に対する抵抗性も‘やぶきた’と同等程度と低い。挿し木苗では、しっかりし
た根は発生するが本数が比較的少ないため、定植時に根を傷めるとその後の生育が遅れる
ことがある。
外観は細れよれし鮮緑であるが、白茎が目立つ。内質は大きな特徴はないが欠点もなく、
扱いやすい品種である。夏茶の品質は‘やぶきた’より良い。
製茶機械の稼働日数拡大を考えている場合には、大きな欠点もないために導入に適する。
(4)かなやみどり
種子親は生育はやや劣るが品質が極めて良いS6(静岡在来 )、花粉親は ‘やぶきた
’である。1949 年に交配され、1963 ~ 1969 年に栄養系系統適応性検定試験に供試され、1970
年に命名登録(農林登録)された品種である。
‘やぶきた’より摘採期が3~4日遅いやや晩生の品種である。樹勢は良好で樹姿は開
張性のため、幼木期の仕立ては容易であり、多収性を示す。地上部と同様で根も横に広が
る傾向が強く、排水が悪い土地では浅根化し生育が悪くなる傾向にある。凍害に対する抵
抗性は‘やぶきた’より高い。 炭疽病、輪斑病に対する抵抗性も‘やぶきた’より高い。
製茶品質はミルキーな香気に特徴があり、評価が分かれる。また、色沢がやや黒みを帯
びることがある。
土地を選ぶため、条件の良いところへ導入する。多収性を示すため、比較的広範囲に導
入されたが、ミルキーな香気の特徴を生かし切れず、栽培面積は減少傾向にある。この香
気を生かすことができれば特徴のある茶生産の産地形成が可能となる。
(5)さえみどり
種子親は‘やぶきた’、花粉親は‘あさつゆ’である。1969 年に交配され、1984 ~ 1989
年に栄養系系統適応性検定試験に供試され、1990 年に命名登録(農林登録)された品種
である。
‘やぶきた’より摘採期が4日程度早い早生品種である。厳寒期の耐寒性は‘やぶきた
’なみであるが、強風に遭遇すると落葉しやすく、厳寒期の寒風ではその傾向はより顕著
である。樹姿は中間型のため仕立ては容易である。輪斑病に対する抵抗性はやぶきた’な
みに弱いが、炭疽病に対しては‘やぶきた’より強い。
色沢が明るく冴えた緑色を示す。水色は若干赤くなる傾向にあるが、渋みが少なくうま
味が多く、品質は極めて良好である。
暖地では能力を発揮するが、比較的涼しい地域では萌芽期前後に晩霜害に遇いやすいた
め不適である。中間地帯においても強風に遭遇しやすい場所では、防風対策が必要である。
(6)あさつゆ
農商務省農事試験場において宇治種の実生から選抜された品種である。
萌芽期は‘やぶきた’よりやや早いが、摘採期はほぼ同じかやや早い中生品種である。
命名登録当時(昭和 28 年)樹勢は強とされたが、その後育成された品種と比較すると樹
勢は劣っている。赤枯れ、青枯れ、裂傷型凍害ともに弱い方に分類されている。炭疽病抵
抗性はやや強である。
味は濃厚で「天然玉露」と言われることもある。葉組織がこわれやすく形状は作りにく
いため、
暖地において、極めて高級な茶を作る場合には導入してもよいが、収量はあま
り期待できない。
3.最近育成された品種の紹介
付表1には、農林登録された品種の一覧を示したが、その中で新しいものを紹介する。
(1)みやまかおり
茶育種指定試験地である宮崎県が育成し、2003 年に農林登録された品種である。‘おく
みどり’より摘採期が1~2日遅く、現在普及している品種の中では最も遅い品種である。
‘やぶきた’と比較すると収量は多く、品質は同等である。蒸した栗のような香気がある
ため、その香気を生かす工夫が必要となる場合がある。
土地をあまり選ばないため、摘採期間の延長をする必要のある場合には、導入を検討し
てもよい。
(2)はるもえぎ
茶育種指定試験地である宮崎県が育成し、2003 年に農林登録された品種である。輪斑
病、炭疽病に対する抵抗性が‘やぶきた’よりあり、夏茶の品質も優れる。摘採期は‘や
ぶきた’より2日程度遅く、中生の中ではやや遅い方に分類される。
栄養系系統適応性検定試験では、南の方が成績が良いことから、夏茶の品質改善を考え
ている暖地茶産地では、導入を検討してもよい。
(3)さいのみどり
茶育種指定試験地である埼玉県が育成し、2003 年に農林登録された品種である。‘さや
まかおり’と比較すると、摘採期はほぼ同じであるが、炭疽病に強く、細よれしやすく品
質も良好な品種である。クワシロカイガラムシの抵抗性は‘さやまかおり’と‘やぶきた
’の間になる。
‘さやまかおり’を導入しているあるいは導入したいが、炭疽病に対する抵抗性の弱い
ことが問題であると考えている場合には、導入を検討してもよい。
(4)そうふう
野菜茶業研究所(金谷)が育成し、2002 年に農林登録された品種である。寒害や晩霜
害を受けない年には、摘採期は‘やぶきた’より7日程度早い早生品種である。初期生育
は優れるが、分枝数が少ないため、成木時に新芽数も少なく、収量を確保するためには新
芽数を確保する栽培管理が必要である。この品種は煎茶として製茶すると東洋蘭系の花香
を有し、半発酵茶としての品質の優れる。
寒害を受けにくい暖地において、消費者の嗜好の多様性への対応を考えている場合には、
導入を検討してもよい。
(5)はるみどり
野菜茶業研究所(枕崎)が育成し、2000 年に農林登録された品種である。摘採期は‘
やぶきた’より6日程度遅い晩生品種である。秋芽の生長停止期が早いため、耐寒性の獲
得は早いが、幼木期においてもその傾向が現れ、初期生育は緩慢である。成木になると一
番茶、夏茶の収量は‘やぶきた’より多い。一番茶はアミノ酸が多くタンニンが少ないた
め、うま味があり極めて良好である。炭疽病抵抗性は‘やぶきた’より高い。
秋芽の生育があまり望めない比較的涼しい地域では、この品種の欠点が表れないので冷
涼地、温暖地においても成木になるまでの年数が若干待てるような条件では、晩生の極め
て優良な品質を持った品種として導入を検討してもよい。
(6)さきみどり
茶育種指定試験地である宮崎県が育成し、1997 年に農林登録された品種である。摘採
期は‘やぶきた’より2日程度早いやや早生の品種である。多収で、耐寒性は‘やぶきた
’より高く、炭疽病抵抗性も‘やぶきた’より高い。茶は色沢が鮮やかな緑色を呈する。
多収性を示す早生を導入したいときには検討してもよい。
(7)むさしかおり
茶育種指定試験地である埼玉県が育成し、1997 年に農林登録された品種である。摘採
期は‘やぶきた’より育成地では2日、他の地域では2~4日遅い中晩生品種である。育
成地においては品質収量ともに‘やぶきた’より良い。耐寒性は‘やぶきた’より強い。
冷涼地でやや晩生の品種を導入したいときには検討してもよい。
(8)りょうふう
野菜茶業研究所(金谷)が育成し、1997 年に農林登録された品種である。系適・県単
場所での摘採期は‘やぶきた’より0~4日遅い中晩生品種である。新芽の生育が極めて
旺盛なため摘採適期の判断が難しく、場所ごとに摘採期のばらつきが見られる。一番茶収
量は‘やぶきた’と同等以上、夏茶は‘やぶきた’より多収である。炭疽病抵抗性、耐寒
性は‘やぶきた’より強い。製茶したときの色沢は明るい緑色で、水色は透明感があり、
香気の特徴があり、滋味はすっきりしている。
収量を重視し、‘やぶきた’より遅い品種を導入したいときには検討してもよい。
4.上記以外で金谷で育成した注目したい品種
(1)おくゆたか
茶業試験場(金谷)が育成し、1983 年に農林登録された品種である。系適・県単場所
での摘採期は‘やぶきた’より0~5日遅い中晩生品種である。生育は良好で炭疽病には
やや強である。品質は極めて優良であるが、摘採適期の範囲は狭く、適期を過ぎると品質
は急激に低下する。
適期の範囲が狭いため、適期に確実に摘採できる条件をもちあわせ(自園農家など)、
高級な茶生産を考えている場合には、検討しても良い。
(2)めいりょく
野菜・茶業試験場(金谷)が 1986 年に農林登録された品種である。摘採期は‘やぶき
た’より1~2日早い中生品種である。生育は良好で極めて多収である。輪斑病に対して
は強、炭疽病に対して中~やや強である。樹齢の若い時期には品質は‘やぶきた’より劣
るが、秋芽の生育が旺盛すぎるため整枝が深くなり芽揃いが低下したためと考えられ、あ
る程度樹齢を経ると秋芽の生育も安定し、品質も‘やぶきた’と同程度になる。
収量を重視する場合には、検討しても良い。
(3)ふうしゅん
野菜・茶業試験場(金谷)が 1991 年に農林登録された品種である。育成および系適場
所での摘採期は‘やぶきた’より0~6日遅い中晩生品種である。出開度が‘やぶきた’
より小さい時期が摘採適期である。初期生育は良く極めて多収で、耐寒性も強い。品質は
‘やぶきた’と同等かやや劣る。
耐寒性が必要で収量を重視するときには導入を検討しても良い。
5.まとめ
様々な品種を紹介したが、品質重視、収量重視、減農薬、嗜好の多様性に対応するなど
で導入すべき品種が異なる。ここまでで紹介した品種以外も含めると以下のように考えら
れる。
例えば、品質重視の場合は、早生では‘さえみどり ’、中晩生では‘おくゆたか ’、晩
生では‘はるみどり’がある。
収量重視あるいは栽培の容易さに重点をおくと、早生では‘さきみどり’‘しゅんめい
’‘ゆたかみどり’、中生では‘めいりょく’、中晩生では‘りょうふう’‘ふうしゅん’、
晩生では‘おくみどり’がある。
減農薬重視の場合には、クワシロカイガラムシ抵抗性としては‘さやまかおり’‘みな
みさやか’、炭疽病、輪斑病に対して強く、通常は殺菌剤の散布をほとんど必要としない
のは、‘みなみさやか’ ‘ふうしゅん’ ‘かなやみどり’がある。
耐寒性を必要とする場合には、埼玉県が育成した品種のほか 、‘こまかげ’‘ふうしゅ
ん’がある。
新しく育成された品種の多くは‘やぶきた’と異なる香気をもつが具体的に表現されて
いる品種は少ない。その中で‘やぶきた’とは顕著に異なる香気をもつ茶として、育成さ
れた年は古いがミルキーな香りの‘かなやみどり ’、東洋蘭の香りの‘そうふう ’、マロ
ンの香りの‘みやまかおり’などがあり、嗜好の多様性に対応できる体制になりつつある。
なお、この文章は、品種育成時にまとめられた報文を参考にさせていただきました。そ
れらの報文をまとめられた方、長年にわたりチャの育種に携わってこられた先輩諸氏に感
謝致します。
付表1
登録番号
茶農林1号
茶農林2号
茶農林3号
茶農林4号
茶農林5号
茶農林6号
茶農林7号
茶農林8号
茶農林9号
茶農林 10 号
茶農林 11 号
茶農林 12 号
茶農林 13 号
茶農林 14 号
茶農林 15 号
茶農林 16 号
茶農林 17 号
茶農林 18 号
茶農林 19 号
茶農林 20 号
茶農林 21 号
茶農林 22 号
茶農林 23 号
茶農林 24 号
茶農林 25 号
茶農林 26 号
茶農林 27 号
茶農林 28 号
茶農林 29 号
茶農林 30 号
茶農林 31 号
茶農林 32 号
茶農林 33 号
茶農林 34 号
茶農林 35 号
茶農林 36 号
茶農林 37 号
茶農林 38 号
茶農林 39 号
茶農林 40 号
茶農林 41 号
茶農林 42 号
茶農林 43 号
茶農林 44 号
茶農林 45 号
茶農林 46 号
茶農林 47 号
茶農林 48 号
茶農林 49 号
茶農林 50 号
茶農林 51 号
茶農林 52 号
茶農林登録(命名登録)品種一覧( 2005 年度末)
品種名
べにほまれ
あさつゆ
みよし
たまみどり
さやまみどり
やぶきた
まきのはらわせ
こやにし
ろくろう
やまとみどり
たかちほ
いんど
はつもみじ
べにたちわせ
あかね
なつみどり
やえほ
あさぎり
きょうみどり
はつみどり
べにかおり
べにふじ
ひめみどり
いずみ
さつまべに
おくむさし
やまなみ
べにひかり
うんかい
かなやみどり
さやまかおり
おくみどり
とよか
おくゆたか
めいりょく
ふくみどり
しゅんめい
みねかおり
みなみかおり
さえみどり
ふうしゅん
みなみさやか
ほくめい
べにふうき
りょうふう
むさしかおり
さきみどり
はるみどり
そうふう
さいのみどり
はるもえぎ
みやまかおり
登録番号
茶中間母本農1号
茶中間母本農2号
茶中間母本農3号
茶中間母本農4号
茶中間母本農5号
茶中間母本農6号
旧系統名
国茶C8号
国茶U 14 号
国茶U 15 号
国茶U 17 号
埼玉A1号
藪北
牧之原早生
小屋西
六郎
奈良 59 号
宮崎9号(ME9)
鹿印雑2号
鹿アッサム交配1号
鹿アッサム交配 16 号
鹿アッサム交配 132 号
国茶S 41 号
八重穂
京研 113 号
京研 172 号
鹿緑原5号
鹿アッサム交配8号
X 13 号
福 15 号
At5371
AN113
22-131
Ch5342
茶支 F1ANC1144
宮 A15
茶本 F1NN13
G15613
茶本 F1NN29
23-114
金谷3号
金谷6号
埼玉4号
金谷4号
宮崎3号
宮崎5号
枕崎9号
金谷12号
宮崎9号
埼玉31号
枕崎3号
金谷17号
埼玉33号
宮崎15号
枕崎19号
金谷21号
埼玉37号
宮崎18号
宮崎20号
系統名
ちゃつばき金谷1号
IRB89-15
MAKURA1号
KM8
KM62
F95181
来
歴
インドからの導入実生
宇治在来種実生
宇治在来種実生
宇治在来種実生
宇治在来種実生
静岡在来種実生
静岡在来種実生
宇治在来種実生
不明
奈良在来種実生
実生
インド雑種実生
Ai2×NKaO5
Ai26×NkaO1
Ai21×NkaO3
静岡在来種実生
静岡在来種実生
宇治在来種実生
宇治在来種実生
三重県から導入した実生
Ai21×NkaO3
べにほまれ×C19
福岡在来種実生
べにほまれの実生
NkaO3×Ai18
さやまみどり×やまとみどり
中国湖北省導入実生
べにかおり×Cn1
たかちほ×F 1-9-4-48
S6×やぶきた
やぶきた実生
やぶきた×静在16
さやまみどり×やぶきた
ゆたかみどり× F1NN8(たまみどり× S6)
やぶきた×Z1
やぶきた× 23F1107(さやまみどり×やぶきた)
ゆたかみどり× F1NN8(たまみどり× S6)
やぶきた×うんかい
やぶきた×宮A11
やぶきた×あさつゆ
Z1×かなやみどり
宮A6(たかちほ× F1-9-4-48)×NN27
さやまみどり×5507(やぶきた実生)
べにほまれ×枕Cd86
ほうりょく×やぶきた
さやまかおり×硬枝紅心実生
NN27×ME52
かなやみどり×やぶきた
やぶきた×静印雑131
さやまかおり実生
NN27×ME52
京研282×埼玉1号
来 歴
さやまかおり×ヤブツバキ
やぶきた放射線突然変異
インドから導入実生
金Ck17×さやまかおり
金Ck17×さやまかおり
タリエンシス(赤芽)×おくむさし
育成年
1988
1994
1998
2004
2004
2004
育成場所
金谷
生物研
枕崎
枕崎
枕崎
枕崎
育成年
1953
1953
1953
1953
1953
1953
1953
1953
1953
1953
1953
1953
1953
1953
1953
1954
1954
1954
1954
1954
1960
1960
1960
1960
1960
1962
1965
1969
1970
1970
1971
1974
1976
1983
1986
1986
1988
1988
1988
1990
1991
1991
1992
1993
1997
1997
1997
2000
2002
2003
2003
2003
育成場所
金谷
金谷
金谷
金谷
埼玉
静岡
静岡
静岡
静岡
奈良
宮崎
鹿児島
鹿児島
鹿児島
鹿児島
金谷
静岡
京都
京都
鹿児島
鹿児島
金谷
九農試
九農試
鹿児島
埼玉
宮崎
枕崎
宮崎
金谷
埼玉
金谷
埼玉
金谷
金谷
埼玉
金谷
宮崎
宮崎
枕崎
金谷
宮崎
埼玉
枕崎
金谷
埼玉
宮崎
枕崎
金谷
埼玉
宮崎
宮崎
用途
紅茶
煎茶
煎茶
玉緑茶
煎茶
煎茶
煎茶
煎茶
煎茶
煎茶
釜炒り茶
紅茶
紅茶
紅茶
紅茶
煎茶
煎茶
玉露
玉露・てん茶
煎茶
紅茶
紅茶
玉露
釜炒り茶
紅茶
煎茶
釜炒り茶
紅茶
釜炒り茶
煎茶
煎茶
煎茶
煎茶
煎茶
煎茶
煎茶
煎茶
釜炒り茶
煎茶
煎茶
煎茶
煎茶
煎茶
紅茶・半発酵
煎茶
煎茶
煎茶
煎茶
煎茶・半発酵
煎茶
煎茶
煎茶
用 途
耐病性・耐寒性
自家和合性
高タンニン・高カフェイン・花香
耐クワシロ・耐病性
耐クワシロ・耐病性
高アントシアニン
付表2
登録番号
71
455
511
898
1025
1387
1388
1556
1676
2092
2157
2158
2159
2881
3047
3697
3932
4292
4591
4775
4835
4952
4953
4954
5013
5072
5430
6449
6684
6685
8131
8132
8133
9203
9204
9305
9306
9652
10244
10751
10752
11102
11103
11368
12706
13753
13754
13755
種苗法に基づくチャの登録品種( 1979.11.1 ~
登録品種名
星野緑
おくゆたか
司みどり
たかねわせ
さとう早生
おくひかり
めいりょく
ふくみどり
いなぐち
寺川早生
みねかおり
みなみかおり
しゅんめい
さえみどり
茶中間母本農1号
ふうしゅん
みなみさやか
さわみずか
べにふうき
ほくめい
みねゆたか
松寿
摩利支
みえ緑萌1号
あさのか
藤かおり
山の息吹
茶中間母本農2号
さがらひかり
さがらみどり
香駿
さがらかおり
さがらわせ
さきみどり
りょうふう
みどりの星
むさしかおり
りょくふう
茶中間母本農3号
成里乃
奥の山
はるみどり
つゆひかり
みえうえじま
そうふう
さいのみどり
みやまかおり
はるもえぎ
登録年月日
81/02/04
83/10/29
84/03/19
85/07/18
86/07/11
87/08/07
87/08/07
88/03/05
88/08/18
90/02/06
90/04/03
90/04/03
90/04/03
91/11/19
92/02/29
93/10/13
94/03/14
95/03/09
95/08/17
95/11/08
96/01/19
96/03/18
96/03/18
96/03/18
96/03/19
96/06/13
97/03/07
98/06/08
98/08/12
98/08/12
00/06/27
00/06/27
00/06/27
01/08/16
01/08/16
01/10/12
01/10/12
02/01/16
02/06/20
02/11/14
02/11/14
03/03/17
03/03/17
03/08/19
05/02/07
06/02/27
06/02/27
06/02/27
有効期間
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
18年
25年
25年
25年
25年
25年
25年
25年
25年
25年
25年
25年
25年
25年
25年
25年
30年
30年
30年
登録者
個人
茶業試験場
個人
個人
個人
静岡県
野菜・茶業試験場
埼玉県
個人
個人
宮崎県
宮崎県
野菜・茶業試験場
野菜・茶業試験場
野菜・茶業試験場
野菜・茶業試験場
宮崎県
静岡県
野菜・茶業試験場
埼玉県
個人
個人
個人
三重県
鹿児島県
個人
静岡県
生物研
個人
個人
静岡県
個人
個人
宮崎県
農研機構
個人
埼玉県
個人
農研機構
個人
個人
農研機構
静岡県
個人
農研機構
埼玉県
宮崎県
宮崎県
2005 年度末)
来
歴
自家茶園から選抜
ゆたかみどり× F1NN8(たまみどり× S6)
在来自然交雑実生
やぶきた自然交雑実生
安倍1号自然交雑実生
やぶきた× C y225
やぶきた×Z1
やぶきた× 23F1107(さやまみどり×やぶきた)
やぶきた自然交雑実生
宇治在来実生
やぶきた×うんかい
やぶきた×宮A11
ゆたかみどり× F1NN8(たまみどり× S6)
やぶきた×あさつゆ
さやまかおり×ヤブツバキ
Z1×かなやみどり
宮A6×NN27
やぶきた×ふじみどり
べにほまれ×枕Cd86
さやまみどり×5507(やぶきた実生)
やぶきた枝変わり
くりたわせ枝変わり
やえほ自然交雑実生
やぶきた自然交雑実生
やぶきた× Cp1
静印雑131×やぶきた
やぶきた自然交雑実生
やぶきたγ線突然変異枝変わり
やぶきた自然交雑実生
やぶきた自然交雑実生
くらさわ×かなやみどり
やぶきた自然交雑実生
やぶきた自然交雑実生
NN27×ME52
ほうりょく×やぶきた
やぶきた自然交雑実生
やぶきた× 27F1-73( さやまみどり×硬枝紅心実生 )
在来実生
インドからの導入実生
宇治在来実生
宇治在来実生
かなやみどり×やぶきた
静7132×あさつゆ
在来実生
やぶきた×静印雑131
さやまかおり自然交雑実生
京研283×埼玉1号
NN27×ME52
有効期間は登録時のもので、実際にはそれ以前に育成者権の切れている品種もある。
低カフェイン茶の製造法
茶生産省力技術研究チーム
山口
優一
カフェインは茶、コーヒーなど嗜好飲料に共通して含まれるアルカロイドの一種であり、
人類にとって重要な働きを持つものと思われる。実際、近年の研究で、カフェインに強い
肝機能障害抑制作用があることなどが明らかにされている。その一方で、神経興奮作用も
知られており、過剰な摂取は特に子供、妊婦などへの悪影響が懸念される。そのため、カ
テキン類などの機能性成分含有量や風味を保ちつつ、カフェイン含量を低くしたお茶の製
造技術や新品種が望まれてきた。一方、機能性成分、酸化防止成分等として、茶のカテキ
ン類を分離して利用することも、以前から産業として盛んに行われているが、この場合も
カフェインの混入が避けられず、技術的なネックとなっている。
本講義では、最近の研究成果、特許等を中心に低カフェイン茶の製造方法を紹介する。
低カフェイン茶製造の基本原理
茶葉中のカフェインは熱湯により溶出されやすい。津志田らの研究によれば、茶生葉、
茶蒸し葉を 85 ℃の湯に浸漬した場合、いずれも 1 分間で約 70 %、3 分間では 80 %以上
のカフェインが溶出した(図1)。ただし、湯温を 60 ℃にした場合はカフェインの溶出
量が非常に少なく、その効果はかなり温度に依存することが示されている。一方、カテキ
ン類の溶出はカフェインに比べて遅く、85 ℃、3 分間浸漬の場合、EGC が 5.1%、EC が 12.2
%、EGCG が 4.1 %、ECG が 3.6 %の溶出率であった。また、、各種アミノ酸の溶出傾向
もカテキン類と類似しており、同温度での 3 分間の溶出率は、生葉の場合 10 ~ 20 %程
度、蒸し葉の場合 8 ~ 14 %程度、萎凋葉の場合 5%程度であった。以上の結果から、生
葉、蒸し葉ともに、熱湯に 1 分程度浸漬することによりカフェインを選択的に除くこと
溶出量(mg/g生葉)
ができることが明らかとなった。(農芸化学会誌、59、1985)
7
6
5
4
3
2
1
0
生葉
萎凋葉
蒸し葉
0
1
2
時間(min)
3
4
図1 茶葉からのカフェインの溶出曲線(85℃浸漬)
津志田ら
実際の抽出・装置例
○鹿児島県茶業試験場
鹿児島県茶業試験場研究報告、第 8 号、31-38(1992)
鹿児島県茶業試験場では、1987 ~ 1989 年に低カフェイン茶の製造方法に関する試験
を実施している。
装置:
円筒形の容器(直径 630mm、高さ 510mm 湯量 120ℓ)に、円筒型バスケットに
入れた生葉または蒸し葉 3.75kg を浸漬して処理する。湯温は 90 ~ 97 ℃であり、加熱に
はボイラの蒸気を利用している。茶葉浸漬処理後、水中で撹拌冷却し、高速つゆ取り機で
脱水して荒茶を製造した。
検討結果:
生葉、蒸し葉とも 60 秒処理によりカフェインの含有率を 33 ~ 37 %に低下させること
ができ、タンニンはほぼ 100 %、遊離アミノ酸は約 80 %が保たれた(表1)。処理葉か
ら製茶した荒茶の品質は、浸漬時間が長いほど外観、香味が低下し、特に蒸し葉処理では
形状の砕け、香気の低下が著しかった。この結果から、蒸し葉を処理するよりも殺青を兼
ねて生葉を処理する方が望ましいとしている。
浸漬時間とカフェイン含有率との関係については、30 秒処理で 55 %程度まで急激に減
少するが、60 秒以上では減少が緩慢となった。また、浸漬時間が長いほど形状の破砕、
色沢の褐色が強くなり、浸出液の沈さも増加した。以上のような成分量と品質との関係か
ら、浸漬時間は 60 秒程度が適当と考えられた。
生葉・蒸し葉の浸漬処理時間と成分含有率(鹿児島県茶試、1987)
表1
カフェイン
タンニン
遊離アミノ酸
対照
生葉60秒
生葉120秒 蒸し葉60秒
蒸し葉120秒
2.72
0.91
1.28
1.03
0.98
(100)
(33)
(47)
(37)
(36)
11.8
12
11.7
11.1
10.3
(100)
(102)
(99)
(94)
(87)
0.57
0.47
0.15
0.43
0.44
(100)
(83)
(90)
(75)
(78)
数値は乾物中%、( )は対照を 100 とした指数 品種:おくみどり(1987 年 7 月 21 日)
表2
低カフェイン茶の品質(鹿児島県茶試、1987)
対照
生葉60秒
生葉120秒
蒸し葉60秒
蒸し葉120秒
形
状
13
13
12
11.0(砕け)
10.0(砕け)
色
沢
13.5(緑色)
13
11.5(飴色)
10.5(黄緑)
9.5(褐色)
香
気
13.5
13.5
12.5
12.0(低い)
11.0(低い)
水
色
11.0(やや赤)
12.5(やや薄い)
12
11.5
12
滋
味
13.5
12.5
11.5(飴色)
11.0(淡泊)
10.5(淡泊)
合
計
64.5
64.5
品種:おくみどり(1987 年 7 月 21 日)
59.5
56
53
また、このような回分式による熱湯浸漬処理では、熱湯の連続使用によりカフェイン除去
率が低くなることも示されている。
○静岡県茶業試験場
静岡県茶試研究報告、17、31-39(1993)
静岡県茶業試験場では、低カフェイン茶製造のための熱湯浸漬機を開発し、その使用方
法について詳細に調査を行った(1993)。
装置:浸漬機は、ステンレス製断熱水槽(W3130 × D480 × H530mm、0.8㎥)内に、生
葉送り用のスクリューコンベアをセットしたものである。スクリューコンベアを取り囲む
位置に小孔の開いたパイプを配置し、ボイラーからの蒸気を吹き込むことにより槽内の水
を加熱している。また、スクリューコンベア入り口には湯温維持と茶葉の送り込みを目的
とした蒸気吹き込みノズル、出口には茶葉の取り出しをスムーズに行うためのエアーバブ
リング用の散気管を備えている。浸漬時間は、スクリューコンベアの回転数を変えること
により調整する。
結果:
本装置では、生葉投入量を 10kg/min とした場合も槽内温度を 95 ℃以上に保つことが
できた。本装置では、熱湯浸漬時間を約 25 秒から 60 秒程度まで調節可能であり、カフ
ェイン除去率は 56 秒浸漬、生葉投入量 2.5kg/min で 74.9 %を達成できた。
○寺田製作所・ひしだい製茶
公開特許
特開平7-135902
「茶葉の熱処理方法及び装置」
均一で安定した低カフェイン茶を得るため、茶生葉をコンベヤベルトに乗せて搬送し、
煮沸槽の熱水中を通過させた後、更に冷却槽を通過させると同時に、冷却水のシャワーを
浴びせて洗浄・冷却後、脱水機で付着水を除去する。本装置では、コンベヤ上の茶葉の重
なりによる処理効果のばらつきがなく、均一な脱カフェイン効果が得られたとされている。
1,2 無端コンベヤ
3 煮沸槽
4 冷却槽
5 冷却水シャワー
6 給葉機
7 茶葉投入口
8 蒸気配管
10 給水配管
9 熱水配管
11 ガスバーナー
12 脱水機
図2
○埼玉県茶業試験場
装置の概略
公開特許
特開2001-245591
「低カフェイン緑茶エキス粒」
埼玉県茶業試験場では、低カフェインで飲みやすい緑茶エキス粒を製造する目的で、蒸
し葉の熱湯処理方法を開発した。装置は前記静岡県茶試のものとほぼ同様である。60 秒
程度蒸した茶葉を通過時間 1 分程度に調整した熱湯浸漬装置にかけた後、製茶を行って
いる。湯温 80 ℃ではカフェインの減少率は 33 %、90 ℃では 75 %程度であり、カテキ
ン類の減少も考慮した場合、処理湯温は 75 ~ 95 ℃が適当としている。また、熱湯浸漬
後の茶葉は水分含量が高くなることから、粗揉工程における風量、熱風温度を高くする方
法も検討し、そのような製茶方法でもカフェイン、カテキン類の含有量に差がないことを
示している。本方法の目的は茶の成分利用であることから、製造された荒茶の品質につい
ては言及されていない。
○野菜茶業研究所・寺田製作所(2006)
野菜茶業研究所では、寺田製作所との共同研究により低カフェイン処理機(LCT160001)
を開発した。本装置はネットコンベヤ上を流れる茶生葉に、熱湯シャワーをあててカフェ
インを除去するものであり、カテキン類、アミノ酸類を減少させることなく、カフェイン
を 60%以上除去することが可能である。本装置は、熱水槽が不要であり、安定した条件
でカフェイン除去を行うことが可能である。
図3
○(株)福寿園
公開特許
低カフェイン処理装置
LCT160001
特開2006-121973
「カフェインの少ない不発酵茶及びその製造方法」
カフェインはやや塩基性物質であることから、酸性溶液でより多く溶出される。そこで、
酸性溶液中で緑茶の生葉をゆでる、もしくは、蒸し葉を酸性溶液に浸漬させる工程による
カフェイン除去法を考案した。酸性溶液によりクロロフィルが分解されて葉色が低下する
が、酸性処理後水洗、もしくはアルカリ性溶液による洗浄を行うことにより葉色変化を抑
えることができる。
実施例:
水 10ℓを沸騰させた後、酢酸 10cc を加え(pH3.5)、茶の生葉 100g を 45 秒ゆでたのち、
直ちに 0.01%重曹水で洗浄、製茶する。無処理の荒茶のカフェイン含量 1.8%に対し、沸
騰水によるカフェイン除去の場合のカフェイン含量は 1.0%、酢酸溶液洗浄法の場合は
0.6%と高いカフェイン除去効果が得られた。総カテキン量については、ほとんど変化し
なかった。また、90 秒蒸した蒸し葉 1kg を 0.1%酢酸溶液 10ℓに 1 分間浸漬、0.01%重曹
水で洗浄後、製茶する方法でも、高いカフェイン除去率が得られた。
本特許では、製造された低カフェイン茶の色については評価結果が示されているが、香
気、滋味等の内質については不明である。
まとめ
緑茶のカフェインについては、特に健康上の問題は発生していないものと思われるが、
消費者、流通業者からは低カフェイン茶の要望が依然として強いようである。そのため、
本稿で紹介したような様々な装置、手法が開発されてきた。基本的には、カフェイン除去
効果、品質、コストの兼ね合いから 60 秒程度の熱水処理が適するものと思われるが、通
常の蒸し製煎茶に匹敵する品質のものを製造することは現時点では困難である。
緑茶の品種識別技術
野菜・茶の食味食感・安全性研究チーム
氏原
ともみ
はじめに
野菜や果物などとは異なり、茶は収穫物(生葉)が荒茶・仕上げ茶と加工されて市販さ
れる。その間生葉は加熱・揉捻・乾燥されて形を変え、荒茶として出荷された後に様々な
産地・品種が適宜ブレンドされ、仕上げ加工を経るため、完成した仕上げ茶の外観から品
種や産地を見分けることはほぼ不可能である。そのため、市販茶で品種や産地を判別でき
る技術の開発が求められていた。
ここでは、市販茶を材料に、そこにブレンドされた品種を同定可能な、DNA マーカーを
利用した品種識別技術について紹介する。
1)茶の品種識別技術の開発
DNA による品種の同定や遺伝子組み換え作物の検出は、広く農業分野で応用されている。
緑茶についても、DNA は
①品種ごとに違いがある
②加熱などに対し比較的安定である
③生葉は当然のことながら、最終的に分析の対象となる製茶葉にも必ず含まれる
などの
理由から、品種識別に有用だと考えられた。
茶の品種識別用DNAマーカーは、野菜・茶業試験場のS.S. Kaundun と松元によって開
発された1)。DNAマーカーには、ゲノム上で特定の部分の違いに的を絞って検出するのか、
ゲノム全体を網羅的に分析するのか、またそれらを検出する手法の違いによりいくつかの
種類があるが、彼らが用いたのは前者で、CAPS(Cleaved amplified polymorphic sequence)
マーカーである。これはチャより抽出したDNAを鋳型に特定の部分をPCRによって増幅し、
増幅断片を、特定の並びになった数塩基の配列のみを認識し、その部位(もしくはその近
傍)のみでDNAを切断する、制限酵素で切断して得られる多型を検出するという手法であ
る。この特定の並びは、
4 塩基対(bp)から、多
いものでは 12 bpにわ
PAL
たるものまであり、そ
の中で 1 塩基でも配列
が異なると切断は起
exon1
intron
exon2
CHS2
exon
こらなくなるため、も
しもこの部位で塩基
配列に変異が起こっ
intron
exon2
DFR
ていれば、それは制限
酵素処理後のDNA断
intron3
Intron4+5
片の大きさの違いと
図1
マーカーに使用した遺伝子
して検出することが可能である。
チャでは、既に遺伝子が単離され塩基配列を解析済みであった、ポリフェノール生合成
経路の3つの酵素、phenylalanine ammonia-lyase(PAL)、chalcone synthase 2(CHS2)、
dihydroflavonol 4-reductase(DFR)の遺伝子をマーカー開発に利用した。植物や動物など真
核生物の遺伝子では、タンパク質に翻訳される配列(エキソン)の中に、それらを分断す
る形で翻訳されない配列(イントロン)が存在する。チャ PAL 遺伝子は 1 つのイントロン
を持ち、タンパク質に翻訳される部分は 2 つのエキソンに分かれている。同様に CHS も 2
つのエキソンとそれに挟まれた 1 つのイントロンから成り、DFR は 6 つのエキソンと 5 つ
のイントロンを持つ。マーカー開発にあたり、このエキソン、イントロンを別々に増幅し
て配列の変異を調査することにした。エキソンよりもイントロンの方が、アミノ酸の配列
に直接影響せず致命的な変異となりにくいため、多型性に富むことが多く、また PCR によ
る DNA 断片の増幅では、ターゲットとなる断片が長くなると増幅効率が落ちるためである。
PAL はエキソン 1、イントロン、エキソン 2 の 3 つの断片、CHS2 も同様にエキソン 1、イ
ントロン、エキソン 2 の 3 つの断片、DFR は全体を 3 つの断片に分割した(図 1)。それぞ
れを複数の制限酵素で処理し、切断のされ方に品種間で違いがある組み合わせを探索した。
いくつかの組み合わせでは品種間で多型が得られたため、マーカーとした。3 つの遺伝子か
ら、合計 13 の DNA マーカーが開発された(表 1)。
表1
Kaundun and Matsumotoにより開発されたチャのDNAマーカー1)
増幅部位
制限酵素
PAL exon1
Hpa II
PAL intron
Dde I
PAL exon2
Taq I
CHS exon2
Bsp HI
DFR intron1+2
ALP
DFR intron 3
Hind III
DFR intron4+5
Hpa II
Nla III
Rsa I
Eco RI
Hae III
Nla III
マーカーの開発は、新鮮葉から抽出したDNAを試料として行われた。次に著者は、これ
らを使って製品となった茶葉での品種識別を可能とするための試験を開始した2)。
DNA は、比較的安定な物質であるとされるが、生葉を摘採後、蒸熱や釜炒り、揉捻、乾
燥を経て製造される荒茶や、さらにそれを火入れする仕上げ茶において、品種識別に使用
できる DNA を抽出可能であるか確かめる必要があった。また、使用する DNA マーカーの
性質上、茶葉 1 断片からの DNA 抽出法を確立する必要があった。
開発されていた DNA マーカーは、共優性マーカーであり、1 つのマーカーについて2
つもしくはそれ以上の対立遺伝子が存在する。栽培チャは一部を除き 2 倍体であるため(日
本の茶品種では「まきのはらわせ」が 3 倍体)、対立遺伝子が2つであれば、どちらか片方
のホモ、もしくはヘテロとなり、1マーカーにつき3種類の遺伝子型を検出することがで
きる(図2)
。しかしそれぞれの遺伝子型が混在した状態では、全てが見かけ上ヘテロとな
ってしまう。そのため様々な品種がブレンドされた状態の市販緑茶を分析するためには茶
葉断片を 1 ヶずつ個別に鑑定しなければならない。
やぶきた
遺伝子型
図2
おくみどり
めいりょく
おくゆたか
さえみどり
多型を示すバンド
M
BB
AB
AB
AA
AB
1 つの DNA マーカーで検出できる 3 つの遺伝子型
‘やぶきた’と‘おくゆたか’が混ざった状態では、‘おくみどり’、‘めいりょく’、
‘さえみどり’と同じパターンを示してしまう
品種の同定
7 つのマーカーについて遺伝子型を調べ、結果を比較することで、国内の 61 品種を同定
するが、その中には、特徴的な遺伝子型をもつものもあり、それらはより少ないマーカー
で同定が可能である。特に、マーカーPALintron/Dde I では‘やぶきた’、
‘香駿’の2品種
のみが A2A2 型、
‘あさつゆ’、
‘うじみどり’の2品種のみが BB 型を示すため(参考資料)、
まずこのマーカーの遺伝子型を調べることで効率的な同定が可能である。
ブレンド割合の推定2)
我々の手法では、1つの茶試料より 24 ヶの茶葉をサンプリングして個別に品種の同定を
行うため、もとの試料にどんな品種が、どれくらいの割合でブレンドされているのかを推
定することが可能である。表 3 に示すように、
‘やぶきた’および‘めいりょく’の 2 品種
を試験的に調製した模擬ブレンド茶を用いた実験では、24 ヶのサンプリングによって比較
的正確にブレンド割合を推定できた。また、この数のサンプリングにより 10%程度ブレン
ドされた品種が検出可能であった。
表2
モデル試料を用いたブレンド割合推定
試料
品種
1回
2回
3回
平均値
5:5
混合
やぶきた
10
13
11
11.3
(47.1%)
めいりょく
14
11
13
12.7
(52.9%)
9:1
混合
やぶきた
めいりょく
19
5
21
3
21
3
20.3
3.7
(84.6%)
(15.4%)
24 個のサンプリングを 1 組とし、3 回繰り返した。結果をχ2検定にかけたと
ころ、実際のブレンド割合に良く一致した
2)茶の品種識別
茶の品種識別には、7 つの DNA マーカーを使用する。未知試料については、それぞれ
のマーカーについて遺伝子型を調べ、遺伝子型が既知である品種と比較し、同定する。現
在、日本産 61 品種が同定可能である。
茶の品種識別法
1.茶からの DNA 抽出
茶試料からの DNA 抽出には、DNeasy Plant Mini Kit (QIAGEN、東京)や ISOPLANT
II(ニッポンジーン、東京)などの市販の植物 DNA 抽出キットが使用可能である。また
キットを使わなくても、植物 DNA の抽出に多用される CTAB 法の簡略法でも抽出が可
能である。
作業時間はサンプル数にもよるが、おおよそ 1 時間半~2 時間半程度で終了する。1 サ
ンプルあたり少なくとも 200~300 回の PCR が可能な量の DNA が抽出できる。
2.PCR によるマーカー断片の増幅
1で抽出した DNA を用いて、PCR によるマーカー部位の増幅を行う。当研究所で使
用している機種では、反応終了までに 2 時間半程度かかる。
3.制限酵素処理
2で増幅したマーカー部位について、制限酵素による処理を行う。制限酵素ごとの至
適反応温度でおおよそ 1 時間半~終夜インキュベートする。
4.アガロースゲル電気泳動
3で制限酵素処理が終了した試料をアガロースゲル電気泳動し、バンドのパターンを
確認する。
5.品種の同定
バンドのパターン(図 3)を既知品種のバンドパターン(表 3)と照らし合わせ、品種
の同定を行う。
M
M
P1/H
1
2
C2/B
M
C2/R
3
1
2
D3/H
D4/H
3
M
P2/T
1
2
Pint/D
3
A1A1, A2A2, BB, A1A2, A2B, A1B
1
2
3
1
2
3
1
2
★
3
3)
◆
★ ‘やぶきた’、‘香駿’のみ
1, 2:ホモ、 3:1 と 2 のヘテロ
◆ ‘あさつゆ’、’うじみどり’のみ
図 3 品種識別に使用するマーカーの、各遺伝子型の電気泳動パターン
2 % アガロースゲル(臭化エチジウム 0.5 μg/ゲル 1ml を含む)で泳動した。
P1/H:PALexon1/Hpa II 処理
DFRintron3/Hind III 処理
C2/B:CHSexon2/BspH I 処理
D4/H:DFRintron4+5/Hpa II 処理
Pint/D: PALintron/Dde I 処理
C2/R:CHS/Rsa I 処理
D3/H:
P2/T: PALexon2/Taq I 処理
M:分子量マーカー(100 bp DNA ladder, NEB)
国内在来品種と外国産品種の識別
国内では、茶園の 90%以上が品種化されているが、在来品種を栽培する茶園も残っ
ている。挿し木で殖やされ、1 本の母樹から生じた苗は全てクローンだと言うことので
きる育成品種と異なり、在来品種は遺伝的に多様で、全てを調査して遺伝子型のデー
タベースを作成することは不可能である。品種識別技術を原産地判別に用いる場合、
現在のところは国内品種か否かといった識別しかできないため、「国内品種でない」=
「輸入緑茶である」とはならないことに注意しなければならない。
(参考文献)
1) Kaundun SS, Matsumoto S (2003) Development of CAPS markers based on three key
genes of the phenylpropanoid pathway in tea, Camellia sinensis (L.) O. Kuntze, and
differentiation between assamica and sinensis varieties. Theor Appl Genet
106:375-383
2) Ujihara T, Matsumoto S, Hayashi N, Kohata K (2005) Cultivar identification and
analysis of the blended ratio of green tea production on the market using DNA
markers. Food Sci Technol Res 11:43-45
野菜茶業研究所金谷茶業研究拠点「緑茶の品種識別マニュアル」平成17年2月
(参考資料)日本品種の遺伝子型
Pint/D
D4/Hp
D3/Hi
P1/Hp
P2/T
やぶきた
BB
BB
AB
BB
AB
AB
香駿
BB
BB
BB
BB
AA
BB
あさつゆ
AA
AA
AA
AB
AA
BB
うじみどり
AB
AB
AA
AB
AB
AB
まきのはらわせ
ほくめい
ほうりょく
ただにしき
AA
AA
AA
AA
AA
AA
AA
AA
AA
BB
BB
AB
AA
BB
AB
AB
AA
AB
BB
BB
BB
AB
AB
AA
べにふうき
こまかげ
さみどり
べにほまれ
BB
BB
BB
BB
BB
AB
AB
AB
BB
AA
AA
BB
BB
AA
AA
AB
BB
AB
AB
BB
BB
BB
AB
BB
べにひかり
はつもみじ
やえほ
Z1
しゅんめい
さやまみどり
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AA
AA
AA
AA
AB
AB
BB
BB
AB
AB
AA
AB
BB
AB
AA
AA
AB
AB
BB
AB
BB
AB
AA
BB
AA
AB
BB
AB
BB
AA
うじひかり
つゆひかり
AA
AA
AA
AA
BB
AA
AA
AA
AA
AA
BB
BB
あさひ
やまとみどり
べにふじ
BB
BB
BB
BB
AB
AB
AA
BB
AB
AA
BB
AB
AA
BB
BB
BB
AB
BB
ひめみどり
おくむさし
みやまかおり
ごこう
いずみ
ゆたかみどり
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AA
AA
AB
AB
AB
AB
AA
BB
AA
AB
AB
AB
AA
BB
AA
AA
BB
AB
AA
BB
BB
AA
BB
AB
BB
AB
AB
BB
AB
BB
A2B
おくゆたか
ふくみどり
なつみどり
さえみどり
たかちほ
AA
BB
AB
AB
AB
AA
AB
AA
AB
AB
BB
BB
AA
AB
AB
AB
AB
BB
BB
AB
AA
AB
AB
AA
AB
BB
BB
AB
BB
BB
A1A2
みなみさやか
やまなみ
AA
AA
AA
AA
AB
AB
AA
AB
AB
BB
BB
AA
A2A2
BB
A1A1
A1B
C2/B
C2/R
ふうしゅん
AA
AA
AB
AB
AB
AB
さやまかおり
さいのみどり
くらさわ
そうふう
はるもえぎ
たまみどり
藤かおり
するがわせ
みなみかおり
おおいわせ
おくひかり
さきみどり
やまかい
BB
BB
BB
BB
BB
BB
BB
BB
BB
BB
BB
BB
BB
BB
BB
BB
BB
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AB
BB
BB
AB
AB
AA
AA
BB
BB
BB
BB
BB
AB
AB
BB
AB
BB
AB
AB
AA
BB
BB
BB
AB
AB
AB
AB
BB
AB
AA
BB
AB
AA
BB
AB
AB
AB
AB
BB
AB
AB
AA
BB
AA
BB
BB
AB
BB
AB
BB
AB
AB
AB
くりたわせ
あさぎり
さわみずか
めいりょく
おくみどり
むさしかおり
山の息吹
とよか
かなやみどり
りょうふう
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AA
AA
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AB
AA
AA
AA
AA
BB
BB
AB
AB
AB
AB
AA
BB
AB
AB
BB
BB
BB
BB
AB
AB
AB
AB
AA
AB
BB
AB
BB
AB
AA
BB
AB
AB
BB
AB
AA
AB
AB
AB
BB
AB
からべに
AB
AB
AB
AB
AB
AB
電気的特性指標による茶葉の水分状態の計測
茶生産省力技術研究チーム
水上裕造
はじめに
茶の加工には、長い間の経験とそれに基づく勘を必要とするため、「茶師」と呼ばれる
熟練者がこれに当たってきたが、熟練者の高齢化と共に人手不足が深刻化し、後継者から
技術の継承もままならなくなってきた。そこで、省力、コスト低減、品質向上につながる
自動化の試みが早くから勧められ、現在では製茶機械の多くがコンピュータにより制御さ
れるようになった。しかし茶葉の状態を検出してフィードバック制御を行っている工程は、
一部に留まっている。これに対し、筆者が目指すのは、製茶の全工程においてコンピュー
タが人間の代わりに茶葉の状態を検出し、機械を操作することであり、最終的には製茶工
程の無人化を狙うものである。そのためには、まず工程中の茶葉の状態を検出するセンシ
ング技術を開発する必要がある。
製茶工程中の茶葉は物性が大きく変化するため、1台の機械では対処できず、大きく6
工程に分かれる。製茶は生葉に含まれる酵素活性を蒸熱により失活させた後、5%の含水
率まで乾燥させる工程であり、乾燥中の温度と水分管理が極めて重要である。製茶の各工
程では、恒率乾燥が保てるよう茶葉に「しとり」を持たせながら乾燥し、適度の含水率で
取り出して次の工程を受け持つ機械へと移送しなければならない。開発すべきシステムは、
茶葉温度、含水率、しとり、及び水分むらを計測して、乾燥時の熱風温度、風量などを制
御するシステムである。
間接的に茶葉の乾燥状態を計測した例はあるが、状態計測に関する文献はほとんどない。
リアルタイムで茶葉の状態をセンシングできれば、製茶工程制御の全自動化も夢ではない。
そこで、著者は茶葉の状態を計測する方法として、一回の計測で多くの情報が得られる電
気的特性に着目し、現在研究を進めている。
植物の電気的情報
電気的計測の利点は、計測に要する時間が短い
ことと、得られる情報が多いことが挙げられる。
高周波電流
細胞
電気的情報の中でも、複素インピーダンスによる
計測は、幅広い周波数の掃引により材料の性質を
把握するものであり、電池及び電気分解などの分
野で研究が進んでいる。また周波数を掃引し、得
られた結果から食品の品質や追熟を非破壊で計測
することを目的とした研究も行われている。
植物は細胞レベルにおいて,抵抗と電気容量の
著しく大きな細胞膜及びイオン伝導性を持つ抵抗
の小さい細胞液から構成されている。従って、細
低周波電流
周波電流
図1 細胞レベルでの分散と吸収
胞組織に交流電界を印加すると低周波電流は抵抗の大きな細胞膜を通過できず細胞外液を
通るため、組織全体としての低周波複素インピーダンスは大きい。一方で、高周波電流は
電気容量の大きな細胞膜を通過し、抵抗の小さい細胞内液を通るため、組織全体の高周波
複素インピーダンは小さくなる(図1)。このように植物は不均質誘電体であると言える。
電気的に不均質な組織の電気特性は、周波数によって著しく変化し、幅広い周波数の電気
的測定によってあらゆる情報を取得できる。植物組織において、組織構造に起因する分散
は数百 Hz から数百 kHz において認められることが知られている。
電気的特性指標
複素インピーダンス Z、リアクタンス X、抵抗 R、角周波数ω、電気容量 C の関係を以
下に示す。なおωは 2πf(f;周波数)の式で算出できる。
Z = R + iX ・・・1)
−1
・・・2)
X=
ωC
€
Z = R 2 + X 2 ・・・3)
€
植物組織のように電気二重層を持つ誘電体に
€
低周波数から高周波数の電界を掃引すると、
-X
1/τ
図2のような円弧が得られる。ただし、茎や
芽などに電界を掃引すると、2つの円弧が現
れる。これは2つの電気的性質の異なるマト
R∞
U
V
R0
R
リックスが存在することを意味する。
図2において、X が最小となる点は、リア
βπ
クタンスの吸収と分散の境界である。この境
界における周波数は緩和周波数と呼ばれ、ま
たその逆数である時間は緩和時間と呼ばれて
図2 電気二重層による緩和現象
いる。緩和時間を τ とすると、周波数と複素インピーダンス Ζとの関係は式4)のように
表すことができる。ただし、 β (0< β <1)は円弧の性質を表す定数であり、円弧中心角
( β π)から算出できる。なお、R0 は ω =0 の時の抵抗であり、R∞は ω =∞の時の抵抗で
ある。
Z = R∞ +
R0 − R∞
・・・4)
1+ (iωτ ) β
茶葉の等価回路とその解析
インピーダンスの周波数軌跡が円弧となることの確認方法を以下に示す。図2において
€
U と V の長さの比を考えると、周波数 f を変数として、式5)を導く事ができ、 log f の
傾き αが求まる。この時, α =β となれば周波数軌跡は円弧となる。著者は蒸熱葉、粗揉
€
葉および揉捻葉を解析し、これらの複素インピーダンス周波数軌跡は円弧となることを確
認している。
logV /U = α log f + α log(2π /ω m ) ・・・5)
図3に示した回路は、植物組織の等価回路としてよく用いられる Hayden モデルを簡略化
したモデルである。直流の電界は前途したように電気二重層を通過できないため、細胞外
€
抵抗は図2において R0 となる。緩和周波数における静電容量は細胞膜を表しているため、
細胞膜の静電容量は図3に示した簡単な式で算出することができる。高周波数の電界は細
胞内を通過するので、図2に示した R∞は Re と Ri から算出できる。これらの解析には、
複素非線形最小自乗法が一般に用いられているようであるが、得られた R と X から円弧
の方程式を重み付き最小自乗法により求め、Re、Ri および Cm を解析することができる。
これらの解析には、一般に広く用いられている Microsoft 社の Execl マクロが有効である。
Re:細胞外抵抗(Ω)
Cm
Ri
Re
Re=R0
Ri:細胞内抵抗(Ω)
R∞= 1/(1/Re+1/Ri)
Cm:細胞膜容量(F)
1/τ= 1/Cm(Re+Ri)
τ:緩和時間(s)
※2πfc(ω)=1/τ
fc:緩和周波数
図3 等価回路とパラメーター
粗揉工程と揉捻工程における細胞内外の抵抗
10
粗揉工程における細胞内外の抵抗の変化を図4
図 4(b)は硬葉を材料として得られた結果である。
茶葉含水率の低下にともない、複素インピーダ
抵抗(kΩ)
に示した。図4(a)は品種 やぶきた のみる芽、
4
2
質内に存在する動きにくい水が存在するが、蒸熱
0
0
によってこれらの分離が消失し、粗揉では茶葉内
的透過性は喪失すると考えられる。したがって、
粗揉工程において、茶葉は粗揉機の揉み手により
加圧されることで細胞内液が細胞外へ移動し、ま
た乾燥により茶葉表面からの水分蒸発が起こるこ
(b)
8
抵抗(kΩ)
ルやポンプはその機能を果たさず、細胞膜の選択
10
20
30
40
10
部の水分が移動しやすい状態になっている。生葉
揉において茶葉の細胞膜・壁に存在するチャンネ
Re
Ri
6
ンスは増加する。また生葉は動きやすい水と細胞
を蒸熱するとほとんどの酵素は失活するため、粗
(a)
8
Re
Ri
6
4
2
0
0
10
20
30
粗揉時間(min)
40
とが考えられる。これらを踏まえると、粗揉 10
図4 粗揉工程における茶葉の細胞内
分程度で細胞外抵抗が減少したことは、蒸発によ
および細胞外抵抗の変化
る細胞外抵抗の増加よりも、細胞内液が細胞外へ押出される影響の方が大きかったことが
伺える。粗揉が進むと細胞外抵抗が増加したことは、細胞内液が細胞外へ押出される影響
よりも茶葉表面からの蒸発による影響の方が大きかったことが伺える。また工程が進むと
細胞内抵抗が増加したことは、茶葉含水率の減少とともに細胞内の含水率も減少した結果
であると考えられる。
および細胞外抵抗の 変化を示した。図
は硬葉を材料として得られた結果である。
揉捻工程では、粗揉での揉み不足を補う
抵抗(kΩ)
5(a)は品種 やぶきた のみる芽、図 5(b)
(a)
Re
5
Ri
4
2
一にする。複素インピーダンスは含水率
1
と関係があり、含水率が高いほど抵抗は
2
1.5
細胞内外抵抗比
3
と同時に、茶葉の各部分の水分状態を均
2.5
1
0.5
細胞外抵抗/細胞内抵抗
図5に揉捻工程における茶葉の細胞内
0
0
10
20
30
40
低い値を示すことが知られている。これ
り細胞内液が細胞外へ押出され、細胞外
での水分量が増加した結果であると考え
られる。また、図5(a)のように細胞内
外の両抵抗が同程度の値を保ちながら増
加したことは、細胞内液が細胞外へ押出
抵抗(kΩ)
抗が減少したことは、茶葉表面からの水
分蒸発による影響よりも、揉捻操作によ
(b)
5
2.5
2
4
1.5
3
1
2
0.5
1
細胞外抵抗/細胞内抵抗
らを踏まえると、揉捻工程中に細胞外抵
0
0
10
20
30
揉捻時間(min)
40
される影響よりも、茶葉表面からの水分
蒸発の影響を受け、同時に細胞内の含水
率も減少した結果であると考えられる。
図5 揉捻工程における茶葉の細胞内およ
び細胞外抵抗の変化
交流電界における電気抵抗は含水率と関係があることを考えると、細胞内抵抗と細胞外抵
抗が等しくなれば、細胞内外での水分状態は均一であると言える。したがって、図5(a)
のように揉捻開始から細胞内外の抵抗がほぼ同程度であったことは、揉捻開始から細胞内
外での水分状態はほぼ均一であったことが伺える。一方で、図5(b)のように揉捻が進む
と細胞内抵抗と細胞外抵抗がほぼ等しくなることは、細胞内外において揉捻により水分状
態の均一化が進んだものと考えられる。
このように、製茶の各工程において茶葉の細胞内抵抗および細胞外抵抗を計測すること
で、茶葉の水分状態の予測が可能になる。細胞内外の抵抗を求めるためには、数百 Hz か
ら数百 kHz の電界を掃引し、解析しなければならい。細胞内外の抵抗を指標とした製茶
制御は非現実的であるように思える。ただし、低周波数における抵抗値は Ro と、また高
周波数における抵抗値は R∞ とほぼ同程度であるので、実用化も夢ではない。今回、細胞
内外の抵抗について述べたが、円弧の性質を示す βについても今後解析していく予定であ
る。
電気的特性指標による茶葉含水率の高精度・迅速計測
複素インピーダンスと静電容量は水分と関係があることは、以前から知られている。こ
こで、実験より得られた複素インピーダンス Z と茶葉含水率の関係、ならびに静電容量 C
と茶葉含水率の関係を以下の式に示す。ただし、精度は低い。
Z
M = alog( ) + b ・・・6)
V
C
M = c log( ) + d ・・・7)
V
€
M は湿量基準で示した茶葉含水率(%)であり、V は茶葉体積である。製茶中、水分
のみが損失することを考えると、茶葉重量とその体積は一定の関係にあることから茶葉重
€
量から体積を求めることができる。式6)及び式7)を式8)のように1つにまとめる。
M −b M −d
Z
C
−
= log( ) − log( )
a
c
V
V
€
M −b M −d
Z
−
= log( ) ・・・8)
a
c
C
式8)で表したように、体積を示す V の項が消滅する。さらに式8)を含水率 M につ
いて解く。
€
M=
ac
Z ad − cb
・・・9)
log( ) −
c−a
C
c−a
ここで a,b,c 及び d は係数であるので、
€
ac
=A
c− a
ad − cd
−
=B
c− a
とすると、式9)は以下の式 10)となる。
€ M = Alog( Z ) + B ・・・10)
C
このように式 10)を導くことができる。この式 10)によると、体積で補正しなくても、
電気インピーダンスと静電容量から含水率が計測できる。
€
前途したように電気インピーダンスと静電容量は周波数特性があるため、式 10)で推
定された茶葉含水率と乾燥法で測定した含水率の相関を調べる必要がある。図6に各周波
数における茶葉含水率と式9)により推定された茶葉含水率の相関係数をプロットした。
結果、3kHz 付近において高い相関が得られることがわかる。3kHz 付近を超えると、含
水率との相関が低くなる。これは、茶葉に含まれ
1
る水以外の成分の電気的緩和が高周波数帯に存在
0.95
することが考えられる。電気的性質を考慮すると、
いことが理解できる。
水分と関係があるパラメータを個々に用いず、
0.9
相関係数
低周波帯では細胞内に電気が流れず相関係数は低
0.85
0.8
電気インピーダンスと静電容量の両方を用いるこ
0.75
とにより計測精度は高まる。式 10)を前提に、
0.7
0.1
定数 A 及び B を最小二乗法により求めると、A
は-3.65、B は 166 であった。これらの値は電極の
1
10
log(kHz)
100
1000
材質や形状により異なるが、茶の品種や熟度の影
図6 電気的特性指標と含水率と
響は受けない。
の相関係数の周波数依存性
さらに図7には乾燥法で測定した茶葉含水率と
これによると、80%から3%において標準誤差は
2.94%と小さく、茶葉含水率を高精度で計測でき
ることが明らかである。
おわりに
製茶工程における茶葉の状態計測法として、複
素インピーダンスに着目し、細胞内外の抵抗の変
推定された含水率(%wetbase)
式 10)より推定された含水率の関係を示した。
80
70
相関係数:0.99
標準偏差:2.94%
60
50
40
30
20
10
0
0
化を明らかにした。これらの指標は製茶中の水分
20
40
60
80
乾燥法による茶葉含水率(%wetbase)
状態をよく表すことが考えられ、新たなるセンシ
図7 インピーダンスと静電容量から
ング方法として今後も研究を進めていく予定であ
推定された含水率と乾燥法によ
る。工程で最も重要な指標である含水率の計測法
り測定された含水率との関係
として複素インピーダンスと静電容量を用いた手
法を開発した。この手法は果実、加工食品、堆肥ならびに土壌などのあらゆる材料に応用
できると考えられる。ただし、その際には電気特性指標と含水率との相関関係を調べ、含
水率を最も良く表す周波数を選定しなければならない。
参考文献
・水上裕造、茶葉含水率を迅速に高精度で計測する方法、農業および園芸、80(5)、589-593
・水上裕造ら、粗揉工程における茶葉の電気インピーダンス解析、日本食品科学工学会
誌、53(2)、114-120
・水上裕造ら、蒸葉の電気インピーダンス解析、茶業技術研究報告、100、21-28
・Y. Mizukami et al, Moisture content Measurement of Tea Leaves by Electrical impedance and
Capacitance, Biosystems Engineering, 93(3), 293-299
・水上裕造ら、揉捻工程における茶葉の細胞内および細胞外抵抗と細胞膜・壁の静電容
量、茶業技術研究報告、101、in press
茶の遊離アミノ酸類、カテキン類、カフェイン、全窒素の定量法
茶施肥削減技術研究チーム
阿南豊正
はじめに
茶に含まれる化学成分の中で、遊離アミノ酸類はうま味に関与し、カテキン類は苦渋味
に関与すること、カフェインは覚醒作用や利尿作用があることなどが知られている。また、
遊離アミノ酸類は下級茶より上級茶に、夏茶より春茶にそれぞれ多く含まれることから、
全窒素とともに品質評価の指標としても有効と考えられている1)。栽培条件との関係では、
遮光栽培の方が露地栽培より遊離アミノ酸類やカフェインの含量が高く、カテキン類の含
量が低くなることが報告されている2)。さらに、カテキン類や遊離アミノ酸類の主要成分
のテアニンはカフェインとともに保健性成分としても重要である。
このようなことから、これらの成分の含量測定は研究、指導などの場面で重要と考えら
れるため、以下にそれらの定量法を紹介する。
1.茶の遊離アミノ酸類の高速液体クロマトグラフィーによる定量法
茶の遊離アミノ酸類の定量法としてはアミノ酸自動分析機による分析法3)、ニンヒドリ
ン試薬を用いた簡易定量法 4) 、近赤外分光分析法 5) 、高速液体クロマトグラフィー(以
下HPLCと記す)法6)などが報告されているが、ここでは主要アミノ酸のオルトフタル
アルデヒド(以下OPAと記す)誘導体化によるHPLC法7)について紹介する。
1)測定原理
アミノ酸類とOPAとメルカプトエタノールの混合により生成する誘導体を逆相カラム
で分離し、蛍光検出器で測定する。
2)HPLC条件
(1) 使用機器:高速液体クロマトグラフ(日本分光 LC-2000)
(2) カラム:本カラム;Develosil
ガードカラム;Develosil
ODS-HG-5(内径 4.6mm、長さ 150mm、野村化学)
ODS-HG-5(内径 4mm、長さ 10mm、野村化学)
(3) 設定条件:
① 移動相流量:1ml/min、
② カラム温度:40℃、③注入量:10μl
(4) 検出:蛍光検出(EXT;340nm、
EMI;450nm)
(5) 試薬と試料液の混合割合:
オートサンプラーで自動的に注入直前に
OPA試薬 75μl とメルカプトエタノー
ル試薬 75μl と試料液 10μl を混合し、
15 分後に注入する。
高速液体クロマトグラフ
3)試薬の調製方法
(1) 0.1M ホウ酸ナトリウム緩衝液 (pH9.0)の調製方法
① 四ホウ酸ナトリウム(MW381.37)の 38.137g を脱イオン水 1 リットルに溶かす。
② ホウ酸(MW61.83)の 6.183g を脱イオン水 1 リットルに溶かす。
③ 上記①液と②液を混合し、pH9.0 に調製する。(参考:①のみでは約 pH9.21、②の
みでは約 pH5.81、①300ml と②180ml を混合後、pH メーターで調製する。)
(2) OPA試薬の調製方法
OPA80mg をアセトニトリル 12ml に溶解し、これに 0.1M ホウ酸ナトリウム緩衝液
(pH9.0)28ml を加え、この溶液を1晩以上冷蔵庫に置き、析出した結晶を 0.45μm
のPTFEメンブランフィルターで濾過する。
(3) メルカプトエタノール試薬の調製方法
0.45μm のセルロースアセテートメンブランフィルターで濾過した 0.1M ホウ酸ナトリ
ウム緩衝液(pH9.0)の 40ml にメルカプトエタノール 200μl を加えて混合する。
(4) 内部標準溶液の調製方法
内部標準物質グリシルグリシン 50mg を 0.1 規定塩酸 100ml に溶かす。
4)移動相の調製方法
(1) 5mM クエン酸緩衝液(pH6.0)の調製方法
① クエン酸三カリウム(MW324.41)の 6.48g を蒸留水(ミリ Q ラボで精製したもの:
以下、蒸留水はすべて同じ)4 リットルに溶かす。
② クエン酸(MW210.14)の 1.05g を蒸留水 1 リットルに溶かす。
③ ①液 3.4 リットルと②液 0.6 リットルを混ぜ、さらに②液を加えつつ、pH6.0 に調製
する。(参考:①液のみでは pH は約 8.09、②液のみでは約 2.76)
(2) 移動相Aの調製方法
5mM クエン酸緩衝液(pH6.0)とアセトニトリルを 19:1 で混合する。
(3) 移動相Bの調製法
5mM クエン酸緩衝液(pH6.0)とアセトニトリルを 3:7 で混合する。
5)移動相のグラジエント条件
(1) 最初はA:B(95:5)で、5 分後にA:B(88:12)、20 分後にA:B(83:17)、
30 分後にA:B(62:38)、35 分後にA:B(5:95)となるように段階的に直線グ
ラジエントを設定し、35 分から 40 分までは同じ条件で流す。
(2) 40 分後に最初と同じA:B(95:5)に切り替え、その比率で 40 分間流した後に、
次の試料を注入する。
6)試料液の調製方法
(1) 試料粉末の調製方法
① 生葉を電子レンジ又は蒸し器で処理して酵素を失活させる。
② 75℃で約 3 日間乾燥させた後、粉砕する。
(2) 茶粉末からの試料液調製法
① 粉末約 50mg を共栓三角フラスコに正確に秤取し、内部標準溶液 1ml と熱水 49ml
を加える。
② 超音波洗浄器に 10 分間静置した後、80℃の振とう式湯浴中で 30 分間振とうする。
③ 0.45μm のセルロースメンブランフィルターで濾過し、分析に供する。
7)測定結果
(1) 標準溶液及び茶試料液のクロマトグラムは図 1 のとおりである。
(2) ピーク面積を用いた検量線を作成し、遊離アミノ酸類の量を求める。
標準品のクロマトグラム
B
E
F
試料のクロマトグラム
G
G
I
I
D
A
B
A
C
H
D
E
F
H
C
図1
遊離アミノ酸類のHPLCクロマトグラム
A:アスパラギン酸、B:グルタミン酸、C:アスパラギン、D:セリン、
E:グルタミン、F:アルギニン、G:グリシルグリシン(内標)、
H:アラニン、I:テアニン
2.茶のカテキン類及びカフェインの高速液体クロマトグラフィーによる定量法
茶のタンニン及びカフェインの定量法として公定分析法 8) や近赤外分光分析法 5) の報
告があり、さらにカテキン類及びカフェインの定量法としてHPLC法9)が報告されてい
るが、ここではカテコールを内部標準物質としたHPLC法10)について紹介する。
1)測定原理
カテキン類及びカフェインを逆相カラムで分離し、紫外検出器で測定する。
2)HPLC条件
(1) 使用機器:高速液体クロマトグラフ(日本分光 LC-2000)
(2) カラム:本カラム;Develosil
ODS-HG-5(内径 4.6mm、長さ 150mm、野村化学)
ガードカラム;Develosil
ODS-HG-5(内径 4mm、長さ 10mm、野村化学)
(3) 設定条件:①移動相流量:1ml/min、②カラム温度:40℃、③注入量:10μl
(4) 検出:紫外検出(検出波長:230nm)
3)抽出溶液の調製方法
脱イオン水とアセトニトリルと 85%リン酸を 49.9:50:0.1 の比率で混合する。
4)内部標準溶液の調製方法
内部標準物質カテコール 5g を上記抽出溶液 100ml に溶かす。
5)移動相の調製方法
(1) 移動相A(0.085%リン酸水溶液)の調製方法
蒸留水と 85%リン酸を 999:1の比率で混合する。
(2) 移動相Bの調製方法
上記A液とアセトニトリルを 3:2 の比率で混合する。
6)移動相のグラジエント条件
(1) 最初はA:B(80:20)で、10 分まで同じ条件で流し、40 分後にA:B(36:64)
となるように直線グラジエントを設定する。
(2) 40 分後にA:B(25:75)に切り替え、55 分後まで同じ条件で流す。
(3) 55 分後に最初と同じA:B(80:20)に切り替え、その比率で 25 分間流した後に、
次の試料を注入する。
7)試料液の調製方法
(1) 試料粉末の調製方法
遊離アミノ酸類の項と同じ条件で調製する。
(2) 茶粉末からの試料液調製法
① 粉末約 500mg を共栓三角フラスコに正確に秤取し、内部標準溶液1ml と上記抽出
溶液 49ml を加える。
② 超音波洗浄器に 30 分間静置する。
③ 上澄液 1ml と脱イオン水 1ml を混合し、0.45μm のPTFEメンブランフィルター
で濾過し、分析に供する。
8)測定結果
(1) 標準溶液及び茶試料液のクロマトグラムは図2のとおりである。
(2) ピーク面積を用いた検量線を作成し、カテキン類及びカフェインの量を求める。
なお、各カテキン類の標準物質の溶液は、溶解後アスコルビン酸を添加する方法で長期
に保存できる11)。
標準品のクロマトグラム
試料のクロマトグラム
A
A
B
E
E
F
B
C
F
D
C
D
図2 カテキン類及びカフェインのHPLCクロマトグラム
A:(-)-エピガロカテキン、B:カテコール(内標)、C:カフェイン、
D:(-)-エピカテキン、E:(-)-エピガロカテキンガレート、
F:(-)-エピカテキンガレート
3.窒素/蛋白分析装置による全窒素の定量法
茶の全窒素の定量法としてケルダール法による公定分析法8)が設定されており、さらに
近赤外分光分析法5)が報告されているが、ここでは窒素/蛋白分析装置による定量法につ
いて紹介する。
1)測定原理
900℃で燃焼させてガス状の窒素化合
物とした後、還元銅で還元して生成す
る窒素ガスの量を定量する。
2)使用機器:窒素/蛋白分析装置
(アムコ FLASH EA1112 型)
3)測定方法
(1) 試料粉末の調製方法
遊離アミノ酸類の項と同じ条件で調製
する。
(2) 試料の分析
スズ製の容器に試料約 20mg を詰め、
分析装置で測定する。
窒素/蛋白分析装置
4)測定結果
(1)クロマトグラムは図 3 のとおりである。
(2) アスパラギン酸を用いて作成した検量線により、ピーク面積値から窒素量を求める。
図3
窒素分析のクロマトグラム
引用文献
1)後藤哲久・堀江秀樹・大関由紀・増田英昭・藁科二郎(1994):化学成分から見た市
販緑茶の品質.茶研報,No.80,23-28.
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5)池ヶ谷賢次郎・高柳博次・阿南豊正(1990):茶の分析法.茶研報,No.71,43-74.
6)高柳博次・阿南豊正・池ヶ谷賢次郎(1989):高速液体クロマトグラフィーによる茶
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7)後藤哲久・堀江秀樹・向井俊博(1993):緑茶中の主要アミノ酸のOPAによるプレ
カラム誘導体化高速液体クロマトグラフィーによる分析.茶研報,No.77,29-33.
8)化学研究室(1970):茶の公定分析法.茶試研報,No.6,167-172.
9)後藤哲久・長嶋
等・吉田優子・木曽雅昭(1996):市販緑茶の個別カテキン類とカ
フェインの分析.茶研報,No.83,21-28.
10)山口優一・山本(前田)万里・辻
顕光(1997):カテコールを内部標準としたカテ
キン類及びカフェインのHPLC分析.茶研報,No.84,32-34.
11)木幡勝則(2004)
:カテキン類標準溶液の長期保存方法.平成 15 年度野菜茶業研究成
果情報,101-102.
味覚センサーによる緑茶の渋味の客観的評価法
野菜・茶の食味食感・安全性研究チーム
林 宣之
1 はじめに
緑茶の味は、その品質の重要な指標の一つであり、伝統的に官能審査により滋味として
評価されている。官能審査は、簡便かつ安価に食品の味を直接評価できる非常に優れた手
法であるが、その主観的側面が欠点として指摘されることも多い。それ故に、以前から客
観的な科学的評価法の開発が望まれてきた。長年にわたる緑茶浸出液の化学分析に関する
研究は、呈味成分に関する数々の注目すべき事実を明らかにしてきたが、一般的に食品の
味は、含まれる呈味成分間、あるいは呈味成分/非呈味成分間の種々の相互作用(味の増
強効果、抑制効果など)によって発現する極めて複雑な系であり、通常の化学成分分析に
よる緑茶の味評価には限界があった。
最近、都甲ら(九州大学)と(株)インテリジェントセンサーテクノロジー(INSENT)
の共同研究により、酸味、塩味、苦味、うま味、渋味に対して、基本的にヒトの味覚と同
様に応答する味覚センサー装置が開発され
れてきた
4-11)
1-3)
、医薬品や食品の味評価への適用が試みら
。現在、私たちの研究チームでは、味覚センサーを利用して緑茶の味を客観
的に評価する手法の開発に取り組んでいるが、本研修会では、味覚センサーの原理、及び
緑茶の渋味測定法と味強度のランキング法について述べる。さらに、味覚センサー法と核
磁気共鳴分光法(NMR)を用いることにより、物質間相互作用による味変化のメカニズム
を解明する試みについても、カテキン類とペクチンの組み合わせを例に紹介する。
2 味覚センサー装置の測定原理
味覚センサー装置 SA402B(INSENT 社製)は、特性の異なる複数のセンサー電極と参照
電極を装着したロボットアーム、及び情報解析用のコンピュータから成り立っている。セ
ンサー電極は味細胞を模したものであり、センサー電極表面の人工脂質膜(人工脂質と可
塑剤を含有する厚さ 0.2mm のポリ塩化ビニル膜)は、味細胞の細胞膜に対応する。ただし、
実際の細胞膜は脂質とタンパク質から構成されているが、センサーの脂質膜にはそのタン
パク質に相当するものは含まれていない。味物質がセンサーの脂質膜と相互作用を起こす
と、脂質膜の膜電位が変化する。この電気信号をコンピュータに送り処理することで、味
情報が得られる。正確に言うならば、この測定原理は、現在認められている実際の味細胞
による味検出のメカニズムとは異なっている。しかしながら、味物質が最終的に味検出装
置(味細胞、またはセンサー電極)の膜電位を変化させるという意味では両者は等価と考
えて良い。さらに、味覚センサーが脂質膜のみで味を検出できるという事実は、実際の味
細胞においても脂質二重膜が味を検出するというメカニズムの存在の可能性を示唆する。
今回取り上げる渋味は、これまで味覚ではなく痛覚であると考えられてきた。もし、痛
覚であるならば、渋味を味覚センサーで測定しようとする試みは愚行ともいえる。しかし
ながら、最近では、渋味は、一部は痛覚であるが一部は味覚であるという指摘もなされて
いる
12)
。実際に、渋味は味覚センサーに応答し、測定が可能である(一方で、完全に痛
覚である「辛味」には、味覚センサーは全く応答し
ない)。
3 緑茶浸出液の渋味測定
13)
3.1 標準液
Stabilizing
30 mM KCl + 0.3 mM tartric acid
aq. solution
Measurement of sample solution
std
( δE sam
)
ast or δE ast
(30 sec)
私たちが目指すランキング法は、センサーの応答
出力に基づいた試料間の味強度の相対的比較ではな
いために、不動の標準点が必要である。標準溶液に
Washing X 2
30 mM KCl + 0.3 mM tartric acid
aq. solution, 3 sec X 2
要求される条件は、1)その味が測定対象と同じ性
質であること、2)そのセンサー応答電位が測定対
Mesurement of CPA
(CPA)
std (CPA)
( δE sam
)
or δE ast
ast
(30 sec)
象と近いこと、3)その化学的挙動が測定対象と類
似していること、4)安価であること、の四点であ
る。検討の結果、緑茶の渋味に関しては、0.65mM
の(−)-エピガロカテキン-3-O-ガレート(EGCg)水溶
Washing
0.1 M KCl + 10 mM aq. 30% EtOH
90 sec
液(5mM の KCl を含む)が、これらの条件を満た
すことが分かった。EGCg は茶葉中に最も多く含ま
れているカテキン類で、浸出液の渋味に大きく寄与
Washing X 2
30 mM KCl + 0.3 mM tartric acid
aq. solution, 120 sec X 2
すると考えられている。
図1.味覚センサーの測定手順.
3.2 測定方法
茶 2g を沸騰水 200mL で 5 分間浸出した水溶液を分析試料とした。一つの試料に対する
測定手順を図 1 に示した。一連の操作はロボットアームによって全自動で実行される。基
準液(30mMKCl+0.3mM 酒石酸水溶液:ヒトの唾液に相当する)で安定化されたセンサ
sam
std
ー電極(渋味用センサー:SB2AE1)により、試料溶液の電位( δEast
或いは δEast
:前者は
試料溶液の電位、後者は標準溶液=0.65mM EGCg+5mMKCl 水溶液の電位)を測定した。
sam (CPA)
std (CPA)
基準液でセンサー電極を簡易洗浄後、別の基準液中の電位( δEast
或いは δEast
)を
€
€
測定した。CPA とは”ChangeofmembranePotentialcausedbyAdsorption”の略であり、
sam (CPA)
std (CPA)
(或いは δEast
)は脂質膜に強く吸着した渋味物質によって変化した膜電位で
δEast
€
€
ある。最後にセンサー電極を十分に洗浄した。
€
€
3.3 緑茶の渋味のランキング方法
sam (CPA)
sam (CPA)
std (CPA)
sam (CPA)
緑茶浸出液の渋味を ΔEast
= δEast
− δEast
として定義した。しかし、 ΔEast
sam (CPA)
は単なる電位差であり、味の強度としては分かりづらい。そこで、 ΔEast
を 20%濃度
差の EGCg 水溶液に相当するセンサー出力差を一目盛としたスケール上の値( EITast 値)に
€ ”とは”Estimated
€
€
€
換算した(” EIT
IntensityofTaste”の略である)
。これは、
「基本味の
€
強度は味物質の濃度の対数に比例し、ヒトが味の違いを認識できる味物質の最小の濃度差
は 20%である」という経験則に基づいている(これは Weber-Fechner€の法則 と Weber
€
の法則 を根拠とする)。具体的な方法としては、各測定サイクル中に 0.26mMEGCg+5mM
KCl 水溶液の応答電位を測定し、その値と 0.65mM EGCg+5mMKCl 水溶液の応答電位と
sam (CPA)
の差(AmV とする)を求め、 ΔEast
に−5.03/A を乗じた値を EITast 値とした(0.65mM
€
€
+3
+2
+1
EITast
0
–1
–2
–3
1
10
2
20
3
30
4
40
5
50
6
60
7
70
8
80
0
0
0
Sample0Number
0
0
0
0
Number
図2. 緑茶浸出液80試料のEITast値.
sam (CPA)
は 0.26mMの 1.25.03 倍の濃度)。マイナスの値を係数する理由は、 ΔEast
値は渋味の増
加とともに減少するからである。
様々な荒茶、仕上げ茶の浸出液の EITast 値を図 2 にまとめた。これらの EITast 値が約−3
€ 段階に分類できると考えられ
から約+3 の範囲に収まることから、緑茶浸出液の渋味は、8
た。すなわち、i)レベル 1( EITast <−3)、ii)レベル 2(−3≤ EITast <−2)、iii)レベル
€
3(−2≤ EIT <−1)、iv)レベル
4(−1≤ EIT <0)、v)レベル €
5(0≤ EIT <+1)、vi)
ast
ast
ast
レベル 6(+1≤ EITast <+2)、vii)レベル 7(+2≤ EITast <+3)、viii)レベル 8(+3≤ EITast )
€
€
である。
€
€
4 EIT€
ast 値とヒトの官能との相関
€
€
13)
€
健常ボランティアを対象にして、15 種類の緑茶浸出液の渋味のランキングを実施した。
試料を口腔内に 5 秒間含み、舌に収斂味を強く
感じた方をより渋いと判定してもらった。図 3
は EITast 値と官能検査との関係をプロットした
€
る ほ ど渋 い と 判 定さ れ た こと を 意 味 する )。
EITast 値とヒトの官能との間に見られる高い線
形的な相関(相関係数=0.99)は、上述の渋味
ランキング方法の妥当性を証明している。
€
5 EIT ast 値とカテキン含量との関係
13)
HPLC 分析によって求めた緑茶浸出液中の主
Organoleptic Test Score
ものである(官能検査の得点は、値が大きくな
14
12
10
8
6
4
2
要カテキン類(四種:EGCg、(−)-エピカテキ
ン-3 O-ガレート(ECg)、(−)-エピガロカテキン
(EGC) 、 ( − )- エ ピ カ テ キ ン (EC) ) の 含 量 と
EITast 値とカテキン含量との関係を調べた。図
4 は、カテキン類の濃度に対して EITast 値をプ
ロットしたものである(カテキン類の濃度は、
€
€
–3
–2
–1
0
+1
+2
+3
EITast
図3.緑茶浸出液におけるEITast値と
ヒトの官能との関係.
センサーの応答電位に基づき EGCg の濃度相
当に換算されたものを用いた)。 EITast 値は巨
つきが存在した。これらの結果は、緑茶浸出
€
液の渋味強度が主として浸出液中のカテキン
含量に依存するけれども、カテキン類の渋味
+2
+1
EITast
視的にはカテキン含量と相関があるが、ほと
んど同じカテキン含量でありながら、 EITast
€
スケール上では二目盛り以上の微視的なばら
+3
0
–1
–2
–3
の抑制効果あるいは増強効果、または他の閾
値の低い未知の渋味成分の寄与も無視できな
2
6
いことを示唆するものである。
14
x 10-5
[catechins] / M
6 ガレート型カテキン/ペクチン複合体形
成による渋味の抑制効果
10
14)
図4.緑茶浸出液におけるカテキン濃
度とEITast値の関係.
ポリフェノールの渋味がペクチンによっ
て抑制されることが知られている
15)
。ペ
クチンは緑茶浸出液中にも含まれており、
その渋味を抑制していることが報告されて
-40
。そこで、四種類のカテキン水溶
ト型カテキン/ペクチン複合体形成が、渋
0
EC
かになった(図 5)。このことは、ガレー
C
みに対して渋味抑制効果を示すことが明ら
-10
EG
ほぼガレート型カテキン(EGCg、ECg)の
-20
EC
g
を使用して調べた。その結果、ペクチンは、
-30
EG
C
g
味が抑制される様子を、味覚センサー装置
sam
液に対して、ペクチンを添加した場合、渋
ΔE ast / mV
16)
Astringency
いる
味抑制の一因になることを示している。な
図5. 味覚センサーによって測定された
ぜならば、もしペクチンがセンサー電極表
カテキン水溶液の電位.
面をコーティングすることにより渋味を抑
黒色:ペクチン無,灰色:ペクチン添加.
制するのであれば、非ガレート型カテキン
(EGC、EC)の渋味も同様に減少しなくて
はならないからである。このガレート型カテキン/ペクチン複合体形成に関して、さらに
直接的な証拠を得るために、カテキン類、ペクチン、及びそれらの混合物の各重水溶液(pH
6)の 1H-NMR スペクトルを測定した。図 6 は、ペクチンを添加した場合のカテキンの各プ
ロトンの化学シフトの変化量を表している。非ガレート型カテキンと比較して、ガレート
型カテキンの化学シフトは大きく変化している。また、ペクチン側の化学シフトも、ガレ
ート型カテキンを加えた場合に大きく変化した。これらは、ガレート型カテキンは非ガレ
ート型カテキンに比べてペクチンに対する複合体形成能力が高いことを示しており、味覚
センサーの分析結果を裏付けるものである。
Δδ obs
catechin
/ ppm
EGCg
ECg
0.006
0.006
0.004
0.004
0.002
0
0.002
0.002
0
0
2 3 4 4 6/8 2' 2" –0.002
α β
+ +
6' 6"
–0.004
–0.006
EGC
EC
2 3 4 4 6/8 2'
α β
+
6'
2 3 4 4 6/8 2' 5' 6'
α β
2 3 4 4 6/8 2' 5' 6' 2"
α β
+
6"
図6.ペクチンの添加によるカテキン類の1H-NMRの化学シフト変化(重水中).
横軸は各プロトンが結合している炭素骨格の番号.
7 おわりに
以上のことから、味覚センサーを利用することにより、緑茶の渋味を客観的かつ普遍的
に格付し評価することが可能になった。ここで用いた方法論は、他の茶の味(うま味、苦
味等)、または他の食品の味に対する評価法の開発にも応用可能である。また、ガレート
型カテキン/ペクチン複合体形成による渋味抑制現象の場合に見られたように、味覚セン
サーは複雑な味発現メカニズムの解明にも利用できることが示された。将来的に、さらに
進化した味覚センサーは正に「人工の舌」として、食科学、及びその周辺領域に対して大
きな影響を与えるものと思われる。
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茶に含まれる香気成分の抽出法と分析法
茶生産省力技術研究チーム
澤井祐典
茶に含まれる香気成分
OH
CHO
Nonanal
(Z)-3-Hexenol
O
O
OH
(E)-2-Hexenol
(Z)-3-Hexenyl hexanoate
青臭
OH
OH
N
Linalool
N
Geraniol
2,5-Dimethylpyrazine
花様、果実様
焙煎香
S
N
H
Dimethylsulfide
Indole
O
O
Ethyl decanoate (内部標準)
図 1 揮発性成分
減圧水蒸気蒸留法
茶 25g に 100ppm デカン酸エチル 0.5mL
(内部標準)と 400mL の沸騰蒸留水を加え、
1 時間減圧蒸留
↓
溜出液に塩化ナトリウムを加えて飽和とし、
合計 200mL のジエチルエーテルで 3 回抽
出
↓
無水硫酸ナトリウム 80g を加えて冷所で一
晩脱水
↓
40℃で 0.2mL まで濃縮
図 2 減圧水蒸気蒸留装置
↓
1μL を GC に注入し、各成分の内部標準に
対する相対ピーク面積を求める
連続蒸留抽出法
茶 50g に 100ppm デカン酸エチル 0.5mL
と 400mL の沸騰蒸留水を加え、
Likens-Nickerson らにより開発された連
続蒸留抽出の改良型装置を使い、溶媒抽出
する(10 分)。溶媒として沸騰石を加えた
エチルエーテル 50mL を用いる。溶剤加熱
温度 40℃。抽出液を無水硫酸ナトリウムで
乾燥後、溶媒を留去して香気濃縮物を調製
する。
図 3 連続蒸留抽出装置
GC
分析条件
装置:島津 GC-17A
カラム:J&W DB-WAX (0.25mmφ×60m)
キャリアガス:ヘリウム(線速度 30cm/s)
カラム温度:40~220℃昇温 (3℃/min)
注入口温度:230℃
検出器温度:230℃
検出器:FID
図 4 ガスクロマトグラム
茶の香気はおもに 3 つの要素から成り立っている。(Z)-3-Hexenol、(E)-3-Hexenol、
Nonanal、(Z)-3-Hexenyl hexanoate などは若葉の青臭の原因成分であり、
2,5-Dimethylpyrazine(ピラジン類)などは香ばしい焙煎香の原因成分である。Linalool、
Geraniol(テルペンアルコール)は花や果実の香りの成分である(図 1)。
表1 煎茶とかまいり茶の
香気成分の比較
成分 煎茶 かまいり茶
1 0.54
0.28
4 0.44
0.24
5 trace
0.01
6 0.32
0.23
7 trace
0.15
9 trace
0.07
12 0.16
1.07
15 trace
0.07
16 0.60
0.28
18 trace
0.17
19 0.38
0.42
21 0.19
1.21
22 0.25
0.19
24 trace
0.50
25 trace
0.12
26 0.39
0.98
28 0.26
1.76
29 0.90
3.92
30 0.08
0.64
32 0.12
0.08
33 1.25
3.52
35 0.38
1.21
36 6.06
22.34
注;内部標準物質に対
する面積比
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
表2 ふるい上とふるい下
の香気成分の比較
成分 ふるい上 ふるい下
5 trace
2.81
7
0.43
11.05
8 trace
1.76
9 trace
0.73
10
0.36
1.13
12
1.91
1.42
13 trace
1.89
15
0.23
2.95
16
1.23
1.94
17
0.16
2.90
18
0.18
1.64
20
1.18
1.52
21
4.81
6.77
22
0.37
trace
25
3.01
2.24
26
2.07
1.99
27
0.26
trace
28
5.92
4.80
29
7.02
4.84
30
1.44
1.25
31
0.76
1.73
33
3.73
5.23
34
0.65
1.39
36 38.01
79.46
注;内部標準物質に対
する面積比
1-Penten-3-ol
Heptanal
E-2-Hexenal
Pentanol
Methylpyrazine
Z-3-Hexenyl acetate
2,5-Dimethylpyrazine
2,6-Dimethylpyrazine
Ethylpyrazine
2,3-Dimethylpyrazine
Hexanol
Z-3-Hexenol
2-Ethyl-5-methylpyrazine
Nonanal
Trimethylpyrazine,
2-Ethyl-3-methylpyrazine
16 Linalool oxide, Z-furanoid
17 3-Ethyl-2,5-dimethylpyrazine
18 Furfural
19 Z-3-Hexenyl butylate
20 Linalool oxide, E-furanoid
21 Linalool
22 Octanol
23 Ethyl decanoate (internal standard)
24 Z-3-Hexenyl hexanoate
25 Linalool oxide, Z-pyranoid
26 Linalool oxide, E-pyranoid
27 Methyl salicylate
28 Geraniol
29 Benzylalcohol
30 2-Phenylethanol
31 Benzylcyanide
32 β-Ionone
33 Z-Jasmone
34 Phenol
35 Nerolidol
36 Indole
付表;図表中の番号と成分名の関係
4
400℃
2
0
4
2
14
23
35
22
33
12 16
34 11
32
30
27 29
20
24 26
21
350℃
2
2
28
36
300℃
28
2
2
0
6
14
35
21
23
33
32
34 11
12 16
30
27 29
20 22 24 26
36
28
250℃
4
21
2
2
35
14
33
23
3
29
22
12
27 30
4 11 20
16
24 26 32
0
16
36
14
35
23
33
29
22
11
34 12 16
32
27 30
20
24 26
0
4
28
21
36
200℃
28
14
12
10
21
8
6
4
2
2
35
14
3
4
12
23
24
20 22
11 16
0
10
20
30
33
29
27 30
26 32
40
図5 かま底温度による香気成分の変化
縦軸;内部標準物質に対する面積比
横軸;リテンションタイム(分)
36
50
60
かまいり茶の香気成分を減圧蒸留抽出(図 2)して GC 分析を行うと、かまいり茶には煎
茶よりもピラジン類が多く含まれる(表 1)。いり葉後にふるい分けを行うと、ふるい下は
粒子が細かく焦げており、より多くのピラジン類が含まれる(表 2)。
また、いり葉の温度を低くすると、酵素反応によりテルペンアルコールがより多く生じ
ることがわかる(図 5)。
このほか、玉露やてん茶には Dimethylsulfide が多く含まれており、おおい香の海苔様の
香りの原因成分である(図 1)。
Indole は生葉を摘採してから殺青するまで増加し続ける揮発性成分である(図 1)。
‘そうふう’や‘静-印雑 131’、
‘ふじかおり’の香気を連続蒸留抽出(図 3)して GC-MS
分析を行うと、‘やぶきた’には含まれない Methyl anthranilate が含まれていることがわ
かる(図 4▼、図 6)。香気の品種間差を単一成分で明らかにできた稀有な例である。
GC-MS
分析条件
装置:Hewlett-Packard 5890 GC / 日本電子 JMS-SX102A / MS-MP7000
カラム:J&W DB-WAX (0.25mmφ×60m)
キャリアガス:ヘリウム(線速度 30cm/s)
カラム温度:40~220℃昇温 (3℃/min)
注入口温度:230℃
図 6 マススペクトル
文献
Yusuke SAWAI et al., JARQ, 38 (4), 271-274 (2004). 他
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