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パス最前線 2005年04月号 - 医療関係者のための医薬品情報 第一三共

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パス最前線 2005年04月号 - 医療関係者のための医薬品情報 第一三共
2005年
4月号
ALL1X03700-0EJ
2007年3月印刷
巻頭言
道具としての電子パス
NTT東日本関東病院 看護部長 坂本 すが
イチローのバットは他の選手のバットに比べてとて
も細いそうだ。「ボールは点でとらえるのだから、太さ
はあまり関係ない。細くて軽い方が扱いやすい」とテ
レビで述べていた。面白いですね。
昔から道具と人間のかかわりは様々なドラマをつく
ってきたと思う。時代の名工と呼ばれる人は、自分が
納得できる作品をつくるために、道具を選び、改良し
てきたのではないだろうか。作家は自分の作品を生み
出すために、愛用の万年筆にこだわった。名シェフは
自分の繊細な手作業を可能にするためにナイフを選び、
磨いた。人間国宝絵師は自分の繊細なタッチを生み出
すために筆を特注し、絵の具を求めた。何かを創り出
す人々は、創り出す目的で、道具に何かを求め、こだ
わってきたのである。イチローは何か形のあるものを
創るわけではないが、人間の限界に挑戦し、記録に挑
戦するために自分のバットにこだわっている。イチロ
ーと記録とその道具のバット、グローブ、靴も長く語
り継がれるようになるのかもしれない。
それでは、我々医療者は道具に対して何を求め、何
を創り出そうとしているのだろうか。パスに対して、
そして電子パスに対して、何を求め、どのような効果
を求めてきたのか、そして求めているのであろうか。
本特集では「電子パスの光と影」というテーマで、電
子パス導入の各病院の経験が紹介されている。私が注
目して読みたいのは、どのようなことを目的に電子化
パスが導入され、どのような状況になっているかであ
る。道具として、電子パスが有効に機能しているか、
目的としているものを創り出しているかである。
特集
電子パスの
光と影
特集にあたり―
「文明の利器の光をとり入れ、陰は工夫で解決を」
市立岸和田市民病院外科医長 山中 英治
私は紙が好き(トイレだけは温水洗浄の方が清潔で好きだが)だ。
1
事例
こんなに違った!紙ベースのパスと電子カルテシステムに
黒部市民病院
搭載されたパス
電子メールよりも肉筆は感情が伝わる。だからメールより手紙が好きだ。
しかし、メールは瞬時に送信できて、いつでもどこでも読むことができる
ので、私も最近は手紙を書かずにメールばかり愛用している。あまり書い
た経験はないが、恋文などは投函する前に逡巡する(ようだ)。メールは一
瞬なので、送ってしまってから後悔することもある(らしい)。まして送信
先を間違えば「ちょっと、誰なの?この○○ちゃんへって」と一大事にな
る(と予想される)
。かように I T は利便性の陰に危険性もはらんでいる。
2
事例
この機能が電子パスのポイントだった!
城東中央病院
というわけで,今回の特集は「パス電子化の光と影」とした。「光ある所
には影がある」何にでもデメリットはあるが、よほどの石頭でない限り、
H
T
A
P
文明の利器は活用する方向に向かうのが当然であろう。しかし、鋏でさえ
「使いよう」があるのだから、ぜひ流行に惑わされずに賢く使いこなしたい。
たとえ病院の金であっても、誰も「高い授業料を払って人生勉強になりま
したね」とは言いたくはないものだ。今回執筆していただいたのは全国に
先駆けて電子カルテを導入し、パスにも運用されている先進的な病院であ
る。パソコン同様、誰かに先に買ってもらって、教えてもらおうと目論む
3
事例
電子パスへ移行時の看護師の苦労!
NTT東日本関東病院
私のような者にとっては尊敬に値する先生方だ。しかも今回は利点のみな
らず欠点までも披露していただいている。欠点を並べて批判するのは簡単
だが、電子パス侍の今田先生には、あたかもバリアンス分析をパス改善に
つなぐように「こうして解決!」と見事に批判を斬ってもらった。
先日、寒さしのぎに京都国立博物館に入った。平安時代の
小野道風筆の古今和歌集、桃山時代の源氏物語絵巻が美しい
まま現存している。国宝の病草紙は下痢、嘔吐、歯槽膿漏、
4
事例
使いやすい電子パスを目指して
トヨタ記念病院
眼病なども解説付きで描かれ、さながら平安時代のカルテの
ようであった。
3
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
特 集
こんなに違った! 紙ベースのパスと
事例1: 電子カルテシステムに搭載されたパス
黒部市民病院 リハビリテーション・関節スポーツ外科医長/クリニカルパス委員長 今田 光一
黒部市民病院(富山県黒部市)
病床数414床 診療科数24科 病床稼働率96% 平均在院日数17.6日 紹介率17.6% 1日平均外来患者数1.070人
完成したパス数86件
パス画面から各種記録、検査結果など、見たい情報にワ
ンクリックで飛ぶことができる。すなわち医療情報の一
元化・共有化が図られる(空間・時間同一性効果)
。
4.記録の効率化・標準化
パス機能により、患者の観察項目、ケア項目が設定
されるので、同一疾患患者に対する看護計画立案、ケ
ア計画が標準化・効率化される。また観察項目・記録
も、電子カルテに搭載されているテンプレート機能
(あらかじめ定型化されたパターン入力)などの活用に
より、標準化された評価方法を漏らすことなく効率的
に記入できる。
5.記録スペースのフリー化
はじめに
クリニカルパスは、漏れのないインフォームド・コン
セント、EBM・EBNに裏付けられた医療の実践に有効な
紙ベースのパスでは、定められた枠内でしか記録ができ
ないが、電子カルテでは記録スペースは気にしなくてよい。
6.個別性への対応のしやすさ
ツールである一方、ベストプラクティスへの進化のため
紙ベースのパスでは、日程の変更、予定日数の延長な
にはアウトカムの管理と分析、バリアンスの登録といっ
どで、パス用紙が使用しにくくなるケースがあったが、
た「作業」が欠かせない。また、現場の業務においても
電子パスでは、日程延長オーダー・看護観察項目の追加
記録やオーダー伝票との統合がなされないと、書き写し、
設定は容易で、個別性に対応してパスが使用できなくな
記録の重複といった問題点もある。パスの電子化はこれ
る事態は発生しにくい。
らの「作業」の問題点を解決し、さらに電子カルテシス
7.医療看護ケアの安全性確保
テムへ搭載することにより、記録、オーダーの効率化・
IT機器では様々なルールを設定し、それを確実に
安全化が大きく前進するばかりでなくすべての医療情報
実行させることができるため、医療におけるヒュー
と一元化することとなった。
マンエラーを回避し、パス医療における安全性確保
一方、電子カルテシステムに搭載されたパスはその形
にも役立つ。
態ばかりでなく、作成、検討など、紙ベースとは大きく
1)処方エラー回避:マスター登録された薬剤のDI情報
異なることを理解しなければならない。
や患者プロフィールの情報から、「過剰投与」「禁忌薬投
本稿では、紙ベースで使用されてきたクリニカルパス
与」
「併用禁忌薬投与」のオーダー時にアラームを発生さ
と電子パスを比較し、発生した具体的問題点についてそ
せたり、体表面積に応じた抗がん剤などの投与量の自動
の解決結果の実例を紹介する。
計算を行ったりすることができる。パス内の投薬に追加
処方する場合などに有効である。
電子パスの利点
1.パスや関連書類の共有は容易
施者(名札)
」
「薬剤(ラベル)
」
「患者(リストバンド等)
」
電子カルテに搭載しなくとも、院内LAN、グループウ
の認証を携帯端末を用いて入力することで、オーダーに
ェアなどで共有フォルダを作成すれば果たせる。これに
ない組み合わせだった場合の警告、実施の有無、実施時
より各部署で紙パスをストックする手間は省ける。
間などの正確な記録が行える。これらは、医療看護業務
2.パスからの一括オーダー
上パスの利点となっている標準化・効率化を著明に向上
登録されたパスから投薬、検査、看護オーダーが一括
に行える。紙パス使用時に起こり得る入力ミスがなく、
させる。
また、推論エンジン機能などを搭載することにより、
転記・入力作業がないことから、安全面・効率面で大き
患者に特定の異常が発生した場合の検査、治療方法をナ
く貢献する。
ビゲートする機能を組み込むことができる。特にパスを
3.パスからの情報リンク
組み込んだ場合、
「術後10日目から14日目の間に、CRPが
電子カルテシステムに搭載されているパスの多くは、
4
2)実施エラーの回避:バーコード入力などにより、
「実
5.0以上となったときには、アラームを発進させて、感染
特集 電子パスの光と影
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □□
□ □ □ □ □ □ □
症疑いの検査実行を誘導する」といった機能の構築が可
こうして解決! 能となる。
あらゆる部門の記録画面が容易に並列表示できる機能、
このような機能は、スタッフによる患者観察能力の差
指示簿機能を構築するとともに、パスシステム上でも工夫
を補てんするばかりでなく、アラームルールベースの実
を凝らした。看護記録やリハビリ記録などの部門記載欄に
績を集積することによりその是非を検討することで、治
は「CP転載ボタン」が設けられており、他部門に伝えたい
療予後に関与するクリティカルインディケーターの設定
内容があれば、記載後にこれを押すと、オーバービュー画
に大きく貢献できる。スタッフへの教育効果もある。
面の該当するセルに赤丸(ココ見てマーク)が表示される。
全国レベルで検討されると、疾患・手術のベストプラ
クティスが適正に構築できよう。
患者の記録を見る際にはパス画面が自動展開するので、
赤
丸表示のある欄をクリックすると、
その内容をすぐに見る
a
c)。
b、○
ことができるようになっている
(図1○、○
電子パスの欠点
パスの電子カルテ搭載に伴い、キーボード操作や端末
3.展開時間を要する
どのシステムでも電子カルテ搭載型パスでは、パス画
作業の「慣れ」以外に以下のような欠点があった。
面の登録あるいは展開に時間がかかることが指摘されて
1.一度に視野に飛び込む情報が少ない
いる。この点は機器の進化とともに解決されていく可能
情報量としてはもちろん、電子カルテシステムは無限
大である。しかし、モニターには限界があり、紙ベース
性はあるが、目の前の医療ケアが現実にある以上、現時
点での対処を考える必要がある。
のパスでは、予定・指示・評価結果・各種記録など種類
こうして解決! が異なる情報も一目に入るのに対し、電子カルテ上のパ
電子カルテのソフトにもよるが、当院ではパス設定日数
スでは、モニターをスクロールもしくはボタンを押さな
が2週間を超えると大きく展開速度が遅れる傾向があっ
いと欲しい情報は得られない。オーバービュー形式の枠
た。そこで病院での「亜急性期病棟」の導入に合わせ、多
内に情報内容を記載する形式の電子パスは、上下左右に
くのパスを「急性期」
「亜急性期」に分け、パスを作成し
画面をスクロールしないと全部見えない。
た。これによりパスの展開時間が大幅に高速化したのみな
電子カルテでは、
「オーバービューできないオーバービ
らず、急性期治療終了以降、継続入院・転院・自宅退院を
ュー画面」が存在する。いつでもどこでも見られる「一
考えるためのカンファレンス、インフォームド・コンセン
元性」がある一方で、すべての情報が一望できる「一見
トが進んだ、という利点をももたらした。
性」の点では一歩後退した感がある。
こうして解決! 当院では、オーバービュー表がオーバービューできる
ことを重視し、パス表の各セルには短い単語(点滴、採
パス機能に限らず電子カルテシステムの各種機能では
「展開速度がその機能の活用率を決める」といっても過言
ではない。
4.パス作成/変更の手順の変化
血など)しか入れていない。しかし、逆に詳細はセルを
紙ベースのパスでは、内容の検討に加え、紙面のレイ
クリックしないと見えないことになる。白内障など、紙
アウトなど実際の使用の利便性も同時に検討し、作成す
ベースでは、指示、観察結果など十分な情報が搭載でき
ると医療者側が使用開始日を決定できた。しかし、電子
る「ひと目ですべての情報が確認できる」ことが大きな
パスでは、カルテシステム本体へ組み込むことはシステ
魅力であったパスは、ワンクリックの動作が増えたこと
ムベンダー(メーカー技師)の仕事となり、新しいパス
になる。入院日数の長短にかかわらず、
「パス画面からの
や修正したパスは紙ベースの時のように作成後すぐには
情報展開」操作が必要となる。
使用できない欠点がある。また、後の分析のためにオー
2.重要情報が読み取りにくい
ダー以外に看護行為や観察項目などをいくつもマスター
パス画面からは、他部署で発見された情報にもワンク
登録する必要があるかもしれない。
リックで容易にアクセスすることができる。しかし、
「ワ
こうして解決! ンクリックしないとその情報は得られない」
。たとえば医
各パスチームが自分たちで容易にファイルを作成でき
師や薬剤師にも知らせたい看護情報があり、それを記載
るオフラインのソフトを作成・配布し、これでパスを作
入力した場合でも、他部署のスタッフがワンクリックし
成してもらうようにした(図2)
。このソフトで作成した
てそれを見てくれないと意味がないのである。
ファイルの各項目には病院のマスターコードが組み込ま
5
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
れるようになっており、作成し
たファイルはシステム管理室か
らシステムに組み込めばすぐに
a
使用できる。また、ソフトは自
分のパソコンに入れられるの
で、電子カルテ端末の前でなく
とも作成できるようになった。
オーバービュー形式の印刷もで
きる。
今後の問題点
当院のシステムでは以下の点
が未解決である。現在様々なパ
ターンを検討中であり、近いう
ちに解決したい。
1.バリアンス分析機能:在院
日数が短期化している現在で
は、在院日数のみならず、退院
後一定期間後に評価する臨床成
績とバリアンスの関連などの検
討を含めた分析機能の開発が必
要である。
2.予約検査との関連:MRIや
b
特殊検査などではパスで設定さ
れた日に検査が入れられるとは
限らない。ここをどうするか。
3.看護ケア用語の統一化:パ
スを電子化した場合の最大の利
点は、すべての入力情報がデー
タとして蓄積されることであ
る。しかし、あるパスで「床上
安静」、またあるパスでは「ベ
ッド上安静」と記していたので
は、同一行為に対していくつか
のパスを検討する場合データベ
c
ースとしての機能が果たせな
い。現在、多くの処置や看護行
為が全国規模で標準化されつつ
あるが未完成であり、この標準
マスターの完成が待たれるとこ
ろである。
また、手術部門など電子シス
テムへの統合がなされていない
6
図1 看護記録画面で他部署に伝えたい事項があった場合、
「CP看護へ」のボタン
a
を押す○。CP画面には該当する看護記録のセルに赤丸マークが現れる
○。こ
b
c
のセルをクリックすれば看護記録の内容が強調部分として赤字で表示される○。
特集 電子パスの光と影
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □□
□ □ □ □ □ □ □
院内LAN端末 or 職員個人のPC
CPビルダーでは、
・EMRに組み込むCPファイル作成と
・作成したCP
(詳細内容のオーバービュー)の
印刷が行える
院 内の医 事・薬 剤・
処置マスターを組み
込んだパス作成ソフ
ト「CPビルダー」がイ
ンストールされている
EMRシステム管理室
新規CP検討会(パス委員会)
CPビルダーで作成されたファイル
検討会で承認されたCPファイルは
すぐにシステムへ組み込むことができる
図2 各パスチームは自分のパソコンでパスのファイルを作成・修正しそれをそのままシステムに搭載することができる (内容についてはパス委員会の審査あり)
部分があり、電子カルテパスではこの部分が供与されて
日の多種のオーダーを一括オーダーでき、変更もできる
いない。紙ベースでは転記作業などがあるとはいえ、医
機能=パス」と勘違いしていることがある。
療ケアの流れが完全に一元化されている。欠損部分があ
パス医療は以下の4本の柱からなる。
(図3)
ることは少なからずストレスであり、全部門業務の早期
の電子化統合・完成が望まれる。
おわりに
①EBM、EBNに基づき標準化された医療の実践
(個別性への対応は当然)
②情報の共有に基づくチーム医療
パス医療を「電子カルテシステム」というベース上で
進める場合、どうしても忘れてはならないことがある。
これを強調したい。
1.アカウンタビリティの覚悟をもちましょう
電子カルテシステムでは、患者に対する実施入力、判
断・評価の記録が「いつ、だれが、どう判断した」と明
③インフォームド・コンセントの確立できる医療
④PDCAサイクルに基づく質改善回路をもつ医療
(バリアンス、アウトカム分析でパス自体が進化していく)
図3 パス医療の柱:このすべてが電子カルテシステム
で果たせているわけではない
確に記録される。これは責任あるプロの医療者として喜
ばしいことであるとともに自身の判断の正当性を後日分
析でき、自らの医療者能力を高めることができる。
残念ながら、この4つを電子カルテシステム上だけで
完全に果たしているシステムは2005年1月現在、存在し
一方で「責任がふりかからないようにするために、医
ていない。これらの4つの柱を実践するためには、シス
師の指示以外のことは観察・報告を含め一切自主的には
テムに機能がないからといって、紙ベースでの記録や人
行わない」ことを業務基本としている看護、コ・メディ
の手による分析・計算を拒んではならない。
カルスタッフの施設の声を聞くこともまれではない。電
これらを実践し、分析方法を確立させていくことが、
子カルテシステムのパス構築では、
「患者のためになるこ
真のパス医療電子化につながると考える。電子化は、あ
とを自ら積極的に発見・実践する責任をもつ」というプ
くまでもパス医療の一部をより速く安全に効率的に行う
ロ医療者精神が問われる。
ための一手段に過ぎないことを熟知する必要がある。電
2.ペーパーレスにこだわるのをやめましょう
子カルテに載っている一括オーダリング機能にパス医療
電子カルテシステムを導入した施設スタッフは、
「複数
の本質を惑わされてはならない。
7
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
特 集
この機能が電子パス
事例2: のポイントだった!
議しておくべきである。我々は電子パスの構築までに種々
のシステムを運用する機会に恵まれ、最終的に電子化する
際の問題点の解決策をメーカーと協議することができた。
城東中央病院名誉院長
メーカーも臨床的問題に対する理解と解決法を考えてく
医誠会病院院長 井川 澄人
れ、パス内容を変更しようとすれば、必ずバリアンスの登
城東中央病院(大阪府大阪市)
病床数233床 病床稼働率90% 平均在院日数20日
紹介率20% 1日平均外来患者数650人
完成した(電子)パス数 約103件 録をシステム側で要求するような設計とした(図1)
。
なお、バリアンス登録に際しては、今までのバリアン
ス内容を検証し、院内統一のコード化としたことで、集
計が自動的にどの端末からでも参照できるようになった。
しかも、適用患者のうちでバリアンスのあった患者のみ
を抽出することもできる(図2)
。さらに、抽出患者リス
トから、患者を選んでパス適用時のパス画面を呼び出し、
電子パスの概要
電子パスの稼働までには、紙媒体のパス表に始まり、
電子カルテ画面で診療記録を参照することで、登録され
たバリアンスコードが正しかったのか検証作業ができる
オーダリングシステムとの共用、電子カルテでの一括登
ようになったほか、パスごとのバリアンスについても期
録パスで運用していた時期もあった。しかし、電子カル
間を自由に設定し、バリアンスの階層別の集計もほぼリ
テと統合された、すべての職種が活用できる電子パスが
アルタイムにできるようになった。
必要と判断したため、メーカーと共同で開発を行い、
2002年7月にようやく運用することになった。電子パス
バリアンス分析機能を入れるのに苦労した点
の基本的な機能は、以下のとおりである。
電子カルテと統合した電子パスを作成するときは、
①パス適用時に適用基準、除外基準が明示されること
①アウトカムの考えとアウトカムの評価ができること、
②アウトカムの考え方を盛り込む
②パスの内容についても項目の修正時には、バリアンス
③修正に際してはバリアンスの登録を必須とする
登録のアクションを起こさないと修正が完了しない設定
④集計機能の充実
にすること、③バリアンスは院内コードで統一するので、
コード認識による集計ができるようにすることを要望し
電子パスにおけるバリアンス登録の重要性
クリニカルパスにおいては、パス工程が正しいのか、
工程どおり進行したのか後日検証することが大事である。
は階層表として表示されるようになった(図3)
。
また、パスごと、診療科ごとの自由な設定で集計で
これができて初めてパスのPDCAサイクルによる改善活動
きることも要望した。このように、様々な角度から集
が、業務改善、患者満足度の向上を含めたスパイラルア
計できるような設計にソフトメーカーが応えてくれた
ップに結びつくと考えられる。
ことで、バリアンス分析が可能となり、電子パスが完
紙媒体のパスにおいて問題点の一つは、バリアンス分
成に至ったのである。当初は階層化されたバリアンス
析であったと考える。最近は紙運用であっても、バリア
の表現がソフトメーカーにうまく伝わらず、かなり横
ンスにコード分類を導入し、パス進行中もしくは終了時
長の表としてしか表示されなかったため、集計後のチ
に登録し、月別にまとめて集計するとの報告がみられる
ェックに相当の時間を要するものであった。その後表
ようになってきた。加えて、バリアンスには、パスの工
形式の表示の望ましい形をメーカー担当者にようやく
程上の内容検証とアウトカムのバリアンスおよび経済的
理解していただき、階層による表形式の表示が完成し
なバリアンスが考えられている。
た。事前にチェックしたい階層ごと、バリアンスごと
電子パスを構築する際には、紙媒体のものを単に電子
化するのみではそれほど恩恵を受けるものでないばかり
か、後日パス画面内容を検証する手間がかかることが想
8
た。追加項目として、コードが階層化されたので、集計
の選択による表示が可能になり、分析ツールとしては
かなり有効になったと考える。
一方、適用患者表からのバリアンス表示も可能である。
定される。したがって、電子パスの構築時には、必ずバ
これは当初、階層としては一番下層にある詳細バリアン
リアンス登録の必須化のシステムをソフトメーカーと協
スしか表示機能がなかったのを、階層選択によるバリア
特集 電子パスの光と影
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □□
□ □ □ □ □ □ □
ンス表示も可能としたという経緯がある。
集計が可能になった時点で、パス委員会は
集計業務から解放されたが、今度は集計した
分が正しく登録されているのかは、検証が必
要であることがわかった。そこで、集計した
バリアンス表の項目の中から、あるいは患者
名からパス画面のどこで修正があったのか、
後日、把握できるような設計の追加が必要と
考えられた。
ここまで開発が進むと、最終的にはバリア
ンス表からパス画面に戻ると電子カルテ画面
まで戻り、診療記録でも検証が可能になって
いったことはいうまでもない。つまり、メー
カーが医療側の要望に応えようとする気にな
図1 バリアンス登録画面
らなければ、我々が望む電子パスのシステム
にはならなかった。我々の施設では、メーカ
ーとの協議の機会が設けられたことがシステ
ム開発に大いに有効な方法であったと考え
る。システムは最初から完璧なものはなかな
かできないものであり、できたものを使用し
てここをうまく工夫すればもっと有用になる
という点をソフトメーカーと協議し、臨床現
場に価値あるものを提供できるようにならな
いといけない。これを理解してくれるメーカ
ーが他にも育つことを期待する。
今後さらに改善していきたい点
現在は、アウトカム評価に際して事前に臨
床的数値設定を行い、これがクリアされてい
図2 パス適用数とバリアンス
るかをアウトカム評価時に自動認識する機能
や、これらの数値をすべてクリアしていない
場合は、バリアンス登録を要求するような仕
組みを考えている。一方、アウトカム評価で
臨床数値が達成されず、次に進行できなけれ
ば数値の絶対評価のみになり、臨床的に使用
されない可能性もある。このことを考慮して、
数値を達成していないことを医療側に明示
し、現場でどう判断するのか考えてもらうシ
ステムにした方がよいと考えている。
このような改善ができれば、パスの内容の
バリアンスとアウトカムのバリアンス階層別
集計が可能となり、医療の質の向上に一層寄
与するようになると考える。
図3 パス別集計と内容検索
9
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
特 集
電子パスへ移行時の
事例3: 看護師の苦労!
いかなどに関しては電子化以前に予想されたことであっ
た。これらに関しては、CP作成段階で対象とする疾患や
治療におけるアセスメントツールを作成することにし、
NTT東日本関東病院
看護計画については標準とされる看護計画を作成しそれ
看護部副看護部長 井手尾 千代美
を用い、個別的な問題は新たに看護計画を立案するとい
NTT東日本関東病院(東京都品川区)
病床数606床 診療科数24科 病床稼働率90.5% 平均在院日数13.9日(2003年度実績)
紹介率約30% 1日平均外来患者数約2,200人
完成した(電子)パス数97件 った対策を講じていた。
しかし、2000年の電子カルテシステムの導入とともに
看護診断を導入することになり、看護師は電子カルテの
操作訓練とともに、看護診断という新たな課題にぶつか
った。このような状況で、我々看護師がCPの電子化にお
いて苦労した点と取り組みとして、次の2点取り上げて
今回は紹介したいと思う。
電子パスの概要
当院は、1997年に紙ベースでクリティカルパス(以下、
1.標準看護計画をどう扱うか
当院では一般的には、対象患者群を限定し看護診断名
CP)の開発を行い、2000年12月に新病院移転とともに電
を用いた標準的な看護計画をセット化して電子カルテシ
子カルテシステム(KHIS-21)が導入され、2001年4月か
ステムに搭載している。これを標準看護計画と呼ぶが、
らCPを電子化した。現在では約100パターンのCPが開発
CP適用患者にも同様に標準看護計画を適用させるかどう
されてきている。
かが問題となった。CPは関連する関係職種すべてがかか
電子化されたCPの初期画面はオーバービュー形式で
わって作成する計画書であり、CP内に看護ケア内容も含
表現されており、横軸は時間軸であるがゴール設定・
まれているものの、細かな内容までは網羅されておらず、
評価のためにステップ形式に区分けしている。また、
何故ここでこのケアが必要なのか、どういう方法がいい
縦軸はゴール・観察項目・治療・検査・処置・食事・
のか、などがわかりづらいことは確かであった。しかし、
活動・教育指導・バリアンスの項目とし、これは全科
並行して標準看護計画を用いる必要があるかどうか、用
共通のものとしている。この画面は階層化された総合
いないで看護ケアの質を維持できる方法はないかの検討
医療システムへの入り口の役割も果たしており、オー
を行った。
ダーが必要な項目に関してはオーダー機能を介して各
その結果、当院ではCP内に表現する看護ケア内容を充
部門へ伝達され、結果はCPにリンクしている。また観
実させること、従来どおりのアセスメントツールを作成
察項目はケアフローにリンクしており、経過記録はCP
すること、また、標準看護計画とCP内の看護ケア内容、
上で設定したテンプレートの活用やSOAP形式の経過記
およびアウトカム、観察項目に整合性をとることにした。
録に記録することも可能である。上記のような機能を
整合性がとれているかどうかについては、より客観性を
使って、当院でCPの作成・活用を行っていく上で、CP
もたせるために看護部CPWGのメンバーが検証し作成メ
自体の質保持のために、院内でCP作成のガイドライン
ンバーへの指導を行っている(図1)
。
をもち、CP推進WGでは新規CPや改訂CPについてWG
このように標準看護計画を用いるのではなく、「CP内
の承認を受ける体制をとって、電子CPとして登録する
に標準看護計画を内包する」方法をとっている。看護
ことにしている。
ケアを実施した結果については、リンクしているケア
フローに観察結果を記載し、予測される結果で叙述が
看護サイドの苦労
当院では電子化する以前に、紙ベースのCPを作成する
10
必要な場合はあらかじめ作成したテンプレートを活用
し、それ以外は一般と同じくSOAP形式の経過記録に記
段階でCPを導入することによる看護サイドのメリット・
載している。
デメリットについて、主任会議でディベートを試みるな
2.患者の個別性についてどう表現するか
どして検討を行っていた。そのため、看護計画を盛り込
上記のように、電子カルテ上のオーバービュー形式CP
むか否か、個別性についての問題点、新人看護師などへ
内では、看護の詳細や心理面など標準化できない部分を
の教育面の問題、アセスメント能力が低下するのではな
表現するには限界がある。また、電子カルテシステムの
特集 電子パスの光と影
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □□
□ □ □ □ □ □ □
機能を使っても、医師のオーダーほど明確な指示への連
今後の課題
動はできず、従来自分たちが行ってきた看護をどう表現
し、生かしていくかは大きな壁であった。さらに電子カ
1.CPを用いて看護の評価をいかに行っていけるか
ルテに看護診断を導入する前までは、標準化できる部分
CPでバリアンス分析を行い医療の評価を行ってきてい
でさえ共通言語を用いておらず、個人個人で看護問題を
るとはいえ、現状では医師の診療内容における評価が主
挙げ、看護計画を立てていた感覚からすると、患者の個
になっている傾向がある。これは診療内容が患者成果に
別性がなくなるという問題も大きかったと思われるが、
大きく影響する因子となるので当然のことであるが、看
それと同時に看護師の個別性もなくなってしまうのでは
護の因子の評価がもう少しなされてもいいのではないか
ないかという感じがあったように思う。
と考える。
そこで、標準化できる部分と個別として表現する部分
看護について評価を行っていくためには、成果に影響
を分けて考えることにした。個別で表現する部分につい
を与えている看護介入の内容をより具体的に明確にして
てもアセスメントし、看護診断がつけられるものに関し
いくとともに、求められる成果を提示し評価していく必
ては、なるべく共通言語で表現するようにして、残され
要がある。看護が患者アウトカムに影響を及ぼしている
た部分についてのみSOAP形式で自由記載の形にした。そ
ところも少なからずあり、そういう看護をしていきたい
うしてみると、自由記載で表現すべきことが整理され、
と考える。看護を明確に評価していくようになれば、看
以前よりも患者の個別性が浮き出てくるようになり、看
護の質の向上にもつながるのではないだろうか。
護師の個々の表現の違いも整理されてきているように思
2.患者が参画しやすいCPにしていくこと
われる。それを、没個性と考えるのか、洗練されている
と考えるのかはとらえ方の違いと思われる。
現在でも患者用CPが活用され、患者への治療内容の開
示を行っているものの、患者の声、希望が反映されるまで
ここで重要なのは、当院でそれほど混乱せずに電子化
には至っていないと思われる。電子化をしていくと、患者
ができたのは、CPで看護の全部をカバーしようとしな
は画面を見ながら説明を受ける時代になるだろうが、本当
かったことが大きいのではないかということである。個
にそれで患者へのインフォームド・コンセントができ、患
別部分とCPという標準のツールは区別して使うべきで
者のニードがとらえられていくかは疑問が残る。もっと患
ある。
者が見やすい媒体を検討し、その上で患者が参画しやすい
ようにすることを考えていく必要があると考える。
CP対象疾患の
アセスメントツールを作成する
チームで話し合いを行い、
退院基準→各ステップ 分け→各ステップのゴール設定
患者用
CP作成
アセスメントツールを参考に
既存の標準看護計画をもと
に成果・介入項目を吟味する
ゴール達成に向け、各職種が
いつ、何を、行うか設定し
共通認識をもつ
アセスメントツール・標準看護
計画との整合性を看護部WG
へ提出
CP推進WG承認の会へ提出!
医療情報担当と相談して、CISへ入力→運用開始
パス発表会でパスの質的な面など院内職員へ周知、検討
図1 CP作成から承認までの流れ
11
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
特 集
使いやすい
事例4: 電子パスを目指して
トヨタ記念病院
形成外科部長/医療情報マネジメントグループ長 岡本 泰岳
トヨタ記念病院(愛知県豊田市)
病床数513床 診療科数25診療科 病床稼働率86.3% 平均在院日数11.8日 紹介率42.2% 1日平均外来患者数1,475人
完成した電子パス数46(すべて2004年11月度実績)
に位置づけられる必要がある。さらに、紙パスの問題
点を電子化ならではの利点によって解決した。
具体的には、①オーバービュー表示でありながら指
示・記録一体型(オールインワン)の多様性に対応、
②アウトカム評価機能、③バリアンス対応機能、④バ
リアンス管理機能、⑤パス履歴管理機能、などである。
特に③は、パスツール上でオーダーの修正・削除・追
加はもとより、時間軸の調整が容易にできる機能であ
り、脱落に至らない病態の変動にフレキシブルに対応
できることを意味する。
紙パスから電子パスへの移行
はじめに
紙パスから電子パスへの移行に伴う問題点や対策を、
当院では明確な病院方針のもと、2000年より組織的に
パスの取り組みが始まり、電子カルテ導入前には118の紙
媒体のパス(以下、紙パス)が登録され、全入院患者に
以下のⅠ∼Ⅲ期に分けて述べる(表1)
。
Ⅰ.電子カルテ運用前(2003年4月∼9月)
まず我々が電子パスに求める「基本コンセプト」
(図1)
占める適用率は約45%に達していた。統合型電子カルテ
に基づき、パッケージパスの機能に対して、時間とコス
の全面運用が2003年9月より開始されたのに伴い、電子
トを勘案しながらできる限りの改良を加えた。
「基本コン
カルテシステム上で動く(連動した)パス(以下、電子
セプト」は、紙パス時代に培ったノウハウを生かすとと
パス)への移行が必須となった。
もに、紙パスの問題点を電子化によって解決できないか
本稿では、当院での経験を基に紙パスから電子パスへ
という考えに基づいて打ち出された。また、電子パスの
の移行に伴う問題点や対策を事前準備、啓発・教育活動
全科展開の時期について話し合いがなされ、
「電子カルテ
といった視点から述べたい。
環境に慣れてから」
「改良したパス機能をテスト運用して
から」などの意見から、電子カルテ導入開始後、数ヵ月
電子パスの概要
遅れて展開する予定とした。
当院の電子カルテは、T-MediC(富士通社製
NeoChartをベースに当院独自にカスタマイズ)である。
Ⅱ.テストパス運用期間(2003年10月∼2004年2月)
改良した電子パス環境下にテストパス5種による臨床
我々は、パッケージされていたパス機能に対し、コン
運用を行った。臨床現場での意見や不具合事象を取り入
セプト「パスツールですべての業務が完結」に基づい
れさらに改良、機能追加が行われた。その作業と平行し
て全面的に改良を行った。パス機能を電子カルテに実
て、実際のパス運用に即した電子パス作成マニュアルと
装する場合、パスはオーダリングシステムの上位概念
運用基準を作成した。
表1 電子パス導入に伴う問題点と対策
問題点
Ⅰ.
電子カルテ運用前
(2003年4月∼9月)
Ⅱ.
テストパス運用期間
(2003年10月∼ 2004年2月)
Ⅲ.
電子パス全科展開後
(2004年3月∼)
12
対策
パッケージ機能の改良
電子パス全科展開の時期?
基本コンセプトの確立
テストパス運用後 作成マニュアル、運用基準の作成後
改良されたパス機能に対する不安
電子パス運用に対する不安
運用結果、新たに発生した問題点のフィードバック
(早急な対応)
臨床現場での運用に即した作成マニュアル、運用基準の作成
電子パスの普及
運用基準の徹底 講習会開催
院内パス大会の利用
電子パス審査
定期的なパス運用調査(監査)
特集 電子パスの光と影
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □□
□ □ □ □ □ □ □
Ⅲ.電子パス全科展開後(2004年3月∼)
整合性は得られていなければならない。そのためには、
2004年3月より全科展開を開始した。パス分科会で審
電子パスを審査する横断的な承認機関が必要であると考
査を行い承認された電子パスのみを適用可能とし、パス
える。当院では全科展開開始時、承認されなくてもパス
適用の有効期間も設定した。電子パスの普及と運用基準
機能を自由に使用してもいいのではないかという意見も
の徹底のため、講習会開催や院内パス大会を利用した。
出されたが、以下に述べる「運用ルールの徹底」の面か
さらに定期的にパス運用状況の調査(監査)を行った。
らも、そのようなスタートでなくてよかったと考える。
2004年12月現在、46種の電子パスが稼働し、全入院患者
に占める適用率は27%に達した。
電子パスにアウトカム評価やバリアンス集計などの機能
をもたせることは、紙パスでの問題点(多大な労力を要し
ていた)を解決する。しかしこれらの機能は、パスの運用
電子パス導入にあたってのアドバイス
(入力作業など)が正しくなされて初めて有用なものとな
病院に電子パスを導入する場合、電子カルテシステム
る。このため電子パス運用にあたっては、紙パス以上に運
にパッケージされているパスツールを改良するか、独自
用ルールの徹底が必要である。運用ルールの徹底には、電
に開発するかどちらかであると思われる。どちらにしろ
子パス作成マニュアルや運用基準の作成だけでは不十分
病院の電子パスに求める「基本コンセプト」を明確にし、
で、講習会の開催やパス大会の利用は不可欠である。また、
それに基づいたパスツールの改良もしくは開発をするべ
定期的なパス運用調査(監査)を行い、その結果をフィー
きと考える。また紙パス時代に、院内パスフォーマット
ドバックする必要もある。特に医師の多く(施設によって
(表現の統一などを含む)の標準化をできる限り進めてお
は一部?)は電子パスを「セットオーダー」としかみてい
く方がいいと考える。当院では、電子パス導入を契機に
ないので、運用ルール遵守の必要性や重要性を根気よく啓
本格的にフォーマットの標準化を進めたため、電子パス
発していかねばならないと考える。
の普及に際して、診療科間の格差が予想以上に強く出て
今後の課題
しまったと反省している。
全科展開前に臨床現場でのテストパス運用期間を設け
いわゆるセット化されたオーダーをパス適用と同時に
たのは、電子カルテ環境と改良したパス機能に対する不
自動的にすべて発行するのがいいのか、日々あるいはス
安が主な理由であったが、これは正しい選択であったと
テップごとに、設定されたアウトカムが達成されている
思われる。実際のところ、電子カルテそのものの操作や
ことを確認した上でないとオーダーが発行されない方が
運用に慣れるまでに数ヵ月を要したし、臨床現場で運用
いいのか、は悩むところである。当院では現在のところ、
してみて初めてわかったパス機能の不具合もいくつか存
基本的な機能としては前者を採用し、運用方法で後者を
在した。
実践するようにしている。今後、後者の運用を機能とし
パスの内容(医療行為や設定日数など)そのものは
て取り入れるかどうかを運用状況調査から検討していき
PDCAサイクルを回して、徐々に改善していけばよいと考
たい。また、当然のことながら電子カルテシステムは医
えるが、基本的な構造やアウトカム設定と医療行為との
事会計システムと連動しているので、パスツールを用い
たコスト分析が可能であり、今後
はDPCへの対応も重要な役割を担
<基本コンセプト>
<電子パス機能>
全ての業務がパス上で完結
オーダリングシステムの上位概念
パスは本来、バリアンス分析に
指示・記録一体型(オールインワン)
テンプレート内包と視認性の強化
よって継続的に質の改善を行って
多職種で共有できる
排他情報機能
いくツールである。当院の電子パ
アウトカム評価機能
スには、アウトカム評価、バリア
アウトカム志向の運用
最終アウトカムを重視
っていると考える。
ンス、パス履歴などを収集できる
バリアンス対応が容易にできる
バリアンス対応機能
バリアンス集計ができる
バリアンス管理機能
機能が備わっている。今後は、こ
運用状況を把握できる
パス履歴管理機能
れらのデータを質の改善に有用な
情報として、定期的にフィードバ
図1 基本コンセプトと電子パス機能
ックする仕組みを考えていきたい。
13
トピックス
DPCとパス
今回のトピックスは、いち早くDPCが導入された特定機能病院において、平均在院日数の
短縮化が進む中で、CPへの取り組みがどのように変化しているのか、特にDPC導入後に
おけるCP作成の考え方、アウトカム設定の変化、さらにはDPC対応CPの作成・検討など
新たな取り組みを紹介する。
鹿児島大学医学部・歯学部附属病院医療情報部(同医学部保健学科地域看護・看護情報学講座)助教授
CP普及の背景とは?
要性が認識され迅速かつ確実な成果
日本版DRG/PPSとしてD P C
1997年8月に「21世紀の医療保険
が求められるようになった。「21世紀
(Diagnosis
制度(厚生省案)」における、「入院
の医療保険制度(厚生省案)」、「21
Combination)が開発され、2003年4
患者が計画的に、かつ、速やかに家
世紀の国民医療(与党医療保険制度
月1日から、特定機能病院等におけ
庭や社会復帰できる退院時期を明確
改革協議会)」が相次いで出され、急
る入院医療を対象に新たな包括評価
化させた診療計画の策定等の普及・
性期疾患・急性期医療について、そ
として導入された。次いで、2004年
定着を図り、看護を含めた効率的な
れぞれ「医療内容が定型的な疾患の
4月からは一部国立病院をはじめ民
入院医療システムを確立する」こと
場合には、入院当初から疾患ごとに
間病院へも拡大され、現在、DPC試
への提言が発表され、各医療機関で
定める一定期間までを1件当たり定
行適応病院とDPCデータ協力病院を
は標準的な治療計画、看護計画の策
額払いとする」、「入院患者の疾患別
含めると200以上の施設へDPCが導入
定に努力するようになった。
定額払いについて基礎調査を進め、
されている。DPC導入により、①診
また、1998年4月にインフォーム
その導入を検討する」と、初めて出
断群分類ごとに施設内外での標準化
ド・コンセント(IC)が医療法第1
来高払いから定額払いに変えていこ
が図られ、施設間での比較が容易に
条に努力規定として盛り込まれ、患
うとする政府の意向が公表された。
できる、②疾病別原価計算のための
者の自己決定権を尊重するようにな
そして、1998年11月から日本版
基本データが得られる、③包括評価
ったこともクリティカルパス(以下、
DRG/PPS ( Diagnosis Related
の中では、必要以上の医療行為が行
CPとする)普及の要因となった。こ
Group/Prospective Payment System)
われることがない、④病院の格差の
のように、わが国におけるCP普及の
の導入に向けて、国立病院・社会保
是正、などが期待されている。
背景には、医療を受ける患者側の意
険病院の10病院を対象にした「急性期
識の変化が大きな影響を及ぼしてき
入院医療定額払い方式」が試行される
たわけであるが、近年、最も強い要
ようになった。
Procedure
DPCとそれによる包括支払い方式
DPC開発の第一の目的は支払い方
因として働いたものは、医療費抑制
この制度導入後には医療費の伸び
に伴う病院経営上の問題を解決する
率や平均在院日数、病床利用率、そ
報の「標準化」と「透明化」である。
ためである。すなわち、医療の効率
の他診療内容における変化が観察さ
DPCはCasemix分類と総称される分類
化と質の担保を図るための有効なツ
れ、適切な制度運用を図ることによ
手法の一つであり、患者を病名と提供
ールとしてCPが注目され、取り組ま
り、医療内容の質を確保しつつ、な
されたサービスの種類の組み合わせに
れるようになったと考えられる。
おかつ医療財政上のメリットもある
よって分類する仕組みである。
式の開発ではなく、医療に関連する情
と期待された1)。しかし、医療制度の
包括評価の対象となる患者は、一
違い、診療情報管理士が少ないなど
般病棟に入院している患者のみであ
制度を支持する基盤の違いから、
り、精神科病棟、結核病棟に入院し
医療制度改革がそれ以前からも取り
DRG/PPSをそのまま導入し拡大展開
ている患者は対象外である。そのほ
組まれてきたが、抜本的な改革の必
することはできなかった。そこで、
か、入院後24時間以内に死亡した患
DPC導入の背景と現状
増大する医療費を抑制するために
14
宇都 由美子
者、治験対象患者、臓器移植患者の
し、より良い医療サービスの提供に
ローチが開始された。その一つの取り
一部、高度先進医療の対象患者、回
つながるようなCPの作成と、その運
組みが、記録時間短縮と確実な診療記
復期リハビリテーション病棟入院料
用に努力するようになった3)。
録を残していくことを目的とするCP
などの算定対象患者も包括評価の対
DPC導入により、重症度の高い患
の見直しである。
者やより高度な治療・検査を要する
在院期間の短縮と患者満足度の向上
患者の在院日数の短縮により、入退
という目標は従来から示されてきた
と「出来高部分」から構成されてお
院、転入・転出など患者移動に伴う
が、必ず達成しなければならない命題
り、「包括評価部分」の点数は診断群
診療現場の業務は煩雑化の一途をた
という意識は職員の中に希薄であっ
分類ごとに定められた1日当たり点
どっている。これは、DPC導入の目
た。しかし、DPC導入により、収入
数と、医療機関ごとに設定された医
的の一つである医療機関のさらなる
の上限が決められた支払い制度の中で
療機関別係数を入院日数に掛け合わ
機能分化促進の結果である。1入院
は、効率化の余地がある部分を改善し、
せた点数の合計となる。DPC関連病
ごとに医療資源を最も投入する傷病
在院期間の短縮を実現しなければ診療
院から収集したデータをもとに、
や検査、教育、治療という入院の目
報酬実績を上げることができない。病
DPCごとに平均的な在院日数を求め、
的を明確化し、主な入院目的が達成
院として「在院期間の短縮」という絶
それより25%短い入院期間の日額は
できたら、退院もしくは転院となる。
対に達成しなければならない目標が掲
平均的な入院日数期間より15%高く
したがって、DPC導入病院におけ
げられた今、CPはその目標を達成で
るCPは、従来の疾患別、術式別、あ
きない問題点抽出の道具として大きな
逆に、平均的な入院期間より25%
るいは検査別に作成されてきたもの
意味をもつようになった。
長い入院期間の日額は15%低い日額
を見直し、医療資源を投入する主な
そこで、看護部を中心に「記録・
に設定されている。したがって、よ
傷病名と、術式、処置等を加味した
システム合同WG」を発足させ、
り短い入院期間で治療・看護を行う
DPCによるCP作成へと変化してきて
DPCを経営ツールとして生かすとい
ことで高い診療報酬請求が実現する
いる。
う病院の方針にのっとって、DPC対
象外となっている。
診療報酬の設定は「包括評価部分」
設定されている。
ため、DPC導入により在院日数短縮
また、入院診療におけるアウトカ
応のCP作成の検討を開始した。具体
というインセンティブが働くように
ムが、患者の最終目標とするアウト
的な作業としては、これまでに各診
なった 。
カムではなく、その医療機関におい
療現場で作成されていたCPを収集し、
て達成できるアウトカムを考慮して
従来の疾患別、あるいは手術、検査
マネジメントツールとしての
策定されるため、1医療機関におけ
ごとに作成されたCPをDPCと突き合
DPCとCP
るCPだけでは不十分であり、外来診
わさせ、DPC対応のCP作成が十分に
在院期間の短縮が強いインセンテ
療におけるCPや地域連携CPなどの必
可能であることを確認した。
ィブとして働くDPCの導入により、
要性が認識されるようになり、その
さらにパスの質的検討として1週間
各医療機関は医療や看護の効率化を
ような取り組みが開始されはじめた。
以内の短期入院用パスを集め、①病院
2)
が明確にした目的(在院期間短縮)に
実現し、病院経営の健全化を達成し
ていく必要に迫られ、CPの導入を積
当院におけるCPの見直し
沿ったアウトカムが設定されているも
極的に行うようになった。すなわち、
およびびバリアンスの体系化
のであるか、②アウトカム設定とバリ
組織の運営理念や経営方針に基づい
本院においても、DPC導入に伴う
アンス分析がエビデンスとして収集で
て投入できる医療資源を考慮し、成
平均在院日数の急激な短縮によって、
きるものであるか、③パスを改善でき
果とバリアンス分析を行い、どのよ
医療や看護の質を担保しつつ、安全
るバリアンスの体系化が図られている
うな結果を求め、何が患者にとって
で安心な療養環境を確保し、患者満
か、などの観点から見直しを行った4)。
望ましい状態なのかを繰り返し検討
足度を向上させるために様々なアプ
WGにおいて内科系、外科系、整形
15
外科領域のモデルパスを各1例ずつ
それぞれのバリアンスが収集でき、
にばらつきがあるのは当然であると
作成し、当該診療科で試行し改善を
目的を達成できなかった問題点を
いうことを前提に、プロセス・バリ
重ねたものを改善前の従来パスと一
明確にし、そのバリアンス分析に
アンスにはあまり重きをおかない。
緒に各診療現場に配布し、その差異
よって組織が的確に対応できる内
組織の改革や改善を図っていくため
を明確に示した。現在、各診療現場
容分析と体系化を図った。より具
には、アウトカム・バリアンスの収
ではモデルパスを参考にして、他の
体的なバリアンスを収集するため
集、分析が不可欠である。したがっ
従来パスの改造を進めている。しか
に、①患者・家族に起因するもの、
て、予定された入院期間から延びて
し、DPCの対象となる疾患は広範で
②医療スタッフに起因するもの、
しまった入院事例について、ある一
あり、また、その分類体系も1∼2年
③病院のシステムや運営などに起
定期間延長したものを院内ルールで
で見直しが行われ改訂されていくた
因するもの、④地域・その他の要
定め、その症例については確実にバ
め、作成されたCPとDPCの関連づけ
因に起因するもの、と4つに分け、
リアンスを収集し、問題点の明確化、
については、確実なメンテナンスと
それらを大分類とした。さらに中
改善すべき優先順位の決定を支援で
システム支援が不可欠である。
分類19項目、小分類101項目に細分
きるようにした。
化し体系化を図った。
在院期間短縮を支援する
CPのバリアンス分析の応用
一方、バリアンスについても正負
本院のバリアンス分析の基本的な
ンセント(IC)支援システムにおい
考え方としては、パスは標準計画で
て、「入院時診療計画書」作成を行
あり、実際の運用時には治療やケア
う際に、推定入院期間データを入力
図1 退院サマリ入力画面:バリアンス入力
16
具体的には、インフォームド・コ
する。その後、退院決定入力により、
析することにより、不足している手
設の自主的な取り組みによる診療の
実際の在院日数が計算され「退院サ
術枠の状況を把握することが可能と
標準化、DPCを利用したマネジメン
マリ」登録を行う画面にそれらが表
なり、手術部の業務の見直しや手術
ト手法の開発、コアDPCを対象とし
示される。予定されていた入院期間
室の増設などの検討を行うことがで
たCPの開発、さらには施設を超えて
に対して発生した正負のバリアンス
きる(図2)
。
医療施設間の連携パスの開発など、
に対して、それらの原因として考え
このように、CPのバリアンス分
DPCとCPをうまく使いこなすことに
られる事項を最大3項目まで登録で
析を応用して在院期間短縮へ向けた
よって、病院経営や患者ケアにおけ
きる(図1)。
データ収集と情報活用を通じて、組
る新しい可能性が期待できる。
例えば、手術目的の入院患者が手
織の質改善活動(TQM:Total
術枠の不足により待機時間が延びて
Quality Management)へ貢献できる
しまった場合は、中央診療部門であ
と考える。
る手術部の手術枠の不足によるもの
が最も大きい原因として登録される。
おわりに
手術枠が不足したために待機時間が
在院期間の短縮は、有用なCPの開
発生し、在院期間延長につながった
発とその活用など、医療チームの有
症例が受けた手術に要する時間を月
機的連携と各メンバーの専門性が発
ごと、あるいは季節ごとに集計し分
揮されなければ達成できない。各施
参考文献
1)DRG/PPSとは:http://www.hamt.or.jp/
hamt2/medinf/drg_pps.htm
2)武田俊彦:急性期医療に係るDPC導入の
経緯と施行状況、看護56(6)、40-44、
2004.
3)長谷川敏彦 企画/監修:クリティカル・
パスと病院マネジメント その理論と実
際 薬業時報社 121
4)宇都由美子:包括評価導入による患者記
録としてのクリニカルパスの意義、看護
展望29(2)
、123-129、2004
既存オーダーとの連携
手術時間:4時間5分
搬入・搬出時間:5時間55分 術者ごと*術式ごと*手術時間(麻酔時間)
or 搬入・搬出時間
(月間、季節ごと)不足している総手術時間
手術部の業務、管理体制の見直し
超過勤務
時差出勤
手術室の増設
図2 バリアンス分析による手術部の業務、管理体制の見直し
17
EBMとNBMの考え方
聖路加国際病院 副院長・内科医長/
聖ルカ・ライフサイエンス研究所 臨床実践研究推進センター長 福井 次矢
●EBMでは排除される、個別性=実存の世界
NBM(Narrative Based Medicine:物語りと対話に基づく医
現代医療においても、NBMの考え方を身につける意義は
非常に大きい(ちなみに、NBMに関する訳書から「なぜ、物
療)は、医師と患者の間で実際に交わされる会話、すなわち
語りを学ぶのか?」を表1に挙げる)
。とはいえ、医師にとっ
患者によるnarrative(生きた体験としての物語り)が尊重さ
て最大の関心事は、外部から観察可能で身体的な疾病をどう
れる。たとえば、体に異常が起きたときの苦しみや痛みなど
治せるかという領域であり、物理的に体を理解しようとする
を、その人自身がどう解釈し意味づけをして、どのような行
視点のほうが、ストレスが少ないことも確かである。残念な
動をとったのか、またはとろうとしているのかといった一連
がら、現在の医療制度では、医師がすべての患者の物語り、
のものを指している。言わばNBMとは、自覚存在=「実存」
精神世界に十分配慮した医療を継続的に行うことは、一部の
に基盤をおく医療であり、人の個別性に焦点を合わせた医療
医師を除いて不可能に近い。
いずれにせよEBMとNBMは、医学・医療を支える永遠の
といえる。
一方、EBM(Evidence Based Medicine:科学的根拠に基づ
く医療)は、ランダム化比較試験やコホート研究に代表され
パラダイムとして、名前は時代により異なっても、繰り返し
その必要性が提唱されることと思う。
るように、第三者が観察・測定できる客観的データを統計学
的に扱おうとするもので、言わば人の集団に焦点を合わせた
医療といえる。つまり、EBMはサイエンスのフレームの中で
●医療者にとっての警鐘
1990年代にNBMの考え方が登場してきた背景としては、
行われるものであり、個人の感情・情緒といった個別性の世
EBMによる生物物理的な医療が過度に推し進められるのでは
界を排除し、身体を生物医学的に細分化を図るパラダイムに
ないかという危惧があったと思われる。注目されるのは、
依拠するものといえる。
NBMの重要性を指摘している研究者が実はEBMの推進者た
ちであるという事実である。
●時代を超えて“
”が続くパラダイム
例えば禁煙というゴールを達成するために、エビデンスと
しかし、医療者の頭を常に去らないのは「医療をEBMだけ
して40%有効な方法と50%有効な方法があるとすれば、EBM
で行っていいのだろうか」
「患者1人ひとりの個別性・価値観
のフレームで判断すると選択は後者となる。しかし、NBMの
を無視することにつながらないのだろうか」という危惧であ
観点からすると、その人にとって最もやりやすい(意味のあ
る。医学・医療の歴史を振り返ってみても、EBM的な考え方
る)方法、あるいはその人にとって最も身についている社会
とNBM的な考え方が、“
する両極”という関係にあると
的な行動変容パターンに照らし合わせて、前者が選択される
いえる。1970年代にエンゲルが唱えた「Biopsychosocial
ことがある。EBMの視点からは、必ずしもベストでない方法
Model」や、さらに100年以上前に遡ってウィリアム・オスラ
が選択されることが実際上は少なくない。医師がEBMの考え
ーの「Listen to the patient. He is telling the diagnosis(患者に
方でエビデンスを適用しようとするときに、必ずNBMの考え
耳を傾けなさい。患者は診断名を語っている)」の名言など、
方で適用の妥当性をチェックすべきであり、私たち医師にと
これらの根底に流れているものは今でいうNBMである。
って、EBM一辺倒の医療への警鐘といえよう。
表1 なぜ、物語りを学ぶのか?
●「診断的面接」において、物語りは、
治療上の新しい選択を示唆したり生み出したりする可能性
・患者が自身の病いを体験する、現象学的な言語形式であ
がある。
る/医師と患者間の共感と理解を促進する/意味の構築を
●患者や医療従事者に対する「教育」において、物語りは、
助ける/有益な分析の手がかりや、診断カテゴリーを提供
・多くの場合、印象深く忘れがたい/体験に根拠を置く/
する可能性がある。
内容を強く促す。
●「治療の過程」において、物語りは、
●「研究」において、物語りは、
・患者のマネジメントにおける全人的なアプローチを促進
・患者中心の計画を設定する/一般に容認されている知恵
する/それ自体が本質的に治療的あるいは総和的である/
に挑戦する/新しい仮説を生み出す。
* 出典:Trisya Greenhalgh and Brian Hurwitz. Narrative Based Medicine Dialogue and Discourse in the Clinical Practice 1998.(斉藤清二、山
本和利、岸本寛史監訳『ナラティブ・ベイスト・メディスン―臨床における物語りと対話―』金剛出版 2001)
18
パス大会リポート
パス導入後3年を迎えて、
活動の分析・評価と取り組み課題を明らかに
医療法人青嵐会 本荘第一病院(秋田県本荘市)
●県のパス導入モデル事業への参加を契機に
秋田県本荘市にある医療法人青嵐会本荘第一病院(小
松寛治理事長・院長、160床)がクリニカルパス(以下パ
ス)に本格的に取り組むきっかけになったのは、2001年
から3年にわたり秋田県医務薬事課が主催したパス導入
モデル事業への参加でした(表1)。このとき、「腹腔鏡
下胆嚢摘出術」と「糖尿病教育入院」の2つのパスに取
り組んだのをはじめ、その後2003年にパス委員会を設置
するまでに各病棟で7疾患のパスが作成され、現在
(2005年2月時点)では病院全体で22疾患(検査を含む)
に達し、さらにパスの改訂などと合わせて新たなパスの
作成・運用に取り組んでいます。
表1 本荘第一病院のクリニカルパスの取り組みの歩み
2001年 4月 秋田県医務薬事課主催のCP導入モデル事業に参加
6月 第3回医療マネジメント学会へ参加。CPの作成に取り組む
2003年 4月 院内にパス委員会を設置
11月 第1回秋田県CP研究会に参加
2004年 1月 第1回CP研修会を開催
6月 第6回医療マネジメント学会学術総会で演題3題を発表
11月 第2回秋田県CP研究会でパネリスト発表
2005年 2月 第2回CP研修会を開催
2005年2月、院内研修センターで開催された第2回クリニカルパス研
修会。前回と同じ約100人の参加者を集め、パスの評価をメインテー
マに6演題が発表された
【パス研修会ダイジェスト】
●「逸脱」バリアンスの分析から改善課題を探る
<「患者医療の展開を目指して クリニカルパス質の改善 ―バリアンス分析から評価の取り組み―」
5病棟(外科病棟) 鈴木 香 氏>
外科病棟では現在9疾患のパスが作成され、月平均10
個のパスが稼働しています。その中で大腸腫瘍切除術パ
ス(術前後16日間)の11例を取り上げ、バリアンス分析
を行った結果が発表されました。バリアンスは、術後14
日間の入院期間に変化を来したものを「逸脱」
、術後の入
院期間に影響のないものを「変動」としたほか、
「正」・
「負」のバリアンスおよび「削除」
、
「追加」の6項目とし、
パス大会(同病院ではパス研修会)は、2004年1月に
バリアンスの要因を「患者要因」「医療スタッフ要因」
パス作成の取り組みと実践・課題を主眼にして第1回が
「病院システム要因」
「社会的要因」の4分類としました。
開催され、今回、2005年2月が第2回です。本格的なパ
分析結果は、①「術前変動」3例、②「術後逸脱」9例
ス導入から3年を経過した時点で、主に職員のアンケー
(「正の逸脱」1例、「負の逸脱」8例)となり、「負の逸
ト調査結果から、パスの評価・分析および取り組み課題
脱」8例の内訳は、吻合部狭窄2例、感染症2例、併存
に焦点を当てた合計6演題が発表され、参加者との活発
症の発生1例、退院日の延期3例でした。また、「変動」
な質疑応答がありました(写真右上)
。
のバリアンスはすべての例にみられ、中でも「術後変動」
また、第1回と同様、NTT東日本関東病院看護部長の
坂本すが氏による各演題発表の講評とともに、近い将来、
は49件と多くみられました。
「変動」の要因としては、
「医療スタッフ要因」が1件
同病院の電子カルテ・電子パスへの移行を踏まえて、特
あったものの、そのほかはすべて「患者要因」でした。ま
別講演「パスの電子化―質向上の取り組み―」がありま
た、
「社会的要因」である「退院日の延期」3例は、家族
した(省略します)
。今回の出席者は、医師、看護師、薬
の都合によるものが2例、独居老人で心の準備のためが1
剤師、臨床検査技師、放射線技師、栄養士、事務職員な
例で、このうち1例に対して医療者用パスと経過表に延長
ど約100人(前回108人)でした。
用パスの使用が試みられました。これは、カルテに戻る作
19
業の手間を避けるなど医療効率を下げることなく、業務の
する場合は、患者への説明が必要になるので、薬剤師は
効率化・簡素化を維持するためと、
「家族の都合や手術・
情報の共有を図るためにカンファレンスへの参加が重要
退院希望など、地域性や心情を理解し、画一的でない柔軟
になると述べました。
な対応をこころがけるべき」との考え方からです。さらに
今後のパス拡大に向けた課題として、アルゴリズム型パス
●平均在院日数・平均総診療費の比較データを提出
やコパスを組み合わせて利用することが挙げられました。
<「クリニカルパス導入前後―医事課からの検証―」
医事課 小杉 利恵 氏>
坂本すが氏は、
「強いてパスに患者さんを押し込もうと
しなくていいのでは」と感想を述べ、
「負の逸脱」の中の
医事課からの発表は今回が初めてです。
「大腸ポリープ」
感染症2例に着目。
「もし医療者側の要因で発生したので
と「白内障」を取り上げて、パス導入前後の平均在院日
あれば、それが何であったかをよく分析して発表すれば
数および平均総診療費に関する比較・検討の結果を発表
質改善の課題につながる」と指摘しました。
し、注目を集めました。「大腸ポリープ」(病意受動期の
症例20件)が2002年9月∼12月と2003年9月∼12月の比較、
●積極的介入のためにパスの修正検討に参加したい
<「クリニカルパスの中での薬剤管理指導業務(服薬指導)」
「白内障(両眼20件・片眼40件)」は2002年4月∼9月と
2003年4月∼9月の比較です。
薬剤科 佐々木 のり子 氏>
「大腸ポリープ」では、平均在院日数はどちらも2日で
佐々木氏は、薬剤師数の問題や病棟看護師とのコミュ
変わりがなく、平均総診療費は導入前が12万7,971円、導
ニケーション不足などがあるために、同病院の主なパス
入後は12万8,313円で342円の増加です。大腸ポリープのパ
(17種類)のうち服薬指導の依頼箋が提出されているのが
スは、バリアンスが出にくいことなどが導入前後で差が
40%で、残りの60%は提出されていないとしました。さ
出てこない理由だと分析しています。平均総診療費の増
らに、服薬指導の項目のないパスでも服薬指導を組んだ
加は、主に指導料の増加によるとのことです。
ほうがいいもの、服薬指導の項目が盛り込まれていても、
「白内障」の比較は表2のとおりです。パス導入によっ
薬剤師の介入のタイミングを再検討したほうがいいもの
て平均在院日数は短縮され、その分平均総診療費も減額
などがあると指摘。
「パス委員会で薬剤管理指導業務の見
となりました。併せて眼科の病床稼働率の変化は、導入
直しと標準化に向けて、他の医療スタッフとともに検討
前が52.0%、導入後が44.1%で7.9%の減となり、低下を来す
を加えていきたい」と述べました。
ことが浮き彫りになりました。
また、DPC(診断群分類に基づく包括医療)に対応し
パス導入前後の比較・検討の結果から、①請求漏れが
たパスや、病院の安定化のためのパス作成への移行に向
減少した、②医療費の概算がしやすくなった、③平均在
けて薬剤管理指導業務の標準化に取り組むには、薬剤科
院日数の短縮に大きく貢献する、④患者の負担軽減につ
はさらに各職種への情報提供と情報の共有化を図ること
ながるなどのメリットがある一方で、診療収入減や病床
が求められ、質の高いファーマシューティカルケアの実
稼働率の低下につながることも明らかです。小杉氏は、
現を目指していきたいとしました。
「当院が計画しているDPC(診断群分類に基づく包括制)
会場からは、パスの適用患者でも医師によって点滴の
の導入はパスが重要な役割を担っており、医事課として
期間に違いがある現状について、薬剤師の意見を聞かせ
はコスト面や在院日数、病床稼働率など、多くのデータ
てほしいとの質問がありました。佐々木氏は、治療方法
を提出し協力していきたい」と述べています。
の違いによって患者に薬物療法上の不都合が生じたり、
表2 「白内障」パスの導入前後の比較
不都合な症状が出たりしたときは、必ず担当医に報告し
ていること、また、パスに記載されていた薬剤の投与期
間が変更になったと患者から聞いたときは、担当医師に
確認し情報の共有化に努めているとの回答でした。
坂本氏は、パターン化された治療については、医師が
薬の指導依頼を出す前にセット化して、パスが適用にな
れば服薬指導もセットされるような形にする、パスの適
用患者に対して医師の裁量で薬剤の投与量を増減したり
20
種 別
平均在院日数
平均総診療費
両眼(20件)
導入前
導入後
(差)
12.2日
11.8日
0.4日
54万7,809円
53万8,105円
9,704円
片眼(40件)
導入前
導入後
(差)
4.2日
2.7日
1.5日
23万5,012円
20万5,639円
2万9,373円
●使用件数の多いパスの職員意識調査から課題抽出
<「クリニカルパスの現状と今後の課題」
6病棟(消化器病棟) 池田 理恵子 氏>
パスの評価の取り組みは、年間約200件と最も使用件数
の多い「大腸ポリペクトミー」のパス(以下、Cポリパス)
に焦点を当て、同病棟の看護師全員に実施したアンケー
ト調査の結果などをもとに行われました。Cポリパスの第
1版は、フォーマット上の記載スペースに問題があり、
既存の短期入院病歴を併用するとか、アセスメント併記
の枠を広げてフリースペースとするなどの改訂を行い、
第2版として2004年4月から使用しています。
アンケート調査の結果、第2版は「必要な情報が自由
に記載できる」、「短期入院病歴を使用しているため、バ
院内のパス作成や運用、あるいはパスに関するデータ収集・分析な
ど、パス推進に力を注ぐ医師・看護部などの職員。左から、佐々木
志保子看護部相談役、鈴木克彦パス委員会委員長(副院長)
、柴田由
美子パス作成委員長、大須賀滝子総看護師長、石川みゆき副総看護
師長、土門美紀子看護師長、金子道代事務次長
リアンス発生の際は通常のカルテに戻しやすい」などの
意見のほか、第1版・第2版ともに使用経験のある人の
の多忙さのためにパス作成の積極的なかかわりができな
6割が「第2版のほうが使いやすい」という結果です。
い、③パスを経験した看護師が少ない、などの理由から
また、使用件数196例中のバリアンス発生は18例(9.2%)
パスの導入は不本意な状況にありましたが、2003年12月
ですが、これには他病棟での使用件数や平日入院の患者
から肺炎パスを導入し、2004年10月までに4例実施したこ
の使用件数が曖昧であったために、正確なCポリパス使用
とを踏まえて、同病棟看護師24人に行ったアンケート調
件数・バリアンス発生頻度を出すことができなかったと
査(回収率:100%)の結果を発表しました。
の言葉がありました。そのほか、使用マニュアルの存在
を知らない看護師が数人いたことも表明されました。
今後の課題では、①正確なパス使用件数・バリアンス
それによると、パスが「わかる」と答えたのは92%、
パスを使用して「良かった」が67%で、その理由は、多
い順に「記録が簡単である」37%、
「利用者・患者が治療
の発生頻度の把握、②使用マニュアルの見直し、の2項
の経過がわかりやすい」28%、「早期退院につながる」
目を挙げ、①については、各病棟のパス委員から報告を
12%、
「経験年数を問わず、同じように患者の観察ができ
受けるなどして、同病棟の看護師全員がCポリパスの使用
る」4%、
「指示確認に要する時間が省ける」4%という
件数・バリアンス発生件数を把握・集計することが提案
結果です。一方、
「無回答」が33%と多かったのは、パス
されました。また、バリアンス発生時に看護師が記載す
の使用が未経験であるためです。
る専用フォーマットも新たに作成しています。②は、検
また、パスの「改善点がある」は25%で、改善内容の
査前日入院に対するパスの使用方法の詳細な記載や、フ
中では「内服処方の内容を記入するようにする」が27.5%
リースペースの使用方法の具体例を挙げて説明するなど
でトップでした。これを受けて、内科病棟では2005年2月
の改善策を考えています。
からパス表の内服欄の修正と、新たに一般薬の記入欄を
会場の消化器科外来の看護師から、
「Cポリパスに最初
設けたほか、医師の助言により、予告指示欄を明記する
にかかわるのは外来であり、パスの説明が十分かどうか
などの改訂が行われています。小松氏は、
「今後はパスを
不安なので患者アンケート調査を病棟に合わせて外来で
積極的に活用して慣れることが第一で、症例数を増やし
も実施したい」との積極的な発言があり、外来と病棟の
パスを修正することが課題」と述べています。
連携・協力によるCポリパスの充実が期待されます。
会場からは、内科外来の看護師から、
「外来は肺炎で受
診する患者が多いので、看護師がしっかり認識して医師
●使用件数の少なさをいかに解消するかを討議
に働きかけていく必要がある」との発言をはじめ、薬剤
<「肺炎パスの取り組みと今後の課題―アンケート調査
師からは高齢患者の薬剤の副作用(呼吸障害)の観点か
結果から―」 3病棟(内科病棟) 小松 繭子 氏>
内科病棟はこれまで、①慢性疾患に合併症を併発して
いる高齢患者が多く入院期間が長期化している、②医師
ら、
「肺炎パスを見直すときは、薬剤師も介入できるよう
に修正してほしい」との意見が出されました。
坂本氏は、
「外来の医師・看護師を含め、全員でパスを
21
使おうという意識と、どんな患者に適用するかの方針が
題点について話し合う。やはり医師の協力がいいところ
関係者にわかっていることが大切」とし、例えば市中肺
は使用件数も増えるし、修正・改善も進むことになりま
炎を適用の対象にすると、もっとパスの症例数は増える
す」
(柴田由美子・パス作成委員長)
。
のではないかとのサジェスチョンもありました。
同病院のパス推進・調整の機関は、2003年に設立された
「パス委員会」
(委員長:鈴木克彦副院長=右ページ写真、
●工夫・改善の効果と今後の課題を明確化
パス委員:看護師6人、薬剤師・栄養士・医療事務・リハ
<「心臓カテーテルクリニカルパス実践の結果と評価」
ビリテーション・放射線技師・臨床検査技師各1人などで
2病棟(循環器内科病棟) 小野 洋子 氏>
構成)です。毎月1回開催される委員会では、パスの進行
現在、同病棟で使用されているパスは5種類で、その
状況や適用件数の報告とともに問題点・改善点を話し合
うちほぼ1年で237例と最も症例数の多い「心臓カテーテ
い、その内容を各病棟にもち帰って検討し申請する形です。
ル検査」のパス(以下、心カテパス)を取り上げ、病棟
パスの作成は、各病棟の看護師長とパス委員を含む看
看護師(20人)は紙面で、医師には口頭で質問を行った
護師が中心になり、医師の協力を得て疾患を選択し、あ
結果を参考に、パスの見直しの必要性と今後の課題を報
るいは疾患別グループを形成して標準化の作業を行い、
告しました。質問事項は、①医療者用パスを使用しての
最終的に医師に確認をもらいます。
「作成にはそれだけの
意見、②患者用パスを使用しての意見、③使用しての効
労力と時間がかかり、勤務時間内に行うのが難しいので、
果と問題点、の3項目です。
時間外や公休日になることもある」と柴田氏は話してい
①については、看護師20人中11人(55.0%)から「従
ます。また、鈴木委員長は医師のパス作成へのかかわり
来のカルテ指示箋からカーデックスの転記による見落と
について、
「外科はチーム医療だからパスに関わりやすい
しや記入漏れがなくなり、ミスが少なくなった」という
が、内科系は日常の診療で手一杯で、今のところ作成に
意見でした。医師から出された検査の指示箋を看護師が
は積極的に参加していない状況」と話しています(後述)
。
他部門へ連絡するのですが、パス導入前はその連絡が確
さらにパス運用にあたって他職種の参加の要請は、パス
実に行われているかどうかの確認が不徹底でしたが、パ
委員会の開催時に行われています。
ス導入によりパス表に「他部門への連絡」という確認事
項が入ったことで、スムーズになったとのことです。
一方、今回のパス研修会の発表にも表れているように、
パスの改訂・修正は積極的に取り組んでいく考えのよう
また、検査後の経時的な状態がひと目でわかるように、
です。2001年の本格導入以降、パスを運用していく中で
バイタルチェックシートをパス表に差し入れたことで、
修正・改訂が継続して行われており、既に第3版になっ
経験の少ない看護師でも観察項目でアセスメントし、指
ているものも少なくありません。過去3年間の主な改訂
導していけるようになったとのことです。
内容は、①入院期間の短縮、②薬剤投与期間の短縮、③
一方、②の患者用パスは20人中12人(60.0%)から、
「説明しやすい」との評価でした。ただ、検査前を対象と
する患者用パスは患者にとって理解しやすいものの、検査
医療者用・患者用パスフォーマットの充実、④アウトカ
ム設定の見直し(ステップごとのアウトカム設定など)、
⑤対象とする疾患領域の拡大、などです。
室への入室後や検査中のことは、患者用パスからは十分に
読み取れない部分があり、小野氏は「ビデオや写真、模型
などを用いて重ねて説明していきたい」と話しています。
では、パスの導入によって病院全体としてどのような
さらに③については、パスにあげられた標準様式と
変化が起きているのでしょうか。最も大きな変化は、パ
日々の達成目標にすべてのスタッフがかかわることで、
ス作成や運用の中で医師と看護師との話し合いや相談が
主に医療の標準化・効率化が達成できたが、大量の定期
増えたことといいます。
「パスの作成・運用は、チーム医
的な変動や患者満足度、質向上についても検討を加え、
療としての横のつながりがないとできない。よく相談を
パスの修正を図っていきたいとしています。
受けるのは、パスとは違った患者様の動きが起きたとき。
* * * * * * * * ●疾患グループをつくりパス作成作業にあたる
「例えばパスの使用件数が思うように伸びないなどの問
22
●各科もち回りで、医師に発表してもらうことも
パスから降ろすかどうか悩むようなケース」と鈴木氏は
指摘しています。
総看護師長の大須賀滝子氏は、
「看護師のケアの視点が
従来と変わって、アウトカム(目標)の達成度はどうか
ということに注目する
医師のパス適用・非適用の判断の見極めがポイントにな
ようになってきた。今
る」と話しています。そのほか、事務次長の金子道代氏
後は医師と私たちコメ
は「パス適用から退院までの請求漏れが少ないこと、ま
ディカルの間に患者様
た、パス適用の患者様は退院日が明確なので、治療費に
に対する視点の共有が
ついて聞かれることも含めて病棟で説明しやすくなった」
できてきたこと。さら
と強調しています。
にこの目標の共有へと
「医師の意識を高めるために、パス研
修会で発表を担当してもらいたい」
。
パス委員会委員長の鈴木克彦副院長
今後のパス研修会について柴田氏は、
「2004年12月より
広がっていけばいい」
患者用パスの評価の取り組みとして、患者満足度からア
と話しています。また、
ンケート調査を実施しており、今後は集計結果をパス研
副総看護師長の石川み
修会で紹介していきたい」と話しており、また現在かか
ゆき氏は、パス導入に
わりが少ない検査部門のパスの取り組みを課題として挙
よって「(適用患者に
げています。
は)
“この日に予定どおりに退院しましょう”と、患者様
一方、2004年12月に実施したパスの職種別意識調査で
に退院に対して納得していただけるようになった」こと
医師の関心度は94.7%と非常に高い結果が出ています。医
のほか、看護教育の面で新人など経験の浅い看護師が動
療の標準化は個別性を抑えてしまうものではないことな
きやすくなったことや、患者安全確保の意味からもケア
ど、パスの理解を深めてもらうために、あるいはパスの
の見落としがなくなったことを挙げました。
帰趨を大きく左右する医師の意識を高めてもらう方策と
循環器内科病棟師長の土門美紀子氏は、
「心臓カテーテ
して、パス研修会の提出演題を1、2題に絞り開催期間
ル検査目的で入院する患者様と、心不全などで入院後に
を短くするとともに、積極的な参加を促すために、
「各科
心臓カテーテル検査を受ける患者様では、後者にパスを
もち回りで医師にパス研修会で発表してもらうことを提
うまくあてはめることができない場合があり、その点、
案したい」と抱負を語っています。
坂本すが氏のパス大会見聞記「豪雪の中に熱い集団を見た」
秋田新幹線をJR秋田駅で降り、タクシーで本荘市に向かいました。雪国でした。「思えば遠くへ来た
もんだ∼」無意識に古い歌を口ずさんでいました。これまでもいくつかの病院のパス大会に参加させ
ていただきましたが、これほどの雪を見たのは初めてです。今回は秋田の本荘第一病院の第2回パス
大会に参加させていただきました。
会場は熱気ムンムン。テーマは「パス導入3年を迎えて、活動の分析・評価と取り組み課題を明らか
に」
。いくつかの注目したい発表と議論がありました。
薬剤師や医事課のみなさんからの「患者さんや他の医療スタッフとどのようにかかわっていけばよいか」という質問と議論。私
が感じた限りでは、みなさんはもう十分に深くかかわっていたと思います。このように言葉ではっきりと表現し、全員で議論する
こと自体がコラボレーションではなかろうか。組織変革の一般的な流れとして、顧客である患者さんにメリットを提供しない作業
や、組織の経営にメリットを提供しない部分は効率化の名の下で外注化される流れは、一般企業ばかりでなく、医療界でも同じで
す。これからは医療機関であっても、創造的な活動、つまり顧客に受け入れられるメリット、そして組織発展に貢献するメリット
を生み出していかなければ、見捨てられることも起こってくるでしょう。創造的な活動の第一歩が“疑問をもつこと”“問題意識
をもつこと”です。その意味で、みなさんは創造的な活動の第一歩をもう踏み出していると思います。頑張ってください。
もう一つ注目したい議論「パスは考えないナースを生むのでは?」
。このようなパス大会を行っている間は大丈夫でしょう。看護
はルーチンが忙しいために、それだけで仕事をしたと思って終わってしまうことが多いのは事実です。その意味でパス大会のような、
全員で疑問を出し合い、議論し合う機会をつくることがとても重要だと思います。その上で、パスを見直し、改善すべきところをど
んどんすくい上げて改良していくことが有効ですね。忙しい中でたいへんなことではありますが。それでも、DPCの導入など、他の
職種の方々と一緒に進めていかなければならないことはたくさんあります。その意味で、今後も議論は絶えないと思います。
豪雪の中で熱い集団に出会ったという思いでした。私自身パワーをいただきました。ありがとうございました。
23
パスの用語⑤
電子パス必須用語その1
最近電子カルテの特集などがよくされているけれど、
うちの病院で使っているパソコンとどこが違うの?
一般に病院端末(コンピュータ)でカルテを書く仕組みのことを電子カルテといっ
ていますが、日本ではお上(国)が電子カルテというのを決めています。すなわち
「診療録等の電子媒体による保存について」の通知の中で電子保存の三原則というの
をうたっており、それに合致するものが電子カルテです。
● 電子保存の三原則
1.真正性:正しく記載され、改ざん等ができないようになっていること
2.見読性:あとから読み返すことができること
3.保存性:長期間、安定してデータを保存できること
しかし、これでは実のところ何だかよくわかりません。
に同施行規則第23条)を負っています。また、それ以外
1.レセコンからオーダリング、電子カルテまで
の「判断の元になるデータ」は、「診療に関する諸記録」
まず病院の中にコンピュータが入ってきたのは、医事か
として2年間保存する義務(医療法第21条ならびに同施行
らでした。会計の手伝いをするものです。レセプトの処理
規則第20条)があります。これとは別にいくつかの法律
に使われている、いわゆるレセコンなどがこれにあたりま
があり、保険請求のためには「保険請求がなされる診療・
す。次にこれと連動するような形でオーダリングというも
検査等の実施の事実と結果を証拠として記録」として診療
のが多くの病院に入ってきました。これは、検体検査・放
録5年、診療録以外3年(保険医療機関及び保険医療養担
射線検査・処方などを端末機からオーダーするものです。
当規則第9条)
、損害賠償請求権は不法行為の時より20年
これと前述の医事会計システムが連動して、会計を簡略化
で時効(民法第724条)となっているので、訴えられるこ
しようという目的がありました。検体検査システム、放射
とを考えると20年は残す必要があるかもしれません。
線検査システム、薬剤処方システムなどそれぞれを管理す
また、特定生物由来製品の使用に関しては、特定生物由
る部門システムがばらばらであったものと連携をとり、一
来製品について患者氏名、住所、使用した薬剤の名称、用
つの端末から指示を出すものです。現在でもこのオーダリ
量、ロット番号(製造番号)
、使用日を20年間保存し必要
ングシステムの進歩は進んでいます。多くの企業が当社製
になった場合は提供(薬事法第68条、ならびに同施行規
品は「フルオーダリング機能」と宣伝していますが、これ
則 第62条)ということですので、これはコンピュータ
は全部のオーダリングができるということを意味してはお
の力を借りた方がいいかもしれません。
らず、オーダーできるものはできるといっているに過ぎず、
3.カルテってなに?
私には何のことだかよくわかりません。病理オーダー、眼
ここまでみてきてファジーなのは、どこまでが 「診療
科検査オーダーなどは、統一しにくいものの一つですが、
録」や 「診療にかかわる諸記録」なのかわからない点で
岐阜大学の例では決して不可能ではないことがわかり、真
す。医療裁判を考えてみましょう。裁判の時にはすべて紙
の意味での「フルオーダー(すべてのオーダー)
」が可能
で資料を提出することになりますから、電子カルテのよう
な時代になってきています。
なビデオや動きのある画面を使って診断したもの、画面が
そして、このオーダリングにカルテ記載のためのワープ
複合されるものなどをどう審判するか?ということがわか
ロ機能や看護支援機能などがついたものが電子カルテとな
りません。紙でできないことを電子カルテにやらせようと
ってきています。厳密には前述の電子保存の三原則を満た
考えて電子カルテを作ったのに、紙に打ち出しをして資料
すワープロがあれば、電子カルテと呼べるのですが、一般
を提出しろ!と言われたらどうしたらいいの?ということ
的にはオーダリングの拡張として発達してきています。さ
になります。つまるところ、電子カルテが出てきたおかげ
らにこれが進むと、院内で紙カルテや伝票を使用すること
で、裁判になると何がカルテかがよくわからない状態にな
なく、電子カルテだけで文書のやり取りができ、画像情報
っています(現状で裁判になると、各病院での定義と裁判
もすべて電子カルテ上で見て診断することのできるペーパ
所の見解の間で協議されると思います)
。今後判例が積み
ーレス・フイルムレス電子カルテになっていきます。
重ねられる間に電子カルテからの紙出力の定義が固まるの
2.法律からみたカルテ
が早いか?裁判所にコンピュータを証拠として提出するこ
上記のように、カルテを機能面からみるとちょっと難しい
ですが、法律ではどのように記載されているのでしょうか?
いわゆるカルテは法律上は「診療録」として、
「判断と
24
行為の記録」を5年間保存する義務(医師法第24条ならび
そこで、電子カルテの生い立ちを少し見てみましょう。
とができるようになるのが早いか?という問題が生じてく
るように思います。いずれにしてもそのような裁判にはか
かわり合いたくないものです。
岐阜大学医学部附属病院医療情報部 白鳥 義宗
最近よく聞く電子パスってなに?
うちの病院に電子カルテが入るとついてくるの?
「電子パス」に関しては今のところ定まった定義はまだありません。一般的には電子
カルテ上でクリニカルパス(以下パス)を使用するためのツールと理解されていま
す。では、コンピュータ上にパスを登録して印刷できるようにしたら電子パスな
の?というと、一般的にはそうとは思われていません。オーダリング機能とのリン
クがあるものということが多くの場合前提になっているようです。したがって、逆
にいうなら電子カルテでなくても、オーダリングが入っていれば電子パスを動かす
ことができるかもしれません。
また、すべての電子カルテに無条件についているものではありません。使い勝手の
いい電子パスにしようとすると、システムの根幹にかかわるところに影響が及ぶ可
能性があるので、電子カルテと電子パスの両方を導入する予定の病院では、電子カ
ルテ導入時に電子パスの相談もセットでしておく方がいいでしょう。
以下、電子パスのもっている機能について解説します。各
それぞれの電子パスにおいて工程管理が容易になるような
メーカーごとに機能は少しずつ違いますので、これらの機能
画面レイアウトや表示方法が工夫されています。
の一部または全部を含んでいるものが電子パスということに
3.患者説明機能
なります。
医療者用パスでは患者さんにはわかりにくいという問題
1.パス登録機能
点が指摘され、医療者用パスとは別に患者用パスが画面上
2.オーダリング機能(医療者用パス)
で見られたり、印刷できる機能を有している電子パスもあ
3.患者説明機能(患者用パス)
ります。さらにパスが変更されたときに医療者用パスに連
4.管理機能(バリアンス集計・解析、その他統計ツール)
動して患者用パスも自動で変わる機能をもった電子パスも
1.パス登録機能
登場してきています。これらの機能により、インフォーム
病院内におけるパスを登録・管理する機能です。登録は大
ド・コンセントをサポートするためのツールとしての働き
きく分けると、エクセルのような汎用ソフトから読み込むこ
も強化されています。
とができるタイプのものと、専用の画面上に入力していくタ
4.管理機能
イプのものの2種類があります。多くのもので、登録したパ
使用件数やバリアンス、患者満足度や職員満足度を登
スを一覧表示したり、印刷したりする機能を有しています。
録・集計・解析する機能、パス使用時の医療費やコストを
ただ前述のごとくこれのみでは電子パスとはいわないことが
計算する機能など、各種データを集計・解析し、パスの見
多く、この機能はパス支援ツールとして扱われています。
直しをするための支援機能を有しているものもあります。
2.オーダリング機能
ただこれはデータウェアハウスという統計情報をサポート
これが電子パスの中心的な機能です。画面は医療者にわ
する機能と重なる部分が多いので、電子パスの機能として
かりやすく工夫されており、オーバービュー方式であった
ではなく、データウェアハウスの機能として有している機
り、日めくり式であったり、または両方が切り換えられる
種もあります。
■ ■ ■
方式であったりします。この表示されたパスを選択するこ
とによって、自動的にオーダリングがなされることが期待
従来の紙パスを地図とすると、電子パスはカーナビのよ
されますが、その自動の範囲についてはそれぞれの電子パ
うなものです。一目ですべてがわかる一覧性は損なわれて
スによって異なります。またオーダリングの際に予約の必
いますが、紙にはないいろいろな機能を有し、上手に使え
要なオーダーについて、あいた予約枠がなければ直近の予
ば便利なものです。さらにスペースシャトルのコックピッ
約枠に変更するなどの機能をもつものもあります。連続し
トにはシャトル内のあらゆることが表示されるように、単
たオーダーが簡単なようにコピー機能を有していたり、オ
なるナビ機能だけでなく、あらゆる病院情報を総合的にナ
ーダーの変更・削除が容易になるような工夫をしたものも
ビゲーションすることを目的としてつくられる次世代型電
あります。もちろんオーダリング項目だけでなく、アウト
子カルテシステムの一部として、電子パスが組み込まれて
カムが表示されることは言うまでもありません。またここ
いるものも出てきています。今後電子パスはさらなる進化
でオーダー状況だけでなく、実施状況や検査結果なども確
を遂げて電子カルテには必須の機能となっていくものと期
認することができるようになっている電子パスもあります。
待されています。
25
編集
後記
今田 光一 先生
依田 啓司 先生
「タイムスリップグリコ」というお
まけつきのグリコを見つけました。お
まけは20∼30年前の雑誌がそのままミ
ニサイズに印刷された豆本で、鉄道フ
ァン、花とゆめ、オリーブ、ポパイな
どいろいろ。思わずいくつか買ってしまいました。私が
買った一つの中味は「4年の学習」20年前のもの。中を
見ると最近あまり見なくなった豆電球の話や、宇宙の話
など子供の頃に読んだなつかしい内容そのまま。「花とゆ
め」にはパタリロが載っていました。30年前の「ポパイ」
には、外出に持ち運べる小さなテレビの宣伝があり大革
命と書いてありました。当時これ欲しかったよな∼と感
慨にふけってしまいました。今や、携帯電話にSDカー
ドを入れて映画も見られる時代。この進歩を誰が予測し
たでしょう。
あと30年経ち「タイムスリップグリコ」がまた発売され、
中に「パス最前線」が入っていたらどう感じるんでしょう
な∼。「今は○○は常識なのに当時はパスや電子カルテで
悩んでいたっけな。なんだったんだろーなー」
グリコの味は同じでした。
坂本 すが 先生
4月から施行される個人情報保護法で
医療現場は大慌て。看護部長はいたずら
に慌てるのはつまらない、この機を利用
してなにかできないかと、お茶をすすり
ながら思いをめぐらす。そうだ、看護記
録を見直そう。患者様に見られてもびくともしない看護記
録にしよう。そして考えたのが、使ったら問題になりそう
な言葉集め。それをまとめて「使ってはいけない言葉集」
を作ろう。これを4月に入るピカピカの新人に配布すれば、
記録の質はたちまち向上だア。一挙両得。看護部長ニンマ
リする。
集まってきたハイリスクな言葉言葉。「(患者様の)清
潔・不潔動作がいまいち」「理解力がいまいち」「感情爆
発、ヒステリー?」……看護部長青くなる。こりゃたい
へんだ!
編集委員(50音順)
今田光一 黒部市民病院
リハビリテーション科/関節スポーツ外科医長
岡田晋吾 北美原クリニック院長/函館五稜郭病院客員診療部長
坂本すが NTT東日本関東病院看護部長
山中英治 市立岸和田市民病院外科医長
依田啓司 国際親善総合病院薬剤部長
編集アドバイザー
福井次矢 聖路加国際病院 副院長・内科医長
/聖ルカ・ライフサイエンス研究所
臨床実践研究推進センター長
26
「最強の医療戦略セミナー」というも
のに参加した。主催は「変革をめざす病
院の経営フォーラム」と、これまた大仰
なネーミングだと思いつつ参加した。と
ころがである。多勢の名だたる病院の院
長先生らに500人近い参加者とすごい熱狂である。第一部の
「今、電子カルテで成功するには」を聞いて得た自分なりの
結論は、電子カルテは非常に有効で重要なツールであると
いうこと。キーワードは、まず早いこと、安定しているこ
と、過大な期待を持たないこととした。因みにこのセミナ
ーの代表世話人は言わずと知れた小西敏郎先生である。
岡田 晋吾 先生
今回の特集は電子カルテということで
アナログ代表の私は蚊帳の外である。し
かし私もクリニックでは電子カルテを駆
使している。看護師たちはワープロ入力
で所見や指示がわかりやすいと言うが、
彼女たちが一番喜ぶのは私がペンで書き込む絵である。
「かわいい」とか「気持ち悪い」と毎日感動している。医
療の電子化はますます進むであろうが、作る人、使う人の
熱意が伝わるような電子カルテであってほしいと思う。私
は強く伝えなければいけないことは絵でなくても情熱的
な? 私の字でペン入力している。
山中 英治 先生
本誌発行の頃にはニッポン放送の件も
けりがついているであろう。手法の是非
はともかく、今のラジオには確かにITと
しての魅力がない。将来ソフトバンクが
野球をネット画像で配信すれば、誰もラ
ジオの野球放送など聴くまい。病院がオーダリングになっ
た時は、便利さを実感した。電子化も時代の波である。波
には逆らわず、しかし流されないように乗っかれば楽で快
適である。紙の辞書が好きだが、利便性に負けて電子辞書
を買った。だが電子文庫は読まない。良いものはパスのよ
うに自然に普及する。不要なら淘汰される。
2005年4月発行
企画・発行 第一三共株式会社
〒103-8234
東京都中央区日本橋3-14-10
編 集 エルゼビア・ジャパン株式会社ミクス
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