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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
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Journal
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神経疾患における図形反転視覚誘発電位の検討
柴田, 興一
東京女子医科大学雑誌, 59(6):672-682, 1989
http://hdl.handle.net/10470/7041
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
214
〔書女麟82第難元鞘〕
原
著
神経疾患における図形反転視覚誘発電位の検討
東京女子医科大学 脳神経センター神経内科学教室(主任 :丸山勝一教授)
シバ
タ
コウ
イチ
柴 田 興 一
(受付 平成元年3月3日)
AStudy of Pattern Reversal Visual Evoked Potential in Neurological Disorders
Koichi SHIBATA
Department of Neurology(Director;Prof。 Shoichi MARUYAMA), Neurological Institute,
Tokyo Womeゴs Medical College
The purpose of this study is to evaluate the clinical use of pattern reversal visual evoked
potentials(VEP)in the diagnosis of neurological disorders.
The sublects included thirty patients with cerebrovascular disease(CVD), twenty with motor
neuron disease(MND), twenty with spinocerebellar degeneration(SCD), ten with Parkinson’s disease
(PD), six with lnultiple sclerosis(MS)and thirty−five normal controls.
VEP abnormalities were observed in fourteen CVD patients whose lesions were located in the
parieto−occipital and temporo−occipital iesions. The half field stimulation contralateral to the affected
slde of either eye failed to evoke P100. However, VEP detected absence of P100 in one patient who had
visual disturbance without any lesions on magnetic resonance imaging. Seven patients with SCD had
VEP abnormalites, among whom two with late cortical cerebellar atrophy and two with olivopon−
tocerebellar atrophy(OPCA)had no亡only delayed P100 but also low amplitudes of P100, indicating
axonal involvements in the visual tracts. One patient with dyssynergia cerebellaris myoclonica, one
with dentatoruburo−pallido−luisyan atrophy, one with OPCA, and two with PD demonstrated
abnormally high amplitudes of P100, indicating increased magnitude of the responses over the visual
cortex and its association corte文. Two patients with PD has delayed P1001atencies, and there was a
significant correlation between P1001atency and the severity of this disease. All MND patients had
normal VEP, but there were significant differences in Iatency between the MS patients and normal
controls.
These findings suggest the usefulness of VEP for detecting subclinical lesions in the visual tracts
in several neurological disorders.
緒
醤
について検討した報告は少ない2)樹.本研究の目
図形反転視覚誘発電位pattern reversal visual
的は,各種神経変性疾患において,VEPおよび
evoked potential(VEP)1ま, Hallidayら1)により
網膜電図electroretinogram(ERG)の所見を,
1970年代から臨床応用され,主に多発性硬化症
computed tolnography(CT)あるいはmagnetic
multiple sclerosis(MS)や視神経炎などの神経疾
resonance imaging(MRI)のそれと比較検討し,
患の診断に有用とされている.神経変性疾患にお
いては,その病変が各種神経系統により広範囲に
さらにその特徴的な異常パターンを特にMSに
おけるそれと対比することによりVEPの臨床上
分布し,時に視覚路にも及ぶ可能性があるとされ
の有用性を検討することにある.
ている.しかし,本疾患群におけるVEPの有用性
一672
215
対
象
MSと診断された男性2例,女性4例で,年齢は
1.瓦師対象群
10∼40歳(平均26.2±:1L4歳),罹病期間0.5∼8.0
1)cerebrovascular disease(CVD)
年(平均3.6年)である.
以上の神経疾患の診断,病巣部位の判定,病型
CVDは30例で,男性21例,女性9例,年齢25∼76
歳(平均52.6±16,2歳),および罹病期間が,10∼90
診断には,家族歴,現病歴,神経学的所見,視力・
日(平均40.5日)である.その内訳は,脳梗塞24
視野検査およびCTやMRIによる画像診断を用
例,脳出血3例,脳動静脈奇形arteriovenous
malformation(AVM)2例,およびモヤモヤ病
いた.
2.健常対照群
健常対照群は35例で,男27例,女8例,年齢は
1例である.病巣別では,内包・外側膝状体領域
8例,側頭葉・後頭葉領域9例,および頭頂葉・
25∼64歳(平均37.8±11,9歳)である.
後頭葉領域13例である.
方
2)motor neuron disease(MND)
1.VEP
MNDは20例で,男性12例,女性8例,年齢
1)刺激
法
43∼77歳(平均54.9±11.6歳),および罹病期間が
テレビジョン方式で,白黒の格子縞模様
0.3∼2.0年冬平均1、0年)である.その内訳は,筋
checkerboardを反転させる図形反転刺激を用い
萎縮性側索硬化症amyotrophic lateral sclerosis
た.視野の半径を視角21.5.,白黒模様の大きさを
(ALS)18例,および球脊髄鉄筋萎縮症Kennedy−
視角82ノとした.全視野刺激では被検者に視野の中
Alter−Sung syndrome(KAS)2例である.
心を固視させ,半側視野刺激では刺激野と非刺激
3)脊髄小脳変性症およびその類縁疾患
野の境界線の中点を非刺激側に1.ずらせた点を
spinocerebellar degeneration(SCD)は20例で,
固視点とし,片眼ずつ開眼で施行した.コントラ
男性13例,女性7例,年齢17∼77歳(平均51.6±:
スト80%,図形反転の時間間隔5⑪Omsecとし,被
15.9歳),および罹病期間が1.0∼9.0年(平均3.9
検者を画面から1mの距離に座らせ,左眼と右眼
年)である.その内訳は,オリーブ橋小脳萎縮症
を交互にそれぞれ計2回ずつ施行した.また,近
olivopontocerebellar atrophy(OPCA)9例,晩
視や遠視がある場合は眼鏡にて予め矯正した.
発性小脳皮質萎縮症late cortical cerebellar
2)記録
atrophy(LCCA)2例,多系統萎縮症multiple
Hallidayら7)の提唱した電極配置法に従い,図
1に示すように,記録電極を後頭結節から上方5
system atrophy(MSA), Menzel型SCD 2例,
cmの部位(正中後頭電極:MO)と,その点と耳
歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症dentato rubro
pallido luysian atrophy(DRPLA)2例, Holmes
介前点を結ぶ線上でそれぞれ左右に5cm側方の
型SCD 1例, Shy−Drager症候群(SDS)1例,
外側後頭部(LO, RO)に,また,基準電極を,鼻
およびdyssynergia cerebellaris myoclonica
(DCM)1例である.
鼻根部
4)Parkinson’s disease(PD)
12−i
PDは10例で,男性4例,女性6例,年齢44∼77
歳(平均62.4±13.4歳),および罹病期間が
M
MF
1.0∼13.0年(平均4.6年)である.Yahr重症度分
類では,II度3例, III度5例,およびIV度2例で
LO MO RO
5・需幽
ある.
5cm
p
5)MS
後頭結節
対象は厚生省MS調査研究班の診断基準6)に基
図1 VEPのモンタージュ
づくprobable MS, possible MSまたはde丘nite
一673一
216
根部から上方12cmの部位(MF)に置いた(図1).
とした1)8).半側視野刺激の場合には,刺激と同側
なお電極は銀一塩化銀電極を用い,接触抵抗を5Ω
に同様な三相性波形が誘発される(paradoxical
以下とした.周波数帯域1∼200Hz,加算回数100
lateralization)9). P100の潜時,および振幅,すな:
回,および分析時問200msecにて記録した.
わちN75−Pユ00間の振幅について検討した.潜
時,振幅は平均値±2SD以上を異常とした.
3)記録波形
全視野刺激の場合にはMOを中心として陰性
2.ERG
一陽性一陰性の三相性波形が現れ,左右対称性に
記録電極を下下険部,基準電極を耳朶に置き,
分布する.頂点の名称は,極性と正常者における
発行出力10jouleの閃光刺激を用い,加算回数100
平均潜時に基づいてそれぞれ,N75, P100, N145
回で閉眼にて一眼ずつ施行し,刺激開始後に現れ
表1 正常対照群およびMND, SCD, PDの各群におけるP100の平均潜時・
振幅
Latency
(msec)
Field
Amplitude(μv)
Right eye
Left eye
Right eye
101,3±3,8
103.6±3.1
7.1±2,5
7.2±2.6
99.6±6。4
100.2±4.6
4.3±1.6
3.7±1.4
103、4±4,2
ユ00.5±5,2
4.5±1.5
4.7±1。7
Left eye
Norlnal contro1
Full
Left half
Right half
MND
Full
100,4±7.0
99.7±5,7
7./±2.9
7.0±2.9
Left half
99.4±7,0
96,5±5.2
3.9±1.1
3.5±1.3
Right half
99.7±5,7
99。3±8,3
4.8±1.6
4.1±1,3
Full
105,9±9.1
104,6±9.2
7.2±4.5
6.8±3.7
Left half
104,9±9.5
103.8±10.8
4,1±L9
4.4±2.5
Right half
104.3±10,0
104.1±9.9
3.6±2.1
3.5±1.5
SCD
PD
Full
107,6±10.0
105.9±4.4
9.0±4.1
10,1±5.1
Left half
108.0±10.2
104,6士7.3
6.2±2.2
5.3±2.4
Right half
104,3±9.6
104.6±4,1
5,0±2,5
5.8±2.1
平均値±標準偏差
Normd subjec†:H.S,29》葭M.
…lf・・ld L・f・E・・ ㊧ R・gh・Ey・
四川 ヘノ\・一◎
1…h・ff・・ld ㊥
1::漂二蕊ニニ:こび珍
・・gh・h。lf…ld ⑫
::鴛ごこジこ:二こご二逸
13μv
Q
IOO
2QO
O
lOO
m5eG
20Q
msec
図2 1鍛工者におけるVEP記録
矢印はP100を示す(以後同様).
一674
217
た下向きの振れをa波,続く上向きの振れをb波
30歳.男性
について検討した10)11>.
結
果
b
1.健常対照群
健常対照群において,全および半側視野刺激に
a
よりそれぞれ誘発されたP100の潜時と振幅を表
1に,実際に記録された波形を図2に,さらに正
常ERGを図3に示す.左眼と右眼との間では潜
」15・・
時,振幅ともに有意差が認められなかった.
10msec
図3 健常老におけるERG記録
2.CVD
VEP異常は30例中14例(47%)でみられた.こ
のうちP100消失が14例中10例(71%)で, P100の
頭葉領域の11例中7例(67%)にVEP異常を認め
延長が14例中4(29%)で認められ,消失例が有
た(表2).
意に多く認められた(p〈0.05).視野異常とVEP
次に代表例におけるVEP,視野検査およびCT
所見問の相関については,同名性二分の一半盲を
のそれぞれの実際の記録所見を示す.図4(症例
認めた3例全例(100%),同名性四分の一半盲を
1)は半盲を自覚した脳梗塞の53歳女性例での記
認めた12例中6例(50%),さらに半盲の明かでな:
録である.視野検査で左同名性二分の一半盲を,
い15例中7例(47%)においてもVEPの異常を認
そして,CTでは右後頭部から側頭部の梗塞が認
めた.病巣部位とVEP所見間の相関では,内包・
められた.VEPでは,左半側視野刺激における
外側膝状体領域の8例中1例(13%),側頭葉・後
P100が両眼共に消失していた.図5(症例2)は
表2 各種神経疾患における臨床像,CT所見,およびVEPの異常率
A)CVDにおけるVEP
CVDのVEP異常
VEP異常
14/30( 47)
P100の消失
P100の延長
視野異常とVEP異常
二分の一半盲
四分の一半盲
10/14( 71)
半盲の明かでない症例
病巣部位とVEP異常
内包・外側膝状体領域
側頭葉・後頭葉領域
頭頂葉・後頭葉領域
B)MNDにおけ’るVEP
P100の延長
P100の振幅異常
C)SCDのVEP異常
P100の延長
OPCA
LCCA
P100の高振幅
OPCA
DRPLA
DCM
D)PDのVEP異常
症例数(%)
P100の延長
Yahr II
III
IV
4/14( 29)
P100の高娠幅
Yahr II
III
IV
3/3 (100)
6/12( 50)
7/15( 47)
症例数(%)
2/10(20)
0/3(o)
0/5(0)
2/2 (100)
3/10(30)
1/3(33)
2/5(40)
0/2(0)
E)MSにおけるVEP
1/8(13)
6/9(67)
7/11( 64)
症例数(%)
0/20(0)
P100の平均値
潜時
振幅
P100の延長
P100の振幅異常
0/20(0)
症例数(%)
4/20( 20)
2/9(22)
2/2 (100)
3/20( 15)
1/9(11)
1/2(50)
1/1(100)
一675一
134.2±24.7(msec)
8.0±3.3(μv)
5/6(83%)
0/6(0%)
218
ソゆ ささメリ
ソ ヒ さエド
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一・dL…E。 開07−5452
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P
図4 症例1.右側頭∼後頭葉の脳梗塞例における
VEP,視野検査,およびCTの各所見
VEPでは左半側視野刺激における両眼のP100の消
図5 症例2.左頭頂∼後頭葉のAVM例における
VEP,視野検査,およびCTの各所見
VEPでは右半側視野刺激における両眼のP100の延
失を認める.
長を認める.
AVMの33歳男性例での記録である.視野検査で
あった(表2).しかし,P100延長例のうち, ERG
右側の不規則な同名性半盲を認め,そしてCTで
は左後頭部から頭頂部に造影効果を示す境界明瞭
を測定し得た2例については,ERGに異常が認め
られなかった.また,P100の高振幅が20例中3例
なAVMを認めた. VEPでは,右半側視野刺激に
(15%)でみられた.その内訳は,OPCA, DRPLA
おけるP100が両眼共に延長していた.図6(症例
およびDCMのそれぞれ1例であった.しかし,
3)は,39歳の男性で突然,左側の不規則な同名
SCD群と健常対照群間に潜時,振幅ともに有意差
性半盲が出現し,臨床上,緑内障等の眼科的疾患
が認められなかった(表1).P100の延長を認めた
は否定的で,高血圧,高脂血症などのrisk factor
OPCAでの実際の記録を図7に,それとP100の
高振幅を認めたDCM例でそれを図8に示す.
があり,CVDが疑われた. CT, MRIでは明らか
な異常は認められなかったが,VEPでぽ左半側視
5.PD
野刺激におけるP100は両眼共に消失していた.
P100の延長が10例中2例(20%)みられ,これ
3.MND
らはいずれもYahr IV度の患者であった.また,
MND 20例については,全例においてVEPの
P100の高振幅が10例中3例(30%)にみられ,そ
潜時,振幅に異常はみられなかった(表1,2).
4.SCD
のYahr重症度は, II度1例およびHI度3例で
あった(表2).また,ERGはP100延長例のうち
P100の延長は20例中4(20%)例でみられた.
測定し得た1例においては異常を呈さなかった.
その内訳は,OPCA 2例,およびLCCA 2例で
さらに,PD群と健常対照三間には潜時,振幅共に
一676一
219
ソの ヨ いりヒ
庄例1四歳.女性,LCCA
門■6−72
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100
200
ms㏄
図7 LCCA例におけるVEP所見
各刺激においてP100の延長を認める.
図6 症例3.MRI上では明らかな異常を認められな
いが,VEP,視野検査は異常が認められた症例
VEPでは左半側視野刺激における両眼でのP100の
症例:且8歳.女性,DRPLA
消失を認める.
乱川価dd
有意差は認められなか’つた(表1).P100の延長を
Le耽Eye
MO→4F
1
示した症例での実際の記録を図9に示す.
6.MS
P100の延長は6例中5例(83%)でみられたが,
Ie髄h創f斬dd
振幅の異常は認められなかった.MS群における
P100の平均潜時は134.2±24.7msecであり,健常
LQ−MF
1
対照群(101.3±3.8msec)と比較し,有意(p<
0.05)に延長していた(表2).de血nite MS例に
じ いいあ
おける実際の記録を図10に示す.
考
察
VEPは, P100を中心に三相性の比較的安定し
た波形として記録され,他の大脳誘発電位と共に,
h・
最近臨床上広く応用されている.視覚伝導路は,
主に,網膜神経節細胞→視神経→視神経交叉→視
索→外側膝状体→視放線→後頭葉の視中枢
(Broadman 17野)に至る経路で示され,上部視野
o
loo
図8 DRPLA例におけるVEP所見
各刺激においてP100の高振幅を認める.
一677一
鷺㏄
220
症例:37歳.男性.MS
症例:76歳.女性,Parkinson病
勧ll field
杣ll fidd
Left Eye
MO−MF
しe徒Eye
畢
le硅halffield
Ie貿half fleld
_《ご=〉諮=こ
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R。一M・一> 1
o
100
1領,
1釦・
0
200
100
200
附sec
msec
図10MS例におけるVEP所見
図9 Parkinson病例におけるVEP所見
全,および左半側視野刺激におけるP100の延長が認め
られ,右半側視野刺激ではP100は不明瞭である。
各刺激においてP100の延長を認める.
が視放線の下部を通り,下部視野が視放線の上部
れている.これらの報告にみられるように,視神
を通り,視中枢に終わるとされている.VEPは網
経を含む視覚伝導路の電気生理学的検討には,そ
膜から視中枢や視覚連合野にわたる電位変化を反
の加齢変化を考慮すべきであると考えられる.本
映すると考えられており12),臨床上,視神経疾患の
研究では年齢を対応させて各神経疾患のVEPを
ほかに視神経交叉部や交叉後の病変の診断に応用
測定した.そのほか,視力,集中力,および疲労
されている.
なども関与してくるといわれていることから,測
1.健常対照群の検討
定にあたっては,常に被検者の状態を配慮しなが
P100の潜時,振幅については,健常者の全例に
ら検査を施行した.
おいて誘発され,従来の諸家の報告とほぼ同様な
2.CVI)
結果がえられた2)∼4).VEPは測定時の様々な条件
CVDの診断に対するVEPの臨床応用は,黒岩
で影響を受けると考えられるが,そのなかでも画
ら15)により行おれた.彼らによると半側視野刺激
面のコントラスト,格子縞模様や刺激視野の大き
を用いることによって半盲の診断が可能とされて
さなどが特に関係するといおれている2)3).本研究
いる.本研究では,外側膝状体,側頭部,頭頂部
では,日本脳波筋電図学会の提唱した方法8)に従
および後頭部における視覚路にCTやMRI上異
い,これらの因子を常に一定にした条件で検査を
常の認められた症例,自覚的に半盲を認めた症例,
施行した.
さらにCTや, MRI上視覚路に病変が認められる
また,VEPが被検者の状態によっても変化する
が,半盲の有無の判定の困難な症例を対象とした.
ことが知られている.すなわちうその潜時が加齢
視野異常が明らかであった9例のうち,同名性
と共に延長し13),かつ,その振幅が低下する14)とさ
二分の一半盲を呈した3例全例にVEP異常を認
一678一
221
めたが,同名性四分の一半盲を呈した6例では,
上障害部位が不明瞭な症例における視覚路病変の
その3例(50%)に異常が検出されるにすぎなかっ
半盲の補助診断にはなり得ると考えられた.また,
た.CVDにおける視野異常に対しては, Gold−
P100の消失は14例中10例(71%)に認められ, P100
mann視野計を用い検討した.視野異常は,その障
の延長が14例中4例(28%)であることに比し有
害部位により様々な型を呈すると考えられる.す
意(p〈0.05)に多く,CVDにおけるVEPの特徴
なおち,比較的限局した後頭部病変で同名性二分
的な所見である可能性が示唆される.
の一半盲を呈する症例では,半側視野刺激による
VEPに異常を認めることが多いが,視放線病変で
3.SCD
文献上,SCDの中ではFriedreich病がVEP異
は,不規則な視野異常に同名性四分の一半盲を伴
常を呈するとの報告18)∼20)は比較的多数みられる.
うことが多く,VEP異常の出現率は低いと考えら
VEP異常を呈するそのほかの病型としては,
OPCA2D, hereditary spastic ataxia20), Ramsay
れる.
しかし,Blumhardら16)は,視野欠損例で単眼の
Hunt症候群(DCM)19)などが報告されている.
全視野刺激を行うと,左右いずれの眼刺激でも,
VEP異常の出現率に関しては, Friedreich病5例
視野欠損のある側と同側の頭皮上からのVEPが
中3例(60%)19),あるいは6直線4例(67%)21)と
異常を呈すると報告している.しかし,本研究で
高率にP!00潜時の延長を認めたとする報告はあ
はこのような所見が認められず,また,黒岩らの
るが,ほかの病型でのVEP異常の出現率は低く,
報告17)でも50%のみにしか認められなかったとし
Sridharan21>によるとOPCA 5例中1例(20%)と
ている.この原因は,Blumhardら16)の症例は,同
されている.
名性二分の一半盲の症例がほとんどを占めたが,
本研究におけるSCD例でのP100潜時は,
本研究における症例では,視野欠損が二分の一半
OPCAでは, Sridharan21)の報告とほぼ同様に延
盲に比べ範囲が狭く,また,視野欠損が不規則な
長し,さらに,過去の報告にはないLCCAの2例
症例が多かったためと考えられる.
ともに,同様に延長した.これらの病型では,文
しかし,運動性失語のために視野検査の施行が
献上,病理学的には明かな視覚路の病変が認めら
困難であり,半盲の存在が明らかでなかった症例
れず,また,臨床上も視覚の明らかな異常が認め
では,左半側視野刺激における両眼のP100の延長
られないことから,潜在性病変による視覚路の機
あるいは消失が認められ,半盲の存在が示された.
また,モヤモヤ病の1例では,CT上明かな病変が
能異常が示唆される.さらに,SCD群における
VEP異常例ではP100の振幅も低下していた.他
認められなかったが,Xe血流シンチ上,左側頭頂
方,MS症例での特徴的なVEP所見は, P100の振
部から後頭部において血流低下が示唆され,かつ
幅低下を殆ど伴わないその潜時の延長とさ
VEPにおいても左半側視野刺激において両眼の
P100の消失を認めXe血流シンチの障害部位に一
致してVEP異常が認められた.さらに,症例3に
れ22)23),本研究でも後に述べるごとく同様な所見
示されるように,CT, MRI上明らかな病変が認め
られない症例においても,VEPにより異常を検出
における特徴的所見と考えられる.MSにおける
主病変が髄鞘に存在して,VEPは潜時のみ異常に
し得たことは,VEPがCVD病変の部位診断上有』
延長するのに比し,SCDにおけるこのVEP異常
用であると考えられる.
のパターンは,髄鞘のみならず軸索にもその潜在
半側視野刺激を用いたCVDに対するVEPの
が得られた.したがって,本研究でみられた,P100
の振幅低下とその潜時延長の併存とがSCD症例
性の病変24)あるいは機能異常の存在を示唆するも
検討では,自覚的,眼科的にも視野異常が明らか
のと考えられる.
な症例においては,VEPの臨床上の有用性が必ず
SCDにおけるP100の異常高振幅は, DCM,
しも高くはないが,視野検査が困難で,視野異常
DRPLA,およびOPCAの各1例にみられた.反
の有無が臨床上明らかでない症例や,CTやMRI
射性ミオクローヌスにおいて,パターン刺激を用
一679一
222
いたVEPでP100の異常高振幅が報告されてい
を考える上で重要であると考えられる。
る25).また異常高振幅VEPを呈する症例では,
5.MND
long loop reHex(以下LLR)の充進もしぼしぼ
本研究では,全例でP100の潜時,振幅ともに異
合併することから,視覚路,特に視覚連合野の易
常を認めなかった.文献的にはLaxerら33)が
興奮性が推測され,VEPの異常高振幅は視覚伝導
P100潜時の延長を報告している.しかし, Math−
機能の前通や易興奮性を反映していると考えられ
esonら34>, Cascinoら35>は, MNDにおいて体性感
ている26).
覚誘発電位(SEP)や聴性脳幹反応(ABR)が一
DRLA症例では,ミオクローヌスの合併やミオ
部の症例で異常を呈したが,VEPは全例で正常で
クローヌス発作の既往は認められず,平山らの分
あったとしている.本研究においても同様な結果
類27)に従えば,ataxo−choreoathetoid formに分
が得られ,その視覚路には異常を伴わないものと
類される.しかし,臨床経過上その症候が変化す
考えられた.
ることがあり27),現時点ではmyoclonus epilepsy
6.MS
formと異なる病態と考えられるが,潜在性の
LLRの充進も示唆され今後の経過観察が必要と
P100潜時の延長は,6例中5例(83%)にみら
れ,健常対照群と比較して有意(p<0.05)に延長
思われる.
していたが,その振幅の異常は認められなかった.
4.PI)
また,視力低下が明らかでなかった3例中2例
P100潜時の延長が2例にみられ,いずれも,
(67%)に異常が認められ,潜在性の視覚路病変の
Yahrの重症度分類IV度で,薬物治療が困難で
検出に有用と考えられた。一般に,脱髄疾患では
あった.しかし,これらの症例の罹病期間は2∼3
脱髄線維での伝導速度が一様に著しく低下するた
年であり,罹病期間5年以上の症例でも,必ずし
めに,波形および各成分の持続や振幅に変化がな
もP100の延長が認められないことから,罹病期間
く,主としてP100の潜時が延長する5)と考えられ
よりも重症度がP100延長と相関するものと考え
ており,本研究におても同様な結果が得られた.
られる.
MS症例の50∼96%にVEP異常を認めるとする
ドーパ剤のVEPに及ぼす影響に関しては,
報告2)があり,本研究においても同様の診断上の
Bodis−Wollnerら28)がP100の著明な延長を報告
有用性が確認された.
して以来,同様な報告が散見される29)30>.また,網
結
膜にドーパミンニューロンが存在することが確認
語
1.神経疾患86例,すなわちCVD 30例, MND
され,実験的にもドーパミン遮断剤によりVEP
20例,SCD 20例, PD 10例およびMS 6例,なら
異常が惹起されることも確認されている31).臨床
びに健常対照群35名を対象としてVEPを施行
上もドーパ剤の治療前後でVEPを比較検討し,
し,その臨床上の有用性について検討した.
臨床症状の改善と共にP100の有意な短縮が認め
2.CVDにおけるVEP異常は, P100の消失が
特徴的であった.また,VEPの病巣診断上の有用
られたことから,VEPがPD治療の指標になり得
性に限界があるものの,CTおよびMRI上病変が
明らかでない症例においてもVEPの異常が認め
るとの報告がみられる32).本研究においては,
ERGは測定し得た症例では異常が認められな
かったが,ドーパ剤の投与前後でのVEPおよび
られた.
ERGの変化は検討されておらず,ドーパ剤以外の
3.SCDにおいては, OPCAとLCCAにおける
治療薬の評価を含め,今後の課題であると思われ
P100潜時の延長と振幅の低下は,視覚路の軸索,
る.以上から,VEP異常が器質的な視覚路の異常
髄鞘両者における潜在性病変の存在を示唆し,そ
のみを反映するのではなく.ニューロトランス
の特徴的な所見と考えられた.また,DCM,
ミッターを介する神経伝導,特にレセプターの異
DRPLAおよびOPCAでのP100の異常高振幅
常により惹起されることは,変性疾患などの病態
は,視覚路の易興奮性を示唆するものと考えられ
一680一
223
Aparadox in the lateralization of the visual
た.
evoked response, Nature 261:253−255,1976
4.PDでは, Yahr IV度の重症例で2例
10)Bruce DN, Robert JW, Gian EC et al l The
innuence of direction Qn gaze on the human
(100%)ともにP100の潜時延長が認められた.
5.MNDでは,その全例でVEPに異常なく,
electroretinogram recorded from periorbital
視覚路には異常が合併しないものと考えられた.
electrodes:Astudy utilizing a summating tech−
nique. Elec廿oencephalogr Clin NeurophysioI
6.MSでは,正常対照群と比較し振幅には差を
35 :495−502, !973
認めなかったが,P100潜時は有意に延長し,潜在
11)内田邦子:皮膚電極による閉眼ERGの研究.日
性病変の検出にも有用と考えられた.
眼会誌 82:736−739,1978
12)安達恵美子:視覚誘発電位一基礎的な面から一臨
7.VEPは,神経疾患における視覚野の潜在性
床誘発電位診断学(中西孝雄i,吉江信夫.編),pp135
病変の検出に有用と考えられた.
−145,南江堂,東京(1989)
13)Celesia GG, Daly RF: Effect of aging on
visual evoked reaponses. Arch Neurol 34:
稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました
403−407, 1977
神経内科主任,丸山勝一教授に深謝致します.
14)Snyder EW, Dustman RE, Shearer DE:
また,終始御指導頂きました神経内科小林逸郎助教
Pattern reversal evoked potential amplitudes:
授,大澤美貴雄博士に深謝いたします.
Life span changes. Electroencephalogr Clin
さらに症例の呈示に御協力頂きました神経内科学
Neurophysio152:429−434,1981
15)Kuroiwa Y, Celesia GG: Visual evoked
教室の二二生方,視覚誘発電位の検査に御協力頂いた
potentia16 with hemi丘eld pattern stimulation.
Their use in the diagnosis of retrochiasmatic
伊藤道子先生,神経内科脳波室,小原紀子氏,原田 勉
氏および石井紀子氏に深謝致します.
lesions. Arch Neuro138:86−90,1981
文 献
16)Blumhardt正D, Barrett G, Halliday AM:
1)Halliday AM, Michael.EF:Changes in
The asymmetrical visual evoked potential to
pattern−evoked responses in man associated
with the vertical and horizonta1面eridians of
significance for the analysis of visual field
pattern reversal in one half field and its
visual field. J Physiol(Lond)208:499−513,1970
defects. Br J Ophthalmol 61:454−461,1977
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床誘発電位診断学(中西孝雄,吉江信夫編),pp164
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一681一
224
nlanagement of patients suspected of multiple
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refrex一・・ンマー叩打刺激と閃光刺激一.臨床脳
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32♪Bhaskar PA, Vanchilingam S, Bhaskar EA et
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淡蒼球ルイ体萎縮症の臨床病理学的研究(1)一臨
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1980
1981
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Abnormalities of multimodality evoked poten−
of visual evoked potentials in Parkinson’s dis−
tials in amyotrophic lateral sclerosis. Arch
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29)Gawel. MJ, Das P, Vincent S et al: Visual
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P皐rkinson’s disease. J Neurosurg Phychiatry
logy 38:231−238, 1988
一682一
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