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ファイル自律配置方式を備えた仮想一元化 NAS システム X

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ファイル自律配置方式を備えた仮想一元化 NAS システム X
ファイル自律配置方式を備えた仮想一元化 NAS システム
X-NAS の実現と評価
川本 真一† 江端 淳†
沖津 潤† 保田 淑子†
樋口 達雄†
濱中 直樹†
†(株)日立製作所 中央研究所 〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪 1-280
E-mail:
†{skawamo, ebata, j-okitsu, yoshikoy, higuchi, hamanaka}@crl.hitachi.co.jp
あらまし 安価で容量スケーラブルなオフィス用途向け NAS を実現するため,複数のエントリ NAS を構成要素とし単一ファ
イルシステムビューを提供する仮想一元化 NAS システム X-NAS(eXpandable NAS)を提案する。仮想一元化 NAS システムに
は,ある要素 NAS に空きがなくなると他の要素 NAS に空きがあっても書き込みができなくなるディスク残量問題がある。従来
は手作業でファイルを移動して対応していたが,X-NAS は使い勝手を向上するため,空きの少ない要素 NAS のファイルを空
きの多い要素 NAS に自律的に移動する自律リバランス機能を備える。プロトタイプシステムによる評価から自律リバランス機
能の有効性を検証した。
キーワード NAS,クラスタシステム, 単一ファイルシステムビュー,自律制御,ディスク残量問題, ファイルサイズ分布
Expandable NAS (X-NAS) and Its Autonomic File Redistribution Policy
Shinichi KAWAMOTO†
Atsushi EBATA†
Tatsuo HIGUCHI†
†Hitachi, Ltd., Central Research Laboratory
E-mail:
Abstract
Jun OKITSU†
Yoshiko YASUDA†
Naoki HAMANAKA†
1-280 Higashi-koigakubo Kokubunji-shi, Tokyo 185-8601, Japan
†{skawamo, ebata, j-okitsu, yoshikoy, higuchi, hamanaka}@crl.hitachi.co.jp
To achieve both reasonable cost of ownership and capacity scalability in office use NAS, we propose an
expandable network attached storage (X-NAS) which is a cluster system of two or more entry-level NASes and offers an
unified file system view. In such cluster system, the file size variation causes disk usage unbalancing problem. When one
elemental NAS is filled up to its capacity, users can not write additional files into the system, even if the other elemental
NASes have enough space. We solved this problem by adding an autonomic file redistribution policy to X-NAS. Experimental
results indicate that this policy can solve disk usage unbalancing problem.
Keyword Network Attached Storage(NAS), Cluster System, Unified File System View, Autonomic Control, Disk Usage
Unbalancing Problem, File Size Distribution
クライアント
1. はじめに
UNIX
UNIX(NFS)
(NFS)
Windows
Windows(CIFS)
(CIFS)
安 価 で管 理 が容 易 であることから,企 業 の部 門 等 がオフィ
データの流れ
LAN
X-NASシステム
ス ユ ー ス を 目 的 と し て エ ン ト リ NAS(Network Attached
内部LAN
Storage)を導 入 するケースが増 えている。インターネットコン
テンツ市 場 の急 速 な拡 大 により,個 々のデータ量 は増 大 し,
nfsd
Xnfsd
nfsd
nfsd
File System
File System
それと共 に NAS に格 納 されるデータ量 も増 加 していく。
エントリ NAS は安 価 だが容 量 拡 張 性 に乏 しい。容 量 が足
りなくなると,新 たに同 種 の NAS を購 入 することになるが,複
数 NAS を使 い分 けなければならず使 い勝 手 が悪 い。拡 張
dir2
性 の高 いミッドレンジ NAS に移 行 することも考 えられるが,価
fileA
格 がエントリ NAS に比 べて大 幅 に高 く,移 行 の手 間 もかかる。
データの急 増 と現 状 NAS 製 品 の価 格 体 系 を考 慮 すると,企
Samba
Manager
File System
File System
/
/
/
/
dir1
dir1
dir1
dir2
dir3
fileA fileB fileC
データディスク
される。そこで,エントリ NAS を要 素 とするクラスタ構 成 により
管理ディスク
親NAS
dir2
dir1
dir3
dir2
dir3
fileB
fileC
データディスク
データディスク
子NAS1
子NAS2
図 1: X-NAS の構 成
業 の部 門 等 がオフィス用 途 に使 用 するには,安 価 で使 い勝
手 が良 く,容 量 拡 張 性 の高 い NAS へのニーズが高 いと予 測
dir3
2.2. 基 本 方 式
本 節 では,X-NAS の構 成 , 単 一 ファイルシステムビュー
価 格 を抑 え,複 数 要 素 NAS を仮 想 化 技 術 により単 一 ファイ
提 供 方 式 ,および,容 量 拡 張 ・縮 退 方 式 について述 べる。
ルシステムに見 せることで使 い勝 手 を向 上 し,要 素 NAS の
2.2.1. X-NAS の構 成
追 加 により容 量 拡 張 を実 現 した仮 想 一 元 化 NAS システム
X-NAS(eXpandable NAS)を提 案 する。
NAS に格 納 するファイルのサイズにはばらつきがあるため,
X-NAS の構 成 を図 1 に示 す。X-NAS は複 数 のエントリ
NAS を構 成 要 素 としたクラスタシステムである。ただし,クライ
アントからの使 い勝 手 を考 慮 すると,システム全 体 が一 つの
仮 想 一 元 化 NAS の各 要 素 NAS のディスク使 用 量 に偏 りが
装 置 として扱 えることが望 ましい。そこで,一 台 の要 素 NAS
生 じ,特 定 の要 素 NAS だけディスクが一 杯 になる場 合 があ
を X-NAS のエントリポイントとする。この要 素 NAS を親 NAS
る。このとき,他 の要 素 NAS には空 きがあるにも拘 わらず,そ
と呼 ぶ。クライアントが X-NAS にアクセスする場 合 には必 ず
れ以 上 ファイルを書 き込 めないというディスク残 量 問 題 が発
親 NAS にアクセスするものとする。親 NAS 以 外 の要 素 NAS
生 する。この問 題 に対 し,従 来 は一 杯 になった要 素 NAS の
を子 NAS と呼 ぶ。X-NAS の唯 一 のエントリポイントである親
特 定 のディレクトリ以 下 のファイル群 を手 動 で他 の要 素 NAS
NAS には,クライアントからの全 てのリクエストが集 まる。従 っ
に移 動 し てい たが,使 い 勝 手 が悪 く, 管 理 コストが大 き かっ
て,親 NAS はファイルアクセスに関 するすべての情 報 を知 る
た。そこで,X-NAS では,システムが自 律 的 にファイル群 を
ことができる。そこで,親 NAS に X-NAS のすべての機 能 を
移 動 してディスク使 用 量 の偏 りを是 正 する自 律 リバランス機
集 約 して持 たせる。こうすることで,子 NAS には特 別 な機 能
能 を塔 載 し,ディスク残 量 問 題 を予 防 する。
を持 たない通 常 の NAS を用 いることができる。 要 素 NAS の
本 稿 では,まず X-NAS の基 本 方 式 について述 べた後 ,
自 律 リバランス機 能 の実 現 と評 価 について述 べる。
台 数 に方 式 的 な制 限 はないが,一 般 的 な 100Mbit イーサネ
ット利 用 時 は性 能 的 観 点 から 8 台 が実 用 的 な限 界 である。
親 NAS の Xnfsd は X-NAS のために開 発 した NFS サーバ
2. X-NAS の基 本 方 式 と課 題
機 能 を提 供 するデーモンプログラムである。Xnfsd は管 理 デ
X-NAS は UNIX や Windows クライアントに対 しネットワー
ィスクを用 いながら要 素 NAS を仮 想 化 し,クライアントに単 一
クファイルシステムを提 供 する NAS である。サポートプロトコ
ファイルシステムビューを提 供 する。親 NAS が UNIX クライア
ルは NFS と CIFS である。本 章 では,X-NAS の基 本 コンセ
ントから NFS リクエストを受 けると,Xnfsd は要 素 NAS に NFS
プト,基 本 方 式 ,および,課 題 について述 べる。
リクエストを発 行 してデータディスクにアクセスし処 理 を行 う。
親 NAS が Windows クライアントから CIFS リクエストを受 ける
2.1. X-NAS の基 本 コンセプト
と,フリーソフトウェアである Samba と親 NAS のファイルシステ
企 業 の部 門 やワークグループではオフィス用 途 の NAS に
ムが CIFS リクエストを NFS リクエストに変 換 し,それを Xnfsd
(1)低 価 格 ,(2)使 い勝 手 の良 さ,(3)容 量 拡 張 性 ,の三 点 を
が処 理 する。これにより,UNIX と Windows との間 でファイル
期 待 している。これらすべてのニーズを満 足 するため X-NAS
の共 有 ができる。Manager は新 規 開 発 したデーモンプログラ
の基 本 コンセプトを以 下 の三 点 とする[1]。
ムで,子 NAS の追 加 ・削 除 機 能 を提 供 する。
(a) 低 価 格 を実 現 するため,エントリ NAS を要 素 としたクラス
2.2.2. 単 一 ファイルシステムビュー提 供 方 式
タ構 成 を取 る。
(b) ユ ー ザ の 使 い 勝 手 を 向 上 す る た め , ク ラ イ ア ン ト に 対 し
単 一 ファイルシステムビューを提 供 。
(c) 容 量 拡 張 ・縮 退 は要 素 NAS の追 加 ・削 除 により対 応 。
(1) 仮 想 ファイルツリー
クライアントに単 一 ファイルシステムビューを提 供 するため,
親 NAS はシステム全 体 のファイルツリーを管 理 ディスクに保
持 する 。 こ のフ ァ イ ルツリ ーを 仮 想 フ ァ イ ル ツリ ーと 呼 ぶ 。 管
理 ディスクには通 常 の UNIX ファイルシステムが構 築 され,そ
となる。ファイルグループと格 納 先 要 素 NAS との関 係 はグル
の上 に仮 想 ファイルツリーの全 てのディレクトリが作 成 される。
ープ管 理 テーブルというテーブルで管 理 する。
また仮 想 ファ イルツリーのすべてのファイルもこのファイルシ
上 記 の演 算 を用 いると,ファイルはほぼランダムに各 ファイ
ステム上 に作 成 されるが,これらは中 身 のデータを持 たない
ルグループに分 散 される。従 って,各 ファイルグループに属
ダミーファイルである。ファイルの実 体 は,要 素 NAS のデー
するファイルの数 はほぼ同 じ となる。また, ファイルグループ
タディスクに格 納 される。ファイルを細 分 化 して各 要 素 NAS
の数 を要 素 NAS の 10 倍 ~1000 倍 程 度 とし,各 要 素 NAS
に分 散 配 置 する方 法 (ストライピング)も考 えられるが[2][4],
に対 し容 量 に比 例 した数 のファイルグループが割 り当 たるよ
要 素 NAS の追 加 ・削 除 による容 量 拡 張 の実 現 が困 難 となる。
うにグループ 管 理 テーブルを設 定 する。 これにより, 容 量 が
そこで,各 ファイルを細 分 化 せず要 素 NAS のいずれか一 つ
同 じなら,各 要 素 NAS にほぼ同 数 のファイルが格 納 される。
に配 置 する。ディレクトリ情 報 を冗 長 化 するために,データデ
以 後 ,各 要 素 NAS の容 量 は同 じであると仮 定 する。
ィスクにも管 理 ディスクと同 様 にすべてのディレクトリを作 る。
(3) クライアント要 求 の処 理
クライアントが X-NAS に三 つのディレクトリ dir1~dir3 と,
クライアントが X-NAS に対 してファイル f の生 成 要 求 (NFS
ファイル fileA~fileC を格 納 した場 合 の例 を図 1 に示 す。
では CREATE プロシージャ)を発 行 すると,Xnfsd は管 理 ディ
管 理 デ ィ ス ク に は 仮 想 フ ァ イ ル ツ リ ー が 格 納 さ れ る 。 dir1 ~
スクの仮 想 ファイルツリーにファイル f のダミーファイル f を生
dir3 はディレクトリであり, fileA~fileC はダミーファイルである。
成 する。次 に,生 成 したダミーファイル f の inode 番 号 にモジ
フ ァ イ ル の 実 体 で あ る fileA , fileB , fileC は , そ れ ぞ れ 親
ュロ演 算 を適 用 してファイルグループ番 号 を求 め,グループ
NAS,子 NAS1,子 NAS2 のデータディスクに格 納 される。
管 理 テーブルを参 照 してファイル f の格 納 先 要 素 NAS を求
Xnfsd はクライアントに仮 想 ファイルツリーをアクセスさせる。
める。そしてその要 素 NAS に NFS の CREATE プロシージャ
クライアントが仮 想 ファイルツリーのディレクトリを辿 ってファイ
を発 行 し,ファイル f の実 体 f を生 成 する。最 後 に,Xnfsd は
ルに到 達 し,そのファイルに 読 み出 しや書 き込 みを行 うと,
クライアントにダミーファイル f のファイルハンドルを返 す。
Xnfsd はファイルの実 体 が格 納 されている要 素 NAS にアクセ
クライアントが X-NAS に対 してファイル f の読 み出 し要 求
スし,ファイルの実 体 に対 して読 み出 しや書 き込 みを行 う。こ
(NFS では READ プロシージャ)を発 行 すると,Xnfsd は管 理
れにより,ファイルの実 体 はファイルごとに各 要 素 NAS に分
ディスクの仮 想 ファイルツリーのダミーファイル f にアクセスし
散 して配 置 されるが,クライアントには単 一 ファイルシステム
て inode 番 号 を求 め,その inode 番 号 にモジュロ演 算 を適 用
ビューを提 供 できる。
してファイルグループ番 号 を求 め,グループ管 理 テーブルを
(2) ファイルの配 置
参 照 してファイル f の格 納 先 要 素 NAS を求 める。そして求 め
親 NAS はファイルの実 体 がどの要 素 NAS に格 納 されてい
た要 素 NAS に対 して NFS の READ プロシージャを発 行 し,
るか記 録 している必 要 がある。管 理 テーブルを用 いファイル
ファイル f の実 体 f の読 み出 しを行 い,得 られたデータをクラ
ごとに情 報 を管 理 すると,テーブルサイズが膨 大 になる。一
イアントに返 す。書 き込 みについても同 様 である。
方 ,ファ イルの識 別 子 にハッ シュ 関 数 を適 用 し て格 納 先 要
2.2.3. 容 量 拡 張 ・縮 退 方 式
素 NAS を決 定 すると,管 理 テーブルは不 要 だが,ファイルと
容 量 拡 張 ・縮 退 処 理 は親 NAS の Manager が行 う。以 下
格 納 先 要 素 NAS の関 係 を変 更 することが難 しく,容 量 拡
では,容 量 拡 張 と容 量 縮 退 に分 けて説 明 する。
張 ・縮 退 の実 現 が困 難 となる。テーブルサイズをコンパクト化
(1) 容 量 拡 張
し,かつ,ファイルと格 納 先 要 素 NAS の対 応 を柔 軟 に管 理
容 量 拡 張 とは,X-NAS に新 規 子 NAS を追 加 し,X-NAS
できるよう,ファイルの識 別 子 にハッシュ関 数 を適 用 してファ
の容 量 を大 きくすることである。容 量 拡 張 処 理 は以 下 の 3 つ
イルをいくつかのファイルグループに分 け,ファイルグループ
のステップからなる。
と格 納 先 要 素 NAS との関 係 をテーブルで管 理 する。
(step1) 追 加 する新 規 子 NAS をシステムに登 録
ファイル識 別 子 とし てはファ イルのフルパス名 を使 用 する
方 法 が考 えられる。しかし,ファイル名 が変 更 されると識 別
子 が変 わるので,ファイルの実 体 の格 納 先 要 素 NAS を変 更
(step2) 追 加 子 NAS にディレクトリ作 成
(step3) 既 存 要 素 NAS の幾 つかのファイルグループを追 加
子 NAS へ移 動 しグループ管 理 テーブルを変 更
しなければならないという問 題 がある。X-NAS に格 納 されて
step2 まで実 行 することにより,追 加 子 NAS を要 素 NAS と
いる全 てのフ ァイルはダミーファイルという形 で仮 想 ファイル
して使 用 する準 備 が整 う。ただし,子 NAS を追 加 しただけで
ツリー上 に存 在 し,すべてのダミーファイルは固 有 の inode
は,追 加 子 NAS にファイルグループが割 り当 てられておらず,
番 号 を持 つ。ファイル名 が変 更 されてもその inode 番 号 は変
ファイルが書 き込 まれることはない。そこで, step3 を実 行 し
更 されない。そこでダミーファイルの inode 番 号 をファイル識
各 要 素 NAS に同 数 のファイルグループを割 り当 て直 す。
別 子 として用 いる。ハッシュ関 数 としてはファイルグループ数
ファイルグループの移 動 は Manager の move モジュールに
を除 数 とするモジュロ演 算 を用 いる。ファイル f のダミーファ
よって行 われる。move モジュールは,管 理 ディスクの仮 想 フ
イル f の inode 番 号 を i f ,ファイルグループ数 を N とすると,
ァ イ ル ツ リ ー を 探 索 し て 移 動 するファ イ ル グ ル ープ に 属 す る
ファイル f が所 属 するファイルグループ G f は G f = i f mod N
ファイルを特 定 し,それらのファイル全 てを移 動 元 要 素 NAS
表 1: ファイルサイズ分 布 の調 査 結 果
から移 動 先 要 素 NAS に移 動 する。move モジュールがファイ
ルグループを移 動 している最 中 も,Xnfsd はクライアントから
のファイルアクセス要 求 を処 理 し続 ける。ただし,クライアント
が移 動 中 のファイルグループに属 するファイルにアクセスしよ
うとした場 合 ,Xnfsd はクライアントのファイルアクセス要 求 を
破 棄 する。するとクライアントは NFS の規 約 に従 いファイルア
クセス要 求 を再 送 する。 従 って,その要 求 はそのファイルグ
ループの移 動 が終 了 した後 ,実 行 されることになる。ファイル
アクセス処 理 の停 止 よりも同 期 メカニズムの簡 単 化 を優 先 し
この手 法 を採 用 した。ファイルグループ数 を 10000~100000
とし,ファイルアクセスが移 動 中 のファイルグループにぶつか
る確 率 を下 げることで,ファイルアクセス要 求 をほぼ遅 延 させ
ることなく,容 量 拡 張 が可 能 となる。
(2) 容 量 縮 退
容 量 縮 退 とは,格 納 されているデータは消 さずに,X-NAS
の子 NAS をシステムから切 り離 して,X-NAS の容 量 を小 さく
することである。容 量 縮 退 は一 部 の子 NAS を X-NAS から切
り離 して別 の用 途 に使 用 したい場 合 や,子 NAS を別 の子
NAS とリプレースしたい場 合 に用 いる。容 量 縮 退 が実 行 でき
るのは,縮 退 前 に X-NAS に格 納 されているデータのサイズ
が 縮 退 後 の 小 さく な っ た 容 量 よ り 小 さ い こ と が 前 提 で あ る 。
容 量 縮 退 処 理 は以 下 の二 つのステップからなる。
(step1) 削 除 する子 NAS に格 納 された全 てのファイルグル
ープを他 の要 素 NAS に移 動
(step2) 削 除 する子 NAS を X-NAS から切 り離 す
step1 は Manager の move モジュールによって行 う。容 量
拡 張 の場 合 と同 様 に, 容 量 縮 退 中 もクラ イアントからのファ
イルアクセスはほぼ止 まらない。
2.3. 課 題
2.2.2で述 べたように,Xnfsd は各 要 素 NAS にほぼ同 数 の
#
ディスク
使 用 量 [MB]
1
2
3
4
5
615
22,962
7,288
10,623
23,335
ファイル群
ファイル群
ファイル群
ファイル群
ファイル群
1:
2:
3:
4:
5:
~1MB
19,491
81,156
44,679
49,367
87,348
ファイル数
~10MB ~100MB
50
5
1,157
396
348
68
839
156
1,660
302
~1GB
0
15
16
9
30
UNIX サーバ A における 1 ユーザのホームディレクトリ
UNIX サーバ B における 24 ユーザのホームディレクトリ
UNIX サーバ C における 20 ユーザのホームディレクトリ
Windows クライアント向 け NAS A における共 有 フォルダ
Windows クライアント向 け NAS B における共 有 フォルダ
結 果 を表 1 に示 す。この表 はファイルサイズを 0~1MB,1
~10MB, 10~100MB, 100MB~1GB に分 け, それ ぞれ の
範 囲 に入 るファイルの数 を調 査 したものである。サイズが
1GB を超 えるファイルは存 在 しなかった。ファイル群 1~3 は
UNIX プログラムの開 発 や実 験 に使 用 されている。一 方 ,フ
ァイル群 4 と 5 は Windows 系 各 種 文 書 の共 有 やバックアッ
プに使 用 されている。用 途 は異 なるがいずれも傾 向 は同 じと
なった。10MB 未 満 の小 さいファイルがファイル数 の大 半 を
占 め る が, 10MB 以 上 の 大 き い フ ァ イ ルも 存 在 す る 。 10MB
未 満 のファイルの大 半 は,UNIX 系 (#1~3)ではプログラムソ
ースやログ等 のテキストファイルであり,Windows 系 (#4,5)で
は Word 等 の文 章 系 ファイルであった。10MB 以 上 のファイ
ルは UNIX 系 か Windows 系 かによらずほとんどすべてアーカ
イブファイルであった。表 1 の五 つのデータを合 計 し,ファ
イル数 とディスク使 用 量 の累 積 率 をグラフ化 したものが図 2
で あ る 。 こ の 図 か ら , 全 体 の 高 々 0.3% を 占 め る に す ぎ な い
10MB 以 上 の大 きなファイルが,ディスク使 用 量 の 67%を占
めることがわかる。従 って,ディスク使 用 量 は 10MB 以 上 の大
きいサイズのファイルの数 で大 体 決 まってしまい,10MB 未
満 の小 さなファイルの数 にはあまり影 響 を受 けない。
ファイルを配 置 することができる。しかし,ファイルサイズには
100%
ばらつきがあるため,各 要 素 NAS に同 数 のファイルを配 置 し
80%
がある。偏 りが生 じると,特 定 の要 素 NAS が一 杯 になり,他
累積率
ても,各 要 素 NAS のディスク使 用 量 に偏 りが生 じる可 能 性
60%
40%
の要 素 NAS のディスクに空 きがあるにもかかわらず,ファイル
20%
の生 成 や追 加 書 き込 み ができなくなる。これをディスク残 量
0%
問 題 と呼 ぶ。X-NAS の課 題 は,システムが自 律 的 にディスク
使 用 量 の偏 り を是 正 し, ディスク 残 量 問 題 を予 防 する 機 能
を実 現 することにある。
3. ファイルサイズ分 布 とディスク残 量 問 題
3.1. ファイルサイズ分 布 の調 査
ファイルサイズはファイルごとに異 なる。Word 等 の文 書 系
ファイルは 10KB~2MB 程 度 ,画 像 等 のマルチメディアファ
イルは 100KB~20MB 程 度 ,プログラム等 のアーカイブファ
イルは 1MB~500MB 程 度 のサイズである。ブロードバンドの
普 及 により,ファイルサイズは年 々大 きくなっている。
著 者 が日 常 使 用 しているファイルサーバや NAS に格 納 さ
れている 5 つのファイル群 についてサイズ分 布 を調 査 した。
ファ イ ル数
ディスク使用量
0
1
10
100
1000
ファイルサイズ [MB]
図 2: ファイル数 とディスク使 用 量 の累 積 率
3.2. ディスク偏 りの見 積 もりとディスク残 量 問 題
3.1節 の調 査 結 果 の合 計 と同 じファイルサイズ分 布 を持 つ
ファイル群 が 100GB あり,これを親 NAS と 3 台 の子 NAS か
ら構 成 される X-NAS に格 納 すると仮 定 する。サイズが 10MB
未 満 である フ ァイルは 33GB 分 , 10MB 以 上 のファ イ ルは
67GB 分 ある。サイズが 10MB 未 満 のファイルは大 量 にある
ため,X-NAS のファイル配 置 方 式 によって各 要 素 NAS に均
等 に分 配 される。このため,各 要 素 NAS に 33GB/4=8.3GB
ずつ配 置 されると見 なせる。一 方 ,10MB 以 上 のファイルは
数 が少 ないため,必 ずしも各 要 素 NAS に均 等 に配 置 できず
そこで,平 準 化 処 理 の確 実 な停 止 を実 現 する。
4.2. 自 律 リバランスアルゴリズム
偏 りが生 じる。一 つの要 素 NAS に 10MB 以 上 のサイズのファ
定 期 的 に各 要 素 NAS のディスク残 量 を監 視 し,偏 りが生
イルがすべて配 置 されてしまった場 合 を考 えると,その要 素
じた場 合 には残 量 の最 も少 ない NAS から,最 も多 い NAS に
NAS のディスク使 用 量 は 67GB+8.3GB= 75.3GB となる。一
ファイルグループを移 動 し偏 りを是 正 することを,自 律 リバラ
方 ,それ以 外 の要 素 NAS のディスク使 用 量 は 8.3GB である。
ンス機 能 の骨 格 とする。これをアルゴリズム化 すると図 3 の
使 用 量 の最 大 と最 小 の差 は 67GB もある。このケースは極 端
ようになる。これを基 本 アルゴリズムと呼 ぶ。
であるが,偏 りの最 大 値 はこのように大 きくなる。
X-NAS の各 要 素 NAS のディスク容 量 が 40GB であると仮
定 すると,X-NAS 全 体 の容 量 は 160GB であるから,100GB
分 のファイルを格 納 できるはずである。しかし,大 きなサイズ
のファイルが偏 って格 納 される要 素 NAS には最 低 75.3GB
のディスク容 量 が必 要 であるのに,実 際 には 40GB の容 量 し
かない。従 って,一 つの要 素 NAS が一 杯 となり,100GB のフ
ァイル群 のうちの 53%すなわち 53GB しか X-NAS に書 き込 む
ことができず,深 刻 なディスク残 量 問 題 が発 生 する。
4. X-NAS の自 律 リバランス機 能
残量監視処理
01:while(1) {
02: 要 素 NAS1~ NASn の デ ィ ス ク 残 量 A1~ An を 計 測 ;
03: if ( max(A1,…,An) – min(A1,…,An) > Td )
04:
if ( ! 平 準 化 処 理 起 動 中 )
05:
平準化処理起動;
06: sleep(t);
07:}
平準化処理
08:while( max(A1,…,An) – min(A1,…,An) > Td ) {
09: デ ィ ス ク 残 量 が 最 小 の 要 素 NAS を 移 動 元 NAS Ns と す る
10: デ ィ ス ク 残 量 が 最 大 の 要 素 NAS を 移 動 先 NAS Nd と す る
11: Ns に 格 納 さ れ て い る フ ァ イ ル グ ル ー プ を 何 ら か の 方 法 で
一 つ 選 択 し Nd に 移 動
12: 要 素 NAS1~ NASn の デ ィ ス ク 残 量 A1~ An を 計 測 ;
13:}
図 3: 基 本 アルゴリズム
これまで各 要 素 NAS の容 量 が同 じであると仮 定 してきた。
基 本 アルゴリズムは残 量 監 視 処 理 と平 準 化 処 理 から構 成
以 後 各 要 素 NAS の容 量 が異 なる場 合 も考 慮 に入 れる。各
される。残 量 監 視 処 理 は,各 要 素 NAS のディスク残 量 を一
要 素 NAS の容 量 が異 なる場 合 ,ディスク残 量 問 題 を予 防 す
定 間 隔 t 毎 に計 測 する(02 行 目 )。計 測 したディスク残 量 の
るには,各 要 素 NAS のディスク残 量 の偏 りを是 正 する必 要
がある 。 偏 りを 是 正 す る た め ,ユー ザに手 作 業 でフ ァ イ ルグ
ループを移 動 させる方 法 が考 えられるが,専 門 の管 理 者 で
ないと実 施 は困 難 である。新 規 ファイルを書 き込 む際 ,ディ
スク残 量 の最 も多 い要 素 NAS にそのファイルを配 置 すれば,
偏 りを抑 えることができるように思 える。しかし,この方 法 でも
すでに X-NAS に格 納 済 みの従 来 ファイルに追 加 書 き込 み
が発 生 してファイルサイズが大 きくなると偏 りが生 じる。
そ こ で , デ ィ ス ク 残 量 の 少 な い 要 素 NAS か ら 多 い 要 素
NAS に幾 つかのファイルグループを移 動 する平 準 化 処 理 を
自 律 的 に実 施 し,ディスク残 量 の偏 りを是 正 する。この機 能
を自 律 リバランス機 能 と呼 ぶ。ファイルグループの移 動 には,
前 述 の Manager の move モジュールを利 用 する。X-NAS シ
ステムは,クライアントからのファイルアクセス処 理 と並 列 にバ
ックグラウンドで平 準 化 処 理 を行 う。自 律 リバランス機 能 は図
1 の Manager の一 機 能 として実 現 する。
4.1. 自 律 リバランス機 能 の要 件
自 律 リバランス機 能 の要 件 を以 下 のように定 める。
(a) 自 律 リバランス機 能 は,move モジュールを利 用 してファ
イルグループ を移 動 する。 移 動 中 のファ イルに対 しクラ イ
アントからアクセス要 求 があると,それを破 棄 し再 送 させる
ため,ファイルアクセス性 能 を低 下 させる恐 れがある。そこ
で,ファイルアクセス処 理 に対 する影 響 を最 小 化 する。
(b) 平 準 化 処 理 は,ディスク残 量 の偏 りを目 的 関 数 とした一
種 のフィードバック処 理 である。しかし,ファイルサイズは
一 様 でないた め, 平 準 化 処 理 を行 っても 偏 りを是 正 でき
ない場 合 があり,このとき処 理 が停 止 しない可 能 性 がある。
最 大 値 と最 小 値 の差 分 が差 分 閾 値 Td より大 きくなった場
合 に(03 行 目 )ディスク残 量 の偏 りが発 生 したと考 え,平 準 化
処 理 が起 動 されていなければ(04 行 目 ),平 準 化 処 理 を起
動 する (05 行 目 )。平 準 化 処 理 は,ディスク残 量 の最 も少 な
い要 素 NAS に格 納 されているファイルグループの一 つを,
何 らかの方 法 で選 択 し,それをディスク残 量 の最 も多 い要
素 NAS に移 動 し(09~11 行 目 ),再 び各 要 素 NAS のディス
ク残 量 を計 測 し(12 行 目 ),偏 りが是 正 されていれば平 準 化
処 理 を終 了 し,そうでなければ処 理 を続 ける(08 行 目 )。
この基 本 アルゴリズムをベースとしながら,4.1節 の二 つの
要 件 を満 足 するアルゴリズムを検 討 した。検 討 にあたっては,
アルゴリズムとしての最 適 性 や完 璧 性 を追 求 するのではなく,
実 用 性 を重 視 した。
(1) 移 動 ファイルグループの選 択 方 法
まず平 準 化 処 理 の 11 行 目 の移 動 するファイルグループ
の選 択 方 法 について考 える。最 適 な方 法 は,移 動 によって
残 量 の偏 りを是 正 するのに最 も適 したサイズのフィルグルー
プを選 択 することである。これを実 現 するには,ファイルグル
ープのサイズを求 める必 要 がある。X-NAS の構 造 上 ,ファイ
ルグループのサイズを求 め るには仮 想 フ ァイルツリーを辿 っ
て全 てのファイルを探 索 する必 要 がありコストがかかる。そこ
で,次 善 の策 として,移 動 元 NAS に格 納 されているファイル
グループの中 からランダムに一 つを選 択 するものとする。
(2) 要 件 (a)への対 応
各 要 素 NAS のディスク残 量 の偏 りを是 正 する目 的 は,デ
ィスク残 量 問 題 を予 防 することにある。従 って,各 要 素 NAS
のディスクに多 くの空 きがあり,ディスク残 量 問 題 が起 こりそう
もない状 況 のときは,平 準 化 処 理 を行 う必 要 はない。そこで,
そこで,開 始 閾 値 Ts はこの値 以 上 に設 定 する必 要 がある。
ディスク残 量 に関 する開 始 閾 値 Ts を設 け,各 要 素 NAS の
マージンを考 慮 し Ts は 2tT~3tT 程 度 に設 定 する。
ディスク残 量 がすべて Ts 以 上 の場 合 は,ディスク残 量 に偏
差 分 閾 値 Td は,ディスク残 量 の偏 りをどの程 度 許 容 する
りがあっても平 準 化 処 理 を行 わないようにする。
かによる。Td を小 さくすると,ディスク残 量 の偏 りの是 正 効 果
(3) 要 件 (b)への対 応
は高 くなるが,平 準 化 処 理 が頻 繁 に起 動 されクライアントか
3.1節 で説 明 したようにファイルグループの中 にはサイズが
ら のフ ァ イ ル ア ク セス 処 理 へ の 影 響 が 大 き く な る 。 一 方 , Td
非 常 に大 きなものもある。(1)で説 明 したように,ファイルグル
を大 きくとると,平 準 化 処 理 はあまり起 動 されないのでクライ
ープはランダムに選 択 される。たまたま大 きなファイルグルー
ア ン ト 処 理 へ の 影 響 は 小 さ く な る が, デ ィ スク 残 量 の 偏 り 是
プを選 択 しそれを移 動 すると,移 動 元 NAS のディスク残 量
正 の効 果 は低 くなる。これらを考 慮 して Td を決 定 する必 要
は大 幅 に増 えるが,移 動 先 NAS のディスク残 量 が大 幅 に減
がある。なお,Td をファイルグループ一 個 のサイズより小 さく
り,移 動 元 NAS と移 動 先 NAS の立 場 が逆 転 しただけで,デ
設 定 しても効 果 はないため,Td の最 小 値 はファイルグルー
ィスク 残 量 の偏 り具 合 は改 善 されない。 ファイルグループの
プ の サ イ ズ と な る 。 Td は 是 正 の 効 果 に 関 係 あ る た め ,
選 択 によっては,このような処 理 が連 続 的 に発 生 し,大 きな
X-NAS の全 容 量 に対 して,どの程 度 書 き込 みできれば良 い
サイズのファイルグループが要 素 NAS 間 を行 ったり来 たりし
かという視 点 も考 慮 する必 要 がある。たとえば,UNIX のファ
て振 動 し , 平 準 化 処 理 は 終 了 し ない 可 能 性 がある 。 これ を
イルシステムは全 容 量 の 95%以 上 のユーザ書 き込 みを禁 止
防 ぐには,大 きなファイルグループの移 動 を禁 止 すればよい。
している。これと同 様 に,容 量 の 5%程 度 は使 用 できなくても
しかし,(1)で説 明 したようにファイルグループのサイズを求 め
良 いとすると,容 量 Ci である要 素 NAS i が N 台 ある X-NAS
るにはコストがかかる。そこで,移 動 自 身 を禁 止 するのではな
では,Td = 0.05ΣCi /(N-1) となる。
く,ファイルグループの移 動 後 に移 動 元 NAS と移 動 先 NAS
の立 場 が逆 転 したら平 準 化 処 理 を強 制 的 に停 止 するものと
5. X-NAS プロトタイプシステムによる評 価
す る 。 こ のよ う に 平 準 化 処 理 を 強 制 停 止 す る と, デ ィス ク 残
5.1. 実 験 環 境 と実 験 概 要
量 の偏 りは是 正 されない。しかし,偏 りがあれば,その後 の
4章 で述 べた自 律 リバランス機 能 を備 えた X-NAS プロトタ
残 量 監 視 処 理 において再 び平 準 化 処 理 が起 動 されるので,
イプシステムを実 現 した。親 NAS,子 NAS ともハードウェアに
いずれ偏 りは是 正 されることになる。
は PC を使 用 し,OS は RedHat7.2 Linux を使 用 した。親
図 4に上 記 (1)~(3)を導 入 した X-NAS の自 律 リバランス
アルゴリズムを示 す。
残量監視処理
01:while(1) {
02: 要 素 NAS1~ NASn の デ ィ ス ク 残 量 A1~ An を 計 測 ;
03: if ( (max(A1,…,An) – min(A1,…,An) > Td)
&& (min(A1,…,An) < Ts) )
04:
if ( ! 平 準 化 処 理 起 動 中 )
05:
平準化処理起動;
06: sleep(t);
07:}
平準化処理
08:while( max(A1,…,An) – min(A1,…,An) > Td ) {
09: デ ィ ス ク 残 量 が 最 小 の 要 素 NAS を 移 動 元 NAS Ns と す る
10: デ ィ ス ク 残 量 が 最 大 の 要 素 NAS を 移 動 先 NAS Nd と す る
11: Ns に 格 納 さ れ て い る フ ァ イ ル グ ル ー プ を ラ ン ダ ム に 一 つ
選 択 し Nd に 移 動
12: 要 素 NAS1~ NASn の デ ィ ス ク 残 量 A1~ An を 計 測 ;
13: if ( Ns の デ ィ ス ク 残 量 > Nd の デ ィ ス ク 残 量 )
14:
exit;
15:}
図 4: 自 律 リバランスアルゴリズム
(4) パラメータに関 する考 察
NAS には Xnfsd と Manager を塔 載 した。子 NAS には新 しい
ソフトウェアは導 入 していない。このプロトタイプシステムは,
自 律 リ バ ラ ン ス 機 能 に 関 連 する 各 種 パ ラ メー タ の 値 を 起 動
時 オプションによって変 更 できるようにしてある。このプロトタ
イプシステムを用 いて自 律 リバランス機 能 の評 価 実 験 を行 っ
た。実 験 に使 用 した X-NAS プロトタイプシステムの構 成 と設
定 を表 2 に示 す。
表 2: X-NAS プロトタイプシステムの構 成 と設 定
X-NAS の構 成
データディスクの容 量
全体容量
ファイルグループ数
残 量 監 視 間 隔 (t)
親 NAS + 子 NAS×3
親 NAS,子 NAS 各 1GB
(ユーザ使 用 可 能 容 量 960MB)
4GB(ユーザ使 用 可 能 容 量 3.8GB)
500
30s
評 価 実 験 には表 1 のファイル群 1 を用 いた。このファイ
ル群 の総 ディスク使 用 量 は 615MB である。このファイル群 1
とまったく同 じファイルをクライアントのホームディレクトリに持
開 始 閾 値 Ts は,ディスク残 量 問 題 が発 生 する可 能 性 の
つ 6 人 のユーザ(A~F)がいると仮 定 する。バックアップ作 業
ある デ ィスク 残 量 を 見 極 め る た め の閾 値 で ある 。 上 述 の よう
を想 定 し,各 ユーザのホームディレクトリを A~F の順 に
に平 準 化 処 理 の起 動 イ ンター バルは, 最 短 で残 量 監 視 処
X-NAS にコピーしていく。初 期 状 態 において X-NAS は空 で
理 の監 視 インターバル t [s]である。このインターバルの間 は
あるものする。A~F 全 体 の総 ディスク使 用 量 は 3690MB で
平 準 化 処 理 は起 動 しない。そこで,インターバル t の間 にデ
あるから,要 素 NAS 間 のディスク残 量 の偏 りがなければ,す
ィスク残 量 の最 も少 ない要 素 NAS にファイル書 き込 みが集
べてのユーザのホームディレクトリを書 き込 める。
中 しても,その要 素 NAS のディスクが溢 れてしまわないように
上 記 のコピー処 理 を順 次 実 施 し,各 ユーザのコピーが終
する必 要 がある。X-NAS の書 き込 みスループットを T [B/s]
了 する度 に各 要 素 NAS のディスク使 用 量 を計 測 し,自 律 リ
とすると,最 大 tT[B]のファイルが書 き込 まれる可 能 性 がある。
バランス機 能 に関 する各 種 情 報 を取 得 した。
5.2. パラメータの決 定
視 間 隔 t は 30s,プロトタイプシステムの書 き込 みスループッ
トTは約 5MB/s であるから,Ts を 300MB に設 定 する。
一 方 ,プロトタイプシステムのファイルグループ数 は 500 で
あるから,全 容 量 を使 い切 ったときのファイルグループの平
均 サイズは約 8MB となる。従 って Td は 8MB 以 上 でなけれ
ばならない。また,本 評 価 実 験 では,用 意 した 3690MB のデ
ータがすべて格 納 できるようにしたい。ユーザ権 限 で使 用 可
各要素NASのディスク使用量 [MB]
1000
4.2節 (4)の通 り,開 始 閾 値 は 2tT~3tT とする。残 量 監
親NAS
子NAS1
子NAS2
子NAS3
800
600
400
200
0
0
能 な容 量 3891MB に対 して 3690MB は 94.8%にあたる。そこ
1
2
3
4
5
6
コピー回数
で,4.2節 (4)の考 え方 を応 用 すると Td = 66MB と求 まる。8
図 7: 自 律 リバランス機 能 あり(Ts=1000MB)
~66MB の間 の値 として Td=30MB に設 定 する。
図 5 の自 律 リバランス機 能 なしでは,1~5 回 のすべてに
5.3. 実 験 結 果
実 験 は自 律 リバランス機 能 なしの場 合 と自 律 リバランス機
おいて,各 要 素 NAS のディスク残 量 に偏 りがあることが分 か
能 あり場 合 について行 った。自 律 リバランス機 能 ありの場 合
る。6 回 目 のコピーの途 中 で子 NAS1 のディスクが一 杯 にな
は5.2節 で決 定 したように開 始 閾 値 Ts=300MB,差 分 閾 値
りコ ピ ー 処 理 は 最 後 ま で 完 了 し なか った 。 これ がデ ィス ク 残
Td=30MB とし,比 較 のため,ディスクが空 の時 から平 準 化 処
量 問 題 である。実 験 終 了 時 の総 ディスク使 用 量 は 3383MB
理 を実 行 することを意 味 する Ts=1000MB の場 合 も実 験 した。
であり,これは使 用 可 能 容 量 の約 87%にしかすぎない。
各 ユーザのホームディレクトリをプロトタイプシステムにコピー
図 6 の自 律 リバランス機 能 あり(Ts=300MB)では,4 回 目
するたびに,各 要 素 NAS のディスク使 用 量 を計 測 した。結
のコピーまでは自 律 リバランス機 能 なしと同 じであり,ディスク
果 を図 5~図 7 に示 す。各 図 の横 軸 はユーザのホームデ
残 量 に偏 りがある。この理 由 は各 要 素 NAS のディスク残 量
ィレクトリのコピー回 数 を示 す。1 ならユーザ A のホームディレ
が 300MB より多 くあるため,平 準 化 処 理 が起 動 されないから
クトリのコピーをし終 えた状 態 を,2 なら A に加 えてユーザ B
である。一 方 ,5 回 目 と 6 回 目 は要 素 NAS のディスク残 量 が
のホームディレクトリのコピーをし終 えた状 態 を示 す。縦 軸 は
300MB 以 下 となるため,平 準 化 処 理 が起 動 され,偏 りが是
各 要 素 NAS のディスク使 用 量 を示 す。
正 されている。6 回 目 のコピーもエラーになることなく完 了 し,
ディスク残 量 問 題 は発 生 しなかった。
図 7 の自 律 リバランス機 能 あり(Ts=1000MB)の場 合 は,
各要素NASのディスク使用量 [MB]
1000
親NAS
子NAS1
子NAS2
子NAS3
800
1 回 目 か ら 偏 り が 是 正 さ れ てい る 。 5 回 目 の コ ピ ー の 際 に
80MB 程 度 の偏 りが発 生 しているが,これは平 準 化 処 理 の
際 に,たまたま大 きいサイズのファイルグループを移 動 してし
600
まったために発 生 したものである。移 動 したファイルグループ
400
のサイズは 52MB であった。このファイルグループの移 動 直
後 に移 動 元 と移 動 先 のディスク残 量 の逆 転 現 象 が発 生 した
200
が,振 動 することなく平 準 化 処 理 は停 止 した。6 回 目 のコピ
0
0
1
2
3
4
5
6
コピー回数
ーも途 中 でエラーになることなく完 了 し,ディスク残 量 問 題 は
発 生 しなかった。
実 験 中 に平 準 化 処 理 の起 動 回 数 とファイルの総 移 動 量
図 5: 自 律 リバランス機 能 なし
を計 測 した。結 果 を表 3 に示 す。表 中 の 1~6 はコピー回
各要素NASのディスク使用量 [MB]
1000
数 を示 す。Ts=1000 では,1~6 のすべてにおいて平 準 化 処
親NAS
子NAS1
子NAS2
子NAS3
800
理 が実 行 される。総 ファイル移 動 量 は 763MB にもなり,これ
だけのファイルの移 動 によって,クライアントからのファイルア
600
クセス処 理 にも大 きな影 響 を及 ぼしているものと考 えられる。
400
表 3: 平 準 化 処 理 の起 動 回 数 とファイルの総 移 動 量
200
実験
0
0
1
2
3
4
5
6
コピー回数
図 6: 自 律 リバランス機 能 あり(Ts=300MB)
総移動量
平準化処理起動回数
[MB]
条件
1
2
3
4
5
6
Ts=300
0
0
0
0
33
15
203
108
79
32
23
25
19
763
Ts=1000
一 方 ,Ts=300 の場 合 は,1~4 回 は平 準 化 処 理 は実 行 さ
れず,従 ってクライアントからのファイルアクセス処 理 に影 響
衡 化 を目 的 として再 配 置 する点 が本 研 究 とは異 なる。
X-NAS ではディスク残 量 問 題 を予 防 することを目 的 として,
を及 ぼさない。なお,図 7 の Ts=1000 の場 合 の 1 回 目 と 2
自 律 リバランス機 能 を実 現 した。この機 能 により管 理 者 が手
回 目 のコピーにおける平 準 化 処 理 の起 動 回 数 が他 より多 い
作 業 でファイ ルの移 動 を行 う作 業 から 開 放 され, 管 理 容 易
が,その理 由 は以 下 の通 りである。コピー回 数 が少 ないとき
性 が向 上 する。
は多 いときよりファイルグループのサイズが小 さい。一 方 ,偏
りを解 消 する ために移 動 しなければならないファイルグルー
7. おわりに
プ群 のサイズは回 数 によらずほぼ一 定 である。従 って,サイ
筆 者 らは,安 価 で容 量 スケーラブルな NAS を提 供 するた
ズが小 さい時 はより多 くのファイルグループを移 動 する必 要
め,複 数 のエントリ NAS から構 成 され単 一 ファイルシステムビ
がある。以 下 に結 果 をまとめる。
ューを提 供 する仮 想 一 元 化 NAS システム X-NAS を提 案 し
• 一 つのファイル群 のみを用 いた実 験 ではあるが, 仮 想 一
ている。仮 想 一 元 化 NAS システムにはファイルのサイズのば
元 化 NAS において各 要 素 NAS のディスク残 量 に偏 りが
らつきに起 因 して,ディスク残 量 問 題 が発 生 する。本 稿 では,
生 じ,ディスク残 量 問 題 が発 生 することを実 証 した。
この問 題 を解 決 するために,自 律 リバランス機 能 を提 案 した。
• 自 律 リバランス機 能 によってディスク残 量 の偏 りを是 正 す
れば,ディスク残 量 問 題 を予 防 できることを検 証 した。
また,プロトタイプシステムによる評 価 実 験 を行 い,提 案 機 能
がディスク残 量 問 題 の発 生 を予 防 できることを検 証 した。
• 自 律 リバランスアルゴリズムに開 始 閾 値 Ts を導 入 すること
デ ィス ク 残 量 問 題 を 予 防 し つ つ, [7] の よ う な フ ァ イ ルア ク
で,不 要 な平 準 化 処 理 を抑 止 し,クライアントからのファイ
セス 処 理 の 負 荷 均 衡 化 を 実 現 する こ とが 自 律 リ バラ ン ス機
ルアクセス処 理 に与 える影 響 を低 く抑 えられることを検 証
能 の今 後 の課 題 である。また,X-NAS システムとしての課 題
した 。 これ によ り, 自 律 リ バラ ンス機 能 は 要 件 (a) を満 足 し
は性 能 と信 頼 性 の向 上 である。
ているといえる。
• 平 準 化 処 理 はたまたまサイズの大 きなファイルグループを
謝辞
移 動 してしまった場 合 でも振 動 せず,確 実 に停 止 すること
X-NAS の着 想 時 から X-NAS について議 論 して頂 いてい
を確 認 し た 。 自 律 リバラ ン ス機 能 は 要 件 (b) を満 足 し て い
るスタンフォード大 学 情 報 科 学 科 の J. D. Ullman 先 生 に謝
るといえる。
意 を表 します。
6. 関 連 研 究
複 数 のストレージを仮 想 一 元 化 する研 究 の一 つに,分 散
ファイルシステムの研 究 がある。分 散 ファイルシステムとし て
Zebra, DiFFS, Slice などがある。Zebra[2]は,ファイルをスト
ライピングしてストレージサーバ群 に分 散 配 置 する。
DiFFS[3] はフ ァ イ ル 全 体 を 分 割 せ ず に 特 定 の ス トレ ー ジ サ
ー バ に 格 納 す る 。 Slice[4] は 小 さ い フ ァ イ ル は フ ァ イ ル 単 位
でストレージサーバに格 納 し,大 きいファイルはブロック単 位
でストライピングする。一 方 ,ネットワークルーティング技 術 に
よって複 数 ストレージを仮 想 化 する NAS Switch[5][6]のよう
な研 究 もある。NAS Switch はストレージ装 置 の前 に特 別 な
スイッチを置 き,このスイッチが特 定 のディレクトリ以 下 のすべ
てのファイル群 を特 定 のストレージ装 置 に分 散 配 置 する。
Zebra や Slice などのストライピングアプローチは,本 稿 で指
摘 したような各 要 素 NAS 間 のディスク使 用 量 の偏 りがなく,
従 ってディスク残 量 問 題 は発 生 しない。しかし,容 量 拡 張 等
の構 成 変 更 が難 しい。一 方 ,ファイル単 位 で格 納 する
DiFFS や NAS Switch は,構 成 変 更 は容 易 だが,ディスク残
量 問 題 が発 生 する。DiFFS や NAS Switch はファイル移 動
の枠 組 みについては検 討 しているものの,システムが自 律 制
御 によってディスク残 量 問 題 を未 然 に予 防 する機 能 は実 現
していない。
複 数 のストレージ間 で自 律 的 にデータの再 配 置 を行 う研
究 として自 律 ディスク[7]があるが,データアクセスの負 荷 均
参考文献
[1] Y. Yasuda, S. Kawamoto, A. Ebata, J. Okitsu, T.
Higuchi, “Concept and Evaluation of X-NAS: a
Highly Scalable NAS System”, to appear in 20th
IEEE Symposium on MASS Storage Systems, 2003.
[2] John H.Hartman, John K.Ousterhout, “The Zebra
Striped Network File system”, ACM Transactions
on Computer Systems, Vol.13, No.3, pp274-310,
1995.
[3] C. Karamanolis, L. Liu, M. Mahalingam, D. Muntz,
Z. Zhang, “An Architecture for Scalable and
Manageable File Services”, HP Laboratories Palo
Alto, HPL-2001-173, 2001.
[4] D. C. Anderson, J. S. Chase, A. M. Vahdat,
“Interposed Request Routing for Scalable Network
Storage”, ACM Transactions on Computer systems,
Vol.20, No.1, 2002.
[5] 山 川 聡 , 石 川 潤 , 菊 地 芳 秀 , “NAS スイッチ:NFS
サ ー バ の 仮 想 化 統 合 技 術 の 開 発 ”, 信 学 技 報
CPSY2002-36, pp13-18, 2002.
[6] 桂 島 航 , 石 川 潤 , “ファイルサーバ仮 想 化 アプライ
ア ン ス NAS ス イ ッ チ の 提 案 ”, 情 処 研 報 ,
2002-DSM-26-6, 2002.
[7] 伊 藤 大 輔 , 阿 部 亮 太 , 安 部 洋 平 , 横 田 治 夫 , “ ストレ
ージクラスタとしての自 律 ディスクと並 列 NAS の比 較 ”,
信 学 論 (D), Vol.J85-D-I, No.9, pp831-840, 2002.
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