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“Social Program Design and Management”の 授業から学ぶ

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“Social Program Design and Management”の 授業から学ぶ
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7―
米国における“Social Program Design and Management”の
授業から学ぶ、プログラム開発および社会福祉援助のあり方*
馬
場
幸
子**
において履修した Social Program Design and
!
はじめに
Management (R. S. Pearlmutter, Ph. D., 2002)の
授業を基にしている。この授業では、新たな援助
Rapp & Poertner(1992)は言う。「社会行政管
機関ないしプログラムを開発する際に必要な知識
理者(social administrators)の責任において、最
と技術を学ぶ。学生がおのおの新しいプログラム
も重要で最も無視されがちな事柄の1つは、プロ
を開発することを想定し、段階を踏んで綿密に授
グラムデザインである。熟考されたものでなけれ
業が進められる。過去には、この授業で作成した
ば、そのソーシャルプログラムがクライエントの
プログラムを元に助成金を得て実際に新たなプロ
ニーズに効果的に応じることは、ほとんど不可能
グラムを開始した者もいると聞いている。
である。」(p.
29)
本稿は米国におけるソーシャルプログラムデザ
米国では多くの非営利団体が行政・民間からの
インの概念およびその手法を紹介することによ
助成を受けて活動している。昨年(2002)、The
り、日本において社会福祉援助を展開する上での
Ohio
新たな視点、課題を提示することを目的としてい
Tobacco
Use
Prevention
and
Control
Foundation(米国オハイオ州)は、そのミッショ
る。
ンを達成するために地域助成金として7
00万ドル
提供することを公表した。6月に助成金申請のた
めの説明会が開かれ、筆者も出席した。プログラ
"
結果への責任性
(Outcome―based accountability)
ムは地域に貢献するものであること、効果測定可
能なものであり、すでにその効果が実証されてい
世の中の焦点は「規則が守られているかどう
ること、など満たさなければならない項目は多
か」から「目的が達成されているかどうか」に移
く、基準はなかなか厳しいものであった。目的が
行している。これまで私たちは、
「予算が増えた
はっきりしており、効果が十分に予測されていな
のだから、相談所はもっと仕事をするようになる
ければ、その団体、プログラムが助成を受けるこ
だろう」と“思う”以外、本当に意図した目的が
とは難しい1)。
達成されているかどうかを“知る”すべを持たな
社会福祉援助機関(social service agencies)お
かった。だが、たとえ公的資金がどれぐらい何の
よびそのプログラムが、十分な資金を元にクライ
目的で使われたかの説明がなされたとしても、そ
エントのニーズに応え、より効果的な援助活動を
の結果「実際に人々が得たものは何か」がはっき
展開するために、プログラムデザインの重要性は
りしていなければ、その説明に重要性はない。世
ますます高まりつつある。
論は結果についての証拠を求めている。それゆ
本稿は、筆者がCase Western Reserve University
*
え、子どもや家庭、地域を強化する努力において
キーワード:プログラムデザイン・結果への責任性・クライエント中心マネジメント
University of Illinois at Urbana-Champaign School of Social Work(doctoral student)
1)The Ohio Tobacco Use Prevention and Control Foundation が2
0
0
2年6月5日に行った Community Grants RFP
Information Meeting(Columbus, OH)に、The Asian Services In Action Inc.
(本部 Akron, OH)の実習生として出
席。
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も、学校や近隣再建計画といった、公的施設に対
ができるかどうか”
、と直接関連しているからで
する信用を復活させる努力においても、
「合意を
ある。複雑な実践を評価するためには少なくとも
得た結果(outcomes)を達成したかどうかという
以下の4点が必要である。その評価(法)は①
ことで機関やプログラムの成功を判断する」能力
しっかりとした理論的・概念的な基盤の上に作り
の向上が、改革の主流となってきている(Schorr,
出されたものであること②評価者とプログラムに
1997)。
かかわる人との対立関係ではなく、彼らの間で共
有された関心事を強調していること③多様な手法
以下、Schorr による「結果への責任性」につい
ての記述を概略する。
と多様なものの見方を用いていること④厳密さと
関連性の双方を備えていること。
従わなければならない手続きではなく、達成し
ようとする結果に焦点付ける「結果への責任性」
には多くのメリットがある。結果への責任は、規
則に縛られた上意下達の中央管理から、もっと広
!
クライエント中心パフォーマンス
マネジメント(Client-centered
performance management)
範で急を要するニーズへの効果的な反応へと取っ
て代わる。つまり、結果への責任性は高品質で柔
Rapp & Poertner (1992) および Pearlmutter
軟なサービス供給への鍵となりうるのである。そ
(2002)はクライエント中心パフォーマンスマネ
れは、結果への責任性が目的の明確さを要求する
ジメントをソーシャルプログラムデザインの基盤
ものであることとも関連している。結果への焦点
にすえている。
付けが、スタッフに、“自分がしていることと求
このモデルは、
「マネジメントはパフォーマン
めている結果との関連性”への気づきを向上さ
スである」という考えに基づいている。管理者の
せ、仕事の質改善へと導く。結果に対する情報を
パフォーマンス(できばえ)は、その管理者が配
得られれば、コミュニティは共有された目的への
置されている組織のパフォーマンス(できばえ)
支援にもっと慎重になることができる。さらに、
と本質的に切り離すことはできない。この考え方
その投資は期待される結果を達成するために本当
はビジネスの領域で普及しており、そこでは、上
に役立つのかどうかを考えることとなり、資金の
層部のマネジメント(運営管理)における優秀さ
適正利用への働きかけも強まる。
は、組織のパフォーマンス(できばえ)と一致し
当然のことながら、結果(outcome)は正しく
ている。
選ばれ な け れ ば な ら な い。希 望 を 持 っ た 目 的
(goal)と測定可能な結果が必要である。結果は
1.クライエント中心パフォーマンスモデルにお
わかりやすく、説得力のあるものでなければなら
ける5つのパフォーマンス(遂行)領域
ない。結果は、達成されるべきものの目的を確実
「マネジメントはパフォーマンスである」とす
に反映していなければならない。また、結果とそ
るならば、ヒューマンサービスにおけるパフォー
の過程は区別して考えなければならない。
マンスとは何か、についての明確な定義づけが必
結 果 へ の 志 向 性 に お け る、評 価 調 査
要である。Rapp & Poertner はその定義として、
(evaluation research)について触れておく。評価
1クライエントが得る結果(client outcomes)2
には評価者が何を見ようとしているかが大きく影
生 産 性(productivity)3資 源 獲 得(resource
響する。“科学的であること”のみに気をとられ
acquisition)4効率(efficiency)5スタッフのモ
た標準化された単一の評価手法では、多様な介入
ラル(staff morale)の5つを挙げている。
についての効果を調べることはできない。それは
!クライエントが得る結果
ある1つの特定の実践があらゆる場所・人に当て
「クライエントが得る結果」は、クライエント
はまるわけではないからである。またプログラム
の状況を改善、あるいは状況悪化の抑制をしよう
の効果は、“実践者が、それぞれの地域で展開し
とするものである。
「クライエントが得る結果」
続けるニーズに対して継続的に呼応していくこと
には、5つの測定領域がある。①感情的な変化:
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ある事柄に対する感じ方、状況への感情的反応の
ていがちである。ヒューマンサービス組織の目的
仕方における変化。クライエントのエンパワメン
は、望ましい、意図した結果を達成することであ
ト感情は、多くのヒューマンサービスの中心であ
るはずにもかかわらず、最も一般的な形の目的は
る。②学習:認知的変化、教育的側面。クライエ
「・・を 提 供 す る こ と」
「・・を 教 え る こ と」
ントが得る知識が1つの「結果(outcome)」で
「・・を確立すること」という表現で述べられて
もある。③行動上の変化:新しい行動の学習ある
いる。サービスを提供することと、クライエント
いは問題行動の消去。これが最も望まれる結果で
がそれによって望ましい結果を得ることとは別で
あることが多い。④地位(status)の維持あるい
あるということを十分認識していない。また、あ
は変化:高齢者が、自宅や地域で生活を続けてい
いまいで高尚な言葉を用いて述べられていること
くための力を維持できるように支援を求める、と
も多い。「子どもの最善の利益」といった言葉
いったことがこれにあたる。⑤環境改善:生活環
は、現実の具体的な問題対応に役立たない。さら
境の改善、政策改善、より建設的な世論の態度や
に悪いことには、現場の実践者には目的を軽視す
信念を作り出すこと。
る傾向が見られる。
"生産性
管理者(マネージャー)の行動にもクライエン
生産性は、どれだけサービスを提供したか、を
トとの乖離が見られる。スタッフミーティングは
言う。生産性は通常クライエント数、サービス期
たいてい政策や手続き上のこと、ペーパーワーク
間(インテークから終了まで)、サービス回数、
の多さに対する不満やさまざまな報告事項など
サービスにかけた時間、で測定される。
で、クライエントに関して自分たちがいかによく
#資源の獲得
仕事をしているか、などの討議はまれである。援
クライエントの利益を生み出すには、資源の獲
助機関はクライエントの結果について情報を収集
得が欠かせない。ヒューマンサービスの組織は、
し、報告するシステムを持っていないことが多
資金、職員、科学技術、クライエント、公からの
い。また、結果を基にした(職員に対する)表彰
支援と影響を必要とする。
方法を用いている機関はほとんどない。スーパー
$効率
ビジョンへのワーカーの満足度と、ワーカーのパ
効率とは、資源の獲得と結果との割合のことで
ある。最も一般的な測定方法はひとつのサービス
フォーマンス(できばえ)とは関連していないこ
とが証明されている。
単位にどれだけのお金がかかったかだが、対象と
管理者とクライエントとの乖離は、慢性的で深
なる人たちすべての中から、どれだけのクライエ
刻な目的の転置を生み出す。つまり、組織上の手
ントを支援したか、も有用な効率の指標であろ
段であるはずのことが目的となり、そこではクラ
う。
イエント不在となる。
また、ワーカーが直接援助・間接援助に投じた
時間と総労働時間との割合も効率の測定内容に含
まれるだろう。
%スタッフのモラル
3.クライエント中心マネジメントの原理
「社会行政管理のモデルは、『理想は現実の中か
ら、そして管理者をクライエント中心機関の運営
これは、従業員の仕事に対する満足度を言う。
へと導く一連の考え方の中から作り出さすことが
クライエントを援助しようとする際、組織は同時
できる』ということを示すべきだ」と Rapp らは
に従業者の個人的な満足と仕事の達成度にも貢献
言う。以下に述べるクライエント中心パフォーマ
しなければいけない。転職率、訓練を受ける機会
ンスマネジメントの4つの原理は、その理想を作
なども測定内容に含まれる。
り上げるための基礎となる。
!“クライエント”と呼ばれる人への崇敬の念
2.マネジメント(運営管理)とクライエントと
の乖離
現在、マネジメントとクライエントとは乖離し
効果的な結果を得られるプログラムの管理者
は、援助環境を作り出し、消費者を患者やクライ
エント、福祉の世話になっている母親や服役者と
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してではなく“ひと”として人道的に見、扱う。
する)有力感を持っている。自分には与えられた
人を個人として見ることは、
「人は強さを持って
状況の中で変化をもたらす力があると信じ、有能
おり常に成長し変化する」という考え方を中心に
感と希望を持っている。柔軟性と、人々のニーズ
備えている。
と目標の明確な焦点付けに基づいた創案の才を身
効果的な結果を得られるプログラムの管理者
につけていることも、成功する管理者の特徴のひ
は、①そのプログラムを利用する人たちのことを
とつである。また、管理者には問題解決能力も必
よく知っている。プログラム利用者の強さ、興
要である。問題解決には課題を細分化して取り組
味、ニーズについて暖かさと熱意を持って語るこ
む技術を要する。さらに、本質的に異なる関心事
とが で き る。② ク ライ エ ン ト は 主 人 公(Hero)
と思われるような懸案事項をも混ぜ合わせて取り
であるという考えを推奨する。③クライエントア
組む能力が必要である。加えて、管理者には根気
ドボカシーの視点を自分の仕事の中で明らかに
強さが求められる。
し、またそれを用いる。
#生存のための学習(Learning for a living)
管理者にとって、公的な権力を持ち資源をコン
効果的な結果を示すプログラムの管理者は、プ
トロールすることとともに重要な事柄は、情報を
ログラムの参加者、スタッフ、出版物、実施報告
コントロールすることである。情報を十分に得、
書、資金提供者やコンサルタントから熱心にプロ
管理し、与えることができるのは、管理者がクラ
グラムパフォーマンス(遂行、できばえ)につい
イエントの代弁者(advocate)である上でとても
てインプットとフィードバックを求める。プログ
大切である。
ラムやオフィスをすべての関係者に開かれたもの
!焦点を定め、それを維持すること
にしている。仕事に対する評価を受けることに防
組 織 に は 使 命(mission)、目 的(purpose)そ
衛的にはならない。そして常に何かを学習すると
してその遂行(performance)の明確な定義が必
いうことに長けている。そのような管理者は、常
要である。そして組織は、それがうまく機能する
に『今日は何を学んだだろうか』という疑問を持
ようにその知識、資源、才能のすべてを用いるこ
ち生活をしている。新しいアイディアを試し、実
とが必要である。
験することをいとわない。
(組織の)生存のため
高い実績を示す機関であるためには、焦点を絞
に学び続けるのである。
り、それに専心することが重要である。クライエ
以上述べてきた事柄は、パフォーマンスこそが
ント中心パフォーマンスマネージャーにとってそ
マネジメントであり、クライエント中心マネジメ
の焦点は、クライエントと、クライエントの得る
ントは最も優れたパフォーマンスを提供する、と
結果である。しかしその焦点を認識しているだけ
いう考えに基づいている。以下の項では、この信
で行動に移すことができないのであれば、ほとん
念に基づいたソーシャルプログラムデザインにつ
ど役に立たない。いかにその知識、認識を行動で
いて概説する。
示せるかが重要なポイントとなる。
"不可能に対する健康的な不敬
ヒューマンサービスの分野は慢性的に資金、職
!
ソーシャルプログラムとソーシャル
プログラムデザイン
員、地域の関心、公的支援が不足している。けれ
ども、管理者はプログラムを改善するための機会
1.ソーシャルプログラム
を見つけることに固執し続けなければいけない。
プログラムはあるひとつの目的の達成に向かっ
それには不必要な手続きや政策、ミーティング、
て行われる行動の総体である。そしてソーシャル
プロセスといった、活動を妨げる要因を排除する
プログラムは人々が“いかに”援助されるか、を
ことも必要である。
表し、ワーカーがその仕事を十分に遂行できるよ
管理者が自分自身をどう捕らえているか、も重
うに意図したものである。そしてそれは社会構成
要なポイントである。効果的な仕事をする管理者
員の一部を支援しようとする、社会の願望を示し
は責任感とニーズに応えるための(自分自身に対
ている(Rapp & Poertner,1992)。
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Schorr(1997)は児童福祉領域での非常に効果
的なプログラムに見られる7つの特性を示してい
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挙民からのより多くの支援を引き出すことができ
る(pp.
30−3
3)。
る。成功するプログラムは①包括的で柔軟、反応
ソーシャルプログラムデザインは、ニーズアセ
が良く、根気が良い。②家族状況の中において子
スメントから始まり、プログラムデザイン、評価
どもを見る。③家族を近所や地域の一部としてと
計画、予算開発、資金調達、プログラムの実施、
らえ、対応する。④長期の予防的志向性と明確な
評価、さらに再アセスメント・プログラムデザイ
使命(mission)を持ち、時間とともに発展し続
ンへのフィードバック、という円環した流れの中
ける。⑤明らかな技術を有した有能で献身的な人
に位置している(Pearlmutter,2002)。(表1)
によってうまく管理されている。また、⑥成功す
このプロセスは常に見直されるべきものであ
るプログラムのスタッフは、高品質で呼応性の良
り、社会行政管理者はそのプロセスの特性をよく
いサービスを提供するように訓練されサポートを
認識している必要がある。プログラムデザインの
受けている。最後に、⑦成功するプログラムは援
段階で社会行政管理者が考慮しなければいけない
助者が相互信頼と尊敬を基にした強い人間関係を
事柄には①ソーシャルプログラムとソーシャル
築き上げることのできる環境の下で作用する。
表1
Stages of Program Development and Implementation
2.ソーシャルプログラムデザイン
Rapp らは以下のようにソーシャルプログラム
デザインを説明している。
Stage One:
Needs Assessment
ソーシャルプログラムデザインは1つの作品で
あり、また方法論でもある。作品としてのプログ
ラムデザインは、それに関わる人たちの、目的を
遂行するために必要とされる最低限の行動を定め
Stage Two:
Program Design
た文書のことを指す。もしそのプログラムが本当
にクライエントを援助しようとするものであり、
政治的な支援を得ようとするものであるならば、
Stage Three:
Evaluation Plan
プログラムデザインは綿密で、論理的、首尾一貫
しており、クライエントにとっての利益を生み出
すことにまっすぐ焦点を当てたものであるべきで
ある。
方法論としてのプログラムデザインは、重要な
Stage Four:
Budget Development
(Costs for Stages Three and Six)
運営管理における意思決定を行うための枠組みを
意味する。またそれは、ワーカーや管理者の意思
決定を明確なものにし、それら意思決定を行うた
Stage Five:
Funding
めの分析的手法を提供する、一連のプロセスであ
る。
(プログラムが効果を発揮しない等)サービス
提供における主な問題点には①プログラムの目的
Stage Six:
Implementation
(Assuming Funding and Project Proceeds)
がはっきりしていないこと、②介入方法の特性が
明確でないこと、③プログラムの使命(mission)
に直接関連したプログラムの遂行基準が欠落して
いることがあげられる。反対に、注意深くデザイ
Stage Seven:
Evaluation and Feedback into Cycle
ンされたプログラムでは、効果の改善、効率の向
上、仕事における満足感、対立・葛藤の減少、選
(Pearlmutter, R.S.,2
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2)
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ワークの価値との融合、②継続的な情報の必要
もしれない。ビジョンステイトメントは管理者お
性、③多くのレベルにわたっての介入
よびスタッフの行動を導く役割をし、多くの構成
の3点が
挙げられる(Rapp & Poertner,1
992)。
要素の異なった懸案事項を1つにまとめる道具と
なる。
!
プログラムデザインの流れ
ミッションステイトメント、ビジョンステイト
メントはともに、組織の目的を明確にし、組織に
プログラムデザインには、多くの行程が含まれ
る。ここでは、授業で行った順序および内容でそ
かかわる人たちを動機付け、組織の成功を評価す
るための基準となる。
の流れを概説する2)。
2.社会問題の定義づけと分析
1.ミッションステイトメント・ビジョンステイ
トメント
その組織はどんな社会問題を扱おうとするの
か。その社会問題の分析抜きにはプログラムはな
新しい組織(あるいはプログラム)を開発する
りたたない。社会にとって、個人にとってそれの
際にまず必要なことは、設立の趣旨を明確にする
何がどの程度問題なのか、を注意深く分析するこ
ことである。ミッションステイトメントは、その
とがプログラムの目標設定につながる。何を中心
組織が何者か、どんなニーズに応えるために存在
の問題としてすえるのか、それが明確であればあ
するのかを示した文書である。ミッションステイ
るほど役に立つプログラムが作成しやすい(例:
トメントを作成する際には①この組織の何が独自
「幼児への性的虐待」のほうが「児童虐待」より
のもので、他の組織と違うのか。②この組織の主
も明確である)。分析の基盤となるのは、①社会
要なサービス、現在、将来に何を求めるのか③こ
へもたらす問題(コスト、治安、社会的価値への
の組織の将来においてどんな哲学的問題が重要な
脅威)、②個人への問題(健康への害、虐待等の
のか④理事会や組織の鍵を握る他の人たち、契約
脅威、社会参加への妨げ)③問題の存在や広がり
を結んだ機関、スタッフ、その他の人たちに対し
にかかわっている要因(身体的、心理的、行動
てどんな特別な考慮をしているのか⑤ほかに重要
上、社会的、経済的、個人、家族、地域、社会、
と思われることはないか、などを考慮する。加え
歴史的、政治的要因)などである。中心問題につ
て、ミッションステイトメントは①短く理解しや
いて上記①−③を詳しく分析することでその社会
すいこと、②簡単に覚えられ、それについて話が
問題の複雑さが浮き彫りとなるかもしれない。そ
できる簡潔な文章であること、③柔軟性はある
してプログラムのためのアイディアが得られるは
が、焦点を鈍らせない程度の広がりがあること、
ずである。
④統合的で、動機付けを与えるようなものである
分析を元にした文書を作成する際には、過去の
こと(問題行動・状況をなくすことではなく肯定
文献でその社会問題の存在が認められているかど
的な結果を生み出すことを目標にすえた、肯定文
うかを確かめ、自分の選んだ特定の社会問題の特
で書かれた文章であるべきである)。⑤組織のす
定の側面に関し、それをサポートする文献を引用
べてを導くものであることが必要である。
する(統計等も含む)。
ビジョンステイトメントは組織の存在意義と基
盤となる仕事について描写したものである。未来
3.プログラム参加対象者の選定
志向で、希望と楽観性を引き起こすようなもので
問題が明らかになったら、その組織が誰を援助
ある。そして、わかりやすい言葉を用い、場合に
対象とするのかを定める。対象者を明確に示して
よってはシンボルや隠喩的な表現を用いているか
おかなければ、他機関から援助対象外の人の紹介
2)ソーシャルプログラムデザインの流れは、特別な注意書きをしていない限り、Pearlmutter, R. S.
(2
0
0
2) “Social
Program Design Handout Packet”. Mandel School of Applied Social Sciences, Case Western Reserve University.と、
Rapp, C.A.& Poertner, J.
(1
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9
2)Social Administration: A Client―Centered Approach. New York, Longman.を元に概
説している。
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を受けてしまうかもしれない。それでは十分な援
client population について言及している。さらに
助を提供できず、また資源の無駄遣いにもなる。
目標は⑨測定可能、観察可能なものである。
対象者の絞り込みは段階を踏んで行うことがで
段階的課題は、クライエントに生じる利益に関
き る。第 一 に、対 象 と な り う る 一 般 の 人
して、どのように目標を達成するかについて記述
(general population)、第二に、組織が取り上げ
したものである。それらは目標と同様クライエン
る社会問題の影響を受けている、あるいは影響を
ト志向で、明確、理解可能で、肯定的な表現を用
受けやすい人(at―risk population)、第三に、そ
い、現実的でなければならない。一つの段階的課
の中でも組織が行うプログラムを受けるのに適格
題は、一つの基準を定めており、それぞれの課題
な人(target population)、第四に、さらにその中
には“適切なパフォーマンス”を定義づけるため
から実際にクライエントとなるであろう人
の数、割合が示されているべきである。例えば、
(client population)と対象者を限定していく。そ
「全クライエントの7
5%が、少なくとも1週間に
の選定は実際的かつ倫理的にかなったものでなけ
10時間は雇用される」といった具合である。さら
ればいけない。
に、課題は測定可能、観察可能で、時間制限があ
たとえば、A 市在住の母親(第一)の中で、子
り、目標に関連していなければいけない。
どもを虐待しており、あるいはその可能性があり
(第二)、子どもが0−6歳で(第三)
、当機関が
行う昼間のプログラムに通ってくることのできる
人(第四)といった具合である。
5.他の遂行課題(Performance objectives)
上記、クライエントの得る結果に関する段階的
課題のほかに、Ⅲで述べたクライエント中心パ
フォーマンスモデルにおける他の4領域:生産
4.プログラムの目標と目標達成のための段階的
課題(Goal(s)and objectives)
性、資源の獲得、効率、スタッフのモラルに関す
る課題設定も必要である。
あるプログラムは、
「裁判所の宣告を受けた非
生産性に関するものとして、援助するクライエ
行少年の、学業、雇用、余暇活動、家族での活動
ントの数、実行するサービス行為の回数、サービ
を増加させること」を目標として掲げ、段階的課
ス期間、時間などの数値目標を挙げることができ
題の一つとして「75%のプログラム参加者は大人
る。
の監視する余暇活動のうち少なくとも2つを完了
する」ことを挙げた。
資源の獲得に関する課題は、プログラムにとっ
て何が重要か、何が必要かを定めている。例え
たいていのプログラムは目標を一つだけ掲げて
ば、「2002年6月31日 ま で に50,
000ド ル 調 達 す
いる(それに至る段階的課題は通常複数)
。そし
る」、「2002年1月末までに保育所、紹介機関と契
てその目標はクライエントの得る望ましい結果を
約を結ぶ」、「プログラムと機関のサービス内容に
反映したものである。プログラムの目標は以下の
ついて書いたパンフレットを2002年12月末までに
基準を満たしているべきである。
発行する」、などといったものである。
①扱う社会問題と関連し、②クライエント志向
効率に関する課題としては、「クライエント1
で、③達成しようとするものに関して述べたもの
人に対するケースマネジメントにかかる費用は1
で、④現実的:技術的、財政的、倫理的に達成可
年間に2500ドル以下であること」など、獲得した
能なものであり、⑤たいていの人にとって明確で
資源と生産性との割合から数値目標を設定する。
理解可能なものである。例えば、
「この機関は∼
スタッフのモラルに関するものは、スタッフの
を提供する」ではなく、「クライエントは∼を行
満足度を見ようとしており、仕事の価値と一致
い、∼を得る」とすべきである。
「生活の質の向
し、クライエントからのフィードバックを得てい
上」では、表現が明確でないし、「自我を強化」
る。仕事の満足度は、生産性とは関係していな
といった専門用語も避けるべきである。その記述
い。スタッフのモラルに関する課題の例は、
「年
は⑥行動志向の動詞を含んでおり、⑦肯定的な表
3回行う5段階評価での仕事満足度調査でスタッ
現 を 用 い て お り、⑧ target
フ全員が4以上をつける」
「全スタッフが、9
0%
population ま た は
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以上の勤務日に出勤する。」「ケースマネージャー
達が促された(outcome)。」というような形で表
は、ワークショップ、セミナー、あるいは会議に
すことができる。ここでは、「パーマネンシーの
2回出席し、
技術と知識を向上させる」
などである。
獲得は、実際に得ようとする目的達成のための手
段、あるいは中間的課題に過ぎない」ということ
6.プログラムスタッフとクライエントとの相互
期待
に注意する必要がある。
加えて、最終結果の評価(outcome evaluation)
ク ラ イ エ ン ト と プ ロ グ ラ ム ス タ ッ フ(ワ ー
に関する証明が必要である。得た最終結果は偶然
カー)との相互的な義務(期待)を定めることが
の産物ではなく、用いた援助技法、介入内容の有
援助理論を完全なものにする。それらは、活動の
用性を表すものであるという証拠が必要なのだ。
相互的性質を認識したものであり、各々が持つ力
したがって、どのような理論に基づいたどのよう
と責任を明確にするもので、各々への最低限の期
なサービスを提供したことにより、どの程度の割
待を特定する。そしてそれらは行動を基盤とした
合でどのような結果を得たのか、また、それが他
表現で記述される。さらに、期待に応えられな
のサービス、他のプログラムと比較してより効果
かった場合に生じる結果についても議論がなされ
的だと言うことができるのか、についての調査結
ていなければならない。例えば、
「プログラムの
果を含んでいることも重要である。
クライエントになる人は、アセスメントのために
なお、プログラムデザインの有効性や効果を述
ソーシャルワーカーと会う」、「クライエントは、
べる手段の一部として、個人的に得た情報、自ら
最初の数回のセッションで、第一義的な目標につ
の経験(practice wisdom)を含むことも可能で
いて話し合い、目標およびその達成手続きを決定
ある。
する」「2回 連 絡 な し に 欠 席 し た ら、再 評 価 の
上、サ ー ビ ス の 終 結 も あ り う る」
「ソ ー シ ャ ル
8.意思決定のためのルール
ワーカーは必要ならば他の資源についての情報を
これは“If∼Then ルール”と言い換えることが
提供し、他機関を紹介する」、
「家族が許可しない限
できる。「もし∼であれば・・・」と言う文章を
り、すべての私的情報は秘密にする」などである。
用いて、文献レビューや個人情報・自らの経験
(practice wisdom)から、社会問題や介入方法に
7.プログラムに関する文献レビュー
これから行うプログラムデザインの有用性や効
果を支持するものとして文献レビューを行う。し
ついて学んだ事柄を提示する。
以下に、筆者が
自身のプログラムデザインの中で作成した意思決
定のためのルールの一部を紹介する。
たがって、用いる文献を厳選する必要がある。文
「もしこのネグレクト予防プログラムがクライ
献レビューでは、その社会問題に対する過去にお
エントとの接触を維持し、彼らを確実にプログラ
ける取り組みや、現在成功しているあるいは前途
ムに参加させようと思うのならば、スタッフは、
有望な初期的結果を示している類似プログラムを
予定日の前日に電話をかけるなどといった活動を
取り上げる。
含め、彼らを積極的にプログラムへ導く努力をし
また取り上げる文献は、
「そのプログラムは何
なければならない(Naughton & Heath,2001)。」
を行ったのか、行った介入(input)によって得
「もしクライエント(親)がグループ活動に参
た結果(output: intermediate objectives)がどの
加するのであれば、プログラムは、グループ活動
よ う な も の で あ っ た の か、さ ら に そ の 結 果
中、クライエントのために保育サービスを提供し
(output)に よ っ て ど の よ う な 最 終 的 な 結 果
なければならない(Bamba, Practice wisdom)。」
(outcomes)を達成したのか」についての議論を
「もしプログラムが家族の健康、発達状態、家
していなければいけない。input, output, outcome
の衛生状態をアセスメントするために家庭訪問を
の関係は、
「被虐待児を保護し(input)、その子
行うのであれば、スタッフがクライエント宅を訪
ど も の パ ー マ ネ ン シ ー(生 活 の 安 定)を 得 た
ねる際に保健婦(public nurse)も同行できるよ
(output)ことにより、子どもの心身の健康な発
うにすべきである(Mcdonald,2001;Naughton
October 2
0
0
3
―1
6
5―
& Heath, 2001;Constantino et al., 2001;Holden
各レベルごとに何を行うのかを検討する。まず
& Nabors, 1999;Justice & Justice, 19990;
始めに、可能性のある介入方法をすべて挙げ、そ
Bamba, Practice wisdom)。」
の内容を示すとともになぜその介入方法を選んだ
「クライエントがプログラムで成功体験をする
ためには、スタッフはよく訓練され、スーパーバ
のか、論理的根拠を示す。その上で、実際に行う
介入方法を決定する。
イズを受けており、自信があり、共感的で、クラ
イエントの強みを理解し、それを活用することが
でき、クライエントとその家族と信頼関係を築き
あげることができなければならな い(Daro
11.援助手続き
援助手続きの流れを概略する。ここで含むべき
&
内容は、①各段階の名称、②時間的枠組み、③各
McLurdy, 1994;DePanfils, 1999;Naughton &
段階で生じる結果(outcome)、④鍵となる意思
Heathy, 2001;McLaren, 1988, Gaudin et al., 1990
決定ポイントの4つである。
−1991;Duerr Evaluation Resources,1994)。」
各段階の典型的な名称は、開始、中期、終了、
といったものであるが、その名称は、基盤とする
9.論理的モデル(Logic model)の作成
これはプログラムの目標達成のために用いられ
る介入方法についての記述である。用いる可能性
理論、プログラムの理念を反映したものにもなり
得 る。例 と し て Kisthardt(1992)に よ る“長 所
・強 み を 基 盤 と し た ケ ー ス マ ネ ジ メ ン ト”
のある介入方法を左側に、その右に短・中期、長
(strengths based case management)における各
期的な結果(outcomes)を順に記述する。短・
段階の名称と各段階で行う事柄の概略を示す。
中期の結果は、作成しているプログラムの段階的
課題(objectives)と関連、あるいは一致している。
論理的モデルを作成するためには、まずプログ
ラムの目標(ultimate
1.契約(engagement):クライエントと援助
関係を確立する
2.ア セ ス メ ン ト:長 所 調 査(Strengths
outcomes)と、段階的課
Inventory)を用いてクライエントの現在
題(early and intermediate outcomes)の記述か
の状況、将来への希望、望んでいるものを
ら始める。それから、望ましい介入方法の一覧を
得るためにこれまで用いてきた資源につい
書き上げ、その介入方法(技法)とプログラムの
て見極める。
段階的課題や最終的に得ようとする結果が関連し
ているかどうかを見極める。
論理的モデルの表を見れば、用いる可能性のあ
る介入方法が最終的に得ようとする結果(目標)を
達成するのに十分なものであるかどうかが分かる。
3.目標設定と実施:クライエントの希望を達
成するための目標と、そのための細分化さ
れたステップ、目標を達成するための活動
を定める。
4.アドボカシー・資源の獲得:クライエント
が目標達成のために必要な資源を得るのを
10.介入方法(Interventions)の決定
次に、実施する介入方法を決定する。介入方法を
支援し、自分でその資源を獲得できるよう
に教える。
決定する際には、どこに介入すれば一番影響が大
5.モニタリング(継続的協力):クライエン
きいかを見極めなければならない。またその記述
トとともに、目標達成のためになされる行
は、サービスの一環として何がなされるのかを読
動を監視する。
者に示すことのできるものでなければならない。
6.段階的な契約解除:ワーカーとクライエン
介入は行動の集約である。介入は変化をもたら
トが集中的な活動をしなくなり、最終的に
したいと思う方向へ行動を導くものであり、それ
サービスを終了するに至る援助関係の変化
らは複数レベルに対して行われるかもしれない。
プロセス
ここで言うレベルとは、以下の6つを指してい
さらに、1つの段階を終えて次の段階へ移行す
る。①個人、②家族及びグループ、③近隣、④地
るまでにかかるおおよその時間、その間に何を達
域、⑤組織、⑥社会。
成する必要があるのか(各段階の目的)
、次の段
―1
6
6―
社 会 学 部 紀 要 第9
5号
階へ進む決定を下すポイントは何か(どのように
つの記述内容から構成される。プログラムに関わ
して次の段階へ進むべき時に来ていることを知る
る主要な人物、機関について個別に、簡潔に記述
のか)、を設定する。
する。
12.援助環境
ては保健婦に支援を求めることもある。したがっ
例えば、子どもへの虐待防止プログラムにおい
どのような援助環境でプログラムが行われるの
て、「①保健婦は、②プログラムスタッフととも
かは重要なポイントである。援助環境はプログラ
に家庭訪問を行い、クライエント(とその家族)
ムの原理と理念を反映している。ワーカーとクラ
の健康に関する適切なアドバイスを与え、指導を
イエントとの交流を促進し、最終的に望ましい結
行う。また、チームとしてプログラムを支援し、
果達成へとクライエントを導くようなサービスを
ともに働く。③そのためにプログラムスタッフは
行うための環境を作り出さなければならない。援
彼らにクライエントのニーズと長所を伝える。ま
助環境についての記述は、クライエントがどのよ
た、効果的なコミュニケーションを図り、保健婦
うな場所でどのようにサービスを受けるのか、物
との間に信頼関係を築きあげる。
」といった具合
理的・社会的両側面を読者に示すことのできる、
に表すことができる。
極めて具体的なものにすべきである。
どの地域のどの建物の何階にあり、そこまでの
14.援助の典型例
交通手段にはどのようなものがあり、その施設の
プログラムデザインのこの部分は、援助活動を
広さはどのぐらいか、プライバシーのはどのよう
違った視点から捉え、その活動の豊かさをより詳
に守られるのか(防音設備、プログラム外の人の
細に描写しようとするものである。一連の援助活
出入り の 有 無 等)
、窓 は い く つ、壁 の 色 は 何 色
動の中から、クライエントとワーカーが一緒に活
で、部屋にはどのようなものが置いてあるのか、
動している一場面を選び、その行動を記述する。
託児サービスはあるのか、待合室はどのようで、
複雑な事象を完全に描写することは不可能だが、
何人ぐらいの人がその施設を利用するのか、業務
ある程度のコミュニケーション、行為、典型的活
時間は何時から何時までか、など、含まれる内容
動のパターンを特定することはできる。それら行
は多岐にわたる。
動は、事例として要約、概説、例証される。その
クライエントが心地良くサービスを利用できる
プログラムが一体どのようなものなのかを読者に
ためにどのような配慮がなされているのか、クラ
示すことができるように、プログラムの内容を
イエントの参加を促すようなプログラムの特徴が
もっともよく代表し、プログラムの中核を示すも
そこに示されていなければならない。
のを選んでその行動を描写する。それらは逐語録
の形をとることも可能である。クライエントと
13.主要人物の役割
ワーカーとの間で交わされる会話は、サービス内
実質上すべての社会福祉援助の効果は、ワー
容だけでなく、プログラムの目的、クライエント
カーとクライエントのみによって決定されるので
に対する姿勢をも反映している。プログラム開発
はなく、その他の関係者によって決まってくる。
者は、彼らのとる行動がプログラムの成功に非常
このことは、プログラムの説明書きやデザイン活
に重要に関わっているということを認識していな
動の中ではほとんど述べられることがない。しか
ければならない。
しながら、すべての関係者との協力、共同なしに
プログラムが成功することは通常ありえない。
15.予測される感情的反応
この項目は①誰が鍵となる人物か、②その人は
ワーカー、クライエントともに、プログラムへ
プログラムが目的(課題)を達成するために具体
の参加に伴って特定の感情、感情的反応を経験す
的にどのような行動を遂行しなければならないの
る。それら感情はプログラムの成功に決定的に関
か、③その行動を引き出し、維持するために何を
わるものであり、明確に表わされている必要があ
どのようにしなければならないか、についての3
る。プログラムデザインにおけるこの項目の課題
October 2
0
0
3
―1
6
7―
は、①クライエントによって経験されやすい感情
とそれらに対する最も有益な応答を見極めるこ
参考資料
と、②ワーカーによって経験されやすい感情と、
それに伴う反応を特定することである。経験する
この授業では1学期(セメスター)間に4回の
感情には、対処すべき否定的・悲観的な感情もあ
課題提出があり、最終課題ではそれまでに段階的
れば、引き出したい肯定的・建設的な感情もあ
に作成してきた部分とあわせ、プログラムデザイ
る。その双方を考慮しなければいけない。
ンの全過程を完成させる。参考資料として最終課
プログラムデザインにおいて感情的な側面を明
題(Full program description)の評価表(チェッ
確にすることの重要性は、援助技術を向上させる
ク項目)を以下に掲載する。なお、最終課題の
こ と で は な く、マ ネ ジ メ ン ト と 責 任 性
配 点 は4
0点。こ の 最 終 課 題(Full program
(accountability)を改善させることにある。感情
description)では、
「V プログラムデザインの流
的な側面の描写は、ワーカーにはどのような資格
れ」で 概 説 し た「8.意 思 決 定 の た め の ル ー
が必要か、感情的要因に適応するためにどのよう
ル」、「9.論理的モデル」は割愛されている。ま
にサービス過程を調整すべきか、どのような物、
た、1∼10の部分はすでに一度提出済みのため、
設備の準備が必要かを、運営管理者に伝えること
配点は低く設定されている。
ができる。
Social Program Design and Management 最終課題
!
おわりに
本稿では、社会福祉援助プログラムおよびその
実践の「結果」に対する責任性、クライエントを
チェック項目
Task #4 Full program description Due in class 4
/23/2002―40points
中心においた運営管理の重要性、および理論と実
践からその有用性が認められている技法を用いる
Criterion/Structure
ことの必要性を述べた。また、プログラムデザイ
!Student expresses self clearly and succinctly
ンにおける綿密な計画の必要性を概説した。15の
!Student provides responses that directly speak
段階に分けてその手法を述べたが、それら各段階
は、全体として論理的なつながりがあって初めて
意味を成すものである。
今回は紙面の都合上、具体例とその詳細は最小
to the section of the paper being addressed
!In the social problem and state―of―the―art
sections, student critically reflects on issues
rather than simply describing them
限にとどめざるをえなかった。いずれ機会があれ
!Student uses proper spelling/a word processing
ばこの手順に基づいてプログラムを開発、実施
spell―checker and uses words or language
し、その効果測定の結果を含めて、実際のプログ
appropriately
ラムに関する報告を行いたいと考えている。
!Student properly uses English grammar
本稿が、今後新たなプログラムを日本の社会福
!Student uses a variety of citations in the
祉従事者が開発する上での参考になることを期待
problem analysis and in the state of the art
する。また、プログラム・機関管理運営者および
sections
社会福祉援助従事者が、クライエントの最善の利
益に結びつくようなプログラムの開発・実施、お
!Student has properly prepared a reference list
using APA(4th or5th edition)
よび機関運営を行えるよう、研究が重ねられてい
!The paper has been proof―read
くことを期待する。
Possible loss of points(−3, 2, 1)
Content
!Mission statement is no longer than3sentences,
―1
6
8―
社 会 学 部 紀 要 第9
5号
preferably one, and states the broad outcome
the program/agency is designed to address
!Clearly indicates expectations for staff members
directly involved with interventions and all
!Vision describes the mechanisms by which the
organization will achieve its mission, including
clients receiving program services
Total Possible points 10
its philosophy and ways of working with clients
!Describes
community
setting
and
generic
services
!Accurately and completely discusses the service
procedures, including the name of each phase,
!Social problem analysis contains at least4
its outcome and length of the phase and key
components: a clear statement of the problem;
decision points. Service procedures fit with the
factors contributing to or exacerbating the
program’s philosophy, vision, and intervention
problem; and the implications for the individual
choices.
Total Possible points 10
and society.
!Statistics and other descriptive material explain
the incidence and prevalence of the problem;
material is properly referenced
!Describes the helping environment in detail so
that the reader understands both how it looks
!The population funnel is properly used to
and how it feels.
discuss the population and starts at the general
!Presents an example of a helping episode that
or at―risk population, moving to the target and
illustrates how the program looks and feels;
projected client population; local statistics and
episode should be a significant one for the
other indicators are used and referenced to
program; use of dialogue and interaction
better explain the population
between staff and clients is valued; should
!Presents research and current programs dealing
with
the
particular
social
problem
and
discusses these to show how this problem is
contain
cognitive,behavioral
and
affective
information
Total Possible points 10
currently being addressed and how effective
!Identifies, in a chart, all of the key players, their
current interventions are/have been
!Student uses and presents personal practice
wisdom where appropriate
or maintain those behaviors.
!Describes the chosen intervention(s) and
provides rationale for the choice made based
upon the literature review and the social
problem
!Specifies
behaviors, and the actions to be taken to elicit
!Specifies, in a chart, a range of emotions of
clients and staff.
!For clients, indicates how to deal with or how
to elicit such responses. For staff, indicates an
client
outcome
goal
related
to
alleviation of the specified social problem
appropriate response to each emotion.
Total Possible points 5
!Specifies at least4program outcome objectives
related to achieving the client outcome goal
!Both goal and client outcome objectives adhere
to the standards presented for goals and
objectives
!Specifies at least one objective in each of the
other performance areas: resource acquisition,
!There is accuracy and clear understanding of
the technical portions of the program design
!There is a logical flow from the problem to the
goals, to interventions, service procedures, and
helping episode so that all parts of the program
fit/work together
service events (productivity), efficiency, and
Total Possible points 5
staff morale
Total points 40, 39, 38, 37
October 2
0
0
3
文献リスト
Constantino, J.N. et al.(2
0
0
1)
. Supplementation of urban
home visitation with a series of group meetings for
parents and infants: results of a “real―world”
randomized, controlled trial. Child Abuse &
Neglect. Vol.2
51
5
7
1−1
5
8
1.
Daro, D. & McCurdy, K.
(1
9
9
4)
. Preventing child abuse
and neglect: Programmatic interventions. Child
Welfare. Vol.7
3−5.4
0
5−4
3
0.
DePanfils, D.
(1
9
9
9)
. Intervening with families when
children are neglected. In Dubowitz, H.
(Ed.)
.
Neglected children.
(pp.2
1
2−2
3
6)
. Thousand Oaks,
CA. SAGE publications.
Duerr, M & J Duerr et al.
(1
9
9
4)
. Final evaluation report―
Local efforts to address and reduce neglect: Project
LEARN. Chico, CA. Duerr Evaluation Resources.
Gaudin, Jr., J et al.
(1
9
9
0−1
9
9
1)
. Remediying child
neglect :
Effectiveness
of
social
network
interventions. The Journal of Applied Social
Sciences. Vol.1
5−1.9
7−1
2
3.
Holden, E.W. & Nabors, L.
(1
9
9
9)The prevention of
child neglect. In Dubowitz, H.
(Ed.)
. Neglected
Children.
(pp.1
7
4−1
9
0)
. Thousand Oaks, CA. SAGE
publications.
―1
6
9―
Justice, B. & Justice, R.
(1
9
9
0)
. The abusing family. New
York NY: Insight Books.
Kisthardt, W.E. A strengths model of case management:
The principles and functions of a helping
partnership with persons with persistent mental
illness. In Saleebey, D.
(1
9
9
2)
. The strengths
perspective in social work practice. White Plains,
N.Y. Longman publishing group.
Mcdonald, G.
(2
0
0
1)
. Effective interventions for child
abuse and neglect. England. John Wiley & Sons
Ltd.
McLaren, L.
(1
9
8
8)
.Fostering mother―child relationsips.
Child Welfare. Vol.6
7−43
5
3−3
6
5.
Naughton, A & Heath, A.
(2
0
0
1)
. Developing an early
intervention
programme
to
prevent
child
maltreatment. Child Abuse Review. Vol.1
08
5−9
6.
Rapp, C.A. & Poertner, J.
(1
9
9
2)
.Social Administration: A
client―centered approach. Longman, New York NY:
Longman.
Pearlmutter, R. S.
(2
0
0
2)
. Social program design handout
packet, Fulltime program Spring 2
0
0
2. Mandel
School of Applied Social Sciences Case Western
Reserve University.
Schorr, L.B.
(1
9
9
7)
. Common purpose. New York, NY.
Anchor Books.
―1
7
0―
社 会 学 部 紀 要 第9
5号
“Social Program Design and Social Work Practice:
Learning from social work education in the U.S.”
ABSTRACT
The purpose of this article is to address the importance of social program design and
to introduce skills and techniques for designing social programs which the author studied
in the United States. In this article, “outcome―based accountability” and “client―centered
performance management” are introduced as the bases of social program design. Outcome―based accountability tells us that what is important is not “what is provided by the
organization”, but “what the clients received as the outcomes of the services”. The client―
centered performance model posits five performance areas: client outcomes, productivity,
resource acquisition, efficiency, and job satisfaction. Following the explanation of the performance areas, four principles of client―centered performance management are described
as the core of the model. Finally, the fifteen stages of skills and techniques required in program design are discussed. Each stage must be carefully designed and the program must
have a logical flow from the problem to the goals, to interventions, service procedures, and
helping episode so that all parts of the program fit/work together.
Key Words: Program design, Outcome―based accountability, Client―centered management
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